説明

ドラムブレーキのシューホールドスプリングおよびその製造方法

【課題】 製作が容易で品質が高く、かつ、「ヘタリ」を防止できるシューホールドスプリングを用いたドラムブレーキのブレーキシュー保持構造を提供する。
【解決手段】 ドラムブレーキのブレーキシュー保持構造に用いるシューホールドスプリングは、溝付きの第1腕片と、シューホールドピンの端部と係合する第2腕片と、第1腕片と第2腕片を連結するばね部とからなり、そのばね部に連設する第2腕片は、第1腕片に近接するように形成され、第2腕片の幅は第1腕片の溝の幅よりも小さく形成され、第2腕片を押圧したときに第1腕片を超えて変形できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラムブレーキのシューホールドスプリングに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なドラムブレーキにおいて、ブレーキドラムの摺動面に摩擦係合するブレーキシューは、ブレーキシュー保持構造によって、車両の不動部材に固定したバックプレート上に弾性的に保持されている。
【0003】
特許文献1(米国特許第5,540,310号)に記載されているブレーキシュー保持構造は、略平行な腕片部と円弧状部からなる板ばねのシューホールドスプリングと棒状のシューホールドピンとにより構成されている。シューホールドピンは、その円形の主体軸部の一端にタブレット状の掛止部が形成され、軸部の他端に半球状に膨大する頭部が形成されている。
【0004】
板ばねからなるシューホールドスプリングは、ブレーキシューのウェブ上に載置される第1腕片と、これに対向する第2腕片及び両腕片を連結する円弧状部とよりなる。両腕片の開口側にはシューホールドピンの軸部の通過を許容する切欠きがあり、第2腕片の切欠きの終端部には前記した掛止部を保持する凹部が形成される。
さらに、両腕片の先端は相近づく方向に折曲部が形成されており、この折曲部が互いに干渉することでばねの過大なたわみを防止している。
【0005】
特許文献2(特開2001−295872号)および特許文献3(米国特許第6,062,354号)に記載されているシューホールドスプリングは、特許文献1のシューホールドスプリングで採用された折曲部を形成することなく、両腕片の位置関係を比較的近づけることによってばねの過大なたわみを防止している。これらのシューホールドスプリングは、帯状の板ばねから切り出された後、折り曲げて成形される。このシューホールドスプリングは、2つの腕片部と円弧状のばね部によって構成されており、ほぼP形状をしている。これらのシューホールドスプリングは、2つの腕片部が重なる位置まで変形することができるが、それ以上は変形することができない。よって、形状成形時においては、スプリングバックによる影響のため形状精度が安定しない。また、形状成形後にヘタリ防止のためにセッチングを行う時、最大使用応力以上の高い応力を負荷することができないため、初期ヘタリが発生するなどの課題がある。
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,540,310号
【特許文献2】特開2001−295872号
【特許文献3】米国特許第6,062,354号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記した従来のシューホールドスプリングは、形状成形時に形状精度が安定しない課題がある、また、セッチングが不十分なため、初期負荷によるスプリングの変形、いわゆる「初期ヘタリ」を生じるという問題がある。
【0008】
本発明は以上の問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、シューホールドスプリングの製作が容易で品質が高く、かつ、「ヘタリ」を防止することができるシューホールドスプリングを用いたドラムブレーキのブレーキシュー保持構造を提供することにある。なお、スプリングの「ヘタリ」は、形状成形・熱処理の終わったばねを最終工程で、最大使用応力以上の高い応力を負荷するセッチングで防ぐことができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
<1>ドラムブレーキのシューホールドスプリングであって、(イ)ブレーキシューのウェブ上に載置される、溝付きの第1腕片、(ロ)シューホールドピンと係合する第2腕片、(ハ)第1腕片と第2腕片を連結する円弧状のばね部、(ニ)そのばね部に連設する第2腕片は、第1腕片に近接するように形成されていて、(ホ)第2腕片の幅は第1腕片の溝の幅よりも小さく形成され、第2腕片を押圧したときに第1腕片を超えて変形できることを特徴とするドラムブレーキのシューホールドスプリング、
<2><1>において、第2腕片が第1腕片にほぼ平行であることを特徴とするドラムブレーキのシューホールドスプリング、
<3><1>乃至<2>において、第2腕片は先端から形成した溝と、それに連設する孔部が形成されたことを特徴とするドラムブレーキのシューホールドスプリング、
<4><1>乃至<2>において、第2腕片は先端から形成した溝と、この溝に直交するU字状溝が形成されたことを特徴とするドラムブレーキのシューホールドスプリング、
