説明

ドロマイト粒子の製造方法

【課題】人体に安全な天然原料を用いて結晶性の高いドロマイト(苦灰石)微細粒子を短時間に製造する方法を提供する。
【解決手段】貝殻を焼成、粉砕して得た炭酸カルシウム粉末を塩化マグネシウム水溶液に懸濁させ、この懸濁液を水熱処理することによって、平均粒径10μm以下の微細な結晶性ドロマイト粒子を製造することを特徴とするドロマイト粒子の製造方法であり、好ましくは、貝殻を400℃〜650℃で焼成し、粉砕して得た炭酸カルシウム粉末を用い、貝殻焼成粉の懸濁液をオートクレーブ容器に入れ、200℃〜280℃で12時間〜48時間加熱処理するドロマイト粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体に安全な天然原料を用いて結晶性の高いドロマイト(苦灰石)微細粒子を短時間に製造する方法に関する。本発明の方法によって製造されるドロマイト微細粒子は、貝殻および天然ニガリを原料として製造することができるので安全であり、食品や医薬品などの添加物や材料として幅広く利用することができる。
【背景技術】
【0002】
ドロマイトはCaCO3−MgCO3系炭酸塩の複塩であり、三方晶系の炭酸塩鉱物でカルサイトと類似な構造を有している。理想的な化学式はCaCO3/MgCO3モル比が1/1のCaMg(CO3)2である。CaCO3/MgCO3モル比には範囲があり、元素の含有率は、上記モル比が1/1の場合、Ca21.7質量%、Mg13.2質量%、上記モル比が1/2の場合、Ca14.9質量%、Mg18.1質量%である。通常のドロマイトのCaCO3/MgCO3モル比はこの範囲内にある。
【0003】
天然ドロマイトは日本には比較的豊富に存在しており、一般に石灰石と共に採掘されている。天然ドロマイトの用途としては、製鋼用耐火物、肥料、土壌安定材、フィラー、ガラス、骨材など挙げられるが、これまで十分利用されているとはいえない。その理由は、天然ドロマイトにはカルシウムイオンとマグネシウムイオン以外の金属イオンが多く含まれること、物理的(機械的)粉砕法によって10μm以下に粉砕することが難しいことなどが挙げられる。従って、ドロマイトの純度が向上し、結晶性が高く、粒子径が微細になれば、各種の充填材や食品添加物、医薬品添加物としてより高度に利用することが可能となる。
【0004】
このため、これまでドロマイトの合成法が幾つか提案されており、固相反応法、湿式合成法、および水熱合成法が知られている。固相反応法はアラゴナイト(CaCO3)とマグネサイト(MgCO3)の混合物を高温高圧で直接反応させることによりドロマイトを得る方法である(非特許文献1)。湿式合成法は炭酸水素カルシウム(Ca(HCO3)2)または塩化カルシウム(CaCl2)と塩化マグネシウム(MgCl2)を含む水溶液を常圧下、100℃以下の温度で長時間加熱することによりドロマイトを得る方法である(非特許文献2)。水熱合成法はCaCl2-MgCl2系の水溶液にカルサイトを懸濁させ、得られた懸濁液をオートクレーブで加熱する水熱処理によりドロマイトを得る方法である(非特許文献3)。
【非特許文献1】M. Shirasaka et al., Am.Mineral., 87, 922 (2002)
【非特許文献2】E. Usdowski, Naturwissenschaften, 76, 374 (1989)
【非特許文献3】A. Karz, A. Matthews, Geochim. Cosmochim. Acta, 41, 297 (1977)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記固相反応による製造方法(非特許文献1)は、炭酸カルシウムの準安定相であるアラゴナイトとマグネサイトを混合し、850℃、3GPa以上の条件でドロマイト粒子を得る方法であり、反応条件が過酷である、出発原料がアラゴナイトである、生成ドロマイトの粒子径が大きいなどの欠点がある。
