ナノ粒子の製造方法及びナノ粒子分散液
【課題】金属の種類を限定することなく簡単な操作によりコアシェル構造のナノ粒子を製造する。
【解決手段】イオン液体にAuを蒸着することによりAuのナノ粒子が分散されたイオン液体を得たあと、引き続きそのイオン液体中のAuのナノ粒子の表面が酸化されていない状態でそのイオン液体にInを蒸着することによりAuをコアとしInOxをシェルとするコアシェル構造のナノ粒子を得る。
【解決手段】イオン液体にAuを蒸着することによりAuのナノ粒子が分散されたイオン液体を得たあと、引き続きそのイオン液体中のAuのナノ粒子の表面が酸化されていない状態でそのイオン液体にInを蒸着することによりAuをコアとしInOxをシェルとするコアシェル構造のナノ粒子を得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子の製造方法及びナノ粒子分散液に関し、詳しくはコアシェル構造を持つナノ粒子の製造方法及びそのナノ粒子分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは、ナノ粒子の製造方法として、スライドガラス上にイオン液体を載せ、これを蒸着装置内に静置し、イオン液体に対向する位置にターゲット材として所定の金属(例えば金)を装着し、そのスパッタリングを行うことにより、所定の金属のナノ粒子がイオン液体に分散した分散液を得る方法を開示している(特許文献1)。この方法によれば、ターゲット材からナノ粒子を直接製造するため、煩雑な操作を必要とせずにナノ粒子を得ることができるし、副生成物もないという利点がある。同様の方法は、特許文献2にも開示されている。一方、コアシェル構造を持つナノ粒子も知られている。例えば、ケミカルデポジションの手法を用いて、金をコアとしパラジウムをシェルとするコアシェル構造のナノ粒子を得る例が報告されている(非特許文献1)。この非特許文献1では、化学還元法で金属イオンを還元することによって金をコアとしパラジウムをシェルとするコアシェル構造のナノ粒子を作製している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−231306号公報
【特許文献2】特表2009−525396号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Chem. Phys. Lett., vol.408(2005), p354
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に記載された製造方法では、酸化還元電位の違いを利用しているため、金属の種類が限定され、汎用性が低いという問題があった。また、還元反応を順次実施するため、製造手順が煩雑になるという問題があった。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、金属の種類を限定することなく簡単な操作によりコアシェル構造のナノ粒子を製造することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、コアシェル構造を持つナノ粒子を製造するにあたり、イオン液体に金属のスパッタリングを行う手法を適用できないかを種々検討した結果、まずイオン液体に金をスパッタリングしたあと、引き続きそのイオン液体にインジウムをスパッタリングすると、金をコアとしインジウム酸化物をシェルとするコアシェル構造のナノ粒子が得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のナノ粒子の製造方法は、イオン液体に第1金属を蒸着することにより前記第1金属のナノ粒子が分散されたイオン液体を得たあと、引き続き前記第1金属のナノ粒子の表面が酸化されていない状態で前記イオン液体に第2金属を蒸着することにより前記第1金属をコアとし前記第2金属及び/又はその酸化物をシェルとするコアシェル構造のナノ粒子を得るものである。
【0009】
本発明のナノ粒子の製造方法によれば、イオン液体に第1金属と第2金属のスパッタリングを連続して行うという簡単な操作により、コアシェル構造を持つナノ粒子を得ることができる。また、化学還元法などを利用するものではないため、第1金属と第2金属とは組み合わせも制限されず、汎用性が高い。このコアシェル構造を持つナノ粒子が凝集したとしても、シェルが存在していることからコアをなす第1金属同士が凝集することはない。このため、例えばコアをなす第1金属が触媒機能を有し、シェルが多孔性を有する場合、このナノ粒子が凝集したとしても、反応基質が多孔性のシェルを通じて効率よくコアと接触することができるため、第1金属の触媒機能を十分発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】蒸着装置10の構成及びそれを用いた製造手順を表す説明図である。
【図2】実施例1B、実施例1C等の吸収スペクトルのグラフである。
【図3】実施例1Aのイオン液体中の粒子のTEM像の写真及び粒径のヒストグラムである。
【図4】実施例1Bのイオン液体中の粒子のTEM像の写真である。
【図5】実施例1Bのイオン液体中の粒子のXPSスペクトルのグラフである。
【図6】実施例1Bのイオン液体中の粒子のHRTEM像の写真である。
【図7】図6の部分拡大写真である。
【図8】実施例1Cのイオン液体中の粒子のTEM像の写真である。
【図9】図8の部分拡大写真である。
【図10】実施例1B、実施例1C等の各粒子のXRDパターンのグラフである。
【図11】比較例1B、比較例1C等の吸収スペクトルのグラフである。
【図12】比較例1Bのイオン液体中の粒子のTEM像の写真である。
【図13】比較例1Cのイオン液体中の粒子のTEM像の写真である。
【図14】実施例2で回収したイオン液体中の粒子のTEM像の写真である。
【図15】図14の部分拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のナノ粒子の製造方法は、イオン液体に第1金属を蒸着することにより前記第1金属のナノ粒子が分散されたイオン液体を得たあと、引き続き前記第1金属のナノ粒子の表面が酸化されていない状態で前記イオン液体に第2金属を蒸着することにより前記第1金属をコアとし前記第2金属及び/又はその酸化物をシェルとするコアシェル構造のナノ粒子を得るものである。
【0012】
本発明のナノ粒子の製造方法において、第1金属のナノ粒子が分散されたイオン液体に第2金属を蒸着する際には、第1金属のナノ粒子の表面が酸化されていないことが必要である。第1金属のナノ粒子の表面が酸化されている場合には、第2金属が第1金属を包み込むことができず、イオン液体中に第1金属のナノ粒子と第2金属のナノ粒子が混合分散した状態となってしまう。このため、第1金属は第2金属に比べて酸化されにくいものを用いることが好ましく、貴金属を用いることがより好ましい。第1金属が第2金属に比べて酸化されやすいものを用いると、第1金属と第2金属とを順次イオン液体に蒸着したとしても、コアシェル構造のナノ粒子は得られないことがある。この場合、おそらく、酸化しやすい第1金属のナノ粒子が生成したあと、第2金属の蒸着の準備中に第1金属のナノ粒子が空気と接触して表面が酸化されてしまったことが原因だと思われる。なお、貴金属とは、Au,Ag,Pt,Pd,Rh,Ir,Ru,Osの8つの元素をいう。
【0013】
