ナノポーラス体及びその製造方法
【課題】
高規則性であって、小さな孔径分布の微細孔を有する略球形のナノポーラス体、及びかかるナノポーラス体を効率よく低コストで製造する製造する方法であって、得られるナノポーラス体の微細孔の平均孔径を幅広い範囲で選択可能な方法を提供する。
【解決手段】
無機材料からなる骨格構造中にナノメータレベルの孔径を有する多数の微細孔が形成された略球形のナノポーラス体、並びに係るナノポーラス体の製造方法であって(a) 金属アルコキシド及び/又はその重縮合物と、界面活性剤と、溶媒とを含有する反応溶液中で、前記金属アルコキシド及び/又は前記重縮合物を加水分解し、加水分解物溶液を得る工程、及び(b) 一定方向に流れる50〜170℃のガスに前記加水分解物溶液を噴霧することによりその溶媒を揮発させる工程を含み、前記加水分解物溶液が金属塩を含有するようにした後で金属塩含有加水分解物溶液を噴霧する方法。
高規則性であって、小さな孔径分布の微細孔を有する略球形のナノポーラス体、及びかかるナノポーラス体を効率よく低コストで製造する製造する方法であって、得られるナノポーラス体の微細孔の平均孔径を幅広い範囲で選択可能な方法を提供する。
【解決手段】
無機材料からなる骨格構造中にナノメータレベルの孔径を有する多数の微細孔が形成された略球形のナノポーラス体、並びに係るナノポーラス体の製造方法であって(a) 金属アルコキシド及び/又はその重縮合物と、界面活性剤と、溶媒とを含有する反応溶液中で、前記金属アルコキシド及び/又は前記重縮合物を加水分解し、加水分解物溶液を得る工程、及び(b) 一定方向に流れる50〜170℃のガスに前記加水分解物溶液を噴霧することによりその溶媒を揮発させる工程を含み、前記加水分解物溶液が金属塩を含有するようにした後で金属塩含有加水分解物溶液を噴霧する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノメータレベルの微細孔を有し、吸着材、分離膜、分離反応膜、触媒及び触媒担体として用いることができるナノポーラス体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノメータレベルの均一な孔径を有する微細孔が規則的に配列した構造を有する多孔体は、優れたガス吸着性を有し、各種の物質の分離機能も有することが明らかになってきた。このため、このような多孔体を製造する種々の方法が提案されている。
【0003】
例えば「J. Am. Chem. Soc., 114, 10834-10843 (1992)」(非特許文献1)は、アルキルトリメチルアンモニウムからなる界面活性剤の集合体をテンプレート(鋳型)とし、沈降性シリカ、コロイダルシリカ、水ガラス、アルコキシシラン等を原料として、水熱合成法により無機材料−界面活性剤の三次元高規則性複合体を形成し、その複合体を自然乾燥した後、焼成してその中に含まれる有機物を除去することにより無機多孔体を製造する方法を記載している。界面活性剤の濃度は臨界ミセル濃度より高く液晶相の生成濃度より低い濃度、例えば25重量%とされており、溶液のpHは10〜13とアルカリ側であった。また標準的な反応温度は100℃以上と高く、反応には最短でも約2日間を要した。
【0004】
界面活性剤を用いる多孔体の製造には、このような水熱合成法が主に用いられてきた。水熱合成法により得られた多孔体は、その他の製造方法により得られる多孔体に比べて著しく均一な孔径を有する微細孔が規則的に配列した構造を有する。しかしながら、十分なガス吸着性を有する多孔体を得るためには、さらに狭い孔径分布及び高い三次元規則性を有する必要があることが分かった。また、ガス吸着性の観点から、大きな表面積を有する球形の多孔体が望まれているが、水熱合成によると球形の多孔体を得られないという問題もある。さらに水熱合成に使用した反応液中には原料であるシリカや界面活性剤等が残留するため、正確に計量した材料を反応液に仕込んでも、所望の成分比を有する多孔体を得ることができないという問題がある。その上、水熱合成法は80℃以上の高温に長時間保持する必要があってコスト高である上、生成物を固液分離手段により分離し、洗浄することが必須であるので操作が煩雑であるという問題もある。
【0005】
米国特許5922299号(特許文献1)には、シリカのプレカーサー水溶液と、アンモニウムイオンを有する界面活性剤と、酸とを混合し、界面活性剤とシリカとを規則的に配列させた後、シリカプレカーサー溶液の溶媒を揮発する工程を有するメソポーラスシリカの製造方法が記載されている。溶媒を揮発するには、例えばスプレードライ装置の水冷ノズルからプレカーサー溶液をスプレーし、発生した水滴を加熱空気中で流下させる。溶媒の揮発によって得られた不揮発性の残留物を焼成すると、メソポーラスシリカを得ることができる。
【0006】
しかし特許文献1に記載の方法よってメソポーラスシリカを作製する場合、生成物の空孔率ばかりでなく生成物の規則性も、原料として用いる界面活性剤/シリカプレカーサーのモル比に大きく依存しまうという問題がある。例えば大きな空孔率を有するメソポーラスシリカを得ようとすると、空孔構造の規則性が低く、細孔径分布は大きくなってしまう。このようなナノポーラスシリカは吸着剤や分離材として好ましいとは言えない。また平均細孔径4nm以下であって壁厚1nm前後であるメソポーラスシリカしか作製することができず、得られるメソポーラスシリカが非常に限定的であるという問題もある。
【0007】
【特許文献1】米国特許5922299号公報
【非特許文献1】ベック(J. S. Beck)ら、「液晶テンプレートを用いて作製した新規なメソポーラス分子篩」(A new family of mesoporous molecular sieves prepared with liquid crystal templates)、J. Am. Chem. Soc. 114, 10834-10843 (1992)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって本発明の目的は、高規則性であって、小さな孔径分布の微細孔を有する略球形のナノポーラス体、及びかかるナノポーラス体を効率よく低コストで製造する方法であって、得られるナノポーラス体の微細孔の平均孔径を幅広い範囲で選択可能な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、(a) 金属アルコキシド及び/又はその重縮合物と、界面活性剤と、溶媒とを含有する溶液を反応溶液中で、金属アルコキシド及び/又は前記重縮合物を加水分解した後、(b) 得られた加水分解物溶液を一定方向に流れる50〜170℃のガスにスプレードライする際に、加水分解物溶液が金属塩を含有するようにしておくと、略球形のナノポーラス体が効率よく生成することを発見し、本発明に想到した。
【0010】
すなわち、本発明のナノポーラス体の製造方法は、無機材料からなる骨格構造中にナノメータレベルの孔径を有する微細孔が形成された略球形のナノポーラス体を製造するもので、(a) 金属アルコキシド及び/又はその重縮合物と、界面活性剤と、溶媒とを含有する反応溶液中で、前記金属アルコキシド及び/又は前記重縮合物を加水分解し、加水分解物溶液を得る工程、及び(b) 一定方向に流れる50〜170℃のガスに前記加水分解物溶液を噴霧することによりその溶媒を揮発させる工程を含み、前記加水分解物溶液が金属塩を含有するようにした後で金属塩含有加水分解物溶液を噴霧することを特徴とする。
【0011】
前記加水分解物溶液の溶媒の少なくとも一部を揮発させ、得られた濃縮液を不活性ガスと共に噴霧するのが好ましい。水溶性であって、170℃以下の沸点を有する液体を反応溶液及び加水分解物溶液の溶媒とするのが好ましい。より好ましい溶媒は、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、i-プロピルアルコール、ヘキサノール、n-ブチルアルコール、t-ブチルアルコール、i-ブチルアルコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、4-メチルジオキソラン、アセトニトリル、2-メチルテトラヒドロフラン、2-エトキシエタノール、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテル及び2-メトキシ-1-プロピルアセテートからなる群より選ばれた少なくとも一種である。
【0012】
前記界面活性剤としては、ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド重縮合物及び/又はモノアルキル−ポリエチレンオキサイド重縮合物が好ましい。
【0013】
前記金属アルコキシド及び/又はその重縮合物としてはSi、Al、Ti、Zr及びGeからなる群より選ばれた少なくとも一種の金属のアルコキシド及び/又はアルコキシドの重縮合物を用いるのが好ましく、アルコキシシラン及び/又はその重縮合物を用いるのがより好ましく、テトラアルコキシシランを用いるのが特に好ましい。
【0014】
前記反応溶液のpHを1.0〜5にするのが好ましい。前記金属塩としてはMn、Co、Ni、Fe、Cr、Mg、V、Sn、W、Ta、Nb、Hf、Pt、Pd、Ru、Rh及びIrからなる群より選択された少なくとも一種の塩を用いるのが好ましい。
【0015】
本発明のナノポーラス体は、無機材料からなる骨格構造中にナノメータレベルの孔径を有する多数の微細孔が形成された略球形のもので、0.5〜50μmの平均粒径及び300 m2以上のBET表面積を有し、前記微細孔の隔壁の厚さが0.5〜3 nmであり、窒素吸着等温線から求めた孔径分布のピークにおける孔径が2.5〜10 nmであり、X線回折パターンにおける少なくとも一つのピークが1.5 nm以上の面間隔を有し、最大ピークの半値幅が2°以下であることを特徴とする。
【0016】
ナノポーラス体は下記式(1)
M1aM2bOh ・・・(1)
(ただし、aは1以下の正の数を示し、bは0以上1未満の数を示し、a + b = 1であり、hは1〜2.5の数を示し、M1はSi、Al、Ti、Zr及びGeからなる群より選ばれた少なくとも一種を示し、M2はMn、Co、Ni、Fe、Cr、Mg、V、Sn、W、Ta、Nb、Hf、Pt、Pd、Ru、Rh及びIrからなる群より選ばれた少なくとも一種を示す。)により表されるのが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のナノポーラス体の製造方法では、金属アルコキシド及び/又はその重縮合物、、界面活性剤並びに酸を含有する溶液中で金属アルコキシド及び/又はその重縮合物を加水分解させ、得られる加水分解物溶液が金属塩を含有した状態でスプレードライする。この製造方法により、略球形のナノポーラス体を得ることができる。スプレードライに先立って、加水分解物溶液に強制的な流れを起こしながら減圧状態にすることにより加水分解物溶液をある程度濃縮しておくのが好ましい。加水分解物溶液を濃縮しておくことにより、スプレードライ工程を低温で行うことができるので、三次元高規則性に優れたナノポーラス体を得ることができる。
【0018】
ナノポーラス体は略球からなる粉状又は粒状であるので、大きな表面積を有する上、粉状や粒状にするために造粒等の工程を要しない。このようなナノポーラス体は優れた吸着性を有し、水、ベンゼン等の有機物の吸着剤や、触媒の担体として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、発明を実施するための最良の形態により本発明を詳説する。
なお、特許請求の範囲及び本明細書中における「ナノポーラス体」とは、1cm3内に20以上の微細孔を有し、かかる微細孔の90%以上の直径が10-1〜103 nmの範囲内に属する多孔体材料である。したがって、「ナノメータレベルの孔径」とは10-1〜103 nmの範囲内の孔径を指称する。
【0020】
[1] ナノポーラス体の製造方法
本発明のナノポーラス体の製造方法では、無機材料の出発物質である金属アルコキシド及び/又はその重縮合物と、テンプレートとなる界面活性剤とを含有する加水分解用溶液を使用する。
【0021】
(1) 金属アルコキシド及び/又はその重縮合物
金属アルコキシド及び/又はその重縮合物はナノポーラス体の出発物質となる。好ましい金属アルコキシドの具体例として周期表のIVA及びIVB族の金属元素のアルコキシドが挙げられる。これらのうちより好ましいのは、ケイ素、アルミニウム、チタン及びジルコニウムからなる群から選ばれた少なくとも一種の金属のアルコキシドである。特にケイ素を主体とする金属のアルコキシド、例えばアルコキシシランや、アルコキシシランとケイ素以外の金属のアルコキシドとの混合物が好ましい。ケイ素主体の金属アルコキシドを出発物質とすると、優れた均一性を有するナノポーラス体が得られる。優れた均一性を有するナノポーラス体は、X線回折において顕著なピークを示す。ケイ素以外の金属のアルコキシドとしては、例えばアルコキシアルミニウムが挙げられる。
【0022】
アルコキシシランとしては、Si(OR1)4(ただし、R1は炭素数1〜6のアルキル基を表す。)により表されるテトラアルコキシシラン、及び下記式(2)
Si(OR2)c(R3)d(R4)e(R5)f ・・・(2)
