説明

ナノ構造中空炭素材料を含む液晶高分子組成物およびその成形体

【課題】液晶高分子が有する諸特性を十分維持しつつ、溶融成形時の成形収縮率の異方性が十分小さい液晶高分子組成物およびその成形体を提供する。
【解決手段】液晶高分子をナノ構造中空炭素材料と混合して、液晶高分子組成物とする。この液晶高分子組成物を溶融成形して、成形体とする。ナノ構造中空炭素材料としては、炭素部および中空部を有し、中空部が炭素部により完全に覆われている粒子からなるものや、炭素部および中空部を有し、中空部が炭素部により部分的に覆われている粒子からなるものが、好ましく用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ構造中空炭素材料と液晶高分子とを含む液晶高分子組成物およびその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶高分子は、優れた耐熱性を有し、機械強度および電気特性(例えば、誘電特性など)にも優れていることが知られている。このような特性を活かし、近年、液晶高分子は、金属やセラミックスを代替し得る高性能高分子材料(エンジニアリング材料)として、電気、電子、機械、自動車、航空機、医療と様々な分野で利用され、特に、薄肉部を有する、あるいは複雑な形状を有する電気、電子部品に好適な材料であることが知られている。
【0003】
しかしながら、液晶高分子を部品(成形体)に溶融成形する際、当該成形体が例えば長尺状のものである場合、長尺方向に沿って成形体に反りが発生することがある。また、成形体が平面形状である場合にも、反りが発生しやすくなる傾向がある。近年の電気・電子部品においては軽薄短小化の流れの中で、ますます薄肉化、小型化や形状複雑化の要望が強くなっており、このような形状の成形体では、より反りが発生しやすくなり、発生した反りが部品の特性に悪影響を及ぼしやすい。したがって、液晶高分子を用いて電気・電子部品を製造するに当たっては、得られる成形体の低反り性を達成することが重要課題となっている。
【0004】
成形体に反りが発生する原因に関しては様々なものが提案されている。その一つとして挙げられているものは、液晶高分子は分子が剛直で溶融状態でも絡み合いを起こさず液晶状態を有するポリドメイン(液晶相)を形成しやすく、成形時のせん断により分子鎖が流れ方向に著しく配向するという挙動である。すなわち、液晶高分子または液晶高分子を含む組成物を溶融成形(例えば、射出成形)した場合、溶融体の流れ方向(以下、「MD」ということがある)に液晶高分子が著しく配向するため、MDとそれに直角な方向(以下、「TD」ということがある)との収縮率の差が著しく大きい、すなわち成形収縮率の異方性が大であるため、反りが発生しやすくなると推定されている(特許文献1参照)。特許文献1では、サーモトロピック液晶ポリマーにポリエステル系熱可塑性エラストマーを配合することで異方性を低減し、反りが改善された成形体が得られることが開示されている。また、特許文献2では、液晶ポリマーを用いて固体撮像素子収納用ケースを製造するに当たり、無機板状フィラーや無機針状フィラーなどの充填剤(無機材料からなる充填剤)を配合することで成形収縮率の異方性を低減することが可能であり、反り発生が十分抑制され、熱伝導性にも優れた収納用ケースが得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−53849号公報
【特許文献2】特開2006−186122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1ではポリエステル系熱可塑性エラストマーを配合することにより、液晶高分子自身が有している耐熱性などの特性が低下しやすいという問題がある。特許文献2の固体撮像素子収納用ケースで使用されているような液晶高分子組成物においては、充填剤が優れた熱伝導性の発現に寄与しているものの、充填剤の使用量が比較的多い。無機材料からなる充填剤を使用する場合にも、液晶高分子自身が有する誘電特性などを活かしたいことから、比較的少量の無機充填材の使用で異方性が低減されることが求められてきた。
【0007】
そこで、本発明の目的は、液晶高分子が有する諸特性を十分維持しつつ、比較的少量の充填剤の使用でも、あるいは、充填剤を使用しなくても、溶融成形時の成形収縮率の異方性が十分小さい液晶高分子組成物およびその成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の[1]〜[4]を提供するものである。
【0009】
[1]ナノ構造中空炭素材料と液晶高分子とを含む液晶高分子組成物。
【0010】
[2]ナノ構造中空炭素材料が、以下の(A)の要件を有する[1]の液晶高分子組成物。
(A)ナノ構造中空炭素材料が以下の(1)および(2)からなる群から選ばれる少なくとも1種の粒子からなること。
(1)炭素部および中空部を有し、中空部が炭素部により完全に覆われている粒子。
(2)炭素部および中空部を有し、中空部が炭素部により部分的に覆われている粒子。
【0011】
[3]ナノ構造中空炭素材料が、以下の(B)、(C)および(D)の要件を有する[1]または[2]の液晶高分子組成物。
(B)ナノ構造中空炭素材料の炭素部が、2〜1000層からなる多層状の構造を有すること。
(C)ナノ構造中空炭素材料の炭素部の厚みが、1nm〜200nmの範囲であること。
(D)ナノ構造中空炭素材料の中空部の径が、0.5nm〜900nmの範囲であること。
【0012】
[4]さらにガラス繊維を含む[1]〜[3]のいずれかの液晶高分子組成物。
【0013】
[5][1]〜[4]のいずれかの液晶高分子組成物からなる成形体。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、液晶高分子の有する特性を十分維持しつつ、成形収縮率の異方性が十分小さい液晶高分子組成物を得ることができる。また、このような成形収縮率の異方性を小さくした液晶高分子組成物は、その成形体の機械特性や電気特性における異方性低減にも有効となることが期待される。
【0015】
本発明の液晶高分子組成物は、平面形状を有する成形体や長尺状成形体、あるいは薄肉、微細な構造を有する成形体に成形するうえで、反り発生の抑制、寸法精度の向上に特に有効である。
【0016】
また、本発明の液晶高分子組成物は、比較的少量の充填剤使用量でも、異方性低減に有効であるので、従来主として使用されていた無機材料からなる充填剤に比べ、得られる成形体の比重を著しく上げることがないという利点もある。
【0017】
本発明の液晶高分子組成物は、経済性、環境低負荷を重視して軽薄短小ニーズが高まる電気・電子部品において、反り発生が十分抑制されるだけでなく、さらに軽量の部品の提供に資するものであり、工業的に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】製造例1で得られたナノ構造中空炭素材料のTEMで観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、ナノ構造中空炭素材料と液晶高分子とを含む液晶高分子組成物、およびその成形体を提供する。以下、本発明の液晶高分子組成物を構成する成分、液晶高分子組成物の製造方法、液晶高分子組成物からなる成形体について順次説明する。
【0020】
〈ナノ構造中空炭素材料〉
ナノ構造中空炭素材料は、ナノサイズ(約0.5nm〜約1μm程度)であり、炭素部および中空部を有することを特徴とする。例えば、ナノ構造中空炭素材料は球状の中空状炭素粒子からなり、その外径は約0.5nm〜約1000nmである。ここで、ナノ構造中空炭素材料を構成する球状粒子の球の外径は約0.5nm〜約1000nmが好ましく、約1nm〜約500nmがより好ましく、約10nm〜約200nmはさらに好ましく、最も好ましいのは、約50nmから約100nmである。
