説明

ナノファイバ製造装置、ナノファイバ製造方法

【課題】静電爆発により製造されるナノファイバの空間分布を均一にする。
【解決手段】原料液300を空間中で静電爆発させ、ナノファイバを製造するナノファイバ製造装置100であって、原料液300を空間中に流出させる流出体211と、流出体211に電荷を誘導する誘導電極221と、誘導電極221に所定の電位を印加する誘導電源222と、ナノファイバ301を搬送する気体流を発生させる気体流発生手段203と、ナノファイバ301の搬送方向と垂直な断面の開口面積が連続して拡大する形状を有する拡散体240とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ナノファイバ製造装置に関し、特に、空間的に均等に分散した状態のナノファイバを製造することができるナノファイバ製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子物質などから成り、サブミクロンスケールの直径を有する糸状(繊維状)物質(ナノファイバ)を製造する方法として、エレクトロスピニング(電荷誘導紡糸)法が知られている。
【0003】
このエレクトロスピニング法とは、溶媒中に高分子物質などを分散または溶解させた原料液を空間中にノズルなどにより流出(吐出)させるとともに、原料液に電荷を付与して帯電させ、空間を飛行中の原料液を静電爆発させることにより、ナノファイバを得る方法である。
【0004】
より具体的にエレクトロスピニング法を説明すると次のようになる。すなわち、帯電され空間中に流出された原料液は、空間を飛行中に徐々に溶媒が蒸発していく。これにより、飛行中の原料液の体積は、徐々に減少していくが、原料液に付与された電荷は、原料液に留まる。この結果として、空間を飛行中の原料液は、電荷密度が徐々に上昇することとなる。そして、溶媒は、継続して蒸発し続けるため、原料液の電荷密度がさらに高まり、原料液の中に発生する反発方向のクーロン力が原料液の表面張力より勝った時点で高分子溶液が爆発的に線状に延伸される現象(静電爆発)が生じる。この静電爆発が、空間において次々と幾何級数的に発生することで、直径がサブミクロンの高分子から成るナノファイバが製造される(例えば特許文献1参照)。
【0005】
以上のように空間中で製造されるナノファイバは、堆積されて不織布として用いられる事がある。この場合、不織布の厚さの均一性や不織布を構成するナノファイバの径の均一性などが要求されるため、本願発明者らは、ナノファイバを気体流で搬送し、気体流と共にナノファイバを拡散させることで、ナノファイバを空間的に均一に分布させることのできるナノファイバ製造装置を先に提案している。このように、空間的に均一に分布したナノファイバを堆積させることで、品質が二次元的に均一な不織布を製造することが可能となる。
【特許文献1】特開2004−238749号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、本願発明者らが研究を進めていく中で、従来のナノファイバ製造装置では得られた不織布の均一性に問題が生じる場合があった。例えば、ナノファイバの製造条件を変更した場合、所望の均一性を確保できないなどの不具合が発生する事があり、製造装置としての製造品質の安定性を確保することが困難な場合があった。
【0007】
そこで、鋭意研究と実験を重ねたところ、ナノファイバを空間中で拡散させる部分の形状を所定の形状とすることで、製造品質の向上が図れることを見いだすに至った。
【0008】
本願発明は、前記知見に基づきなされたものであり、製造されるナノファイバの空間的な均一性を確保し、当該均一性を安定して実現しうるナノファイバ製造装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本願発明にかかるナノファイバ製造装置は、原料液を空間中で静電爆発させ、ナノファイバを製造するナノファイバ製造装置であって、前記原料液を空間中に流出させる流出孔を有する流出体と、前記流出体と所定の間隔を隔てて配置され、前記流出体に電荷を誘導する誘導電極と、前記流出体と前記誘導電極との間を所定の電圧にする誘導電源と、ナノファイバを搬送する気体流を発生させる気体流発生手段と、ナノファイバを気体流と共に拡散させつつ案内する風洞であって、ナノファイバの搬送方向と垂直な断面の開口面積が連続して拡大する形状を有する拡散体とを備えることを特徴としている。
【0010】
これにより、ナノファイバの空間的な分布を均一とすることができる。また、ナノファイバの空間的な分布の均一性を維持して安定した操業を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
製造されるナノファイバの空間的な均一性を確保して、品質が二次元的に均一な不織布を製造することが可能となる。また、当該品質が二次元的に均一な不織布を安定して製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本願発明にかかるナノファイバ製造装置の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0013】
