説明

ニトリルゴム組成物、架橋性ニトリルゴム組成物及びゴム架橋物

【課題】 帯電防止性に優れ、引張応力の大きな高飽和ニトリルゴム架橋物を与えるニトリルゴム組成物、架橋性ニトリルゴム組成物及びそのゴム架橋物を提供すること。
【解決手段】 α、β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を有するヨウ素価が100以下のニトリルゴム(a)、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸金属塩(b)、ポリエーテル(c)、並びに、フルオロ基及び/又はスルホニル基を有する有機金属塩(d)を含有してなるニトリルゴム組成物を提供する。なお、ポリエーテル(c)がエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドの単量体単位を、合計10モル%以上含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止性に優れ、引張応力の大きな高飽和ニトリルゴム架橋物を与えるニトリルゴム組成物、架橋性ニトリルゴム組成物及びそのゴム架橋物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、耐油性、耐熱性および耐オゾン性に優れるゴムとして、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(「高飽和ニトリルゴム」とも言う。水素化ニトリルゴムはこれに含まれる。)が知られており、そのゴム架橋物はベルト、ホ−ス、ガスケット、パッキン、オイルシールなど種々の自動車用ゴム製品の材料等に用いられている。近年、市場の要求が高度化し、上記ゴム架橋物においても更なる強度向上が求められている。そのため特許文献1では、高飽和ニトリルゴムに亜鉛化合物及びメタクリル酸を配合して有機過酸化物で架橋し、ゴム架橋物の強度を向上させている。
しかしながら、最近、ホコリが付着したり、放電が生じたりするなどの静電気によるトラブル改善が重要になってきたため、高強度かつ帯電防止性に優れた高飽和ニトリルゴム架橋物への要求が高まってきた。ただ、一般に帯電防止剤を配合すると、高飽和ニトリルゴム架橋物の引張応力が低下するため、高強度(特に、引張応力が大きいこと)かつ帯電防止性に優れた高飽和ニトリルゴム架橋物を得ることは容易ではなかった。
【0003】
【特許文献1】特開平1−306443号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、帯電防止性に優れ、引張応力の大きな高飽和ニトリルゴム架橋物を与えるニトリルゴム組成物、架橋性ニトリルゴム組成物及びそのゴム架橋物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、高飽和ニトリルゴムとα,β−エチレン性不飽和カルボン酸金属塩に加えて、ポリエーテル及び特定の官能基を有する有機金属塩を併用することにより、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成するに到った。
かくして本発明によれば、
(1)α、β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を有するヨウ素価が100以下のニトリルゴム(a)、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸金属塩(b)、ポリエーテル(c)、並びに、フルオロ基及び/又はスルホニル基を有する有機金属塩(d)を含有してなるニトリルゴム組成物、
(2)前記ポリエーテル(c)がエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドの単量体単位を、合計10モル%以上含有する上記に記載のニトリルゴム組成物、
(3)前記ポリエーテル(c)が、炭素−炭素不飽和結合を有する共重合体である上記に記載のニトリルゴム組成物、
(4)上記に記載のニトリルゴム組成物に、架橋剤(e)を加えてなる架橋性ニトリルゴム組成物、
(5)上記に記載の架橋性ニトリルゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物、及び
(6)ベルトである上記に記載のゴム架橋物、
が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、帯電防止性に優れ、引張応力の大きな高飽和ニトリルゴム架橋物を与えるニトリルゴム組成物、架橋性ニトリルゴム組成物及びそのゴム架橋物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のゴム組成物は、α、β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を有するヨウ素価が100以下のニトリルゴム(a)、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸金属塩(b)、ポリエーテル(c)、並びに、フルオロ基及び/又はスルホニル基を有する有機金属塩(d)を含有してなるニトリルゴム組成物である。
