説明

ニトリルヒドラターゼ成熟化方法

【目的】ニトリルヒドラターゼの成熟化方法の提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびeサブユニットを含む未成熟タンパク質複合体αe2と、コバルトと、未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質とを還元剤の存在下に接触させることを含む、前記未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質の成熟化方法を提供する。また、本発明は、ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびgサブユニットを含む未成熟タンパク質複合体αg2と、コバルトと、未成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質とを還元剤の存在下に接触させることを含む、前記未成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質の成熟化方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低分子量型ニトリルヒドラターゼの成熟化方法および低分子量型ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびeサブユニットを含む未成熟タンパク質複合体αe2の成熟化方法に関する。また、本発明は、高分子量型ニトリルヒドラターゼの成熟化方法および高分子量型ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびgサブユニットを含む未成熟タンパク質複合体αg2の成熟化方法に関する。さらに、本発明は、成熟化したニトリルヒドラターゼを用いたアミド化合物の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニトリルヒドラターゼ(NHase:EC4.2.1.84)は、αサブユニットとβサブユニットから構成され、その活性中心に金属元素(例えば、コバルト、鉄)を有する酵素である。NHaseは、ニトリル化合物からアミドへの変換反応を触媒し、生成したアミドはアミダーゼおよびアシル-CoAシンセターゼによって、アミドから酸、酸からアシル-CoAへと連続的に反応する。金属元素の含有量の低いNHaseは、その活性も低いことが知られている。
NHaseは、高分子量型のNHaseおよび低分子量型のNHase(H-NHaseおよびL-NHase)に分類される。両酵素は、異なる物理化学的性質および基質特異性を示す一方で、いずれのNHaseも酵素に含まれるコバルトがアクリルアミドおよびニコチンアミドの生成のための活性中心として機能することが知られている(非特許文献1および2)。NHaseは、Rhodococcus rhodochrous J1などのロドコッカス(Rhodococcus)属に属する微生物によって産生される。このようなNHaseを生産する微生物を用いた工業レベルでのアクリルアミドの生産が、日本、米国、フランスを初めとする世界中で行われている(非特許文献3および4)。
【0003】
金属タンパク質に関する従来の研究により、一部の金属タンパク質の合成にはアクセサリータンパク質の関与が必要であることが判明し、近年になって、生物学的な金属中心アセンブリー(metallocenter assembly)の機構に対する関心が高まっている。非特許文献5では、複数種類の一般的な金属中心生合成の機構が以下の通り報告されている。
(i)可逆的金属イオン結合;
(ii)金属イオンまたは補因子の金属シャペロンによる送達;
(iii)金属結合部位を生み出す翻訳後修飾;
(iv)金属の他の成分への相乗的結合(synergistic binding);
(v)金属含有補因子の合成;
(vi)電子移動を伴う金属取り込み;
(vii)アポタンパク質特異的分子シャペロンの必要性等(非特許文献6および7)
全ての場合において、アポタンパク質の成分は、最終的なホロタンパク質に残っている。
【0004】
L-NHaseの場合、L-NHase構造遺伝子(nhlBA)のすぐ下流に位置するORFであるnhlEが、L-NHaseの機能的な成熟化(maturation)、即ち非活性型から活性型への変換に必要であることを本発明者らは明らかにしている(特許文献1、非特許文献8)。所定の条件下では、nhlBAE遺伝子からコバルト含有システイン修飾L-NHase(成熟化L-NHase、ホロα2β2)が産生されるのに対し、nhlBA遺伝子からはコバルトを含まない非修飾L-NHase(未成熟L-NHase、アポα2β2)が産生されてしまう。これまでに本発明者は、L-NHaseの成熟化メディエータとしてNhlAE(タンパク質複合体αe2:nhlAE遺伝子でコードされ、L-NHaseのコバルト含有システイン修飾αサブユニットを含むαe2から成る)を発見しており、L-NHaseへのコバルトの導入はアポL-NHaseとNhlAEとの間でαサブユニットが交換されて起こることを見出した(図1)。これは新規の翻訳後成熟化過程であり、従来から知られている金属中心の生合成の一般的メカニズムとは全く異なる新しいものであった。本発明者はこの成熟化過程を「セルフサブユニットスワッピング」と命名した。
【0005】
Rhodococcus sp. N-771 (非特許文献10)、Pseudomonas putida 5B (非特許文献11)およびRhodococcus sp. N-774 (非特許文献12)等の微生物由来の鉄NHase(非特許文献13)においてアクチベーターが金属シャペロンとして機能することに対し、NhlEは、セルフサブユニットスワッピングシャペロンとして機能するものであり、タンパク質複合体内のタンパク質として新たな挙動を示すものである(非特許文献8)。Fe-NhaseおよびCo-NHaseのいずれにおいても金属イオンは、そのαサブユニットに存在する。また、Fe-NhaseおよびCo-NHaseのいずれにおいても、αサブユニットは、2種類の修飾システイン残基(システインスルフィン酸(αCys-SO2H)およびシステインスルフェン酸(αCys-SOH)を含む特徴的な金属結合部分[CXLC(SO2H)SC(SOH)]を持つ点で共通する(非特許文献14)。
【0006】
翻訳後修飾されたCys-SO2HとCys-SOHは、それぞれ脱プロトン化したCys-SO2-構造とCys-SO-構造を有し、脱プロトン化したCys-SO2-とCys-SO-は、ホロ酵素のβサブユニットの2つのアルギニン残基と塩橋を形成する。
αサブユニット中のシステイン修飾はコバルトを含むNhlAE(ホロαe2)で起き、コバルトを含まないNhlAE(アポαe2)では起こらないことが実証されており、システイン酸化はセルフサブユニットスワッピングによる成熟化において重要な役割を果たすことが明らかにされている(非特許文献8)。
【0007】
タンパク質におけるシステインの酸化は、生理学的に重要な役割を担うために、近年注目が高まっている。酸化システイン残基(Cys-SO2HまたはCys-SOH)は、種々の過程、例えばシグナル伝達、酸素代謝や酸化ストレス応答、転写調節、さらに、NADHペルオキシダーゼ、ペルオキシレドキシン、ヒドロゲナーゼといった種々のタンパク質の金属配位などで機能することが知られている。これら酵素の中で、NHaseとチオシアン酸加水分解酵素は、金属中心の配位子としてCys-SO2HとCys-SOHの双方を有するが、両残基の翻訳後修飾に関与するメカニズムは未だに不明である。
【0008】
NHaseのような非コリンコバルト酵素に対する関心は、生物無機化学だけでなくバイオテクノロジーの分野でも高まっている。また、その有用性と著しい化学的多様性のため、NHaseは化学工業において極めて貴重な触媒である。本発明者は、細胞へのコバルトの取り込みを媒介するコバルト輸送体(NhlF)を発見している(非特許文献2)。しかしながら、NhlAEのαサブユニットなどの細胞内の非コリンコバルト含有タンパク質にコバルトが挿入されるメカニズムは明らかにされていない。
【0009】
高分子量型のH-NHaseタンパク質は、αサブユニットとβサブユニットから構成され、H-NHase遺伝子は、これらのサブユニットをコードする構造遺伝子(nhhBA)の他に、nhhBAのすぐ下流に存在するnhhGを含むことが知られている。現在までにH-NHase遺伝子(nhhBA)とNhhGの両方を含むプラスミドpJHK19を用いて、宿主細胞R. rhodoccocus ATCC12674内でH-NHaseを発現させることに成功しているが(非特許文献15)、H-NHaseの成熟過程がセルフサブユニットスワッピングに依存するのかどうかは不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008-118959号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Kobayashi, M., and Shimizu, S. (1998) Nature Biotechnol. 16, 733-736
【非特許文献2】Komeda, H., Kobayashi, M., and Shimizu, S. (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 4267-4272
【非特許文献3】Kobayashi, M., Nagasawa, T., and Yamada, H. (1992) Trends Biotechnol 10, 402-408
【非特許文献4】Zhou, Z., Hashimoto, Y., and Kobayashi, M. (2005) Actinomycetologica 19, 18-26
【非特許文献5】Kuchar, J., and Hausinger, R. P. (2004) Chem. Rev. 104, 509-525
【非特許文献6】Brown, N. M., Torres, A. S., Doan, P. E. and O’Halloran, T. V. (2004) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101, 5518-5523
【非特許文献7】Lacourciere, G. M., Levine, R. L., and Stadtman, T. C. (2002) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99, 9150-9153
【非特許文献8】Zhou Z, Hashimoto Y, Shiraki K, Kobayashi M. (2008) Discovery of posttranslational maturation by self-subunit swapping. Proc Natl Acad Sci USA 105:14849-14854.
【非特許文献9】Komeda H, Kobayashi M, Shimizu S (1997) A novel transporter involved in cobalt uptake. Proc Natl Acad Sci USA 94:36-41.
【非特許文献10】Nojiri, M., Yohda, M., Odaka, M., Matsushita, Y., Tsujimura, M., Yoshida, T., Dohmae, N., Takio, K., and Endo, I. (1999) J. Biochem. 125, 696-704
【非特許文献11】Wu, S., Fallon, R., and Payne, M. (1997) Appl. Microbiol. Biotechnol. 48, 704-708
【非特許文献12】Hashimoto, Y., Nishiyama, M., Horinouchi, S., and Beppu, T. (1994) Biosci. Biotechnol. Biochem. 58, 1859-1865
【非特許文献13】Lu, J.,Zheng, Y., Yamagishi, H., Odaka, M., Tsyjimura, M., Maeda, M., and Indo, I. (2003) FEBS Lett. 553, 391-396
【非特許文献14】Greene, S. N. and Richards, N. G. (2006) Inorg. Chem. 45, 17-36.
【非特許文献15】Cunningham, F. X., Jr, and Gantt, E. (2001) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98, 2905-2910
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このような状況下、コバルトがコバルト元素低含有型のタンパク質複合体αe2(未成熟NhlAE)に取り込まれるメカニズムおよびタンパク質複合体αe2のコバルト含有率の制御メカニズムは一切明らかにされていなかった。また、H-NHaseに関しては、成熟化がL-NHase成熟と同様に、セルフサブユニットスワッピング機構に依存するのかどうかも不明であった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意研究の結果、in vitroでコバルトが還元剤の存在下に未成熟タンパク質複合体αe2(アポαe2)に直接挿入されて、成熟化タンパク質複合体αe2(ホロαe2)が生じることを見出した。また、本発明者らは、更なる研究の結果、H-NHaseの成熟化もセルフサブユニットスワッピング機構に依存することを見出した。本発明者らは、H-NHaseの成熟化過程においても、in vitroで、還元剤の存在下においてコバルトが未成熟タンパク質複合体αg2に直接挿入されることによってαg2が成熟化することを見出し、これらの知見に基づいて本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下に関する。
[1] (i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびeサブユニットを含む未成熟タンパク質複合体αe2
(ii) コバルトとを
還元剤の存在下に接触させるステップを含む、前記未成熟タンパク質複合体αe2の成熟化方法。
[2] (i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびβサブユニットを含む未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質と、上記[1]に記載の方法により得られた成熟タンパク質複合体αe2とを接触させて成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質および未成熟タンパク質複合体αe2を生成し、該未成熟タンパク質複合体αe2
(ii) コバルトとを
還元剤の存在下に接触させるステップを含む、前記未成熟タンパク質複合体αe2の成熟化方法。
[3] (i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびeサブユニットを含む未成熟タンパク質複合体αe2
(ii) コバルトと
(iii) 未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質とを
還元剤の存在下に接触させることを含む、前記未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質の成熟化方法。
[4] (i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびβサブユニットを含む未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質と、上記[1]または[2]に記載の方法により得られた成熟タンパク質複合体αe2とを接触させて成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質および未成熟タンパク質複合体αe2を生成し、該未成熟タンパク質複合体αe2
(ii) コバルトと
(iii) 未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質とを
還元剤の存在下に接触させることを含む、前記未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質の成熟化方法。
[5] タンパク質複合体αe2が、以下の(a)または(b)のタンパク質、および(c)または(d)のタンパク質を含む、上記[1]〜[4]のいずれか1つに記載の方法:
(a) 配列番号2に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b) 配列番号2に示すアミノ酸配列において1〜複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくはそれらを組み合わせたアミノ酸配列を含み、かつ、コバルト元素を含有可能なタンパク質;
(c) 配列番号4に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(d) 配列番号4に示すアミノ酸配列において1〜複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくはそれらを組み合わせたアミノ酸配列を含み、かつ、前記(a)もしくは(b)のタンパク質と複合体を形成するタンパク質。
[6] タンパク質複合体αe2が、Rhodococcus属に属する微生物由来のものである、上記[1]〜[4]のいずれか1つに記載の方法。
[7] Rhodococcus属に属する微生物が、Rhodococcus rhodochrous J1菌である、上記[6]に記載の方法。
