説明

ドラムブレーキの作動装置

【課題】ドラムブレーキの作動装置において、組み立て作業の作業性を向上できる作動装置を提供することにある。
【解決手段】ドラムブレーキの作動装置は、レバー20と、ケース30と、板バネ60とを備える。レバー20は、当該レバー20の挿入孔20bがケース30から露出する取付作業位置と、挿入孔20bの少なくとも一部がケース30に囲われる使用位置との間で移動可能である。板バネ60は、取付作業位置と使用位置との途中の位置でレバー20に干渉するよう配置され、ケース30には、使用位置から取付作業位置へ向かう方向に移動するレバー20が板バネ60に干渉した場合に、当該板バネ60の弾性変形を規制する連結板部30eが形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキケーブルなどの牽引部材に牽引されることによってドラムブレーキを作動させるドラムブレーキの作動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
機械式ドラムブレーキでは、一般的に、ブレーキドラム内に配置されたブレーキシューを押し拡げることで、ブレーキを作動させる作動装置が用いられている。機械式ドラムブレーキの作動装置には、連結ピンによってブレーキケーブルが取り付けられるレバーと、当該レバーを回転可能に支持するとともに当該レバーを収容する収容部材とを備えるものがある。ブレーキケーブルがレバーを牽引すると、レバーは当該レバーが係合するブレーキシューを押圧し、収容部材は当該収容部材が係合するブレーキシューを押圧する。また、収容部材は、連結ピンを差し込むためにレバーに設けられた挿入孔を取り囲んでおり、これによって、レバーから連結ピンが抜け落ちるのを防止し、ブレーキケーブルがドラムブレーキから離脱することを防止している。
【0003】
ブレーキケーブルの取り付け作業時には、連結ピンをレバーの挿入孔に差し込むために、当該挿入孔の全体を収容部材から露出させておく必要がある。特許文献1では、板バネ状のクリップにレバーを干渉させて、挿入孔の全体が収容部材から露出する位置(以下、取付作業位置とする)にレバーを保持する作動装置が提案されている。
【0004】
また、この作動装置では、連結ピンによってブレーキケーブルがレバーに取り付けられた後、クリップは弾性変形して、レバーが取付作業位置から、収容部材によって挿入孔の少なくとも一部が囲われる位置(以下、使用位置とする)まで回転することを許容する。そして、クリップは、一旦、使用位置までレバーが回転した後は、レバーが取付作業位置に戻ることを抑制している。これによって、例えば、ドラムブレーキを車体に組み付ける作業工程において、ブレーキケーブルの一端がレバーに取り付けられ、他端が自由端となっている状態でドラムブレーキが搬送される場合に、連結ピンの抜け落ちが防止されるようになっている。
【特許文献1】特開2004−108458号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示される作動装置は、その組み立て作業の作業性において確実とは言えない場合があった。レバーの回転方向によりクリップの撓みやすさが異なるが、クリップの剛性が低い場合には、一旦、レバーが使用位置まで回転した後に、クリップが弾性変形する(撓む)ことによって、レバーが取付作業位置へ戻ってしまい、連結ピンが抜け落ちる可能性が生じる。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、ドラムブレーキの作動装置において、組み立て作業の作業性を向上できる作動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係るドラムブレーキの作動装置は、ブレーキシューを押し拡げてブレーキを作動させるドラムブレーキの作動装置であって、牽引部材が取り付けられる被取付部を有し、前記牽引部材の前記被取付部への取り付け作業のために配置される取付作業位置と前記ドラムブレーキ使用時に配置される使用位置との間で移動可能に設けられ、前記牽引部材に牽引されてブレーキシューを押圧するレバーと、前記レバーを収容し、前記取付作業位置にある前記レバーの前記被取付部を露呈させ、前記使用位置にある前記レバーの前記被取付部の少なくとも一部を囲う収容部材と、前記取付作業位置と前記使用位置との間の位置で前記レバーに干渉する弾性部材と、を備え、前記収容部材は、前記使用位置から前記取付作業位置へ向かう方向に移動する前記レバーが前記弾性部材に干渉した場合に、当該弾性部材の弾性変形を規制する弾性変形規制部を有する。
【0008】
本発明によれば、ブレーキケーブルの取り付け作業時にはレバーを取付作業位置に保持し、取り付け後にはレバーが使用位置から取付作業位置に戻ることを確実に防止でき、作業性を向上させることができる。
