説明

ドープト層を有する有機発光ダイオード

有機発光ダイオードは、下部電極(2)及び上部電極(8)、有機エレクトロルミネセント層(5)、並びに一方の電極と接触している少なくとも1つのドープされた有機層(3;7)を有する。本発明に従って、この有機層のドーピングレベルは電極との界面において、この有機層の中心部においてより高くされている。本発明により、ダイオードの発光効率が実質的に向上される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は:
基板、
電極の種類はアノード及びカソードに相当するとして、基板と同一側の第1の種類の下部電極、及び基板と反対側の第2の種類の上部電極、
下部電極と上部電極との間に挿入された有機放射性エレクトロルミネセント層、並びに
一方の電極と接触している少なくとも1つドープト有機層であり、該電極とエレクトロルミネセント層との間に挿入され、接触している電極がカソードであるときドナードーパントでドープされており、且つ/或いは接触している電極がアノードであるときアクセプタドーパントでドープされている有機層、
を有する有機発光ダイオードに関する。
【0002】
本発明はまた、同一基板に属する上記ダイオードのアレイを有する照明パネル又は画像ディスプレーに関する。
【背景技術】
【0003】
特許文献1の第2頁にて教示されているように、上記のドープト有機層により、電荷が注入され、アンドープの有機注入層及びアンドープの有機輸送層を用いる場合より遙かに低い電気抵抗で、該有機層が接触している電極とエレクトロルミネセント層との間を輸送されることが可能になる。故に、この種のダイオードへの供給電圧が実質的に低下され、その発光効率が向上される。
【0004】
エレクトロルミネセント放射層への電荷(電子及び正孔)の注入・輸送のために、従来の電荷注入層及び輸送層に代えてドープト有機層を用いることの利点は以下の2つである:
− 電荷注入障壁の低下、
− 電荷注入層及び輸送層がドーピングのおかげで高い導電率を有することによる、これらの層における抵抗損の低減。
【0005】
これらの2つの既知の利点は、故に、電荷を注入し輸送するための有機層をドーピングすることに頼るものである。しかしながら、所望の注入特性と所望の輸送特性との双方を同時に最適化させ得る材料ドーピングレベルを見出すことは困難である。
【特許文献1】欧州特許第0498979号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の2つの利点を最適化する手段を提供することを1つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑み、本発明の一態様に従った有機発光ダイオードは:
基板、
電極の種類はアノード及びカソードに相当するとして、基板と同一側の第1の種類の下部電極、及び基板と反対側の第2の種類の上部電極、
下部電極と上部電極との間に挿入された有機放射性エレクトロルミネセント層、並びに
一方の電極と接触している少なくとも1つドープト有機層であり、該電極とエレクトロルミネセント層との間に挿入され、接触している電極がカソードであるときドナードーパントでドープされており、且つ/或いは接触している電極がアノードであるときアクセプタドーパントでドープされている有機層、
を有し、
少なくとも1つのドープされた有機層のドーピングレベルは、該有機層が接触している電極と該有機層との界面において、該有機層の中心部においてよりも高くされている。
【0008】
より正確には、一方の電極と接触している層は、接触している電極がカソードであるときにはドナードーパントでドープされた有機材料であり、且つ/或いは接触している電極がアノードであるときにはアクセプタドーパントでドープされた有機材料である。用語“ドナードーパント”又は“n型ドーパント”は、この材料のLUMO準位付近の電子エネルギー準位密度を増大させることができるドーパントを意味するとして理解され、一方、用語“アクセプタドーパント”又は“p型ドーパント”は、この材料のHOMO準位付近の正孔エネルギー準位密度を増大させることができるドーパントを意味するとして理解される。このドーピングにより、“ホスト”の有機材料とドーパントとの間での電荷輸送、すなわち、ホスト材料のn型ドーピングの場合の、ドーパントからホスト材料への電子輸送、及びホスト材料のp型ドーピングの場合の、ホスト材料からドーパントへの電子輸送、が存在する。この電荷輸送が起こることを可能にするためには、この輸送に対するポテンシャル障壁が制限されなければならない。