【0021】
本発明の効果をより高める意味で、ナノ構造中空炭素材料は、以下の(A)の要件を有することが好ましく、また、以下の(B)、(C)および(D)の要件を有することがより好ましい。
【0022】
(A)ナノ構造中空炭素材料が以下の(1)および(2)からなる群から選ばれる少なくとも1種の粒子からなること。
(1)炭素部および中空部を有し、中空部が炭素部により完全に覆われている粒子。
(2)炭素部および中空部を有し、中空部が炭素部により部分的に覆われている粒子。
【0023】
(B)ナノ構造中空炭素材料の炭素部が、2〜1000層からなる多層状の構造を有すること。
(C)ナノ構造中空炭素材料の炭素部の厚みが、1nm〜200nmの範囲であること。
(D)ナノ構造中空炭素材料の中空部の径が、0.5nm〜900nmの範囲であること。
【0024】
なお、上記(C)における炭素部の多層状の構造を形成している一層とは、炭素原子1個の厚さの炭素原子層を表すものである。
【0025】
このようなナノ構造中空炭素材料は、以下の(1)、(2)、(3)および(4)の工程をこの順で含む製造方法により得られるものが好ましい実施形態である。
(1)テンプレート触媒ナノ粒子を製造する工程。
(2)前記テンプレート触媒ナノ粒子の存在下、炭素材料前駆体の重合を行い、前記ナノ粒子の表面に炭素材料中間体を形成する工程。
(3)前記炭素材料中間体を炭化させて炭素材料を形成し、ナノ構造複合材料を製造する工程。
(4)前記ナノ構造複合材料から、テンプレート触媒ナノ粒子を除去して、ナノ構造中空炭素材料を製造する工程。
【0026】
以下、上記の(1)、(2)、(3)および(4)の工程につき、具体的に説明する。
【0027】
工程(1)において、テンプレート触媒ナノ粒子は、以下のようにして製造される。
一種もしくは複数種の触媒前駆体と一種もしくは複数種の分散剤とを用い、触媒前駆体と分散剤とを反応もしくは結合させて触媒複合体を形成する。一般的には、触媒前駆体と分散剤とを適当な溶媒に溶解(このとき得られるものを触媒溶液とする。)または分散(このとき得られるものを触媒懸濁液とする。)させ、触媒前駆体と分散剤とが結合することにより触媒複合体(触媒ナノ粒子)は形成される。
【0028】
触媒前駆体としては、後述の炭素材料前駆体の重合および/または炭素材料中間体の炭化を促進するものであれば特に限定されないが、好ましくは、鉄、コバルト、ニッケルなどの遷移金属を挙げることができ、より好ましくは鉄である。
【0029】
触媒複合体を含む触媒溶液または触媒懸濁液は、既述のように一種もしくは複数種の分散剤を含む。この分散剤は、目的とする安定性(溶解安定性または分散安定性)、大きさ、均一性を有する触媒ナノ粒子の生成を促進するものから選ばれる。分散剤は種々の有機分子、高分子、オリゴマー等から、触媒溶液または触媒懸濁液の調製に使用する溶媒の種類によって最適なものを選択することができる。なお、この触媒懸濁液中では、触媒複合体は溶媒分子によって囲まれた、触媒前駆体と分散剤とからなる形態であると考えられる。
【0030】
触媒溶液または触媒懸濁液を調製するための溶媒としては、水や有機溶媒を含む種々の溶媒を使用することができる。この溶媒の使用は、触媒前駆体と分散剤の相互作用のためであり、溶媒の種類によっては、単なる溶媒としてだけではなく、溶媒自身が分散剤として機能することもある。好ましい溶媒としては、水、メタノール、エタノール、n―プロパノール、イソプロピルアルコール、アセトニトリル、アセトン、テトラヒドロフラン、エチレングリコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、メチレンクロライド等が挙げられ、これらを混合して用いてもよい。
【0031】
触媒複合体は、触媒溶液または触媒懸濁液の中で生成させた後、溶媒を乾燥などにより除去することにより、乾燥された形態で得ることができる。また、このようにして得た触媒複合体は適当な溶媒を加えることで懸濁液に戻すこともできる。
【0032】
上記の触媒溶液または触媒懸濁液の調製方法においては、使用する分散剤と触媒前駆体とのモル比を変更することで、触媒溶液中での触媒複合体の溶解性や、触媒懸濁液中での触媒複合体の分散性を制御できるという特徴がある。好ましくは、分散剤の極性基に対する触媒原子のモル割合として0.01〜100(モル/モル)程度であり、さらに好ましくは0.05〜50(モル/モル)程度である。
【0033】
分散剤は、非常に小さくかつ均一な粒径の触媒ナノ粒子の形成を促進させることができる。一般的に、分散剤存在下で触媒ナノ粒子は約1μm以下の大きさとして形成される。好ましくは、約100nm以下であって、さらに好ましくは約50nm以下である。
分散剤の粒径は得られるナノ構造中空炭素材料の中空部のサイズに対応する。それゆえ、得られるナノ構造中空炭素材料の中空部の径は約100nm以下、好ましくは、約50nm以下である。
【0034】
触媒溶液または触媒懸濁液には、触媒ナノ粒子の形成を促進させるために、分散剤以外の添加剤を使用することもできる。このような添加剤としては、例えば、無機酸や塩基化合物が挙げられる。具体的にいうと、無機酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸などであり、塩基化合物としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化アンモニウムなどである。特に、塩基化合物(例えば、アンモニア水溶液が使用できる)を、pHを8〜13に調整するため加えると好ましく、pHを10〜11に調整するように加えると、より好ましい。高いpH値では触媒前駆体がより微細に分離しやすくなる傾向があり、塩基化合物の添加は触媒ナノ粒子の粒径に影響を与える。
【0035】
また、触媒ナノ粒子の形成を促進させるための固体物質を加えてもよい。例えば、イオン交換樹脂などを触媒ナノ粒子形成時に加えることができる。固体物質は、最終的な触媒溶液もしくは触媒懸濁液から簡単な操作によって除去することができる。
【0036】
典型的には、上記の触媒溶液または触媒懸濁液は、触媒前駆体と分散剤と必要に応じて添加される添加剤を、0.5時間〜14日間混合することにより調製される。混合温度は0℃〜200℃程度から選択され、この混合温度は触媒ナノ粒子の粒径に影響を与える重要な因子である。
【0037】
触媒前駆体として鉄を用いた場合を簡単に説明すると、塩化鉄、硝酸鉄、硫酸鉄などの鉄化合物を用い、さらに分散剤を用いてなる触媒溶液中または触媒懸濁液中で鉄を含む触媒ナノ粒子を得る。これらの鉄塩は水系の溶媒に溶解する場合が多い。鉄塩を用いた触媒ナノ粒子の形成においては、副生成物が生成することがある。副生成物としては、典型的には水素ガスであり、このように副生成物として水素ガスが発生する場合には、触媒溶液中または触媒懸濁液の調製時に触媒ナノ粒子は活性化されることがある。なお、触媒ナノ粒子は、水素を用いて還元処理を行ってもよい。
【0038】
好ましくは、触媒ナノ粒子は活性な金属触媒ナノ粒子が安定的な分散状態で存在している触媒懸濁液として形成されることである。この触媒ナノ粒子の分散安定性により粒子同士の凝集は抑制される。一部もしくはすべての触媒ナノ粒子が沈降したとしても、混合することによって容易に再懸濁化する。
【0039】
上記のようにして得られる触媒ナノ粒子をテンプレート触媒ナノ粒子として用いる。テンプレート触媒ナノ粒子は、炭素材料前駆体の重合および/または炭素材料中間体の炭化を促進する触媒としての役割を担う。
【0040】
