説明

ナノファイバ製造装置、ナノファイバ製造方法

【課題】簡単な構成で安定した品質のナノファイバを高い生産効率で製造する。
【解決手段】原料液300を空間中で電気的に延伸させてナノファイバ301を製造するナノファイバ製造装置100であって、原料液300を貯留する貯留槽110と、貯留される原料液300に波を発生させる造波装置120と、原料液300と接触し、原料液に電荷を供給する供給電極130と、原料液300から離れた位置に配置される帯電電極140と、供給電極130と帯電電極140とが所定の電圧となるように電圧を印加する帯電電源150とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ナノファイバの製造装置に関し、特に、多量のナノファイバを一度に製造することのできるナノファイバ製造装置、及び、当該ナノファイバ製造装置を用いたナノファイバ製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子物質などから成り、サブミクロンスケールの直径を有する糸状(繊維状)物質(ナノファイバ)を製造する方法として、エレクトロスピニング(電荷誘導紡糸)法が知られている。
【0003】
このエレクトロスピニング法とは、溶媒中に高分子物質などを分散または溶解させた原料液を空間中にノズルなどにより流出(吐出)させるとともに、原料液に電荷を付与して帯電させ、空間を飛行中の原料液を電気的な反発力で延伸させることにより、ナノファイバを得る方法である。以上のような現象を「原料液を空間中で電気的に延伸させる」と定義する。
【0004】
より具体的にエレクトロスピニング法を説明すると次のようになる。すなわち、帯電され空間中に流出された原料液は、空間を飛行中に徐々に溶媒が蒸発していく。これにより、飛行中の原料液の体積は、徐々に減少していくが、原料液に付与された電荷は、原料液に留まる。この結果として、空間を飛行中の原料液は、電荷密度が徐々に上昇することとなる。そして、溶媒は、継続して蒸発し続けるため、原料液の電荷密度がさらに高まる。原料液の中に発生する反発方向のクーロン力が原料液の表面張力より勝った時点で、高分子溶液が爆発的に線状に延伸される現象(以下、静電延伸現象と述べる。)が生じる。この電気的な延伸現象が、空間において次々と幾何級数的に発生することで、直径がサブミクロンの高分子から成るナノファイバが製造される(例えば特許文献1参照)。
【0005】
以上のようなエレクトロスピニング法で製造されるナノファイバの生産効率を向上させるためには、空間中に流出させる原料液を多くすれば良い。そこで、従前は、空間中に原料液を流出させるためのノズルを多数設け、空間中に強制的に原料液を流出させることで、ナノファイバの生産効率の向上を図っている。
【特許文献1】特開2008−31624号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、ノズルを多数配置する従前の構成、及び、方法では、ノズルの形状の不均一さやノズルの電気的な位置関係など、多数のノズルを均一とすることが困難であった。このような場合、製造されるナノファイバも不均一となって、得られるナノファイバの品質が安定しなかったり、原料液に電荷が供給されてないノズルが発生することで、当該ノズルからはナノファイバが製造されず、ナノファイバの生産効率が向上しないとの課題が発生する。さらに多数のノズルを設けるには、製造コストや組立コストがかかり、ナノファイバ製造装置の価格が上昇する問題もある。
【0007】
一方、空間中に強制的に原料液を流出させるためには、原料液に圧力を加え、当該圧力によりノズルから原料液を強制的に流出させたり、原料液を保持する部材を回転させることにより、遠心力で原料液を強制的に流出させたりしている。圧力を発生させるポンプや、部材を回転させる駆動源などが必要な装置は、構造的に複雑になるという問題を有している。
【0008】
本願発明は上記課題を解決するためになされたものであり、比較的簡単な構造の装置であって、製造するナノファイバの品質の安定と、ナノファイバの生産効率の向上を図ることのできる装置の提供、及び、当該装置を用いたナノファイバの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本願発明にかかるナノファイバ製造装置は、原料液を空間中で電気的に延伸させてナノファイバを製造するナノファイバ製造装置であって、原料液を貯留する貯留槽と、前記貯留槽中に貯留される原料液に波を発生させる造波装置と、貯留槽中に貯留される原料液に電荷を付与して帯電させる帯電装置とを備えることを特徴とする。
