説明

ナノバブル水を処理した穀物

【課題】保存中に品質が劣化した穀物の品質の改善、及び穀物に付着した細菌数の低減を課題とする。
【解決手段】穀物に酸素ナノバブル水が処理されたことを特徴とする穀物であり、前記処理は酸素ナノバブルの処理が、穀物の0.01〜20.0質量%を穀物表面に付着させ、付着後6〜24時間静置することが好ましく、前記酸素ナノバブル水のナノバブルの粒径が、50nm以下であることが好ましい。さらに本発明は前記穀物を製粉した穀粉である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は穀物に酸素ナノバブル水を処理することで得られる穀物に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノバブルは、直径が200ナノメートルよりも小さい泡で、通常の大きさの泡と異なり、数カ月にわたって消えることがない。ナノバブルは、例えば水を電気分解し、生成した酸素に超音波を印加して生成させる方法が知られている(特許文献1を参照。)。海水など電解質を含んだ水の中でマイクロバブルを圧壊させることで発生し、空気や酸素で作ったナノバブルを含む水は無色透明である。
【0003】
これまでナノバブルを利用した洗浄方法(特許文献2を参照。)、水処理装置(特許文献3を参照。)、除菌可能な水耕栽培装置(特許文献4を参照。)、粘性溶液の水素コロイドの生産方法(特許文献5を参照。)ナノバブルを含む液体食品又は飲料の製造装置の脱臭洗浄方法(特許文献6、及び特許文献7を参照。)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−245817号公報
【特許文献2】特開2004−121962号公報
【特許文献3】特開2007−083143号公報
【特許文献4】特開2008−2064482号公報
【特許文献5】特開2008−279424号公報
【特許文献6】特開2009−101299号公報
【特許文献7】特開2009−136852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
保存中に水分飛散、蛋白の変性等により品質が変化した穀物を製粉した場合は、収穫時の穀物を製粉した場合に比べ、食感では硬さや脆さの増加、粘弾性やなめらかさの減少などの品質劣化が生じる。またそば等では、赤みの増加等の色調も変化する。
【0006】
このような欠点を改善するために、従来から小麦グルテン、卵白粉末、加工でんぷん、酵素製剤等の添加剤が使用されてきたが、添加剤を使用すると穀物本来の風味が損なわれ、添加剤の使用によっては欠点を十分改善することはできなかった。本発明は、保存中に品質が劣化した穀物の品質の改善、及び穀物に付着した細菌数の低減を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、保存中の穀物に酸素ナノバブル水を処理することにより、該穀物の品質が改善され、更に穀物の除菌効果があることを見出し、本発明に至った。すなわち本発明は以下のとおりである。
【0008】
<1>本発明は、穀物に酸素ナノバブル水が処理されたことを特徴とする穀物である。
<2>前記処理は、穀物の0.01〜20.0質量%の酸素ナノバブル水を穀物表面に付着させ、付着後6〜24時間静置することが好ましい。
<3>さらに本発明は前記穀物を製粉した穀粉である。
【発明の効果】
【0009】
本発明を用いることにより、穀物中の穀粉の品質を改質することができ、特に長期保存により品質の劣化した穀物の穀粉の品質を改質することができる。また本発明により、穀粉の菌数を減少させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、穀物に酸素ナノバブル水が処理されたことを特徴とする穀物である。以下本発明について詳説する。
【0011】
本発明が用いられる穀物は、特に限定されるものではないが、本発明の処理を行った後、比較的短時間に穀粉として使用される、米、麦、そばが好ましい。前記穀物においても、収穫後半年以上経過し、品質の劣化の認められる穀物が特に好ましい。
【0012】
本発明の酸素ナノバブル水は、ナノバブルの粒径が50nm以下が好ましく、20nm以下がより好ましい。本発明の酸素ナノバブル水は、水に希釈して用いることができる。以下水に希釈した酸素ナノバブル水を、原料である酸素ナノバブル水と区別するために、酸素ナノバブル水溶液という。該酸素ナノバブル水溶液は酸素ナノバブル水の濃度は、0.5%〜100.0%が好ましく、5.0%〜100.0%がより好ましい。
【0013】
また酸素ナノバブル水の処理量は、穀粉に対して酸素ナノバブル水が、0.01〜20.0質量%となる処理が好ましく、穀物の品質回復としては、0.1〜15.0質量%がより好ましく、8.0〜12.0質量%が特に好ましい。また殺菌としては2.0〜15.0質量%がより好ましい。処理の方法としては、浸漬または噴霧等によって穀物の表面に付着させる。
【0014】
前記処理をした穀物は、処理後6時間乃至24時間静置した後に、加工処理することが好ましい。
【実施例】
【0015】
以下に本発明の内容を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお以下の記載において単に「部」というときは質量部をいう。
<そばへの使用>
《実施例1〜5のそば粉の調製》
供試材料として、収穫後1年経過した中国産マンカン種の玄そばから殻を取り出したそば実(以下旧穀ということがある。)を用いた。酸素ナノバブル水は、株式会社REO研究所製、商品名:ナーガの雫、バブル粒径:10nm以下、を用いた。本実施例の酸素ナノバブル水溶液は、前記酸素ナノバブル水が、温度10℃の水に対し、0.5%(実施例1)、5.0%(実施例2)、50.0%(実施例3)、100.0%(実施例4、実施例5)となるように混合して作製した。酸素ナノバブル水の処理は、該各酸素ナノバブル水溶液を、前記そば実100部に対し、表1に示す量を噴霧して、穀物表面に付着して行った。
【0016】
【表1】

