説明

ニトロ化プラントの排水からのNOx含有オフガスを処理する方法

本発明は、芳香族化合物のニトロ化で発生する亜硝酸塩含有アルカリ性プロセス排水の処理方法であって、このアルカリ性プロセス排水を酸の添加で酸性化し、この酸性化したプロセス排水から発生する酸化窒素を含むオフガスを処理し、
a)酸を添加して該プロセス排水を5未満のpHに酸性化し、分離した有機相と、酸性の水相と、NOxを含むガス相とを形成する工程、及び
b)該NOxを含むガス相を分離する工程、を含む方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族化合物のニトロ化の際に発生する亜硝酸塩含有アルカリ性プロセス排水の処理方法であって、このアルカリ性プロセス排水に酸を添加して酸性化させ、この酸性化したプロセス排水から発生する酸化窒素を含むオフガスを処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モノニトロトルエンやジニトロトルエンなどの芳香族ニトロ化合物は、通常、混酸とよばれる濃硝酸と濃硫酸の混合物で相当する芳香族化合物をニトロ化して製造される。これにより、ニトロ化粗生成物を含む有機相と、実質的に硫酸と反応水と混酸から入った水とを含む水相が形成される。硝酸は、ニトロ化でほぼ完全に消費される。
【0003】
ニトロ化プロセスの技術では、この二相を分離後、硫酸を含む水相を直接、あるいは濃縮後に、再びフレッシュな硝酸と混合してニトロ化に使用する。しかしながら、不純物の、特に金属塩の濃縮を避けるために、硫酸の少なくとも一部は、連続的あるいは回分的に全体プロセスから除く必要がある(DE10143800C1も参照)。これらの不純物は、例えばもともと硝酸中にあった不純物や、反応と水相の処理の過程で存在する非常に腐食的な条件下で反応器やパイプ材料から溶出してくる金属化合物である。
【0004】
ニトロ化で得られる硫酸含有水相の濃縮により、低硫酸含量の水留出液(以下、硫酸濃縮の水留出液と呼ぶ)と高硫酸含量の相(以下、濃硫酸と呼ぶ)とが得られる。ニトロ化プロセスから放出される濃硫酸部分を、これ以降、廃硫酸と呼ぶ。
【0005】
ベンゼンやトルエン、キシレン、クロロベンゼンなどの芳香族化合物の相当するニトロ芳香族化合物へのニトロ化の粗生成物には、ニトロベンゼン(NB)やジニトロベンゼン(DNB)、モノ−及びジ−ニトロトルエン(MNTとDNT)、ニトロクロロベンゼン(NCB)またはニトロキシレンなどの所望のニトロ芳香族化合物に加えて、少量のモノ−、ジ−、トリニトロフェノール(以下、ニトロフェノールと呼ぶ)、モノ−、ジ−、トリニトロクレゾール(以下、ニトロクレゾールと呼ぶ)、モノ−、ジ−、トリニトロキシレノール(以下、ニトロキシレノールと呼ぶ)、その他のヒドロキシル基とニトロ基を有する化合物、さらにはモノ−、ジニトロ安息香酸(以下、ニトロ安息香酸と呼ぶ)が含まれる。
【0006】
本発明においては、分子内にヒドロキシル基またはカルボキシル基をもたない芳香族ニトロ化合物を中性ニトロ種または中性ニトロ芳香族化合物と呼ぶ。ニトロフェノールとニトロクレゾール、ニトロキシレノール、ニトロ安息香酸は、これ以降ヒドロキシニトロ芳香族化合物と総称する。
【0007】
ニトロ化粗生成物を他に使用する前に、これから望ましくない副生成物を除く必要がある。通常、混酸の除去後、これらの副生成物は、酸性スクラビング液とアルカリ性スクラビング液と中性スクラビング液とを、通常この順序で用いる多段スクラビングで除かれる。このアルカリスクラビングは、通常水酸化ナトリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液またはアンモニア水溶液を用いて行われる。生成するアルカリ性プロセス排水は、ニトロフェノールとニトロクレゾール、ニトロキシレノール、ニトロ安息香酸を、それぞれの用いる塩基の水溶塩として含んでいる。これらは、通常アルカリ性プロセス排水に対して0.2〜2.5重量%の濃度で存在する。このアルカリ性プロセス排水は、またニトロ化で形成される中性ニトロ種も、特に反応生成物も含んでいる。中性ニトロ種は、このアルカリ性プロセス排水中に、通常数千ppmの量で存在している。このアルカリ性プロセス排水は、通常500〜5000ppmの硝酸イオンと、500〜5000ppmの亜硝酸イオン、数百ppmの硫酸イオンを含んでいる。これらのイオンは、ニトロ化により形成されるものである。これらの成分は、1000〜20000mg/lのCOD(化学的酸素要求量)を与える。
【0008】