工程(2)において触媒ナノ粒子を含む触媒懸濁液を使用する場合、炭素材料前駆体としては、テンプレート触媒ナノ粒子の分散状態を著しく損なわないものであれば特に限定されるものではなく、テンプレート触媒ナノ粒子を分散させたまま、炭素材料前駆体が重合することにより、ナノ粒子の表面に炭素材料中間体が形成される。炭素材料前駆体として、好適な有機材料としては、分子中に芳香族環を1つもしくは複数有し、重合のための官能基を有するベンゼンやナフタレン誘導体が挙げられる。重合のための官能基としては、COOH、C=O、OH、C=C、SO3、NH2、N=C=Oなどが例示される。
【0041】
好ましい炭素材料前駆体としては、レゾルシノール、フェノール樹脂、メラニン−ホルムアルデヒドゲル、レゾルシノール−ホルムアルデヒドゲル、ポリフルフリルアルコール、ポリアクリロニトリル、糖類、石油ピッチなどが挙げられる。
【0042】
テンプレート触媒ナノ粒子は、その表面で炭素材料前駆体が重合して炭素材料中間体を生成するように、炭素材料前駆体と混合される。テンプレート触媒ナノ粒子は触媒活性を有するため、その粒子近傍で炭素材料前駆体の重合の開始および/または促進の役割を担う。
【0043】
炭素材料前駆体に対するテンプレート触媒ナノ粒子の量は、炭素材料前駆体が、より効率的に炭素材料中間体に転化するようにして設定される。用いる炭素材料前駆体の種類にも依存するが、テンプレート触媒ナノ粒子の量の好適な実施様態は、炭素材料前駆体とテンプレート触媒ナノ粒子とのモル比が、炭素材料前駆体:テンプレート触媒ナノ粒子で表して、0.1:1〜100:1程度であり、好ましくは1:1〜30:1である。このモル比、触媒ナノ粒子の種類、粒径は、得られるナノ構造中空炭素材料における炭素部の厚みに影響を与える。
【0044】
テンプレート触媒ナノ粒子および炭素材料前駆体の混合物は、テンプレート触媒ナノ粒子の表面に炭素材料中間体が十分に形成されるまで、十分熟成させる。炭素材料中間体を形成するのに必要な時間は、温度、触媒の種類、触媒の濃度、pH、用いる炭素材料前駆体の種類に依存する。
【0045】
pH調整のためにアンモニア水溶液を加えることで、重合の速度を速め、炭素材料前駆体同士の架橋反応などが進行しやすくなり、テンプレート触媒ナノ粒子の表面に効果的に炭素材料中間体を生成させることができる。
【0046】
炭素材料前駆体の重合化に係る温度条件は、好ましくは0〜200℃であり、さらに好ましくは25℃〜120℃である。特に、熱により重合可能な炭素材料前駆体については、通常加熱温度が高いほど重合が進む傾向がある。
【0047】
テンプレート触媒ナノ粒子として鉄粒子を用い、該鉄粒子の表面に炭素材料中間体としてレゾルシノール−ホルムアルデヒドゲルを形成する場合における最適な重合条件は、反応温度が0〜90℃であり、反応時間は1〜72時間である。なお、鉄粒子を用いる場合は、予め触媒懸濁液を調製すると好ましく、調製した触媒懸濁液のpHは1〜14の範囲から選ばれる。
【0048】
工程(3)において、炭素材料中間体を炭化させて炭素材料を形成し、ナノ構造複合材料を得る。炭化は通常焼成で実施可能であり、典型的には、500〜2500℃の温度で焼成を行うことができる。焼成時には、炭素材料中間体における酸素原子、窒素原子が放出され、炭素原子の再配列が起こり、炭素材料が形成される。好ましくは、炭素材料は、グラファイト様の層状構造(多層状)を有し、その厚みが1〜200nmのものが形成される。ただし、既述のように炭素部の構造を形成している一層は、炭素原子1個の厚さの炭素原子層を表すものである。
【0049】
炭素材料の厚みは1〜100nmであると好ましく、5〜50nmであるとより好ましく、10〜30nmであるとさらに好ましい。層数は、炭素材料中間体の種類、厚み、焼成温度により制御することができ、2〜1000層の範囲となる。なお、ナノ構造中空炭素材料の炭素部の厚みは、炭素材料前駆体の重合および/または炭素材料中間体の炭化の進行度を調整することによっても制御できる。
【0050】
工程(4)において、ナノ構造複合材料から、テンプレート触媒ナノ粒子を除去して、ナノ構造中空炭素材料を得る。触媒ナノ粒子の除去は、典型的には、ナノ構造複合材料と、硝酸、フッ酸溶液、水酸化ナトリウムなどの酸や塩基と接触させることによって行うことができる。好ましくは、ナノ構造複合材料と硝酸(例えば5規定の硝酸)との接触処理であり、より好ましくは5規定硝酸水溶液を使用し、この硝酸水溶液がリフラックスする程度に加温するようにして3〜6時間接触処理を行う。このテンプレート触媒ナノ粒子の除去においては、ナノ中空体構造、ナノリング構造を完全に壊すことのない手法であればよい。
【0051】
本発明において、ナノ構造中空炭素材料は、形状、大きさ、電気的特性において特異的である。典型的なナノ構造中空炭素材料の例は、以下の(1)および(2)からなる群から選ばれる少なくとも1種の粒子からなるナノ構造中空炭素材料である。
(1)炭素部と中空部からなり、中空部は完全に炭素部に覆われている粒子。
(2)炭素部と中空部からなり、中空部は部分的に炭素部に覆われている粒子。
【0052】
その粒子は中空部を有する実質的に球形状のものでもよく、そのような形状の少なくとも一部を含む形状でもよい。その形状は部分的に損なわれた球形状であってもよい。
【0053】
ナノ構造中空炭素材料の粒子の例としては以下のようなものも含む。すなわち、炭素部と中空部からなり、中空部は完全に炭素部に覆われている粒子;炭素部と中空部からなり、中空部は部分的に炭素部に覆われている粒子;炭素部と少なくとも2個の中空部からなり、その少なくとも2個の中空部は完全に炭素で覆われている粒子;炭素部と少なくとも2個の中空部からなり、その少なくとも2個の中空部は部分的に炭素で覆われている粒子;炭素部と少なくとも2個の中空部からなり、少なくとも1個の中空部は完全に炭素部で覆われた構造を有し、他の少なくとも1個の中空部は炭素部で部分的に覆われた構造を有し、少なくとも2個の中空部が炭素部で接続された粒子を含む。
【0054】
ナノ構造中空炭素材料の形状や粒子径はその製造に使用されるテンプレート触媒ナノ粒子の形状やサイズに負うところが大きい。炭素材料は各テンプレート触媒ナノ粒子の周囲に形成されるので、テンプレート触媒ナノ粒子は中空部の形状と粒子径にとどまらず、ナノ構造中空炭素材料の形状と粒子径にも影響する。
【0055】
上記のナノ構造中空炭素材料において、その形状、炭素部が多層状の場合の層数、炭素部の厚み、中空部の径は、透過型電子顕微鏡(TEM)によって、測定することができる。上記(1)〜(4)の工程を含む製造方法によれば、上記の(A)、(B)、(C)および(D)の要件を有するナノ構造中空炭素材料を容易に製造することができる。
【0056】
〈液晶高分子〉
次に、本発明の液晶高分子組成物を構成する液晶高分子について説明する。該液晶高分子は、溶融時に光学異方性を示し、500℃以下の温度で異方性溶融体を形成する高分子である。この光学的異方性は、直交偏光子を利用した通常の偏光検査法によって確認することができる。液晶高分子は、その分子形状が細長く、扁平で分子の長鎖に沿って剛性が高い分子鎖(以下、剛性が高い分子鎖を「メソゲン基」と呼ぶことがある)を有するものから構成され、かかるメソゲン基は高分子主鎖又は側鎖のいずれか一方又は両方に有する高分子であるが、より高耐熱性を求めるならば高分子主鎖にメソゲン基を有するものが好ましい。
【0057】
液晶高分子の具体例としては、液晶ポリエステル(以下、「ポリエステル」と略す)、液晶ポリエステルアミド(以下、「ポリエステルアミド」と略す)、液晶ポリエステルエーテル、液晶ポリエステルカーボネート、液晶ポリエステルイミド、液晶ポリアミド(以下、「ポリアミド」と略す)などが挙げられるが、これらの中でも、高強度の樹脂成形体が得られる観点からはポリエステル、ポリエステルアミドまたはポリアミドが好ましい。
【0058】