(ただし、R2、R3、R4及びR5は炭素数1〜6のアルキル基を表し、cは1〜3の整数を示し、d、e及びfは0〜3の整数を示し、c + d + e + f = 4である。)により表されるアルキルアルコキシシラン、及びこれらの混合物が好ましい。テトラアルコキシシランのうち、特に好ましいのはテトラメトキシシリケート[Si(OCH3)4]、テトラエトキシシリケート[Si(OC2H5)4]である。アルキルアルコキシシランを出発物質とすると、アルキル基を有するメソポーラスシリカを作製可能である。
【0023】
アルコキシアルミニウムとしては、Al(OR6)3(ただし、R6は炭素数1〜6のアルキル基を表す。)により表されるものが好ましく、特にAl(OCH3)3、Al(OC2H5)3、Al(O-iso-C3H7)3、Al(OC4H9)3が好ましい。またジ-s-ブトキシアルミノキシトリエトキシシランも好ましい。
【0024】
アルコキシチタンとしては、Ti(OR7)4(ただし、R7は炭素数1〜6のアルキル基を表す。)により表されるものが好ましく、特にTi(OCH3)4、Ti(OC2H5)4、Ti(O-iso-C3H7)4、Ti(OC4H9)4が好ましい。
【0025】
ジルコニウムアルコキシドとしては、Zr(OR8)4(ただし、R8は炭素数1〜6のアルキル基を表す。)により表されるものが好ましく、特にZr(OCH3)4、Zr(OC2H5)4、Zr(O-iso-C3H7)4、Zr(OC4H9)4が好ましい。
【0026】
好ましい金属アルコキシド重縮合物の例として、下記式(3)
(C2H5O)3Si[Si(C2H5O)2]n(C2H5O) ・・・(3)
(ただし、nは1以上の整数を表す。)
により表されるエチルシリケート縮合物や、下記式(4)
(CH3O)3Si[Si(CH3O)2]m(CH3O) ・・・(4)
(ただし、mは1以上の整数を表す。)
により表されるメチルシリケート縮合物が挙げられる。市販の金属アルコキシドの重縮合物を出発物質として使用しても良い。市販品の例として、多摩化学工業株式会社製のシリケート40(エチルシリケート縮合物、平均n=5)、シリケート45(エチルシリケート縮合物、平均n=6)、シリケート48(エチルシリケート縮合物、平均n=7)、Mシリケート51(メチルシリケート縮合物、平均m=4)が挙げられる。
【0027】
(2) 界面活性剤
界面活性剤は金属アルコキシド及び/又はその重縮合物(以下、単に「金属アルコキシド等」という)とともに溶媒に溶解し、無機多孔体の微細孔を形成するためのテンプレート(鋳型)として作用する物質である。界面活性剤としてはアルコール、金属酸化物、及び金属アルコキシド等を含む溶液中で液晶構造を形成するものであれば良い。好ましい界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤が挙げられる。図1に示すように、溶液中で三次元高規則性をもって柱状に配列するものがより好ましい。
【0028】
ノニオン界面活性剤としてはポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド重縮合物、モノアルキル−ポリエチレンオキサイド重縮合物が好ましい。ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド重縮合物の具体例としては、BASF社製のプルロニック(登録商標)P123:(EtO)20(PrO)70(EtO)20(ただしEtOはエチレンオキサイドを示し、PrOはプロピレンオキサイドを示す。)、プルロニックP103、プルロニックP85が挙げられる。モノアルキル−ポリエチレンオキサイド重縮合物の具体例としてはピアス社製のBrij(登録商標)56:C16H33(EtO)10(ただしEOはエチレンオキサイドを示す。)が挙げられる。
【0029】
(3) 溶媒
加水分解用溶液の溶媒は、水溶性であるのが好ましい。溶媒が水溶性でないと、出発物質である金属アルコキシド及び/又はその重縮合物が水と混ざり難く、十分に加水分解することができないので好ましくない。また170℃以下の沸点を有するのが好ましい。170℃超の沸点を有する溶媒を用いると、50〜170℃で溶媒を揮発させ難すぎる。
【0030】
好ましい溶媒の例としてメタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、i-プロピルアルコール、ヘキサノール、n-ブチルアルコール、t-ブチルアルコール、i-ブチルアルコール、2-エトキシエタノール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、4-メチルジオキソラン、アセトニトリル、2-メチルテトラヒドロフラン、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテル及び2-メトキシ-1-プロピルアセテートが挙げられる。より好ましい溶媒は、一価で、かつ炭素数5以下のアルコールである。このようなアルコールを使用すると、界面活性剤が溶解し易い上、溶媒を効率よく揮発させることができる。特に好ましい溶媒の具体例としてメタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、i-プロピルアルコール、n-ブチルアルコールが挙げられる。これらのアルコールは優れた揮発性及び取り扱い性を有する上、安価である。
【0031】
水/溶媒のモル比は0.1〜10とするのが好ましく、0.2〜10とするのがより好ましい。水/溶媒のモル比が0.1未満であると、加水分解が不十分である。10超であると水の量が多過ぎるために界面活性剤が溶解し難く、溶液の均一性が低下し過ぎる。またスプレードライする際に、乾燥器内の温度を高めに設定しなければならないので好ましくない。水/溶媒の特に好ましいモル比は0.5〜5である。
【0032】
(4) 加水分解用溶液
(a) 加水分解用溶液の組成
加水分解用溶液の組成は、得られるナノポーラス体の微細孔の孔径及び三次元高規則性に大きな影響を与える。
【0033】
(i) 水/金属アルコキシド(又は水/金属アルコキシド重縮合物)のモル比
出発物質として金属アルコキシドを使用する場合、水/金属アルコキシドのモル比は1〜40とするのが好ましく、2〜20とするのがより好ましい。水/金属アルコキシドのモル比が40超であると、水が多過ぎるため、金属アルコキシドの加水分解反応が速過ぎ、溶媒の揮発に伴って界面活性剤が規則的に配列する前に金属酸化物が析出する。また1未満であると水が少な過ぎるため、加水分解物の重縮合反応が遅過ぎる。
【0034】
出発物質として金属アルコキシドの重縮合物を使用する場合、金属アルコキシド縮合物に含まれるモノマー単位の数に対する水のモル数の比率(水/金属アルコキシド縮合物のモノマー単位数)が、上述の水/金属アルコキシドの好ましいモル比と同じになるようにする。換言すると、金属アルコキシド縮合物の縮合数がnであるとき、水/金属アルコキシド縮合物のモル比は1/n〜40/nであるのが好ましく、2/n〜40/nであるのがより好ましい。
【0035】
(ii) 界面活性剤/溶媒のモル比
界面活性剤/溶媒の好ましいモル比は、使用する界面活性剤によって異なる。界面活性剤/溶媒のモル比が好ましい範囲の下限未満であると、界面活性剤が規則的に配列する前に金属アルコキシドの加水分解が進行し、三次元高規則性をもった微細孔が得られない。上限超であると、濃度が高過ぎて界面活性剤が溶液から析出する。
【0036】
アルキルポリエチレンオキサイド重縮合物を使用する場合、アルキルポリエチレンオキサイド重縮合物/溶媒のモル比は、0.002〜0.1にするのが好ましい。特に好ましいアルキルポリエチレンオキサイド重縮合物/溶媒のモル比の具体例を挙げると、界面活性剤としてBrij56を使用する場合には0.014であり、Brij30を使用する場合には0.05であり、Brij35を使用する場合には0.0043であり、Brij58を使用する場合には0.0046である。
【0037】
ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド重縮合物を使用する場合、ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド重縮合物/溶媒のモル比は、0.0005〜0.05にするのが好ましい。特に好ましいポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド重縮合物/溶媒のモル比の具体例を挙げると、界面活性剤としてプルロニックP123を使用する場合には0.002であり、プルロニックP103を使用する場合には0.0022であり、プルロニックP85を使用する場合には0.001である。
【0038】
(iii) 界面活性剤/金属アルコキシド又は界面活性剤/金属アルコキシド重縮合物のモル比
界面活性剤/金属アルコキシド及び界面活性剤/金属アルコキシド重縮合物の好ましいモル比は、使用する界面活性剤によって異なる。界面活性剤/金属アルコキシドのモル比が好ましい範囲の下限未満であると、界面活性剤の量が少な過ぎるため、十分な三次元高規則性構造を有するナノポーラス体が得られない。上限超であると、ナノポーラス体がヘキサゴナル構造を取らなくなり、三次元規則性が低下する。
【0039】
アルキルポリエチレンオキサイド重縮合物と金属アルコキシドとを使用する場合、アルキルポリエチレンオキサイド重縮合物/金属アルコキシドのモル比は、0.02〜1にするのが好ましい。特に好ましいアルキルポリエチレンオキサイド重縮合物/金属アルコキシドのモル比の具体例を挙げると、界面活性剤としてBrij56を使用する場合には0.14であり、Brij30を使用する場合には0.5であり、Brij35を使用する場合には0.043であり、Brij58を使用する場合には0.046である。
【0040】
ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド重縮合物と金属アルコキシドとを使用する場合、ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド重縮合物/金属アルコキシドのモル比は、0.005〜0.5にするのが好ましい。特に好ましいポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド重縮合物/溶媒のモル比の具体例を挙げると、界面活性剤としてプルロニックP123を使用する場合には0.02であり、プルロニックP103を使用する場合には0.0215であり、プルロニックP85を使用する場合には0.01である。
【0041】
出発物質として金属アルコキシドの重縮合物を使用する場合、金属アルコキシド縮合物に含まれるモノマー単位の数に対する界面活性剤のモル数の比率(界面活性剤/金属アルコキシド縮合物のモノマー単位数)が、界面活性剤/金属アルコキシドの好ましいモル比と同じになるようにする。すなわち、金属アルコキシド縮合物の平均縮合数がnのとき、アルキルポリエチレンオキサイド重縮合物/金属アルコキシド重縮合物のモル比は0.02/n〜1/nにするのが好ましく、ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド重縮合物/金属アルコキシド重縮合物のモル比は0.005/n〜0.5/nにするのが好ましい。
【0042】
(b) 酸の添加
金属アルコキシド等及び界面活性剤を含有する溶液に酸を加え、低温で均一に混合することにより金属アルコキシド等を加水分解する。酸の種類には特に限定はなく、塩酸、硫酸、硝酸等の鉱酸及び酢酸、酒石酸等の有機酸を使用することができる。塩酸を使用すると、焼成により完全に除去可能であるので好ましい。溶液のpHが0〜6になるように、酸を添加するのが好ましい。pHが6超であると、加水分解反応及び縮重合反応が進行し難過ぎるので好ましくない。pHが0未満であると、溶液中で金属塩及び/又は加水分解物が沈殿し易過ぎる。溶液のpHが0〜6の酸性状態であると、三次元高規則性を有するナノポーラス体が得られる。
【0043】
出発物質として金属アルコキシドを使用する場合、より好ましい溶液のpHは1〜4.5である。金属アルコキシド重縮合物を使用する場合、より好ましい溶液のpHは0.5〜4であり、特に好ましいpHは1.5〜3.5である。
【0044】
(c) その他の加水分解条件
酸を添加した後、室温、常圧で10〜60分程度撹拌すると、金属アルコキシド等の加水分解反応が進行し、透明な加水分解物溶液が得られる。金属アルコキシド等の加水分解は加熱せずに行うことができるが、低温(65℃以下)であれば加熱しても良い。好適な加水分解温度は23〜60℃である。より好ましい加水分解温度は23〜40℃である。
【0045】
(5) 金属塩の添加
溶媒の揮発に先立って、加水分解物溶液が金属塩を含有するようにする。具体的には金属塩を、加水分解用溶液又は加水分解物溶液に添加する。難溶性の塩を添加する場合は、加水分解前に塩酸に溶かして入れるのが好ましい。加水分解物溶液に金属塩を添加する場合、添加後に十分撹拌(例えば10〜30分)するのが好ましい。加水分解物溶液が金属塩を含有していないと、加水分解物溶液を流動するガス中に噴霧しても、(a) 加水分解物と界面活性剤の複合体が液状(又はオイル状)のままで固体にならないか、(b) 高粘性の白色固体の集合物となって略球形のナノポーラス体を得られない。加水分解物溶液が金属イオンを含有した状態で溶媒を揮発させることにより、骨格構造中に三次元高規則性を有する略球形のナノポーラス体を作製することができる。
