説明

ナノファイバ製造装置、ナノファイバ製造方法

【課題】2流体ノズルを用いて均等均質にナノファイバを製造する。
【解決手段】原料液300を空間中で延伸させ、ナノファイバ301を製造するナノファイバ製造装置100であって、原料液300を吐出する第一吐出口137と、第一吐出口137の近傍に配置され、第一吐出口137の吐出方向と同方向に気体を吐出する第二吐出口138と、原料液300を帯電させる帯電装置111と、第一吐出口137から吐出される原料液300から製造されるナノファイバ301を搬送する気体流を発生させる気体流発生装置113と、気体流と共にナノファイバを案内する案内装置102とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明はナノファイバの製造装置、製造方法に関し、特に、製造するナノファイバを気体流により搬送するナノファイバ製造装置、製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子物質などから成り、サブミクロンスケールの直径を有する糸状(繊維状)物質(ナノファイバ)を製造する方法として、エレクトロスピニング(電荷誘導紡糸)法が知られている。
【0003】
このエレクトロスピニング法とは、溶剤中に高分子物質などを分散または溶解させた原料液を空間中にノズルなどにより流出(吐出)させるとともに、原料液に電荷を付与して帯電させ、空間を飛行中の原料液を電気的に延伸させることにより、ナノファイバを得る方法である。
【0004】
より具体的にエレクトロスピニング法を説明すると次のようになる。すなわち、帯電され空間中に流出された原料液は、空間を飛行中に徐々に溶剤が蒸発していく。これにより、飛行中の原料液の体積は、徐々に減少していくが、原料液に付与された電荷は、原料液に留まる。この結果として、空間を飛行中の原料液は、電荷密度が徐々に上昇することとなる。そして、溶剤は、継続して蒸発し続けるため、原料液の電荷密度がさらに高まり、原料液の中に発生する反発方向のクーロン力が原料液の表面張力より勝った時点で高分子溶液が爆発的に線状に延伸される現象(以下、静電延伸現象と述べる)が生じる。この静電延伸現象が、空間において次々と幾何級数的に発生することで、直径がサブミクロンの高分子から成るナノファイバが製造される(例えば特許文献1参照)。
【0005】
以上のようなエレクトロスピニング法において、液相の流体と気相の流体とを同方向に吐出し、気相の流体により液相の流体を空間中で微細化する2流体ノズルにより原料液を空間中に噴霧する方法が提案されている(例えば特許文献2参照)。また、2流体ノズルを複数個並べ、広範囲にわたって大量のナノファイバを収集する方法が提案されている(例えば特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2008−31624号公報
【特許文献2】特表2005−520068号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/0073075号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、2流体ノズルを用いて原料液を空間中に流出させた場合、空間中における原料液の分布がドーナツ状になり、当該原料液から製造されるナノファイバもドーナツ状の分布となるため、空間的均一にナノファイバを収集することが困難である。
【0007】
また、2流体ノズルを複数個配置してナノファイバを大量に製造しようとする場合、帯電したナノファイバが高密度状態となるため、ナノファイバ同士が電気的に反発し合い、空間的な均一性を確保することが困難である。
【0008】
本願発明は上記課題に鑑みなされたものであり、2流体ノズルを用いて原料液を空間中に流出させた場合でも、製造されるナノファイバを空間的均一に分散させることのできるナノファイバ製造装置、ナノファイバ製造方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本願発明にかかるナノファイバ製造装置は、原料液を空間中で延伸させ、ナノファイバを製造するナノファイバ製造装置であって、原料液を吐出する第一吐出口と、前記第一吐出口の近傍に配置され、前記第一吐出口の吐出方向と同方向に気体を吐出する第二吐出口と、原料液を帯電させる帯電装置と、前記第一吐出口から吐出される原料液から製造されるナノファイバを搬送する気体流を発生させる気体流発生装置と、気体流と共にナノファイバを案内する案内装置とを備えることを特徴とする。
【0010】
これによれば、気体流によって搬送されるナノファイバが、案内装置で案内される間に、均等に分散し、空間に占めるナノファイバの濃度を均一化することが可能となる。
【0011】
また、前記第一吐出口は、吐出する原料液と気体流発生装置により発生する気体流とが交差し、原料液の飛行方向が変更されるように配置されることが望ましい。
