説明

ニューロトキシンポリペプチドの量の測定とその触媒及びタンパク質分解活性の測定のための手段及び方法

本発明は、ポリペプチドの製造及び品質管理を確実にするツールの分野に関する。具体的には、本発明は、プロセシングされたニューロトキシンポリペプチドと、部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド又はプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチドとを含む溶液中のプロセシングされた(活性)ニューロトキシンポリペプチドの量を測定する方法に関する。本発明はさらに、上記の量を測定するためのデバイス、及び本発明の方法の実施に適したキットに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリペプチドの製造及び品質管理を確実にするためのツールの分野に関する。具体的には、本発明は、プロセシングされたニューロトキシンポリペプチドと、部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド又はプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチドとを含む溶液中のプロセシングされた(活性)ニューロトキシンポリペプチドの量を測定する方法に関する。本発明はさらに、上記量を決定するための方法、及び本発明の方法を実施するのに適したキットに関する。
【背景技術】
【0002】
ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)及び破傷風菌(Clostridium tetani)は、極めて強力な神経毒、すなわちボツリヌス毒素(BoNT)及び破傷風毒素(TeNT)をそれぞれ産生する。上記のクロストリジウムニューロトキシン(CNT)は、神経細胞に特異的に結合して、神経伝達物質の放出を破壊する。該毒素は各々、不活性のプロセシングされていない約150 kDaの一本鎖タンパク質として合成される。翻訳後プロセシングは、ジスルフィド架橋の形成、及び細菌プロテアーゼによる限定的なタンパク質分解(ニッキング)を含む。活性ニューロトキシンは、ジスルフィド結合によって連結された2つの鎖、すなわち約50 kDaのN末端軽鎖と、約100 kDaの重鎖から構成されている。CNTは、構造及び機能上、3つのドメイン、すなわち触媒性軽鎖、転座(translocation)ドメイン(N末端部分)を含む重鎖、及び受容体結合ドメイン(C末端部分)から構成されている(Krieglstein 1990, Eur J Biochem 188, 39; Krieglstein 1991, Eur J Biochem 202, 41; Krieglstein 1994, J Protein Chem 13, 49を参照)。ボツリヌスニューロトキシンは、150 kDaニューロトキシンタンパク質と、関連する非毒性タンパク質とを含む分子複合体として合成される。上記複合体の大きさは、クロストリジウム株、及び異なるニューロトキシン血清型に応じて異なり、300 kDaから500 kDa以上、900 kDaの範囲である。上記複合体中の非毒性タンパク質は、ニューロトキシンを安定化して、これを分解から保護する(Silberstein 2004, Pain Practice 4, S19-26を参照)。
【0003】
ボツリヌス菌は、A型〜G型ボツリヌス神経毒(BoNT)と呼ばれる、抗原が異なる7つの血清型を分泌する。破傷風菌によって分泌される関連破傷風神経毒(TeNT)を含むすべての血清型が、Zn2-エンドプロテアーゼであり、これらは、SNAREタンパク質を切断することによってシナプスエキソサイトーシスを阻止する(Couesnon, 2006, Microbiology, 152, 759を参照)。CNTは、ボツリヌス中毒症及び破傷風にみられる弛緩性筋肉麻痺を引き起こす(Fischer 2007, PNAS 104, 10447を参照)。
【0004】
その毒作用にもかかわらず、ボツリヌス毒素複合体は、多数の疾患において治療薬として用いられてきた。ボツリヌス毒素血清型Aは、1989年に米国で、斜視、眼瞼痙攣、及びその他の障害の治療のためにヒトへの使用が承認された。これは、A型ボツリヌス毒素タンパク質製剤として、例えば、商標BOTOX(Allergan Inc)又は商標DYSPORT(Ipsen Ltd)で市販されている。改良され、複合体を含まないA型ボツリヌス毒素製剤が、商標XEOMIN(Merz Pharmaceuticals GmbH)で市販されている。治療用途では、上記の製剤を、治療しようとする筋肉に直接注射する。生理学的pHで、上記毒素はタンパク質複合体から放出されて、所望の薬理学的効果が発揮される。ボツリヌス毒素の効果は一時的に過ぎないことから、治療効果を維持するために、ボツリヌス毒素の反復投与が必要な場合もある。
【0005】
