説明

ドレン用排水口ストレーナの固定機構

【課題】既存の設備を加工することなく、ストレーナを排水口に固定することができるドレン用排水口ストレーナの固定機構を提供する。
【解決手段】原子炉の原子炉キャビティCVに水を給排するための給排水口daに取り付けられるストレーナ1を、給排水口daに固定する固定機構であって、固定機構は、ストレーナ1のストレーナ本体10に揺動可能に設けられた複数の揺動アーム21と、揺動アーム21を揺動させる揺動操作機構と、複数の揺動アーム21の揺動を固定する固定手段30とからなり、各揺動アーム21は、ストレーナ本体10を給排水口daに配置すると、その一端が給排水口da内に配設され、揺動アーム21を揺動させると、その一端が給排水口daの内面に対して給排水口daの半径方向から接近離間するように配設されており、固定手段30は、揺動アーム21の一端を、給排水口daの内面に対して押し付ける機構を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドレン用排水口ストレーナの固定機構に関する。
【背景技術】
【0002】
図6に示すように、原子力発電所の原子炉において、原子炉格納容器W内には、原子炉容器PVが設けられており、この原子炉容器PVの上方には原子炉キャビティCVが設けられている。この原子炉キャビティCVは、定期検査時における原子燃料交換の際にホウ酸水が張られるものである。ホウ酸水を張る目的は、原子炉容器PVに原子燃料を搬入搬出する際には原子炉容器PVのふたを開放する必要があるが、その際、原子燃料からの放射線を遮蔽し作業員の被曝を低減するためである。
【0003】
具体的な原子燃料交換作業では、まず、原子炉キャビティCV内にホウ酸水が供給される。このとき、原子炉キャビティCV内には、ドレンdと、原子炉容器PVの両方からホウ酸水が供給される。原子炉容器PVから原子炉キャビティCVへのホウ酸水の供給は、原子炉容器PVのふたを開放した後、原子炉容器PV内の水位を除々に上昇させて、原子炉容器PVからホウ酸水を供給する方法をとる。
原子炉キャビティCV内にホウ酸水が張られると、原子炉格納容器Wを貫通する燃料取替キャナルTを通して、原子燃料の移送が行われる。つまり、ホウ酸水中において、原子炉容器PVと使用済燃料ピットとの間での原子燃料の移送が行われる。
そして、原子燃料の移送が終了すると、ドレンDを通して原子炉キャビティCV内のホウ酸水が抜かれ、原子炉容器PVにふたが取り付けられた後、原子炉が稼動されるのである。
【0004】
かかる原子炉キャビティCVは、原子燃料交換の際に原子炉キャビティCV内に張られるホウ酸水に含まれる放射化した不純物等により汚染されるので、原子炉の点検を行う際には、一回の定期点検あたりキャビティの清掃(以下、キャビティ除染という)が2回実施される。
【0005】
上記キャビティ除染作業は以下の手順で実行される。
キャビティ除染作業の前には、原子燃料を搬入または、搬出する工程が行われるので、原子炉キャビティCV内にホウ酸水が張られている。このため、キャビティ除染作業を開始する前に、原子炉キャビティCV内からホウ酸水を抜く作業が行われる。
原子炉キャビティCV内のホウ酸水が完全に排水されると、作業員が原子炉キャビティCV内に入り、作業員によってストレーナがドレンdの開口部(排水口)に取り付けられる。
そして、作業員による除染用ブラシと純水を使った原子炉キャビティCVの洗浄(除染)が行われるのである。
なお、キャビティ除染作業が終了すると、原子燃料搬入の前に原子炉キャビティCV内にホウ酸水が張られるが、ホウ酸水が張られる前に、ドレンdの排水口に取り付けられたストレーナは、作業員によって取り外される。
【0006】
ここで、除染作業の前において、排水口へのストレーナの取り付けを行うのは、除染作業において発生したゴミ等が、排水口からドレンdを通って、原子炉キャビティCV内にホウ酸水を給排する系統に侵入することを防ぐためである。
そして、キャビティ除染作業終了後、毎回ストレーナを取り外すのは、ストレーナを排水口に固定できず、ストレーナを排水口に配置したままにしておくことができないからである。