これらのニトロフェノールやニトロクレゾール、ニトロキシレノール、ニトロ安息香酸、また特にその塩類は、強く着色しており、環境に対して極めて有毒である。また、これらのニトロフェノールと、特にその塩類は、比較的高濃度物あるいは純物質では爆発性を持ち、放出前に排水から除いて環境への危険が発生しないように廃棄する必要がある。このアルカリ性プロセス排水はまた、ニトロ化で生じる中性ニトロ種を、特に反応生成物を含んでいる。芳香族ニトロ化合物は全体として殺菌性をもち、排水の生物的浄化が不可能であるため、芳香族ニトロ化合物を含む排水の浄化または処理が必要である。
【0009】
プロセス排水からニトロフェノールやニトロクレゾール、ニトロキシレノール、ニトロ安息香酸、中性ニトロ芳香族化合物を除くためのいろいろな方法が、例えば抽出、吸着、酸化または熱分解が、文献に記載されている。
【0010】
Encyclopedia of Chemical Technology, Kirk−Othmer, Fourth Edition 1996, Vol. 17, p. 138には、排水中に溶解したニトロベンゼンを適当な温度でベンゼン抽出により除くニトロベンゼン除去のための抽出プロセスが記載されている。水に溶解したベンゼンは、その排水の最終処理の前にストリッピングで除かれる。
【0011】
US−A6,506,948によると、トルエンのニトロ化の際に得られる洗浄相は、直接トルエンで抽出され、生成する排水はそれぞれ、別々に抽出される。このトルエン流を、次いでニトロ化プロセスに送って変換に用いる。これにより、アルカリ性排水中に溶解したニトロクレゾールとニトロ安息香酸が発生し、これを次いで別々に除く必要がある。
【0012】
EP0005203には、ヒドロキシニトロ芳香族化合物を含む排水の熱的な処理方法が述べられている。この場合、ヒドロキシニトロ芳香族化合物をその水溶性塩の形で含む排水を、空気と酸素を除いた上で加圧下で150〜500℃の範囲の温度に加熱する。
【0013】
EP0953546には、ヒドロキシニトロ芳香族化合物と中性ニトロ芳香族化合物とを同時に分解するニトロ化プラント排水の熱的処理方法が記載されている。
【0014】
WO2009/027416A1によれば、ニトロ化で発生するアルカリ性排水の熱処理の前に、そこに溶解しているヒドロキシル基をもたない芳香族ニトロ化合物が抽出で除かれる。
【0015】
これらの溶解したニトロ芳香族化合物とヒドロキシニトロ芳香族化合物は、さらに酸性媒体中での有機溶媒抽出で除くことができる(Ullmanns Enzyklopadie der technischen Chemie, 4th edition, Volume 17, page 386)。
【0016】
このアルカリ性プロセス排水中に存在するヒドロキシニトロ芳香族化合物を、酸性化した有機相に移し、この有機層を分離して除くこともできる。ヒドロキシニトロ芳香族化合物の結晶化を避けるために、分離と除去に用いる装置を加熱する必要がある。それでも、「ファウリング」の問題が発生する。即ち、分離する有機相を除くのに用いられるポンプや配管系は、不純物の沈殿析出で速やかに閉塞するため、洗浄の必要性が高い。
【0017】
このようなプロセスがEP1493730A1に記載されている。このプロセスでは、pHが5未満となるように、酸性およびアルカリ性のDNTスクラビング排水と硫酸濃縮排水が混合される。この硫酸濃縮排液は、上述の硫酸濃度が0.2〜1重量%の硫酸濃縮留出液である。酸性化の過程で有機相が分離し、これが除かれる。水相は別途他の排水処理にかけられる。
【0018】
また、ジニトロトルエンの製造において、ジニトロトルエン含有アルカリ排水を、70℃で溶解している2,4−と2,6−ジニトロトルエンの主留分から、下水汚泥上への吸着で除き、その後でヒドロキシニトロ芳香族化合物をオゾン処理で分解できることがわかっている。この場合、ニトロクレゾールがオゾン処理で変換されないという問題が発生する。また、このアルカリ性排水はまだ亜硝酸塩を含んでおり、これがオゾンで酸化されて硝酸塩となるため、オゾン要求量を増大させる。例えば、アルカリ性プロセス排水中の亜硝酸塩濃度が3000mg/lの場合、約25〜40%のオゾンが亜硝酸の酸化に消費される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】DE10143800C1
【特許文献2】US−A6,506,948
【特許文献3】EP0005203
【特許文献4】EP0953546
【特許文献5】WO2009/027416A1
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Encyclopedia of Chemical Technology,Kirk−Othmer,Fourth Edition 1996,Vol.17,p.138
