説明

ナフサ留分水素化処理反応器のスタートアップ方法

【課題】FT合成反応によって得られた炭化水素化合物のナフサ留分を水素化処理する際に、初期運転時における水素添加による発熱量を抑えることができ、早期に安定操業へと移行可能なナフサ留分水素化処理反応器のスタートアップ方法を提供する。
【解決手段】フィッシャー・トロプシュ合成反応により生成された炭化水素化合物のうち第1の精留塔によって分留されたナフサ留分を水素化処理するナフサ留分水素化処理反応器のスタートアップ方法であって、ナフサ留分水素化処理反応器で水素化処理された水素化ナフサが移送される気液分離器に、ナフサ留分に相当する不活性炭化水素化合物を予め充填しておく工程と、気液分離器に充填された前記不活性炭化水素化合物を、第1の精留塔から移送されるナフサ留分に混入させる工程と、前記ナフサ留分と前記不活性炭化水素化合物との混合物を前記ナフサ留分水素化処理反応器に供給する工程と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィッシャー・トロプシュ合成反応より生成された炭化水素化合物のうち第1の精留塔によって分留されたナフサ留分を水素化処理するナフサ留分水素化処理反応器のスタートアップ方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、天然ガスから液体燃料を合成するための方法の一つとして、天然ガスを改質し一酸化炭素ガス(CO)と水素ガス(H)とを主成分とする合成ガスを生成し、この合成ガスを原料ガスとしてフィッシャー・トロプシュ合成反応(以下、「FT合成反応」という。)により炭化水素化合物を合成し、さらにこの炭化水素化合物を水素化および分留することで、ナフサ(粗ガソリン)、灯油、軽油、WAX等の液体燃料製品を製造するGTL(Gas To Liquids:液体燃料合成)技術が開発されている。
【0003】
ここで、FT合成反応によって得られる炭化水素化合物を原料とした液体燃料製品は、パラフィン含有量が多く、硫黄分をほとんど含まないため、例えば特許文献1に示すように、環境対応燃料として注目されている。
また、このFT合成反応によって得られた炭化水素化合物を精留塔で分留することにより、精留塔の上部から炭素数の少ないナフサ留分が取り出されることになる。このナフサ留分は、アルコールのほかオレフィン分を多く含むため、例えば特許文献2に示すように水素化処理して飽和化合物とする必要がある。
【特許文献1】特開2004−323626号公報
【特許文献2】特開2007−270063号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のナフサ留分を水素化処理するナフサ留分水素化処理反応器においては、オレフィンの水素添加が発熱反応であるため、温度上昇が問題となる。そこで、通常の運転時には、水素化処理を行った不活性なナフサ(以下、「水素化ナフサ」という)の一部を還流させ、FT合成によって得られたナフサ留分に水素化ナフサを混合した状態でナフサ留分水素化処理反応器に供給し、発熱量を抑制している。
【0005】
ここで、ナフサ留分水素化処理反応器のスタートアップ時には、水素化ナフサが存在しないため、ナフサ留分をそのままナフサ留分水素化処理反応器へと供給することになる。そこで、従来は、発熱を抑えるためにナフサ留分を少量ずつ供給していた。このため、ナフサ留分水素化処理反応器が安定状態となるまでに相当な時間を費やすことになり、生産効率が大幅に低下していた。
また、ナフサ留分の発熱が大きい場合には反応器入口温度を低くして供給する方法もあるが、この場合、反応器内が、反応で副生した水が凝集してしまう条件となり、触媒を劣化させるおそれがある。一方で、反応器入口温度をある程度高くしてしまうと、発熱によって反応器出口温度が過度に高温となり、やはり触媒を劣化させたり、反応器の材質上の耐熱温度を超えてしまうおそれがある。
