説明

ニッケルナノ粒子の製造方法

【課題】液相反応による簡易な方法で50nm以下の粒径のニッケルナノ粒子を好適に得ることができるニッケルナノ粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】ニッケルナノ粒子の製造方法は、炭素数1〜3の直鎖カルボン酸ニッケルおよび1級アミンの混合物を加熱してニッケル錯体を生成させた錯化反応液を得る工程と、該錯化反応液にパラジウム塩、銀塩、白金塩および金塩からなる群より選択される1または2以上の金属塩を添加する工程と、前記金属塩が添加された錯化反応液をマイクロ波で加熱することによりニッケルナノ粒子を生成させる工程と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケルナノ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケルナノ粒子は、銀ナノ粒子等の貴金属ナノ粒子よりも安価で、貴金属ナノ粒子よりも化学的に安定であることから、触媒、磁性材料、積層セラミックコンデンサにおける電極等への利用が期待されている。従来、ニッケルナノ粒子は、固相反応または液相反応によって得られていた。固相反応としては、塩化ニッケルの化学気相蒸着やギ酸ニッケル塩の熱分解等が知られている。液相反応としては、塩化ニッケル等のニッケル塩を水素化ホウ素ナトリウム等の強力な還元剤で直接還元する方法、NaOH存在下ヒドラジン等の還元剤を添加して前駆体[Ni(HNNH]SO・2HOを形成した後に熱分解する方法、塩化ニッケル等のニッケル塩や有機配位子を含有するニッケル錯体を溶媒とともに圧力容器に入れて水熱合成する方法等が知られている。例えば、液相反応において還元剤を使用する方法として、ポリオール溶液に、還元剤、分散剤、およびニッケル塩を添加して混合溶液を製造する工程と、混合溶液を撹拌および加熱する工程と、混合溶液を反応させてニッケルナノ粒子を生成する工程と、を含むニッケルナノ粒子の製造方法が提案されている(特許文献1)。
【0003】
ニッケルナノ粒子を、上記した触媒、磁性材料、電極等の用途に好適に供するには、その粒径が例えば150nmを下回る程度に小さいこと、及び粒径を均一に制御すること、が必要である。
【0004】
しかし、固相反応のうち化学気相蒸着による方法の場合、粒子がサブミクロンからミクロンオーダーに肥大化する傾向がある。また、熱分解による方法の場合、反応温度が高いことから、粒子が凝集する傾向がある。また、これらの固相反応による製造方法は、液相反応による製造方法に比べてニッケルナノ粒子の製造コストが高価になりがちである。
【0005】
一方、液相反応のうち強力な還元剤を使用する方法の場合、即座にニッケルが還元されることから、所望の粒径の粒子を得るために反応を制御することが困難である。例えば、特許文献1では、還元剤として次亜リン酸ナトリウムを多量に使用しているため、還元反応が進みやすく、粒子の凝集が生じてしまい、粒径の制御が難しいと考えられる。また、ニッケルナノ粒子中に還元剤成分が不純物として残存すると、ニッケルナノ粒子の用途によっては製品の品質に影響を及ぼすことも考えられる。また、前駆体を経由させる方法の場合、前駆体がゲル状をなし、その後の還元反応が不均一となること、水熱合成の場合、反応温度が高いことから、いずれも凝集を避けることができない。
【0006】
ところで、触媒、導電性材料等の用途では、耐食性や耐酸化性等の高い化学的安定性を実現できる二元系金属ナノ粒子が期待されている。このような二元系金属ナノ粒子として、本発明者らによってCu−Ni合金について検討がなされている(非特許文献1、2)。非特許文献1の検討をさらに進めた非特許文献2によれば、Cu−Ni合金の製法は、ギ酸銅とギ酸ニッケルを、それぞれ別々にオレイルアミンと混合し、ギ酸銅の混合液については室温で、ギ酸ニッケルの混合液については393Kで加熱することで錯形成して前駆体を調製する。そして、これらの前駆体を1−オクタールに混合して、その後、マイクロ波で急速加熱することでナノ粒子を得るものである。銅とニッケルの酸化還元電位の違いから、異なる温度でそれぞれのイオンの還元および粒子生成が起きるため(Cu2+;433K、Ni2+;463K)、先に銅ナノ粒子が生成し、昇温するにつれて銅ナノ粒子を核としてその表面にニッケルのシェルが生成するものと考えられる。得られるナノ粒子は、粒子表面付近においてニッケル濃度が高いものであることが確認されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−024254号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】山内智央、塚原保徳、和田雄二、「マイクロ波加熱を用いたCu-Ni合金ナノ粒子の合成と磁気的性質」、日本化学会第89春季年会(2009年)予稿集、2D2-34