故に、ドープされた層(ドープト層)に接触している電極がカソードであるときには、ドナードーパントのHOMO準位エネルギー又はイオン化ポテンシャルと、ドープト層の有機材料のLUMO準位エネルギーとの間の絶対値での差が5eV未満であることが好ましく、且つ/或いはドープト層と接触している電極がアノードであるときには、アクセプタドーパントのLUMO準位エネルギー又は電子親和力と、ドープト層の有機材料のHOMO準位エネルギーとの間の絶対値での差が5eV未満であることが好ましい。ここでは慣例により、HOMO準位又はLUMO準位のエネルギーは、電子の真空エネルギー準位に対して正であるとして計算されている。ドープト層とそれが接触する電極との間のより良好な電荷輸送を確実にするためには、ドープト層と接触している電極がカソードであるとき、ドナードーパントのHOMO準位エネルギー又はイオン化ポテンシャルは、ドープト層の有機材料のLUMO準位エネルギーより高く、且つ/或いはドープト層と接触している電極がアノードであるとき、アクセプタドーパントのLUMO準位エネルギー又は電子親和力は、ドープト層の有機材料のHOMO準位エネルギー以下であることが更に望ましい。
【0009】
ドーパントの本発明に従った定義は、故に、欧州特許第1347518号明細書にて与えられた定義、すなわち、ドーピングは有機基質中での無機半導体化合物の“分散”から成り、故に、この分散の特徴は有機材料と無機化合物との間の接触面積を増大させる目的を有するとする定義(この先行文献の第6頁12行を参照)をカバーしていない。
【0010】
ドーパントの本発明に従った定義は、さらに、米国特許出願公開第2003/143428号明細書に記載されたバッファ層の材料をもたらすものでもない。この文献によれば、この材料は有機化合物をアルカリ金属又はアルカリ土類金属の化合物と混合することによって形成されており(第23節参照)、この混合物は2つの成分の濃度傾斜を有している。記載されているバッファ層は、ここではカソードである電極と直接的に接触しており、故に、n型ドーピング(ドナードーパント)のみが考慮されている。バッファ層は放射性エレクトロルミネセント層と直接的に接触していてもよい(第42節参照)が、何れの場合にも、本発明の意味におけるn型ドープト層ではない。何故なら、この層の混合物に含まれるアルカリ金属又はアルカリ土類金属の化合物が、例え、n型ドーパントとして広く使用されているとしても、混合物に含まれる他の成分(有機化合物)、特に、この文献にて言及されているような“星形”有機化合物については、本発明の意味でn型ドープされることができないからである。何故なら、ここで考えられているn型ドーパントのHOMO準位は、混合物を構成するこれら有機化合物、特に星形化合物である場合、のLUMO準位から離れすぎている、すなわち、0.5eVより大きく離れているからである。このような化合物は、本発明の意味での実効的なn型ドーピングに対する障害となる孤立電子対を与えるアミン官能基を含んでいる。これは、この先行文献以外で、これら星形化合物が一般的に電子伝導体としてではなく正孔伝導体として使用されていることの理由でもある。
【0011】
概して、本発明は特に上述の原理に頼るものであり、それに従って、少なくとも1つのドープト有機層のドーパントのドーピングレベルは、この有機層とそれが接触している電極との間の界面において、このドープト有機層の中心部においてより高くされている。
【0012】
電極との界面においてドープト有機層の中心部においてとは異なるドーピングレベルを有することによって、この界面でのポテンシャル障壁の厚さを低減することと、ドーピングレベルが低いことにより材料の中心領域の電気抵抗を増大させることとの双方が可能になる。このことは、このドープト層の電子又は正孔の電荷注入特性と電荷輸送特性との双方を最適化することを可能にする。好ましくは、この界面には0.2eVより大きいポテンシャル障壁が存在している。
【0013】
故に、この界面は室温にてショットキー接合を形成する。この界面にある電極がカソードであり、この界面にある電極の材料が仕事関数EM1を有する金属であり、且つこの界面においてドナーでn型ドープされた有機層の材料O1がフェルミ準位E1とLUMO(最低非占有分子軌道)準位EC1を有するとき、|EC1−EM1|>0.2eV且つEM1>E1である(逆の条件EM1<E1は対照的にオーミック接触を意味する)。この界面での電子注入の方法は故に以下のようになる:この界面付近の“ドナー”準位にある電子が、無限に電荷を入れられる金属M1へと侵入し、この界面付近の有機半導体材料O1内の“ドナー”準位の過疎化が、この界面にポテンシャル障壁を形成する局所的な正電荷を生じさせ、そして、LUMO準位EC1がこの界面付近で屈曲する。この障壁の厚さは、この屈曲の程度に対応し、数ナノメートル程度である。電位差がダイオードに導電方向に印加されると、発光のため、電子はトンネル効果によってこの障壁を通過する。
