説明

ニッケルコバルト複合水酸化物およびその製造方法、ならびに該複合水酸化物を用いて得られる非水系電解質二次電池用正極活物質

【課題】充填密度を向上させて電池の更なる高エネルギー密度化を図ることができる非水系電解質二次電池正極活物質の前駆体として、好適な粒径が大きく高密度で略球状のニッケルコバルト複合水酸化物を提供する。
【解決手段】反応溶液を撹拌しながら、ニッケル塩及びコバルト塩を含む混合水溶液(a)と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液(b)とを供給するとともに、苛性アルカリ水溶液(c)を供給して反応させ、晶析したニッケルコバルト複合水酸化物粒子を固液分離し、水洗し、乾燥することにより、ニッケルコバルト複合水酸化物を得る際に、
水平面に対して45度以下の傾斜を持つ撹拌翼を用いて反応溶液を撹拌するとともに、該混合水溶液(a)の供給口当たりの反応溶液量に対する供給量の割合を0.04体積%/分以下とすることを特徴とするニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法など。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケルコバルト複合水酸化物およびその製造方法、ならびに該複合水酸化物を用いて得られる非水系電解質二次電池用正極活物質に関し、さらに詳しくは、非水系電解質二次電池用正極活物質として好適なリチウムニッケル複合酸化物の前駆体として用いられ、大粒径で粒度の均一性が高いニッケルコバルト複合水酸化物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子技術の進歩に伴い、電子機器の小型化、軽量化が急速に進んでいる。特に、最近の携帯電話やノートパソコンなどのポータブル電子機器の普及と高機能化により、これらに使用されるポータブル用電源として、高いエネルギー密度を有し、小型で、かつ軽量な電池の開発が強く望まれている。
非水系電解質二次電池は、小型で高いエネルギーを有することから、ポータブル電子機器の電源としてすでに利用されている。また、かかる用途に限られず、非水系電解質二次電池について、ハイブリッド自動車や電気自動車などの大型電源としての利用を目指した研究開発も進められている。
【0003】
非水系電解質二次電池、特に、リチウムイオン2次電池用の正極活物質として適用できる正極材料として、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)、コバルトよりも安価なマンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn)や、ニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)を挙げることができる。
上記リチウムニッケル複合酸化物は、現在主流のリチウムコバルト複合酸化物と比べて、高容量であって、原料であるニッケルがコバルトと比べて安価で、かつ、安定して入手可能であるといった利点を有していることから、次世代の正極材料として期待され、リチウムニッケル複合酸化物について、活発に研究および開発が続けられている。
さらに、近年は、ポータブル機器の付加価値が大きくなるにしたがって電池に要求される性能は高まる一方であり、限られた体積の中に正極活物質をできるだけ多く詰め込み、より高いエネルギー密度を持つ電池が要求されるようになってきた。
【0004】
電池の電極として成型した際に充填密度を上げるには、正極活物質の粒径を大きくすることが一つの有効な方法である。リチウムコバルト複合酸化物のように、高い焼成温度で合成することによって一つ一つの粒子(一次粒子)を大きくすることができるものは充填密度を上げやすいが、リチウムニッケル複合酸化物は、焼成温度が850℃以下と低いために、一次粒子を大きくできず、充填密度を上げにくい。
そこで、細かい一次粒子が多数集合して略球状の二次粒子を形成した活物質とすることで、充填密度を維持することが行われている(例えば、特許文献1参照。)。一方で、リチウムニッケル複合酸化物の粉体特性は、基本的に、原料に用いるニッケル化合物の粉体特性に大きく影響される。したがって、原料ニッケル化合物の粉体特性を制御すること、すなわち、粒径を大きくすることが、リチウムニッケル複合酸化物の充填密度の向上に重要である。
また、特許文献2には、化学式:NiM1M2(О)(OH)(ただし、上記式中、M1はFe、Co、Mg、Zn及びCuから成る群から選択される1つ以上であり、M2はMn、Al、B、Ca及びCrから成る群から選択される1つ以上であり、b≦0.8、c≦0.5、d≦0.5、0.1≦x≦0.8、1.2≦y≦1.9、x+y=2である)で表され、平均粒径が2〜30μmであり、(D90−D10)/D50(ただし、Dは粉末粒子の粒径を示す)で示される規格化粒径分布幅が1.2未満である化合物が開示され、高タップ密度を有し、高性能なリチウム混合金属酸化物の合成に使用できるとしている。
しかしながら、開示されている製造方法は、上記化合物を部分酸化するものであり、化合物を共沈させる工程そのものは、従来技術と大差ない。したがって、得られる化合物の粒度分布は、必ずしも狭いとは言えないものとなっている。
【0005】
また、特許文献3には、球状の粒子からなり、平均粒径が0.1〜30μm、平均粒径の0.7〜1.3倍に80重量%以上の粒子が存在する粒度分布を有する水酸化ニッケル粉末が開示されている。
しかしながら、得られる水酸化ニッケルの粒度分布は、比較的狭いものの、その製造方法は、ゲル化させたエマルジョンを乾燥するものであり、得られる水酸化ニッケルの結晶が未発達で結晶性が低く、リチウムニッケル複合酸化物の前駆体としては、必ずしも、好適なものとは言い難い。
【0006】
一方、微粒子の発生を抑制して充填密度を改善するため、中和晶析法における製造条件を検討する試みも行われている。例えば、特許文献4には、ニッケル−アンモニウム錯体を含有するニッケル塩水溶液とアルカリ水溶液とを連続的に反応槽に供給し、攪拌しつつこれらを反応させて球状高密度水酸化ニッケルを製造する方法として、反応槽の攪拌動力が1m当り0.1〜0.5KWであり、かつ剪断力を小さくし反応液が均一に槽全体を循環する如き攪拌翼を用いることが開示され、具体的な攪拌翼としての軸流型傾斜パドル2段翼が例示されている。
しかしながら、得られる水酸化ニッケルの平均粒径は、最大でも12μm程度であり、大粒径水酸化ニッケルの製造に適応できるものではない。
以上のように、従来の合成方法では、平均粒径で15μm以上に大粒径化されたリチウムニッケル複合酸化物の前駆体として、好適な水酸化ニッケルを得ることが難しく、非水系電解質二次電池用正極活物質の更なる高充填性を実現するのが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−30693号公報
【特許文献2】特表2009−515799号公報
【特許文献3】特開2006−151795号公報
【特許文献4】特開2003−2665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、従来技術の問題点に鑑み、充填密度を向上させて電池の更なる高エネルギー密度化を図ることのできる非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法を提供することにある。
