説明

ナノカーボンの連続製造装置及びその連続製造方法

【課題】基板を有する回転テーブルを用いて基板法CVDの連続運転を実現可能にし、基板法の利点を生かした安定性、制御性の良いナノカーボンの連続製造装置を提供する。
【解決手段】チャンバー1内において、一つの円周上に複数の面状ヒーター11を等分位置に配置し、その上方に、同じ円周上で同じ等分位置にそれぞれ基板22が配設された回転テーブル20を回転可能に設置し、この回転テーブルの上方に、上記円周上における面状ヒーター11の配置の等分位置に対応させて、触媒導入部、触媒前処理部、ナノカーボン生成部、生成物回収部、及び基板クリーニング部を形成する部室31,32,33を設ける。回転テーブル20の一方向への回転により、該回転テーブル上の基板22が上記の順で各部室に対面する位置に順次移動し、ナノカーボンが連続的に製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、化学気相法堆積法(CVD)によるナノカーボンの連続製造装置及びその連続製造方法に係るものである。
上記ナノカーボンとは、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノコイル(CNC)、カーボンナノツイスト(CNTw)、カーボンナノファイバー(CNF)などのナノ構造を有するカーボンの総称であり、電界放出ディスプレー、機能性複合材料、マイクロマシン、エネルギー変換などの分野に応用されつつある。
【背景技術】
【0002】
ナノカーボンの製造方法としては、(1)アーク放電法、(2)レーザー蒸発法、及び(3)CVDなどが知られている。上記(1)の方法は、炭素電極の間に電圧を印加してアーク放電を発生させることにより、電極表面を高温とし、それによって電極の炭素を蒸発させ、それを冷却して堆積物とする方法である。この方法は、フラーレン(C60)の製造に用いられたが、生成した堆積物の中にCNTが存在することが飯島氏により発見された。
しかし、この方法は、電極の消耗と堆積物質の成長を伴うため、電極の形状、電極間の距離の無規変化を生じ、放電の安定性を欠き、堆積物に大量の不純物が混在し、電極寿命が短いため、大量生産に適さない方法である。
【0003】
上記(2)のレーザー蒸発法は、カーボンロッドに強いレーザーを照射し、炭素を蒸発させてナノカーボンを合成する方法である。しかし、レーザーの照射強度、照射面積に制限され、大量生産に不向きと知られる。
【0004】
一方、上記(3)のCVDは、炭化水素ガスを加熱された触媒により分解させることによりナノカーボンを合成する方法で、豊富な炭素原料から、触媒の配合を代えるだけで、いろいろなナノカーボンを合成できる点で有利な方法である。このCVDは、触媒の供給方式により、基板法と流動法とに分別される。
【0005】
上記基板法は、触媒を基板上に載せ、反応管に挿入する方法であり、ガス、触媒種を選ばず、ガス流量、温度を制御し易いため、基礎研究に幅広く用いられるが、大量生産には不向きとされている。
また、上記流動法は、有機遷移金属化合物のガスを原料ガスと一緒に反応管に導入し、気相中で金属触媒を生成させて、連続的にナノカーボンを製造する方法である。しかし、触媒の生成速度、ナノカーボンの生成速度のバランスを取り難く、安定操作のできる範囲が非常に狭いという問題がある。更に、反応管に生成物が付着するため、連続運転時間が短く、原料ガスの利用率が低いため、ランニングコストが高いという問題もある。
【0006】
上記基板法に基づく連続CVD装置として、チャンバー内に回転ベルトを備え、該ベルトの上下に対向するガス供給部と加熱部を配置し、ベルトの両端に、触媒を載せた基板を載置するロボットアームと反応後の基板を回収するロボットアームを設置したCVD装置が、特許文献1として提案されている。
また、無端回転ベルトに固定された基板と、超音波スプレーによる触媒金属粒子の薄膜形成部と、プラズマCVD部と、生成物の掻き落し部と、基板クリーニング部とを備える装置が、特許文献2として提案されている。
しかし、これらの装置では、回転ベルトを介して基板を加熱するため、基板温度の制御が困難である。また、複雑な機構を高温環境に置くため、耐久性にも問題がある。
【0007】
【特許文献1】特開2001−234341号公報
