説明

ニトロ基を有する新規カルボニル化合物、その製造法及びそれを用いるニトロン化合物の製造法

【課題】スピントラップ剤として優れた特性を有するニトロン化合物を容易な方法で収率よく、廉価に製造することができ、且つ安定性に優れた新規合成中間体およびその製造法を提供する。
【解決手段】置換基を有していてもよい2−オキソ−1,3,2−ジオキサフォスフォリナン−2−イル基を有するニトロアルカン化合物とα,β−不飽和カルボニル化合物を反応させることにより得られる下式で示される新規カルボニル化合物、および該カルボニル化合物を還元的に環化するニトロン化合物の製造法。


[式中RおよびRは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、カルボキシル基、炭素数1〜4のアルコキシカルボニル基又はカルバモイル基を表し、RおよびRは、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピントラップ剤であるピロリン環を有するニトロン化合物の新規な合成中間体、その製造法及びそれを用いるピロリン環を有するニトロン化合物の製造法に関するものである。
スピントラップ剤は電子スピン共鳴測定法(ESRまたはEPRと称される。)の際に使用される試薬であり、これまでにもいくつかの化合物が知られているが、その中でも最近開発されたCYPMPOは物理化学的に安定で、室温保存に優れ、低毒性のスピントラップ剤として注目されている。
【背景技術】
【0002】
電子スピン共鳴測定法に用いるスピントラップ剤としては、ピロリン環を有するニトロン化合物が知られている。その中で汎用されてきた化合物がDMPO(5,5-Dimethyl-1-pyrroline 1-oxide)及びDEPMPO(5-Diethoxyphosphoryl-5-methyl-1-pyrroline 1-oxide)である。
【0003】
しかし特許文献1及び非特許文献1で報告されたスピントラップ剤CYPMPO [5-(2,2-Dimethyl-1,3-propoxy cyclophosphoryl)-5-methyl- 1-pyrroline 1-oxide]が、物理化学的に安定で、室温保存性に優れ、低毒性の結晶で取り扱い易く、且つ、正確なラジカル測定を実施するために好適なシグナル強度を有し、スピンアダクトの半減期が長く、スピンアダクト由来の副生物を生じることもない等のスピントラップ剤として優れた特性を有しているので、最近になって研究者の間では重用され始めている。また、CYPMPOを製造するための合成中間体として、ピロリジン化合物が特許文献2に報告されている。
【0004】
【化1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】再公表特許W02007/043202(特願2007-539811)
【特許文献2】特許第3910989号公報(特開2006-193439)
【非特許文献1】M. Kamibayashi et al., Free Radical Research, Vol. 40(11), 1166-1172(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、上記特許文献1及び非特許文献1の発明に関与した研究者であり、実際にCYPMPOの合成を担当したが、合成研究の途上で下記のような問題点が内在していることを経験した。
(1)上記の特許文献2では下記の反応経路Aにおいて、合成原料として2−メチル−1−ピロリンが用いられているが、この試薬が高価であること。
(2)特許文献2では下記の反応経路Bによる中間体ピロリジン化合物の合成を明細書中に記述しているが、実施例の記載はない。実際に反応を実施したところ、極めて低収率でかつ低純度の中間体が得られたのみで、実用的な製造法とはなりえないこと。
(3)特許文献1では中間体ピロリジン化合物を適当な酸化剤で酸化してCYPMPOに導くことになっているが、実際に合成する上で有効な酸化剤はm-クロロ過安息香酸のみであること。
(4)m-クロロ過安息香酸を酸化剤として用いた場合でも、過剰酸化が避けられず、反応の制御に困難を伴うこと。
(5)反応終了後に反応系からm-クロロ安息香酸及び過剰で未反応のm-クロロ過安息香酸をアルカリ洗浄で除去する際に、水溶性のCYPMPOの逸失が避けられないこと。
(6)上記の(5)の状況と関連するが、酸化剤が混在したCYPMPOの精製に多大の労力を必要とすること。
以上のような問題点が未解決のままでは、安定した品質のCYPMPOを製造し、継続的に市場に供給することは困難である。
【0007】
反応経路A
【化2】