さらに、本発明の他の目的は、正極活物質の前駆体として好適な粒径が大きく高結晶性で略球状のニッケルコバルト複合水酸化物について、量産性を犠牲にすることなく、その工業的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために、非水系電解質二次電池用正極活物質の前駆体として用いられるニッケルコバルト複合水酸化物について、鋭意検討を重ねた結果、ニッケルコバルト複合水酸化物が得られる中和晶析法において、(i)中和晶析における反応溶液の撹拌を特定条件で行うとともに、(ii)原料となるニッケル塩及びコバルト塩を含む水溶液の供給量を、反応溶液に対して、特定の割合に制御することにより、粒径が大きく高結晶性で略球状の前記正極活物質の前駆体として好適なニッケルコバルト複合水酸化物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、一般式:Ni1−x−yCo(OH)(0.05≦x≦0.95、0≦y≦0.15、x+y≦0.95、Mは、添加元素であって、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、MoまたはWから選択される1種以上の元素である。)で表されるニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法であって、
反応溶液を撹拌しながら、ニッケル塩及びコバルト塩を含む混合水溶液(a)と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液(b)とを供給するとともに、苛性アルカリ水溶液(c)を供給して反応させ、晶析したニッケルコバルト複合水酸化物粒子を固液分離し、水洗し、乾燥することにより、ニッケルコバルト複合水酸化物を得る際に、
水平面に対して45度以下の傾斜を持つ撹拌翼を用いて反応溶液を撹拌するとともに、該混合水溶液(a)の供給口当たりの反応溶液量に対する供給量の割合を0.04体積%/分以下とすることを特徴とするニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法が提供される。
【0011】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記攪拌翼を用いて反応溶液を攪拌する際に、下記式1で求められる翼周速度を1〜5m/秒の範囲とすることを特徴とするニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法が提供される。
式1:翼周速度(m/秒)=π×翼径(m)×回転数(rpm)÷60
さらに、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、前記混合水溶液(a)と苛性アルカリ水溶液(c)とを反応溶液中に設けた供給口から供給することを特徴とするニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法が提供される。
【0012】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、前記混合水溶液(a)の供給を3ヶ所以上に分岐させた供給口から行うことを特徴とするニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明において、前記反応溶液のpHを11.0〜13.0、温度を20〜70℃、及びアンモニウムイオン濃度を5〜20g/Lの範囲に保持することを特徴とするニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法が提供される。
【0013】
本発明の第6の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明において、前記混合水溶液(a)とアンモニウムイオン供給体を含む水溶液(b)とをそれぞれ連続的に供給し、反応槽からニッケルコバルト複合水酸化物粒子を含む反応溶液を連続的にオーバーフローさせて、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子を回収することを特徴とするニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法が提供される。
また、本発明の第7の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明において、前記混合水溶液(a)とアンモニウムイオン供給体を含む水溶液(b)とをそれぞれ連続的に供給するとともに、反応槽内のオーバーフロー付近の上昇流を50mm/秒以下として、成長したニッケルコバルト複合水酸化物粒子を沈降させ、反応槽底部より、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子を回収することを特徴とするニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第8の発明によれば、第7の発明において、前記翼周速度を1〜3m/秒とすることを特徴とするニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法が提供される。
【0014】
本発明の第9の発明によれば、第1〜8のいずれかの発明において、前記ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の表面を、添加元素Mの水酸化物で被覆することを特徴とするニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法が提供される。
また、本発明の第10の発明によれば、第1〜9のいずれかの発明において、前記ニッケル塩及びコバルト塩は、硫酸塩、硝酸塩または塩化物から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とするニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第11の発明によれば、第1〜10のいずれかの発明において、前記アンモニウムイオン供給体は、アンモニア、硫酸アンモニウムまたは塩化アンモニウムから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とするニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法が提供される。
【0015】
一方、本発明の第12の発明によれば、第1〜11のいずれかの発明に係る製造方法から得られ、一般式:Ni1−x−yCo(OH)(0.05≦x≦0.95、0≦y≦0.15、x+y≦0.95、Mは、添加元素であって、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、MoまたはWから選択される1種以上の元素である。)で表される粒子からなり、該粒子が略球状で平均粒径15〜50μmであることを特徴とするニッケルコバルト複合水酸化物が提供される。
さらに、本発明の第13の発明によれば、第12の発明において、粒度分布幅の指標[(d90−d10)/平均粒径]が1.2以下であることを特徴とするニッケルコバルト複合水酸化物が提供される。
【0016】