【0009】
本発明の一態様では、前記レバーは、前記牽引部材による牽引時に支点となる支点部と、前記弾性部材に干渉する干渉部とを有し、前記干渉部は、前記被取付部より前記支点部側に設けられる。この態様によれば、弾性部材の剛性を高めた場合でも、過度に強い操作力を有することなく、レバーを取付作業位置から使用位置に移動させることができ、作業性を向上させることができる。
【0010】
また、この態様では、前記弾性部材は板バネであり、前記レバーの前記被取付部側から前記支点部側に延伸するよう設けられ、その端部が前記レバーの前記干渉部に干渉するようにしてもよい。このようにすれば、板バネの端部が、レバーの支点部に近い位置で当該レバーに干渉するよう構成できるので、適度な操作力でレバーを取付作業位置から使用位置に移動させることができ、作業性を向上させることができる。
【0011】
さらに、この態様では、前記弾性部材は、前記弾性変形規制部に接するように設けられる板部と、当該板部から前記レバー側に屈曲して延伸し、その端部が前記レバーの前記干渉部に当接する延伸部とを有し、前記延伸部の基部が前記弾性変形規制部に接する位置に設けられてもよい。このようにすれば、より確実にレバーが使用位置から取付作業位置に戻ることを防止できるようになる。
【0012】
また、本発明の一態様では、前記弾性部材は、前記弾性変形規制部に取り付けられる。この態様によれば、簡単な作業で板バネを弾性変形規制部に取り付けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施形態の例である作動装置10を備える機械式のドラムブレーキ1の平面図である。同図は、ドラムブレーキ1において作動装置10が設けられた箇所を中心に示している。図2は、作動装置10、ブレーキケーブル(牽引部材)50、及び連結ピン52の分解斜視図である。図3は、図1におけるiii−iii線断面図であり、図4は、図3のiv−iv線断面図である。なお、後述するように、作動装置10はレバー20と当該レバー20を収容するケース(収容部材)30とを備えており、図3では、ブレーキケーブル50とレバー20とを連結する連結ピン52が差し込まれる挿入孔(被取付部)20bの全体がケース30から露出する位置に、レバー20が配置されている。
【0014】
図5は、レバー20に取り付けられたブレーキケーブル50の他端が自由端となっている状態において、レバー20が下限位置にある様子を示している。図6は、同じく、ブレーキケーブル50の他端が自由端となっている状態において、レバー20が上限位置にある様子を示している。なお、図5では、レバー20が下方に回転することで、レバー20及びケース30がブレーキシュー2,3に当接している。また、図6では、レバー20が上方に回転することで、当該レバー20が板バネ(弾性部材)60に当接している。
【0015】
図1に示すドラムブレーキ1は、ここで説明する例では車両の駐車時などに使用されるパーキングブレーキであり、ブレーキドラムの内側に配置される一対のブレーキシュー2,3を備えている。一対のブレーキシュー2,3は、車体に対して不動に取り付けられるバックプレート7上に配置され、それらの端部は間隔を空けて互いに向き合っている。ブレーキシュー2とブレーキシュー3とには、2つのシューリタンスプリングが張設され、ブレーキシュー2,3は、これらのシューリタンスプリングの収縮力によって互いに引き合っている。なお、図1では、一方側のシューリタンスプリング4のみが示されている。
【0016】
ブレーキケーブル50が牽引されると、ブレーキシュー2,3は、作動装置10によって2つのシューリタンスプリングの収縮力に抗して互いに反対方向に押し拡げられる。その結果、ブレーキシュー2,3の外周面2a,3aは、それぞれブレーキドラムの内壁面6に押し付けられる。その後、例えば、坂道等で車両の自重によって車輪が回転しようとすると、内壁面6とブレーキシュー2,3の外周面2a,3aとの間に摩擦力が生じ、車両が制動される。ブレーキケーブル50の牽引が解除されると、シューリタンスプリングの収縮力によって、ブレーキシュー2,3が引き寄せ合う。これによって、ブレーキシュー2,3の外周面2a,3aがブレーキドラムの内壁面6から再び離れ、制動力は解除される。
【0017】
図2に示すように、ブレーキケーブル50の先端には、当該ブレーキケーブル50をレバー20に連結するための連結部51が設けられている。ここで説明する例では、連結部51は、連結ピン52によってレバー20に取り付けられる。具体的には、連結部51は、基部51cと、当該基部51cから立ち上がり互いに向き合う一対の板部51a,51aとを有している。板部51a,51aには開口51d,51dが設けられている。一方、レバー20には、その端部に挿入孔20bが設けられている。当該挿入孔20b及び開口51d,51dに連結ピン52が差し込まれることによって、連結部51はレバー20に取り付けられる。
