説明

ニオブをドープしたバナジウム/燐混合酸化物触媒

n−ブタンの無水マレイン酸への部分酸化のための修飾バナジウム/燐混合酸化物触媒の調製方法が開示される。この触媒は、主成分としてのピロ燐酸バナジルと助触媒元素としてのニオブとを、250:1から60:1の範囲内にあるバナジウムとニオブとの原子比率に対応した量で含んでいる。この触媒は、向上した活性と、無水マレイン酸の向上した収率と、その触媒寿命の最初からの最適な性能とを示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、助触媒としてニオブ(Nb)を含み、n−ブタンの選択的酸化によって無水マレイン酸を製造するための触媒として使用するバナジウム/燐混合酸化物触媒の製造方法、前記方法で得ることができる触媒、および前記触媒を利用した無水マレイン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無水マレイン酸は、不飽和ポリエステル樹脂、ブタンジオールおよびテトラヒドロフランなどの化学中間体、医薬ならびに農薬の製造のための、よく知られた多用途の中間体である。それは、芳香族(例えば、ベンゼン)または非芳香族(例えば、n−ブタン)炭化水素を部分的に酸化することでつくられる。その酸化は、気相中、不均一触媒の存在のもとで、固定床反応器、流動床反応器、または上昇床反応器(riser bed reactor)において行われる。
【0003】
n−ブタンのような非芳香族炭化水素を無水マレイン酸へと酸化するための触媒の主成分は、ピロ燐酸バナジル、(VO)であり、それは、触媒の前駆体としての役割を果たす式(VO)HPO・0.5HOのオルト燐酸バナジル(vanadyl acid orthophosphate)半水和物を熱処理することによって得られる。
【0004】
その前駆体を調製する方法は、慣習的に、5価のバナジウム化合物を4価の状態(平均酸化数+4)のバナジウムを提供する条件で還元することと、4価のバナジウムを燐酸と反応させることとを含んでいる。従来技術は、この調製のための多くのいろいろな手法を説明しており、それらは、一般的に、バナジウム源としての五酸化バナジウム(V)の使用を含んでいる(例えば、US 5,137,860およびEP 0 804 963 A1を参照のこと)。水溶液の状態の塩化水素は、V+5からV+4への還元に関して言及されている還元剤の1つである。イソブチルアルコールおよびベンジルアルコールなどの、一級もしくは二級の脂肪族アルコールまたは芳香族のアルコールのような有機還元性媒体も使用されている。最も使用されている有機還元剤は、イソブチルアルコールである。というのは、それは、最適な溶解特性と還元特性とを併せ持ち、それゆえ、燐酸と反応させられて前駆体である式(VO)HPO・0.5HOのオルト燐酸バナジル酸半水和物を形成する4価のバナジウムの形成を伴う完全な酸化還元反応に有利に働くからである。
【0005】
ピロ燐酸バナジルとオルト燐酸バナジル半水和物との両方は、元素周期表のIA族、IB族、IIA族、IIB族、IIIA族、IIIB族、IVA族、IVB族、VA族、VB族、VIA族、VIB族、およびVIIIA族から選択される助触媒元素またはこのような元素の組合せの添加により修飾されてもよい。
【0006】
特許文献によると、ピロ燐酸バナジルの触媒性能は、これらの元素の添加により実質的に改善され得る。その文献で報告された助触媒およびそれらの役割についての徹底的な再研究は、G. J. HutchingsによりAppl. Catal., 1991, 72, 1-32において、およびStud. Surf. Sci. Catal. “Preparation of Catalysts VI”, (G. Ponceletら編), Vol. 91, Elsevier Science, Amsterdam, 1995, p.1.において報告されている。
【0007】
従来技術は、助触媒の中でもニオブは、ピロ燐酸バナジルの触媒性能を向上させるが、得られた結果は完全に満足できるものではないと述べている。
【0008】