なお、上記のように、本発明においてα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を有するゴムを「ニトリルゴム」と称することがある。
【0008】
ニトリルゴム(a)のα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を形成する単量体は、ニトリル基を有するα,β−エチレン性不飽和化合物であれば限定されず、アクリロニトリル;α−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリルなどのα−ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリルなどのα−アルキルアクリロニトリル;などが挙げられ、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましい。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体として、これらの複数種を併用してもよい。
【0009】
ニトリルゴム(a)におけるα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量は、好ましくは10〜60重量%、より好ましくは15〜55重量%、特に好ましくは20〜50重量%である。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量が少なすぎると得られるゴム架橋物は耐油性が低下するおそれがあり、逆に、多すぎると耐寒性が低下する可能性がある。
【0010】
ニトリルゴム(a)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の他に、ゴム架橋物がゴム弾性を保有するために、通常、ジエン単量体単位及び/又はα−オレフィン単量体単位をも有する。
【0011】
ジエン単量体としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンなどの炭素数が4以上の共役ジエン;1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、ビニルノルボルネン、ジシクロペンタジエンなどの炭素数が5〜12の非共役ジエンが挙げられる。これらの中では共役ジエンが好ましく、1,3−ブタジエンがより好ましい。
【0012】
α−オレフィン単量体としては、好ましくは炭素数が2〜12のものであり、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどが例示される。
【0013】
ニトリルゴム(a)におけるジエン単量体単位及び/又はα−オレフィン単量体単位の含有量は、好ましくは20〜90重量%、より好ましくは30〜85重量%、特に好ましくは40〜80重量%である。これらの単量体単位が少なすぎるとゴム架橋物の弾性が低下するおそれがあり、多すぎると耐熱性や耐化学的安定性が損なわれる可能性がある。
【0014】
ニトリルゴム(a)は、また、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、並びに、ジエン単量体及び/又はα−オレフィン単量体、と共重合可能なその他の単量体の単位を含有することができる。その他の単量体としては、芳香族ビニル単量体、フッ素含有ビニル単量体、α、β−エチレン性不飽和モノカルボン酸及びそのエステル、α、β−エチレン性不飽和多価カルボン酸並びにそのモノエステル及び多価エステル及びその無水物、架橋性単量体、共重合性老化防止剤などが挙げられる。
【0015】
芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルピリジンなどが挙げられる。
【0016】
フッ素含有ビニル単量体としては、フルオロエチルビニルエーテル、フルオロプロピルビニルエーテル、o−トリフルオロメチルスチレン、ペンタフルオロ安息香酸ビニル、ジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンなどが挙げられる。
【0017】
α、β−エチレン性不飽和モノカルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸などが挙げられる。α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エチル(アクリル酸エチル又は/及びメタクリル酸エチルの意。以下同様。)、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルなどが挙げられる。