クロストリジウムニューロトキシンは、随意筋の強度を弱くし、斜視、頸部ジストニアなどの限局性筋失調症、及び良性本態性眼瞼痙攣の有効な治療薬である。さらに、これらは、片側顔面痙攣、及び焦点性痙攣を軽減することが明らかにされており、他の多様な適応症、例えば、胃腸障害、多汗症、並びに美容上のしわ取りにも有効であることがわかっている(Jost 2007, Drugs 67, 669を参照)。
【0006】
クロストリジウムニューロトキシンの製造工程においては、活性ニューロトキシンポリペプチドの量測定及び品質管理が特に重要である。現在入手可能なニューロトキシン製剤は、所望の活性(プロセシングされた、すなわち成熟)ニューロトキシンに加えて、タンパク質分解によりプロセシングされていない前駆体及び/又は部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチドも含む。タンパク質分解によりプロセシングされていない前駆体又は部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチドは、わずか数個のアミノ酸の配列で、成熟(活性の、プロセシングされた)ニューロトキシンポリペプチドとは異なる。従って、これらを、その化学的及び物理的特性に基づいて量的に区別するのはほぼ不可能である。これに対し、全タンパク質のタンパク質分解によりプロセシングされていない前駆体及び/又は部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチドの部分は、上記製剤中で依然として有意である可能性がある。この部分は、生産に用いられる生物系に応じて異なるが、これは生合成及び発酵プロセスの条件によるものである。このように、ニューロトキシン製剤中の所望の成熟、かつ生物学的に活性のニューロトキシンポリペプチドの量は既に規定されているが、現時点では、測定するのはかなり困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
成熟(活性)ニューロトキシンポリペプチドの信頼できる定性的及び定量的検出システムのための手段及び方法が強く要望されるが、まだ利用可能ではない。
【0008】
従って、本発明の基礎をなす技術的課題は、前述した要求を満たす手段及び方法の提供であることが理解されよう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この技術的課題は、特許請求の範囲及び以下に特徴を記載する実施形態によって解決される。
【0010】
本発明は、プロセシングされたニューロトキシンポリペプチドと、部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド及び/又はプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチドとを含む溶液中のプロセシングされた(活性)ニューロトキシンポリペプチドの量を測定する方法であって、以下のステップ:
(a)成熟ニューロトキシンポリペプチド、部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド及びプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチドの軽鎖と特異的に結合する第1捕捉抗体と上記溶液の第1部分を、該抗体と該成熟ニューロトキシン、部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド及びプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチドとの結合を可能にする条件下で接触させることによって、第1抗体複合体を形成するステップ、
(b)ステップ(a)で形成された上記抗体複合体における上記成熟ニューロトキシン、プロセシングされていないニューロトキシンポリペプチド及び部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチドの重鎖と特異的に結合する検出抗体と第1抗体複合体を接触させることによって、第1検出複合体を形成するステップ、
(c)部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド又はプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチドのリンカーと特異的に結合する第2捕捉抗体と上記溶液の第2部分を、該抗体と部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド及びプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチドとの結合を可能にする条件下で接触させることによって、第2抗体複合体を形成するステップ、
(d)第2抗体複合体を上記検出抗体と接触させることによって、第2検出複合体を形成するステップ、