1.I. Matuuraら(Catal. Today, 1996, 28, 133-138)は、VおよびNbを水溶液中で共沈させ、沈殿物をベンジルアルコールを用いて還流させながら処理している。得られた固体生成物は、空気とn−ブタンとを含んだ反応混合物の存在のもとで賦活させられている。Nb修飾した触媒は高い活性を示し、最良の結果は高い助触媒濃度(原子比率V/Nb=4)の場合に得られている。
【0009】
2.P. G. Pries de Oliveiraら(Catal. Today, 2000, 57, 177-186)は、VPO前駆体をイソブチルアルコール中で調製し、NbPOをオルト燐酸バナジル半水和物の核生成の直前に導入している。その触媒前駆体は、反応器中、ブタン/空気雰囲気のもとで、賦活させられている。Nbの添加は、触媒の定常的な性能に達するために必要な時間を、120時間から40時間に短縮させる。助触媒を添加した触媒について、助触媒を添加していない触媒と比較して、より高い活性が報告されている。高い助触媒濃度(原子比率V/Nb=6.4)の場合に、最良の結果が報告されている。
【0010】
3.A. M. Duarte de Fariasら(J. Catal. 2002, 208, 238-246)は、Nbエトキシドをイソブチルアルコールに可溶化させ、それを還元剤として使用してNb修飾触媒前駆体を調製している。その前駆体の賦活は、反応条件下で行われている。Nb助触媒を添加した触媒(原子比率V/Nb=100)は、助触媒を添加していないVPO触媒と比較してより高い活性を有しているが、著者は、無水マレイン酸への選択性は、Nbドープによって改善されないと述べている。
【0011】
4.R. Higgins, G. J. Hutchings (ICI Ltd.に譲渡された、US Patent 4,147,661(1979))は、Nb助触媒添加触媒を、イソブチルアルコール中で、塩化水素ガスを還元剤として使用して調製している。この特許は、多量の助触媒(原子比率V/Nb=14)を使用し、賦活を、反応管中、反応混合物空気/n−ブタンの存在のもとで行っている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
まとめると、従来技術では、Nbの正の影響は、多量の助触媒を使用した(低いV/Nb原子比率:文献1、2および4)場合に、および/または、ピロ燐酸バナジルに転化するための前駆体の熱処理が反応器内部でn−ブタン/空気混合物を用いて行われた場合(文献1、2、3および4)に達成されている。これは、触媒の賦活期間内ではn−ブタンの転化と無水マレイン酸の収率とが最適値からかけ離れるということ、および、それは商業的利用のためには好ましくないということを暗に示している。さらに、従来技術では、Nbドープの正の影響は、より活性な触媒をもたらしているが、特に、少量のNbが使用された場合(文献3)には、無水マレイン酸への選択性は改善されていない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
我々は、触媒の活性とその無水マレイン酸への選択性との両方に対する正の影響は、VPO触媒に非常に少量のNb助触媒を添加することにより得られることを見出している。この正の影響は、前駆体を調製する特定の方法と、それを活性触媒としてのピロ燐酸バナジルに変化させるための前駆体の特定の熱処理とを組み合せることによって得られる。調製混合物におけるP/V原子比率は最適値を有しており、それは添加するNbの関数である。前駆体の調製は、適切な組成の有機媒体中でなされ、特別な建材を必要とする、HClのように危険であり腐食性の還元剤の使用を回避する。本発明のさらなる利点は、前駆体をピロ燐酸バナジル活性触媒に変化させるための熱処理が反応器の外で行われることにあり、それにより、触媒は、反応器中に装入されたときに、最適な触媒性能を最初から示す。
【0014】
本発明によると、この前駆体は、特許出願WO 00/72963(Lonza S. p. A.)に記載されている手順に従って、有利に調製され得る。
【0015】
WO 00/72963は、バナジウム/燐混合酸化物触媒前駆体の調製方法を教示しており、そこでは、バナジウムの還元剤は、燐源の存在のもとで(a)と(b)との重量比で99:1から5:95の(a)イソブチルアルコールまたはイソブチルアルコールとベンジルアルコールとの混合物および(b)ポリオールを含んだ有機媒体である。最も好ましいポリオールは、C2−4−アルカンジオール、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオールおよび1,4−ブタンジオールである。好ましいアルコール混合物は、イソブチルアルコールに対して、5から30mol%のポリオールを含む。
