説明

ニッケル水素二次電池

【課題】窒素化合物の混在に伴うシャトル反応のおそれがない錯化剤を活用して、水素吸蔵合金から溶出された金属イオンと容易に錯形成させることにより、自己放電特性が改善されたニッケル水素二次電池を提供する。
【解決手段】本発明のニッケル水素二次電池は、正極と負極と電解液とセパレータとからなり、錯化剤として、カルボキシル基の位置が異なる単糖類を少なくとも2種結合させた窒素を含まない糖類をさらに用いたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はニッケル水素二次電池に関し、より詳しくは自己放電特性を向上させる手段に関する。
【背景技術】
【0002】
高容量な二次電池としてリチウム二次電池が注目される中、依然としてアルカリ蓄電池は、タフユースに耐えうる実用的な二次電池として用途が広まりつつある。中でも負極材料として水素吸蔵合金を使用したアルカリ二次電池(以下、ニッケル水素二次電池と称する)は、エネルギー密度、充放電サイクル寿命、保存特性、高率充放電特性等の実用性能を高いレベルで兼ね備えており、様々な用途で普及している。しかし、このニッケル水素二次電池を汎用電池として更に普及させるためには、市場の要望に応えて諸性能の向上を図る必要があり、特に自己放電特性の向上に係わる改良が活発に行われている。
【0003】
ニッケル水素二次電池の自己放電特性低下の主要因として、(1)水素吸蔵合金からの成分溶出による正極の還元、(2)正極の自己分解反応、(3)混在する窒素化合物による正極の還元(以下、シャトル反応と称する)、の3つのモードが複合していると考えられている。
【0004】
ニッケル水素二次電池に用いられる水素吸蔵合金としては、CaCu5型結晶を有するLaNi5合金のLaの一部をCe、Pr、Ndその他の希土類元素に置換したMm(Mm:ミッシュメタル,希土類元素の混合物)、Niの一部をAl、Co、Mn等の金属元素で置換したものが広く用いられている。これら元素の中には、CoやMnなど、電解液であるアルカリ水溶液に容易に溶けるものが含まれる。特にMnは水素吸蔵合金の必須元素でありながら、アルカリ水溶液中における溶解度が高く容易に溶出する。これらの元素は、充放電サイクルを重ねることや高温下で保存することによって電解液中に金属イオンとして溶出し、正極やセパレータに析出する。ここで正極の上で酸化析出したものは正極活物質を還元し、セパレータに析出したものは絶縁性を低下させることになるので、いずれの場合でも電池内で微小短絡が発生して容量が低下する、いわゆる自己放電を引き起こす。特に水素吸蔵合金から溶出するMnは、正極から溶出するCoやZnなどと結合するため、上述した微小短絡を発生させやすいという課題を有する。
【0005】
このような現象を抑制する技術として、溶出した金属イオンが析出して短絡を発生させるのを抑止する目的で、電解液中にあらかじめ錯化剤としてエチレンジアミン4酢酸(EDTA)や8−キノリノール(オキシン)を溶解含有させ、充放電サイクル中に電解液中に溶出した金属イオンと速やかに錯形成反応を起こさせ、安定な錯イオンとして析出させないようにするか絶縁性の沈殿物として電気反応の系外に除去させる方法(例えば特許文献1)が有効であると考えられる。
【特許文献1】特許第2871065号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1に示すように、分子構造に窒素を含んでいる錯化剤は、電池内で分子結合が分解しやすく、上述したシャトル反応を引き起こすおそれがあった。本発明は上記問題を解決するものであって、シャトル反応のおそれのない錯化剤を活用して水素吸蔵合金から溶出された金属イオンと容易に錯形成させることにより、自己放電特性が改善されたニッケル水素二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のニッケル水素二次電池は、正極と負極と電解液とセパレータとからなり、カルボキシル基の位置が異なる単糖類を少なくとも2種結合させた窒素を含まない糖類をさらに用いたことを特徴とする。
【0008】