(式中、R、Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、カルボキシル基、炭素数1〜4のアルコキシカルボニル基もしくはカルバモイル基を表し、R、Rは水素原子もしくは炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【0008】
反応経路B
【化3】

(式中、R、Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、カルボキシル基、炭素数1〜4のアルコキシカルボニル基もしくはカルバモイル基を表し、R、Rは水素原子もしくは炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の問題点を解決するために、CYPMPOを反応経路AやBとは異なる別経路で合成法を開発するべく、鋭意研究を行った結果、一般式(VI)で表わされる環状フォスフォリル置換基及びニトロ基を有する新規なカルボニル化合物、なかでも、4-(5,5-ジメチル-2-オキソ-1,3,2-ジオキサフォスフォリナン-2-イル)-4-ニトロペンタナール(CYP-CHOと称することにする。) を経由する方法が工業的製法として極めて有利であることをつきとめた。すなわち、一般式(VI)で表わされるニトロ基及び環状フォスフォリル基を有する新規なカルボニル化合物は安定性に優れ、且つ還元的環化反応により簡単にCYPMPOを含む後述のニトロン化合物(VII)に導くことができる。
この知見をもとにさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、下記一般式(VI)
【化4】

(式中、R、Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、カルボキシル基、炭素数1〜4のアルコキシカルボニル基もしくはカルバモイル基を表し、R、Rは水素原子もしくは炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
で示される環状フォスフォリル基及びニトロ基を有する新規カルボニル化合物及びその製造法を提供するものである。
また、この新規カルボニル化合物を製造する方法及びこの新規カルボニル化合物から有用なニトロン化合物を製造する方法を提供するものである。
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
上記一般式(VI)において、R及びRで示されるアルコキシカルボニル基のアルキル基としては直鎖、又は分枝状の炭素数1〜4のアルキル基が挙げられ、通常はメチル基が好ましいが、脂溶性を高めるためには炭素数の多いアルキル基、例えばt-ブチル基などを選択することが出来る。化合物(VI)に水溶性を付加するには、カルボキシル基又はその塩が適している。R、R2、及びRで示される炭素数1〜4のアルキル基としては、たとえばメチル、エチル、プロピル、イソプロピルなど直鎖、又は分枝状のアルキル基が挙げられる。
【0011】
本発明の環状フォスフォリル基及びニトロ基を有する新規カルボニル化合物(VI)の合成に使用するのに好適な原料である環状フォスフォリル基を有するニトロアルカン化合物(IV)は、文献(J. Zon, Synthesis, 661-663 (1984)) 記載の方法に準じて合成することができる。
【化5】

(式中、R、Rは水素原子もしくは炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【0012】
以下に本発明の環状フォスフォリル基及びニトロ基を有する新規カルボニル化合物(VI)の合成に好適な環状フォスフォリル基を有するニトロアルカン化合物(IV)を例示する。
2-(1-Nitroethyl)-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinane
5-Methyl-2-(1-nitroethyl)-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinane
5-t-Butyl-2-(1-nitroethyl)-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinane
4,5-Dimethyl-2-(1-nitroethyl)-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinane
4,6-Dimethyl-2-(1-nitroethyl)-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinane
5,5-Dimethyl-2-(1-nitroethyl)-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinane
【0013】
本発明の環状フォスフォリル基及びニトロ基を有する新規カルボニル化合物(VI)の合成に用いる好適な原料であるα,β−不飽和カルボニル化合物(V)は市販のリストから適宜選択することが出来る。
【化6】