【0006】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、FT合成反応によって得られた炭化水素化合物のナフサ留分を水素化処理するナフサ留分水素化処理反応器において、初期運転時の発熱量を抑えることができ、早期に安定操業へと移行可能なナフサ留分水素化処理反応器のスタートアップ方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明に係るナフサ留分水素化処理反応器のスタートアップ方法は、フィッシャー・トロプシュ合成反応により生成された炭化水素化合物のうち第1の精留塔によって分留されたナフサ留分を水素化処理するナフサ留分水素化処理反応器のスタートアップ方法であって、前記ナフサ留分水素化処理反応器で水素化処理された水素化ナフサが移送される気液分離器に、前記ナフサ留分に相当する不活性炭化水素化合物を予め充填しておく工程と、前記気液分離器に充填された前記不活性炭化水素化合物を、前記第1の精留塔から移送される前記ナフサ留分に混入させる工程と、前記ナフサ留分と前記不活性炭化水素化合物との混合物を前記ナフサ留分水素化処理反応器に供給する工程と、を備えていることを特徴とするとしている。
【0008】
また、本発明に係るナフサ留分水素化処理反応器のスタートアップ方法は、フィッシャー・トロプシュ合成反応により生成された炭化水素化合物のうち第1の精留塔によって分留されたナフサ留分を水素化処理するナフサ留分水素化処理反応器のスタートアップ方法であって、前記ナフサ留分水素化処理反応器で水素化処理された水素化ナフサが気液分離器を介して移送されるナフサスタビライザーに、前記ナフサ留分に相当する不活性炭化水素化合物を予め充填しておく工程と、前記ナフサスタビライザーに充填された前記不活性炭化水素化合物を、前記第1の精留塔から移送される前記ナフサ留分に混入させる工程と、前記ナフサ留分と前記不活性炭化水素化合物との混合物を前記ナフサ留分水素化処理反応器に供給する工程と、を備えていることを特徴としている。
【0009】
上記構成のナフサ留分水素化処理反応器のスタートアップ方法によれば、気液分離器又はナフサスタビライザーに予め充填された不活性炭化水素化合物をナフサ留分と混合することにより、ナフサ留分水素化処理反応器に供給されるナフサ留分及び不活性炭化水素化合物の混合物中のオレフィン等の活性物質の含有比率が低下し、水素添加による発熱を抑えることができる。これにより、スタートアップ時におけるナフサ留分水素化処理反応器への供給量を必要以上に抑える必要がなくなり、早期に安定操業に移行することができる。なお、不活性炭化水素化合物は、ナフサ留分に相当するもの、つまり、炭素数が5〜10程度の炭化水素化合物であり、ナフサ製品に混入しても問題ないものである。このため、この不活性炭化水素化合物を分離する分離手段を設ける必要はない。
【0010】
ここで、前記不活性炭化水素化合物としては、炭素数5〜10の炭化水素化合物を用いてもよいし、水素化ナフサ自体を用いてもよい。ただし、硫黄(S)や酸素(O)化合物を含むものやオレフィン等を多く含むものは、水素化処理時における発熱の要因となるため好ましくない。前記の理由から、炭素数5から10の炭化水素化合物としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−へプタン、n−オクタン、n−ノナン等が好ましく、中でも入手性等を考慮した場合、n−ヘキサンが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、FT合成反応によって得られた炭化水素化合物のナフサ留分を水素化処理するナフサ留分水素化処理反応器において、初期運転時の発熱量を抑えることができ、早期に安定操業へと移行可能なナフサ留分水素化処理反応器のスタートアップ方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付した図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。
まず、図1を参照して、本発明の実施形態であるナフサ留分水素化処理反応器のスタートアップ方法が用いられる液体燃料合成システム(炭化水素合成反応システム)の全体構成及び工程について説明する。
