説明

ドラフト装置

【課題】繊維束の拡散を抑制できて安定した糸品質が確保できるドラフト装置を提供することを目的とする。
【解決手段】フロントトップローラ24Bは、ボトムローラ24Aと接触する本体ローラ部24Baと、前記本体ローラ部24Baの軸心方向の両側に同軸心上に設けられる前記本体ローラ部24Baより径が小さい縮径ローラ部24Bbと、前記本体ローラ部24Baと前記縮径ローラ部24Bbの間に設けられる傾斜部24Bcと、から構成され、前記傾斜部24Bcは、前記本体ローラ部24Baから前記縮径ローラ部24Bbへ向かうに従って、径が徐々に減少する周面を備えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維束を牽伸するとともに送り出すドラフト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の繊維で構成される繊維束を牽伸することによって繊維束の太さを均一にするドラフト装置が知られている。ドラフト装置は、繊維束の送り方向にドラフトローラ対が複数配設されて、各ドラフトローラ対の回転速度を順次増加していくことによって繊維束を牽伸しながら送り出すものである。
【0003】
近年、ドラフト装置は、生産性向上の要請によってドラフトローラ対の回転速度が上昇しており、これにより発生する随伴気流が繊維束を拡散することで糸品質に影響を及ぼす場合があった。そのため、ドラフトローラ対の一方を構成するトップローラの両端部に、径の小さい縮径ローラ部を設けることで繊維束の送り出し方向へ前記随伴気流を逃がし、繊維束の拡散を低減させるものがあった(例えば特許文献1、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−126926号公報
【特許文献2】特開2005−113274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、繊維束の送り出し速度の更なる高速化が望まれており、特許文献1ならびに特許文献2に示すドラフト装置では、ドラフトローラ対の回転速度が更に上昇すると繊維束の送り出し方向へ逃がされた気流の乱れが大きくなって、ドラフトローラ対の下流側において、気流の乱れに起因した繊維束の拡散が生じる場合があった。
【0006】
本発明は、かかる問題を解決すべくなされたものであり、ドラフトローラ対の回転速度の上昇によっても繊維束の拡散を低減できて安定した糸品質が確保できるドラフト装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
次に、この課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、第1の発明は、繊維束を牽伸するとともに送り出す複数のドラフトローラ対を備えるドラフト装置であって、前記ドラフトローラ対は、それぞれ前記繊維束を送り出す方向に駆動回転するボトムローラと、前記ボトムローラに接触して従動回転するトップローラと、から構成され、前記複数のトップローラのうち、少なくとも一つのトップローラは、前記ボトムローラと接触する本体ローラ部と、前記本体ローラ部の軸心方向の両側であって、前記本体ローラ部と同軸心上に設けられる前記本体ローラ部より小径の縮径ローラ部と、前記本体ローラ部と前記縮径ローラ部との間であって、前記本体ローラ部及び前記縮径ローラ部と同軸心上に設けられる傾斜部と、から構成され、前記傾斜部は、前記本体ローラ部から前記縮径ローラ部へ向かうに従って、径が徐々に減少する周面としたものである。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、前記傾斜部の前記周面は、軸心方向の断面の母線を直線としたものである。
【0010】
第3の発明は、第1の発明において、前記傾斜部の前記周面は、軸心方向の断面の母線を前記軸心側に凸状の曲線としたものである。
【0011】
第4の発明は、第1の発明において、前記傾斜部の前記周面は、軸心方向の断面の母線を前記軸心側に凹状の曲線としたものである。
【0012】
第5の発明は、第1から第4のいずれかの発明において、前記傾斜部は、前記本体ローラ部側の径が前記本体ローラ部の径と略同一であり、前記縮径ローラ部側の径が前記縮径ローラ部の径と略同一としたものである。