【0046】
ナノポーラス体の骨格中の主成分と金属塩との比は、加水分解用溶液中の金属アルコキシド等と塩とのモル比に等しくなる。したがって加水分解用溶液が含金属イオンを含有するようにすることにより、骨格構造中に所望の量だけ主成分以外の元素を含有するナノポーラス体を作製することができる。主成分以外の元素は骨格中に規則的に組み込まれるので、ナノポーラス体の三次元高規則性は阻害されない。
【0047】
金属塩の例としてはTi、Ge、Si、Al、Cr、Zr、Mn、Co、Ni、Fe、Mg、V、Sn、W、Ta、Nb、Hf、Pt、Pd、Ru、Rh及びIrからなる群より選択された少なくとも一種の塩が挙げられる。より好ましい金属塩の具体例として、硝酸アルミニウム、硝酸ジルコニウムが挙げられる。
【0048】
(6) 加水分解溶液の熟成及び濃縮
加水分解物溶液を実質的に均一に維持しながら、その溶媒の一部を揮発させ、濃縮液を得る。ここで溶液が「実質的に均一」とは、実質的に界面活性剤の自己組織化(三次元高規則化)が維持される程度に溶液が均一であることを言う。具体的には、界面活性剤の三次元高規則化の妨げにならない程度に、溶液の濃度分布や温度分布が小さく保持されていることを意味する。
【0049】
加水分解物溶液を実質的に均一な状態にする方法は特に限定されず、一般的な方法をとることができる。例えば撹拌翼、撹拌子等の撹拌手段により行っても良いし、加水分解物溶液を入れた容器の回転により行っても良い。
【0050】
加水分解物溶液の温度は0〜70℃とするのが好ましく、10〜60℃とするのがより好ましい。0℃未満であると、界面活性剤の溶解度が小さ過ぎて界面活性剤が析出してしまう。70℃超であると、金属アルコキシド等の分圧が高過ぎてナノポーラス体の収率が低下する。また界面活性剤及び加水分解物の分子運動が大き過ぎて、ナノポーラス体の三次元高規則性が失われる。
【0051】
(7) スプレードライ
一定方向に流れる50〜170℃のガスに、加水分解物の濃縮液をスプレーする。ガスの温度を170℃超とすると、溶媒の揮発が速過ぎてナノポーラス体の三次元高規則性が失われ過ぎる。ガスの温度を50℃未満とすると、溶媒を十分に除去できないため、(a) 略球形のナノポーラス体を得られない他、(b) 生成物が乾燥チャンバの壁に付着する割合が増加して、回収率が低くなり過ぎる。ガスの温度は50〜100℃にするのがより好ましく、80〜100℃にするのが特に好ましい。
【0052】
入口と出口を有する乾燥チャンバ内でガスを一定方向に流し、その流れに平行に設置したノズルから濃縮液をスプレーするのが好ましい。乾燥チャンバ内の温度は調節可能になっており、出口付近のガス温度を入口付近より30〜80℃低く設定するのが好ましい。入口付近においては溶媒の気化熱によってガス温度は大きく低下するが、出口付近ではその影響は小さい。このため出口付近のガス温度を入口付近より30〜80℃低くしておくと、出口付近の温度と入口付近の温度が近くなる。
【0053】
乾燥チャンバ内では酸素濃度を低くしておく必要がある。乾燥チャンバ内の酸素濃度が高過ぎると、溶媒によっては発火及び/又は爆発が起こるおそれがあるので好ましくない。また溶媒蒸気の濃度も、常に爆発下限以下に保つのが好ましい。例えばエタノールを溶媒とて使用し、チャンバ内の温度を170℃とする場合、酸素濃度は5体積%以下にする必要があり、エタノールの蒸気濃度は4.3体積%にするのが好ましい。溶媒蒸気の濃度を低く保つ方法として、濃縮液の噴霧に先立って乾燥チャンバ内を不活性ガス雰囲気にしておき、濃縮液を不活性ガスと共に噴霧する方法が挙げられる。さらに、電気火花による引火事故を防止するため、電気接点を防電仕様にする必要がある。
【0054】
ノズルは、濃縮液と不活性ガスとを気液混合状態で霧状に噴出可能であれば特に限定されない。一般的なノズルは0.3〜1mm程度の内径を有する細管である。ノズル背圧は0.05〜0.3 MPaとするのが好ましい。ノズル背圧が0.3 MPa超であると、濃縮液と不活性ガスとの流量バランスが崩れ過ぎ、一定範囲の大きさの液滴を安定して噴霧できない。ノズル背圧0.05 MPa未満であると、噴霧量が少なすぎてナノポーラス体の生成効率が悪すぎる。
【0055】
スプレーされた濃縮液の液滴に含まれる溶媒は、数100 msec以内に揮発する。界面活性剤と金属酸化物との三次元高規則的配列は濃縮工程で完了しており、噴霧したり乾燥したりしても、この構造は失われ難くなっている。このため三次元高規則的な構造は、揮発する間に殆んど崩れない。したがって、スプレードライにより三次元高規則性を有する乾燥ナノポーラス体が生成する。
【0056】
(8) 焼成
ナノポーラス体を十分な時間焼成し、微細孔内に含まれる有機物を完全に除去する。焼成温度は350〜800℃とするのが好ましく、400〜650℃とするのがより好ましい。焼成時間は1時間以上が好ましく、1.5〜14時間がより好ましく、2〜10時間が特に好ましい。規則的に配列された界面活性剤は完全に消失するので、その部分は規則的に配列された空孔となる。このようにして、図1に示すように三次元高規則性を有するナノポーラス体が得られる。
【0057】
[2] ナノポーラス体
(1) 無機材料
ナノポーラス体は下記式(6)
M1aM2bOh ・・・(6)
(ただし、aは1以下の正の数を示し、bは0以上1未満の数を示し、a + b = 1であり、hは1〜2.5の数を示し、M1はSi、Al、Ti、Zr及びGeからなる群より選ばれた少なくとも一種を示し、M2はMn、Co、Ni、Fe、Cr、Mg、V、Sn、W、Ta、Nb、Hf、Pt、Pd、Ru、Rh及びIrからなる群より選ばれた少なくとも一種を示す。)により表されるのが好ましい。例えばケイ素アルコキシドのみを出発物質とし、金属塩として硝酸アルミニウムのみを使用する場合、aは1であり、M2は付加されない。hは、SiとAlの合計に対する酸素の比率を示す。
【0058】
(2) 形状
ナノポーラス体は略球形、又は複数の略球形の粒子が結合した形状を有する。「略球形」は球形に近似できる形状を意味し、球形の他に、歪んだ球形や、一部が欠けた球形や、扁平な球形も含まれる。本発明のナノポーラス体の一例の写真を図2に示す。略球の直径は0.5〜50μmである。ナノポーラス体のうち40質量%以上が略球形であるのが好ましく、80質量%以上が略球形であるのがより好ましい。
【0059】
ナノポーラス体は300 m2以上のBET表面積を有し、好ましいナノポーラス体は500 m2以上のBET表面積を有する。300 m2以上のBET表面積を有するナノポーラス体は、優れた吸着性を有する。BET表面積は、窒素ガス吸着量等に基づいて見積もることができる。
【0060】
(3) 三次元高規則性
ナノポーラス体を形成する金属酸化物は、ナノメートルレベルの規則構造〈周期構造〉を有するのが好ましい。好ましい規則構造の例として、図1に概略的に示すヘキサゴナル構造や、3次元に連結した細孔を有するキュービック構造が挙げられる。ヘキサゴナル構造又はキュービック構造を有するナノポーラス体は、均一な孔径の細孔を有する。なお無機材料からなる骨格構造を有する限り本発明のナノポーラス体を構成する成分は限定されず、骨格以外の部分に有機物を含有しても良い。
【0061】
三次元規則性は、ナノポーラス体のX線回折パターンによって評価することができる。高い規則性を有するナノポーラス体はナノメートルオーダーの周期性を有するため、X線回折パターンのピークは、通常、小さい角度(2θが概ね5°以下)に現れる。得られるX線回折ピークのうち最大ピーク[第一ピークであり、ナノポーラス体の(100)面のX線回折ピーク]の半値幅が2°以下であると、三次元規則性に優れていると言える。半値幅は1.5°以下であるのが好ましく、1°以下であるのがより好ましい。
【0062】
(4) 微細孔
(a) 孔径
本発明の方法により得られるナノポーラス体は、マイクロポーラスな多孔体及び/又はメソポーラスな多孔体である。IUPACによると、多孔体は、細孔径2nm以下のマイクロポーラス固体、細孔径2〜50 nmのメソポーラス固体及び細孔径50 nm以上のマクロポーラス固体に分類される。本明細書中、「ナノポーラス体」とは、マイクロ孔及び/又はメソ孔を有し、無機物からなる骨格を有するものを言う。ナノポーラス体の孔径は2〜10 nmであり、2〜4.0 nmであるのが好ましい。本明細書中、ナノポーラス体の孔径は、ガス吸着法により下記式(7) 及び(8)から求めた孔径分布のピークにおける孔径と定義する。またガス吸着測定は、ナノポーラス体を300℃で8時間減圧乾燥(真空脱気)した後、−196℃で行うこととする。減圧乾燥時の圧力は10-1 Pa以下とするのが好ましく、10-2 Pa以下とするのがより好ましい。
【0063】
【数1】
[rc:吸着質の毛細管凝縮が起こる微細孔の臨界半径、
t:吸着質の多分子吸着層の厚さ、
p/p0:測定温度における吸着質の圧力pと飽和蒸気圧p0との比(相対圧)、
γ∞:吸着質のバルク液体状態での界面張力、
Vm:吸着質のバルク液体状態でのモル体積、
δ:界面張力面に対するゼロ吸着の変位を表す定数、及び
F(t)=RT[A/t2 − B] x ln C(A、B及びCはそれぞれ系により定まる定数である。)]
【0064】
式(7) は、Broekhoff及びde Boerにより提案されたものである(Broekhoff, J. C. P., 及びde Boer, J. H., J. Catal. 10, 377 (1968))。また式(8) はKelvin式を修正したものであり、GTKB-Kelvin-Cylindrical式と呼ばれている。これはGibbs-Tolman=koening-Buffによる、表面張力が細孔の曲率の関数となると考えた場合の修正kelvin式をシリンダー状細孔に当てはめたものである。またF(t)の式において、定数A、B及びCはそれぞれナノポーラス体の系により定まり、例えばナノポーラスシリカの場合、A = 0.1399、B = 0.034、C = 10である。上述の細孔径分布評価法については、Miyata, T, Endo, A, Ohmori, T, Akiya, T, Nakaiwa, M, Journal of Colloid and Inerface Science, 262, p116, 2003に詳細に記載されている。
【0065】
(b) 隔壁の厚さ
ナノポーラス体は、極めて小さな孔径を有する微細孔を有するのみならず、微細孔の隔壁も非常に薄い。隔壁の厚さは0.5〜3nm程度である。このように薄い隔壁のために、本発明の製造方法により得られるナノポーラス体は高い多孔度を有する。
【0066】
(5) 用途
ナノポーラス体は優れた吸着性を有するので、水や有機物の吸着剤として使用できる。例えばナノポーラス体1gあたり、0.15〜0.80 gのベンゼンを吸着することができる。また触媒の担体としても使用できる。例えばナノポーラス体にスルホン酸化合物を担持させたものは、アルデヒドやケトンのアセタール反応、酢酸フェニルのフリース(Fries)転移反応に使用することができる。ナノポーラス体は粉状又は粒状であるので、吸着剤や触媒担体として用いる場合に造粒等の必要が無く、焼成後にそのまま使用することができる。したがって吸着剤や触媒の製造が簡便であるためコスト安である他、造粒剤(バインダー)が微細孔内に詰まって、吸着能が低下するおそれがない。
【実施例】
【0067】
本発明を以下の実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0068】
実施例1
界面活性剤(Brij56)14.14 gと、エタノール(純度99.5体積%以上)69 gとを200 mLのガラスビーカーに入れ、マグネチックスターラーを使用して、常温で15分間撹拌した。次にテトラエチルオルトシリケート(純度98%)29.64 gと、硝酸アルミニウム(Al(NO3)3・9H2O)2.81 gとを溶解させた後、塩酸(1規定)27.0 gを加えて常温で20分間撹拌し、透明な加水分解物溶液を得た。
【0069】
この加水分解物溶液を500 mLナス型フラスコに移し、ロータリーエバポレータ(38 rpm)を使用して、25℃の温度及び70 hPaの減圧状態に1時間50分間保持することにより溶媒を揮発させ、加水分解物の濃縮液を得た。
【0070】
スプレードライヤー(ヤマト科学製 GS310)を使用して、濃縮液を窒素ガスと共にスプレードライし、白色粉体を得た。スプレードライ工程においては、ドライヤーの噴霧ノズルは口径0.7 mmφのものを使用し、噴霧速度を4.8 g / minとし、ノズル背圧を0.075 MPaとし、チャンバの入口温度を80℃とし、窒素ガスの風圧を0.5 MPaとした。
【0071】
得られた白色粉体を600℃で焼成して、界面活性剤を除去した。得られたポーラスシリカ(焼成体)を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。ポーラスシリカの走査型電子顕微鏡写真を図3に示す。図3から、ポーラスシリカは球形又は球形物が結合した形状を有することが分かった。
【0072】