[8] 低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質が、Rhodococcus属に属する微生物由来のものである、上記[1]〜[4]のいずれか1つに記載の方法。
[9] Rhodococcus属に属する微生物が、Rhodococcus rhodochrous J1菌である、上記[8]に記載の方法。
[10] 上記[3]または[4]に記載の方法で成熟化した低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質をニトリル化合物に接触させることを含む、アミド化合物の生産方法。
[11] 上記[3]または[4]に記載の方法で成熟化した低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質をアクリルニトリルに接触させること含む、アクリルアミドの生産方法。
[12] 上記[3]または[4]に記載の方法で成熟化した低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質を3−シアノピリジンに接触させることを含む、ニコチンアミドの生産方法。
[13] (i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびgサブユニットを含む未成熟タンパク質複合体αg2
(ii) コバルトとを
還元剤の存在下に接触させるステップを含む、前記未成熟タンパク質複合体αg2の成熟化方法。
[14] (i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびβサブユニットを含む未成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質と、上記[13]に記載の方法により得られた成熟タンパク質複合体αg2とを接触させて成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質および未成熟タンパク質複合体αg2を生成し、該未成熟タンパク質複合体αg2
(ii) コバルトとを
還元剤の存在下に接触させるステップを含む、前記未成熟タンパク質複合体αg2の成熟化方法。
[15] (i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびgサブユニットを含む未成熟タンパク質複合体αg2
(ii) コバルトと
(iii) 未成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質とを
還元剤の存在下に接触させることを含む、前記未成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質の成熟化方法。
[16] (i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびβサブユニットを含む未成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質と、上記[13]または[14]に記載の方法により得られた成熟タンパク質複合体αg2とを接触させて成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質および未成熟タンパク質複合体αg2を生成し、該未成熟タンパク質複合体αg2
(ii) コバルトと
(iii) 未成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質とを
還元剤の存在下に接触させることを含む、前記未成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質の成熟化方法。
[17] タンパク質複合体αg2が、以下の(a)または(b)のタンパク質、および(c)または(d)のタンパク質を含む、上記[13]〜[16]のいずれか1つに記載の方法:
(a) 配列番号14に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b) 配列番号14に示すアミノ酸配列において1〜複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくはそれらを組み合わせたアミノ酸配列を含み、かつ、コバルト元素を含有可能なタンパク質;
(c) 配列番号16に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(d) 配列番号16に示すアミノ酸配列において1〜複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくはそれらを組み合わせたアミノ酸配列を含み、かつ、前記(a)もしくは(b)のタンパク質と複合体を形成するタンパク質。
[18] タンパク質複合体αg2が、Rhodococcus属に属する微生物由来のものである、上記[13]〜[16]のいずれか1つに記載の方法。
[19] Rhodococcus属に属する微生物が、Rhodococcus rhodochrous J1菌である、上記[18]に記載の方法。
[20] 高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質が、Rhodococcus属に属する微生物由来のものである、上記[13]〜[16]のいずれか1つに記載の方法。
[21] Rhodococcus属に属する微生物が、Rhodococcus rhodochrous J1菌である、上記[20]に記載の方法。
[22] 上記[15]または[16]に記載の方法で成熟化した高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質をニトリル化合物に接触させることを含む、アミド化合物の生産方法。
[23] 上記[15]または[16]に記載の方法で成熟化した高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質をアクリルニトリルに接触させること含む、アクリルアミドの生産方法。
[24] 上記[15]または[16]に記載の方法で成熟化した高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質を3−シアノピリジンに接触させることを含む、ニコチンアミドの生産方法。
[25] 還元剤がジチオスレイトールまたはグルタチオンである、上記[1]〜[4]および[13]〜[16]のいずれか1つに記載の方法。
【0015】
本発明の説明において、「αe2またはαg2」という記載は、説明の簡略化のために「αe2/αg2」と表記する場合がある。同様に、「NhlAEまたはNhhAG」および「L-NHaseまたはH-NHase」という記載も、それぞれ「NhlAE/NhhAG」および「L-NHase/H-NHase」と表記する場合がある。
【発明の効果】
【0016】
本発明のタンパク質複合体αe2/αg2成熟化方法により、コバルト元素高含有型のαサブユニットを含むタンパク質複合体αe2/αg2(成熟化タンパク質複合体αe2/αg2)を生産することができる。また、本発明のタンパク質複合体αe2/αg2成熟化方法により、ニトリルヒドラターゼの成熟化で生成したコバルト元素低含有型αサブユニットにコバルト元素を導入することが可能となり、タンパク質複合体αe2/αg2を再利用することが可能となった。
【0017】
また、本発明のタンパク質複合体αe2/αg2成熟化方法により、酵素活性の高い成熟化ニトリルヒドラターゼを生産することもできる。さらに、生成した成熟化ニトリルヒドラターゼは、様々なニトリル化合物からアミド化合物への変換酵素として、アミド化合物の工業的生産に用いることができる。例えば、アクリルニトリルからアクリルアミドへの変換酵素として用いることができる。また、3−シアノピリジンからニコチンアミドへの変換酵素としても用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】セルフサブユニットスワッピングによるL-NHaseの成熟化の仕組みを示す図である。αサブユニットに含まれるコバルトイオンはピンク色で示す。アポL-NHaseのアポαサブユニットは緑色で、NhlAEのホロαサブユニットは青色で示す。点線の矢印は、αサブユニットのスワッピングを示している。
【図2】in vitroにおける種々の条件下でのアポαe2によるアポα2β2の活性化を示す図である。20μM CoCl2、およびアポαe2、アポαe2+0.5 mM DTTまたは0.5 mM DTTのいずれかを含む10 mM KPB(pH 7.5)中で、アポα2β2をインキュベートした。指定時間に一定量のサンプルを取り出し、そのサンプルのL-NHase活性についてアッセイした。同一条件で3回以上実施し、得られた数値の平均値±標準偏差を示す。
【図3】アポαe2によるアポα2β2活性化に対するDTT濃度およびコバルト濃度の影響を示す図である。(A)アポα2β2の活性化に対するDTT濃度の影響を示す。(B)アポα2β2の活性化に対するコバルト濃度の影響を示す。同一条件で3回以上実施し、得られた数値の平均値±標準偏差を示す。
【図4】精製したR-アポα(-A3G)2β2の特徴を示す図である。(A)アポ(α-A3G)2β2とアポαe2の混合物の0時間後(レーン1)、12時間後(レーン2)のSDS-PAGE、および精製R-アポ(α-A3G)2β2のSDS-PAGE(レーン3)を示す。(B)精製したホロα2β2、アポ(α-A3G)2β2およびR-アポ(α-A3G)2β2のUV-Visスペクトルを示す。
【図5】精製したホロαe2、アポαe2およびR-アポαe2の特徴を示す図である。精製したホロαe2、アポαe2およびR-アポαe2の(A)ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)、(B)CDスペクトルおよび(C)UV-Visのスペクトルを示す。
【図6】精製したホロα2β2、アポα2β2およびR-アポα2β2の特徴を示す図である。精製したホロα2β2、アポα2β2およびR-アポα2β2の(A)SDS-PAGEおよび(B)UV-Visのスペクトルを示す。
【図7】R-アポαe2の金属結合ペプチド(EK46)のMALDI-TOF MSスペクトルを示す図である。挿入図は、アポαe2(上)およびホロαe2(下)の金属結合ペプチド(EK46)のMALDI-TOF MSスペクトルを示している。
【図8】L-NHaseへのコバルト導入に一度使用されたNhlAEの再利用を示す図である。(A)KPB(pH 7.5)中のアポα2β2とホロαe2の混合物の0時間後(レーン1)および12時間後(レーン2)のSDS-PAGE、および精製R-ホロαe2(レーン3)のSDS-PAGEを示す。(B)R-ホロαe2およびアポαe2によるアポα2β2の活性化を示す。同一条件で3回以上実施し、得られた数値の平均値±標準偏差を示す。(C)精製したホロαe2、アポαe2およびR-ホロαe2のUV-Visスペクトルを示す。
【図9】L-NHaseへのコバルト導入過程モデル図である。コバルトイオンは黒円で示す。
【図10】NhlEタンパク質のアミノ酸配列と他の活性化タンパク質のアミノ酸配列とのアライメントを示す。
【図11】セルフサブユニットスワッピングによるH-NHaseの成熟化の仕組みを示す図である。ホロαサブユニットは紫色で示す。アポH-NHaseのアポαサブユニットは白色で、NhhAGのホロαサブユニットは紫色で示す。曲線の矢印は、コバルトイオンの受け渡しを示している。
【図12】プラスミドコンストラクションの構造を示す図である。アスタリスクはnhhAの変異遺伝子を示す。
【図13】NhhE、NhlG、P14K、L-NHaseのβサブユニット(NhlB)およびH-NHaseのβサブユニット(NhhB)ならびにB. pallidus RAPc8(RAPB)のH-NHaseのβサブユニットのアミノ酸配列アライメントを示す図である。アスタリスクは、アミノ酸残基が全タンパク質で保存されていることを示す。
【図14】H-NHaseとNhhAGの発現および精製の結果を示す図である。SDS-PAGE:(A)各R. fascians DSM12674形質転換体の無細胞抽出物;(B)精製されたH-NHaseおよびNhhAG。(C)精製されたH-NHaseおよびNhhAGのSuperose 6 HR 10/30カラム上でのゲルろ過プロファイル。(D)Superose 12 HR 10/30カラム上でのNhhAGの分子量と構造の決定。nhhAおよびnhhG(DDBJ受託番号:BAA11044(nhhA)およびBBA11045(nhhG))は、それぞれ203 aa(22.8 kD)および104 aa(11.7 kD)のタンパク質をコードする。ゲルろ過に用いたマーカータンパク質:(i)グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(酵母)(290 kDa);(ii)乳酸デヒドロゲナーゼ(ブタの心臓))(142 kDa);(iii)エノラーゼ(酵母)(67 kDa);(iv)ミオキナーゼ(酵母)(32 kDa);(v)シトクロムc(ウマの心臓)(12.4 kDa)。
【図15】ホロNhhAGによるアポH-NHaseの翻訳後活性化を示す図である。10 mM KPB(pH 7.5)中でアポH-NHase(終濃度0.01 mg/ml)を精製ホロNhhAGと28℃でインキュベートした。前記混合物にて使用したホロNhhAG濃度は、それぞれ0.2、0.1または0.05 mg/ml(終濃度)であった。表示時刻においてサンプルを分取し、H-NHase活性についてサンプルをアッセイした。値は、独立に行った4つの重複する系の実験で平均値±標準偏差で示す。
【図16】精製したH-NHaseと得られたH-NHaseの(A)遠赤外線CDスペクトルおよび(B)UV-Vis吸光スペクトルを示す図である。
【図17】精製したNhhAGと得られたアポNhhAGの(A)遠赤外線CDスペクトルおよび(B)UV-Vis吸光スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
タンパク質複合体αe2および低分子量型ニトリルヒドラターゼの成熟化
本発明は、
(i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびeサブユニットを含む未成熟タンパク質複合体αe2
(ii) コバルトとを
還元剤の存在下に接触させるステップを含む、前記未成熟タンパク質複合体αe2の成熟化方法を提供する。
また、本発明は、
(i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびeサブユニットを含む未成熟タンパク質複合体αe2
(ii) コバルトと
(iii) 未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質とを
還元剤の存在下に接触させることを含む、前記未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質の成熟化方法を提供する。
【0020】
ニトリルヒドラターゼは、αサブユニットおよびβサブユニットから形成され、その活性中心に金属元素(コバルト、鉄など)を有する酵素であるが、金属元素の含有量が低いとその活性も低いことが知られている。
本発明者らはこれまでに、低分子量型ニトリルヒドラターゼ(L-NHase)にコバルトが導入されるメカニズムを解明している。図1Bに示すように、L-NHaseへのコバルトの導入は、コバルト元素低含有型のL-NHase(アポL-NHase)と、コバルト高含有型のそのメディエータ(Cys-SO2-およびCys-SO-の金属配位子を含むホロNhlAE)との間で起こるサブユニットの交換によって生じることを明らかにした。すなわち、ニトリルヒドラターゼのコバルト元素低含有型αサブユニットを、コバルト元素高含有型αサブユニットに交換することで(「セルフサブユニットスワッピング」)、ニトリルヒドラターゼの金属元素含有量を高め、酵素活性の高いニトリルヒドラターゼへと成熟化することができることを見出した(図1B)。図1B中Step 1はin vivo(宿主内)、Step 2はin vitroでの様子を示す。
【0021】
低分子量型ニトリルヒドラターゼの成熟化では、まず、αサブユニットをコードする遺伝子(図1、nhlA)とeサブユニットをコードする遺伝子(図1、nhlE)の2つのORF(図1、nhlAE)を持つプラスミドを宿主に導入し、該宿主にタンパク質複合体αe2(NhlAE)を生成させる。発明者らの研究の結果、該タンパク質複合体を構成するNhlAタンパク質(ニトリルヒドラターゼのαサブユニット)を所定の条件において生成させると、コバルト元素高含有型で取得できることが分かっている。
【0022】
また、βサブユニットをコードする遺伝子(図1、nhlB)とαサブユニットをコードする遺伝子(図1、nhlA)の2つのORF(図1、nhlBA)を持つプラスミドを宿主に導入し、該宿主に4量体(α2β2)および2量体(αβ)のニトリルヒドラターゼを生成させる。発明者らの研究の結果、これらのニトリルヒドラターゼは、コバルト元素含有量が低く、酵素活性も低い未成熟な酵素であることが分かっている。また、これらのニトリルヒドラターゼを構成するαサブユニットは、コバルト元素低含有型であることも分かっている。
【0023】
次に、前記タンパク質複合体αe2を用いて、未成熟ニトリルヒドラターゼを成熟化させる。具体的には、タンパク質複合体αe2と、未成熟ニトリルヒドラターゼ(4量体(α2β2)および2量体(αβ))とを、in vitroにおいて混合する。このとき、4量体(α2β2)および2量体(αβ)の未成熟ニトリルヒドラターゼのコバルト元素低含有型αサブユニットαが、タンパク質複合体αe2を構成するコバルト元素高含有型αサブユニットαと交換される。そして、ニトリルヒドラターゼ自体のコバルト元素含有量が増加する。その結果、未成熟ニトリルヒドラターゼが酵素活性の高い状態へと成熟化するため、成熟化ニトリルヒドラターゼを生産することができる。このように、セルフサブユニットスワッピングに用いられるコバルト元素高含有型αサブユニットは、タンパク質複合体αe2の形態で供される。