【0013】
第6の発明は、第1から第5のいずれかの発明において、前記傾斜部は、前記本体ローラ部の周面と滑らかに連続する周面を有するものである。
【0014】
第7の発明は、第1から第6のいずれかの発明において、前記傾斜部は、前記縮径ローラ部の周面と滑らかに連続する周面を有するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0016】
第1の発明によれば、ドラフトローラ対の回転に伴って発生する気流は、傾斜部の周面に沿うように流れるために、渦流などの乱れの発生が抑制される。これにより、気流の乱れに起因する繊維束の拡散を低減できて良好な糸品質を確保することが可能となる。
【0017】
第2の発明によれば、ドラフトローラ対の回転に伴って発生する気流は、傾斜部の周面に沿うように流れて縮径ローラ部とボトムローラとの隙間へ導かれて逃がされるために、渦流などの乱れの発生が抑制される。これにより、気流の乱れに起因する繊維束の拡散を低減できて良好な糸品質を確保することが可能となる。
【0018】
第3の発明によれば、ドラフトローラ対の回転に伴って発生する気流は、傾斜部の周面に沿うように流れて滑らかに縮径ローラ部とボトムローラとの隙間へ導かれて逃がされるために、渦流などの乱れの発生が抑制される。これにより、気流の乱れに起因する繊維束の拡散を低減できて良好な糸品質を確保することが可能となる。
【0019】
第4の発明によれば、ドラフトローラ対の回転に伴って発生する気流は、本体ローラ部などから滑らかに傾斜部の周面に沿うように流れて縮径ローラ部とボトムローラとの隙間へ導かれて逃がされるために、渦流などの乱れの発生が抑制される。これにより、気流の乱れに起因する繊維束の拡散を低減できて良好な糸品質を確保することが可能となる。
【0020】
第5の発明によれば、ドラフトローラ対の回転に伴って発生する気流に、渦流などの乱れの発生を抑制する程度の傾斜部を設けることで、気流の乱れに起因する繊維束の拡散を低減できて良好な糸品質を確保することが可能となる。
【0021】
第6の発明によれば、ドラフトローラ対の回転に伴って発生する気流は、本体ローラ部などから滑らかに傾斜部の周面に沿うように流れるために、渦流などの乱れの発生が抑制される。これにより、気流の乱れに起因する繊維束の拡散を低減できて良好な糸品質を確保することが可能となる。
【0022】
第7の発明によれば、ドラフトローラ対の回転に伴って発生する気流は、本体ローラ部などから滑らかに傾斜部の周面に沿うように流れて、滑らかに縮径ローラ部とボトムローラとの隙間から逃がされるために、渦流などの乱れの発生が抑制される。これにより、気流の乱れに起因する繊維束の拡散を低減できて良好な糸品質を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】紡績機の全体構成を示す側面図。
【図2】(2A)本発明に係るドラフト装置のドラフトローラ対と随伴気流の流れを示す斜視図。(2B)本発明に係るドラフト装置のドラフトローラ対と随伴気流の流れを示す正面図。
【図3】(3A)本発明に係るドラフト装置のドラフトローラ対と随伴気流の流れを示す平面図。(3B)本発明に係るドラフト装置のドラフトローラ対と随伴気流の流れを示す側面図。
【図4】(4A)本発明に係るドラフト装置のドラフトローラ対と随伴気流の流れを示す斜視図。(4B)本発明に係るドラフト装置のドラフトローラ対と随伴気流の流れを示す正面図。
【図5】(5A)本発明に係るドラフト装置のドラフトローラ対と随伴気流の流れを示す斜視図。(5B)本発明に係るドラフト装置のドラフトローラ対と随伴気流の流れを示す正面図。
【図6】(6A)従来のドラフトローラ対と随伴気流の流れを示す斜視図。(6B)従来のドラフトローラ対と随伴気流の流れを示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
まず、図1を用いて本発明の第1実施形態に係るドラフト装置2を備えた、紡績機100の全体構成について説明する。
【0025】
図1に示すように、紡績機100は、スライバ供給ユニット1と、ドラフト装置2と、空気式の紡績装置3と、糸送り装置4と、糸欠点検出装置5と、巻取装置6とから構成される。
【0026】
