説明

ナノファイバシート

【課題】香料等の揮発性機能剤を含有するナノファイバを含んで構成され、該揮発性機能剤の作用によって香気放出等の有用な機能を発揮しうるナノファイバシートを提供すること。
【解決手段】本発明のナノファイバシートは、高分子化合物のナノファイバを含むナノファイバ層を備えている。ナノファイバが揮発性機能剤を含有しており、この揮発性機能剤の20℃における蒸気圧が13.3Pa以下である。ナノファイバは、エレクトロスピニング法によって形成されたものが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノファイバを含むナノファイバシートに関する。
【背景技術】
【0002】
ナノファイバは、例えば、ナノサイズ効果を利用した高透明性等の光学特性が要求される分野に応用されている。一例として、ナノファイバの直径を可視光の波長以下にすることで、透明なファブリックを実現できる。また、ナノファイバの直径を可視光の波長と同じにすることで、構造発色を発現させることができる。また、高い比表面積効果を利用して、高吸着特性や高表面活性が要求される分野や、高い分子配列効果を利用して、引張強度等の力学的特性や高電気伝導性等の電気的特性が要求される分野でも検討がなされている。このような特徴を有するナノファイバは、例えば単繊維として用いられるほか、集積体(ファブリック)や複合材としても用いられている。
【0003】
ナノファイバの応用例として、エレクトロスピニング法(静電紡糸法)によって得られる多糖類を主原料とし、直径が500nm以下である多糖類のナノスケールの繊維が提案されている(特許文献1参照)。同文献の記載によれば、この繊維は、再生医療における生体組織培養の基材及び生体組織の欠損、修復、再生、治療を目的とした生体材料(人工弁、人工臓器、人工血管、創傷被覆材等)の一部として用いられるとされている。
【0004】
また、高分子化合物のナノファイバからなる網目状構造体に、化粧料や化粧料成分を保持させてなる化粧用シートも提案されている(特許文献2参照)。同文献の記載によれば、この化粧用シートは、顔面や手足に対する密着性や装着感を向上させることができ、また、保存性も向上させることができるとされている。これらの技術のほか、エレクトロスピニング法によって製造されたナノファイバを含むシートについての技術として、特許文献3及び4に記載の技術も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−290610号公報
【特許文献2】特開2008−179629号公報
【特許文献3】特表2004−532802号公報
【特許文献4】国際公開第2009/031620号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ナノファイバを含むシートにおいて、該シートを構成するナノファイバに香料等の各種機能剤を含有させることにより、該シートに各種機能を付与することができる。例えば、ナノファイバに香料を含有させることにより、該ナノファイバを含むシートを賦香することができ、そのようにして賦香されたシートは、例えばヒトの肌に付着させて使用されることで、香りの種類に応じてリラックス感、リフレッシュ感、入眠感等を誘発させることができ、有用なものである。
【0007】
しかしながら、特許文献1〜4に記載されているようにエレクトロスピニング法を利用してナノファイバを製造する場合において、香料のような揮発性機能剤をナノファイバに含有させるべく、ナノファイバの原料となる高分子化合物の溶液中に揮発性機能剤を含有させて常法通り静電紡糸を実施すると、静電紡糸中に揮発性機能剤が揮発してしまい、最終的に得られるナノファイバに揮発性機能剤が十分に含有されていないという問題がある。例えば、ナノファイバの原料となる高分子化合物の溶液中に香料を含有させて静電紡糸すると、そうして得られたナノファイバは香料を十分に含んでおらず、香りの持続性(残香性)に乏しく、香りがほとんど感じられないものとなってしまうおそれがある。特許文献1〜4には、エレクトロスピニング法において揮発性機能剤を使用することやその場合の問題については、何等具体的に記載されていない。
【0008】