また、本発明の第14の発明によれば、第12又は13の発明に係るニッケルコバルト複合水酸化物とリチウム化合物とを混合して焼成することによって得られ、一般式:LiNi1−x−yCo(0.05≦x≦0.95、0≦y≦0.15、x+y≦0.95、Mは、添加元素であって、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、MoまたはWから選択される1種以上の元素である。)で表されるリチウムニッケルコバルト複合酸化物粒子からなり、該粒子が略球状で平均粒径15〜50μmであることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質が提供される。
さらに、本発明の第15の発明によれば、第14の発明において、粒度分布幅の指標〔(d90−d10)/平均粒径〕が1.2以下であることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、非水系電解質二次電池用正極活物質の前駆体として好適な、粒径が大きく高密度で略球状のニッケルコバルト複合水酸化物を提供することができる。また、その製造方法は、量産性を犠牲にすることのない優れたものである。
さらに、本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質は、充填密度が高く電池の更なる高エネルギー密度化を図ることのできるものであり、工業的価値が極めて大きい。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.ニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法
本発明のニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法は、一般式:Ni1−x−yCo(OH)(0.05≦x≦0.95、0≦y≦0.15、x+y≦0.95、Mは、添加元素であって、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、MoまたはWから選択される1種以上の元素である。)で表されるニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法であって、
反応溶液を撹拌しながら、ニッケル塩及びコバルト塩を含む混合水溶液(a)と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液(b)とを供給するとともに、苛性アルカリ水溶液(c)を供給して反応させ、晶析したニッケルコバルト複合水酸化物粒子を固液分離し、水洗し、乾燥することにより、ニッケルコバルト複合水酸化物を得る際に、
水平面に対して45度以下の傾斜を持つ撹拌翼を用いて反応溶液を撹拌するとともに、該混合水溶液(a)の供給口当たりの反応溶液量に対する供給量の割合を0.04体積%/分以下とすることを特徴とする。
【0019】
ここで、(i)反応溶液を撹拌する撹拌翼の角度と(ii)前記混合水溶液(a)の供給量の反応溶液量に対する割合が、粒径が大きく高結晶性で略球状のニッケルコバルト複合水酸化物を得るために、重要な意義を持つ。
【0020】
粒径が大きい粒子を得るためには、反応系で新たな核生成を抑制する必要がある。
すなわち、金属塩の中和晶析による金属水酸化物粒子の生成においては、初期にモノマーとして、供給された金属塩が中和されて核が生成され、引き続いて供給されたモノマーによって核が成長することにより、金属水酸化物粒子が得られる。しかしながら、モノマー供給源である前記混合水溶液(a)の反応溶液中での拡散が不十分であると、瞬間的にニッケル及びコバルトの濃度が極端に高い領域が形成され、これが新たな核生成の原因となる。また、苛性アルカリ水溶液(c)の拡散が不十分であると、瞬間的に極端にpHの高い領域が形成され、新たな核生成を誘発する。核が生成すると、その後の粒子の成長が極めて遅くなり、粒径が大きい粒子を定常的に得ることが困難となる。
【0021】
したがって、生成した核を成長させて、粒径が大きく結晶性に優れ略球状のニッケルコバルト複合水酸化物を得るためには、反応溶液に供給される混合水溶液(a)や苛性アルカリ水溶液(c)は、できるだけ早く拡散させることが必要である。
【0022】
本発明のニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法においては、(i)水平面に対して45度以下の傾斜を持つ撹拌翼を用いて反応溶液を撹拌することにより、撹拌による上下方向の吐出流が希釈速度を上げて、拡散を速くすることができ、上記混合水溶液(a)および苛性アルカリ水溶液(c)の供給部において、極端に混合水溶液(a)に含まれる金属塩濃度の高い領域および高pHの領域の生成を抑制することが可能となる。
【0023】
一方、撹拌翼の傾斜が45度より大きい場合、撹拌力そのものは強くなるが、撹拌翼の剪断力が大きくなるとともに、反応槽内壁面方向(水平方向)の流速が大きくなる。粒子が成長する過程では、単一粒子が成長する以外にも、特に大粒径粒子においては、複数の粒子が凝集し、その凝集体が一つの粒子となり、大粒径粒子に成長する。この成長過程の場合、凝集した粒子に大きな力が加わると凝集がほぐれ、粒径が大きい粒子に成長することが困難となる。
したがって、撹拌翼の傾斜が45度より大きい場合には、剪断力または生成粒子の反応槽内壁面への衝突により、凝集粒子が破壊されるため、ニッケルコバルト水酸化物粒子が成長しない。
【0024】
ニッケルコバルト水酸化物粒子に加わる衝撃を緩和する観点から、上記撹拌翼の傾斜角は、小さいほうが好ましいが、一方、上記理由から、十分撹拌力が必要である。
したがって、該撹拌翼の傾斜角は15度以上とすることが好ましく、30度以上とすることがより好ましい。一方、該傾斜角が15度未満になると、十分な吐出流が得られず、拡散が不十分となることがある。
【0025】
撹拌翼の回転方向により、吐出流は、押し下げ方向あるいは引き上げ方向のいずれかになるが、いずれの場合でも、十分な撹拌力が得られれば、吐出流の方向は、いずれの方向でもよい。
また、翼周速度が大きくなると、粒子に最も力が加わる攪拌翼外周部における上記剪断力が増加するため、粒子成長が妨げられる。
したがって、下記式1で求められる翼周速度を1〜5m/秒の範囲とすることが好ましい。
式1:翼周速度(m/秒)=π×翼径(m)×回転数(rpm)÷60
【0026】
上記翼周速度を1〜5m/秒とすることにより、粒子の凝集を破壊せず、反応溶液中での混合溶液の十分な拡散が得られる。一方、翼周速度が1m/sより小さい場合、十分に混合溶液を拡散させることができないことがある。また、翼周速度が5m/秒より大きくなると、上記のように、剪断力が増加するため、粒子成長が妨げられることがある。
【0027】
また、(ii)前記混合水溶液(a)の供給量の反応溶液量に対する割合について、前記混合水溶液(a)の供給速度が高過ぎると、十分な吐出流が得られた場合であっても、相対的な拡散能力が低下して、希釈速度が低下するため、上記金属塩の高濃度領域および高pH領域を十分に抑制することが困難となる。
したがって、前記混合水溶液(a)の供給速度、すなわち、前記混合水溶液(a)の供給口当たりの反応溶液量に対する供給量の割合を体積比で0.04%/分以下にすることにより、十分な希釈速度を確保することが可能となる。一方、供給速度がこれより大きくなると、十分な希釈速度を確保できず、核発生を誘発してしまう。なお、生産性を考慮すると、前記反応溶液量に対する供給量の割合の下限は、体積比で0.01%/分程度とすることが好ましい。
