説明

ニス引き用塗工紙

【課題】ニス引き加工後にプレスコート紙やラミネート紙と同等またはこれら以上に優れた強光沢を有し、かつ耐摩擦性および耐折り割れ性が優れ、さらに古紙として回収利用が可能なニス引き用塗工紙を提供する。
【解決手段】原紙上に顔料と接着剤を主成分とする塗工組成物を塗工、乾燥して塗工層を設けることによって製造され、印刷等の情報を付与したのち、ニス引きを行い光沢化仕上げされるニス引き用塗工紙において、平滑化処理後の塗工層密度が1.5〜3.0g/cm3になるように、前記塗工層は平滑化処理が行われたものであり、前記塗工層が、絶乾重量で10〜20g/m2となるよう設けられ、前記塗工層の塗工面における、JIS P 8119に規定する平滑度が3,000秒以上、JIS P 8142に規定する光沢度が75%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強光沢印刷物を与えることができるニス引き用塗工紙に関する。さらに詳しく述べるならば、本発明は、主としてグラビア印刷による商業美術印刷物、出版印刷物、包装材料印刷物および紙器印刷物に供され、印刷面の光沢、照り(艶)が高度に発現され、かつ耐摩擦性、および耐折り割れ性を備え、さらに損紙とした場合、容易に再利用できるニス引き用塗工紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、商業、出版印刷および雑誌、書籍、コミック雑誌等の表紙カバー(いわゆるブックカバー)等を含む印刷物、ショッピングバッグ、ファッションバッグ(袋)、あるいは医薬品、化粧品等の紙器の高級化指向に伴い、用途適性として耐摩擦性、耐折り割れ性等を備えたものが強く求められている。さらに、環境や資源保護の観点から、これらの用紙や紙箱(容器)がその目的を果たし終えた後は再生処理により再利用できることが重要課題となっている。
【0003】
従来、強光沢を呈する用紙としてはキャスト塗工紙が知られている。確かに、キャスト塗工紙は白紙面の光沢が優れるため、高級印刷物や化粧箱等に利用されている。しかし、キャスト塗工紙は印刷後の印刷部分の光沢が比較的低く、かつ印刷後に擦れ汚れや、水気によるブロッキングが発生し易いという難点を抱えている。
【0004】
上述のキャスト塗工紙が有する難点を解決するために、従来印刷後にニス引き処理をする等の対策がとられてきた。しかし、キャスト塗被紙の塗被層には微小な空隙が無数に存在し、オーバープリントニスが塗被層内部に浸透し、塗被層表面に保持できないため、強光沢が得られないのが現状である。
【0005】
さらに、上述のキャスト塗工紙が有する難点を解決するために、特許文献1に開示されるがごとく、キャスト塗工紙の塗工組成中にエチレン性不飽和結合を有するモノマーを重合してなる重合体とコロイダルシリカの複合体を使用する方法等が提案されているが、耐摩擦性の面で不十分であり、十分な改良までには至っていない。
【0006】
他方、通常の塗工紙およびその印刷物表面に多くの樹脂を塗工し、さらに金属研磨板で熱圧して平滑で光沢のある表面に仕上げられたプレスコート紙は、印刷後に上記の処理が施されるので、高度の光沢、耐摩擦性および耐水性を得る点ではその目的を達成している。しかし、プレスコート加工は、工程が煩雑な上に生産速度に限界があり、生産性が低いため原価が高くなる欠点を有する。
【0007】
一方、ポリエチレンやポリプロピレン等のプラスチックフィルムを貼り合わせて加工処理したラミネート紙も、印刷後に上記の処理が施されるので、高度の光沢、耐摩擦性および耐水性を得る点ではその目的を達成している。しかし、これらはプラスチックフィルムを貼り合わせたものであるため、使用後に古紙を回収して再利用するのに多大なエネルギーと時間、労力を必要とし、古紙回収業界ではこれらのラミネート紙を回収再生不能な禁忌品として取り扱っているのが現状である。
【0008】
