説明

ニューマチックケーソン排土システム

【課題】ケーソン周辺に揚重設備を設置するスペースを不要とし、艤装作業に伴い必要となるマテリアルシャフトの継ぎ足しを効率良く行うニューマチックケーソン排土システムを提供する。
【解決手段】ケーソン躯体2の作業室5内の圧力を一定に保つためのマテリアルロック6を作業室天井スラブ3の直上または順次上方へ継ぎ足して使用されるマテリアルシャフト7の中間部に設置する。マテリアルシャフト7の最上部に排土用の揚重設備を設け、マテリアルシャフト7を排土用シャフト兼揚重設備のマスト24として用いる。マテリアルシャフト7の最上部に排土用の揚重設備として、自機によりマスト24を継ぎ足し上昇するクライミングクレーン21を取り付けることにより、クライミングクレーン21がマスト24を継ぎ足し上昇することが、マテリアルシャフト7を継ぎ足していることになり、作業効率が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニューマチックケーソン工法におけるマテリアルロックや排土用の揚重設備等の排土システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ニューマチックケーソン工法における底部の作業室内の掘削土は、例えば排土バケットを使用して、クローラクレーンやスケータークレーン等の揚重設備により、マテリアルシャフトからマテリアルロックを通じて、地上に搬出される。
【0003】
従来のニューマチックケーソン工法の例を図3、4に示す。図3は、揚重設備としてクローラクレーンを、図4はスケータークレーンを用いた場合を示している。
【0004】
地上のケーソン躯体の周辺に揚重設備と土砂ホッパ(土砂ピット)を設置し、作業ヤードを設ける。作業室天井スラブの上面にスペシャルシャフトを設置し、スペシャルシャフトの上に必要数のマテリアルシャフトを接続して、マテリアルシャフトの上端部にマテリアルロックを設置する。
【0005】
排土バケットにより搬出された掘削土は、地上で土砂ホッパ(土砂ピット)に仮置きされる。排土バケットは、地上で掘削土を土砂ホッパに移し替えた後、再びマテリアルロックからマテリアルシャフトを通じて作業室内に投入される。
【0006】
構造物の躯体は、高さ方向でいくつかのロットに分割され、所定高さ毎に築造される。築造されたロット(構築ロット)ごとに艤装作業(マテリアルシャフトの継ぎ足し等)を行う。
【0007】
従来のニューマチックケーソン工法は、上述したように構築されており、例えばその工法に関する発明として、特許文献1〜3記載の発明がある。
【0008】
特許文献1は、ニューマチックケーソンにおいて、鉄筋コンクリートのスラブを不要とし、圧気作業室の天井をなす圧気スラブを介して隣接し、ケーソン掘削機を圧気作業室から回収して、修理・点検を行うために加減圧可能な整備作業空間を区画する回収ロックが示されている。
【0009】
特許文献2では、ケーソン躯体下部に設けられた作業スラブの下に、作業室内の掘削機を収納して大気圧下で作業が可能なメンテナンス室が設けられている。
【0010】
特許文献3は、ニューマチックケーソン工法において、マテリアルシャフトの艤装作業時におけるマテリアルロックの一時撤去を不要にする工法が示されている。材料搬出入システムを構成するマテリアルロックを、マテリアルロックと同軸上に連続するマテリアルシャフトの最下部で、かつケーソン天井スラブの直上位置に設置し、ケーソン沈設に伴い発生するケーソン躯体構築の際のマテリアルシャフト艤装作業において、マテリアルロックの情報にマテリアルシャフトを順次艤装可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−150870号公報
【特許文献2】特開2005−320801号公報
【特許文献3】特開2004−360209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来のニューマチックケーソン工法では、ケーソン躯体周辺に揚重設備を配置するための広いスペースが必要であり、作業ヤードが狭隘な場合は、スペースの確保が困難であった。
【0013】
特許文献1、2の場合は、マテリアルシャフトの継ぎ足しをする際、マテリアルシャフトの最上部に設置しているマテリアルロックを毎回取り外すため、手間と時間が非常に掛かってしまう。
【0014】
特許文献3の場合は、作業室天井スラブの直上位置かつマテリアルシャフトの最下部にマテリアルロックを設置し、マテリアルシャフトの頂上にはアースバケットなどの材料導入用のガイドリングを設置しているため、マテリアルシャフトを継ぎ足す際にマテリアルロックを取り外す手間はないが、結局ガイドリングを毎回取り外すという手間がかかってしまうことになる。
【0015】
本発明は、従来技術における上述のような課題の解決を図ったものであり、ケーソン周辺に広いスペースがなくても作業ヤードを構築することが可能であり、各ロットの艤装作業に伴い必要となるマテリアルシャフトの継ぎ足しを効率良く行うことのできるニューマチックケーソン排土システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1に係る発明は、ニューマチックケーソン排土システムであって、作業時におけるケーソンの作業室内の圧力を一定に保つためのマテリアルロックを、ケーソン躯体の下部に設けられた作業室天井スラブの直上または順次上方へ継ぎ足して使用されるマテリアルシャフトの中間部に設置し、前記マテリアルシャフトの最上部に排土用の揚重設備を設け、前記マテリアルシャフトを排土用シャフト兼前記揚重設備のマストとして用いることを特徴とするものである。
