説明

ナックルの傾動式重力鋳造法

【課題】溶湯の充填性に優れ、鋳造品に鋳造欠陥が生じることを充分に防ぐことができる ナックルの傾動式重力鋳造法の提供。
【解決手段】傾動式重力鋳造装置1は、金型2にラドル7を備え、ラドル7に溶湯Mを溜め、金型2が傾けられたときに湯口5を介して該金型2のキャビティ6に溶湯Mを注ぐものである。キャビティ6内にはナックルCのベアリング支持部に有底穴C1を形成する為の円柱状凸部4Bが配設され、キャビティ6は該円柱状凸部4Bの軸線上に加圧用ボス部6Aを備えている。金型2を傾ける金型傾動工程が完了するまでの間に、加圧用ボス部6Aにおける溶湯を加圧ピン23により加圧する加圧工程と、湯口5を遮断部材18で遮断する湯口遮断工程とを開始する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪を支持するベアリングとサスペンションとを連結する部品であるナックルを製造するための鋳造法に関する。
【背景技術】
【0002】
金型にホッパ(ラドル)を備え、このホッパに溶湯を溜め、金型が傾けられたときに湯口を介して金型のキャビティへ溶湯を注ぐ傾動式重力鋳造法は下記特許文献1に記載されているように公知である。
また、傾動式重力鋳造法によって、車輪を支持するベアリングとサスペンションを連結する部品である自動車用ナックルを鋳造することも下記特許文献2に記載されているように公知である。
【0003】
しかし、特許文献1の傾動式重力鋳造法は、ガス加圧工程を行うことでキャビティ内の溶湯を加圧するものであることから、金型のキャビティの端部まで溶湯を充填することができない場合や、鋳造品にひけ巣等の鋳造欠陥が生じることを充分に防ぐことができない場合がある。
また、特許文献2の傾動式重力鋳造法は、金型のキャビティの上方に押湯部を設け、押湯の重力によってキャビティの先端まで溶湯を行き渡らせようとするものであるが、自動車用ナックルはアームが放射状に伸びる複雑な形状を備えることから、押湯の重力だけではキャビティの先端まで溶湯が行き渡らず、ひけ巣等の鋳造欠陥が生じることを十分に防ぐことができない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4203093号公報
【特許文献2】特開2011−104613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
それゆえに本発明は上記従来の問題点に鑑みてなされ、溶湯の充填性に優れ、ナックルに鋳造欠陥が生じることを充分に防ぐことができるナックルの傾動式重力鋳造法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記課題を解決すべくなされたものであって、本発明に係るナックルの傾動式重力鋳造法は、金型2にラドル7を備え、該ラドル7に溶湯を溜め、該金型2が傾けられたときに湯口5を介して該金型2のキャビティ6に溶湯Mを注ぐ傾動式重力鋳造装置1を用いて行うナックルの傾動式重力鋳造法であって、該キャビティ6内にはナックルのベアリング支持部に有底穴を形成する為の円柱状凸部4Bが配設され、該キャビティ6は該円柱状凸部4Bの軸線上に加圧用ボス部6Aを備え、該金型2を傾ける金型傾動工程が完了するまでの間に、該加圧用ボス部6Aにおける溶湯Mを加圧ピン23により加圧する加圧工程と、該湯口5を遮断部材18で遮断する湯口遮断工程とを開始することを特徴とする。
【0007】
ここで、該加圧工程を開始した後に該湯口遮断工程を開始することが好ましい。
【0008】
また、該溶湯Mはアルミニウム合金による半凝固スラリーであり、該ラドル7内における該半凝固スラリーの固相率は5〜10%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るナックルの傾動式重力鋳造法によれば、キャビティの端部まで溶湯を充填することができると共に、ナックルに鋳造欠陥が生じることを充分に防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態のナックルの傾動式重力鋳造法に用いる傾動式重力鋳造装置の断面図である。
【図2】遮断部材の斜視図である。
【図3】図1から金型を傾けて加圧ピンによる加圧を開始した状態を説明する図である。
【図4】図3から更に金型を傾けて遮断部材で湯口を遮断した状態を説明する図である。
【図5】金型傾動工程が完了した状態を説明する図である。
【図6】切断加工前のナックルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態に係るナックルの傾動式重力鋳造法について図面を参酌しつつ説明するが、まずは本実施形態におけるナックルの傾動式重力鋳造法を行う傾動式重力鋳造装置1について説明する。図1に示されるように、傾動式重力鋳造装置1は、下側の固定型3と上側の可動型4とから構成される金型2を備えており、固定型3と可動型4とによって湯口5とキャビティ6を画成している。本実施形態においては、可動型分割面4Aに形成された溝と、固定型分割面3Aとにより湯口5が画成されている。固定型3にはラドル7が固定されており、このラドル7にアルミニウム合金等の溶湯Mが溜められている。