前記の好適な液晶高分子を具体的に例示すると、下記の(a)、(b)、(c)から選ばれる少なくとも1種の液晶高分子が好ましい。
(a)構造単位(I)および/または構造単位(II)からなる、ポリエステル、ポリエステルアミドまたはポリアミド
(b)構造単位(I)および構造単位(II)から選ばれる構造単位と、構造単位(III)と、構造単位(IV)からなる、ポリエステルまたはポリエステルアミド
(c)構造単位(I)および構造単位(II)から選ばれる構造単位と、構造単位(III)と、構造単位(IV)、構造単位(V)および構造単位(VI)から選ばれる構造単位とからなる、ポリエステルまたはポリエステルアミド
【0059】
【化1】

【0060】
式中、Ar1、Ar2、Ar5およびAr6は、それぞれ独立に2価の芳香族基を表し、Ar3およびAr4はそれぞれ独立に、芳香族基、脂環基および脂肪族基から選ばれる2価の基を表す。なお、前記芳香族基にある芳香環上の水素原子の一部または全部が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、アルコキシ基または炭素数6〜10のアリール基で置換されていてもよい。なお、ここで脂環基とは脂環式化合物から水素原子を2つ取り去って得られる基を意味し、脂肪族基とは脂肪族化合物から水素原子を2個取り去って得られる基を意味する。
【0061】
前記の構造単位において、Ar1、Ar2、Ar5およびAr6で表される芳香族基としては、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニレン、ジフェニルエーテル、ジフェニルスルホン、ジフェニルケトン、ジフェニルスルフィド、ジフェニルメタンなどの、単環芳香族化合物、縮合環芳香族化合物および複数の芳香環が2価の連結基(単結合を含む)で連結された芳香族化合物からなる群から選ばれる芳香族化合物の芳香環に結合している水素原子を2つ取り去って得られる基であり、好適には、2,2−ジフェニルプロパン、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基、2,6−ナフタレンジイル基および4,4’−ビフェニレン基から選ばれる2価の芳香族基であり、このような基から選ばれる2価の芳香族基を有する液晶高分子は、より機械強度に優れる傾向があるため好ましい。
【0062】
構造単位(I)は、芳香族ヒドロキシカルボン酸から誘導される構造単位であり、該芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、4−ヒドロキシ安息香酸、3−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、7−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、6−ヒドロキシ−1−ナフトエ酸、4’−ヒドロキシビフェニル−4−カルボン酸、またはこれらの芳香族ヒドロキシカルボン酸にある芳香環上の水素の一部または全部が、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子に置換されてなる芳香族ヒドロキシカルボン酸が挙げられる。なお、アルキル基としては炭素数1〜6のものが典型的であり、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基などの、直鎖、分岐または脂環状のアルキル基が挙げられる。アルコキシ基としては炭素数1〜6のものが典型的であり、メトキシ基、エトキシ基、プロピオキシ基、イソプロピオキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基などの、直鎖、分岐または脂環状のアルコキシ基が挙げられる。アリール基としては、フェニル基やナフチル基が挙げられる。また、ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子から選ばれる。
【0063】
構造単位(II)は、芳香族アミノカルボン酸から誘導される構造単位であり、該芳香族アミノカルボン酸としては、4−アミノ安息香酸、3−アミノ安息香酸、6−アミノ−2−ナフトエ酸、またはこれら芳香族アミノカルボン酸にある芳香環上の水素の一部又は全部が、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子に置換されてなる芳香族アミノカルボン酸が挙げられる。ここで、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子の例示は、前記芳香族ヒドロキシカルボン酸の置換基として例示したものと同じである。
【0064】
構造単位(V)は、芳香族ヒドロキシアミンから誘導される構造単位であり、4−アミノフェノール、3−アミノフェノール、4−アミノ−1−ナフトール、4−アミノ−4’−ヒドロキシジフェニル、またはこれら芳香族ヒドロキシアミンにある芳香環上の水素の一部又は全部が、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子に置換されてなる芳香族ヒドロキシアミンが挙げられる。ここで、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子の例示は、前記芳香族ヒドロキシカルボン酸の置換基として例示したものと同じである。
【0065】
構造単位(VI)は、芳香族ジアミンから誘導される構造単位であり、1,4−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノフェニルスルフィド(チオジアニリンともいう。)、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(オキシジアニリン)、またはこれらの芳香族ジアミンにある芳香環上の水素の一部又は全部が、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子に置換されてなる芳香族アミノカルボン酸、前記に例示した芳香族ジアミンの1級アミノ基に結合している水素原子がアルキル基に置換されてなる芳香族ジアミンが挙げられる。ここで、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子の例示は、前記芳香族ヒドロキシカルボン酸の置換基として例示したものと同じである。
【0066】
前記の構造単位(III)におけるAr3と、構造単位(IV)におけるAr4は、Ar1、Ar2、Ar5またはAr6で説明した芳香族基に加えて、炭素数1〜9の飽和脂肪族化合物から水素原子を2つ取り去って得られる2価の脂肪族基や2価の脂環基から選ばれる基である。
【0067】
構造単位(III)は、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸または脂環式ジカルボン酸から誘導される基であり、該芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’’−トリフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、イソフタル酸、ジフェニルエーテル−3,3’−ジカルボン酸、またはこれら芳香族ジカルボン酸にある芳香環上の水素の一部又は全部が、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子に置換されてなる芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
【0068】