(式中、R、Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、カルボキシル基、炭素数1〜4のアルコキシカルボニル基もしくはカルバモイル基を表す。)
【0014】
以下に本発明の環状フォスフォリル基及びニトロ基を有する新規カルボニル化合物(VI)の合成に好適なα,β−不飽和カルボニル化合物(V)を例示する。
Acrolein
Methacrolein
2-Oxo-3-butenoic acid
Ethyl 2-oxo-3-butenoic acid
t-Butyl 2-oxo-3-butenoic acid
2-Oxo-3-butenamide
2-Formylpropenoic acid
Ethyl 2-formylpropenoate
t-Butyl 2-formylpropenoate
2-Formylpropenamide
【0015】
本発明の環状フォスフォリル基及びニトロ基を有する新規カルボニル化合物(VI)を合成するには、環状フォスフォリル基を有するニトロアルカン化合物(IV)とα,β−不飽和カルボニル化合物(V)を反応させる。化合物(IV)自体も新規化合物であるが、この化合物は文献(J. Zon, Synthesis, 661-663 (1984))記載の合成法に準じて合成することができる。すなわち、下記の反応式に示すように2-メトキシ-1,3,2-ジオキサフォスフォリナン誘導体(I)に塩化アセチルを反応させて、2-アセチル-2-オキソ-1,3,2-ジオキサフォスフォリナン誘導体(II)を得たのち、ヒドロキシルアミンを反応させて2-(1-ヒドロキイミノエチル)-2-オキソ-1,3,2-ジオキサフォスフォリナン誘導体(III)を得る。次にこのオキシム体(III)をm-クロロ過安息香酸で酸化することにより、2-(1-ニトロエチル)-2-オキソ-1,3,2-ジオキサフォスフォリナン誘導体(IV)が得られる。
【化7】

(式中、R3、R4は水素原子もしくは炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【0016】
上記のZonの報告以前にもフォスフォリル基を有するニトロアルカン化合物の合成法は数多く報告されている。すなわち、2−アルコキシアルケンフォスフォネート誘導体を酸化的にニトロ化する方法(K. A. Petrov et al., Journal of General Chemistry USSR,Vol. 46, 1230-1235 (1976))、ジアルキル 1−アミノアルカンフォスフォネートを酸化する方法(K. A. Petrov et al., Journal of General Chemistry USSR, Vol. 46, 1226-1229 (1976))、フォスフォノカーバニオンをニトロ化する方法(H. Feuer et al., Journal of Organic Chemistry, Vol. 43, 4676-4678 (1978))、ハロニトロアルカンをフォスフォニル化する方法(G.A.Russell et al., Journal of Chemical Society Chemical Communications, 216-217 (1980))などがあるが、原料化合物の入手が容易なこと、反応工程の簡便さなどを考慮してここではZonの報告を参考にした。
【0017】
本発明に係る環状フォスフォリル基及びニトロ基を有する新規カルボニル化合物(VI)の合成は、環状フォスフォリル基を有するニトロアルカン化合物(IV)とα,β−不飽和カルボニル化合物(V)との反応により達成される。Onoらは2-ニトロオクタンが触媒量のトリエチルアミンの存在下アクロレインに共役付加することを報告している(N. Ono et al., Journal of Organic Chemistry, Vol. 50, 3692-3698 (1985))が、化合物(IV)と化合物(V)の反応もこのOnoらの方法を適用することによって効率的に実施することができる。
【0018】
【化8】

