説明

ナノチューブの含有量が高いエラストマーの複合材料の製造方法

【課題】熱硬化性のエラストマー樹脂のベースとカーボンナノチューブとを含む複合材料(コンポジット)の製造方法と、得られた複合材料と、その複合製品の製造での使用する方法を提供する。
【解決手段】下記の(a)〜(c)の段階から成る5重量%〜70重量%のナノチューブを含む複合材料の製造方法:(a)少なくとも一種の熱硬化性のエラストマーのベースから成る(または含む)少なくとも一種のエラストマー樹脂のベースと、カーボンナノチューブとを含む液体状態のポリマー組成物をコンパウンディング装置中に導入し、(b)上記コンパウンディング装置中で上記ポリマー組成物とナノチューブとを混合して複合材料を形成し、(c)得られた複合材料を、必要な場合には物理的に固体の形に成形した後に、回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性のエラストマー樹脂のベースとカーボンナノチューブとを含む複合材料(コンポジット)の製造方法と、得られた複合材料と、その複合製品の製造での使用とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エラストマーはゴム弾力を有するポリマーで、タイヤ、ジョイント、チューブの製造を含めた自動車、医薬、電気、輸送、建設等の種々の分野に用途がある。これらの用途の中には電気伝導を付与したり、および/または、機械特性を改善することが重要なものもある。そうした場合にはカーボンナノチューブ(CNT)のような充填材を入れることができる。
【0003】
特許文献1(国際特許第WO2007/035442号公報)には、それと同様な考えで、液体または固体のシリコン樹脂中に0.1〜30重量%、好ましくは0.1〜1重量%のCNTを分散させる方法が記載されている。この場合、分散は円筒粉砕ミルまたは超音波を用いた従来の混合装置を使用して行なっている。この特許の実施例7ではWaring混合機(切断混合機)を使用してシリコンベースの樹脂にCNTを分散させることで、CNTを25重量%含むマスターバッチ−混合物(melanges-maitres)が作られる。得られたマスターバッチ−混合物は自由流動する粉末である。
【0004】
CNTのような見かけ密度が低い充填材の場合には、この特許が提案する方法では25重量%以上の多量の比率で分散させることを不可能である。特に、CNTは非常にもつれ合った構造をしているので、10μm以上の凝集物を形成させずに上記比率のCNTを樹脂中に入れることは不可能である。CNTの分散が悪いと、それから得られた複合物が脆くなり、特に、ナノ亀裂(nanofissures)が生じる。さらに、上記特許で得られるマスターバッチ−混合物は粉末の形をしているため、ハンドリングがあまり簡単にできない。
【0005】
CNTを充填したエラストマーを得る他の解決策は可塑剤の存在下でCNTと熱可塑性物質エラストマーとを混合する方法である。この可塑剤はナノチューブ中に予備複合物の形で混合し、それをエラストマーのマトリックス中に希釈することができる(特許文献)。この特許では上記予備複合物を共混連機(Co-mixer)のBUSS(登録商標)のようなコンパウンディング装置で行なっている。しかし、5重量%以上のCNTを入れることはできない。また上記コンパウンディング装置でエラストマーベース中、特に熱硬化性のエラストマー樹脂ベース中に5重量%を超えるCNTを入れることが可能であるということは、可塑剤が存在しない場合も含めて記載も示唆もない。
【0006】
熱可塑性または熱硬化性のエラストマー樹脂をベース中にCNTを混合する方法は他の文献(特許文献3〜12)にも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際特許第WO2007/035442号公報
【特許文献2】フランス特許第FR 2 916 364号公報
【特許文献3】国際特許第WO 2006/079060号公報
【特許文献4】国際特許第WO 2007/063253号公報
【特許文献5】国際特許第WO 2005/081781号公報
【特許文献6】国際特許第WO 2009/030358号公報
【特許文献7】国際特許第WO 03/085681号公報
【特許文献8】国際特許第WO 2006/072741号公報
【特許文献9】国際特許第WO 2007/035442号公報
