説明

ドリル

【課題】自動車の車体のスポット溶接部剥離用ドリルとして好適に用いることができ、スポット溶接剥離用の穴あけ回数を従来の4倍程度まで増加させることが可能なドリルを提供すること。
【解決手段】回転軸対称に形成された2枚の切刃を有し、前記切刃を形成する螺旋溝に沿って二次螺旋溝が凹設されており、前記二次螺旋溝は、ドリル先端側から見た輪郭線が、ドリル先端の突出部からヒール部にかけて円弧状又は略円弧状に形成されていることを特徴とするドリルとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車車体のスポット溶接部を剥離するために好適に使用されるドリルに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体を構成する部品は、ネジ、リベットなどの接合方法を除いて、殆どの部品がスポット溶接によって接合されている。
そのため、自動車車体の修理に於いては、車体のパネル交換の際に、スポット溶接部を剥離する作業が必要となり、このスポット溶接部を剥離するための専用のドリルが数多く市販されている。
【0003】
しかし、近年、衝突安全ボディの採用等によって、高張力鋼板と呼ばれる硬い鋼板が車体の一部に用いられるようになり、車体の部位によっては従来のドリルでは対応できない場合がある。
このような事情に鑑みて、本願出願人は下記特許文献1に開示されたドリルを考案している。
下記特許文献1に開示されたドリルは、ドリルの中心部にシンニングを施して、ドリル中心部の幅を細くして、切削抵抗を極力少なくしたものであり、HRC45程度の極めて硬い鋼板にも対応することができる。
【0004】
しかし、HRC45程度の極めて硬い鋼板に対応するためには、材質を高価で加工の難しい粉末ハイス鋼とする必要があり、コストがかかってしまうということ、シンニングによってドリルの中心部を細くしたため、ドリル中心部に明確なすくい部が形成できなかったこと、シンニングによって創生した刃先が直線であったため、結果的に磨耗しやすく欠けやすいということ、等の問題があった。
【0005】
また、下記特許文献2及び特許文献3にもスポット溶接部を剥離するために用いられるドリルが開示されている。
下記特許文献2及び特許文献3に開示されたドリルは、何れもシャンク部材の先端に超硬チップを接合した構造を有しており、超硬チップの硬度によって硬い鋼板に対応するようにしたものである。
しかし、超硬チップは極めて靭性が低いことから、手動ドリルを用いて行うスポット溶接剥離作業では、手のぶれや刃先の滑りなどによって、刃先に軽い衝撃が与えられた場合、簡単に欠けてしまうという欠点がある。
【0006】
また、下記特許文献4には、スポット溶接を剥離する目的ではないが、中心部に副溝(二次螺旋溝)を設けたドリルが開示されている。
しかしながら、下記特許文献4に開示されたドリルは、金属加工などの用途を想定したものであって、固定したワークに対して剛性の高いスピンドルにドリルを取り付けて加工を行うことを目的としている。そのため、スポット溶接部を剥離する目的のみならず、ハンドドリルでの穴あけ作業を行うには極めて不適切な形状であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−88267号公報
【特許文献2】特開2009−269119号公報
【特許文献3】特開平8−118316号公報
【特許文献4】特開昭63−84807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決すべくなされたものであって、高価な材料を用いることなく高張力鋼板等の硬い鋼板を切削することが可能であり、普通鋼板に適用した場合には穴あけやスポット溶接剥離時の使用可能回数を飛躍的に増加させることができ、ドリル中心部の切削力を向上させ磨耗を減少させてハンドドリル使用時におけるドリル中心部の切削力の急激な低下を防ぐことが可能なドリルを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、回転軸対称に形成された2枚の切刃を有し、前記切刃を形成する螺旋溝に沿って二次螺旋溝が凹設されており、前記二次螺旋溝は、ドリル先端側から見た輪郭線が、ドリル先端の突出部からヒール部にかけて円弧状又は略円弧状に形成されていることを特徴とするドリルに関する。
【0010】
請求項2に係る発明は、前記輪郭線が、半径が異なる2つ以上の円弧の組み合わせによって形成されていることを特徴とする請求項1記載のドリルに関する。