【0012】
これによれば、第一吐出口から吐出された原料液の空間分布が気体流により打ち消されるため、製造されるナノファイバの空間分布を容易に均一化することが可能となる。
【0013】
また、前記帯電装置は、前記第一吐出口に対し所定の電圧が印加される帯電電極と、前記第一吐出口と前記帯電電極との間を所定の電圧にする帯電電源とを備え、前記帯電電極は、前記第一吐出口よりも前記気体流発生装置が発生させる気体流の風上側に配置されることが好ましい。
【0014】
第一吐出口から流出する原料液は霧状に広範囲に広がる傾向を備えるが、当該位置関係を採用することにより、帯電電極に原料液が付着することを可及的に回避することが可能となる。
【0015】
さらに、前記第一吐出口が先端に設けられるノズルを複数備え、全ての前記第一吐出口と前記帯電電極との距離が等しくなるように前記ノズルが配置されることが好ましい。
【0016】
これにより、個々の第一吐出口の近傍部にそれぞれ電荷が集中するため効率よく原料液を帯電させることができる。しかも、原料液に付与する電荷量が個々の第一吐出口に対し平均化されるため、空間中に流出する原料液の静電延伸現象も均一に発生し、製造されるナノファイバの品質を均一化することが可能となる。
【0017】
また、上記課題を解決するために、本願発明にかかるナノファイバ製造方法は、原料液を空間中で延伸させ、ナノファイバを製造するナノファイバ製造方法であって、第一吐出口から原料液を吐出する第一吐出工程と、前記第一吐出口の近傍に配置される第二吐出口から前記第一吐出口の吐出方向と同方向に気体を吐出する第二吐出工程と、原料液に電荷を付与して帯電させる帯電工程と、前記第一吐出口から吐出される原料液から製造されるナノファイバを気体流により搬送する搬送工程と、気体流によって搬送されるナノファイバを所定の場所に案内する案内工程とを含むことを特徴とする。
【0018】
これによれば、気体流によって搬送されるナノファイバが、案内装置で案内される間に、均等に分散し、空間に占めるナノファイバの濃度を均一化することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本願発明によれば、2流体ノズルから空間中に流出した原料液から製造されたナノファイバであっても、空間中に均等に分散させることができる。そして、当該ナノファイバを収集すれば、品質が安定した不織布や、糸を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は、ナノファイバ製造装置の実施の形態を一部切り欠いて示す平面図である。
【0021】
同図に示すように、ナノファイバ製造装置100は、帯電した原料液300を空間中に流出させ、原料液300を静電延伸現象により延伸させ、製造されたナノファイバ301を気体流に乗せて搬送する装置であって、放出装置101と、案内装置102と、収集装置103と、誘引装置106とを備えている。
【0022】
ここで、ナノファイバを製造するための原料液については、原料液300と記し、製造されたナノファイバについてはナノファイバ301と記すが、製造に際しては原料液300が電気的に延伸しながらナノファイバ301に変化していくため、原料液300とナノファイバ301との境界は曖昧であり、明確に区別できるものではない。
【0023】
放出装置101は、原料液300を帯電させると共に、帯電した原料液300や製造されるナノファイバ301を気体流に乗せて放出することができるユニットである。
【0024】
図2は、放出装置の一部を切り欠いて示す平面図である。
【0025】
図3は、放出装置の外観を示す斜視図である。
【0026】
これら図に示すように放出装置101は、ノズル136と、帯電装置111と、風洞体112と、気体流発生装置113と、原料供給路114と、気体供給路115とを備えている。
【0027】
ノズル136は、原料液300と気体とを同方向に吐出させ、原料液300を空間中に霧状に流出させる装置であり、第一吐出口137と、第二吐出口138とを備えている。ノズル136は、円柱形状であり、先端は徐々に径が細くなるテーパ状となっている。ノズル136は、中心軸を通る第一経路139と、第一経路139を取り巻くように第二経路140を備えている。
【0028】
第一経路139は、基端が原料供給路114と接続され、先端は第一吐出口137と接続される管路であり、原料液300を原料供給路114から受け取り、原料液300をノズル136の内部に挿通させ、第一吐出口137まで案内する機能を備えている。
【0029】
第二経路140は、基端が気体供給路115と接続され、先端は第二吐出口138と接続される円環状の管路であり、気体を気体供給路115から受け取り、気体をノズル136の内部であって第一経路139の周りに挿通させ、第二吐出口138まで案内する機能を備えている。
【0030】