【特許文献10】国際特許第WO 2008/025962号公報
【特許文献11】日本特許第2008−163219号公報
【特許文献12】米国特許公開第US 2007/213450号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、簡単に取り扱うことができ、複合部材を形成するためのポリマーマトリックス中に希釈できるマスターバッチ(マスターバッチ−混合物、melanges-maitres)を製造するために、熱硬化性のエラストマー樹脂のベース中にCNTを高含有率で簡単かつ均一に分散させることができる工業スケールで使用可能な手段を提供するというニーズが依然として残っている。
【0009】
本発明者は、液体状態の熱硬化性のエラストマー樹脂のベースをコンパウンディング装置中に導入し、このコンパウンディング装置でナノチューブと混合することによって熱硬化性のエラストマー樹脂のベースの複合材料、特にマスターバッチ−混合物を形成できるということを発見した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下記の(a)〜(c)の段階から成る5重量%〜70重量%のナノチューブを含む複合材料の製造方法にある:
(a) 少なくとも一種の熱硬化性のエラストマーのベースから成る(または含む)少なくとも一種のエラストマー樹脂のベースと、カーボンナノチューブとを含む液体状態のポリマー組成物をコンパウンディング装置中に導入し、
(b) 上記コンパウンディング装置中で上記ポリマー組成物とナノチューブとを混合して複合材料を形成し、
(c)得られた複合材料を、必要な場合には物理的に固体の形に成形した後に、回収する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
「コンパウンディング装置(dispositif compoundage)」とは、複合材料を製造するために熱可塑性ポリマーと添加剤とを溶融状態で混合するためにプラスチック工業界で従来使用されてきた機器を意味する。この機器ではポリマー組成物と添加剤とが強い剪断力で混合される。例としてはステータ(固定子)に取付けた歯 (dents) と噛み合うように取付けられた羽根 (ailettes) を備えたロータ(回転子)を有する共回転(co-rotative)2軸スクリュー押出機または共混練機(co-malaxeur)が挙げられる。溶融した材料は一般に物理的に固まった固体の形、例えばペレット、糸、バンドまたはフィルムの形で機器から出る。
【0012】
本発明で使用可能な共混練機の例はBUSS社から市販の共混練機BUSS(登録商標)MDK46やBUSS(登録商標)MKSまたはMXシリーズで、これら全てには羽根が備えたスクリューシャフトを有し、このスクリューシャフトは複数の部分から成ることができる加熱スリーブ内に配置され、この加熱スリーブの内部壁には混練用の歯が備えられており、この歯は上記羽根と共同して混練物質に剪断力を与える。スクリューシャフトはモーターによって回転され、軸線方向へ振動運動が与えられる。この共混練機の出口開口に、例えばスクリュー押出機またはポンプからなるペレット製造装置を備えることができる。
【0013】
本発明で使用する共混練機のスクリューのL/D比は7〜22、例えば10〜20であるのが好ましい。
【0014】
混練段階は非晶性ポリマーの場合にはガラス遷移温度(Tg)以上の温度で行ない、半非晶性ポリマーの場合には融点以上の温度で行なう。この温度は使用するポリマーに依存し、一般にポリマーのメーカが記載してある。混練温度は例えば80〜260℃、好ましくは100〜220℃、より好ましくは150〜200℃にすることができる。
【0015】
本発明者は、本発明方法を用いることでナノチューブ、特にCNTを高い含有率で含む複合材料、特にマスターバッチ混合物(melanges-maitres)を得ることができ、このマスターバッチ混合物はペレットの形で成形センターへバッグに入れて輸送する際にハンドルが容易にできるということを確認した。この複合材料は、一般に金型中に注入する必要がある従来の熱硬化性樹脂の複合材とは違って(または逆に)、従来の熱可塑性材料の加工に使われる方法、例えば押出し成形、射出成形または圧縮成形で成形できる。
【0016】