もし、固定できないストレーナを排水口に配置したままにしておくと、原子燃料搬入前に排水口から原子炉キャビティCV内にホウ酸水を供給する際に、水圧によりストレーナが浮き上がり外れてしまう恐れがある。排水口から外れたストレーナは水流によって原子炉キャビティCV内を移動するから、燃料移送装置などにぶつかって燃料移送装置等を損傷させる可能性がある。かかる問題が生じることを防ぐためにも、原子炉キャビティCV内にホウ酸水を張る前には、ストレーナを外しておく必要があるのである。
【0007】
しかし、上記手順で行われるキャビティ除染作業について、現在、以下の要求がある。
1)キャビティ除染作業は作業員が原子炉キャビティCV内に入って行うので、作業中に作業員が被曝する。このため、原子炉キャビティCV内での作業時間を短縮して、作業員の被曝量をできる限り低減させたい。現状では、除染作業に加えて、作業員がストレーナの取り付けと取り外しという余分な作業も行っているので、作業工数を少なくして、作業時間を短縮したい。
2)定期点検工程において、キャビティ除染作業が終了しないと次段階の原子燃料搬入ができないため、キャビティ除染作業は、定期点検工程期間全体を決定する一要素となっている。キャビティ除染作業を早く終了させることができれば、定期点検工程全体の作業時間の短縮に結びつくので、キャビティ除染作業は早く終了させたい。
【0008】
上記2つの要求は、ストレーナを排水口に固定することができれば、満たすことができる。
なぜなら、ストレーナを排水口に固定することができれば、キャビティ除染前にストレーナを取り付ける作業、および、ホウ酸水を張る前にストレーナを取り外す作業が不要になるため、作業員の作業工数が少なくなり、作業時間を短縮することができるからである。
【0009】
また、ストレーナを排水口に固定することができれば、排水作業と除染作業を同時に行うことができるので、キャビティ除染の作業時間をさらに短縮させることも可能となる。
その理由は以下のとおりである。
上述したように、作業員がストレーナを取り付ける作業を行うためには原子炉キャビティCV内のホウ酸水が完全に排水されていなければならない。このため、現状では、原子炉キャビティCV内のホウ酸水が完全に排水されるまで、原子炉キャビティ内での作業ができない状態で待機している。しかし、ストレーナが排水口に固定できれば、キャビティ除染作業前の排水時には、すでにストレーナが排水口に取り付けられている状態となる。すると、原子炉キャビティCV内の排水が完了する前から除染作業を行うことができるから、待機時間が少なくなり、その分だけ除染作業を早く開始することができる。
【0010】
ストレーナを排水口に固定する方法として、以下の方法が考えられる。
1)周囲の構造物への固定
原子炉キャビティCV内におけるドレンdの周囲には、構造物として燃料移送装置が存在するので、結束やボルトオン等の方法によってストレーナを燃料移送装置に固定することが考えられる。しかし、燃料移送装置は非常に重要な機器であり、ストレーナを固定することによって燃料移送装置の動作に影響することが考えられるので、好ましくない。
2)溶接
ストレーナを溶接によって床面や目皿受台、燃料移送装置等の既存の設備等に固定することも考えられる。しかし、既存の設備への溶接は、その設備の健全性や強度への影響評価が困難でありリスクが大きい。しかも、ストレーナを取り外すことができなくなるので、キャビティ除染後にストレーナの清掃が必要となった場合、対応不可能となる。
3)既存の設備の加工による方法
排水口を加工して、ねじ穴や固定用溝を形成してストレーナを固定することも考えられる。しかし、この方法も、既存の設備にねじ穴や固定用溝を加工することになるので、この加工が設備の健全性や強度に与える影響の評価が困難でありリスクが大きい。
【0011】
一方、原子炉キャビティCVにおけるドレンdの排水口に取り付けるストレーナとは技術分野が相違するが、マンホールの蓋を、既存のマンホールを加工することなく取り付けることができる技術が、特許文献1に開示されている。
特許文献1の技術は、マンホールの蓋の裏面(マンホール内に配置される面)に、揺動するレバーを設け、このレバーによってマンホールを固定する技術である。具体的には、レバーの先端には鋸刃状の先端係合部を設けられており、このレバーを揺動させることによってその先端係合部をマンホールの内面に食い込ませて、マンホールの蓋を既存のマンホールに固定している。
【0012】
