説明

ナノメーターサイズの粒子を用いる無電解めっき

無電解金属めっき浴中へナノメーターサイズの粒子を添加することによって、該めっき浴中で発生するシーディングの低減又は除去がもたらされる。該シーディングの低減化によって、塗膜中の混在物又は孔食の低減化がもたらされる。一般的には、保全と頻繁におこなわれるタンク洗浄のスケジュールを通常の2〜3日間を越えて延長させることができる。塗膜の特性は、該浴中での該粒子の共沈着によって改良される。硬度、耐食性及び耐水性等の特性が改良される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解めっき浴へのナノメーターサイズの粒子の添加に関する。ナノメーターサイズの粒子は、無電解塗装法及び塗膜に対して有益な効果をもたらす。
【背景技術】
【0002】
自然分解[シーディング(seeding)]は、無電解めっき工業において問題となっている。シーディングは、生産用めっきタンクが使用できる時間を制限することによって、生産処理量を低減させる。シーディングが発生すると、めっき浴は除去されなければならず、発生した残渣は化学的な剥離処理及び/又は機械的な除去処理によってめっきタンクから取り除かれる。このような除去処理又は浄化処理は、通常はめっき浴を3〜5日間使用する毎におこなわれる。一部の適用分野、特に、めっきされた表面上に混在物、荒さ及び孔食が存在してはならないことが要求されるエレクトロニックス工業においては、使用されるめっき浴は1日毎に交換するのが一般的である。
【0003】
めっきタンクは、崩壊屑を溶解させるために、硝酸を用いて処理される。一部の工場においては、洗浄用酸の使用を回避するために、使い捨てタンクラインを使用している。また、一部の工場においては、タンクとフィルターのデザインを改良することによって、浄化処理の間隔を延長させている。無電解めっきに関連するシーディングの問題に起因して、めっき工場においては、通常は2つの生産用めっきタンクが採用されており、一方のめっきタンクが生産作業に供されている間は、他方のめっきタンクは、発生した残渣を溶解させるために、適当な酸(一般的には硝酸)の注入による洗浄処理に付される。
【0004】
硝酸を除去して貯蔵した後、タンクとフィルター系は、通常は適当な酸中和剤(例えば、水酸化アンモニウム)を用いるパージ処理に付され、次いで、めっき浴は浄化しためっきタンク内へ戻される。この操作によって、化学めっき浴が、めっき溶液に重大な損傷をもたらす硝酸と反応することが防止される。
【0005】
硝酸と水酸化アンモニウムは数サイクルに対して使用可能である。しかしながら、両者は最終的には対応する新鮮な溶液で置き換えることが必要であり、使用済みのこれらの物質は有害な廃棄物となり、環境汚染の問題をもたらす。
【0006】
ニッケル硼素(NIB)めっきは当該分野においては、シーディングを伴う特に問題のあるめっきであることが知られているが、これは還元剤としての水素化硼素ナトリウムの強力な反応特性に起因する。比較的反応性の弱い還元剤(例えば、次亜燐酸ナトリウム又はジメチルアミンボーレート(DMAB))を含む無電解めっき浴は、シーディングに関しては、NIBめっき浴の場合ほど大きな問題をもたらさないが、これらのめっき浴においてもシーディングは発生する。
【0007】
従来技術においては、クロムめっき用電気化学浴中へナノメーターサイズのDLC(炭素含有)粒子が添加されている。これらのナノメーターサイズの粒子はクロム塗膜中へ共沈着しない。無電解めっきにおいては、ナノメーターサイズの粒子は塗膜中に共沈着する。ヘンリーらによる米国特許第6156390号明細書には、還元剤として次亜燐酸ナトリウムを使用することによってDLC様粒子を無電解ニッケル浴中へ添加することが教示されている。
【0008】
ナノメーターサイズのダイヤモンド様カーボン(diamond-like carbon ;「DLC」として知られている)はナノブロックス社(ボコ・ラトン、フロリダ)から市販されている製品(直径:2〜8nm)である。DLCは次の米国特許の明細書に記載の方法によって製造することができる:第5861349号及び第5916955号。この種のDLC粒子を約10%の濃度で含有する水性分散液は、モイコ・インダストリーズ社(フィラデルフィア、ペンシルバニア)から入手可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、無電解めっき浴中で発生する塗膜のシーディングを低減させるか、又は除去することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ナノメーターサイズの粒子を無電解めっき浴中へ添加することによって、該めっき浴中で発生するシーディングを低減させるか、又は除去することができる。ニッケル硼素浴中においては、保全と頻繁におこなわれるタンク洗浄のスケジュールを、通常の2〜3日間の間隔を越えて延長させることができる。本発明の実施例においては、タンク洗浄が必要となるまでに、12日間又はこれよりも長期間にわたって問題のないめっきを続行することができた。
【0011】
本発明においては、ナノメーターサイズの粒子が、金属と燐を含有する無電解めっき浴中へ添加され、これによってシーディングが低減されるか、又は除去される。また、これによって、塗膜中の混在物と孔食の量が低減される。
【0012】
本発明は、塗膜の特性を改良することも目的としており、本発明によれば、塗膜の特性、例えば、硬度、耐腐食性及び耐摩耗性等が改良される。
【0013】
ナノメーターサイズの粒子を使用しないで得られるNIB塗膜の微細構造に比べて、ニッケル硼素とナノメーターサイズの粒子との共沈着は、全てのめっき試料の物理的構造に影響を及ぼす。変化の程度は、異なる還元剤の強い反応特性に依存すると考えられる。水素化硼素ナトリウムで還元した浴を用いて被覆した試験パネルの物理的構造に対しては最も顕著な変化がもたらされた。一方、DMAB浴を用いて得られた試験パネルの構造に対しては、明らかな変化は見られたが、変化の程度は最も小さかった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
ナノメーター粒子の有効なサイズは、浴中でのシーディングを低減させるような大きさである。無電解浴中へ添加されるナノメーター粒子のサイズは、100nm未満の直径になるようにすべきであり、これによって、シーディングを低減させるか、又は塗膜の特性を改良することが可能となる。この有効なサイズは、粒子の化学的組成と浴の補給液の組成に最も依存すると考えられる。酸化ジルコニウムの場合、有効なサイズは40nm未満であり、また、炭化ケイ素の場合の有効サイズは30nm未満である。好ましいサイズは25nm未満であると考えられる。より好ましくは、有効サイズは10nm未満にすべきである。