他方、特許文献2、特許文献3には、低粘度の紫外線硬化型樹脂液を塗布し、紫外線を照射して硬化させることにより光沢仕上げを行う方法が開示されている。しかし、この方法は、低粘度の紫外線硬化型樹脂液を使用するもので、通常の塗工紙やキャスト塗工紙に上記の紫外線硬化型樹脂液を塗布し、紫外線硬化を行っても紫外線硬化型樹脂が塗工層内部に浸透し、塗工層表面に保持されないため、プレスコート紙やラミネート紙等で得られるような十分な強光沢を得ることはできない。もちろん、塗工する樹脂の量を多くすることにより、所望の効果を得ることは可能ではあるが、製本、製袋および製箱時に樹脂層が折り割れを起こし易く、リサイクル性(古紙パルプ化適性)が低く好ましくない。
【0009】
特許文献4には、カオリンを主成分とする顔料と接着剤としてポリマーのガラス転移温度が0℃以下のスチレン−ブタジエン系共重合体物質と、リン酸エステル化デンプンおよび/またはアセチル化デンプンから構成される絶乾塗被量15〜25g/m2の塗被層面に印刷が施されて印刷面が形成され、該印刷面の上にオーバープリントニス塗布層を形成すること、特許文献5には、カオリンを主成分とする顔料、接着剤として重合度270〜800のポリビニルアルコールと、リン酸エステル化デンプンおよび/またはアセチル化デンプンとから構成される絶乾10〜20g/m2の塗被層がオンマシン塗被方式のゲートロールコーターにより設けられてなり、該塗被層表面に印刷が施されて印刷面が形成され、該印刷面の上にさらにオーバープリントニス塗布層を形成することで、極めて高い光沢を示し、且つ重要品質である耐摩擦性、耐水性および耐折り割れ性に優れ、さらに水中で容易に離解できるため原料パルプとして再利用が可能であり、商業美術印刷物、出版印刷物、包装材料印刷物、紙器印刷物等に好適に使用し得る強光沢印刷物を提供する技術が開示されている。
【0010】
上述のごとく、高度の耐摩擦性を保有し、耐折り割れ性が優れ、かつ回収利用が可能で、高度の光沢を有する強光沢印刷物が強く求められているが、未だこれらの特性を備え、要件を満たし得るものは提供されていないというのが現状である。
【特許文献1】特開平3−260192号公報
【特許文献2】特開平3−166号公報
【特許文献3】特開平4−2828号公報
【特許文献4】特開平7−216792号公報
【特許文献5】特開平7−279096号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者等は、かかる現状に鑑み、ニス加工を行った際、プレスコート紙やラミネート紙と同等またはこれら以上に優れた強光沢を有し、かつ高度の耐摩擦性を保有し、耐折り割れ性が優れ、さらに古紙として回収利用が可能なニス引き用塗工紙を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、
1)原紙上に顔料と接着剤を主成分とする塗工組成物を塗工、乾燥して塗工層を設けることによって製造され、印刷等の情報を付与したのち、ニス引きを行い光沢化仕上げされるために使用されるニス引き用塗工紙において、
平滑化処理後の塗工層密度が1.5〜3.0g/cm3になるように、前記塗工層は平滑化処理が行われたものであり、
前記塗工層が、絶乾重量で10〜20g/m2となるよう設けられ、
前記塗工層の塗工面における、JIS P 8119に規定する平滑度が3,000秒以上、JIS P 8142に規定する光沢度が75%以上であることを特徴とする。
【0013】
2)好ましくは、前記塗工層に含有させる前記顔料として、体積平均粒径0.10〜0.40μm、アスペクト比が7〜13の微粒カオリン(A)と、体積平均粒径0.20〜0.60μmの重質炭酸カルシウム(B)を用い、微粒カオリン(A)と、重質炭酸カルシウム(B)が、重量比で(A):(B)=60:40〜80:20の範囲で含有される。
【0014】
3)好ましくは、前記原紙として、ヤンキー紙を用いる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によるニス引き用塗工紙は、ニス加工後、極めて高い光沢を示し、かつ重要品質である耐摩擦性、および耐折り割れ性に優れており、さらに容易に離解できるため再利用が可能な強光沢印刷物を提供するという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明者等は、ニス引き加工後に、プレスコート紙やラミネート紙と同等かそれ以上に優れた強光沢を有し、かつ高度の耐摩擦性を保有し、耐折り割れ性が優れ、さらに古紙として回収利用が可能な強光沢を有する印刷物を得るため、原紙上に形成する塗工層について鋭意研究した結果、以下のことを見出した。