「エラストマー樹脂のベース」とは架橋後に大きく変形でき、ほぼ元の形へ戻る(quasi-reversible)ことができるエラストマーを形成する有機またはシリコンのポリマーを含む組成物を意味する。ほぼ元の形へ戻る(quasi-reversible)とは一軸方向の変形、好ましくは室温(23℃)で5分間、初期寸法の少なくとも2倍の一軸方向の変形を与えてから、応力を開放して最初の寸法を回復させた時に残る変形が10%以下であることを意味する。
【0017】
構造上の観点からは、エラストマーは一般に互いに連結して三次元ネットワークを形成するポリマー鎖から成るが、ポリマー鎖が水素結合またはダイポール−ダイポールのような物理的結合によって互いに結合されている熱可塑性のエラストマーとは違って、熱硬化性のエラストマーではポリマー鎖が共有結合を介して結合されて化学的な網状構造を構成している。この網状構造の網点は加硫剤を用いた加硫プロセスで形成される。加硫剤はジチオカーバメートの金属塩の存在下での硫黄ベースの架橋剤;ステアリン酸と亜鉛酸化物との組合せ;塩化錫または酸化亜鉛の存在下でのハロゲン化されていてもよい二官能性フェノール−ホルムアルデヒド樹脂;過酸化物;アミン;白金存在下でのハイドロシラン;その他の中からエラストマーの種類に応じて選択される。
【0018】
特に、本発明は、必要に応じて少なくとも一種の非反応性のエラストマーすなわち非架橋性エラストマー(例えば水素化ゴム)との混合されていてもよい、エラストマー樹脂のベースを含む(またはから成る)。
【0019】
特に、本発明で使用可能なエラストマー樹脂のベースはフルオロカーボンまたはフルオロシリコンのポリマー;ニトリル樹脂;無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸および/またはスチレン(SBR)のような不飽和のモノマーで官能化されていてもよいブタジエンのホモ−またはコポリマー;ネオプレン(またはポリクロロプレン);ポリイソプレン;イソプレンとスチレン、ブタジエン、アクリロニトリルおよび/またはメチルメタクリレートとのコポリマー;エチレンおよび/またはプロピレンをベースにしたコポリマー、特にエチレン、プロピレンおよびジエンのターポリマー(EPDM)およびこれらオレフィンとアルキル(メタ)アクリレートまたは酢酸ビニルとのコポリマー;ハロゲン化ブチルゴム;シリコーン樹脂;ポリウレタン;ポリエステル;カルボキシル基またはエポキシ基を有するポリ(ブチルアクリレート)のようなアクリルポリマー;上記ポリマーの変性誘導体および混合物下記の中から選択される一種または複数のポリマーを含む(またはから成る)が、これらに限定されものではない。
【0020】
本発明ではニトリル樹脂、特にアクリロニトリルとブタジエンとのコポリマー(NBR);シリコーン樹脂、特にビニル基を有するポリ(ジメチルシロキサン);フルオロカーボンのポリマー、特に、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)およびジフルオロビニリデン(VF2)のコポリマーまたはヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ジフルオロビニリデン(VF2)およびテトラフルオロエチレン(TFE)のターポリマー(各モノマーの比率は0科0モル%);上記ポリマーの混合物の中から選択をされる少なくとも一種のポリマーを使用するのが好ましい。
【0021】
本発明の一つの特徴は、エラストマー樹脂のベースを含むポリマー組成物がCNTより前に共混練機の第1帯域へ注入される時に液体の形をしている点にある。「液体」とは組成物をコンパウンディング装置へポンプで輸送できることを意味し、好ましくはその動的粘度が0.1〜30Pa.s、好ましくは0.1〜15Pa.sであることを意味する。
【0022】
動的粘度は液体状態、溶融状態または固体状態のポリマーの粘度特性を求める一般的方法をベースにして測定する。サンプルを変形する(応力を加える)。大抵は固体の場合にはサイン曲線状に張力、圧縮力、曲げ力または捻り力を加え、液体の場合には剪断力を加える。こうして加えた変形応力に対するサンプルの応答を力または合成トルクで評価するか、加えた応力に対する変形量で評価する。粘度特性はモジュール、粘度で表すか、流動関数または緩和関数で表す。流動物の場合にはサンプルに反復応力および/または変形を加えて剪断勾配の関数で挙動を特定する。
【0023】
この測定には下記要素を備えた粘度計を使用する:
(1)ケースまたは温度調節系(テストを窒素ガスおよび/または液体にするか、空気にするかで雰囲気を選択する)
