説明

ドラムブレーキ用ブレーキシュー

【課題】ドラムブレーキに採用されるブレーキシューの製造工程を減少させて製造コストを低減することを課題としている。
【解決手段】円弧状に湾曲したリム部2とこのリム部2の一方の側縁2aからL字状に屈曲して半径方向内側に延出するウェブ3を一体にプレス成形して設け、ウェブ3に、入力部5、シュー保持部8、アジャスタ嵌合部9及びスプリング係合部6,7を設け、さらに、バッキングプレートのレッジ面22に当接させるレッジ当接部10〜12を前記ウェブ3によって形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、製造工程を減少させて製造コストを低減したドラムブレーキ用ブレーキシューに関する。
【背景技術】
【0002】
乗用車や小型トラックに搭載されるドラムブレーキのブレーキシューは、鋼板をプレス成形した部材を組み合わせたものが一般的である。
【0003】
例えば、T字型ブレーキシューとして知られるブレーキシューは、図8に示すように、円弧状リム31の内面の幅方向途中にウェブ32を溶接して取り付けて断面T字型のシューを形成し、このシューのリム31の外周にライニング33を貼り付けて完成品となしている。なお、ウェブ32には、ブレーキの入力部、シュー保持部、アジャスタ嵌合部、スプリング係合部など(いずれも図示せず)が形成される。
【0004】
図9に示すように、プレス成形されたリム41の両側に、プレス成形されたウェブ42をプロジェクション溶接で一体的に取り付けて構成されるコの字型断面のシューを採用したブレーキシュー(図の43はライニング)も知られている。
【0005】
しかしながら、このT字型ブレーキシューやコの字型断面のブレーキシューは、リムとウェブを単体で形成する工程と、その両者を溶接する工程を必要とし、製造工数が多くなってコスト高となる欠点がある。図9のブレーキシューは、プロジェクション溶接箇所が8〜10点程度であるので、図8のブレーキシューに比べると溶接に要する手間や時間が少なくて済むが、2個の部材(リムとウェブ)を別々に加工する工程と溶接工程が不可欠であるので、この構造でもコストが高くなってしまう。
【0006】
そこで、コスト低減のための策として、プレス工程のみでブレーキシューを製造する方法が採用されている。そのプレス工程のみで製造するブレーキシューが、例えば、下記特許文献1に開示されている。
【0007】
そのブレーキシューは、一枚のブランクを円弧状に湾曲させ、さらに、このブランクの両側部を断面がコ字状となるように円弧の内側に向けてほぼ直角に折り曲げてリム部とリム部の左右に連なるフランジ部(ウェブ)を生じさせる。その後、リム部となる部分の両端部を半径方向内方に二つ折りにし、この二つ折りにした部分とフランジ部の端を重ね合わせて押し潰し、強化された端部(M型補強部)を生じさせる。そして、その強化された端部に駐車ブレーキの入力部となる切り欠き溝(ストラットを係止させるための溝)を形成している。
【0008】
特許文献1が開示しているそのブレーキシューは、溶接工程が省かれ、溶接ブレーキシューに比べて生産性が高まる。しかし、プレスによる両端の潰しに2工程を必要とするため、製造工数削減、生産性向上の効果が十分でなく、その分コスト低減の効果が小さくなる。
【0009】
また、一端側と他端側のスプリング係合部(取付け孔)を片側のフランジ(ウェブ)に設けて一端側のスプリング係合部にアンカー側のスプリングを、他端側のスプリング係合部にアジャスタ側のスプリングをそれぞれ係止させるようにしているが、この構造では、基準位置からシューに対するスプリング係止点までのオフセット量が大きくなるため、シューを本来の回転方向(シューホールドダウンのピンを軸にして回転する方向)とは異なる方向に回転させるモーメントがシューに作用し、バッキングプレートのレッジ面やそのレッジ面に押し当てるシュー側のレッジ当接部の耐久性にも悪影響が出る。
【特許文献1】特開2002−227889号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この発明は、ブレーキシューの製造工程を減少させて製造コストを低減することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、この発明においては、ブレーキシューのリム部とウェブを一体にプレス成形する。具体的には円弧状に湾曲したリム部の一方の側縁部にその側縁からL字状に屈曲して半径方向内側に延出するウェブをプレス成形して設ける。そして、このウェブに、入力部(ストラットを係合させる駐車ブレーキ用の入力部)、シュー保持部及びスプリング係合部を設け、さらに、レッジ当接部をそのウェブによって形成する。
【0012】
必要があれば、ウェブには、さらに、アジャスタ嵌合部を設けることができる。この発明は、アンカーを有するドラムブレーキのブレーキシューにも適用することができ、そのブレーキシューには、アジャスタ嵌合部に代えてアンカーとの係合部やアンカーに対する当接部を設ける。
【0013】