【0017】
1) 塗工層は、平滑化処理後の塗工層密度が1.5〜3.0g/cm3になるように平滑化処理が行われたものである。
【0018】
ここで、塗工層密度は下記式により算出した。
【0019】
塗工層密度(g/cm3)=a/b
但し、a=塗工紙の米坪(g/m2)−原紙の米坪(g/m2)、b=塗工紙の紙厚(μm)−原紙の紙厚(μm)
塗工層密度が1.5g/cm3未満では塗工層中の空隙が多くニス目止めが出来ないため、光沢、耐摩耗性が得られない。逆に3.0g/cm3を超えると目止め性は得られるもののインキの浸透も不十分となり、鮮明な印刷が得られない。また、このような密度とするためには非常に強いカレンダー処理が必要となり、生産性が著しく低下する。好ましくは1.7〜2.7g/cm3である。
【0020】
塗工層は絶乾重量で10〜20g/m2となるよう設ける。10g/m2未満では原紙表面を完全に被覆することができず、ニスを表面に均一に保持することができず、光沢ムラや耐摩耗性の低下を生じる結果となる。一方、塗工量が20g/m2を超えると、耐折り割れ性を低下させる結果になる。さらに、塗工量の増加は、乾燥負担を増加させるため、塗工速度を低下する必要が生じ、著しく生産性を低下させる結果となる。より好ましくは12〜18g/m2である。
【0021】
塗工層の塗工面において、JIS P 8119に規定する平滑度が3,000秒以上、JIS P 8142に規定する光沢度が75%以上である。平滑度が3,000秒未満では表面の微細な凹凸により、ニス層にも凹凸が生じ光沢度が低下してしまう。また、平滑度が高いとグラビア印刷による網点再現性が良好となるため鮮明な印刷が得られる。
【0022】
光沢度が75%未満ではニス塗布後の光沢度が得られ難く、強光沢を得るためにニスの塗布量が増大してしまい、折り割れの問題が発生する。
【0023】
2) 塗工層に含有させる顔料として、微粒カオリン(A):重質炭酸カルシウム(B)を重量比で60:40〜80:20の範囲で含有させることが好ましい。
【0024】
微粒カオリンの重量割合が60未満では、重質炭酸カルシウムの割合が多すぎるため、顔料中の空隙が多くなりニス目止め性が得られない。80を超えると塗料の流動性が悪くなり、塗工適性が悪化する。すなわち、ストリークが発生したり、塗料濃度を下げる必要性が生じ生産性が低下する。
【0025】
また、塗工層に含有させる顔料として、体積平均粒径0.10〜0.40μm、アスペクト比が7〜13の微粒カオリン(A)と、体積平均粒径0.20〜0.60μmの重質炭酸カルシウム(B)を用いることが好ましい。
(1)微粒カオリンの体積平均粒径が0.10μm未満では粒子が細かすぎてバインダーが相当量必要となり、バインダーマイグレーションが発生しやすく光沢度の低下が起きる。0.40μmを超えると、粒子径が大きすぎ、ニスの目止め性が不十分となり光沢、耐摩耗性が得られない。好ましくは0.20〜0.30μmである
(2)アスペクト比が7未満の微粉カオリンでは顔料中の空隙が大きくなるため目止めできず、光沢、耐摩耗性が得られない。逆に13を超えると塗料の流動性が悪くなり、塗工適性が悪化する。すなわち、ストリークが発生したり、塗料濃度を下げる必要性が生じ生産性が低下する。好ましくは8〜12である。
(3)重質炭酸カルシウムの体積平均粒径が0.20μm未満では、粒子が細かすぎバインダーが相当量必要となり、バインダーマイグレーションが発生しやすく光沢度の低下が起きる。0.60μmを超えると、粒子径が大きすぎ、ニスの目止め性が不十分となり光沢、耐摩耗性が得られない。好ましくは0.30〜0.50μmである。
(4)塗工層密度を高くするために球状の炭酸カルシウムを用いる事が望ましい。重質炭酸カルシウムは物理的粉砕により得られるため粒子径の分布が軽質炭酸カルシウムに比べブロードとなるため、塗工層中において微粒カオリンと組み合わせることにより顔料の空隙を埋めやすく、高いニス目止め性を得る事が出来る。
【0026】