(2)中央制御装置
(3)空気および窒素の流量調節および乾燥システム
(4)測定ヘッド
(5)装置を管理する情報処理システムとデータ処理装置
(6)サンプル保持具
【0024】
使用可能な装置としてはアントンパール(Anton Paar)社のレオメータ装置RDA2、RSA2、DSR200、ARES、REMを挙げることができる。
【0025】
サンプルの寸法は粘度の関数で定義され、選択した「サンプル−ウンイド(porte-echantillon)」系の幾何形状を限定する。
【0026】
熱硬化性樹脂の動的弾性の実験と測定を行なう場合には使用した粘弾性測定装置の使用マニュアルに記載の段階を正確に追って実行する。特に、変形と応力との間の関係をリニアー(線形粘弾性)にする。
【0027】
使用した樹脂のベースはそれ自体が室温(23℃)で上記粘度を有するか、共混練機に注入する前に加熱された後に上記粘度を有する。当業者はエラストマー樹脂のベースをそれを構成するポリマーの分子量の関数で識別することができる。本発明の変形例ではエラストマー樹脂のベースは固体、例えばゴムの形をしていることもできる。この場合、ポリマー組成物はベースの他に、少なくとも一種の液体またはロウの形をした補助処理剤、例えばフルオロポリマー、特に官能化されていてもよいペルフルオロポリエーテルおよび/またはビニリデンフルオライドとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマーを含むことができる。
【0028】
本発明の他の変形例では、エラストマー樹脂のベースを固体の形、例えば、共混練機中で粉砕した粉末の形で導入し、CNTを導入する前に共混練機中で加熱、剪断して液化することができる。
【0029】
本発明方法ではこのエラストマー樹脂のベースがカーボンナノチューブ(CNT)と混合される。カーボンナノチューブはカーボンから得られる五角形、六角形および/または7角形に規則正しく配置された原子から成る管状、中空および閉じた特殊な結晶構造を有している。一般に、CNTは巻かれた一層または複数層のグラファイト層から成る。従って、単壁ナノチューブ(Single Wall NanotubesまたはSWNT)と多重壁ナノチューブ(Multi Wall NanotubesまたはMWNT)とがある。二重壁ナノチューブは下記非特許文献1に記載の方法で製造できる。また、多重壁ナノチューブは下記特許文献5に記載の方法で製造できる。本発明では多重壁ナノチューブを使用するのが好ましい。
【非特許文献1】FLAHAUT et al. in Chem. Com. (2003), 1442
【特許文献13】国際特許第WO 03/02456号公報
【0030】
本発明で使用するナノチューブの平均直径は一般に0.1〜200nm、好ましくは0.1〜100nm、より好ましくは0.4〜50nm、さらに好ましくは1〜30nmであり、その長さは0.1μm以上、好ましくは0.1〜20μm、例えば約6μmで、その長さ/直径比は10以上であるのが好ましく、一般には100以上である。このナノチューブは「VGCF」(気相化学蒸発で得られるカーボンまたは気相成長繊維、Vapor Grown Carbon Fibers)とよばれるナノチューブである。その比表面積は100〜300 m2/gで、その見掛け密度は0.01〜0.5g/cm3、特に0.07〜0.2g/cm3である。多重壁カーボンナノチューブは例えば5〜15の層を有し、好ましくは7〜10の層を有する。
【0031】
粗カーボンナノチューブは例えばアルケマ(ARKEMA)社からグラフィストレングス(Graphistrength、登録商標)C100の名称で入手できる。
【0032】
ナノチューブは本発明方法で使用する前に精製および/または処理(特に酸化処理)および/または粉砕することができる。また、アミノ化のような溶液で化学処理したり、カップリング剤と反応させて官能化することもできる。
【0033】
ナノチューブの粉砕はボールミル、研摩ミル、ハンマーミル、ナイフカッター、気体ジェット、その他のナノチューブのもつれたネットワークの寸法を減少させることができる公知の装置を用いて冷間または加熱下で実行できる。この段階の粉砕は気体のジェット、特にエアージェット破砕機で行なうのが好ましい。
【0034】