カルボキシル基の位置が異なる単糖類を少なくとも2種結合させた窒素を含まない糖類を用いることにより、シャトル反応による自己放電が起きるおそれがなくなるので、ニッケル水素二次電池において水素吸蔵合金を構成する元素が金属イオンとして溶出しても、特許文献1よりも高水準の自己放電特性を持たせることが可能になる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ニッケル水素二次電池の懸念事項の1つである自己放電特性を大幅に改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について、図を用いて説明する。
【0011】
第1の発明は、正極と負極と電解液とセパレータとからなり、錯化剤としてカルボキシル基の位置が異なる単糖類を少なくとも2種結合させた窒素を含まない糖類をさらに用いたことを特徴とするニッケル水素二次電池に関する。
【0012】
図1は本発明のアルカリ蓄電池の一実施例を示す概略断面図である。芯材露出部21を備えた正極合剤11aと正極芯材11bからなる正極11と、芯材露出部22を備えた負極合剤12aと負極芯材12bからなる負極12とを、セパレータ13を介して捲回することにより、円筒型の電極群20が構成される。この電極群20の上方に突出した芯材露出部21を上部集電板18と接続し、さらにこの電極群20の下方に突出した芯材露出部22を下部集電板19と接続した後、円筒型の金属ケース15に挿入する。上部集電板18はリード端子18aを介して安全弁を備えた封口板6と接続され、下部集電板19はリード端子19aを介して金属ケース15の底部と接続される。ガスケット17を挿入し、電解液を金属ケース15に注入し、さらに封口板6と金属ケース15とをかしめることにより、密閉構造を有する円筒型のニッケル水素二次電池が構成される。
【0013】
本発明のニッケル水素二次電池は、例えば正極11あるいは負極12の成分として、セパレータ13への充填物として、または電解液の溶解成分として、カルボキシル基の位置が異なる単糖類を少なくとも2種結合させた窒素を含まない糖類をさらに用いたことを特徴とする。この糖類は、電解液中に溶出する水素吸蔵合金由来の金属イオン(主に2価以下のMnイオンやCoイオン)と容易に錯形成できるので、正極11やセパレータ13にこれら金属の化合物が析出することを抑制できる。さらにこの糖類はシャトル反応の原因となる窒素を含んでいないので、正極11の還元やセパレータ13の絶縁性低下による自己放電を抑制することができるようになる。
【0014】
第2の発明は、第1の発明において、糖類がアルギン酸であることを特徴とする。糖類としては、アルギン酸のほかにキサンタンガムや熱水に溶けるアミロースなどを挙げることができるが、アルギン酸はその分子構造に由来して、2価以下の金属イオンの捕集能力が優れているという観点から好ましい
第3の発明は、第1の発明において、上述した糖類を、電池容量に対して0.5〜35g/Ah含ませたことを特徴とする。上述した糖類の量が電池容量に対して0.5g/Ah未満になると、溶出した金属イオンを捕集する能力がやや不足するので好ましくない。
【0015】
逆に上述した糖類の量が電池容量に対して35g/Ahを超えると、糖類の占有体積が
増え、残空間が減り、内圧上昇につながる。また、金属イオンの補修に関与しない過剰な糖類のカルボキシル基から分離した水素イオンが増加し、水素濃度が増加してpH変化等に起因する容量減少を引き起こすので好ましくない。
【0016】
上述した糖類を、電池容量に対して0.5〜35g/Ah含ませることにより、電解液中に溶出する2価以下の金属と過不足なく錯形成できるようになるので、自己放電特性に優れたニッケル水素二次電池が得られる。
【0017】
正極11は、活物質である水酸化ニッケルに、導電剤として金属コバルトやコバルト化合物(Co(OH)2など)を添加した合剤を、ニッケルなどからなる3次元金属多孔体に充填するなどして構成される。一例として、この3次元金属多孔体の一部に合剤を充填せずに厚みを薄くすることにより、芯材露出部21が構成される。
【0018】