【0010】
これにより、帯電した原料液に波が発生すると、波の山の頂上部分に電荷が集まる。原料液に対し離れた位置に配置される帯電電極と前記電荷との間に引力が発生する。当該引力により前記電荷と共に原料液が帯電電極の方向に引きつけられる。帯電電極に向かって飛行中の原料液から溶媒が蒸発し、電気的な延伸現象が発生してナノファイバが製造される。
【0011】
以上のように、非常に簡単な構成でナノファイバを製造することが可能である。しかも、発生する波によっては多数の波の山が発生し、当該複数の山の頂上からそれぞれ原料液が帯電電極に向かって飛行し、電気的延伸現象によりナノファイバが製造される、従ってナノファイバの生産効率を向上させることができる。また、貯留槽を大きくすることにより、簡単にナノファイバの製造量を増加させることも可能である。
【0012】
また、発生する波の形状は、比較的均一となるため、波の頂上から製造されるナノファイバの状態も均一となり、高い品質のナノファイバを製造することが可能となる。
【0013】
また、前記造波装置は、所定の周波数で振動する振動体を有する振動発生手段を備えることが好ましい。
【0014】
これにより、原料液の波を安定して発生させることができる。また、波の高さや、原料液面に発生する波の数などを調整することも可能となる。
【0015】
また、前記振動発生手段は、前記貯留槽を振動させるものでも良い。
【0016】
これにより、非常に簡単な構成で原料液に波を発生させ、ナノファイバを製造することが可能となる。
【0017】
前記造波装置は、さらに、前記振動発生手段の振動体に接続され、貯留槽の内方に配置される造波体を備えても良い。
【0018】
これにより、原料液に発生させる波の形状や数などをよりきめ細かに制御することが可能となる。
【0019】
特に、前記造波装置は、複数の前記振動発生手段と、複数の前記造波体とを備え、前記造波体は、異なる方向の波を発生させることが好ましい。
【0020】
これにより、三角波などの波の形状が錐状となる波を発生させることができ、かつ、当該波を制御することも可能となる。従って、より品質が高く生産効率が高いナノファイバ製造装置を提供することが可能となる。
【0021】
さらに、原料液を前記貯留槽に供給する供給手段と、前記貯留槽から溢れ出る原料液を回収する回収手段とを備えてもよい。
【0022】
これにより、原料液の液面を一定の状態に保つことができ、安定してナノファイバを製造することが可能となる。
【0023】
また、上記目的を達成するために、本願発明に係るナノファイバの製造方法は、原料液を空間中で電気的に延伸させてナノファイバを製造するナノファイバ製造方法であって、貯留槽中に貯留される原料液に波を発生させる造波工程と、貯留槽中に貯留される原料液に接触する供給電極と、原料液の液面と対向する位置に配置される帯電電極とに電圧を印加し、原料液に電荷を付与して帯電させる帯電工程とを含むことを特徴とする。
【0024】
これにより、帯電した原料液に波が発生し、波の山の頂上部分に電荷が集まる。原料液に対し離れた位置に配置される帯電電極と前記電荷との間に引力が発生する。当該引力により前記電荷と共に原料液が帯電電極の方向に引きつけられる。帯電電極に向かって飛行中の原料液から溶媒が蒸発し、電気的な延伸が発生してナノファイバが製造される。
【0025】
以上のように、非常に簡単な方法でナノファイバを製造することが可能である。しかも、発生する波によっては多数の波の山が発生し、当該複数の山の頂上からそれぞれ原料液が帯電電極に向かって飛行し、電気的延伸現象によりナノファイバが製造される。従ってナノファイバの生産効率を向上させることができる。また、貯留槽を大きくすることにより、簡単にナノファイバの製造量を増加させることも可能である。
【0026】
また、発生する波の形状は比較的均一となるため、波の頂上から製造されるナノファイバの状態も均一となり、高い品質のナノファイバを製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0027】
本願発明によれば、簡単な構成で多量の原料液を空間中に流出させることができ、多くのナノファイバを一度に製造することができ、ナノファイバの生産効率を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本願発明に係る実施の形態を説明する。
【0029】
(実施の形態1)
図1は、本願発明の実施の形態であるナノファイバ製造装置を模式的に示す斜視図である。