ポーラスシリカのX線回折パターン(XRD)、及び窒素ガスによる吸着等温線により細孔構造の構造規則性の評価を行った。ナノポーラスシリカのX線回折パターン及び窒素吸着等温線をそれぞれ図4及び図5に示す。図5中、●は吸着を示し、○は脱着を示す。X線回折パターンにおいて、2θが2〜6°の位置にピークが現れていたことから、ポーラスシリカがナノメートルオーダーで高い構造周期性を有することが分かった。また窒素吸着等温線からBET表面積及び細孔径(脱着量から求めた細孔分布曲線の最頻値)を計算した。BET表面積は706 m2/gであり、細孔径は2.6 nmであった。BET表面積及び細孔径からも、ポーラスシリカがナノメートルレベルの細孔構造を有することが確認された。
【0073】
実施例2
界面活性剤(プルロニックP123)3.45 gと、エタノール(純度99.5体積%以上)13.8 gとを100 mLのガラスビーカーに入れて撹拌した後、テトラエチルオルトシリケート(純度98%)5.928 gと、硝酸アルミニウム(Al(NO3)3・9H2O)0.562 gとを溶解させ、塩酸(1規定)5.4 gを加えて10分間撹拌し、透明な加水分解物溶液を得た。
【0074】
この加水分解物溶液を100 mLナス型フラスコに移し、ロータリーエバポレータ(78 rpm)を使用して、40℃の温度及び150 hPaの減圧状態に1時間保持して溶媒を揮発させ、加水分解物の濃縮液を得た。
【0075】
スプレードライヤー(ヤマト科学製 GS310)を使用して、濃縮液を窒素ガスと共にスプレードライし、白色粉体を得た。スプレードライ工程においては、口径0.7 mmφのドライヤーの噴霧ノズルを使用し、噴霧速度を4.6 g / minとし、ノズル背圧を0.075 MPaとし、チャンバの入口温度を80℃とし、窒素ガスの風圧を0.5 MPaとした。
【0076】
得られた白色粉体を600℃で焼成して、界面活性剤を除去し、ポーラスシリカ(焼成体)を得た。ポーラスシリカの走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図6に示す。図6から、ポーラスシリカは球形又は球形物が結合した形状を有することが分かった。ポーラスシリカのX線回折パターン及び窒素吸着等温線をそれぞれ図7及び図8に示す。図8中、●は吸着を示し、○は脱着を示す。図7において、2θがほぼ1°の位置にピークが現れていたことから、ポーラスシリカがナノメートルオーダーで高い構造周期性を有することが分かった。また窒素吸着等温線からBET表面積及び細孔径(脱着量から求めた細孔分布曲線の最頻値)を計算したところ、それぞれ311 m2/g、5.29 nmであった。BET表面積及び細孔径からも、ポーラスシリカがナノメートルレベルの細孔構造を有することが確認された。
【0077】
実施例3
界面活性剤(プルロニックP103)3.68 gをエタノール、テトラエチルオルトシリケート、硝酸アルミニウム及び塩酸と混合した以外実施例2と同様にして加水分解物溶液を得、濃縮及びスプレードライした。
【0078】
得られた白色粉体を600℃で焼成して、界面活性剤を除去し、ナノポーラスシリカ(焼成体)を得た。ナノポーラスシリカのX線回折パターンを図9に示す。図9から、ナノポーラスシリカは球形又は球形物が結合した形状を有することが分かった。ナノポーラスシリカ(焼成体)の窒素吸着等温線を図10に示す。図10中、●は吸着を示し、○は脱着を示す。図9において、2θがほぼ1°の位置にピークが現れていたことから、ポーラスシリカがナノメートルオーダーで高い構造周期性を有することが分かった。また窒素吸着等温線からBET表面積及び細孔径(脱着量から求めた細孔分布曲線の最頻値)を計算したところ、それぞれ276 m2/g、5.09 nmであった。BET表面積及び細孔径からも、ポーラスシリカがナノメートルレベルの細孔構造を有することが確認された。
【0079】
比較例1
界面活性剤をエタノールに入れて撹拌した後、テトラエチルオルトシリケート(純度98%)31.26 g及び塩酸を混合した以外実施例1と同様にして、加水分解物溶液を得た。
【0080】
加水分解物溶液を25℃の温度及び70 hPaの減圧状態で1時間20分間反応させて濃縮した後、実施例1のスプレードライ工程と同じ条件でスプレードライしたところ、スプレードライヤーの内壁に白色のペーストが付着した。これは、十分に乾燥しなかった生成物が粉状にならずに凝集したものと考えられる。内壁に付着した白色固体を採取し、500℃で焼成して界面活性剤を除去し、得られた焼成体を走査型電子顕微鏡で観察した。焼成体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図11に示す。図11から分かるように、硝酸アルミニウムを添加しないで作製したナノポーラス体は、略球形を有していなかった。
【0081】
比較例2
界面活性剤(プルロニックP123)17.25 gと、エタノール(純度99.5体積%以上)69 gとを200 mLのガラスビーカーに入れて撹拌した後、テトラエチルオルトシリケート(純度98%)31.67 gと、塩酸(1規定)27.0 gとを加えて撹拌した以外実施例1と同様にして、透明な加水分解物溶液を得た。この加水分解物溶液を500 mLナス型フラスコに移し、ロータリーエバポレータ(78 rpm)を使用して、40℃の温度及び145 hPaの減圧状態で1時間反応させ、加水分解物の濃縮液を得た。
【0082】
実施例2のスプレードライ工程と同じ条件で濃縮液をスプレードライしたところ、スプレードライヤーの内壁に白色のペーストが付着した。この白色固体を500℃で焼成して界面活性剤を除去し、得られた焼成体を走査型電子顕微鏡で観察した。焼成体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図12に示す。図12から分かるように、比較例1と同様に、このナノポーラス体も略球形を有していなかった。
【0083】
比較例3
「Jornal of Physical Chemistry」(J.M.Kimら著、99巻、45号、16742頁、1995年)を参考にして、次のとおりメソポーラスシリカを合成した。シリカ源としてカタロイドSI-30を使用し、アルカリ源として水酸化ナトリウム及び25質量%アンモニア水溶液を使用し、界面活性剤としてセチルトリメチルアンモニウムブロマイドを使用し、シリカ源:NaOH:NH3:界面活性剤:水が6:1.5:0.15:2:250となるように水溶液を調製した。この水溶液を室温で1時間撹拌し、97℃で1日撹拌したところ、水溶液中にゲルが生成した。ゲルを含有する水溶液を室温に冷却した後、30質量%の酢酸水溶液を加えてpHを10.2に調製した。このゲル含有水溶液を97℃で1日撹拌する工程と、酢酸水溶液を加えてpH調整する工程とを3回繰り返した後、生成物をろ別し、純水で洗浄した。得られた白色の粉末を乾燥し、550℃で焼成して界面活性剤を除去した。
【0084】
得られた焼成粉末のSEM観察を行った。SEM写真を図13に示す。この粉末は略球形でないことが分かった。
【0085】
比較例4
「Jornal of the American Chemical Society」(チャオら著、120号、6024〜6036頁、1998年)を参考にして、次のとおりメソポーラスシリカを合成した。界面活性剤(プルロニック P123)2.08 gと、水15.6 mLと、塩酸(2規定)62.4 gとをフラスコに入れて撹拌した後、テトラエチルオルトシリケート(純度98%)4.73 mLを加えて40℃で20時間撹拌し、80℃で24時間静置した。水溶液中の生成物はろ別した後、純水で洗浄した。得られた白色の粉末を乾燥し、500℃で焼成して界面活性剤を除去した。
【0086】
得られた焼成粉末のSEM観察を行った。SEM写真を図14に示す。この粉末は略球形でないことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】ナノポーラス体の製造原理を示す概略工程図である。
【図2】本発明のナノポーラス体の一例を示す顕微鏡写真である。
【図3】実施例1のナノポーラスシリカを示す顕微鏡写真である。
【図4】実施例1のナノポーラスシリカのX線回折パターンを示すグラフである。
【図5】実施例1のナノポーラスシリカの窒素吸着等温線を示すグラフである。
【図6】実施例2のナノポーラスシリカを示す顕微鏡写真である。
【図7】実施例2のナノポーラスシリカのX線回折パターンを示すグラフである。
【図8】実施例2のナノポーラスシリカの窒素吸着等温線を示すグラフである。
【図9】実施例3のナノポーラスシリカのX線回折パターンを示すグラフである。
【図10】実施例3のナノポーラスシリカの窒素吸着等温線を示すグラフである。
【図11】比較例1の多孔質シリカを示す顕微鏡写真である。
【図12】比較例2の多孔質シリカを示す顕微鏡写真である。
【図13】比較例3のメソポーラスシリカを示す顕微鏡写真である。
【図14】比較例4のメソポーラスシリカを示す顕微鏡写真である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノメータレベルの微細孔を有し、吸着材、分離膜、分離反応膜、触媒及び触媒担体として用いることができるナノポーラス体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノメータレベルの均一な孔径を有する微細孔が規則的に配列した構造を有する多孔体は、優れたガス吸着性を有し、各種の物質の分離機能も有することが明らかになってきた。このため、このような多孔体を製造する種々の方法が提案されている。
【0003】
例えば「J. Am. Chem. Soc., 114, 10834-10843 (1992)」(非特許文献1)は、アルキルトリメチルアンモニウムからなる界面活性剤の集合体をテンプレート(鋳型)とし、沈降性シリカ、コロイダルシリカ、水ガラス、アルコキシシラン等を原料として、水熱合成法により無機材料−界面活性剤の三次元高規則性複合体を形成し、その複合体を自然乾燥した後、焼成してその中に含まれる有機物を除去することにより無機多孔体を製造する方法を記載している。界面活性剤の濃度は臨界ミセル濃度より高く液晶相の生成濃度より低い濃度、例えば25重量%とされており、溶液のpHは10〜13とアルカリ側であった。また標準的な反応温度は100℃以上と高く、反応には最短でも約2日間を要した。
【0004】
界面活性剤を用いる多孔体の製造には、このような水熱合成法が主に用いられてきた。水熱合成法により得られた多孔体は、その他の製造方法により得られる多孔体に比べて著しく均一な孔径を有する微細孔が規則的に配列した構造を有する。しかしながら、十分なガス吸着性を有する多孔体を得るためには、さらに狭い孔径分布及び高い三次元規則性を有する必要があることが分かった。また、ガス吸着性の観点から、大きな表面積を有する球形の多孔体が望まれているが、水熱合成によると球形の多孔体を得られないという問題もある。さらに水熱合成に使用した反応液中には原料であるシリカや界面活性剤等が残留するため、正確に計量した材料を反応液に仕込んでも、所望の成分比を有する多孔体を得ることができないという問題がある。その上、水熱合成法は80℃以上の高温に長時間保持する必要があってコスト高である上、生成物を固液分離手段により分離し、洗浄することが必須であるので操作が煩雑であるという問題もある。
【0005】
米国特許5922299号(特許文献1)には、シリカのプレカーサー水溶液と、アンモニウムイオンを有する界面活性剤と、酸とを混合し、界面活性剤とシリカとを規則的に配列させた後、シリカプレカーサー溶液の溶媒を揮発する工程を有するメソポーラスシリカの製造方法が記載されている。溶媒を揮発するには、例えばスプレードライ装置の水冷ノズルからプレカーサー溶液をスプレーし、発生した水滴を加熱空気中で流下させる。溶媒の揮発によって得られた不揮発性の残留物を焼成すると、メソポーラスシリカを得ることができる。
【0006】
しかし特許文献1に記載の方法よってメソポーラスシリカを作製する場合、生成物の空孔率ばかりでなく生成物の規則性も、原料として用いる界面活性剤/シリカプレカーサーのモル比に大きく依存しまうという問題がある。例えば大きな空孔率を有するメソポーラスシリカを得ようとすると、空孔構造の規則性が低く、細孔径分布は大きくなってしまう。このようなナノポーラスシリカは吸着剤や分離材として好ましいとは言えない。また平均細孔径4nm以下であって壁厚1nm前後であるメソポーラスシリカしか作製することができず、得られるメソポーラスシリカが非常に限定的であるという問題もある。
【0007】
【特許文献1】米国特許5922299号公報
【非特許文献1】ベック(J. S. Beck)ら、「液晶テンプレートを用いて作製した新規なメソポーラス分子篩」(A new family of mesoporous molecular sieves prepared with liquid crystal templates)、J. Am. Chem. Soc. 114, 10834-10843 (1992)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって本発明の目的は、高規則性であって、小さな孔径分布の微細孔を有する略球形のナノポーラス体、及びかかるナノポーラス体を効率よく低コストで製造する方法であって、得られるナノポーラス体の微細孔の平均孔径を幅広い範囲で選択可能な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、(a) 金属アルコキシド及び/又はその重縮合物と、界面活性剤と、溶媒とを含有する溶液を反応溶液中で、金属アルコキシド及び/又は前記重縮合物を加水分解した後、(b) 得られた加水分解物溶液を一定方向に流れる50〜170℃のガスにスプレードライする際に、加水分解物溶液が金属塩を含有するようにしておくと、略球形のナノポーラス体が効率よく生成することを発見し、本発明に想到した。