第一吐出口137は、原料液300を吐出する開口である。本実施の形態の場合、第一吐出口137は、ノズル136の先端に設けられる円状の開口であり、ノズル136の先端面の中央に配置されている。
【0031】
第二吐出口138は、気体を吐出する開口である。本実施の形態の場合、第二吐出口138は、ノズル136の先端に設けられる円環状の開口であり、ノズル136の先端面に設けられる第一吐出口137を取り囲むように配置されている。
【0032】
なお、本実施の形態では、第一吐出口137の外周部に第二吐出口138を配置したが、本願発明はこれに限定されるわけではない。第二吐出口138の外周部に第一吐出口137を配置してもかまわない。本願発明では第一吐出口137から吐出される原料液300が第二吐出口138から吐出される気体によって微細化されるような第一吐出口137と第二吐出口138の位置関係であれば、配置、開口形状、数などいかなる態様も採用しうる。
【0033】
ここで、原料液300に含まれる溶剤としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジベンジルアルコール、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、メチル−n−プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、アセトン、ヘキサフルオロアセトン、フェノール、ギ酸、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、塩化メチル、塩化エチル、塩化メチレン、クロロホルム、o−クロロトルエン、p−クロロトルエン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジクロロプロパン、ジブロモエタン、ジブロモプロパン、臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピル、酢酸、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、シクロペンタン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホオキシド、ピリジン、水等を例示することができる。また、上記より選ばれる一種でもよく、また、複数種類が混在してもかまわない。なお、上記は例示であり、本願発明は上記溶剤に限定されるものではない。
【0034】
原料液300に溶質として含まれる高分子物質であり、ナノファイバ301を構成する高分子物質としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ−m−フェニレンテレフタレート、ポリ−p−フェニレンイソフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン−アクリレート共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリル−メタクリレート共重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステルカーボネート、ポリアミド、アラミド、ポリイミド、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ酢酸ビニル、ポリペプチド等およびこれらの共重合体を例示できる。また、上記より選ばれる一種でもよく、また、複数種類が混在してもかまわない。なお、上記は例示であり、本願発明は上記高分子物質に限定されるものではない。
【0035】
なお、溶剤や溶質と記載しているが、必ずしも溶質が溶媒に融けている必要はない。例えば微細化された溶質が溶剤中に分散状態で含まれていてもかまわない。また、エマルジョンとなっていてもかまわない。
【0036】
さらに、原料液300に骨材や可塑剤などの添加剤を添加してもよい。当該添加剤としては、酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、珪化物、弗化物、硫化物等を挙げることができるが、耐熱性、加工性などの観点から酸化物を用いることが好ましい。当該酸化物としては、Al23、SiO2、TiO2、Li2O、Na2O、MgO、CaO、SrO、BaO、B23、P25、SnO2、ZrO2、K2O、Cs2O、ZnO、Sb23、As23、CeO2、V25、Cr23、MnO、Fe23、CoO、NiO、Y23、Lu23、Yb23、HfO2、Nb25等を例示することができる。また、上記より選ばれる一種でもよく、また、複数種類が混在してもかまわない。なお、上記は例示であり、本願発明は上記添加剤に限定されるものではない。
【0037】
溶剤と高分子物質との混合比率は、溶剤と高分子物質により異なるが、溶剤量は、約60重量%から98重量%の間が望ましい。
【0038】