(式中、R1、R2は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、カルボキシル基、炭素数1〜4のアルコキシカルボニル基、もしくはカルバモイル基を表し、R3、R4は水素原子もしくは炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【0019】
前記の反応溶媒としては、たとえばクロロホルム、ジクロロメタンなどのハロゲン系溶媒、たとえばテトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテルなどのエーテル類、アセトニトリル、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、たとえばジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなどのアミド類、たとえば酢酸エチルなどのエステル類、たとえばベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素系溶媒の中から選択して使用することが出来る。
【0020】
本発明による環状フォスフォリル基及びニトロ基を有する新規カルボニル化合物(VI)の好適な化合物例を以下に示す。
4-(2-Oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-4-nitropentanal
4-(5-Methyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-4-nitropentanal
4-(5-t-Butyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-4-nitropentanal
4-(4,5-Dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-4-nitropentanal
4-(4,6-Dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-4-nitropentanal
4-(5,5-Dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-4-nitropentanal
5-(5,5-Dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-4-nitro-2-oxohexanoic acid
Ethyl 5-(5,5-dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-4-nitro-2-oxohexanoate
t-Butyl 5-(5,5-dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-4-nitro-2-oxohexanoate
5-(5,5-Dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-4-nitro-2-oxohexanamide
4-(5,5-Dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-4-nitro-2-formylpentanoic acid
Ethyl 4-(5, 5-dimethyl-2-oxo- 1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-4-nitro-2 -formylpentanoate
t-Butyl 4-(5,5-dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-4- nitro- 2-formylpentanoate
4-(5,5-Dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-4-nitro-2-formylpentanamide
5-(5,5-Dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-5-nitro-2-hexanone
【0021】
本発明の環状フォスフォリル基及びニトロ基を有する新規カルボニル化合物(VI)を還元的に環化してニトロン化合物(VII)へ導く反応については、文献(D. L.Haire et al., Journal of Organic Chemistry, Vol. 51, 4298-4300 (1986)) 記載の方法を適用することによって達成することが出来る。
【0022】
【化9】

(式中、R1、R2は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、カルボキシル基、炭素数1〜4のアルコキシカルボニル基もしくはカルバモイル基を表し、R3、R4は水素原子もしくは炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
この文献記載の方法は、ニトロ基及び環状フォスフォリル基を有するカルボニル化合物(VI)を95%エタノールに溶解し、亜鉛末を加えて2℃に冷却したのち、攪拌下に酢酸を1時間かけて滴下するという簡単な操作であり、ニトロン化合物(VII)が高収率(90%以上)で得られる。このように亜鉛末等の金属の存在下に酸を作用させて還元的に環化を行う方法は極めて簡便で、かつ短時間に完結するので、製造法としては優れており、工業化にも対応できる方法である。
【0023】
ニトロ基を有する新規カルボニル化合物(VI)を還元的に環化して環状ニトロン化合物(VII)へ導く反応は、反応機構的には、まずニトロ基が還元されてヒドロキシルアミノ基となり、ヒドロキシルアミノ基とカルボニル基が分子内で縮合して環状ニトロン化合物となることが文献に記載されている(R. Bonnett et al., Journal of Chemical Society, 2094-2102 (1959))。ニトロ基は還元反応によりアミノ基、オキシム基、ヒドロキシルアミノ基、ヒドラゾ基、アゾ基、アゾキシ基など種々の官能基に変換されるので、目的に応じて適切な還元剤を選択すればよい。
本反応に用いることができる好適な還元剤としては、先にあげた亜鉛/酢酸、パラジウム炭素/ギ酸アンモニウムのほかに、亜鉛末/塩化アンモニウム(N. Sankuratri et al., Journal of Organic Chemistry, Vol. 62, 1176-1178 (1997))、アルミナムアマルガム(A. Calder et al., Organic Synthesis, Vol. 52, 77-80 (1972))、ボラン(H. Feuer et al., Journal of Organic Chemistry, Vol. 30, 2880-2882 (1965))、ラネーニッケル/ヒドラジン(N. R. Ayyangar et al., Synthesis, 938 (1984))などをあげることができる。これらの還元剤はニトロ基をヒドロキシルアミノ基に変換することができるが、カルボニル基が影響を受ける場合は予めアセタール、ケタールなどに変換して保護すればよい(R. Bonnett et al., Journal of Chemical Society, 2094-2102 (1959))。
【0024】
上記還元反応に用いる溶媒としては、クロロホルム、ジクロロメタンなどのハロゲン系溶媒、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジメトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなどのアミド類、酢酸エチルなどのエステル類、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素系溶媒の中から選択して使用することが出来る。
【0025】
以下に本発明の新規カルボニル化合物(VI)を用いて合成が可能なスピントラップ剤として有用なニトロン化合物(VII)を例示する。
5-(2-Oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-5-methyl-1-pyrroline- 1-oxide
5-(5-Methyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-5-methyl-1-pyrroline 1-oxide
5-(5-tert-Butyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-5-methyl-1-pyrroline 1-oxide
5-(4,5-Dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-5-methyl-1-pyrroline 1-oxide
5-(4,6-Dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-5-methyl-1-pyrroline 1-oxide
5-(5,5-Dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-5-methyl-1-pyrroline 1-oxide
5-(5,5-Dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-5-methyl-1-pyrroline-2-carboxylic
acid 1-oxide
5-(5,5-Dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-5-methyl-1-pyrroline-2-carboxylicacid ethyl ester 1-oxide
5-(5,5-Dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-5-methyl-1-pyrroline-2-carboxylicacid tert-butyl ester 1-oxide
5-(5,5-Dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-5-methyl-1-pyrroline-2-carboxamide 1-oxide
5-(5,5-Dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-5-methyl-1-pyrroline-3-carboxylicacid 1-oxide
5-(5,5-Dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-5-methyl-1-pyrroline-3-carboxylicacid ethyl ester 1-oxide
5-(5,5-Dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-5-methyl-1-pyrroline-3-carboxylicacid tert-butyl ester 1-oxide
5-(5,5-Dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-5-methyl-1-pyrroline-3-carboxamide 1-oxide
5-(5,5-Dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-2,5-dimethyl-1-pyrroline 1-oxide
【発明の効果】
【0026】
一般式(VI)で表される環状フォスフォリル基及びニトロ基を有する新規カルボニル化合物、なかでも、4-(5,5-ジメチル-2-オキソ-1,3,2-ジオキサフォスフォリナン-2-イル)-4-ニトロペンタナール(CYP-CHO)は、安定性に優れ、且つ、還元的環化反応により簡単に、高収率で目的物CYPMPOに導くことができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、実施例や参考例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
[参考例1]
2-クロロ5,5-ジメチル-1,3,2-ジオキサフォスフォリナンの合成
【0028】
【化10】