【非特許文献2】Ullmanns Enzyklopadie der technischen Chemie, 4th edition, Volume 17, page 386
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
したがって本発明の目的は、芳香族化合物のニトロ化で発生するアルカリ性プロセス排水の処理方法であって、芳香族化合物のニトロ化で得られる副産物や廃生成物が、そのプロセスで再利用でき、及び/又は望まない成分をあまり使用せずに他の排水廃棄プロセスまたは処理プロセスに送りことができる処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本目的は、芳香族化合物のモノ−、ジ−、トリニトロ芳香族化合物へのニトロ化の際に出るアルカリ性プロセス排水の処理方法であって、a)プロセス排水に酸を加えて酸性化させてpHを5未満とし、有機相と酸性の水相とNOxを含むガス相とに分離する工程と、b)このNOxを含むガス相を除く工程とからなる方法により達成される。
【0023】
アルカリ性プロセス排水の酸性化の際、その中に存在する亜硝酸塩が亜硝酸を発生させ、これは酸性条件下では不安定で、NOとNO2と硝酸に分解する。“Lehrbuch der Anorganischen Chemie” [Inorganic Chemistry], Holleman−Wiberg, 101st edition 1995, pp. 690−710に記載のように、生成する窒素酸化物のNOとNO2は、例えばさらに反応してN23やN24などのより高級なガス状窒素酸化物を与えるか、二量化してN22を与える。これらの窒素酸化物やその高級同族体を、これ以降NOxと呼ぶ。
【0024】
本発明の方法で処理されたアルカリ性プロセス排水は、はるかに低い亜硝酸イオン濃度をもつ。このため、この水相の更なる処理が容易となる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
通常、本発明により処理されると、ジニトロトルエン製造プラントからのアルカリ性プロセス排水中の亜硝酸塩の含量低下は、合計で90〜99%(亜硝酸イオン)となる。
【0026】
分離する有機相は、このアルカリ性プロセス排水中に存在する中性ニトロ芳香族化合物とヒドロキシニトロ芳香族化合物のほとんどを含む。つまり、これらの化合物は、酸性の水相から多量に除かれている。
【0027】
このNOx含有オフガスは、その後、いろいろな方法で廃棄可能であり、例えば下流にあるオフガス浄化用触媒で燃焼させたり、酸性化の結果生じるオフガス流を、NaOHまたは他のアルカリを用いるスクラバーでアルカリ吸収させたりすることにより廃棄可能である。アルカリ吸収の場合、オフガス流中に同様に存在するCO2が同時に吸着されてアルカリ所要量を増大させる点が特に不利である。
【0028】
ある好ましい実施様態においては、この分離相中に存在するNOxが、硝酸の製造に返送される。このようにして得られた硝酸を芳香族化合物のニトロ化に用いると、ニトロ化プロセス用NOxが失われないため、極めて大きな原料の節約が可能となる。
【0029】
本発明の方法の他の好ましい実施様態においては、ニトロ芳香族化合物の製造プロセスからの硫酸で、濃縮工程で得られたものが、アルカリ性プロセス排水の酸性化に用いられる。いずれの場合も、濃硫酸の一部が、ニトロ化及び硫酸処理の過程で排出され、いわゆる廃硫酸として廃棄されるため、これは特に有利である。この濃硫酸は、ニトロ化中の腐食(パイプライン)の結果得られるFeやCr、Ni、Taを、また微量の他の重金属を硫酸塩の形で含んでいる。通常、塩濃度が300ppmを越える場合は、この酸の一部をいわゆる廃硫酸として系外に排出して廃棄するか、他の方法で精製する必要がある。したがって、この廃硫酸の利用は特に有利である。驚くべきことに、追加の酸の添加の必要なく、排出される濃硫酸の一部を本発明の方法で使用できることが明らかとなった。これにより、いろいろな流体の非常に経済的な利用が可能となる。
【0030】
本発明の方法は、芳香族化合物のニトロ化の際に出るアルカリ性プロセス排水の処理に利用される。ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン及び/又はジクロロベンゼンのニトロ化の際にこの方法を使用することが好ましい。
【0031】
水酸化ナトリウム溶液、炭酸または炭酸水素塩水溶液またはアンモニア水溶液などのアルカリ水溶液を用いて、ニトロ化の際の粗生成物の一段または多段スクラビングで得られるアルカリ性プロセス排水の60℃でのpHは、用いる塩基によって7.5〜13であり、好ましくは8〜10である。