(e)ステップ(b)及び(d)で形成された第2検出複合体の量を測定するステップ、並びに
(f)ステップ(e)で測定した第1検出複合体及び第2検出複合体の量に基づいて成熟ニューロトキシンポリペプチドの量を計算するステップ
を含む、上記方法に関する。
【0011】
前記方法は、一般に、追加ステップを含んでもよく、例えば、上記溶液の調製のためのステップ、又はステップ(f)で得られる結果のさらなる評価に関するステップがある。さらに、ステップ(a)及び(b)、同様にステップ(c)及び(d)を同時に、又は順次実施することができる。後者の場合には、ステップ(a)及び(b)は、ステップ(c)及び(d)の前又は後に実施することができる。さらに、ステップ(e)で記載する測定は、上記の場合、2つのシリーズのステップが実施された後に実施してもよいし、あるいは、ステップ(e)の測定は、第1検出複合体に関する限り、ステップ(a)及び(b)の後に実施すると共に、第2検出複合体に関する測定はステップ(c)及び(d)の後に実施する。本方法は、一部又は全部を自動化によって支援することもできる。インキュベーション及び測定ステップは、例えば、ロボットにより実施することができる。データ分析及び解釈は、コンピューター実行計算アルゴリズムによって実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】少なくとも1つ(又は2つ以上)の検出抗体の結合を示す概略図である。
【図2】部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド又はプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチドと第2捕捉抗体との特異的結合、及びその後の少なくとも1つ(又は2つ以上)の検出抗体の結合を示す概略図である。
【図3】ニューロトキシンポリペプチドの結合活性の測定を示す概略図である。
【図4】ニューロトキシンポリペプチドのタンパク質分解活性の測定を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において用いられる「ニューロトキシンポリペプチド」という用語は、7種の異なる血清型のボツリヌスニューロトキシン、すなわちBoNT/A、BoNT/B、BoNT/C1、BoNT/D、BoNT/E、BoNT/F、BoNT/G、及び破傷風ニューロトキシン(TeNT)(表1を参照)、並びにそれらの変異体を指す。
【表1】

【0014】
本明細書で記載するニューロトキシンは、原則として、N末端軽鎖とC末端重鎖とを含む。ニューロトキシンは、一本鎖前駆体分子として産生されるが、本明細書ではこれを「プロセシングされていないニューロトキシンポリペプチド」と呼ぶ。N末端軽鎖配列及びC末端重鎖配列は、プロセシングされていないニューロトキシンにおいては、少なくとも1つのタンパク質分解切断部位によって隔てられている。該ニューロトキシンは、軽鎖配列と重鎖配列との間にリンカー配列を含み、該軽鎖は、第1切断部位から開始するN末端に位置し、また、重鎖は、第2切断部位から開始するC末端に位置する。本発明の一態様では、上記リンカーは、配列番号1〜16のいずれか1つに示されるアミノ酸配列を有する。ニューロトキシンのプロセシング中に、上記リンカー配列が切除される。上記ニューロトキシンは、2つのタンパク質分解切断部位、すなわちリンカー配列のN末端に1つとC末端に1つ含む。上記ニューロトキシンのプロセシング中に、中間体が発生しうるが、これらは、いずれかの切断部位で切断される。すなわち、上記リンカー配列はまだ切除されずに、N末端軽鎖又はC末端重鎖に残ることになる。こうした中間体は、本明細書において「部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド」と呼ぶ。他のニューロトキシンは、1つの切断部位しか含んでいない。そのようなニューロトキシンについては、どのリンカー配列も切除することができないことは理解されよう。それでも、プロセシングされていないニューロトキシンは、インタクトなタンパク質分解切断部位とフランキング配列によって免疫学的に認識することができる。該フランキング配列及び切断部位もまた、本発明の目的のためにリンカーであると考えられる。従って、本明細書で用いられ、上に明記した「リンカー」という用語は、2つの切断部位を有するニューロトキシンポリペプチドについては軽鎖配列と重鎖配列の間の配列を指し、また、単一の切断部位のみを有するニューロトキシンポリペプチドの場合には、切断部位及びフランキング配列を指す。プロセシングの結果として、「プロセシングされたニューロトキシンポリペプチド」が得られる。このプロセシングされたニューロトキシンポリペプチドは、ニューロトキシンに特有の生物学的特性、すなわち(a)受容体との結合、(b)内在化、(c)エンドソーム膜を介した細胞質ゾルへの輸送、及び/又は(d)シナプス小胞膜融合に関与するタンパク質の細胞内タンパク質分解切断を呈示する。