【特許文献2】特開2005−67916号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の技術的課題は、上記既提案の技術におけるロボットアームや搬送用の無端のベルトを設けたり、複雑な機構を高温環境に置いたりする必要がなく、基板を有する回転テーブルを用いて基板法CVDの連続運転を実現可能にし、それによって、基板法の利点を生かした安定性、制御性の良いナノカーボンの連続製造装置及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明のナノカーボンの連続製造装置は、チャンバー内において、一つの円周上に複数の面状ヒーターを等分位置に配置し、その上方に、該面状ヒーターと同じ円周上で同じ等分位置にそれぞれ基板が配設された回転テーブルを回転可能に設置し、この回転テーブルの上方に、上記円周上における面状ヒーターの配置の等分位置に対応させて、触媒導入部、触媒前処理部、ナノカーボン生成部、生成物回収部、基板クリーニング部のいずれかまたはその複数を形成する部室を設けたことを特徴とするものである。
【0010】
上記構成を有するナノカーボンの連続製造装置は、前記基板法に基づくCVDプロセスでナノカーボンを製造するもので、触媒導入、触媒前処理、ナノカーボン生成、生成物回収、基板クリーニングという一連のナノカーボン製造工程を有することから、これらの部室を円周上に等分配置し、各部の下方に面状ヒーターを設け、ヒーターの直上に基板を嵌め込んだ回転テーブルを設置し、該回転テーブルの回転により一連のナノカーボン製造工程が行われるように上記部室を配設しているので、基板がCVDプロセス順に部室から部室へ移動し、触媒と原料ガスの連続供給、生成したナノカーボンの採出を連続的に行うことができる。
そのため、上記既提案の技術におけるロボットアームや搬送用の無端のベルトを設けたり、複雑な機構を高温環境に置いたりする必要がなく、基板法の利点を生かした安定性、制御性の良いナノカーボンの連続製造を行うことができる。
【0011】
上記本発明に係るナノカーボンの連続製造装置の好ましい実施の形態においては、上記触媒導入部、触媒前処理部、ナノカーボン生成部、生成物回収部、基板クリーニング部を形成する部室を、回転テーブルの一方向への回転により、該回転テーブル上の基板が上記の順で各部室に対面する位置に順次移動するように配設され、また、上記面状ヒーターは、生成物回収部及び基板クリーニング部を形成する部室の下部以外の上記円周上の等分位置に配設される。但し、必要があれば、上記生成物回収部及び基板クリーニング部を形成する部室の下部にも面状ヒーターを設けることができる。
【0012】
上記本発明に係るナノカーボンの連続製造装置の他の好ましい実施の形態においては、上記基板の表面を触媒で被覆する手段として、触媒導入部に、基板表面に液体触媒と触媒スラリーを導入するための2流体ノズル、及び/または粉末触媒と触媒インクを導入するためのスクリーン印刷手段が設置される。これにより、あらゆる形状の触媒の導入が可能になる。
また、本発明の他の好ましい実施形態においては、上記触媒前処理部に、水素、酸素、窒素、不活性ガスから少なくとも一種のガス供給装置が設置され、上記ナノカーボン生成部には、原料ガス及び希釈ガスを供給するガスノズルが設置される。更に、上記生成物回収部には、回転ブラシを有する吸引・固体分離装置が設置される。これにより、基板に傷を付けることなく生成物を回収することができる。
【0013】
一方、前記課題を解決するための本発明に係るナノカーボンの連続製造方法は、上記連続製造装置を用いてナノカーボンを製造する方法であって、それぞれの部室において行う触媒導入、触媒前処理、ナノカーボン生成、生成物回収、及び基板クリーニングの処理のいずれかまたはその複数を、各部室において同じ略一定時間内に行い、その時間が経過した後、定時的に回転テーブルを隣接する面状ヒーターの等分配設位置まで一定角度だけ回転させて、回転テーブルに設けた各基板上にナノカーボン製造のための次段階の処理を行い、これを順次繰り返すことを特徴とするものである。
【0014】