該脂肪族ジカルボン酸としては、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、あるいはこれらの脂肪族ジカルボン酸にある脂肪族基の水素原子の一部または全部がアルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子に置換されてなる脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。ここで、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子の例示は、前記芳香族ヒドロキシカルボン酸の置換基として例示したものと同じである。
【0069】
該脂環式ジカルボン酸としては、トランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、シス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、トランス−1,4−(1−メチル)シクロヘキサンジカルボン酸、あるいはこれらの脂環式ジカルボン酸の脂環基の水素原子の一部または全部がアルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子に置換されてなる脂環式ジカルボン酸が挙げられる。ここで、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子の例示は、前記芳香族ヒドロキシカルボン酸の置換基として例示したものと同じである。
【0070】
構造単位(IV)は、芳香族ジオール、脂肪族ジオールまたは脂環式ジオールから誘導される基であり、該芳香族ジオールとしては、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレン−2,6−ジオール、4,4’−ビフェニレンジオール、3,3’−ビフェニレンジオール、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンまたはこれら芳香族ジオールにある芳香環上の水素の一部または全部が、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子に置換されてなる芳香族ジオールが挙げられる。
該脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレンジオール、ネオペンチルグリコールまたはこれらの脂肪族ジオールにある脂肪族基の水素原子の一部または全部がアルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子に置換されてなる脂肪族ジオールが挙げられる。なお、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子の例示は、前記芳香族ヒドロキシカルボン酸の置換基として例示したものと同じである。
【0071】
該脂環式ジオールとしては、1,6−ヘキサンジオール、トランス−1,4−シクロヘキサンジオール、シス−1,4−シクロヘキサンジオール、トランス−1,4−シクロヘキサンジメタノール、シス−1,4−シクロヘキサンジメタノール、トランス−1,3−シクロヘキサンジオール、シス−1,2−シクロヘキサンジオール、トランス−1,3−シクロヘキサンジメタノールまたはこれらの脂環式ジオールにある脂環基の水素原子の一部または全部がアルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子に置換されてなる脂肪族ジオールが挙げられる。なお、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子の例示は、前記芳香族ヒドロキシカルボン酸の置換基として例示したものと同じである。
【0072】
前記の好適な液晶高分子において、(b)又は(c)は、構造単位(III)および/または構造単位(IV)に脂肪族基および/または脂環基を有する場合もあるが、かかる脂肪族基および/または脂環基の液晶性高分子に対する導入量は、該液晶高分子が液晶性を発現し得る範囲で選択され、さらには該液晶高分子の耐熱性を著しく損なわない範囲で選択される。本発明に適用する液晶高分子において、Ar1〜Ar6の総和を100モル%としたとき、2価の芳香族基の総和が60モル%以上であると好ましく、75モル%以上であるとさらに好ましく、90モル%以上であるとより好ましく、2価の芳香族基の総和が100モル%である全芳香族液晶高分子が特に好ましい。
【0073】
好適な全芳香族液晶高分子の中でも、前記(a)のポリエステルまたは前記(b)のポリエステルが好ましく、特に前記(b)のポリエステルが好ましい。かかる好適なポリエステルの中でも、下記の(I−1)および/または(I−2)の芳香族ヒドロキシカルボン酸から誘導される構造単位と、下記の(III−1)、(III−2)および(III−3)から選ばれる少なくとも1種の芳香族ジカルボン酸から誘導される構造単位と、下記の(IV−1)、(IV−2)、(IV−3)および(IV−4)から選ばれる少なくとも1種の芳香族ジオールから誘導される構造単位とからなるポリエステルは、成形性、耐熱性、高機械強度および難燃性といった特性がいずれも高水準となり得る成形体が得られやすいという利点がある。
【0074】
【化2】

【0075】
次に、液晶高分子を製造する方法について説明する。該液晶高分子の製造方法としては、前記(a)においては芳香族ヒドロキシカルボン酸および/または芳香族アミノカルボン酸をモノマーとして用いればよく、前記(b)においては、芳香族ヒドロキシカルボン酸および/または芳香族アミノカルボン酸と、芳香族ジカルボン酸および/または脂肪族ジカルボン酸および/または脂環式ジカルボン酸と、芳香族ジオールおよび/または脂肪族ジオールおよび/または脂環式ジオールとをモノマーとして用いればよく、前記(c)においては、芳香族カルボン酸および/または芳香族アミノカルボン酸と、芳香族ジカルボン酸および/または脂肪族ジカルボン酸および/または脂環式ジカルボン酸と、芳香族ジオール、脂肪族ジオール、脂環式ジオール、芳香族ヒドロキシアミンおよび芳香族ジアミンから選ばれる少なくとも1種の化合物をモノマーとして用いればよく、これらのモノマーを公知の重合方法を適用することで、液晶高分子を製造し得る。
【0076】
より好適な液晶高分子であるポリエステルについては、前記(b)のポリエステルにおいては、芳香族ヒドロキシカルボン酸と、芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジオールとをモノマーとして用い重合させることで得ることができる。
【0077】
液晶高分子を製造するには、前記したモノマーを直接重合させもよいが、より重合を容易にする観点からエステル形成性誘導体・アミド形成性誘導体(以下、まとめてエステル・アミド形成性誘導体ということがある)を用いることが好ましい。該エステル・アミド形成性誘導体とは、エステル生成反応またはアミド生成反応を促進するような基を有するモノマーを示し、具体的に例示すると、モノマー分子内のカルボキシル基を、ハロホルミル基、酸無水物、エステルに転換したエステル・アミド形成性誘導体、モノマー分子内のフェノール性水酸基、アミノ基を、それぞれエステル基、アミド基にしたエステル・アミド形成性誘導体などが挙げられる。
【0078】
前記液晶高分子の中でも好適な前記(b)におけるポリエステルの製造方法について詳述する。このようなポリエステルは、例えば、特開2002−146003号公報に記載の方法などによって製造可能であり、この公報記載の方法を簡単に説明する。まず、酸無水物、好ましくは無水酢酸を用いて、芳香族ヒドロキシカルボン酸および芳香族ジオールのフェノール性水酸基をアシルオキシ基に転換したアシル化物を得、該アシル化物のアシルオキシ基と、アシル化芳香族ヒドロキシカルボン酸および芳香族ジカルボン酸のカルボキシル基とが、エステル交換により脱酢酸反応を生じさせることによって、ポリエステルを製造する。