図1は、本願発明の実施の形態であるナノファイバ製造装置を模式的に示す断面図である。
【0014】
図2は、本願発明の実施の形態であるナノファイバ製造装置を模式的に示す斜視図である。
【0015】
これらの図に示すように、ナノファイバ製造装置100は、放出手段200と、案内体206と、拡散体240と、収集手段110と、誘引手段115とを備えている。
【0016】
ここで、ナノファイバを製造するための原料液については、原料液300と記し、製造されたナノファイバについてはナノファイバ301と記すが、製造に際しては原料液300が静電爆発しながらナノファイバ301に変化していくため、原料液300とナノファイバ301との境界は曖昧であり、明確に区別できるものではない。
【0017】
図3は、放出手段を示す断面図である。
図4は、放出手段を示す斜視図である。
【0018】
放出手段200は、帯電した原料液300や製造されるナノファイバ301を気体流に乗せて放出することができるユニットであり、流出手段201と、帯電手段202と、風洞体209と、気体流発生手段203とを備えている。
【0019】
これらの図に示すように、流出手段201は、原料液300を空間中に流出させる装置であり、本実施の形態では、原料液300を遠心力により放射状に流出させ、誘導電極221の内方に原料液を流出させる装置である。流出手段201は、流出体211と、回転軸体212と、モータ213とを備えている。
【0020】
流出体211は、原料液300を空間中に流出させる流出孔216を有する部材である。本実施の形態の場合、流出体211は、原料液300が内方に注入されながら自身の回転による遠心力により空間中に原料液300を流出させることのできる容器である。流出体211は、一端が閉塞された円筒形状となされ、周壁には流出孔216を多数備えている。流出体211は、貯留する原料液300に電荷を付与するため、導電体で形成されている。流出体211は支持体(図示せず)に設けられるベアリング215により回転可能に支持されている。
【0021】
具体的には、流出体211の直径は、10mm以上、300mm以下の範囲から採用されることが好適である。あまり大きすぎると後述の気体流により原料液300やナノファイバ301を集中させることが困難になるからであり、また、流出体211の回転軸が偏心するなど、重量バランスが少しでも偏ると大きな振動が発生してしまい、当該振動を抑制するために流出体211を強固に支持する構造が必要となるからである。一方、小さすぎると遠心力により原料液300を流出させるための回転を高めなければならず、駆動源の負荷や振動など問題が発生するためである。さらに流出体211の直径は、20mm以上、100mm以下の範囲から採用することが好ましい。
【0022】
また、流出孔216の形状は円形が好ましく、その直径は、流出体211の肉厚にもよるが、おおよそ0.01mm以上、3mm以下の範囲から採用することが好適である。これは、流出孔216があまりに小さすぎると原料液300を流出体211の外方に流出させることが困難となるからであり、あまりに大きすぎると一つの流出孔216から流出する原料液300の単位時間当たりの量が多くなりすぎ(つまり、流出する原料液300が形成する線の太さが太くなりすぎ)て所望の径のナノファイバ301を製造することが困難となるからである。
【0023】
なお、流出体211の形状は、円筒形状に限定するものではなく、断面が多角形状の多角筒形状のようなものや円錐形状のようなものでもよい。また、流出孔216の形状は、円形に限定することなく、多角形状や星形形状などであってもよい。
【0024】
回転軸体212は、流出体211を回転させ遠心力により原料液300を流出させるための駆動力を伝達するための軸体であり、流出体211の他端から流出体211の内部に挿通され、流出体211の閉塞部と一端部が接合される棒状体である。また、他端はモータ213の回転軸と接合されている。
【0025】
モータ213は、遠心力により原料液300を流出孔216から流出させるために、回転軸体212を介して流出体211に回転駆動力を付与する装置である。なお、流出体211の回転数は、流出孔216の口径や使用する原料液300の粘度や原料液内の高分子物質の種類などとの関係により、数rpm以上、10000rpm以下の範囲から採用することが好ましく、本実施の形態のようにモータ213と流出体211とが直動の時はモータ213の回転数は、流出体211の回転数と一致する。
【0026】
帯電手段202は、原料液300に電荷を付与して帯電させる装置である。本実施の形態の場合、帯電手段202は、誘導電極221と、誘導電源222と、接地手段223とを備えている。また、流出体211も帯電手段202の一部として機能している。
【0027】