ナノチューブの精製は、製造方法に起因する無機および金属の不純物残渣を除去するために、硫酸またはその他の酸の溶液を用いた洗浄で行なうことができる。硫酸に対するナノチューブの重量比は1:2〜1:3にすることができる。たの精製操作は90〜120℃で例えば5〜10時間で実行できる。この操作の後に水ですすぎ、精製済みナノチューブを乾燥するのが有利である。含まれる鉄および/またはマグネシウムおよび/またはアルミニウムを除去するためのナノチューブの他の精製方法としては1.000℃以上の温度で熱処理する方法がある。
【0035】
ナノチューブの酸化反応は、0.5〜15重量%のNaOCl、好ましくは1〜10重量%のNaOClを含む次亜塩素酸ナトリウム溶液と接触させることで有利に実行できる。次亜塩素酸ナトリウムに対するナノチューブの重量比は1:0.1〜1:1である。この酸化反応は60℃以下の温度、好ましくは室温で、数分から24時間の時間実行するのが好ましい。この酸化反応操作の後に酸化済みナノチューブの濾過および/または遠心分離、洗浄および乾燥段階を行なうのが有利である。
【0036】
しかし、本発明方法では粗ナノチューブを粗の状態で使用するのが好ましい。
【0037】
さらに、本発明方法では下記特許文献6に記載のような再生可能な資源特に植物起源の原材料から得られるナノチューブを使用するのが好ましい。
【特許文献14】フランス国特許第FR 2 914 634号公報
【0038】
本発明方法で使用するナノチューブの量は複合材料の全重量に対して5重量%を越え、70重量%までである。使用するナノチューブの量は、その複合材料を複合部品へ直接成形するのか、マトリックスポリマーに希釈して使用するマスターバッチ混合物にするのかによって、上記範囲内で変えることができる。マスターバッチ混合物にする場合には、本発明の複合材料は複合材料の全重量に対してナノチューブを10〜50重量%、好ましくは20〜50重量%、より好ましくは25〜40重量、例えば30〜40重量%含む。
【0039】
本発明のマスターバッチ−混合物はニトリル樹脂、シリコン樹脂、フルオロカーボンのポリマーおよびこれらの混合物の中から選択される少なくとも一種のポリマーと、マスターバッチ−混合物の全重量に対して20〜40重量%のカーボンナノチューブとを含のが好ましい。特に、本発明のマスターバッチ−混合物は少なくとも一種のシリコン樹脂を含み、マスターバッチ−混合物の全重量に対して30〜40重量%のカーボンナノチューブを含むのが好ましい。
【0040】
ナノチューブはエラストマー樹脂のベースの注入帯域から離れた供給ホッパーを介して共混練機に導入するか、それと一緒に混合して導入できる。
【0041】
本発明で使用するポリマー組成物には上記の補助処理剤の他に、発泡剤、特にアゾジカルボン酸ジアミンをベースにした組成物を含むことができる。これはランクセス(LANXESS)社からゲニトン(Genitron、登録商標)の名称で市販されており、コンパウンディング時に140〜200℃で分解して複合材料中にキュビティーを形成し、それによって後のマトリックスポリマー中への導入が容易になる。
【0042】
さらに他の変形例では、ポリマー組成物がエラストマー樹脂ベースの接着性を減少させ、および/または、ペレットの形成を改善するための化合物を含むことができる。そうした化合物の例はアルケマ(ARKEMA)社からナノストレングス(Nanostrength、登録商標)M52Nの名称で入手可能なポリ(メチルメタクリレート)/ポリ(ブチルアクリレート)/ポリ(メチルメタクリレート)ターポリマーのようなアクリルブロック共重合体である。その他、同じくアルケマ(ARKEMA)社からナノストレングス(Nanostrength、登録商標)の名称で入手可能なポリスチレン/1,4-ポリブタジエン/ポリ(メチルメタクリレート)のコポリマーを使用することもできる。
【0043】
従って、本発明のポリマー組成物は40〜80重量%のニトリル樹脂と、20重量%以下のアクリルコポリマーとを含むことができる。
【0044】
使用可能なその他の添加物にはナノチューブ以外のグラファイトベースの充填材(特にfullerenes)、シリカまたは炭酸カルシウム;UV遮断剤、例えば二酸化チタン;難燃剤;これらの混合物がある。さらに他の変形例では本発明のポリマー組成物が少なくとも一種のエラストマー樹脂の溶媒を含むことができる。
【0045】
本発明方法の終りに得られる複合材料は、冷却後に、有利な固体の形をしており、直ちに使用できる。本発明の他の対象は上記方法で得られた複合材料にある。