【0015】
ナノメーター粒子は、浴中へ分散液として添加してもよく、あるいは固体状態で添加してもよい。ナノメーター粒子は、該粒子の表面上に結合した官能基を有していてもよい。ナノメーター粒子を固体状態で浴中へ添加する場合、良好な分散状態が維持されるように、該浴は十分に撹拌すべきである。ナノメーター粒子の1%程度は浴中又は分散液中において凝集することが予想され、このような凝集によって5ミクロンよりも大きなサイズの粒子が形成される可能性がある。
【0016】
ナノメーター粒子の存在によって、金属イオンの局在化セルの形成、化学的還元剤による自触媒的還元反応の開始、経時的に増量してめっき浴の底部及び/又は加工製品の表面上へ沈殿して望ましくない粗面をもたらす固体状粒子の形成、及び/又はめっきタンクとこれに関連する衛生工事材料のめっきに使用される化学薬品の廃液の発生が防止される。
【0017】
ナノメーター粒子の「有効サイズ」は、浴中でのシーディングの低減化及び/又は塗膜特性の改良をもたらすようなサイズである。過剰量のナノメーター粒子をめっきタンク中へ添加すると、この過剰分はタンクの底部へ沈殿する。例えば、めっき浴1ガロンあたり7.5gよりも多量のDLC粒子を添加すると、過剰量のDLCの一部はめっきタンクの底部に沈殿する。一方、めっき浴1ガロンあたり0.75g(前記の添加量の10%)のDLCの添加量は、シーディングの低減化又は塗膜の改良のためには不十分である。DLCの好ましい添加量は、めっき浴1ガロンあたり約3〜4gである。
【0018】
DLC粒子の使用によって、塗装沈着物の特性も著しく改変又は改良される。ナノメーターサイズのダイヤモンド粒子又は「ダイヤモンド様カーボン」粒子をめっき浴中へ添加する結果として、DLC粒子は塗膜中へ共沈着する。以下に例示する全ての実施例は、タングステン酸鉛で安定化された浴を用いておこなった。
【0019】
塗膜のヌープ微小硬度(25g;10sec)は、約850〜950(DLC不含塗膜の値)から1000〜1100(DLC含有塗膜の値)へ変化したが、熱処理をおこなった場合には、該微小硬度は約1400(DLC不含塗膜の値)から1800(DLC含有塗膜の値)へ増加した。柱状構造は空間的により緻密となり、柱状体間の多孔度はより小さくなった。
【0020】
タングステン酸鉛を安定剤として使用した典型的な無電解ニッケル硼素めっき浴中へナノメーターサイズのDLC粒子を添加することによる塗装沈着物の物理的特性の改良に関しては、以下の実施例によって説明する。
【実施例】
【0021】
実施例1
マッコマスによる米国特許第6066406号明細書に記載の方法に従って、2つの無電解ニッケル浴(NIB)(15ガロン)を調製した(安定剤:タングステン酸鉛)。一方の浴は「浴1」とし、他方の浴は「浴−2−DLC」として識別した。
【0022】
これらのめっき浴の調製法は以下の通りである。
1)2つのめっき用タンク(15ガロン)内へ7.5ガロンの脱イオン(DI)水を導入した。
2)塩化ニッケル(1362g)を各々のタンク内へ添加し、充分に混合した。
3)約3300mlのエチレンジアミン(EDA)を各々の浴液中へ添加し、充分に混合した後、混合液を100Fよりも低い温度まで冷却させた。
4)水酸化ナトリウム(約1500g)を各々の浴液中へ添加し、充分に混合した。DI水を添加することによって、両方のタンク内の液量を15ガロンに調整した。
5)直径が2〜8nmのDLC粒子を約10%含有する水性分散液1120gをDI(250ml)中へ添加し、この混合物中へエチレンジアミン(50ml)を添加し、充分に混合した。得られた混合物全体を15ガロンのめっき浴「浴−2−DLC」中へ添加した。使用したDLC粒子は、米国特許第5861349号及び/又は同第5916955号の明細書に記載の方法に従って調製した。
【0023】
1ガロンの希釈剤溶液を、次のようにして調製した。
1)約1100gの水酸化ナトリウムをDI水中へ添加し、充分に混合して得られた溶液を室温まで冷却させた。
2)約363gの水素化硼素ナトリウムを上記の溶液中へ添加し、充分に混合した。
3)得られた溶液中へ水を添加し、全体で1ガロンの溶液とした。
【0024】
別の安定化溶液を次のようにして調製した。
1)DI水中にEDA、EDTA及び水酸化ナトリウムを含有する溶液中へタングステン酸鉛10gを添加した。
2)得られた溶液を充分に混合した後、室温まで冷却させた。
3)この溶液中へ水を添加することによって、全体が1ガロンの溶液を調製し、「安定剤溶液」として識別した。
【0025】
使用浴の調製
両方のめっき溶液を15ガロンのめっきタンク中へ移した。この操作は、めっき溶液を保有しながら一定の速度で作動するポンプとフィルター系を用いて、タンク内の溶液を一定速度で機械的に撹拌しながらおこなった。この溶液を、電気抵抗型ヒーターを用いて加熱した。サーモスタットを設置し、溶液の温度は192F±2Fに維持した。
【0026】
各々の浴中へ調製したクーポンを導入する5分前に、各々の希釈剤と安定剤溶液120mlをめっき浴中へ添加した。この添加操作は、めっき工程中において、30分毎におこなった。
【0027】
クーポン/ブランク試験用試験体の調製
軟鋼製試験用クーポン(2×3インチ)12個及び中質鋼製試験体「ファレックスピン(Falex Pin)」6個を次のようにして調製した。
1)160Fの洗剤中に5分間浸漬した後、充分なすすぎ処理に付した。
2)30%塩酸溶液中に2分間浸漬した後、すすぎ処理に付した。
3)DI水を用いるすすぎ処理を充分におこなった。
【0028】
めっき
1)10個のクーポンと3個のファレックスピンを各々のめっきタンク/浴内へ導入した。
2)めっき過程中(約6時間)、各々の浴中での沈着速度は、安定剤溶液と希釈剤溶液を各々の浴中へ繰り返して添加する時に測定して記録した。
3)めっきを約6時間行った後、両方のめっき溶液からは、厚さが約0.004インチのニッケル硼素塗膜を有する被覆試験体が得られた。
「浴−2−DLC」中で被覆されたクーポンとファレックスピンの方がより平滑な状態を示すことが直ちに識別された。
【0029】
20個のクーポンのうちの半数及び6個のファレックスピンのうちの半数を無作為に選択し、725Fで90分間の熱処理に付した。残りの半数は「めっきされた」状態で放置した。
めっき層を調べたところ、ニッケル硼素塗膜中にDLC粒子が共沈着されていた。
【0030】
硬度に対する効果