【0016】
WO 00/72963は、触媒前駆体は、乾燥後でも、有機反応媒体からの数パーセントの有機化合物を含んでおり、それは容易には除去されないことを開示している。前駆体中にトラップされたままの有機化合物のこの割合は、熱処理後に得られる活性触媒の性能特性に良い影響を与え得る基本的なパラメータである。WO 00/72963は、賦活されたときに、非芳香族炭化水素の無水マレイン酸への転化において優れた結果へと導く優れた触媒前駆体を提供するために、バナジウム/燐混合酸化物触媒前駆体中の炭素含有量を制御する方法を教示している。
【0017】
我々は、触媒の性能は、少量のNb化合物または塩を、触媒前駆体を調製するための混合物に添加することによってさらに向上させられることを発見し、この混合物は、バナジウム源と、燐源と、溶媒および還元剤としての役割を果たし得る有機媒体と、ベンジルアルコールおよびポリオールからなる群より選択される添加剤とを含み、前駆体の熱処理は、水蒸気の存在のもとで行われるのであれば、EP 0 804 963 A1(Lonzaに譲渡された)に記載されているのと同様の手順に従って行われる。
【0018】
EP 0 804 963 A1は、以下の工程に従ってか焼と賦活とを行うことを教示している:
a)触媒前駆体を室温から約250℃を超えない温度に初期加熱する工程、
b)過圧(superatmospheric pressure)のもと、約200℃から少なくとも380℃ないし600℃の温度にさらに加熱する工程、
c)工程b)で到達した温度に過圧のもとで維持する工程、および
d)賦活した触媒を冷却する工程。
【0019】
200℃から330℃での予備か焼工程後に、このか焼および賦活処理、特には工程b)からd)が続いて行われる場合、最後に得られる触媒は、Nbなしに調製された同様の触媒と比較して高められた活性を特徴とする。EP 0 804 963 A1に記載された以外の熱処理を用いる場合には、Nbの触媒性能に対する正の影響は観側されないか、または、逆に、負の影響が観側される。
【0020】
本発明によると、ピロ燐酸バナジルの触媒性能に対するNbの正の影響は、前駆体のか焼および賦活処理が特定の条件のもと、反応器の外において実行された場合に最大限に引き出すことができ、それにより、賦活した触媒は、反応器に装入されたときに、最適な触媒性能を最初から示す。これは、反応器内部での触媒のか焼および賦活(製造の損失を伴う)の時間がないため、および初期からの最適値での触媒性能(n−ブタンの転化および無水マレイン酸の収率)のために、従来技術に対する著しい利点を示している。
【0021】
バナジウム源として、4価または5価のバナジウム化合物を適用してもよい。代表的例は、限定するものではないが、四塩化バナジウム(VCl)、オキシ三臭化バナジウム(VOBr)、五酸化バナジウム(V)、燐酸バナジル(VOPO・nHO)および四酸化バナジウム(V)である。五酸化バナジウムは、好ましいバナジウム源である。
【0022】
ニオブ源は、例えば、NbCl、Nbオキソ水和物(oxohydrate)、シュウ酸Nbアンモニウム錯体のような、入手可能な全ての塩および化合物であり得る。
【0023】
本願の選択の助触媒であるNbに加えて、前駆体は、元素周期表のIA族、IB族、IIA族、IIB族、IIIA族、IIIB族、IVA族、IVB族、VA族、VB族、VIA族、VIB族、およびVIIIA族から選択される助触媒元素、またはこれらの混合物を伴ってもよい。好ましい追加の助触媒元素は、ジルコニウム、ビスマス、リチウム、モリブデン、ホウ素、亜鉛、チタン、鉄およびニッケルからなる群より選択される。
【0024】
オルト燐酸(HPO)は好ましい燐源である。
【0025】