【0028】
上記供給量の割合を制限した場合、供給量が制限されて、粒子の成長速度も制限されることになるため、生産性をさらに高めるためには、複数の供給口から、前記混合水溶液(a)を供給することにより、前記供給量の割合を制御しながら、反応系全体としての供給量を確保することが有効である。この場合、前記混合水溶液(a)の供給を3ヶ所以上に分岐させた供給口から行うことが好ましい。これにより、同一の生産性の場合であっても、さらに拡散速度を上げて、十分な粒径を持った粒子を得ることが可能となる。一方、供給口が2ヶ所以下では、十分な生産性が得られない場合がある。
【0029】
さらに、供給された前記混合水溶液(a)や苛性アルカリ水溶液(c)の反応溶液中における拡散速度を高めるためには、反応溶液中に設けた供給口から、上記水溶液を供給することが有効であり、好ましい。前記混合水溶液(a)や苛性アルカリ水溶液(c)を液面上部より滴下させると、液滴が瞬間的に極端な上記高濃度領域あるいは高pH領域を形成し、これが核生成の原因となることがある。
上記水溶液(a)、(c)を反応溶液中に設けた供給口から供給することにより、液滴による上記領域の形成を防止して、新たな核生成を抑制できる。
【0030】
以下、本発明のニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法を、詳細に説明する。
本発明の製造方法においては、ニッケル塩及びコバルト塩を含む混合水溶液(a)は、ニッケル及びコバルトの供給源である。また、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液(b)は、錯形成剤として、生成するニッケルコバルト水酸化物粒子の粒径と形状を制御する役割を担う。しかも、アンモニウムイオンは、生成するニッケルコバルト水酸化物粒子内に取り込まれないので、高純度のニッケルコバルト水酸化物粒子を得るために、好ましい錯形成剤である。また、苛性アルカリ水溶液(c)は、中和反応のpH調整剤である。
上記混合水溶液(a)中のニッケル及びコバルト等の金属塩濃度は、特に限定されるものではないが、0.5〜2.2mol/Lとすることが好ましい。0.5mol/L未満では、各工程における液量が多くなり過ぎ、生産性が低下するため好ましくない。一方、2.2mol/Lを超えると、気温が低下した場合に、混合水溶液(a)中で金属塩が再結晶化して配管等を詰まらせるおそれがある。
【0031】
上記製造方法において、反応溶液のpHを11.0〜13.0に保持することが好ましく、11.5〜12.5に保持することがより好ましい。反応溶液のpHが11を下回ると、反応系内での初期の核生成が抑制され、粒子数が少なくなり過ぎ、モノマーの供給量に対して、粒子の成長によるモノマー消費量が小さくなり過ぎて、供給されるモノマーのほとんどが核生成に消費されることとなる。その結果、Cycling現象と言われる核の異常発生が起こり、槽内の粒子の粒径は、ほとんど成長しなくなり、粒径の大きな粒子は、得られないおそれがある。一方、pHが13を超えると、定常的に多くの核が生成し、系内の粒子数が増加して粒径が大きく成長しないことがある。
【0032】
また、反応溶液の温度は、20〜70℃に保持することが好ましく、40〜70℃に保持することがより好ましい。反応溶液の温度が20℃未満の場合、ニッケルの溶解度が低いため、微粒子が発生しやすい。また、季節変動による影響を無くすには、チラー等を導入する必要があり、設備コストが高くなるため、工業的に好ましくない。一方、70℃を超えると、アンモニアの揮発が激しくなり、反応系内のアンモニウムイオン濃度の制御が困難になることがある。
【0033】
さらに、反応溶液中のアンモニウムイオン濃度は、5〜20g/Lに保持することが好ましく、10〜15g/Lに保持することがより好ましい。アンモニウムイオン濃度が5g/L未満の場合、ニッケルの溶解度が低いため、微粒子が発生しやすく、粒径が小さくなるおそれがある。また、粒子が成長する際も、粒子内部までモノマーが供給されず粒子表面で析出反応が起きることから、低密度の水酸化物粒子しか得られず、それを原料として得られる正極材料も、また低密度となり、体積あたりのエネルギー密度が低下するおそれがある。一方、アンモニウムイオン濃度が20g/Lを超えると、液中に残留するニッケル濃度が高くなり、組成のずれやニッケルロス増加によるコスト増加につながるため、好ましくない。
【0034】
上記ニッケル塩及びコバルト塩などの金属塩は、硫酸塩、硝酸塩または塩化物の少なくとも1種であることが好ましく、ハロゲンによる汚染のない硫酸塩がより好ましい。例えば、硫酸コバルト、硫酸ニッケルが好ましく用いられる。また、混合水溶液(a)を調整する際に、金属塩は、混合水溶液中に存在する金属イオンの原子数比で目的とする複合水酸化物中の金属元素の原子数比と一致するように、調整される。
【0035】
上記アンモニウムイオン供給体を含む水溶液(b)は、特に限定されるものではないが、アンモニア水、硫酸アンモニウム又は塩化アンモニウムの水溶液が好ましく、ハロゲンによる汚染のないアンモニア水、硫酸アンモニウム水溶液がより好ましい。また、アンモニウムイオン供給体の濃度は、特に限定されるものではなく、各工程におけるアンモニウムイオンの濃度が維持可能な範囲で調整すればよい。
【0036】
上記苛性アルカリ水溶液(c)は、特に限定されるものではなく、例えば、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物水溶液を用いることができる。アルカリ金属水酸化物の場合、pH値制御の容易さから、水溶液として各工程の反応系に添加することが好ましい。
【0037】
本発明のニッケルコバルト複合水酸化物においては、上記添加元素Mとして、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、MoまたはWから選択される1種以上の元素を添加することができる。M元素は、前記混合水溶液(a)中に、M元素の化合物として、添加することができる。該M元素化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば、硫酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸バリウム、硝酸ストロンチウム、硫酸チタン、ペルオキソチタン酸アンモニウム、シュウ酸チタンカリウム、硫酸バナジウム、バナジン酸アンモニウム、硫酸クロム、クロム酸カリウム、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、シュウ酸ニオブ、モリブデン酸アンモニウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸アンモニウム等を用いることができる。
【0038】
上記M元素化合物を前記混合水溶液(a)中に添加する場合、混合水溶液(a)の濃度および供給量は、上記条件に維持される。また、M元素の添加量は、混合水溶液(a)中に存在する金属イオンの原子数比で目的とする複合水酸化物中の金属元素の原子数比と一致するように調整される。
