説明

ニッケル微粒子の製造方法

【課題】高温での焼成における焼結挙動をセラミック誘電体に近づけて、急激に収縮が始まる温度を高くしたニッケル微粒子を製造する方法を提供する。
【解決手段】
本発明によれば、ニッケル微粒子を硫黄化合物の溶液で湿式処理して、ニッケル微粒子に対して0.05〜1.0重量%の範囲の硫黄分を含有させることを特徴とするニッケル微粒子の製造方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミックコンデンサの内部電極、二次電池や燃料電池の電極等に好適に用いることができる、高温での焼成に際して収縮開始温度の高いニッケル微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル微粒子は、積層セラミックコンデンサの内部電極、水素ニッケル二次電池の多孔性電極、燃料電池の中空多孔質電極をはじめ、種々の電極を形成するための材料として注目されている。
【0003】
従来、積層セラミックコンデンサは、チタン酸バリウム等のセラミック誘電体粉末とポリビニルブチラールやセルロース系樹脂等のバインダーとからなる誘電体グリーンシートにパラジウム、白金等のような内部電極のための貴金属粉末を含むペーストを印刷し、乾燥して、内部電極が交互に重なるように積層し、熱圧着し、次いで、これを適宜の寸法に裁断した後、約1300℃の温度で焼成して、脱バインダーしつつ、内部電極とセラミック誘電体とを焼結させ、この後、銀等の外部電極を形成して、製造される。
【0004】
このような積層セラミックコンデンサは、最近の電子部品の高性能化に伴って、小型化と高容量化が進んでおり、そのために、セラミック誘電体と内部電極の薄膜化と多層化が一層求められている。他方、コストや環境への配慮から、電極のための材料は、従来のパラジウム、白金等の貴金属から、より低廉で、しかも、環境への負荷も小さいニッケル等の卑金属が多く用いられるようになってきている。
【0005】
しかし、ニッケル微粒子を含め、一般に、金属からなる内部電極材料は、セラミック誘電体よりも焼結開始温度が低く、しかも、熱収縮が大きい。従って、セラミック誘電体と内部電極とは熱収縮の程度が異なるので、積層セラミックコンデンサの製造において、上述したように、導電性ペーストを印刷したセラミック誘電体グリーンシートを積層し、これを焼成する際に、その間に剥離やクラック等の構造欠陥が発生しやすいという問題がある。このような構造欠陥は、特に、近年の積層セラミックコンデンサの小型化と高容量化と共に顕著に発生する傾向がある。
【0006】
そこで、積層セラミックコンデンサの更なる薄層化を実現するには、内部電極に用いるニッケル微粒子として、高温での焼成において、焼結挙動をセラミック誘電体に近づけて、急激な収縮が始まる温度(以下、単に収縮開始温度という。)の高いものが強く求められており、例えば、ニッケル微粒子を硫黄を含むガス、例えば、硫化水素に接触させ、ニッケル微粒子の表面を硫黄換算で0.02〜0.20重量%の範囲の硫黄又は硫酸基で被覆し、ニッケル微粒子の表面に硫化ニッケル又は硫酸ニッケルからなる被覆膜を形成して、高温での焼成に際して、ニッケル粒子間でのニッケルの固相拡散を阻害し、かくして、ニッケル微粒子の焼結の進行を抑制したニッケル微粒子を得る方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
この方法は、ニッケル微粒子を気相処理にて、その表面に硫化ニッケル又は硫酸ニッケルの被覆膜を形成して、高温での焼成において、ニッケル微粒子の焼結の進行を抑制しようとしたものであるが、上記被覆膜の形成のために気相処理を行うので、生産性や生産時の安全性等に問題があるうえに、上記被覆膜の形成が不均質であって、高温での焼成に際して、収縮開始温度を十分に高温側に移動させることができない場合がある。
【特許文献1】特開2004−244654号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述したような従来のニッケル微粒子の製造における問題を解決するためになされたものであって、高温での焼成に際して、その焼結挙動をセラミック誘電体に近づけて、収縮開始温度を高くしたニッケル微粒子を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、ニッケル微粒子を硫黄化合物の溶液で湿式処理して、ニッケル微粒子に対して0.05〜1.0重量%の範囲の硫黄を含有させることを特徴とするニッケル微粒子の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
