説明

ナノコンポジット及びその製造方法

4%より少ない衝撃改質剤の非常に低い充填(取り込み)が、N6/粘土ナノコンポジットの伸びと衝撃力を著しく改善することができ、高い引っ張り強さと弾性係数を維持することができる。この改善されたナイロンナノコンポジットのゴムは、織物産業のための高強度繊維の製造、繊維またはポリマー部分のコーティング、およびパッケージ産業において可能性のある用途を持っている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の開示はナノコンポジットに関わり、特にナイロンナノコンポジットに関係する。
【背景技術】
【0002】
高いアスペクト比を備えたナノサイズの粒子を使ってポリマー(重合体)コンポジット(composite:合成材料、混合材料または複合材料)を強化することは、1980年代から調査されてきた(特許文献1参照)。機械強度および硬さ、拡張されたガス浸透性バリア、良好な熱抵抗、および難燃性の重要な改善のために、ポリマー/層状シリケート(ケイ酸)ナノコンポジットが広く調査されてきた。ポリマーナノコンポジットは、通常、モンモリロナイト(montmorillonite:MMT)、バーミキュライト(vermiculite)、サポナイト(saponite)、およびヘクトライト(hectorite)のような安価なシリケート粘土の低い充填(取り込み)濃度を必要とする。よく展開(または剥離)(=exfoliate)されたナノコンポジットを、インシチューでの重合と溶解合成技法によって提供することができる。ナノコンポジットは多種多様なポリマーから融解プロセスによって準備されてきた。特許文献1は、高度に強化されたナイロン合成を作り出すためにインシチューの重合を使い、高い曲げ弾性係数(flexural modulus)、引っ張り強さ、および熱ひずみを達成するナイロン6有機粘土ナノコンポジットを製造する方法を開示している。一方、これらのナイロンベースのナノコンポジットは延性がなくなる。通常、曲げ弾性係数を犠牲にして耐衝撃性を改善するために、衝撃改質剤(impact modifier)が加えられる。商業的に望まれるのは、高い衝撃強さを得る一方で、高い弾性係数(modulus)と強度を維持するために、これらのナイロン/有機粘土コンポジットを強化することに対するアプローチである。その上、高性能なナノコンポジット繊維と弾性繊維のためのコーティングを作るために、伸びの改善も粘土ナノコンポジットにとって重要である。ゴム衝撃改質剤を使うことによって粘土ベースのナイロンナノコンポジットの伸びを改善した一方で、比較的高い弾性係数と強度を維持するものの、それらのいずれもが破断時において純粋なナイロンに匹敵する良好な伸びを達成しない、ということをいくつかのグループが報告した(非特許文献1参照)。ほとんどの報告が、5%を超える比較的高いゴム充填が、高い衝撃強さを持ったナノコンポジットを強化するために使われたが、しかしながら、整ったポリマーよりも低い弾性係数と強度につながることさえあること、を示した。
【特許文献1】米国特許第4,739,007号明細書
【非特許文献1】A. J. Oshinsko, H. Keskkula, and D. R. Paul, Polymer, 37, 4891, (1996); Young-Cheol Ahn, D. R. Paul, Polymer, 47, 2830 (2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、ナノコンポジット、特にゴム強化熱可塑性粘土ナノコンポジット、およびこれを作るための方法を提供し、それによってナノコンポジットが高い引っ張り強さと弾性係数と、さらに高い伸びを持つようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この目的は本願の請求項1の方法と請求項9のコンポジットによって達成される。本発明の好ましい実施形態は、従属請求項で特徴付けられる。
【0005】
本発明の一実施形態において、SEBS/SEBS−MAおよび種々の形態学を有するエチレンプロピレンコポリマーが、ナイロンナノコンポジットの物理的特性を改善するために使われる。溶融合成されたナイロンナノコンポジットを使用する代わりに、最も良好な展開と最も良好な引っ張り強さを達成することで知られる、インシチューの重合法から作られたナイロンナノコンポジットが、様々な衝撃改質剤と溶融合成される。中程度の(中間の)無水マレイン酸含有量を有する半結晶エチレンプロピレンランダムコポリマーが、展開された粘土ベースのナノコンポジットと溶融合成され、4%を下回る衝撃改質剤の非常に低い充填において、N6/粘土ナノコンポジットの伸びを著しく改善する。しかしながら、いくつかのグループが、伸びが90%近くにまで改善できると報告したにもかかわらず、類似の結果は他のグループで達成されなかった。しかし、衝撃改質剤の充填は、通常、4%より高い。展開された粘土−N6ナノコンポジットと溶融合成された半結晶EP衝撃改質剤は、N6−粘土マトリックス内に一様に分散された衝撃改質剤のナノサイズの集合体を作り出すことができる。展開された粘土板はゴム階層中に貫通せず、さらに伸びたEP粒子が粘土−N6マトリックスにおいて作り出されて、粘土−N6ナノコンポジットを非常に効果的に強化することになる。