【0017】
前記酸素ナノバブル水を処理したそばの実について、処理後20℃で12時間静置した後に、石臼(オーストリア、モラ社製、A400MSM)を用いて挽き、実施例1〜実施例5のそば粉を作成した。該そば粉の歩留まりは、いずれも97%であった。
【0018】
《比較例1〜2のそば粉の調製》
前記実施例1に対し、酸素ナノバブル水を用いない水溶液を穀物に対して2質量%噴霧した以外は、実施例1と同様の処理をしたそば粉を比較例1とした。また実施例1の収穫後1年経過した中国産マンカン種の玄そばに代えて、収穫後1ヶ月のそば実(以下新穀ということがある。)を用い、水溶液の噴霧を行わなかった以外は実施例1と同様の処理をしたそば粉を比較例2とした。
【0019】
《そば粉中の菌数測定》
前記により調製した実施例及び比較例のそば粉について、そば粉に含まれる菌数を測定した。菌数測定は、一般生菌数、大腸菌群数、大腸菌数の各々について、AOAC法により実施した。すなわち、3M社製のペトリフィルムを用い、35℃で24時間培養後、赤色のコロニーでガスの発生が認められたものを大腸菌群、青色になったコロニーを大腸菌、更に35℃で48時間培養後、培地に赤色のコロニーとして現れたものを一般生菌として、各々のコロニー数をカウントした。結果を表2に示す。
【0020】
【表2】

【0021】
表2の結果から、比較例1と比較して、実施例1〜3においては一般生菌数がわずかに減少し、実施例4、及び5においては一般生菌数が顕著に減少した。
【0022】
《そば粉の色調測定》
前記により調製した実施例及び比較例のそば粉について、そば粉の色調をSMカラーコンピューター(スガ試験機株式会社、商品名:SM-P)を用い、L値(明るさを示し数値が高いほど明るい。)、a値(赤みを示し数値が高いほど赤い。)、b値(黄みを示し数値が高いほど黄色い。)を測定した。結果を表3に示す。
【0023】
【表3】

【0024】
一般に殻を除いたそば実で作ったそば粉は、収穫直後のものは色調が明るく淡い緑色を呈するが、収穫後の保存期間が長くなるとそばの色調が徐々に褐変してくる。表3の結果から実施例1〜5ではL値の上昇とa値の低下が見られ、今回の処理により一度褐変したそばについても、明るさの回復と赤み(褐変)の低減が認められた。
【0025】
《そば麺の作製》
前記実施例1〜5及び比較例1及び2のそば粉50部に、アメリカ産ハード系小麦を原料とする小麦粉(熊本製粉社製、商品名:A特中華)50部と、水30部を加え、実施例1〜5、比較例1〜2のそば麺原料とした。さらに比較例1における小麦粉50部に代えて、小麦粉45部、アセチル化タピオカ澱粉(ベダン社製、商品名:V−110AAタピオカ加工澱粉)5部とした以外は比較例1と同様としたものを比較例3のそば麺原料とし、比較例1における小麦粉50部に代えて、小麦粉40部、アセチル化タピオカ澱粉10部とした以外は比較例1と同様としたものを比較例4のそば麺原料とした。
【0026】
前記により調製した実施例1〜5、比較例1〜4のそば麺原料用いて、下記表4に示す工程でそば麺を作製した。該そば麺100gを98℃以上のお湯で2分30秒間茹で、その後10℃の水で1分間水洗して、麺を茹でた。前記により茹でた直後の麺、及び該麺を乾燥しないようにビニール袋に詰め、8℃で24時間保存したものについて、茹で麺の最大荷重と伸張度の測定、及び官能評価を実施した。
【0027】
【表4】