スライバ供給ユニット1は、原料となる繊維束(以降「スライバ」という。)10を貯留するスライバケース11と、スライバ10をドラフト装置2へ案内するスライバガイド12とから構成される。
【0027】
ドラフト装置2は、スライバ10を牽伸するとともに送り出すドラフトローラ対を複数備えるものであり、本実施形態では4組のドラフトローラ対を備えるものである。該ドラフトローラ対は、スライバ10の送り方向に沿ってバックドラフトローラ対21と、サードドラフトローラ対22と、ミドルドラフトローラ対23と、フロントドラフトローラ対24とが配置され、ミドルドラフトローラ対23には、皮又は合成ゴム製のエプロンバンド25が巻回されている。
【0028】
前記4組のドラフトローラ対は、図示せぬ駆動源により回転するボトムローラ21A・22A・23A・24Aと、該ボトムローラ21A・・・と接触するように配置されて従動回転するトップローラ21B・22B・23B・24Bとで構成されている。なお、各ボトムローラ21A・・・は、金属製のローラであり、従動回転する各トップローラ21B・・・は周面がゴム等で形成された弾性体ローラとなっている。
【0029】
各ドラフトローラ対21・・・を構成するボトムローラ21A・・・は、それぞれ同じ方向に回転されて、従動回転するトップローラ21B・・・も他のトップローラと同じ方向に回転するものとされる。これにより、ボトムローラ21A・・・とトップローラ21B・・・に挟持されたスライバ10は、ドラフトローラ対21・・・の回転に従って送り出される。
【0030】
このとき、各ドラフトローラ対21・・・は、それぞれ異なる速度で回転しており、スライバ10の送り方向に沿って順次、回転速度が速くなるように設定されている。従って、スライバ10は、各ドラフトローラ対21・・・を通過するごとに速度を増していき、隣接するドラフトローラ対との間で牽伸されることとなる。
【0031】
紡績装置3は、ドラフト装置2で牽伸したスライバ10に旋回気流を与えることで、糸条40を製造する空気式の紡績装置である。
【0032】
糸送り装置4は、紡績装置3で製造された糸条40を巻取装置6へ送り出す装置であり、デリベリローラ41、及びニップローラユニット42を備えている。そして、ニップローラ44がデリベリローラ41に対して、接近・離脱可能となるように、回動支軸45周りで回転自在に支持されている。
【0033】
糸欠点検出装置5は、巻取装置6へ送られる糸条40の糸欠点を検出する装置である。これは、不良な糸がパッケージ61への巻き取られることを防止するものであり、糸欠点検出装置5には、糸欠点検出情報に基づいて糸条40の欠点部分を切断、除去する図示せぬ切断装置が備えられている。なお、欠点部分の切除のために一旦切断された糸条40の両端を繋ぐ図示せぬ糸継ぎ装置が糸欠点検出装置5の下流側に備えられている。
【0034】
巻取装置6は、糸条40をボビン62の軸方向にトラバースして巻き取り、パッケージ61を形成する装置である。パッケージ61あるいはボビン62は、駆動ドラム63の駆動力を受けて回転することで、ボビン62に糸条40が巻かれていくことになる。
【0035】
以上が紡績機100の全体構成であるが、ここで、本発明の実施形態ならびに効果を説明するために、まず、図6を用いて、従来のドラフト装置2に用いられていたフロントトップローラ24Bについて説明する。なお、図6Aはドラフトローラ対24とスライバ10、ならびにドラフトローラ対24の回転に伴い発生する随伴気流を示す斜視図であり、図6Bはその正面図である。
【0036】
フロントトップローラ24Bは、軸方向の中途部にボトムローラ24Aと接触する円柱形状の本体ローラ部24Baと、該本体ローラ部24Baの両端面から同軸心上に突設される縮径ローラ部24Bbとから構成される。該縮径ローラ部24Bbは、本体ローラ部24Baより小径の円柱形状であって、ボトムローラ24Aの周面との間に所定の隙間Lを空けた状態で本体ローラ部24Baと一体となって回転される。
【0037】
このような構成において、ボトムローラ24Aが駆動回転(図示反時計回転)されてフロントトップローラ24Bが従動回転(図示時計回転)すると、ボトムローラ24Aの回転によって発生する随伴気流A(図示反時計回転)とフロントトップローラ24Bの回転によって発生する随伴気流B(図示時計回転)は、互いに対向する気流となってスライバ10のドラフトローラ対24への入口付近で衝突することとなる。