本発明の課題は、香料等の揮発性機能剤を含有するナノファイバを含んで構成され、該揮発性機能剤の作用によって香気放出等の有用な機能を発揮しうるナノファイバシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、高分子化合物のナノファイバを含むナノファイバ層を備えたナノファイバシートであって、前記ナノファイバが揮発性機能剤を含有しており、該揮発性機能剤の20℃における蒸気圧が13.3Pa以下であるナノファイバシートを提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のナノファイバシートは、揮発性機能剤を含有するナノファイバを含んで構成され、該揮発性機能剤の作用によって有用な機能を発揮しうる。例えば、揮発性機能剤が香料の場合には、該香料を含有するナノファイバを含む本発明のナノファイバシートは賦香されているため、化粧料等、香りが有用とされる各種用途に好適である。また、本発明のナノファイバシートは、公知のエレクトロスピニング法を利用して製造することが可能であり、そのように製造しても、ナノファイバ中の揮発性機能剤の作用によって有用な機能を発揮しうる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、エレクトロスピニング法を実施するための装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明のナノファイバシートは、高分子化合物のナノファイバを含むナノファイバ層を備えている。ナノファイバ層は、ナノファイバのみから構成されていることが好ましい。尤も、ナノファイバ層が、ナノファイバに加えて他の成分を含むことは妨げられない。ナノファイバは、その太さを円相当直径で表した場合、一般に10〜3000nm、特に10〜1000nmのものである。ナノファイバの太さは、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)観察によって10000倍に拡大して観察し、その2次元画像から欠陥(ナノファイバの塊、ナノファイバの交差部分、ポリマー液滴)を除き、繊維(ナノファイバ)を任意に10本選び出し、繊維の長手方向に垂直に線を引き、その繊維径を直接読み取ることで測定することができる。
【0013】
ナノファイバの長さは本発明において臨界的でなく、ナノファイバの製造方法に応じた長さのものを用いることができる。また、ナノファイバは、ナノファイバ層において、一方向に配向した状態で存在していてもよく、あるいはランダムな方向を向いていてもよい。
【0014】
ナノファイバ層の厚みは、その具体的な用途に応じて適切な範囲が設定される。ナノファイバシートを、例えばヒトの肌に付着させるために用いる場合には、ナノファイバ層の厚みを50nm〜1mm、特に500nm〜500μmに設定することが好ましい。ナノファイバ層の厚みは、接触式の膜厚計ミツトヨ社製ライトマチックVL−50A(R5mm超硬球面測定子)を使用して測定できる。測定時にシートに加える荷重は0.01Nとする。
【0015】
ナノファイバ層の坪量も、その具体的な用途に応じて適切な範囲が設定される。ナノファイバシートを、例えばヒトの肌に付着させるために用いる場合には、ナノファイバ層の坪量を0.01〜100g/m2、特に0.1〜50g/m2に設定することが好ましい。
【0016】
ナノファイバ層において、ナノファイバは、それらの交点において結合しているか、又はナノファイバどうしが絡み合っている。それによって、ナノファイバ層は、それ単独でシート状の形態を保持することが可能となる。ナノファイバどうしが結合しているか、あるいは絡み合っているかは、ナノファイバ層(ナノファイバシート)の製造方法によって相違する。
【0017】
ナノファイバは、高分子化合物を原料とするものである。高分子化合物としては、天然高分子及び合成高分子のいずれをも用いることができる。この高分子化合物は、水溶性高分子化合物でもよく、水不溶性高分子化合物でもよい。
【0018】
本明細書において「水溶性高分子化合物」とは、1気圧・23℃の環境下において、高分子化合物を1g秤量したのちに、10gのイオン交換水に浸漬し、24時間経過後、浸漬した高分子化合物の0.5g以上が溶解する性質を有する高分子化合物をいう。
【0019】
また、本明細書において「水不溶性高分子化合物」とは、1気圧・23℃の環境下において、高分子化合物を1g秤量したのちに、10gのイオン交換水に浸漬し、24時間経過後、浸漬した高分子化合物の0.8g以上が溶解しない性質を有する高分子化合物をいう。
【0020】