一方、M元素は、必ずしも混合水溶液(a)中に添加して、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子と共沈させる必要はなく、たとえば、ニッケルとコバルトを共沈させ、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子を得て、その後、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の表面に、M元素の水酸化物あるいは酸化物等の化合物を、湿式中和法により析出させてもよい。さらに、複数の種類のM元素を添加する場合、上記添加方法を組み合わせることにより、目的とするニッケルコバルト複合水酸化物を得てもよい。
【0039】
上記製造方法においては、特に限定されるものではないが、前記混合水溶液(a)とアンモニウムイオン供給体を含む水溶液(b)とをそれぞれ定量的に連続的に供給して、苛性アルカリ水溶液(c)は、添加量を調整して供給することによって、該反応溶液の反応液を所定のpHに保持しながら反応を行い、反応槽からニッケルコバルト複合水酸化物粒子を含む反応溶液を、連続的にオーバーフローさせて、ニッケルコバルト複合水酸化物粒を回収する方法が好ましい。
したがって、上記製造方法において用いられる反応槽は、特に限定されるものではないが、撹拌機、オーバーフロー口、及び温度制御手段を備える容器を用いることが好ましい。
【0040】
また、本発明の製造方法においては、別の態様として、前記混合水溶液(a)とアンモニウムイオン供給体を含む水溶液(b)とをそれぞれ連続的に供給するとともに、反応槽内のオーバーフロー付近の上昇流を50mm/秒以下として、成長したニッケルコバルト複合水酸化物粒子を沈降させ、反応槽底部より、該複合水酸化物粒子を回収することができる。
反応槽内のオーバーフロー付近の上昇流を50mm/秒以下とすることにより、反応液の液成分のみをオーバーフローによって排出させるとともに、該オーバーフローによって生じる粒子の系外への流出を抑制して、十分に粒子成長させ、大粒径に成長した粒子を反応槽底部に沈降させることができる。粒子成長して沈降した粒子を反応槽底部から、連続的もしくは間欠的に系外に抜き取ることで、大粒径の粒子を回収することができる。反応槽底部からの回収では、成長が不十分な微粒子は回収されず、粒子成長した大粒径が優先して回収されるため、好ましい。
【0041】
上記上昇流は、上記撹拌翼の傾斜角と翼周速度で制御することができる。十分な撹拌力が得られる範囲で、傾斜角を小さく、翼周速度を低くすればよい。翼周速度は、1〜3m/秒とすることが好ましい。
反応槽底部より該複合水酸化物粒子を回収する場合においても、上記オーバーフローにより回収する場合と同様の装置を用いることができるが、反応槽底部に、排出孔を有するなど反応槽底部からの粒子回収を容易にできる機構を持つ装置が好ましい。
【0042】
以上の製造方法によって、錯形成剤やハロゲン等の混入がない非水系電解質二次電池用正極活物質の前駆体として、好適な組成を有する大粒径で高結晶性であり、略球状のニッケルコバルト複合水酸化物が得られる。
【0043】
2.ニッケルコバルト複合水酸化物
本発明のニッケルコバルト複合水酸化物は、上記製造方法によって得られるものであって、一般式:Ni1−x−yCo(OH)(0.05≦x≦0.95、0≦y≦0.15、x+y≦0.95、Mは、添加元素であって、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、MoまたはWから選択される1種以上の元素である。)で表される粒子からなり、該粒子が略球状で平均粒径15〜50μm、より好ましくは25〜45μmであることを特徴とする。
【0044】
上記一般式において、ニッケルとコバルトの割合を示すxは、0.05〜0.95であり、0.1〜0.9が好ましく、0.1〜0.3がより好ましい。すなわち、xが0.95を超えると、Coの割合が多いため、原料コストが増加する。一方、xが0.05未満であると、本発明のニッケルコバルト複合水酸化物を用いた正極活物質の熱安定性や充放電サイクル特性が悪化する。
【0045】
上記ニッケルコバルト複合水酸化物においては、熱安定性と出力特性をさらに改善するために、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、MoまたはWから選択される1種以上の添加元素であるMを、上記一般式におけるyとして、0.15以下添加することができる。yが0.15を超えると、ニッケルと置換されるMの量が多くなり過ぎ、得られる正極活物質の電池容量が低下する。
【0046】
本発明のニッケルコバルト複合水酸化物は、略球状であり、その平均粒径が15〜50μm、より好ましくは25〜45μmである。ニッケルコバルト複合水酸化物の形骸は、非水系電解質二次電池用正極活物質まで維持されるため、略球状で平均粒径15〜50μmとすることにより、本発明のニッケルコバルト複合水酸化物を用いて得られた非水系電解質二次電池用正極活物質の充填密度を高くすることができる。ここで、略球状とは、表面に微細な凹凸を有する真球状、楕円回転体形状を含むものであるが、高充填密度を達成するためには、可能な限り真球状に近似させることが好ましい。
【0047】
さらに、上記ニッケルコバルト複合水酸化物は、粒度分布幅の指標[(d90−d10)/平均粒径]が1.2以下であることが好ましく、1.16以下であることがより好ましい。通常、粒径の大きい上記複合水酸化物を得ようとした場合、大粒径まで粒子成長している間に核発生も生じるため、粒径の小さな粒子(微粒子)が混入し、そのため、10μm程度の通常の粒径を有する粒子より、粒度分布の幅が広くなる。本発明の複合水酸化物は、平均粒径が15μm以上、より好ましくは25μm以上という大粒径でもあるにもかかわらず、平均粒径が15μm未満の複合水酸化物と同等以上に分布幅が狭く、良好な粒度分布を有している。[(d90−d10)/平均粒径]が1.2を超える場合、上記複合水酸化物を用いて得られる正極活物質中の微粒子が多くなり過ぎることがある。上記[(d90−d10)/平均粒径]は、良好な粒度分布を有する観点から、可能な限り小さな値であることが好ましいが、本発明の複合水酸化物における下限は、0.5程度である。
また、微粒子が混入した場合、d10が相対的に小さくなるため、平均粒径に対するd10の比[d10/平均粒径]が小さくなる。したがって、[d10/平均粒径]は、0.4以上であることが好ましく、0.45以上であることがより好ましい。[d10/平均粒径]が0.4未満の場合、上記複合水酸化物を用いて得られる正極活物質中の微粒子が多くなり過ぎることがある。[d10/平均粒径]は、微粒子混入の減少という観点から、可能な限り大きな値であることが好ましいが、本発明の複合水酸化物における上限は、0.7程度である。
これにより、該複合水酸化物を用いて得られる非水系電解質二次電池用正極活物質を微粒子が少なく粒度分布の良好なものとすることができ、その特性を良好なものとすることができる。
なお、粒度分布の広がりを示す指標[(d90−d10)/平均粒径]において、d10は、各粒径における粒子数を粒径の小さい側から累積し、その累積体積が全粒子の合計体積の10%となる粒径を意味している。また、d90は、同様に粒子数を累積し、その累積体積が全粒子の合計体積の90%となる粒径を意味している。