このような本発明の方法によって得られるニッケル微粒子は、高温での焼成に際して、収縮開始温度が高く、かくして、例えば、積層セラミックコンデンサの内部電極として好適に用いることができる。しかも、本発明の方法によれば、ニッケル微粒子を硫黄を含有する化合物の水溶液にて湿式処理することによって、ニッケル微粒子に均質に硫黄を含有させることができ、かくして、上述したようなニッケル微粒子を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において、硫黄化合物の溶液で湿式処理するためのニッケル微粒子は、その由来において、特に限定されるものではなく、例えば、固体のニッケル塩を還元剤で還元する固相還元法、ニッケル塩溶液をミストにして熱分解する噴霧熱分解法、ニッケル塩蒸気を水素ガスで還元する化学気相反応法等の乾式法や、ニッケル塩等を含む溶液から還元析出によってニッケル微粒子を得る湿式法、更には、ニッケル前駆体のエマルションを用いる湿式エマルション法(特開2001−152214)等の方法で製造されたニッケル微粒子のいずれでもよい。
【0012】
また、このようなニッケル微粒子は、例えば、導電性ぺーストとして、これを積層セラミックコンデンサの内部電極材料として用いることを考慮した場合、球状で平均粒径が0.1〜1.0μmの範囲にあることが好ましい。
【0013】
本発明の方法によれば、このようなニッケル微粒子を硫黄化合物の溶液で湿式処理して、ニッケル微粒子に対して0.05〜1.0重量%の範囲の硫黄を含有させることによって、高温での焼成において、焼結挙動がセラミック誘電体に近く、収縮開始温度の高いニッケル微粒子を得ることができる。
【0014】
本発明の方法において、ニッケル微粒子を硫黄化合物の溶液で湿式処理するに際して、上記硫黄化合物の溶液は、特に限定されるものではないが、通常、水溶液が用いられる。従って、本発明によれば、上記硫黄化合物としては、特に限定されるものではないが、好ましくは、水溶性の硫酸塩や硫化物が用いられる。この硫酸塩としては、例えば、硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム等が好ましく用いられ、また、硫化物としては、例えば、硫化ナトリウム、硫化水素ナトリウム、硫化アンモニウム、硫化水素アンモニウム、硫化水素等が好ましく用いられる。
【0015】
従って、ニッケル微粒子を硫黄化合物の溶液で湿式処理する態様として、例えば、上述したような硫黄化合物の水溶液にニッケル微粒子を加え、攪拌した後、乾燥させて、好ましくは、水をすべて蒸発させる、即ち、蒸発乾固させるのが好ましい。
【0016】
本発明の方法によれば、ニッケル微粒子をこのように硫黄化合物の溶液で湿式処理して、ニッケル微粒子に硫黄化合物を含有させる。例えば、硫黄化合物として、硫酸アンモニウムを用いたときは、ニッケル微粒子は、硫酸基として硫黄化合物を含有しているものとみられるが、しかし、用いた硫黄化合物は、どのような化合物としてニッケル微粒子に含有されていてもよい。本発明においては、このように、ニッケル微粒子に硫黄化合物を硫黄換算にて0.05〜1.0重量%の範囲で含有させることが重要である。
【0017】
このようにして、本発明によれば、ニッケル微粒子に対して0.05〜1.0重量%の範囲の硫黄をニッケル微粒子に含有させる。硫黄の含有量が0.05重量%よりも少ないときは、得られるニツケル微粒子に十分に高い収縮開始温度を与えることが困難であり、他方、1.0重量%を超えても、更なる改善がみられず、例えば、積層セラミックコンデンサの内部電極に用いた際に、却って、不具合を生じるおそれがある。
【0018】
しかし、本発明によれば、ニッケル微粒子を硫黄化合物の溶液で湿式処理する別の態様として、例えば、硫黄化合物の水溶液にニッケル微粒子を加え、攪拌した後、必要に応じて、一部、水を蒸発させた後、ニッケル微粒子を濾過等の適宜手段にて分離し、乾燥してもよい。このような場合においても、用いるニッケル微粒子の量、硫黄化合物の溶液量とその溶液中の硫黄濃度、湿式処理の手段や時間等に関する実験に基づいて、ニッケル微粒子が含有する硫黄量を所定の範囲とする処理の方法を容易に定めることができる。
【0019】
本発明の方法によれば、ニッケル微粒子を硫黄化合物の溶液にて湿式処理することによって、ニッケル微粒子に硫黄化含物を均一に含有させることができ、かくして、ニッケル微粒子の高温での焼成に際して、ニッケル微粒子に含有させた硫黄化合物が分解等によってニッケル微粒子から脱離するまでの間、ニッケル微粒子間での固相拡散を阻害し、焼結の進行を遅延して、かくして、収縮開始温度を高温側に移動させるものとみられる。
【実施例】
【0020】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、ニッケル微粒子中の硫黄量とニッケル微粒子の焼結特性は次のようにして求めた。
【0021】
(ニッケル微粒子の平均粒径)
(株)堀場製作所製レーザー回折式粒度分布測定装置LA−500を用いて測定した。(ニッケル微粒子の含有する硫黄量)
