説明

ナットウキナーゼ及びビタミンK2の製造方法

【課題】本発明の課題は、ナットウキナーゼを効率よく生産可能な方法を提供することと、ビタミンKを効率よく生産可能な方法を提供することにある。
【解決手段】上記課題を解決するために、本発明に係るナットウキナーゼの製造方法においては、納豆菌の培養液中にジピコリン酸を添加する。また、本発明に係るビタミンKの製造方法においては、納豆菌の培養液中にジピコリン酸を添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、納豆菌を用いたナットウキナーゼ及びビタミンK(メナキノン−7)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糸引き納豆は、日本の伝統的な大豆発酵食品として約1000年の歴史を持ち、年間30万トン以上生産されている。納豆生産菌はビオチン要求性であり、それがないと生育できない。発明者は、これまで納豆中の強力な血栓溶解酵素ナットウキナーゼ、ビタミンK及び、抗菌物質として知られているジピコリン酸(dipicolic acid: 2、6-pyridinedicarboxylic
acid、DPA)の研究を行ってきた。
【0003】
血栓溶解のメカニズムとしては、生体内ではプラスミンが直接フィブリンに働きかけて溶解現象を起こす。ナットウキナーゼは、それ自体が直接フィブリンを溶解するだけでなく、例えば、プロ−ウロキナーゼ分子に対する強力な活性化能を持ち、間接的にもフィブリン溶解に働くことが分かっている。このため、ナットウキナーゼは、血栓症予防薬として開発が進められている。また、ナットウキナーゼは、酵素の基質特異性として血栓性の成分であるフィブリンを切る他、Suc-Ala-Ala-Pro-Phe-pNA を切ることが知られている。
【0004】
納豆に含まれるビタミンKには、骨粗鬆症発症予防の効果があることが確認されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、ナットウキナーゼ及びビタミンKは、健康にとって極めて有用であり、生産効率の向上及び現実的な普及が望まれている。
【0006】
本発明は、上記のような状況に鑑みてなされたものであり、ナットウキナーゼを効率よく生産可能な方法を提供することを目的とする。
【0007】
また、ビタミンKを効率よく生産可能な方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係るナットウキナーゼの製造方法においては、納豆菌の培養液中にジピコリン酸を添加する。
【0009】
また、本発明に係るビタミンKの製造方法においては、納豆菌の培養液中にジピコリン酸を添加する。
【0010】
発明者は、納豆菌培養液にジピコリン酸を添加した場合、ジピコリン酸はナットウキナーゼあるいはビタミンK2(メナキノン−7)量の生産増強に働くことを見出した。ビタミンK(MK−7)は、納豆以外に食品由来の原料はないため、納豆に含まれるビタミンKは、特に骨粗鬆症発症予防面から世界中で期待されている。
【0011】
ところで、ジピコリン酸は放射能除去物質とも言われているが、元々は抗菌物質であり、強い酵母抑制そしてO−157などの生育を抑制する。また、胞子中に存在するキレート物質で菌の耐熱性と深く係わることは周知である。更に、最近では、血液の抗血小板凝集活性を抑える効果が注目されている。すなわち、ジピコリン酸は重量当りでアスピリン以上に強い抑制効果を持つわけである。
【発明の効果】
【0012】
納豆菌の培養液中にジピコリン酸を添加した場合、ナットウキナーゼの標準フィブリン平板でみたフィブリン溶解面積、およびSuc-Ala-Ala-Pro-Phe-pNAに対するアミダーゼ活性が著しく上昇することが分かった。例えば、蒸煮大豆を用いて納豆を作成した場合、10−32mMのジピコリン酸を添加することによりアミダーゼ活性が通常(ジピコリン酸を添加しない場合)の10倍以上も高まることが分かった。
【0013】
また、ビタミンK2(メナキノン−7)濃度に関しても、10mMジピコリン酸を添加することにより、通常(ジピコリン酸を添加しない場合)約4倍に高まることが確認された。これは静置培養だけでなく振盪培養でも同じ結果であった。すなわち、培養物中に添加するジピコリン酸の量をコントロールすることにより、ナットウキナーゼ及びビタミンK2(メナキノン−7)の両活性の優れた製品を作ることが可能となる。
【0014】