【0046】
本発明方法で得られる複合材料の例はアルケマ(ARKEMA)社から市販のグラフィストレングス(Graphistrength、登録商標)C E3-35(シリコーン樹脂中に多重壁CNTを35重量%含む);グラフィストレングス(Graphistrength、登録商標)C E2-40(ニトリル樹脂中に多重壁CNTを40重量%含む);グラフィストレングス(Graphistrength、登録商標)C E1-20(フルオロカーボンのポリマー中に多重壁CNTを20重量%含む)である。
【0047】
本発明のこの複合材料はそのままで使用できる。すなわち、射出成形、押出成形、圧縮成形または型付け等の適当な方法で成形でき、その後に架橋(加硫)する。(活性化温度が混練温度より高い場合)加硫剤は混練中に複合材料に加えられることができる。しかし、複合物の特性を調節する自由度をより多くするためには、成形直前または成形中に複合材料に加えるのが好ましい。
【0048】
本発明の変形例では、本発明の複合材料をマスターバッチ−混合物として使用できる。すなわち、ポリマー中に希釈し、成形することができる。この場合にも加硫剤をコンパウンディング時に入れるか、マトリックスポリマー中(これがより好ましい)に入れる、すなわち、ポリマー材料の配合時または成形時に入れることができる。この実施例では、本発明の最終的な複合製品はナノチューブを例えば0.01重量%〜35重量%、好ましくは1.5重量%〜20重量%含むことができる。
【0049】
本発明のさらに他の対象は、上記複合材料の複合製品の製造および/またはマトリックスポリマーに電気特性、機械特性および/または熱的特性の少なくとも一つを付与するための使用にある。
【0050】
本発明のさらに他の対象は、下記から成る複合製品の製造方法にある:
(1)上記方法で複合材料を製造し、
(2)得られた複合材料をポリマーのマトリックス中に導入する。
【0051】
一般に、マトリックスポリマーは傾斜(コ)ポリマー、ブロック(コ)ポリマー、ランダム(コ)ポリマーまたはシーケンス(コ)ポリマーの中から選択される熱硬化性の単独重合ポリマーまたはコポリマーを少なくとも一種を含む。本発明では上記のポリマーの中の選択される少なくとも一種を使用するのが好ましい。マトリックスポリマーに含まれるポリマーはエラストマー樹脂のベースの少なくとも一種と化学的種類が同じもの(例えばニトリル樹脂、シリコンに樹脂またはフルオロカーボンのポリマー)であるのが有利である。
【0052】
マトリックスポリマーはさらに、少なくとも一種の加硫剤を含み、必要に応じてさらに上記の加硫促進剤をさらに含むことができる。さらに、各種のアジュバンドおよび添加物、例えば潤滑油、充填材、補強剤、静電気防止剤、殺菌剤、耐火剤、溶媒、安定剤、顔料を含むことができる。
【0053】
複合材料のマトリックスポリマー中への希釈は任意の手段、特に、シリンダ混合機、内部混合機、円錐混合機を使用して実施できる。
【0054】
シリコーン樹脂をベースにした複合製品の電気特性を改善する場合には、複合材料またはマスターバッチ−混合物を先ず最初にマトリックスポリマーの一部および加硫剤と混合して均一混合物とし、次いで、マトリックスポリマーの残りを加え、その後に所望形状の複合製品に加工する。
【0055】
こうして得られた複合製品はケースのジョイントまたはシール、タイヤ、騒音板、静電気放散具、高圧および中圧ケーブルの内部導電層または自動車ダンパーのような振動防システムの製造、さらには防弾外装構造の要素の製造で使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
これらの用途では任意の方法、特に、押出成形、注型または射出成形で成形できる。
本発明は以下の実施例の説明からより良く理解できよう。しかし、本発明が下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0057】
実施例1
ニトリル樹脂ベースを含むマスターバッチ−混合物の製造
押出しスクリューと造粒装置とを備えた共混練機BUSS MDK 46(L/D = 11)の第1ホッパーにカーボン・ナノチューブ(アルケマ(ARKEMA)社のグラフィストレングス(Graphistrength、登録商標)C100)と、アクリルコポリマーの粉末(アルケマ(ARKEMA)社のナノストレングス(Nanostrength、登録商標)M52N とを導入した。160℃に予熱したブタジエン−アクリロニトリル共重合体(ハルスター(HALLSTAR)社のニポル(NIPOL、登録商標)1312Vを共混練機の第1帯域に190℃で液体の形で注入した。共混練機の温度指示および吐出量は200℃および12kg/時に制御した。スクリューの回転数は240回転/分にした。