【0018】
作動装置10は、バックプレート7に固定されたアンカー5の座部5bの上方であって立設部5aに隣接して、ブレーキシュー2,3の間に配置されている(図1及び図3参照)。図2に示すように、作動装置10は、レバー20及びケース30の他に、ピン40と、ワッシャー41と、板バネ60とを備えている。
【0019】
ケース30は、互いに向き合う一対の壁状に形成され、その長手方向がブレーキシュー2,3の拡張方向(図3においてAに示す方向)に向くように配置される。ケース30は、挿入孔20bからの連結ピン52の脱落を防止する一対の壁部30L,30Lと、ブレーキシュー3に当接するブレーキシュー当接部30aと、レバー20を回転可能に支持する一対のレバー支持部30d,30dと、壁部30L,30Lに掛け渡される連結板部(弾性変形規制部)30eとを有している。
【0020】
レバー20は、ブレーキシュー2,3の拡張方向に長い厚板状であり、ケース30の内側に配置されている(図4参照)。レバー20には、ブレーキシュー2に当接するブレーキシュー当接部20cと、板バネ60に干渉する干渉部20fと、ケース30によって支持される被支持部20eとが形成されている。
【0021】
ここで説明する例では、レバー20の被支持部20eに開口20hが設けられ、ケース30のレバー支持部30d,30dには開口30h,30hが設けられている。そして、これらの開口20h,30h,30hにピン40が差し込まれている。これによって、レバー20は、ピン40を中心として回転できるようになっている。なお、レバー20は、挿入孔20bの全体が壁部30L,30Lから露出する位置(以下、取付作業位置とする。図3参照)と、挿入孔20bの少なくとも一部が壁部30L,30Lに囲われる位置(以下、使用位置とする。図5及び図6参照)との間で回転可能に構成されている。なお、ブレーキケーブル50が取り付けられたレバー20は、レバー20のブレーキシュー当接部20c及び後述するケース30のブレーキシュー当接部30aが、それぞれブレーキシュー2,3に当接している位置(図5に示される位置)から更に回転することで、ドラムブレーキ1を作動させる。
【0022】
板バネ60は、取付作業位置と使用位置との間で回転するレバー20に干渉するよう配置されている。本実施の形態では、板バネ60は、弾性変形することで、レバー20の取付作業位置から使用位置への回転を許容する。一方、使用位置から取付作業位置へ向かう方向へ回転するレバー20に板バネ60が干渉する時には、当該板バネ60の弾性変形はケース30の連結板部30eによって規制される。これによって、レバー20の使用位置から取付作業位置へ向かう回転は規制される。以下、レバー20、ケース30、及び板バネ60の形状について詳細に説明する。
【0023】
まず、レバー20について説明する。
【0024】
図2及び図3に示すように、ブレーキシュー当接部20cは、板状のレバー20のブレーキシュー2側に形成されており、ブレーキシュー2の端部に対向している。ブレーキシュー当接部20cは、レバー20がブレーキケーブル50によって牽引された時に、当該ブレーキシュー2を拡張方向に押圧する(図5参照)。
【0025】
被支持部20eは、レバー20のブレーキシュー2側の端部に位置し、ブレーキシュー当接部20cの上側において、ブレーキシュー2側に張り出すように形成されている。この被支持部20eには、ブレーキケーブル50の牽引時に支点となる支点部20dが形成されている。すなわち、この例では、図2に示すように、被支持部20eには開口20hが設けられており、開口20hの内壁が支点部20dとなっている。開口20hにピン40が差し込まれると、当該開口20hの内壁である支点部20dがピン40の外周面に接し、ブレーキケーブル50によって牽引されたレバー20は支点部20dを支点として回転する。また、支点部20dは、ブレーキケーブル50の牽引時には、ピン40を介してケース30をブレーキシュー3側に押圧する。なお、ピン40の端部には、当該ピン40の脱落を防止するワッシャー41が取り付けられている。
【0026】
レバー20のブレーキシュー3側の端部は連結部51の板部51a,51aに挟まれ、当該端部に設けられた挿入孔(被取付部)20bと開口51d,51dとに連結ピン52が差し込まれている。これによって、ブレーキケーブル50は、連結ピン52を介してレバー20のブレーキレバー3側の端部を牽引する。
【0027】