本発明に係る上記ナノカーボンの連続製造方法の好ましい実施の形態においては、ナノカーボン生成部において供給する原料ガスが、炭化水素の化合物群から選択された一つまたはそれ以上の混合物であり、上記ナノカーボン生成部において供給する希釈ガスが、水素、酸素、窒素、不活性ガスから選択された一つまたはそれらの複数の混合ガスであり、触媒導入部において導入される触媒前駆体が、Fe、Co、Ni、Znからなる遷移金属の群から少なくとも一種を含む金属、合金、金属化合物、混合物から選択されたもの、または、それらに、Al、In、Sn、P、Sの低融点金属、非金属の群から選ばれた少なくとも一種を含む単体、化合物、混合物を添加したものとして、ナノカーボンの連続製造が行われる。
【発明の効果】
【0015】
以上に詳述した本発明のナノカーボンの連続製造装置によれば、基板の回転機構を設置して、各製造工程の部室をその円周上に配置し、基板上への触媒の導入と生成したナノカーボンの取出し構造を有するため、基板法CVDの連続運転を実現でき、また、装置の大型化、高価になりかねない触媒蒸着装置や、基板運搬用のロボット、熱管理困難の無端ベルトなどが不要となり、構造簡単、安価で、制御性が良く、工業用、産業用としてそのメリットが非常に大である。また、本発明によれば、あらゆる状態の触媒の導入を可能にして、前処理条件、反応条件の最適化により、多種のナノカーボン、例えば、CNC(実施例1参照)、CNF(実施例2参照)、CNT(実施例3参照)の製造を実現でき、研究開発用にも好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明に係るナノカーボンの連続製造装置における基本的構成を模式的に示している。また、図2にはその実施形態の一例を示している。
なお、図1に示す各要素の形状などは、説明をより明確にするために誇張して描記したものであり、これによって本発明の要素の仕様、形状、寸法等を限定的に解釈されるべきではない。
【0017】
図1に示すように、このナノカーボンの連続製造装置は、その主要部が収容されるチャンバー1を備えている。このチャンバー1は、大気からプロセスガスを隔離するためのもので、材質、形状、大きさなどはとくに制限しないが、冷却されたステンレス製の円筒形のものが好ましい。
【0018】
上記チャンバー1の内底における一つの円周上には、複数の面状ヒーター11を等分配置している。これらの面状ヒーター11は、図示の例では、一つの円周の3等分位置にそれぞれ配置しているが、円周を複数等分した位置の全てに設ける必要はなく、上記等分位置で面状ヒーターを設けない部分があっても差し支えない。なお、ここでは一つの円周の3等分位置に面状ヒーター11を配設する場合を示しているが、4等分またはそれ以上に等分した位置に面状ヒーター11を配設してもよい。
【0019】
上記面状ヒーター11は、その上に位置する基板22の温度を一定に保つためのものであり、その加熱方式は、直流、直流パルス、交流、高周波、マイクロ波モードなど、任意手段を採用することができる。また、上記面状ヒーター11のそれぞれは制御装置で独立に温度調整可能に形成され、その調整範囲は、基板温度が300〜1200℃の範囲内に制御できることが好ましい。
【0020】
上記面状ヒーター11の上方には、該面状ヒーター11の配置円と同じ円周上に同じ等分配置で基板22を嵌め込んだ回転テーブル20を、その中心軸線の周りに回転可能に設置している。この回転テーブル20は、その回転軸に連結した駆動機構により、定時的に基板22を一定角度だけ回転させ、各基板22を、隣接する面状ヒーター11の等分配設位置まで移動させ、正確にその面状ヒーター11の上に定位させるものであり、それによって、回転テーブル20上に設けた各基板22上にナノカーボンの製造のための各段階の処理が行えるようにしている。この回転テーブル20は、基板22を支えうる強度を持つものであればよく、中でも、高強度、軽量、耐熱性のC/Cコンポジェットで形成するのがより好ましい。
【0021】
上記基板22は、その上に触媒を載せ、ナノカーボンを成長させる場所であり、平滑または凹凸のある円板状や皿状に形成される。面状ヒーター11の熱を上表面に早く伝達できることが望ましいので、熱伝導性のよい材質、例えば、金属ではMo、Wなど、半導体ではSiウェーハー、非金属ではグラファイトカーボン、セラミックスでは窒化アルミニウム、炭化珪素などによって形成するのが好ましい。
【0022】