イオン液体とは、陽イオンと陰イオンのみから構成される塩であるにもかかわらず常温で液体である一連の化合物をいう。イオン液体は、高温でも安定であり液体温度範囲が広い、蒸気圧が略ゼロ、イオン性でありながら低粘性、高い酸化・還元耐性などの特性を有している。本発明に適用可能なイオン液体は、親水性であっても疎水性であってもよく、またその種類は特に限定されるものではないが、例えば脂肪族系イオン液体、イミダゾリウム系イオン液体、ピリジニウム系イオン液体などが挙げられる。脂肪族系イオン液体としては、N,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(以下、TMPA−TFSAという)やN−メチル−N−プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムテトラフルオロホウ酸塩などを挙げることができる。イミダゾリウム系イオン液体としては、1,3−ジアルキルイミダゾリウム塩、1,2,3−トリアルキルイミダゾリウム塩などが挙げられる。具体的には、1,3−ジアルキルイミダゾリウム塩としては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムブロマイドや1−エチル−3−メチル−イミダゾリウムクロライド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム(L)−乳酸塩、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸塩(以下、EMI−BF4という)、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸塩(以下、BMI−BF4という)、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホン酸塩、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム(L)−乳酸塩、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムブロマイド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸塩、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホン酸塩、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩、1−デシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−テトラデシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−ヘキサデシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−オクタデシル−3−メチルイミダゾリウムクロライドなどが挙げられる。1,2,3−トリアルキルイミダゾリウム塩としては、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムブロマイドや1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムクロライド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムブロマイド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムクロライド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸塩、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホン酸塩、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムブロマイド、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムクロライド、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムトラフルオロホウ酸塩、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホン酸塩などが挙げられる。また、ピリジニウム系イオン液体としては、エチルピリジニウム塩やブチルピリジニウム塩、ヘキシルピリジニウム塩などが挙げられる。具体的には、エチルピリジニウム塩としては、1−エチルピリジニウムブロマイドや1−エチルピリジニウムクロライドが挙げられ、ブチルピリジニウム塩としては、1−ブチルピリジニウムブロマイドや1−ブチルピリジニウムクロライド、1−ブチルピリジニウムヘキサフルオロリン酸塩、1−ブチルピリジニウムテトラフルオロホウ酸塩、1−ブチルピリジニウムトリフルオロメタンスルホン酸塩などが挙げられ、ヘキシルピリジニウム塩としては、1−ヘキシルピリジニウムブロマイドや1−ヘキシルピリジニウムクロライド、1−ヘキシルピリジニウムヘキサフルオロリン酸塩、1−ヘキシルピリジニウムテトラフルオロホウ酸塩、1−ヘキシルピリジニウムトリフルオロメタンスルホン酸塩などが挙げられる。
【0014】
これらのイオン液体のうち、例えば、親水性の高いイミダゾリウム系化合物としてEMI−BF4やBMI−BF4を本発明に用いたり、疎水性の高い脂肪族系化合物としてTMPA−TFSAなどを本発明に用いたりすることができる。
【0015】
本発明のナノ粒子の製造方法において、蒸着は、周知の化学蒸着法(CVD法)や物理蒸着法(PVD法)などの乾式成膜法により基板上にナノ粒子を析出させるのと同様の装置・手順で実施可能であるが、このうち、固体状態の金属から金属原子を蒸発させるか又は叩き出すことにより成膜する物理蒸着法(例えば、真空蒸着法やイオンプレーティング法、スパッタリング法など)が好ましい。物理蒸着法によれば、バルク材料からナノ粒子を比較的簡単な系で直接製造することができる。また、物理蒸着法のうちスパッタリング法がより好ましい。スパッタリング法では、金属の蒸発を行う際にるつぼを必要としないため、純度の高いナノ粒子を製造することができる。なお、蒸発原理としては、真空蒸着法の場合には、例えば抵抗加熱方式や遠赤外線加熱方式、電子ビーム加熱方式、アーク加熱方式、高周波誘導加熱方式などを用いることができ、イオンプレーティング法の場合には、例えば高周波励起方式やイオンビーム方式、クラスタ方式などを用いることができ、スパッタリング法の場合には、例えばDCスパッタ方式、マグネトロンスパッタ方式、高周波スパッタ方式、イオンビームスパッタ方式などを用いることができる。
【0016】
本発明のナノ粒子の製造方法において、シェルは多孔性であることが好ましい。コアシェル構造を持つナノ粒子が凝集したとしても、シェルが存在していることからコアをなす第1金属同士が凝集することはない。このため、例えばコアをなす第1金属が触媒機能を有し、シェルが多孔性を有する場合、このナノ粒子が凝集したとしても、反応基質が多孔性のシェルを通じて効率よくコアと接触することができるため、第1金属の触媒機能を十分発揮することができる。
【0017】
本発明のナノ粒子の製造方法においては、第1金属や第2金属をイオン液体に蒸着させる際、減圧下で行うのが好ましい。減圧下で行えば、純度の高いナノ粒子を短時間で生成することができる。ここで、「減圧下」とは、気圧が大気よりも低い状態であればよく、好ましくは20Pa以下である。
【0018】
蒸着法としてスパッタリング法を採用する場合、ガス雰囲気下で行うとしてもよい。ガスを送り込む場合、使用するガスは希ガスが好ましく、アルゴンガスがより好ましい。このときのアルゴンガスの圧力は、20Pa以下が好ましい。蒸着電流の大きさは、原料や蒸着装置に応じて適宜設定すればよい。また、反応時間も反応温度やイオン液体の量などによって好ましい範囲が変わるが、数十秒〜数時間の範囲で設定するのが好ましく、30秒〜20分の範囲で設定するのがより好ましい。
【0019】