【0013】
図1に示すように、本実施形態にかかる液体燃料合成システム(炭化水素合成反応システム)1は、天然ガス等の炭化水素原料を液体燃料に転換するGTLプロセスを実行するプラント設備である。この液体燃料合成システム1は、合成ガス生成ユニット3と、FT合成ユニット5と、製品精製ユニット7とから構成される。
合成ガス生成ユニット3は、炭化水素原料である天然ガスを改質して一酸化炭素ガスと水素ガスを含む合成ガスを生成する。
FT合成ユニット5は、生成された合成ガスからフィッシャー・トロプシュ合成反応(以下、「FT合成反応」という。)により液体炭化水素を生成する。
製品精製ユニット7は、FT合成反応により生成された液体炭化水素を水素化・分留して液体燃料製品(ナフサ、灯油、軽油、WAX等)を製造する。以下、これら各ユニットの構成要素について説明する。
【0014】
合成ガス生成ユニット3は、脱硫反応器10と、改質器12と、排熱ボイラー14と、気液分離器16,18と、脱炭酸装置20と、水素分離装置26とを主に備える。
脱硫反応器10は、水添脱硫装置等で構成され、原料である天然ガスから硫黄成分を除去する。
改質器12は、脱硫反応器10から供給された天然ガスを改質して、一酸化炭素ガス(CO)と水素ガス(H)とを主成分として含む合成ガスを生成する。
排熱ボイラー14は、改質器12にて生成した合成ガスの排熱を回収して高圧スチームを発生する。
気液分離器16は、排熱ボイラー14において合成ガスとの熱交換により加熱された水を気体(高圧スチーム)と液体とに分離する。
気液分離器18は、排熱ボイラー14にて冷却された合成ガスから凝縮分を除去し気体分を脱炭酸装置20に供給する。
脱炭酸装置20は、気液分離器18から供給された合成ガスから吸収液を用いて炭酸ガスを除去する吸収塔22と、当該炭酸ガスを含む吸収液から炭酸ガスを放散させて再生する再生塔24とを有する。
水素分離装置26は、脱炭酸装置20により炭酸ガスが分離された合成ガスから、当該合成ガスに含まれる水素ガスの一部を分離する。
ただし、上記脱炭酸装置20は場合によっては設ける必要がないこともある。
【0015】
FT合成ユニット5は、例えば、気泡塔型反応器(気泡塔型炭化水素合成反応器)30と、気液分離器34と、分離器36と、気液分離器38と、第1精留塔40とを主に備える。
気泡塔型反応器30は、合成ガスを液体炭化水素に合成する反応器の一例であり、FT合成反応により合成ガスから液体炭化水素を合成するFT合成用反応器として機能する。この気泡塔型反応器30は、例えば、塔型の容器内部に、液体炭化水素(FT合成反応の生成物)中に固体の触媒粒子を懸濁させたスラリーが収容された気泡塔型スラリー床式反応器で構成される。この気泡塔型反応器30は、上記合成ガス生成ユニットで生成された合成ガス(一酸化炭素ガスと水素ガス)とを反応させて液体炭化水素を合成する。
気液分離器34は、気泡塔型反応器30内に配設された伝熱管32内を流通して加熱された水を、水蒸気(中圧スチーム)と液体とに分離する。
分離器36は、気泡塔型反応器30の内部に収容されたスラリー中の触媒粒子と液体炭化水素とを分離処理する。
気液分離器38は、気泡塔型反応器30の上部に接続され、未反応合成ガス及び気体炭化水素生成物を冷却処理する。
第1精留塔40は、気泡塔型反応器30から分離器36、気液分離器38を介して供給された液体炭化水素を蒸留し、沸点に応じて各製品留分に分留する。
【0016】
製品精製ユニット7は、例えば、WAX分水素化分解反応器50と、灯油・軽油留分水素化精製反応器52と、ナフサ留分水素化処理反応器54と、気液分離器56,58,60と、第2精留塔70と、ナフサスタビライザー72とを備える。
WAX分水素化分解反応器50は、第1精留塔40の下部に接続されており、その下流側に気液分離器56が設けられている。
灯油・軽油留分水素化精製反応器52は、第1精留塔40の中央部に接続されており、その下流側に気液分離器58が設けられている。