【0011】
請求項3に係る発明は、チゼル幅が0.3〜0.6mmであり、前記二次螺旋溝のドリル先端側から見た半径が1〜6mmであることを特徴とする請求項1記載のドリルに関する。
【0012】
請求項4に係る発明は、チゼル幅が0.3〜0.6mmであり、前記二次螺旋溝のドリル先端側から見た半径が、ドリルの中心部からヒール部にかけての部分において1〜3mmであり、ドリルの中心部から切刃にかけての部分において1〜6mmであることを特徴とする請求項2記載のドリルに関する。
【0013】
請求項5に係る発明は、前記二次螺旋溝の長さが、ドリル径の3倍以内に設定されてなることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載のドリルに関する。
【0014】
請求項6に係る発明は、前記切刃は、刃先先端角が160〜190°に設定されてなることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載のドリルに関する。
【0015】
請求項7に係る発明は、ドリル先端側から見た場合において、ドリル中心部から前記二次螺旋溝と前記切刃の境界部までの切刃に平行な直線距離が、ドリル半径の20〜70%に設定されてなることを特徴とする請求項1乃至6いずれかの記載のドリルに関する。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明によれば、ドリル先端側から見た輪郭線がドリル先端の突出部からヒール部にかけて円弧状又は略円弧状に形成されている二次螺旋溝が、シンニングと同等以上の求心性を有するとともに、二次螺旋溝によって新たに二次切刃が形成され、切刃を形成する螺旋溝同様に明確なすくい角が中心部に得られるため、従来形状では得られなかった強力な切削力が得られることとなる。これにより、高価な材料を用いることなく高張力鋼板等の硬い鋼板を切削することが可能となる。
更に、二次螺旋溝を円弧状又は略円弧状としたことで、シンニングに比べて切削抵抗が格段に低下するとともに、二次螺旋溝が切削時の熱を排出するため、二次螺旋溝で形成される切刃部分の磨耗、即ち中心部の磨耗が大幅に減少し、長時間の連続使用が可能となる。そのため、普通鋼板に適用した場合には、穴あけやスポット溶接剥離時の使用可能回数を飛躍的に増加させることができる。
【0017】
請求項2に係る発明によれば、二次螺旋溝のドリル先端側から見た輪郭線が、半径が異なる2つ以上の円弧の組み合わせによって形成されることによって、切削抵抗をより少なくする事が可能となる。
【0018】
請求項3に係る発明によれば、チゼル幅が0.3〜0.6mmと狭く、且つドリル中心部にシンニングが施されていないため、切削時のスラスト抵抗が小さく、作業者が加える力が少なくて済み、しかも切削抵抗による欠け、磨耗が生じにくく、スポット溶接部の剥離作業を楽に行うことができる。
【0019】
請求項4に係る発明によれば、チゼル幅が0.3〜0.6mmと狭く、且つドリル中心部にシンニングが施されていないこと、及び、二次螺旋溝のドリル先端側から見た半径が、中心部からヒール部にかけての部分と中心部から切刃にかけての部分とで異なることによって、切削時のスラスト抵抗が小さく、作業者が加える力が少なくて済み、しかも切削抵抗による欠け、磨耗が生じにくく、スポット溶接部の剥離作業を楽に行うことができる。
【0020】
請求項5に係る発明によれば、二次螺旋溝の長さがドリル径の3倍以内に設定されているため、切削時に大きな力が加わった場合に、ドリルの長手方向と平行に折れることが防止される。
【0021】
請求項6に係る発明によれば、刃先先端角が160〜190°に設定されているため、スポット溶接部の形状に応じて適正な先端角を設定することができる。
例えば、スポット溶接部が窪んでいる場合には160°寄りに設定し、スポット溶接部が平坦な場合には水平180°から190°寄りに設定することにより、状況に応じたスポット溶接部の剥離作業ができる。
【0022】
請求項7に係る発明によれば、ドリル先端側から見た場合において、ドリル中心部から二次螺旋溝と切刃の境界部までの切刃に平行な直線距離が、ドリル半径の20〜70%に設定されているため、必要な切削力を確保でき、作業者はスポット溶接部の剥離作業を楽に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るドリルを示す図であって、(a)は上面図(ドリルを先端側から見た図)、(b)は正面図である。