蒸着法としてスパッタリング法を採用する場合、例えば以下のようにして行うとしてもよい。図1(a)に示すように、蒸着装置10として、真空にすることが可能な蒸着チャンバー12と、蒸着チャンバー12の上面に設置されターゲット材18を装着可能な陰極14と、陰極14に対向する位置に設置された陽極16とを備えたものを使用する場合には、まず、第1金属からなるターゲット材18を陰極14に装着し、イオン液体22を載せたガラス基板20を陽極16上に配置する。そして、蒸着チャンバー12内を真空又はガス雰囲気下(例えばアルゴンガスなど)にした状態で陰極14に高電圧を印加する。すると、蒸着チャンバー12内にグロー放電が発生し、グロー放電によって生じたガスイオンがターゲット材18に衝突することにより、ターゲット材18を構成している第1金属の原子がスパッタ蒸発される。そして、ターゲット材18からたたき出された第1金属の原子が対面するイオン液体22に入り込み、第1金属の原子から構成されるナノ粒子がイオン液体22に分散する。続いて、図1(b)に示すように、陰極14に第2金属からなるターゲット材24を装着し、第2金属の原子をスパッタ蒸発させる。すると、ターゲット材24からたたき出された第2金属の原子が対面するイオン液体22に入り込む。このとき、イオン液体22に分散している第1の金属が酸化されていなければ、第2金属の原子は第1の金属の原子から構成されるナノ粒子の周りを取り囲む。その結果、イオン液体22には、第1の金属からなるコアと第2の金属及び/又はその酸化物からなるシェルとを備えたナノ粒子が分散した状態となる。そして、図1(c)に示すように、こうしたコアシェル構造を持つナノ粒子が分散したイオン液体22をガラス基板20から試験管26に回収する。
【0020】
このようにして得られるコアシェル構造を持つナノ粒子のサイズは、特に限定するものではないが、例えばコアの直径は1〜10nm程度、シェルの厚さは0.5〜2nm程度である。コアの直径やシェルの厚みは、用いるイオン液体の性質(例えば親水性、疎水性など)や反応時間の長短などによって変化すると考えられる。
【0021】
本発明のナノ粒子の製造方法によって得られるコアシェル構造を持つナノ粒子は、シェルが多孔性を有していると考えられる。この点は、以下の実験事実によって支持される。すなわち、図1(a)の蒸着装置10において、インジウムからなるターゲット材18を陰極14に装着し、イオン液体22にインジウムナノ粒子を分散させたところ、コア部分にインジウム、シェル部分にアモルファスの酸化インジウムが存在する中実ナノ粒子が得られた。この中実ナノ粒子を分散させたイオン液体を空気中で250℃、1時間加熱したところ、中が空洞の中空ナノ粒子が得られた。この中空ナノ粒子は、酸化インジウムから構成されているものであった。この実験事実から、反応メカニズムは、コア部分がインジウム、シェル部分が酸化インジウムの中実ナノ粒子を空気中で加熱すると、シェル部分の微小隙間を通じて空気中の酸素とコア部分のインジウムとが反応して酸化インジウムが生成し、それと共にコア部分に空洞が生じたと考えられる。なお、もしシェル部分が緻密であれば、空気中で加熱したとしてもコア部分のインジウムと空気中の酸素とは反応せず、中実ナノ粒子のまま変化しないと考えられる。
【0022】
本発明のナノ粒子の製造方法により製造されたナノ粒子をイオン液体から回収するには、用いたイオン液体に該イオン液体と親和性の高い溶媒を添加することにより行うことができる。すなわち、イオン液体と親和性の高い溶媒を該イオン液体に添加することにより、イオン液体中のナノ粒子が沈降する。このように、煩雑な操作を必要とすることなくイオン液体からナノ粒子を回収することができる。ここで、イオン液体と親和性の高い溶媒とは、例えばイオン液体として親水性のものを用いた場合には水、メタノール、エタノール、アセトンなどを挙げることができ、疎水性のものを用いた場合にはエーテル、ヘプタン、クロロホルム、塩化メチレンなどが挙げられる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の好適な実施例を詳しく説明する。下記の実施例及び比較例はいずれも図1の蒸着装置10を用いて行った。実施例1は、第1金属としてAu、第2金属としてInを用いてコアシェル構造のナノ粒子が分散したイオン液体を製造した例であり、比較例1は、第1金属としてIn、第2金属としてAuを用いてInナノ粒子とAuナノ粒子とが混合分散したイオン液体を製造した例である。実施例2は、第1金属としてAu、第2金属としてSnを用いてコアシェル構造のナノ粒子が分散したイオン液体を製造した例である。
【0024】
[実施例1]
120℃で3時間減圧加熱を行ったイオン液体(EMI−BF4)0.60cm3をスライドガラス上に広げ、Auをターゲット材としてイオン液体に向かってスパッタ蒸着を行った。具体的には、チャンバー内はアルゴンガスで置換し、圧力2.0Pa、スパッタ電流10mA、スパッタ時間5分とした。このイオン液体を「実施例1A」と称する。次に、スライドガラス上のイオン液体はそのままとし、Inをターゲット材として、イオン液体に向かってスパッタ蒸着を行った。具体的には、チャンバー内はアルゴンガスで置換し、圧力2.0Pa、スパッタ電流10mA、スパッタ時間30分とした。その後、スライドガラス上のイオン液体0.10cm3を試験管に回収した。このイオン液体を「実施例1B」と称する。そして、回収したイオン液体を大気圧下、250℃で1時間、ホットスターラーで加熱した。このイオン液体を「実施例1C」と称する。
【0025】
図2は、実施例1B、実施例1Cの吸収スペクトルのグラフである。図2には、比較のために実施例1A(Auのみ)、Inのみの吸収スペクトルも併せて示す。実施例1Bでは、300nm付近のIn由来とみられるピークが観察されたが、500nm付近のAu由来とみられるピークは観察されなかった。このことから、実施例1Bのイオン液体に分散しているナノ粒子は、蒸着したInあるいはその酸化物によってAu粒子が被覆され、Au粒子の未修飾表面が露出していないと考えられる。一方、実施例1Cでは、In由来とみられるピークもAu由来とみられるピークも観察された。このことから、実施例1Bのイオン液体に分散しているナノ粒子は、InだけでなくAuも表面に現れていると考えられ、加熱処理によって表面組成が変化したと考えられる。
【0026】
図3は、実施例1Aのイオン液体中の粒子のTEM像の写真(図3(a))及び粒径のヒストグラム(図3(b))である。図3に示すように、実施例1Aには、平均粒径が2.8±0.5nmのAu粒子が分散していることが確認された。また、粒子の形状は球形で、大きな凝集体も観察されなかった。
【0027】
図4は、実施例1Bのイオン液体中の粒子のTEM像の写真である。図4のTEM像のコントラスト強度比から、コアシェル構造を持つナノ粒子が観察された。図4のTEM像からこのナノ粒子の粒径、コア径、シェル厚を計測したところ、それぞれ5.5±0.8nm,2.8±0.4nm,1.4±0.3nmであった。コア径の値は、図3に示したAu粒子の粒径と一致することから、コアシェル構造を持つナノ粒子はコア部分がAuであり、シェル部分がIn又はその酸化物であると考えられた。その確認のために、このナノ粒子のXPS及びHRTEM測定を行った。
【0028】
実施例1Bのイオン液体中に生成した粒子のXPSスペクトルを、図5に示す。図5のXPSスペクトルでは、Inの3d5/2と3d3/2のダブレットピークが観察された。これらピークを成分分離したところ、各々のピークが2成分のピークからなることがわかった。In 3d5/2においては、446.8eVのIn2O3に帰属される大きなピークと444.1eVのIn金属に帰属される小さなピークとが存在することがわかった。In 3d3/2においては、454.3eVのIn2O3の大きなピークと451.6eVのIn金属の小さなピークに分離できた。このことから、コアシェル粒子のシェルの大部分がIn2O3から形成されることが示唆される。この粒子のHRTEM像を図6及び図7に示す。図6及び図7のHRTEM像では、明確な格子像を持つ粒子が観察された。格子面間隔を計測したところ、コア部分の格子面間隔は0.24nmでAuの{111}面に一致し、シェル部分の格子面間隔は0.27nmで菱面体型In2O3の{110}面に一致した(JCPDSデータファイル:No.22−0336)。このことから、実施例1Bのイオン液体中に分散したナノ粒子は、コア部分がAu、シェル部分がIn2O3であることがわかった。