【0014】
より一般的には、ドープト有機材料O1に関して、フェルミ準位のエネルギーE1とHOMO(最高占有分子軌道)準位のエネルギーEV1を定義することも可能である。この材料のドナー準位のn型ドーピングはE1−EC1<EV1−E1に反映される。
【0015】
この界面にある電極がアノードであり、この界面にある電極の材料が仕事関数EM2を有する金属であり、且つこの界面においてアクセプタでp型ドープされた有機層の材料O2がフェルミ準位E2とHOMO準位EV2を有するとき、|EV2−EM2|>0.2eV且つEM2<E2である(逆の条件EM2>E2は対照的にオーミック接触を意味する)。この界面での正孔注入の方法は故に以下のようになる:この界面付近の“アクセプタ”準位にある正孔が、無限に電荷を入れられる金属M2へと侵入し、この界面付近の有機半導体材料O2内の“アクセプタ”準位の過疎化が、この界面にポテンシャル障壁を形成する局所的な負電荷を生じさせ、そして、HOMO準位EV2がこの界面付近で屈曲する。この障壁の厚さは、この屈曲の程度に対応し、数ナノメートル程度である。電位差がダイオードに導電方向に印加されると、発光のため、正孔はトンネル効果によってこの障壁を通過する。
【0016】
より一般的には、ドープト有機材料O2に関して、フェルミ準位のエネルギーE2とLUMO準位のエネルギーEC2を定義することも可能である。この材料のアクセプタ準位のp型ドーピングはE2−EC2>EV2−E2という関係によって反映される。
【0017】
好ましくは、前記ドープされた有機層の材料の平均導電率は、前記界面に位置し電極と接触している10nm厚さの該層の薄層部において、該電極から20nm以上離れた該ドープされた有機層の中心部に位置する少なくとも10nm厚さの薄層部においてより3倍以上高い。
【0018】
このドープト有機層の導電率は、後述されるこのドープト有機層を得るための方法と同様の方法、特に、2つの測定電極間のエッチングされた該層の抵抗値変化を測定すること、によって測定されてもよく、ダイオードの電極から20nm以上離れたところである中心部でエッチングされた10nmに対する抵抗値変化は、ダイオード電極付近で該電極に接触してエッチングされた10nmに対する抵抗値変化の1/3以下にされる。
【0019】
好ましくは、前記ドープされた有機層の材料の平均ドーパント濃度は、前記界面に位置し電極と接触している該層の薄層部において、該電極から10nm以上離れた該ドープされた有機層の中心部に位置する薄層部においてより3倍以上高い。
【0020】
薄層部の厚さは使用される分析方法に依存する。好ましくは、その厚さは10nm程度である。分析方法として、例えば、以下を使用することが可能である:
− SIMS(二次イオン質量分析);
− RBS(ラザフォード後方散乱);
− NRA(核反応分析)。
【0021】
これらの方法を用いて本発明に従ったドーパント濃度勾配を確立するためには、それ自体知られた方法を用いて較正試料を準備する必要があり得る。
【0022】
好ましくは、ダイオードは少なくとも1つのドープされた有機層とエレクトロルミネセント層との間に挿入された有機阻止層を有し、この有機阻止層は、該ドープされた有機層がカソードと接触しているとき正孔を阻止し、且つ該ドープされた有機層がアノードと接触しているとき電子を阻止する。変形例によれば、この阻止層のベース材料はドープト有機層と同一とされ、その場合、この材料は該阻止層の厚さ内で有意にはドープされない。
【0023】