負極12は、活物質である水素吸蔵合金に、導電剤としてカーボンブラックなど、結着剤としてスチレン−ブタジエン共重合体(SBR)やカルボキシメチルセルロース(CMC)などを添加した合剤を、ニッケルメッキを施した鉄などからなる2次元金属多孔体に塗着するなどして構成される。一例として、この2次元金属多孔体の一部に合剤を塗着しないことにより、芯材露出部22が構成される。なお水素吸蔵合金としては電気化学的に水素を吸蔵放出しうるものを適宜用いることができるが、一般式AB5において、本発明が課題視するCoやMnがBサイトに配置されているものは、本発明の効果が顕著化することになる。
【0019】
セパレータ13には、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂からなる不織布などを用いることができる。また電解液であるアルカリ水溶液を構成する塩としては、LiOH、NaOHおよびKOHを適宜混合したものを用いることができる。
【0020】
以下に、本発明の実施例を示す。
【実施例】
【0021】
(事前検討)
MmNi4.1Mn0.4Al0.3Co0.4で表される水素吸蔵合金を用い、これを湿式ボールミルにより水中で平均粒径30μmに粉砕した。この水素吸蔵合金粉末を、濃度43重量%の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、100℃に加熱しつつ、50分間攪拌した。次いでこの水素吸蔵合金粉末を繰り返し水洗することによりアルカリ成分を除去し、含水率5重量%以下まで脱水した。この処理を施した水素吸蔵合金粉末を、CMC(エーテル化度0.7、重合度1600、0.15重量部)とカーボンブラック0.3重量部およびスチレンブタジエン共重合体0.7重量部とを、水を分散媒として混練し、ペーストにした。このペーストを厚さ60μm、パンチング孔径1mm、開孔率42%のニッケルめっきを施した鉄製パンチングメタルの両面に塗布し、乾燥および加圧を行ない、幅35mm、厚さ0.4mm、容量2200mAhの負極を作製した。
【0022】
この負極を、NaOHの43wt%水溶液30mlに4時間(80℃)浸漬し、Mnの溶出量をICP発光分析法にて測定した。その溶出量を容量で除した値は、4.44mg/Ah(すなわち8.01×10-5mol/Ah)であった。
【0023】
本実施例では、添加する糖類としてアルギン酸(分子量50000)を選択するので、このアルギン酸が100%錯形成に利用されるという前提に立った場合の必要最低添加量を予め見積もった。まずアルギン酸1molに含まれるカルボキシル基は0.234molであり、Mn2+など2価のイオンは脱プロトン化された2つのカルボキシル基により錯形成される。このことから、Mn溶出量が上述した値となる水素吸蔵合金を用いた場合の
アルギン酸の必要最低添加量は、31.03mg/Ahとなる。
【0024】
(実施例1〜10)
上述した負極に対し、アルギン酸を揮発性アルコール(エタノール)に分散したものを、アルギン酸の塗布量がそれぞれ0.1g/Ah(実施例1)、0.5g/Ah(実施例2)、2.8g/Ah(実施例3)、5.6g/Ah(実施例4)、7.2g/Ah(実施例5)、8.3g/Ah(実施例6)、17g/Ah(実施例7)、33g/Ah(実施例8)、35g/Ah(実施例9)および37g/Ah(実施例10)となるように塗布し、室温にて乾燥した後、プレスした。
【0025】
アルギン酸を含ませたこれらの負極と、理論容量が1500mAhの焼結式ニッケル正極と、ポリプロピレン製不織布セパレータと、比重1.30の水酸化カリウム水溶液に40g/lの水酸化リチウムを溶解させた電解液とを用いて、図1に示すニッケル水素二次電池(4/5Aサイズ、公称容量1500mAh)を作製した。これらを実施例1〜10とする。
【0026】
(実施例11)
実施例1に対し、アルギン酸を負極に分散させる代わりにセパレータに分散させたこと以外は、実施例1と同様に作製したニッケル水素二次電池を、実施例11とする。
【0027】
(実施例12)
実施例2に対し、アルギン酸を負極に分散させる代わりにセパレータに分散させたこと以外は、実施例2と同様に作製したニッケル水素二次電池を、実施例12とする。
【0028】
(実施例13)
実施例3に対し、アルギン酸を負極に分散させる代わりにセパレータに分散させたこと以外は、実施例3と同様に作製したニッケル水素二次電池を、実施例13とする。
【0029】
(実施例14)