誘導電極221は、自身がアースに対し高い電圧もしくは低い電圧となることで、近傍に配置され接地されている流出体211に電荷を誘導するための部材である。本実施の形態の場合、誘導電極221は、流出体211の先端部分を取り囲むように配置される円環状の部材である。誘導電極221に正の電圧が印加されると流出体211には、負の電荷が誘導され、誘導電極221に負の電荷が印加されると流出体211には、正の電荷が誘導される。また、誘導電極221は、気体流発生手段203からの気体流を案内体206に案内する風洞体209としても機能している。
【0028】
誘導電極221の大きさは、流出体211の直径よりも大きい必要があるが、その直径は、200mm以上、800mm以下の範囲から採用されることが好適である。
【0029】
誘導電源222は、誘導電極221に高電圧を印加することのできる電源である。なお、誘導電源222は、一般には、直流電源が好ましい。特に、発生させるナノファイバ301の帯電極性に影響受けないような場合、生成したナノファイバ301の帯電を利用して、電極上に回収するような場合には、直流電源が好ましい。また、誘導電源222が直流電源である場合、誘導電源222が誘導電極221に印加する電圧は、10KV以上、200KV以下の範囲の値から設定されるのが好適である。誘導電源222に負の電圧が印加される場合には、前記の印加する電圧の極性は、負になる。
【0030】
接地手段223は、流出体211と電気的に接続され、流出体211を接地電位に維持することができる装置である。接地手段223の一端は、流出体211が回転状態であっても電気的な接続状態を維持することができるようにブラシとして機能するものであり、他端は大地と接続されている。
【0031】
なお、流出体211と誘導電極との間の電界強度が重要であり、1KV/cm以上の電界強度になるように印加電圧や誘導電極221の形状や流出体211と誘導電極との配置を行うことが好ましい。誘導電極221の形状は、円環状に限ったものではなく、多角形状を有する多角形環状の部材であってもよい。
【0032】
本実施の形態のように帯電手段202に誘導方式を採用すれば、流出体211を接地電位に維持したまま原料液300に電荷を付与することができる。流出体211が接地電位の状態であれば、流出体211に接続される回転軸体212やモータ213などの部材を流出体211から電気的に絶縁する必要が無くなり、流出手段201として簡単な構造を採用しうることになり好ましい。
【0033】
なお、帯電手段202として、流出体211に電源を接続し、流出体211を高電圧に維持し、誘導電極221を接地することで原料液300に電荷を付与してもよい。また、流出体211を絶縁体で形成すると共に、流出体211に貯留される原料液300に直接接触する電極を流出体211内部に配置し、当該電極を用いて原料液300に電荷を付与するものでもよい。このような流出体211に直接もしくは原料液に直接電極を配置する場合には、原料液に帯電する電荷の極性は、印加する電圧の極性と同じ極性になる。
【0034】
気体流発生手段203は、流出体211から流出される原料液300の飛行方向を案内体206で案内される方向に変更するための気体流を発生させる装置である。気体流発生手段203は、モータ213の背部に備えられ、モータ213から流出体211の先端に向かう気体流を発生させる。気体流発生手段203は、流出体211から径方向に流出される原料液300が誘導電極221に到達するまでに前記原料液300を軸方向に変更することができる風力を発生させることができるものとなっている。図3において、気体流は矢印で示している。本実施の形態の場合、気体流発生手段203として、放出手段200の周囲にある雰囲気を強制的に送風する軸流ファンを備える送風機が採用されている。
【0035】
なお、気体流発生手段203は、シロッコファンなど他の送風機により構成してもかまわない。また、高圧ガスを導入することにより流出された原料液300の方向を変更するものでもかまわない。また、吸引手段102などにより案内体206内方に気体流を発生させるものでもかまわない。この場合、気体流発生手段203は積極的に気体流を発生させる装置を有しないこととなるが、本願発明の場合、風洞体209の内方に気体流が発生していることをもって気体流発生手段203が存在しているものとする。また、気体流発生手段203を有しない状態で、吸引手段102により吸引することで、風洞体209や案内体206の内方に気体流を発生させるようにすることも気体流発生手段が存在しているものとする。また、気体流発生手段203を有しない状態で、誘引手段115が備える吸引手段102により吸引することで、風洞体209や案内体206の内方に気体流が発生する場合、吸引手段102が気体流発生手段として機能しているとみなす。
【0036】
風洞体209は、気体流発生手段203で発生した気体流を流出体211の近傍に案内する導管である。風洞体209により案内された気体流が流出体211から流出された原料液300と交差し、原料液300の飛行方向を変更する。
【0037】