硬度に対する効果は次の試験によって調べた。
1)4つのグループの各々から無作為に選択した1個のクーポンを微小硬度試験に供した。正確を期すために、10個の圧痕を形成させ、1つの平均値を得た。ヌープ圧子(Hk)に25gの荷重をかけて10秒間保持した。
2)基準として、「浴−1」を用いて得られた「めっきされた」状態の試験体を最初に評価した。硬度の測定には、ヌープ微小硬度法を使用した。「浴−1」を用いて得られた試験体の硬度は平均して1020Hkであった。
3)次に、「浴−1」を用いて得られた試験体を熱処理に付した試験体について、ヌープ試験によって評価した。熱処理後の硬度の平均値は1320Hkであった。
4)「浴−2−DLC」を用いてめっきされた試験体の硬度の平均値は1210Hkであった。
5)「浴−2−DLC」を用いて得られたステップ4の試験体は、熱処理に付した後では、1646〜1861Hkの硬度を示した。この値は、DLCを含有しない「浴−1」を用いて得られた試験体の熱処理後の値に比べて、少なくとも300Hk高い硬度である。
【0031】
ニッケル硼素沈着物の物理的構造に対するDLCの効果は以下の試験によって検討した。
1)この試験においては、4つのグループの各々から無作為に選択した1つのクーポンを使用した。
2)4つのクーポンは、無作為に選択した領域において切断した(一般的には、各々のクーポンの端部から約1/3の部位で切断した)。
3)各々の試験体は、塗膜の断面が視認できるように固定した。切断面を形成させることによって、塗膜の断面及び塗膜とクーポン基体との界面を評価することができた。
4)基準として、「浴−1」のニッケル硼素から得られためっきされた状態の試験体を最初に評価した。ニッケル硼素の柱状構造は、標準的な硝酸/イソプロピルアルコール混合液を用いるエッチング後において、明確に認められた。柱状体間の輪郭は鮮明であった。
5)熱処理に付したニッケル硼素試験体においては構造の改善が認められた。
6)「浴−2−DLC」から得られためっきされた状態の試験体は、5000倍の観察によれば、多孔度が低くて緻密なグレイン(grain)構造を示す点で著しく改善された構造を示したが、DLCのような共沈着物の明確な徴候は認められなかった。
7)「浴−2−DLC」から得られた試験体を熱処理に付すことによって、塗装沈着物の全般的な物理的構造に関しては、最も顕著な改善が認められた。細孔は存在せず、また、グレインと柱状体の境界には、通常は明確に存在する柱状体の境界線はほとんど存在しなかった。別の重要な相違点は、直径が2〜3ミクロンの炭素に富むマス(即ち、熱処理中に凝集したDLC、炭化硼素又はその他の炭素含有化合物)のクラスターが出現することである。
【0032】
ニッケル硼素塗膜の耐腐食性は、腐食性環境からその表面を完全に封止状に保護する機能と同様に良好かつ有効である。ニッケル硼素塗膜は一般的には柱状構造を有しており、また、通常は、ニッケル硼素を塗布する前の被塗布面を最初に封止するために、銅又は電解ニッケルのような遮断塗料の下層を必要とする。めっきの初期に生成するニッケル硼素は腐食保護の点では価値がない。この理由は、浴の安定性の欠如に起因して、柱状体の境界面におけるボイド(void)の形成が頻発するからである。新規な安定化法によれば、安定化される自触媒的なニッケル硼素沈着反応が発生するので、耐腐食性は改善される。DLCの添加によって多孔度は低減されるので、耐腐食性はさらに改善される。このことは、ASTM B−117に従って、各々のグループから選択した1つのクーポンを塩噴霧室へ導入することによって確認された。4つのクーポンは、表面酸化によって赤錆が視認されるまで塩噴霧試験に供した。
1)「浴−1」から得られためっきされたままのニッケル硼素は500時間後に赤錆が認められた。
2)「浴−1」から得られたクーポンは、熱処理に付した後では、120時間後に赤錆を発生させた。
3)「浴−2−DLC」から得られためっきされたままのクーポンは、1000時間後において、発錆を伴うことなく塩噴霧室から取り出すことができた。
4)「浴−2−DLC」から得られたクーポンは、熱処理に付した後でも、1000時間後において、表面上に発錆を伴うことなく塩噴霧室から取り出すことができた。
【0033】
マッコマスによる米国特許第6183546号明細書に記載された方法に従って、ニッケル、硼素及びタリウムで被覆した第2組の腐食試験用試験体を、ASTM B−117に規定される前記と同様の塩噴霧室を使用する腐食試験に供した。この試験は、DLCを含有する以外は同一組成を有する浴を使用した場合と比較した。
試験結果は以下の通りである(表示する時間は、該試験において不合格になるまでの時間である)。
1)ニッケル、硼素及びタリウムでめっきしたままの試験体(基準):24時間未満
2)ニッケル、硼素及びタリウムでめっきした後で熱処理に付した試験体:24時間未満
3)ニッケル、硼素、タリウム及びDLCでめっきしたままの試験体:280時間
4)ニッケル、硼素、タリウム及びDLCでめっきした後で熱処理に付した試験体:320時間
【0034】
以下の試験は耐摩耗性に関するものである。
ファレックスピン及びV形促進摩耗摩擦試験機を使用することによって、タングステン酸鉛含有浴を用いて得られた一般的なニッケル硼素試験体の耐摩耗性を測定した。塗装されたピンを、印加される荷重に拘わらず該ピンを一定の角速度で回転させる装置に取り付けた。1対のV形ブロックを、回転中のピンの両側に一定の同じ圧力又は荷重が印加されるように固定した。試験の進行に伴い、各々のV形ブロックからの荷重をピンの両側に対して等しく増加させることによって、「圧搾効果(squeezing effect)」をピンに付与した。該圧搾効果は、ピンの破壊又はピンを所定の位置に保持する剪断ピンの破壊によって最終的な破壊が発生するまで増加した。この試験は1950年代の中頃においてはASTMによって承認された試験法として容認されていたが、最近の20年間では、金属仕上工業においては、機能塗料の耐摩耗性を決定する試験が採用されている。
【0035】
4つのグループの各々から選択した塗装ピンは、破壊に至るまで試験に供した。V形ブロックは、ASTM標準によるファレックス1095高炭素工具鋼を熱処理に付して52Rcまで硬化させたものである。破壊屑を効果的に除去するが、顕著な潤滑性は付与しないホワイトミネラルオイルを使用することによって、塗膜自体の減摩性を隔離した。以下に示す実験結果において、全ての時間と圧力は破壊点での数値である。
1)未塗装ピン(基準):2.2分間/5100PSI
2)「浴−1」から得られためっきされたままのニッケル硼素(基準):4.5分間/13200PSI