上記のように、溶剤蒸気が気体流により滞留することなく処理されるため、原料液300は、上記のように溶剤を50重量%以上含んでいても十分に蒸発し、静電延伸現象を発生させることが可能となる。従って、溶質である高分子が薄い状態からナノファイバ301が製造されるため、より細いナノファイバ301をも製造することが可能となる。また、原料液300の調整可能範囲が広がるため、製造されるナノファイバ301の性能の範囲も広くすることが可能となる。
【0039】
第二吐出口138から吐出される気体は、特に限定されるものではない。例えば、大気や、湿度や温度が調整された大気、窒素ガスや炭酸ガスなどを例示することができる。本実施の形態の場合、ナノファイバ製造装置100の周りに存在し、湿度と温度を調整され、ポンプ(図示せず)により大気圧よりも圧力が高められた大気が使用されている。圧力範囲であるが、0.1Mpaより高く、1Mpaより低い圧力に設定することが望ましい。
【0040】
帯電装置111は、原料液300に電荷を付与して帯電させる装置である。本実施の形態の場合、帯電装置111は、帯電電極121と、帯電電源122と、接地装置123と、付与電極141とを備えている。
【0041】
帯電電極121は、付与電極141と所定の距離離れて配置され、付与電極141との間で所定の高電圧が印加される導体である。本実施の形態の場合、帯電電極121は、自身がアースに接続されている付与電極141に対し高い電圧もしくは低い電圧となることで、接地されている付与電極141に電荷を誘導するための部材である。本実施の形態の場合、帯電電極121は、付与電極141の周囲を取り囲むように配置される円環状の部材である。帯電電極121に正の電圧が印加されると付与電極141には、負の電荷が誘導され、帯電電極121に負の電圧が印加されると付与電極141には、正の電荷が誘導される。
【0042】
また、本実施の形態においては、帯電電極121は、第一吐出口137よりも気体流発生装置113が発生させる気体流の風上側に配置されている。これは、原料液300やナノファイバ301が帯電電極121に付着するのを回避するためである。しかしながら、これに限定するものではなく、第二吐出口138から気体を吐出する方向が、気体流発生装置113の発生する気体流の方向と略同じ方向であれば、帯電電極121は、第一吐出口137を囲むように配置するか、もしくは、第一吐出口137よりも気体流発生装置113が発生させる気体流の風下側に配置させても、原料液300やナノファイバ301が帯電電極121に付着することは少なく、大きな問題にはならない。
【0043】
なお、帯電電極121の形状は、円環状に限ったものではなく、付与電極141の形状との関係によって、多角形の環状や平板状などであってもよい。また、帯電電極121の断面形状も矩形ばかりでなく丸形やその他の形でもかまわない。
【0044】
接地装置123は、付与電極141と電気的に接続され、付与電極141を接地電位に維持するための部材群である。接地装置123の一端は、付与電極141に接続され、他端は大地と接続されている。
【0045】
帯電電源122は、帯電電極121と付与電極141との間を高電圧にすることのできる電源である。帯電電源122は、交流電源でも直流電源でも採用しうる。本実施の形態の場合、帯電電源122は、直流電源が採用されている。直流電源を採用することにより、製造されるナノファイバ301は一定の極性で帯電し、ナノファイバ301の帯電極性と逆極性の電位を印加した電極でナノファイバ301を容易に誘引することができるため好ましい。また、帯電電源122が帯電電極121に印加する電圧は、10KV以上、200KV以下の範囲の値から設定されるのが好適である。帯電電源122に負の電圧が印加される場合には、前記の印加する電圧の極性は、負になる。
【0046】
なお、本願発明においては、付与電極141と帯電電極121との間の電界強度が重要であり、帯電電極121と付与電極141との距離が最も近い空間において1KV/cm以上の電界強度になるように付与電極141と帯電電極121との配置、及び、印加電圧を調整するのが好ましい。すなわち、前記帯電電極121と付与電極141間に所定の電位差が発生するように調整される。また、付与電極141と帯電電極121との間で放電が発生しないように調整する。
【0047】
本実施の形態のように帯電装置111に誘導方式、すなわち付与電極141と帯電電極121との一方の電極を接地電位とする方式を採用することが好ましい。この方式を採用すれば、いずれか一方の電極を接地電位に維持したまま原料液300に電荷を付与することができる。例えば、付与電極141が接地電位の状態であれば、付与電極141に接続されるノズル136や、原料供給路114、気体供給路115などの部材や、これらに接続されるポンプ(図示せず)やタンク(図示せず)を付与電極141から電気的に絶縁する必要が無くなり、ノズル136として簡単な構造を採用しうることになり好ましい。
【0048】