さらにまた、放出手段200は、気体流制御手段204と、加熱手段205とを備えている。
【0038】
気体流制御手段204は、気体流発生手段203により発生する気体流が流出孔216に当たらないよう気体流を制御する機能を有するものであり、本実施の形態の場合、気体流制御手段204として、気体流を所定の領域に流れるように案内する漏斗形状の部材が採用されている。気体流制御手段204により、気体流が直接流出孔216に当たらないため、流出孔216から流出される原料液300が早期に蒸発して流出孔216を塞ぐことを可及的に防止し、原料液300を安定させて流出させ続けることが可能となる。なお、気体流制御手段204は、流出孔216の風上に配置され気体流が流出孔216近傍に到達するのを防止する壁状の防風壁でもかまわない。
【0039】
加熱手段205は、気体流発生手段203が発生させる気体流を構成する気体を加熱する加熱源である。本実施の形態の場合、加熱手段205は、案内体206の内方に配置される円環状のヒータであり、加熱手段205を通過する気体を加熱することができるものとなっている。加熱手段205により気体流を加熱することにより、空間中に流出される原料液300は、蒸発が促進され効率よくナノファイバを製造することが可能となる。
【0040】
案内体206は、放出手段200から放出されるナノファイバ301を所定の場所に案内する風洞を形成する部材であり、放出手段200のナノファイバ301が放出される側の開口形状と同じ開口形状を備え、放出手段200と一連に、かつ、所定の隙間を開けて配置されている。そして、放出手段200と案内体206との隙間が導入口208となっている。
【0041】
導入口208は、案内体206外方の雰囲気を案内体206内方に導入する為の開口であり、本実施の形態の場合、放出手段200と案内体206との間に配置され、案内体206の全周にわたって均一に開口している。なお、図3中導入口208の部分に記載されている曲がった矢印は、案内体206の内方に導入される雰囲気を模式的に示したものである。
【0042】
図1、図2の参照に戻る。
拡散体240は、案内体206に接続され、案内体206の内方を通過して案内されるナノファイバ301を気体流と共に広く拡散させ分散させる風洞であり、気体流に乗って搬送されるナノファイバ301の速度を減速させる部材である。拡散体240は、ナノファイバ301の搬送方向と垂直な断面の開口面積(図5中Cで示される面積)が連続して拡大する形状を有している。拡散体240の断面開口形状(図5中C)は、いずれの断面であっても滑らかで閉じた形状となっている。ここで、滑らかとは、二本の直線が交差する部分に存在する角部が無い場合をいう。また、滑らかとは、断面開口形状上のどの点をとっても微分係数が存在する場合をいうと考えてもよい。
【0043】
本実施の形態の場合、拡散体240の気体流が導入される上流端側の開口形状は円形であり、下流端側の開口形状は長円(トラック形状)である。そして上流端側開口形状から下流端側開口形状に至るまで、直線でつながっている。つまり、拡散体240のどの断面をとっても断面開口形状は滑らかであり、かつ、凸の図形である。また、拡散体240に囲まれる立体形状も凸の形状である。ここで長円(トラック形状)とは、真円を直径で二分して第一半円と第二半円とを形成し、第一半円と第二半円との凹部を対向させ、第一半円と第二半円との端部同士を直線で接続した形状であり、陸上競技に用いられるレーストラックの形状である。また、凸の形状とは、閉じた形状内のいずれの2点を選んでも、当該2点を結ぶ線は、前記閉じた形状内に存在する形状をいう。
【0044】
本実施の形態にかかる拡散体240は、図5に示すように、半径Rの真円である上流端側開口形状Aを備えており、拡散体240の下流端側開口形状Bは、上流端側開口形状Aを第一半円A1と第二半円A2とに直径で二分して、それぞれを直線で結んだ長円形状となっている。拡散体240は、ナノファイバ301が搬送される方向に進むに従って、第一半円A1と第二半円A2との距離がリニアに離れていくものとなっている。また、拡散体240が有するナノファイバの搬送方向に対する傾斜D/L(Lは搬送方向の距離、Dは搬送方向に垂直な距離)は、1/4以上、1/2以下が好ましい。これはD/Lが1/4未満の場合、ナノファイバ301を所望の広さに分布させるためにナノファイバ301の搬送距離を長くしなければならず、ナノファイバ301の分布の均一性を確保することが困難になるからである。一方、D/Lが1/2より大きい場合、ナノファイバ301が急に拡散されることになり、この場合もナノファイバ301の分布の均一性を確保することが困難になるからである。本実施の形態の場合D/Lは、1/3が採用されている。
【0045】
また、本実施の形態の場合、1/3の傾斜が拡散体240に対向するように二つ設けられている。従って、拡散体240の拡散率、すなわち、搬送方向の距離に対する断面開口面積の増加率S/Lは、2R/3となる。従って、拡散体240によれば、ナノファイバ301を気体流と共に2R/3の拡散率で拡散させつつ搬送することができる。