故に、本発明に従ったダイオードのドープト有機層の材料が、接触している電極との界面と該層の中心部との間の該層の薄層部内でドーパント濃度勾配を有する場合、逆に、この中心部と該層の該電極とは反対側の境界との間に位置する該層の反対側の薄層部においては、この同一ドーパントの濃度は、例えば該層の薄層部を電荷阻止のために残すため、遙かに低いか0であるかにされてもよい。しかしながら、本発明に従ったダイオードのドープされた電荷注入・輸送層によりもたらされる低い抵抗損という上述の利点を保持するためには、この有機層の材料のドーパント濃度が、該層が接触している電極と反対側の該層の境界において0又は実質的に0であるとき、該層の0又は実質的に0の濃度を有する薄層部の厚さは、0でないドーパント濃度を有する薄層部の厚さより厳格に小さいままにされることが好ましい。そして、0でない濃度を有する薄層部はドーパント濃度勾配を有する領域を含む。0のドーパント濃度を有する層は、明らかに、より低い導電率を有する。その厚さを制限することにより、抵抗損も抑制され得る。しかしながら、指摘されるべきは、米国特許出願公開第2003/111666号明細書に記載されたダイオードの電荷注入・輸送層の少なくとも1つは、電極と接触しているドープされた薄層部と、エレクトロルミネセント層(図9A及び9Bにおいて915及び932で参照された薄層部)と直接的に接触していない場合に一般的に阻止層と接触している(図2B、4B、5、6B、7、9A及び9B)ドープされない薄層部とを含んでいることである。どのような場合にも、この先行文献においては、アンドープト薄層部の厚さ(概して40nm)はドープト層の厚さ(5nmではないにせよ、図9A及び9Bの薄層部916及び931に関して高々30nm)より厳格に大きく、本発明とは対照的に、低い抵抗損を維持することができないものである。
【0024】
阻止層は欧州特許第1017118号明細書に“抑制層(restraining layer)”として記載されている。この阻止層は、高い発光効率を維持するために、エレクトロルミネセント層の外側での電子/正孔再結合を制限するように機能する。この阻止層は、“トリプレット”と呼ばれる電子/正孔励起子の放射性再結合を可能にするリン光性ドーパントをエレクトロルミネセント層が含むときに特に有用である。なぜなら、これら励起子は数百ナノメートルにわたって拡散することが可能なライフタイムを有するからであり、この阻止層はこの電子阻止又は正孔阻止を、非放射性再結合を防止するのにさらに有用なものにする。読者は、例えば、有機発光ダイオードの発光効率の改善に対するトリプレット及びリン光性ドーパントの重要性を述べているN.K.Patel、S.Cina及びJ.H.Burroughesの文献「高効率有機発光ダイオード(High-Efficiency Organic Light-Emitting Diodes)」(IEEE Journal on Selected Topics in Quantum Electronics、2002年3月-4月、第8巻、第2号、p.346-361)を参照してもよい。
【0025】
本発明の対象は、本発明に従ったダイオードのアレイを有する照明パネル又は画像ディスプレー画面にも及び、このアレイのダイオード群は同一基板によって支持される。
【0026】
好ましくは、この基板は駆動/供給回路のアレイを有するアクティブマトリックスである。
【0027】
好ましくは、これらダイオードの下部電極はカソードである。駆動/供給回路の各々はパネル又は画面の1つのダイオードに対応しており、故に、このダイオードに直列接続された電流変調用n型トランジスタを含んでいる。
【0028】
この“反転”構造とn型変調用トランジスタとの組み合わせは、各トランジスタがダイオードを該ダイオードの端子間電圧降下とは無関係に駆動することを可能にする。
【0029】
好ましくは、基板は非晶質シリコンから成る半導体材料の層を含んでおり、各変調用トランジスタはこのシリコン層の一部を含んでいる。
【0030】
本発明は、非限定的な例として与えられ且つ添付図面を参照する以下の説明によって、より十分に理解されるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の第1実施形態に従ったダイオードの製造方法を図1を参照しながら説明する。
【0032】
ガラス基板1上に導電性材料M11から成る層20が堆積される。この導電性材料は、例えば、真空スパッタリングによって堆積されたITO(インジウム錫酸化物)である。
【0033】
この層20上に、ここではPEDOT−PSSである有機材料O11から成る導電性平坦化層21が堆積される。PEDOT−PSSはPEDOT(ポリ3,4-エチレン・ジオキシチオフェン)とPSS(ポリスチレン・スルホン酸)との混合物であり、この材料は仕事関数が比較的高い(>5eV)ことから、電子の輸送に非常に適しているとは認識されていない。しかしながら、後述されるドープされた下部有機層3との界面での高レベルのn型ドーピングにより、該層に電子を注入することが可能である。
【0034】