溶媒および還元剤の両方の役割を果たす好ましい有機媒体は、特許出願WO 00/72963に記載されているように、(a)と(b)との重量比で99:1から5:95の(a)イソブチルアルコールまたはイソブチルアルコールとベンジルアルコールとの混合物および(b)ポリオールを含む。最も好ましいポリオールは、C2−4−アルカンジオール、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオールおよび1,4−ブタンジオールである。好ましいアルコール混合物は、イソブチルアルコールに対して、5から30mol%のポリオールを含む。
【0026】
好ましい実施形態では、バナジウム源は、燐源と共に、有機媒体に懸濁させられ、その混合物は、攪拌のもと、90から200℃の温度に、より好ましくは100から150℃に1時間から24時間にわたって維持される。
【0027】
ニオブ源とバナジウム源との比は、V/Nb原子比率が250:1ないし60:1の範囲内にあるようにする比である。
【0028】
調製混合物中のバナジウム源と燐源との比は、好ましくは、P/V原子比率が、1:1から1.8:1の範囲内に、より好ましくは1.1:1から1.6:1の範囲内にあるようにする比である。100より低いV/Nb原子比率を用いる場合、より良好な結果は、バナジウム源と燐源との比を、調製混合物中のP/V原子比率が1.3:1から1.6:1の範囲内になるようにしたときに得られる。
【0029】
沈殿後、前駆体としてのオルト燐酸バナジルを、濾過し、洗浄し、次いで、好ましくは120から200℃で乾燥させ、200から300℃の温度で予備か焼する。
【0030】
好ましい実施形態では、前駆体としてのオルト燐酸バナジルは、式(VO)HPO・aHO・Mで記述され得る。ここで、Mは、Nb、および任意に、元素周期表のIA族、IB族、IIA族、IIB族、IIIA族、IIIB族、IVA族、IVB族、VA族、VB族、VIA族、VIB族、およびVIIIA族からなる群より選択される1つの助触媒元素、またはこのような元素の混合物であり、aは0.3から0.7の数値であり、mは0.004から0.017の数値であり、pは0.004から0.017の数値であり、yは、存在している全元素についての原子価の要求を満足させるのに必要な酸素の量に相当している。
【0031】
予備か焼した前駆体は、賦活処理に先立って、最終的な用途にとって都合のいい形状に成形されてもよい。このような工程は、特定の粒径への湿式粉砕、磨耗耐性(attrition resistance)を向上させるための添加剤の添加、および都合のよい形状の形成を含んでもよい。微小球は、触媒の流動床での用途に最も適しており、例えばUS 4,654,425に記載されているような、噴霧乾燥によって得ることができる。固定床反応器のために、触媒は、タブレット化または押し出し成形によって、所望の形状に成形され得る。
【0032】
予備か焼した前駆体の活性触媒へのさらなる変換は、EP 0 804 963 A1に記載されているのと同様の熱処理により、a)過圧のもと、水蒸気を含んだ雰囲気中で380から600℃の温度に加熱し、b)工程(a)で到達した温度に過圧のもとで維持し、c)このようにして賦活させた触媒を冷却することによって行われる。この熱処理は、好ましくは、無水マレイン酸の製造に使用する反応器の外部であって、流動床またはオーブン内で行われる。
【0033】
賦活後に得られる生成物は、活性触媒としてのピロ燐酸バナジルの構造を有し、反応器中へと直ちに装入することができ、ブタンなどの非芳香族炭化水素の無水マレイン酸への転化に用いられる。
【0034】
このような処理は、例えば、US 4,594,433、US 5,137,860またはUS 4,668,652のように、当技術分野においてよく知られている。
【0035】
脂肪族C4−10炭化水素から選択される非芳香族炭化水素、好ましくはn−ブタンは、酸素または酸素を含むガスと共に反応器に約320から500℃までの温度で供給され、無水マレイン酸へと転化される。
【0036】
この転化は、固定床または流動床反応器中で起こり得て、好ましくは流動床反応器が使用される。以下の例は、例示の目的のみで与えられ、多少なりとも本発明を限定するように解釈されるものではない。
【0037】
以下の例において、前駆体の炭素含有量は、純酸素中における高温での下記装置および手順を使用した燃焼と、生成した二酸化炭素の赤外分析による検出とによって測定された。
【0038】
装置:ELTRA 900CS
測定範囲:0.001−100重量%C
感度:0.0001重量%C