【0006】
上記湿式合成による製造方法(非特許文献2)は、塩化カルシウム水溶液に塩化マグネシウムを溶解させ、さらにアラゴナイト粉末を加えた懸濁液を常温、常圧下で数年間保持することによりドロマイト粒子を得る方法である。この場合、温度を上げれば合成時間は短くなるが、それでも数週間から数ヶ月を要する。従って、工業的製造方法としては生産効率に大きな難点がある。また、この方法で得られるドロマイト粒子は純度や結晶性が低いという欠点もある。
【0007】
上記水熱反応による製造方法(非特許文献3)は、塩化カルシウムと塩化マグネシウムを含む水溶液にカルサイト粉末を懸濁させ、この懸濁液をオートクレーブのような密封反応容器中、252℃で140時間加熱処理する水熱反応によりドロマイト粒子を得る方法である。類似の方法としては、塩化マグネシウムだけ含む水溶液を用いる方法、カルサイト粉末の代わりにアラゴナイト粉末を用いる方法、懸濁液に金属イオンを添加、あるいは尿素やエチレンジアミンを添加して水熱反応を促進する方法など提案されている。これらの方法によれば、生成ドロマイト粒子は一般的に結晶性が高く、粒子径も比較的均一であるが、合成に数十時間以上の長い時間を要することが最大の欠点である。また、原料として合成カルサイトや合成アラゴナイトを用いる場合、経済的に問題となり、天然石灰石を用いる場合には、反応性の低さから合成時間が長くなり、生成ドロマイト粒子の純度もより低下することが危惧される。
【0008】
本発明は、従来のドロマイト製造方法における上記問題を解決したものであり、貝殻を主原料とし、マグネシウムイオンを多く含む天然ニガリ、または天然ニガリから通常生産される塩化マグネシウム水溶液を副原料として、これらの混合懸濁液を調製し、これに簡便な水熱処理を施すことにより高結晶性のドロマイト微細粒子を迅速に製造する方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の構成を有するドロマイト粒子の製造方法に関する。
(1)貝殻を焼成、粉砕して得た炭酸カルシウム粉末を塩化マグネシウム水溶液に懸濁させ、この懸濁液を水熱処理することによって、平均粒径10μm以下の微細な結晶性ドロマイト粒子を製造することを特徴とするドロマイト粒子の製造方法。
(2)貝殻を400℃〜650℃で焼成し、粉砕して得た炭酸カルシウム粉末を用いる上記(1)に記載するドロマイト粒子の製造方法。
(3)上記懸濁液を、オートクレーブ容器に入れ、200℃〜280℃で12時間〜48時間加熱処理する上記(1)または上記(2)に記載するドロマイト粒子の製造方法。
(4)上記懸濁液のMg/Caモル比が1.0〜2.5である上記(1)〜上記(3)の何れかに記載するドロマイト粒子の製造方法。
(5)上記懸濁液の水熱処理によってドロマイト量70%以上、カルサイト量0.5%以下の懸濁液とし、この懸濁液を固液分離し、洗浄後、乾燥して平均粒径7μm〜9μm、粒径の分布幅0.1μm〜20μmの結晶性ドロマイト粒子を得る上記(1)〜上記(4)の何れかに記載するドロマイト粒子の製造方法。
(6)貝殻がホタテ、カキ、ホッキ、アワビ、ムラサキイガイ、アサリ、ハマグリの1種または2種以上を組み合わせたものである上記(1)〜上記(4)の何れか記載するドロマイト粒子の製造方法。
(7)塩化マグネシウム水溶液として、天然ニガリ液または天然ニガリから得た塩化マグネシウム水溶液を用いる上記(1)〜上記(6)の何れかに記載するドロマイト粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