【図2】本発明に係るドリルの第一実施形態を示す上面拡大図である。
【図3】本発明に係るドリルの第二実施形態を示す上面拡大図である。
【図4】本発明に係るドリルの第三実施形態を示す上面拡大図である。
【図5】本発明に係るドリルの二次螺旋溝を示す斜視図である。
【図6】実施例のドリルの切削時に要する力の測定結果を示すグラフである。
【図7】比較例1のドリルの切削時に要する力の測定結果を示すグラフである。
【図8】比較例3のドリルの切削時に要する力の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係るドリルの好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
本発明に係るドリルは、特にハンドドリルを用いた自動車車体のスポット溶接部の剥離作業に好適に用いられるものである。
図1は本発明に係るドリルの全ての実施形態に共通する図であって、(a)は上面図(ドリルを先端側から見た図)、(b)は正面図である。
本発明に係るドリルは、図示の如く、回転対称に形成された2枚の切刃(1)を有し、切刃(1)を形成する螺旋溝(3)に沿って二次螺旋溝(4)がドリル先端から下方に向けて延びるように凹設されている。
二次螺旋溝(4)は、ドリル先端側から見た輪郭線が、ドリル先端の突出部(2)からヒール部(6)にかけて円弧状又は略円弧状に形成されている。
突出部(2)には、二次螺旋溝(4)によって二次切刃(5)が形成されている。
【0025】
本発明に係るドリルでは、先端中心部に形成された突出部(2)から切刃(1)を形成する螺旋溝(3)に沿って、二次螺旋溝(4)が施された上、チゼル部の幅(T)が0.3〜0.6mmと狭く設定されている。
本発明においてチゼル幅をこの範囲に設定する理由は、作業者の腕力に依存するハンドドリルでの使用においては、チゼル幅を0.6mm超とすると、切削に要する力が大きくなるとともに、中心が安定しないため、ドリルが回転し始める際に中心が滑ってしまい、的確な場所に穴があかないという不都合が生じ、一方0.3mm未満とするとチゼル部の強度がなくなり、場合によってはチゼル部が欠けてしまうおそれがあり、いずれの場合も好ましくないためである。
【0026】
2枚の切刃(1)により形成される刃先先端角(α)は160〜190°に設定することが好ましい。これは、刃先先端角(α)が160°未満であると2枚以上を重ねてスポット溶接されたパネルの剥離作業を行った時、剥離しない側のパネルにまで穴があいてしまうこととなり、190°超であると切刃(1)の外周部が鋭角になりすぎるため、切刃(1)の外周部が欠けやすくなることとなり、いずれの場合も好ましくないためである。
刃先先端角(α)を160〜190°に設定することにより、スポット溶接部の形状に応じて適正な先端角を設定することができる。
例えば、スポット溶接部が窪んでいる場合には160°寄りに設定し、スポット溶接部が平坦な場合には水平180°から190°寄りに設定する。これにより、いずれの場合においてもスポット溶接部の剥離作業を良好に行うことが可能となる。
【0027】
図2は本発明に係るドリルの第一実施形態を示す上面拡大図である。
第一実施形態のドリルは、二次螺旋溝(4)のドリル先端側から見た輪郭線が、突出部(2)からヒール部(6)にかけて半径(R)の円弧状に形成されている。ドリル先端の中心部にはチゼルが形成されている。
このように、二次螺旋溝(4)のドリル先端側から見た輪郭線を、突出部(2)からヒール部(6)にかけて円弧状としたことによって、突出部(2)に二次切刃(5)が形成される。
元々切刃(1)は螺旋溝(3)によってすくい角が形成されているが、突出部(2)からヒール部(6)にかけて螺旋溝(3)に沿った円弧状の二次螺旋溝(4)を設けたことによって、突出部(2)にも明確な二次切刃(5)が形成されることとなる。
【0028】
第一実施形態のドリルによれば、チゼルの幅(T)が0.3〜0.6mmと狭く設定されていること、及び突出部(2)に明確な二次切刃(5)が形成されることによって、強力な切削力が得られる。そのため、作業者はハンドドリルでの使用時において強い力をかけなくとも、ドリル自体の切削力に委ねながらスポット溶接部の剥離作業を楽に行うことができる。
【0029】
二次螺旋溝(4)のドリル先端側から見た半径(R)は1〜6mmに設定することが好ましい。これは、半径(R)が1mm未満であると二次切刃(5)の幅が狭くなり、二次切刃としての能力を発揮できないと同時に、半径が小さいため切刃(1)と接する部分が壁のように形成されるため、切削抵抗が大きくなってしまうこととなり、6mm超であると二次螺旋溝が大きくなるため、切刃(1)の長さが短くなってしまうこと、及び、ドリルの強度が低下することから、いずれの場合も好ましくないためである。