α、β−エチレン性不飽和多価カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸モノエステルとしては、例えば、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノシクロペンチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノメチルシクロペンチルなどが挙げられる。α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸多価エステルとしては、例えば、マレイン酸ジメチル、フマル酸ジ−n−ブチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジ−2−エチルヘキシルなどが挙げられる。α、β−エチレン性不飽和多価カルボン酸無水物としては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸などが挙げられる。
【0018】
架橋性単量体としては、ジビニルベンゼンなどのジビニル化合物;エチレンジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのジ(メタ)アクリル酸エステル類;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどのトリ(メタ)アクリル酸エステル類;などの多官能エチレン性不飽和単量体のほか、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N′−ジメチロール(メタ)アクリルアミドなどの自己架橋性単量体などが挙げられる。
【0019】
共重合性老化防止剤としては、N−(4−アニリノフェニル)アクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)メタクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)シンナムアミド、N−(4−アニリノフェニル)クロトンアミド、 N−フェニル−4−(3−ビニルベンジルオキシ)アニリン、N−フェニル−4−(4−ビニルベンジルオキシ)アニリンなどが例示される。
【0020】
これらの共重合可能なその他の単量体として、複数種類を併用してもよい。ニトリルゴム(a)が有するこれらのその他の単量体単位の含有量は、好ましくは70重量%以下、より好ましくは55重量%以下、さらに好ましくは40重量%以下、特に好ましくは10重量%以下である。
【0021】
ニトリルゴム(a)は、そのヨウ素価が100以下、好ましくは80以下、より好ましくは50以下、特に好ましくは30以下のものである。ニトリルゴム(a)のヨウ素価が高すぎると、ゴム架橋物の耐オゾン性が低下するおそれがある。
【0022】
また、ニトリルゴム(a)のムーニー粘度〔ML1+4(100℃)〕(ポリマームーニー)は、好ましくは15〜200、より好ましくは30〜150、特に好ましくは45〜120である。ニトリルゴム(a)のムーニー粘度が低すぎるとゴム架橋物の機械的特性が低下するおそれがあり、逆に、高すぎるとニトリルゴム組成物の加工性が低下する可能性がある。
【0023】
上記ニトリルゴム(a)の製造方法は特に限定されない。一般的には、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、ジエン単量体及び/又はα−オレフィン単量体、並びに必要に応じて加えられるこれらと共重合可能なその他の単量体を共重合する方法が便利で好ましい。重合法としては、公知の乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法および溶液重合法のいずれをも用いることができるが、重合反応の制御が容易なことから乳化重合法が好ましい。
共重合して得られた共重合体のヨウ素価が上記の範囲より高い場合は、共重合体の水素化(水素添加反応)を行うと良い。水素化の方法は特に限定されず、公知の方法を採用すればよい。
【0024】
本発明で用いるα、β−エチレン性不飽和カルボン酸金属塩(b)は、α、β−エチレン性不飽和カルボン酸と、金属又は金属化合物が反応して形成された金属塩であれば特に限定されない。α、β−エチレン性不飽和カルボン酸金属塩(b)を構成するα、β−エチレン性不飽和カルボン酸は、金属塩を形成するために少なくとも1価のフリーのカルボキシル基を有するものであり、本発明の効果がより一層顕著になることからα、β−エチレン性不飽和モノカルボン酸、α、β−エチレン性不飽和ジカルボン酸及びα、β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステルが好ましく、α、β−エチレン性不飽和モノカルボン酸及びα、β−エチレン性不飽和ジカルボン酸がより好ましく、α、β−エチレン性不飽和モノカルボン酸が特に好ましい。α、β−エチレン性不飽和モノカルボン酸としては、アクリル酸及びメタクリル酸が好ましい。α、β−エチレン性不飽和ジカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸及びイタコン酸が好ましい。α、β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステルとしては、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、イタコン酸モノメチル及びイタコン酸モノエチルが好ましい。