従来の水熱合成法は、塩化マグネシウムおよび塩化カルシウムを原料とし、炭酸源を加えて水熱合成させる方法であり、ドロマイト結晶構造を新規に形成するので反応時間が長く、ドロマイトの純度および結晶性も低い。一方、本発明の製造方法は、製造原料として貝殻の焼成粉末からなる炭酸カルシウム粉末を用い、この炭酸カルシウムの結晶構造に含まれるカルシウムをマグネシウムに置換してドロマイトを製造する方法であり、ドロマイトと類似な結晶構造を有する炭酸カルシウムの結晶構造を利用するので、水熱合成時間が短く、一段の水熱反応によって結晶性の高いドロマイトを短時間に得ることができる。また、本発明の方法によって得られるドロマイト粒子は、平均粒径10μm以下の微細な粉末であり、分散性が良く、さらにカルシウムとマグネシウム以外の貝殻含有金属イオンの一部が水熱処理過程で溶出するため、純度が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の製造方法を各工程に従って具体的に説明する。なお、%は特に示す以外は質量%である。本発明の製造方法の概略を図4に示す。
〔貝殻焼成粉〕
本発明は、炭酸カルシウム源として、貝殻焼成粉末を用いる。貝殻は一般に炭酸カルシウムと少量のコラーゲンなどのタンパク質が交互に層状に重なった構造を持つ無機・有機複合体であり、この炭酸カルシウムの結晶形は貝の種類によってカルサイト、アラゴナイト、もしくはその混合物である。例えば、ホタテ貝やカキ貝ではカルサイト型、アワビ貝やアサリ貝ではアラゴナイト型の炭酸カルシウムである。また、貝殻の炭酸カルシウムは天然石灰石に比べてその結晶子径が小さく、成分的には鉄やアルミニウムなどの金属イオンの含有量が低いことも大きな特徴である。
【0012】
本発明に使用される天然貝殻としては特に限定されず、例えば、ホタテ、カキ、ホッキ、アワビ、ムラサキイガイ、アサリ、ハマグリなどの貝殻が挙げられる。これらの貝殻の付着物を除き、洗浄・乾燥したものは、一般に約5質量%のタンパク質を含み、他の成分はほとんど炭酸カルシウムである。また、これらの天然貝殻は、通常、鉄やアルミニウムなどの金属イオンを含むが、天然石灰石に比べるとその量は少ない。
【0013】
まず水洗乾燥した貝殻を焼成して、表面に付着している有機物や残留貝肉および貝殻を構成しているコラーゲンなどのタンパク質を燃焼除去する。貝殻は焼成処理することによって粉砕しやすくなり、比表面積が増大して、後の水熱処理において反応速度が大きくなる。この加熱処理により、カルサイト系貝殻の炭酸カルシウムはそのまま安定相のカルサイトとなり、アラゴナイト系貝殻の炭酸カルシウムはカルサイトに変化する。この焼成処理により得られる炭酸カルシウムの結晶形には、原料貝殻の種類は大きな影響を及ぼさない。焼成温度は高いほど有機成分が減少するので望ましいが、本発明の製造方法は炭酸カルシウム構造を利用するので、酸化カルシウムになるまで高い温度で焼成しない。具体的には、およそ400〜650℃で1〜3時間焼成すれば良い。
【0014】
次いで焼成貝殻を粉砕して粉末にする。粉末の平均粒径は3μm〜8μmであればよい。粉砕手段はボールミル、ロールミル、チューブミル、ジェットミルなど細かく粉砕できるものであればよい。一般に、粒子径は細かいほど後の水熱処理における反応速度が大きくなるので好ましい。また、焼成処理と粉砕処理はいずれを先に行っても良く、あるいは同時に行っても良い。
【0015】
〔懸濁液の調製〕
得られた焼成貝殻粉末を濃度調整した天然ニガリ液、または天然ニガリから得られる塩化マグネシウム水溶液に懸濁し、この懸濁液に水熱処理を施す。天然ニガリ(苦汁、苦塩)は海水を煮つめて製塩した後に残る母液、あるいは粗塩の貯蔵中に空気中の湿気を吸収して溶解分離した液状苦味物質であり、塩化マグネシウムを主成分とする。
【0016】