【0032】
本発明によれば、工程a)でアルカリ性プロセス排水が、酸添加で5未満のpHに、好ましくは0.1〜1のpHに調整される。これらpHの値は、いずれの場合も60℃での測定値である。酸濃度が70〜95重量%である濃酸を用いての酸性化が好ましく、特に硫酸の使用が好ましい。
【0033】
本発明のある好ましい実施様態においては、工程a)での酸性化が、ニトロ化で得られる水相を処理して得られる硫酸を用いて、より好ましくは濃硫酸を用いて行われる。酸性化に用いる濃硫酸の濃度は85〜95重量%であり、好ましくは90〜93重量%である。ある好ましい実施様態においては、ニトロ化の際に得られる廃硫酸のみが工程a)での酸性化に用いられ、特に好ましくはニトロ化で得られる廃硫酸のすべてが工程a)で添加される。この濃硫酸の添加を、オンラインでのpH測定により制御することが好ましい。
【0034】
本発明によれば、温度が20〜90℃で、最も好ましくは温度が55〜70℃でアルカリ性プロセス排水を酸性化することが好ましい。
【0035】
工程a)でのアルカリ性プロセス排水の酸性化の過程で、ヒドロキシニトロ芳香族化合物とニトロ安息香酸、中性ニトロ種を含む有機相が分離し、また目標pHに達する途中でまたその後で、NOxが酸性の水相から逃げ出す。用いるアルカリ性スクラビング液がアルカリ金属炭酸塩またはアルカリ金属炭酸水素塩の溶液である場合は、多量のCO2も遊離してくる。前もってアルカリ金属炭酸塩またはアルカリ金属炭酸水素塩水溶液を用いてDNTスクラビングを行う場合、分離するガス相は、通常70〜98.9体積%の二酸化炭素と1.1〜30体積%の酸化窒素ガス(NO、NO2、N2O)またはNOxをそれぞれ含んでいる。遊離するこの混合ガスは、80〜98体積%の二酸化炭素と2〜20体積%の酸化窒素ガスまたはNOxをそれぞれ含むことが好ましい。
【0036】
このプロセス排水が、アルカリ金属炭酸塩またはアルカリ金属炭酸水素塩に代えて、酸性化でガス成分をなんら生成しない一種以上の他の塩基を含んでいる場合、このガス相は、実質的にNOxからなり、通常47〜98%の一酸化窒素と1〜47%の二酸化窒素と1〜6%の一酸化二窒素を含む。
【0037】
ある好ましい実施様態においては、不活性ガスを用いてこのNOxを酸性の水相と有機相から追い出す。すなわち、これら二つの相に不活性ガスを通過させて、その中に吸着/溶解しているNOxを運び出す。この不活性ガスは、好ましくは窒素と、窒素と酸素の混合物、空気及び/又は二酸化炭素から選ばれる。
【0038】
本発明の方法において、このアルカリ性プロセス排水が、アルカリ金属炭酸塩及び/又はアルカリ金属炭酸水素塩の水溶液を用いるアルカリスクラビングに由来するものであることが特に有利であることが分った。これらの塩基でアルカリ化されたプロセス排水を酸性化すると、上記のガス状NOxだけでなく、多量のガス状CO2が形成され、これがまた、酸性のプロセス排水からのNOxのストリッピングをより確実なものにさせる。不活性ガスを用いるストリッピングを追加する必要がなくなるため、この実施様態は特に好ましい。
【0039】
工程b)では、ガス状のNOxを含む相が除かれる、すなわち有機相と酸性水相から分離される。これを有機相と水相の他の処理の前に行うことが好ましい。
【0040】
ある好ましい実施様態においては、工程b)の後で、除かれたガス相中に存在するNOxが、工程c)でさらに硝酸にまで処理される。この実施様態では、本発明の芳香族化合物のモノ−、ジ−、トリニトロ芳香族化合物へのニトロ化の際に出るアルカリ性プロセス排水の処理方法は、以下の工程からなる:
a)酸を加えてプロセス排水を5未満のpHまで酸性化させて、有機相と酸性の水相とNOxを含むガス相を形成する工程、
b)このNOx含有ガス相を除く工程、
c)工程b)で除かれたガス相中に存在するNOxをさらに処理して硝酸を得る工程。
【0041】
工程b)で除かれたNOx含有相を、工程c)において、事前に精製や他のガス成分の除去をすることなく、直接硝酸製造用の吸着塔に供給することが好ましい。
【0042】
工程c)に存在する硝酸は、芳香族化合物のニトロ化に再循環することが好ましい。本発明の方法の特に好ましい実施様態においては、このNOx含有相が、ニトロ化プラント中の硝酸回収のNOx吸収のための吸収塔に導かれる。工程b)で除かれたNOx含有相のすべてを、存在するCO2の精製や事前の除去を行うことなく、直接再循環することが特に有利である。
【0043】