平均粒径や、d90、d10を求める方法は、特に限定されないが、たとえば、レーザー光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。平均粒径としてd50を用いる場合には、d90と同様に、累積体積が全粒子体積の50%となる粒径を用いればよい。
【0048】
また、上記複合水酸化物は、X線回折により求められる(101)面の半価幅が0.8°以下であることが好ましく、0.3〜0.7°であることがより好ましい。上記複合水酸化物は、上記粒子成長により得られるため、高結晶性であり、該半価幅が上記範囲となることで、通常の温度範囲で焼成して得られる正極活物質の結晶性が良好なものとなる。
【0049】
3.非水系電解質二次電池用正極活物質
上記ニッケルコバルト複合水酸化物を、公知技術により、リチウム(Li)化合物と複合水酸化物中の金属元素の合計(Me)の原子比(Li/Me)が0.95〜1.10となるように、リチウム化合物と、混合して、650〜800℃で焼成することにより、本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質を得ることができる。また、上記複合水酸化物を300〜800℃で酸化焙焼した後、リチウム化合物と混合してもよい。
本発明の正極活物質は、上記複合水酸化物の形骸を残すため、略球状で平均粒径15〜50μm、より好ましくは25〜45μmであり、一般式:LiNi1−x−yCo(0.05≦x≦0.95、0≦y≦0.15、x+y≦0.95、Mは、添加元素であって、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、MoまたはWから選択される1種以上の元素である。)で表されるリチウムニッケルコバルト複合酸化物粒子からなり、充填密度が高く、電池の更なる高エネルギー密度化を図ることができ、非水系電解質二次電池用として好適なものとなる。
【0050】
さらに、上記正極活物質は、粒度分布幅の指標[(d90−d10)/平均粒径]が1.2以下であることが好ましく、1.15以下であることがより好ましい。
上記複合水酸化物において含まれる微粒子が焼成時に大粒径粒子と焼結するため、正極活物質の粒度分布は、その原料である複合水酸化物より改善する傾向にあるものと考えられる。
上記[(d90−d10)/平均粒径]が1.2を超える場合、正極活物質中の微粒子が多くなり、電池を構成した場合に該微粒子が選択的に劣化して、サイクル特性などが悪化することがある。上記[(d90−d10)/平均粒径]は、良好な粒度分布を有する観点から、可能な限り小さな値であることが好ましいが、本発明の正極活物質における下限は、0.4程度である。
【0051】
また、上記複合水酸化物と同様に、微粒子が混入した場合には、[d10/平均粒径]が小さくなる。したがって、[d10/平均粒径]は、0.45以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましい。[d10/平均粒径]が0.45未満の場合、正極活物質中の微粒子が多くなり、サイクル特性などが悪化することがある。[d10/平均粒径]は、微粒子混入の減少という観点から、可能な限り大きな値であることが好ましいが、本発明の正極活物質における上限は、0.7程度である。
粒度分布を上記範囲とすることにより、非水系電解質二次電池用正極活物質の充填密度をさらに高めることができるとともに、微粒子混入による電池特性の劣化を防止すことができる。
【0052】
また、上記正極活物質は、X線回折により求められる(003)面の半価幅が0.09°以下であることが好ましく、0.05〜0.085°であることがより好ましい。該半価幅が上記範囲となることで、上記正極活物質の結晶性が良好なものとなり、該正極活物質を用いて構成された電池は、優れた充放電容量、熱安定性などの特性を示すものとなる。
【実施例】
【0053】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いたニッケルコバルト水酸化物および非水系電解質二次電池用正極活物質の評価方法は、以下の通りである。
【0054】
(1)金属成分の分析:
ICP発光分析装置(VARIAN社、725ES)を用いて、ICP発光分析法により分析した。
(2)アンモニウムイオン濃度の分析:
JIS標準による蒸留法によって測定した。
(3)平均粒径の測定および粒度分布幅の評価:
レーザー回折式粒度分布計(日機装株式会社製、マイクロトラックHRA)を用いて、平均粒径の測定および粒度分布幅の評価を行った。
(4)形態の観察評価:
走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM−6360LA、以下、SEMと記載)を用いて、形状と外観の観察評価を行った。
【0055】
[実施例1]
邪魔板を4枚取り付けた槽容積34lのオーバーフロー式晶析反応槽に、工業用水32l、25質量%アンモニア水を1300ml投入して、恒温槽及び加温ジャケットにて50℃に加温し、24質量%苛性ソーダ溶液を添加して、上記槽内の反応溶液のpHを10.9〜11.1に調整した。このpHは、50℃におけるpHであるため、pH管理を正確に行うため、反応溶液を採取し25℃に冷却してpHを測定し、25℃でのpHが11.7〜11.9になるように、50℃でのpHを調整した。
次に、50℃に保持した反応溶液を攪拌しつつ、定量ポンプを用いて、ニッケル濃度1.69mol/L、コバルト濃度0.31mol/Lの硫酸ニッケルと硫酸コバルトの混合水溶液(金属元素モル比で、Ni:Co=0.82:0.15、以下、混合水溶液と記載する。)を30ml/分で、併せて25質量%アンモニア水を2.5ml/分で連続的に供給するとともに、24質量%苛性ソーダ溶液を添加して、25℃でのpHが11.7〜11.9、アンモニウムイオン濃度を5〜15g/Lとなるように制御して、晶析反応を行った。
【0056】
この際の攪拌は、直径10cmで水平面に対して傾斜角30度の3枚羽根プロペラ翼を用いて、800rpm、4.2m/sの翼周速度で水平に回転させることにより、行った。また、混合水溶液の反応系内への供給方法としては、反応溶液中に供給口となる注入ノズルを差込み、混合水溶液が反応溶液中に直接供給されるようにして行った。更に、注入ノズルの先端を3ヶ所に分岐させ、混合水溶液が反応溶液内の異なる箇所に供給した。この時、各注入ノズルからの混合水溶液供給量は、10ml/分であり、反応溶液量に対する供給量の割合は、体積比で0.029%/分となる。
晶析反応によって生成したニッケルコバルト複合水酸化物粒子を、オーバーフローにて連続的に取り出した。反応が安定した反応開始から48〜72時間にかけて取り出された上記粒子を適宜固液分離し、水洗し、乾燥して、粉末状のニッケルコバルト複合水酸化物を得た。
得られたニッケルコバルト複合水酸化物の平均粒径は、28.6μmであり、粒度分布幅の指標[(d90−d10)/平均粒径]は、0.97であり、[d10/平均粒径]は0.55であった。また、上記粒子をSEMにて観察したところ、略球状の粒子であり、該断面も同様に観察したところ、緻密な結晶からなる粒子であることが確認された。
また、X線回折測定装置(パナリティカル社製、X‘Pert PRO)により、複合水酸化物をCu−Kα線による粉末X線回折で分析したところ、X線回折チャートより求めた(101)面半価幅が0.44°であり、良好な結晶性を有することが確認された。
【0057】
[実施例2]