上記回転テーブル20の直上に位置させて、上記チャンバー1の天井部に、上記面状ヒーター11を配置した円周上における該ヒーター11の等分配置位置に対応させて、独立した部室31,32,33を設けている。これらの部室31,32,33は、それぞれの内部の空間を独立させ、触媒前駆体の供給または塗布を行う触媒導入部、触媒前処理ガス等を供給して上記触媒前駆体に接触させる触媒前処理部、ナノカーボン製造のための原料ガスが導入されるナノカーボン生成部、生成したナノカーボンの回収を行う生成物回収部、及び基板のクリーニング部のいずれかまたはその複数の役割を分担するための機器・設備等を備えたものである。
【0023】
上記触媒前駆体は、後述の前処理によりナノカーボン生成のための触媒活性を示すものであり、金属、金属化合物、それらの混合物または合金からなり、中でも、Fe、Co、Ni、Cu、Znなどの遷移金属の群から選ばれた少なくとも一種を含む金属、合金、金属化合物、混合物よりなるものが好ましい。
より低温で、より多種多様なナノカーボンを製造するためには、上記の触媒前駆体に、Al、In、Sn、P、Sなどの低融点金属、非金属の群から選ばれた少なくとも一種を含む単体、化合物、混合物を添加するのが好ましい。
前記の触媒前駆体は、固体状、スラリー状、液状またはガス状でもよく、それらの前駆体の導入手段としては、汎用の粉体定量供給装置、定量ポンプ、2流体ノズル等を用いることができる。
【0024】
触媒前駆体の処理、すなわち触媒の前処理は、減圧下または非酸化雰囲気中で、好ましくは、300〜800℃に加熱して行われる。減圧の場合では、真空度は0〜80Paが好ましく、非酸化雰囲気の場合では、窒素、水素、不活性ガスのうちの一種、またはそれらの複数の混合ガスを、ノズルから供給するように構成される。
【0025】
ナノカーボン生成部におけるナノカーボンの合成方法としては、好ましくは、面状ヒーター11により500〜1200℃に加熱された触媒の上へ、希釈された原料ガスを吹き付けることにより行われる。原料ガスは、炭化水素の化合物群から選択された一つまたはそれらの混合物であり、希釈ガスは、水素、酸素、窒素、不活性ガスから選択された一つまたはそれらの混合物が用いられる。
原料ガスの導入手段として、一定温度に保たれたガスノズルを備えることで、原料ガスを予備加熱し、一定の角度と適度の勢いで基板に噴射させることで、原料ガスを最適条件で基板表面に到達させ、効率よく生成物を反応させることができる。
【0026】
生成物回収部において基板22上に形成されたナノカーボンを剥離して回収する手段としては、ならしで掻き落したりブラシで掃き落すなどの手段を採用することができる。また、基板22から落とされたナノカーボンの回収手段としては、サイクロン、フィルターまたは二者の併用が好ましい。回転ブラシを有する吸引・固体分離(フィルター)装置を設置することにより、基板22に傷を付けることなく生成物を回収することができる。
【0027】
次に、図2を参照して、上記ナノカーボンの連続製造装置の具体的な構成例について説明する。なお、図2の連続製造装置における図1中の各要素との対応部分には、図1の場合と同一の符号を付している。
図2に示すナノカーボンの連続製造装置では、チャンバー1の内底面上における一つの円周上の3等分位置の2個所に、それぞれ面状ヒーター11を設置している。なお、上記円周上の3等分位置の他の1個所には、面状ヒーターを設けていない。
そして、上記面状ヒーター11の設置面の上には、3枚の基板22を面状ヒーター11と同じ円周上の3等分位置に嵌め込んだ回転テーブル20を回転自在に支持させ、その回転テーブル20の上で、上記面状ヒーター11を設置する円周の3等分位置に対応させて、部室31,32,33を設置している。なお、上記回転テーブル20は、その回転軸21が図示しない回転機構に連結されている。
【0028】
上記面状ヒーター11とその上に位置する基板22とは、その平面形状がほぼ同形状、あるいは、面状ヒーター11で基板22のみを加熱するのに適した形状であることが望ましく、それにより、面状ヒーター11により基板22のみが効率的に加熱され、面状ヒーター11から他部への放熱が最小限に抑制される。部室31,32,33についても、以下に説明する各処理が適切に行われるように、必要に応じて昇降により基板22を密閉状態に置くように構成される。
【0029】