ナットウキナーゼは高純度精製品を用いて、フィブリン及び、Suc-Ala-Ala-Pro-Phe-pNAを切ることが知られている。よって、これら両基質を切ればナットウキナーゼといえる。ジピコリン酸は、両基質(フィブリン及び、Suc-Ala-Ala-Pro-Phe-pNA)でナットウキナーゼの賦活化を証明した。また、ビタミンKについても、より低濃度のジピコリン酸で同時にビタミンKの含量が高まった。
【0015】
ジピコリン酸は、主に普通納豆の胞子内に存在するが、長時間の培養では少量はフリーの形でも存在する。納豆を食べた場合のその生理活性、基質や培養条件、また納豆菌によってジピコリン酸の至適濃度が異なる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、実施例を用いて詳細に説明する。
まず、本発明の実施例(実験)に使用される材料及び培養方法について説明する。
【0017】
(材料)
1.ジピコリン酸は、ナカライテスク株式会社のものを使用した。使用に当たり、水溶液を水酸化ナトリウムでpH7.4に調整した。
2.人工血栓に用いる牛製フィブリノーゲン、合成基質であるSuc-Ala-Ala-Pro-Phe-pNAは、シグマ(Sigma)社のものを用いた。
3.牛製トロンビンは持田製薬株式会社のものを使用した。
4.培地には日水製薬株式会社の乾燥ブイヨンを用いた。
5.納豆菌は、食品用の代表株である宮城野株、成瀬株、さらに胃腸薬として用いられる目黒株を使用した。また、Bacillus属で枯草菌の代表株Bacillus
subtilis IAM 12118 (type Marburg)は東京大学分子細胞生物学研究所から入手した。
【0018】
(培養方法)
納豆菌の培養は次の3種の方法を用いた。
1.試験管(18mm×105mm)内で、培地0.5mlにジピコリン酸を終濃度0〜4mMになるよう0.5ml添加し、これに納豆菌1白金耳/10ml(宮城野菌、約1.0×108個/ml)を50μl接種した。その後、37℃で24時間静置培養を行なった。
2.90mm角のPSP(ポリスチレンペーパー)内に蒸煮大豆、並びにジピコリン酸を終濃度0〜100mMになるよう加え(湿重量50g)、これに納豆菌0.1g/10ml(目黒菌、約1.0×109個/ml)を0.5ml接種した。その後、このPSP内で37℃24時間静置培養を行った。
3.500mlの三角フラスコに1%グリセリン−3%ポリペプトン−S、ならびにジピコリン酸を終濃度0〜20mMになるよう加え(湿重量150g)、これに納豆菌1白金耳/10ml(宮城野菌、約0.5×107個/ml)を1.0ml接種した。その後、37℃で72時間100rpmで振盪培養を行なった。
【0019】
次に、ナットウキナーゼ活性の測定方法について説明する。
(標準フィブリン平板法)
144mm×104mmの角型シャーレ内に終濃度0.5%フィブリノーゲン20mlと50U/mlのトロンビン100μlを加えることによりフィブリン平板を作製した。試料1検体につき30μlを平板上にのせ37℃、4時間インキュベーション後に生じる溶解面積(mm2)を測定した。
【0020】
(合成アミド基質分解法)
試料0.1ml及び0.1Mリン酸緩衝液−生理的食塩水(pH7.8)を加えた反応系に、終濃度5×10-4Mになるように調整したSuc-Ala-Ala-Pro-Phe-pNA を0.1ml添加し、37℃で5分間インキュベーション後遊離して生じるpNA量の405nmにおける吸光度を測定した。なお、基質添加前に試料及び0.1Mリン酸緩衝液‐生理的食塩水を37℃で2分間プレインキュベーションした。標準曲線を基に反応系1mlに対し1分間当たりの遊離pNA量(nmol)を算出した。
【0021】
次に、ビタミンKの測定方法について説明する。
メナキノン−7(MK-7)が白金−アルミナ触媒でヒドロキノン体に還元され、蛍光化することを利用して、すでに報告されているHPLC法で行った8)9)。すなわち、逆相分配型カラムとして固定相にオクタデシル(C18)基を結合させたODS-II(島津製作所;φ4.6×250mm)、触媒カラムとして白金-アルミナ(和光純薬;φ4.0×10mm)、および展開液として97%エタノールを用いて40℃、0.7ml/minで操作した。試料0.1ml及び蒸留水0.9ml、イソプロパノール1.5mlを混和し、ヘキサン5.0mlを加え撹拌した後、遠心分離し、20℃で10分間、1,710×gで遠心分離し、上清のヘキサン画分4mlをエバポレーターで濃縮し、100μlのエタノールで溶解したものをHPLCで分析した。
【0022】
次に、実験の結果(成績)について説明する。
図1は、一定量(2mM)のジピコリン酸を添加して納豆菌を培養した結果である。宮城野菌、成瀬菌など納豆菌の代表的なものがジピコリン酸の濃度でナットウキナーゼ生産量が大きく変わることが分かる。それに比べて、コントロールである枯草菌(B. Subtilis)では、ジピコリン酸の濃度でナットウキナーゼ生産量がほとんど変化しないことを確認した。