従って、プロセシングされたニューロトキシンポリペプチドは、本明細書において、活性又は成熟ニューロトキシンポリペプチドと呼ぶこともある。一態様では、ニューロトキシンポリペプチドの生物学的活性は、前述した生物学的特性全ての結果として生じるものである。生物学的活性を評価するためのin vivoアッセイとしては、Pearceら及びDressierらによって記載されているように、マウスLD50アッセイ及びex vivoマウス半横隔膜アッセイがある(Pearce 1994, Toxicol Appl Pharmacol 128: 69-77及びDressier 2005, Mov Disord 20:1617-1619)。生物学的活性は、一般に、マウスユニット(MU)で表される。本明細書で用いる1MUは、腹腔内注射後に規定マウス集団の50%を死なせる神経毒成分の量、すなわちマウスi.p.LD50に等しい。
【0015】
本発明の方法の一態様では、上記ニューロトキシンポリペプチドは、(a)配列番号17〜24のいずれか1つに示されるアミノ酸配列を有するニューロトキシンポリペプチド、及び(b)配列番号17〜24のいずれか1つに示されるニューロトキシンポリペプチドのアミノ酸配列と少なくとも40%の同一性を有するアミノ酸配列を有するニューロトキシンポリペプチドからなる群より選択される。前述したアミノ酸配列は、プロセシングされていないニューロトキシンポリペプチドを示す。対応する部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド又はプロセシングされたニューロトキシンポリペプチドの配列は、以下の表3に記載する切断部位に関する情報によって、上記配列から推定することができる。本発明の別の態様では、ニューロトキシンポリペプチドは、配列番号17〜24に示されるアミノ酸配列と少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%の配列同一性を有する、アミノ酸配列を有する。本発明において用いられる「同一性」とは、最大級のマッチが得られるように、配列をアライメントした場合のアミノ酸配列同士の配列同一性を指す。これは、コンピュータープログラム、例えば、BLASTP、BLASTN、FASTA(Altschul 1990, J Mol Biol 215, 403)に体系化されている公開技術又は方法を用いて達成することができる。同一性のパーセント値(%)は、一態様では、アミノ酸配列全体にわたって計算する。様々な配列を比較するために、当業者は、様々なアルゴリズムに基づく一連のプログラムが利用可能である。これに関して、Needleman及びWunsch、又はSmith及びWatermanのアルゴリズムにより、特に信頼性の高い結果が得られる。配列アライメントを実施するためには、GCGソフトウエアパケット(Genetics Computer Group 1991, 575 Science Drive, Madison, Wisconsin, USA 53711)の一部である、プログラムPileUp(1987, J Mol Evolution 25, 351; Higgins 1989 CABIOS 5, 151)又はプログラムGap及びBestFit(Needleman及びWunsch 1970, J Mol Biol 48; 443; Smith及びWaterman 1981, Adv Appl Math 2, 482)が用いられる。パーセント(%)で表す前記配列同一性の値は、本発明の一態様では、以下の設定値:ギャップ重み:50、長さ重み:3、平均マッチ:10,000及び平均ミスマッチ:0.000で、配列領域全体にわたってプログラムGAPを用いて決定する。これらは、特に記載のない限り、配列アライメントのための標準設定値として常に用いるものとする。前述した変異体が、本発明の一態様では、ニューロトキシンの生物学的特性の少なくとも一つを保持するものもあれば、一態様では、本明細書に記載するニューロトキシンポリペプチドの生物学的特性の全てを保持するものもあることは理解されよう。別の態様では、該変異体は、改善された、又は改変された生物学的特性を有するニューロトキシンであってもよく、例えば、上記変異体は、酵素認識について改善された切断部位を含んでいてもよいし、又は受容体結合、若しくはその他の既に明記した特性について改善されたものであってもよい。本発明の概念は、ニューロトキシンポリペプチドの軽鎖と重鎖の間の2つ以上の切断部位の存在に依拠するものであるが、切断部位及びそれらの間の特定のアミノ酸配列の性質は、該物質が、部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド又はプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチドに特異的である限り、重要ではないと考えることもできる。従って、別の態様では、プロテアーゼ認識部位、及びニューロトキシンポリペプチドの重鎖と軽鎖の間のリンカーペプチドを置換する。
