説明

ナスカンおよびそれに用いるフレームの製造法

【課題】強度を維持しながらナスカンを軽量にする。そのようなナスカンの効率的な製造法を提供する。
【解決手段】リング状のベース3と、そのベースの中央部に上下に渡される縦桟4と、ベースの下端から前方に立ち上がり、先端が上を向いているフック5とを備え、縦桟4の上部近辺に前側に突出する突出部4aが設けられたフレーム2と、突出部4aの側面に形成された支持孔6aに回動自在に係止され、フック5の内面側に弾力的に当接するバネ片6とからなるナスカン1。フレーム2は金属板からプレス成形した一体成形品であり、突出部4aが切り曲げにより円弧状ないし半円状に湾曲するように突出形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はナスカン(茄子鐶)およびそれに用いるフレームの製造法に関する。さらに詳しくは、ランドセルなどに用いるナスカンおよびそれに用いるフレームの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
ランドセルの側襠には、上履きの袋や水筒などの小物を吊り下げるためのナスカンが取り付けられている。たとえば特許文献1や特許文献2には、リング状のベースと、そのベースの中央部に上下に渡される縦桟と、ベースの下端から前方に立ち上がり、先端が上を向くように湾曲しているフックとを備えたフレーム(ナスカン本体)と、前記縦桟の上部近辺から前向きに突出する突出片の側面に回動自在に挿入した略クリップ状のバネ片とからなるナスカンが記載されている。
【0003】
ベースをリング状にするのは軽量化のためであり、縦桟を設けてその上部近辺に突出片を設けるのは、バネ片を取り付ける係止穴を加工するためである。特許文献3には、このようなナスカンを肩ベルトの前側上部に取り付けること、さらに吊り下げたものが強い力で引かれたときに、フック部が弾性変形して使用者を保護する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−124816号公報
【特許文献2】実公平7−15452号公報
【特許文献3】登録実用新案公報第3113296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的なナスカンのフレームは、合成樹脂製であるか、あるいは亜鉛ダイキャスト製である。合成樹脂製の場合は軽量であるが、強度が低いという問題がある。さらに見栄えをよくするために金属メッキをすることもあって、製造コストが高い。他方、亜鉛ダイキャスト製のフレームの場合は、引っ張り強さが比較的低いため、強度を高くしようとすると重量が重くなる。本発明は強度を維持しながら軽量にできるナスカンを提供すること、およびそのようなナスカン用のフレームの効率的な製造法を提供することを技術課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のナスカンは、リング状のベースと、そのベースの中央部に上下に渡される縦桟と、ベースの下端から前方に立ち上がり、先端が上を向いているフックとを備え、前記縦桟の上部近辺に前側に突出する突出部が設けられたフレームと、前記突出部の側面に形成された支持孔に回動自在に係止され、前記フックの内面側に弾力的に当接するバネ片とからなり、前記フレームが金属板からプレス成形した一体成形品であり、前記突出部が切り曲げにより湾曲するように突出形成されていることを特徴としている(請求項1)。
【0007】
このようなナスカンにおいては、前記ベースの上端に、吊り片を通すためのリング状の吊り部が一体に設けられているものが好ましい(請求項2)。さらに前記フレームがアルミニウム板またはアルミニウム合金板からプレス成形されたものであるものが好ましい(請求項3)。
【0008】
本発明のナスカン用のフレームの製造法は、前述のナスカンに用いるフレームの製造法
であって、金属板に突出部を切り曲げ形成し、外側および内側の輪郭を打ち抜き、フックを前方へ立ち上げ成形し、ついで前記突出部に支持孔を穿孔することを特徴としている(請求項4)。
【発明の効果】
【0009】
本発明のナスカン用のフレーム(請求項1)は、金属板から成形した一体成形品である
ので、強度が高く軽量である。また、バネ片の支持孔を、縦桟の上部近辺 本発明のナスカン(請求項1)は、フレームが金属板からプレス成形した一体成形品であるので、強度が高く、軽量である。また、バネ片の支持孔を設ける突出部を切り曲げにより湾曲するように突出形成するので、縦桟の曲げ強度が高くなる。
【0010】