「成熟化ニトリルヒドラターゼ」とは、構造変換により、活性中心金属含有量が高く活性化した状態の酵素を意味する。本明細書において、「成熟化ニトリルヒドラターゼ」は、「ホロ酵素α2β2」とも称する。なお、本発明において、活性中心金属は、コバルトや鉄等が挙げられ、コバルトが好ましい。
【0024】
タンパク質複合体αg2および高分子量型ニトリルヒドラターゼの成熟化
本発明者らの研究の結果、高分子量型ニトリルヒドラターゼの成熟化の媒体であるタンパク質複合体αg2(NhhAG)が、NhhGとH-NHaseのαサブユニットとからなることを見い出した。そして、タンパク質複合体αg2のαサブユニットを所定の条件において生成させると、コバルト元素高含有型で取得できることが判明した。即ち、本発明者らは、L-NHaseに加えて、H-NHaseの成熟化もセルフサブユニットスワッピングに依存することを確認し、H-NHase遺伝子(nhhBA)の直ぐ下流に存在するnhhG遺伝子にコードされるgサブユニットが、機能的なH-NHase発現に不可欠であることを見出した。
【0025】
また、H-NHaseへのコバルトの取り込みは、L-NHaseの場合と同様に、コバルトフリーH-NHase(アポH-NHase)のコバルトフリーαサブユニット(アポαサブユニット)とコバルト含有NhhAG(ホロNhhAG)との交換に依存することが示された。
【0026】
従って、本発明は、
(i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびgサブユニットを含む未成熟タンパク質複合体αg2
(ii) コバルトとを
還元剤の存在下に接触させるステップを含む、前記未成熟タンパク質複合体αg2の成熟化方法を提供する。
【0027】
また、本発明は、
(i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびgサブユニットを含む未成熟タンパク質複合体αg2
(ii) コバルトと
(iii) 未成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質とを
還元剤の存在下に接触させることを含む、前記未成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質の成熟化方法を提供する。
【0028】
高分子量型ニトリルヒドラターゼを成熟化させる方法においても、L-NHaseの成熟化と同様に、αサブユニットをコードする遺伝子(図11、nhhA)とgサブユニットをコードする遺伝子(図11、nhhG)の2つのORF(図11、nhhAG)を持つプラスミドを宿主に導入し、該宿主にタンパク質複合体αg2(NhhAG)を生成させる。この際に、タンパク質複合体αg2をコバルトの存在下で生成させると、コバルト元素高含有型のαg2が得られる。また、βサブユニットをコードする遺伝子(図11、nhhB)とαサブユニットをコードする遺伝子(図11、nhhA)の2つのORF(図11、nhhBA)を持つプラスミドを宿主に導入し、該宿主に高分子量型ニトリルヒドラターゼ(多量体(αnβn)(nは5以上の整数))を生成させる。
【0029】
次に、前記コバルト元素高含有αg2を用いて、未成熟ニトリルヒドラターゼを成熟化させる。具体的には、生成したタンパク質複合体αg2と、未成熟ニトリルヒドラターゼ(多量体(αnβn))とを、in vitroにおいて混合する。このとき、多量体(αnβn)の未成熟ニトリルヒドラターゼのコバルト元素低含有型αサブユニットが、タンパク質複合体αg2を構成するコバルト元素高含有型αサブユニットと交換される。それによって、未成熟ニトリルヒドラターゼタンパク質のコバルト元素含有量が増加する。その結果、ニトリルヒドラターゼが酵素活性の高い状態へと成熟化する。したがって、L-NHaseの成熟化と同様に、セルフサブユニットスワッピングに用いられるコバルト元素高含有型αサブユニットは、タンパク質複合体αg2の形態で供される。
なお、H-NHaseの成熟化についても、「成熟化ニトリルヒドラターゼ」の意味は、上記と同様である。また、αg2の活性中心金属についても、その例として、コバルトや鉄等が挙げられるが、コバルトが好ましい。
【0030】
タンパク質複合体αe2の再利用
従来、成熟化ニトリルヒドラターゼを生産するには、ニトリルヒドラターゼ構造遺伝子と共に、ニトリルヒドラターゼの成熟化に関わる遺伝子を同一の宿主内に導入し、成熟化ニトリルヒドラターゼとして発現させる必要があった。しかし、上記のようなセルフサブユニットスワッピングを利用したニトリルヒドラターゼ成熟化方法を用いれば、一旦、未成熟なまま発現したニトリルヒドラターゼ、または成熟化ニトリルヒドラターゼからコバルトが脱落して生じたニトリルヒドラターゼであっても、発現後に成熟化させることが可能である。従って、未成熟ニトリルヒドラターゼから、別に発現させたタンパク質複合体αe2を用いてニトリルヒドラターゼ成熟化を行うことによって、成熟化ニトリルヒドラターゼを工業的に生産することができる。
【0031】
しかしながら、これまでに、成熟化タンパク質複合体αe2(ホロNhlAE)がコバルトを取り込む際のメカニズム、コバルト元素高含有型αサブユニットのコバルト含有率の制御方法および反応後に生成するコバルト元素低含有型αサブユニットの再生方法などは明らかにされていなかった。
【0032】
今回本発明者は、in vitroにおいて、未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼ(アポL-NHase)がコバルトおよび還元剤の存在下で、コバルト低含有型の未成熟タンパク質複合体αe2(アポNhlAE)によって翻訳後に活性化されること、およびこの翻訳後の活性化はセルフサブユニットスワッピングによることを初めて見出した(図1C)。さらに、コバルト元素低含有型αサブユニットを含有するタンパク質複合体αe2を、還元剤の存在下にコバルトと接触させることで、αサブユニットの金属元素含有量を高め、セルフサブユニットスワッピングに利用可能なタンパク質複合体αe2へと成熟化できることを見出した(成熟化タンパク質複合体αe2)(図1C)。
In vitroにおいてコバルトは、未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼ(アポL-NHase)のコバルトを含まないサブユニット(アポαサブユニット)に挿入されるのではなく、未成熟タンパク質複合体αe2(アポNhlAE)のアポαサブユニットに直接挿入され、成熟化タンパク質複合体αe2(ホロNhlAE)が形成される。そして、この成熟化タンパク質複合体αe2は、セルフサブユニットスワッピングにより、未成熟ニトリルヒドラターゼを成熟化させることができる。
【0033】
また、本発明者はin vitroでタンパク質のシステイン残基がCys-SO2HおよびCys-SOHへ翻訳後酸化されることを初めて見出した。NhlEタンパク質は、αサブユニット内でシステイン配位子の翻訳後酸化を促進することが示された。
【0034】
さらに本発明者らは、一度L-NHaseの成熟化に用いられたNhlAEにコバルトを導入することにより、未成熟タンパク質複合体αe2が成熟化タンパク質複合体αe2(ホロNhlAE)となることを見出した。そして、生成したホロNhlAEは、コバルトをL-NHaseに導入するのに再利用可能であることを見出した。これら知見により、in vivoでのL-NHaseの生合成全体のメカニズムが提言される(図1C)。
【0035】
従って、本発明は、
(i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびβサブユニットを含む未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質と、前記「低分子量型ニトリルヒドラターゼの成熟化」の項で説明した未成熟タンパク質複合体αe2の成熟化方法により得られた成熟タンパク質複合体αe2とを接触させて成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質および未成熟タンパク質複合体αe2を生成し、該未成熟タンパク質複合体αe2
(ii) コバルトとを
還元剤の存在下に接触させるステップを含む、前記未成熟タンパク質複合体αe2の成熟化方法を提供する。
【0036】
またさらに、本発明は、
(i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびβサブユニットを含む未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質と、前記「低分子量型ニトリルヒドラターゼの成熟化」の項で説明した未成熟タンパク質複合体αe2の成熟化方法により得られた成熟タンパク質複合体αe2とを接触させて成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質および未成熟タンパク質複合体αe2を生成し、該未成熟タンパク質複合体αe2
(ii) コバルトと
(iii) 未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質とを
還元剤の存在下に接触させることを含む、前記未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質の成熟化方法も提供する。
【0037】
タンパク質複合体αg2の再利用
前記「高分子量型ニトリルヒドラターゼの成熟化」で述べたように、L-NHaseの成熟化とH-NHaseの成熟化は、共にセルフサブユニットスワッピング機構に依存する点で共通する。従って、複合タンパク質αg2も、αe2と同様に、未成熟型H-NHaseとの接触によって生じた未成熟型αg2にコバルトを挿入することによって成熟化させることが可能であると考えられる。また、このように、成熟化された複合タンパク質αg2は、L-NHaseの場合と同様に、再び未成熟型H-NHaseの成熟化に利用できると考えられる。
【0038】
従って、本発明は、
(i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびβサブユニットを含む未成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質と、前記「高分子量型ニトリルヒドラターゼの成熟化」の項で説明した未成熟タンパク質複合体αg2の成熟化方法により得られた成熟タンパク質複合体αg2とを接触させて成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質および未成熟タンパク質複合体αg2を生成し、該未成熟タンパク質複合体αg2
(ii) コバルトとを
還元剤の存在下に接触させるステップを含む、前記未成熟タンパク質複合体αg2の成熟化方法を提供する。
【0039】
また、本発明は、
(i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびβサブユニットを含む未成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質と、前記「高分子量型ニトリルヒドラターゼの成熟化」の項で説明した未成熟タンパク質複合体αg2の成熟化方法により得られた成熟タンパク質複合体αg2とを接触させて成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質および未成熟タンパク質複合体αg2を生成し、該未成熟タンパク質複合体αg2
(ii) コバルトと
(iii) 未成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質とを
還元剤の存在下に接触させることを含む、前記未成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質の成熟化方法を提供する。
【0040】
タンパク質複合体αe2/αg2
ここで、「成熟化タンパク質複合体」とは、構造変換により、複合体を構成するαサブユニット中の活性中心金属(コバルト元素)含有量が高く、活性化した状態の複合体を意味する。本明細書において、「成熟化タンパク質複合体αe2/αg2」または「成熟化NhlAE/NhhAG」は、「コバルト高含有型タンパク質複合体αe2/αg2(NhlAE/NhhAG)」、「ホロタンパク質複合体αe2/αg2(NhlAE/NhhAG)」または「ホロαe2/αg2」と称することもある。
【0041】
なお、本明細書において、セルフサブユニットスワッピングに利用可能な成熟化タンパク質複合体αe2/αg2とは、ニトリルヒドラターゼのコバルト元素低含有型αサブユニットと交換され得るαサブユニットを含むタンパク質複合体αe2/αg2であること、またはセルフサブユニットスワッピングに利用し得るαサブユニットを含むタンパク質複合体αe2/αg2であることを意味する。
【0042】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
本発明タンパク質複合体αe2/αg2の成熟化方法は、微生物由来のタンパク質複合体αe2/αg2およびニトリルヒドラターゼの成熟化に用いることができる。本発明において、これらを産生する微生物の種は特に限定されないが、例えば、Achromobacter属、Acinetobacter属、Aeromonas属、Agrobacterium属、Bacillus属、Citrobacter属、Corynebacterium属、Enterobacter属、Erwinia属、Geobacillus属、Klebsiella属、Micrococcus属、Nocardia属、Pseudomonas属、Pseudonocardia属、Rhodococcus属、Streptomyces属、Thermophila属、Rhizobium属およびXanthobacter属等に属する微生物由来のタンパク質複合体αe2およびニトリルヒドラターゼに用いることができる。好ましい微生物の例は、Rhodococcusに属する微生物であり、特に好ましくはRhodococcus rhodochrous J1菌である。
【0043】
本発明におけるタンパク質複合体αe2は、αサブユニット1分子と、eサブユニット2分子を含むタンパク質複合体である。同様に、タンパク質複合体αg2は、αサブユニット1分子と、gサブユニット2分子を含むタンパク質複合体である。
【0044】
本発明におけるタンパク質複合体αe2は、例えば、配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質(L-NHaseのαサブユニット)と、配列番号4に示すアミノ酸配列からなるタンパク質(L-NHaseのeサブユニット)とを有するタンパク質複合体であってもよい。
【0045】
タンパク質複合体αe2を構成するαサブユニットは、低分子量型ニトリルヒドラターゼを構成するαサブユニットと同一のタンパク質であり、eサブユニットとともにタンパク質複合体αe2を構成する。本発明において、L-NHaseのαサブユニットは、例えば、配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質(NhlAタンパク質)が挙げられるが、コバルト元素を含有可能であれば、配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質に限定されない。すなわち、配列番号2に示すアミノ酸配列を含むタンパク質や、配列番号2に示すアミノ酸配列において1〜複数個(例えば1〜100個、1〜65個、1〜30個)、好ましくは1〜数個(1〜10個、1〜5個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1または2個)のアミノ酸が置換、欠損もしくは挿入またはそれらの組み合わされたアミノ酸配列を含むタンパク質であって、L-NHaseのαサブユニットと同様の機能を有するタンパク質も、L-NHaseのαサブユニット(以下、「NhlAタンパク質」ともいう)に含まれる。なお、上記コバルトは鉄であってもよい。ここで、「L-NHaseのαサブユニットと同様の機能」とは、L-NHaseのeサブユニットとタンパク質複合体を形成し、コバルト元素を取り込むことによって該タンパク質複合体を活性化させ、そして、未成熟L-NHaseタンパク質のαサブユニットとのセルフサブユニットスワッピングにより、、該L-NHaseタンパク質を成熟化させる機能を意味する。この機能は、以下の手順により確認できる。
(i) 対象タンパク質をコードする遺伝子をnhlE遺伝子と共にコバルトの存在下で前述の微生物中で発現させてタンパク質複合体を生成させる
(ii) 該微生物をコバルト含有培地中で培養した後に前記タンパク質複合体に含まれる対象タンパク質のコバルト含有量を測定する
(iii) 該タンパク質複合体をアポL-NHaseと接触させ、接触により生じたL-NHaseがニトリル化合物を分解できるかどうかを調べる
確認方法の具体例としては、下記の実施例1で行った実験の操作が挙げられるが、これに限定されるものではない。
配列番号2に示すアミノ酸配列において1〜複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは挿入またはそれらの組み合わされたアミノ酸配列としては、例えば、配列番号2に示すアミノ酸配列に対して、例えば、30%以上、33%以上、40%以上、41%以上、60%以上、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を挙げることができる。
【0046】
アミノ酸配列の同一性については、例えば、GENETYX ver8.2.1等の市販の配列解析ソフトウェアを用いて計算することができる。
【0047】