【0025】
α、β−エチレン性不飽和カルボン酸金属塩(b)を構成する金属としては、上記α、β−エチレン性不飽和カルボン酸と反応して金属塩を形成するものであれば特に限定されないが、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、バリウム、チタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、アルミニウム、スズ及び鉛が好ましく、亜鉛、マグネシウム、カルシウム及びアルミニウムがより好ましく、亜鉛及びマグネシウムが特に好ましい。
【0026】
α、β−エチレン性不飽和カルボン酸金属塩(b)を形成するα、β−エチレン性不飽和カルボン酸1モルに対する上記金属又は金属化合物の量は、好ましくは0.1〜3モル、より好ましくは0.3〜3モル、特に好ましくは0.5〜2.5モルである。α、β−エチレン性不飽和カルボン酸が多すぎる(金属量が少なすぎる)とゴム組成物において残留モノマーの臭気が激しくなるおそれがあり、逆に、α、β−エチレン性不飽和カルボン酸が少なすぎる(金属又は金属化合物の量が多すぎる)とゴム架橋物が強度特性に劣る可能性がある。
【0027】
本発明で用いるα、β−エチレン性不飽和カルボン酸金属塩(b)は、ニトリルゴム(a)などの他の成分と混練してゴム組成物を調製する際に、α、β−エチレン性不飽和カルボン酸金属塩(b)の形でゴムに配合してもよいが、α、β−エチレン性不飽和カルボン酸と上記金属の酸化物、水酸化物又は炭酸塩などとを混練操作の過程で反応させて上記(b)を形成してもよい。
なお、α、β−エチレン性不飽和カルボン酸金属塩(b)は、ニトリルゴム(a)100重量部に対して、好ましくは1〜200重量部、より好ましくは10〜100重量部、特に好ましくは20〜60重量部使用される。
【0028】
本発明で用いるポリエーテル(c)は、主鎖に複数のエーテル構造を有する重合体であれば特に限定されないが、エチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドの単量体単位を、好ましくは合計10モル%以上、より好ましくは40モル%以上、さらに好ましくは60モル%以上、特に好ましくは80モル%以上含有する(共)重合体である。エチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドの単量体単位の合計量が少なすぎると、得られるゴム架橋物の帯電防止性が不十分となるおそれがある。なお、上記ポリエーテル(c)は、本発明の効果がより一層顕著になることから、エチレンオキサイド単量体単位とプロピレンオキサイドの単量体単位の双方を有することが好ましい。
エチレンオキサイド単量体単位を含有するポリエーテル(c)は、エチレンオキサイド単量体単位にイオン化した金属が配位するので金属イオンを安定化する作用を有する。また、そのエチレンオキサイド単量体単位がセグメント運動を起こして該イオンを運搬する効能がある。しかし、エチレンオキサイド単量体単位が多すぎると結晶化して分子鎖のセグメント運動を抑制する。そのためポリエーテル(c)は、プロピレンオキサイド単量体単位も含有することにより上記結晶化を防止することができ、帯電防止効果が向上する。
【0029】
また、ポリエーテル(c)は、炭素−炭素不飽和結合を含有すると、ニトリルゴム(a)との架橋が可能となってゴム架橋物を強靭化することができるため好ましい。なお、ポリエーテル(c)が炭素−炭素不飽和結合を含有するためには、炭素−炭素不飽和結合を含有する単量体(以下、「不飽和結合含有単量体」と略す。)を共重合させることが好ましく、共重合性が高いことからアリルグリシジルエーテルを共重合性させることが特に好ましい。
ポリエーテル(c)は、本発明の効果がより一層顕著になることから、エチレンオキサイド単量体単位、プロピレンオキサイド単量体単位及び不飽和結合含有単量体単位の割合が、50〜99モル%/0.5〜49.5モル%/0.5〜20モル%であると好ましく、60〜96モル%/2〜38モル%/2〜10モル%であるとより好ましい。なお、ポリエーテル(c)は、例えばオキシラン化合物の開環重合触媒として従来公知の重合触媒を用いて、溶液重合等の従来公知の重合方法で得ることができる。
【0030】
ポリエーテル(c)の重量平均分子量は10,000以上であることが好ましく、10,000〜1000,000がより好ましく、50,000〜800,000が特に好ましい。重量平均分子量が小さすぎると、ゴム架橋物はブリードするおそれがあり、重量平均分子量が大きすぎるとニトリルゴム組成物の加工性が低下するおそれがある。
【0031】
本発明のニトリルゴム組成物におけるポリエーテル(c)の含有量は、ニトリルゴム(a)100重量部に対し、好ましくは0.1〜20重量部、より好ましくは0.5〜10重量部、特に好ましくは1〜10重量部である。本発明のニトリルゴム組成物のポリエーテル(c)成分含有量が少なすぎると得られるゴム架橋物は帯電防止性が不十分となるおそれがあり、逆に、多すぎるとブリードする可能性がある。