【0079】
このようなアシル化によって得られるエステル形成性誘導体は脱酢酸重縮合により容易に重合可能である。より好ましくは、アシル化物と芳香族ジカルボン酸とを、反応温度150〜400℃で、反応時間0.5〜8時間程度溶融重合させて、比較的低分子量のポリマー(以下、「プレポリマー」という)を得、次いで、このプレポリマーを粉末とし、加熱することにより固相重合させることでポリエステルが得られる。このような固相重合を用いると、重合がより進行して、ポリエステルの高分子量化を図ることができるので好ましい。
【0080】
本発明の液晶高分子組成物は、液晶高分子100重量部に対して、ナノ構造中空炭素材料の使用量が0.01〜900重量部の範囲であると好ましい。ナノ構造中空炭素材料の使用量が0.01重量部を下回ると成形収縮率の異方性を小さくする効果が発現しにくくなる。一方、ナノ構造中空炭素材料の使用量が900重量部を越えると、液晶高分子組成物の成形加工性が低下しやすくなり、得られる成形体の機械的強度が低下して脆くなる傾向もある。本発明の液晶高分子組成物に係るナノ構造中空炭素材料の使用量は多量であるほど、得られる成形体の比重低減に繋がるので、より軽量化された成形体が得られる。
【0081】
本発明における液晶高分子組成物を構成するナノ構造中空炭素材料の使用量は、成形加工性と特性のバランスを考慮すると、液晶高分子100重量部に対して0.1〜250重量部が好ましく、0.2〜125重量部がより好ましく、0.5〜70重量部がさらに好ましい。また、さらにナノ構造中空炭素材料の使用量を少なくしたとしても、成形収縮率の異方性を抑制して、得られる成形体の反りなどの発生を抑制することができる。成形体比重の低減を特に必要とせず、成形収縮率の異方性を小さくする目的には、液晶高分子100重量部に対して0.5〜30重量部でも十分であり、0.5〜10重量部でも十分異方性の低減が可能である。このように異方性の低減に加えて、比重の低減やその他の特性とのバランスを勘案して、ナノ構造中空炭素材料の使用量は適宜最適化される。
【0082】
本発明の液晶高分子組成物において、ナノ構造中空炭素材料の存在が、成形収縮率の異方性を小さくするメカニズムは必ずしも明らかではない。しかしながら、本発明者等は次のように推定している。すなわち、液晶高分子を含む組成物を溶融成形して成形体を得ると、通常スキン層と呼ばれる液晶高分子が高度に分子配向した層が成形体表面に形成される。このスキン層では特に液晶高分子の配向度が強いので、成形収縮率の異方性発現に大きく寄与する。ナノ構造中空炭素材料は、粒子径がナノサイズであって比較的小さく、粒子1つ1つの比重も小さいため、成形体中でより多くスキン層に存在しやすくなり、スキン層の配向度を低下させて、成形収縮率の異方性を小さくすることができると推定される。
【0083】
また、ナノ構造中空炭素材料は、これまで液晶高分子の充填剤として周知であったガラスバルーンなどに比して軽量の成形体を得るうえで極めて有用である。ナノ構造中空炭素材料は、その直径がガラスバルーンに比べて著しく小さく、炭素部の曲率が大きいことから破砕に対して強い強度を有する。さらに、ナノ構造中空炭素材料はその材質が炭素材料であることから、ほぼ同等の比重を有し、材質がガラスであるガラスバルーンと比較して、中空率を低くすることができる。より中空率の低い中空材料を用いてば、溶融成形時に充填剤(ナノ構造中空炭素材料)が破砕などを生じにくくなるので、成形体中で充填剤が中空構造を維持しやすくなって、成形体の低比重化を達成できる。
【0084】
本発明の液晶高分子組成物は、成形収縮率の異方性が十分低減されており、かつ、得られる成形体の比重を著しく上げることがなく、軽量の成形体を得やすいという利点がある。このようなナノ構造中空炭素材料が発現する利点を著しく損なわない範囲であれば、他の諸特性、たとえば強度、剛性や耐衝撃性等の機械強度や荷重たわみ温度等の耐熱温度等の向上、ならびにさらなる成形収縮率の異方性低減などを求めて、その他の充填剤を使用してもよい。そのような充填剤成分としては、繊維状フィラー、板状フィラー、球状フィラー、粉状フィラー、異形フィラー、ウイスカー、着色成分、潤滑剤、各種界面活性剤、酸化防止剤や熱安定剤、その他各種安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等が挙げられ、さらに、繊維状フィラーとしては、例えばガラス繊維、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、シリカアルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、液晶高分子(LCP)繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維などが挙げられる。板状フィラーとしては例えばタルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイトが挙げられる。球状フィラーとしては、ガラスビース、ガラスバルーンが挙げられる。粉状フィラーとしては、炭酸カルシウム、ドロマイト、クレイ硫酸バリウム、酸化チタン、カーボンブラック、導電カーボン、微粒シリカなどが挙げられる。異形フィラーとしては、ガラスフレーク、異形断面ガラス繊維が挙げられる。これらの充填剤成分を1種または2種以上組み合わせて添加してもよい。その他の充填剤の添加量は、液晶高分子100重量部に対して好ましくは0〜250重量部、より好ましくは、0〜150重量部、さらに好ましくは0〜100重量部である。
【0085】
また、本発明の液晶高分子組成物は、本発明の企図する目的を損なわない範囲であれば、その他の樹脂成分が含まれても構わない。そのような樹脂成分としては、例えばポリアミド、ポリエステル、ポリエステルアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテルおよびその変性物、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミドなどの熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂を1種または2種以上組み合わせて添加してもよい。
【0086】
〈液晶高分子組成物の製造方法〉
本発明の液晶高分子組成物は、種々の慣用の方法によって調製することができる。液晶高分子、ナノ構造中空炭素材料、さらに必要に応じて加えられる成分を、ヘンシェルミキサーやタンブラーなどを用いて混合することで液晶高分子組成物が得られる。また、一般的には、押出機で液晶性高分子をあらかじめ加熱溶融させてからナノ構造中空炭素材料、必要に応じて加えられる成分を投入して混練することにより、液晶高分子組成物をペレット状(組成物ペレット)で得ることもできる。または、液晶性高分子、ナノ構造中空炭素材料、さらに必要に応じて加えられる成分を、ヘンシェルミキサーやタンブラーなどを用いて混合し、混合物を得た後、さらにその混合物を、押出機を用いて溶融混練し、組成物ペレットとしてもよい。また、上記方法の組み合わせ、すなわち、一部の液晶高分子とナノ構造中空炭素材料混合物とを、あらかじめ混合分散化しておき、これを、押出機を用いて加熱溶融させた残りの液晶高分子に投入して混練することにより、組成物ペレットにしてもよい。このように組成物ペレットとすることが、後の射出成形などの成形加工において取扱いが容易になるため好ましい。なお、押出機としては2軸の混練押出機を用いることが好ましい。
【0087】
〈液晶高分子組成物の成形方法〉