気体流発生装置113は、第二吐出口138から吐出される気体流に加えて、第一吐出口137から吐出される原料液300やナノファイバ301を搬送して案内装置102の内方を通過させるための気体流を発生させる装置である。本実施の形態の場合、気体流発生装置113は、放出装置101の基端部に備えられ、基端部からノズル136が配置される先端に向かう気体流を発生させる。具体的には、気体流発生装置113は、約毎分30立米の風量を発生させている。図2において、気体流は矢印で示している。気体流発生装置113としては、軸流ファンを備える送風機等を例示することができる。
【0049】
なお、気体流発生装置113は、シロッコファンなど他の送風機により構成してもかまわない。また、後述する吸引装置132により風洞体112や案内装置102の内方に気体流を発生させるものでもかまわない。この場合、ナノファイバ製造装置100は、積極的に気体流を発生させる気体流発生装置113を有しないこととなるが、何らかの装置により、風洞体112などの内方に気体流が発生していることをもってナノファイバ製造装置100が気体流発生装置113を備えているものとする。
【0050】
風洞体112は、気体流発生装置113で発生した気体流を帯電電極121とノズル136との間に案内する導管である。
【0051】
さらにまた、放出装置101は、加熱装置125を備えている。
【0052】
加熱装置125は、気体流発生装置113が発生させる気体流を構成する気体を加熱する加熱源である。本実施の形態の場合、加熱装置125は、案内体126の内方に配置される円環状のヒータであり、加熱装置125を通過する気体を加熱することができるものとなっている。加熱装置125により気体流を加熱することにより、空間中に流出される原料液300は、蒸発が促進され、効率よくナノファイバ301を製造することが可能となる。
【0053】
原料供給路114は、外部にある原料液300用タンク(図示せず)からノズル136の内方であって第一経路139に圧送される原料液300を供給するための経路である。本実施の形態の場合、原料供給路114は管体で形成されている。
【0054】
気体供給路115は、送風機(図示せず)からノズル136の内方であって第二経路140に所定の圧力を有した状態で、圧送される気体を供給するための経路である。本実施の形態の場合、気体供給路115は管体で形成されている。
【0055】
図4は、案内装置と収集装置の近傍を抜き出して模式的に示す斜視図である。
【0056】
案内装置102は、放出装置101から放出され、気体流によって搬送されるナノファイバ301を所定の場所に案内する風洞である。本実施の形態の場合、案内装置102は両端のみ開放された管体であり、案内体126と拡散体127とを備えている。
【0057】
案内体126は、円筒形状を成し、放出装置101のナノファイバ301が放出される側の開口形状と同じ開口形状を備え、放出装置101と一連に配置されている。
【0058】
拡散体127は、案内体126に接続され、高密度状態のナノファイバ301を広く均等に拡散させ低密度状態とする導管であり、ナノファイバ301が案内される空間を滑らか、かつ、連続的に拡大することで、ナノファイバ301を搬送する気体流の速度とナノファイバ301の速度とを徐々に減速させるフード状の部材である。本実施の形態の場合、拡散体127は、案内体126の高さをそのまま維持し、幅のみ徐々に広がるフード形状となっている。
【0059】
収集装置103は、案内装置102から放出されるナノファイバ301を収集するための装置である。本実施の形態の場合、収集装置103は、被堆積部材128と、巻回装置129と、供給装置130とを備えている。
【0060】
被堆積部材128は、静電延伸現象により製造され気体流により搬送されるナノファイバ301と気体流とを分離し、ナノファイバ301のみが堆積する部材である。本実施の形態の場合、被堆積部材128は、堆積したナノファイバ301と容易に分離可能な材質で構成された薄く柔軟性のある長尺のシート状の部材であり、気体流を容易に透過でき、ナノファイバ301を捕集しうる網状の部材である。具体的に被堆積部材128としては、アラミド繊維からなる長尺の布を例示することができる。さらに、被堆積部材128の表面にテフロン(登録商標)コートを行うと、堆積したナノファイバ301を被堆積部材128から剥ぎ取る際の剥離性が向上するため好ましい。また、被堆積部材128は、ロール状に巻き付けられた状態で供給装置130から供給されるものとなっている。
【0061】
巻回装置129は、被堆積部材128を移送することができる装置である。本実施の形態の場合、長尺の被堆積部材128を巻き取りながら供給装置130から引き出し、堆積するナノファイバ301と共に被堆積部材128を搬送するものとなっている。巻回装置129は、不織布状に堆積しているナノファイバ301を被堆積部材128とともに巻き取ることができるものとなっている。
【0062】