<5>ブレーキシューのウェブ上に載置される溝付きの第1腕片と、シューホールドピンと係合する第2腕片と、第1腕片と第2腕片を連結する円弧状のばね部とからなるシューホールドスプリングを、帯状の板ばねから切り出した後、折り曲げ成形するシューホールドスプリングの製造方法であって、折り曲げ成形時、第1腕片の溝の幅よりも小さく形成された第2腕片は、第1腕片を超えて変形できることを特徴とするドラムブレーキのシューホールドスプリングの製造方法、
<6>ブレーキシューのウェブ上に載置される溝付きの第1腕片と、シューホールドピンと係合する第2腕片と、第1腕片と第2腕片を連結する円弧状のばね部とからなるシューホールドスプリングを、帯状の板ばねから切り出した後に折り曲げ成形し、さらにセッチングするシューホールドスプリングの製造方法であって、セッチング時、第1腕片の溝の幅よりも小さく形成された第2腕片は、第1腕片を超えて変形できることを特徴とするドラムブレーキのシューホールドスプリングの製造方法、
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のシューホールドスプリングおよびその製造方法は、以上説明したように構成されているので、以下に記載されるような効果を奏する。
本発明のシューホールドスプリングは、製作が容易で品質が高く、かつ、「ヘタリ」を防止することができるシューホールドスプリングを用いたドラムブレーキのブレーキシュー保持構造に使用される。
また、シューホールドスプリングを帯状の板ばねから切り出す場合、第1腕片の不要部を第2腕片とすることができるので、廃棄する材料が減らせるという効果も奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、ブレーキシューのウェブに載置される第1腕片と第2腕片を含むシューホールドスプリングにおいて、第2腕片の幅を第1腕片の溝の幅よりも小さくしたので、折り曲げ成形工程を第1腕片と第2腕片とが干渉することなく行なえる。
以下、図1〜図5を参照しながら本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0012】
<実施例1>
図1は、本発明の実施例1のシューホールドスプリング1を用いたドラムブレーキのブレーキシュー保持構造Aの周辺を示す断面図である。また、図2(a)は、シューホールドスプリング1の斜視図、図2(b)は、シューホールドスプリング1の側面図である。車体の不動部(図示せず)に固定されるバックプレート4の内面上にブレーキシュー3が可動的に配置され、ブレーキシュー3は、半月形のシューウェブ31の外周縁に湾曲するシューリム32を断面T字状に接合し、シューリム32の外周面にライニング33を固着して構成されている。ブレーキシュー3は、そのシューウェブ31の中間部がブレーキシュー保持構造Aによって弾性的に保持され、ライニング33の摩擦面が、図示しないブレーキドラムの摺動面に対して常に整列している。
【0013】
ブレーキシュー保持構造Aは、シューホールドスプリング1と棒状のシューホールドピン2とにより構成されている。シューホールドピン2は、バックプレート4の孔を通りブレーキシュー3側に突出しており、シューウェブ31の孔を貫通する。シューウェブ31の孔は、ライニング33が摩耗したときに、シューホールドピン2が障害にならないように、長孔などに加工されている。
シューホールドピン2は、軸部21とそのバックプレート4側に頭部22があり、一方のブレーキシュー3のシューウェブ31側にシューホールドスプリング1の第2腕片12の円弧状孔16と係合する掛止部23がある。円弧状孔16の形状と、シューホールドピン2の掛止部23の形状を合わせてあり、ブレーキシューの移動方向の動きでは係合が外れない構造となっている。
【0014】
図2に示すシューホールドスプリング1は、平板な帯状の板ばねから切り出された後、折り曲げて成形される。シューホールドスプリング1は、第1腕片11と第2腕片12と円弧状部13によって構成されており、ほぼP形状をしている。第1腕片11には溝14が設けられ、第2腕片12の幅は溝14よりも小さく形成されている。
【0015】
図3(a)は、シューホールドスプリング1の折り曲げ成形時の斜視図である。図3(b)は、シューホールドスプリング1の折り曲げ成形時の側面図である。シューホールドスプリング1は、前述したように帯状の板ばねから切り出された後、折り曲げて成形される。従来のシューホールドスプリングは、第1腕片と第2腕片が干渉する位置までしか変形することができなかったが、本発明では、シューホールドスプリング1の第2腕片12の幅を第1腕片11の溝14よりも小さく形成しており、第2腕片12は第1腕片11を通り超して溝14の奥側に干渉するところまで変形することができる。
【0016】
したがって、シューホールドスプリング1を成形する時、スプリングバックの影響により所望の形状に成形できないことを避けることができるため、成形工程が簡潔になるとともに、製品の精度を向上できる。
【0017】
さらに、成形・熱処理の終わったばねを最終工程でセッチングする時、最大使用応力以上の高い応力を簡単に負荷することができるため、「ヘタリ」を防止できる。
【0018】
また、シューホールドスプリング1は、帯状の板ばねから切り出す場合、例えば図6に示すように第1腕片11の溝14として切り取る部分(不要部)を第2腕片12とすれば、帯状の板ばねを有効に利用することができる。帯状の板ばねから切り出す方法は、プレス機械にて所望の形状に分離する方法、またはレーザにて切断する方法などが挙げられる。