3)「浴−1」から得られた試験体を熱処理に付したもの:12.5分間/87000PSI
4)「浴−2−DLC」から得られためっきされたままの試験体:10.2分間/71000PSI
5)「浴−2−DLC」から得られた試験体を熱処理に付したもの:最初の試験は、V形ブロックが230000PSIで破壊したので、30分後に停止した。
6)「浴−2−DLC」から得られた試験体を熱処理に付したもの/「浴−1」を用いて塗装したV形ブロックを熱処理に付したもの:試験は、最大荷重が600000PSIの条件下で23分間おこなった。剪断ピンは破壊したが、塗膜には損傷はなかった。
【0036】
ナノメーターサイズのDLC粒子の添加によって、いずれの沈着物においても、硬度、圧縮強さ、耐腐食性及び耐摩耗性に関して著しい改善がみられた。ニッケル、硼素及びタリウムを含有する塗膜における耐腐食性の著しい増大は、この種のナノメーターサイズの粒子の添加によって、柱状構造を有する塗膜の物理的構造と機械的特性に大きな効果がもたらされるということを明確に証明するものである。
【0037】
無電解めっき浴中へナノメーターサイズの粒子を添加することによって、塗膜のシーディング又は孔食の低減化がもたらされるという効果を、以下の実施例によって説明する。
【0038】
実施例2
ニッケル硼素塗膜を比較するために、DLCを含有するか、又は含有しない無電解ニッケル硼素めっき浴(1ガロン)を以下のようにして調製した。
DLCを含有しないめっき浴の調製法は次の通りである。
1)2500mlのDI水を4リットルのビーカー内へ導入した。
2)金属塩/イオン源として、塩化ニッケル(約90g)をビーカー内の水中へ添加し、充分に混合した。
3)ビーカー内のニッケル含有水中へ約225gのエチレンジアミン(EDA)(錯生成剤)を添加し、充分に混合した。
4)水、ニッケル及びEDAを含有するビーカー内の溶液中へ水酸化ナトリウム(約100g)を添加し、該溶液のpHを12.5まで高めた。
5)ビーカー内へ、溶液の全量が1ガロン(3783ml)になるように、DI水を添加した。
【0039】
無電解ニッケル硼素及び2〜8nmのDLCを含有するめっき浴(1ガロン)を次の様にして調製した。
1)2500mlのDI水を4リットルのビーカー内へ導入した。
2)金属塩/イオン源として、塩化ニッケル(約90g)をビーカー内の水中へ添加し、充分に混合した。
3)ビーカー内のニッケル含有水中へ約225gのエチレンジアミン(EDA)(錯生成剤)を添加し、充分に混合した。
4)水、ニッケル及びEDAを含有するビーカー内の溶液中へ水酸化ナトリウム(約100g)を添加し、該溶液のpHを12.5まで高めた。
5)直径が約2〜8nmのDLC粒子を約10%含有する水性分散液(約75g)を約25mlのDI水中へ添加した。該DLC粒子は、米国特許第5861349号及び同第5916955号各明細書に記載の方法によって調製した。この混合物中へ、約25mlのエチレンジアミンを添加し、充分に混合した。得られた全混合物を上記のめっき浴中へ添加した。
6)ビーカー内へ、内容物の全量が1ガロン(3783ml)になるように、DI水を添加した。
【0040】
希釈剤溶液を以下の様にして調製した。
1)電磁攪拌棒を具備した4リットルのビーカー内へDI水(2500ml)を導入した。
2)約1135gの水酸化ナトリウムをビーカー内のDI水中へ添加し、充分に混合して得られた溶液を、撹拌下で室温まで冷却させた。
3)約360gの水素化硼素ナトリウム粉末を上記の溶液中へ添加し、充分に混合した後、冷却させた。
4)得られた溶液中へDI水を添加し、全体で1ガロンの溶液とした。
【0041】
浴安定剤溶液を次の様にして調製した。
1)電磁攪拌棒を具備した4リットルのビーカー内へDI水(3000ml)を導入した。
2)約25gの水酸化ナトリウムをビーカー内のDI水中へ添加した。
3)10gのタングステン酸鉛(PbWO)を上記溶液中へ撹拌下で添加し、10分間にわたって充分に混合した。
4)約80mlのエチレンジアミン(EDA)を上記溶液中へ添加した後、透明な外観を呈する溶液が得られるまで混合した。
【0042】
パネルを次の様にして調製した。
1)撹拌式/ホットプレート型サーモスタットを使用してめっき浴の温度を約193±1Fに調整した。
2)7枚の軟鋼パネル(4インチ×1インチ×0.032インチ厚)を、溶剤型クリーナーを用いる脱脂処理に付した。
3)これらのパネルに1〜7の数字を彫刻した。
4)7枚の同一パネルを、酸化アルミニウム(粒度:160)を用いる研磨グリットブラスト(grit blast)処理に付した。
5)7枚の同一パネルを、洗剤洗浄溶液中に約4分間浸漬することによって洗浄した。
6)上記パネルはDI水で充分にすすいだ。
7)これらのパネルを30%塩酸溶液中において、ガスの発生が開始してから約1分間浸漬した。
8)これらのパネルはDI水で充分にすすいだ。
9)パネルの厚さは、パネルの中央部(穿孔端から約1インチの部位)において測定した。
【0043】
これらのパネルを1ガロンのめっき浴の中央部に浸漬し、前述のようにして調製したナナオメーターサイズの粒子のボイドが発生する時間を記録した。これらのパネルをめっき浴中へ浸漬する前(3〜4分前)に、希釈剤溶液(10ml)と安定剤溶液(10ml)を充分に混合した後、めっき浴中へゆっくりと添加した。この操作を、所望の塗膜厚(約0.003インチ)が得られるまで、30分毎におこなった。
【0044】
得られたパネルからめっき溶液を充分にすすぎ落とした後、押込空気で乾燥させた。めっき浴は、サイホン/デカンテーションによって、浴の上部から清浄貯蔵容器内へ注意深く移送させた。DLCを添加しなかった浴を5時間よりも長時間にわたって連続的にめっき処理に使用した後でビーカー内に採取した浴液を観察したところ、予想されたように、ビーカーの底部には、約8グラムの固体状粒子と残渣が存在した。テフロンで被覆した電磁撹拌棒にも一部の付着物が見られたが、一般的には、予想されたように、溶液の時計回りの回転に起因して、多量の沈殿物はビーカーの底部を横切って分散されてビーカーの外縁部に存在した。
【0045】
対照パネルの各表面上には、約0.003インチのニッケル硼素めっきが見られた。一定の濾過処理を伴わずにガラス製ビーカー内で使用された無電解めっき浴の場合には、予想されたように、各パネルの一方の面は他方の面に比べてより高い表面荒さを示した。この理由は、前者が溶液の対向回転方向に面したからである。
【0046】
固体状粒子はICPによって分析したところ、ニッケルは約95重量%であり、硼素は5重量%であった。このことは、米国特許第6066406号明細書に記載されているようなニッケル硼素沈着物を示す。