【0032】
本発明で用いるフルオロ基及び/又はスルホニル基を有する有機金属塩(d)(以下、「特定基含有有機金属塩(d)」と記すことがある。)としては、フルオロ基及び/又はスルホニル基を有する有機アルカリ金属塩及び有機アルカリ土類金属塩が好ましく、有機アルカリ金属塩がより好ましく、有機リチウム塩が特に好ましい。
上記有機リチウム塩の例としては、LiCFSO、LiN(SOCF〔化合物名:リチウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド〕、LiC(SOCF、LiCH(SOCF、LiSFCFSO、Li[{OCH(CF}Nb]などが挙げられる。
【0033】
前述のように、ポリエーテル(c)がエチレンオキサイド単量体単位を有する場合、該エチレンオキサイド単量体単位で金属イオンを安定化し、しかもセグメント運動を起こして該イオンを運搬する作用を有するので、予めポリエーテル(c)と特定基含有有機金属塩(d)とを十分に混合した後に、本発明のニトリルゴム組成物を構成する他の成分と混合する手順を採ることが好ましい。なお、三光化学工業社の製品名「サンコノール TBX−8310」は、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル共重合体とフルオロ基及び/又はスルホニル基を有する有機リチウム塩との混合物として市販されているので上記手順を採る際に好適に使用することができる。
【0034】
本発明のニトリルゴム組成物における特定基含有有機金属塩(d)の含有量は、ニトリルゴム(a)100重量部に対し、好ましくは0.01〜10重量部、より好ましくは0.2〜8重量部、特に好ましくは0.5〜6重量部である。本発明のニトリルゴム組成物の(d)成分含有量が少なすぎると得られるゴム架橋物は帯電防止性が不十分となるおそれがあり、逆に、多すぎるとニトリルゴム組成物の加工性が低下するおそれがある。
【0035】
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物は、上記ニトリルゴム組成物に架橋剤(e)を加えることにより得られる。架橋剤(e)としては、有機過酸化物、ポリアミン化合物、多価エポキシ化合物、多価イソシアナート化合物、アジリジン化合物、硫黄化合物、塩基性金属酸化物および有機金属ハロゲン化物などのゴムの架橋に通常用いられる従来公知の架橋剤を用いることができる。なかでも有機過酸化物が好ましい。
【0036】
有機過酸化物としては、通常、ゴム加工で架橋剤として使われるものを限定なく使用することができる。有機過酸化物の例としては、ジアルキルパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシエステル類などが挙げられる。ジアルキルパーオキサイド類としては、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンなどが挙げられる。ジアシルパーオキサイド類として、ジベンゾイルパーオキサイド、ジイソブチリルパーオキサイドなどが挙げられる。パーオキシエステル類として、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルパーカーボネートなどなどが挙げられる。
【0037】
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物における架橋剤(e)の含有量は、ニトリルゴム(a)100重量部に対し、好ましくは0.2〜20重量部、より好ましくは1〜15重量部、特に好ましくは1.5〜10重量部である。架橋剤(e)の含有量が少なすぎると機械的特性に優れた圧縮永久ひずみの小さいゴム架橋物が得られなくなるおそれがあり、逆に、多すぎるとゴム架橋物の耐疲労性が低下する可能性がある。
【0038】
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物には、上記ニトリルゴム(a)、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸金属塩(b)、ポリエーテル(c)、フルオロ基及び/又はスルホニル基を有する有機金属塩(d)並びに架橋剤(e)以外に、ゴム加工分野において通常使用される配合剤、例えば、カーボンブラックなどの補強性充填剤、炭酸カルシウムやクレーなどの非補強性充填材、酸化防止剤、光安定剤、可塑剤、加工助剤、滑剤、粘着剤、潤滑剤、難燃剤、防黴剤、受酸剤、着色剤、架橋促進剤、架橋助剤、架橋遅延剤などを配合することができる。これらの配合剤の配合量は、本発明の目的や効果を阻害しない範囲であれば特に限定されず、配合目的に応じた量を適宜配合することができる。
【0039】
また、本発明の架橋性ニトリルゴム組成物には、本発明の目的や効果を阻害しない範囲であればニトリルゴム(a)以外の他のゴムを配合してもよい。他のゴムの配合量は、ニトリルゴム(a)100重量部に対して、好ましくは50重量部以下、より好ましくは10重量部以下である。