ニガリには大きく分けて、海水を原料とする直煮製塩法から副生するものと、イオン交換膜式製塩法から副生するものがあり、成分には幾分違いがある。一般的にニガリに多く含まれている成分は、順に塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化カリウムであり、亜鉛、鉄など海水中のミネラル分は製塩法によって異なる。また、海水の代わりに岩塩を原料とした製塩過程から副生するニガリもあるが、本発明では、いずれのニガリを用いてもドロマイトの生成に大きな影響を受けない。水熱反応における重要な点は、懸濁液中のマグネシウムイオン濃度、ならびに焼成貝殻粉末中のカルシウムイオンとマグネシウムイオンのモル比である。従って、天然ニガリやこれから得られる塩化マグネシウムを用いても何ら問題はない。天然ニガリは現在、豆腐製造などの食品製造に用いられており、さらには健康食品サプリメントとして多くの製品が市販されている。従って、人体に対する安全性においては信頼できる原料である。
【0017】
〔水熱処理〕
上記懸濁液を水熱処理する。水熱処理条件としては、密封反応容器を用いた場合には200℃以上、例えば200℃〜280℃に加熱すればよいが、反応効率を高めるには220〜280℃、特に240〜270℃がより好ましい。水熱処理時間は12時間〜48時間であるが、概ね12時間〜24時間であれば良い。この水熱処理では加圧操作を特に施す必要はなく、密封状態での加熱による自然発生圧で十分である。具体的には、容器内の圧力は反応懸濁液の充填率で異なるものの、おおよそ数メガパスカル(MPa)になるが、特に調整する必要はない。
【0018】
水熱処理装置の材質や構造は限定されない。上記加熱温度の密封加熱に耐えられるものであればよい。なお、ステンレス製容器でも溶出金属イオンは無視し得る量であるが、食品や医薬品の添加物に利用する場合はテフロン(登録商標)樹脂で内張りした容器を用いることが好ましい。また、内部の反応物を水熱処理中に撹拌もしくは振とうできるかき混ぜ機能を有する装置が反応速度を増大させる観点から好ましい。具体的には、例えば、攪拌翼付きオートクレーブ反応容器に、天然ニガリまたは塩化マグネシウム水溶液と3〜35質量%相当の焼成貝殻粉末を含む懸濁液を入れ、240〜270℃で12〜48時間、水熱処理を行うと良い。
【0019】
焼成した貝殻粉末の懸濁液を水熱処理することによって、貝殻粉末中の炭酸カルシウムのカルシウムイオンと懸濁液中に溶存しているマグネシウムイオンとのイオン置換が起こり、炭酸カルシウム構造がドロマイト構造に変化してドロマイト粒子が生成する。このカルシウムイオンとマグネシウムイオンの置換が継続して進行し、ドロマイト粒子が成長することにより、粒子径の比較的そろった高結晶性のドロマイト粒子が得られる。
【0020】
また、水熱処理の際に貝殻に含まれる他の金属イオンも溶出するが、濃度が小さいため、析出ドロマイト中に取り込まれる量は少なくなる。このため、生成ドロマイト粒子は、本来少ない金属イオン量がさらに減少してドロマイト純度は高いものになる。また、この水熱処理では天然ニガリまたはこれより得られる塩化マグネシウム以外は化学薬品を使用しないので、廃液の量は少なく、その後処理も必要ない。
【0021】
この水熱処理が貝殻に対して効果的であるのは、貝殻がほぼ常温・常圧下で貝の生理作用によって形成されたものであり、石灰石などの鉱物質炭酸カルシウムよりも生成期間が格段に短く、そのため反応性が高いことにある。石灰石は地殻の続成作用をきわめて長い期間受けて結晶化が進んだ炭酸カルシウムが主成分であり、本発明のような温和な水熱処理条件では上記のようなドロマイト化反応は円滑に進まない。すなわち、バイオミネラリゼーションにより生成した化学反応性の高い炭酸カルシウムであるという貝殻の特色を活用したものである。