【0029】
図8は、実施例1Cのイオン液体中の粒子のTEM像の写真、図9は、図8の部分拡大写真である。実施例1Cつまり加熱処理後の粒子は、実施例1Bつまり加熱処理前の粒子とほとんど粒径が変わらず、凝集もほとんどみられなかった。これは、実施例1Bのナノ粒子がコアシェル構造を持つため、加熱処理中における粒子の成長や凝集が妨げられたと考えられる。
【0030】
図10は、実施例1B、実施例1Cの各粒子のXRDパターンのグラフである。図10には、比較のためにAu、In、In2O3のXRDパターンも併せて示す。図10から、実施例1B、実施例1Cのどちらの粒子も、Auの{111}面に由来するピークが観察されたが、InやIn2O3に由来するピークははっきりと観察されなかった。これは、各ナノ粒子のシェルの厚さが2nm以下と薄いため、測定上はピークとして現れなかったものと考えられる。
【0031】
[比較例1]
120℃で3時間減圧加熱を行ったイオン液体(EMI−BF4)0.60cm3をスライドガラス上に広げ、Inをターゲット材としてイオン液体に向かってスパッタ蒸着を行った。具体的には、チャンバー内はアルゴンガスで置換し、圧力2.0Pa、スパッタ電流10mA、スパッタ時間30分とした。このときのイオン液体を「比較例1A」と称する。次に、スライドガラス上のイオン液体はそのままとし、Auをターゲット材として、イオン液体に向かってスパッタ蒸着を行った。具体的には、チャンバー内はアルゴンガスで置換し、圧力2.0Pa、スパッタ電流10mA、スパッタ時間5分とした。その後、スライドガラス上のイオン液体0.10cm3を試験管に回収した。このときのイオン液体を「比較例1B」と称する。そして、回収したイオン液体を大気圧下、250℃で1時間、ホットスターラーで加熱した。このときのイオン液体を「比較例1C」と称する。
【0032】
図11は、比較例1B、比較例1Cの吸収スペクトルのグラフである。図11には、実施例1Bの吸収スペクトルも併せて示す。比較例1Bでは、300nm付近のIn由来とみられる大きなピークが観察されたが、500nm付近のAu由来とみられるピークは観察されなかった。一方、比較例1Cでは、500nm付近にAu由来のピークが現れ、300nm付近のIn由来とみられるピークは減少した。
【0033】
図12は、比較例1Bのイオン液体中の粒子のTEM像の写真、図13は、比較例1Cのイオン液体中の粒子のTEM像の写真である。図12に示す加熱処理前の比較例1BのTEM像では、直径14±3.7nmの大きな粒子と、直径2.3±0.46nmの小さな粒子とが確認された。大きな粒子は、Inのみをスパッタした場合のIn粒子の粒径とほぼ一致した。また、小さな粒子は、Auのみをスパッタした場合のAu粒子の粒径とほぼ一致した。このことから、比較例1Bのイオン液体には、In粒子とAu粒子とが個々に生成し、混在していると考えられる。また、図13に示す加熱処理後の比較例1CのTEM像では、中空粒子やコントラストの強い粒子など、複数の種類の粒子が観察された。これは、加熱処理によりIn粒子は中空化し、Au粒子は成長して粒径が増大したものと考えられる。以上のことから、最初にIn、次にAuという順番でスパッタすると、コアシェル構造を持つナノ粒子が得られず、In粒子とAu粒子とが個別に生成すると考えられる。その原因は、おそらくターゲット材をInからAuに切り替える際、イオン液体中のIn粒子が空気中の酸素と接触し、粒子表面が酸化してIn2O3となり、このIn2O3の存在がIn粒子の周りにAuのシェルが生成するのを阻止したと考えられる。これに対して、実施例1では、ターゲット材をAuからInに切り替える際、イオン液体中のAu粒子が空気中の酸素と接触したが、Auは非常に酸化されにくいため、粒子表面が酸化されず、その結果Au粒子の周りにInのシェルが生成したと考えられる。
【0034】
[実施例2]
120℃で3時間減圧加熱を行ったイオン液体(EMI−BF4)0.60cm3をスライドガラス上に広げ、Auをターゲット材としてイオン液体に向かってスパッタ蒸着を行った。具体的には、チャンバー内はアルゴンガスで置換し、圧力2.0Pa、スパッタ電流10mA、スパッタ時間5分とした。次に、スライドガラス上のイオン液体はそのままとし、Snをターゲット材として、イオン液体に向かってスパッタ蒸着を行った。具体的には、チャンバー内はアルゴンガスで置換し、圧力2.0Pa、スパッタ電流20mA、スパッタ時間20分とした。その後、スライドガラス上のイオン液体を試験管に回収した。
【0035】
図14は、実施例2で回収したイオン液体中の粒子のTEM像の写真、図15は、図14の部分拡大写真である。これらの写真におけるコントラスト強度比から、Au粒子のまわりにSnOxシェルが形成され、コアシェル構造を持つナノ粒子が生成したことが示唆される。このナノ粒子は、粒径が実施例1B,1Cと比べると非常に小さく、約4nm程度であった。また、シェルの厚みが非常に薄いことが確認できた。このことから、ターゲット材の金属種を変えると、粒子生成・成長の挙動が変化して粒径やシェルの厚さに影響が現れると考えられる。
【0036】
以上の実施例1,2では、Auをコア、InOxをシェルとするコアシェル構造のナノ粒子やAuをコア、SnOxをシェルとするコアシェル構造のナノ粒子が得られた。一方、比較例1では、Inをコア、Auをシェルとするコアシェル構造のナノ粒子は得られなかった。このことから、他の金属の組み合わせであっても、比較例1のように最初のナノ粒子が酸化されてしまうような場合を除けば、同様にしてコアシェル構造のナノ粒子が得られることが期待される。また、イオン液体はその構造に依存した特性を持つため、イオン液体種によって粒子の構造が制御できると考えられる。また、スパッタ条件によって粒子の粒径や金属濃度を変化させることも可能と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明のナノ粒子の製造方法によって得られたナノ粒子は、例えば触媒金属からなるコアと多孔性の金属からなるシェルとを備えている場合には、触媒化学の分野に利用可能である。また、種々のデバイスや太陽電池などの分野にも応用可能であると考えられる。
【符号の説明】
【0038】
10 蒸着装置、12 蒸着チャンバー、14 陰極、16 陽極、18 ターゲット材、20 ガラス基板、22 イオン液体、24 ターゲット材、26 試験管
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子の製造方法及びナノ粒子分散液に関し、詳しくはコアシェル構造を持つナノ粒子の製造方法及びそのナノ粒子分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは、ナノ粒子の製造方法として、スライドガラス上にイオン液体を載せ、これを蒸着装置内に静置し、イオン液体に対向する位置にターゲット材として所定の金属(例えば金)を装着し、そのスパッタリングを行うことにより、所定の金属のナノ粒子がイオン液体に分散した分散液を得る方法を開示している(特許文献1)。この方法によれば、ターゲット材からナノ粒子を直接製造するため、煩雑な操作を必要とせずにナノ粒子を得ることができるし、副生成物もないという利点がある。同様の方法は、特許文献2にも開示されている。一方、コアシェル構造を持つナノ粒子も知られている。例えば、ケミカルデポジションの手法を用いて、金をコアとしパラジウムをシェルとするコアシェル構造のナノ粒子を得る例が報告されている(非特許文献1)。この非特許文献1では、化学還元法で金属イオンを還元することによって金をコアとしパラジウムをシェルとするコアシェル構造のナノ粒子を作製している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−231306号公報