【0030】
図3は本発明に係るドリルの第二実施形態を示す上面拡大図である。
以下、第二実施形態が第一実施形態と異なる点についてのみ説明し、第一実施形態と同じ構成には同じ符号を付して説明を省略する。
【0031】
第二実施形態のドリルは、二次螺旋溝(4)のドリル先端側から見た輪郭線が、突出部(2)からヒール部(6)にかけて、半径が異なる2つの円弧の組み合わせによって形成されている。具体的には、二次螺旋溝(4)のドリル先端側から見た、中心部からヒール部(6)にかけての部分の半径(R1)と、中心部から切刃(1)にかけての部分の半径(R2)が異なっている。また、中心部にはチゼルが形成されている。
このように、二次螺旋溝(4)のドリル先端側から見た輪郭線を、突出部(2)からヒール部(6)にかけて半径が異なる2つの円弧の組み合わせによって形成し、半径(R2)の円弧が二次切刃(5)にかかることによって、突出部(2)の二次切刃(5)から切刃(1)に切削が進行する際に、切削抵抗が大きく変動することなく、作業者はスポット溶接部の剥離作業を楽に行うことができる。
【0032】
第二実施形態のドリルにおいては、半径(R1)を1〜3mmの範囲に設定し、半径(R2)を1〜6mmの範囲に設定することが好ましい。半径(R1)が1mm未満であると二次螺旋溝による切粉の排出効果を妨げることとなり、3mm超であると螺旋溝(3)によって形成されたヒール部を大きく削り取ることとなり、いずれの場合も好ましくない。半径(R2)が1mm未満であると二次切刃(5)の幅が狭くなり、二次切刃としての能力を発揮できないと同時に、半径が小さいため切刃(1)と接する部分が壁のように形成されるため、切削抵抗が大きくなってしまうこととなり、6mm超であると二次螺旋溝が大きくなるため、切刃(1)の長さが短くなってしまうこと、及び、ドリルの強度が低下することから、いずれの場合も好ましくない。
半径(R2)は半径(R1)より大きいことが好ましい。その理由は、半径(R1)を小さくすることで、ドリルの強度を保ち、半径(R2)を大きくすることで、二次螺旋溝によるドリルの切削抵抗を少なくできるからである。
【0033】
第二実施形態のドリルについて、図3では、二次螺旋溝(4)のドリル先端側から見た輪郭線が、突出部(2)からヒール部(6)にかけて、半径が異なる2つの円弧の組み合わせによって形成されているものを示したが、前記輪郭線を半径が異なる3つ以上の円弧の組み合わせによって形成してもよい。
【0034】
図4は本発明に係るドリルの第三実施形態を示す上面拡大図である。
第三実施形態のドリルは、上記第一実施形態又は第二実施形態のドリルにおいて、ドリル中心部から二次螺旋溝(4)と切刃(1)の境界部までの距離(A)を特定範囲に設定したものである。
より詳しくは、ドリル先端側から見た場合において、ドリル中心部から前記境界部までの距離(切刃(1)に平行な直線距離)(A)を、ドリル半径の20〜70%に設定したものである。
距離(A)をこの範囲に設定する理由は、20%未満とすると、突出部(2)に形成される二次切刃(5)の幅が狭くなるため、二次切刃(5)がドリルの回転方向に対して壁のように作用して却って切削抵抗を大きくしてしまい、スポット溶接部の剥離作業を楽に行うことができなくなるためであり、70%超とした場合は切刃(1)の幅が極端に狭くなり、切削力が低下するとともに、切刃(1)の強度が低下し、切刃(1)から二次螺旋溝(4)にかけての刃先が欠けやすくなるためである。
尚、20%未満とした場合のドリル形状は、前記特許文献4に開示されたドリルのようになる。
【0035】
本発明に係るドリルの外径は、車体のスポット溶接部の直径が凡そ6〜10mmの範囲であることから、6.5〜10.2mm程度に設定することが好ましい。但し、スポット溶接部の直径が上記範囲から外れる場合、ドリル径をスポット溶接部の直径に比例して変化させることが可能であり、必ずしも上記範囲に限定されるものではない。
【0036】
本発明に係るドリルはハンドドリルを使用することを前提とし、二次螺旋溝を大きくとっているため、チゼル幅を0.3〜0.6mmと極めて狭い範囲に設定している。そのため、従来のドリルでは起こらないような折れ方をする。具体的には、切削時に大きな力が加わった場合、従来のドリルは長手方向に対して略直角に折れるのに対し、本発明のドリルでは、二次螺旋溝が長くなるとドリルの長手方向と平行に(中心から縦に)折れるおそれがある。