【0022】
上記懸濁液のMg/Caモル比は1.0〜2.5が好ましく、Mg/Caモル比=2がより好ましい。Mg/Caモル比を1〜4の範囲で上記水熱処理を行なうと、該モル比=1ではドロマイトが生成するもののカルサイト分が多く、該モル比=3〜4ではドロマイトと共にマグネサイトが生成し、モル比が高いほどマグネサイトが多くなる。モル比=2ではドロマイト量が最も多く、副生成物が少ない。
【0023】
具体的には、平均粒径約5μmのホタテ貝殻焼成粉を天然ニガリから得た塩化マグネシウム水溶液に懸濁し、該懸濁液のMg/Caモル比=2に調整し、水熱温度240℃〜270℃、水熱時間15時間〜24時間の水熱処理を行なうと、ドロマイト量70%以上、カルサイト量0.5%以下の懸濁液となる。この処理条件下で水熱処理を行うと、図3に示すように、水熱12時間付近でカルサイト量が急激に減少し、ドロマイトの生成量が急激に増加し、概ね水熱18時間付近でカルサイト量0.5%以下、好ましくは殆ど0%であって、生成ドロマイト量が概ね70%以上の懸濁液になる。この懸濁液を固液分離し、洗浄後、105℃で24時間乾燥して、粒子径の揃った微細な結晶の高いドロマイト粒子を得ることができる。
【0024】
〔ドロマイト粒子〕
上記水熱処理によって得られるドロマイト粒子の平均粒径は、原料の貝殻焼成粉の平均粒径に近く、概ね平均粒径7μm〜9μm、粒径の分布幅0.1μm〜20μmである。因みに、製造されるドロマイト粒子の平均粒径が原料の貝殻焼成粉(炭酸カルシウム粉末)の平均粒径に近いことからも、炭酸カルシウム構造を利用してドロマイト構造が形成されることが窺い知れる。また、製造されるドロマイト粒子は、そのX線回折チャートによれば、ドロマイト結晶構造を示す回折ピーク強度が他の回折ピーク強度よりも格段に高く、結晶性が高いことを確認できる。
【0025】
〔本発明方法の利点〕
本発明の製造方法は、原料として天然貝殻のほかに天然ニガリまたはこれから得られる塩化マグネシウム水溶液を用いるだけであり、特別な化学原料は一切使用しないので、低コストでドロマイトを製造することができ、製造したドロマイトも安全性が高い。また、処理過程は、貝殻の焼成・粉砕という前処理と、簡便な水熱処理の二工程のみからなり、貝殻の焼成処理においては、貝殻に付着している有機成分や貝殻を構成しているタンパク質を除去するだけで、著しく高い加熱温度を必要とせず、これによって、石灰石からは得ることのできない化学反応性の高い炭酸カルシウム粉末が得られる。
【0026】
本発明の製造方法において、水熱処理によるドロマイト化は、焼成貝殻粉末を天然ニガリ水溶液に分散させて得た懸濁液を水熱処理することによって、炭酸カルシウム構造のカルシウムがマグネシウムに置換して進行するので、速やかに進行する。また、この水熱反応によれば、カルシウムとマグネシウム以外の共存金属イオンの含有量が減少するという利点もある。
【0027】
製造されるドロマイト粒子は平均粒径10μm以下の微細粒子であり、結晶性が高く、水中に良く分散し、また純度が高く、安全性に優れるので、食品や医薬品の添加物として広く利用することができる。さらに、製造過程において特別な化学薬品を必要とせず、簡便な水熱反応を用いるため廃液は少なく、その後処理がほとんど不用であると云う利点もある。
【0028】
さらに、本発明の製造方法は貝殻焼成粉を原料として利用するので、近年大量に廃棄されている貝殻の再資源化に大きく寄与することができる。近年、食用貝類の水揚げ高は年ごとに増加傾向にあり、その中でもホタテ貝とカキ貝の水揚げ高は年間約50万トンにも上り、従って廃棄される貝殻も急激に増大している。この廃棄貝殻は現状では山積みのまま放置されている例がほとんどであり、悪臭や水質汚染の原因となっている。このため、廃棄貝殻の効果的な消却処分法や資源としての有効な利用が強く望まれている。