ナノファイバを構成する水溶性高分子化合物としては、例えばプルラン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ポリ−γ−グルタミン酸、変性コーンスターチ、β-グルカン、グルコオリゴ糖、ヘパリン、ケラト硫酸等のムコ多糖、セルロース、ペクチン、キシラン、リグニン、グルコマンナン、ガラクツロン、サイリウムシードガム、タマリンド種子ガム、アラビアガム、トラガントガム、大豆水溶性多糖、アルギン酸、カラギーナン、ラミナラン、寒天(アガロース)、フコイダン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の天然高分子、部分鹸化ポリビニルアルコール(後述する架橋剤と併用しない場合)、低鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸ナトリウム等の合成高分子等が挙げられる。これらの水溶性高分子化合物は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの水溶性高分子化合物のうち、ナノファイバの調製が容易である観点から、プルラン、並びにけん化度80〜96mol%の部分鹸化ポリビニルアルコール、低鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及びポリエチレンオキサイド等の合成高分子を用いることが好ましい。
【0021】
ナノファイバを構成する水不溶性高分子化合物としては、例えばポリビニルアルコール(ナノファイバ形成後に不溶化処理できる完全鹸化ポリビニルアルコール、後述する架橋剤と併用することでナノファイバ形成後に架橋処理できる部分鹸化ポリビニルアルコール)、ポリ(N−プロパノイルエチレンイミン)グラフト−ジメチルシロキサン/γ−アミノプロピルメチルシロキサン共重合体等のオキサゾリン変性シリコーン、ツエイン(とうもろこし蛋白質の主要成分)、ポリエステル、ポリ乳酸(PLA)、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリメタクリル酸樹脂等のアクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等が挙げられる。これらの水不溶性高分子化合物は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの水不溶性高分子化合物のうち、安全性が高く入手しやすい、エチルアルコールやイソプロピルアルコール等の溶媒に可溶である、等の観点から、ナノファイバ形成後に不溶化処理できる完全鹸化ポリビニルアルコール、後述する架橋剤と併用することでナノファイバ形成後に架橋処理できる部分鹸化ポリビニルアルコール、γ−アミノプロピルメチルシロキサン共重合体等のオキサゾリン変性シリコーン、水溶性ポリエステル、ツエイン等を用いることが好ましい。
【0022】
ナノファイバ層を構成するナノファイバは揮発性機能剤を含有している。揮発性機能剤としては、香料、美白成分及び味覚調整剤からなる群から選択される1種以上が好ましく用いられる。本明細書において、「香料」は、常温常圧で空間に芳香(良い香り)を付与しうる物質であり、芳香機能を有する。また、「美白成分」は、ヒトの各部に付着させて用いられた場合に、その部分を白くしあるいは若々しく健全な状態に保持しうる物質であり、美白機能を有する。また、「味覚調整剤」は、例えば苦味や酸味を他の味覚(甘味等)に変えたりあるいは低減させたりする等、味覚の種類や程度を変化させうる物質であり、味覚調整機能を有する。これらの機能剤は揮発性であり、常温常圧で揮発する物質である。尚、常温常圧とは、通常、温度23℃、気圧101.325kPaの状態を意味する。
【0023】
本発明においては、揮発性機能剤の20℃における蒸気圧が13.3Pa以下、好ましくは0.0013〜10.7Pa、更に好ましくは0.0133〜6.7Paである点に特徴の一つを有する。ナノファイバの必須構成成分である揮発性機能剤の20℃における蒸気圧が斯かる範囲にあることで、このナノファイバを含むナノファイバシートは、常温常圧において揮発性機能剤の作用に起因する有用な機能を発揮しうる。例えば、揮発性機能剤が香料の場合、該香料を含有するナノファイバを含むナノファイバシートは、常温常圧において空間に芳香を放出する、賦香されたシートとなり、芳香の放出によって使用者に爽快感、清涼感、清潔感、リラックス感等を感じさせ、更には消臭、麻酔効果(鎮痛)等の効果を奏しうる。
【0024】