【非特許文献2】山内智央、塚原保徳、和田雄二、外1名、「マイクロ波を用いたCucore-Ni shellナノ粒子の合成と磁気的性質」、第3回日本電磁波エネルギー応用学会 シンポジウム予稿集、P190、2009年11月18日〜20日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ニッケルナノ粒子を、例えばインクジェット方式で吐出して用いる導電性ペーストに配合する場合、その粒径をさらに小さくすることが求められ、例えば粒径を50nm以下に制御することが好ましいと考えられる。しかし、液相反応において、還元剤を使用せずに、50nm以下の粒径に制御されたニッケルナノ粒子を生成させる簡易な手法はこれまで確立されていない。
【0010】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、液相反応による簡易な方法で、例えば50nm以下の粒径のニッケルナノ粒子を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るニッケルナノ粒子の製造方法は、炭素数1〜3の直鎖カルボン酸ニッケルおよび1級アミンの混合物を加熱してニッケル錯体を生成させた錯化反応液を得る工程と、該錯化反応液にパラジウム塩、銀塩、白金塩および金塩からなる群より選択される1または2以上の金属塩を添加する工程と、前記金属塩が添加された錯化反応液をマイクロ波で加熱することによりニッケルナノ粒子を生成させる工程と、を備えている。
【0012】
また、本発明に係るニッケルナノ粒子の製造方法は、前記直鎖カルボン酸ニッケルが、ギ酸ニッケルまたは酢酸ニッケルであることが好ましい。
【0013】
また、本発明に係るニッケルナノ粒子の製造方法は、前記金属塩を添加する工程において、前記カルボン酸ニッケル中に含まれる金属換算のニッケル100質量部に対して、前記金属塩を金属換算で0.01質量部以上添加することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るニッケルナノ粒子の製造方法は、ニッケル錯体を含む錯化反応液に特定の金属種を含む金属塩を添加した後、マイクロ波により加熱することにより、液相反応において簡易な方法で、50nm以下の粒径のニッケルナノ粒子を好適に得ることができる。得られるニッケルナノ粒子は例えばインクジェット方式で吐出して用いる導電性ペースト等の用途に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】各酢酸ニッケル錯体の構造を示す図であり、(a)は二座配位、(b)は単座配位、(c)は外圏にカルボン酸イオンが存在した状態を、それぞれ示す。
【図2】実施例1で得られたニッケルナノ粒子のSEM写真を示す図である。
【図3】実施例2で得られたニッケルナノ粒子のSEM写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について、以下に説明する。
【0017】
本実施の形態のニッケルナノ粒子の製造方法は、炭素数1〜3の直鎖カルボン酸ニッケル(カルボン酸のニッケル塩。以下、これを単に「カルボン酸ニッケル」ということがある)および1級アミンの混合物を加熱してニッケル錯体を生成させた錯化反応液を得る工程(錯化反応液形成工程)と、錯化反応液にパラジウム塩、銀塩、白金塩および金塩からなる群より選択される1または2以上の金属塩を添加する工程(金属塩添加工程)と、金属塩が添加された錯化反応液をマイクロ波で加熱することによりニッケルナノ粒子を生成させる工程(ニッケルナノ粒子生成工程)とを備えている。
【0018】
[錯化反応液形成工程]
本工程では、炭素数1〜3の直鎖カルボン酸ニッケルおよび1級アミンの混合物を加熱してニッケル錯体を生成させ、錯化反応液を得る。ここで、錯化反応液とは、カルボン酸ニッケルと1級アミンの反応によって生成する反応生成液(反応生成物)をいう。
【0019】
(カルボン酸ニッケル)