3) 原紙としては平滑性、寸法安定性に優れるヤンキー紙を用いることが好ましい。公知の原紙が使用可能であるが、本発明においては高い寸法安定性と平滑性及び光沢性をもつヤンキー紙を用いる事で、印刷・ニス引き後の適性が向上し最終製品において高い光沢度が得られるためより好ましい。
【0027】
4) 塗工層に含有させる接着剤として、天然系および/または合成系の接着剤を全顔料100重量部に対し固形分対比で10〜20重量部含有させることが好ましい。
【0028】
天然系の接着剤としては、エステル化澱粉、酸化澱粉等が使用可能であり、合成系の接着剤としては、スチレン−ブタジエン系、アクリル系、酢酸ビニル系、ポリビニルアルコール等の共重合体が使用可能である。配合量が10重量部未満では十分な強度が得られずロール汚れ等の操業トラブル、白抜け等の印刷トラブルが発生する。また樹脂によるニスの目止め性も低くなり、光沢、耐摩耗性が得られない。逆に20重量部を超えるとバインダーマイグレーションが発生しやすく光沢度の低下が起きる。
【0029】
更には、塗工層の接着剤として、平均粒子径50〜150nm、かつゲル含有量が65重量%以上、ガラス転移温度(Tg)が−5〜5℃の、スチレン−ブタジエン系共重合体ラテックスを塗工層の全顔料100重量部に対し、固形分対比で5〜16重量部含有させることが好ましく、7〜14部がより好ましい。
【0030】
平均粒子径が50nm未満では印刷時に塗工層へのインキ浸透度が低下し、インキ乾燥性が悪くなるため、インキ層とニス層の接着性が低下し印刷割れが発生しやすくなる。150nmを超えると塗料粘度が高くなるため操業性が低下する。
【0031】
ゲル含有量が65重量%未満では、ニスにより塗工層の再溶解が発生し光沢度、耐摩耗性が低下する。
【0032】
Tgが−5℃より低いと光沢が低下する問題が発生し、5℃より高いと塗工層が固く、グラビア印刷適性の低下、折り割れが発生しやすい問題がある。また、被膜性が悪くニス浸透にムラが生じ光沢ムラ、耐摩耗性低下が生じる。
【0033】
5)カール抑制のためバックコート層を設けることが好ましい。原紙上の一方に塗工層を設けた場合、原紙層と塗工層の吸湿性・伸縮性の違いからカールが発生しやすい。そのため、片面に塗工層を形成する場合は、反対面にカール防止剤としてバックコート層を設けることが一般である。カールが発生するとニス層も追従して変形するため、ニス層に歪みが生じ光沢が低下してしまう。
【0034】
カール防止のためのバックコート層としては、顔料や澱粉、PVA、PEG等が用いられ、その中でも澱粉は安価で取り扱いが容易であり、離解性を阻害することがないため、本発明においてより好ましい。ただし澱粉は耐水性が悪いため、耐水化剤を含有させることが好ましく、一般的に耐水化剤として、例えばホルムアルデヒド、グリオキザール、ジアルデヒド澱粉、環状尿素−グリオキザール反応物、アクリルアミド−グリオキザール反応物共重合体、尿素−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、ポリアミドポリ尿素樹脂、グリセリンジグリシジルエーテル、ポリアミド−エポキシ樹脂、炭酸ジルコニウムアンモン、硫酸亜鉛等が適宜使用できる。なお、耐水化剤の配合が0.05重量%未満の場合には、塗被層の耐水性が低下する虞れがあり、一方3重量%を越えると効果が飽和し、かつコストアップとなるので好ましくない。
【0035】
バックコート層を設ける塗工方式は特に限定されず、例えばエアーナイフコーター、ロッドブレードコーター、ビルブレードコーター、ロールコーター、カーテンコーターなど各種コーターを備えたオフマシン塗工機やオンマシン塗工機が適宜選択され、塗工量は固形分で1〜12g/m2程度で塗工される。
【0036】
6) 本発明に用いられる原紙は、広葉樹晒クラフトパルプ、針葉樹晒クラフトパルプ等の化学パルプ、GP、RGP、TMP等の機械パルプを原料として用い公知の長網多筒型抄紙機、長網ヤンキー型抄紙機、丸網抄紙機等で抄紙される上質紙、中質紙、ヤンキー紙及びクラフト紙等の酸性紙、中質紙、アルカリ性紙を包含するものである。原紙中には紙力増強剤、サイズ剤、填料、歩留向上剤等の抄紙補助薬品が含まれる。
【0037】