これに対し、20℃における蒸気圧が13.3Paを超える揮発性機能剤(以下、易揮発性機能剤ともいう)は、揮発性が高すぎるため、ナノファイバ(ナノファイバ層)を後述するエレクトロスピニング法で作製する場合において、ナノファイバの原料となる高分子化合物の溶液中に易揮発性機能剤を添加して常法通り静電紡糸を実施すると、静電紡糸の過程で易揮発性機能剤が揮発してしまい、その結果得られたナノファイバに易揮発性機能剤が十分に残らず、易揮発性機能剤の使用によって期待される有用な機能(例えば、易揮発性機能剤が香料である場合は芳香機能)が作用しないおそれがある。尤も、易揮発性機能剤についても、その添加タイミング等を工夫することで、該易揮発性機能剤の機能をナノファイバシートに付与することが可能であり、これについては後述する。尚、本明細書における各種揮発性機能剤の蒸気圧は、RFIM(Research Institute for Fragrance Materials)が提供するデータベースの値を使用した。
【0025】
本発明で用いる揮発性機能剤(香料)としては、例えば、バニリン、ジャスモン酸メチル、γ−ウンデカラクトン、フェニルエチルアルコール等が挙げられる。これらの揮発性機能剤は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
ナノファイバにおける揮発性機能剤の含有量は、0.001〜30質量%、特に0.01〜5質量%に設定することが好ましい。揮発性機能剤の含有量をこの範囲内に設定することによって、香気放出等の、揮発性機能剤による有用な機能を発揮し得るナノファイバシート(ナノファイバ層)が一層確実に得られるとともに、揮発性機能剤の使用量を低減し製造コストを下げることができる。
【0027】
ナノファイバは、上述の高分子化合物及び揮発性機能剤のみから構成されていてもよく、あるいはこれらに加えて他の成分を含んでいてもよい。そのような他の成分としては、例えば、架橋剤、顔料、添料、界面活性剤、帯電防止剤、発泡剤等が挙げられる。架橋剤は、例えば上述の部分鹸化ポリビニルアルコールを架橋して、これを不溶化する目的で用いられる。顔料は、ナノファイバを着色する目的で用いられる。これら他の成分は、それぞれ、ナノファイバ中に好ましくは0.01〜70質量%含有される。
【0028】
本発明のナノファイバシートは、ナノファイバ層のみを備えた単層構造のシートであってもよく、ナノファイバ層と他の層とが積層した多層構造のシートであってもよい。ナノファイバ層と併用される他の層としては、例えば使用前のナノファイバ層を支持してその取り扱い性を高めるための基材層が挙げられる。ナノファイバ層を、基材層と組み合わせて用いることで、剛性が低いナノファイバ層を、例えばヒトの肌等の対象物に付着させるときの操作性が良好になる。
【0029】
ナノファイバシートの取り扱い性を向上させる観点から、基材層は、そのテーバーこわさが0.01〜0.4mNm、特に0.01〜0.2mNmであることが好ましい。テーバーこわさは、JIS P8125に規定される「こわさ試験方法」により測定される。
【0030】
テーバーこわさとともに、基材層の厚みも、ナノファイバシートの取り扱い性に影響を及ぼす。この観点から、基材層の厚みは、該基材層の材質にもよるが、5〜500μm、特に10〜300μmであることが好ましい。基材層の厚みは、前述したナノファイバ層の厚みと同様の方法で測定することができる。
【0031】
基材層は、ナノファイバ層の上に直接積層されていることが好ましい。この場合、基材層は、ナノファイバ層に対して剥離可能に積層されていることが好ましい。このような構成とすることで、ナノファイバ層を、例えばヒトの肌に付着させた後に、基材層をナノファイバ層から剥離除去して、ナノファイバ層を、ヒトの肌に残すことが可能になるという利点がある。したがって、ナノファイバ層と基材層との間には接着手段等をはじめとする何等の層も設けられていないことが好ましい。
【0032】
基材層としては、例えばポリオレフィン系の樹脂やポリエステル系の樹脂をはじめとする合成樹脂製のフィルムを用いることができる。該フィルムを、ナノファイバ層に対して剥離可能に積層する場合には、該フィルムにおけるナノファイバ層との対向面に、シリコーン樹脂の塗布やコロナ放電処理等の剥離処理を施しておくことが、剥離性を高める観点から好ましい。
【0033】