このようなナスカンにおいて、前記ベースの上端に、吊り片を通すためのリング状の吊り部が設けられている場合(請求項2)は、ランドセルなどの鞄、袋物に対して容易に取り付けることができる。さらに前記フレームがアルミニウム板またはアルミニウム合金板からプレス成形されたものである場合(請求項3)は、一層軽量で見栄えがよく、さらに錆びにくいので耐久性が高い。
【0011】
本発明のナスカン用のフレームの製造法(請求項4)によれば、前述のナスカンのフレームを、金属板から容易に、効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は本発明のナスカンの一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図2はそのナスカンの背面図である。
【図3】図3はそのナスカンの側面図である。
【図4】図4は本発明のナスカン用のフレームの製造法の一実施形態を示す工程説明図である。
【図5】図5は図4の製造法により加工している途中のシート材の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に本発明のナスカンを示す。ナスカン1はフレーム2と、そのフレーム2に回動自在に設けられたバネ片6とからなる。
【0014】
フレーム1は金属板をプレス成形することにより得られる一体成形品である。金属板の厚みは材質によっても異なるが、アルミニウムまたはアルミニウム合金の場合で1〜3mmで好ましくは1.6〜2.2mmである。その金属板の材質は、アルミニウム、アルミニウム合金あるいはステンレスなどであり、アルミニウムが好ましい。
【0015】
なお、図1では、前記ナスカン1は、ランドセルの側面部に設けられた吊り片10(二点鎖線)に吊られている。前記吊り片10は、ランドセル、鞄などの携帯品の側面(外周)に取り付けたり、家具、屋内の柱などの構造物に取り付けたり、車、バス、電車などの車両の内部に取り付けたりするものである。
【0016】
前記フレーム2は、縦長で略楕円のリング状のベース3と、そのベース3の中央部に上下に渡されて前記バネ片6の上端を回動自在に支持する縦桟4と、ベース3の下端から前方に立ち上がり、先端が上を向いているフック5とを備えている。
【0017】
前記ベース3は楕円状のほか、ナス状、湾曲部を下方に向けたD字状など、公知の形状を採用しうる。そしてそのベース3の上端には、前記吊り片10を通すためのリング状の吊り部3aが設けられている。吊り部3aは上向きに拡がる逆台形状である。前記縦桟4はベース3の長軸(上下方向)に渡され、リング状のベース3をほぼ二分割し、その楕円
状の開口を2つの開口部3b、3bに分けている。なお、前記縦桟4がリングの長軸に渡されていると、ベース3の強度を高める上で、そしてデザイン的な美観を高める上で好ましい。その縦桟4は正面視でほぼ一直線に形成されているが、左右のどちらかに湾曲させたり、S字状に湾曲させたりしてもよい。なお、湾曲させる場合には、縦桟4の中央部(突出部4a)を中心とする点対称の形状にすると、ベース3の強度が高くなる。
【0018】
前記縦桟4の上部近辺には、図3に示すように、前側に湾曲して突出する突出部(湾曲部)4aが設けられている。突出部4aは側面視で略円弧状ないし半円状に湾曲している。ただし突出部4aの内面側は、多角形状に凹陥している。これはプレス成形における切り曲げ成形のとき、雄型を材料にしっかりと食い込ませ、決め打ちをするためである。この実施形態では略五角形状に凹陥している。突出部4aの幅は縦桟4のうちの突出部以外の平坦な部位よりも太くしている。突出部4aの左右の側面には、支持孔4b、4bが形成されており、それらの支持孔4b、4bにバネ片6の上端が回動自在に挿入されている。支持孔4b、4bは突出部4aの両側面にそれぞれ形成されている。それらの支持孔4b、4bは、一方の支持孔4bが他方の支持孔4bより上方になるように上下の位置をずらしている。
【0019】
前記バネ片6は、縦桟4に上端を係止し、下端を前記フック5の先端の内側に付勢された状態で、その内面に接しており、フック5の上方を閉じている。それにより、従来のナスカンと同様に、フック3に引っ掛けられる携行品の紐などが外れるのを防止している。バネ片6はバネ鋼などの金属線をほぼU字状に折り曲げて形成したものであり、その一方の上端が他方の上端より若干上方に突出している。また、U字状のバネ片6の上端はそれぞれ内向きに折り曲げられて支持部6a、6aとしている。それらの支持部6aのうち上方に突出している側を前記突出部4aの支持孔4b、4bのうち、上方の支持孔4bに挿入し、他方を下方の支持孔4bに挿入する。
【0020】