(図1の参照に戻る。)
誘引装置106は、ナノファイバ301を被堆積部材128に誘引するための装置である。本実施の形態の場合、誘引装置106は、異なる誘引方式を同時、または、選択的に実施できるように、気体誘引装置142と、電界誘引装置133とを備えている。
【0063】
気体誘引装置142は、気体流を吸引することによりナノファイバ301を被堆積部材128に誘引する装置であり、被堆積部材128の後方に配置されている。本実施の形態の場合、気体誘引装置142は吸引装置132と集中体131とを備えている。
【0064】
集中体131は、拡散体127で広がった気体流を受け取り、吸引装置132に至るまでの間に気体流を集中させる部材であり、拡散体127とは逆向きの漏斗形状となっている。
【0065】
吸引装置132は、被堆積部材128を通過する気体流を強制的に吸引する送風機である。吸引装置132は、シロッコファンや軸流ファンなどの送風機であって、被堆積部材128を通過して速度が落ちた気体流を高い速度に加速することのできる装置である。
【0066】
電界誘引装置133は、帯電しているナノファイバ301を電界により被堆積部材128に誘引する装置であり、誘引電極134と、誘引電源135とを備えている。
【0067】
誘引電極134は、帯電したナノファイバ301を誘引するための電界を発生させるための電極である。本実施の形態の場合、誘引電極134には気体流を通過させることのできる金属製の網が採用されている。しかしながら、誘引電極134で使用している金属製の網は、これに限定するものではなく、所定の幅を有する板形状の電極やブラシ形状を有する電極等でもよい。被堆積部材128を通過した気体流が吸引装置132に吸引されるような間隙があればよい。誘引電極134は、拡散体127の開口部全体に広がって設けられている。
【0068】
誘引電源135は、誘引電極134を所定の電圧及び極性に維持することができる直流電源である。本実施の形態の場合、誘引電源135は、0V(接地状態)から200KV以下の範囲で自由に電圧と極性を変更することができる直流電源である。
【0069】
なお、帯電電源122が交流電源の場合は、誘引電源135を交流電源としても良い。
【0070】
また、本実施の形態の場合、ナノファイバ製造装置100は、吸引装置132の排気側に回収装置105を備えている。
【0071】
回収装置105は、原料液300から蒸発した溶剤を気体流から分離して回収することのできる装置である。回収装置105に関しては、原料液300に用いられる溶剤の種類によって異なるが、例えば、気体を低温にして溶剤を結露させて回収する装置や、活性炭やゼオライトを用いて溶剤のみを吸着させる装置、液体などに溶剤を溶け込ませる装置やこれらを組み合わせた装置を例示できる。
【0072】
次に、上記構成のナノファイバ製造装置100を用いたナノファイバ301の製造方法を説明する。
【0073】
まず、気体流発生装置113、及び、吸引装置132を稼働させ、案内装置102の内方に一定方向の気体流を発生させる(気体流発生工程)。
【0074】
次に、ノズル136内方の第一経路139に原料液300を供給する(原料液供給工程)。原料液300は、別途タンク(図示せず)に蓄えられており、ポンプ(図示せず)によって圧力が高められ、原料供給路114や第一経路139を通過して第一吐出口137から所定の圧力で吐出される(第一吐出工程)。具体的には、ナノファイバ301を構成する高分子材料は、PVA(ポリビニルアルコール)を選定し、原料液300は、溶媒を水とし、水にPVAを10重量%で溶解したものを用いた。
【0075】
前記第一吐出工程とほぼ同時期に、ノズル136内方の第二経路140に気体を供給する(原料液供給工程)。気体は、ナノファイバ製造装置100の近傍にある大気であり、送風機(図示せず)によって圧力が高められ、気体供給路115や第二経路140を通過して第二吐出口138から所定の圧力で吐出される(第二吐出工程)。
【0076】
前記第一吐出工程とほぼ同時期に、帯電電源122により帯電電極121を正または負の高電圧とする。帯電電極121の中心に配置される付与電極141には電荷が集中し、当該電荷が第一吐出口137を通過する原料液300に転移し、原料液300が帯電する(帯電工程)。
【0077】
具体的には、第一吐出口137の孔径は0.3mmであった。また、原料液300は、所定の圧力により圧送した。帯電電極121は内径Φ600mmのものを用い、帯電電源122により帯電電極121を接地電位に対して負の60KVとした。これにより、付与電極141には正の電荷が誘導され、正に帯電した原料液300が第二吐出口138から吐出された気体により微細化され霧状に流出することとなる。
【0078】
ノズル136から霧状に流出した原料液300は、気体流に乗り案内装置102に案内される。ここで、原料液300の帯電状態と帯電電極121とは逆極性であるため、クーロン力により引きつけられて帯電電極121の方向に向いて飛行しようとするが、帯電電極121に向かおうとするほとんどの原料液300が気体流により方向が変えられ、案内体に向かって飛行することとなる。