【0046】
拡散体240は、次のような作用を奏すると考えられる。すなわち、拡散体240の上流端側から下流端側に向かって気体流が流れると、高密度状態のナノファイバ301が徐々に低密度状態となって分散すると共に、気体流の流速は、拡散体240の断面の開口面積に比例して落ちていく。従って、気体流に乗って搬送されるナノファイバ301も、気体流と共に速度が減速される。この際、ナノファイバ301は、断面開口面積の拡大に従い徐々に均等に拡散していく。従って、ナノファイバ301を堆積対象部材101上に均等に堆積させることが可能となる。しかも、拡散体240の断面開口形状が滑らかで閉じた形状であり、かつ、当該断面開口形状が連続して滑らかに拡大していっているため、気体流がスムーズに広がり、これに伴ってナノファイバ301も均等に拡散する。
【0047】
なお、本実施の形態の場合、拡散体240は、上流端側の開口形状を一次元的に伸長したものを例示したが、本願発明はこれに限定されるものではない。例えば図6に示すように、上流端側の開口形状Aを二次元的に徐々に伸長し、下流端側の開口形状Bを開口形状Aの相似形としてもかまわない。この場合においても、拡散体240が有するナノファイバの搬送方向に対する傾斜D/Lは、1/4以上、1/2以下が好ましい。
【0048】
また、拡散体240の内周面に、フッ素系樹脂をコーティングしてもかまわない。これによって、ナノファイバ301が拡散体240の内周壁に付着するのを回避することが可能となる。
【0049】
図1、図2の参照に戻る。
収集手段110は、拡散体240から放出されるナノファイバ301を収集するための装置であり、堆積対象部材101と、移送手段104とを備えている。
【0050】
堆積対象部材101は、静電爆発により製造され飛来するナノファイバ301が堆積される対象となる部材である。堆積対象部材101は、堆積したナノファイバ301と容易に分離可能な材質で構成された薄く柔軟性のある長尺のシート状の部材である。具体的には、堆積対象部材101として、アラミド繊維からなる長尺の布を例示することができる。さらに、堆積対象部材101の表面にテフロン(登録商標)コートを行うと、堆積したナノファイバ301を堆積対象部材101から剥ぎ取る際の剥離性が向上するため好ましい。また、堆積対象部材101は、ロール状に巻き付けられた状態で供給ロール111から供給されるものとなっている。
【0051】
移送手段104は、長尺の堆積対象部材101を巻き取りながら供給ロール111から引き出し、堆積するナノファイバ301と共に堆積対象部材101を搬送するものとなっている。移送手段104は、不織布状に堆積しているナノファイバ301を堆積対象部材101とともに巻き取ることができるものとなっている。
【0052】
誘引手段115は、飛来するナノファイバ301を堆積対象部材101に誘引する装置である。誘引手段115としては、帯電しているナノファイバ301を逆極性の電位(または、接地電位)が印加された電極を用いて電界により誘引する電界誘引方式と、気体流を吸引することにより、気体流と共にナノファイバ301を誘引する気体誘引方式が例示できる。
【0053】
本実施の形態の場合、電界誘引方式と気体誘引方式との両方を備える誘引手段115が採用されている。誘引手段115は、誘引電極112と、誘引電源113と、吸引手段102とを備えている。
【0054】
誘引電極112は、帯電しているナノファイバ301を電界(電場)により誘引する部材であり、拡散体240の下流側端部の開口部よりも一回り小さい矩形の板状の電極である。誘引電極112の拡散体240に向かう面の周縁部は尖った部分がなく、全体的にアールが施されており、異常放電が発生するのを防止している。また、誘引電極112は、吸引手段102が吸引する気体流を透過させるための透過孔が多数設けられている。
【0055】
誘引電源113は、誘引電極112に電位を付与するための電源であり、本実施の形態の場合は直流電源が採用されている。
【0056】
吸引手段102は、拡散体240から堆積対象部材101と誘引電極112とを通過する気体流を吸引する装置である。本実施の形態では、吸引手段102として、シロッコファンや軸流ファンなどの送風機が採用されている。
【0057】
次に、上記構成のナノファイバ製造装置100を用いたナノファイバ301の製造方法を説明する。
【0058】
まず、気体流発生手段203と吸引手段102とにより、案内体206や風洞体209の内部に気体流発生手段203から堆積対象部材101に向かう気体流を発生させる。案内体206内を通過する気体流により、案内体206内方は、案内体206外方よりも圧力が低くなっているため、導入口208から案内体206外方の雰囲気(本実施の形態の場合は空気)が流入する。いわゆるベンチュリ効果である。
【0059】
次に、流出手段201の流出体211に原料液300を供給する。原料液300は、別途タンク(図示せず)に蓄えられており、供給路217(図3参照)を通過して流出体211の他端部から流出体211内部に供給される。