層20と層21との積層体は、この場合にはカソードとして作用する下部電極2を形成する。
【0035】
この二層電極2上にn型ドープト材料O1から成る下部有機層3が堆積される。本発明に従って、ドナードーパント濃度は図3内の曲線によって例示されるように、電極2との界面(x=0)でこの材料O1の中心部(x>0)より遙かに高くされる。
【0036】
このドーピングプロファイルは、好ましくは、下部有機層3の導電率がこの電極2との界面で下部電極3の中心部より3倍以上高くなるように適合される。
【0037】
この有利な導電率プロファイルを確実に実現するため、例えば図5の構成、すなわち、距離l=1.25mmだけ離され且つ長さd=14mmにわたって延在している2つの金属電極(図の斜線部)間に材料O1が堆積チャンバー内で堆積された構成が使用され、これらの電極は抵抗計に接続される。この抵抗計は、ここでは、直列接続されたDC電圧E=10Vを生成する電圧発生器と標準抵抗R=4.5MΩとを有している。標準抵抗の端子間電圧の測定により、2つの電極間の抵抗値が与えられる。同様な如何なる装置も本発明の範囲を逸脱することなく使用され得る。
【0038】
この有利な導電率プロファイルを確実に実現するため、O1の堆積時点でのドーパントの割合は以下を得るように適合される:
− 電極2上に堆積される層3の最初の10nmから20nmに対し、10nm当たり30mVの標準抵抗端子間電圧の変化、及び
− 続いて堆積される具体的には層3の中心部に相当する何十nmかに対し、10nm当たり12mVのみの標準抵抗端子間電圧の変化。
【0039】
次に、このドーピング較正法を用いて堆積されたドープト下部有機層3上に、材料O3から成る有機エレクトロルミネセント層5が堆積される。この材料O3は、一般的にはドナー又はアクセプタ元素でドープされないが、好ましくは、例えば先述の文献「高効率有機発光ダイオード」にて例示されているように、蛍光性又はリン光性のドーパントでドープされる。
【0040】
この有機エレクトロルミネセント層5上に、p型にドープされた材料O2から成る上部有機層7が堆積される。ここでは、アクセプタドーパント濃度はこの層の厚さ全体にわたってほぼ一定である。他の例では、アクセプタドーパント濃度は、該層を覆うことになる電極8との界面において、この材料O2の中心部においてより遙かに高くされる。
【0041】
このドープト上部有機層7上に、金属M2から成り、ここではアノードである上部電極8として作用する層が堆積される。
【0042】
こうして、本発明に従ったダイオードが得られる。
【0043】
本発明により、ドープト有機層のドーピングを該層が接触している電極との界面において増大させることは、以降の例が例示するように、所定の電流ひいては所定の輝度を得るのに必要とされる供給電圧を実質的に低下させることを可能にする。本発明は有機発光ダイオードの発光効率を大幅に向上させ得るものである。
【0044】
図2に示される本発明の第2実施形態に従ったダイオードの製造方法は、第1実施形態の説明に従うものであるが、第2実施形態においては以下が介在される:
− ドープト層3とエレクトロルミネセント層5との間の、有機材料O4から成る正孔阻止層4、及び
− エレクトロルミネセント層5とドープト層7との間の、有機材料O5から成る電子阻止層6。
【0045】
故に、本発明に従った他のダイオードが得られる。
【0046】
本発明はまた、上記ダイオードのアレイを有する照明パネル又は画像ディスプレーにも当てはまる。
【0047】
本発明について、下部電極がカソードであり上部電極がアノードである、下部ドープト有機層及び上部ドープト有機層の双方を有するダイオードを参照しながら説明してきた。しかしながら、当業者に明らかであるように、本発明は、添付の請求項の範囲を逸脱することなく他の形式のダイオードにも適用され得るものである。
【0048】
以下の実施例は本発明を例示するものである。
【0049】
この実施例にて示されるダイオードは、これまで説明してきた本発明の第2実施形態の構造と同一の構造を有している。
【0050】
このダイオードは、基板1から上方に行くに従って、以下の層を有している:
− 約150nmの厚さを有するITOで形成された金属層20。
− 40nmの厚さを有する、バイエル社からの商品名BAYTRON VPAI 4083又はBAYTRON VPCH 8000のPEDOT−PSSで形成された層21;