【0012】
固定型3はベース8の上面8aに固定されている。ガイド軸9の下端がベース8に固定され、ガイド軸9の上端がトッププレート10に固定されている。トッププレート10の上面10aには油圧シリンダ11が固定されており、トッププレート10を貫通したシリンダロッド12の先端がトッププレート10の下方に配設された可動プレート13に連結されている。油圧シリンダ11が駆動されると、可動プレート13はガイド軸9にガイドされてベース8とトッププレート10の間を図1の上下方向に移動可能となっている。可動プレート13の下側には連結軸14が設けられ、連結軸14によって可動プレート13と可動型4が連結されている。従って、可動型4は可動プレート13と共にベース8とトッププレート10の間を図1の上下方向に移動可能である。
【0013】
傾動式重力鋳造装置1は図示せぬ傾動機構を備えている。傾動機構は上記特許文献1に開示されるような公知のものであり、ベース8に設けられ、図1の紙面の表と裏を結ぶ方向に延出する傾動軸と、傾動軸を支持する図示せぬ支持アームと、この支持アームに取り付けられている傾動駆動手段とを備えている。傾動機構により、ベース8及び金型2は図1に示す水平状態から矢印α方向に所定スピードで略90度傾動することができるように構成されている。
【0014】
可動型4の上面4aには油圧シリンダ15が固定されている。油圧シリンダ15のシリンダロッド16は、可動型4に形成された穴部4b内においてカップリング17により遮断部材18と連結されている。図2に示すように、遮断部材18はカップリング17内に収容される円柱状の頭部18aと、四角柱状の軸部18bとを備えている。油圧シリンダ15が駆動されると、軸部18bの先端が湯口5内に侵入するように構成されている。
【0015】
溶湯Mの通路となる湯口5は、図1の紙面の表と裏を結ぶ方向で切った断面が四角形状であり、可動型分割面4Aに形成された溝と、固定型分割面3Aとによって図1の左右方向に延びるように画成されている。上述した遮断部材18の軸部18bが湯口5A内に侵入し、軸部18bの先端が固定型分割面3Aに当接又は近接することにより湯口5が遮断されるように構成されている。
【0016】
ベース8の下面8bには支持棒19によって油圧シリンダ20が固定されている。油圧シリンダ20のシリンダロッド21はカップリング22を介して加圧ピン23に連結されている。加圧ピン23はベース8を貫通し、固定型3に形成された孔3a内に配置されている。油圧シリンダ20が駆動されると、加圧ピン23の先端は後述する加圧用ボス部6A内に侵入し、加圧ピン23がキャビティ6内の溶湯Mを加圧するように構成されている。
【0017】
鋳造されたナックルのベアリング支持部に有底穴C1(図6参照)を形成する為に、可動型4は図1の下方に向かって突出する円柱状凸部4Bを備えている。この円柱状凸部4Bの軸芯と前述の加圧ピン23の軸芯は略一致している。円柱状凸部4Bはキャビティ6内に配設されており、ベアリング支持部に有底穴C1を形成する。キャビティ6は円柱状凸部4Bの軸線上であってキャビティ6の下端の位置に固定型3により画成される加圧用ボス部6Aを備えている。図6に示すように、この加圧用ボス部6A等により形成された余肉C2を鋳造後に破線位置において製品部から切断加工することにより、ベアリング支持部の有底穴C1は貫通孔に加工されることになる。
【0018】
金型2には図示せぬ押出ピンが設けられており、可動型4を固定型3から離間させた後に、押出ピンで湯口5内とキャビティ6内で凝固した溶湯Mを押出して金型2から取り出すことが可能となっている。また、押出ピンの周囲の空隙は金型2を貫通する図示せぬガス排出通路とされており、このガス排出通路に図示せぬガス抜き手段が接続され、後述の金型傾動工程においてキャビティ6内を吸引してガスを排出したり、後述の離型剤塗布工程においてガス排出通路内にエアを供給したりすることが可能となっている。
【0019】
次に、傾動式重力鋳造装置1を用いたナックルの傾動式重力鋳造法について説明する。ナックルの傾動式重力鋳造法においては、先ず、ラドル7内に溶湯Mを溜める溶湯準備工程を行い、図1に示す状態とする。
【0020】
次に、図1に示す状態から矢印αで示す方向に金型2を略90°傾けてラドル7内の溶湯Mを湯口5を介してキャビティ6に注ぐ金型傾動工程を開始する。金型2は図示せぬ傾動機構によって所定スピードで傾動していく。
【0021】
金型傾動工程が完了するまでの間に、加圧工程と湯口遮断工程とを開始する。金型2が傾くとラドル7内の溶湯Mは湯口5を介してキャビティ6内に注がれるが、図3に示すようにラドル7内に溶湯Mが未だ残っており、且つ、加圧用ボス部6内が溶湯で満たされているタイミングにおいて、油圧シリンダ20を駆動して加圧ピン23をキャビティ6の加圧用ボス部6A内に侵入させる加圧工程を開始する。このタイミングで加圧ピン23の前進を開始することで、キャビティ6内の溶湯を金型2に密着させてナックルCの製品形状を出すことができるようになる。
【0022】