また、タンパク質複合体αe2を構成するeサブユニットは、L-NHaseのαサブユニットとともにタンパク質複合体αe2を構成する。本発明において、eサブユニットは、例えば、配列番号4に示すアミノ酸配列からなるタンパク質(以下、「NhlEタンパク質」ともいう)が挙げられるが、L-NHaseのαサブユニットとともにタンパク質複合体αe2を構成する性質、あるいは低分子量型ニトリルヒドラターゼのセルフサブユニットスワッピングを妨げない性質を有する限り、配列番号4に示すアミノ酸配列からなるタンパク質に限定されない。すなわち、配列番号4に示すアミノ酸配列を含むタンパク質や、配列番号4に示すアミノ酸配列において1〜複数個(例えば1〜100個、1〜65個、1〜30個)、好ましくは1〜数個(1〜10個、1〜5個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1または2個)のアミノ酸が置換、欠損もしくは挿入またはそれらの組み合わされたアミノ酸配列を含むタンパク質であって、L-NHaseのeサブユニットと同様の機能を有するタンパク質も、L-NHaseのeサブユニットに含まれる。ここで、「L-NHaseのeサブユニットと同様の機能」とは、L-NHaseのαサブユニットとタンパク質複合体を形成し、該αサブユニットがコバルト元素を取り込むことによってタンパク質複合体αe2として成熟化され、成熟化タンパク質複合体αe2として未成熟L-NHaseタンパク質と接触することにより、該未成熟L-NHaseを成熟化させる機能を意味する。この機能は、以下の手順により確認できる。
(i) 対象タンパク質をコードする遺伝子をnhlA遺伝子と共に前述の微生物中で発現させて、タンパク質複合体を生成させる
(ii) 該微生物をコバルト含有培地中で培養した後に前記タンパク質複合体に含まれるαサブユニットのコバルト含有量を測定する
(iii) 該タンパク質複合体をアポL-NHaseと接触させ、接触により生じたL-NHaseがニトリル化合物を分解できるかどうかを調べる
確認方法の具体例としては、下記の実施例1で行った実験の操作が挙げられるが、これに限定されるものではない。
配列番号4に示すアミノ酸配列において1〜複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは挿入またはそれらの組み合わされたアミノ酸配列としては、例えば、配列番号4に示すアミノ酸配列に対して、例えば、30%以上、33%以上、40%以上、41%以上、60%以上、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を挙げることができる。本発明において、実施例7に示す活性化タンパク質もeサブユニットに含まれる。
さらに、本発明においてNhlEタンパク質が、NhlAタンパク質へのコバルトの導入または低分子量型ニトリルヒドラターゼαサブユニットのセルフサブユニットスワッピングにおいて、L-NHase形成のシャペロンとして機能するタンパク質であると、より好ましい。この場合「L-NHase形成のシャペロン」とは、NhlAタンパク質やL-NHaseの立体構造の形成や、NhlAタンパク質の運搬を助ける機能を有するタンパク質を意味する。「NhlAタンパク質の運搬を助ける機能」とは、NhlAタンパク質とタンパク質複合体αe2を形成して、未成熟型L-NHaseのαサブユニットとタンパク質複合体αe2のαサブユニットとのセルフサブユニットスワッピングによって該未成熟L-NHaseを成熟化させる機能を意味する。
【0048】
NhlEタンパク質をコードする遺伝子(以下、「nhlE遺伝子」)は、低分子量型ニトリルヒドラターゼをコードする遺伝子、すなわちL-NHase のβサブユニットをコードする遺伝子とαサブユニットをコードする遺伝子(以下、それぞれ「nhlB遺伝子」および「nhlA遺伝子」ともいう)の下流に位置する(図12参照)。
これらの遺伝子を含む微生物の例として、例えば、Achromobacter属、Acinetobacter属、Aeromonas属、Agrobacterium属、Bacillus属、Citrobacter属、Corynebacterium属、Enterobacter属、Erwinia属、Geobacillus属、Klebsiella属、Micrococcus属、Nocardia属、Pseudomonas属、Pseudonocardia属、Rhodococcus属、Streptomyces属、Thermophila属、Rhizobium属およびXanthobacter属などの微生物を挙げることができる。本発明において、これらの遺伝子を含む好ましい微生物はRhodococcus属に属する微生物である。これらの遺伝子の代表例として、Rhodococcus rhodochrous J1菌における遺伝子の塩基配列を配列番号5に示す。
【0049】
前記タンパク質複合体は、nhlA遺伝子をコードする配列(配列番号5に示す塩基配列のうち第745番目から第1368番目の配列)とnhlE遺伝子をコードする配列(配列番号5に示す塩基配列のうち第1370番目から第1816番目の配列)を少なくとも含むプラスミドを用いて、取得することができる。
【0050】
本発明におけるタンパク質複合体αg2は、例えば、配列番号14に示すアミノ酸配列からなるタンパク質(H-NHaseのαサブユニット)と、配列番号16に示すアミノ酸配列からなるタンパク質(H-NHaseのgサブユニット)とを有するタンパク質複合体であってもよい。
【0051】
タンパク質複合体αg2を構成するαサブユニットは、高分子量型ニトリルヒドラターゼを構成するαサブユニットと同一のタンパク質であり、gサブユニットとともにタンパク質複合体αg2を構成する。本発明において、H-NHaseのαサブユニットは、例えば、配列番号14に示すアミノ酸配列からなるタンパク質(NhhAタンパク質)が挙げられるが、コバルト元素を含有可能であれば、配列番号14に示すアミノ酸配列からなるタンパク質に限定されない。すなわち、配列番号14に示すアミノ酸配列を含むタンパク質や、配列番号14に示すアミノ酸配列において1〜複数個(例えば1〜100個、1〜65個、1〜30個)、好ましくは1〜数個(1〜10個、1〜5個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1または2個)のアミノ酸が置換、欠損もしくは挿入またはそれらの組み合わされたアミノ酸配列を含むタンパク質であって、H-NHaseのαサブユニットと同様の機能を有するタンパク質も、H-NHaseのαサブユニット(以下、「NhhAタンパク質」ともいう)に含まれる。なお、上記コバルトは鉄であってもよい。
【0052】
ここで、「H-NHaseのαサブユニットと同様の機能」とは、H-NHaseのgサブユニットとタンパク質複合体を形成し、コバルト元素を取り込むことによって該タンパク質複合体を活性化させ、そして、未成熟H-NHaseタンパク質のαサブユニットとのセルフサブユニットスワッピングにより、該H-NHaseタンパク質を成熟化させる機能を意味する。この機能は、以下の手順により確認できる。
(i) 対象タンパク質をコードする遺伝子をnhhG遺伝子と共にコバルトの存在下で前述の微生物中で発現させてタンパク質複合体を生成させる
(ii) 該微生物をコバルト含有培地中で培養した後に前記タンパク質複合体に含まれる対象タンパク質のコバルト含有量を測定する
(iii) 該タンパク質複合体をアポH-NHaseと接触させ、接触により生じたH-NHaseがニトリル化合物を分解できるかどうかを調べる
確認方法の具体例としては、下記の実施例10および11で行った実験の操作が挙げられるが、これに限定されるものではない。
配列番号14に示すアミノ酸配列において1〜複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは挿入またはそれらの組み合わされたアミノ酸配列としては、例えば、配列番号14に示すアミノ酸配列に対して、例えば、30%以上、33%以上、40%以上、41%以上、60%以上、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を挙げることができる。
【0053】
また、タンパク質複合体αg2を構成するgサブユニットは、H-NHaseのαサブユニットとともにタンパク質複合体αg2を構成する。本発明において、gサブユニットは、例えば、配列番号16に示すアミノ酸配列からなるタンパク質(以下、「NhhGタンパク質」ともいう)が挙げられるが、H-NHaseのαサブユニットとともにタンパク質複合体αg2を構成する性質、あるいはニトリルヒドラターゼのセルフサブユニットスワッピングを妨げない性質を有する限り、配列番号16に示すアミノ酸配列からなるタンパク質に限定されない。すなわち、配列番号16に示すアミノ酸配列を含むタンパク質や、配列番号16に示すアミノ酸配列において1〜複数個(例えば1〜100個、1〜65個、1〜30個)、好ましくは1〜数個(1〜10個、1〜5個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1または2個)のアミノ酸が置換、欠損もしくは挿入またはそれらの組み合わされたアミノ酸配列を含むタンパク質であって、H-NHaseのgサブユニットと同様の機能を有するタンパク質も、gサブユニットに含まれる。
【0054】
ここで、「H-NHaseのgサブユニットと同様の機能」とは、H-NHaseのαサブユニットとタンパク質複合体を形成し、該αサブユニットがコバルト元素を取り込むことによってタンパク質複合体αg2として成熟化され、成熟化タンパク質複合体αg2として未成熟H-NHaseタンパク質と接触することにより、該未成熟H-NHaseを成熟化させる機能を意味する。この機能は、以下の手順により確認できる。
(i) 対象タンパク質をコードする遺伝子をnhhG遺伝子と共に前述の微生物中で発現させて、タンパク質複合体を精製する
(ii) 該微生物をコバルト含有培地中で培養した後に前記タンパク質複合体に含まれるαサブユニットのコバルト含有量を測定する
(iii) 該タンパク質複合体をアポH-NHaseと接触させ、接触により生じたH-NHaseがニトリル化合物を分解できるかどうかを調べる
確認方法の具体例としては、下記の実施例10および11で行った実験の操作が挙げられるが、これに限定されるものではない。
配列番号16に示すアミノ酸配列において1〜複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは挿入またはそれらの組み合わされたアミノ酸配列としては、例えば、配列番号16に示すアミノ酸配列に対して、例えば、30%以上、33%以上、40%以上、41%以上、60%以上、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を挙げることができる。
さらに、本発明においてNhhGタンパク質が、NhhAタンパク質へのコバルトの導入または高分子量型ニトリルヒドラターゼαサブユニットのセルフサブユニットスワッピングにおいて、H-NHase形成のシャペロンとして機能するタンパク質であると、より好ましい。この場合「H-NHase形成のシャペロン」とは、NhhAタンパク質やH-NHaseの立体構造の形成や、NhhAタンパク質の運搬を助ける機能を有するタンパク質を意味する。「NhhAタンパク質の運搬を助ける機能」とは、NhhAタンパク質とタンパク質複合体αg2を形成し、未成熟型H-NHaseのαサブユニットとタンパク質複合体αg2のαサブユニットとのセルフサブユニットスワッピングによって該未成熟H-NHaseを成熟化させる機能を意味する。
【0055】
NhhGタンパク質をコードする遺伝子(以下、「nhhG遺伝子」)は、高分子量型ニトリルヒドラターゼをコードする遺伝子、すなわちH-NHaseのβサブユニットをコードする遺伝子とαサブユニットをコードする遺伝子(以下、それぞれ「nhhB遺伝子」および「nhhA遺伝子」ともいう)の下流に位置する(図12参照)。
これらの遺伝子を含む微生物の例として、例えば、Achromobacter属、Acinetobacter属、Aeromonas属、Agrobacterium属、Bacillus属、Citrobacter属、Corynebacterium属、Enterobacter属、Erwinia属、Geobacillus属、Klebsiella属、Micrococcus属、Nocardia属、Pseudomonas属、Pseudonocardia属、Rhodococcus属、Streptomyces属、Thermophila属、Rhizobium属およびXanthobacter属などの微生物を挙げることができる。本発明において、これらの遺伝子を含む好ましい微生物はRhodococcus属に属する微生物である。これらの遺伝子の代表例として、Rhodococcus rhodochrous J1菌における遺伝子の塩基配列を配列番号17に示す。
【0056】
前記タンパク質複合体は、αサブユニット(NhhA)をコードする塩基配列(配列番号17に示す塩基配列のうち第704番目から第1315番目の配列)とgサブユニット(NhhG)をコードする塩基配列(配列番号17に示す塩基配列のうち第1312番目から第1626番目の配列)を少なくとも含むプラスミドを用いて、取得することができる。
【0057】
nhlA遺伝子およびnhlE遺伝子(nhlAE)を含むプラスミドは、公知の方法により作製できる。例えば、nhlA遺伝子およびnhlE遺伝子と同一の配列を含むDNAを調製し、それらのDNA(予め連結したものを含む)とプラスミドDNAとを制限酵素で処理した後、連結酵素で処理することにより、プラスミドDNAに目的DNAが組み込まれ、前記プラスミドを作製できる。また、nhhA遺伝子およびnhhG遺伝子(nhhAG)を含むプラスミドについても、プラスミドに組み込まれるDNAがnhhA遺伝子およびnhhG遺伝子を含む点を除いては、nhlAEを含むプラスミドと同様に作製できる。
【0058】
本発明のタンパク質複合体αe2/αg2は、nhlAE を含むプラスミドまたはnhhAGを含むプラスミドで所定の宿主を形質転換し、形質転換体の培養物から精製することにより、簡易かつ大量に取得できる。タンパク質複合体の調製手段としては、公知の方法が広く適用可能である。
宿主としては、nhlAEまたはnhhAGが由来する上記微生物、大腸菌、酵母、動物細胞、植物細胞などを用いることができる。
【0059】
タンパク質複合体αe2/αg2の成熟化に用いられる還元剤は、ジチオスレイトール(DTT)、ジチオエリスレイトール、アスコルビン酸、β-メルカプトエタノール、メルカプトプロパン酸、還元型グルタチオンおよび酸化型グルタチオン、水素化ホウ素ナトリウム、システインなどを用いることができ、好ましくは、DTTまたはグルタチオンを用いることができる。本発明において、還元剤は、L-NHaseの成熟化またはH-NHaseの成熟化のいずれの場合においても、0.1〜20mM、好ましくは0.5〜10mM、より好ましくは1〜4mM、最も好ましくは1〜2mMの最終濃度で用いる。
タンパク質複合体αe2/αg2の成熟化に用いられる金属は限定されないが、コバルトや鉄が好ましく、コバルトがより好ましい。コバルトは、コバルトイオンとして反応系中に存在する。コバルトイオンはCo2+であっても、Co3+であってもよく、コバルトのレドックス状態には限定されない。Co2+の供与体としてはCoCl2が、Co3+の供与体としては[Co(NH3)6]Cl3が例示される。本発明において、コバルトイオンは、L-NHaseの成熟化またはH-NHaseの成熟化のいずれの場合においても、0.5〜100μM、好ましくは1〜80μM、より好ましくは5〜80μM、もっとも好ましくは10μMの最終濃度で用いる。
【0060】
次に、前記タンパク質複合体αe2/αg2の成熟化を行う。
【0061】
本発明のタンパク質複合体αe2の成熟化方法は図1Cを用いて説明する。図1C中、Step 1はin vivo(宿主内)、Step 2はin vitroでのαe2成熟化の様子を示す。
まず、nhlE遺伝子とnhlA遺伝子の2つのORFを持つプラスミドを宿主に導入し、未成熟タンパク質複合体αe2を精製する。発明者らの研究の結果、該タンパク質複合体を構成するNhlAタンパク質(αサブユニット)はコバルト元素低含有型であり、精製タンパク質複合体αe2中のNhlAタンパク質がコバルト元素高含有型であるためには、前記複合体をコバルトの存在下に取得する必要があることが分かっている。
【0062】
成熟化タンパク質複合体αe2は、具体的には、タンパク質複合体αe2とコバルトとを、還元剤の存在下にin vitroにおいて混合、添加、滴下等によって接触させて生産する。このとき、図1Cに示すように、タンパク質複合体αe2を構成するコバルト元素低含有型αサブユニットにコバルトが導入される。そして、αサブユニットのコバルト含有率が増加する。その結果、タンパク質複合体αe2がニトリルヒドラターゼのセルフサブユニットスワッピングに利用可能な状態へと成熟化し、成熟化タンパク質複合体αe2を生産することができる。
【0063】
本発明のタンパク質複合体αg2成熟化方法については図11を用いて説明する。図11中、Step 1はin vivo(宿主内)、Step 2はin vitroでのαg2成熟化の様子を示す。
まず、nhhG遺伝子とnhhA遺伝子の2つのORFを持つプラスミドを宿主に導入し、未成熟タンパク質複合体αg2を精製する。該タンパク質複合体を構成するNhhAタンパク質(αサブユニット)はコバルト元素低含有型であり、精製タンパク質複合体αg2中のNhhAタンパク質がコバルト元素高含有型であるためには、前記複合体をコバルトの存在下に取得する必要がある。
【0064】
成熟化タンパク質複合体αg2は、具体的には、タンパク質複合体αg2とコバルトとを、還元剤の存在下にin vitroにおいて混合、添加、滴下等によって接触させて生産する。このとき、図11に示すように、タンパク質複合体αg2を構成するコバルト元素低含有型αサブユニットにコバルトが導入される。そして、αサブユニットのコバルト含有率が増加する。その結果、タンパク質複合体αg2がニトリルヒドラターゼのセルフサブユニットスワッピングに利用可能な状態へと成熟化し、成熟化タンパク質複合体αg2を生産することができる。
【0065】