【0038】
そして、随伴気流A・Bは、互いに衝突することによってローラ軸方向への気流Cとなり、ドラフトローラ対24に沿うように流れる。この気流Cをフロントトップローラ24Bの縮径ローラ部24Bbの周面とボトムローラ24Aの周面との隙間Lからスライバ10を送り出す方向に逃がすことで、スライバ10に沿うように流れる気流Dを形成して、スライバ10の拡散を低減していた。
【0039】
しかし、ドラフト装置2の更なる高速化によりドラフトローラ対24の回転速度が更に上昇していくと、気流Cが本体ローラ部24Baの周面と本体ローラ部24Baの端面で構成される角部を回り込む際に、渦流Eなどの乱れを発生させてドラフトローラ対24の下流側でスライバ10を拡散させる場合があった。
【0040】
次に、図2、図3を用いて本発明の第1実施形態に係るドラフト装置2のフロントトップローラ24Bについて説明する。なお、図2Aはフロントドラフトローラ対24とスライバ10、ならびにフロントドラフトローラ対24の回転に伴い発生する随伴気流を示す斜視図であり、図2Bはその正面図である。図3Aはその平面図、図3Bはその側面図となっている。
【0041】
フロントトップローラ24Bは、従来例と同様に回転軸にベアリングを介して回転自在に設けられた金属製の円筒部材24Bxの表面に、ゴム等の被覆24Byを設けて形成された弾性体ローラであって、駆動回転するボトムローラ24Aと接触した状態で平行に配置されることにより、ボトムローラ24Aと反対方向に従動回転される。
【0042】
フロントトップローラ24Bは、ボトムローラ24Aと接触する本体ローラ部24Baと、本体ローラ部24Baの軸心方向の両側であって、本体ローラ部24Baと同軸心上に設けられる縮径ローラ部24Bbと、本体ローラ部24Baと縮径ローラ部24Bbとの間であって、本体ローラ部24Ba及び縮径ローラ部24Bbと同軸心上に設けられる傾斜部24Bcと、から構成される。
【0043】
本体ローラ部24Baは、該本体ローラ部24Baの周面とボトムローラ24Aの周面によってスライバ10を挟持するとともに、その回転によってスライバ10を送り出し、上流側に隣接するミドルドラフトローラ対23との回転速度の差異によってスライバ10を牽伸する。
【0044】
縮径ローラ部24Bbは、本体ローラ部24Baより径の小さな円柱形状であり、該縮径ローラ部24Bbの周面とボトムローラ24Aの周面との間に所定の隙間Lを空けた状態で回転される。この隙間Lは試験、研究の結果、1mm以上3mm以下が良好であるとされているが、スライバ10の送り出し速度等によって最も適切な形状を見出して適用されるため、その数値について限定するものではない。
【0045】
傾斜部24Bcは、軸心方向の断面の母線が直線となっており、この直線を軸周りに回転することで形成される周面を備えている。つまり、傾斜部24Bcは、本体ローラ部24Baから縮径ローラ部24Bbへ向かうに従って径が徐々に減少する円錐台形であって、いわゆるテーパ形状の周面を備える。本実施形態では、傾斜部24Bcの本体ローラ部側の径は本体ローラ部24Baの径と同一であり、縮径ローラ部側の径は縮径ローラ部24Bbの径と同一とされる。
【0046】
次に、このドラフトローラ対24が、高速で回転したときに発生する気流の流れについて説明する。
【0047】
図2Aならびに図3Bに示すように、ボトムローラ24Aが回転すると随伴気流A(図示反時計回転)が発生する。これは、ボトムローラ24Aの周囲空気が、ボトムローラ24Aの周面との摩擦により引きつられて生じる気流であり、ボトムローラ24Aの回転速度が上昇するにつれて当該随伴気流Aは大きくなる。同様に、フロントトップローラ24Bの回転によっても周囲空気が引きつられて気流が生じ、随伴気流B(図示時計回転)が発生する。
【0048】
ボトムローラ24Aとフロントトップローラ24Bは互いに逆方向に回転するため、随伴気流Aならびに随伴気流Bも互いに逆方向の流れとなり、これらの随伴気流A・Bはスライバ10のドラフトローラ対24への入口付近で衝突することとなる。
【0049】