【0079】
原料液300は、静電延伸現象によりナノファイバ301を製造しつつ(ナノファイバ製造工程)放出装置101から放出される。ここで、原料液300は、強い帯電状態(高い電荷密度)で流出しているため、静電延伸が容易に発生し、流出した原料液300のほとんどがナノファイバ301に変化していく。また、原料液300は、強い帯電状態(高い電荷密度)で流出しているため、静電延伸が何次にもわたって発生し、線径の細いナノファイバ301を大量に製造される。
【0080】
また、前記気体流は、加熱装置125により加熱されており、原料液300の飛行を案内しつつ、原料液300に熱を与えて溶媒の蒸発を促進し静電延伸を促進している。
【0081】
以上のようにして放出装置101から放出されるナノファイバ301は、案内装置102に導入される。そして、ナノファイバ301は、案内装置102の内方を気体流に搬送されながら収集装置103に向かって案内される(搬送工程)。
【0082】
拡散体127にまで搬送されたナノファイバ301は、ここで急速に速度が低下すると共に、均一な分散状態となる(拡散工程)。
【0083】
この状態において、被堆積部材128の背方に配置される吸引装置132は、蒸発した蒸発成分である溶剤と共に気体流を吸引し、ナノファイバ301を被堆積部材128上に誘引する(誘引工程)。また、電圧が印加された誘引電極134により電界が発生し、当該電界によってもナノファイバ301が誘引される(誘引工程)。
【0084】
以上により、被堆積部材128により気体流から分けられてナノファイバ301が収集される(収集工程)。被堆積部材128は、巻回装置129によりゆっくり移送されているため、ナノファイバ301も移送方向に延びた長尺の帯状部材として回収される。
【0085】
被堆積部材128を通過した気体流は、吸引装置132により加速され、回収装置105に到達する。回収装置105では、気体流から溶剤成分を分離回収する(回収工程)。
【0086】
以上のような構成のナノファイバ製造装置100を用い、以上のナノファイバ製造方法を実施することによって、ナノファイバ301は、第二吐出口138から吐出される気体流と、気体流発生装置113により得られる気体流とが合わさって、大量の気体流により搬送され、案内装置102によって所定の空間に限定された状態で案内される。案内装置102の内方を案内されているナノファイバ301は、所定の空間内で均等に分散することとなる。従って、空間的に均等に分散したナノファイバ301を被堆積部材128で収集することで、被堆積部材128上にナノファイバ301を均等に堆積させることが可能となる。従って、厚さが均一で品質が安定したナノファイバ301からなる不織布を製造することができ、均等に収集されたナノファイバ301から糸を紡ぐことで、長さ方向に品質が安定した糸を得ることが可能となる。
【0087】
なお、上記実施の形態では、放出装置101にノズル136を一つ備えて原料液300を流出させたが、本願発明はこれに限定されるわけではない。
【0088】
図5は、放出装置101の別態様を模式的に示す断面図である。
【0089】
同図に示すように、放出装置101は、第一吐出口137と、第二吐出口138とを備えるノズル136を複数個備えており、第一吐出口137と球状の帯電電極121との距離が等しくなるようにノズル136が配置されている。なお、付与電極141は、第一吐出口137の先端にのみ取り付けられている。
【0090】
気体流発生装置113は、第一吐出口137から吐出される原料液300の吐出方向と交差する方向(図中矢印方向)に気体流を発生させている。
【0091】
これにより、帯電電極121と複数ある付与電極141とは等距離にあるため、いずれの付与電極141にも均等に電荷が誘導される。従って第一吐出口137から吐出される原料液300は、均等に帯電し、均等に静電延伸現象が発生する。
【0092】
また、ノズル136から吐出される方向と交差する方向に原料液300やナノファイバ301が搬送されるため、ノズル136の吐出特性(第一吐出口137前方部の原料液300の密度が薄くなる等)がキャンセルされた状態で案内装置102に搬送される。しかも、複数のノズル136によって大量の原料液300やナノファイバ301が搬送されるため、大量かつ均等にナノファイバ301を収集することができる。
【0093】
なお、付与電極141と帯電電極121との距離は、電荷が付与電極141に集中するように、最短になるように設計することが望ましい。特に、付与電極141から原料液300が流出する部分は、先端が尖っていることが望ましく、付与電極141の尖端部と帯電電極121間の距離が最短になるようにすることが望ましい。
【0094】