本発明に係るドリルでは、二次螺旋溝(4)の長さ(螺旋に沿った長さ)をドリル径の3倍以内に設定することにより、このような折れを防ぐことができる。
本発明者の実験によれば、スポット溶接の剥離作業において、ドリル径8.2mmに対して、二次螺旋溝の長さが24mmのドリルと30mmのドリルを使用した場合、24mmのものはドリル先端が滑って周囲の自動車車体に当たっても折れることはなかったが、30mmのものは同条件で縦に折れてしまった。(縦に折れた後、ひびが縦方向に進行し、二次螺旋溝の根元から略直角方向に折れた。)
【実施例】
【0037】
以下、本発明に係るドリルの実施例及び比較例を示すことにより、本発明の効果をより明確なものとする。但し、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0038】
<試験1:ハンドドリルによる穴あけ試験1>
(実施例のドリル)
直径8.2mmのドリルを、表1に示す寸法を有する図1、図2、図4に示した形状に成形し、これを実施例のドリルとした。
【0039】
【表1】

【0040】
(比較例のドリル)
比較例1として、表2に示す寸法を有する、市販され、一般的によく使用されているものの中で、条件が実施例に最も近いドイツ製のドリルを用いた。
【0041】
【表2】

【0042】
比較例2として、表3に示す寸法を有するドリル(特許文献4の実施品、三菱マテリアル株式会社(旧社名:三菱マテリアル神戸ツールズ株式会社)製、ミラクルドリル、型式:VCSSSD0820)を用いた。
【0043】
【表3】

【0044】
(比較試験)
実施例及び比較例1,2のドリルを夫々ハンドドリルに装着して穴あけ試験を行った。
ハンドドリルの条件としては、圧縮空気(6〜8kg/cm)を駆動源とし、無負荷回転数が1200rpmのものを用いた。
実施例及び比較例1では、自動車(トヨタ自動車製、プリウス)のセンターピラー(高張力鋼板)に対し、深さ約1mmの穴をあけた。比較例2では、先端形状が実施例のものと大きく異なるため、金属製のプレート(SS400鋼板、厚さ9mm)に対して穴をあけた。
その結果、実施例のドリルでは100穴をあけた時点でまだ充分に切れる状態であったが、切刃(1)の磨耗が確認できたため中断した。
一方、比較例1のドリルでは27穴をあけた時点で切れなくなった。比較例2のドリルでは、作業者の腕にかかる負担が非常に大きく、先端から外周刃に掛かるまでの約1.7mmの間に穴あけを中止せざるを得なかった。
使用後の実施例及び比較例1のドリルをルーペで拡大して状態を確認した。
【0045】
実施例のドリルは、全体的な磨耗と切刃(1)に微小な欠けがあったものの、まだ充分に使用可能な状態であった。特筆すべきは、突出部(2)の二次切刃(5)の状態であり、欠けは見られず、磨耗も100穴あけ後のものと思えない微小なものであった。
一方、比較例1のドリルは、チゼル、シンニング部、切刃に明確な欠けが見られ、使用が不可能な状態であった。
尚、実施例のドリルについては、この後、20穴をあけ、合計120穴で試験を終了した。この状態で、切刃(1)の外周部から中心方向に幅1mm程度の欠けが確認されたが、二次切刃(5)には、磨耗は進行しているものの欠けは確認できなかった。
【0046】
上記試験結果から、実施例、即ち本発明に係るドリルによれば、従来(比較例1)のドリルに比べて4倍以上の数の穴あけを行うことができることが確認された。
また、本発明に係るドリルを用いた作業は、作業者の疲労具合が従来のドリルを使用した作業に比べて少なく、作業が楽になったことが体感できた。比較例1のドリルを使用した作業では27穴のうちの後半の穴あけ作業は非常に穴があきにくくて大きな疲労を感じたのに対し、実施例のドリルを使用した作業は、比較例1の4倍以上の120穴をあけたにも関わらず最後まで楽であった。
比較例2のドリルは、上述したようにハンドドリルでの穴あけは非常に困難であった。これは、比較例2のドリルは、高剛性のマシニングセンターを対象として、高回転・高速送りが可能なように設計されたものであって、ハンドドリルは対象とせず、スポット溶接剥離等の用途への使用は全く考慮されていないためであると考えられる。
【0047】
<試験2:切削力比較試験>
(実施例のドリル)
試験1の実施例のドリルと同じもの(表1参照)を使用した。
(比較例1のドリル)
試験1の比較例1のドリルと同じもの(表2参照)を使用した。