そして、図2A、図2Bならびに図3Aに示すように、衝突した二つの随伴気流A・Bは、ドラフトローラ対24に沿うように流れてローラ軸方向への気流Cとなる。気流Cは、随伴気流Aならびに随伴気流Bからの空気の供給を受けて発達し、フロントトップローラ24Bの傾斜部24Bc近傍に到達する。
【0050】
その後、気流Cは、縮径ローラ部24Bbの周面で発生した随伴気流Bなどによって引き込まれるようにして縮径ローラ部24Bbの周面とボトムローラ24Aの周面との隙間Lからスライバ10を送り出す方向へ逃がされる。つまり、ドラフトローラ対24の上流側でローラ軸方向に沿って流れる気流Cは、縮径ローラ部24Bbとボトムローラ24Aとの隙間Lからドラフトローラ対24の下流側へ逃がされる。
【0051】
この際に、気流Cは、傾斜部24Bcのテーパ形状の周面に沿うように流れるために、従来例のように角部を回り込む際に発生する渦流Eなどの乱れの発生が抑制される。つまり、気流Cが流れる流路は、傾斜部24Bcのテーパ形状により滑らかに拡大されながら縮径ローラ部24Bbの周面とボトムローラ24Aの周面との隙間Lへ導かれる流路とされるために、渦流などの乱れを抑制することができる。
【0052】
これにより、縮径ローラ部24Bbの周面とボトムローラ24Aの周面との隙間Lからドラフトローラ対24の下流側へ逃がされた気流Cは、渦流などの乱れの少ないスライバ10に沿うように流れる気流Dとなる(図3A、図3B参照。)。
【0053】
このように、フロントトップローラ24Bの本体ローラ部24Baと縮径ローラ部24Bbの間にテーパ形状の周面を備える傾斜部24Bcを設けることで、スライバ10に沿うように流れる気流Dを乱れの少ない流れとすることができて、スライバ10の拡散を低減し、良好な糸品質を確保することが可能となる。
【0054】
次に、本発明の第2、第3実施形態に係るドラフト装置2のフロントトップローラ24Bについて説明する。ただし、前述の構成と同一の構成については同一の符号を付し、異なる部分を中心に説明する。
【0055】
図4に示すのは本発明の第2実施形態に係るドラフト装置2のドラフトローラ対24である。図4Aはドラフトローラ対24とスライバ10、ならびにドラフトローラ対24の回転に伴い発生する随伴気流を示す斜視図であり、図4Bはその正面図である。また、図5に示すのは本発明の第3実施形態に係るドラフトローラ対24である。図5Aはドラフトローラ対24とスライバ10、ならびにドラフトローラ対24の回転に伴い発生する随伴気流を示す斜視図であり、図5Bはその正面図である。
【0056】
図4に示すように、第2実施形態においては、傾斜部24Bdは、軸心方向の断面の母線が、前記軸心側に凸状の曲線となっており、この曲線を軸周りに回転することで形成される周面を備えている。つまり、傾斜部24Bdは、本体ローラ部24Baから縮径ローラ部24Bbへ向かうに伴って徐々に緩やかに径が減少していく放物面となっている。本実施形態では、傾斜部24Bdの本体ローラ部側の径は本体ローラ部24Baの径と同一であり、縮径ローラ部側の径は縮径ローラ部24Bbの径と同一とされる。
【0057】
これにより、ドラフトローラ対24の上流側でローラ軸方向に沿うように流れて傾斜部24Bd近傍に到達した気流Cは、傾斜部24Bdの周面に沿うように流れて、滑らかに縮径ローラ部24Bbの周面とボトムローラ24Aの周面との隙間Lへ導かれる。
【0058】
このため、ドラフトローラ対24の下流側へ逃がされた気流Cは、渦流などの乱れの少ないスライバ10に沿うように流れる気流Dとなる。
【0059】
図5に示すように、第3実施形態においては、傾斜部24Beは、軸心方向の断面の母線が、前記軸心側に凹状の曲線となっており、この曲線を軸周りに回転することで形成される周面を備えている。つまり、傾斜部24Beは、本体ローラ部24Baから縮径ローラ部24Bbへ向かうに伴って徐々に速やかに径が減少していく放物面となっている。本実施形態では、傾斜部24Beの本体ローラ部側の径は本体ローラ部24Baの径と同一であり、縮径ローラ部側の径は縮径ローラ部24Bbの径と同一とされる。
【0060】
これにより、ドラフトローラ対24の上流側でローラ軸方向に沿うように流れて傾斜部24Bd近傍に到達した気流Cは、本体ローラ部24Baなどから滑らかに傾斜部24Bdの周面に沿うように流れて、縮径ローラ部24Bbの周面とボトムローラ24Aの周面との隙間Lへ導かれる。