炭素数1〜3の直鎖カルボン酸ニッケルは、具体的には、ギ酸ニッケル、酢酸ニッケル又はプロピオン酸ニッケルである。これらのカルボン酸ニッケルは、無水物であってもよく、また水和物であってもよい。なお、カルボン酸ニッケルに代えて、塩化ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、炭酸ニッケル、水酸化ニッケル等の無機塩を用いることも考えられるが、無機塩の場合、解離(分解)が高温であるため、解離後のニッケルイオン(又はニッケル錯体)を還元する過程で更なる高い温度での加熱が必要となるため好ましくない。また、Ni(acac)(β−ジケトナト錯体)、ステアリン酸ニッケル等の有機配位子により構成されるニッケル塩を用いることも考えられるが、これらのニッケル塩を用いると、原料コストが高くなり好ましくない。
【0020】
(1級アミン)
1級アミンは、ニッケルイオンと錯体を形成することができ、ニッケル錯体(又はニッケルイオン)に対する還元能を効果的に発揮する。一方、2級アミンは立体障害が大きいため、ニッケル錯体の良好な形成を阻害するおそれがあり、3級アミンはニッケルイオンの還元能を有しないため、いずれも使用できない。
【0021】
1級アミンは、ニッケルイオンとの錯体を形成できるものであれば、特に限定するものではなく、常温で固体又は液体のものが使用できる。ここで、常温とは、20℃±15℃をいう。常温で液体の1級アミンは、ニッケル錯体を形成する際の有機溶媒としても機能する。なお、常温で固体の1級アミンであっても、100℃以上の加熱によって液体であるか、又は有機溶媒を用いて溶解するものであれば、特に問題はない。
【0022】
1級アミンは、分散剤としても機能し、ニッケル錯体を反応液中に良好に分散させることができるため、錯体形成後にニッケル錯体を加熱分解してニッケルナノ粒子を得る際の粒子同士の凝集を抑えることができる。1級アミンは、芳香族1級アミンであってもよいが、錯化反応液におけるニッケル錯体形成の容易性の観点からは脂肪族1級アミンが好適である。脂肪族1級アミンは、例えばその炭素鎖の長さを調整することによって生成するナノ粒子の粒径を制御することができ、特に平均粒径が50nm以下のニッケルナノ粒子を製造する場合において有利である。ニッケルナノ粒子の粒径を制御する観点から、脂肪族1級アミンは、その炭素数が6〜20程度のものから選択して用いることが好適である。炭素数が多いほど得られるナノ粒子の粒径が小さくなる。このようなアミンとして、例えばオクチルアミン、トリオクチルアミン、ジオクチルアミン、ヘキサデシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ミリスチルアミン、ラウリルアミン等を挙げることができる。例えばオレイルアミンは、ナノ粒子生成過程に於ける温度条件下において液体状態として存在するため均一溶液での反応を効率的に進行できる。
【0023】
1級アミンは、ナノ粒子の生成時に表面修飾剤として機能するため、1級アミンの除去後においても二次凝集を抑制できる。また、1級アミンは、還元反応後の生成したナノ粒子の固体成分と溶剤又は未反応の1級アミン等を分離する洗浄工程における処理操作の容易性の観点からも好ましい。更に、1級アミンは、ニッケル錯体を還元してニッケルナノ粒子を得るときの反応制御の容易性の観点からは還元温度より沸点が高いものが好ましい。すなわち、脂肪族1級アミンは、沸点が180℃以上のものが好ましく、200℃以上のものがより好ましい。また、脂肪族1級アミンは、炭素数が9以上であることが好ましい。ここで、例えば炭素数が9である脂肪族アミンのC21N(ノニルアミン)の沸点は201℃である。
【0024】
1級アミンの量は、カルボン酸ニッケル中に含まれる金属換算のニッケル1molに対して2mol以上用いることが好ましく、2.2mol以上用いることがより好ましく、4mol以上用いることが望ましい。1級アミンの量が2mol未満では、得られるニッケルナノ粒子の粒子径の制御が困難となり、粒子径がばらつきやすくなる。また、1級アミンの量の上限は特にはないが、例えば生産性の観点からはカルボン酸ニッケル中に含まれる金属換算のニッケル1molに対して20mol以下程度とすることが好ましい。2価のニッケルイオンは配位子置換活性種として知られており、形成する錯体の配位子は温度、濃度によって容易に配位子交換により錯形成が変化する可能性がある。例えばカルボン酸ニッケルおよび1級アミンの混合物を加熱して反応液を得る工程において、用いるアミンの炭素鎖長等の立体障害を考慮すると、例えば、図1に示すようなカルボン酸イオン(RCOO、RCOO)が二座配位(a)または単座配位(b)のいずれかで配位する可能性があり、さらにアミンの濃度が大過剰の場合は外圏にカルボン酸イオンが存在する構造(c)をとる可能性がある。目的とする反応温度(還元温度)において均一溶液とするには少なくともA、B、C、D、E、Fの配位子のうち少なくとも一箇所は1級アミンが配位している必要がある。その状態をとるには、1級アミンが過剰に反応溶液内に存在している必要があり、少なくともニッケルイオン1molに対し2mol以上存在していることが好ましく、2.2mol以上存在していることがより好ましく、4mol以上存在していることが望ましい。