【0047】
ビーカーの底部に存在した固体状のデブリ(debris)、残渣及び粒子をSEM−EDAXによって調べたところ、粒子の中心は高倍率によっても視認することはできなかった。このことは、各粒子のランダムな核形成を裏付けるものである。さらに、固体状のデブリ粒子中にはその他の元素は存在しなかった。このことは、固体状粒子は自然分解の結果であって、その他の元素の浴中への導入と分解の開始の結果ではないということを裏付けるものである。
【0048】
実施例3
約2〜8nmの粒子を用いて調製したニッケル硼素浴を使用して、実施例2の場合と同様の試験をおこなった。
【0049】
パネルからめっき溶液を充分にすすぎ落とした後、押込空気で乾燥させた。めっき浴は、サイホン/デカンテーションによって、浴の上部から清浄貯蔵容器内へ注意深く移送させた。浴を5時間よりも長時間にわたって連続的にめっき処理に使用した後でビーカー内を観察したところ、ビーカーの底部には、約1グラム未満の固体状のニッケル硼素粒子と残渣が存在した。電磁撹拌棒への付着物はほんの僅かであり(0.05g未満)、ビーカーの外縁部における沈殿物はさらに少なかった。
【0050】
めっきパネルを調べたところ、これらのパネルの各表面上には、約0.003インチのニッケル硼素めっきが見られた。濾過処理を伴わずにめっきを5時間続行した後には、通常は非常に荒いめっき表面が予想されるが(特に、浴液流に対向する表面においては非常に荒いめっき表面が予想される)、全てのパネルは非常に滑らかなめっき表面を示し、孔食及び付着した粒子やデブリは見られなかった。
【0051】
実施例4
以下の実施例は、タリウム化合物を安定剤として使用したときに、ニッケル硼素及びタリウムと共沈着した2〜8nmのダイヤモンド様粒子を用いたときの効果とは対照的な効果を示すものである。
1.ニッケル硼素浴の補給用浴は、ナノメーターサイズの粒子を含有しない以外は実施例2において使用した浴と同様である。
2.希釈剤溶液は、実施例2において使用したものと同様である。
【0052】
浴の安定剤溶液は、以下のようにして調製した。
1)3000mlのDI水を電磁撹拌棒を備えたビーカー(4リットル)内へ導入した。
2)ビーカー内の水中へ、約25gの水酸化ナトリウムを添加した。
3)得られた溶液中へ、硫酸タリウム10g及び硝酸タリウム10gを撹拌下で添加した後、充分に混合した(米国特許第6183546号明細書参照)。
4)約80mlのエチレンジアミン(EDA)を上記溶液中へ添加した後、透明な外観を呈する溶液が得られるまで混合した。
【0053】
パネルは、実施例2に記載のようにして調製した。
これらのパネルを1ガロンのめっき浴の中央部に浸漬し、時間を記録した。これらのパネルをめっき浴中へ浸漬する前(3〜4分前)に、希釈剤溶液(10ml)と安定剤溶液(10ml)を充分に混合した後、めっき浴中へゆっくりと添加した。この操作を、所望の塗膜厚(約0.003インチ)が得られるまで、30分毎におこなった。
【0054】
得られたパネルからめっき溶液を充分にすすぎ落とした後、押込空気で乾燥させた。めっき浴は、サイホン/デカンテーションによって、浴の上部から清浄貯蔵容器内へ注意深く移送させた。
【0055】
浴を5時間よりも長時間にわたって連続的にめっき処理に使用した後でビーカー内を観察したところ、予想されたように、ビーカーの底部には、約7グラムの粒子と残渣が存在した。テフロンで被覆した電磁撹拌棒にも一部の付着物が見られたが、一般的には、予想されたように、溶液の時計回りの回転に起因して、多量の沈殿物はビーカーの底部を横切って分散されてビーカーの外縁部に存在した。
【0056】
めっきパネルを調べたところ、これらのパネルの各表面上には、約0.0029インチのニッケル硼素めっきが見られた。一定の濾過処理を伴わずにガラス製ビーカー内で使用された無電解めっき浴の場合には、予想されたように、各パネルの一方の面は他方の面に比べてより高い表面荒さを示した。この理由は、前者が溶液の対向回転方向に面したからである。
【0057】
固体状粒子はICPによって分析したところ、ニッケルは約93重量%であり、硼素は4重量%であり、タリウムは3重量%であった。このことは、米国特許第6183546号明細書に記載されているようなニッケル硼素タリウム沈着物を示す。
【0058】
実施例5
この実施例は、ニッケル硼素めっき用補給浴に実施例2で用いた約2〜8nmのDLCを含有させた以外は、実施例4と同様の実施例である。
パネルからめっき溶液を充分にすすぎ落とした後、該パネルを押込空気で乾燥させた。めっき浴は、サイホン/デカンテーションによって、浴の上部から清浄貯蔵容器内へ注意深く移送させた。浴を5時間よりも長時間にわたって連続的なめっき処理に使用した後でビーカー内を観察したところ、ビーカーの底部には、1グラム未満の固体状のニッケル硼素粒子と残渣が見られた。電磁撹拌棒への付着物はほんの僅かであり(0.05g未満)、ビーカーの外縁部における沈殿物はさらに少なかった。
【0059】
めっきパネルを調べたところ、これらのパネルの各表面上には、約0.003インチのニッケル硼素めっきが見られた。濾過処理を伴わずにめっきを5時間続行した後では、通常は非常に荒いめっき表面が予想されるが(特に、浴液流に対向する表面においては非常に荒いめっき表面が予想される)、全てのパネルは非常に滑らかなめっき表面を示し、孔食及び付着した粒子やデブリは見られなかった。このような結果は、2〜8nmの粒子を含有しない「浴−1」を用いて得られた結果と対照的である。
【0060】
実施例6
DMAB無電解ニッケル硼素めっき浴に対するDLC粒子の効果を、以下の比較の実施例によって説明する。
浴は、DLC粒子を配合せず、マクデルミド浴[ニクラド(niklad)−752]を使用する「マクデルミド仕様書」に従って調製した。
【0061】
以下の様にして、補給用めっき浴を調製した。
1)DI水2000mlと硫酸ニッケル85gを混合した。
2)酢酸ナトリウム50gを該溶液中へ添加し、混合した。
3)得られた溶液中へ、ジメチルアミンボーレート(DMAB)13.5gを撹拌下で添加し、混合した。
4)安定剤として、酢酸鉛6.8mgを該溶液中へ添加した後、DI水を用いて浴の全量を1ガロンにした。
5)浴のpHは6.1に調整した。
6)浴の温度は160Fに設定した。
【0062】
パネルは、実施例2に記載のようにして調製した。
これらのパネルを上記のめっき浴の中央部に浸漬し、時間を記録した。得られたパネルからめっき溶液を充分にすすぎ落とした後、押込空気で乾燥させた。めっき浴は、サイホン/デカンテーションによって、浴の上部から清浄貯蔵容器内へ注意深く移送させ、各容器には識別ラベルを貼付した。