本発明の液晶高分子組成物は、公知の溶融成形法、好ましくは、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、真空成形などの成形法に適用可能である。また、Tダイを用いたフィルム成形、インフレーション成形などのフィルム製膜や溶融紡糸にも適用可能である。
【0088】
特に、様々な形状の成形体に適用でき、高生産性が達成可能である点で射出成形が好ましい。ここでは射出成形について詳述する。まず、組成物ペレットの流動開始温度FT(℃)を求める。ここで、流動開始温度とは射出成形機の可塑化装置内で組成物ペレットが溶融する温度を表す。なお、流動開始温度とは、内径1mm、長さ10mmのノズルを持つ毛細管レオメータを用いて、9.81MPa(100kgf/cm2)の荷重下、4℃/分の昇温速度で加熱溶融体を昇温しながらノズルから押し出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポイズ)を示す温度である。かかる流動開始温度は通常、液晶高分子組成物にある液晶高分子の種類に依存するものであり、当該分野で周知の液晶高分子の分子量を表す指標である(小出直之編、「液晶性ポリマー合成・成形・応用−」、95〜105頁、シーエムシー、1987年6月5日発行を参照)。本発明においては、流動開始温度を測定する装置として、株式会社島津製作所製の流動特性評価装置「フローテスターCFT−500D」を用いる。
【0089】
好適な射出成形方法としては、組成物ペレットの流動開始温度FT(℃)に対して、[FT]℃以上[FT+100]℃以下の温度で該組成物ペレットを溶融せしめて、0℃以上の温度に設定された金型に射出成形する方法が挙げられる。なお、該組成物ペレットは射出成形する前に乾燥させておくことが好ましい。
【0090】
樹脂溶融温度が、[FT]℃よりも低い温度で射出成形すると、流動性が低く微細な形状において完全に充填することができなかったり、金型面への転写性が低く成形体表面が荒れたりする傾向があり、好ましくない。一方、樹脂溶融温度が、[FT+100]℃よりも高い温度で射出成形すると、成形機内で滞留する液晶高分子の分解が生じて、その結果得られる成形体に膨れを生じたり、あるいは、脱ガスなどが発生しやすい成形体が得られたり、射出成形後、金型を開いて成形体を取り出す際にノズルから溶融樹脂が流れ出やすくなったりする。このような脱ガスが発生しやすい成形体では、該成形体を種々の部品に適用するうえで、ガスが悪影響を及ぼす傾向にあり、様々な用途に適用することが困難になることがある。また、金型を開いて成形体を取り出す際にノズルから溶融樹脂が流れ出るような場合、流れ出た溶融樹脂が、いわゆるバリとなって所望の形状の成形体が得られにくいという場合、後工程でバリを除去する必要があるので成形体の生産性が低下するといった問題も生じる。このような不都合を良好に回避する点と、得られる成形体の安定性と成形加工性を考慮して、樹脂溶融温度は[FT+10]℃以上[FT+80]℃以下であることが好ましく、さらに[FT+15]℃以上[FT+60]℃以下であることがより好ましい。
【0091】
また、金型温度は前記のとおり、通常0℃以上に設定されるが、必ずしも限定されるものではなく、成形体の外観、寸法、機械物性、および、加工性や成形サイクルといった生産性を加味して決定される。一般的には40℃以上が好適である。該金型温度が40℃を下回ると、連続成形した際の金型温度のコントロールが難しくなり、その温度ばらつきが成形体に悪影響を及ぼすことがあるため好ましくない。また、より好ましくは金型温度は70℃以上である。金型温度が70℃を下回ると、得られる成形体の表面平滑性が損なわれやすい。表面平滑性を上げる観点からは、金型温度は高いほど有利であるが、高すぎると冷却効果が低下して冷却工程に要する時間が長くなるために生産性が低下したり、離型性の低下により成形体が変形したりするなどの問題が生じるため好ましくない。さらにいえば、金型温度を上げすぎると金型どうしの噛み合いが悪くなり、金型開閉時に金型が破損するという不都合が生じやすくなる。金型温度の上限も、前記組成物ペレットに含まれる液晶高分子の分解を防止するために、適用する組成物ペレットの種類に応じて適宜最適化することが好ましい。なお、前記に例示したような、特に好適な液晶高分子である全芳香族ポリエステルである場合、金型温度は70℃以上220℃以下が好ましく、130℃以上200℃以下がより好ましい。
【0092】
本発明の液晶高分子組成物は、既述のように特に電気・電子部品に好適である。当該電気・電子部品としては、例えば、コネクター、ソケット、リレー部品、コイルボビン、光ピックアップ、発振子、プリント配線板、 回路基板、半導体パッケージ、コンピュータ関連部品などの電気・電子部品が挙げられる。
【0093】
また、本発明の液晶高分子組成物は、電気・電子部品の製造用に留まらず、軽量性や成形収縮率の異方性の低減化を必要とする他の部材にも使用できる。そのような部材としては、ICトレー、ウエハーキャリヤー等の半導体製造プロセス関連部品;VTR、テレビ、アイロン、エアコン、ステレオ、掃除機、冷蔵庫、炊飯器、照明器具等の家庭電気製品部品;ランプリフレクター、ランプホルダー等の照明器具部品;コンパクトディスク、レーザーディスク、スピーカー、等の音響製品部品;光ケーブル用フェルール、電話機部品、ファクシミリ部品、モデム等の通信機器部品;分離爪、ヒータホルダー等の複写機、印刷機関連部品;インペラー、ファン歯車、ギヤ、軸受け、モーター部品及びケース等の機械部品;自動車用機構部品、エンジン部品、エンジンルーム内部品、電装部品、内装部品等の自動車部品、マイクロ波調理用鍋、耐熱食器等の調理用器具;床材、壁材などの断熱、防音用材料、梁、柱などの支持材料、屋根材等の建築資材、または土木建築用材料;航空機、宇宙機、宇宙機器用部品;原子炉等の放射線施設部材、海洋施設部材、洗浄用治具、光学機器部品、バルブ類、パイプ類、ノズル類、フィルター類、膜、医療用機器部品及び医療用材料、センサー類部品、サニタリー備品、スポーツ用品、レジャー用品が挙げられる。
【0094】
このように、様々な用途に本発明の液晶高分子組成物を用いてなる成形体を使用することができるが、当該組成物は成形収縮率の異方性が小さいという特長を有することから、得られる成形体の寸法精度が要求される用途に特に好適である。
【実施例】
【0095】
以下、本発明の実施例を示すが本発明はこれに限定されるものではない。なお、本実施例で実施した液晶高分子組成物または成形体の評価方法は以下のとおりである。
【0096】
成形収縮率:
液晶高分子組成物を射出成形機にて厚さ1mmのフィルムゲートを有する64mm×64mm×3mmの平板状の成形収縮率測定用試験片に成形した。この試験片の流動方向に平行な方向(MD)と垂直な方向(TD)の辺の長さを測定し、金型寸法に対する成形品寸法の割合から算出した。具体的には下記式によって成形収縮率を算出した。
[成形収縮率]=([金型寸法]―[成形品寸法])/[金型寸法]×100 (%)
【0097】
比重:
液晶高分子組成物を射出成形機にてASTM4号ダンベルに成形し比重測定用試験片を得た。この試験片についてASTM D792に準拠して比重を測定した(23℃)。なお、ASTM4号ダンベルの代わりに64×64×1mm厚みの試験片や長さ127mm、幅12.7mm、厚さ6.4mmの試験片を用いても、同等の結果となった。
【0098】
製造例1〈ナノ構造中空炭素材料の製造〉
