説明

ナトリウム含有リン酸カルシウム組成物の製造方法

【課題】未反応の原料を含まずに純度が高く、低温かつ短時間で行うことを可能にする。
【解決手段】ナトリウムイオン供給物質とリン酸イオン供給物質とカルシウムイオン供給物質と蒸留水とをメカノケミカル法により混合する混合ステップS1を含むナトリウム含有リン酸カルシウム組成物の製造方法を提供する。蒸留水を加えることで水中でのメカノケミカル法による反応となるため、水を使用しない固相反応と比較して、比較的低温かつ短時間でナトリウム含有リン酸カルシウム組成物を製造することができる。また、メカノケミカル法によれば、嵩を小さく抑えることができ、硬化時に使用する混練水量を少なくして硬化体の強度を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナトリウム含有リン酸カルシウム組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生体適合性に優れた骨セメントの原料としてリン酸ナトリウムカルシウムを製造する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
この製造方法は、リン酸アルカリカルシウムセラミックスの群から選ばれる接合粉末を高温で固相反応させることによりリン酸ナトリウムカルシウムを合成することとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表平9−509583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の製造方法における接合粉末の固相反応は、高温による長時間の焼成が必要であるとともに、反応を完全に行うことができないので、得られたリン酸ナトリウムカルシウム内に未反応の原料が含有されてしまうという不都合がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、未反応の原料を含まずに純度が高く、低温かつ短時間で行うことができるナトリウム含有リン酸カルシウム組成物の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
また、本発明は、ナトリウムイオン供給物質とリン酸イオン供給物質とカルシウムイオン供給物質と蒸留水とをメカノケミカル法により混合する混合ステップを含むナトリウム含有リン酸カルシウム組成物の製造方法を提供する。
【0007】
本発明によれば、蒸留水を加えることで水中でのメカノケミカル法による反応となるため、水を使用しない固相反応と比較して、比較的低温かつ短時間でナトリウム含有リン酸カルシウム組成物を製造することができる。また、メカノケミカル法によらない水中での反応では、最終的に得られるナトリウム含有リン酸カルシウム組成物の嵩が大きくなるのに対し、メカノケミカル法によれば、嵩を小さく抑えることができ、硬化時に使用する混練水量を少なくして硬化体の強度を向上することができる。
【0008】
また、本発明は、ナトリウムイオン供給物質とリン酸イオン供給物質とカルシウムイオン供給物質と蒸留水とをメカノケミカル法により混合し、ナトリウム含有リン酸カルシウム組成物のスラリーを得る混合ステップと、該混合ステップにより得られたスラリーを乾燥してナトリウム含有リン酸カルシウム組成物の粉末を得る乾燥ステップと、該乾燥ステップにより得られたナトリウム含有リン酸カルシウム組成物の粉末を焼成する焼成ステップとを含むナトリウム含有リン酸カルシウム組成物の製造方法を提供する。
【0009】
上記発明においては、前記焼成ステップが、600℃〜1150℃の温度で1〜60時間焼成することが好ましい。
また、上記発明においては、前記焼成ステップが、1000℃〜1150℃の温度で10時間焼成することが好ましい。
【0010】
また、上記発明においては、前記ナトリウムイオン供給物質と前記カルシウムイオン供給物質の比が実質的にカルシウムイオン/ナトリウムイオン=1/1〜4/1となることが好ましい。
また、上記発明においては、前記ナトリウムイオン供給物質と前記カルシウムイオン供給物質の比が実質的にカルシウムイオン/ナトリウムイオン=2/1となることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、未反応の原料を含まずに純度が高く、低温かつ短時間で行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係るナトリウム含有リン酸カルシウム組成物の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】(A)図1の製造方法により製造されたナトリウム含有リン酸カルシウム組成物と、(B)比較例1,(C)比較例2により製造されたナトリウム含有リン酸カルシウム組成物の嵩を比較する写真である。
【図3】(A)図1の製造方法により製造されたナトリウム含有リン酸カルシウム組成物と、(B)比較例1,(C)比較例2により製造されたナトリウム含有リン酸カルシウム組成物の成分分析結果を示すグラフである。