2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール100g (960mmol) のトルエン溶液 (200mL) に三塩化リン 132g (960mmol) を氷冷下滴下した。滴下終了後、得られた反応混合物を減圧蒸留(108-111℃/75mmHg)により精製し、2-クロロ-5,5-ジメチル-1,3,2-ジオキサフォスフォリナン127.4g (756mmol,収率78.8%)を刺激臭のある無色透明液体として得た。
1H-NMR (CDCl3, 270MHz) : δ0.83 (3H, s), 1.27 (3H, s), 3.57 (2H, dd, A part of AB, JAB=10.4Hz, J=9.9Hz), 4.32 (2H, dd, B part of AB, JAB=10.4Hz, J=5.8Hz).
31P-NMR (CDCl3, 109.25MHz) : δ150.54.
[参考例2]
5,5-ジメチル-2-メトキシ-1,3,2-ジオキサフォスフォリナンの合成
【0029】
【化11】

メタノール 13.0g (407mmol)、トリエチルアミン 41.1g (407mmol) のトルエン溶液(300mL) に氷冷下、2-クロロ-5,5-ジメチル-1,3,2-ジオキサフォスフォリナン 62.3g (370mmol) を滴下し、室温にて2時間攪拌した。反応終了後、不溶物を濾別し、得られた濾液を濃縮したのち、減圧蒸留(85-88℃/40mmHg)して 5,5-ジメチル-2-メトキシ-1,3,2-ジオキサフォスフォリナン 49.4g (収率81.3%) を無色油状物として得た。
1H-NMR (CDCl3, 270MHz) : δ0.73 (3H, s), 1.25 (3H, s), 3.23-3.55 (2H, s), 3.55 (2H, d,J=11.9Hz), 4.05-4.15 (2H, m).
13C-NMR (CDCl3, 67.80MHz) : δ22.4, 22.7, 32.7, 49.7, 68.6.
31P-NMR (CDCl3, 109.25MHz) : δ127.04.
[参考例3]
2-アセチル-5,5-ジメチル-2-オキソ-1,3,2-ジオキサフォスフォリナン (CYP-Ac) の合成
【0030】
【化12】