前記バネ片6はその支持部6a、6aに捻れを生じていない状態で支持孔4b、4bに挿入する。この捻れを生じていない位置をセンター位置とする。バネ片6を支持部6a、6aを軸として回動させると、支持部6a、6aが捻れる。そして、その捻れの反力により、バネ片6はセンター位置に戻ろうとする付勢力が生ずる。その付勢力を利用して、バネ片6の下端がフック5の上端内面に当接させ、フック5の上部を閉じることができる。
【0021】
前記フック5は、図3に示すように、ベース3の下端から前側に湾曲して突出しており、その先端内側にはバネ片6の先端が当接するための止め部5aが形成されている。
【0022】
図4には、前記フレーム2を製造していく工程のフローチャートを示す。さらに図5には、その加工方法を順送加工(プログレッシブ加工)により行うときのシート材11を示す。そのシート材11は、金属板、とくにアルミニウム板を順次プレス加工することにより形成されたものである。以下、そのシート材11を参照しながら本発明のナスカン用のフレームの製造方法を説明する。
【0023】
なお、プログレッシブ加工を行う場合、プレス機械には、プログレッシブ加工用の金型と、シート材料を所定の送りピッチで送るためのロールフィーダまたはグリップフィーダなどのフィード装置を取り付けて使用する。使用するプレスの能力によっては、途中までをプログレッシブ加工し、途中から単独加工するようにしてもよい。さらにすべての工程を単独加工用の金型で成形することもでき、別のプレスで加工することもできる。
【0024】
図4に示す製造方法では、予め用意した金属板の中央部に突出部4aを切り曲げ成形する切り曲げ工程S1と、これに続いて外側および内側の輪郭を打ち抜く打ち抜き工程S2と、フック5を前方へ湾曲成形する曲げ工程S3とからなる。曲げ工程S3のつぎは切り
離し工程S4を行い、さらに後加工で、バネ片6を挿入する支持孔4bを穿孔する工程S5を行う。
【0025】
前記切り曲げ工程S1では、金属板の幅方向の中央付近に前記縦桟4の上部と同じ幅に、2本の平行な裏面まで貫通する切り込み線(剪断線)4c、4cを形成する。それと同時に、切り込み線4c、4cで挟まれた部位を前側、すなわち表側に湾曲させる。このとき、表側には突出部4aに対応する凹陥する雌型を当接し、裏側には雄型を食い込ませて湾曲させる。この際、開口部などが形成されておらず、金属板の全体を押圧できるので、突出部4aを確実に切り起こすことができる。縦桟4のうち、突出部4a以外の細い部分はまだ成形しない。
【0026】
突出部4aの上側の付け根部の裏面では、断面略円弧状の浅い溝(図2の符号4d)が縦方向に延びている。この溝は、先端(図2では下方)に向かうにつれて突出方向に向かうように傾斜している。同様に、突出部4aの下側の付け根部の裏面でも断面略円弧状の浅い溝(図2の符号4e)が縦方向に、上に向かうにつれて前にいくように傾斜して延びている。これらの溝4d、4eは、突出部4aの成形を滑らかにするためのものである。
【0027】
前記打ち抜き工程S2は、4つの工程S2a〜dからなる。最初の工程S2aでは、突出部4aの上方の部位を逆台形状に打ち抜いて吊り部3a(図1参照)の開口12(内側の輪郭)を形成する。同時に突出部4aの下方に角形にコイニング加工を施して段部13を形成する。この段部13は前記フック5の止め部5a(図1参照)となる。このように金属板の上下をプレス加工すると、金型やプレス機械に偏った荷重が加わらないので、加工精度が高くなり、また、金型などの耐久性も高くなる。
【0028】
吊り部3aの開口12を打ち抜く工程S2aに続いて、フレームの右の外側の輪郭と、左の内側の輪郭を打ち抜く工程S2bを行う。右の外側の輪郭を形成する加工では、フックとなる部位14(二点鎖線参照)の先端を超えていくらか左側まで入り込んだところまで切断している。それによりフックの先端を滑らかに形成することができる。また、左右を同時に打ち抜くので、金属板に偏った荷重が加わらず、できあがりの寸法制度が高い。なお、右の外側の輪郭を形成することにより、吊り部3aの右側の細い枠が得られる。しかし内側と外側を順に形成するので、捻れやだれが生じにくい。なお、左の内側の輪郭を打ち抜くことにより、縦桟4の左側の輪郭が得られるが、この部位はまだ細くされていない。
【0029】
次いで前述とは逆に、フレームの左の外側の輪郭と、右の内側の輪郭を打ち抜く工程S2cを行う。なお、左の外側の輪郭は、前の工程の右の外側の輪郭と一緒に打ち抜くこともできる。左の外側の輪郭を形成することにより、ベース3の全体が細いリング状に形成され、上端のみで金属板と連続している状態となる。吊り部3aやフック6も同時に細くされる。しかしいずれも内側と外側を順に形成するので、捻れやだれが生じにくい。さらに先に形成されている縦桟4の突出部4aが補強リブのように作用するので、両側に開口を形成しても、縦桟4が変形するのを防止できる。また、突出部4aは切り込み線(剪断線)4c、4cによって他の部位から離れているので、影響が少ない。