基材層としては、メッシュシートを用いることもできる。メッシュシートを用いることで、上述したシリコーン樹脂の塗布等の剥離処理をことさら行わなくても、基材層を、ナノファイバ層に対して剥離可能に積層することができる。この場合、基材層における目開きの数は、1インチあたり5〜400個、好ましくは10〜200個である。また、メッシュの線径は、10〜200μm、特に30〜150μmであることが好ましい。メッシュシートを構成する材料としては、上述したフィルムを構成する材料と同様のものを特に制限なく用いることができる。
【0034】
基材層としては、通気性を有する材料である紙や不織布を用いることもできる。紙や不織布を用いることで、上述したシリコーン樹脂の塗布等の剥離処理をことさら行わなくても、基材層を、ナノファイバ層に対して剥離可能に積層することができる。また、後述するように、液状物を介して対象物にナノファイバ層を転写するときに、余分な水分を吸収させることもできる。紙や不織布を構成する材料としては、例えば、天然繊維状物としては植物繊維(コットン、カボック、木材パルプ、非木材パルプ、落花生たんぱく繊維、とうもろこしたんぱく繊維、大豆たんぱく繊維、マンナン繊維、ゴム繊維、麻、マニラ麻、サイザル麻、ニュージーランド麻、羅布麻、椰子、いぐさ、麦わら等)、動物繊維(羊毛、やぎ毛、モヘア、カシミア、アルカパ、アンゴラ、キャメル、ビキューナ、シルク、羽毛、ダウン、フェザー、アルギン繊維、キチン繊維、ガゼイン繊維等)、鉱物繊維(石綿等)が挙げられる。合成繊維状物としては、例えば、半合成繊維(アセテート、トリアセテート、酸化アセテート、プロミックス、塩化ゴム、塩酸ゴム等)、金属繊維、炭素繊維、ガラス繊維等が挙げられる。また、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、デンプン、ポリビニルアルコール若しくはポリ酢酸ビニル又はこれらの共重合体若しくは変性体等の単繊維、又はこれらの樹脂成分を鞘部に有する芯鞘構造の複合繊維を用いることができる。
【0035】
本発明のナノファイバシートは、例えばエレクトロスピニング法を用い、平滑な基板の表面にナノファイバを堆積させてナノファイバ層を形成することで好適に製造することができる。図1には、エレクトロスピニング法を実施するための装置30が示されている。エレクトロスピニング法を実施するためには、シリンジ31、高電圧源32、導電性コレクタ33を備えた装置30が用いられる。シリンジ31は、シリンダ31a、ピストン31b及びキャピラリ31cを備えている。キャピラリ31cの内径は10〜1000μm程度である。シリンダ31a内には、ナノファイバの原料となる高分子化合物及び揮発性機能剤の溶液が充填されている。この溶液の溶媒は、高分子化合物の種類に応じ、水若しくは有機溶媒、又は水及び水と相溶性のある有機溶媒の混合溶媒とする。高電圧源32は、例えば10〜30kVの直流電圧源である。高電圧源32の正極はシリンジ31における高分子溶液と導通している。高電圧源32の負極は接地されている。導電性コレクタ33は、例えば金属製の板であり、接地されている。シリンジ31におけるニードル31cの先端と導電性コレクタ33との間の距離は、例えば30〜300mm程度に設定されている。図1に示す装置30は、大気中で運転することができる。運転環境に特に制限はなく、温度20〜40℃、湿度10〜50%RHとすることができる。
【0036】
シリンジ31と導電性コレクタ33との間に電圧を印加した状態下に、シリンジ31のピストン31bを徐々に押し込み、キャピラリ31cの先端から高分子化合物及び揮発性機能剤の溶液を押し出す。押し出された溶液においては、溶媒が揮発し、溶質の主成分である高分子化合物が固化しつつ、電位差によって伸長変形しながらナノファイバを形成し、導電性コレクタ33に引き寄せられる。このとき、導電性コレクタ33の表面に基材層(図示せず)となるべきシートを配置しておくことで、該基材層の表面にナノファイバを堆積させることができる。このようにして形成されたナノファイバは、その製造の原理上は、無限長の連続繊維となる。なお、中空のナノファイバを得るためには、例えばキャピラリ31cを二重管にして芯と鞘に相溶し合わない溶液を流せばよい。
【0037】
ナノファイバ層を含む多層構造のナノファイバシートを製造する場合には、エレクトロスピニング法において用いる基板におけるナノファイバの堆積面に、多層構造のうちの一つの層を構成するシートを配置すればよい。例えばナノファイバ層と上述の基材層からなる多層構造のナノファイバシートを製造する場合には、エレクトロスピニング法によって、該基材層上にナノファイバを堆積させてナノファイバ層を形成すればよい。