【図4】図1の製造方法により製造されたナトリウム含有リン酸カルシウム組成物の焼成温度による成分の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態に係るナトリウム含有リン酸カルシウム組成物の製造方法について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る製造方法は、図1に示されるように、ナトリウムイオン供給物質とリン酸イオン供給物質とカルシウムイオン供給物質と蒸留水とをメカノケミカル法により混合する混合ステップS1と、該混合ステップS1により得られた混合物を乾燥する乾燥ステップS2と、該乾燥ステップS2により得られた混合物の乾燥体を粉砕する粉砕ステップS3と、該粉砕ステップS3により得られた粉末を焼成する焼成ステップS4とを含んでいる。
【0014】
混合ステップS1は、ナトリウムイオン供給物質である炭酸ナトリウムとリン酸イオン供給物質かつカルシウムイオン供給物質であるリン酸水素カルシウム2水和物とをポットミルに投入し、ジルコニアボールと蒸留水とを加えて、ポットミルを作動させる。これにより、炭酸ナトリウムとリン酸水素カルシウム2水和物と蒸留水とがメカノケミカル法により混合されてナトリウム含有リン酸カルシウム組成物のスラリーが生成される。
【0015】
乾燥ステップS2は、混合ステップS1において生成されたスラリーを型に流し込んで乾燥させる。これにより、所定の形状を有するナトリウム含有リン酸カルシウム組成物のブロックが生成される。
焼成ステップS4は、粉砕ステップS3において得られたナトリウム含有リン酸カルシウム組成物顆粒を600℃〜1150℃の範囲の温度で10時間焼成する。
その後、焼成された顆粒を粉砕し、篩を用いて100〜300μmの粉末を分級する。これにより、ナトリウム含有リン酸水素カルシウムが製造される。
【0016】
本実施形態に係る製造方法によれば、蒸留水を加えることで水中でのメカノケミカル法による反応となるため、水を使用しない固相反応と比較して、比較的低温かつ短時間でナトリウム含有リン酸カルシウム組成物を製造することができるという利点がある。この場合に、固相反応では、十分な高温かつ長時間の焼成によらなければ、十分な反応が得られないために未反応の原料が残留してしまうが、本実施形態に係る製造方法によれば、低温かつ短時間でも、純度の高いナトリウム含有リン酸水素カルシウムを製造することができる。
また、メカノケミカル法によれば、嵩を小さく抑えることができ、ナトリウム含有リン酸カルシウムをセメントとして用いる場合に、硬化時に使用する混練水量を少なくして硬化体の強度を向上することができるという利点もある。
【0017】
ここで、本実施形態に係るナトリウム含有リン酸水素カルシウムの製造方法の一実施例について説明する。
本実施例においては、混合ステップS1において、炭酸ナトリウム10.6g(0.1mol)と、リン酸水素カルシウム2水和物34.4g(0.2mol)と、ジルコニアボール1kgと、蒸留水200mLとをポットミルに投入して回転数100rpmで24時間混合した。比較例1として、ジルコニアボールを投入しない場合、比較例2として蒸留水を投入しない場合を、その他の条件を同一にして行った。
【0018】
本実施例および比較例1においては、混合ステップS1により、ナトリウム含有リン酸カルシウム組成物のスラリーが得られるので、乾燥ステップS2において、得られたスラリーを入れた容器を乾燥機に入れて温度90℃で8時間乾燥させ、粉砕ステップS3によって粉末を得た。比較例2においては、蒸留水を加えていないので、直接粉末が得られた。
【0019】
そして、焼成ステップS4において、粉末をアルミナ製角サヤに入れて1150℃で10時間焼成した。得られた粉末を坩堝で破砕し、300μmの篩を通過したものを回収した。本実施例では、24.6g、比較例1では27.4g、比較例2では24.3gのナトリウム含有リン酸水素カルシウムの粉末が得られた。
また、本実施例により得られた粉末については、600℃、800℃および1000℃の温度においてもそれぞれ10時間焼成した。
【0020】
図2に、(A)本実施例に係る製造方法により得られたナトリウム含有リン酸カルシウム組成物の粉末と、(B)比較例1、(C)比較例2の製造方法により得られたナトリウム含有リン酸水素カルシウムの粉末とを、同形状の透明容器に入れて比較した写真である。これによれば、(A)の本実施例と(C)の比較例2とはほぼ同一の嵩を有しているが、(B)の比較例1については約2倍の嵩となっている。
【0021】
嵩が大きい場合には、セメントとして使用する際に、多くの混練水を必要とするので、硬化した後の硬化体の強度が低下する。一方、本実施例と比較例2の方法によれば、比較例1の方法と比較して嵩が小さいので、硬化体の強度を向上することができるという利点がある。
【0022】
また、本実施例と比較例1の製造方法により得られた粉末は白色であったが、比較例2の場合には、リン酸ナトリウムに由来する緑色が含まれていた。すなわち、比較例2の場合には、十分な固相反応が行われずに、原料のリン酸ナトリウムが含まれて純度が低下している。これに対して、本実施例および比較例1の場合には、高い純度のナトリウム含有リン酸カルシウム組成物を得ることができた。
【0023】