本発明に使用される原紙としては、好適には坪量30〜80g/m2のものが用いられ、さらに高平滑・高光沢性を有するヤンキー紙であることが好ましい。またヤンキー紙はヤンキー型ドライヤーに押し付け乾燥するため寸法安定性に優れ、印刷・ニス引き後に熱乾燥を行った場合でも収縮が少なく、均一なニス層が得られ強光沢性・耐摩耗性が得られる。
【0038】
本発明の原紙上に設けられる塗工組成物は、顔料および接着剤を主成分として構成されるが、顔料は特に重要な役割を果たす。すなわち、印刷に用いられる溶剤系インキおよびその上に塗布されるオーバープリントニスの塗工層内部への浸透を極力抑制し、塗工層表面に保持させることが、本発明の所望する強光沢、耐摩擦性、耐折り割れ性を得る重要な要件であるため、塗工層内で顔料相互が緻密な構造となるよう微粒カオリン(A)と、重質炭酸カルシウム(B)を、重量比で(A):(B)=60:40〜80:20の範囲で使用する。好ましくは、65:35〜75:25である。
【0039】
一方、本発明ではカオリンと重質炭酸カルシウム以外に他の顔料を併用することができ、顔料の種類としては特に限定されず、軽質炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、サチンホワイト、二酸化チタン、プラスチックピグメント等の通常の無機、または有機顔料を挙げることができ、必要に応じて適宜使用できるが、配合量は上述のごとく、緻密な塗工層の形成の妨げとならない程度、すなわち、全顔料の5重量%以下に限定することが好ましい。
【0040】
次に、本発明において、接着剤として天然系および/または合成系の接着剤を全顔料100重量部に対し固形分対比で10〜20重量部含有させることが好ましい。天然系では、エステル化澱粉、酸化澱粉等が使用可能であり、合成系では、スチレン−ブタジエン系、スチレン−アクリル系、酢酸ビニル系、ポリビニルアルコール等の共重合体が使用可能である。配合量が10重量部未満では十分な強度が得られずロール汚れ等の操業トラブル、白抜け等の印刷トラブルが発生する。また樹脂によるニスの目止め性も低くなり、光沢、耐摩耗性が得られない。20重量部を超えるとバインダーマイグレーションが発生しやすく光沢度の低下が起きる。好ましくは12〜18重量部である。
【0041】
合成系接着剤として平均粒子径50〜150nm、かつゲル含有量が65重量%以上、ガラス転移温度(Tg)が−5〜5℃の、スチレン−ブタジエン系共重合体ラテックスを塗工層の全顔料100重量部に対し、固形分対比で5〜16重量部含有させることが好ましい。平均粒子径が50nm未満では印刷時に塗工層へのインキ浸透度が低下し、インキ乾燥性が悪くなるため、インキ層とニス層の接着性が低下し印刷割れが発生しやすくなる。150nmを超えると塗料粘度が高くなるため操業性が低下する。好ましくは60〜140nmである。ゲル含有量が65重量%未満では、ニスにより塗工層の再溶解が発生し光沢度、耐摩耗性が低下する。好ましくは65〜95重量%、より好ましくは70〜92重量%である。Tgが−5℃より低いと光沢が低下する問題が発生し、5℃より高いと塗工層が固く、グラビア印刷適性の低下、折り割れが発生しやすい問題がある。好ましくは−4〜4℃である。また、被膜性が悪くニス浸透にムラが生じ光沢ムラ、耐摩耗性低下が生じる。前記スチレン−ブタジエン系共重合体ラテックスの配合量としては、5〜16重量部が好ましい。
【0042】
なお、塗工組成物には必要に応じて、分散剤、耐水化剤、消泡剤、潤滑剤、着色剤及び防腐剤等の補助薬品を任意に配合して公知の調製法により塗料とすることができる。
【0043】
塗工設備としては、ロールコーター、ブレードコーター、エアーナイフコーター、バーコーター等、公知の設備により塗工することができるが、本発明では、塗工層表面が平坦となり、均一なニス層を形成することができるようブレードコーターを用いることが好ましい。
【0044】
このようにして塗工された塗工紙は、公知の乾燥機で乾燥された後、そのまま印刷を施し、ニス引きを行ってもかなり高い光沢が得られるが、効果を一層発揮させる目的で、印刷の前に、スーパーカレンダーのような表面の仕上げ設備で平滑化処理が施される。
【0045】