【0063】
DMABめっき浴における沈着速度は、当該分野において知られているように、水素化硼素ナトリウムに比べてDMABの還元反応性が弱いために、遅い。該浴を5時間よりも長時間にわたって連続的なめっき処理に使用した後でビーカー内を観察したところ、予想されたように、ビーカーの底部には、約2グラムの粒子と残渣が存在した。テフロンで被覆した電磁撹拌棒にも一部の付着物が見られたが、一般的には、予想されたように、溶液の時計回りの回転に起因して、多量の沈殿物はビーカーの底部を横切って分散されてビーカーの外縁部に存在した。
【0064】
めっきパネルの各表面上には、約0.00035インチのニッケル硼素めっきが見られた。一定の濾過処理を伴わずにガラス製ビーカー内で使用された無電解めっき浴の場合には、予想されたように、各パネルの一方の面は他方の面に比べてより高い表面荒さを示した。この理由は、前者が溶液の対向回転方向に面したからである。7枚のパネルの内の5枚のパネルの片面又は両面には、ランダム状態の孔食が見られた。
【0065】
固体状粒子はICPによって分析したところ、ニッケルは約98重量%であり、硼素は2重量%であった。このことは、ニッケル硼素沈着物が形成されたことを示すものである。
【0066】
ビーカーの底部に存在した固体状のデブリ、残渣及び粒子をSEM−EDAXによって調べたところ、粒子の中心は高倍率によっても視認することはできなかった。このことは、各粒子のランダムな核形成(nucleation)を裏付けるものである。さらに、固体状のデブリ粒子中にはその他の元素は存在しなかった。このことは、固体状粒子は自然分解の結果であって、その他の元素の浴中への導入と分解の開始の結果ではないということを裏付けるものである。
【0067】
実施例7
この実施例は、補給浴が下記のDLC粒子を含有する以外は、実施例6と同様の実施例である。1ガロンの補給浴を以下の様にして調製した。
1)DI水2000mlと硫酸ニッケル85gを混合した。
2)酢酸ナトリウム50gを該溶液中へ添加し、混合した。
3)得られた溶液中へ、ジメチルアミンボーレート(DMAB)13.5gを撹拌下で添加し、混合した。
4)安定剤として、酢酸鉛6.8mgを該溶液中へ添加した。
5)直径が約2〜8nmのDLC粒子を約10%含有する水性分散液75gをDI水約25mlと混合した(該粒子は、米国特許第5861349号及び同第5916955号各明細書に記載されている方法に従って調製した)。この混合物中へ、エチレンジアミン約25mlを添加し、充分に混合した。得られた全混合物をめっき浴中へ添加した。浴の全量は、DI水の添加によって、1ガロンに調整した。
6)浴のpHは6.1に調整した。
7)浴の温度は160Fに設定した。
【0068】
得られたパネルからめっき溶液を充分にすすぎ落とした後、押込空気で乾燥させた。めっき浴は、サイホン/デカンテーションによって、浴の上部から清浄貯蔵容器内へ注意深く移送させた。ビーカー内を調べたところ、プレートアウト又はその他のデブリはビーカーの底部又は側部には見られなかった。めっきパネルの各表面上には、約0.00032インチのニッケル硼素めっきが見られた。全てのパネル表面上の塗膜は滑らかであり、孔食は見られなかった。
【0069】
実施例8
標準的な無電解ニッケル/高リンめっき浴に対するDLC粒子の効果を以下の比較の実施例によって説明する。
以下の様にして、補給浴(1ガロン)を調製した。
1)DI水3000ml中へ硫酸ニッケル95gを添加した。
2)酢酸ナトリウム58gを該溶液中へ添加した。
3)次亜リン酸ナトリウム100gを上記溶液中へ添加して充分に撹拌した。
4)酢酸鉛60mgを該溶液中へ添加した後、混合撹拌下でDI水を添加して浴の全量を1ガロンにした。
5)得られた浴を撹拌型ホットプレート上に載置させ、約188Fまで加熱した。この浴の容器に「浴−6」のラベルを貼付した。
6)使用前に浴のpHを調べたところ、4.5であった。使用中の浴のpHは、水酸化アンモニウムを用いて4.4〜4.6の範囲に保持した。
【0070】
パネルは、実施例2に記載のようにして調製した。
1)得られたパネルを上記のめっき浴の中央部に浸漬し、時間を記録した。
2)これらのパネルをめっき処理に6時間付した。めっき中の沈着速度は、平均して各面あたり0.0005インチ/1時間になるように監視しながら調整した。
3)めっき後、パネルは押込空気で乾燥させた。
【0071】
得られたパネルからめっき溶液を充分にすすぎ落とした後、押込空気で乾燥させた。ビーカー内のめっき浴は、サイホン/デカンテーションによって、ビーカーの上部から清浄貯蔵容器内へ注意深く移送させた。5時間よりも長時間にわたって連続的なめっき処理をおこなった後でビーカー内を観察したところ、予想されたように、ビーカーの底部には、約2グラムの固体状のニッケル−リン粒子と残渣が存在した。テフロンで被覆した電磁撹拌棒にも一部の付着物が見られたが、一般的には、予想されたように、溶液の時計回りの回転に起因して、多量の沈殿物はビーカーの底部を横切って分散されてビーカーの外縁部に存在した。
【0072】
めっきパネルの各表面上には、約0.0026インチのニッケル−リンめっきが見られた。一定の濾過処理を伴わずにガラス製ビーカー内で使用された無電解めっき浴の場合には、予想されたように、各パネルの一方の面は他方の面に比べてより高い表面荒さを示した。この理由は、前者が溶液の対向回転方向に面したからである。両方のパネル面にはピットが見られた。
【0073】
固体状粒子は、SEM−EDAXによって分析したところ、ニッケルを約89重量%含有し、リンを11重量%含有した。このことは、「高リン」無電解ニッケルリン沈着物が形成されたことを示すものである。
【0074】
ビーカーの底部に存在した固体状のデブリ、残渣及び粒子をSEM−EDAXによって調べたところ、粒子の中心は高倍率によっても視認することはできなかった。このことは、各粒子のランダムな核形成を裏付けるものである。さらに、固体状のデブリ粒子中にはその他の元素は存在しなかった。このことは、固体状粒子は自然分解の結果であって、その他の元素の浴中への導入と分解の開始の結果ではないということを裏付けるものである。
【0075】
実施例9
標準的な無電解ニッケル/高リンめっき浴に対するDLC粒子の添加効果を以下の比較の実施例によって説明する。補給浴へDLC粒子を添加する以外は、実施例8の場合と同様の操作をおこなった。
以下の様にして、補給浴(1ガロン)を調製した。