【0048】
(比較例3のドリル)
表4に記載されたドリル(特許文献1の表1に記載されたドリル)を使用した。
【0049】
【表4】

【0050】
(比較試験)
実施例及び比較例1,3のドリルを夫々NCフライス盤に装着して、金属製のプレート(SS400鋼板 厚さ8mm 両面機械仕上げ)に対し、上下方向に穴をあける作業を行い、穴あけ作業に要する力(切削力)を測定した。
測定方法は、動力計の上にプレートを置いて、プレートをNCフライス盤のテーブルに固定し、穴あけ作業時においてドリルから伝わる力(穴あけに要する力)を動力計により測定することにより行った。動力計からの出力信号はメモリハイコーダ(日置電機社製、8860-50)でグラフに変換して表示した。
結果(グラフ)を図6〜図8に示す。図6は実施例のドリル、図7は比較例1のドリル、図8は比較例3のドリルの結果を示している。
【0051】
図6〜図8に示される通り、実施例で測定された力の最大値(224N)は、比較例1で測定された力の最大値(468N)及び比較例3で測定された力の最大値(460N)の半分以下であった。このことから、本発明のドリルは、従来のドリルの半分以下の力で切削できることが分かった。
また、グラフから、切削時の振幅が、本発明のドリルは従来のドリルに比べて非常に少ないことが確認された。
この試験結果は、本発明に係るドリルをハンドドリルにて使用した場合、切削に要する力が非常に小さいために楽に作業することができるとともに、振動が少ないために安定した正確な穴あけ作業を行うことができることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係るドリルは、自動車の車体のスポット溶接部を剥離するために特に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0053】
1 切刃
2 突出部
3 螺旋溝
4 二次螺旋溝
5 二次切刃
6 ヒール
A ドリル中心部から二次螺旋溝と切刃の境界部までの切刃に平行な直線距離
R 二次螺旋溝のドリル先端側から見た半径
R1 二次螺旋溝のドリル先端側から見た中心部からヒール部にかけての部分の半径
R2 二次螺旋溝のドリル先端側から見た中心部から切刃にかけての部分の半径
T チゼル幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸対称に形成された2枚の切刃を有し、前記切刃を形成する螺旋溝に沿って二次螺旋溝が凹設されており、
前記二次螺旋溝は、ドリル先端側から見た輪郭線が、ドリル先端の突出部からヒール部にかけて円弧状又は略円弧状に形成されていることを特徴とするドリル。
【請求項2】
前記輪郭線が、半径が異なる2つ以上の円弧の組み合わせによって形成されていることを特徴とする請求項1記載のドリル。
【請求項3】
チゼル幅が0.3〜0.6mmであり、前記二次螺旋溝のドリル先端側から見た半径が1〜6mmであることを特徴とする請求項1記載のドリル。
【請求項4】
チゼル幅が0.3〜0.6mmであり、前記二次螺旋溝のドリル先端側から見た半径が、ドリルの中心部からヒール部にかけての部分において1〜3mmであり、ドリルの中心部から切刃にかけての部分において1〜6mmであることを特徴とする請求項2記載のドリル。
【請求項5】
前記二次螺旋溝の長さが、ドリル径の3倍以内に設定されてなることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載のドリル。
【請求項6】
前記切刃は、刃先先端角が160〜190°に設定されてなることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載のドリル。
【請求項7】
ドリル先端側から見た場合において、ドリル中心部から前記二次螺旋溝と前記切刃の境界部までの切刃に平行な直線距離が、ドリル半径の20〜70%に設定されてなることを特徴とする請求項1乃至6いずれかの記載のドリル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−56055(P2012−56055A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203777(P2010−203777)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(591128305)株式会社ビック・ツール (13)
【Fターム(参考)】