【0016】
別の態様では、本発明の方法におけるニューロトキシンポリペプチドは、キメラ分子であってもよい。こうしたキメラ分子は、一態様では、置換された単一ドメインを有していてもよい。従って、別の態様では、ニューロトキシンポリペプチド重鎖の上記部分を、抗体のFCドメインの一部分によって置換する。
【0017】
本発明の方法で用いられる「量」という用語は、ポリペプチドの絶対量、該ポリペプチドの相対量又は濃度、並びにこれらと相関する又はこれらから導き出される任意の値又はパラメーターであってもよい。
【0018】
本明細書で用いられる「溶液」という用語は、成熟ニューロトキシンポリペプチドと、その部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド及び/又はプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチド前駆体を含む、任意の溶媒系を指す。該溶媒系はさらに溶媒を含む。本発明の様々な態様において、含まれる溶媒は、水、水性バッファー系、有機溶媒、及びイオン性液体である。本発明の一態様では、上記溶媒は、水性溶媒系である。さらに、該溶媒系は、成熟ニューロトキシンポリペプチドと、部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド、又はプロセシングされていない前駆体ニューロトキシンポリペプチド、及び溶媒以外に、別の分子、例えば別の細菌ポリペプチドなども同様に含んでもよい。一態様では、本発明の方法に使用しようとする溶液は、細菌細胞培養物、又は該細菌細胞培養物から得られた部分的精製若しくは精製調製物である。
【0019】
本発明の方法において用いられる「(一)部分」という用語は、溶液のサンプル又はアリコートを指す。本発明の方法の一態様では、本発明で述べる第1部分及び第2部分は、その量及び含有物が実質的に同じである。これは、例えば、第1及び第2部分の全タンパク質含量を測定することによって達成されるが、ここで、全タンパク質含量が実質的に同じであれば、実質的に同じ含有物を有する第1部分及び第2部分を示している。しかし、別の態様では、第1部分又は第2部分として使用しようとする部分は、上記溶液のサンプル又はアリコートの希釈物であってもよい。測定しようとするニューロトキシンポリペプチド(すなわち、部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド若しくはプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチド、又は全ニューロトキシン)の量に応じて、最適な定性及び定量測定を可能にするために、希釈が必要となる場合もあることは理解されよう。こうした希釈物の調製方法は、当業者には周知である。
【0020】
本発明の方法において用いられる「接触させる」という用語は、(i)前述した捕捉抗体と、上記溶液に含まれる該ニューロトキシンとを、又は(ii)上記抗体複合体と検出抗体とを、物理的に接近させて、物理的及び/又は化学的相互作用を可能にすることを指す。特異的な相互作用を可能にする好適な条件は、当業者には周知である。こうした条件は、本発明の方法に使用しようとする抗体及び溶液に応じて異なり、当業者が造作なく設計することができる。さらに、相互作用を達成するのに十分な時間も、当業者が造作なく決定することができる。さらには、本発明の方法で述べる接触の個々のステップの間に、接触に好適な条件を取得する目的で、洗浄ステップを実施してもよい。例えば、ステップ(a)において第1抗体複合体を形成後、残った溶液を除去した後、該抗体複合体に検出抗体を使用する。さらにまた、ステップ(b)で第1検出複合体を形成した後、ステップ(c)で第1検出複合体の量を測定する前に、残った(非複合体化)検出抗体を除去することが必要となる場合もある。勿論、ステップ(d)〜ステップ(f)についても同様である。
【0021】
本明細書で用いる「抗体」は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、一本鎖抗体、キメラ化抗体、二重特異性抗体、合成抗体、又はこれら抗体のいずれかのフラグメントを包含する。該抗体のフラグメントとしては、Fab、Fv、又はscFvフラグメント、あるいはこれらフラグメントのいずれかの化学的に修飾された誘導体が含まれる。抗体は、例えば、Harlow及びLane "Antibodies, A Laboratory Manual", CSH Press, Cold Spring Harbor, 1988に記載されている方法を用いて製造することができる。モノクローナル抗体は、Kohler 1975, Nature 256, 495, 及びGalfre 1981, Meth Enzymol 73, 3に最初記載された技術により作製することができる。