本発明のニス引き用塗工紙に対しては、印刷が施されて印刷面が形成されるが、
塗工層の目止め性が高いため、インキセット性が悪くオフセット印刷には適さない。本発明においては、印刷毎に乾燥機が設置されているグラビア印刷が好ましい印刷方法である。グラビア印刷におけるインキおよび印刷条件(印圧・速度等)に何等制限はない。
【0046】
印刷後、光沢、耐摩耗性を得るためニス引きが行われることによって、印刷面の上にオーバープリントニス塗布層が形成される。
【0047】
オーバープリントニスには熱硬化型ニス、紫外線硬化型ニス等の多くの公知のニスが本発明の強光沢印刷物に使用できる。しかしながら、このようなオーバープリントニスの種類は余りに広範に亘るため、以下、現在オーバープリントニス引き用として、広く用いられている紫外線硬化型ニスを例に説明する。紫外線硬化型ニスは熱硬化型ニスに比べ粘度が低く、紙への浸透性が高いため、本発明における効果が顕著に現れる。
【0048】
紫外線硬化型ニスとしては、ラジカル重合性不飽和二重結合性を有するモノマーもしくはプレポリマーの1種以上と増感剤を必須成分とし、この必須成分に樹脂着色剤、ワックス等種々の添加物を必要に応じて配合してなるものである。
【0049】
上記のラジカル重合性不飽和二重結合性を有するモノマーとしては、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のアルコールに(メタ)アクリル酸をエステル化させたもの、フタル酸、マレイン酸、イソシアヌル酸等にアリルアルコールをエステル化させたもの、もしくはグリシジル(メタ)アクリレートをエステル化せしめたもの等が例示される。
【0050】
また、プレポリマーとしては、エポキシ樹脂に(メタ)アクリル酸をエステル化させたもの、水酸基含有樹脂に(メタ)アクリル酸をエステル化させたもの、水酸基含有アルキド、ポリエステル樹脂もしくはアクリル樹脂と(メタ)アクリル酸−ポリオールエステル化物とをジイソシアネート化合物で架橋させたもの等が例示される。
【0051】
さらに、増感剤としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、2−アリルベンゾイン、2−クロルベンゾイン等のベンゾイン系増感剤、ベンゾフェノン、p−メチルベンゾイン、ミヒラーズケトン、アセトフェノン等のケトン系増感剤、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系増感剤、アントラキノン、2−クロルアントラキノン、フェナントレン等のキノン系増感剤、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のスルフィド系増感剤、並びに上記の各増感剤を適宜組み合わせて使用することができる。なお、上記の増感剤の配合量は、一般に樹脂液全固形分の0.1〜2.5重量%程度で調整される。
【0052】
これらの紫外線硬化型ニスは、一般に公知の有機溶剤を添加することにより、所望の粘度に調整することができる。また、有機溶剤の代わりに水、あるいは水と有機溶剤の混合物等も適宜使用することができる。
【0053】
また、紫外線照射としては、通常の水銀ランプおよびメタルハライドランプの高圧、中圧または低圧のものを用い、その種類、大きさ、数等は紫外線硬化型ニス等の硬化速度等により、適宜調節される。従って、種々の用途に合わせて各々の成分構成からなる紫外線硬化型ニスを適宜選択して使用することができる。紫外線硬化型ニスの塗布方法は、一般にはオフセット印刷機やロールコーター、グラビアコーター、フレキソコーター、スクリーンコーター等で塗布することができる。これらの塗布装置は印刷機に直結、または印刷機と分離された形でシートまたは巻取り紙加工用として設置されており、いずれの場合も本発明で使用可能である。また、その場合のニス塗被量はとくに限定するものではないが、本発明では絶乾重量で0.3〜10g/m2の範囲で塗布されるのが一般的であり、0.3g/m2未満の場合には、本発明が所望する強光沢が得られ難く、他方、10g/m2を超えると耐折り割れ性の劣化が懸念される。
【0054】