干渉部20fは、レバー20が取付作業位置にある時に、板バネ60の端部60gに係合するように形成されている(図3参照)。この例では、図2に示すように、干渉部20fはレバー20の上壁20iに形成され、挿入孔(被取付部)20bより支点部20d側に位置している。また、干渉部20fは、板バネ60の端部60g側に僅かに湾曲する鉤状に形成されている(図3参照)。
【0028】
なお、レバー20は、ブレーキシュー当接部20cの下側に、当該ブレーキシュー当接部20cよりブレーキシュー2側に伸びる突出部20tを有している。ブレーキシュー2の端部は突出部20tと被支持部20eとの間に位置し、突出部20tは被支持部20eとともに作動装置10とブレーキシュー2との位置関係が上下方向にずれることを防止している。
【0029】
次に、ケース30について説明する。
【0030】
レバー支持部30d,30dは、ケース30のブレーキシュー2側の端部に形成され、レバー20の支点部20dを支持する支点支持部30i,30iを有している。すなわち、この例では、図2に示すように、レバー支持部30d,30dには開口30h,30hが設けられており、この開口30h,30hの内壁が支点支持部30i,30iとなっている。支点支持部30i,30iは、開口30h,30hとレバー20の開口20hとに差し込まれるピン40を介して支点部20dを支持する。
【0031】
一対の壁部30L,30Lは、レバー支持部30d,30dとブレーキシュー3側に位置するブレーキシュー当接部30aとを連結する様に形成されている。図4に示される様に、これらの壁部30L,30Lは互いに向き合うよう形成され、その間にレバー20及び連結部51が配置される。また、壁部30L,30Lの間隔は、連結ピン52の長さより僅かに広く設定され、連結ピン52が一方の壁面30Lに当接するまで移動した場合でも、レバー20から脱落しないようになっている。また、図3に示される様に、一対の壁部30L,30Lの高さは、レバー20の干渉部20fが板バネ60に係合した状態において、挿入孔20bの全体が露出するように設定されている。さらに、この高さは、図5及び図6に示される様に、使用位置の範囲で回転するレバー20の挿入孔20bを側方から囲うように設定されている。これによって、壁部30L,30Lは、ドラムブレーキ1の作動時や、レバー20に取り付けられたブレーキケーブル50の他端が自由端となっている状態でドラムブレーキ1が搬送される時に、ブレーキケーブル50がレバー20から離脱することを防止している。
【0032】
図2に示すように、一対の壁部30L,30Lのブレーキシュー3側は接合されており、これによって2枚の壁部が重なり合う重合部30uが形成されている。そして、当該重合部30uの上下方向中間部に、ブレーキシュー3に対向するブレーキシュー当接部30aが形成されている。このブレーキシュー当接部30aは、レバー20がブレーキケーブル50によって牽引された時にブレーキシュー3に当接して、当該ブレーキシュー3を拡張方向に押圧する(図5参照)。
【0033】
なお、重合部30uは、ブレーキシュー当接部30aの上下に、当該ブレーキシュー当接部30aから、さらにブレーキシュー3側に突出する上下一対の突出部30b,30cを有している。この突出部30b,30cは、作動装置10とブレーキシュー3との位置関係が上下方向にずれることを防止している。
【0034】
連結板部30eは板状に形成され、ブレーキシュー当接部30aとレバー支持部30d,30dとの間に設けられている。これによって、一対の壁部30L,30Lが開いてケース30全体が変形することが抑制されている。この例では、連結板部30eは、壁部30L,30Lの内側に配置されるレバー20の上方に位置し、壁部30L,30Lの上縁部を連結するように当該壁部30L,30Lに掛け渡されている。この連結板部30eの上壁には、上方に突出する凸部30f,30fが形成されている。凸部30f,30fは、後述する板バネ60に形成された開口60b,60bに対応する位置に形成されており、開口60b,60bに嵌ることで板バネ60の動きを規制する。
【0035】
次に、板バネ60について説明する。図7は、板バネ60及び連結板部30eを中心に示す作動装置10の断面図である。なお、同図では、取付作業位置にあるレバー20は二点鎖線で示され、使用位置にあるレバー20が実線で示されている。また、レバー20の回転によって弾性変形している板バネ60は二点鎖線で示されている。
【0036】
板バネ60は、連結板部30eを挟むクリップ部60fを有し、クリップ部60fによって連結板部30eに取り付けられている。すなわち、板バネ60は、連結板部30eの上面に接する上側板部60dと、当該上側板部60dに向き合い連結板部30eの下面に接する下側板部60cと、上側板部60dの端部と下側板部60cの端部とを繋ぐ折り返し部60eとを有している。そして、これら上側板部60dと、折り返し部60eと、下側板部60cとがクリップ部60fを構成し、上側板部60dと下側板部60cとが連結板部30eを挟んでいる。なお、上側板部60dには開口60b,60bが設けられている(図2参照)。この開口60b,60bに、連結板部30eの凸部30f,30fが嵌ることで、板バネ60の移動が規制されている。