攪拌に直径10cmで水平面に対して傾斜角45度の6枚羽根傾斜パドル翼を用いた以外は、実施例1と同様にして、ニッケルコバルト複合水酸化物を得た。
得られたニッケルコバルト複合水酸化物の平均粒径は、27.3μmであり、粒度分布幅の指標[(d90−d10)/平均粒径]は、0.97であり、[d10/平均粒径]は0.56であった。上記粒子をSEMにて観察したところ、略球状の粒子であり、該断面も同様に観察したところ、緻密な結晶からなる粒子であることが確認された。
また、粉末X線回折で分析したところ、X線回折チャートより求めた(101)面半価幅が0.46°であり、良好な結晶性を有することが確認された。
【0058】
[実施例3]
混合水溶液の供給を、注入ノズルの先端を4ヶ所分岐させて、各注入ノズルからの混合水溶液の供給量を7.5ml/分とし、反応溶液量に対する供給量の割合を体積比で0.022%/分とした以外は、実施例1と同様にして、ニッケルコバルト複合水酸化物得た。
得られたニッケルコバルト複合水酸化物の平均粒径は、28.5μmであり、粒度分布幅の指標[(d90−d10)/平均粒径]は、1.06であり、[d10/平均粒径]は0.54であった。また、上記粒子をSEMにて観察したところ、略球状の粒子であり、該断面も同様に観察したところ、緻密な結晶からなる粒子であることが確認された。
【0059】
[実施例4]
混合水溶液の供給を、注入ノズルの先端を5ヶ所に分岐させて、各注入ノズルからの混合水溶液の供給量を6ml/分とし、反応溶液量に対する供給量の割合を体積比で0.018%/分とした以外は、実施例1と同様にして、ニッケルコバルト複合水酸化物を得た。
得られたニッケルコバルト複合水酸化物の平均粒径は、29.1μmであり、粒度分布幅の指標[(d90−d10)/平均粒径]は、1.16であり、[d10/平均粒径]は0.46であった。また、上記粒子をSEMにて観察したところ、略球状の粒子であり、該断面も同様に観察したところ、緻密な結晶からなる粒子であることが確認された。
【0060】
[実施例5]
撹拌翼の回転数を600rpm、翼周速度3.1m/秒で攪拌した以外は、実施例1と同様にして、ニッケルコバルト複合水酸化物を得た。
得られたニッケルコバルト複合水酸化物の平均粒径は、35.8μmであり、粒度分布幅の指標[(d90−d10)/平均粒径]は、1.13であり、[d10/平均粒径]は0.47であった。また、上記粒子をSEMにて観察したところ、略球状の粒子であり、該断面も同様に観察したところ、緻密な結晶からなる粒子であることが確認された。
【0061】
[実施例6]
撹拌翼の回転数を400rpm、翼周速度2.1m/秒で攪拌し、反応槽内のオーバーフロー付近の上昇流を40mm/秒に制御したこと、反応槽底部の排出口から間欠的に反応溶液とともに抜き出して沈降した粒子を回収したこと以外は、実施例1と同様にして、ニッケルコバルト複合水酸化物を得た。
得られたニッケルコバルト複合水酸化物の平均粒径は、42.4μmであり、粒度分布幅の指標[(d90−d10)/平均粒径]は、1.12であり、[d10/平均粒径]は0.56であった。また、上記粒子をSEMにて観察したところ、略球状の粒子であり、該断面も同様に観察したところ、緻密な結晶からなる粒子であることが確認された。
【0062】
[比較例1]
攪拌に直径10cmで水平面に対して傾斜角90度の6枚羽根パドル翼を用いた以外は、実施例1と同様にして、ニッケルコバルト複合水酸化物を得た。
得られたニッケルコバルト複合水酸化物の平均粒径は、12.4μmであった。
【0063】
[比較例2]
攪拌に直径10cmで水平面に対して傾斜角90度の6枚羽根タービン翼を用いた以外は、実施例1と同様にして、ニッケルコバルト複合水酸化物を得た。
得られたニッケルコバルト複合水酸化物の平均粒径は、11.7μmであった。
【0064】
[比較例3]
混合水溶液の供給を、注入ノズルの先端を2ヶ所に分岐させて、各注入ノズルからの混合水溶液の供給量を15ml/分とし、反応溶液量に対する供給量の割合を体積比で0.044%/分とした以外は、実施例1と同様にして、ニッケルコバルト複合水酸化物を得た。
得られたニッケルコバルト複合水酸化物の平均粒径は、13.4μmであった。
【0065】
[比較例4]
混合水溶液の供給を、注入ノズルの先端を分岐させず1ヶ所として、注入口ノズルからの混合水溶液の供給量を30ml/分とし、反応溶液量に対する供給量の割合を体積比で0.088%/分とした以外は、実施例1と同様にして、ニッケルコバルト複合水酸化物を得た。
得られたニッケルコバルト複合水酸化物の平均粒径は、10.3μmであった。
【0066】
実施例1〜6から、本発明により、平均粒径が15〜50μmで略球状で高密度のニッケルコバルト複合水酸化物が得られていることがわかる。
一方、水平面に対して45度より大きい傾斜を持つ撹拌翼を用いた比較例1および2、反応溶液量に対する供給量の割合が0.04体積%/分を超えた比較例3および4は、いずれも平均粒径が15μm未満であり、粒径の大きなニッケルコバルト複合水酸化物が得られないことがわかる。
【0067】
[実施例7]
実施例1で得られたニッケルコバルト複合水酸化物を水と混合してスラリーとし、この混合水溶液に、アルミン酸ナトリウムの水溶液および硫酸を撹拌しながら加えて、スラリーのpHをpH=9.5に調整した。
その後1時間撹拌を続けることにより、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子表面に水酸化アルミニウムの被覆を行った。このとき、アルミン酸ナトリウムの水溶液は、スラリー中の金属元素モル比が、Ni:Co:Al=0.82:0.15:0.03となるように加えた。
上記水酸化アルミニウム被覆後の複合水酸化物を、空気(酸素濃度:21容量%)気流中にて、温度700℃で6時間の熱処理を行い、複合酸化物を得た。
リチウム(Li)と複合酸化物中の金属元素の合計(Me)の原子比がLi/Me=1.02となるように、水酸化リチウムを秤量して、前記複合酸化物と混合することにより、リチウム混合物を得た。混合は、シェーカーミキサー装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製TURBULA TypeT2C)を用いて行った。
得られたこのリチウム混合物を酸素気流中(酸素濃度:100容量%)にて500℃で4時間仮焼した後、760℃で12時間焼成し、冷却した後に解砕して正極活物質を得た。
得られた正極活物質の平均粒径は、24.8μmであり、粒度分布幅の指標[(d90−d10)/平均粒径]は、0.97であり、[d10/平均粒径]は0.64であった。また、上記粒子をSEMにて観察したところ、略球状の粒子であった。
また、X線回折測定装置(パナリティカル社製、X‘Pert PRO)により、正極活物質をCu−Kα線による粉末X線回折で分析したところ、六方晶系の層状結晶のリチウムニッケルコバルト複合酸化物単相で、X線回折チャートより求めた(003)面半価幅が0.077°であり、良好な結晶性を有することが確認された。
【0068】
[実施例8]
実施例3で得られたニッケルコバルト複合水酸化物を用いた以外は、実施例7と同様にして、正極活物質を得るとともに評価した。
得られた正極活物質の平均粒径は、25.1μmであり、粒度分布幅の指標[(d90−d10)/平均粒径]は、1.01であり、[d10/平均粒径]は0.62であった。また、粒子は、略球状であり、六方晶系の層状結晶のリチウムニッケルコバルト複合酸化物単相で、(003)面半価幅が0.081°であり、良好な結晶性を有することが確認された。