【0038】
このようにして得られたナノファイバシートは、例えばヒトの皮膚、非ヒト哺乳類の皮膚や歯、枝や葉等の植物表面等に付着させて用いることができる。この場合、ナノファイバ層を対象物の表面に付着させるのに先立ち、該表面を液状物で湿潤状態にしておくことが好ましい。特に、ナノファイバ層自体が接着性を有さないか又は対象物の表面に対する接着力が低い場合、例えば、ナノファイバが接着性を有さない水不溶性高分子化合物から構成されている場合には、対象物の表面を液状物で湿潤状態にしておくことが好ましい。また、接着性成分が前述した水溶性高分子化合物である場合にも、対象物の表面を液状物で湿潤状態にしておくことが好ましい。そうすることによって、表面張力の作用を利用して、ナノファイバ層を対象物の表面に首尾良く付着させることができる。対象物の表面を湿潤状態にすることに代えて、ナノファイバ層の表面を液状物で湿潤状態にしてもよい。
【0039】
対象物の表面を湿潤状態にするためには、例えば各種の液状物を該表面に塗布又は噴霧すればよい。塗布又は噴霧される液状物としては、ナノファイバ層を付着させる温度において液体成分を含み、且つその温度における粘度(E型粘度計を用いて測定される粘度)が5000mPa・s程度以下の粘性を有する物質が用いられる。そのような液状物としては、例えば水、水溶液及び水分散液等の水系液体、並びに非水系溶剤、その水溶液及びその分散液等が挙げられる。また、O/WエマルションやW/Oエマルション等の乳化液、増粘性多糖類等をはじめとする各種の増粘剤で増粘された液等も挙げられる。具体的には、ナノファイバ層(ナノファイバシート)を例えば化粧料として用い、ヒトの肌に付着させる場合には、対象物である肌の表面を湿潤させるための液体として、化粧水や化粧クリームを用いることができる。
【0040】
ナノファイバ層と基材層とが積層されて積層シートになっている場合には、該積層シートにおけるナノファイバ層側の面を対象物の表面と対向させて、ナノファイバシートを該表面に当接させる。その後、基材層をナノファイバ層から剥離除去することで、ナノファイバ層のみを対象物の表面に転写して付着させることができる。この方法によれば、剛性が低く取り扱い性が良好とは言えないナノファイバ層を、対象物の表面に首尾良く付着させることができる。
【0041】
尚、接着性成分が前述した接着性水不溶性高分子化合物である場合には、接着性成分が水溶性高分子化合物である場合と異なり、ナノファイバ層を対象物に付着させるときに、対象物の表面を液状物で湿潤させることを必ずしも必要としない。この理由は、ナノファイバ層自体の付着性が高いからである。尤も、接着性成分が接着性水不溶性高分子化合物の場合であっても、対象物の表面を液状物で湿潤させることは妨げられない。
【0042】
本発明のナノファイバシートは、該シート(ナノファイバ層)を構成するナノファイバ中に、芳香機能、美白機能あるいは味覚調整機能等を有する揮発性機能剤が含有されているため、常温常圧においてこれらの機能を十分に発揮しうる。特に、揮発性機能剤が香料の場合は、使用者に爽快感、清涼感、清潔感、リラックス感等を感じさせ、消臭、麻酔効果(鎮痛)等の効果も期待できる。また、揮発性機能剤が美白成分の場合は、ナノファイバシートを肌に付着させて用いることで、肌のシミ、シワ、ソバカス等を予防・改善し、肌を若々しく健全な状態に保持することができる。また、揮発性機能剤は、20℃における蒸気圧が13.3Pa以下であるため、これを含有する本発明のナノファイバシート(本発明に係るナノファイバ層)は、公知のエレクトロスピニング法を利用して製造することが可能であり、そのように製造しても、常温常圧において揮発性機能剤の作用による諸機能を十分に発揮しうる。
【0043】
本発明のナノファイバシートは、例えば、美容の目的のための肌美白シート、シミ・シワ隠しシート、シート状ファンデーション等の各種化粧料に好適に用いられる。
【0044】
ところで、上述したように本発明においては、ナノファイバの構成成分として20℃における蒸気圧が13.3Pa以下の揮発性機能剤を用いることによって、エレクトロスピニング法において該揮発性機能剤が添加された高分子化合物溶液を用いてナノファイバを作製した場合の該揮発性機能剤の揮発を防止しているが、20℃における蒸気圧が13.3Paを超える易揮発性機能剤についても、その添加タイミング等を工夫することで、該易揮発性機能剤の機能をナノファイバシートに付与することが可能である。具体的には、下記製造方法A及びBによれば、易揮発性機能剤の機能が付与されたナノファイバシートを製造することが可能である。