ナフサ留分水素化処理反応器54は、第1精留塔40の上部に接続されており、その下流側に気液分離器60が設けられている。
第2精留塔70は、気液分離器56,58から供給された液体炭化水素を沸点に応じて分留する。
ナフサスタビライザー72は、気液分離器60及び第2精留塔70から供給されたナフサ留分の液体炭化水素を精留して、ブタンより軽い成分はフレアガス(排ガス)側へ排出し、炭素数が5以上の成分は製品のナフサとして分離・回収する。
【0017】
次に、以上のような構成の液体燃料合成システム1により、天然ガスから液体燃料を合成する工程(GTLプロセス)について説明する。
【0018】
液体燃料合成システム1には、天然ガス田または天然ガスプラントなどの外部の天然ガス供給源(図示せず。)から、炭化水素原料としての天然ガス(主成分がCH)が供給される。上記合成ガス生成ユニット3は、この天然ガスを改質して合成ガス(一酸化炭素ガスと水素ガスを主成分とする混合ガス)を製造する。
【0019】
まず、上記天然ガスは、水素分離装置26によって分離された水素ガスとともに脱硫反応器10に供給される。脱硫反応器10は、当該水素ガスを用いて天然ガスに含まれる硫黄分を例えばZnO触媒で水添脱硫する。このようにして天然ガスを予め脱硫しておくことにより、改質器12及び気泡塔型反応器30等で用いられる触媒の活性が硫黄により低下することを防止できる。
【0020】
このようにして脱硫された天然ガスは、二酸化炭素供給源(図示せず。)から供給される二酸化炭素(CO)ガスと、排熱ボイラー14で発生した水蒸気とが混合された後で、改質器12に供給される。改質器12は、例えば、上述した水蒸気・炭酸ガス改質法により、二酸化炭素と水蒸気とを用いて天然ガスを改質して、一酸化炭素ガスと水素ガスとを主成分とする高温の合成ガスを生成する。
【0021】
このようにして改質器12で生成された高温の合成ガス(例えば、900℃、2.0MPaG)は、排熱ボイラー14に供給され、排熱ボイラー14内を流通する水との熱交換により冷却(例えば400℃)されて、排熱回収される。このとき、排熱ボイラー14において合成ガスにより加熱された水は気液分離器16に供給され、この気液分離器16から気体分が高圧スチーム(例えば3.4〜10.0MPaG)として改質器12または他の外部装置に供給され、液体分の水が排熱ボイラー14に戻される。
【0022】
一方、排熱ボイラー14において冷却された合成ガスは、凝縮液分が気液分離器18において分離・除去された後、脱炭酸装置20の吸収塔22、又は気泡塔型反応器30に供給される。吸収塔22は、貯留している吸収液内に、合成ガスに含まれる炭酸ガスを吸収することで、当該合成ガスから炭酸ガスを分離する。この吸収塔22内の炭酸ガスを含む吸収液は、再生塔24に導入され、当該炭酸ガスを含む吸収液は例えばスチームで加熱されてストリッピング処理され、放散された炭酸ガスは、再生塔24から改質器12に送られて、上記改質反応に再利用される。
【0023】
このようにして、合成ガス生成ユニット3で生成された合成ガスは、上記FT合成ユニット5の気泡塔型反応器30に供給される。このとき、気泡塔型反応器30に供給される合成ガスの組成比は、FT合成反応に適した組成比(例えば、H:CO=2:1(モル比))に調整されている。
【0024】
また、上記脱炭酸装置20により炭酸ガスが分離された合成ガスの一部は、水素分離装置26にも供給される。水素分離装置26は、上記のように圧力差を利用した吸着、脱着(水素PSA)により、合成ガスに含まれる水素ガスを分離する。当該分離された水素は、ガスホルダー(図示せず。)等から圧縮機(図示せず。)を介して、液体燃料合成システム1内において水素を利用して所定反応を行う各種の水素利用反応装置(例えば、脱硫反応器10、WAX分水素化分解反応器50、灯油・軽油留分水素化精製反応器52、ナフサ留分水素化処理反応器54など)に、連続して供給される。
【0025】
次いで、上記FT合成ユニット5は、上記合成ガス生成ユニット3によって生成された合成ガスから、FT合成反応により、液体炭化水素を合成する。
【0026】