【0030】
図2は、ナノファイバ製造装置を模式的に示す断面図である。
【0031】
これらの図に示すように、ナノファイバ製造装置100は、貯留槽110と、造波装置120と、供給電極130と、帯電電極140と、帯電電源150とを備えている。
【0032】
ここで、ナノファイバを製造するための原料液については、原料液300と記し、製造されたナノファイバについてはナノファイバ301と記すが、製造に際しては原料液300が電気的に延伸しながらナノファイバ301に変化していくため、原料液300とナノファイバ301との境界は曖昧であり、明確に区別できるものではない。
【0033】
貯留槽110は、原料液300を貯留するための容器である。本実施の形態では、貯留槽110は、上部が開放された立方体の箱形状である。貯留槽110は、原料液300を内方に供給する供給手段111が接続され、貯留槽110から溢れ出る原料液300を回収する回収手段112を備えている。
【0034】
なお、貯留槽110は、比較的深い態様として図示しているが、これは便宜上の物であり、深さの浅い貯留槽110でもかまわない。浅い貯留槽110の場合、貯留する原料液300に発生する波の形が比較的尖り、波の頂上部分に電荷が集中する傾向にある。
【0035】
供給手段111は、貯留槽110に原料液300を供給するための装置である。本実施の形態の場合、供給手段111は、原料液300を蓄えておくタンク114(図2参照)と、タンク114から原料液300を貯留槽110に向けて圧送することのできるポンプ113とを備えている。また、ポンプ113は、回収手段112から原料液300を吸引し、貯留槽110に当該原料液300を再度圧送できる。また、ポンプ113は、回収手段112から吸引した原料液300の量によって、タンク114から吸引する原料液300の量を調整し、常に一定の吐出量を確保することができるものとなっている。
【0036】
回収手段112は、貯留槽110の上端縁から溢れ出る原料液300を回収する物である。本実施の形態の場合、回収手段112は、貯留槽110の周壁外面に取り付けられる樋である。回収手段112は、所定の部分に向かって下るように傾斜しており、貯留槽110から溢れ出た原料液300が所定部分に集まるものとなっている。また、原料液300が集まる所定の部分には、ポンプ113につながる回収路が設けられている。以上により、ポンプ113は、回収手段112の一部としても機能している。
【0037】
造波装置120は、貯留槽中に貯留される原料液に波を発生させる装置である。本実施の形態の場合、造波装置120は、複数方向の波を発生させるため、二つ設けられており、それぞれの造波装置120は、振動発生手段121と、造波体122とを備えている。
【0038】
なお、造波装置120は、本実施の形態に限定されるものではなく、貯留槽110に貯留される原料液300の液面に波を立たせることができる装置であればよい。例えば、造波装置120は、液面に作用する気体流を発生させる気体流発生手段を備え、当該気体流により原料液300を波立たせるものも良い。
【0039】
振動発生手段121は、所定の周波数で振動する振動体123を備えた装置である。また、振動発生手段121が備える振動源としては、例えば、超音波振動子、静電型振動子、圧電振動子、磁歪振動子、電歪振動子、電磁型振動子等を例示することができる。本実施の形態の場合、振動発生手段121は、前記振動源の振動の振幅を機械的に増幅し、比較的大きなストロークで振動体123を振動発生手段121の本体に対して出没できるようになっている。
【0040】
造波体122は、振動発生手段121の振動体123に接続されると共に、貯留槽110の内方に配置される部材である。造波体122は、直接原料液300と接触し、振動体123と共に振動することで、原料液300に波を立たせる部材である。本実施の形態の場合、二つの造波体122は、いずれも原料液300中に浸漬された状態で配置される細長く薄い板状の部材である。一方の造波体122は、幅方向の波が発生するように幅方向の一端部に奥行き方向のほぼ全体にわたって配置されている。他方の造波体122は、奥行き方向の波が発生するように奥行き方向の一端部に幅方向のほぼ全体にわたって配置されている。
【0041】
なお、造波体122の形状は、本実施の形態に限定されるわけではない。例えば、多数の貫通孔を設けた造波体122や、円柱状の造波体122など、任意の形状を例示できる。
【0042】