本発明のニス引き用塗工紙は、オーバープリントニス塗布層が形成された後において、ニス塗布層表面の光沢値(入射光束/反射光束=75゜/75゜の鏡面光沢度値)が90%以上という非常に高レベルの光沢を達成するものである。好ましくは91%以上であり、より好ましくは92%以上である。
【0055】
上記構成によって得られたニス引き用塗工紙は、印刷インキおよびオーバープリントニスの塗工層内部への浸透を抑制し、表面に保持することにより高い光沢、耐摩擦性、耐折り割れ性を得ることを可能にした。かつ、フィルムを貼合したラミネート紙の欠点である回収、再利用を可能にしたこれまでにない強光沢印刷物を提供できる。
【実施例】
【0056】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0057】
比較例7においては、市販されている印刷用の一般塗工紙をニス引き塗工紙として使用した場合の適正について評価した。尚、塗工層の塗工量、密度は、一般塗工紙の塗工層を、A4サイズ10枚分について、両刃カミソリにてこそぎ落とし、推定量として算出し検証した。
【0058】
本実施例及び比較例で用いた基紙及び塗料は次の通りである。
(基紙)
フリーネスが500ccの広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)100%に、硫酸バンド、紙力増強剤、サイズ剤を内添し、水で希釈した後、ヤンキードライヤー抄紙機で抄紙し、坪量50g/m2の基紙を抄造した。
(塗工液の調製)
顔料としてカオリン(商品名:カオファイン、シール社製、平均粒子径:0.25μm、アスペクト比:10)70部と、重質炭酸カルシウム(商品名:カービタル97、イメリスミネラルズジャパン社製、平均粒子径:0.4μm)30部、分散剤(商品名:アロンT−540、東亜合成社製)0.1部を加え、コーレス分散機を用いて水分散して顔料スラリーを調製した。この顔料スラリーに、接着剤として、リン酸エステル化澱粉(商品名:PN700S、三和澱粉工業社製)3.0部、スチレンーブタジエン系共重合体ラテックス(商品名:R1395、旭化成ケミカルズ社製)12部を添加、攪拌し、さらに水を加えて、固形分濃度が60%の塗工液を調製した。
(塗工紙の形成)
得られた塗工液を上記の基紙の片面に乾燥質量で15g/m2となるようにブレードコータを用いて塗工し、バックコート層として、澱粉と耐水化剤との混合水性塗工液を固形分で2.0g/m2、バーコーターで塗布し乾燥後、更に、表面温度が180℃である金属ロールからなるソフトカレンダーを用いて線圧60kN/mにて平滑化処理を行い、坪量が65g/m2の塗工紙を製造した。
(印刷、ニス引き)
次に、この塗工紙にGP2印刷機を用いて印刷(インキ;東洋インキ社製OG16NA)し、24時間経過後に印刷表面にアクリル系紫外線硬化型ニス(商品名:精華ビームK−4085、大日精華製)を主成分とするイソプロピルアルコール溶液を同様にGP2印刷機を用いて塗布した後、直ちに紫外線を照射して、強光沢印刷物を得た。この時の塗布量は、絶乾重量で2g/m2であった。
【0059】
以上が実施例1である。表1に記載の数値にしたがって実施例1を改変して実施例2〜18および比較例1〜5を実施した。尚、各実施例のバックコート層は、実施例1と同じ条件で設けた。以上により製造した塗工紙、および強光沢印刷物に関して、以下の基準にしたがって測定及び評価を行った。また、比較例6として市販品ラミネートの評価結果もあわせて示した。結果を表1に示す。
【0060】
(1)塗工紙の塗工面平滑度、および光沢度
得られた塗工紙についてJIS P 8119に規定されるベック平滑度を測定した。また、村上色彩技術研究所製光沢度計により、JIS P 8142に規定される入射光束/反射光束=75゜/75゜の鏡面光沢度を測定した。
【0061】
(2)強光沢印刷物の印刷面光沢度
得られた強光沢印刷物について村上色彩技術研究所製光沢度計により、JISP8142に規定される入射光束/反射光束=75゜/75゜の鏡面光沢度を測定した。
【0062】
(3)耐摩擦性(耐こすれ)
強光沢印刷物の印刷部分と塗工紙の表面とを摩擦試験機を用いて50g/cm2の荷重をかけて20回擦り合わせたのちの印刷面と白紙面の傷および汚れ具合いを以下の基準により判定した。