【0006】
ナノコンポジットが高い引っ張り強さと弾性係数を維持するのみならず、高強度繊維、パッケージなどを作るような高い伸びを持つならば、多くの用途がこの改善されたナイロンナノコンポジットに対して見出されうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
ナイロン/粘土ナノコンポジットのようなポリマーナノコンポジットを強化するために、ナノコンポジットは、一般に、マレイン酸エステル化されたエラストマーと溶融合成され、その状況で、置換された無水マレイン酸がポリアミドのアミンの末端基と容易に反応し、2つの相の間の界面を強化し、形態を制御する置換コポリマーを形成する。エラストマー粒子の大きさは、ポリマーの良好な強靭さを達成することにおけるキーパラメータである。現在、多くのタイプの衝撃改質剤が市場で利用可能である。ナイロンナノコンポジットのために、マレイン酸エステル化された(maleated)、またはマレイン酸エステル化されないスチレン−水素化させられたブタジエン−スチレントリブロック(triblock)コポリマー(MA−SEBSまたはSEBS)、エチレンプロピレンランダムコポリマー(random copolymer)(EPRまたはEPR−g−MA)、エチレン−グリシジルメタクリレートコポリマー(ethylene glycidyl methacrylate copolymer)(PE−GMA)などが、ナイロンナノコンポジットの物理的特性を強化するために使用されてきた。衝撃改質剤を使うことによってナノコンポジットの特性を改善するために、衝撃改質剤および溶解合成プロセスのタイプを慎重に選択しなければならない。
【0008】
図1はN6ナノコンポジットを作るプロセスのフローチャートを示す。ナイロン6ナノコンポジット10とゴム衝撃改質剤11は、少なくとも8時間の間70℃でオーブン中で別々に乾燥101される。インシチューの重合によって作られた4%の粘土ナイロン6コンポジット10が、衝撃強さと伸びを改善するために、EXXELOR EP 1840(登録商標)、EXXELOR EP 1801(登録商標)、およびSEBS/SEBS−MAの衝撃改質剤と溶融合成される。EXXELOR EP 1840(登録商標)とEXXELOR EP 1801(登録商標)との違いは、EXXELOR EP 1840(登録商標)(ExxelorはExxonMobilChemicalのブランドネームである)が中程度の無水マレイン酸含有量を有し、EXXELOR EP 1801(登録商標)が高い無水マレイン酸を含有量を有することである。SEBSとSEBS−MAの混合物も、4%の粘土ナイロン6ナノコンポジットと溶融合成するのに使われる。ステップ102では、インシチューのN6/粘土ナノコンポジットと衝撃改質剤のペレットを均一に混合するために、2つのタイプのペレットがビンまたはビニール袋に入れられる。ビンまたは袋を振って回転させ、混合物中に均一に分散された衝撃改質剤のペレットを作る。HAAKE Rheomex CTW100 2スクリュー押出機が、ナイロン/粘土ナノコンポジットと衝撃改質剤13を混合するために使われる。下記はこのプロセスで使われるパラメータである。
【0009】
スクリューゾーン1の温度:240℃;
スクリューゾーン2の温度:230℃;
スクリューゾーン3の温度:230℃;
ダイの温度: 240℃;
スクリュー103の速度: 50(この押出機のために設計された最大速度は200rpm)。
【0010】
ナノコンポジット繊維(ファイバー)は水中で冷却され、押出プロセス後にHaake PP1 Pelletizer POSTEXを使ってペレット化14された。ナノコンポジットペレットは、引っ張りテストのためドッグボーン(犬用の骨)型試料と、弾性係数と衝撃テストのためのlzodバーを作るために、注入モールディングプロセス15の前に70℃で乾燥104される。
【0011】
下記は使用されたパラメータである:
注入圧力: 70bar;
保持圧力: 35bar;
保持時間: 20秒;
加熱ゾーン1の温度:245℃;
加熱ゾーン2の温度:250℃;
加熱ゾーン3の温度:255℃;
ノズルの温度: 260℃;
モールドの温度: 60〜80℃
【0012】
注入モールディング後の試料は乾燥デシケータ105内または真空中で保持され、テストのために準備される。特定の寸法にモールドされたサンプルはASTM−基準16(引っ張り強度テストのためのASTM D628、衝撃強度テストのためのASTM D256、曲げ弾性テストのためのASTM D790)に従う。
【0013】
最も高い衝撃強さにとって適切な衝撃改質剤を選択するために、4%の粘土を充填した(取り込んだ)ナイロン6ナノコンポジットが、それぞれ20%、10%、および5%充填の、様々なゴム衝撃改質剤と溶融合成される。表Iはその結果を示す。
【0014】
【表1】