供給電極130は、貯留槽110に貯留される原料液300と接触し、原料液300に電荷を供給して帯電させる電極である。本実施の形態の場合、供給電極130は、貯留槽110の底部のほぼ全体にわたって配置される板状金属製の部材である。
【0043】
帯電電極140は、貯留槽110に貯留される原料液300から離れた位置に配置される電極である。帯電電極140は、貯留槽110の原料液300の液面の上方に位置している。帯電電極140は、供給電極130に対して所定の電圧が印加されることで、供給電極130に電荷を誘導する機能を備えている。本実施の形態の場合、帯電電極140は、原料液300の液面と対向する位置に液面と平行に配置される板状の部材である。帯電電極140は、後述の帯電電源150によりアースに対し低い電圧が印加されている。従って、接地されている供給電極130に正の電荷が誘導される。
【0044】
帯電電源150は、供給電極130に対し帯電電極140に高い電圧を印加することができ、また、供給電極130に対し帯電電極140に低い電圧を印加することができる電源である。本願発明の場合、帯電電源150は、直流電源が採用されている。また、帯電電源150が帯電電極140に印加する電圧は、供給電極130に対し10KV以上、200KV以下の範囲の値から設定されるのが好適である。
【0045】
なお、供給電極130と帯電電極140との間の空間中の電界強度は、1KV/cm以上であることが好ましく、当該電界強度となるように、供給電極130と帯電電極140との距離や、供給電極130が原料液300に浸漬されている深さ、印加する電圧を調整することが好ましい。
【0046】
また、本実施の形態の場合、供給電極130側を接地したが、帯電電極140側を接地しても良く、いずれも接地しなくても良い。
【0047】
また、帯電電極140に正の電圧を印加してもかまわない。特に、原料液300が正に帯電しやすい場合には、帯電電極140に負の電圧を印加し、原料液300が負に帯電しやすい場合には、帯電電極140に正の電圧を印加することが好ましい。これにより、原料液300の電荷密度が向上して容易に電気的な延伸を発生させることが可能となる。容易に静電延伸現象が発生すると、容易にナノファイバ301を大量に製造することができナノファイバの生産性を向上させることが可能となる。
【0048】
また、本実施の形態では供給電極130を原料液300の中に浸漬した状態で配置したが、貯留槽110の全体や一部を導体で形成し、貯留槽110を供給電極130として機能させても良い。
【0049】
さらに、ナノファイバ製造装置100は、空間中で製造されたナノファイバ301を堆積させて収集する被堆積部材161と、堆積したナノファイバを被堆積部材161と共に移送する移送手段162と、被堆積部材161を供給する供給ロール163とを収集手段160として備えている。
【0050】
被堆積部材161は、帯電電極140に誘引されて飛来するナノファイバ301の堆積対象となる部材である。本実施の形態の場合、被堆積部材161は、堆積したナノファイバ301と容易に分離可能な材質で構成された薄く柔軟性のある長尺のシート状の部材である。具体的に被堆積部材161としては、アラミド繊維からなる長尺の布を例示することができる。さらに、被堆積部材161の表面にテフロン(登録商標)コートを行うと、堆積したナノファイバ301を被堆積部材161から剥ぎ取る際の剥離性が向上するため好ましい。また、被堆積部材161は、ロール状に巻き付けられた状態で供給ロール163から供給されるものとなっている。
【0051】
移送手段162は、被堆積部材161を移送することができる装置である。本実施の形態の場合、長尺の被堆積部材161を巻き取りながら供給ロール163から引き出し、堆積するナノファイバ301と共に被堆積部材161を移送するものとなっている。移送手段162は、不織布状に堆積しているナノファイバ301を被堆積部材161とともに巻き取ることができるものとなっている。
【0052】
なお、供給電極130は、実施形態においては、貯留槽110の底面付近に配置しているが、これに限定するものではなく、原料液300が貯留されている表面の近傍近くの原料液内に配置してもよい。特に、原料液が貯留されている貯留槽の表面に発生する波に影響を与えなければ、前記供給電極130の配置は、原料液300内の液面近傍に配置するのが、電界強度が強くなり好適である。
【0053】
次に、上記構成のナノファイバ製造装置100を用いたナノファイバ301の製造方法を説明する。
【0054】
図3は、ナノファイバの製造工程を説明するためにナノファイバ製造装置を概略的に示す断面図である。
【0055】