【0025】
錯形成反応は室温においても進行させることができるが、反応を確実かつより効率的に行うために、100℃以上の温度で加熱を行う。この加熱は、カルボン酸ニッケルとして、例えば酢酸ニッケル4水和物のようなカルボン酸ニッケルの水和物を用いた場合に特に有利である。加熱温度は、好ましくは100℃を超える温度とし、より好ましくは105℃以上の温度とすることで、カルボン酸ニッケルに配位した配位水と1級アミンとの配位子置換反応が効率よく行われ、この錯体配位子としての水分子を解離させることができ、更にその水を系外に出すことができるので効率よく錯体を形成させることができる。例えば、酢酸ニッケル4水和物は、室温では2個の配位水と2座配位子である2個の酢酸イオン、外圏に2つの水分子が存在した錯体構造をとっているため、この2つの配位水と1級アミンの配位子置換により効率よく錯形成させるには、100℃より高い温度で加熱することでこの錯体配位子としての水分子を解離させることが好ましい。また、加熱温度は、後に続くニッケル錯体(又はニッケルイオン)のマイクロ波照射による加熱還元の過程と確実に分離し、前記の錯形成反応を完結させるという観点から、175℃以下が好ましい。従って、錯化反応液形成工程における加熱温度は105℃〜175℃の範囲内が好ましく、より好ましくは、125〜160℃の範囲内である。
【0026】
加熱時間は、加熱温度や、各原料の含有量に応じて適宜決定することができるが、錯形成反応を確実に完結させるという観点から、15分以上とすることが好ましい。加熱時間の上限は特にないが、長時間加熱することは、エネルギー消費及び工程時間を節約する観点から無駄である。なお、この加熱の方法は、特に制限されず、例えばオイルバスなどの熱媒体による加熱であっても、マイクロ波照射による加熱であってもよい。
【0027】
カルボン酸ニッケルと1級アミンとの錯形成反応は、カルボン酸ニッケルと1級アミンを混合して得られる溶液を加熱したときに、溶液の色の変化によって確認することができる。また、この錯形成反応は、例えば紫外・可視吸収スペクトル測定装置を用いて、300nm〜750nmの波長領域において観測される吸収スペクトルの吸収極大の波長を測定し、原料の極大吸収波長(例えば酢酸ニッケル四水和物ではその極大吸収波長は710nmである。)に対する錯化反応液のシフトを観測することによって確認することができる。
【0028】
カルボン酸ニッケルと1級アミンとの錯形成が行われた後、得られる錯化反応液を、後で説明するように、マイクロ波照射によって加熱することにより、ニッケル錯体のニッケルイオンが還元され、ニッケルイオンに配位しているカルボン酸イオンが同時に分解し、最終的に酸化数が0価のニッケルを含有するニッケルナノ粒子が生成する。一般にカルボン酸ニッケルは水を溶媒とする以外の条件では難溶性であり、マイクロ波照射による加熱還元反応の前段階として、カルボン酸ニッケルを含む溶液は均一反応溶液とする必要がある。これに対して、本実施の形態で使用される1級アミンは、使用温度条件で液体であり、かつそれがニッケルイオンに配位することで液化し、均一反応溶液を形成すると考えられる。
【0029】
(有機溶媒)
均一溶液での反応をより効率的に進行させるために、1級アミンとは別の有機溶媒を新たに添加してもよい。有機溶媒を用いる場合、有機溶媒をカルボン酸ニッケル及び1級アミンと同時に混合してもよいが、カルボン酸ニッケル及び1級アミンをまず混合し錯形成した後に有機溶媒を加えると、1級アミンが効率的にニッケルイオンに配位するので、より好ましい。使用できる有機溶媒としては、1級アミンとニッケルイオンとの錯形成を阻害しないものであれば、特に限定するものではなく、例えば炭素数4〜30のエーテル系有機溶媒、炭素数7〜30の飽和又は不飽和の炭化水素系有機溶媒、炭素数8〜18のアルコール系有機溶媒等を使用することができる。また、マイクロ波照射による加熱条件下でも使用を可能とする観点から、使用する有機溶媒は、沸点が170℃以上のものを選択することが好ましく、より好ましくは200〜300℃の範囲内にあるものを選択することがよい。このような有機溶媒の具体例としては、例えばテトラエチレングリコール、n−オクチルエーテル等が挙げられる。