5,5-ジメチル-2-メトキシ-1,3,2-ジオキサフォスフォリナン 10.0g (60.9mmol) を塩化アセチル 4.77mL (67mmol) に氷冷下滴下した。滴下終了後、室温にて30分静置した後、揮発成分を減圧下に留去した。次いで反応混合物をトルエン (10mL) に懸濁させて濾過し、得られた粗結晶をトルエン (5mL) にて2回洗浄したのち、減圧乾燥して2-アセチル-5,5-ジメチル-2-オキソ-1,3,2-ジオキサフォスフォリナン (CYP-Ac) を白色固体として得た。
収量 9.03g (収率 77.2%)。
1H-NMR (CDCl3, 270MHz) : δ0.90 (3H, s), 1.33 (3H, s), 2.56 (3H, d, J=5.3Hz), 3.92-4.10 (2H, m), 4.26-4.34 (2H, m).
13C-NMR (CDCl3, 67.80MHz) : δ20.1, 21.5, 31.1, 32.5, 78.8, 211.2.
31P-NMR (CDCl3, 109.25MHz) : δ7.89.
[参考例4]
5,5-ジメチル-2-(1-ヒドロキシイミノエチル)-2-オキソ-1,3,2-ジオキサフォスフォリナン(CYP-NOH)の合成
【0031】
【化13】

2-アセチル-5,5-ジメチル-2-オキソ-1,3,2-ジオキサフォスフォリナン 5.00g (26.0mmol)、ピリジン 2.50mL (31.2mmol)、塩化ヒドロキシルアンモニウム 2.17g (31.2mmol) のエタノール溶液 (25mL) を10分間還流した後、減圧下に濃縮した。得られた反応混合物 (10g)をジクロロメタン (20mL) に溶解し、2規定塩酸 (3mL)、水 (3mL)、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液 (3mL)、水 (3mL)、飽和食塩水 (3mL) で順次洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥する。乾燥剤を濾過した後、濾液を減圧濃縮し、得られた粗結晶を酢酸エチルで2回洗浄 (9mL + 4.5mL) した後、減圧下に乾燥して、5,5-ジメチル-2-(1-ヒドロキシイミノエチル)-2-オキソ-1,3,2-ジオキサフォスフォリナン (CYP-NOH) を白色針状結晶として得た。
収量 4.01g (収率 74.4%)。
【0032】
元素分析(C7H14NO4P Mol. Wt. : 207.16):
Calc. C, 40.58; H, 6.81; N, 6.76
Found C, 40.61; H, 6.76; N, 6.55
融点:151.6-153.1℃
1H-NMR (DMSO-d6, 270MHz) : δ0.80 (3H, s), 1.19 (3H, s), 1.90 (3H, d, J=10.8Hz),3.89-4.12 (4H, m), 12.4 (1H, s).
13C-NMR (DMSO-d6, 67.80MHz) : δ11.5, 19.6, 21.3, 31.9, 77.0, 149.1.
31P-NMR (DMSO-d6, 109.25MHz) : δ7.86.
[実施例1]
【0033】
5,5-ジメチル-2-(1-ニトロエチル)-2-オキソ-1,3,2-ジオキサフォスフォリナン (CYP-NO2) の合成
【化14】