まず、供給手段111により、原料液300を貯留槽110に供給する(原料液供給工程)。原料液300の供給は、原料液300が貯留槽110から常に溢れ出る状態とする。溢れ出た原料液300は、回収手段112で回収され、再び貯留槽110に供給される(循環工程)。このように、常に原料液300を貯留槽110に供給し、貯留槽110から原料液300を溢れ出させることで、原料液300の液面のレベルを一定とすることができる。従って、原料液300の液面に発生する波も、帯電電極140との位置関係が一定となり、安定した状態でナノファイバ301を製造することが可能となる。
【0056】
具体的には、使用した原料液300は、溶媒を水とし、水にPVA(ポリビニルアルコール)を10重量%で溶解したものを用いた。この原料液300から得られるナノファイバ301は、PVAで構成される繊維である。
【0057】
次に、造波装置120を稼動させ、原料液300に波を発生させる(造波工程)。具体的には、振動発生手段121により所定の周波数で振動体123を出没させ、振動体123に固定された造波体122を振動させる。ここで、造波体122の振動周波数は、共振周波数、または、その近傍の周波数が好ましい。特に、原料液300は、粘度が高く、大きな振動を発生させる必要があり、このような条件で造波体122を振動させることが望ましい。
【0058】
図4は、振動体を所定の周波数で振動させる機構及び機能を示す図である。
【0059】
同図に示すように、ナノファイバ製造装置100は、さらに、波状態検出手段124と、制御装置125とを備えている。
【0060】
波状態検出手段124は、貯留槽110の内方で発生する原料液300の波の状態を検出する装置である。例えば、貯留槽110の振動を振動センサで検出し、貯留槽110の振動状態を波の状態として検出する装置や、原料液300にフロートを浮かべ、フロートの上下動を検出することで、波の状態を検出する装置を例示することができる。本実施の形態の場合、原料液300の表面をカメラで撮像し、得られた画像を解析することで波の状態を検出する装置が採用されている。また、変位センサを貯留槽110の側面に配置して、側面の振動量を測定してもよい。
【0061】
制御装置125は、波状態検出手段124から取得する情報に基づき、振動発生手段121を制御し、原料液300に所望の波が発生するように制御する装置である。具体的に例えば、振動体123がインバーターで動作する電磁石の場合、波状態検出手段124から得られる情報が、「波の山が一定方向に移動している」であった場合、振動体123の振動周波数を増加させる。次に、波状態検出手段124から得られる情報が、「波の山が一定方向に移動しており、移動速度が前の移動速度より速い」であった場合、振動体123の振動周波数を減少させる。このようなフィードバック制御を行い、「波の山が移動していない」、すなわち定常波が発生している状態を維持できるように、振動発生手段121を制御する。そして、定常波が発生している状態の振動体123の振動周波数を、共振周波数としている。
【0062】
図5は、波の状態と他の装置との関係を模式的に示す断面図である。
【0063】
本実施の形態の場合、造波装置120は、異なる二つの造波体122で直角に交差する波を発生させ、原料液300の表面に三角波を形成させている。この三角波とは、原料液300の液面に錐形状で突出する突出部302が多数存在する波である。突出部302の頂点を含む垂直な面で原料液300を切断した場合、図5に示す状態となる。
【0064】
次に、帯電電源150により供給電極130と帯電電極140との間を所定の電圧とする(帯電工程)。本実施の形態の場合、電圧を60kvとし、供給電極130を接地し、帯電電極140を負の極性にした。
【0065】
以上により、原料液300の突出部302、つまり、波の頂上には、正の電荷が集中することとなる。そして、正の電荷は、負の極性である帯電電極140に引きつけられ、原料液300と共に、帯電電極140の方向に向かって空間中を飛行する。原料液300は、飛行中に溶媒が蒸発し、正の電荷同士の反発力が原料液300の表面張力より勝るようになる。この時点で飛行中の原料液300はクーロン力により爆発的に延伸し(静電延伸現象という。)、ナノファイバ301が製造される。そして、2次、3次と幾何級数的に延伸しつつ空間中を飛行し、被堆積部材161に到達する。本願実施形態においては、帯電電極140は、前記波の発生する箇所の上方に位置している。しかしながら、それに限定するものではなく、生成された波の頂上に正の電荷が集中し、その電荷を有した原料液300が所定の場所離れた位置に配置された帯電電極140の方に、飛行するように帯電電極140を配置すればよい。