【0037】
また、板バネ60は、レバー20の挿入孔20b側から支点部20d側に延伸し、その端部60gがレバー20の干渉部20fに干渉するように配置されている。具体的には、下側板部60cは、折り返し部60eが連なる一端部から拡張方向に延伸し、その他端部には、弾性変形規制部としての連結板部30eに接する位置に設けられる延伸部60aの基部60iが連なっている。延伸部60aは、基部60iに近接する位置にある屈曲部60hにおいて、レバー20の干渉部20fに向かって斜め下方に屈曲している。延伸部60aの端部60gは、取付作業位置にあるレバー20の干渉部20fに係合する(図3及び図7参照)。また、挿入孔20bの一部が壁部30L,30Lに囲われる使用位置から取付作業位置に向かってレバー20が回転しようとする時には、干渉部20fが下方から延伸部60aの端部60gに当接する(図6及び図7参照)。
【0038】
次に、作動装置10へのブレーキケーブル50の取り付け方法、及び取り付け作業時の作動装置10の動作について、図3、図5及び図7を参照しながら説明する。
【0039】
ブレーキケーブル50の取り付け時には、まず、ケース30に対して回転できるように支持したレバー20を上方に回転させて取付作業位置に配置し、板バネ60によって取付作業位置にあるレバー20を保持する。すなわち、レバー20の挿入孔20bの全体を、ケース30の壁部30L,30Lから露出させた状態でレバー20を保持する。そして、連結板部30eの凸部30f,30fが開口60b,60bに嵌るまで、連結板部30eを挟んだ状態で拡張方向に板バネ60をスライドさせる。その結果、板バネ60の端部60gは、レバー20の干渉部20fに係合し、レバー20を取付作業位置に保持する(図3参照)。
【0040】
その後、ブレーキケーブル50の連結部51を下方からケース30内に入れ、連結部51の開口51d,51dとレバー20の挿入孔20bとに連結ピン52を差し込む。これによって、ブレーキケーブル50はレバー20に取り付けられる。
【0041】
その後、レバー20が、例えばブレーキケーブル50に牽引されることによって、取付作業位置から使用位置へ回転する時には、板バネ60は弾性変形してレバー20の回転を許容する。すなわち、図7において二点鎖線で示すように、板バネ60の下側板部60cが折り返し部60eを起点として傾倒する。レバー20がさらに回転すると、レバー20と板バネ60の係合が解除される(図5参照)。この時、板バネ60は、その弾性力によって復帰し、下側板部60cと上側板部60dは連結板部30eを再び把持する。
【0042】
一旦、レバー20が使用位置まで回転した後、使用位置から取付作業位置へ向かう方向へ回転しようとする時には、板バネ60の弾性変形は弾性変形規制部としての連結板部30eによって規制される。すなわち、図7に示すように、干渉部20fが、下方から延伸部60aの端部60gに当接し、下側板部60cを押し上げようとするものの、連結板部30eが下側板部60c及び延伸部60aの基部60iの上方への傾倒を規制する。この時、レバー20は、延伸部60aが延伸する方向の反力を当該延伸部60aから受けて、その回転が規制されている。そのため、レバー20は再び取付作業位置に戻ることはなく、例えば、ブレーキケーブル50の他端が自由端となっている状態でドラムブレーキ1が搬送される場合に、連結ピン52の抜け落ちが防止される。
【0043】
レバー20にブレーキケーブル50が取り付けられ、当該ブレーキケーブル50が牽引されたことによって、レバー20の干渉部20fが板バネ60の端部60gを乗り越えた後は、ブレーキケーブル50やブレーキシュー2等によって動きが束縛されていないレバー20は使用位置の範囲でのみ自由に回転できるようになる。すなわち、挿入孔20bが上限位置にある位置(図6に示す位置)から下限位置にある位置(図5に示す位置)にレバー20は回転する。
【0044】
なお、ブレーキケーブル50の取り付け方法は、以上説明した方法に限らない。例えば、以上説明した方法では、ケース30に対して回転できるように支持したレバー20を取付作業位置に配置した後に、板バネ60を連結板部30eに取り付け、レバー20を取付作業位置に保持するようにしていた。しかしながら、例えば、先に板バネ60をケース30の連結板部30eに取り付け、その後、レバー20を取付作業位置に保持しながらピン40を差し込んでもよい。
【0045】