実施例6に対し、アルギン酸を負極に分散させる代わりにセパレータに分散させたこと以外は、実施例6と同様に作製したニッケル水素二次電池を、実施例14とする。
【0030】
(実施例15)
実施例7に対し、アルギン酸を負極に分散させる代わりにセパレータに分散させたこと以外は、実施例7と同様に作製したニッケル水素二次電池を、実施例15とする。
【0031】
(比較例1)
実施例5に対し、アルギン酸に代えて塗布量が7.2g/AhとなるようにEDTAを含ませたこと以外は、実施例5と同様に作製したニッケル水素二次電池を、比較例1とする。
【0032】
(比較例2)
実施例1に対し、上述した負極とセパレータのどちらにもアルギン酸を分散しなかったこと以外は、実施例1と同様に作製したニッケル水素二次電池を、比較例2とする。
【0033】
以上の各例に対し、以下に示す評価を行った。結果を(表1)に示す。
【0034】
(自己放電特性)
25℃環境下において、各例の電池を0.15Aで16時間充電し、0.3Aで電池電圧が1.0Vに達するまで放電し初期容量Aを求めた。1.5Aで1時間充電し、1.5
Aで電池電圧が1Vに達するまで放電する。この充放電サイクルを100回繰り返した。この後0.3Aで1Vまで放電し、0.15Aで16時間充電し、45℃恒温槽内に14日間保存した。保存後にこれらの電池を25℃環境下に晒し、0.3Aで電池電圧が1.0Vに達するまで放電し、容量Bを求めた。容量Aから容量Bを減算し、容量Aで除した値を、自己放電特性の尺度として(表1)に記した。
【0035】
【表1】

負極あるいはセパレータに、カルボキシル基の位置が異なる単糖類を少なくとも2種結合させた窒素を含まない糖類であるアルギン酸を錯化剤として分散させた各実施例は、錯化剤としてEDTAを用いた比較例1よりも良好な自己放電特性を示した。この理由として、アルギン酸は窒素を含まないのでシャトル反応が起こらなかったことが挙げられる。ただしアルギン酸の量が0.1g/Ahである実施例1は、金属イオンを捕集する能力がやや不足した結果、自己放電特性が良しくなかった。逆にアルギン酸の量が37g/Ahである実施例10は、糖類の占有体積が増え、残空間が減り、内圧上昇につながる。また、金属イオンの捕集に関与しない過剰な糖類のカルボキシル基から分離した水素イオンが増加し、水素濃度が増加してpH変化等を引き起こした結果、容量がやや低下した。よってアルギン酸は、ニッケル水素二次電池の容量に対して0.5〜35g/Ah含ませるのが好ましいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の糖類を添加したニッケル水素二次電池は自己放電特性に優れるので、電力貯蔵用の電源をはじめとした様々な用途において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明のアルカリ蓄電池の一実施例を示す概略断面図
【符号の説明】
【0038】
6 封口板
11 正極
11a 正極合剤
11b 正極芯材
12 負極
12a 負極合剤
12b 負極芯材
13 セパレータ
15 電池ケース
17 ガスケット
18 正極集電板
18a 正極リード
19 負極集電板
19a 負極リード
20 極板群
21、22 極板群の端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、電解液と、セパレータとからなるニッケル水素二次電池であって、
カルボキシル基の位置が異なる単糖類を少なくとも2種結合させた窒素を含まない糖類をさらに用いたことを特徴とするニッケル水素二次電池。
【請求項2】
前記糖類がアルギン酸であることを特徴とする、請求項1記載のニッケル水素二次電池。
【請求項3】
前記糖類を、電池容量に対して0.5〜35g/Ah含ませたことを特徴とする、請求項1記載のニッケル水素二次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2008−181847(P2008−181847A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124224(P2007−124224)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】