【0066】
被堆積部材161には、多数のナノファイバ301が堆積し(堆積工程)、不織布が形成される。また、被堆積部材161は、移送手段162によりゆっくりと移送され、長尺帯状の不織布として回収される。
【0067】
以上のような構成のナノファイバ製造装置100を用いてナノファイバ301を製造することによって、ナノファイバ301を簡単な構成で製造することが可能となる。また、波の状態を制御することにより、多くのナノファイバを一度に発生させることができ、高い効率でナノファイバ301を製造し収集することができる。また、発生させる波の形状を均質にすることで、製造されるナノファイバ全体にわたり、品質を均一化することが可能となる。従って、均質なナノファイバを高い生産効率で製造することが可能となる。
【0068】
なお、本実施の形態では、振動体123の振動周波数を共振周波数とし、原料液300に定常波を発生させたが、本願発明はこれに限定されるわけではない。例えば、振動体123の振動周波数を共振周波数より若干異なる周波数としても良い。この場合、原料液300に発生する波の頂上が徐々に移動することとなる。
【0069】
なお、原料液300は、溶媒を使用して高分子物質を溶解させて生成させるが、本願実施形態のように、溶媒である水が90重量%で、PVAが10重量%の混合比である場合には、原料液300は、粘性が高く、貯留槽110の原料液300の表面に波を起こす為には、原料液300を振動させる為の相当な振幅の変位が必要であり、貯留槽110を含む装置の共振周波数と、振動体123の振動周波数とが一致するように、もしくは、共振周波数の近傍で、制御を行えば、貯留槽110の中の原料液300に大きな変位を与えることができ、安定した波を原料液300の表面に起こすことができる。
【0070】
本願実施形態においては、振動体123の振動周波数を、250Hzで実施し、原料液300の表面には、その周波数に依存した波が発生し、その三角波の高さは、大きいもので、数百μmの高さに達し、安定してナノファイバが生成することができた。本願実施形態においては、貯留槽110を含む装置の共振周波数は、振動体123の振動周波数ではないが、十分に原料液300の液面は振動し、その効果は十分に得られた。また、貯留槽110を含む装置の共振周波数を、振動体123の振動周波数近傍に設定することで、更に大きな波が得られる。
【0071】
ここで、ナノファイバ301を構成する高分子物質としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ−m−フェニレンテレフタレート、ポリ−p−フェニレンイソフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン−アクリレート共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリル−メタクリレート共重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステルカーボネート、ポリアミド、アラミド、ポリイミド、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ酢酸ビニル、ポリペプチド等およびこれらの共重合体を例示できる。また、上記より選ばれる一種でもよく、また、複数種類が混在してもかまわない。なお、上記は例示であり、本願発明は上記高分子物質に限定されるものではない。
【0072】
原料液300に使用される溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジベンジルアルコール、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、メチル−n−プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、アセトン、ヘキサフルオロアセトン、フェノール、ギ酸、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、塩化メチル、塩化エチル、塩化メチレン、クロロホルム、o−クロロトルエン、p−クロロトルエン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジクロロプロパン、ジブロモエタン、ジブロモプロパン、臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピル、酢酸、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、シクロペンタン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホオキシド、ピリジン、水等を例示することができる。また、上記より選ばれる一種でもよく、また、複数種類が混在してもかまわない。なお、上記は例示であり、本願発明は上記溶媒に限定されるものではない。