【0045】
製造方法A:高分子化合物のナノファイバを含むナノファイバ層を作製する工程(ナノファイバ層作製工程)、及び該ナノファイバ層に易揮発性機能剤を含む溶液を付与する工程(溶液付与工程)を備えたナノファイバシートの製造方法。
製造方法B:高分子化合物のナノファイバを含むナノファイバ層を作製する工程(ナノファイバ層作製工程)、及び該ナノファイバ層の近傍に易揮発性機能剤を配置して所定時間放置する工程(易揮発性機能剤移行工程)を備えたナノファイバシートの製造方法。
【0046】
製造方法A及びBにおけるナノファイバ層作製工程は、図1に示す如き公知のエレクトロスピニング法を利用することができる。この工程では、ナノファイバ層のみからなる単層構造を作製してもよく、ナノファイバ層と他の層(例えば基材層)との積層構造を作製してもよい。
【0047】
製造方法Aの溶液付与工程で用いられる、易揮発性機能剤を含む溶液は、溶媒に易揮発性成分を溶解又は分散させて得られるものであり、該溶媒としては、ナノファイバ(ナノファイバを構成する高分子化合物)に影響を与えないものが好ましく、高分子化合物の種類に応じ、水若しくは有機溶媒、又は水及び水と相溶性のある有機溶媒の混合溶媒等が用いられる。また、ナノファイバ層に易揮発性機能剤を含む溶液を付与する方法としては、スプレー等を用いて該溶液をナノファイバ層に噴霧する方法、該溶液中にナノファイバ層を浸漬する方法等が挙げられる。
【0048】
製造方法Bの易揮発性機能剤移行工程は、ナノファイバ層と易揮発性機能剤とを接触させずに互いに近接させることによって、揮発した易揮発性機能剤をナノファイバ層に移行させる工程である。ナノファイバ層と易揮発性機能剤とを接触させると、ナノファイバを構成する高分子が溶解又は膨潤し、ナノファイバの形態が崩壊するおそれがある。ナノファイバ層に近接配置される易揮発性機能剤は、外部に露出した状態であってもよく、あるいは通気性を有する袋等に収容された密封状態であってもよい。易揮発性機能剤が密封状態であると、ナノファイバ層と易揮発性機能剤とが誤って接触することが確実に防止される。ナノファイバ層の近傍で易揮発性機能剤を放置する時間は、易揮発性機能剤の種類等によって適宜設定することができる。一般に、揮発性の高い機能剤ほど、放置する時間が短くなる。
【0049】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記実施形態においては、ナノファイバの製造方法として、エレクトロスピニング法を採用した場合を例にとり説明したが、ナノファイバの製造方法はこれに限られない。
【0050】
また、図1に示すエレクトロスピニング法においては、形成されたナノファイバが板状の導電性コレクタ33上に堆積されるが、これに代えて導電性の回転ドラムを用い、回転する該ドラムの周面にナノファイバを堆積させるようにしてもよい。
【0051】
また、ナノファイバ層は、単層構造でも2層以上の多層構造であってもよい。2層構造のナノファイバ層は、例えば、前記水溶性高分子化合物の水溶性ナノファイバを含む水溶性層と、前記水不溶性高分子化合物の水不溶性ナノファイバを含む水不溶性層とから構成することができる。
【0052】
また、ナノファイバ層に上述の基材層を積層することに代えて、又はそれに加えて、ナノファイバ層の表面に接着層を形成して、ナノファイバ層と対象物表面との密着性を一層向上させてもよい。即ち、本発明のナノファイバシートは、ナノファイバ層と接着層とが順次積層された多層構造を有していてもよい。接着層を構成する接着剤としては、例えばオキサゾリン変成シリコーンや、アクリル樹脂系、オレフィン樹脂系、合成ゴム系の粘着剤等が挙げられる。また、接着層は、ナノファイバ層の一面の全面に亘って連続して(つまりベタで)施されていてもよいが、ナノファイバ層が有する特徴を最大限発揮させる観点からは、必要最小限の量でもって施されていることが好ましい。この目的のために、接着層は、ナノファイバ層の一面上に不連続に形成されていることが好ましい。接着層を不連続に形成する態様としては、例えば(i)ナノファイバ層上に接着剤を散点状に分散配置して接着層を形成する態様や、(ii)ナノファイバ層上にナノファイバ状の接着剤を堆積させて接着層を形成する態様などが挙げられる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0054】