例えばDE10143800C1のプロセスのように、硫酸濃縮からのNOxオフガスの処理用に設置された吸収塔に再循環させることが好ましい。これにより、6barの圧力と10〜60℃の温度の下で、NOxと向流に流れる水とから、濃度が約60重量%の硝酸が生成し、この硝酸は次いで芳香族化合物のニトロ化に用いることができ、またこのようにしてニトロ化プロセスに再循環できる。同伴するCO2は、この条件下では不活性であり、塔頂から除去可能である。
【0044】
工程b)の後で、除かれたNOx含有相をNOxの廃棄のための当業者には既知の他のプロセスに、例えば焼却に送ることもできる。工程a)で得られる水相と有機相は、さらに処理可能である。ある実施様態においては、有機相を除いた後、酸性の水相を溶媒で抽出する。好ましい溶媒は、ニトロ化の際に出発原料として用いた芳香族化合物である。
【0045】
本発明の他の実施様態においては、有機相の分離後に、この水相は、任意に有機溶媒で抽出後、オゾン分解、熱分解または生物学的排水処理に送られる。
【0046】
本発明の方法は、回分的に行っても連続的に行ってもよい。本発明によればこのプロセスを連続的に行うことが好ましい。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の方法を実施例に基づいて詳述する。
【0048】
[実施例1]
ガス排出口と内部温度計とpH電極を備えた1000mLの攪拌容器に、まず、60℃でジニトロトルエンの製造の際に炭酸ナトリウム水溶液を用いるスクラビングで得た500mLのアルカリ性プロセス排水を投入した。次いで、内部全体を窒素置換して完全に不活性化した。このプロセス排水中の炭酸塩と亜硝酸塩の濃度を表1に示す。このアルカリ性プロセス排水のpHは9であった。次いで、このプロセス排水に93%の廃濃硫酸を混合してpHを1とし、この混合物を5分間攪拌した。発生する混合ガスは、ガス排出口を通して隣の数本の吸収器に導いた。初めの二本の瓶には、正確に酸性化した0.02Mの過マンガン酸カリウム溶液(NO測定用)が、後ろの二本の瓶には0.1MのNaOH(CO2測定用)が入っていた。次いで、装置の内部を徹底的に窒素パージ(ストリッピングではない)して、生成するガスをできる限り吸収器カラムに導いた。その後、これらのNaOH溶液を混合し、炭酸塩含量を0.1MのHClを用いて電位法により測定し、このようにしてCO2の量を計算した。過マンガン酸カリウム溶液は混合し、シュウ酸で滴定して一酸化窒素の量を測定した。求めたガス体積を表1に示す。得られたガス体積(NOとCO2とから計算)は3.25lであった。
【0049】
【表1】

【0050】
[実施例2]
ガス排出口と内部温度計とpH電極を備えた1000mLの攪拌容器に、まず、60℃で500mLの0.3%のNaNO2を含む1.0MのNaOHを投入した。次いで、内部全体を窒素置換して完全に不活性化した。次いで、このプロセス排水に93%の廃濃硫酸を混合してpHを1とし、この混合物を5分間攪拌した。発生する混合ガスは、ガス排出口を通して正確に酸性化した0.02Mの過マンガン酸カリウム溶液の入った隣の数本の吸収器に導いた。次いで、装置の内部を徹底的に窒素パージ(ストリッピングではない)して、生成するガスをできる限り吸収器カラムに導いた。次いで、これらの過マンガン酸カリウム溶液を混合し、シュウ酸で滴定してNOの量を測定した。
【0051】
次いで、装置の窒素パージを液体レベルより下で行った(ストリッピング)以外は、同じ試験を行った。表2に、50l/hの窒素でいずれの場合も5分間パージした後の結果を示す。
【0052】
【表2】

【0053】
酸性化した溶液のストリッピング(パージング)で、より多くのNOが追い出される。
【0054】
実施例1と較べると、炭酸水素ナトリウム水溶液をアルカリ性スクラビング液体として使用すると、生成するCO2が効果的なストリッピング手段となることもわかる。
【0055】
[実施例3]
ガス排出口とプロセス排水供給口、酸供給口、pH電極、プロセス排水排出口を備えた50 Lの攪拌容器に、連続的に220l/hのアルカリ性プロセス排水を供給し、連続的に廃硫酸(93%)でpHを1に調整した。この酸性化したプロセス排水を、約220l/hの一定速度で(充填レベルで調整)、他の処理(攪拌セル抽出器、パルスカラム、ミキサーセトラー)に供給した。DE10143800C1のプロセスのように、生成する混合ガスをラインを経由して圧縮機に送り、最終的に硫酸濃縮からのNOxオフガスの処理用に設けられた吸収器カラムに導いた。
【0056】
[実施例4]
