説明

ドリフトチューブ型加速器

【課題】
ステムと円筒型空洞の電気的接触を取りながらドリフトチューブ間の平行度と位置調整を高精度にできるドリフトチューブ型加速器を提供することを課題とする。
【解決手段】
貫通穴を有する円筒型空洞と、円筒型空洞に入射された荷電粒子の通過位置に取り付けられるチューブ状のドリフトチューブと、ドリフトチューブを固定するステムとを有し、円筒型空洞の内部に複数のドリフトチューブを配置し、ドリフトチューブ間に高周波電場を発生させ、ドリフトチューブ中心を通過する荷電粒子を加速する型のドリフトチューブ型加速器において、円筒型空洞の貫通穴の壁とステムとの間に設置され、可動可能な構成を有する固定部材と、固定部材とステムとの間に設置される接続子とを備え、固定部材を可動することで、接触子を介して円筒型空洞とステムとの間の電気的接続を取ることによって、上記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高周波電場を用いて荷電粒子を加速する加速器に関し、特にドリフトチューブを用いて加速する加速器に関する。
【背景技術】
【0002】
ライナック型加速器は、大型の物理実験から粒子線治療システムなどの医療用加速器としても使用されるようになり、応用の範囲が広がっている。
【0003】
ライナック型加速器の中でも、ドリフトチューブ型加速器は、一般に、中心に穴のあいたチューブ状のドリフトチューブを円筒型空洞の中心軸に沿って複数個配置し、これに円筒型空洞に設けられた高周波電力供給口より電力供給ループで高周波を加えることでドリフトチューブ間に高周波電場を発生させ、ドリフトチューブの中心を通過する荷電粒子を加速している。このとき、効率よく荷電粒子を加速するためには、ドリフトチューブの位置やドリフトチューブ間のギャップ,平行度等を精度よく組み立てる必要がある。また高周波電場をドリフトチューブ間に効率よく発生させるためにドリフトチューブを支えるステムと円筒型空洞との確実な電気的接触が必要である。
【0004】
ドリフトチューブの位置決め,位置調整が容易にでき、ステムと円筒型空洞の電気的接触を確保する方法として、円環状金属の板を用いてつめ付フランジで固定する方法について特許文献1に記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開平8−96996号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術は、円環状板の変形によってステムの位置を調整するもので、円環状板の変形によって真空シール部への不均一な力が作用し、真空漏洩が発生しやすいことについて考慮されていなかった。また、上記方法では、ドリフトチューブを調整する際、ビーム加速軸方向あるいは横方向に平行に移動しにくいため、ドリフトチューブ間のギャップに傾斜ができ、発生する高周波電場が不均一になり、荷電粒子の加速性能が低下してしまうことについて考慮されていなかった。
【0007】
本発明の目的は、ステムと円筒型空洞の電気的接触を取りながらドリフトチューブ間の平行度と位置調整を高精度にできるドリフトチューブ型加速器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明の特徴は、貫通穴を有する円筒型空洞と、円筒型空洞に入射された荷電粒子の通過位置に取り付けられるチューブ状のドリフトチューブと、ドリフトチューブを固定するステムとを有し、円筒型空洞の内部に複数のドリフトチューブを配置し、ドリフトチューブ間に高周波電場を発生させ、ドリフトチューブ中心を通過する荷電粒子を加速する型のドリフトチューブ型加速器において、円筒型空洞の貫通穴の壁とステムとの間に設置され、可動可能な構成を有する固定部材と、固定部材とステムとの間に設置される接続子とを備え、固定部材を可動することで、接触子を介して円筒型空洞とステムとの間の電気的接続を取るように構成したことにある。
【0009】
さらに、ステムの中心軸と垂直な面と可動する固定部材との間に接触子を設置することによってステムの移動と電気的接触をスムーズにできるようにしたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ステムと円筒型空洞の電気的接触を取りながら、ドリフトチューブ間の平行度と位置調整を高精度にできる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施例を図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0012】
本実施例のドリフトチューブ型加速器100の構成を図4に示す。ドリフトチューブ型加速器100は、棒状のステム1,高周波電力供給口22を有する円筒型空洞2,中心に穴の開いたチューブ状のドリフトチューブ21,電力供給ループ23を備える。ドリフトチューブ21は、円筒型空洞2の中心軸に沿って複数個設けられる。円筒型空洞2には、ステム及びドリフトチューブ21を取り付けるための複数の貫通穴が設けられている。ステム1は、ドリフトチューブ21に取り付けられ、円筒型空洞2の貫通穴壁に固定される。ステム1を円筒型空洞2の貫通穴壁に固定することで、ドリフトチューブ21が固定される。高周波電場を供給する電力供給ループ23が、高周波電力供給口22内に設けられる。