しかるに、特許文献1の技術では、マンホールの固定には採用することはできるものの、原子炉キャビティCVにおけるドレンdの排水口に取り付けるストレーナの固定機構として採用することはできない。なぜなら、特許文献1の技術の場合、レバーの先端に鋸刃状の先端係合部によってマンホールの内面に傷が形成されてしまうが、原子炉キャビティCVでは、上述したように既存設備に傷を形成する行為は忌避されるべきであるからである。
しかも、特許文献1の技術は、マンホール内から作業をしなければ蓋の固定が出来ないものであり、ドレンd内からの作業が不可能であるストレーナの固定には採用することはできない。
【0013】
以上のごとく、原子炉キャビティCVのドレンdの排水口という特殊な条件において、ドレンdの排水口にストレーナを固定することができる技術は開発されておらず、既存設備を加工損傷することなくドレンdの排水口にストレーナを固定することは、現在のところ困難である。よって、現状では、原子炉キャビティCV内への水張り前に毎回ストレーナが取り外され、キャビティ除染作業の際、毎回ストレーナが取り付けられているのが実情である。
よって、作業者の被曝低減およびキャビティ除染作業時間の短縮を実現するためにも、既存の設備や原子炉の運転に影響を与えることなく、浮き上がりが生じないようにドレンdの排水口に固定できる機構を備えたストレーナが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2000−178996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は上記事情に鑑み、既存の設備を加工することなく、ストレーナを排水口に固定することができるドレン用排水口ストレーナの固定機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
第1発明のドレン用排水口ストレーナの固定機構は、原子炉の原子炉キャビティにホウ酸水を給排するための給排水口に取り付けられるストレーナを、前記給排水口に固定する固定機構であって、該固定機構は、該ストレーナのストレーナ本体に揺動可能に設けられた複数の揺動アームと、前記ストレーナ本体における反給排水口側から前記揺動アームを操作して揺動させる揺動操作機構と、前記複数の揺動アームの揺動を固定する固定手段とからなり、各揺動アームは、前記ストレーナ本体を前記給排水口に配置すると、その一端が前記給排水口内に配設され、該揺動アームを揺動させると、その一端が前記給排水口の内面に対して該給排水口の半径方向から接近離間するように配設されており、前記固定手段は、前記揺動アームの一端を、前記給排水口の内面に対して押し付ける機構を備えていることを特徴とする。
第2発明のドレン用排水口ストレーナの固定機構は、第1発明において、前記揺動アームの一端には、前記ストレーナ本体の中心軸に対して反対側に位置する面が円弧状面に形成された押圧部材が設けられており、該押圧部材は、その円弧状面の曲率半径が、前記給排水口の内面の曲率半径と同じ長さであることを特徴とする。
第3発明のドレン用排水口ストレーナの固定機構は、第1または第2発明において、前記揺動アームは、その一端と他端との間の部分が、前記ストレーナ本体に軸支されており、前記固定手段は、前記ストレーナ本体に対してその半径方向に沿って移動可能であって、前記ストレーナ本体の中心に向かって移動したときに、その先端が前記揺動アームの他端を前記ストレーナ本体の中心に向かって付勢しうる位置に設けられた付勢ピンと、該付勢ピンを、前記ストレーナ本体の中心軸に向かって付勢しうる位置に配設された弾性部材と、前記弾性部材から前記付勢ピンに加わる固定力を調整する固定力調整部とを備えていることを特徴とする。
第4発明のドレン用排水口ストレーナの固定機構は、第1、第2または第3発明において、前記ストレーナ本体は、一端が開口し他端が閉塞した筒状の部材であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