5,5-ジメチル-2-(1-ヒドロキシイミノエチル)-2-オキソ-1,3,2-ジオキサフォスフォリナン(CYP-NOH)22.34g (107.8mmol) のジクロロメタン溶液 (220mL) にm-クロロ過安息香酸(m-CPBA) 53.16g (70% 水懸濁物、215.6mmol) を加え、36℃にて4日間静置した。次いで反応液に氷冷下にジメチルスルホキシド 10.1g (129.4mmol) を滴下し、不溶物を濾過した。濾過残渣をジクロロメタンで洗浄し、合わせた有機層を減圧下で濃縮した。得られた反応混合物を酢酸エチルに溶解し、水、飽和食塩水で順次洗浄した後、減圧濃縮する。得られた濃縮物をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘプタン:酢酸エチル=2:1→酢酸エチル)に付して精製し、5,5-ジメチル-2-(1-ニトロエチル)-2-オキソ-1,3,2-ジオキサフォスフォリナン (CYP-NO2) をアモルファス状白色固体として得た。収量 20.18g (収率 83.9%)。
【0034】
元素分析 (C7H14NO5P Mol. Wt. : 233.16)
Calc. C, 37.67; H, 6.32; N, 6.28
Found C, 37.71; H, 6.45; N, 6.39
融点:138.2-138.6℃
IRスペクトル (KBr, cm-1) : 2972, 2953, 2908, 2882, 1560, 1474, 1452, 1288, 1269, 1060,1013.
1H-NMR (CDCl3, 270MHz) : δ0.97 (3H, s), 1.24 (3H, s), 1.88 (3H, dd, J=7.3, 16.3Hz),4.00-4.15 (4H, m), 5.12 (1H, dq, J=7.3, 14.5Hz).
13C-NMR (CDCl3, 67.80MHz) : δ14.2, 20.8, 21.7, 32.8, 78.4, 78.7, 78.8.
31P-NMR (CDCl3, 109.25MHz) : δ8.78.
[実施例2]
4-(5,5-ジメチル-2-オキソ-1,3,2-ジオキサフォスフォリナン-2-イル)-4-ニトロペンタナール(CYP-CHO) の合成
【0035】
【化15】

5,5-ジメチル-2-(1-ニトロエチル)-2-オキソ-1,3,2-ジオキサフォスフォリナン(CYP-NO2) 18.15g(81.33mmol) のアセトニトリル溶液 (81mL) にアクロレイン 5.07g (90%, 81.33mmol)とトリエチルアミン 8.23g (81.33mmol) を加え、室温にて30分間攪拌した。得られた反応混合物から揮発成分を減圧下に留去して、4-(5,5-ジメチル-2-オキソ-1,3,2-ジオキサフォスフォリナン-2-イル)-4-ニトロペンタナール (CYP-CHO) を褐色油状物として得た。収量 22.68g (収率 99.9%)。 シリカゲルカラムで精製することにより無色油状物として得られた。
【0036】
MSスペクトル:Calcd for C10H18NO6P+H+, 280.237 ;Found, 280.0945.
IRスペクトル (KBr, cm-1) : 2972, 2950, 1724, 1545, 1473, 1275, 1065, 1016, 997.
1H-NMR (CDCl3, 270MHz) : δ0.96 (3H, s), 1.27 (3H, s), 1.87 (3H, d, J=14.5Hz),2.54-2.77 (4H, m), 3.89-4.23 (4H, m), 9.77 (1H, s).
13C-NMR (CDCl3, 67.80MHz) : δ20.3, 20.9, 22.0, 28.0, 33.0, 38.4, 78.8, 78.9, 88.4, 199.0.
31P-NMR (CDCl3, 109.25MHz) : δ11.52.
CYP-CHOの2,4-ジニトロフェニルヒドラゾン
融点: 191.4-192.0℃
元素分析(C16H22N5O9P Mol. Wt. : 459.35)
Calc. C, 41.84; H, 4.83; N, 15.25
Found C, 41.89; H, 4.82; N, 15.26
[実施例3]
5-(5,5-ジメチル-2-オキソ-1,3,2-ジオキサフォスフォリナン-2-イル)-5-メチル-1-ピロリン1-オキサイド (CYPMPO) の合成
【0037】
【化16】