なお、ウェブは、リム部の一端側と中央部と他端側にそれぞれ独立させて設けたもの、一連のウェブとして設けたもののどちらであってもよい。
【0014】
この発明のブレーキシューの一例として、リム部の一端側のウェブに入力部とスプリング係合部とレッジ当接部を、リム部中央部のウェブにシュー保持部とレッジ当接部を、リム部他端側のウェブにスプリング係合部とレッジ当接部とアジャスタ嵌合部をそれぞれ形成したものが考えられる。
【0015】
そのブレーキシューは、リム部の一端側と他端側に設けるウェブに、リム幅方向の段差を生じさせてリム部の他側縁側に偏ったオフセット部と偏りのない非オフセット部をそれぞれ形成し、このウェブのオフセット部に前記スプリング係合部を設けると好ましい。
【発明の効果】
【0016】
この発明のブレーキシューは、リム部とウェブを1回のプレス成形で形成するので、製造工程が最小限に減少して製造コストを削減することが可能になる。
【0017】
また、リム部の一端側と他端側に設けるウェブに、リム部の他方の側縁側に偏ったオフセット部を形成し、そのオフセット部にスプリング係合部を形成すると、シューに対して本来の回転方向とは異なる方向の回転モーメントが作用することを抑制することができ、レッジ面、レッジ当接部の耐久性向上も図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、この発明のドラムブレーキ用ブレーキシューの実施の形態を添付図面の図1〜図6に基づいて説明する。
【0019】
この発明のブレーキシュー1は、図に示すように、一つの板状ブランクから、円弧状に湾曲させたリム部2とウェブ3をプレス加工により一体成形して作られる。ウェブ3は、ここでは、リム部2の一端側と中央部と他端側にそれぞれ独立させて設けている。なお、説明の便宜上、ここでは、一端側のウェブを3−1、中央部のウェブを3−2、他端側のウェブを3−3とする。ウェブ3−1〜3−3は、いずれもリム部2の一方の側縁2aに形成され、L字に屈曲して半径方向内側(リム部2の円弧の内側)に向けて延出している。
【0020】
リム部2の一端側のウェブ3−1には、駐車ブレーキ用の入力部5、アンカー側のスプリング係合部6及びレッジ当接部10がそれぞれ設けられる。また、リム部2の中央部のウェブ3−2には、シュー保持部8とレッジ当接部11が設けられ、さらに、リム部2の他端側のウェブ3−3には、アジャスタ嵌合部9、アジャスタ側スプリング係合部7及びレッジ当接部12がそれぞれ設けられる。
【0021】
例示のブレーキシュー1は、リム部2の一端側と他端側のウェブ3−1,3−3にリム幅方向の段差を生じさせてリム部の他方の側縁2b側に偏ったオフセット部13と偏りのない非オフセット部14をそれぞれ形成し、このウェブのオフセット部13にスプリング係合部6,7を設けており、シューに対するスプリング係止点の基準位置(スプリング設置部の中心)C(図5参照)からの車軸方向オフセット量がほぼゼロまたは非常に小さくなる。このために、シューに対して本来の回転方向とは異なる方向の回転モーメントが作用することがない。その回転モーメントは仮に発生したとしても無視できる程度に小さく、従って、バッキングプレートに設けられるレッジ面やシューに設けられるレッジ当接部に無理な力が加わることがない。
【0022】
入力部5とアジャスタ嵌合部9は、ウェブ3−1,3−3のオフセット部13に設けられる。なお、ドラムブレーキの種類によっては、アジャスタ嵌合部9に代えてアンカーとの係合部やアンカーに対する当接部を設けたブレーキシューが採用される。
【0023】
図中15は、アンカー反力受け部である。このように構成したシューのリム部2の外周面にライニング4を貼り付けると、例示のブレーキシュー1が完成する。このブレーキシュー1は、ウェブ3がリム部2の片側のみに設けられているので、ウェブ3を3箇所に独立したウェブとして設けるものは特に、使用する材料鋼板の厚みが従来のコの字型断面のブレーキシューに採用するものよりも厚くなることが考えられるが、それによる材料費の増加分は、製造工程の削減によって十分に吸収することができる。
【0024】
ウェブ3は、図6に示すように一連のウェブとして設けることができる。この一連のウェブ3の一端側に入力部5とスプリング係合部6とレッジ当接部10を、中央部にシュー保持部8とレッジ当接部11を、他端側にアジャスタ嵌合部9とスプリング係合部7とレッジ当接部12をそれぞれ形成したブレーキシュー1は、ウェブ3を独立して設けたブレーキシューと同等の剛性、強度を、ウェブ3を独立して設けたブレーキシューよりも板厚の薄い材料を使用して確保することができ、材料コストの面で有利である。なお、図6の一連のウェブ3も、図のように、一端側と他端側にリム部の他方の側縁2b側に偏ったオフセット部13を形成してそのオフセット部13にスプリング係合部6,7を設けるのが好ましい。
【0025】