【0023】
図2は、大豆を基質として用い納豆製造に近い条件とした。蒸煮大豆に0−100mMのジピコリン酸を添加し、納豆菌を接種し、37℃、24時間培養した結果である。発酵終了後、当倍量の生食と共にミキサーで粉砕し、遠心後の上清を試料とした。ジピコリン酸の添加量が10−32mMの時に、ナットウキナーゼの活性が特に高いことが分かる。
【0024】
図2と同条件でナットウキナーゼのアミダーゼ活性をSuc-Ala-Ala-Pro-Phe-pNA分解能で観察した。ジピコリン酸の添加量が10−32mMの時に強い値を示し、controlに比べると、高いものは10倍以上になっていることが分かる(図3)。
【0025】
図4は、図2と同条件下で作られた水溶性ビタミンK量を調べたものである。すなわち、図2の実験で試料とした上清を使用し、公知のHPLC法で発酵物中のビタミンK量の測定を行った。control(1.22μg/ml)に比べて、例えば、ジピコリン酸の添加量が10mM(4.60μg/ml)の時に約4倍に高まっていることが分かる。
【0026】
次に、1%(重量%)グリセリンを含む3%ポリペプトン−Sを基質に用い、納豆菌(宮城野菌)を37℃、3日間振盪培養した(図5)。ナットウキナーゼは、ジピコリン酸添加量が4mMの時に最高値727を示した(図1)。また、ビタミンKはcontrolが1.17μg/mlであったのに対し、ジピコリン酸添加量が10mMの時に3.29μg/mlと約3倍になった。
【0027】
普通、ジピコリン酸含量は、その菌の胞子形成による熱安定性と深く関係することが知られている。
【0028】
本発明に係わる方法によって製造されるナットウキナーゼの抽出に際しては,メンブランフィルターで分子量2万〜5万のものを集め、一定濃度の硫酸アンモニウムで平衡化したButyl-Toyopearlカラムにかけてナットウキナーゼを吸着させ、水-硫酸アンモニウムのグラジェントで溶出する方法などを採用することができる。
【0029】
また、本発明に係る方法によって製造されるビタミンKの抽出に際しては、ビタミンKが水溶性であるという性質を利用し、菌と培養液に分離した後、ゲル濾過により分子量200,000、等電点4.2という形式で取り出すことができる。また、分離した培養液をpH2.0に下げることにより、ビタミンKを等電点沈殿させる。その後、ヘキサンなどの有機溶媒処理を行うことにより、ビタミンKを抽出(分離)することができる。
【0030】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではなく、特許請求の範囲に示された技術的思想の範疇において変更可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、本発明に係る方法によりジピコリン酸を添加して納豆菌を培養した場合のナットウキナーゼ活性を示すグラフであり、(A)が標準フィブリン平板法で測った結果(溶解面積)を示し、(B)が各菌に対するアミド分解能を示す。
【図2】図2は、大豆を基質として用い納豆製造に近い条件とした場合における標準フィブリン平板法で測った結果を示す写真であり、目黒菌を用いて蒸煮大豆に0−100mMのジピコリン酸を添加し、37℃、24時間培養した結果である。
【図3】図3は、納豆中のジピコリン酸添加量とナットウキナーゼ量(アミド分解能)との関係を示すグラフである。
【図4】図4は、本発明に係る方法によって納豆菌培養中のビタミンKの変化を示すグラフである。
【図5】図5は、本発明に係る方法によって納豆菌振盪培養中のビタミンKの変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
納豆菌の培養液中にジピコリン酸を添加することを特徴とするナットウキナーゼの製造方法。
【請求項2】
納豆菌の培養液中にジピコリン酸を添加することを特徴とするビタミンKの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−72966(P2008−72966A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−256322(P2006−256322)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(599064339)株式会社 ホンダ トレーディング (5)
【出願人】(592197061)
【Fターム(参考)】