4-(5,5-ジメチル-2-オキソ-1,3,2-ジオキサフォスフォリナン-2-イル)-4-ニトロペンタナール 22.68g (81.22mmol) をエタノール (228mL) と水 (12mL) とに溶解し、亜鉛末 10.62g(162.4mmol) を加えた。この混合液に酢酸 19.50g (324.9mmol) を氷冷下で滴下し、滴下終了後、室温で30分間攪拌した。次いで反応液を濾過し、濾過残渣をメタノール (20mL)で洗浄し、濾液及び洗液を合わせて減圧下に濃縮した。得られた反応混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製して、5-(5,5-ジメチル-2-オキソ-1,3,2-ジオキサフォスフォリナン-2-イル)-5-メチル-1-ピロリン 1-オキサイド (CYPMPO) を得た。収量11.42g
(収率 56.9%)。
【0038】
IRスペクトル (KBr, cm-1) : 2956.9, 1573.9, 1473.6, 1249.9, 1060.9, 1020.3, 991.4, 831.3,792.7.
1H-NMR (CDCl3, 270MHz) : δ0.91 (3H, s), 1.29 (3H, s), 1.77 (3H, d, J=15.0Hz), 2.20(1H, dddd, J=7.0, 9.5, 13.9, 19.8Hz), 2.60-2.70 (1H, m), 2.71-2.82 (1H, m), 3.01 (1H,dddd, J=4.0, 9.5, 13.9, 16.1Hz), 3.91-4.01 (2H, m), 4.22 (1H, dd, J=3.8, 10.3Hz),4.79 (1H, dd, J=3.7, 10.4Hz), 6.94 (1H, q, J=2.8Hz).
13C-NMR (CDCl3, 67.80MHz) : δ20.4, 20.6, 22.0, 25.7, 30.9, 32.6, 75.3, 77.5, 79.3, 135.0.
31P-NMR (CDCl3, 109.25MHz) : δ14.5.
【産業上の利用可能性】
【0039】
スピントラップ剤は電子スピン共鳴測定法(ESRまたはEPRと称される。)の際に使用される試薬であり、これまでにもいくつかの化合物が知られているが、その中でも最近開発されたCYPMPOは物理化学的に安定で、室温保存性に優れ、低毒性のスピントラップ剤として注目されている。
一般式(VI)で表わされる環状フォスフォリル基およびニトロ基を有する新規カルボニル化合物、なかでも4-(5,5-ジメチル-2-オキソ-1,3,2-ジオキサフォスフォリナン-2-イル)-4-ニトロペンタナール(CYP-CHO)は安定性にすぐれ、且つ還元的環化反応により容易にCYPMPOに導くことができるので、CYPMPOの有用な中間体である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(VI)

(式中R1およびR2は、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、カルボキシル基、炭素数1〜4のアルコキシカルボニル基又はカルバモイル基を表し、R3およびR4は、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
で示されるニトロ基を有する新規カルボニル化合物又はその塩。
【請求項2】
一般式(IV)

(式中R3およびR4は、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
で示されるニトロアルカン化合物と
一般式(V)

(式中R1およびR2は、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、カルボキシル基炭素数1〜4のアルコキシカルボニル基又はカルバモイル基を表す。)
で示されるα、β−不飽和カルボニル化合物を反応させる
一般式(VI)

(式中R1、R2、R3およびR4は、前記と同義)
で示される新規カルボニル化合物又はその塩の製造法。
【請求項3】
一般式(VI)

(式中R1およびR2は、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、カルボキシル基、炭素数1〜4のアルコキシカルボニル基又はカルバモイル基を表し、R3およびR4は、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
で示されるニトロ基を有する新規カルボニル化合物又はその塩を還元的に環化する
一般式(VII)

(式中R1、R2、R3およびR4は、前記と同義)
で示されるニトロン化合物の製造法。

【公開番号】特開2011−132162(P2011−132162A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292309(P2009−292309)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(595115994)三國製薬工業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】