試料当りの時間:90秒
試料の大きさ:0.1−0.5g
オーブン温度:400−1500℃
酸素純度:最小値で99.5%
酸素の流速:4L/分
手順:
分析を開始する前に、炉を1330℃まで加熱し、酸素流を10分間流した。高炭素含有量検出器を選択し、既知の炭素含有量を有する標準試料で較正した。使用した試料の大きさは150±10mgであった。
【0039】
例1(V/Nb原子比率160)
温度計と、機械式の攪拌器と、還流凝縮器および水分離器を備えた蒸留塔とを装備した30Lの反応器中へと、イソブチルアルコールおよび1,4−ブタンジオール(80:20)の16,700gの混合物中に懸濁させた1,968gのVと65gのシュウ酸ニオブアンモニウムと2,484gの100%のHPOと(P/V原子比率=1.17)を導入した。この混合物を、攪拌しながら、加熱し還流させ、これらの条件で8時間放置した。混合物の色は、赤茶から明るい緑に変化した。
【0040】
この混合物を、室温まで冷却し、その後、濾過し、イソブチルアルコールで洗浄した。それから、その固形物を、150℃で乾燥させ、300℃で予備か焼した。予備か焼した前駆体中の炭素含有量は、1.7重量%であった。
【0041】
次いで、その固形物を、US 4,654,425の例1に記載されているように、ミリングおよび噴霧乾燥工程を用いて、典型的な流動床の球形とした。
【0042】
その固形物は、EP 0 804 963 A1の例4に記載されているように、熱水流動床においてか焼した。
【0043】
例2(V/Nb原子比率200)
52gのシュウ酸ニオブアンモニウムを使用したこと以外は、例1の手順に従った。予備か焼した前駆体の炭素含有量は、1.8重量%であった。
【0044】
次いで、その固形物を、US 4,654,425の例1に記載されているように、ミリングおよび噴霧乾燥工程を用いて、典型的な流動床の球形とした。
【0045】
その固形物は、EP 0 804 963 A1の例4に記載されているように、熱水流動床においてか焼した。
【0046】
例3(V/Nb原子比率120)
87gのシュウ酸ニオブアンモニウムを使用したこと以外は、例1の手順に従った。予備か焼した前駆体の炭素含有量は、1.7重量%であった。
【0047】
次いで、その固形物を、US 4,654,425の例1に記載されているように、ミリングおよび噴霧乾燥工程を用いて、典型的な流動床の球形とした。
【0048】
その固形物は、EP 0 804 963 A1の例4に記載されているように、熱水流動床においてか焼した。
【0049】
比較例1(Nbなし)
シュウ酸ニオブアンモニウムを使用しなかったこと以外は、例1の手順に従った。予備か焼した前駆体の炭素含有量は、1.8重量%であった。
【0050】
次いで、その固形物を、US 4,654,425の例1に記載されているように、ミリングおよび噴霧乾燥工程を用いて、典型的な流動床の球形とした。
【0051】
その固形物は、EP 0 804 963 A1の例4に記載されているように、熱水流動床においてか焼した。
【0052】
比較例2(Nbなし、1,4−ブタンジオールなし)
シュウ酸ニオブアンモニウムを使用せず、1,4−ブタンジオールを反応器に装入しなかったこと以外は、例1の手順に従った。予備か焼した前駆体の炭素含有量は、0.5重量%であった。
【0053】
次いで、その固形物を、US 4,654,425の例1に記載されているように、ミリングおよび噴霧乾燥工程を用いて、典型的な流動床の球形とした。
【0054】
その固形物は、EP 0 804 963 A1の例4に記載されているように、熱水流動床においてか焼した。
【0055】
比較例3(V/Nb原子比率25)
416gのシュウ酸ニオブアンモニウムを使用したこと以外は、例1の手順に従った。予備か焼した前駆体の炭素含有量は、2.0重量%であった。
【0056】
次いで、その固形物を、US 4,654,425の例1に記載されているように、ミリングおよび噴霧乾燥工程を用いて、典型的な流動床の球形とした。
【0057】
その固形物は、EP 0 804 963 A1の例4に記載されているように、熱水流動床においてか焼した。
【0058】
例4(V/Nb原子比率80、P/V=1.17)
130gのシュウ酸ニオブアンモニウムを使用したこと以外は、例1の手順に従った。予備か焼した前駆体の炭素含有量は1.8重量%であった。