【0069】
[実施例9]
実施例5で得られたニッケルコバルト複合水酸化物を用いた以外は、実施例7と同様にして、正極活物質を得るとともに評価した。
得られた正極活物質の平均粒径は、30.1μmであり、粒度分布幅の指標[(d90−d10)/平均粒径]は、1.01であり、[d10/平均粒径]は0.55であった。また、粒子は、略球状であり、六方晶系の層状結晶のリチウムニッケルコバルト複合酸化物単相で、(003)面半価幅が0.072°であり、良好な結晶性を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法は、非水系電解質二次電池用正極活物質の前駆体として好適な、粒径が大きく高密度、且つ、高結晶性で略球状のニッケルコバルト複合水酸化物を提供することができ、量産性を犠牲にすることのない優れたものである。そのため、産業上の利用可能性は、高く、その工業的価値は、大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:Ni1−x−yCo(OH)(0.05≦x≦0.95、0≦y≦0.15、x+y≦0.95、Mは、添加元素であって、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、MoまたはWから選択される1種以上の元素である。)で表されるニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法であって、
反応溶液を撹拌しながら、ニッケル塩及びコバルト塩を含む混合水溶液(a)と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液(b)とを供給するとともに、苛性アルカリ水溶液(c)を供給して反応させ、晶析したニッケルコバルト複合水酸化物粒子を固液分離し、水洗し、乾燥することにより、ニッケルコバルト複合水酸化物を得る際に、
水平面に対して45度以下の傾斜を持つ撹拌翼を用いて反応溶液を撹拌するとともに、該混合水溶液(a)の供給口当たりの反応溶液量に対する供給量の割合を0.04体積%/分以下とすることを特徴とするニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記攪拌翼を用いて反応溶液を攪拌する際に、下記式1で求められる翼周速度を1〜5m/秒の範囲とすることを特徴とする請求項1に記載のニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法。
式1:翼周速度(m/秒)=π×翼径(m)×回転数(rpm)÷60
【請求項3】
前記混合水溶液(a)と苛性アルカリ水溶液(c)とを反応溶液中に設けた供給口から供給することを特徴とする請求項1又は2に記載のニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記混合水溶液(a)の供給を3ヶ所以上に分岐させた供給口から行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法。
【請求項5】
前記反応溶液のpHを11.0〜13.0、温度を20〜70℃、及びアンモニウムイオン濃度を5〜20g/Lの範囲に保持することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法。
【請求項6】
前記混合水溶液(a)とアンモニウムイオン供給体を含む水溶液(b)とをそれぞれ連続的に供給し、反応槽からニッケルコバルト複合水酸化物粒子を含む反応溶液を連続的にオーバーフローさせて、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子を回収することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法。
【請求項7】
前記混合水溶液(a)とアンモニウムイオン供給体を含む水溶液(b)とをそれぞれ連続的に供給するとともに、反応槽内のオーバーフロー付近の上昇流を50mm/秒以下として、成長したニッケルコバルト複合水酸化物粒子を沈降させ、反応槽底部より、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子を回収することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法。
【請求項8】
前記翼周速度を1〜3m/秒とすることを特徴とする請求項7に記載のニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法。
【請求項9】
前記ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の表面を、添加元素Mの水酸化物で被覆することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法。
【請求項10】
前記ニッケル塩及びコバルト塩は、硫酸塩、硝酸塩または塩化物から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法。
【請求項11】
前記アンモニウムイオン供給体は、アンモニア、硫酸アンモニウムまたは塩化アンモニウムから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の製造方法から得られ、一般式:Ni1−x−yCo(OH)(0.05≦x≦0.95、0≦y≦0.15、x+y≦0.95、Mは、添加元素であって、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、MoまたはWから選択される1種以上の元素である。)で表される粒子からなり、該粒子が略球状で平均粒径15〜50μmであることを特徴とするニッケルコバルト複合水酸化物。
【請求項13】
粒度分布幅の指標[(d90−d10)/平均粒径]が1.2以下であることを特徴とする請求項12に記載のニッケルコバルト複合水酸化物。
【請求項14】
請求項12又は13に記載のニッケルコバルト複合水酸化物とリチウム化合物とを混合して焼成することによって得られ、一般式:LiNi1−x−yCo(0.05≦x≦0.95、0≦y≦0.15、x+y≦0.95、Mは、添加元素であって、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、MoまたはWから選択される1種以上の元素である。)で表されるリチウムニッケルコバルト複合酸化物粒子からなり、該粒子が略球状で平均粒径15〜50μmであることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項15】
粒度分布幅の指標〔(d90−d10)/平均粒径〕が1.2以下であることを特徴とする請求項14に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。

【公開番号】特開2011−201764(P2011−201764A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43878(P2011−43878)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】