〔実施例1〕
高分子化合物としてプルラン(水溶性高分子化合物、林原商事(株)製)を用い、これを水に溶解し、更に、揮発性機能剤としてエタノールに溶解したバニリンを添加して、下記表1に示す組成のエレクトロスピニング(ES)用溶液を得た。このES用溶液を用い、図1に示す装置によって、基材層となるべきメッシュシート(東京スクリーン株式会社製のポリエチレンテレフタレートメッシュ、商品名:ボルティングクロス テトロンT-No.120T)の表面にナノファイバ層を形成し、ナノファイバ層及び基材層の2層構造からなるナノファイバシートを得た。ナノファイバの製造条件は次のとおりである。印加電圧:27kV、キャピラリ−コレクタ間距離:185mm、水溶液吐出量:1ml/h、製造環境:28℃、36%RH。このようにして得られた実施例1のナノファイバシートにおけるナノファイバ層の厚みは10μm、ナノファイバの太さは200〜700nmであった。
【0055】
〔実施例2〕
高分子化合物としてポリビニルブチラール(水不溶性高分子化合物、エスレックB、積水化学(株)製)を用い、これをエタノールに溶解し、更に、揮発性機能剤としてバニリンを添加した以外は、実施例1と同様にしてナノファイバシートを得た。このようにして得られた実施例2のナノファイバシートにおけるナノファイバ層の厚みは10μm、ナノファイバの太さは700〜1200nmであった。
【0056】
〔実施例3〜7及び比較例1〜2〕
高分子化合物としてプルラン(水溶性高分子化合物、林原商事(株)製)を用い、これを水に溶解し、揮発性機能剤と溶媒とを均一に混合するために界面活性剤(花王(株)製、「エマール0」)を混合した。そして表1に示す揮発性機能剤を添加した後にスターラーを用いて均一になるように混合して、下記表1に示す組成のエレクトロスピニング(ES)用溶液を得た以外は、実施例1と同様にしてナノファイバシートを得た。各実施例及び各比較例で得られたナノファイバシートにおけるナノファイバ層の厚みは10μm、ナノファイバの太さは200〜700nmであった。
【0057】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られたナノファイバシートについて、以下の方法で、残香性について評価した。その結果を下記表1に示す。
【0058】
〔残香性〕
ナノファイバシートから縦5cm、横5cmの矩形形状を切り出して試験片とし、この試験片を、該試験片よりも大きなサイズの2枚の酸素・水蒸気バリア材(アルミニウム箔)で挟み、更に両バリア材における試験片の周縁からの延出部どうしを熱融着した。こうして、バリア材からなる包装体内に密封された試験片を、室温20℃の環境下で1週間放置した後、該包装体を開封し、試験片を取り出してその匂いを嗅ぎ、下記評価基準に従って評価する。
○:明確に判断できる匂いを感じる。
△:かすかに匂いを感じる。
×:匂いが感じられない。
【0059】
【表1】

【0060】
表1に示す結果から明らかなように、各実施例で得られたナノファイバシートは、その構成成分であるナノファイバ(ナノファイバ層)を、揮発性機能剤が添加された高分子化合物溶液を用いてエレクトロスピニング法によって形成したにもかかわらず、該揮発性機能剤の20℃における蒸気圧が13.3Pa以下であるため、残香性が良好であり、揮発性機能剤の機能(香気放出)が十分に作用していることがわかる。これに対し、各比較例のナノファイバシートは、使用した揮発性機能剤の20℃における蒸気圧が13.3Paを超えているため、エレクトロスピニング法の実施中に該揮発性機能剤が揮発してしまってナノファイバ中にほとんど残らず、その結果残香性に劣る結果となった。
【符号の説明】
【0061】
30 装置
31 シリンジ
32 高電圧源
33 導電性コレクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子化合物のナノファイバを含むナノファイバ層を備えたナノファイバシートであって、
前記ナノファイバが揮発性機能剤を含有しており、該揮発性機能剤の20℃における蒸気圧が13.3Pa以下であるナノファイバシート。
【請求項2】
前記ナノファイバが、エレクトロスピニング法によって形成されたものである請求項1記載のナノファイバシート。

【図1】
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