第1発明によれば、揺動操作機構によって複数の揺動アームの一端を排水口内面に押し付けた状態で、固定手段によって揺動アームの揺動を固定すれば、ストレーナ本体を排水口に固定することができる。よって、排水口から原子炉キャビティ内に水を供給する際に、ストレーナが水圧によって浮き上がることを防ぐことができる。すると、ストレーナを排水口に固定したままにしておくことができるので、作業員が原子炉キャビティ内で行う作業工数を少なくすることができる。つまり、除染作業の際に、ストレーナの取付・取外し作業が不要となるので、除染作業時間を短縮することができ、作業者の被曝量を低減させることが可能となる。しかも、除染作業に早く着手することができるので、定検工程全体を短縮することができる。
第2発明によれば、押圧部材において排水口内面に押し付けられる面が円弧状面であり、かつ、その曲率半径が給排水口の内面の曲率半径と同じ長さであるから、押圧部材と給排水口との接触面積を大きくできる。すると、両者の間に発生する摩擦力を大きくすることができるから、ストレーナ本体を排水口にしっかりと固定することができる。しかも、円弧状面同士が面接触するだけであるから、給排水口の内面等に損傷を与えることがない。
第3発明によれば、固定力を発生させる部材が板ばねやコイルバネ等の弾性部材であるから、排水口から原子炉キャビティ内に供給されるホウ酸水の水流による振動や、ホウ酸水の水温や気温の変化に起因する熱膨張又は収縮が生じても、ストレーナ本体を排水口に固定する固定力が変動することを抑制することができる。そして、固定力調整部によって揺動アームの一端を排水口内面に押し付ける力を調整すれば、ストレーナの浮き上がりを適切に防ぐことができる固定力でストレーナを固定することができる。
第4発明によれば、揺動アームや固定手段を構成する部材をストレーナ内に配置することができる。すると、ストレーナ外に存在する部材を少なくすることができるので、ストレーナの取り扱い性を向上させることができるとともに、ろ過面積を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態の固定機構を採用したストレーナ1の概略説明図であって、線CLに対して、右側に概略側面図、左側に概略断面図を示したものである。
【図2】図1のII−II線断面矢視図である。
【図3】(A)は図2のIII−O−III線断面で切断したストレーナ1の概略断面図であり、(B)は固定手段30の概略拡大断面図である。
【図4】(A)は図3のIV−O−O−IV線断面図であり、(B)は固定手段30の概略拡大平面図である。
【図5】ストレーナ1を取り付けた状態における原子炉の概略説明図である。
【図6】ストレーナ1を取り付けていない状態における原子炉の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明のドレン用排水口ストレーナの固定機構は、原子炉キャビティのドレンの排水口に取り付けるストレーナに設けられる機構であり、原子炉キャビティ等に影響を与えることなくストレーナを排水口に取り付けることができるようにした点に特徴を有している。
【0020】
図5に示すように、原子力発電所の原子炉では、原子炉格納容器W内に、原子炉容器PVおよび原子炉キャビティCVが設けられている。原子炉キャビティCVには、原子炉容器PVへの原子燃料の搬入搬出を行う際等において、原子炉キャビティCV内にホウ酸水を給排水するためのドレンdが連通されている。
【0021】
また、図5において、符号1は、このドレンdの開口(以下、給排水口daという)に取り付けられるドレン用排水口ストレーナ(以下、単にストレーナ1という)を示している。このストレーナ1は、ストレーナ本体10と、ストレーナ本体10を前記給排水口daに固定するための固定機構とを備えている(図1)。
【0022】
まず、図1において、ストレーナ本体10は、メッシュ部11と、給排水口daに配置されるベース部12とを備えている。
ベース部12は、リング状の部材であり、その外周縁にフランジを有している。このフランジは、その外径が給排水口daの内径よりも大きくなるように形成されている。
メッシュ部11は、一端が開口し他端が閉塞した筒状に形成された部材であり、ベース部12の開口を覆うように設けられている。具体的には、メッシュ部11は、ベース部12の開口部を覆うように、その開口した一端(図1では下端)がベース部12の一方の面(図1では上面)に固定されている。
【0023】