【0030】
[金属塩添加工程]
本工程では、錯化反応液に、パラジウム塩、銀塩、白金塩および金塩からなる群より選択される1または2以上の金属塩を添加する。金属塩の添加によって、次のニッケルナノ粒子生成工程でニッケルナノ粒子の生成起点となる核を多量に生じさせることが可能になり、目的とするニッケルナノ粒子の粒子径を小さくすることができる。金属塩は、いずれも塩の種類を特に限定するものではない。塩を構成する酸(酸基)として、塩酸、硝酸、硫酸および酢酸を用いることは好適な実施の形態である。白金塩および金塩については、例えば塩化白金酸や塩化金酸を用いることも好適な実施の形態である。
【0031】
錯化反応液に加える金属塩の量は特に限定するものでないが、カルボン酸ニッケル中に含まれる金属換算のニッケル100質量部に対して金属塩を金属換算で0.01質量部以上加えると好適である。金属塩の量の上限は特にないが、例えば発明の効果とコストのバランス等を勘案して、カルボン酸ニッケル中に含まれる金属換算のニッケル100質量部に対して、金属塩の添加量を金属換算で10質量部以下に設定することが好ましい。別の観点から、カルボン酸ニッケル中に含まれる金属換算のニッケル100molに対して、金属塩を0.01mol以上10mol以下の範囲内で加えることが好ましい。
【0032】
[ニッケルナノ粒子生成工程]
本工程では、金属塩が添加された錯化反応液をマイクロ波で加熱することにより、ニッケル錯体(又はニッケルイオン)を金属ニッケルに還元してニッケルナノ粒子を生成させる。マイクロ波で錯化反応液を加熱することにより、マイクロ波が錯化反応液内に浸透するため、均一加熱が行われ、かつ、エネルギーを媒体に直接与えることができるため、急速加熱を行うことができる。これにより、錯化反応液全体を所望の均一な温度にすることができ、ニッケル錯体(又はニッケルイオン)の還元、核生成、核成長各々の過程を溶液全体において同時に生じさせ、粒径分布の狭い単分散な粒子を短時間で容易に製造することができる。このとき、錯化反応液中に添加された金属塩により、ニッケルとの酸化還元電位の違いによって、先にパラジウム、銀、白金又は金の金属微粒子が多数生成するため、これらを核として、その周囲に金属ニッケルが形成されることにより、50nm以下の粒径のニッケルナノ粒子の形成が容易になるものと考えられる。
【0033】
マイクロ波照射による加熱温度は、得られるナノ粒子の形状のばらつきを抑制するという観点から、180℃以上であることが好ましく、200℃以上がより好ましい。加熱温度の上限は特にないが、処理を効率的に行う観点からは例えば250℃以下程度とすることが好適である。加熱時間は特に限定するものではなく、例えば2〜10分程度とすることができる。なお、マイクロ波の使用波長は、特に限定するものではなく、例えば2.45GHzである。
【0034】
均一な粒径を有したニッケルナノ粒子を生成させるには、錯化反応液形成工程(ニッケル錯体の生成が行われる工程)でニッケル錯体を均一にかつ十分に生成させることと、ニッケルナノ粒子生成工程(マイクロ波照射によって加熱する工程)でニッケル錯体(又はニッケルイオン)の還元により生成するニッケル(0価)の核の同時発生・成長を行う必要がある。すなわち、錯化反応液形成工程の加熱温度を上記の特定の範囲内で調整し、ニッケルナノ粒子生成工程の加熱温度よりも確実に低くしておくことで、粒径・形状の整った粒子が生成し易い。例えば、錯化反応液形成工程で加熱温度が高すぎるとニッケル錯体の生成とニッケル(0価)への還元反応が同時に進行し、ニッケルナノ粒子生成工程での粒子形状の整った粒子の生成が困難となるおそれがある。また、ニッケルナノ粒子生成工程の加熱温度が低すぎるとニッケル(0価)への還元反応速度が遅くなり、添加した金属塩由来の核及びニッケル錯体由来の核の発生が少なくなるため粒子が大きくなるだけでなく、ニッケルナノ粒子の収率の点からも好ましくはない。
【0035】
マイクロ波照射による加熱で得られるニッケルナノ粒子のスラリー(ナノ粒子スラリー)は、例えば、静置分離し、上澄み液を取り除いた後、適当な溶媒を用いて洗浄し、乾燥することで、ニッケルナノ粒子が得られる。
【0036】