【0017】
マテリアルロックをケーソン躯体下部の作業室天井スラブの直上またはマテリアルシャフトの中間部に設置し、マテリアルロックの上部にマテリアルシャフトを接続することによって、マテリアルロックを取り外すことなくマテリアルシャフトの継ぎ足しを行うことが可能となる。従来、マテリアルシャフトの継ぎ足しの際に必要であったマテリアルロックの取り外しは不要となり、手間が省け、作業効率が向上する。
【0018】
マテリアルシャフトの最上部に排土用の揚重設備を設置することで、ケーソン周辺に必要であった作業ヤードの揚重設備を設置するスペースを省くことができ、作業ヤードとして土砂ホッパを置くスペースのみを最低限確保すれば、ニューマチックケーソンを施工することができるようになる。
【0019】
マテリアルシャフトは、作業室内で生じた掘削土を地上へ運び出すための排土用シャフトとしての機能のほかに、マテリアルシャフトの最上部に設置された揚重設備のマスト(支柱)として揚重設備を支える機能も兼ね備えることになる。
【0020】
請求項2に係る発明は、請求項1記載のニューマチックケーソン排土システムにおいて、前記作業室で発生する排土を前記マテリアルシャフトに通した排土バケットにより地上に排出することを特徴とするものである。
【0021】
作業室で発生した排土を排土バケットに入れ、マテリアルロックからマテリアルシャフトの内部を通って、地上の土砂ホッパへと排出される。
【0022】
請求項3に係る発明は、請求項1または2記載のニューマチックケーソン排土システムにおいて、前記揚重設備はマストとしてのマテリアルシャフトを継ぎ足しながら上昇するクライミングクレーンであることを特徴とするものである。
【0023】
請求項3は、マテリアルシャフトの最上部に取り付けた排土用の揚重設備が、自機によりマストを継ぎ足し上昇するクライミング機構を有するクライミングクレーンである場合に限定したものである。
【0024】
クライミングクレーンは、例えば旋回体(昇降シリンダ)とそのシリンダの上下にカンヌキを備えたもの等である。上下のカンヌキで交互にクレーン本体を支え、マストを継ぎ足し、旋回体をせり上げることで、クレーン本体を上昇させていくことができる。
【0025】
つまり、マテリアルシャフトの最上部にクライミングクレーンを設置し、上昇するためにマストを継ぎ足すことが、マテリアルシャフトを継ぎ足していることになる。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、以上のような構成からなるので次のような効果が得られる。
【0027】
ニューマチックケーソンの躯体周囲の作業ヤードに、排土用の揚重設備のためのスペースを確保する必要がなくなり、作業ヤードが狭くても施工可能となる。
【0028】
各ロットの艤装作業は、マテリアルロックを取り外すことなく、マテリアルシャフトの継ぎ足しを行なうことができ、艤装作業の効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係るニューマチックケーソン工法の排土システムの一実施形態を示したものであり、起伏ジブ式クライミングクレーンを使用した場合の正面図である。
【図2】本発明に係るニューマチックケーソン工法の排土システムの一実施形態を示したものであり、水平ジブ式クライミングクレーンを使用した場合の正面図である。
【図3】従来のニューマチックケーソン工法の排土システムの一例であり、クローラクレーンを使用した場合の正面図である。
【図4】従来のニューマチックケーソン工法の排土システムの他の例であり、スケータークレーンを使用した場合の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を添付した図面に基づいて説明する。なお、本発明は以下に示される実施形態に限定されるものではない。
【0031】
図1、2は、本発明に係るニューマチックケーソン工法の排土システムの一実施形態を示したものであり、図1は揚重設備として起伏ジブ式クライミングクレーンを使用した場合、図2は水平ジブ式クライミングクレーンを使用した場合の正面図である。
【0032】
ニューマチックケーソン1は、箱状や筒状のケーソン躯体2の底部に設けられた作業室スラブ3の下を刃口4で囲まれた作業室5とし、この作業室5内に地上から地下水圧に見合った圧縮空気を送り、完全に地下水の浸入を防いだ高気圧下で掘削を行い、掘削のみまたは荷重等との併用により沈下を行うように構成されている。
【0033】
ケーソン躯体2の内側には、作業員がエレベータ等により昇降するマンシャフト11が立設され、マンシャフト11の最上部にマンロック10が設けられている。
【0034】
作業室スラブ3直上に、マテリアルロック6を設け、作業室5内の圧力を一定に保っている。
【0035】
また、マテリアルロック6の上にマテリアルシャフト7を設置するため、マテリアルシャフト7を継ぎ足す際に必要とされていたマテリアルロック6の取り外しが不要となり、その分の手間が省け、作業効率が上がる。
【0036】