従来、成熟化タンパク質複合体αe2/αg2を生産するには、微生物における産生過程および精製工程においてコバルトを存在させる必要があった。そのため、工業レベルでの成熟化タンパク質複合体αe2/αg2生産は高コストであった。しかし、本発明のタンパク質複合体αe2/αg2成熟化方法を用いれば、一旦、未成熟なまま発現したタンパク質複合体αe2/αg2、または成熟化ニトリルヒドラターゼからコバルトが脱落して生じたタンパク質複合体αe2/αg2であっても、発現後に成熟化させることが可能となった。したがって、セルフサブユニットスワッピングによるニトリルヒドラターゼの成熟化に用いる複合体αe2/αg2のコバルト含有量をコストを掛けずにあらかじめ高めることが可能となり、セルフスサブユニットワッピングの効率を向上させることができる。
【0066】
また、本発明のタンパク質複合体αe2/αg2の成熟化方法により、ニトリルヒドラターゼを成熟化させることができる。具体的には、精製した未成熟タンパク質複合体αe2/αg2、未成熟ニトリルヒドラターゼおよびコバルトを、還元剤の存在下にin vitroにおいて混合、添加、滴下等して接触させる。接触は、例えば1〜24時間、好ましくは4〜16時間、より好ましくは12時間行う。
L-NHaseを成熟化させる場合、未成熟ニトリルヒドラターゼ1モルに対して、タンパク質複合体αe2を0.1〜10倍量、好ましくは1〜5倍量、より好ましくは2倍量接触させると、使用するαe2量に対して成熟化ニトリルヒドラターゼを効率よく取得することができる。
一方、H-NHaseを成熟化させる場合、未成熟ニトリルヒドラターゼ1モルに対して、タンパク質複合体αg2を0.1〜50倍量、好ましくは5〜20倍量、より好ましくは10倍量接触させると、使用するαg2量に対して成熟化ニトリルヒドラターゼを効率よく取得することができる。
一般的には、未成熟ニトリルヒドラターゼに対するメディエータ(αe2/αg2)の量が多い程、未成熟ニトリルヒドラターゼの成熟化の反応速度は速くなる。
【0067】
図1Cおよび図11に示すように、上記接触により、未成熟タンパク質複合体αe2/αg2が、コバルトおよび還元剤と反応してコバルト高含有型の成熟化タンパク質複合体αe2/αg2となる。そして、未成熟ニトリルヒドラターゼのコバルト元素低含有型αサブユニットが、生成した成熟化タンパク質複合体αe2/αg2を構成するコバルト元素高含有型αサブユニットαと交換される。そして、ニトリルヒドラターゼタンパク質のコバルト元素含有量が増加する。その結果、ニトリルヒドラターゼが酵素活性の高い状態へと成熟化し、成熟化ニトリルヒドラターゼを生産することができる。
ニトリルヒドラターゼの成熟化の別の態様では、本発明のタンパク質複合体成熟化方法によって生産した成熟化タンパク質複合体αe2/αg2と、未成熟ニトリルヒドラターゼとをin vitroにおいて混合して接触させることで、ニトリルヒドラターゼを成熟化する。
【0068】
本発明のタンパク質複合体αe2/αg2の成熟化方法を利用したニトリルヒドラターゼの成熟化方法では、タンパク質複合体αe2/αg2を構成するαサブユニットがコバルト元素低含有型であっても、ニトリルヒドラターゼの成熟化に用いることができる。すなわち、当該コバルト元素低含有型のタンパク質複合体αe2/αg2を、還元剤の存在下にコバルトおよびニトリルヒドラターゼと接触させることでセルフサブユニットスワッピングが生じ、活性の高いニトリルヒドラターゼへと成熟化することができる。
【0069】
セルフサブユニットスワッピングでは、低分子量型ニトリルヒドラターゼとタンパク質複合体αe2のαサブユニット同士が交換されるので、成熟化後、成熟化低分子量型ニトリルヒドラターゼは金属元素高含有型αサブユニットを含有し、一方の前記タンパク質複合体は金属元素低含有量αサブユニットを含有することとなる。本発明のタンパク質複合体αe2の成熟化方法は、セルフサブユニットスワッピングで生じたコバルト元素低含有型αサブユニットにも用いることができる。本発明のタンパク質複合体αe2の成熟化方法によって、一度使用されたタンパク質複合体αe2のコバルト含有率を高めることができ、低分子量型ニトリルヒドラターゼの成熟化に再度利用することが可能となる。これにより、低分子量型ニトリルヒドラターゼの成熟化のためにタンパク質複合体αe2を新たに生成することなくタンパク質を再利用することが(リサイクル)可能となった。
【0070】
前記「高分子量型ニトリルヒドラターゼの成熟化」で述べたように、H-NHaseの成熟化は、L-NHaseの成熟化と同様に、セルフサブユニットスワッピング機構に依存する。従って、H-NHaseについても、L-NHaseと同様に、タンパク質複合体αg2をH-NHaseの成熟化に再利用できると考えられる。
【0071】
また、本発明において、成熟化タンパク質複合体αe2含まれるαサブユニットは、システインが酸化されていることが明らかとなった。本発明によって、タンパク質e(NhlE)は、翻訳後システイン酸化およびL-NHaseのαサブユニットへのコバルト導入のいずれにも不可欠であることが示される。同様に、H-NHaseのαサブユニットへのコバルト導入および翻訳後システイン酸化についても、αg2が必要であると考えられる。
【0072】
本発明において、前記生産方法で得られた成熟化ニトリルヒドラターゼは、反応性が高いため、あらゆるアミド化合物の工業的生産に用いることができる。すなわち、ニトリルヒドラターゼの成熟化方法で得られる成熟化ニトリルヒドラターゼを、ニトリル化合物に接触させることで、ニトリル化合物からアミド化合物を生産することができる。本発明はこのようなアミド化合物の生産方法を包含する。
【0073】
例えば、本発明で生産される成熟化ニトリルヒドラターゼを、アクリロニトリルまたは3−シアノピリジンに接触させることで、アクリルアミドまたはニコチンアミドをそれぞれ生産することができる。すなわち、本発明で生産される成熟化ニトリルヒドラターゼは、アクリルアミドの工業的生産において、アクリルニトリルからアクリルアミドへの変換酵素として用いることができる。本発明のアクリルアミド生産方法は、本発明により生産される成熟化ニトリルヒドラターゼを前記変換酵素として用いる工程を含む方法を全て包含する。さらに、本発明で生産される成熟化ニトリルヒドラターゼは、ニコチンアミドの工業的生産において、3−シアノピリジンからニコチンアミドへの変換酵素として用いることができる。本発明のニコチンアミド生産方法は、本発明により生産される成熟化ニトリルヒドラターゼを前記変換酵素として用いる工程を含む方法を全て包含する。
【実施例】
【0074】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明は実施例に記載された態様に限定されるものではない。
実施例1〜7においては、低分子量型NHase(L-NHase)について実験を行い、実施例8〜14においては、高分子量型NHase(H-NHase)について実験を行った。
【0075】
実施例1〜7で用いた材料および方法は以下のとおりである。
【0076】
(菌株およびプラスミド)
(i)L-NHaseの発現
ベクタープラスミドpREIT19の宿主としてRhodococcus fascians DSM43985を用いた。
ベクタープラスミドpREIT19は、nhlBAE、nhlAEおよびnhlBA-(α-A3G)の発現に用いた。これらの発現ベクターは特開2008-118959の実施例1と同様の方法で作製した。すなわち、Rhodococcus rhodochrous J1菌(特開平05−219972号公報参照)由来のニトリルヒドラターゼ遺伝子を含むプラスミドpLJK60(J.Biol.Chem.,271,15796-15802 1996)を鋳型としてPCRを行い、得られたPCR産物を本発明者らが先に発明したプラスミドpREIT19(特願2004-380940)に連結して、発現ベクターを得た。
【0077】
(培養条件)
システインが修飾されたコバルト元素高含有型タンパク質複合体αe2(以下、「ホロαe2」ともいう)を発現させる場合は、pREIT-nhlAEを担持したR. fascians DSM43985形質転換株を、CoCl2・6H2O(0.1 g/L)およびカナマイシン(50μg/ml)を含む2YT培地にて28℃で72時間生育し、12時間インキュベーションした後に誘導物質として0.1%(v/v)イソバレロニトリルを培地に添加した。
また、成熟化したL-NHase(以下、「ホロ酵素α2β2」)を発現させる場合は、pREIT-nhlBAEを担持したR. fascians DSM43985形質転換株を同一条件下にて96時間発育させた。ただし、誘導物質を24時間ごとに連続して合計4回添加して、発現させるL-NHaseの量を増やした。
【0078】
未成熟のタンパク質(アポ酵素)を発現させる場合は、pREIT-nhlAE、pREIT-nhlBAEおよびpREIT-nhlBA-(α-A3G)を担持したR. fascians DSM43985形質転換株を、それぞれ上記と同一条件下(ただし、CoCl2・6H2Oは培地に添加せず)でインキュベートした。プラスミドpREIT-nhlAEからは、未成熟のタンパク質複合体αe2(アポαe2)が発現し、pREIT-nhlBAEからは未成熟の4量体α2β2および2量体αβ(アポ酵素α2β2およびαβ)が発現し、pREIT-nhlBA-(α-A3G)からは4量体(α-A3G)2βおよび2量体(α-A3G)β(アポ(α-A3G)2β2および(α-A3G)β)が発現する。
【0079】
(生成したタンパク質の精製)
タンパク質の精製は、全ての精製段階で0.5 mM DTTを含む10 mM KPB(pH 7.5)を使用したこと以外は、非特許文献8に記載の方法と同じ方法で行った。R. fascians DSM43985形質転換株が生成したL-NHaseおよびNhlAEは、Hiload 16/60 Superdex 200-pg(GE Healthcare UK社)カラムおよびResource Q(6 ml)(GE Healthcare UK社)カラムを用いて、混合物から精製した。
なお、本発明者の研究では、上記条件下で精製したアポ酵素L-NHaseは主にヘテロ四量体(それぞれアポα2β2およびアポ(α-A3G)2β2)であり、ヘテロ二量体(アポαβおよびアポ(α-A3G)β)はほとんど確認されなかった。したがって、実施例では精製したアポα2β2およびアポ(α-A3G)2β2をアポ酵素NHaseとして使用した。
【0080】
(酵素アッセイ)
L-NHase活性は、10 mM KPB(pH 7.5)、20 mM 3-シアノピリジンおよび活性化緩衝液を含む10μlの酵素または適量の酵素を含む反応混合液(0.5 ml)中でアッセイした。20℃で20分間反応させた後、アセトニトリル0.5 mlを添加して反応を終了させた。反応混合液中で生成されたニコチンアミドの量を、非特許文献8に記載の方法で測定した。L-NHase活性1単位の定義は、20℃でニコチンアミド1μmol/分の生成を触媒する酵素の量とした。
【0081】
(分析法)
1 mm光路セルとサーマルインキュベーションシステム(20℃)を備えたJASCO分光偏光計(モデルJ-720W)(日本分光工業株式会社、東京)を用いてCD測定を実施した。CDスペクトルは、10 mM KPB (pH 7.5)中のタンパク質濃度0.2 mg/mlとし、遠紫外線領域(200〜260 nm)において得た。
UV-Visスペクトルは、島津UV-1700分光光度計(京都)を用いて室温で得た。
酵素を10 mM KPB(pH 7.5)に対して透析し、3.0 mg/mlに調製した。
【0082】
(アポα2β2のin vitroでの活性化)
特に明記しない限り、ルーチンのアポα2β2活性化緩衝液には、10 mM KPB(pH 7.5)、10μMコバルト、2 mM DTTを含有させた。活性化緩衝液中のアポα2β2およびアポαe2の最終濃度は0.1 mg/mlおよび0.4 mg/mlとした。特に明記しない限り、コバルト供与体としてCoCl2溶液を用いた。混合物は28℃でインキュベートした。
【0083】
[実施例1] コバルト存在下でのアポαe2によるアポL-NHaseの翻訳後活性化(in vitro)
本実施例では、コバルトを含むホロL-NHaseの形成過程を検討した。
アポL-NHase(アポα2β2)を10 mMカリウム-リン酸緩衝液(KPB)(pH 7.5)中でコバルト(最終濃度20μM)と混合した後、混合物中のL-NHase活性を測定した。
その結果、図2に示すように、L-NHaseの活性に有意な上昇は認められなかった(○、「apo-α2β2+Co2+」)。
しかし、アポα2β2を、アポαe2およびコバルトと混合すると、L-NHase活性は上昇し(□、「apo-α2β2+apo-αe2+Co2+」)、さらに、0.5 mMジチオスレイトール(DTT)をこの混合物に追加するとL-NHase活性が有意に上昇することが判明した(■、「apo-α2β2+apo-αe2+Co2++DTT」)。
一般に、金属シャペロンは、標的とするアポタンパク質に適切な金属イオンを直接導入し、その結果として機能性ホロタンパク質が形成される。L-NHaseの場合、補因子として機能するコバルトがL-NHaseの活性化にとって不可欠であることを考慮すると、in vitroでアポαe2がシャペロンとして機能し、コバルトをアポα2β2に導入した結果としてホロα2β2が形成され、NHase活性が上昇したと考えられる。
これらの結果から、in vitroにおいて、アポα2β2はコバルト存在下でアポαe2によって翻訳後活性化され、このニトリルヒドラターゼの成熟化はDTTを追加することで促進されることが示された。
【0084】
続いて、コバルト存在下でアポαe2がアポα2β2を活性化する際のDTT濃度の影響を調べた。20μMのCoCl2および、0 mM、0.5 mM、1 mM、2 mM、4 mM、6 mM、8 mMまたは10 mMのいずれかの濃度のDTTを含む活性化緩衝液中で、アポα2β2をアポαe2と混合し、12時間経過後に、一定量のサンプルを採取して、各活性混合物中のL-NHase活性を測定した。
その結果、活性混合物中のL-NHase活性は、DTT濃度が高くなるに従って上昇したが、DTT濃度が4 mMを超えると活性は低下した(図3A)。これらの結果から、コバルト存在下でアポαe2がアポα2β2を活性化する際には一定量のDTTが必要であり、DTTの濃度は2 mMが適していることが示された。
【0085】
また、アポα2β2の活性化に対するコバルト濃度の影響を、適当なDTT濃度で調べた。具体的には、2 mMのDTT、および0μM、5μM、10μM、20μM、40μM、60μMまたは80μMのいずれかの濃度のCoCl2を含む活性化緩衝液中でアポα2β2をアポαe2と混合した。12時間経過後に、一定量のサンプルを採取して、各活性混合物中のL-NHase活性を測定した。
その結果、10μMのコバルトを添加すると、活性混合物中のL-NHaseの活性は平衡に達した(図3B)。
したがって、2 mMのDTTと10μMのコバルトを含む条件がニトリルヒドラターゼの成熟化に最適な条件であるといえるため、以降の実験では特に言及する場合以外はこの条件で行った。
【0086】
[実施例2] アポα2β2、アポαe2、コバルトおよびDTTの混合物におけるL-NHaseのセルフサブユニットスワッピングによる成熟化
実施例1では、in vitroでアポαe2がコバルトをアポα2β2に導入した結果としてホロα2β2が形成されることが示された。実施例1でのホロα2β2形成メカニズムとして以下の2つのメカニズムが考えられる。
(i)アポαe2によりアポα2β2にコバルトが直接挿入されてホロα2β2が形成する(金属シャペロンとしてのアポαe2)。
(ii)コバルトとDTTの存在下でアポαe2がホロαe2に変換され、生じたホロαe2とアポα2β2との間のセルフサブユニットスワッピングによりホロα2β2が形成する。
したがって、本実施例では、ホロα2β2の形成メカニズムを検討した。
【0087】
アポα2β2、アポαe2、コバルトおよびDTTを混合した後に生成したホロL-NHase中のαサブユニットの由来を確認するため、部位特異的変異法およびN-末端アミノ酸配列解析を行った。具体的には、NhlAEのαサブユニットと識別するために、NHase中のαサブユニット内の3番目のアラニンをグリシンで置換した変異体アポL-NHase(pREIT-nhlBA-(α-A3G)から発現したアポ(α-A3G)2β2)を用いた。
アポ(α-A3G)2β2をアポαe2、コバルトおよびDTTと混合し、12時間後に生じたL-NHaseを混合物から精製した。以下、生成した酵素を「R-アポ(α-A3G)2β2」と称することもある。R-アポ(α-A3G)2β2の精製は、SDS-PAGEで確認した。図4Aに、反応混合物の0時間後(レーン1)、12時間後(レーン2)のSDS-PAGE、および精製R-アポ(α-A3G)2β2のSDS-PAGE(レーン3)を示す。
【0088】
次に、R-アポ(α-A3G)2β2の活性を確認した。また、精製したホロα2β2、アポ(α-A3G)2β2およびR-アポ(α-A3G)2β2のUV-Visスペクトルを測定した。
【0089】
その結果、R-アポ(α-A3G)2β2のコバルト含有量(1 molのαβ中0.96±0.04 mol、表1「R-apo-(α-A3G)2β2」)は、ホロα2β2(1 molのαβ中0.88±0.03 mol、表1「Holoα2β2」)と同程度であった(表1)。さらに、両者は同様のUV-Visスペクトルを示した(図4B)。また、R-アポ(α-A3G)2β2の酵素活性(275±8 U/mg、表1「R-apo-(α-A3G)2β2」)は、ホロα2β2の活性(345±12 U/mg、表1「Holoα2β2」)の約70%であった(表1)。このことから、R-アポ(α-A3G)2β2はホロL-NHaseであることが示された。
【表1】

【0090】
表1は、精製したNhlAE、L-NHase、R-NhlAEおよびR-L-NHaseの特徴を示す。各αサブユニットのN末端から3番目のアミノ酸を太字で示した。