【0060】
次に、誘導電源222により誘導電極221を流出体211に対して高電圧とし、流出体211に貯留される原料液300に電荷を供給しつつ(帯電工程)、流出体211をモータ213により回転させて、遠心力により流出孔216から帯電した原料液300を流出する(流出工程)。
【0061】
流出体211の径方向放射状に流出された原料液300は、気体流により飛行方向が変更され、気体流に乗り風洞体209や誘導電極221により案内される。原料液300は静電爆発によりナノファイバ301を製造しつつ(ナノファイバ製造工程)放出手段200から放出される。また、前記気体流は、加熱手段205により加熱されており、原料液300の飛行を案内しつつ、原料液300に熱を与えて溶媒の蒸発を促進している。
【0062】
以上のようにして放出手段200から放出されるナノファイバ301は、案内体206に導入される。ここで、案内体206の端部に配置される導入口208からは空気が流入しているため、ナノファイバ301は、案内体206の軸心方向に押し付けられながら搬送される(搬送工程)。
【0063】
従って、ナノファイバ301は案内体206の内壁に付着することなく案内体206の軸心に沿って案内される。
【0064】
次に、拡散体240にまで搬送されたナノファイバ301は、ここで徐々に速度が低下すると共に、均一に分散状態となる(拡散工程)。ここで、拡散体240は、いずれの断面においても開口形状が滑らかで閉じた形状となっているため、気体流が全体として均一に広がり、また、流速が均等に減少する。そして、部分的に渦流が発生し難い状態となっている。従って、気体流に搬送されるナノファイバ301も気体流に従い、均等に拡散する。特に、拡散体240の内方で形成される立体形状は凸形状であるため、前記作用効果が顕著に表れると考えられる。
【0065】
この状態において、拡散体240の開口部に配置されている誘引電極112は、ナノファイバ301の帯電極性とは逆極性の電圧が印加されているため、ナノファイバ301を引きつける。また、吸引手段102によってもナノファイバ301は堆積対象部材101に誘引される。以上により、ナノファイバ301は、堆積対象部材101上に堆積していく(収集工程)。
【0066】
以上により、原料液300に含まれる溶媒の蒸発は、案内体206の内方で発生するが、案内体206内方は、気体流が存在し吸引手段102に吸引されて回収されるまで常に流れているため、案内体206内方に溶媒の蒸気が滞留することはない。従って、案内体206内方は、爆発限界を超えることがなく、安全な状態を維持しながらナノファイバ301を製造することが可能となる。
【0067】
さらに、引火性のある溶媒を用いることが可能となるため、溶媒として用いることができる有機溶剤の種類の幅が広がり、人体に体して悪影響の少ない有機溶剤を溶媒として選定することも可能となる。また、蒸発効率の高い有機溶剤を溶媒として選定し、ナノファイバ301の製造効率を向上させることも可能となる。
【0068】
さらに、ナノファイバ301は拡散体240により均一に拡散し分散した後に誘引電極112により引きつけられるため、ナノファイバ301は、堆積対象部材101上に均一に堆積する。従って、堆積したナノファイバ301を不織布として利用する場合には、面全体に渡って性能が安定した不織布を得ることが可能となる。また、堆積したナノファイバ301を紡糸する場合においても、性能が安定した糸を得ることが可能となる。
【0069】
ここで、ナノファイバ301を構成する高分子物質としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ−m−フェニレンテレフタレート、ポリ−p−フェニレンイソフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン−アクリレート共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリル−メタクリレート共重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステルカーボネート、ポリアミド、アラミド、ポリイミド、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ酢酸ビニル、ポリペプチド等およびこれらの共重合体を例示できる。また、上記より選ばれる一種でもよく、また、複数種類が混在してもかまわない。なお、上記は例示であり、本願発明は上記高分子物質に限定されるものではない。
【0070】