【0059】
次いで、その固形物を、US 4,654,425の例1に記載されているように、ミリングおよび噴霧乾燥工程を用いて、典型的な流動床の球形とした。
【0060】
その固形物は、EP 0 804 963 A1の例4に記載されているように、熱水流動床においてか焼した。
【0061】
例5(V/Nb原子比率80、P/V=1.46)
3,092gのHPO(100%)を使用したこと以外は、例4の手順に従った。予備か焼した前駆体の炭素含有量は、2.0重量%であった。
【0062】
次いで、その固形物を、US 4,654,425の例1に記載されているように、ミリングおよび噴霧乾燥工程を用いて、典型的な流動床の球形とした。
【0063】
その固形物は、EP 0 804 963 A1の例4に記載されているように、熱水流動床においてか焼した。
【0064】
比較例4(1,4−ブタンジオールなし)
1,4−ブタンジオールを反応器に装入しなかったこと以外は、例1の手順に従った。予備か焼した前駆体の炭素含有量は、0.5重量%であった。
【0065】
次いで、その固形物を、US 4,654,425の例1に記載されているように、ミリングおよび噴霧乾燥工程を用いて、典型的な流動床の球形とした。
【0066】
その固形物は、EP 0 804 963 A1の例4に記載されているように、熱水流動床においてか焼した。
【0067】
比較例5(熱水処理なし)
例1の手順に従った。予備か焼した前駆体の炭素含有量は、1.8重量%であった。
【0068】
次いで、その固形物を、US 4,654,425の例1に記載されているように、ミリングおよび噴霧乾燥工程を用いて、典型的な流動床の球形とした。
【0069】
この固形物は、以下の手順に従ってか焼した:
・窒素雰囲気
・3K/分
・最終t=550℃、6時間保持
流動床触媒試験:
例1−5および比較例1−5で調製した触媒を、パイロット流動床反応器において、以下の条件下で試験した:
・反応器に装入した触媒1000cm
・空気流量556NL/h
・n−ブタン供給量
〇4.3体積%
〇65g/h
・圧力3.0bar(2.0barg)
触媒の性能を表1にまとめた。
【表1】

【0070】
例4および5は、100より低いV/Nb原子比率でNbが存在しているもとでは、調製混合物中のP/V原子比率が最適比率より低いと、触媒の性能はより低いことを示している。この場合、触媒の性能は、反応器に、空気およびブタンとともに、有機亜燐酸塩または有機燐酸塩などの少量の燐化合物を供給することで改善され得る(これは、触媒の性能を遅れることなく一定に保つために通常に適用されている、よく知られた商業的手法である)。例4の触媒の試験中、満足できない性能が数日続いた後、亜燐酸トリエチルを、触媒に供給した反応混合物に添加した。数日後、86重量%の収量が、395℃の温度および80%のブタンの転化率で得られた。
【0071】
例6(V/Nb原子比率160、固定床)
例1の調製に従って、予備か焼した前駆体を調製した。予備か焼した前駆体の炭素含有量は、1.7重量%であった。
【0072】
予備か焼した粉末前駆体を、4%のグラファイトと混ぜ合わせ、1.7mmの穴を中心に有する4.8×4.8mmのリング状のタブレットに成形した。予備か焼した前駆体のペレットを、調節雰囲気中で室温から430℃まで加熱する熱水条件のもとで賦活した:酸素含有量は、初期で13%、最終段階で5%であって、水蒸気含有量は約50%であった。
【0073】
比較例6(V/Nb原子比率45、固定床)
51.5gのシュウ酸ニオブアンモニウムを使用したこと以外は、例6の手順に従った。
【0074】
予備か焼した前駆体の炭素含有量は、1.8重量%であった。
【0075】
予備か焼した粉末前駆体を、例6に記載したように成形および賦活した。
【0076】
比較例7(Nbなし、1,4−ブタンジオールなし、固定床)
比較例2の手順に従った。
【0077】
予備か焼した前駆体の炭素含有量は、0.5重量%であった。
【0078】
予備か焼した粉末前駆体を、例6に記載したように成形および賦活した。
【0079】
固定床触媒試験:
例6ならびに比較例7および8で調製した触媒を、パイロット固定床管状反応器(h=380cm、ID=2.1cm)において、以下の条件のもとで試験した:
・反応器に装入した触媒750g
・空気流量2650NL/h
・n−ブタン供給量
〇1.7体積%
〇118g/h
触媒の性能を表2にまとめた。
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分としてのピロ燐酸バナジルと助触媒元素としてのニオブとを、250:1から60:1の範囲内にあるバナジウムとニオブとの原子比率に対応した量で含んだ修飾バナジウム/燐混合酸化物触媒の製造方法であって、
(i)バナジウム源と、ニオブ源と、燐源と、溶媒および還元剤としての役割を果たし得る有機媒体と、ベンジルアルコールおよびポリオールからなる群より選択される添加剤とを含んだ反応混合物を用意する工程と、
(ii)前記反応混合物を加熱して、修飾オルト燐酸バナジル触媒前駆体をつくる工程と、
(iii)前記オルト燐酸バナジル触媒前駆体を単離および乾燥させる工程と、
(iv)前記乾燥させたオルト燐酸バナジル触媒前駆体を、200℃から330℃の温度で予備か焼する工程と、
(v)任意に、前記オルト燐酸バナジル触媒前駆体を、完成した触媒が使用されるべき床または反応器の種類に適した形状に整形する工程と、
(vi)前記オルト燐酸バナジル触媒前駆体を、
(a)過圧のもと、水蒸気を含んだ雰囲気中で、380から600℃の温度に加熱し、
(b)工程(a)で到達した温度に過圧のもと維持し、
(c)賦活した触媒を冷却する
ことによって、か焼および賦活する工程と
を含んだ方法。
【請求項2】
前記バナジウム源は五酸化バナジウムである請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記燐源は燐酸である請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記有機媒体は、イソブチルアルコールとポリオールとを99:1から5:95の重量比で含み、好ましくは、イソブチルアルコールに対して5から30mol%のポリオールを含んだ請求項1から3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記ポリオールは、C2−4アルカンジオール、好ましくは1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオールまたは1,4−ブタンジオールである請求項1から4のいずれか1項記載の方法
【請求項6】
前記P/V原子比率は、1:1から1.8:1、好ましくは1.1:1から1.6:1である請求項1から5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
工程(ii)において、前記混合物を、攪拌しながら、90から200℃、好ましくは100から150℃の温度に1時間から24時間にわたって維持する請求項1から6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
n−ブタンの無水マレイン酸への部分酸化のための修飾バナジウム/燐混合酸化物触媒であって、主成分としてのピロ燐酸バナジルと助触媒元素としてのニオブとを、250:1から60:1の範囲内にあるバナジウムとニオブとの原子比率に対応した量で含み、請求項1から7のいずれか1項記載の方法により得られる触媒。
【請求項9】
n−ブタンを、酸素を含んだガス混合物中、不均一触媒の存在のもとで部分酸化することにより無水マレイン酸を製造する方法であって、前記触媒は、請求項8記載のニオブ含有バナジウム/燐混合酸化物触媒である方法。

【公表番号】特表2007−505730(P2007−505730A)
【公表日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−526582(P2006−526582)
【出願日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【国際出願番号】PCT/EP2004/010336
【国際公開番号】WO2005/025742
【国際公開日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(504089460)
【氏名又は名称原語表記】Polynt SpA
【Fターム(参考)】