【0010】
すなわち、本発明のナノポーラス体の製造方法は、無機材料からなる骨格構造中にナノメータレベルの孔径を有する微細孔が形成された略球形のナノポーラス体を製造するもので、(a) 金属アルコキシド及び/又はその重縮合物と、界面活性剤と、溶媒とを含有する反応溶液中で、前記金属アルコキシド及び/又は前記重縮合物を加水分解し、加水分解物溶液を得る工程、及び(b) 一定方向に流れる50〜170℃のガスに前記加水分解物溶液を噴霧することによりその溶媒を揮発させる工程を含み、前記加水分解物溶液が金属塩を含有するようにした後で金属塩含有加水分解物溶液を噴霧することを特徴とする。
【0011】
前記加水分解物溶液の溶媒の少なくとも一部を揮発させ、得られた濃縮液を不活性ガスと共に噴霧するのが好ましい。水溶性であって、170℃以下の沸点を有する液体を反応溶液及び加水分解物溶液の溶媒とするのが好ましい。より好ましい溶媒は、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、i-プロピルアルコール、ヘキサノール、n-ブチルアルコール、t-ブチルアルコール、i-ブチルアルコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、4-メチルジオキソラン、アセトニトリル、2-メチルテトラヒドロフラン、2-エトキシエタノール、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテル及び2-メトキシ-1-プロピルアセテートからなる群より選ばれた少なくとも一種である。
【0012】
前記界面活性剤としては、ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド重縮合物及び/又はモノアルキル−ポリエチレンオキサイド重縮合物が好ましい。
【0013】
前記金属アルコキシド及び/又はその重縮合物としてはSi、Al、Ti、Zr及びGeからなる群より選ばれた少なくとも一種の金属のアルコキシド及び/又はアルコキシドの重縮合物を用いるのが好ましく、アルコキシシラン及び/又はその重縮合物を用いるのがより好ましく、テトラアルコキシシランを用いるのが特に好ましい。
【0014】
前記反応溶液のpHを1.0〜5にするのが好ましい。前記金属塩としてはMn、Co、Ni、Fe、Cr、Mg、V、Sn、W、Ta、Nb、Hf、Pt、Pd、Ru、Rh及びIrからなる群より選択された少なくとも一種の塩を用いるのが好ましい。
【0015】
本発明のナノポーラス体は、無機材料からなる骨格構造中にナノメータレベルの孔径を有する多数の微細孔が形成された略球形のもので、0.5〜50μmの平均粒径及び300 m2以上のBET表面積を有し、前記微細孔の隔壁の厚さが0.5〜3 nmであり、窒素吸着等温線から求めた孔径分布のピークにおける孔径が2.5〜10 nmであり、X線回折パターンにおける少なくとも一つのピークが1.5 nm以上の面間隔を有し、最大ピークの半値幅が2°以下であることを特徴とする。
【0016】
ナノポーラス体は下記式(1)
M1aM2bOh ・・・(1)
(ただし、aは1以下の正の数を示し、bは0以上1未満の数を示し、a + b = 1であり、hは1〜2.5の数を示し、M1はSi、Al、Ti、Zr及びGeからなる群より選ばれた少なくとも一種を示し、M2はMn、Co、Ni、Fe、Cr、Mg、V、Sn、W、Ta、Nb、Hf、Pt、Pd、Ru、Rh及びIrからなる群より選ばれた少なくとも一種を示す。)により表されるのが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のナノポーラス体の製造方法では、金属アルコキシド及び/又はその重縮合物、、界面活性剤並びに酸を含有する溶液中で金属アルコキシド及び/又はその重縮合物を加水分解させ、得られる加水分解物溶液が金属塩を含有した状態でスプレードライする。この製造方法により、略球形のナノポーラス体を得ることができる。スプレードライに先立って、加水分解物溶液に強制的な流れを起こしながら減圧状態にすることにより加水分解物溶液をある程度濃縮しておくのが好ましい。加水分解物溶液を濃縮しておくことにより、スプレードライ工程を低温で行うことができるので、三次元高規則性に優れたナノポーラス体を得ることができる。
【0018】
ナノポーラス体は略球からなる粉状又は粒状であるので、大きな表面積を有する上、粉状や粒状にするために造粒等の工程を要しない。このようなナノポーラス体は優れた吸着性を有し、水、ベンゼン等の有機物の吸着剤や、触媒の担体として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、発明を実施するための最良の形態により本発明を詳説する。
なお、特許請求の範囲及び本明細書中における「ナノポーラス体」とは、1cm3内に20以上の微細孔を有し、かかる微細孔の90%以上の直径が10-1〜103 nmの範囲内に属する多孔体材料である。したがって、「ナノメータレベルの孔径」とは10-1〜103 nmの範囲内の孔径を指称する。
【0020】
[1] ナノポーラス体の製造方法
本発明のナノポーラス体の製造方法では、無機材料の出発物質である金属アルコキシド及び/又はその重縮合物と、テンプレートとなる界面活性剤とを含有する加水分解用溶液を使用する。
【0021】
(1) 金属アルコキシド及び/又はその重縮合物
金属アルコキシド及び/又はその重縮合物はナノポーラス体の出発物質となる。好ましい金属アルコキシドの具体例として周期表のIVA及びIVB族の金属元素のアルコキシドが挙げられる。これらのうちより好ましいのは、ケイ素、アルミニウム、チタン及びジルコニウムからなる群から選ばれた少なくとも一種の金属のアルコキシドである。特にケイ素を主体とする金属のアルコキシド、例えばアルコキシシランや、アルコキシシランとケイ素以外の金属のアルコキシドとの混合物が好ましい。ケイ素主体の金属アルコキシドを出発物質とすると、優れた均一性を有するナノポーラス体が得られる。優れた均一性を有するナノポーラス体は、X線回折において顕著なピークを示す。ケイ素以外の金属のアルコキシドとしては、例えばアルコキシアルミニウムが挙げられる。
【0022】
アルコキシシランとしては、Si(OR1)4(ただし、R1は炭素数1〜6のアルキル基を表す。)により表されるテトラアルコキシシラン、及び下記式(2)
Si(OR2)c(R3)d(R4)e(R5)f ・・・(2)
(ただし、R2、R3、R4及びR5は炭素数1〜6のアルキル基を表し、cは1〜3の整数を示し、d、e及びfは0〜3の整数を示し、c + d + e + f = 4である。)により表されるアルキルアルコキシシラン、及びこれらの混合物が好ましい。テトラアルコキシシランのうち、特に好ましいのはテトラメトキシシリケート[Si(OCH3)4]、テトラエトキシシリケート[Si(OC2H5)4]である。アルキルアルコキシシランを出発物質とすると、アルキル基を有するメソポーラスシリカを作製可能である。
【0023】
アルコキシアルミニウムとしては、Al(OR6)3(ただし、R6は炭素数1〜6のアルキル基を表す。)により表されるものが好ましく、特にAl(OCH3)3、Al(OC2H5)3、Al(O-iso-C3H7)3、Al(OC4H9)3が好ましい。またジ-s-ブトキシアルミノキシトリエトキシシランも好ましい。
【0024】
アルコキシチタンとしては、Ti(OR7)4(ただし、R7は炭素数1〜6のアルキル基を表す。)により表されるものが好ましく、特にTi(OCH3)4、Ti(OC2H5)4、Ti(O-iso-C3H7)4、Ti(OC4H9)4が好ましい。
【0025】
ジルコニウムアルコキシドとしては、Zr(OR8)4(ただし、R8は炭素数1〜6のアルキル基を表す。)により表されるものが好ましく、特にZr(OCH3)4、Zr(OC2H5)4、Zr(O-iso-C3H7)4、Zr(OC4H9)4が好ましい。
【0026】
好ましい金属アルコキシド重縮合物の例として、下記式(3)
(C2H5O)3Si[Si(C2H5O)2]n(C2H5O) ・・・(3)
(ただし、nは1以上の整数を表す。)
により表されるエチルシリケート縮合物や、下記式(4)
(CH3O)3Si[Si(CH3O)2]m(CH3O) ・・・(4)
(ただし、mは1以上の整数を表す。)
により表されるメチルシリケート縮合物が挙げられる。市販の金属アルコキシドの重縮合物を出発物質として使用しても良い。市販品の例として、多摩化学工業株式会社製のシリケート40(エチルシリケート縮合物、平均n=5)、シリケート45(エチルシリケート縮合物、平均n=6)、シリケート48(エチルシリケート縮合物、平均n=7)、Mシリケート51(メチルシリケート縮合物、平均m=4)が挙げられる。
【0027】
(2) 界面活性剤
界面活性剤は金属アルコキシド及び/又はその重縮合物(以下、単に「金属アルコキシド等」という)とともに溶媒に溶解し、無機多孔体の微細孔を形成するためのテンプレート(鋳型)として作用する物質である。界面活性剤としてはアルコール、金属酸化物、及び金属アルコキシド等を含む溶液中で液晶構造を形成するものであれば良い。好ましい界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤が挙げられる。図1に示すように、溶液中で三次元高規則性をもって柱状に配列するものがより好ましい。
【0028】
ノニオン界面活性剤としてはポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド重縮合物、モノアルキル−ポリエチレンオキサイド重縮合物が好ましい。ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド重縮合物の具体例としては、BASF社製のプルロニック(登録商標)P123:(EtO)20(PrO)70(EtO)20(ただしEtOはエチレンオキサイドを示し、PrOはプロピレンオキサイドを示す。)、プルロニックP103、プルロニックP85が挙げられる。モノアルキル−ポリエチレンオキサイド重縮合物の具体例としてはピアス社製のBrij(登録商標)56:C16H33(EtO)10(ただしEOはエチレンオキサイドを示す。)が挙げられる。
【0029】
(3) 溶媒
加水分解用溶液の溶媒は、水溶性であるのが好ましい。溶媒が水溶性でないと、出発物質である金属アルコキシド及び/又はその重縮合物が水と混ざり難く、十分に加水分解することができないので好ましくない。また170℃以下の沸点を有するのが好ましい。170℃超の沸点を有する溶媒を用いると、50〜170℃で溶媒を揮発させ難すぎる。
【0030】
好ましい溶媒の例としてメタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、i-プロピルアルコール、ヘキサノール、n-ブチルアルコール、t-ブチルアルコール、i-ブチルアルコール、2-エトキシエタノール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、4-メチルジオキソラン、アセトニトリル、2-メチルテトラヒドロフラン、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテル及び2-メトキシ-1-プロピルアセテートが挙げられる。より好ましい溶媒は、一価で、かつ炭素数5以下のアルコールである。このようなアルコールを使用すると、界面活性剤が溶解し易い上、溶媒を効率よく揮発させることができる。特に好ましい溶媒の具体例としてメタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、i-プロピルアルコール、n-ブチルアルコールが挙げられる。これらのアルコールは優れた揮発性及び取り扱い性を有する上、安価である。
【0031】
水/溶媒のモル比は0.1〜10とするのが好ましく、0.2〜10とするのがより好ましい。水/溶媒のモル比が0.1未満であると、加水分解が不十分である。10超であると水の量が多過ぎるために界面活性剤が溶解し難く、溶液の均一性が低下し過ぎる。またスプレードライする際に、乾燥器内の温度を高めに設定しなければならないので好ましくない。水/溶媒の特に好ましいモル比は0.5〜5である。
【0032】
(4) 加水分解用溶液
(a) 加水分解用溶液の組成
加水分解用溶液の組成は、得られるナノポーラス体の微細孔の孔径及び三次元高規則性に大きな影響を与える。
【0033】
(i) 水/金属アルコキシド(又は水/金属アルコキシド重縮合物)のモル比