【0073】
さらに、原料液300に骨材や可塑剤などの添加剤を添加してもよい。当該添加剤としては、酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、珪化物、弗化物、硫化物等を挙げることができるが、耐熱性、加工性などの観点から酸化物を用いることが好ましい。当該酸化物としては、Al23、SiO2、TiO2、Li2O、Na2O、MgO、CaO、SrO、BaO、B23、P25、SnO2、ZrO2、K2O、Cs2O、ZnO、Sb23、As23、CeO2、V25、Cr23、MnO、Fe23、CoO、NiO、Y23、Lu23、Yb23、HfO2、Nb25等を例示することができる。また、上記より選ばれる一種でもよく、また、複数種類が混在してもかまわない。なお、上記は例示であり、本願発明は上記添加剤に限定されるものではない。
【0074】
溶媒と高分子物質との混合比率は、溶媒と高分子物質により異なるが、溶媒量は、約60重量%から98重量%の間が望ましい。
【0075】
(実施の形態2)
図6は、本願発明の実施の形態であるナノファイバ製造装置を模式的に示す斜視図である。
【0076】
同図に示すように、ナノファイバ製造装置100は、貯留槽110と、造波装置120と、供給電極130と、帯電電極140と、帯電電源150とを備えている。
【0077】
貯留槽110は、原料液300を貯留するための容器である。本実施の形態では、貯留槽110は、金属で構成されており、供給電極130としても機能している。また、貯留槽110は、供給手段111が接続され、回収手段112が取り付けられている。
【0078】
造波装置120は、貯留槽110中に貯留される原料液に波を発生させる装置である。本実施の形態の場合、造波装置120は、所定のばね定数を有する支持体126を介して、貯留槽110の下部の四隅に取り付けられている。また、造波装置120は、基台127に固定されている。造波装置120は、上下方向に支持体126を振動させることができるものとなっている。造波装置120は、振動周波数を変更することが可能であり、図示しない制御装置により、振動周波数が個々に制御されている。
【0079】
以上のような構成で、貯留槽110に貯留される原料液300に波を発生させる。支持体126は、原料液300の種類によりばね定数が異なる別種類の支持体126に取り替えることも可能である。例えば、支持体126を板ばねとすることも可能である。これにより、全体の固有振動数を変化させることができ、原料液300の種類に適した固有振動数を設定することが可能となる。そして、造波装置120を共振周波数で振動させることで、振幅の大きな波を原料液300の液面に形成することが可能となる。
【0080】
また、造波装置120が発生させる振動周波数を個々に制御することで、原料液300の液面に複雑な波紋を形成することが可能となる。
【0081】
なお、本願発明は、上記実施の形態に限定されるわけではない。例えば、造波装置120は直接貯留槽110を振動させるものでもかまわない。また、貯留槽110振動させる方向も、上下方向ばかりでなく、奥行き方向や左右方向に振動させてもかまわない。また、これらの振動方向を組み合わせる物でもかまわない。
【0082】
また、原料液300中に浸漬される造波体122と原料液300の液面上方で振動する振動体123とを棒体で固定しているが、振動体123が貯留槽110の外壁を貫通するものとし、振動体123に造波体122を取り付けるものとしても良い。この場合、貯留槽110と振動体123との隙間は、振動体123が振動可能であり、かつ、原料液300が漏れ出さないように、Oリングなどを配置する。
【0083】
なお、本願実施形態で述べた波の発生状態は、振動体123の振動数に依存している。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本願発明は、エレクトロスピニング法によるナノファイバの製造や、当該ナノファイバを堆積させた不織布等の製造に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本願発明の実施の形態であるナノファイバ製造装置を模式的に示す斜視図である。