このため、ストレーナ本体10を給排水口daに配置すれば、ベース部12のフランジの外径が給排水口daの内径よりも大きく、メッシュ部11がベース部12の開口を覆うように設けられているので、ストレーナ本体10のメッシュ部11によって給排水口daを覆うことができる。すると、ドレンdを通して原子炉キャビティCVに供給排出されるホウ酸水が、必ずストレーナ本体10のメッシュ部11を通過するように構成することができる。
【0024】
また、図1〜図3に示すように、固定機構は、ストレーナ本体10に取り付けられた複数の揺動アーム21と、複数の揺動アーム21を揺動させたりその揺動を固定したりする固定手段30とを備えている。
複数の揺動アーム21は、その一端(図1〜図3では下端)がストレーナ本体10の半径方向に沿って揺動できるように配設されている。そして、複数の揺動アーム21の一端は、ストレーナ本体10の開口部よりも下方かつベース部12よりも下方に位置している。
【0025】
以上のごとき構造であるので、ストレーナ本体10を給排水口daに配置し、固定手段30によって複数の揺動アーム21の一端をストレーナ本体10の中心軸から離れるように付勢すれば、複数の揺動アーム21の一端が給排水口daの内面に押し付けられる。すると、アーム21の一端と給排水口daの内面との間に摩擦力を発生させることができる。この状態で複数の揺動アーム21の揺動を固定手段30により固定すれば、両者間に発生した摩擦力によってストレーナ1を給排水口daに固定することができる。
【0026】
つまり、本実施形態の固定機構を設けたストレーナ1を使用すれば、給排水口daや原子炉キャビティCV等の既存の設備に特別な加工等をすることなく給排水口daにストレーナ1を固定しておくことができる。すると、給排水口daから原子炉キャビティCV内にホウ酸水を供給する際に、ストレーナ1が水圧によって浮き上がることを防ぐことができる。
しかも、原子炉キャビティCVの加工が不要であり、原子炉キャビティCV内の機器などにストレーナ1を固定しないので、機器などの健全性や強度への影響も生じない。
【0027】
そして、ストレーナ1を給排水口daに固定したままにしておくことができれば、作業員が原子炉キャビティCV内で行う作業工数を少なくすることができる。つまり、除染作業の際に、ストレーナ1の取付・取外し作業が不要となるので、除染作業時間を短縮することができ、作業者の被曝量を低減させることが可能となる。しかも、除染作業に早く着手することができるので、定検工程全体を短縮することができる。
【0028】
(固定機構の説明)
つぎに、本発明の特徴である固定機構を詳細に説明する。
まず、固定機構は、上述したように複数の揺動アーム21と、固定手段30とを備えている。
【0029】
(揺動アーム21)
図2に示すように、複数の揺動アーム21は、ストレーナ本体10の中心軸まわりに、互いに回転対象かつ等角度間隔で並ぶように配置されている。例えば、図2には、揺動アーム21が、90°間隔で4本設けられている。
【0030】
図1〜図3に示すように、各揺動アーム21は、その一端(図1では下端)と他端(図1では上端)との間の部分が、ストレーナ本体10のベース部12に揺動可能に取り付けられている。具体的には、揺動アーム21は、ベース部12に設けられたブラケットに軸支されている。しかも、揺動アーム21は、その一端がストレーナ本体10の一端から突出する程度の長さに形成されている。このため、揺動アーム21は、ストレーナ本体10を給排水口daに配置した状態で揺動させると、その一端が給排水口daの内面に対して接近離間するのである。
【0031】
(固定手段30)
一方、ストレーナ本体10において、各揺動アーム21の他端(図1では上端)と対応する位置には、固定手段30が設けられている。
図3および図4において、符号35は、ストレーナ本体10に固定された固定手段30の固定ベースを示している。この固定ベース35は、リング状部材35aと、固定力調整部保持部材35bとを備えている。
リング状部材35aは、ストレーナ本体10内部に設けられており、メッシュ部材11の内面に固定されている。
また、固定力調整部保持部材35bは、リング状部材35aとの間にストレーナ本体10のメッシュ部材11を挟むように設けられており、メッシュ部材11の外面に固定されている。そして、この固定力調整部保持部材35bは、一端が開口した中空な部材であり、開口している一端がメッシュ部材11側に位置するように配設されている。