1)DI水3000ml中へ硫酸ニッケル95gを添加した。
2)酢酸ナトリウム58gを該溶液中へ添加した。
3)次亜リン酸ナトリウム100gを上記溶液中へ添加して充分に撹拌した。
4)酢酸鉛60mgを該溶液中へ添加した後、混合撹拌下でDI水を添加して浴の全量を1ガロンにした。
5)得られた浴を撹拌型ホットプレート上に載置させ、約188Fまで加熱した。この浴の容器に「浴−6」のラベルを貼付した。
6)使用前に浴のpHを調べたところ、4.5であった。
7)直径が約2〜8nmのDLC粒子を約10%含有する水性分散液75gをDI水約25mlと混合した(該粒子は、米国特許第5861349号及び同第5916955号各明細書に記載されている方法に従って調製した)。この混合物中へ、エチレンジアミン約25mlを添加し、充分に混合した。得られた全混合物をめっき浴中へ添加し、浴液が均一の白みがかった緑色の外観を呈するまで混合操作をおこなった。
【0076】
得られたパネルからめっき溶液を充分にすすぎ落とした後、押込空気で乾燥させた。ビーカー内のめっき浴は、サイホン/デカンテーションによって、ビーカーの上部から清浄貯蔵容器内へ注意深く移送させ、容器に標識ラベルを貼付した。ビーカー内を観察したところ、ビーカーの側部又は底部にはデブリは見られず、テフロンで被覆した磁石に約0.001インチの未知の粒子が1個付着していたに過ぎなかった。
【0077】
めっきパネルの各表面上には、約0.0027インチのニッケル−リンめっきが見られた。全てのパネルは同等の平滑性を示し、各面上にはピット又はその他の欠陥は見られなかった。1個の単一の粒子が見られたが、その質量は分析に供するのに充分なものではなかった。
【0078】
実施例10
標準的な無電解ニッケル/中リンめっき浴に対するDLC粒子の添加効果をこの実施例によって説明する。補給浴及び該補給浴へのDLC粒子の添加が異なる以外は、実施例8及び9の場合と同様の操作をおこなった。
以下の様にして、1ガロンのめっき浴を調製した。
1)2000mlのDI水を4リットルのビーカー内へ導入した。
2)ビーカー内のDI水中へ、硫酸ニッケル110gを添加し、充分に混合した。
3)クエン酸ナトリウム(錯生成剤)285gを該溶液中へ添加し、充分に混合した。
4)次亜リン酸ナトリウム(還元剤)約90gを上記溶液中へ添加して充分に混合した。
5)チオ尿素(約5.5mg)を該溶液中へ添加した。
6)浴のpHを監視し、必要に応じて、硫酸を用いて5.2に調整した。
7)浴の全量は、DI水を添加して1ガロンに調整し、ビーカーに識別ラベルを貼付した。
【0079】
パネルは実施例2の記載に従って調製した。パネルの厚さは、パネルの中央部(穿孔端から約1インチの部位)において測定した。得られたパネルからめっき溶液を充分にすすぎ落とした後、押込空気で乾燥させた。ビーカー内のめっき浴は、サイホン/デカンテーションによって、ビーカーの上部から清浄貯蔵容器内へ注意深く移送させ、容器に標識ラベル「浴−2」を貼付した。
【0080】
5時間よりも長時間にわたって連続的なめっき処理をおこなった後でビーカー内を観察したところ、予想されたように、ビーカーの底部には、約1.4グラムの固体状のニッケル−リン粒子と残渣が存在した。テフロンで被覆した電磁撹拌棒にも一部の付着物が見られたが、一般的には、予想されたように、溶液の時計回りの回転に起因して、多量の沈殿物はビーカーの底部を横切って分散されてビーカーの外縁部に存在した。
【0081】
めっきパネルの各表面上には、約0.0022インチのニッケル−リンめっきが見られた。一定の濾過処理を伴わずにガラス製ビーカー内で使用された無電解めっき浴の場合には、予想されたように、各パネルの一方の面は他方の面に比べてより高い表面荒さを示した。この理由は、前者が溶液の対向回転方向に面したからである。
【0082】
めっき浴の底部に存在した固体状粒子は、SEM−EDAXによって分析したところ、ニッケルを約94重量%含有し、リンを6重量%含有した。このことは、「中リン」無電解ニッケルリン沈着物が形成されたことを示すものである。
【0083】
ビーカーの底部に存在したニッケル/リン化合物以外の固体状のデブリ、残渣及び粒子をSEM−EDAXによって調べたところ、高倍率によっても視認できる粒子は見られなかった。このことは、ランダムな核形成を示す粒子が存在しないことを裏付けるものである。
【0084】
実施例11
DLC粒子を含有する標準的な無電解ニッケル−中リンめっき浴(1ガロン)を以下の様にして調製した。
1)4リットルのビーカー内へ2000mlのDI水を導入した。
2)ビーカー内の水中へ、硫酸ニッケル110gを添加し、充分に混合した。
3)クエン酸ナトリウム(錯生成剤)285gを該溶液中へ添加し、充分に混合した。
4)次亜リン酸ナトリウム(還元剤)約90gを上記溶液中へ添加して充分に撹拌した。
5)チオ尿素5.5mgを該溶液中へ添加し、充分に混合した。
6)直径が約2〜8nmのDLC粒子を約10%含有する水性分散液75gをDI水約25mlと混合した(該粒子は、米国特許第5861349号及び同第5916955号各明細書に記載されている方法に従って調製した)。この混合物中へ、エチレンジアミン約25mlを添加し、充分に混合した。得られた全混合物をめっき浴中へ添加し、充分に混合した。
7)浴のpHを監視し、必要に応じて、硫酸を用いてpHを5.2に調整した。
8)浴の全量は、DI水の添加により、1ガロンになるように調整し、ビーカーに識別ラベルを貼付した。
【0085】
パネルの厚さは、パネルの中央部(穿孔端から約1インチの部位)において測定し、測定値を記録した。得られたパネルからめっき溶液を充分にすすぎ落とした後、押込空気で乾燥させた。ビーカー内のめっき浴は、サイホン/デカンテーションによって、ビーカーの上部から清浄貯蔵容器内へ注意深く移送させた。
【0086】
ビーカーの内部を調べたところ、ビーカーの底部や側部には、プレートアウトやその他のデブリは存在しなかった。めっきパネルの各表面上には、約0.0022インチのニッケル−リンめっきが見られた。塗膜は平滑であり、両面には孔食は見られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分 i)〜iv)を含有する金属硼素用無電解めっき浴:
i)有効量の還元剤
ii)該めっき浴中でのシーディングの発生が低減化されるような直径を有する有効量のナノメーターサイズの粒子
iii)有効量の錯生成剤及び
iv)有効量の金属イオン。
【請求項2】
ナノメーターサイズの粒子の直径が、該粒子を該めっき浴中へ導入する前、又は該粒子を該めっき浴中へ導入する前の浴液中で該粒子の凝集物が生成する前において、100nm未満である請求項1記載のめっき浴。