【図2】ナノファイバ製造装置を模式的に示す断面図である。
【図3】ナノファイバの製造工程を説明するためにナノファイバ製造装置を概略的に示す断面図である。
【図4】振動体を所定の周波数で振動させる機構及び機能を示す図である。
【図5】波の状態と他の装置との関係を模式的に示す断面図である。
【図6】本願発明の実施の形態であるナノファイバ製造装置を模式的に示す斜視図である。
【符号の説明】
【0086】
100 ナノファイバ製造装置
110 貯留槽
111 供給手段
112 回収手段
113 ポンプ
114 タンク
120 造波装置
121 振動発生手段
122 造波体
123 振動体
124 波状態検出手段
125 制御装置
126 支持体
127 基台
130 供給電極
140 帯電電極
150 帯電電源
160 収集手段
161 被堆積部材
162 移送手段
163 供給ロール
300 原料液
301 ナノファイバ
302 突出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料液を空間中で電気的に延伸させてナノファイバを製造するナノファイバ製造装置であって、
原料液を貯留する貯留槽と、
前記貯留槽中に貯留される原料液に波を発生させる造波装置と、
前記貯留槽に貯留される原料液と接触し、原料液に電荷を供給する供給電極と、
前記貯留槽に貯留される原料液から離れた位置に配置される帯電電極と、
前記供給電極と前記帯電電極とが所定の電圧となるように電圧を印加する帯電電源と
を備えるナノファイバ製造装置。
【請求項2】
前記造波装置は、所定の周波数で振動する振動体を有する振動発生手段を備える
請求項1に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項3】
前記振動発生手段は、前記貯留槽を振動させる請求項2に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項4】
前記造波装置は、さらに、
前記振動発生手段の振動体に接続され、貯留槽の内方に配置される造波体
を備える請求項2に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項5】
前記造波装置は、複数の前記振動発生手段と、複数の前記造波体とを備え、
前記造波体は異なる方向の波を発生させる
請求項4に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項6】
前記振動発生手段は、原料液に発生する波が定常波となるように、共振周波数、または、共振周波数の近傍の周波数で振動を発生させる請求項2に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項7】
さらに、
原料液を前記貯留槽に供給する供給手段と、
前記貯留槽から溢れ出る原料液を回収する回収手段と
を備える請求項1に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項8】
さらに、
製造されたナノファイバが堆積する被堆積部材と、
堆積したナノファイバを前記被堆積部材と共に移送する移送手段と
を備える請求項1に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項9】
原料液を空間中で電気的に延伸させてナノファイバを製造するナノファイバ製造方法であって、
貯留槽中に貯留される原料液に波を発生させる造波工程と、
貯留槽中に貯留される原料液に接触する供給電極と、原料液の液面と対向する位置に配置される帯電電極とに電圧を印加し、原料液に電荷を付与して帯電させる帯電工程と
を含むナノファイバ製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−90484(P2010−90484A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−258292(P2008−258292)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的部材産業創出プログラム/新産業創造高度部材基盤技術開発/先端機能発現型新構造繊維部材基盤技術の開発」にかかる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】