出発物質として金属アルコキシドを使用する場合、水/金属アルコキシドのモル比は1〜40とするのが好ましく、2〜20とするのがより好ましい。水/金属アルコキシドのモル比が40超であると、水が多過ぎるため、金属アルコキシドの加水分解反応が速過ぎ、溶媒の揮発に伴って界面活性剤が規則的に配列する前に金属酸化物が析出する。また1未満であると水が少な過ぎるため、加水分解物の重縮合反応が遅過ぎる。
【0034】
出発物質として金属アルコキシドの重縮合物を使用する場合、金属アルコキシド縮合物に含まれるモノマー単位の数に対する水のモル数の比率(水/金属アルコキシド縮合物のモノマー単位数)が、上述の水/金属アルコキシドの好ましいモル比と同じになるようにする。換言すると、金属アルコキシド縮合物の縮合数がnであるとき、水/金属アルコキシド縮合物のモル比は1/n〜40/nであるのが好ましく、2/n〜40/nであるのがより好ましい。
【0035】
(ii) 界面活性剤/溶媒のモル比
界面活性剤/溶媒の好ましいモル比は、使用する界面活性剤によって異なる。界面活性剤/溶媒のモル比が好ましい範囲の下限未満であると、界面活性剤が規則的に配列する前に金属アルコキシドの加水分解が進行し、三次元高規則性をもった微細孔が得られない。上限超であると、濃度が高過ぎて界面活性剤が溶液から析出する。
【0036】
アルキルポリエチレンオキサイド重縮合物を使用する場合、アルキルポリエチレンオキサイド重縮合物/溶媒のモル比は、0.002〜0.1にするのが好ましい。特に好ましいアルキルポリエチレンオキサイド重縮合物/溶媒のモル比の具体例を挙げると、界面活性剤としてBrij56を使用する場合には0.014であり、Brij30を使用する場合には0.05であり、Brij35を使用する場合には0.0043であり、Brij58を使用する場合には0.0046である。
【0037】
ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド重縮合物を使用する場合、ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド重縮合物/溶媒のモル比は、0.0005〜0.05にするのが好ましい。特に好ましいポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド重縮合物/溶媒のモル比の具体例を挙げると、界面活性剤としてプルロニックP123を使用する場合には0.002であり、プルロニックP103を使用する場合には0.0022であり、プルロニックP85を使用する場合には0.001である。
【0038】
(iii) 界面活性剤/金属アルコキシド又は界面活性剤/金属アルコキシド重縮合物のモル比
界面活性剤/金属アルコキシド及び界面活性剤/金属アルコキシド重縮合物の好ましいモル比は、使用する界面活性剤によって異なる。界面活性剤/金属アルコキシドのモル比が好ましい範囲の下限未満であると、界面活性剤の量が少な過ぎるため、十分な三次元高規則性構造を有するナノポーラス体が得られない。上限超であると、ナノポーラス体がヘキサゴナル構造を取らなくなり、三次元規則性が低下する。
【0039】
アルキルポリエチレンオキサイド重縮合物と金属アルコキシドとを使用する場合、アルキルポリエチレンオキサイド重縮合物/金属アルコキシドのモル比は、0.02〜1にするのが好ましい。特に好ましいアルキルポリエチレンオキサイド重縮合物/金属アルコキシドのモル比の具体例を挙げると、界面活性剤としてBrij56を使用する場合には0.14であり、Brij30を使用する場合には0.5であり、Brij35を使用する場合には0.043であり、Brij58を使用する場合には0.046である。
【0040】
ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド重縮合物と金属アルコキシドとを使用する場合、ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド重縮合物/金属アルコキシドのモル比は、0.005〜0.5にするのが好ましい。特に好ましいポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド重縮合物/溶媒のモル比の具体例を挙げると、界面活性剤としてプルロニックP123を使用する場合には0.02であり、プルロニックP103を使用する場合には0.0215であり、プルロニックP85を使用する場合には0.01である。
【0041】
出発物質として金属アルコキシドの重縮合物を使用する場合、金属アルコキシド縮合物に含まれるモノマー単位の数に対する界面活性剤のモル数の比率(界面活性剤/金属アルコキシド縮合物のモノマー単位数)が、界面活性剤/金属アルコキシドの好ましいモル比と同じになるようにする。すなわち、金属アルコキシド縮合物の平均縮合数がnのとき、アルキルポリエチレンオキサイド重縮合物/金属アルコキシド重縮合物のモル比は0.02/n〜1/nにするのが好ましく、ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド重縮合物/金属アルコキシド重縮合物のモル比は0.005/n〜0.5/nにするのが好ましい。
【0042】
(b) 酸の添加
金属アルコキシド等及び界面活性剤を含有する溶液に酸を加え、低温で均一に混合することにより金属アルコキシド等を加水分解する。酸の種類には特に限定はなく、塩酸、硫酸、硝酸等の鉱酸及び酢酸、酒石酸等の有機酸を使用することができる。塩酸を使用すると、焼成により完全に除去可能であるので好ましい。溶液のpHが0〜6になるように、酸を添加するのが好ましい。pHが6超であると、加水分解反応及び縮重合反応が進行し難過ぎるので好ましくない。pHが0未満であると、溶液中で金属塩及び/又は加水分解物が沈殿し易過ぎる。溶液のpHが0〜6の酸性状態であると、三次元高規則性を有するナノポーラス体が得られる。
【0043】
出発物質として金属アルコキシドを使用する場合、より好ましい溶液のpHは1〜4.5である。金属アルコキシド重縮合物を使用する場合、より好ましい溶液のpHは0.5〜4であり、特に好ましいpHは1.5〜3.5である。
【0044】
(c) その他の加水分解条件
酸を添加した後、室温、常圧で10〜60分程度撹拌すると、金属アルコキシド等の加水分解反応が進行し、透明な加水分解物溶液が得られる。金属アルコキシド等の加水分解は加熱せずに行うことができるが、低温(65℃以下)であれば加熱しても良い。好適な加水分解温度は23〜60℃である。より好ましい加水分解温度は23〜40℃である。
【0045】
(5) 金属塩の添加
溶媒の揮発に先立って、加水分解物溶液が金属塩を含有するようにする。具体的には金属塩を、加水分解用溶液又は加水分解物溶液に添加する。難溶性の塩を添加する場合は、加水分解前に塩酸に溶かして入れるのが好ましい。加水分解物溶液に金属塩を添加する場合、添加後に十分撹拌(例えば10〜30分)するのが好ましい。加水分解物溶液が金属塩を含有していないと、加水分解物溶液を流動するガス中に噴霧しても、(a) 加水分解物と界面活性剤の複合体が液状(又はオイル状)のままで固体にならないか、(b) 高粘性の白色固体の集合物となって略球形のナノポーラス体を得られない。加水分解物溶液が金属イオンを含有した状態で溶媒を揮発させることにより、骨格構造中に三次元高規則性を有する略球形のナノポーラス体を作製することができる。
【0046】
ナノポーラス体の骨格中の主成分と金属塩との比は、加水分解用溶液中の金属アルコキシド等と塩とのモル比に等しくなる。したがって加水分解用溶液が含金属イオンを含有するようにすることにより、骨格構造中に所望の量だけ主成分以外の元素を含有するナノポーラス体を作製することができる。主成分以外の元素は骨格中に規則的に組み込まれるので、ナノポーラス体の三次元高規則性は阻害されない。
【0047】
金属塩の例としてはTi、Ge、Si、Al、Cr、Zr、Mn、Co、Ni、Fe、Mg、V、Sn、W、Ta、Nb、Hf、Pt、Pd、Ru、Rh及びIrからなる群より選択された少なくとも一種の塩が挙げられる。より好ましい金属塩の具体例として、硝酸アルミニウム、硝酸ジルコニウムが挙げられる。
【0048】
(6) 加水分解溶液の熟成及び濃縮
加水分解物溶液を実質的に均一に維持しながら、その溶媒の一部を揮発させ、濃縮液を得る。ここで溶液が「実質的に均一」とは、実質的に界面活性剤の自己組織化(三次元高規則化)が維持される程度に溶液が均一であることを言う。具体的には、界面活性剤の三次元高規則化の妨げにならない程度に、溶液の濃度分布や温度分布が小さく保持されていることを意味する。
【0049】
加水分解物溶液を実質的に均一な状態にする方法は特に限定されず、一般的な方法をとることができる。例えば撹拌翼、撹拌子等の撹拌手段により行っても良いし、加水分解物溶液を入れた容器の回転により行っても良い。
【0050】
加水分解物溶液の温度は0〜70℃とするのが好ましく、10〜60℃とするのがより好ましい。0℃未満であると、界面活性剤の溶解度が小さ過ぎて界面活性剤が析出してしまう。70℃超であると、金属アルコキシド等の分圧が高過ぎてナノポーラス体の収率が低下する。また界面活性剤及び加水分解物の分子運動が大き過ぎて、ナノポーラス体の三次元高規則性が失われる。
【0051】
(7) スプレードライ
一定方向に流れる50〜170℃のガスに、加水分解物の濃縮液をスプレーする。ガスの温度を170℃超とすると、溶媒の揮発が速過ぎてナノポーラス体の三次元高規則性が失われ過ぎる。ガスの温度を50℃未満とすると、溶媒を十分に除去できないため、(a) 略球形のナノポーラス体を得られない他、(b) 生成物が乾燥チャンバの壁に付着する割合が増加して、回収率が低くなり過ぎる。ガスの温度は50〜100℃にするのがより好ましく、80〜100℃にするのが特に好ましい。
【0052】
入口と出口を有する乾燥チャンバ内でガスを一定方向に流し、その流れに平行に設置したノズルから濃縮液をスプレーするのが好ましい。乾燥チャンバ内の温度は調節可能になっており、出口付近のガス温度を入口付近より30〜80℃低く設定するのが好ましい。入口付近においては溶媒の気化熱によってガス温度は大きく低下するが、出口付近ではその影響は小さい。このため出口付近のガス温度を入口付近より30〜80℃低くしておくと、出口付近の温度と入口付近の温度が近くなる。
【0053】
乾燥チャンバ内では酸素濃度を低くしておく必要がある。乾燥チャンバ内の酸素濃度が高過ぎると、溶媒によっては発火及び/又は爆発が起こるおそれがあるので好ましくない。また溶媒蒸気の濃度も、常に爆発下限以下に保つのが好ましい。例えばエタノールを溶媒とて使用し、チャンバ内の温度を170℃とする場合、酸素濃度は5体積%以下にする必要があり、エタノールの蒸気濃度は4.3体積%にするのが好ましい。溶媒蒸気の濃度を低く保つ方法として、濃縮液の噴霧に先立って乾燥チャンバ内を不活性ガス雰囲気にしておき、濃縮液を不活性ガスと共に噴霧する方法が挙げられる。さらに、電気火花による引火事故を防止するため、電気接点を防電仕様にする必要がある。
【0054】
ノズルは、濃縮液と不活性ガスとを気液混合状態で霧状に噴出可能であれば特に限定されない。一般的なノズルは0.3〜1mm程度の内径を有する細管である。ノズル背圧は0.05〜0.3 MPaとするのが好ましい。ノズル背圧が0.3 MPa超であると、濃縮液と不活性ガスとの流量バランスが崩れ過ぎ、一定範囲の大きさの液滴を安定して噴霧できない。ノズル背圧0.05 MPa未満であると、噴霧量が少なすぎてナノポーラス体の生成効率が悪すぎる。
【0055】
スプレーされた濃縮液の液滴に含まれる溶媒は、数100 msec以内に揮発する。界面活性剤と金属酸化物との三次元高規則的配列は濃縮工程で完了しており、噴霧したり乾燥したりしても、この構造は失われ難くなっている。このため三次元高規則的な構造は、揮発する間に殆んど崩れない。したがって、スプレードライにより三次元高規則性を有する乾燥ナノポーラス体が生成する。
【0056】
(8) 焼成
ナノポーラス体を十分な時間焼成し、微細孔内に含まれる有機物を完全に除去する。焼成温度は350〜800℃とするのが好ましく、400〜650℃とするのがより好ましい。焼成時間は1時間以上が好ましく、1.5〜14時間がより好ましく、2〜10時間が特に好ましい。規則的に配列された界面活性剤は完全に消失するので、その部分は規則的に配列された空孔となる。このようにして、図1に示すように三次元高規則性を有するナノポーラス体が得られる。
【0057】
[2] ナノポーラス体
(1) 無機材料
ナノポーラス体は下記式(6)
M1aM2bOh ・・・(6)
(ただし、aは1以下の正の数を示し、bは0以上1未満の数を示し、a + b = 1であり、hは1〜2.5の数を示し、M1はSi、Al、Ti、Zr及びGeからなる群より選ばれた少なくとも一種を示し、M2はMn、Co、Ni、Fe、Cr、Mg、V、Sn、W、Ta、Nb、Hf、Pt、Pd、Ru、Rh及びIrからなる群より選ばれた少なくとも一種を示す。)により表されるのが好ましい。例えばケイ素アルコキシドのみを出発物質とし、金属塩として硝酸アルミニウムのみを使用する場合、aは1であり、M2は付加されない。hは、SiとAlの合計に対する酸素の比率を示す。
【0058】
(2) 形状