【請求項3】
ナノメーターサイズの粒子の直径が、該粒子を該めっき浴中へ導入する前、又は該粒子を該めっき浴中へ導入する前の浴液中で該粒子の凝集物が生成する前において、25nm未満である請求項1記載のめっき浴。
【請求項4】
ナノメーターサイズの粒子の直径が、該粒子を該めっき浴中へ導入する前、又は該粒子を該めっき浴中へ導入する前の浴液中で該粒子の凝集物が生成する前において、10nm未満である請求項1記載のめっき浴。
【請求項5】
ナノメーターサイズの粒子が硬質粒子である請求項1記載のめっき浴。
【請求項6】
ナノメーターサイズの粒子が酸化ジルコニウム及び炭化ケイ素又はDLCから選択される請求項5記載のめっき浴。
【請求項7】
約2〜8nmの直径を有するDLC粒子を液状分散媒と混合させ、該混合物をめっき浴中へ添加することによって、該DLC粒子を該めっき浴中へ導入する請求項6記載のめっき浴。
【請求項8】
該粒子が官能基を有する請求項1記載のめっき浴。
【請求項9】
めっき浴がニッケル硼素浴であり、還元剤が硼素化合物である請求項1記載のめっき浴。
【請求項10】
ナノメーターサイズの粒子がDLC粒子であって、該DLC粒子の直径が、該粒子を該めっき浴中へ導入する前、又は該粒子を該めっき浴中へ導入する前の浴液中で該粒子の凝集物が生成する前において、約2〜8nmである請求項9記載のめっき浴。
【請求項11】
実質上下記の成分 i)〜iv)から成る請求項1記載のめっき浴:
i)有効量の硼素還元剤、
ii)該めっき浴中でのシーディングの発生が低減化されるような直径を有する有効量のナノメーターサイズの粒子、
iii)有効量の錯生成剤、及び
iv)有効量のニッケルイオン。
【請求項12】
下記の成分 i)〜iv)を含有するめっき浴中において被処理物品をめっきする工程を含む無電解めっき方法:
i)有効量の硼素還元剤、
ii)該めっき浴中でのシーディングの発生が低減化されるような直径を有する有効量のナノメーターサイズの粒子、
iii)有効量の錯生成剤、及び
iv)有効量の金属イオン。
【請求項13】
ナノメーターサイズの粒子の直径が、該粒子を該めっき浴中へ導入する前、又は該粒子を該めっき浴中へ導入する前の浴液中で該粒子の凝集物が生成する前において、100nm未満である請求項12記載の方法
【請求項14】
ナノメーターサイズの粒子の直径が、該粒子を該めっき浴中へ導入する前、又は該粒子を該めっき浴中へ導入する前の浴液中で該粒子の凝集物が生成する前において、25nm未満である請求項13記載の方法。
【請求項15】
ナノメーターサイズの粒子の直径が、該粒子を該めっき浴中へ導入する前、又は該粒子を該めっき浴中へ導入する前の浴液中で該粒子の凝集物が生成する前において、10nm未満である請求項14記載の方法。
【請求項16】
ナノメーターサイズの粒子が硬質粒子である請求項12記載の方法。
【請求項17】
ナノメーターサイズの粒子が酸化ジルコニウム及び炭化ケイ素又はDLCから選択される請求項15記載の方法。
【請求項18】
ナノメーターサイズの粒子がDLC粒子であって、該粒子の直径が、該粒子を該めっき浴中へ導入する前、又は該粒子を該めっき浴中へ導入する前の浴液中で該粒子の凝集物が生成する前において、約2〜8nmであり、また、金属イオンがニッケルイオンである請求項12記載の方法。
【請求項19】
該粒子が官能基を有する請求項12記載の方法。
【請求項20】
ナノメーターサイズの粒子がDLC粒子であって、該粒子の直径が、該粒子を該めっき浴中へ導入する前、又は該粒子を該めっき浴中へ導入する前の浴液中で該粒子の凝集物が生成する前において、約2〜8nmである請求項12記載の方法。
【請求項21】
請求項12記載の方法によって製造される製品であって、ナノメーターサイズの粒子が塗膜中に共沈着された該製品。
【請求項22】
請求項20記載の方法によって製造される製品であって、ナノメーターサイズの粒子が塗膜中に共沈着された該製品。
【請求項23】
無電解沈着による金属硼素塗膜であって、無電解沈着中のシーヂィングの発生を低減させる直径を有するナノメーターサイズの共沈着粒子を含有する該塗膜。
【請求項24】
ナノメーターサイズの粒子がDLC粒子であって、該粒子の直径が、該粒子を該めっき浴中へ導入する前、又は該粒子を無電解沈着用の浴中へ導入する前の浴液中で該粒子が凝集する前において、約2〜8nmである請求項23記載の金属硼素塗膜。
【請求項25】
塗膜が炭化硼素を含有する請求項23記載の金属硼素塗膜。
【請求項26】
金属がニッケルであり、粒子が官能基を有する請求項23記載の金属塗膜。
【請求項27】
下記の成分 i)〜iv)を含有するめっき浴中において被処理物品をめっきする工程、及びナノメーターサイズの粒子の不存在下においてシーヂィングが通常は発生する時点を越えてめっきを続行することによって浴寿命を延長させる工程を含む金属燐の無電解めっき方法:
i)有効量の還元剤
ii)該めっき浴中でのシーディングの発生が低減化されるような直径を有する有効量のナノメーターサイズの粒子
iii)有効量の錯生成剤及び
iv)有効量の金属イオン。
【請求項28】
下記の成分 i)〜iv)を混合させる工程を含む水性のアルカリ性無電解浴の調製方法:
i)有効量の硼素還元剤、
ii)該めっき浴中でのシーディングの発生が低減化されるような直径を有する有効量のナノメーターサイズの粒子、
iii)有効量の錯生成剤、及び
iv)有効量のニッケルイオン。
【請求項29】
約2〜8nmの直径を有するDLC粒子を液状分散媒と混合し、得られる混合物を浴中へ添加することによってDLC粒子を浴中へ導入する請求項28記載の方法。

【公表番号】特表2008−508431(P2008−508431A)
【公表日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−524907(P2007−524907)
【出願日】平成17年8月1日(2005.8.1)
【国際出願番号】PCT/US2005/027396
【国際公開番号】WO2006/017490
【国際公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(301078397)
【氏名又は名称原語表記】Edward McComas
【出願人】(507036854)ユーシーティー・コーティングス・インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】UCT Coatings, Inc.
【Fターム(参考)】