上記合成ガス生成ユニット3によって生成された合成ガスは、気泡塔型反応器30の底部から流入されて、気泡塔型反応器30内に収容されたスラリー内を上昇する。この際、気泡塔型反応器30内では、上述したFT合成反応により、当該合成ガスに含まれる一酸化炭素と水素ガスとが反応して、炭化水素が生成される。さらに、この合成反応時には、気泡塔型反応器30の伝熱管32内に水を流通させることで、FT合成反応の反応熱を除去し、この熱交換により加熱された水が気化して水蒸気となる。この水蒸気は、気液分離器34で液化した水が伝熱管32に戻されて、気体分が中圧スチーム(例えば1.0〜2.5MPaG)として外部装置に供給される。
【0027】
このようにして、気泡塔型反応器30で合成された液体炭化水素は、スラリーとして触媒粒子ともに分離器36に導入される。分離器36は、スラリーを触媒粒子等の固形分と液体炭化水素を含んだ液体分とに分離する。分離された触媒粒子等の固形分は、その一部が気泡塔型反応器30に戻され、液体分は第1精留塔40に供給される。また、気泡塔型反応器30の塔頂からは、未反応の合成ガスと、合成された炭化水素のガス分とが気液分離器38に導入される。気液分離器38は、これらのガスを冷却して、一部の凝縮分の液体炭化水素を分離して第1精留塔40に導入する。一方、気液分離器38で分離されたガス分については、未反応の合成ガス(COとH)は、気泡塔型反応器30の底部に再投入されてFT合成反応に再利用される。また、製品対象外である炭素数が少ない(C以下)炭化水素ガスを主成分とする排ガス(フレアガス)は、外部の燃焼設備(図示せず。)に導入されて、燃焼された後に大気放出される。
【0028】
次いで、第1精留塔40は、上記のようにして気泡塔型反応器30から分離器36、気液分離器38を介して供給された液体炭化水素(炭素数は多様)を加熱して、沸点の違いを利用して分留し、ナフサ留分(沸点が約150℃未満)と、灯油・軽油留分(沸点が約150〜350℃)と、WAX分(沸点が約350℃より大)とに分留する。
この第1精留塔40の底部から取り出されるWAX分の液体炭化水素(主としてC21以上)は、WAX分水素化分解反応器50に移送され、第1精留塔40の中央部から取り出される灯油・軽油留分の液体炭化水素(主としてC11〜C20)は、灯油・軽油留分水素化精製反応器52に移送され、第1精留塔40の上部から取り出されるナフサ留分の液体炭化水素(主としてC〜C10)は、ナフサ留分水素化処理反応器54に移送される。
【0029】
WAX分水素化分解反応器50は、第1精留塔40の下部から供給された炭素数の多いWAX分の液体炭化水素(概ねC21以上)を、上記水素分離装置26から供給された水素ガスを利用して水素化分解して、炭素数をC20以下に低減する。この水素化分解反応では、触媒と熱を利用して、炭素数の多い炭化水素のC−C結合を切断して、炭素数の少ない低分子量の炭化水素を生成する。このWAX分水素化分解反応器50により、水素化分解された液体炭化水素を含む生成物は、気液分離器56で気体と液体とに分離され、そのうち液体炭化水素は、第2精留塔70に移送され、気体分(水素ガスを含む。)は、灯油・軽油留分水素化精製反応器52及びナフサ留分水素化処理反応器54に移送される。
【0030】
灯油・軽油留分水素化精製反応器52は、第1精留塔40の中央部から供給された炭素数が中程度である灯油・軽油留分の液体炭化水素(概ねC11〜C20)を、水素分離装置26からWAX分水素化分解反応器50を介して供給された水素ガスを用いて、水素化精製する。この水素化精製反応は、上記液体炭化水素の異性化及び不飽和結合に水素を付加して飽和させ、主に側鎖状飽和炭化水素を生成する反応である。この結果、水素化精製された液体炭化水素を含む生成物は、気液分離器58で気体と液体に分離され、そのうち液体炭化水素は、第2精留塔70に移送され、気体分(水素ガスを含む。)は、上記水素化反応に再利用される。
【0031】