【0019】
<実施例2>
図4は、本発明の実施例2のシューホールドスプリング1を用いたドラムブレーキのブレーキシュー保持構造Aの周辺を示す断面図である。シューホールドピン2の掛止部23が、軸部21の径よりも大きく、かつ、扁平した扇状に形成されている。
【0020】
図5は、実施例2のシューホールドスプリング1の斜視図である。第2腕片12は、開口側から掛止溝15が設けられ、かつ第2腕片12の中間位置で掛止溝15と直行する方向に底の有るU字状溝17が形成されている。
【0021】
このシューホールドスプリング1を組み付ける場合、バックプレート4の孔とシューウェブ31の孔を通るようにシューホールドピン2を挿入する。次に、扁平した掛止部23の板面と掛止溝15の方向を合わせながら、シューホールドピン2の掛止部23とU字状溝17がほぼ一直線上になるまで移動させる。この後、シューホールドスプリング1を押圧しながらシューホールドピン2をほぼ90度回し、シューホールドピン2の板状の掛止部23とU字状溝17が略合致するようにする。ここで、シューホールドスプリング1の押圧を解除すると、扁平した掛止部23がU字状溝17にはまり、シューホールドピン2の回転を防止するため、シューホールドピン2が外れなくなる。なお、U字状溝は、底が浅く断面が皿のような溝であっても、シューホールドピン2の回転を防止できる形状であれば良い。
【0022】
本発明のシューホールドスプリング1を成形する時、第2腕片12が第1腕片11の溝14を通るように変形することができるため、実施例1と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施例1に係わるシューホールドスプリングを用いたドラムブレーキのブレーキシュー保持機構の周辺部を示す断面図。
【図2】本発明の実施例1に係わる(a)シューホールドスプリングの斜視図。(b)シューホールドスプリングの側面図。
【図3】本発明の実施例1に係わる(a)シューホールドスプリングの折り曲げ成形時の斜視図。(b)シューホールドスプリングの折り曲げ成形時の側面図。
【図4】本発明の実施例2に係わる(a)シューホールドスプリングを用いたドラムブレーキのブレーキシュー保持機構の周辺部を示す断面図。(b)シューホールドピンの斜視図。
【図5】本発明の実施例2に係わるシューホールドスプリングの斜視図。
【図6】帯状板ばねからシューホールドスプリングを製造する時の切り出し工程の模式図。
【符号の説明】
【0024】
1 シューホールドスプリング
11 第1腕片
12 第2腕片
13 円弧状部
14 溝(第1腕片)
15 掛止溝(第2腕片)
16 円弧状孔
17 U字状溝
2 シューホールドピン
21 軸部
22 頭部
23 掛止部
3 ブレーキシュー
31 シューウェブ
32 シューリム
33 ライニング
4 バックプレート
A ブレーキシュー保持構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドラムブレーキのシューホールドスプリングであって、
(イ)ブレーキシューのウェブ上に載置される、溝付きの第1腕片、
(ロ)シューホールドピンと係合する第2腕片、
(ハ)第1腕片と第2腕片を連結する円弧状のばね部、
(ニ)そのばね部に連設する第2腕片は、第1腕片に近接するように形成されていて、
(ホ)第2腕片の幅は第1腕片の溝の幅よりも小さく形成され、第2腕片を押圧したときに第1腕片を超えて変形できる
ことを特徴とするドラムブレーキのシューホールドスプリング。
【請求項2】
請求項1において、第2腕片が第1腕片にほぼ平行であることを特徴とするドラムブレーキのシューホールドスプリング。
【請求項3】
請求項1乃至2において、第2腕片は先端から形成した溝と、それに連設する孔部が形成されたことを特徴とするドラムブレーキのシューホールドスプリング。
【請求項4】
請求項1乃至2において、第2腕片は先端から形成した溝と、この溝に直交するU字状溝が形成されたことを特徴とするドラムブレーキのシューホールドスプリング。
【請求項5】
ブレーキシューのウェブ上に載置される溝付きの第1腕片と、シューホールドピンと係合する第2腕片と、第1腕片と第2腕片を連結する円弧状のばね部とからなるシューホールドスプリングを、帯状の板ばねから切り出した後、折り曲げ成形するシューホールドスプリングの製造方法であって、
折り曲げ成形時、第1腕片の溝の幅よりも小さく形成された第2腕片は、第1腕片を超えて変形できることを特徴とするドラムブレーキのシューホールドスプリングの製造方法。
【請求項6】
ブレーキシューのウェブ上に載置される溝付きの第1腕片と、シューホールドピンと係合する第2腕片と、第1腕片と第2腕片を連結する円弧状のばね部とからなるシューホールドスプリングを、帯状の板ばねから切り出した後に折り曲げ成形し、さらにセッチングするシューホールドスプリングの製造方法であって、
セッチング時、第1腕片の溝の幅よりも小さく形成された第2腕片は、第1腕片を超えて変形できることを特徴とするドラムブレーキのシューホールドスプリングの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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