原料液300に使用される溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジベンジルアルコール、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、メチル−n−プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、アセトン、ヘキサフルオロアセトン、フェノール、ギ酸、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、塩化メチル、塩化エチル、塩化メチレン、クロロホルム、o−クロロトルエン、p−クロロトルエン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジクロロプロパン、ジブロモエタン、ジブロモプロパン、臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピル、酢酸、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、シクロペンタン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホオキシド、ピリジン、水等を例示することができる。また、上記より選ばれる一種でもよく、また、複数種類が混在してもかまわない。なお、上記は例示であり、本願発明は上記溶媒に限定されるものではない。すなわち、前記高分子物質により、それに対応した最適な溶媒を選定して、所定の粘度になるように構成比率を設定するようにしている。
【0071】
さらに、原料液300に骨材や可塑剤などの添加剤を添加してもよい。当該添加剤としては、酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、珪化物、弗化物、硫化物等を挙げることができるが、耐熱性、加工性などの観点から酸化物を用いることが好ましい。当該酸化物としては、Al23、SiO2、TiO2、Li2O、Na2O、MgO、CaO、SrO、BaO、B23、P25、SnO2、ZrO2、K2O、Cs2O、ZnO、Sb23、As23、CeO2、V25、Cr23、MnO、Fe23、CoO、NiO、Y23、Lu23、Yb23、HfO2、Nb25等を例示することができる。また、上記より選ばれる一種でもよく、また、複数種類が混在してもかまわない。なお、上記は例示であり、本願発明は上記添加剤に限定されるものではない。
【0072】
溶媒と高分子物質との混合比率は、溶媒と高分子物質により異なるが、溶媒量は、約60重量%から98重量%の間が望ましい。
【0073】
上記のように、溶媒蒸気が気体流により滞留することなく処理されるため、原料液300は、上記のように溶媒を50重量%以上含んでいても十分に蒸発し、静電爆発を発生させることが可能となる。従って、溶質である高分子が薄い状態からナノファイバ301が製造されるため、より細いナノファイバ301をも製造することが可能となる。また、原料液300の調整可能範囲が広がるため、製造されるナノファイバ301の性能の範囲も広くすることが可能となる。
【0074】
なお、上記実施の形態では、原料液300を遠心力を用いて流出させたが、本願発明はこれに限定されるわけではない。例えば、図7に示すような放出手段200を採用してもかまわない。具体的には、放出手段200は、断面矩形の風洞体209の一壁面を流出孔216が多数設けられた流出体211を配置し、風洞体209の対向面に誘導電極221を配置して前記流出孔216と誘導電極221間に電位差を持たせることで電界を発生させて前記原料液を帯電させることで、帯電手段202とする。また、風洞体209の開口端の一方には気体流発生手段203を設ける。また、このような放出手段200と所定の間隔を隔てて、風洞体209と同じ断面形状(矩形)の案内体206を配置してもかまわない。この場合放出手段200と案内体206との隙間が導入口208となる。
【0075】
この場合、拡散体240は、図8に示すように、案内体206の形状と合致した上流端側の開口形状から、形状を徐々に変更しつつ、かつ、断面の開口面積が徐々に増加するようにしてもよい。
【0076】
また、案内体206は、必要に応じ適宜省略することが可能である。この場合、放出手段200に、直接拡散体240が接続されることとなる。
【0077】
誘引電極112は、誘引電源113と接続を行っているが、誘引電極112を接地して、帯電したナノファイバを誘引するようにしても、本願発明に記載した効果は得られる。
【実施例】
【0078】
次に、本願発明の実施例を説明する。
図1に示す、ナノファイバ製造装置100を用い、ナノファイバからなる不織布を製造し、得られた不織布を評価した。
【0079】
製造条件は以下の通りである。
1)流出体:直径はΦ60mm
2)流出孔:数は108個、孔径は0.3mm
3)流出条件:回転数は2000rpm
4)ナノファイバの材質:PVA(ポリビニルアルコール)
5)原料液:溶媒は水、PVAとの混合率は、溶媒が90重量%
6)誘導電極:内径はΦ600mm
誘導電源は、負の60KV
7)案内体:内径はΦ600mm、断面開口形状は円形、長さは1000mm
8)堆積対象部材:幅は400mm、移動速度は1mm/分
誘引電源は、負の30KV
9)案内体内の風量:30m3/分
10)拡散体:傾きは1/3