【0028】
《茹で麺のテクスチャー測定》
前記により茹でた麺について、テクスチャーアナライザー(マイクロステイブル社製、商品名:TA-XT2i)における、SPAGHETTI/NOODLETENSILE RIGを使用して、茹で麺の最大荷重と伸長度を測定した。結果を表4に示す。表4において、(D+1)は前記8℃で24時間保存したものを示す。
【0029】
【表5】

【0030】
表5の結果における最大荷重を食感の硬さ、伸張度を粘弾性とすると、茹でたてについては、実施例1〜5において硬さは減少するが、伸張度が向上する結果となった。特に麺の粘弾性については、ナノバブル水の処理量が増えていくほどが向上する結果となった。また茹でおき麺についてはナノバブル水を処理したものは比較例1と比較して硬さが残り、ナノバブル水の処理量が増えていくほど粘弾性が残る結果となった。これはナノバブル水の処理が、麺の茹で伸びによる硬さ・粘弾性の減少という食感の劣化を抑えたことを示唆する。
【0031】
《官能評価》
官能評価は、専門の6人のパネラーにより比較例1を標準とし、1=かなり不良、2=すこし不良、3=わずかに不良、4=標準、5=わずかに良、6=すこし良、7=かなり良、の7段階で評価を実施した。茹で立ての評価結果を表6に、茹でおきの評価結果を表7に示す。
【0032】
【表6】

【0033】
【表7】

【0034】
表6の結果より実施例1〜5は比較例1と比較して、酸素ナノバブル水の処理量が増えていくほど粘弾性、なめらかさが向上し、総合的に高い評価になった。比較例3、4と比較しても粘弾性、なめらかさ、食味に優れ、添加剤を加えるよりも総合的に優れたものとなった。
【0035】
また表7の結果より茹で置き麺(D+1)においても、比較例1と比較して、酸素ナノバブル水の処理量が増えていくほど粘弾性、なめらかさが向上し、総合的に高い評価になり、茹で立てと同様の傾向が見られた。比較例3、4と比較しても粘弾性、なめらかさ、食味に優れ、添加剤を加えるよりも総合的に優れたものとなり、茹で立てと同様の傾向が見られた。
【0036】
<小麦への使用>
《実施例6〜8の小麦粉の調製》
前記実施例1〜5と同様に、酸素ナノバブル水の濃度が、0.5%(実施例6)、5.0%(実施例7)、100%(実施例8)の酸素ナノバブル水溶液を作製し、収穫後1年経過したオーストラリア産ソフト系小麦ASWを用い、小麦100部に対し各酸素ナノバブル水溶液8.5部を噴霧処理した。また酸素ナノバブルを含有しない水溶液8.5部を処理したものを比較例5とした。
【0037】
前記各小麦粉について、処理後20℃で12時間静置後、テストミル(ビューラー社製)により表8に示すコースにて、採り分けを行なった。該コースにおける灰分値の低い1B、2B、1M、2Mのコースをこの順に使用し、総量が60部となったところで停止して、各コースを配合した。
【0038】
【表8】