【特許文献2】特表2009−525396号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Chem. Phys. Lett., vol.408(2005), p354
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に記載された製造方法では、酸化還元電位の違いを利用しているため、金属の種類が限定され、汎用性が低いという問題があった。また、還元反応を順次実施するため、製造手順が煩雑になるという問題があった。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、金属の種類を限定することなく簡単な操作によりコアシェル構造のナノ粒子を製造することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、コアシェル構造を持つナノ粒子を製造するにあたり、イオン液体に金属のスパッタリングを行う手法を適用できないかを種々検討した結果、まずイオン液体に金をスパッタリングしたあと、引き続きそのイオン液体にインジウムをスパッタリングすると、金をコアとしインジウム酸化物をシェルとするコアシェル構造のナノ粒子が得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のナノ粒子の製造方法は、イオン液体に第1金属を蒸着することにより前記第1金属のナノ粒子が分散されたイオン液体を得たあと、引き続き前記第1金属のナノ粒子の表面が酸化されていない状態で前記イオン液体に第2金属を蒸着することにより前記第1金属をコアとし前記第2金属及び/又はその酸化物をシェルとするコアシェル構造のナノ粒子を得るものである。
【0009】
本発明のナノ粒子の製造方法によれば、イオン液体に第1金属と第2金属のスパッタリングを連続して行うという簡単な操作により、コアシェル構造を持つナノ粒子を得ることができる。また、化学還元法などを利用するものではないため、第1金属と第2金属とは組み合わせも制限されず、汎用性が高い。このコアシェル構造を持つナノ粒子が凝集したとしても、シェルが存在していることからコアをなす第1金属同士が凝集することはない。このため、例えばコアをなす第1金属が触媒機能を有し、シェルが多孔性を有する場合、このナノ粒子が凝集したとしても、反応基質が多孔性のシェルを通じて効率よくコアと接触することができるため、第1金属の触媒機能を十分発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】蒸着装置10の構成及びそれを用いた製造手順を表す説明図である。
【図2】実施例1B、実施例1C等の吸収スペクトルのグラフである。
【図3】実施例1Aのイオン液体中の粒子のTEM像の写真及び粒径のヒストグラムである。
【図4】実施例1Bのイオン液体中の粒子のTEM像の写真である。
【図5】実施例1Bのイオン液体中の粒子のXPSスペクトルのグラフである。
【図6】実施例1Bのイオン液体中の粒子のHRTEM像の写真である。
【図7】図6の部分拡大写真である。
【図8】実施例1Cのイオン液体中の粒子のTEM像の写真である。
【図9】図8の部分拡大写真である。
【図10】実施例1B、実施例1C等の各粒子のXRDパターンのグラフである。
【図11】比較例1B、比較例1C等の吸収スペクトルのグラフである。
【図12】比較例1Bのイオン液体中の粒子のTEM像の写真である。
【図13】比較例1Cのイオン液体中の粒子のTEM像の写真である。
【図14】実施例2で回収したイオン液体中の粒子のTEM像の写真である。
【図15】図14の部分拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のナノ粒子の製造方法は、イオン液体に第1金属を蒸着することにより前記第1金属のナノ粒子が分散されたイオン液体を得たあと、引き続き前記第1金属のナノ粒子の表面が酸化されていない状態で前記イオン液体に第2金属を蒸着することにより前記第1金属をコアとし前記第2金属及び/又はその酸化物をシェルとするコアシェル構造のナノ粒子を得るものである。
【0012】
本発明のナノ粒子の製造方法において、第1金属のナノ粒子が分散されたイオン液体に第2金属を蒸着する際には、第1金属のナノ粒子の表面が酸化されていないことが必要である。第1金属のナノ粒子の表面が酸化されている場合には、第2金属が第1金属を包み込むことができず、イオン液体中に第1金属のナノ粒子と第2金属のナノ粒子が混合分散した状態となってしまう。このため、第1金属は第2金属に比べて酸化されにくいものを用いることが好ましく、貴金属を用いることがより好ましい。第1金属が第2金属に比べて酸化されやすいものを用いると、第1金属と第2金属とを順次イオン液体に蒸着したとしても、コアシェル構造のナノ粒子は得られないことがある。この場合、おそらく、酸化しやすい第1金属のナノ粒子が生成したあと、第2金属の蒸着の準備中に第1金属のナノ粒子が空気と接触して表面が酸化されてしまったことが原因だと思われる。なお、貴金属とは、Au,Ag,Pt,Pd,Rh,Ir,Ru,Osの8つの元素をいう。
【0013】
イオン液体とは、陽イオンと陰イオンのみから構成される塩であるにもかかわらず常温で液体である一連の化合物をいう。イオン液体は、高温でも安定であり液体温度範囲が広い、蒸気圧が略ゼロ、イオン性でありながら低粘性、高い酸化・還元耐性などの特性を有している。本発明に適用可能なイオン液体は、親水性であっても疎水性であってもよく、またその種類は特に限定されるものではないが、例えば脂肪族系イオン液体、イミダゾリウム系イオン液体、ピリジニウム系イオン液体などが挙げられる。脂肪族系イオン液体としては、N,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(以下、TMPA−TFSAという)やN−メチル−N−プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムテトラフルオロホウ酸塩などを挙げることができる。イミダゾリウム系イオン液体としては、1,3−ジアルキルイミダゾリウム塩、1,2,3−トリアルキルイミダゾリウム塩などが挙げられる。具体的には、1,3−ジアルキルイミダゾリウム塩としては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムブロマイドや1−エチル−3−メチル−イミダゾリウムクロライド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム(L)−乳酸塩、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸塩(以下、EMI−BF4という)、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸塩(以下、BMI−BF4という)、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホン酸塩、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム(L)−乳酸塩、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムブロマイド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸塩、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホン酸塩、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩、1−デシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−テトラデシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−ヘキサデシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−オクタデシル−3−メチルイミダゾリウムクロライドなどが挙げられる。