ガス排出口とプロセス排水供給口、酸供給口、pH電極、プロセス排水排出口を備えた50Lの攪拌容器に、連続的に220l/時のアルカリ性プロセス排水を供給し、連続的に廃硫酸(93%)でpHを1に調整した。この酸性化したプロセス排水を、約220l/時の一定速度で(充填レベルで調整)、他の処理(攪拌セル抽出器、パルスカラム、ミキサーセトラー)に供給した。生成した混合ガスをラインを経由して、さらに圧縮することなく、排煙洗浄システムに連結された焼却炉に導いた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族化合物のモノ−、ジ−、トリニトロ芳香族化合物へのニトロ化の際に発生するアルカリ性プロセス排水の処理方法であって、
a)酸を添加して該プロセス排水を5未満のpHに酸性化し、分離した有機相と、酸性の水相と、NOxを含むガス相とを形成する工程、及び
b)該NOxを含むガス相を分離する工程、を含む方法。
【請求項2】
工程a)の酸性化が、ニトロ化の際に得られる硫酸を含む水相を処理して得られる硫酸を使用して行われる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程a)の酸性化が、ニトロ化の際に得られる硫酸を含む水相を処理して得られる濃硫酸を使用して行われる請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程a)の酸性化の過程で生成するNOxが、上記有機相と酸性の水相から不活性ガスでストリップされて上記ガス相に転換される請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程a)の酸性化の過程で生成するNOxが、上記有機相と酸性の水相から、窒素、窒素と酸素の混合物、空気及び/又は二酸化炭素でストリップされて上記ガス相に転換される請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
上記アルカリ性プロセス排水が、アルカリ金属炭酸塩及び/又はアルカリ金属炭酸水素塩水溶液を用いるスクラビングに由来するものであり、窒素酸化物が、該アルカリ性プロセス排水の酸性化の過程で生成する二酸化炭素を用いて有機相と酸性の水相からストリップされて上記ガス相に転換される請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ニトロ化される芳香族化合物が、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン及び/又はジクロロベンゼンである請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
上記アルカリ性プロセス排水が、20〜90℃の温度で、好ましくは55〜70℃の温度で酸性化される請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程b)が、上記有機相と水相のさらなる処理の前に行われる請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
上記酸性の水相が、有機相の除去後に溶媒で抽出される請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
上記の酸性の水相が、有機相の除去後に、任意に溶媒での抽出後に、オゾン分解、熱分解及び/又は生物学的排水処理に送られる請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程b)の後に、除去されたガス相中に存在するNOxをさらに処理して硝酸を得る工程を含む、工程c)が行われる請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
分離されたNOx含有相が、工程c)において、事前に精製及び他のガス成分の除去をすることなく直接、硝酸製造用の吸着塔に供給される請求項12に記載の方法。
【請求項14】
工程c)で得られる硝酸が芳香族化合物のニトロ化に酸循環される請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
工程b)後に分離されたNOx含有相が焼却に送られる請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2013−514163(P2013−514163A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543660(P2012−543660)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【国際出願番号】PCT/EP2010/069530
【国際公開番号】WO2011/082977
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】