【0039】
《小麦粉のテクチャー及び色調測定》
前記により製造した粉について、下記方法により、水分、灰分、蛋白、最高糊化粘度、ファリノ吸水率、エクステンソR/Eの各項目について、下記により分析を行った。結果を表9に示す。
【0040】
水分:常圧加熱乾燥法により測定した。水分形(形式:890100、ブラベンダー社製)を用い、試料10gを130℃で35分加熱し、過熱前の試料の重量から過熱後の試料の重量を差し引いたものを水分量とした。水分値は試料に対する重量パーセントで表示した。
【0041】
灰分:乾式灰化法により測定した。マッフル炉(形式PMR26K、いすず製作所製)を用いて、試料5gを850℃で3時間焼成し、焼成後の残ったものを試料に対する重量パーセントで表示した。
【0042】
蛋白:デュマ法により測定した。窒素/タンパク質分析装置(形式:ラピッドN、エレメンター社製)を用い、試料60mgを960℃と800℃で2回燃焼し、発生した燃焼ガス中の窒素量を測定し、蛋白量に換算した。小麦の蛋白換算係数は5.70を用いた。蛋白値は試料に対する重量パーセントで表示した。
【0043】
最高粘度:ラピッドビスコアナライザー(形式:RVA−3D、ニューポートサイエンティフィック社製)を用い、試料4gを純水25mlに攪拌し、次のような条件のもと温度を変化させ、攪拌パドルにかかる負荷の最高値(単位はBU)を最高粘度とした。温度条件:0〜1分;50℃、1分〜16分;50℃〜97℃へ温度上昇、16分〜17分;97℃、17分〜21分;97℃から50℃へ温度下降。
【0044】
ファリノ吸水率:ファリノグラフ(型式:860000、ブラベンダー社製)を用い、試料300gをファリノグラフのミキサーに入れミキシングしながらファリノカーブの中心線が500BU±20BUになるように水を加え、この加えた水の量を小麦粉に対し質量パーセントであらわしたものをファリノ吸水率とした。
【0045】
エクステンソR/E:試料300gに、捏ね終わり時の生地の硬さが500BUになるように水を加え、前記ファリノグラフのミキサーで3分間混合後に、150gの生地に2分割して棒状にし30℃の高温槽で45分間寝かせた生地について、エクステンソグラム(型式:860000、ブラベンダー社製)を用い、エクステンソグラフにより生地の伸張抵抗と伸張度を測定した。エクステンソグラフのR/Eは生地の伸張抵抗を伸張度で割ったものを表示した。
【0046】
測定後は前記生地を再形成し、さらに90分後、135分後について同様に測定した。
【0047】
【表9】

【0048】
表9の結果、比較例に比べ実施例6〜8では、特に最高糊化粘度の上昇が見られた。これは小麦澱粉に熱をかけて糊化させる際に、実施例において粘性が向上したと考えられ、官能評価や物性測定の粘弾性や伸張度の結果にも影響していると考えられる。
【0049】
《小麦粉の色調測定》
前記により製造した粉について、そば粉と同様に、カラーコンピューターで色調を測定した結果を表10に示す。
【0050】
【表10】

【0051】
表10の結果、小麦については色調への影響は、小さかった。
【0052】
《うどんの作製》
前記より作成した各小麦粉について、小麦粉100.0部、食塩3.0部、水34.0部を配合したうえ、表11に示す工程に従って、実施例6〜8、及び比較例5のうどん麺を作製し、製麺試験に供した。
【0053】
【表11】

【0054】
前記により作製した実施例6〜8、及び比較例5のうどん100gを、98℃以上のお湯で15分間茹でた。その後、10℃の水で水洗を1分間行い、評価用の麺として、官能評価を実施した。結果を表12に示す。さらに前記麺を乾燥しないようにビニール袋に詰め、8℃で24時間保存したものについて、同様の項目について官能評価を行った。結果を表13に示す。
【0055】
【表12】

【0056】
【表13】

【0057】
表12の結果から実施例6〜8では硬さ、粘弾性、なめらかさの点で、優れた評価結果であった。酸素ナノバブル水の処理量が増えるほど、その傾向は強かった。また表13の結果から、24時間保存したものは硬さ、なめらかさについては茹で立てほどの有意差はなかったが粘弾性については酸素ナノバブル水を処理したものは優れた評価となった。
【0058】
《茹で麺のテクスチャー》
茹で麺の最大荷重と伸張度については前記で作製直後のうどんを用い、そばの測定同様テクスチャーアナライザー(商品名:TA-XT2i、マイクロステイブル社製)における、SPAGHETTI/NOODLE TENSILE RIGを使用して、茹で麺の抗張力と伸長度を測定した結果を表14に示す。
【0059】
【表14】

【0060】
表14の結果から比較例5と比較した場合、実施例6〜8では官能評価結果同様、硬さと粘弾性の向上が確認できた。また、そばとは異なりナノバブル水を処理した小麦を用いたうどんは、硬さについても向上が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明により、保存により品質の劣化した穀物について、その穀粉の品質を回復させることが可能となり、また穀粉の菌数も減少させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀物に、酸素ナノバブル水が処理されたことを特徴とする穀物。
【請求項2】
前記酸素ナノバブル水の処理が、穀物の0.01〜20.0質量%の酸素ナノバブル水を穀物表面に付着させ、付着後6〜24時間静置する処理である請求項1に記載の穀物。
【請求項3】
前記酸素ナノバブル水のナノバブルの粒径が、50nm以下である請求項1又は2に記載の穀物。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の穀物を製粉した穀粉。