【0015】
中程度の無水マレイン酸含有量を有するエチレンプロピレンコポリマーのEXXELOR EP 1840(登録商標)が、衝撃強さと伸びに関する最も良い性能を有する。SEBS−MAは、ブレンドされたナノコンポジットのためのナノコンポジットに対する最も悪い効果を有する。表IIは、80%のSEBSと20%のSEBS−MAの混合物が、SEBS−MAまたはSEBSのみの場合よりも良好な性能を有することを示し、適切なMA含有量がナノコンポジットを強化するために必要であることを示す。
【0016】
【表2】

【0017】
表IIIに示すように、3%のEXXON 1840(登録商標)を加えることによって、純粋なナイロンのレベルにまで衝撃強さが改善される必要があるものの、93MPaの引っ張り強さが達成された一方で、100%を超える伸びと4GPaを超える弾性係数を保持した。
【0018】
【表3】

【0019】
しかしながら、4%のゴム充填は、整ったナイロン6よりも良好な衝撃強さを示す。重要なのは、非常に少なく衝撃改質剤を充填することは、粘土ナイロン6ナノコンポジットと比較して少しだけ引っ張り強さと弾性係数を減少させるだけである、ということである。しかし、破断時において著しく伸びを改善する。この特性は、織物産業にとっての高性能ファイバーをもたらしうる。なぜなら、衝撃改質剤なしでは、もろいナイロンナノコンポジットを使用することによって繊維を直接製造することが不可能であるからである。他の重要な用途は、ポリマー繊維の耐摩耗性と耐久性を改善するために繊維に対する、コーティング材料として改善されたナイロンナノコンポジットを使用することである。ナイロンパッケージ材料をより強くし、より良好に強化されたガス浸透性バリアを持つために、ナイロンナノコンポジットが適用されることになれば、伸びも必要とされる。これらの用途は、4%よりも少ない衝撃改質剤を非常に低く充填したゴムで改善されたナノコンポジットによって利益を得ることになろう。
【0020】
しかしながら、2%と3%の1840衝撃改質剤はいくつかの意外な結果を示す。その理由は、押出プロセスと、N6および衝撃改質剤ペレットのブレンド品質とに起因する。なぜならば、ペレットの大きさがとても大きく、混合があまり均一ではないならば2%と3%の間の相違がそれほど大きくないからである。押出プロセスを調整することと、より良好な混合を得ることは、溶融合成プロセスのより良好な制御を可能にしうる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態によって構成されたフローチャートを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナイロンナノコンポジットをエチレンプロピレンコポリマーと混合させる段階を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
インシチュー重合プロセスからナイロンナノコンポジットを作る段階をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ナイロンナノコンポジットはナイロン6を有することを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ナイロンナノコンポジットは粘土を有することを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記混合させる段階は溶融合成プロセスを有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記エチレンプロピレンコポリマーは、中程度の無水マレイン酸含有量を有する半結晶エチレンプロピレンランダムコポリマーを有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記エチレンプロピレンはEXXELOR EP 1840(登録商標)を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記エチレンプロピレンはEXXELOR EP 1801(登録商標)を有することを特徴とする請求項で1に記載の方法。
【請求項9】
ナイロンナノコンポジットと衝撃改質剤を有することを特徴とするコンポジット。
【請求項10】
前記衝撃改質剤はエチレンプロピレンコポリマーを有することを特徴とする請求項9に記載のコンポジット。
【請求項11】
前記エチレンプロピレンコポリマーは、中程度の無水マレイン酸含有量を有する半結晶エチレンプロピレンランダムコポリマーを有することを特徴とする請求項10に記載のコンポジット。
【請求項12】
前記衝撃改質剤は、スチレン−水素化されたブタジエン−スチレントリブロックコポリマーを有することを特徴とする請求項9に記載のコンポジット。
【請求項13】
前記トリブロックコポリマーはマレイン酸エステル化されることを特徴とする請求項12に記載のコンポジット。
【請求項14】
前記ナイロンナノコンポジットはナイロン6を有することを特徴とする請求項10に記載のコンポジット。

【図1】
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【公表番号】特表2009−542836(P2009−542836A)
【公表日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−517483(P2009−517483)
【出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際出願番号】PCT/IB2007/003725
【国際公開番号】WO2008/023281
【国際公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(505131522)アプライド・ナノテック・ホールディングス・インコーポレーテッド (27)
【Fターム(参考)】