【0029】
廃棄貝殻の用途としては、これまで幾つか提案され、一部実施されている。例えば、生貝を粉砕したものは、セメント原料、土壌改良剤、肥料、家畜飼料、水質浄化剤などに利用されており、生貝を焼成したものは、そのまま乾燥剤、排煙脱硫材などに利用されており、さらに他の材料と配合されて養殖用の増殖礁、ブロック材、建築壁材などに利用されている。さらに、廃棄貝殻を粉砕、焼成した後に化学処理を加えて軽質炭酸カルシウム(カルサイト、アラゴナイト)、酸化カルシウム(生石灰)、水酸化カルシウム(消石灰)として化学製品化し、各種の充填材や食品添加物、医薬品添加物として利用する例もある。
【0030】
しかし、従来の方法では再利用される処理量はまだ少なく、大量に廃棄されている貝殻の処理が大きな課題として残されている。本発明の製造方法はこのような現状に対して廃棄貝殻の大量再利用を可能にするものであり、実施が容易であり、高純度のドロマイトが得られることと相まって、産業上の利点が大きい。
【実施例】
【0031】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示す。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0032】
〔実施例1〕
北海道サロマ湖産の水洗乾燥したホタテ貝殻(主成分;カルサイト;図1-a)を、まず約600℃で焼成し、その焼成貝殻を機械的に粉砕した(粗砕後、ジェットミル粉砕、粒子径7.6μm)。得られた焼成貝殻粉末は、粉末X線回折測定によれば、結晶性が向上したカルサイトであった(図1-b、図2-a)。この焼成貝殻粉末を天然海水ニガリに分散させ、貝殻粉末9.1%の懸濁液を調製した。この際、Mg/Caモル比が2になるようにニガリ中の塩化マグネシウムの濃度を調整した。これを撹拌翼付きのオートクレーブ容器に入れ、240℃で24時間、密封状態で撹拌しながら水熱処理を施した。反応後に得た懸濁液を濾過して固体生成物を分別し、これをさらに洗浄して乾燥した。
得られた粉末の固体生成物は、マグネサイトとブルーサイト[Mg(OH)2]が少量混在していたものの、高結晶性のドロマイトが主成分であった(図1-d)。また、走査型電子顕微鏡のよる粒子形状の観察では三方晶系特有の角張った粒子が見られた(図2-b)。また、レーザー式粒度分布測定法によれば、反応時間と共に粒子径は大きくなり、粒度分布は幾分狭くなることがわかった。24時間後のものは約9.2μmの平均粒子径であり、水熱処理する前のカルサイト粒子の7.6μmに比べてやや大きくなった。
焼成貝殻(カルサイト)粉末と生成ドロマイト粉末について、ICP分析によって化学組成を分析したところ、表1に示すように、Ca含有率が低くなり、Mg含有率が高くなった。これを化学式で示すと、Mg1.77Ca1.00(CO3)2.77であり、Mg/Caモル比は1.77であった。すなわち、成分的にもカルサイトからドロマイト化が進行したことが示された。さらに、他の金属イオンの含有量は水熱処理する前のカルサイトに比べてすべて少なくなり、簡便な水熱処理により純度も向上することが明らかとなった。
【0033】
〔実施例2〕
北海道サロマ湖産の水洗乾燥アサリ貝殻(主成分;アラゴナイト;図1-b)を、まず約600℃で焼成し、その焼成貝殻を機械的に粉砕した(粗砕後、ジェットミル粉砕、粒子径7.3μm)。得られた焼成貝殻粉末は加熱によって結晶形が変化し、図1-cと同じく結晶性が向上したカルサイトであった(図1-c)。これを天然ニガリから得られた塩化マグネシウム水溶液に懸濁させ、貝殻粉末9.1%の懸濁液を調製した。この際、Mg/Caモル比が1になるようにニガリ中の塩化マグネシウムの濃度を調整した。これを実施例1で用いたオートクレーブ容器に入れ、270℃で16時間、密閉状態で撹拌しながら水熱処理を行った。反応後に得られる懸濁液をろ過して固体生成物を分別し、これをさらに洗浄したのち、乾燥した。