上記部室31は、触媒前駆体の供給または塗布を行う触媒導入部を構成すると共に、触媒前処理部の機能を有するものとして構成したものであり、そのために、この部室31には、触媒前駆体である固体状の粉体、担持体の供給ライン311、供給された触媒前駆体を均一に基板22上に塗布するための操作棒313に連結された印刷振り子312、及び上記触媒の前処理ガスの供給ライン314を装備している。上記粉体、担持体の供給ライン311に代えて、あるいはそれに加えて、スラリーの供給ラインを設けることもできる。これらは、図示を省略している制御装置によりその動作を制御されるものであるが、手動によることもできる。
【0030】
上記部室32は、原料ガスと希釈ガスを供給し、基板22上で触媒の作用によりナノカーボンを生成させるナノカーボン生成部を形成するものである。そのため、この部室32には、原料ガスライン322、希釈ガスライン323を設け、これらのガスを混合させ、且つ一定の角度で基板へ吹き付けるノズル321を装備している。
【0031】
また、上記部室33は、面状ヒーター11を設置した円周上で該面状ヒーター11を設けていない等分位置上に配置され、ナノカーボン生成部で基板22上に生成されたナノカーボンを回収する生成物回収部、及び基板22上をクリーニングする基板クリーニング部を形成するものである。そのため、部室33には、操作部材332によって操作される回転ブラシ331と吸引ライン333を装備している。
【0032】
上記構成を有するナノカーボンの連続製造装置を用いてナノカーボンを製造するに際しては、それぞれの部室31〜33において行う触媒導入、触媒前処理、ナノカーボン生成、生成物回収、及び基板クリーニングの処理のいずれかまたはその複数が、各部室において同じ略一定時間内に行えるように配分し、その時間が経過するごとに定時的に回転テーブル20を隣接する面状ヒーター11の等分配設位置まで一定角度だけ回転させて、回転テーブル20上に設けた各基板22上にナノカーボン製造のための次段階の処理を行い、これを順次繰り返すように制御される。
【0033】
次に、上記図2の連続製造装置を用いた本発明の方法の実施例について説明する。
【実施例1】
【0034】
ナノカーボンの連続製造に際しては、まず、部室31における供給ライン311を通して、面状ヒーター11で700℃に加熱された基板22上に触媒前駆体としての鉄−酸化錫の粉末を導入し、振子312を用いて基板22上に均一に配設した。そして、前処理ガスの供給ライン314を通してヘリウムガスを導入しながら、5分間熱処理をした。
【0035】
上記部室31で触媒前駆体が熱処理された上記基板22は、回転テーブル20により120度回転させて、ナノカーボン生成部の部室32下に移した。そして、原料ガスライン322よりアセチレンを導入し、希釈ガスライン323よりヘリウムガスを導入して、それらを混合しながらノズル321を通して基板22上に吹き付け、面状ヒーター11による加熱で、750℃で5分間反応させ、触媒の作用によりナノカーボンを生成させた。
【0036】
次に、上記部室32での反応によりナノカーボンが生成された基板22は、120度回転させて部室33に移し、回転ブラシ331を用いて生成されたナノカーボンを掃き上げて、吸引ライン333より吸引して回収し、これを5分間行った。
上記部室31〜33における各工程は、それぞれ5分で行っているが、各部室での処理は同時に進行させるので、全体的に見れば、ナノカーボンを連続的に生産していることになる。
回収されたナノカーボンの形態を、図3の電子顕微鏡(SEM)写真に示す。生成したナノカーボンは、カーボンナノコイル(CNC)であることがわかる。
【実施例2】
【0037】
実施例1と同じ装置を用い、以下に説明する合成条件でナノカーボンの合成を行った。
まず、部室31における触媒前駆体の供給ライン311を通して、面状ヒーター11で750℃に加熱された基板22上に、鉄を担持した活性炭とアルコールとを混合したスラリーを導入し、振子312を用いて均一に基板上に平らに塗布した。そして、前処理ガスの供給ライン314より窒素ガスを導入しながら、5分間熱処理した。
【0038】
上記部室31で触媒前駆体が熱処理された上記基板22は、回転テーブル20により120度回転させて、ナノカーボン生成部の部室32下に移した。そして、原料ガスライン322よりアセチレンを導入し、希釈ガスライン323より窒素ガスを導入して、それらを混合しながらノズル321を通して基板22上に吹き付け、面状ヒーター11による加熱で、800℃で5分間反応させ、触媒の作用によりナノカーボンを生成させた。