以上によって、高品質のナノファイバ301を高い生産性で生産することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本願発明はナノファイバの製造やナノファイバからなる不織布の製造やナノファイバからなる糸の製造に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】ナノファイバ製造装置の実施の形態を一部切り欠いて示す平面図である。
【図2】放出装置の一部を切り欠いて示す平面図である。
【図3】放出装置の外観を示す斜視図である。
【図4】案内装置と収集装置の近傍を抜き出して模式的に示す斜視図である。
【図5】放出装置101の別態様を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0097】
100 ナノファイバ製造装置
101 放出装置
102 案内装置
103 収集装置
105 回収装置
106 誘引装置
111 帯電装置
112 風洞体
113 気体流発生装置
114 原料供給路
115 気体供給路
121 帯電電極
122 帯電電源
123 接地装置
125 加熱装置
126 案内体
127 拡散体
128 被堆積部材
129 巻回装置
130 供給装置
131 集中体
132 吸引装置
133 電界誘引装置
134 誘引電極
135 誘引電源
136 ノズル
137 第一吐出口
138 第二吐出口
139 第一経路
140 第二経路
141 付与電極
142 気体誘引装置
300 原料液
301 ナノファイバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料液を空間中で延伸させ、ナノファイバを製造するナノファイバ製造装置であって、
原料液を吐出する第一吐出口と、
前記第一吐出口の近傍に配置され、前記第一吐出口の吐出方向と同方向に気体を吐出する第二吐出口と、
原料液を帯電させる帯電装置と、
前記第一吐出口から吐出される原料液から製造されるナノファイバを搬送する気体流を発生させる気体流発生装置と、
気体流と共にナノファイバを案内する案内装置と
を備えるナノファイバ製造装置。
【請求項2】
前記第一吐出口は、吐出する原料液と気体流発生装置により発生する気体流とが交差し、原料液の飛行方向が変更されるように配置される請求項1に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項3】
前記帯電装置は、
前記第一吐出口に対し所定の電圧が印加される帯電電極と、
前記第一吐出口と前記帯電電極との間を所定の電圧にする帯電電源とを備え、
前記帯電電極は、前記第一吐出口よりも前記気体流発生装置が発生させる気体流の風上側に配置される
請求項1に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項4】
さらに、
前記第一吐出口が先端に設けられるノズルを複数備え、
全ての前記第一吐出口と前記帯電電極との距離が等しくなるように前記ノズルが配置される
請求項3に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項5】
さらに、
気体流とナノファイバとを分離してナノファイバを収集する収集装置と、
ナノファイバを前記収集装置に誘引する誘引装置と
を備える請求項1に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項6】
前記案内装置は、ナノファイバを案内する断面積が徐々に広がる拡散体を備える請求項1に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項7】
原料液を空間中で延伸させ、ナノファイバを製造するナノファイバ製造方法であって、
第一吐出口から原料液を吐出する第一吐出工程と、
前記第一吐出口の近傍に配置される第二吐出口から前記第一吐出口の吐出方向と同方向に気体を吐出する第二吐出工程と、
原料液に電荷を付与して帯電させる帯電工程と、
前記第一吐出口から吐出される原料液から製造されるナノファイバを気体流により搬送する搬送工程と、
気体流によって搬送されるナノファイバを所定の場所に案内する案内工程と
を含むナノファイバ製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−121255(P2010−121255A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−298802(P2008−298802)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的部材産業創出プログラム/新産業創造高度部材基盤技術開発/先端機能発現型新構造繊維部材基盤技術の開発」にかかる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】