【0032】
図1、図3および図4に示すように、リング状部材35aおよびメッシュ部材11には、両者をストレーナ本体10の半径方向に沿って貫通する複数の貫通孔が形成されている。この複数の貫通孔は、ストレーナ本体10の円周方向において、前記複数の揺動アーム21と対応する位置に設けられており、ストレーナ本体10内部と固定力調整部保持部材35bの中空部分との間を連通している。
【0033】
各貫通孔には、この貫通孔に沿って移動可能に設けられた付勢ピン31が配設されている。この付勢ピン31は、その先端(ストレーナ本体10の中心軸側の端部)が、対応する揺動アーム21の他端と接するように配設されており、基端が固定力調整部保持部材35bの中空部分内に配設されている。
【0034】
一方、固定力調整部保持部材35bの外面には、前記貫通孔とほぼ同軸となるようにネジ孔が形成されている。このネジ孔にはネジ部材33が螺合しており、ネジ部材33の先端が固定力調整部保持部材35bの中空部分内に配置されている。
なお、ネジ部材33における固定力調整部保持部材35bの外方に位置する部分には、ナット部材34が螺合しており、このナット部材34によってネジ部材33のネジ孔に対する移動を固定できるように構成されている。
【0035】
そして、固定力調整部保持部材35bの中空部分において、ネジ部材33の先端と付勢ピン31の基端との間には、弾性部材である板バネ32が圧縮された状態で配置されている。つまり、板バネ32によって、ストレーナ本体10の中心に向かって付勢ピン31が常に付勢された状態となるように構成されているのである。
【0036】
以上のごとき構成であるので、ストレーナ本体10のベース部材12を給排水口daに配置し、ネジ部材33をストレーナ本体10の中心に向かって前進させれば、付勢ピン31をストレーナ本体10の中心に向かって移動させることができる。すると、付勢ピン31によって揺動アーム21の他端が押されるので、揺動アーム21は揺動する。つまり、ストレーナ本体10の外面から、言い換えれば、ストレーナ本体10における反給排水口側からの操作で、揺動アーム21を揺動させることができるのである。
付勢ピン31に押された揺動アーム21は、その一端が給排水口daの内面に向かって移動するように揺動するので、その一端は給排水口daの内面に押し付けられる。
この状態で、ナット部材34によってネジ部材33の移動を固定すれば、揺動アーム21の一端を給排水口daの内面に押し付けた状態で固定することができるのである。
【0037】
上記固定手段30の付勢ピン31、板バネ32、ネジ部材33が、特許請求の範囲にいう揺動操作機構に相当する。なお、上記実施形態では、固定手段30が揺動操作機構を兼ねる構成となっているが、固定手段30とは別に揺動操作機構を設けてもよいのは、いうまでもない。
【0038】
そして、揺動アーム21の一端を給排水口daの内面に押し付ける力(固定力)はネジ部材33の前進量に比例するので、ネジ部材33を進退させれば、固定力の調整を簡単に行うことができる。すると、ストレーナ1の浮き上がりを防ぐことができる適切な固定力でストレーナ1を給排水口daに固定することができる。
【0039】
また、ネジ部材33と付勢ピン31との間に板バネ32が設けられているので、固定力の変動を抑制することができる。例えば、給排水口daから原子炉キャビティCV内に供給されるホウ酸水の水流による振動や、ホウ酸水の水温や気温変化に起因する熱膨張又は収縮が生じても、固定力を所定の力以上に維持できる。よって、ストレーナ1を、より安定した状態で給排水口daに取り付けておくことができる。
なお、弾性部材は板バネ32に限られず、コイルバネ等のように、上述した板バネ32と同等の機能を有するものであれば、使用することができる。
【0040】
また、固定力がどの程度であるについて確認できる手段を設けておけば、現在の固定力の大きさを正確に把握できるので、より適切な固定力でストレーナ1を給排水口daに固定することができるので、好ましい。
例えば、図3および図4に示すように、固定力調整部保持部材35bの上面に開口35hを設け、この開口35hの下方に付勢ピン31とともに移動するプレート31aを設ける。そして、そのプレート31aの上面に開口35hから確認できる目盛Lなどを設けておく。すると、開口35hから確認できるプレート31aの目盛Lに基づいて、付勢ピン31を押し込んでいる量、つまり、固定力を把握することができる。