上記の技術は、マウス骨髄腫細胞と免疫哺乳動物由来の脾細胞との融合を含む。抗体は、当分野で周知の技術によってさらに改善することができる。例えば、BIACORE(R)系で使用されている表面プラズモン共鳴を用いて、エピトープに結合するファージ抗体の効率を高めることができる(Schier 1996, Human Antibodies Hybridomas 7, 97; Malmborg 1995, J. Immunol Methods 183, 7を参照)。本明細書で用いる抗体は、抗体の機能的等価物、すなわちニューロトキシンポリペプチドの所望のエピトープ又はその部分に特異的に結合することができる物質も含む。一態様では、こうした機能的等価物は、本明細書の他所で述べる受容体又は結合タンパク質、あるいは上記の特異的結合を媒介することができるそのドメインを含む。
【0022】
本発明の方法において、「第1捕捉抗体」は、成熟ニューロトキシンポリペプチドの軽鎖に含まれるエピトープ、並びに部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド及び/又はプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチドに含まれるエピトープに特異的に結合する。本明細書で用いられる特異的結合とは、一般に、抗体が、測定しようとするニューロトキシンポリペプチドの重鎖若しくはリンカー上の他のエピトープ、又は他のポリペプチド上のエピトープと、有意な程度まで交差反応しないことを意味する。本明細書で述べる特異的結合は、例えば、競合実験及びウエスタンブロットなどの様々な公知の技術によって試験することができる。本発明において用いられるエピトープは、抗体によって認識される抗原決定基に関する。
【0023】
別の態様では、第1捕捉抗体の代わりに、別の捕捉抗体を用いることができる。このために、プロセシングされていないニューロトキシンポリペプチドの軽鎖のエピトープに特異的に結合する少なくとも1つの捕捉抗体と、部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチドの軽鎖のエピトープに特異的に結合する少なくとも1つの別の捕捉抗体と、プロセシングされたニューロトキシンポリペプチドの軽鎖のエピトープに特異的に結合する少なくとも1つの別の捕捉抗体を使用してもよい。これら3つのタイプの抗体が、本発明の方法の目的のために第1捕捉抗体と機能的に類似していることは理解されよう。同様に、部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド及びプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチドの軽鎖のエピトープに特異的に結合する捕捉抗体を、プロセシングされたニューロトキシンポリペプチドの軽鎖のエピトープに特異的に結合する捕捉抗体と組み合わせて用いることができる。
【0024】
第1捕捉抗体は、一態様では、固定化されている。このような抗体の固定化は、原則として、固体支持体への該抗体の可逆的又は不可逆的、直接的又は間接的(リンカー分子を介して)によって達成することができる。一態様では、第1捕捉抗体は、本方法を実施する前に固定化される。別の態様では、第1捕捉抗体は、第1抗体複合体が形成された後で、しかも該複合体を検出抗体と接触させる前に固定化される。固体支持体のための材料は、当分野において周知であり、中でも、以下:セファロース、セファデクス;アガロース、セファセル、ミクロセルロース、及びアルギン酸ビーズからなる群より選択される市販の多糖マトリックス、ポリペプチドマトリックス、ポリスチレンビーズ、ラテックスビーズ、磁気ビーズ、コロイド状金属粒子、ガラス、プラスチック並びに/又はシリコンチップ及びシリコン面、ニトロセルロースストリップ、膜、シート、デュラサイト、反応トレーのウェル及び壁、プラスチックチューブがある。本発明の一態様では、上記固体支持体は、γ線照射したポリスチレンから作製されたものである。
【0025】
「第1抗体複合体」という用語は、プロセシングされたニューロトキシンポリペプチド、部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド、又はプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチドに特異的に結合する第1捕捉抗体を含む複合体を指す。上記の抗体複合体は、プロセシングされたニューロトキシンポリペプチド、部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド、及び/又はプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチドを含む溶液と、第1捕捉抗体を前記のように接触させる結果として、形成される。
【0026】