【0040】
本発明のニトリルゴム組成物及び架橋性ニトリルゴム組成物は、上記各成分を、好ましくは非水系で混合して調製される。混合方法に限定はないが、架橋性ニトリルゴム組成物を調製する場合は、架橋剤および熱に不安定な架橋助剤などを除いた成分を、バンバリーミキサ、インターミキサ、ニーダーなどの混合機で一次混練した後、ロ−ルなどに移して架橋剤等を加えて二次混練する。
【0041】
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物のムーニー粘度〔ML1+4(100℃)〕(コンパウンドムーニー)は、好ましくは15〜150、より好ましくは50〜100である。本発明の架橋性ニトリルゴム組成物が上記コンパウンドムーニーを有すると、成形加工性に優れる。
【0042】
本発明のゴム架橋物は、上記架橋性ニトリルゴム組成物を架橋してなる。
架橋性ニトリルゴム組成物を架橋して本発明のゴム架橋物を得るには、所望の成形品形状に対応した成形機、例えば押出機、射出成形機、圧縮機、ロールなどにより成形を行い、架橋反応によりゴム架橋物としての形状を固定化する。予め成形した後に架橋しても、成形と同時に架橋を行ってもよい。成形温度は、好ましくは10〜200℃、より好ましくは25〜120℃である。架橋温度は、好ましくは100〜200℃、より好ましくは130〜190℃であり、架橋時間は、好ましくは1分〜24時間、より好ましくは2分〜1時間である。
【0043】
また、ゴム架橋物の形状、大きさなどによっては、表面が架橋していても内部まで十分に架橋していない場合があるので、さらに加熱して二次架橋を行ってもよい。
本発明のゴム架橋物は、耐油性、耐熱性および耐オゾン性に優れるニトリル基含有高飽和共重合体ゴムの特性に加えて、引張り応力などの機械的特性及び帯電防止性に優れる。
【0044】
本発明のゴム架橋物は上記特徴を有するので、動力伝動用平ベルト、コンベヤベルト、Vベルト、タイミングベルト、歯付ベルトなどの各種ベルト;バルブおよびバブルシート、BOP(Blow Out Preventar)、プラター、O−リング、パッキン、ガスケット、ダイアフラム、オイルシールなどの各種シール材;クッション材、ダイナミックダンパ、ゴムカップリング、空気バネ、防振材などの減衰材ゴム部品;燃料ホース、オイルホース、マリンホース、ライザ、フローラインなどの各種ホース;印刷用ロール、製鉄用ロール、製紙用ロール、工業用ロール、事務機用ロールなどの各種ロ−ル;CVJブーツ、プロペラシャフトブーツなどの各種ブーツ;などの激しい剪断応力を繰り返し受ける用途をはじめ、ダストカバー、自動車内装部材、ケーブル被覆、靴底など幅広い用途に使用することができるが、ベルトやシール材として有用であり、ベルトとして特に有用である。
【実施例】
【0045】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の記述において「部」は、特に断わりのない限り重量基準である。
試験、評価は下記によった。
(1)ヨウ素価
ヨウ素価はJIS K6235に従って測定した。
(2)ムーニー粘度〔ML1+4(100℃)〕
ニトリルゴムのムーニー粘度(ポリマームーニー)はJIS K6300に従って測定した。
【0046】
(3)常態物性(引張強さ、伸び、引張応力)
架橋性ニトリルゴム組成物を縦15cm、横15cm、深さ0.2cmの金型に入れ、170℃で20分間、プレス圧10MPaで架橋して試験片を作製し、JIS K6251に従い、ゴム架橋物の引張強さ、伸びおよび引張応力を測定した。
(4)常態物性(硬さ)
上記(3)と同様にして得たシート状ゴム架橋物につき、JIS K6253に従い、デュロメータ硬さ試験機タイプAを用いてゴム架橋物の硬さを測定した。
【0047】
(5)電気抵抗(体積固有抵抗、表面固有抵抗)
上記(3)と同様に架橋して作成した試験片をデジタル超高抵抗/微少電流計R8340(アドバンテスト社製)にて測定した。
【0048】
実施例1
バンバリーミキサで、高飽和ニトリルゴム(a)〔製品名「Zetpol 2020」、日本ゼオン社製、水素化アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム、アクリロニトリル単量体単位含有量36重量%、ヨウ素価28、ムーニー粘度(ML1+4、100℃)78〕100部、ジメタクリル酸亜鉛40部、4,4’−ジ−(α,α’−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(老化防止剤、製品名「ナウガード445」、Crompton社製)1.5部、及び、フルオロ基を有する有機リチウム塩配合ポリエーテル〔製品名「サンコノール TBX−8310」、三光化学工業社製、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル共重合体(上記単量体単位のモル比90/3/7)〕5部を混合した。該混合物をオープンロールに移し、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン40重量%品(バルカップ40KE、GEO Specialty Chemicals Inc製、有機過酸化物)6部(有機過酸化物純分2.4部)を加え、50℃で混練して架橋性ニトリルゴム組成物を調製した。この架橋性ニトリルゴム組成物を架橋して得たゴム架橋物について常態物性(引張強度、伸び、引張応力、硬さ)及び電気抵抗(体積固有抵抗、表面固有抵抗)を試験、評価した結果を表1に記す。