本実施例において、酵素中のコバルトイオンの測定は、以下のように行った。まず、酵素を1 mM KPB(pH 7.5)に対して透析し、0.5 mg/mlに調製した。透析後、日本ジャーレル・アッシュICAP-575発光分光器を用いて、波長238.89 nm、積分時間3秒、850 mVで酵素を検出した。
表1のコバルト含有量(「Cobalt content」)および比活性(「Specific activity」)の値は、同一条件で3回以上実施したときに得られた数値の「平均値±標準偏差」を示す。「*」は未試験であることを示す。
【0091】
続いてR-アポ(α-A3G)2β2のαサブユニットのN-末端アミノ酸配列解析を行った。NH2-末端アミノ酸配列は、SDS-PAGE後にポリビニリデンジフルオリド膜にエレクトロブロットさせたサンプルを用いて解析した。解析にはプロテインシーケンサーProcise(Applied Biosystems社)を用いた。
配列解析の結果、R-アポ(α-A3G)2β2のαサブユニットの3番目のアミノ酸はアラニンであることが明らかになった(表1)。このことから、アポ(α-A3G)2β2のアポαサブユニットは、アポαe2のαサブユニットと置き換わることが示された。
この結果から、コバルトおよびDTTの存在下におけるアポαe2によるアポα2β2の翻訳後活性化は、セルフサブユニットスワッピングによる(上記(ii)のメカニズム)ことが確認された。
【0092】
[実施例3] アポαe2へのコバルト直接的導入
本発明者らは、セルフサブユニットスワッピングはアポα2β2とホロαe2との間で起こるが、アポα2β2とアポαe2との間では生じないことをすでに明らかにしている(非特許文献8)。
本実施例では、アポαe2、コバルトおよびDTTの存在下に、アポα2β2がセルフサブユニットスワッピングにより翻訳後活性化されるメカニズムを検討した。
【0093】
まず、アポα2β2不在下でアポαe2をコバルトおよびDTTと混合した。4時間インキュベーションした後に生じたアポαe2(以下、「R-アポαe2」とも称する)を精製した。精製後のアポαe2(R-アポαe2)のSDS-PAGEを図5Aに示す。
精製したアポαe2(R-アポαe2)の性質を、ホロαe2およびアポαe2と比較した。コバルト含有量の測定結果から、R-アポαe2には1 molのαe2中0.98 ± 0.08 molイオンが含まれており(表1「R-apo-αe2」)、ホロαe2における含有量(0.85±0.03 mol、表1「Holo-αe2」))と同程度であることが明らかになった(表1)。
また、R-アポαe2、ホロαe2およびアポαe2は同様のCDスペクトルを示した(図5B)。しかしながら、R-アポαe2のUV-Visスペクトルはホロαe2のUV-Visスペクトルと類似していたが、アポαe2のUV-Visスペクトルとは類似していなかった(図5C)。
【0094】
Co-NHaseの300〜350 nm領域での吸収は、S→Co3+の電荷移動を表していることが知られており、これは合成低スピンCo3+-チオレート錯体が280 nmで配位子から金属への電荷移動吸収帯を励起するためであることが報告されている。図5Cに示すように、R-アポαe2およびホロαe2は300〜350 nm領域にショルダーが観察されるため、ホロαe2およびR-アポαe2のCo-配位環境はCo-NHaseと同様であることが示された。
【0095】
一方、アポαe2不在下でアポα2β2をコバルトおよびDTTと混合した。4時間インキュベーションした後、生じたアポα2β2を精製した(図6A)。以下、生成したアポα2β2を「R-アポα2β2」とも称する。精製したアポα2β2(R-アポα2β2)の性質を、ホロα2β2およびアポα2β2と比較した。R-アポα2β2のUV-Visスペクトルはアポα2β2と類似していたが、ホロα2β2とは類似しておらず、300〜350 nm領域でショルダーは認められなかった(図6B)。
また、ホロα2β2中のコバルト含有量(1 molのαβ中0.88 ± 0.03 mol、表1「Holo-α2β2」)とは対照的に、R-アポα2β2中には1 molのαβ中0.16±0.03 molのコバルトイオンしか検出されなかった(表1「R-apo-α2β2」)。
【0096】
これらの結果から、in vitroにおいてコバルトイオンはアポαe2のアポαサブユニットに直接導入されるが、アポα2β2のアポαサブユニットには導入されないことが示された。
以上より、ニトリルヒドラターゼの成熟化では、まずアポαe2のコバルトを含まないαサブユニット(アポαサブユニット)にコバルトが挿入されてホロαe2が産生され、次にアポα2β2とこのホロαe2との間でセルフサブユニットスワッピングが起きてホロα2β2が産生され得ることが示された。
【0097】
[実施例4] R-アポαe2におけるシステイン修飾
本実施例は、R-アポαe2内のシステイン残基の修飾可能性について、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間質量分析法(MALDI-TOF MS)を用いて検討した。
【0098】
タンパク質複合体の変性実験および再生実験は、20 mMのTris-HCl緩衝液(pH 7.5)を用いて室温で実施した。SDSをR-アポαe2に慎重に添加し、2-メルカプトエタノールと混合した。R-アポαe2およびSDSの濃度はいずれも0.2 mg/mlとし、2-メルカプトエタノールの濃度は10%(v/v)とした(いずれも最終濃度)。2時間後、αサブユニットおよびNhlEの精製を、1% SDSを含む20 mM Tris-HCl緩衝液(pH 7.5)で平衡化したHiload 16/60 Superdex 200-pgカラムを用いてゲル濾過により行った。透析後、20 mM Tris-HCl緩衝液(pH 7.5)で平衡化したResource Q(6 ml)カラムでαサブユニットに残存するSDSを除去し、0.5リットルの緩衝液を用いてKClの濃度を0から0.5 Mまで直線的に上昇させてタンパク質を溶出させた。この手順を2回行ってαサブユニットを単離した。さらにタンパク質精製システムAKTA purifier(GE Healthcare UK社)を用いて、この2つの手順を再度行った。精製したR-アポαe2由来αサブユニットをMALDI-TOF MS分析に用いた。
【0099】
MALDI-TOF MS法は、Voyager-DE STR質量分析装置(米国Applied Biosystems社)を用いてリニアポジティブモードで行った。精製したR-アポαe2由来αサブユニットを1 mM DTTで還元して2.1 mMヨードアセトアミドでカルボキシメチル化し、次いで3倍量の50 mM Tris-HCl(pH 8.0)で希釈して35℃で20時間、トリプシンで処理した。このサンプルをZipTip C18カラム(Millipore社)で分離し、MALDIプレート上でマトリックス溶液(α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸を、0.1%トリフルオロ酢酸を含む50%アセトニトリルに飽和させた溶液)で消化させ、次いで室温で空気乾燥させた後、MALDI-TOF質量分析装置に挿入した。MASCOTプログラム(http://www.matrixscience.com/)用いて、L-NHaseサブユニット(NhlA、NhlB)およびNhlEの理論上のトリプシン消化を行い、未修飾トリプシンペプチドの可能性または疑われる修飾種(開裂部位が最高2つ欠損)について探索した。
このようなMALDI-TOF MSによる分析では、システイン残基、ジスルフィド結合しているシステイン残基およびCys114-SO-(存在する場合)は還元され、カルボキシアミドメチル化(CAM-)される。一方、システインスルフィン酸(Cys-SO2H)(存在する場合)はカルボキシアミドメチル化(CAM-)されず、Cys-SO2Hのままである。
【0100】
まず、実施例3で生成したR-アポαe2から単離したαサブユニット(R-アポαサブユニット)を還元し、カルボキシアミドメチル化した後に、トリプシン処理を行った。そして、金属配位子を有する残基全てを含む以下のトリプシンペプチドEK46の分子量を測定した。
EK46:E83MGVGGMQGEEMVVLENTGTVHNMVVC109TLC112SC114YPWPVLGLPPNWYK128(配列番号6)
【0101】
R-アポαサブユニット由来のペプチドEK46のMALDI-TOF MSスペクトルを、アポαe2から単離したアポαサブユニットの同スペクトルおよびホロαe2から単離したホロαサブユニットの同スペクトルと比較した(図7)。
本発明者は、これまでに、図7の挿入図においてピークが検出されたm/z値5242.4は3つのCAM-システインを有するEK46の[M+H]+イオンのm/z計算値に該当すること、およびm/z値5217.9は2つのCAM-システインおよび1つのCys-SO2Hを有するEK46の[M+H]+イオンのm/z計算値に該当することを明らかにしている。そしてこのことは、Cys112-SO2-がホロαe2内に存在するのに対し、アポαe2内には存在しないことを示している。
R-アポαサブユニット由来のEK46のスペクトルでは、3つのCAM-システインを有するEK46に該当するm/z値5242のピーク強度が著しく減少し、2つのCAM-システインおよび1つのCys-SO2Hを有するEK46に該当するm/z値5218に顕著なピークが確認された(図7)。この結果から、アポαe2のCys112が酸化されて、R-アポαe2ではCys112-SO2-となったことが示された。
この結果は、酸化システイン残基(αCys112-SO2-、αCys114-SO-)がR-アポαe2に存在することを強く示すものである。
【0102】
[実施例5] Co2+およびCo3+存在下でのアポαe2によるアポα2β2活性化に対する好気的条件および嫌気的条件の影響
コバルトおよびDTT存在下でのアポαe2によるアポα2β2の翻訳後活性化に対する溶存酸素の影響を確認するため、アルゴンで溶存酸素がほぼ除去された嫌気的条件で酵素アッセイを行った。
【0103】
その結果、好気的条件ではコバルトおよびDTT存在下では、アポαe2によりアポα2β2が活性化されたが(245±6 U/mg)、嫌気的条件ではコバルトおよびDTT存在下でアポαe2によるアポα2β2活性化はほとんど認められなかった(48.3±4.5 U/mg)(表2「アポα2β2+apo-αe2+Co2++DTT」)。
一方、ホロαe2によるアポα2β2活性化は、嫌気的条件下および好気的条件下において同程度認められた(表2「apo-α2β2+holo-αe2」)。
以上より、アポα2β2とホロαe2との間のセルフサブユニットスワッピングは、溶存酸素の存在と無関係に起こることが示された。
【0104】
次に、CoCl2(Co2+供与体)の代わりに[Co(NH3)6]Cl3(Co3+供与体)を用い、DTT存在下の好気的条件または嫌気的条件で、アポαe2によるアポα2β2活性化に対しコバルトのレドックス状態が及ぼす影響を調べた。表2に示すように、Co3+存在下のアポαe2によるアポα2β2活性化は、好気的条件および嫌気的条件のいずれでも認められ、Co2+存在下の好気的条件での活性化と類似していた(「apo-α2β2+apo-αe2+Co3++DTT」)。
【表2】

【0105】
表2は、アポαe2またはホロαe2によるアポα2β2の活性化に対する好気的条件および嫌気的条件の影響を示す。
表2に記載のニトリルヒドラターゼ活性は以下のように測定した。まず、好気的条件または嫌気的条件下でKPB(pH 7.5)中、28℃で混合物をインキュベートした。Co2+供与体として[Co(NH3)6]Cl3溶液を、Co3+供与体としてCoCl2溶液を用いた。混合物中のアポα2β2およびホロαe2の濃度は、それぞれ0.1 mg/mlおよび0.4 mg/mlとした。12時間後に混合物から一定量のサンプルを採取し、そのサンプルのL-NHase活性についてアッセイした。L-NHase活性(「L-NHase activity」)の値は、同一条件で3回以上実施し、得られた数値の平均値±標準偏差を示す。
【0106】
[実施例6] 使用したNhlAEの再利用
ホロαe2がアポα2β2をセルフサブユニットスワッピングにより翻訳後に活性化し、ホロαe2のコバルトを含みシステインが酸化されているαサブユニットとアポα2β2のコバルトを含まずシステインが酸化されていないαサブユニットとが交換され、コバルトを含みシステインが酸化されているホロα2β2とコバルトを含まずシステインが酸化されていないαe2(以下、「R-ホロαe2」ともいう)が形成される(非特許文献8)。
【0107】
本実施例では、セルフサブユニットスワッピングにより生成したR-ホロαe2を、L-NHaseにコバルトを挿入するために再利用できるかどうかを検討した。
【0108】
セルフサブユニットスワッピングにおいて、2倍量以上のホロαe2とアポα2β2とをインキュベーションすると、アポα2β2は完全にホロα2β2に変換されることが知られている。そして、このセルフサブユニットスワッピング後の混合物から精製したαe2は、(i) アポαe2(使用済みホロαe2:R-ホロαe2)と(ii) 未使用ホロαe2との混合物であることがこれまでに明らかにされている。そこで、R-ホロαe2のみを単離する目的で、10 mM KPB(pH 7.5)中でホロαe2とアポα2β2を1対4の割合(ホロαe2 0.1 mg/ml、アポα2β2 0.4 mg/ml)で混合し、28℃で12時間インキュベーションした後、得られた混合物中のαe2を精製した(図8Aレーン3)。
そして、精製したαe2をUV-Visスペクトル分析し(図8C)、コバルト含有量を定量(1 molのαe2中0.05 ± 0.02 mol、表1「R-holo-αe2」)した結果、精製したαe2のほぼ全てがR-ホロαe2であることが示された。
【0109】
次に、R-ホロαe2によるアポα2β2の翻訳後の活性化を以下の条件1〜3において調べた。
条件1:アポα2β2をR-ホロαe2とともに10 mM KPB(pH 7.5)中でインキュベート
条件2:コバルトおよびDTTの存在下で、アポα2β2をR-ホロαe2とともに10 mM KPB(pH 7.5)中でインキュベート
条件3:コバルトおよびDTTの存在下で、アポα2β2をアポαe2とともに10 mM KPB(pH 7.5)中でインキュベート
インキュベート開始から12時間後に一定量のサンプルを採取しL-NHase活性についてアッセイした。
【0110】
その結果、図8Bに示すように、アポα2β2とR-ホロαe2の混合物中ではアポα2β2の活性化は認められなかった(条件1)。この結果は、アポα2β2とアポαe2との間でセルフサブユニットスワッピングが起こらないという、これまでの知見と一致している。
しかし、コバルトおよびDTTの存在下で、R-ホロαe2(条件2)はアポα2β2のL-NHase活性を、コバルトおよびDTTの存在下でのアポαe2の場合(条件3)と同等のレベルまで上昇させた。以上より、サブユニットスワッピングによって生成したコバルト元素低含有型NhlAEは、L-NHaseの成熟化のために再利用することが可能であることが示された。
【0111】
[実施例7]
本実施例では、NhlEタンハ゜ク質と以下の微生物由来のタンパク質とのアミノ酸配列の相同性を調べた。ホモロジーの検索は遺伝子解析ソフトGENETYX ver8.2.1を使用し、条件はデフォルトのまま行った。
結果を表3および図10に示す。
表3に示すように、NhlEタンパク質と他の活性化タンパク質との相同性は、33〜41%であった。
【表3】

【0112】
また、図10に示すように、NhlEタンパク質とそれぞれのタンパク質は、全体にわたり相同性を示していることが分かった。
実施例7より、これらのタンパク質も、NhlEタンパク質と同様の機能を有し、eサブユニットとしての役割を担うことが示された。即ち、これらのタンパク質も本発明に係るタンパク質の成熟化に深く関わることが示唆された。
【0113】
実施例1〜7により、L-NHaseでのセルフサブユニットスワッピングが確認された。また、L-NHaseへのコバルトの取り込みは、コバルトフリーのL-NHase(アポL-NHase)およびコバルト含有メディエータNhlAE (ホロNhlAE)間でのαサブユニット交換、セルフサブユニットスワッピングと呼ばれる翻訳後成熟の新規なモデルならびにセルフサブユニットスワッピングシャペロンとして認識されるNhlEに依存することが明らかになった。BLASTプログラムを用いた調査では、NhlEが以下のタンパク質と有意な配列類似性を示すことが判明した:Bacillus pallidus RAPc8のH-NHaseのβサブユニットホモログ(NhhG、38%の相同性)、NHaseのNHaseアクチベーター(P14K、35%の相同性)ならびにこれらNHaseおよびL-NHaseのβサブユニット(約30%の相同性)(図13)。これらNHaseの全てが、非コリンコバルト酵素であり、以下の特徴において共通する。
(i)αサブユニットとβサブユニットの構造遺伝子は、βおよびαの順に位置する、
(ii)低分子タンパク質(17 kDa未満)の遺伝子は、対応するαサブユニットのすぐ下流に存在し、各機能的酵素の発現に必要である、
(iii)低分子タンパク質は、βサブユニットと有意な配列類似性を示す、
(iv)これら全ての低分子タンパク質は、既知の金属結合モチーフを有していない。
【0114】
H-NHase遺伝子(nhhBA)とNhhGの両方を含むプラスミドpJHK19を担持する宿主細胞としてR. rhodoccocus ATCC12674を用いることにより、H-NHaseの発現が成功している(非特許文献15)。また、P14Kは、B. pallidus RAPc8内でのNHaseの機能的発現に必要であることが判明している(Cameron, R. A. et al., (2005) Biochim. Biophys. Acta 1725, 35-46)。そこで、実施例8〜14として以下の実験を行って、H-NHaseにおいてもセルフサブユニットスワッピングが起こっているか否かを調査した。実施例8〜14で用いた材料および方法は以下のとおりである。