次に、油圧シリンダ15を駆動し、遮断部材18を湯口5内に侵入させ、遮断部材18の先端を固定型分割面3Aに当接(又は近接)させて湯口5を遮断する湯口遮断工程を行う(図4参照)。このように金型傾動工程が完了するまでに加圧工程と湯口遮断工程とを開始し、遮断部材18により湯口5を遮断した状態で加圧用ボス部6A内の溶湯を加圧ピストン23で加圧するようにすることにより、凝固収縮により金型2から離れようとするキャビティの端部等(ナックルアームの端部等)における表面層を金型2に押しつけることができる。また、凝固収縮分の溶湯Mを加圧補充することができ、鋳造品としてのナックルC(図5及び図6参照)にひけ巣等の鋳造欠陥が生じることを充分に防ぐことができる。加圧工程が完了した後も傾動は継続され、図1の状態から略90°傾いた図5に示す状態になると傾動が停止され、金型傾動工程が完了する。
【0023】
図示せぬ金型冷却手段によりキャビティ6内の溶湯が凝固したら、油圧シリンダ20を駆動して加圧ピン23を図5の左方向に後退させた後に型開き工程を行う。型開き工程においては、油圧シリンダ11を駆動し、可動プレート13と共に可動型4を図5の右方向に移動させ、可動型4を固定型3から離間させる。そして、金型2に設けられた図示せぬ押出ピンで鋳造品としてのナックルCを金型2から取り出す鋳造品取出し工程と、湯口5やキャビティ6に離型剤を塗布する離型剤塗布工程と、油圧シリンダ11を駆動し、可動プレート13と共に可動型4を図5の左方向に移動させ、可動型4を固定型3に当接させる型締め工程とを順次行う。最後に、傾動機構によって金型2を図1の状態に復帰させる。以上がナックルの傾動式重力鋳造法である。
【0024】
本発明によるナックルの傾動式重力鋳造法は、上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変形や改良が可能である。例えば、上述の実施形態においては、加圧ピン23は固定型3側に配置されていたが、可動型4側に配置されるように構成してもよい。
【0025】
また、上述の実施形態においては、加圧工程は金型傾動工程が完了する前に完了していたが、開始した加圧工程を金型傾動工程が完了した後も継続するようにしてもよい。
【0026】
また、上述の実施形態においては、加圧工程は金型傾動工程が完了する前に完了していたが、金型傾動工程が完了した後に加圧ピンの停止を解除して加圧工程を再開するようにしてもよい。
【0027】
また、上述の実施形態においては、ラドル7にアルミニウム合金等の溶湯Mが溜められていたが、ラドル7内に溜める溶湯Mを固液共存状態のアルミニウム合金からなる半凝固スラリーとしてもよい。溶湯合金の固液の割合を示す固相率がラドル7内において適切な範囲(5〜10%)となるようにした上で金型傾動工程を行えば、ラドル7内の半凝固スラリーをキャビティ6内に流入させ、加圧用ボス部6Aを半凝固スラリーで満たすことが可能である。そして、上述の実施形態と同様に、金型傾動工程が完了するまでの間に加圧工程と湯口遮断工程とを開始するようにして傾動式重力鋳造法を行うことにより、鋳造されたナックルをより偏析の少ない品質の優れたものとすることができる。
【符号の説明】
【0028】
1 傾動式重力鋳造装置
2 金型
3 固定型
3A 固定型分割面
4 可動型
4A 可動型分割面
4B 円柱状凸部
4a 上面
4b 穴部
5 湯口
6 キャビティ
6A 加圧用ボス部
7 ラドル
8 ベース
8a 上面
8b 下面
9 ガイド軸
10 トッププレート
10a 上面
11 油圧シリンダ
12 シリンダロッド
13 可動プレート
14 連結軸
15 油圧シリンダ
16 シリンダロッド
17 カップリング
18 遮断部材
18a 頭部
18b 軸部
19 支持棒
20 油圧シリンダ
21 シリンダロッド
22 カップリング
23 加圧ピン
M 溶湯
C ナックル(鋳造品)
C1 有底穴
C2 余肉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型にラドルを備え、該ラドルに溶湯を溜め、該金型が傾けられたときに湯口を介して該金型のキャビティに溶湯を注ぐ傾動式重力鋳造装置を用いて行うナックルの傾動式重力鋳造法であって、
該キャビティ内にはナックルのベアリング支持部に有底穴を形成する為の円柱状凸部が配設され、
該キャビティは該円柱状凸部の軸線上に加圧用ボス部を備え、
該金型を傾ける金型傾動工程が完了するまでの間に、該加圧用ボス部における溶湯を加圧ピンにより加圧する加圧工程と、該湯口を遮断部材で遮断する湯口遮断工程とを開始することを特徴とするナックルの傾動式重力鋳造法。
【請求項2】
該加圧工程を開始した後に該湯口遮断工程を開始することを特徴とする請求項1に記載のナックルの傾動式重力鋳造法。
【請求項3】
該溶湯はアルミニウム合金による半凝固スラリーであり、該ラドル内における該半凝固スラリーの固相率は5〜10%であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のナックルの傾動式重力鋳造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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