このことは、図3のX線回折(XRD:X-ray Diffraction)による成分分析結果を示す。図3は、X線のスキャン角度2θを3〜40°の範囲で行った結果である。これによれば、(A)の本実施例および(B)の比較例1においては原料であるリン酸ナトリウムの成分は検出されていないのでナトリウム含有リン酸カルシウム組成物(▽印:βーCaNaPO)の純度は高いが、(C)の比較例2においては原料成分が検出されており、純度が低いことがわかる。なお、図中●(黒丸)印は副生成物のCaNa(POの成分を示している。
【0024】
また、本実施例について焼成温度を異ならせて生成された粉末に対するX線回折による成分分析結果を図4に示す。この図4によれば、いずれの焼成温度によってもナトリウム含有リン酸カルシウム組成物(βーCaNaPO)の成分が検出されているので、より低温の焼成によっても純度の高いナトリウム含有リン酸カルシウム組成物を製造することができることがわかる。
【0025】
また、高温で長時間焼成する固相反応では、ガラス状の生成物を生じて破砕に高いエネルギを要するが、本実施例のように低温で焼成することにより容易に破砕できるという利点もある。
これらの結果から、本実施例による製造方法により製造されたナトリウム含有リン酸カルシウム組成物は、比較例1および比較例2のいずれの製造方法によって製造されたナトリウム含有リン酸カルシウム組成物よりも製造容易であり、かつ、硬化体として高い強度を発生することができることがわかる。
【0026】
次に、本実施形態に係るナトリウム含有リン酸水素カルシウムの製造方法の他の実施例について説明する。
まず、下記原料をポットミルに投入し、蒸留水200mL、ジルコニアボール1kgを加えた。
(1)炭酸カルシウム 8.0g(CaCO,80mmol)
(2)リン酸水素カルシウム2水和物 6.88g(CaHPO・2HO,40mmol)
(3)リン酸二水素ナトリウム2水和物 9.36g(NaHPO・2HO,60mmol)
(4)蒸留水200mL
【0027】
次に、同様のポットを4基作製し、ポットミル回転機を用い100rpmで24時間回転させた。
そして、得られたスラリーを80℃インキュベーター中で24時間乾燥させた。
その後。得られた粉末を破砕し300μmメッシュで分級した。得られた微粉末を1100℃で10時間焼成した。得られた粉末は40.7g(収率86.6%)であった。
【0028】
なお、ナトリウムイオン供給物質としては、リン酸水素ナトリウムの他、リン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどを用いることができる。リン酸イオン供給物質としては、リン酸水素ナトリウムの他、リン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどを用いることができる。カルシウムイオン供給物質としては、リン酸水素カルシウム2水和物の他、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム、水酸化カルシウム、リン酸水素カルシウムなどを用いることができる。
【0029】
このように、リン酸水素ナトリウム、リン酸ナトリウムは、ナトリウムイオン供給物質およびリン酸イオン供給物質の両方を兼ね、リン酸水素カルシウム2水和物、リン酸水素カルシウムは、リン酸イオン供給物質およびカルシウムイオン供給物質の両方を兼ねることができる。
【符号の説明】
【0030】
S1 混合ステップ
S2 乾燥ステップ
S4 焼成ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウムイオン供給物質とリン酸イオン供給物質とカルシウムイオン供給物質と蒸留水とをメカノケミカル法により混合する混合ステップを備えるナトリウム含有リン酸カルシウム組成物の製造方法。
【請求項2】
ナトリウムイオン供給物質とリン酸イオン供給物質とカルシウムイオン供給物質と蒸留水とをメカノケミカル法により混合し、ナトリウム含有リン酸カルシウム組成物のスラリーを得る混合ステップと、
該混合ステップにより得られたスラリーを乾燥してナトリウム含有リン酸カルシウム組成物の粉末を得る乾燥ステップと、
該乾燥ステップにより得られたナトリウム含有リン酸カルシウム組成物の粉末を焼成する焼成ステップとを含むナトリウム含有リン酸カルシウム組成物の製造方法。
【請求項3】
前記焼成ステップが、600℃〜1150℃の温度で1〜60時間焼成する請求項2に記載のナトリウム含有リン酸カルシウム組成物の製造方法。
【請求項4】
前記焼成ステップが、1150℃の温度で10時間焼成する請求項3に記載のナトリウム含有リン酸カルシウム組成物の製造方法。
【請求項5】
前記ナトリウムイオン供給物質と前記カルシウムイオン供給物質の比が実質的にカルシウムイオン/ナトリウムイオン=1/1〜4/1となる請求項1から請求項4のいずれかに記載のナトリウム含有リン酸カルシウム組成物の製造方法。
【請求項6】
前記ナトリウムイオン供給物質と前記カルシウムイオン供給物質の比が実質的にカルシウムイオン/ナトリウムイオン=2/1となる請求項1から請求項4のいずれかに記載のナトリウム含有リン酸カルシウム組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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