ナフサ留分水素化処理反応器54は、第1精留塔40の上部から供給された炭素数が少ないナフサ留分の液体炭化水素(概ねC10以下)を、水素分離装置26からWAX分水素化分解反応器50を介して供給された水素ガスを用いて、水素化処理する。この結果、水素化処理された液体炭化水素を含む生成物(水素化ナフサ)は、気液分離器60で気体と液体に分離され、そのうち液体炭化水素は、ナフサスタビライザー72に移送され、気体分(水素ガスを含む。)は、上記水素化反応に再利用される。
【0032】
次いで、第2精留塔70は、上記のようにしてWAX分水素化分解反応器50及び灯油・軽油留分水素化精製反応器52から供給された液体炭化水素を蒸留して、炭素数がC10以下の炭化水素(沸点が約150℃未満)と、灯油(沸点が約150〜250℃)と、軽油(沸点が約250〜350℃)及びWAX水素化分解反応器56からの未分解WAX分(沸点が約350℃)とに分留する。第2精留塔70の塔底からは未分解WAX分が得られ、これはWAX分水素化分解反応器50の前にリサイクルされる。第2精留塔70の中央部からは灯油および軽油が取り出される。一方、第2精留塔70の塔頂からは、炭素数がC10以下の炭化水素ガスが取り出されて、ナフサスタビライザー72に供給される。
【0033】
さらに、ナフサスタビライザー72では、上記ナフサ留分水素化処理反応器54及び第2精留塔70から供給された炭素数がC10以下の炭化水素を蒸留して、製品としてのナフサ(C〜C10)を分留する。これにより、ナフサスタビライザー72の下部からは、高純度のナフサが取り出される。一方、ナフサスタビライザー72の塔頂からは、製品対象外である炭素数が所定数以下(C以下)の炭化水素を主成分とする排ガス(フレアガス)が排出される。この排ガスは、外部の燃焼設備(図示せず。)に導入されて、燃焼された後に大気放出される。
【0034】
以上、液体燃料合成システム1の工程(GTLプロセス)について説明した。かかるGTLプロセスにより、天然ガスを、高純度のナフサ(C〜C10:粗ガソリン)、灯油(C11〜C15:ケロシン)及び軽油(C16〜C20:ガスオイル)等の液体燃料に転換される。
【0035】
次に、図2を参照して、ナフサ留分水素化処理反応器54周辺の構成・動作について詳細に説明する。
このナフサ留分水素化処理反応器54は、第1精留塔40の上部に接続された供給路701を通じてナフサ留分の液体炭化水素が供給される構成とされており、水素化処理された液体炭化水素を含む生成物(水素化ナフサ)は排出路702を通じて気液分離器60へ移送される。
気液分離器60で分離された液体炭化水素は、上述のようにナフサスタビライザー72へと移送されるが、その一部は、気液分離器60から供給路701に接続された還流路703を通じてナフサ留分水素化処理反応器54へと移送されるように構成されている。
【0036】
ナフサ留分水素化処理反応器54の通常運転時においては、第1精留塔40から供給されるナフサ留分に、還流路703を通じて供給された水素化ナフサを混入して、ナフサ留分水素化処理反応器54へと供給している。このように水素化処理されて不活性となった水素化ナフサをナフサ留分に混入することによって、ナフサ留分水素化処理反応器54における水素化処理時の発熱を抑制しているのである。
【0037】
一方、このナフサ留分水素化処理反応器54を初めて作動させる場合やメンテナンス等によって長期停止後に運転を開始する場合には、気液分離器60内に水素化ナフサが貯留していないことになる。
そこで、本実施形態では、図3のフロー図に示すように、ナフサ留分水素化処理反応器54のスタートアップを行う。
【0038】
まず、気液分離器60に、ナフサ留分に相当する不活性炭化水素化合物、つまり、炭素数が5〜10程度、より好ましくは5〜8程度の不活性な炭化水素化合物を充填する(S1)。なお、本実施形態では、不活性炭化水素化合物としてn−ヘキサンを用いている。
不活性炭化水素化合物であるn−ヘキサンを、還流路703を介してナフサ留分水素化処理反応器54への供給路701に移送し(S2)、移送されたn−ヘキサンと第1精留塔40から供給されるナフサ留分とを混合する(S3)。