1,2,3−トリアルキルイミダゾリウム塩としては、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムブロマイドや1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムクロライド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムブロマイド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムクロライド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸塩、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホン酸塩、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムブロマイド、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムクロライド、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムトラフルオロホウ酸塩、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホン酸塩などが挙げられる。また、ピリジニウム系イオン液体としては、エチルピリジニウム塩やブチルピリジニウム塩、ヘキシルピリジニウム塩などが挙げられる。具体的には、エチルピリジニウム塩としては、1−エチルピリジニウムブロマイドや1−エチルピリジニウムクロライドが挙げられ、ブチルピリジニウム塩としては、1−ブチルピリジニウムブロマイドや1−ブチルピリジニウムクロライド、1−ブチルピリジニウムヘキサフルオロリン酸塩、1−ブチルピリジニウムテトラフルオロホウ酸塩、1−ブチルピリジニウムトリフルオロメタンスルホン酸塩などが挙げられ、ヘキシルピリジニウム塩としては、1−ヘキシルピリジニウムブロマイドや1−ヘキシルピリジニウムクロライド、1−ヘキシルピリジニウムヘキサフルオロリン酸塩、1−ヘキシルピリジニウムテトラフルオロホウ酸塩、1−ヘキシルピリジニウムトリフルオロメタンスルホン酸塩などが挙げられる。
【0014】
これらのイオン液体のうち、例えば、親水性の高いイミダゾリウム系化合物としてEMI−BF4やBMI−BF4を本発明に用いたり、疎水性の高い脂肪族系化合物としてTMPA−TFSAなどを本発明に用いたりすることができる。
【0015】
本発明のナノ粒子の製造方法において、蒸着は、周知の化学蒸着法(CVD法)や物理蒸着法(PVD法)などの乾式成膜法により基板上にナノ粒子を析出させるのと同様の装置・手順で実施可能であるが、このうち、固体状態の金属から金属原子を蒸発させるか又は叩き出すことにより成膜する物理蒸着法(例えば、真空蒸着法やイオンプレーティング法、スパッタリング法など)が好ましい。物理蒸着法によれば、バルク材料からナノ粒子を比較的簡単な系で直接製造することができる。また、物理蒸着法のうちスパッタリング法がより好ましい。スパッタリング法では、金属の蒸発を行う際にるつぼを必要としないため、純度の高いナノ粒子を製造することができる。なお、蒸発原理としては、真空蒸着法の場合には、例えば抵抗加熱方式や遠赤外線加熱方式、電子ビーム加熱方式、アーク加熱方式、高周波誘導加熱方式などを用いることができ、イオンプレーティング法の場合には、例えば高周波励起方式やイオンビーム方式、クラスタ方式などを用いることができ、スパッタリング法の場合には、例えばDCスパッタ方式、マグネトロンスパッタ方式、高周波スパッタ方式、イオンビームスパッタ方式などを用いることができる。
【0016】
本発明のナノ粒子の製造方法において、シェルは多孔性であることが好ましい。コアシェル構造を持つナノ粒子が凝集したとしても、シェルが存在していることからコアをなす第1金属同士が凝集することはない。このため、例えばコアをなす第1金属が触媒機能を有し、シェルが多孔性を有する場合、このナノ粒子が凝集したとしても、反応基質が多孔性のシェルを通じて効率よくコアと接触することができるため、第1金属の触媒機能を十分発揮することができる。
【0017】
本発明のナノ粒子の製造方法においては、第1金属や第2金属をイオン液体に蒸着させる際、減圧下で行うのが好ましい。減圧下で行えば、純度の高いナノ粒子を短時間で生成することができる。ここで、「減圧下」とは、気圧が大気よりも低い状態であればよく、好ましくは20Pa以下である。
【0018】
蒸着法としてスパッタリング法を採用する場合、ガス雰囲気下で行うとしてもよい。ガスを送り込む場合、使用するガスは希ガスが好ましく、アルゴンガスがより好ましい。このときのアルゴンガスの圧力は、20Pa以下が好ましい。蒸着電流の大きさは、原料や蒸着装置に応じて適宜設定すればよい。また、反応時間も反応温度やイオン液体の量などによって好ましい範囲が変わるが、数十秒〜数時間の範囲で設定するのが好ましく、30秒〜20分の範囲で設定するのがより好ましい。
【0019】
蒸着法としてスパッタリング法を採用する場合、例えば以下のようにして行うとしてもよい。図1(a)に示すように、蒸着装置10として、真空にすることが可能な蒸着チャンバー12と、蒸着チャンバー12の上面に設置されターゲット材18を装着可能な陰極14と、陰極14に対向する位置に設置された陽極16とを備えたものを使用する場合には、まず、第1金属からなるターゲット材18を陰極14に装着し、イオン液体22を載せたガラス基板20を陽極16上に配置する。そして、蒸着チャンバー12内を真空又はガス雰囲気下(例えばアルゴンガスなど)にした状態で陰極14に高電圧を印加する。すると、蒸着チャンバー12内にグロー放電が発生し、グロー放電によって生じたガスイオンがターゲット材18に衝突することにより、ターゲット材18を構成している第1金属の原子がスパッタ蒸発される。そして、ターゲット材18からたたき出された第1金属の原子が対面するイオン液体22に入り込み、第1金属の原子から構成されるナノ粒子がイオン液体22に分散する。続いて、図1(b)に示すように、陰極14に第2金属からなるターゲット材24を装着し、第2金属の原子をスパッタ蒸発させる。すると、ターゲット材24からたたき出された第2金属の原子が対面するイオン液体22に入り込む。このとき、イオン液体22に分散している第1の金属が酸化されていなければ、第2金属の原子は第1の金属の原子から構成されるナノ粒子の周りを取り囲む。その結果、イオン液体22には、第1の金属からなるコアと第2の金属及び/又はその酸化物からなるシェルとを備えたナノ粒子が分散した状態となる。そして、図1(c)に示すように、こうしたコアシェル構造を持つナノ粒子が分散したイオン液体22をガラス基板20から試験管26に回収する。
【0020】
このようにして得られるコアシェル構造を持つナノ粒子のサイズは、特に限定するものではないが、例えばコアの直径は1〜10nm程度、シェルの厚さは0.5〜2nm程度である。コアの直径やシェルの厚みは、用いるイオン液体の性質(例えば親水性、疎水性など)や反応時間の長短などによって変化すると考えられる。
【0021】