【0115】
(菌株およびプラスミド)
H-NHaseおよびその変異体の発現には、ベクタープラスミドpHJK19、pHJK19(ΔG)およびpHJK19(α-V5L)(図12)を用い、宿主細胞としてRhodococcus rhodochrous ATCC12674を用いた。プラスミドpHJK19(ΔG)およびpHJK19(α-V5L)のサブクローニングには宿主としてEscherichia coli DH10Bを用いた。また、プラスミドpHJK19のメチル化には、E. coli JM109を宿主として用いた。nhlBAEおよびnhlAEの発現については、上記の「(i)L-NHaseの発現」と同様に行った。
【0116】
(pHJK19(ΔG)およびpHJK19(α-V5L)の構築)
pHJK19(ΔG)およびpHJK19(α-V5L)の構築には、インバースPCR法(34)を用いた。メチル化されたpHJK19を鋳型とし、BA-S(5'-p-CATCCCCTGTGTCTCCATCTAGCAGCAGTG-3':配列番号18)およびBA-AS(5'-p-TCATACGATCACTTCCTGCGGTGTGAGCGC-3':配列番号19)をプライマーとして用いてPCR増幅をおこない、完全長の直鎖状pHJK19(ΔG)を生成した。このPCR産物を制限酵素Dpn Iで処理して鋳型プラスミドを切断し、次いでLigation High(TOYOBO社)を用いて環状pHJK19(ΔG)へライゲーションし、その後にこのプラスミドでE. coli DH10Bを形質転換した。シークエンスを行って、pHJK19(ΔG)の配列を有するクローンを選択し、このクローンから単離したプラスミドを用いてR. rhodochrous ATCC12674を形質転換した。A-V5L-S(5'-p-ACCTCAATAAGTACACGGAGTACGAGGCAC-3':配列番号20)(下線部に変異を含む)およびA-V5L-AS(5'-p-GCTCGCTCACTATCGTATTCCTTTCACGCA-3':配列番号21)のプライマーを用いてプラスミドpHJK19(α-V5L)をpHJK19(ΔG)と同様に構築し、その後、R. rhodochrous ATCC12674に導入した。
【0117】
(培養条件)
R. rhodochrous ATCC12674の形質転換には、非特許文献15の記載に沿ってエレクトロポレーションを行った。pHJK19、pHJK19(ΔG)およびpHJK19(α-V5L)を担持するR. rhodochrous ATCC12674の各形質転換体を、非特許文献15の記載に沿って、CoCl2・6H2O (0.05 g/L)およびネオマイシン(50 μg/ml)を含有するMYP培地(Hashimoto, Y. et al. (1992) J. Gen. Microbiol. 138, 1003-1010)中で、28℃で48時間増殖させた。L-NHaseおよびNhlAEの発現用のプラスミドpREIT-nhlBAE およびpREIT-nhlAEを担持するR. fascians DSM43985は、実施例1〜7と同一の培養条件で増殖させた。
【0118】
(酵素の精製)
全ての精製工程は、0〜4℃で行った。また、全ての精製工程で10 mMのリン酸カリウムバッファー(KPB)(pH 7.5)を用いた。細胞抽出物の調製は、非特許文献15の記載と同様に行った。具体的には、細胞抽出物を18,000 x gで20分間遠心した。硫安分画(40〜65%)によりH-NHaseを部分精製し、その後にKPBバッファーに対する透析を行った。透析した溶液を、KPBバッファーで平衡化させたDEAE-Sephacelカラム(3 x 5 ml)(GE Healthcare UK社)にアプライした。同一のバッファー1リットルを用いて、KCl濃度を0〜0.5Mの直線勾配で増加させながら、タンパク質をカラムから溶離した。得られた部分精製酵素を一つにまとめ、70%の飽和度になるまで硫酸アンモニウムを添加した。この懸濁液を遠心した後、沈殿物を0.2 M KCl含有KPBバッファーに溶解させ、この溶液を、0.2 M KCl含有KPBバッファーで平衡化させたHiload 16/60 Superdex 200-pg カラム(GE Healthcare UK社)にアプライした。Hiload 16/60 Superdex 200-pg カラムから溶離した酵素を硫安分画(70%飽和度)で沈殿させ、次いで、KPBバッファーに対して透析した。透析した溶液を、KPBバッファーで平衡化させたResource Qカラム(6 ml)(GE Healthcare UK社)にアプライした。同一のバッファー1リットルを用いて、KCl濃度を0 〜0.5 Mの直線勾配で増加させながら、タンパク質をカラムから溶離した。NhhAGも、H-NHaseと同様に精製した。この精製工程において、タンパク質を含有する分画は、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)で確認し、また、最終工程として、N末端アミノ酸の配列解析を行った。L-NHaseとNhlAEは、実施例1〜7の「生成したタンパク質の精製」の記載と同様に精製した。
上記と同様に、Hiload 16/60 Superdex 200-pgを用いて、得られた酵素を混合物から精製した。硫安分画を除く全ての操作は、AKTA purifier(GE Healthcare UK社)を用いて行った。
【0119】
(酵素アッセイ)
10 mM KPB(pH 7.5)、200 mM 3-シアノピリジンおよび適量のH-NHase酵素を含む反応混合物(0.5 ml)中でH-NHase活性をアッセイした。反応は、20℃で20分間進行させ、4.5 mlのアセトニトリルの添加によって終了させた。Cosmosil 5C18-AR-IIカラム(逆相; 4.6 x 150 mm; ナカライテスク、京都)およびオリジナルシステムのUV分光光度計(SPD-M10A)を具備する島津LC-10Aシステム(京都)を用いて、HPLCにより反応混合物中に形成されたニコチンアミドの量を測定した。以下の溶液系を用いた:5 mM KH2PO4-H3PO4バッファー(pH 2.9)およびアセトニトリル(2:1 v/v)、流速1.0 ml/分。モニタリングには、215 nmの波長を用いた。20℃で毎分1 μmolのニコチンアミド放出を触媒する酵素量を1ユニットのH-NHase活性として定義した。L-NHase活性は、実施例1〜7の「酵素アッセイ」の記載と同様にアッセイした。
【0120】
(タンパク質の分子量測定)
酵素の分子量の測定には、Superose 6 HR 10/30カラムおよびSuperose 12 HR 10/30カラム(GE Healthcare UK社)、ならびに0.2 M KCl含有KPB(pH 7.5)を用いた。この工程は、AKTA purifier(GE Healthcare UK社)を用いて、0〜4℃にて、0.5 ml/分の流速で行った。
【0121】
(分析法)
実施例1〜7の「分析法」と同様に分析を行った。
また、SDS-PAGE後にポリ二塩化ビニリデン膜上にエレクトロブロットしたサンプルに対してプロテインシークエンサーProcise(Applied Biosystems)を用いてNH2-末端アミノ酸配列を決定した。
【0122】
(コバルトイオン測定)
タンパク質を1 mM KPB(pH 7.5)に対して透析し、次いで0.5 mg/mlに調製した。透析後ICAP-575発光光度計(日本ジャーレル・アッシュ社)を以下の条件で用いて酵素を検出した:波長238.89 nm、積分時間3秒間、850 mV。
【0123】
[実施例8] 機能的H-NHase発現におけるnhhGの必要性の確認
本実施例において、H-NHase発現に使用したプラスミドpJHK19 (図12)は、H-NHase遺伝子(nhhBA)および他の5つのORF(nhhC、nhhD、nhhE、nhhFおよびnhhG)を担持する(非特許文献15)。これらのORFのうち、nhhCとnhhDは、R. rhodoccocus ATCC12674内での活性なレコンビナントH-NHaseの細胞内形成に不可欠であり、nhhEとnhhFは、H-NHase遺伝子の発現には何ら影響しないことが判明している(非特許文献15)。しかしながら、H-NHase遺伝子発現におけるnhhGの機能は、未だ決定されていない。そこで、本発明者らは、nhhC、nhhD、nhhE、nhhFおよびH-NHase構造遺伝子nhhBAを含むが、nhhGは含まないプラスミドpHJK19(ΔG)(図12)を構築した。pHJK19(ΔG)を担持するR. rhodochrous ATCC12674を用いて、pHJK19を担持するR. rhodochrous ATCC12674と同じ条件下でH-NHaseを発現させた。ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)において、H-NHaseのαサブユニットとβサブユニットのバンドは明瞭であったが(図14A)、Rhodococcus形質転換体の無細胞抽出物中での活性は非常に低いものであった(2.4 ± 1.5 U/mg)。対照的に、pHJK19を担持するR. rhodochrous ATCC12674を用いて発現させたH-NHaseの量は、pHJK19(ΔG)の場合と同程度であったが、無細胞抽出物中のH-NHase活性は、pHJK19(ΔG)の場合と比べて顕著に高いものであった(121 ± 10 U/mg)。この知見により、nhhGは、機能的H-NHaseの発現に必要であることが判明した。
【0124】
[実施例9] pHJK19およびpHJK19(ΔG)から発現されたH-NHaseの差異点
pHJK19とpHJK19(ΔG)とから発現されたH-NHaseの差異点を調べるため、これら2種類の酵素を完全に精製してキャラクタリゼーションを行った(図14)。ここで、pHJK19およびpHJK19(ΔG)から発現されたH-NHaseをそれぞれH-NHase(+G)およびH-NHase(ΔG)と称する。結果として、H-NHase(+G)は、αβヘテロ2量体の多量体であり、合計で約500 kDaであることが判明した。これは、R. rhodochrous J1から精製されたH-NHaseと一致する(Nagasawa, T. et al., Eur. J. Biochem. 196, (1991): 581-589)。H-NHase(ΔG)は、H-NHase(+G)と同程度の分子量を有していた(図14C)。H-NHase(+G)が298 ± 8 U/mgの特異的活性を示したのに対し、H-NHase(ΔG)は、非常に低い活性を示した(表4)。H-NHase(+G)のコバルト含有量(酵素活性に不可欠である(非特許文献1および非特許文献8))は、1 molのαβにつき0.90 ± 0.04 molであったが、H-NHase(ΔG)では、非常に低いものであった(1 molのαβにつき0.33 ± 0.02 mol)(表4)。これらの知見は、pHJK19からコバルト含有H-NHase(ホロH-NHase、即ち、H-NHase(+G))が発現されることに対し、pHJK19(ΔG)から発現されたH-NHaseは、コバルト不含H-NHaseであることを示唆している。
【0125】
【表4】

【0126】
[実施例10] コバルト含有メディエータNhhAGの単離
H-NHaseの活性化におけるnhhGの機能を明確化するため、pHJK19を担持する形質転換体から遺伝子産物(NhhG)を精製した。結果として、NhhGは、H-NHaseのαサブユニットと複合体(即ち、NhhAG)を形成することが確認された(図14B)。レコンビナントNhhAGの分子量は、ゲルろ過分析で測定したところ、48.8 ± 0.8 kDaであった(図14D)。αサブユニットとNhhGの分子量の計算値がそれぞれ22.8 kDaと11.7 kDaであることから、NhhAGは、ヘテロ3量体のαg2(46.2 kDa)からなる。精製されたαg2は、H-NHase活性を示さなかったが、コバルトイオンを含んでいた(1 molのαg2につき0.84 ± 0.04 mol)(表4)。このコバルト含有αg2をホロNhhAGと呼ぶことにする。NhhAGは、ヘテロ三量体αg2を形成することから、L-NHaseのメディエータであるNhlAEと非常に類似する(L-NHaseのコバルト含有αサブユニットとNhlE(e)とからなるヘテロ3量体複合体(αe2)を形成する)(非特許文献8)。NhlAEは、L-NHaseの翻訳後成熟において、アポL-NHase内にコバルトイオンを取り込ませてホロL-NHaseを形成させることが報告されている(非特許文献8)。活性H-NHaseの形成におけるNhhAGの機能を説明するため、さらに以下の実験を行った。
【0127】
[実施例11] NhhAGによるコバルトフリーH-NHase(アポH-NHase)からホロH-NHaseへの変換
pHJK19から発現されたコバルトフリーH-NHase(アポH-NHase)(表5)を精製した(コバルト不含の培養系から精製)。精製したアポH-NHase(終濃度0.01 mg/ml)および精製したホロNhhAG(終濃度0.1 mg/ml)を混合し、28℃で10 mM KPB(pH 7.5)中でインキュベートした。H-NHase活性は、インキュベーション時間の増加に伴って上昇することが判明し、16時間後に最も高い活性が観察された(図15)。ホロNhhAG濃度の増加に伴い、活性化速度も増加し、0.2 mg/mlのホロNhhAGでは、10時間以内に活性が最大に達した(図15)。アポH-NHaseとその10倍量を超えるホロNhhAGとの混合物から、生じたH-NHase(resultant H-NHase: R-H-NHase)を精製したところ、このH-NHaseの酵素活性(290 ± 9 U/mg)とコバルト含有量(1 molのαβにつき0.91 ±0.04 mol)(表5)は、ホロH-NHaseのもの(表1)と同程度であった。遠紫外線CDとUV-Vis吸光スペクトル解析を通じて、ホロH-NHase、アポH-NHaseおよびR-H-NHase間で、それぞれの特性を詳細に比較した。R-H-NHase、ホロH-NHaseおよびアポH-NHaseは、CDスペクトルは類似していたが(図16A)、R-H-NHaseのUV-Visスペクトルは、アポH-NHaseのスペクトルではなく、ホロH-NHaseのスペクトルと類似していた(図16B)。ホロH-NhaseおよびR-H-NHaseは、全て、300-350 nmの領域に更なるショルダーを示した。Co-NHaseの300-350 nmの領域における吸光は、S→Co3+の電荷の移動を反映することが報告されている(Payne, M. S. et al., (1997) Biochemistry 36, 5447-5454;非特許文献8;およびNojiri, M. et al., (2000)FEBS Lett. 465, 173-177)。これらの結果は、R-H-NHaseのCo-リガンド環境が、ホロH-NHaseの環境と同様であることを示すものである。H-NHaseにおけるコバルトの含有と共に考慮するに、これらの現象は、NhlAGが、H-NHaseの翻訳後成熟に寄与することを示している。
【0128】
【表5】

【0129】
[実施例12] H-NHase内でのセルフサブユニットスワッピング
部位特異的変異導入とN末端アミノ酸配列解析を行って、R-H-NHase内でのαサブユニットの供給源を確認した。αサブユニットのVal-5がLeuで置換された変異遺伝子[nhhCDEFBA(α-V5L)G]を設計し、pHJK19(α-V5L)(図12)を構築し、次いで変異体アポH-NHase[アポH-NHase(αV5L)]をコバルト不含の培養系から精製した。精製した酵素の特異的な活性について、アポH-NHase(αV5L)とアポH-NHase間に有意差は認められなかった(表5)。アポH-NHase(αV5L)とホロNhhAGを混合してH-NHaseの翻訳後活性化を確認し、次いで、この混合物から生じたH-NHase[R-H-NHase(αV5L)]を精製した。精製したR-H-NHase(αV5L)のαサブユニットのN末端アミノ酸配列解析により、αサブユニットの5番目の残基がValであることが示され(表5)、アポH-NHase(αV5L)のアポαサブユニットがホロNhhAGのホロαサブユニットに置換されていることが確認された。この結果により、ホロNhhAGからアポH-NHaseへのコバルトの取り込みは、セルフサブユニットスワッピングに依存しており、NhhGが、L-NHaseの場合のNhlEと同様に、セルフサブユニットスワッピングシャペロンとして機能することが判明した。
【0130】
[実施例13] アポNhhAGへのコバルトの直接挿入
H-NHaseのαサブユニットへのコバルトの挿入におけるNhhGの機能を説明するため、pHJK19から発現されたコバルトフリーNhhAG(アポNhhAG)をコバルト不含の培養系から精製した(表5)。このアポNhhAG(終濃度0.1 mg/ml)を10 mM KPB(pH 7.5)中のコバルト(終濃度20 μM)およびGSH(1 mM)と混合し、28℃でインキュベートした。2時間のインキュベーション後にアポNhhAG(R-アポNhhAG)を精製し、ホロNhhAGおよびアポNhhAGと比較した。コバルト含有量の測定の結果、R-アポNhhAGは、1 molのαg2につき0.81 ± 0.03 molのコバルトを含有していることが示され(表5)、これは、ホロNhhAGと同程度のコバルト含有量(表4)であった。R-アポNhhAG、ホロNhhAGおよびアポNhhAGのCDスペクトルは類似していたが(図17A)、R-アポNhhAGのUV-Visスペクトルは、ホロNhhAGのものと類似しており、アポNhhAGのものとは類似していなかった(図17B)。図17Bに示されるように、R-アポNhhAGおよびホロNhhAG では300-350 nm領域に更なるショルダーが認められ、ホロNhhAGおよびR-アポNhhAGのCo-リガンド環境は、Co-NHaseの環境と同様であることが示唆された。R-アポNhhAGは、アポH-NHaseをホロH-NHaseに変換することも可能であった(データ非公開)。これらの知見から、コバルトが、アポNhhAG内へ直接取り込まれることでホロNhhAGが形成されることが示唆された。一方で、アポH-NHaseをコバルトおよびGSHと混合し、2時間インキュベートした後に、生じたアポH-NHase(R-アポ-H-NHase)を精製し、次いで、ホロH-NHaseおよびアポH-NHaseと比較した。R-アポ-H-NHaseのUV-Visスペクトルは、アポH-NHaseのスペクトルと類似していたが、ホロH-NHaseのものとは類似しておらず、300-350 nm領域に更なるショルダーは認められなかった(図16B)。ホロH-NHaseのコバルト含有量(1 molのαβにつき0.90 ± 0.04 mol)とは対照的に、R-アポ-H-NHaseでは、1 molのαβにつき、僅かに0.18 ± 0.02 molのコバルトイオンしか検出されなかった(表5)。これらの知見により、インビトロにおいて、コバルトは、アポNhhAGのアポαサブユニットに直接取り込まれるが、アポH-NHaseには取り込まれないことが示される。