ナフサ留分とn−ヘキサンとの混合物をナフサ留分水素化処理反応器54に供給する(S4)。なお、ナフサ留分とn−ヘキサンとの混合比は、ナフサ留分/n−ヘキサン=1/4〜1/1の範囲とすることが好ましい。
この混合物の供給量を調整し(S5)、ナフサ留分水素化処理反応器54における発熱を抑制しながら水素化処理を行い、水素化ナフサを気液分離器60に移送する。
【0039】
気液分離器60に貯留される水素化ナフサの一部を還流路703を介して供給路701へと移送し(S6)、移送された水素化ナフサと第1精留塔40から供給されるナフサ留分とを混合する(S7)。そして、このナフサ留分と水素化ナフサとの混合物をナフサ留分水素化処理反応器54に供給し(S8)、通常運転(S9)へと移行する。
このようにして、ナフサ留分水素化処理反応器54のスタートアップを行う。なお、気液分離器60に充填される不活性炭化水素化合物は、水素化ナフサとともにナフサスタビライザー72や製品ナフサに混入することになる。
【0040】
上述した構成とされた本実施形態に係るナフサ留分水素化処理反応器54のスタートアップ方法によれば、気液分離器60に充填された不活性炭化水素化合物であるn−ヘキサンを還流路703を介して供給路701に移送し、第1精留塔40から供給されるナフサ留分とn−ヘキサンとが混合されてナフサ留分水素化処理反応器54に供給されるので、ナフサ留分水素化処理反応器54内で水素添加されるオレフィン等の活性物質の含有比率が低くなり、反応による発熱を抑えることができる。
また、このようにナフサ留分水素化処理反応器54での発熱が抑えられることから、ナフサ留分水素化処理反応器54への供給量を少なくする必要がなく、スタートの段階から供給量を多くでき、早期に安定操業に移行することができる。
さらに、ナフサ留分に混合されるn−ヘキサン等の不活性炭化水素化合物はナフサ留分に相当するもの、つまり、炭素数が5〜10程度の炭化水素化合物であるので、ナフサスタビライザー72やナフサ製品に混入しても問題がない。このため、n−ヘキサン等の不活性炭化水素化合物を分離する分離手段を設ける必要はない。
【0041】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
例えば、気液分離器60に不活性炭化水素化合物を充填する構成として説明したが、これに限定されることはなく、図4に示すように、ナフサスタビライザー72に不活性炭化水素化合物を充填し、ナフサスタビライザー72に設けられた還流路704を介して供給路701に不活性炭化水素化合物を移送してもよい。
また、図4に点線で示すように、気液分離器60から還流路704へと延びる連絡路705を設けて、気液分離器60とナフサスタビライザー72の両方に不活性炭化水素化合物を充填しておいてもよい。
【0042】
また、実施形態では、第1精留塔40からのナフサ留分に対して不活性炭化水素化合物を混合させる構成として説明したが、これに限定されることはなく、例えば、気液分離器60及びナフサスタビライザー72の少なくとも一方に予め充填されている不活性炭化水素化合物を、還流路703、704、供給路701、水素化処理反応器54の間で流動させておき、これに前記ナフサ留分を混合してもよい。
【0043】
さらに、不活性炭化水素化合物としてn−ヘキサンを用いたものとして説明したが、これに限定されることはなく、n−ペンタン、n−へプタン、n−オクタン、n−ノナン等を用いてもよいし、事前に生成された水素化ナフサ自体を用いてもよい。ただし、硫黄(S)や酸素(O)化合物を含むものやオレフィン等は、水素化処理時における発熱の要因となるため好ましくない。また、入手性等を考慮した場合、n−ヘキサンが最適である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施形態に係るナフサ留分水素化処理反応器を備えた液体燃料合成システムの全体構成を示す概略図である。
【図2】本発明の実施形態に係るナフサ留分水素化処理反応器周辺の詳細説明図である。