本発明のナノ粒子の製造方法によって得られるコアシェル構造を持つナノ粒子は、シェルが多孔性を有していると考えられる。この点は、以下の実験事実によって支持される。すなわち、図1(a)の蒸着装置10において、インジウムからなるターゲット材18を陰極14に装着し、イオン液体22にインジウムナノ粒子を分散させたところ、コア部分にインジウム、シェル部分にアモルファスの酸化インジウムが存在する中実ナノ粒子が得られた。この中実ナノ粒子を分散させたイオン液体を空気中で250℃、1時間加熱したところ、中が空洞の中空ナノ粒子が得られた。この中空ナノ粒子は、酸化インジウムから構成されているものであった。この実験事実から、反応メカニズムは、コア部分がインジウム、シェル部分が酸化インジウムの中実ナノ粒子を空気中で加熱すると、シェル部分の微小隙間を通じて空気中の酸素とコア部分のインジウムとが反応して酸化インジウムが生成し、それと共にコア部分に空洞が生じたと考えられる。なお、もしシェル部分が緻密であれば、空気中で加熱したとしてもコア部分のインジウムと空気中の酸素とは反応せず、中実ナノ粒子のまま変化しないと考えられる。
【0022】
本発明のナノ粒子の製造方法により製造されたナノ粒子をイオン液体から回収するには、用いたイオン液体に該イオン液体と親和性の高い溶媒を添加することにより行うことができる。すなわち、イオン液体と親和性の高い溶媒を該イオン液体に添加することにより、イオン液体中のナノ粒子が沈降する。このように、煩雑な操作を必要とすることなくイオン液体からナノ粒子を回収することができる。ここで、イオン液体と親和性の高い溶媒とは、例えばイオン液体として親水性のものを用いた場合には水、メタノール、エタノール、アセトンなどを挙げることができ、疎水性のものを用いた場合にはエーテル、ヘプタン、クロロホルム、塩化メチレンなどが挙げられる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の好適な実施例を詳しく説明する。下記の実施例及び比較例はいずれも図1の蒸着装置10を用いて行った。実施例1は、第1金属としてAu、第2金属としてInを用いてコアシェル構造のナノ粒子が分散したイオン液体を製造した例であり、比較例1は、第1金属としてIn、第2金属としてAuを用いてInナノ粒子とAuナノ粒子とが混合分散したイオン液体を製造した例である。実施例2は、第1金属としてAu、第2金属としてSnを用いてコアシェル構造のナノ粒子が分散したイオン液体を製造した例である。
【0024】
[実施例1]
120℃で3時間減圧加熱を行ったイオン液体(EMI−BF4)0.60cm3をスライドガラス上に広げ、Auをターゲット材としてイオン液体に向かってスパッタ蒸着を行った。具体的には、チャンバー内はアルゴンガスで置換し、圧力2.0Pa、スパッタ電流10mA、スパッタ時間5分とした。このイオン液体を「実施例1A」と称する。次に、スライドガラス上のイオン液体はそのままとし、Inをターゲット材として、イオン液体に向かってスパッタ蒸着を行った。具体的には、チャンバー内はアルゴンガスで置換し、圧力2.0Pa、スパッタ電流10mA、スパッタ時間30分とした。その後、スライドガラス上のイオン液体0.10cm3を試験管に回収した。このイオン液体を「実施例1B」と称する。そして、回収したイオン液体を大気圧下、250℃で1時間、ホットスターラーで加熱した。このイオン液体を「実施例1C」と称する。
【0025】
図2は、実施例1B、実施例1Cの吸収スペクトルのグラフである。図2には、比較のために実施例1A(Auのみ)、Inのみの吸収スペクトルも併せて示す。実施例1Bでは、300nm付近のIn由来とみられるピークが観察されたが、500nm付近のAu由来とみられるピークは観察されなかった。このことから、実施例1Bのイオン液体に分散しているナノ粒子は、蒸着したInあるいはその酸化物によってAu粒子が被覆され、Au粒子の未修飾表面が露出していないと考えられる。一方、実施例1Cでは、In由来とみられるピークもAu由来とみられるピークも観察された。このことから、実施例1Bのイオン液体に分散しているナノ粒子は、InだけでなくAuも表面に現れていると考えられ、加熱処理によって表面組成が変化したと考えられる。
【0026】
図3は、実施例1Aのイオン液体中の粒子のTEM像の写真(図3(a))及び粒径のヒストグラム(図3(b))である。図3に示すように、実施例1Aには、平均粒径が2.8±0.5nmのAu粒子が分散していることが確認された。また、粒子の形状は球形で、大きな凝集体も観察されなかった。
【0027】
図4は、実施例1Bのイオン液体中の粒子のTEM像の写真である。図4のTEM像のコントラスト強度比から、コアシェル構造を持つナノ粒子が観察された。図4のTEM像からこのナノ粒子の粒径、コア径、シェル厚を計測したところ、それぞれ5.5±0.8nm,2.8±0.4nm,1.4±0.3nmであった。コア径の値は、図3に示したAu粒子の粒径と一致することから、コアシェル構造を持つナノ粒子はコア部分がAuであり、シェル部分がIn又はその酸化物であると考えられた。その確認のために、このナノ粒子のXPS及びHRTEM測定を行った。
【0028】
実施例1Bのイオン液体中に生成した粒子のXPSスペクトルを、図5に示す。図5のXPSスペクトルでは、Inの3d5/2と3d3/2のダブレットピークが観察された。これらピークを成分分離したところ、各々のピークが2成分のピークからなることがわかった。In 3d5/2においては、446.8eVのIn2O3に帰属される大きなピークと444.1eVのIn金属に帰属される小さなピークとが存在することがわかった。In 3d3/2においては、454.3eVのIn2O3の大きなピークと451.6eVのIn金属の小さなピークに分離できた。このことから、コアシェル粒子のシェルの大部分がIn2O3から形成されることが示唆される。この粒子のHRTEM像を図6及び図7に示す。図6及び図7のHRTEM像では、明確な格子像を持つ粒子が観察された。格子面間隔を計測したところ、コア部分の格子面間隔は0.24nmでAuの{111}面に一致し、シェル部分の格子面間隔は0.27nmで菱面体型In2O3の{110}面に一致した(JCPDSデータファイル:No.22−0336)。このことから、実施例1Bのイオン液体中に分散したナノ粒子は、コア部分がAu、シェル部分がIn2O3であることがわかった。
【0029】
図8は、実施例1Cのイオン液体中の粒子のTEM像の写真、図9は、図8の部分拡大写真である。実施例1Cつまり加熱処理後の粒子は、実施例1Bつまり加熱処理前の粒子とほとんど粒径が変わらず、凝集もほとんどみられなかった。これは、実施例1Bのナノ粒子がコアシェル構造を持つため、加熱処理中における粒子の成長や凝集が妨げられたと考えられる。
【0030】
図10は、実施例1B、実施例1Cの各粒子のXRDパターンのグラフである。図10には、比較のためにAu、In、In2O3のXRDパターンも併せて示す。図10から、実施例1B、実施例1Cのどちらの粒子も、Auの{111}面に由来するピークが観察されたが、InやIn2O3に由来するピークははっきりと観察されなかった。これは、各ナノ粒子のシェルの厚さが2nm以下と薄いため、測定上はピークとして現れなかったものと考えられる。
【0031】
[比較例1]
120℃で3時間減圧加熱を行ったイオン液体(EMI−BF4)0.60cm3をスライドガラス上に広げ、Inをターゲット材としてイオン液体に向かってスパッタ蒸着を行った。具体的には、チャンバー内はアルゴンガスで置換し、圧力2.0Pa、スパッタ電流10mA、スパッタ時間30分とした。このときのイオン液体を「比較例1A」と称する。次に、スライドガラス上のイオン液体はそのままとし、Auをターゲット材として、イオン液体に向かってスパッタ蒸着を行った。具体的には、チャンバー内はアルゴンガスで置換し、圧力2.0Pa、スパッタ電流10mA、スパッタ時間5分とした。その後、スライドガラス上のイオン液体0.10cm3を試験管に回収した。このときのイオン液体を「比較例1B」と称する。そして、回収したイオン液体を大気圧下、250℃で1時間、ホットスターラーで加熱した。このときのイオン液体を「比較例1C」と称する。