【0058】
共混練機の出口で得られた均一なストランドをジェット水流中でカットしてペレットにした。このペレットは40重量%のナノチューブと、55重量%のニトリル樹脂と、5重量%のアクリル共重合体とを含むマスターバッチ−混合物から成る。次いで、ペレットを50℃で乾燥してから包装した。
このペレットは加硫剤を含むマトリックスポリマー中に希釈し、成形できた。
変形例ではニトリル樹脂の一部(5〜10重量%)を造粒または粉砕した固体の形で共混練機の最初の供給ホッパーへ導入した。
【0059】
実施例2
シリコン樹脂エラストマーのベースを含むマスターバッチ−混合物の製造
カーボン・ナノチューブ(アルケマ(ARKEMA)社のグラフィストレングス(Graphistrength、登録商標)C100を押出機と造粒装置とを備えた共混練機 BUSS MDK46(L/D=11)の最初の供給ホッパーへ導入した。ビニル末端を有する直鎖ポリジメチルシロキサン(モメンティブン(MOMENTIVE)社のシロプレン(Silopren、登録商標)U10)の一部を約40〜60℃で共混練機の第1帯域へ、一部は第1帯域より後の共混練機の制限リングの所へ導入した。混練は90〜110℃で実行した。
装置出口で得られたストランドをジェット水流中でカットしてペレットにした。このペレットは35重量%のナノチューブと、65重量%のシリコン樹脂とを含むマスターバッチ−混合物から成る。次いで、ペレットを50℃で乾燥してから包装した。
このペレットを加硫剤を含むマトリックスポリマー、例えばシール製造用またはタイヤ製造用のマトリックスゴム中に希釈し、成形できた。
【0060】
実施例3
フッ素エラストマー樹脂のベースを含むマスターバッチ−混合物製造
実施例1に記載の共混練機中で下記の配合物を作った:
(1)カーボンナノチューブ 35重量%;
(2)デュポン(DuPont)社のフッ素エラストマーであるビトン(Viton、登録商標)A100(1〜5mmの粒子に粉砕したの形で用いた) 40重量%;
(3)ソレックス(SOLEXIS)社からテクノフロン(Technoflon、登録商標)FPA1の名称で市販の官能化されたペルフルオロプロピルエーテルから成る補助処理剤 25重量%
この配合物全体を共混練機の最初の供給ホッパーに導入し、160〜180℃で混練して、複合材料のストランドを得た。それをペレットにカットした。
このマスターバッチ−混合物は室温でマトリックスポリマー中に希釈して複合製品に成形することができた。
【0061】
実施例4
フッ素エラストマー樹脂のベースを含むマスターバッチ−混合物の製造
実施例3に記載の共混練機中で下記の配合物を作った:
(1)カーボンナノチューブ 40重量%;
(2)実施例3に記載のフッ素エラストマー 20重量%;
(3)ダイキンアメリカ(DAIKIN AMERICA)社からダイキン(登録商標)DAI-EL G101で市販のフッ素エラストマー(ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとのフッ素コポリマー)の液体樹脂 20重量%;
(4)実施例3と同じ補助処理剤 20重量%。
この配合物全体を共混練機の最初の供給ホッパーに導入した。ただし、樹脂は160℃で注入した。160〜180℃で混練して複合材料のストランドを得た。それをペレットにカットした。
このマスターバッチ−混合物は室温でマトリックスポリマー、特に、PVDF中に希釈して複合製品に成形することができた。
変形例ではマスターバッチ−混合物をそのまま用いてガソリン輸送用容器を製造した。
実施例5
固体のフッ素エラストマー樹脂のベースを含むマスターバッチ−混合物の製造
固体の形をしたビトン(Viton、登録商標)A100(上記のフッ素エラストマー)を計量計で計量し、帯体の形で、押出機と造粒装置とを備えた共混練機 BUSS MDK46(L/D=11)の最初の供給ホッパーへ導入した。
共混練機の第1の帯域で上記樹脂が液化した後の共混練機の第2帯域へカーボン・ナノチューブ(アルケマ(ARKEMA)社のグラフィストレングス(Graphistrength、登録商標)C100を導入した。共混練機の第1の帯域および第2帯域の温度はそれぞれ150℃および140℃に調節し、吐出量は12kg/時に調節した。スクリュー回転数は200回転/分にした。