【図3】本発明の実施形態に係るナフサ留分水素化処理反応器のスタートアップ方法を示すフロー図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係るナフサ留分水素化処理反応器周辺の詳細説明図である。
【符号の説明】
【0045】
1 液体燃料合成システム(炭化水素合成反応システム)
40 第1精留塔(第1の精留塔)
54 ナフサ留分水素化処理反応器
60 気液分離器
72 ナフサスタビライザー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィッシャー・トロプシュ合成反応により生成された炭化水素化合物のうち第1の精留塔によって分留されたナフサ留分を水素化処理するナフサ留分水素化処理反応器のスタートアップ方法であって、
前記ナフサ留分水素化処理反応器で水素化処理された水素化ナフサが移送される気液分離器に、前記ナフサ留分に相当する不活性炭化水素化合物を予め充填しておく工程と、
前記気液分離器に充填された前記不活性炭化水素化合物を、前記第1の精留塔から移送される前記ナフサ留分に混入させる工程と、
前記ナフサ留分と前記不活性炭化水素化合物との混合物を前記ナフサ留分水素化処理反応器に供給する工程と、
を備えていることを特徴とするナフサ留分水素化処理反応器のスタートアップ方法。
【請求項2】
フィッシャー・トロプシュ合成反応により生成された炭化水素化合物のうち第1の精留塔によって分留されたナフサ留分を水素化処理するナフサ留分水素化処理反応器のスタートアップ方法であって、
前記ナフサ留分水素化処理反応器で水素化処理された水素化ナフサが気液分離器を介して移送されるナフサスタビライザーに、前記ナフサ留分に相当する不活性炭化水素化合物を予め充填しておく工程と、
前記ナフサスタビライザーに充填された前記不活性炭化水素化合物を、前記第1の精留塔から移送される前記ナフサ留分に混入させる工程と、
前記ナフサ留分と前記不活性炭化水素化合物との混合物を前記ナフサ留分水素化処理反応器に供給する工程と、
を備えていることを特徴とするナフサ留分水素化処理反応器のスタートアップ方法。
【請求項3】
前記不活性炭化水素化合物が炭素数5〜10の炭化水素化合物であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のナフサ留分水素化処理反応器のスタートアップ方法。
【請求項4】
前記不活性炭化水素化合物が、水素化ナフサであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のナフサ留分水素化処理反応器のスタートアップ方法。
【請求項5】
前記不活性炭化水素化合物がn−ペンタン、n−ヘキサン、n−へプタン、n−オクタン、n−ノナンのうちの少なくとも1種又は2種以上からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のナフサ留分水素化処理反応器のスタートアップ方法。
【請求項6】
前記不活性炭化水素化合物がn−ヘキサンであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のナフサ留分水素化処理反応器のスタートアップ方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−83998(P2010−83998A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−254220(P2008−254220)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【出願人】(504117958)独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 (101)
【出願人】(509001630)国際石油開発帝石株式会社 (57)
【出願人】(591090736)石油資源開発株式会社 (70)
【出願人】(000105567)コスモ石油株式会社 (443)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】