マテリアルシャフト7の最上部には、排土用の揚重設備として、クライミングクレーンを設け、マテリアルシャフト7を排土用シャフトとしての機能だけでなく、クライミングクレーンのマストとしての機能も兼ね備える。
【0037】
また、ケーソン躯体2の周辺に揚重設備のためのスペースを確保することなく、ニューマチックケーソン工法を実施することができる。
【0038】
図1には、起伏ジブ式クライミングクレーン21を用いた場合を示し、図2は水平ジブ式クライミングクレーン22を用いた場合の例に挙げているが、現場の安全が確保でき、マテリアルシャフト7の最上部に取り付けて、自機によってクライミングが可能であるクレーンであれば、揚重設備の種類は問わない。
【0039】
クライミングクレーン(21、22)のジブ23には、作業室5で発生した排土を運搬するための排土バケット8を設け、ケーソン躯体2の周辺には排土を入れるための土砂ホッパ9を用意する。
【0040】
図1の起伏ジブ式クライミングクレーン21の場合は、ジブ23の角度を変えて、起伏移動させ、排土バケット8をマテリアルシャフト7の最上部まで移動させる。
【0041】
一方、図2の水平ジブ式クライミングクレーン22の場合は、ジブ23は常に水平であり、ジブ23をレールとして、排土バケット8をマテリアルシャフト7の最上部まで移動させる。
【0042】
その後、マテリアルシャフト7の最上部から排土バケット8を挿入し、マテリアルシャフト7内を通って、作業室5で掘削した排土を排土バケット8に入れ、排土バケット8を地上まで引き上げて、ケーソン躯体2周辺に設けた土砂ホッパ9へ排土を搬出する。
【0043】
ケーソン躯体2の構築は、1ロット4〜5mで行い、沈下掘削に伴い、ケーソン躯体2の各ロット2aを築造する際には、マテリアルシャフト7を継ぎ足す作業が必要となる。本発明では、マテリアルシャフト7の最上部にクライミングクレーン(21、22)を設置しているため、クライミングクレーン(21、22)のマスト24を継ぎ足して上昇させることが、マテリアルシャフト7を継ぎ足すことと同じ効果となる。
【0044】
クライミングクレーン(21、22)のマスト24には、旋回体である昇降シリンダ25と昇降シリンダ25の上下に上部カンヌキ26と下部カンヌキ27を備えている。上部カンヌキ26と下部カンヌキ27とで交互にクレーン本体(21、22)を支え、マスト24を継ぎ足し、昇降シリンダ25を伸縮させることによって、徐々にクレーン本体(21、22)を上昇させていくことができ、結果的にマテリアルシャフト7を継ぎ足すことと同様の効果を得ることになる。
【0045】
図1、2では、マテリアルロック6を作業室スラブ3の直上かつマテリアルシャフト7の最下部に設けた例を示しているが、マテリアルロック6を設置する位置は、マテリアルシャフト7の最上部でなければどこでもよく、マテリアルシャフト7の間にマテリアルロック6を設置してもよい。マテリアルロック6の上にマテリアルシャフト7を立設し、マテリアルシャフト7の最上部にクライミングクレーン(21、22)を設置すれば、マテリアルシャフト7を継ぎ足す際には、クライミングクレーン(21、22)のマスト24を継ぎ足し、クレーン(21、22)を上昇させればよい。以上により、ニューマチックケーソン工法において、マテリアルロック6の取付け・取り外しに掛かっていた時間と手間が省け、より効率的に作業を行うことができる。
【符号の説明】
【0046】
1…ニューマチックケーソン、
2…ケーソン躯体、2a…構築ロット、
3…作業室スラブ、
4…刃口、
5…作業室、
6…マテリアルロック、
7…マテリアルシャフト、
8…排土バケット、
9…土砂ホッパ、
10…マンロック、
11…マンシャフト、
21…起伏ジブ式クライミングクレーン、
22…水平ジブ式クライミングクレーン、
23…ジブ、
24…マスト、
25…昇降シリンダ、
26…上部カンヌキ、
27…下部カンヌキ、
31…クローラクレーン、
32…スケータークレーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業時におけるケーソンの作業室内の圧力を一定に保つためのマテリアルロックを、
ケーソン躯体の下部に設けられた作業室天井スラブの直上または順次上方へ継ぎ足して使用されるマテリアルシャフトの中間部に設置し、前記マテリアルシャフトの最上部に排土用の揚重設備を設け、前記マテリアルシャフトを排土用シャフト兼前記揚重設備のマストとして用いることを特徴とするニューマチックケーソン排土システム。
【請求項2】
前記作業室で発生する排土を前記マテリアルシャフトに通した排土バケットにより地上に排出することを特徴とする請求項1記載のニューマチックケーソン排土システム。
【請求項3】
前記揚重設備は、マストとしてのマテリアルシャフトを継ぎ足しながら上昇するクライミングクレーンであることを特徴とする請求項1または2記載のニューマチックケーソン排土システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−77566(P2012−77566A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225727(P2010−225727)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000149594)株式会社大本組 (40)
【出願人】(591075630)株式会社アクティオ (33)