【0131】
NhlAEは、L-NHaseのαサブユニットへのコバルトの取り込みに不可欠な複合体であり、NhlEについては、翻訳後にCys-SOH とCys-SO2Hの修飾を促進することが実証された(実施例4参照)。実施例8〜14において、NhhAGが、H-NHaseのαサブユニットへのコバルトの取り込みに不可欠な複合体であることが判明した(図17、表2)。セルフサブユニットスワッピングシャペロン遺伝子nhhGは、対応するαサブユニット遺伝子の直ぐ下流に位置しており、対応するβサブユニットと有意な配列類似性を示す。これらの遺伝子構造により、各セルフサブユニットスワッピングシャペロンが、翻訳後に金属挿入とシステイン修飾のために対応するアポαサブユニットと容易に複合体を形成することが可能になっている。上記実施例では、活性が低く(僅かにH-NHase(+G)の2%)、少量のコバルト含有量(1 molのαβにつき0.33 mol、H-NHase(+G)の約30%)しか有しないH-NHase(ΔG)が精製された。H-NHase(ΔG)のUV-Visスペクトルにおいては、300-350 nm領域に更なるショルダーは認められなかったため、H-NHase(ΔG)のCo-リガンド環境は、H-NHase(+G)の環境と異なることが示唆された。これらの知見から、nhhGの寄与なしでは、微量のコバルトがH-NHaseに取り込まれたが、H-NHase(ΔG)の活性中心は正しく構築されなかったことが示される。従って、上記実施例の結果から、これらの酵素の生合成過程において、金属は、まずセルフサブユニットスワッピングシャペロンの助けによりαサブユニットに取り込まれ、次いでセルフサブユニットスワッピング成熟を通じてNHaseに移動することが判明した。
【0132】
上記実施例において、H-NHase成熟のメディエータであるNhhAGが、NhhGとH-NHaseのαサブユニットとからなることが判明した。H-NHaseへのコバルトの取り込みは、コバルトフリーH-NHase(アポH-NHase)のコバルトフリーαサブユニット(アポαサブユニット)とコバルト含有NhhAG(ホロNhhAG)との交換に依存することが示された。コバルトは、インビトロで、コバルトとグルタチオンの存在下で、コバルトフリーNhhAG(アポNhhAG)には挿入されたが、アポH-NHaseには挿入されなかった。このことは、NhlGが、セルフサブユニットスワッピングシャペロンの機能だけではなく、金属シャペロンとしての機能も有することを示唆している。これらの知見は、セルフサブユニットスワッピング成熟の一般性を示す証拠である。加えて、アポL-NHaseとホロNhhAG間、またはアポH-NHaseとホロNhlAE間ではαサブユニットのスワッピングは生じなかったことから、セルフサブユニットスワッピングは、サブユニット特異的な反応であることが判明した。
【配列表フリーテキスト】
【0133】
配列番号1:Rhodococcus rhodochrous J1菌のnhlA遺伝子の塩基配列。
配列番号2:Rhodococcus rhodochrous J1菌のNhlAタンパク質のアミノ酸配列。
配列番号3:Rhodococcus rhodochrous J1菌のnhlE遺伝子の塩基配列。
配列番号4:Rhodococcus rhodochrous J1菌のNhlEタンパク質のアミノ酸配列
配列番号5:Rhodococcus rhodochrous J1菌のnhlB遺伝子、nhlA遺伝子およびnhlE遺伝子などの塩基配列。
配列番号6:トリプシンペプチドEK46。
配列番号7:Bacillus sp BR449由来の活性化タンパク質(図10「Bacillus BR449」)のアミノ酸配列。
配列番号8:Bacillus pallidus RAPc8由来の活性化タンパク質(図10「Bacillus RAPc8」)のアミノ酸配列。
配列番号9:Geobacillus thermogllucosidasius Q-6由来の活性化タンパク質(図10「Geobacillus Q-6」)のアミノ酸配列。
配列番号10:Pseudonocardia thermophila JCM3095由来の活性化タンパク質(図10「Pseudonocardia」)のアミノ酸配列。
配列番号11:Rhodococcus rhodochrous J1由来の活性化タンパク質(図10「Rhodococcus J1(Nhh-G)」)のアミノ酸配列。
配列番号12:Rhodococcus rhodochrous M8由来の活性化タンパク質(図10「Rhodococcus M8」)のアミノ酸配列。
配列番号13:Rhodococcus rhodochrous J1菌のnhhA遺伝子の塩基配列。開示コドン(メチオニン)は、「gtg」である。
配列番号14:Rhodococcus rhodochrous J1菌のNhhAタンパク質のアミノ酸配列。
配列番号15:Rhodococcus rhodochrous J1菌のnhhG遺伝子の塩基配列。
配列番号16:Rhodococcus rhodochrous J1菌のNhhGタンパク質のアミノ酸配列
配列番号17:Rhodococcus rhodochrous J1菌のnhhB遺伝子、nhhA遺伝子およびnhhG遺伝子などの塩基配列。
配列番号18:pHJK19(ΔG)の構築に用いたBA-Sプライマーの塩基配列。
配列番号19:pHJK19(ΔG)の構築に用いたBA-ASプライマーの塩基配列。
配列番号20:pHJK19(α-V5L) の構築に用いたA-V5L-Sプライマーの塩基配列。
配列番号21:pHJK19(α-V5L) の構築に用いたA-V5L-ASプライマーの塩基配列。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびeサブユニットを含む未成熟タンパク質複合体αe2
(ii) コバルトとを
還元剤の存在下に接触させるステップを含む、前記未成熟タンパク質複合体αe2の成熟化方法。
【請求項2】
(i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびβサブユニットを含む未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質と、請求項1に記載の方法により得られた成熟タンパク質複合体αe2とを接触させて成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質および未成熟タンパク質複合体αe2を生成し、該未成熟タンパク質複合体αe2
(ii) コバルトとを
還元剤の存在下に接触させるステップを含む、前記未成熟タンパク質複合体αe2の成熟化方法。
【請求項3】
(i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびeサブユニットを含む未成熟タンパク質複合体αe2
(ii) コバルトと
(iii) 未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質とを
還元剤の存在下に接触させることを含む、前記未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質の成熟化方法。
【請求項4】
(i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびβサブユニットを含む未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質と、請求項1または2に記載の方法により得られた成熟タンパク質複合体αe2とを接触させて成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質および未成熟タンパク質複合体αe2を生成し、該未成熟タンパク質複合体αe2
(ii) コバルトと
(iii) 未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質とを
還元剤の存在下に接触させることを含む、前記未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質の成熟化方法。
【請求項5】
タンパク質複合体αe2が、以下の(a)または(b)のタンパク質、および(c)または(d)のタンパク質を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法:
(a) 配列番号2に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b) 配列番号2に示すアミノ酸配列において1〜複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくはそれらを組み合わせたアミノ酸配列を含み、かつ、コバルト元素を含有可能なタンパク質;
(c) 配列番号4に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(d) 配列番号4に示すアミノ酸配列において1〜複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくはそれらを組み合わせたアミノ酸配列を含み、かつ、前記(a)もしくは(b)のタンパク質と複合体を形成するタンパク質。
【請求項6】
タンパク質複合体αe2が、Rhodococcus属に属する微生物由来のものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
Rhodococcus属に属する微生物が、Rhodococcus rhodochrous J1菌である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質が、Rhodococcus属に属する微生物由来のものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
Rhodococcus属に属する微生物が、Rhodococcus rhodochrous J1菌である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項3または4に記載の方法で成熟化した低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質をニトリル化合物に接触させることを含む、アミド化合物の生産方法。
【請求項11】
請求項3または4に記載の方法で成熟化した低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質をアクリルニトリルに接触させること含む、アクリルアミドの生産方法。
【請求項12】
請求項3または4に記載の方法で成熟化した低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質を3−シアノピリジンに接触させることを含む、ニコチンアミドの生産方法。
【請求項13】
(i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびgサブユニットを含む未成熟タンパク質複合体αg2
(ii) コバルトとを
還元剤の存在下に接触させるステップを含む、前記未成熟タンパク質複合体αg2の成熟化方法。
【請求項14】
(i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびβサブユニットを含む未成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質と、請求項13に記載の方法により得られた成熟タンパク質複合体αg2とを接触させて成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質および未成熟タンパク質複合体αg2を生成し、該未成熟タンパク質複合体αg2
(ii) コバルトとを
還元剤の存在下に接触させるステップを含む、前記未成熟タンパク質複合体αg2の成熟化方法。
【請求項15】
(i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびgサブユニットを含む未成熟タンパク質複合体αg2
(ii) コバルトと
(iii) 未成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質とを
還元剤の存在下に接触させることを含む、前記未成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質の成熟化方法。
【請求項16】
(i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびβサブユニットを含む未成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質と、請求項13または14に記載の方法により得られた成熟タンパク質複合体αg2とを接触させて成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質および未成熟タンパク質複合体αg2を生成し、該未成熟タンパク質複合体αg2
(ii) コバルトと
(iii) 未成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質とを
還元剤の存在下に接触させることを含む、前記未成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質の成熟化方法。
【請求項17】
タンパク質複合体αg2が、以下の(a)または(b)のタンパク質、および(c)または(d)のタンパク質を含む、請求項13〜16のいずれか1項に記載の方法:
(a) 配列番号14に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b) 配列番号14に示すアミノ酸配列において1〜複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくはそれらを組み合わせたアミノ酸配列を含み、かつ、コバルト元素を含有可能なタンパク質;
(c) 配列番号16に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(d) 配列番号16に示すアミノ酸配列において1〜複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくはそれらを組み合わせたアミノ酸配列を含み、かつ、前記(a)もしくは(b)のタンパク質と複合体を形成するタンパク質。
【請求項18】
タンパク質複合体αg2が、Rhodococcus属に属する微生物由来のものである、請求項13〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
Rhodococcus属に属する微生物が、Rhodococcus rhodochrous J1菌である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質が、Rhodococcus属に属する微生物由来のものである、請求項13〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
Rhodococcus属に属する微生物が、Rhodococcus rhodochrous J1菌である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
請求項15または16に記載の方法で成熟化した高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質をニトリル化合物に接触させることを含む、アミド化合物の生産方法。
【請求項23】
請求項15または16に記載の方法で成熟化した高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質をアクリルニトリルに接触させること含む、アクリルアミドの生産方法。
【請求項24】
請求項15または16に記載の方法で成熟化した高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質を3−シアノピリジンに接触させることを含む、ニコチンアミドの生産方法。
【請求項25】
還元剤がジチオスレイトールまたはグルタチオンである、請求項1〜4および13〜16のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−187660(P2010−187660A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216100(P2009−216100)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(505295743)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】