ナノポーラス体は略球形、又は複数の略球形の粒子が結合した形状を有する。「略球形」は球形に近似できる形状を意味し、球形の他に、歪んだ球形や、一部が欠けた球形や、扁平な球形も含まれる。本発明のナノポーラス体の一例の写真を図2に示す。略球の直径は0.5〜50μmである。ナノポーラス体のうち40質量%以上が略球形であるのが好ましく、80質量%以上が略球形であるのがより好ましい。
【0059】
ナノポーラス体は300 m2以上のBET表面積を有し、好ましいナノポーラス体は500 m2以上のBET表面積を有する。300 m2以上のBET表面積を有するナノポーラス体は、優れた吸着性を有する。BET表面積は、窒素ガス吸着量等に基づいて見積もることができる。
【0060】
(3) 三次元高規則性
ナノポーラス体を形成する金属酸化物は、ナノメートルレベルの規則構造〈周期構造〉を有するのが好ましい。好ましい規則構造の例として、図1に概略的に示すヘキサゴナル構造や、3次元に連結した細孔を有するキュービック構造が挙げられる。ヘキサゴナル構造又はキュービック構造を有するナノポーラス体は、均一な孔径の細孔を有する。なお無機材料からなる骨格構造を有する限り本発明のナノポーラス体を構成する成分は限定されず、骨格以外の部分に有機物を含有しても良い。
【0061】
三次元規則性は、ナノポーラス体のX線回折パターンによって評価することができる。高い規則性を有するナノポーラス体はナノメートルオーダーの周期性を有するため、X線回折パターンのピークは、通常、小さい角度(2θが概ね5°以下)に現れる。得られるX線回折ピークのうち最大ピーク[第一ピークであり、ナノポーラス体の(100)面のX線回折ピーク]の半値幅が2°以下であると、三次元規則性に優れていると言える。半値幅は1.5°以下であるのが好ましく、1°以下であるのがより好ましい。
【0062】
(4) 微細孔
(a) 孔径
本発明の方法により得られるナノポーラス体は、マイクロポーラスな多孔体及び/又はメソポーラスな多孔体である。IUPACによると、多孔体は、細孔径2nm以下のマイクロポーラス固体、細孔径2〜50 nmのメソポーラス固体及び細孔径50 nm以上のマクロポーラス固体に分類される。本明細書中、「ナノポーラス体」とは、マイクロ孔及び/又はメソ孔を有し、無機物からなる骨格を有するものを言う。ナノポーラス体の孔径は2〜10 nmであり、2〜4.0 nmであるのが好ましい。本明細書中、ナノポーラス体の孔径は、ガス吸着法により下記式(7) 及び(8)から求めた孔径分布のピークにおける孔径と定義する。またガス吸着測定は、ナノポーラス体を300℃で8時間減圧乾燥(真空脱気)した後、−196℃で行うこととする。減圧乾燥時の圧力は10-1 Pa以下とするのが好ましく、10-2 Pa以下とするのがより好ましい。
【0063】
【数1】
[rc:吸着質の毛細管凝縮が起こる微細孔の臨界半径、
t:吸着質の多分子吸着層の厚さ、
p/p0:測定温度における吸着質の圧力pと飽和蒸気圧p0との比(相対圧)、
γ∞:吸着質のバルク液体状態での界面張力、
Vm:吸着質のバルク液体状態でのモル体積、
δ:界面張力面に対するゼロ吸着の変位を表す定数、及び
F(t)=RT[A/t2 − B] x ln C(A、B及びCはそれぞれ系により定まる定数である。)]
【0064】
式(7) は、Broekhoff及びde Boerにより提案されたものである(Broekhoff, J. C. P., 及びde Boer, J. H., J. Catal. 10, 377 (1968))。また式(8) はKelvin式を修正したものであり、GTKB-Kelvin-Cylindrical式と呼ばれている。これはGibbs-Tolman=koening-Buffによる、表面張力が細孔の曲率の関数となると考えた場合の修正kelvin式をシリンダー状細孔に当てはめたものである。またF(t)の式において、定数A、B及びCはそれぞれナノポーラス体の系により定まり、例えばナノポーラスシリカの場合、A = 0.1399、B = 0.034、C = 10である。上述の細孔径分布評価法については、Miyata, T, Endo, A, Ohmori, T, Akiya, T, Nakaiwa, M, Journal of Colloid and Inerface Science, 262, p116, 2003に詳細に記載されている。
【0065】
(b) 隔壁の厚さ
ナノポーラス体は、極めて小さな孔径を有する微細孔を有するのみならず、微細孔の隔壁も非常に薄い。隔壁の厚さは0.5〜3nm程度である。このように薄い隔壁のために、本発明の製造方法により得られるナノポーラス体は高い多孔度を有する。
【0066】
(5) 用途
ナノポーラス体は優れた吸着性を有するので、水や有機物の吸着剤として使用できる。例えばナノポーラス体1gあたり、0.15〜0.80 gのベンゼンを吸着することができる。また触媒の担体としても使用できる。例えばナノポーラス体にスルホン酸化合物を担持させたものは、アルデヒドやケトンのアセタール反応、酢酸フェニルのフリース(Fries)転移反応に使用することができる。ナノポーラス体は粉状又は粒状であるので、吸着剤や触媒担体として用いる場合に造粒等の必要が無く、焼成後にそのまま使用することができる。したがって吸着剤や触媒の製造が簡便であるためコスト安である他、造粒剤(バインダー)が微細孔内に詰まって、吸着能が低下するおそれがない。
【実施例】
【0067】
本発明を以下の実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0068】
実施例1
界面活性剤(Brij56)14.14 gと、エタノール(純度99.5体積%以上)69 gとを200 mLのガラスビーカーに入れ、マグネチックスターラーを使用して、常温で15分間撹拌した。次にテトラエチルオルトシリケート(純度98%)29.64 gと、硝酸アルミニウム(Al(NO3)3・9H2O)2.81 gとを溶解させた後、塩酸(1規定)27.0 gを加えて常温で20分間撹拌し、透明な加水分解物溶液を得た。
【0069】
この加水分解物溶液を500 mLナス型フラスコに移し、ロータリーエバポレータ(38 rpm)を使用して、25℃の温度及び70 hPaの減圧状態に1時間50分間保持することにより溶媒を揮発させ、加水分解物の濃縮液を得た。
【0070】
スプレードライヤー(ヤマト科学製 GS310)を使用して、濃縮液を窒素ガスと共にスプレードライし、白色粉体を得た。スプレードライ工程においては、ドライヤーの噴霧ノズルは口径0.7 mmφのものを使用し、噴霧速度を4.8 g / minとし、ノズル背圧を0.075 MPaとし、チャンバの入口温度を80℃とし、窒素ガスの風圧を0.5 MPaとした。
【0071】
得られた白色粉体を600℃で焼成して、界面活性剤を除去した。得られたポーラスシリカ(焼成体)を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。ポーラスシリカの走査型電子顕微鏡写真を図3に示す。図3から、ポーラスシリカは球形又は球形物が結合した形状を有することが分かった。
【0072】
ポーラスシリカのX線回折パターン(XRD)、及び窒素ガスによる吸着等温線により細孔構造の構造規則性の評価を行った。ナノポーラスシリカのX線回折パターン及び窒素吸着等温線をそれぞれ図4及び図5に示す。図5中、●は吸着を示し、○は脱着を示す。X線回折パターンにおいて、2θが2〜6°の位置にピークが現れていたことから、ポーラスシリカがナノメートルオーダーで高い構造周期性を有することが分かった。また窒素吸着等温線からBET表面積及び細孔径(脱着量から求めた細孔分布曲線の最頻値)を計算した。BET表面積は706 m2/gであり、細孔径は2.6 nmであった。BET表面積及び細孔径からも、ポーラスシリカがナノメートルレベルの細孔構造を有することが確認された。
【0073】
実施例2
界面活性剤(プルロニックP123)3.45 gと、エタノール(純度99.5体積%以上)13.8 gとを100 mLのガラスビーカーに入れて撹拌した後、テトラエチルオルトシリケート(純度98%)5.928 gと、硝酸アルミニウム(Al(NO3)3・9H2O)0.562 gとを溶解させ、塩酸(1規定)5.4 gを加えて10分間撹拌し、透明な加水分解物溶液を得た。
【0074】
この加水分解物溶液を100 mLナス型フラスコに移し、ロータリーエバポレータ(78 rpm)を使用して、40℃の温度及び150 hPaの減圧状態に1時間保持して溶媒を揮発させ、加水分解物の濃縮液を得た。
【0075】
スプレードライヤー(ヤマト科学製 GS310)を使用して、濃縮液を窒素ガスと共にスプレードライし、白色粉体を得た。スプレードライ工程においては、口径0.7 mmφのドライヤーの噴霧ノズルを使用し、噴霧速度を4.6 g / minとし、ノズル背圧を0.075 MPaとし、チャンバの入口温度を80℃とし、窒素ガスの風圧を0.5 MPaとした。
【0076】
得られた白色粉体を600℃で焼成して、界面活性剤を除去し、ポーラスシリカ(焼成体)を得た。ポーラスシリカの走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図6に示す。図6から、ポーラスシリカは球形又は球形物が結合した形状を有することが分かった。ポーラスシリカのX線回折パターン及び窒素吸着等温線をそれぞれ図7及び図8に示す。図8中、●は吸着を示し、○は脱着を示す。図7において、2θがほぼ1°の位置にピークが現れていたことから、ポーラスシリカがナノメートルオーダーで高い構造周期性を有することが分かった。また窒素吸着等温線からBET表面積及び細孔径(脱着量から求めた細孔分布曲線の最頻値)を計算したところ、それぞれ311 m2/g、5.29 nmであった。BET表面積及び細孔径からも、ポーラスシリカがナノメートルレベルの細孔構造を有することが確認された。
【0077】
実施例3
界面活性剤(プルロニックP103)3.68 gをエタノール、テトラエチルオルトシリケート、硝酸アルミニウム及び塩酸と混合した以外実施例2と同様にして加水分解物溶液を得、濃縮及びスプレードライした。
【0078】
得られた白色粉体を600℃で焼成して、界面活性剤を除去し、ナノポーラスシリカ(焼成体)を得た。ナノポーラスシリカのX線回折パターンを図9に示す。図9から、ナノポーラスシリカは球形又は球形物が結合した形状を有することが分かった。ナノポーラスシリカ(焼成体)の窒素吸着等温線を図10に示す。図10中、●は吸着を示し、○は脱着を示す。図9において、2θがほぼ1°の位置にピークが現れていたことから、ポーラスシリカがナノメートルオーダーで高い構造周期性を有することが分かった。また窒素吸着等温線からBET表面積及び細孔径(脱着量から求めた細孔分布曲線の最頻値)を計算したところ、それぞれ276 m2/g、5.09 nmであった。BET表面積及び細孔径からも、ポーラスシリカがナノメートルレベルの細孔構造を有することが確認された。
【0079】
比較例1
界面活性剤をエタノールに入れて撹拌した後、テトラエチルオルトシリケート(純度98%)31.26 g及び塩酸を混合した以外実施例1と同様にして、加水分解物溶液を得た。
【0080】
加水分解物溶液を25℃の温度及び70 hPaの減圧状態で1時間20分間反応させて濃縮した後、実施例1のスプレードライ工程と同じ条件でスプレードライしたところ、スプレードライヤーの内壁に白色のペーストが付着した。これは、十分に乾燥しなかった生成物が粉状にならずに凝集したものと考えられる。内壁に付着した白色固体を採取し、500℃で焼成して界面活性剤を除去し、得られた焼成体を走査型電子顕微鏡で観察した。焼成体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図11に示す。図11から分かるように、硝酸アルミニウムを添加しないで作製したナノポーラス体は、略球形を有していなかった。
【0081】
比較例2
界面活性剤(プルロニックP123)17.25 gと、エタノール(純度99.5体積%以上)69 gとを200 mLのガラスビーカーに入れて撹拌した後、テトラエチルオルトシリケート(純度98%)31.67 gと、塩酸(1規定)27.0 gとを加えて撹拌した以外実施例1と同様にして、透明な加水分解物溶液を得た。この加水分解物溶液を500 mLナス型フラスコに移し、ロータリーエバポレータ(78 rpm)を使用して、40℃の温度及び145 hPaの減圧状態で1時間反応させ、加水分解物の濃縮液を得た。
【0082】
実施例2のスプレードライ工程と同じ条件で濃縮液をスプレードライしたところ、スプレードライヤーの内壁に白色のペーストが付着した。この白色固体を500℃で焼成して界面活性剤を除去し、得られた焼成体を走査型電子顕微鏡で観察した。焼成体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図12に示す。図12から分かるように、比較例1と同様に、このナノポーラス体も略球形を有していなかった。
【0083】
比較例3