この層は有利なことにスピンコーティングによって製造され、非常に良好な平坦性を確実にするが、このことは良好なダイオード性能を実現することと、上部層の厚さ、ひいてはコストを抑制することとに非常に有利である。このことはまた、ここでは電子を輸送するためにPEDOT−PSS材料が使用されているので、カソードの動作にも寄与する。必要であれば、この層の厚さは実質的に、より厚くされてもよい。
− 100nmの厚さを有する、セシウムを用いてn型ドープされた4,7-ジフェニル−1,10-フェナントロリン(“Bphen”)で形成された下部層3;
セシウムのドーピングレベルは、上述のように、下部電極との界面において該層の中心部で得られる導電率より3倍高い導電率を得られるように適合されている。この層の中心部分のドーピングレベルは、エレクトロルミネセント層5の発光効率を制限する虞を生じさせるセシウムの拡散の虞を抑制するように十分に低くされる一方で、ダイオード内の抵抗損を抑制することが可能な導電率レベルが得られるように十分に高くされることが好ましい。
− 10nmの厚さを有する、アンドープの4,7-ジフェニル−1,10-フェナントロリン(Bphen)で形成された正孔阻止層4。
− 赤色の放射線を放出可能な、20nmの厚さを有するエレクトロルミネセント層5;
この層の材料は、2004“TER-004”と呼ばれるリン光性ドーパントを用いて20重量%までドープされた2004“TMM-004”と呼ばれる製品としてコビオン社から供給されている。
− 10nmの厚さを有する、コビオン社からの“SPIRO TAD”と呼ばれる電子阻止層6。
− Novaled社からのNDP2と呼ばれる製品を用いて2重量%までp型ドープされたコビオン社からの“SPIRO TTB”で形成された、100nmの厚さを有する上部層7;
ここでは、この層の厚さの全体にわたってドーピングレベルはほぼ一定である。
− 約80nmの厚さを有するSiOから成る封止・保護層で覆われた、アノードとして機能する約15nmの厚さを有する金属銀層。
【0051】
こうして得られた本発明に従ったダイオードの電流−電圧特性及び輝度特性が、図4に、白抜きの円記号から成る曲線としてプロットされている。
【0052】
比較のため、ドープト下部層3のドナードーパント濃度が一定に保たれているという違いを除いて、これまで説明してきたものと同一のダイオードを製造した。
【0053】
こうして得られた比較のダイオードの電流−電圧特性及び輝度特性も、図4に、黒塗りの正方形記号から成る曲線としてプロットされている。
【0054】
本発明に従った実施例で100cd/m2の輝度を得るのに必要な電圧は、比較例の8.2Vから4.3Vまで低下しており、カソードと接触しているドープト下部有機層のドーピング傾斜は、所定の電流ひいては所定の輝度を得るのに必要な供給電圧をかなり低減させ得ることが見て取れる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に従ったダイオードの、阻止層を含んでいない第1実施形態を例示する図である。
【図2】本発明に従ったダイオードの、阻止層を含んでいる第2実施形態を例示する図である。
【図3】図1又は図2のダイオードの下部電極に接触しているドープト有機層におけるドーパント濃度の変化を、この電極の界面からの距離の関数として例示する図である。
【図4】一例として、本発明の第2実施形態に従ったダイオードの電流−電圧特性(白抜きの円記号)を、従来技術に従ったダイオードのそれ(黒塗りの正方形記号)と比較して示す図である。
【図5】有機層の中心における導電率に対する表面導電率を評価する回路の回路図を概略的に例示する図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板、
電極の種類はアノード及びカソードに相当するとして、基板と同一側の第1の種類の下部電極、及び基板と反対側の第2の種類の上部電極、
下部電極と上部電極との間に挿入された有機放射性エレクトロルミネセント層、並びに
一方の電極と接触しているドープされた有機材料から成り、該電極とエレクトロルミネセント層との間に挿入されている少なくとも1つ層であり、前記有機材料は、接触している電極がカソードであるときドナードーパントでドープされており、且つ/或いは接触している電極がアノードであるときアクセプタドーパントでドープされている少なくとも1つの層、
を有する有機発光ダイオードであって:
少なくとも1つのドープされた有機層のドーピングレベルは、該有機層が接触している電極と該有機層との界面において、該有機層の中心部においてよりも高いことを特徴とするダイオード。
【請求項2】