◎:全く傷や汚れが見られない
○:傷や汚れが目立たないレベルで実用上問題ない
△:傷や汚れがはっきり確認できる
×:傷や汚れが著しい
【0063】
(4)耐折り割れ性
強光沢印刷物の印刷面を外側にして折り、重さ2Kgの金属ロールを転がすことにより折り目を付けて、折り目の部分を以下の基準により判定した。
◎:全く折り目の塗工層が割れていない
○:部分的に塗工層が割れているが実用上問題ない
△:塗工層の割れが目立ち、実用に耐えない
×:折り割れが著しく実用に耐えない
【0064】
(5)再離解性
熊谷理機工業製パルプ離解機(JIS P8209に準ずる)を用いて行った。1cm四方に断裁した塗工紙、強光沢印刷物のサンプルを絶乾重量24gとり、2000gの水(20℃)とともに離解機の容器に入れて、プロペラを回転させて再離解を行った。次いで、上記の再離解後のパルプスラリーを0.6%に希釈し、脱墨剤として花王製DI−610をパルプに対し絶乾重量で0.3%添加し、共伸産業製モデルフローテーターFW−1K型を使用して、温度20℃にて約15分脱墨処理を行った。脱墨処理後のパルプスラリーを用いて手抄きシートを作成し、以下の基準により再離解性を判定した。
◎:再離解性が良い
○:再離解に時間がかかるが、実用上使用可能なレベルである
△:離解可能であるが、実用上問題がある
×:再離解しない
【0065】
(6)収縮
紙端を紙の流れ方向と幅方向に合わせた、10cm四方の試験片を用意し、各片の収縮率を下記式にて求め、平均値を算出した。
収縮率ε:初期長さをL1とし、ニス引き30分間後の長さをL2としたとき
ε=[(L1−L2)/L1]×100
【0066】
(7)塗工流動性
ブレード塗工した際に発生した2800m2当たりのストリーク数より、塗工液の流動性を判定した。
◎:0〜1個 流動性が良い
○:2〜3個 流動性が悪くなく、実用上問題ないレベルである。
×:4個以上 流動性が悪く、実用上問題がある
【0067】
(8)体積平均粒子径
塗工組成物に含有する顔料のメタノール分散溶液をレーザー粒径分布測定装置(レーザー方式のマイクロトラック粒径分析計、日機装(株)製)にて測定した。
【0068】
【表1】

【0069】
表1の結果より、実施例1〜18では、塗工紙に印刷とニス引き加工を行った強光沢印刷物は、優れた強光沢を有し、かつ耐摩擦性および耐折り割れ性が優れ、さらに再離解性も良好で、古紙として回収利用が可能である。また、塗工層を形成する際に使用する塗工液の流動性も良好であり、製造工程においても優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原紙上に顔料と接着剤を主成分とする塗工組成物を塗工、乾燥して塗工層を設けることによって製造され、印刷等の情報を付与したのち、ニス引きを行い光沢化仕上げされるために使用されるニス引き用塗工紙において、
平滑化処理後の塗工層密度が1.5〜3.0g/cm3になるように、前記塗工層は平滑化処理が行われたものであり、
前記塗工層が、絶乾重量で10〜20g/m2となるよう設けられ、
前記塗工層の塗工面における、JIS P 8119に規定する平滑度が3,000秒以上、JIS P 8142に規定する光沢度が75%以上であることを特徴とする、ニス引き用塗工紙。
【請求項2】
前記塗工層に含有させる前記顔料として、体積平均粒径0.10〜0.40μm、アスペクト比が7〜13の微粒カオリン(A)と、体積平均粒径0.20〜0.60μmの重質炭酸カルシウム(B)を用い、微粒カオリン(A)と、重質炭酸カルシウム(B)が、重量比で(A):(B)=60:40〜80:20の範囲で含有される、請求項1記載のニス引き用塗工紙。
【請求項3】
前記原紙として、ヤンキー紙を用いる、請求項1または2に記載のニス引き用塗工紙。

【公開番号】特開2009−185405(P2009−185405A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−25371(P2008−25371)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】