「Jornal of Physical Chemistry」(J.M.Kimら著、99巻、45号、16742頁、1995年)を参考にして、次のとおりメソポーラスシリカを合成した。シリカ源としてカタロイドSI-30を使用し、アルカリ源として水酸化ナトリウム及び25質量%アンモニア水溶液を使用し、界面活性剤としてセチルトリメチルアンモニウムブロマイドを使用し、シリカ源:NaOH:NH3:界面活性剤:水が6:1.5:0.15:2:250となるように水溶液を調製した。この水溶液を室温で1時間撹拌し、97℃で1日撹拌したところ、水溶液中にゲルが生成した。ゲルを含有する水溶液を室温に冷却した後、30質量%の酢酸水溶液を加えてpHを10.2に調製した。このゲル含有水溶液を97℃で1日撹拌する工程と、酢酸水溶液を加えてpH調整する工程とを3回繰り返した後、生成物をろ別し、純水で洗浄した。得られた白色の粉末を乾燥し、550℃で焼成して界面活性剤を除去した。
【0084】
得られた焼成粉末のSEM観察を行った。SEM写真を図13に示す。この粉末は略球形でないことが分かった。
【0085】
比較例4
「Jornal of the American Chemical Society」(チャオら著、120号、6024〜6036頁、1998年)を参考にして、次のとおりメソポーラスシリカを合成した。界面活性剤(プルロニック P123)2.08 gと、水15.6 mLと、塩酸(2規定)62.4 gとをフラスコに入れて撹拌した後、テトラエチルオルトシリケート(純度98%)4.73 mLを加えて40℃で20時間撹拌し、80℃で24時間静置した。水溶液中の生成物はろ別した後、純水で洗浄した。得られた白色の粉末を乾燥し、500℃で焼成して界面活性剤を除去した。
【0086】
得られた焼成粉末のSEM観察を行った。SEM写真を図14に示す。この粉末は略球形でないことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】ナノポーラス体の製造原理を示す概略工程図である。
【図2】本発明のナノポーラス体の一例を示す顕微鏡写真である。
【図3】実施例1のナノポーラスシリカを示す顕微鏡写真である。
【図4】実施例1のナノポーラスシリカのX線回折パターンを示すグラフである。
【図5】実施例1のナノポーラスシリカの窒素吸着等温線を示すグラフである。
【図6】実施例2のナノポーラスシリカを示す顕微鏡写真である。
【図7】実施例2のナノポーラスシリカのX線回折パターンを示すグラフである。
【図8】実施例2のナノポーラスシリカの窒素吸着等温線を示すグラフである。
【図9】実施例3のナノポーラスシリカのX線回折パターンを示すグラフである。
【図10】実施例3のナノポーラスシリカの窒素吸着等温線を示すグラフである。
【図11】比較例1の多孔質シリカを示す顕微鏡写真である。
【図12】比較例2の多孔質シリカを示す顕微鏡写真である。
【図13】比較例3のメソポーラスシリカを示す顕微鏡写真である。
【図14】比較例4のメソポーラスシリカを示す顕微鏡写真である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機材料からなる骨格構造中にナノメータレベルの孔径を有する微細孔が形成された略球形のナノポーラス体の製造方法であって、(a) 金属アルコキシド及び/又はその重縮合物と、界面活性剤と、溶媒とを含有する反応溶液中で、前記金属アルコキシド及び/又は前記重縮合物を加水分解し、加水分解物溶液を得る工程、及び(b) 一定方向に流れる50〜170℃のガスに前記加水分解物溶液を噴霧することによりその溶媒を揮発させる工程を含み、前記加水分解物溶液が金属塩を含有するようにした後で金属塩含有加水分解物溶液を噴霧することを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載のナノポーラス体の製造方法において、前記加水分解物溶液の溶媒の少なくとも一部を揮発させ、得られた濃縮液を不活性ガスと共に噴霧することを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のナノポーラス体の製造方法において、水溶性であって、170℃以下の沸点を有する溶媒を用いることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のナノポーラス体の製造方法において、前記溶媒として、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、i-プロピルアルコール、ヘキサノール、n-ブチルアルコール、t-ブチルアルコール、i-ブチルアルコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、4-メチルジオキソラン、アセトニトリル、2-メチルテトラヒドロフラン、2-エトキシエタノール、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテル及び2-メトキシ-1-プロピルアセテートからなる群より選ばれた少なくとも一種を用いることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のナノポーラス体の製造方法において、前記界面活性剤としてポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド重縮合物及び/又はモノアルキル−ポリエチレンオキサイド重縮合物を用いることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のナノポーラス体の製造方法において、前記金属アルコキシド及び/又はその重縮合物として、ケイ素、ジルコニウム、チタン及びアルミニウムからなる群より選ばれた少なくとも一種の金属のアルコキシド及び/又はアルコキシドの重縮合物を用いることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のナノポーラス体の製造方法において、前記金属アルコキシド及び/又は前記重縮合物としてアルコキシシラン及び/又はその重縮合物を用いることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のナノポーラス体の製造方法において、前記反応溶液のpHを1.0〜5にすることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のナノポーラス体の製造方法において、前記金属塩がTi、Ge、Si、Al、Cr、Zr、Mn、Co、Ni、Fe、Mg、V、Sn、W、Ta、Nb、Hf、Pt、Pd、Ru、Rh及びIrからなる群より選択された少なくとも一種の塩であることを特徴とする方法。
【請求項10】
無機材料からなる骨格構造中にナノメータレベルの孔径を有する多数の微細孔が形成された略球形のナノポーラス体であって、0.5〜50μmの平均粒径及び300 m2以上のBET表面積を有し、前記微細孔の隔壁の厚さが0.5〜3nmであり、窒素吸着等温線から求めた孔径分布のピークにおける孔径が2.5〜10 nmであり、X線回折パターンにおける少なくとも一つのピークが1.5 nm以上の面間隔を有し、最大のX線回折ピークの半値幅が2°以下であることを特徴とするナノポーラス体。
【請求項11】
請求項10に記載のナノポーラス体であって、下記式(1)
M1aM2bOh ・・・(1)
(ただし、aは1以下の正の数を示し、bは0以上1未満の数を示し、a + b = 1であり、hは1〜2.5の数を示し、M1はSi、Al、Ti、Zr及びGeからなる群より選ばれた少なくとも一種を示し、M2はMn、Co、Ni、Fe、Cr、Mg、V、Sn、W、Ta、Nb、Hf、Pt、Pd、Ru、Rh及びIrからなる群より選ばれた少なくとも一種を示す。)により表されることを特徴とするナノポーラス体。
【請求項1】
無機材料からなる骨格構造中にナノメータレベルの孔径を有する微細孔が形成された略球形のナノポーラス体の製造方法であって、(a) 金属アルコキシド及び/又はその重縮合物と、界面活性剤と、溶媒とを含有する反応溶液中で、前記金属アルコキシド及び/又は前記重縮合物を加水分解し、加水分解物溶液を得る工程、及び(b) 一定方向に流れる50〜170℃のガスに前記加水分解物溶液を噴霧することによりその溶媒を揮発させる工程を含み、前記加水分解物溶液が金属塩を含有するようにした後で金属塩含有加水分解物溶液を噴霧することを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載のナノポーラス体の製造方法において、前記加水分解物溶液の溶媒の少なくとも一部を揮発させ、得られた濃縮液を不活性ガスと共に噴霧することを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のナノポーラス体の製造方法において、水溶性であって、170℃以下の沸点を有する溶媒を用いることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のナノポーラス体の製造方法において、前記溶媒として、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、i-プロピルアルコール、ヘキサノール、n-ブチルアルコール、t-ブチルアルコール、i-ブチルアルコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、4-メチルジオキソラン、アセトニトリル、2-メチルテトラヒドロフラン、2-エトキシエタノール、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテル及び2-メトキシ-1-プロピルアセテートからなる群より選ばれた少なくとも一種を用いることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のナノポーラス体の製造方法において、前記界面活性剤としてポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド重縮合物及び/又はモノアルキル−ポリエチレンオキサイド重縮合物を用いることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のナノポーラス体の製造方法において、前記金属アルコキシド及び/又はその重縮合物として、ケイ素、ジルコニウム、チタン及びアルミニウムからなる群より選ばれた少なくとも一種の金属のアルコキシド及び/又はアルコキシドの重縮合物を用いることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のナノポーラス体の製造方法において、前記金属アルコキシド及び/又は前記重縮合物としてアルコキシシラン及び/又はその重縮合物を用いることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のナノポーラス体の製造方法において、前記反応溶液のpHを1.0〜5にすることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のナノポーラス体の製造方法において、前記金属塩がTi、Ge、Si、Al、Cr、Zr、Mn、Co、Ni、Fe、Mg、V、Sn、W、Ta、Nb、Hf、Pt、Pd、Ru、Rh及びIrからなる群より選択された少なくとも一種の塩であることを特徴とする方法。
【請求項10】
無機材料からなる骨格構造中にナノメータレベルの孔径を有する多数の微細孔が形成された略球形のナノポーラス体であって、0.5〜50μmの平均粒径及び300 m2以上のBET表面積を有し、前記微細孔の隔壁の厚さが0.5〜3nmであり、窒素吸着等温線から求めた孔径分布のピークにおける孔径が2.5〜10 nmであり、X線回折パターンにおける少なくとも一つのピークが1.5 nm以上の面間隔を有し、最大のX線回折ピークの半値幅が2°以下であることを特徴とするナノポーラス体。
【請求項11】
請求項10に記載のナノポーラス体であって、下記式(1)
M1aM2bOh ・・・(1)
(ただし、aは1以下の正の数を示し、bは0以上1未満の数を示し、a + b = 1であり、hは1〜2.5の数を示し、M1はSi、Al、Ti、Zr及びGeからなる群より選ばれた少なくとも一種を示し、M2はMn、Co、Ni、Fe、Cr、Mg、V、Sn、W、Ta、Nb、Hf、Pt、Pd、Ru、Rh及びIrからなる群より選ばれた少なくとも一種を示す。)により表されることを特徴とするナノポーラス体。
【図1】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図6】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図6】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2006−69864(P2006−69864A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−257266(P2004−257266)
【出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(502205145)株式会社物産ナノテク研究所 (101)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(502205145)株式会社物産ナノテク研究所 (101)
【Fターム(参考)】
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