【0030】
打ち抜き工程S2の最後に姿押し工程S2dを行い、全体の形状を整える。前工程で切断した部位のエッジを押して、バリ取り、テーパまたはアール付けをして滑らかにすることもできる。
【0031】
打ち抜き工程S2に引き続き、フック5を前方へ湾曲成形する曲げ工程S3を行う。すなわち、まずフック5となる部位14を前側にL字状に折り曲げ(L曲げ工程S3a)、ついでそのL字状に形成した部位14の先端を上向きに略J字状に湾曲させる(J曲げ工
程S3b)。これによりフレーム2の成形が完了する。
【0032】
曲げ工程S3のつぎは、得られたフレーム2をシート材から切り離す(切り離し工程S4)。さらに後加工で、バネ片6を挿入する支持孔4bを穿孔する工程S5を行う。なお、支持孔4bはドリルで加工するが、その位置決めのためのポンチ打ちをプレス加工で行うのが好ましい。その場合はフレーム2を横向きに金型内に配置し、突出部の側縁に上下からポンチを打ち込んで窪みを形成する。
【0033】
上記のようにして得られるフレーム2は、金属板からプレス成形した一体成形品であるので、強度が高く軽量である。また、バネ片の支持孔を、縦桟の上部近辺に前側に湾曲して形成した突出部の側面に形成するので、立体的な形態にも関わらず、1枚の金属板からプレス成形することができる。また、前記ベース3、縦桟4およびフック5が略同一厚さであるので、見栄えがよい。さらにアルミニウム板またはアルミニウム合金板から一体成形する場合は、軽量で見栄えが良く、錆びにくいので耐久性が高い。
【0034】
前記実施形態では、支持孔のドリルによる穿孔およびドリルの位置決めのためのパンチ加工以外は、シート材から順送加工でフレームを成形しているが、順送以外の方法で製造することもできる。たとえば各工程を別の金型で加工してもよい。その場合は1台のプレス機械に複数の金型を設置して加工することもでき、別のプレス機械に設置して加工することもできる。順送以外の方法の場合は、通常は作業者が手やピンセットでワークを移動させればよい。
【符号の説明】
【0035】
1 ナスカン
2 フレーム
3 ベース
3a 吊り部
3b 開口部
4 縦桟
4a 突出部
4b 支持孔
4c 切り込み線
4d、4e 浅い溝
5 フック
5a 止め部
6 バネ片
6a 支持部
7 吊り片
10 吊り片
11 シート材
12 吊り部の開口
13 段部
14 フックとなる部位
S1 切り曲げ工程
S2 打ち抜き工程
S2a 吊り部開口打ち抜き
S2b ベース右側輪郭打ち抜き
S2c ベース左側輪郭打ち抜き
S2d 姿押し
S3 フック曲げ工程
S3a L曲げ工程
S3b J曲げ工程
S4 切り離し
S5 穿孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リング状のベースと、そのベースの中央部に上下に渡される縦桟と、ベースの下端から前方に立ち上がり、先端が上を向いているフックとを備え、前記縦桟の上部近辺に前側に突出する突出部が設けられたフレームと、
前記突出部の側面に形成された支持孔に回動自在に係止され、前記フックの内面側に弾力的に当接するバネ片とからなり、
前記フレームが金属板からプレス成形した一体成形品であり、前記突出部が切り曲げにより湾曲するように突出形成されているナスカン。
【請求項2】
前記ベースの上端に、吊り片を通すためのリング状の吊り部が一体に設けられている請求項1記載のナスカン。
【請求項3】
前記フレームがアルミニウム板またはアルミニウム合金板からプレス成形されたものである請求項1記載のナスカン用のフレーム。
【請求項4】
請求項1記載のナスカンに用いるフレームの製造法であって、
金属板に突出部を切り曲げ形成し、
外側および内側の輪郭を打ち抜き、
フックを前方へ立ち上げ成形し、
ついで前記突出部に支持孔を穿孔するナスカン用のフレームの製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−250866(P2011−250866A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125003(P2010−125003)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(592194107)モミジヤ鞄材株式会社 (2)
【Fターム(参考)】