【0039】
次に、上記部室32での反応によりナノカーボンが生成された基板22は、120度回転させて部室33に移し、回転ブラシ331を用いて生成されたナノカーボンを掃き上げて、吸引ライン333より吸引して回収し、これを5分間行った。
回収されたナノカーボンの形態を、図4の電子顕微鏡(SEM)写真に示す。生成したナノカーボンは、カーボンナノファイバー(CNF)であることがわかる。
【実施例3】
【0040】
この実施例3では、図5に示すようなナノカーボンの連続製造装置を使用した。
図5に示す連続製造装置と、先に図2を参照して説明した連続製造装置との主たる違いは、図2の装置において触媒導入部及び触媒前処理部を構成している部室31に代えて、構成的に若干異なる部室34を備えている点にあり、その他の構成は実質的に変わるところがない。
この部室34も、上記部室31と同様に、触媒導入部及び触媒前処理部を構成するものであるが、液体の供給ライン342、ガスの供給ライン343、及びそれらのラインから供給される溶液やガスを噴霧する2流体ノズル341を装備したものである。
なお、図5の連続製造装置における図2中の各要素との対応部分には、図2の場合と同一の符号を付し、それらの説明を省略する。
【0041】
図5の連続製造装置によるナノカーボンの合成では、まず、液体の供給ライン342より導入されたフェロセンのアルコール溶液と、ガスの供給ライン343から導入された窒素ガスを、2流体ノズル341を用いて均一に基板上に噴霧し、基板22上に均一に成膜した。そして、供給ライン343より窒素ガスを導入しながら、面状ヒーター11で450℃に加熱された基板22上で5分間熱処理し、触媒前処理を行った。
【0042】
上記部室31で熱処理された上記基板22は、回転テーブル20により120度回転させて、ナノカーボン生成部の部室32下に移した。そして、原料ガスライン322よりアルコールを導入し、希釈ガスライン323より窒素ガスを導入して、それらを混合しながらノズル321を通して基板22上に吹き付け、面状ヒーター11による加熱で、950℃で5分間反応させ、触媒の作用によりナノカーボンを生成させた。
【0043】
次に、上記部室32での反応によりナノカーボンが生成された基板22は、120度回転させて部室33に移し、回転ブラシ331を用いて生成されたナノカーボンを掃き上げて、吸引ライン333より吸引して回収し、これを5分間行った。
回収されたナノカーボンの形態を図6の電子顕微鏡(SEM)写真に示す。生成したナノカーボンはカーボンナノチューブ(CNT)であることがわかる。
【0044】
以上においては、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明はそれらによって限定的に解されるべきではなく、特許請求の範囲に記載した発明の精神を逸脱しない範囲内において多様に変形できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明を説明するためにナノカーボンの連続製造装置の構成を模式的に示す斜視説明図である。
【図2】上記ナノカーボンの連続製造装置の実施の一例を示す透視正面図である。
【図3】実施例1により製造されたカーボンナノコイル(CNC)の部分拡大写真を含む図面代用電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図4】実施例2により製造されたカーボンナノファイバー(CNF)の部分拡大写真を含む図面代用電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図5】実施例3に使用したナノカーボンの連続製造装置の構成を示す透視正面図である。
【図6】実施例3により製造されたカーボンナノチューブ(CNT)の部分拡大写真を含む図面代用電子顕微鏡(SEM)写真である。
【符号の説明】
【0046】
1 チャンバー
11 面状ヒーター
20 回転テーブル
22 基板
31〜34 部室
311 スラリーの供給ライン
312 印刷振り子
313 操作棒
314 前処理ガスの供給ライン
321 ノズル
322 原料ガスライン
323 希釈ガスライン