【0013】
荷電粒子が、ビーム軸24に沿って円筒型空洞2に入射するとドリフトチューブ21内を通過する。電力供給ループ23が高周波を印加することによってドリフトチューブ21間に高周波電場が生成され、ドリフトチューブ21の中心(ビーム軸)を通過する荷電粒子を加速する。
【0014】
図1を用いて、ステム1の取り付け構成を説明する。図1は、本実施例のドリフトチューブ型加速器100におけるステム1の取付け部の断面を示した図である。図1の紙面下方が円筒型空洞2の中心であり、ドリフトチューブ21が取り付けてある方向である。
【0015】
ステム1の取付け部には、第1のブロック(固定部材)3,押さえ板4,第2のブロック(固定部材)5,第1の接触子8,第2の接触子9,Oリング6,7が備えられる。ドリフトチューブ21の位置調整には、ドリフトチューブ21に取り付けられたステム1と、図1には図示していないが、紙面上方に別に設けられた調整機構を用いて調整する。また、押さえ板4や第1のブロック3を用いてドリフトチューブ21の位置を調整することも可能である。
【0016】
ドリフトチューブ21は、ステム1に固定され、円筒型空洞2の壁に設けられた貫通穴を通して円筒型空洞2の内部より外側へ取り付ける。ステム1にはリング状の第1の接触子8が、上部より取り付けられる。第1の接続子8を取り付けたステム1の面が、第2のブロック5と面するように第2のブロックを配置する。つまり、第1の接触子8は、ステム1と第2のブロック5との間に設置され、この間の電気的接触を取る機能を有する。第2の接触子は、円筒型空洞2の貫通穴の側面の周上にリング状に取り付けられる。第2の接触子9は、第2のブロック5と円筒型空洞2の貫通穴の壁面が面する部分に取り付けられ、第2のブロック5と円筒型空洞2との電気的接触をとる機能を有する。第2のブロックと円筒型空洞2の貫通穴の壁面とが面する部分にOリング7を取り付ける。Oリング7によって真空シールを行う。第2のブロック5は、紙面上下に移動可能な構造となっている。図示していないが、別途設けられた調整機構によりステム1の調整を行った後、押さえ板4に設けられたボルト受け部に押さえ板固定ボルト11を挿入して設置し、押さえ板4を円筒型空洞2に押さえ板固定ボルト11で固定する。さらに、押さえ板4に設けられた他のボルト受け部に接触子固定ボルト10を挿入すると、接触子固定ボルト10が第2のブロック5に接触する。接触子固定ボルト10が第2のブロック5を押し、第1の接触子8を介してステム1との電気的接触を取る。第1の接触子8はステム1の中心軸に垂直な面F面と第2のブロック5の間に設置されるため、ドリフトチューブ21の位置調整等の際にステム1の紙面横方向や垂直方向などの位置が移動したとしても、これらの電気的接触を確保することができる。また、第2のブロック5が上下移動可能な構成であるため、ドリフトチューブ21の位置調整等の際にステム1が紙面上下方向にずれた場合であっても、電気的接触を確保することができる。尚、本実施例は、荷電粒子ビームの進行方向にもドリフトチューブ21の位置調整をすることが可能である。この場合も、電気的接触を確保できる。その後は、第1のブロック3をステム1と押さえ板4の間に取り付けて固定する。第1のブロック3には外側面にねじが切られており、押さえ板4にも同様のねじを切ることで、第1のブロック3をねじ込み、第1のブロック3の内側に設けたOリング6で、ステム1と第2のブロック5との真空シールを行っている。
【0017】
接触子固定ボルト10のかわりに第1のブロック3をねじ込むことで第1のブロック3を固定するようにしても良い。また、第1のブロック3にねじを切る代わりにボルト等により別途固定しても同様の効果を得ることができる。押さえ板4および第1のブロック3は一体あるいは別々に移動でき、位置合わせを終えたステム1の中心に合わせてから固定される。
【0018】
本実施例では、第1の接触子8の断面が円形パイプ状のものを使用した場合の例を示した。第1の接触子8の断面形状はチューブ状(中空)でなくとも良く、圧力を加えたときに、弾力性があり、電気的接触が確実に取れるものであれば円形断面やチューブ状に限定するものではない。またチューブ内部や表面にばね材を挿入して弾力性を付加したものでも良い。第1の接触子8の材質は電気抵抗が小さいほど良く、たとえば銅,銀,金などを使用することができる。その他に弾力性のある材質の表面に銅,金,銀メッキを施しても同様の効果がある。また弾力性が大きくない金属でも上記のようにメッキを施し、さらに内部に弾力性のある材質、たとえばばね材等を挿入して弾力性を強化しても良い。
【0019】
また、本実施例では、第2の接触子9は、薄板をアーチ状にした断面のものを使用しているが、第1の接触子8と同様の形状,材質のものでも良い。
【0020】
以上のように構成することによって、位置調整されたステム1を動かすことなくステム1と円筒型空洞2との電気的接触を第1のブロック3を介して取ることができるため、ドリフトチューブ21間の平行度と位置調整を高精度にできる効果がある。