以上説明した作動装置10では、連結板部30eに板バネ60が取り付けられ、当該板バネ60は取付作業位置と使用位置との間で移動するレバー20に干渉するよう配置されている。そして、レバー20が使用位置から取付作業位置に移動しようとする時には、板バネ60の弾性変形が弾性変形規制部としての連結板部30eによって規制される。そのため、ブレーキケーブル50の取り付け作業時に確実にレバーを取付作業位置に保持し、取り付け後にはレバーが使用位置から取付作業位置に戻ることを防止でき、作業性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施形態の例である作動装置を備えた機械式ドラムブレーキの平面図である。
【図2】上記作動装置、ブレーキケーブル及び連結ピンの分解斜視図である。
【図3】上記作動装置の断面図であり、レバーの挿入孔がケースから露出している状態を示している。
【図4】図3のiv−iv線断面図である。
【図5】上記作動装置の断面図であり、レバーに取り付けられたブレーキケーブルの他端が自由端となっている状態において、レバーが下限位置にある様子が示されている。この図では、レバーが回転してレバーおよびケースがブレーキシューに当接している。
【図6】上記作動装置の断面図であり、ブレーキケーブルの他端が自由端となっている状態において、レバーが上限位置にある様子が示されている。この図では、レバーが回転してレバーが板バネ(弾性部材)に当接している。
【図7】板バネ、及びケースの連結板部を中心に示す作動装置の断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1 ドラムブレーキ、2,3 ブレーキシュー、4 シューリタンスプリング、5 アンカー、10 作動装置、20 レバー、20b 挿入孔(被取付部)、20d 支点部、20f 干渉部、30 ケース(収容部材)、30e 連結板部(弾性変形規制部)、50 ブレーキケーブル(牽引部材)、60 板バネ(弾性部材)、60d 上側板部、60c 下側板部、60a 延伸部、60f クリップ部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキシューを押し拡げてブレーキを作動させるドラムブレーキの作動装置であって、
牽引部材が取り付けられる被取付部を有し、前記牽引部材の前記被取付部への取り付け作業のために配置される取付作業位置と前記ドラムブレーキ使用時に配置される使用位置との間で移動可能に設けられ、前記牽引部材に牽引されてブレーキシューを押圧するレバーと、
前記レバーを収容し、前記取付作業位置にある前記レバーの前記被取付部を露出させ、前記使用位置にある前記レバーの前記被取付部の少なくとも一部を囲う収容部材と、
前記取付作業位置と前記使用位置との間の位置で前記レバーに干渉する弾性部材と、を備え、
前記収容部材は、前記使用位置から前記取付作業位置へ向かう方向に移動する前記レバーが前記弾性部材に干渉した場合に、当該弾性部材の弾性変形を規制する弾性変形規制部を有する、
ことを特徴とするドラムブレーキの作動装置。
【請求項2】
請求項1に記載のドラムブレーキの作動装置において、
前記レバーは、前記牽引部材による牽引時に支点となる支点部と、前記弾性部材に干渉する干渉部とを有し、
前記干渉部は、前記被取付部より前記支点部側に設けられる、
ことを特徴とするドラムブレーキの作動装置。
【請求項3】
請求項2に記載のドラムブレーキの作動装置において、
前記弾性部材は板バネであり、前記レバーの前記被取付部側から前記支点部側に延伸するよう設けられ、その端部が前記レバーの前記干渉部に干渉する、
ことを特徴とするドラムブレーキの作動装置。
【請求項4】
請求項3に記載のドラムブレーキの作動装置において、
前記弾性部材は、前記弾性変形規制部に接するように設けられる板部と、当該板部から前記レバー側に屈曲して延伸し、その端部が前記レバーの前記干渉部に当接する延伸部とを有し、
前記延伸部の基部は前記弾性変形規制部に接する位置に設けられる、
ことを特徴とするドラムブレーキの作動装置。
【請求項5】
請求項1に記載のドラムブレーキの作動装置において、
前記弾性部材は、前記弾性変形規制部に取り付けられる、
ことを特徴とするドラムブレーキの作動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−157381(P2008−157381A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−348082(P2006−348082)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000004374)日清紡績株式会社 (370)
【Fターム(参考)】