331 回転ブラシ
332 操作部材
333 吸引ライン
341 2流体ノズル
342 液体の供給ライン
343 ガスの供給ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバー内において、一つの円周上に複数の面状ヒーターを等分位置に配置し、
その上方に、該面状ヒーターと同じ円周上で同じ等分位置にそれぞれ基板が配設された回転テーブルを回転可能に設置し、
この回転テーブルの上方に、上記円周上における面状ヒーターの配置の等分位置に対応させて、触媒導入部、触媒前処理部、ナノカーボン生成部、生成物回収部、基板クリーニング部のいずれかまたはその複数を形成する部室を設けた、
ことを特徴とするナノカーボンの連続製造装置。
【請求項2】
上記触媒導入部、触媒前処理部、ナノカーボン生成部、生成物回収部、基板クリーニング部を形成する部室を、回転テーブルの一方向への回転により、該回転テーブル上の基板が上記の順で各部室に対面する位置に順次移動するように配設した、
ことを特徴とする請求項1に記載のナノカーボンの連続製造装置。
【請求項3】
上記面状ヒーターを、生成物回収部及び基板クリーニング部を形成する部室の下部以外の上記円周上の等分位置に配設した、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のナノカーボンの連続製造装置。
【請求項4】
触媒導入部に、基板表面に液体触媒と触媒スラリーを導入するための2流体ノズル、または粉末触媒と触媒インクを導入するためのスクリーン印刷手段を備える、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のナノカーボンの連続製造装置。
【請求項5】
触媒前処理部に、水素、酸素、窒素、不活性ガスから少なくとも一種のガス供給装置を備える、
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のナノカーボンの連続製造装置。
【請求項6】
ナノカーボン生成部に、原料ガスの導入手段として、原料ガス及び希釈ガスを供給するガスノズルを備える、
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のナノカーボンの連続製造装置。
【請求項7】
生成物回収部に回転ブラシを有する吸引・固体分離装置を備える、
ことを特徴とする請求項1〜6記載のナノカーボンの連続製造装置。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載のナノカーボンの連続製造装置を用いてナノカーボンを製造する方法であって、
それぞれの部室において行う触媒導入、触媒前処理、ナノカーボン生成、生成物回収、及び基板クリーニングの処理のいずれかまたはその複数を、各部室において同じ略一定時間内に行い、
その時間が経過した後、定時的に回転テーブルを隣接する面状ヒーターの等分配設位置まで一定角度だけ回転させて、回転テーブルに設けた各基板上にナノカーボン製造のための次段階の処理を行い、これを順次繰り返す、
ことを特徴とするナノカーボンの連続製造方法。
【請求項9】
ナノカーボン生成部において供給する原料ガスが、炭化水素の化合物群から選択された一つまたはそれ以上の混合物であり、
上記ナノカーボン生成部において供給する希釈ガスが、水素、酸素、窒素、不活性ガスから選択された一つまたはそれらの複数の混合ガスであり、
触媒導入部において導入される触媒前駆体が、Fe、Co、Ni、Znからなる遷移金属の群から少なくとも一種を含む金属、合金、金属化合物、混合物から選択されたもの、または、それらに、Al、In、Sn、P、Sの低融点金属、非金属の群から選ばれた少なくとも一種を含む単体、化合物、混合物を添加したものからなる、
ことを特徴とする請求項8に記載のナノカーボンの連続製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−112677(P2007−112677A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−307638(P2005−307638)
【出願日】平成17年10月21日(2005.10.21)
【出願人】(305060637)
【Fターム(参考)】