ニッケルナノ粒子生成工程においては、必要に応じ、錯化反応液に有機溶媒を加えてもよい。有機溶媒としては、上記錯化反応液生成工程と同様のものを使用できる。なお、前記したように、錯形成反応に使用する1級アミンを有機溶媒としてそのまま用いることが好ましい。
【0037】
本実施の形態のニッケルナノ粒子の製造方法は、上記工程以外に任意の工程を含むことができる。また、例えば後述するように表面修飾剤の添加などの任意の処理を行うことができる。なお、本実施の形態のニッケルナノ粒子の製造方法は、ニッケルナノ粒子生成工程においてマイクロ波加熱による還元方法を採用するため、例えば特許文献1のような多量の還元剤の使用は不要である。ただし、発明の効果を損なわない範囲で、錯形成反応液中に還元作用を有する物質が存在することを妨げるものではない。
【0038】
(表面修飾剤の添加)
本実施の形態に係るニッケルナノ粒子の製造方法において、ニッケルナノ粒子の粒径を制御すること、且つ、ニッケルナノ粒子の分散性を向上させることを目的として表面修飾剤を添加することができる。例えばポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド等の高分子樹脂、ミリスチン酸、オレイン酸等の長鎖カルボン酸又はカルボン酸塩等を添加することができる。但し、得られるニッケルナノ粒子の表面修飾量が多いと、例えばニッケル電極用の導電性ペーストに用いる場合、ニッケル粒子をペーストにして高温で焼成すると充填密度の減少を招き、層間剥離やクラックを生じる可能性がある。そのため、得られるナノ粒子を洗浄した後の表面修飾量は可能な限り少ない方が好ましい。従って、表面修飾剤の添加量は、金属換算のニッケル100質量部に対して0.1以上100質量部以下の範囲内とすることが好ましい。表面修飾剤は、錯化反応液形成工程におけるカルボン酸ニッケル及び1級アミンの混合物の段階で添加してもよく、錯化反応液形成工程で得られる錯化反応液に添加してもよいが、好ましくは、添加タイミングは錯化反応後か、ニッケルナノ粒子の生成後がよい。
【0039】
[ニッケルナノ粒子]
以上説明した本実施の形態に係るニッケルナノ粒子の製造方法により、平均粒径が50nm以下、好ましくは10〜45nmの範囲内、より好ましくは、20〜40nmの範囲内のニッケルナノ粒子を得ることができる。ここで、平均粒径は、SEM(走査電子顕微鏡)により粉末の写真を撮影して、そのなかから無作為に200個を抽出したものの面積平均粒径である。
【0040】
本実施の形態で得られるニッケルナノ粒子の形状は、例えば球状、擬球状、長球状、立方体様、切頭四面体様、双角錘状、正八面体様、正十面体様、正二十面体様等の種々の形状であってよいが、例えばニッケルナノ粒子を電子部品の電極に使用した場合の充填密度の向上という観点から、球状又は擬球状が好ましく、球状がより好ましい。ここで、ナノ粒子の形状は、走査電子顕微鏡(SEM)で観察することにより確認できる。このようなニッケルナノ粒子は、例えばインクジェット方式で吐出して用いる導電性ペーストや、高表面積の触媒、低融点を利用した金属バインダー、ブラックマトリックスなどの顔料等の用途に好適に用いることができる。そして、例えば積層セラミックコンデンサの内部電極をはじめ、電子部品の電極等の形成に利用できる。
【0041】
以上のように、本実施の形態に係るニッケルナノ粒子の製造方法によれば、液相反応において、多量の還元剤を使用することなく、簡易な方法で、50nm以下の粒径のニッケルナノ粒子を製造できる。
【実施例】
【0042】
次に、実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに説明するが、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。なお、ニッケルナノ粒子の粒径は、SEM(走査電子顕微鏡)によりニッケル粉末の写真を撮影して、その中から無作為に200個を抽出し、その平均粒径を求めた。また、Cv値(変動係数)は(標準偏差)÷(平均粒径)によって算出した。ニッケルナノ粒子の分散性は、トルエン溶媒とニッケルとの合計質量に対してニッケルが1質量%となるように、トルエン溶媒中にニッケルナノ粒子を投入した後、超音波で5分間分散させ、その溶液が目視にて、当初の黒色等の着色状態から全体溶液の体積に対して50%が透明になる時間で評価し、その時間が6時間以上ものを分散性良好とした。
【0043】
(実施例1)