【0041】
上記のネジ部材33およびナット部材34が特許請求の範囲にいう固定力調整部であるが、固定力調整部は上記のごとき構成に限定されず、揺動アーム21の一端を給排水口daの内面に押し付ける力、言い換えれば、付勢ピン31を押す力や板バネ32の発生する固定力を調整できる構成であればよく、どのような構成でも採用することができる。
【0042】
なお、上記実施形態では、揺動アーム21が4本の場合を説明したが、揺動アーム21の数は少なくとも2本あればよく、3本や5本以上でもよい。
また、揺動アーム21は、その中心軸がストレーナ本体10の中心軸を含む平面内に配置され、かつ、この平面上に中心軸が配置されたまま揺動するように取り付けられていれることが好ましい。この場合、揺動アーム21に加わる力がストレーナ本体10の中心軸を含む平面内でバランスするので、ストレーナ1を安定した状態で固定することができる。
【0043】
(押圧部材22)
各揺動アーム21の一端は、給排水口daの内面に押し付けられたときに、給排水口daの内面との間でストレーナ1が移動しない程度の摩擦力を発揮させることができる構成であれば、特に限定されない。
しかし、揺動アーム21の一端を以下のごとき構成とすれば、給排水口daの内面等に損傷を与えることがなく、揺動アーム21と給排水口daの内面との間に、より効果的に摩擦力を発生させることができるので好適である。
【0044】
図1および図2において、符号22は、揺動アーム21の一端に設けられた押圧部材を示している。
この押圧部材22の本体部22aは、ブラケット21aを介して、揺動アーム21の一端に左右方向および上下方向に若干揺動できるように取り付けられている。具体的には、ブラケット21aがピンによって揺動アーム21の一端に対して上下方向に若干揺動できるように連結されており、本体部22aがピンによってブラケット21aに対して左右方向に若干揺動できるように連結されているのである。
【0045】
図2に示すように、本体部22aの外面は円弧状面に形成されている。具体的には、本体部22aにおいて、ストレーナ本体10を給排水口daに配置したときに給排水口daの内面と対向する面は、円弧状面に形成されているのである。この本体部22aの外面(円弧状面)は、その曲率半径が、給排水口daの内面の曲率半径と同じ長さとなるように形成されている。
そして、本体部22aの外面には、ゴム等の弾性を有する弾性部材22bが設けられている。
【0046】
以上のごとき構成さあるから、揺動アーム21を揺動させてその一端を給排水口da内面に押し付ければ、給排水口da内面に押圧部材22を密着させることができる。具体的には、本体部22aの外面に設けられている弾性部材22bが変形して、本体部22aと給排水口da内面とを、両者の間に隙間がない状態で接触させることができる
すると、押圧部材22と給排水口da内面との接触面積が大きくなり、両者の間に発生する摩擦力を大きくすることができるから、ストレーナ本体10を給排水口daにしっかりと固定することができる。
【0047】
なお、上記押圧部材22は本体部22aの外面に弾性部材22bを設けているが、本体部22aの外面に弾性部材22bを設けなくてよい。この場合でも、本体部22aが、揺動アーム21の一端21に対して左右方向および上下方向に若干揺動でき、しかも、本体部22aの外面が、平滑な曲面であってその曲率半径が給排水口daの内面の曲率半径と同じとなるように形成されていれば、給排水口da内面との密着性を高くできるし、本体部22aによって給排水口daの内面が傷つけられることもない。しかし、弾性部材22bを設けておけば、本体部22aと給排水口da内面との密着性をより高くできるし、本体部22aにより給排水口daの内面が損傷する可能性をより低くすることができるので、好適である。
【0048】
(ストレーナ1の他の実施形態)
上記実施形態では、ストレーナ本体10のメッシュ部11が円筒状の場合を説明したが、メッシュ部11は必ずしも円筒状でなくてもよく、平面状や角柱状でもよい。