接触している電極がカソードであるとき、ドナードーパントは前記ドープされた材料のLUMO準位付近の電子エネルギー準位密度を増大させることができ、接触している電極がアノードであるとき、アクセプタドーパントは前記ドープされた材料のHOMO準位付近の正孔エネルギー準位密度を増大させることができることを特徴とする請求項1に記載のダイオード。
【請求項3】
前記ドープされた有機層の材料のドーパント濃度が、該層が接触している電極と反対側の該層の境界において0又は実質的に0であるとき、該層の0又は実質的に0の濃度を有する薄層部の厚さは、0でないドーパント濃度を有する薄層部の厚さより厳格に小さいことを特徴とする請求項1又は2に記載のダイオード。
【請求項4】
接触している電極がカソードであるとき、ドナードーパントのHOMO準位エネルギー又はイオン化ポテンシャルと前記有機材料のLUMO準位エネルギーとの間の絶対値での差は5eV未満であり、且つ/或いは接触している電極がアノードであるとき、アクセプタドーパントのLUMO準位エネルギー又は電子親和力と前記有機材料のHOMO準位エネルギーとの間の絶対値での差は5eV未満であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載のダイオード。
【請求項5】
前記ドープされた層と接触している電極がカソードであるとき、ドナードーパントのHOMO準位エネルギー又はイオン化ポテンシャルは、前記ドープされた層の有機材料のLUMO準位エネルギーより高く、且つ/或いは前記ドープされた層と接触している電極がアノードであるとき、アクセプタドーパントのLUMO準位エネルギー又は電子親和力は、前記ドープされた層の有機材料のHOMO準位エネルギー以下であることを特徴とする請求項4に記載のダイオード。
【請求項6】
0.2eVより大きいポテンシャル障壁が前記界面に存在していることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載のダイオード。
【請求項7】
前記ドープされた有機層の材料の平均導電率は、前記界面に位置し電極と接触している10nm厚さの該層の薄層部において、該電極から20nm以上離れた該ドープされた有機層の中心部に位置する少なくとも10nm厚さの薄層部においてより3倍以上高いことを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載のダイオード。
【請求項8】
前記ドープされた有機層の材料の平均ドーパント濃度は、前記界面に位置し電極と接触している該層の薄層部において、該電極から10nm以上離れた該ドープされた有機層の中心部に位置する薄層部においてより3倍以上高いことを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載のダイオード。
【請求項9】
少なくとも1つのドープされた有機層とエレクトロルミネセント層との間に挿入され、該ドープされた有機層がカソードと接触しているとき正孔を阻止し、且つ該ドープされた有機層がアノードと接触しているとき電子を阻止する有機阻止層を有することを特徴とする請求項1乃至8の何れか一項に記載のダイオード。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れか一項に記載のダイオードのアレイを有する照明パネル又は画像ディスプレー画面であって、前記アレイのダイオード群が同一基板によって支持されていることを特徴とする照明パネル又は画像ディスプレー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−522395(P2008−522395A)
【公表日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−541986(P2007−541986)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【国際出願番号】PCT/EP2005/056196
【国際公開番号】WO2006/056586
【国際公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【出願人】(501263810)トムソン ライセンシング (2,848)
【氏名又は名称原語表記】Thomson Licensing 
【住所又は居所原語表記】46 Quai A. Le Gallo, F−92100 Boulogne−Billancourt, France
【Fターム(参考)】