得られた固体生成物は、粉末X線回折測定によれば、図1-dと同じドロマイトを主成分とするものであり、レーザー式粒度分布測定法によれば、約8.8μmの平均粒子径であった。また、ICP分析によって生成炭酸カルシウムの化学組成を分析したところ、化学式で示すとMg1.11Ca1.00(CO3)2.11であり、Mg/Caモル比は1.11であった。他の金属イオン含有率は表1とほぼ同じものが得られることが明らかとなった。
【0034】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】原料ホタテ貝殻(a) 、原料アサリ貝殻(b)、及びそれらの焼成粉末(c)と水熱処理によって得られた固体生成物(d)の粉末X線回折図。
【図2】原料ホタテ貝殻の焼成粉末(a)と水熱処理によって得られた固体生成物(b)の走査型電子顕微鏡写真。
【図3】水熱処理における原料カルサイトと生成ドロマイトの存在割合の経時変化を示す図
【図4】本発明の処理方法の概略工程図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貝殻を焼成、粉砕して得た炭酸カルシウム粉末を塩化マグネシウム水溶液に懸濁させ、この懸濁液を水熱処理することによって、平均粒径10μm以下の微細な結晶性ドロマイト粒子を製造することを特徴とするドロマイト粒子の製造方法。
【請求項2】
貝殻を400℃〜650℃で焼成し、粉砕して得た炭酸カルシウム粉末を用いる請求項1に記載するドロマイト粒子の製造方法。
【請求項3】
上記懸濁液を、オートクレーブ容器に入れ、200℃〜280℃で12時間〜48時間加熱処理する請求項1または請求項2に記載するドロマイト粒子の製造方法。
【請求項4】
上記懸濁液のMg/Caモル比が1.0〜2.5である請求項1〜請求項3の何れかに記載するドロマイト粒子の製造方法。
【請求項5】
上記懸濁液の水熱処理によってドロマイト量70%以上、カルサイト量0.5%以下の懸濁液とし、この懸濁液を固液分離し、洗浄後、乾燥して平均粒径7μm〜9μm、粒径の分布幅0.1μm〜20μmの結晶性ドロマイト粒子を得る請求項1〜請求項4の何れかに記載するドロマイト粒子の製造方法。
【請求項6】
貝殻がホタテ、カキ、ホッキ、アワビ、ムラサキイガイ、アサリ、ハマグリの1種または2種以上を組み合わせたものである請求項1〜請求項4の何れか記載するドロマイト粒子の製造方法。
【請求項7】
塩化マグネシウム水溶液として、天然ニガリ液または天然ニガリから得た塩化マグネシウム水溶液を用いる請求項1〜請求項6の何れかに記載するドロマイト粒子の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−230923(P2008−230923A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−74703(P2007−74703)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年9月22日 日本化学会東北支部発行の「平成18年度 化学系学協会東北大会プログラムおよび講演予稿集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年10月12日 日本セラミックス協会東北北海道支部・同基礎科学部会発行の「平成18年度日本セラミックス協会東北北海道支部研究発表会 第26回基礎科学部会東北北海道地区懇話会 講演要旨集」に発表
【出願人】(506312043)日本天然素材株式会社 (7)
【Fターム(参考)】