しかし、メッシュ部11を円筒状とすればろ過面積を多くとることができるとともに揺動アーム21や固定機構を構成する各部材をメッシュ部11内に配置することが容易となる。すると、ストレーナ1の外に存在する部材を少なくすることができるので、ストレーナ1の取り扱い性を向上させることができる。
【0049】
また、ストレーナ本体10のメッシュ部11は、その貫通孔の形状や貫通孔の大きさ、貫通孔の分布密度等はとくに限定されず、放射化した不純物等を通過させないように形成されていればよい。とくに、上述したような筒状のメッシュ部11の場合には、水位が低下しても十分な通過面積を確保できるようにメッシュ部11全面に貫通孔を設けておくことが好ましい。具体的には、メッシュ部11におけるベース部12との接続部分近傍まで(つまり、開口部の先端まで)貫通孔を設けておくことが好ましく、この場合には、水位が低下しても、原子炉キャビティCVの床面まで貫通孔が存在するので、原子炉キャビティCVからの水抜きをスムースに進行させることができる。
【0050】
そして、本実施形態の固定機構を備えたストレーナ1では、着脱可能な部品が少なく、部品が散逸する可能性が少ないので、部品がストレーナ1から脱落する可能性が極めて少ない。すると、本実施形態の固定機構を備えたストレーナ1をドレンdの給排水口daに固定しても、ストレーナ1から脱落した部品等が原子炉容器PVに混入可能性も極めて少なくでき、原子炉運転時の安全性も確保できる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のドレン用排水口ストレーナの固定機構は、原子炉キャビティにホウ酸水を供給するドレンの給排水口やタンク、ピット、プールの各給排水口および床ドレン、ルーフドレン排水口等に取り付けられるストレーナに適している。
【符号の説明】
【0052】
1 ストレーナ
10 ストレーナ本体
21 揺動アーム
22 押圧部材22
30 固定手段
31 付勢ピン
32 板バネ
d ドレン
da 給排水口
CV 原子炉キャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉の原子炉キャビティに水を給排するための給排水口に取り付けられるストレーナを、前記給排水口に固定する固定機構であって、
該固定機構は、
該ストレーナのストレーナ本体に揺動可能に設けられた複数の揺動アームと、
前記ストレーナ本体における反給排水口側から前記揺動アームを操作して揺動させる揺動操作機構と、
前記複数の揺動アームの揺動を固定する固定手段とからなり、
各揺動アームは、
前記ストレーナ本体を前記給排水口に配置すると、その一端が前記給排水口内に配設され、
該揺動アームを揺動させると、その一端が前記給排水口の内面に対して該給排水口の半径方向から接近離間するように配設されており、
前記固定手段は、
前記揺動アームの一端を、前記給排水口の内面に対して押し付ける機構を備えている
ことを特徴とするドレン用排水口ストレーナの固定機構。
【請求項2】
前記揺動アームの一端には、前記ストレーナ本体の中心軸に対して反対側に位置する面が円弧状面に形成された押圧部材が設けられており、
該押圧部材は、
その円弧状面の曲率半径が、前記給排水口の内面の曲率半径と同じ長さである
ことを特徴とする請求項1記載のドレン用排水口ストレーナの固定機構。
【請求項3】
前記揺動アームは、
その一端と他端との間の部分が、前記ストレーナ本体に軸支されており、
前記固定手段は、
前記ストレーナ本体に対してその半径方向に沿って移動可能であって、前記ストレーナ本体の中心に向かって移動したときに、その先端が前記揺動アームの他端を前記ストレーナ本体の中心に向かって付勢しうる位置に設けられた付勢ピンと、
該付勢ピンを、前記ストレーナ本体の中心軸に向かって付勢しうる位置に配設された弾性部材と、
該弾性部材から前記付勢ピンに加わる固定力を調整する固定力調整部とを備えている
ことを特徴とする請求項1または2記載のドレン用排水口ストレーナの固定機構。
【請求項4】
前記ストレーナ本体は、
一端が開口し他端が閉塞した筒状の部材である
ことを特徴とする請求項1、2または3記載のドレン用排水口ストレーナの固定機構。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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