オレイルアミン135.7gにギ酸ニッケル二水和物9.3gを加え、窒素フロー下、120℃で20分加熱することによって錯化反応液を得た。次に、錯化反応液に酢酸パラジウムを0.19g(Ni100質量部に対してPdが3質量部)加え、さらに1−オクタノールを200.4g加えた。その後、マイクロ波を用いて190℃で5分加熱することによって、ニッケルナノ粒子スラリーを得た。ニッケルナノ粒子スラリーを静置分離し、上澄み液を取り除いた後、メタノールを用いて3回洗浄した後、60℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥してニッケルナノ粒子を得た。
【0044】
得られたニッケルナノ粒子のSEM(Scanning Electron Microscope、走査電子顕微鏡)写真を図2に示した。平均粒径40nmの球形の均一なニッケルナノ粒子が形成されていた。また、ニッケルナノ粒子の分散性は良好であった。
【0045】
(実施例2)
オレイルアミン128.8gに酢酸ニッケル二水和物14.8gを加え、窒素フロー下、120℃で20分加熱することによって錯化反応液を得た。次に、錯化反応液に硝酸銀を0.069g(Ni100質量部に対してAgが1質量部)加え、さらに、1−オクタノールを98.2g加えた。その後、マイクロ波を用いて210℃で5分加熱することによって、ニッケルナノ粒子スラリーを得た。ニッケルナノ粒子スラリーを静置分離し、上澄み液を取り除いた後、メタノールを用いて3回洗浄した後、60℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥してニッケルナノ粒子を得た。
【0046】
得られたニッケルナノ粒子のSEM(Scanning Electron Microscope、走査電子顕微鏡)写真を図3に示した。平均粒径30nmの球形の均一な粒子が得られた。また、ニッケルナノ粒子の分散性は良好であった。
【0047】
(実施例3〜21)
ニッケル塩および追加する金属塩の組み合わせの種類を変えたほかは実施例1と同様の条件で製造して得た実施例3〜21のニッケルナノ粒子の粒径等の結果を表1に示す。表1から、ニッケル塩および追加する金属塩の組み合わせの種類を変えても良好な粒径のものができていることが確認された。なお、いずれの実施例についてもニッケルナノ粒子の分散性は良好であった。
【0048】
【表1】

【0049】
比較例1
実施例19において、酢酸パラジウムを使用しなかったこと以外、実施例19と同様にして、平均粒径100nm(Cv値;0.17)のニッケルナノ粒子を得た。
【0050】
比較例2
実施例19において、マイクロ波を用いて210℃で5分加熱したことの代わりに、オイルバスを用いて210℃で5分加熱したこと以外、実施例19と同様にして、平均粒径55nm(Cv値;0.20)のニッケルナノ粒子を得た。この結果から、通常加熱を用いると、マイクロ波加熱よりも平均粒子径はやや大きくなり、粒度分布が広がるため好ましくないことがわかる。なお、実施例19で得られたニッケルナノ粒子のCv値は、0.12であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数1〜3の直鎖カルボン酸ニッケルおよび1級アミンの混合物を加熱してニッケル錯体を生成させた錯化反応液を得る工程と、
該錯化反応液にパラジウム塩、銀塩、白金塩および金塩からなる群より選択される1または2以上の金属塩を添加する工程と、
前記金属塩が添加された錯化反応液をマイクロ波で加熱することによりニッケルナノ粒子を生成させる工程と、
を備えたニッケルナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記直鎖カルボン酸ニッケルが、ギ酸ニッケルまたは酢酸ニッケルである請求項1記載のニッケルナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記金属塩を添加する工程において、前記カルボン酸ニッケル中に含まれる金属換算のニッケル100質量部に対して、前記金属塩を金属換算で0.01質量部以上添加する請求項1記載のニッケルナノ粒子の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−214142(P2011−214142A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56229(P2011−56229)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000158312)岩谷産業株式会社 (137)
【Fターム(参考)】