【0049】
実施例2
実施例1において、「サンコノール TBX−8310」5部に代えて、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル共重合体(上記単量体単位のモル比90/4/6、重量平均分子量30万)4部及びリチウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド1部を予め混合した後に添加した以外は実施例1と同様に行って架橋性ニトリルゴム組成物を調製した。実施例1と同様の項目につき試験、評価した結果を表1に記す。
【0050】
比較例1〜4
実施例1において、「サンコノール TBX−8310」5部に代えて、それぞれ、カチオン系界面活性剤(製品名「アデカサイザー LV−70」、旭電化社製)1部(比較例1)、帯電防止型可塑剤(製品名「アデカサイザー LV−808」、旭電化社製、ポリエーテル含有)5部(比較例2)、もしくはフルオロ基を有する有機リチウム塩配合可塑剤(製品名「サンコノール 0862−20R」、三光化学工業社製、可塑剤はアジピン酸エステル)2.5部(比較例3)を添加した他はそれぞれ実施例1と同様に行って架橋性ニトリルゴム組成物を調製した。また、「サンコノール TBX−8310」5部を添加しなかった以外は実施例1と同様に行って架橋性ニトリルゴム組成物を調製した(比較例4)。それぞれにつき実施例1と同様の項目につき試験、評価した結果を表1に記す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1が示すように、ニトリルゴム(a)、ジメタクリル酸亜鉛(b)、ポリエーテル(c)及びフルオロ基及び/又はスルホニル基を有するリチウム塩(d)を配合した本発明の高飽和ニトリルゴム組成物を架橋してなる、実施例1及び2のゴム架橋物は、十分な機械的強度(引張強さ、伸び及び引張応力)を有する上に、電気抵抗(体積固有抵抗及び表面固有抵抗)が小さく、帯電防止性に優れていた。
しかし、ポリエーテル(c)及びフルオロ基及び/又はスルホニル基を有するリチウム塩(d)に代えて、カチオン系界面活性剤(比較例1)及び帯電防止型可塑剤(比較例2)を用いたゴム架橋物は、電気抵抗がほぼ実施例1と同程度に下がったものの、引張応力が著しく低下した。また、フルオロ基及び/又はスルホニル基を有するリチウム塩(d)を使用するもののポリエーテル(c)を併用しないゴム架橋物(比較例3)も比較例1,2と同様の特性を示した。さらに、ポリエーテル(c)及びフルオロ基及び/又はスルホニル基を有するリチウム塩(d)のいずれも添加しないゴム架橋物は電気抵抗が大きかった(比較例4)。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
α、β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を有するヨウ素価が100以下のニトリルゴム(a)、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸金属塩(b)、ポリエーテル(c)、並びに、フルオロ基及び/又はスルホニル基を有する有機金属塩(d)を含有してなるニトリルゴム組成物。
【請求項2】
前記ポリエーテル(c)がエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドの単量体単位を、合計10モル%以上含有する請求項1に記載のニトリルゴム組成物。
【請求項3】
前記ポリエーテル(c)が、炭素−炭素不飽和結合を有する共重合体である請求項1又は2に記載のニトリルゴム組成物。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のニトリルゴム組成物に、架橋剤(e)を加えてなる架橋性ニトリルゴム組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の架橋性ニトリルゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物。
【請求項6】
ベルトである請求項5に記載のゴム架橋物。


【公開番号】特開2008−31287(P2008−31287A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−205929(P2006−205929)
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】