【0061】
このため、ドラフトローラ対24の下流側へ逃がされた気流Cは、渦流などの乱れの少ないスライバ10に沿うように流れる気流Dとなる。
【0062】
なお、第2実施形態ならびに第3実施形態の傾斜部24Bd・24Be母線の形状は、スライバ10の送り出し速度等によって最も適切な形状を見出して適用されるため、その形状について限定するものではない。
【0063】
このように、ドラフトローラ対24の上流側でローラ軸方向に沿って流れる気流Cを、ドラフトローラ対24の下流側へ逃がす際に、傾斜部24Bd・24Beの放物面に沿うように流すことによって渦流Eなどの乱れの発生が抑制されて、良好な糸品質を確保することが可能となる。
【0064】
なお、本発明では本体ローラ部24Baと傾斜部24Bc(24Bd)(24Be)の周面を滑らかに連続する面とし、傾斜部24Bc(24Bd)(24Be)と縮径ローラ部24Bbの周面を滑らかに連続する面とすることで更に気流Dの乱れを抑制できて、良好な糸品質を確保することが可能となる。
【0065】
また、本発明の実施形態においては、最も高速で回転するドラフトローラ対24のフロントトップローラ24Bに実施しているが、他のトップローラ21B・・・にも実施することが可能であり、全てのトップローラ21B・・・で実施しても良い。
【符号の説明】
【0066】
100 紡績機
2 ドラフト装置
10 スライバ
24 ドラフトローラ対
24A ボトムローラ
24B フロントトップローラ
24Ba 本体ローラ部
24Bb 縮径ローラ部
24Bc 傾斜部
24Bd 傾斜部
24Be 傾斜部
A 随伴気流
B 随伴気流
C 気流
D 気流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維束を牽伸するとともに送り出す複数のドラフトローラ対を備えるドラフト装置であって、
前記ドラフトローラ対は、それぞれ前記繊維束を送り出す方向に駆動回転するボトムローラと、前記ボトムローラに接触して従動回転するトップローラと、から構成され、
前記複数のトップローラのうち、少なくとも一つのトップローラは、前記ボトムローラと接触する本体ローラ部と、前記本体ローラ部の軸心方向の両側であって、前記本体ローラ部と同軸心上に設けられる前記本体ローラ部より小径の縮径ローラ部と、前記本体ローラ部と前記縮径ローラ部との間であって、前記本体ローラ部及び前記縮径ローラ部と同軸心上に設けられる傾斜部と、から構成され、
前記傾斜部は、前記本体ローラ部から前記縮径ローラ部へ向かうに従って、径が徐々に減少する周面を備える、
ことを特徴とするドラフト装置。
【請求項2】
前記傾斜部の前記周面は、軸心方向の断面の母線が、直線である、
ことを特徴とする請求項1に記載のドラフト装置。
【請求項3】
前記傾斜部の前記周面は、軸心方向の断面の母線が、前記軸心側に凸状の曲線である、
ことを特徴とする請求項1に記載のドラフト装置。
【請求項4】
前記傾斜部の前記周面は、軸心方向の断面の母線が、前記軸心側に凹状の曲線である、
ことを特徴とする請求項1に記載のドラフト装置。
【請求項5】
前記傾斜部は、前記本体ローラ部側の径が前記本体ローラ部の径と略同一であり、前記縮径ローラ部側の径が前記縮径ローラ部の径と略同一である、
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のドラフト装置。
【請求項6】
前記傾斜部は、前記本体ローラ部の周面と滑らかに連続する周面を有することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のドラフト装置。
【請求項7】
前記傾斜部は、前記縮径ローラ部の周面と滑らかに連続する周面を有することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のドラフト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−163702(P2010−163702A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4941(P2009−4941)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】