誘導結合プラズマ分析(ICP)にて求めた。
【0022】
(ニッケル微粒子の焼結特性)
ターピネオールに溶解したエチルセルロースをバインダーとして用い、3本ロールを用いて分散、乾燥、粉砕し、500μmの篩を通した後、造粒して試料を調製した。この試料を直径5mmの円柱状ペレットに成形した。セイコー電子工業(株)製TMA320型熱機械式分析装置を用いて、2体積%水素−窒素ガス中、上記試料を5℃/分の速度で1200℃まで昇温し、温度に対する重量変化率を測定して、試料の収縮開始温度と1000℃における収縮率を求めた。
【0023】
実施例1
湿式法で製造した平均粒径0.18μmの球状のニッケル微粒子をその0.2重量%に相当する硫黄を含有する硫酸アンモニウム水溶液に加え、5分間攪拌して、スラリーとした後、温風循環型乾燥機に入れ、加熱乾燥し、蒸発乾固させた。このようにして得たニッケル微粒子の有する硫黄量は0.199重量%であった。また、このニッケル微粒子の温度に対する重量変化率を図1に示し、試料の収縮開始温度と1000℃における収縮率を表1に示す。
【0024】
実施例2
湿式法で製造した平均粒径0.18μmの球状のニッケル微粒子のスラリーにこのニッケル微粒子に対して0.8重量%に相当する硫黄を含有する硫酸アンモニウム水溶液を加え、5分間攪拌した後、温風循環型乾燥機に入れ、加熱乾燥し、蒸発乾固させた。このようにして得たニッケル微粒子の有する硫黄量は、0.795重量%であった。また、このニッケル微粒子の温度に対する重量変化率を図1に示し、試料の収縮開始温度と1000℃における収縮率を表1に示す。
【0025】
実施例3
湿式法で製造した平均粒径0.18μmの球状のニッケル微粒子のスラリーにこのニッケル微粒子に対して0.08重量%に相当する硫黄を含有する硫酸アンモニウム水溶液を加え、5分間攪拌した後、温風循環型乾燥機に入れ、加熱乾燥し、蒸発乾固させた。このようにして得たニッケル微粒子の有する硫黄量は、0.077重量%であった。また、このニッケル微粒子の温度に対する重量変化率を図1に示し、試料の収縮開始温度と1000℃における収縮率を表1に示す。
【0026】
比較例1
実施例1で用いたニッケル微粒子に硫酸アンモニウム水溶液による処理を行うことなく、温度に対する重量変化率を測定した。結果を図1に示す。また、このニッケル微粒子の収縮開始温度と1000℃における収縮率を表1に示す。
【0027】
比較例2
実施例1で用いたニッケル微粒子を耐圧容器に入れ、これに0.04体積%硫化水素−窒素ガスを1時間導入し、2時間経過した後、ニッケル微粒子を耐圧容器から取り出してニッケル微粒子の有する硫黄量を分析したところ、0.082重量%であった。また、このニッケル微粒子の温度に対する重量変化率を図1に示し、収縮開始温度と1000℃における収縮率を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
図1及び表1に示す結果から明らかなように、実施例1と2によるニッケル微粒子は、比較例1及び2によるニッケル微粒子に比べて、収縮率にそれ程大きい差異がないにもかかわらず、高温での焼成において、収縮開始温度が高温側に大幅に移動しており、セラミック誘電体の焼結挙動に近い。また、実施例3によるニッケル微粒子は、比較例2によるニッケル微粒子と硫黄含有量がほぼ同じであるにもかかわらず、比較例2によるニッケル微粒子に比べて、高温での焼成において、収縮開始温度が大幅に高温側に移動している。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明によるニッケル微粒子の温度に対する重量変化率を比較例によるニッケル微粒子の温度に対する重量変化率と共に示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル微粒子を硫黄化合物の溶液で湿式処理して、ニッケル微粒子に対して0.05〜1.0重量%の範囲の硫黄を含有させることを特徴とするニッケル微粒子の製造方法。
【請求項2】
ニッケル微粒子を硫黄化合物の溶液で湿式処理した後、蒸発乾固させる請求項1に記載のニッケル微粒子の製造方法。
【請求項3】
硫酸塩又は硫化物を含む水溶液にてニッケル微粒子を処理する請求項1又は2に記載のニッケル微粒子の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2007−191771(P2007−191771A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−12893(P2006−12893)
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【出願人】(000174541)堺化学工業株式会社 (96)
【Fターム(参考)】