2.24gの鉄粉末と7.70gのクエン酸と400mlの水で0.1Mの鉄混合液を調製し、密閉容器に入れ、卓上震盪機で7日間混合した。混合期間中、適宜発生した水素ガスを容器から排出させ、触媒ナノ粒子混合液を得た。6.10gのレゾルシノールと9.0gのホルムアルデヒドの混合溶液に、上記触媒ナノ粒子混合液100mlを加え、激しく撹拌しながら30mlのアンモニア水溶液を滴下した。得られた懸濁液のpHは10.26であった。上記懸濁液をオイルバス上で80〜90℃に加熱して3.5時間熟成させ、炭素材料中間体を生成させた。炭素材料中間体をろ過により回収し、一晩オーブン中で乾燥させたのち、窒素雰囲気中、1150℃、3時間焼成した。得られたナノ構造複合材料を5Mの硝酸溶液で6〜8時間リフラックスさせ、酸化性混合液(H2O/H2SO4/KMnO4=1:0.01:0.003(モル比))300ml中、90℃、3時間熱処理した。さらに水で洗浄し、オーブン中で3時間乾燥して、ナノ構造中空炭素材料1.1gを得た。得られたナノ構造中空炭素材料を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した結果を図1に示す。TEM観察の結果、炭素部は30〜100層の多層状の構造を有していた。
【0099】
製造例2〈液晶高分子の製造〉
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、パラヒドロキシ安息香酸 1000.4g(7.24モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル 436.1g(2.34モル)、テレフタル酸 232.4g(1.40モル)、イソフタル酸 155.5g(0.94モル)及び無水酢酸 1400.3g(13.72モル)および触媒として1−メチルイミダゾール0.194gを添加し、室温で15分間攪拌して反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、攪拌しながら昇温した。内温が142℃となったところで、同温度を保持したまま1時間攪拌した。
【0100】
その後、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了としてプレポリマーを得た。
プレポリマーの流動開始温度は260℃であった。
【0101】
得られたプレポリマーは室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕して、液晶ポリエステルの粉末(粒子径は約0.1mm〜約1mm)を得た後、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から280℃まで5時間かけて昇温し、280℃で3時間保持し、固層で重合反応を進めた。得られたポリエステルの流動開始温度は286℃であった。このようにして得られたポリエステルをLCP1とする。
【0102】
また、実施例4〜6および比較例2〜4では以下のガラス繊維を使用した。
mGF(ミルドガラスファイバー):
セントラル硝子株式会社製ミルドファイバー・ガラスパウダー EFH75−01(メーカー公表サイズ10μmφ×75μm)
【0103】
実施例1〜3
製造例1で得られたナノ構造中空炭素材料、および製造例2で得られた液晶高分子(LCP1)を表1に示す組成で二軸押出機(池貝鉄工株式会社PCM−30)を用いて、シリンダー温度300℃で造粒し、組成物ペレットを得た。得られた組成物ペレットの流動開始温度(FT:フロー温度)を、前記に示す方法により測定した。前記のようにして得られた組成物ペレットを乾燥後、日精樹脂工業(株)製のPS40E−5ASE型射出成形機を用い、表2に記載した樹脂温度、金型温度で射出成形を行い、成形収縮率測定用試験片、比重測定用試験片を得た。評価結果を表2に示す。
【0104】
実施例4〜6
製造例1で得られたナノ構造中空炭素材料、および製造例2で得られた液晶高分子(LCP1)、およびガラス繊維(ミルドガラスファイバー)を表1に示す組成で二軸押出機(池貝鉄工株式会社PCM−30)を用いて、シリンダー温度300℃で造粒し、組成物ペレットを得た。得られた組成物ペレットの流動開始温度(FT:フロー温度)を、前記に示す方法により測定した。前記のようにして得られた組成物ペレットを乾燥後、日精樹脂工業(株)製のPS40E−5ASE型射出成形機を用い、表2に記載した樹脂温度、金型温度で射出成形を行い、成形収縮率測定用試験片、比重測定用試験片を得た。評価結果を表2に示す。
【0105】
比較例1
製造例2で得られた液晶高分子(LCP1)を二軸押出機(池貝鉄工株式会社PCM−30)を用いて、シリンダー温度300℃で造粒し、液晶高分子ペレットを得た。得られたペレットの流動開始温度(FT:フロー温度)を、前記に示す方法により測定した。前記のようにして得られたペレットを乾燥後、日精樹脂工業(株)製のPS40E−5ASE型射出成形機を用い、表2に記載した樹脂温度、金型温度で射出成形を行い、成形収縮率測定用試験片、比重測定用試験片を得た。評価結果を表1に示す。
【0106】
比較例2〜4
製造例2で得られた液晶高分子(LCP1)、およびガラス繊維(ミルドガラスファイバー)を表1に示す組成で二軸押出機(池貝鉄工株式会社PCM−30)を用いて、シリンダー温度300℃で造粒し、液晶高分子組成物ペレットを得た。得られた組成物ペレットの流動開始温度(FT:フロー温度)を、前記に示す方法により測定した。前記のようにして得られた液晶高分子組成物ペレットを乾燥後、日精樹脂工業(株)製のPS40E−5ASE型射出成形機を用い、表2に記載した樹脂温度、金型温度で射出成形を行い、成形収縮率測定用試験片、比重測定用試験片を得た。評価結果を表2に示す。
【0107】
【表1】

【0108】
【表2】

【0109】
液晶高分子とナノ構造中空炭素材料からなる液晶高分子組成物(実施例1〜3)は、液晶高分子(比較例1)に対して成形収縮率の異方性が小さいことが判明した。また、液晶高分子とガラス繊維からなる液晶高分子組成物(比較例2〜4)に対して、成形収縮率の異方性が小さく、かつ、比重も小さいことが判明した。液晶高分子とナノ構造中空炭素材料とガラス繊維からなる液晶高分子組成物(実施例4〜6)は、液晶高分子とガラス繊維からなる液晶高分子組成物(比較例2〜4)に対して著しく比重をあげることなくさらに成形収縮率の異方性が小さいことが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ構造中空炭素材料と液晶高分子とを含む液晶高分子組成物。
【請求項2】
ナノ構造中空炭素材料が、以下の(A)の要件を有する請求項1記載の液晶高分子組成物。
(A)ナノ構造中空炭素材料が以下の(1)および(2)からなる群から選ばれる少なくとも1種の粒子からなること。
(1)炭素部および中空部を有し、中空部が炭素部により完全に覆われている粒子。
(2)炭素部および中空部を有し、中空部が炭素部により部分的に覆われている粒子。
【請求項3】
ナノ構造中空炭素材料が、以下の(B)、(C)および(D)の要件を有する請求項1または2に記載の液晶高分子組成物。
(B)ナノ構造中空炭素材料の炭素部が、2〜1000層からなる多層状の構造を有すること。
(C)ナノ構造中空炭素材料の炭素部の厚みが、1nm〜200nmの範囲であること。
(D)ナノ構造中空炭素材料の中空部の径が、0.5nm〜900nmの範囲であること。
【請求項4】
さらにガラス繊維を含む請求項1〜3のいずれかに記載の液晶高分子組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の液晶高分子組成物からなる成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2010−7067(P2010−7067A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130163(P2009−130163)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】