11)比較例としての拡散体:傾きは1/1
【0080】
以上の条件により得られた不織布の厚みを幅方向に測定した。
【0081】
結果は以下の通りである。
傾き1/3:最大厚みは36μm、最小厚みは30μm、平均厚みは33μm
形態は図9(a)に示すとおり
傾き1/1:最大厚みは45μm、最小厚みは20μm、平均厚みは30μm
形態は図9(b)に示すとおり
【0082】
以上により、本願発明にかかるナノファイバ製造装置によれば、ナノファイバを均一に堆積させることが可能であることが解った。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本願発明は、静電爆発(エレクトロスピニング法)によるナノファイバの製造や、当該ナノファイバを堆積させた不織布等の製造に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本願発明の実施の形態であるナノファイバ製造装置を模式的に示す断面図である。
【図2】本願発明の実施の形態であるナノファイバ製造装置を模式的に示す斜視図である。
【図3】放出手段を示す断面図である。
【図4】放出手段を示す斜視図である。
【図5】拡散体を模式的に示す斜視図である。
【図6】拡散体の他の実施の形態を模式的に示す斜視図である。
【図7】放出手段を模式的に示す断面図である。
【図8】拡散体の他の実施の形態を模式的に示す斜視図である。
【図9】堆積されたナノファイバを模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0085】
100 ナノファイバ製造装置
101 堆積対象部材
102 吸引手段
104 移送手段
110 収集手段
111 供給ロール
112 誘引電極
113 誘引電源
115 誘引手段
200 放出手段
201 流出手段
202 帯電手段
203 気体流発生手段
204 気体流制御手段
205 加熱手段
206 案内体
208 導入口
209 風洞体
211 流出体
212 回転軸体
213 モータ
215 ベアリング
216 流出孔
217 供給路
221 誘導電極
222 誘導電源
223 接地手段
240 拡散体
300 原料液
301 ナノファイバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料液を空間中で静電爆発させ、ナノファイバを製造するナノファイバ製造装置であって、
前記原料液を空間中に流出させる流出孔を有する流出体と、
前記流出体と所定の間隔を隔てて配置され、前記流出体に電荷を誘導する誘導電極と、
前記流出体と前記誘導電極との間を所定の電圧にする誘導電源と、
ナノファイバを搬送する気体流を発生させる気体流発生手段と、
ナノファイバを気体流と共に拡散させつつ案内する風洞であって、ナノファイバの搬送方向と垂直な断面の開口面積が連続して拡大する形状を有する拡散体と
を備えるナノファイバ製造装置。
【請求項2】
前記拡散体は、ナノファイバの搬送方向に対する傾斜が1/4以上、1/2以下の範囲となる形状である請求項1に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項3】
前記拡散体は、断面開口形状が滑らかで閉じた形状である請求項1に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項4】
さらに、
前記流出体と前記拡散体との間に配置され、ナノファイバを気体流と共に前記拡散体に案内する案内体を備える請求項1に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項5】
さらに、
ナノファイバを堆積する堆積対象部材と、
ナノファイバを前記堆積対象部材に誘引する誘引手段と
を備える請求項1に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項6】
原料液を空間中で静電爆発させ、ナノファイバを製造するナノファイバ製造方法であって、
前記原料液を空間中に流出させる流出工程と、
前記原料液を帯電させる帯電工程と、
ナノファイバを搬送する気体流を発生させる気体流発生工程と、
ナノファイバを気体流と共に所定の拡散率で拡散させつつ搬送する拡散工程と
を含むナノファイバ製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−18898(P2010−18898A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−178233(P2008−178233)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的部材産業創出プログラム/新産業創造高度部材基盤技術開発/先端機能発現型新構造繊維部材基盤技術の開発」にかかる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】