出口の4×4mmオリフィスで得られた均一なストランドをジェット水流中でカットしてペレットにした。このペレットは20重量%のナノチューブを含むマスターバッチ−混合物から成る。このペレットを50℃で乾燥してから包装した。
このペレットを加硫剤を含むマトリックスポリマー中に希釈し、成形できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(a)〜(c)の段階から成る5重量%〜70重量%のナノチューブを含む複合材料の製造方法:
(a) 少なくとも一種の熱硬化性のエラストマーのベースから成る(または含む)少なくとも一種のエラストマー樹脂のベースと、カーボンナノチューブとを含む液体状態のポリマー組成物をコンパウンディング装置中に導入し、
(b) 上記コンパウンディング装置中で上記ポリマー組成物とナノチューブとを混合して複合材料を形成し、
(c)得られた複合材料を、必要な場合には物理的に固体の形に成形した後に、回収する。
【請求項2】
コンパウンディング装置がL/D比が7〜22、好ましくは10〜20である共混練機である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記ポリマー組成物がフルオロカーボンのポリマー、フルオロシリコンのポリマー;ニトリル樹脂;無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸および/またはスチレンのような不飽和のモノマーで官能化されていてもよいブタジエンのホモ−またはコポリマー(SBR);ネオプレン(または、ポリクロロプレン);ポリイソプレン;スチレン、ブタジエン、アクリロニトリルおよび/またはメチルメタクリレートとイソプレンとのコポリマー;プロピレンおよび/またはエチレンをベースにしたコポリマー、特にエチレン、プロピレンおよびジエンのターポリマー(EPDM)、およびこれらのオレフィンとアルキル(メタ)アクリレートまたは酢酸ビニルとのコポリマー;ハロゲン化ブチルゴム;シリコーン樹脂;ポリウレタン;ポリエステル;カルボキシル基またはエポキシを有するポリ(ブチルアクリレート)のようなアクリルポリマー;上記ポリマーの誘導体および混合物の中から選択される一種または複数のエラストマー樹脂を含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
エラストマー樹脂のベースがニトリル樹脂、特にアクリロニトリルとブタジエンとのコポリマー(NBR);シリコーン樹脂、特にビニル基を有するポリ(ジメチルシロキサン);フルオロカーボンのポリマー、特にヘキサフルオロプロピレン(HFP)およびジフルオロビニリデンジ(VF2);ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ジフルオロビニリデンジ(VF2)およびテトラフルオロエチレン(TFE)のターポリマー(各モノマーは0〜80モル%);および上記ポリマーの混合物の中から選択される一種または複数のポリマーである請求項3に記載の方法。
【請求項5】
複合材料が複合材料の全重量に対して10〜50重量%、好ましくは20〜50重量%、より好ましくは25〜40重量%のナノチューブを含む請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法で得られる複合材料。
【請求項7】
請求項6に記載の複合材料の、複合製品の製造および/またはポリマー材料に電気特性、機械特性および/または熱特性の少なくとも一つを付与するための使用。
【請求項8】
(1)請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法で複合材料を製造し、(2)得られた複合材料をポリマーのマトリックス中に導入することから成る、複合製品の製造方法。

【公開番号】特開2010−222582(P2010−222582A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66079(P2010−66079)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【Fターム(参考)】