【実施例2】
【0021】
以下に、本発明の他の実施例のドリフトチューブ型加速器を、図2を用いて説明する。図2は、ステム1と第2のブロック(固定部材)5との間の構成を詳細に示す図である。本実施例のドリフトチューブ型加速器は、実施例1の第1の接触子8の代わりにC形断面接触子12を用いた場合の実施例を示したものである。図示していない部分は、実施例1のドリフトチューブ型加速器100の構成と同じであり省略する。ステム1と第2のブロック5間にC型断面接触子12を切り欠き面がステム1の方向になるように設置した。高周波電流は金属表面を流れるため、ステム1の表面にはできるだけ伝播の障害となるような突起は避けるようにするため切り欠き部はステム1の方向とした。C型断面接触子12の形状をC型断面にすることにより、弾性力を強化できる効果が期待できる。さらに、C型断面内部に高弾性力の材質を挿入することでより電気的接触が確実に確保することができる。C型断面接触子12の材質については実施例1と同様であり省略する。
【0022】
本実施例によれば、実施例1と同様の効果を得ることができる。
【実施例3】
【0023】
以下に、本発明の他の実施例のドリフトチューブ型加速器を、図3を用いて説明する。図3(a)は、ステム1と第2のブロック(固定部材)5との間の構成を詳細に示す構成図である。本実施例のドリフトチューブ型加速器は、実施例1の第2の接触子9の代わりに、くし形円盤状接触子13を用いた場合の実施例を示したものである。図示していない部分は、実施例1のドリフトチューブ型加速器100の構成と同じであり省略した。図3(b)は、くし型円盤状接触子13を上から見た図を示した図である。円盤状の板に外周から中心に向かって複数個の切り込みをいれ、この部分を凸に曲げ、接触部とし、曲げによる弾性力を得るように構成した。くし型円盤状接触子13の材質,表面加工については実施例1と同様であり省略する。
【0024】
本実施例によれば、実施例1と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の好適な一実施例であるドリフトチューブ型加速器のステム設置部分を表す断面図である。
【図2】ステムと円筒型空洞の電気的接触を取る手段としてC型断面接触子を用いた場合の断面図である。
【図3】ステムと円筒型空洞の電気的接触を取る手段としてくし型円盤状接触子を用いた場合の断面図である。
【図4】本発明のドリフトチューブ型加速器の全体概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1 ステム
2 円筒型空洞
3 第1のブロック
4 押さえ板
5 第2のブロック
6,7 Oリング
8 第1の接触子
9 第2の接触子
10 接触子固定ボルト
11 押さえ板固定ボルト
12 C型断面接触子
13 くし型円盤状接触子
21 ドリフトチューブ
22 高周波電力供給口
23 電力供給ループ
24 ビーム軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通穴を有する円筒型空洞と、前記円筒型空洞に入射された荷電粒子の通過位置に取り付けられるチューブ状のドリフトチューブと、前記ドリフトチューブを固定するステムとを有し、
前記円筒型空洞の内部に複数の前記ドリフトチューブを配置し、該ドリフトチューブ間に高周波電場を発生させ、該ドリフトチューブ中心を通過する荷電粒子を加速する型のドリフトチューブ型加速器において、
前記円筒型空洞の貫通穴の壁と前記ステムとの間に設置され、移動可能な構成を有する固定部材と、
前記固定部材と前記ステムとの間に設置される接続子とを備え、
前記固定部材を可動とすることで、前記接触子を介して前記円筒型空洞と前記ステムとの間の電気的接続を取るように構成したことを特徴とするドリフトチューブ型加速器。
【請求項2】
請求項1に記載のドリフトチューブ型加速器において、
前記ステムの中心軸に垂直な面と前記固定部材との間に前記接続子を設置したことを特徴とするドリフトチューブ型加速器。
【請求項3】
請求項1に記載のドリフトチューブ型加速器において、
前記接触子が、チューブ状断面のリング形状であることを特徴とするドリフトチューブ型加速器。
【請求項4】
請求項1に記載のドリフトチューブ型加速器において、
前記接触子が、C型断面のリング形状であることを特徴とするドリフトチューブ型加速器。
【請求項5】
請求項1に記載のドリフトチューブ型加速器において、
前記接触子が、くし型円盤状の形状であることを特徴とするドリフトチューブ型加速器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−205939(P2009−205939A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−47034(P2008−47034)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】