【0032】
図11は、比較例1B、比較例1Cの吸収スペクトルのグラフである。図11には、実施例1Bの吸収スペクトルも併せて示す。比較例1Bでは、300nm付近のIn由来とみられる大きなピークが観察されたが、500nm付近のAu由来とみられるピークは観察されなかった。一方、比較例1Cでは、500nm付近にAu由来のピークが現れ、300nm付近のIn由来とみられるピークは減少した。
【0033】
図12は、比較例1Bのイオン液体中の粒子のTEM像の写真、図13は、比較例1Cのイオン液体中の粒子のTEM像の写真である。図12に示す加熱処理前の比較例1BのTEM像では、直径14±3.7nmの大きな粒子と、直径2.3±0.46nmの小さな粒子とが確認された。大きな粒子は、Inのみをスパッタした場合のIn粒子の粒径とほぼ一致した。また、小さな粒子は、Auのみをスパッタした場合のAu粒子の粒径とほぼ一致した。このことから、比較例1Bのイオン液体には、In粒子とAu粒子とが個々に生成し、混在していると考えられる。また、図13に示す加熱処理後の比較例1CのTEM像では、中空粒子やコントラストの強い粒子など、複数の種類の粒子が観察された。これは、加熱処理によりIn粒子は中空化し、Au粒子は成長して粒径が増大したものと考えられる。以上のことから、最初にIn、次にAuという順番でスパッタすると、コアシェル構造を持つナノ粒子が得られず、In粒子とAu粒子とが個別に生成すると考えられる。その原因は、おそらくターゲット材をInからAuに切り替える際、イオン液体中のIn粒子が空気中の酸素と接触し、粒子表面が酸化してIn2O3となり、このIn2O3の存在がIn粒子の周りにAuのシェルが生成するのを阻止したと考えられる。これに対して、実施例1では、ターゲット材をAuからInに切り替える際、イオン液体中のAu粒子が空気中の酸素と接触したが、Auは非常に酸化されにくいため、粒子表面が酸化されず、その結果Au粒子の周りにInのシェルが生成したと考えられる。
【0034】
[実施例2]
120℃で3時間減圧加熱を行ったイオン液体(EMI−BF4)0.60cm3をスライドガラス上に広げ、Auをターゲット材としてイオン液体に向かってスパッタ蒸着を行った。具体的には、チャンバー内はアルゴンガスで置換し、圧力2.0Pa、スパッタ電流10mA、スパッタ時間5分とした。次に、スライドガラス上のイオン液体はそのままとし、Snをターゲット材として、イオン液体に向かってスパッタ蒸着を行った。具体的には、チャンバー内はアルゴンガスで置換し、圧力2.0Pa、スパッタ電流20mA、スパッタ時間20分とした。その後、スライドガラス上のイオン液体を試験管に回収した。
【0035】
図14は、実施例2で回収したイオン液体中の粒子のTEM像の写真、図15は、図14の部分拡大写真である。これらの写真におけるコントラスト強度比から、Au粒子のまわりにSnOxシェルが形成され、コアシェル構造を持つナノ粒子が生成したことが示唆される。このナノ粒子は、粒径が実施例1B,1Cと比べると非常に小さく、約4nm程度であった。また、シェルの厚みが非常に薄いことが確認できた。このことから、ターゲット材の金属種を変えると、粒子生成・成長の挙動が変化して粒径やシェルの厚さに影響が現れると考えられる。
【0036】
以上の実施例1,2では、Auをコア、InOxをシェルとするコアシェル構造のナノ粒子やAuをコア、SnOxをシェルとするコアシェル構造のナノ粒子が得られた。一方、比較例1では、Inをコア、Auをシェルとするコアシェル構造のナノ粒子は得られなかった。このことから、他の金属の組み合わせであっても、比較例1のように最初のナノ粒子が酸化されてしまうような場合を除けば、同様にしてコアシェル構造のナノ粒子が得られることが期待される。また、イオン液体はその構造に依存した特性を持つため、イオン液体種によって粒子の構造が制御できると考えられる。また、スパッタ条件によって粒子の粒径や金属濃度を変化させることも可能と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明のナノ粒子の製造方法によって得られたナノ粒子は、例えば触媒金属からなるコアと多孔性の金属からなるシェルとを備えている場合には、触媒化学の分野に利用可能である。また、種々のデバイスや太陽電池などの分野にも応用可能であると考えられる。
【符号の説明】
【0038】
10 蒸着装置、12 蒸着チャンバー、14 陰極、16 陽極、18 ターゲット材、20 ガラス基板、22 イオン液体、24 ターゲット材、26 試験管
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン液体に第1金属を蒸着することにより前記第1金属のナノ粒子が分散されたイオン液体を得たあと、引き続き前記第1金属のナノ粒子の表面が酸化されていない状態で前記イオン液体に第2金属を蒸着することにより前記第1金属をコアとし前記第2金属及び/又はその酸化物をシェルとするコアシェル構造のナノ粒子を得る、ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記第1金属は第2金属に比べて酸化されにくい、請求項1に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記第1金属は貴金属である、請求項1又は2に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記蒸着はスパッタリングである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記シェルは多孔性である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のナノ粒子の製造方法によって得られたナノ粒子をイオン液体に分散させた、ナノ粒子分散液。
【請求項1】
イオン液体に第1金属を蒸着することにより前記第1金属のナノ粒子が分散されたイオン液体を得たあと、引き続き前記第1金属のナノ粒子の表面が酸化されていない状態で前記イオン液体に第2金属を蒸着することにより前記第1金属をコアとし前記第2金属及び/又はその酸化物をシェルとするコアシェル構造のナノ粒子を得る、ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記第1金属は第2金属に比べて酸化されにくい、請求項1に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記第1金属は貴金属である、請求項1又は2に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記蒸着はスパッタリングである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記シェルは多孔性である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のナノ粒子の製造方法によって得られたナノ粒子をイオン液体に分散させた、ナノ粒子分散液。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−117097(P2012−117097A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266456(P2010−266456)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
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