図1のブレーキシューを使用したドラムブレーキの一例を図7に示す。このドラムブレーキはデュオサーボ型の駐車ブレーキであり、各々がリーディングシューとして機能する対向一対のブレーキシュー1,1を備えている。また、ブレーキ作動機構16と、アジャスタ17と、アンカー側スプリング18と、アジャスタ側スプリング19を備えている。対のブレーキシュー1,1は、シューホールドダウン20を用いてバッキングプレート21に回転(揺動)可能に取り付けられる。シューホールドダウン20は、カップとピンと圧縮スプリング(いずれも図示せず)を組み合わせた周知のシュー保持手段である。図7の23はアンカー、24はドラムである。
【0026】
ブレーキシュー1,1は、一方がプライマリシュー、他方がセコンダリシューとなる。このブレーキシュー1,1の図2に示した入力部5にストラット16bを係合させ、アジャスタ嵌合部9にアジャスタ17を嵌合させる。また、スプリング係合部6にアンカー側スプリング18を、もう一方のスプリング係合部7にアジャスタ側スプリング19をそれぞれ係合させ、シュー保持部8の孔にシューホールドダウン20のピンを挿入する。シューホールドダウン20の圧縮スプリングの力で、図2に示したレッジ当接部10〜12がバッキングプレート21に設けられたレッジ面22に押し付けられてブレーキシュー1,1が保持される。
【0027】
ブレーキ作動機構16は、パーキングレバー16a、ストラット16b、パーキングブレーキケーブル(図示せず)などを組み合わせた駐車ブレーキ用入力機構であり、ここからの入力でブレーキシュー1,1が作動してブレーキシュー1,1のライニング4がドラム24の内面に押し付けられる。
【0028】
このデュオサーボ型の駐車ブレーキは、よく知られたものであるので、動作などについての詳細説明は省く。
【0029】
なお、この発明は、デュオサーボ型以外のドラムブレーキ、例えば、駐車ブレーキを兼ねた乗用車の後輪用ブレーキとして多用されているリーディングトレーリング(所謂LT
)型のドラムブレーキや、ツーリーディング型のドラムブレーキなどに採用されるブレーキシューにも適用される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明のブレーキシューの一例を示す斜視図
【図2】図1のブレーキシューの正面図
【図3】図2のX−X線に沿った断面図
【図4】図2のY−Y線に沿った断面図
【図5】図1のブレーキシューの端部を図2のZ方向に見て示す図
【図6】この発明のブレーキシューの他の例を示す斜視図
【図7】図1のブレーキシューを使用したドラムブレーキの一例を示す正面図
【図8】従来のブレーキシューの一例を示す断面図
【図9】従来のブレーキシューの他の例の組み立て手順を示す図
【符号の説明】
【0031】
1 ブレーキシュー
2 リム部
3,3−1〜3−3 ウェブ
4 ライニング
5 入力部
6,7 スプリング係合部
8 シュー保持部
9 アジャスタ嵌合部
10〜12 レッジ当接部
13 オフセット部
14 非オフセット部
15 アンカー反力受け部
16 ブレーキ操作機構
16a パーキングレバー
16b ストラット
17 アジャスタ
18 アンカー側スプリング
19 アジャスタ側スプリング
20 シューホールドダウン
21 バッキングプレート
22 レッジ面
23 アンカー
24 ドラム
31,41 リム
32,42 ウェブ
33,43 ライニング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円弧状に湾曲したリム部(2)と、このリム部(2)の外周に貼り付けるライニング(
4)と、前記リム部(2)の一方の側縁(2a)からL字状に屈曲して半径方向内側に延出するリム部と一体のウェブ(3)とを有し、前記ウェブ(3)に、入力部(5)、シュー保持部(8)及びスプリング係合部(6,7)を設け、さらに、バッキングプレートのレッジ面(22)に当接させるレッジ当接部(10〜12)を前記ウェブ(3)によって形成したドラムブレーキ用ブレーキシュー。
【請求項2】
前記ウェブ(3)に、さらに、アジャスタ嵌合部(9)を設けたことを特徴とする請求項1に記載のドラムブレーキ用ブレーキシュー。
【請求項3】
前記ウェブ(3)を、前記リム部(2)の一端側と中央部と他端側にそれぞれ独立させて設け、リム部一端側のウェブ(3−1)に入力部(5)とスプリング係合部(6)とレッジ当接部(10)を、リム部中央部のウェブ(3−2)にシュー保持部(8)とレッジ当接部(11)を、リム部他端側のウェブ(3−3)にアジャスタ嵌合部(9)とスプリング係合部(7)とレッジ当接部(12)をそれぞれ形成したことを特徴とする請求項2に記載のドラムブレーキ用ブレーキシュー。
【請求項4】
前記ウェブ(3)を、一連のウェブとして設けたことを特徴とする請求項2に記載のドラムブレーキ用ブレーキシュー。
【請求項5】
前記リム部(2)の一端側と他端側において、ウェブ(3)に、リム部の他方の側縁(2b)側に偏ったオフセット部(13)を形成し、そのオフセット部(13)に前記スプリング係合部(6,7)を設けたことを特徴とする請求項3又は4に記載のドラムブレーキ用ブレーキシュー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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