本発明の方法において、「第2捕捉抗体」は、プロセシングされていないニューロトキシンポリペプチド及び/又は部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチドのリンカー又はその一部分を含むエピトープに特異的に結合する。リンカー配列が欠失している場合には、第2捕捉抗体は、切断されていないタンパク質分解切断部位又はその部分を含むエピトープに特異的に結合することが想定される。本発明の一態様では、第2捕捉抗体は、プロセシングされたニューロトキシンポリペプチドと有意な程度まで交差反応しない。一態様では、第2固定化捕捉抗体は、配列番号1〜16に示されるアミノ酸配列から実質的に構成される、又は該配列を含む、若しくは該配列に含まれるエピトープに特異的に結合する(以下の表2又は表3を参照)。
【表2】

【0027】
【表3】

【0028】
前述したエピトープの存在によって、プロセシングされていないニューロトキシンポリペプチド又は部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチドには、第2捕捉抗体が特異的に結合することができるため、第2抗体複合体を形成する。第2捕捉抗体は、一態様では、上に詳細に説明したように、固定化されている。
【0029】
従って、「第2抗体複合体」という用語は、部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド又はプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチドに特異的に結合した第2捕捉抗体を含む複合体を意味する。しかし、第2抗体複合体は、プロセシングされたニューロトキシンポリペプチドを含まないものとする。
【0030】
本発明の方法においては、「検出抗体」は、第1抗体複合体及び/又は第2抗体複合体に特異的に結合する。一態様では、第1抗体複合体及び第2抗体複合体の検出抗体は同じである。しかし、別の態様では、第1抗体複合体及び第2抗体複合体にそれぞれ異なる検出抗体を用いてもよい。一態様では、検出抗体は、プロセシングされたニューロトキシンポリペプチド、部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド及びプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチドの重鎖のエピトープに特異的に結合する。いずれの複合体にも同じエピトープが存在するため、第1抗体複合体又は第2抗体複合体には、本発明の上記態様の検出抗体が特異的に結合することができ、これによって、上記複合体を検出することができる。
【0031】
検出抗体の特異的結合の結果として、第1検出複合体又は第2検出複合体がそれぞれ形成される。
【0032】
従って、「第1検出複合体」という用語は、第1抗体複合体及び検出抗体を含む複合体を指す。同様に、「第2検出複合体」という用語は、第2抗体複合体及び検出抗体を含む複合体を指す。
【0033】
本発明の方法の一態様では、第1検出複合体又は第2検出複合体に含まれる上記検出抗体を、検出複合体に結合した検出抗体の量の測定を可能にする検出可能な標識に結合させる。結合した検出抗体の量を測定することによって、第1抗体複合体又は第2抗体複合体の量を決定することができる。というのは、検出複合体中の結合検出抗体の量が、検出複合体に含まれる抗体複合体の量と相関するからである。標識は、直接法又は間接法により実施することができる。直接標識は、第1検出抗体に標識を直接結合(共有又は非共有結合)させることを含む。間接標識は、検出抗体に特異的に結合し、しかも検出可能な標識を担持する物質を結合(共有又は非共有結合)させることを含む。こうした物質は、例えば、検出抗体に特異的に結合する二次(又はより高次の)抗体であってもよい。上記の場合には、二次抗体は、検出可能な標識に結合する。これに加えて、より高次の抗体を検出複合体の検出に用いることができることは理解されよう。より高次の抗体は、シグナルを増大させるために用いられることが多い。より高次の好適な抗体としては、公知のストレプトアビジン‐ビオチン系(Vector Laboratories, Inc.)、及び公知のDako LSABTM2及びLSABTM+(標識ストレプトアビジン-ビオチン)、又はDako PAP(ペルオキシダーゼ抗ペルオキシダーゼ)もある。別の態様では、第1検出抗体の上記標識は、以下:蛍光色素、化学発光分子、放射性標識、及び検出可能なシグナルを発生することができる酵素からなる群より選択される。典型的な蛍光標識としては、蛍光タンパク質(例えば、GFP及びその誘導体)、Cy3、Cy5、テキサスレッド、フルオレセイン、並びにAlexa蛍光色素(例えば、Alexa 568)がある。典型的な放射性標識としては、35S、125I、32P、33Pなどがある。あるいは、第1検出抗体に結合させる検出可能な標識は、例えば、基質の変換によって検出可能なシグナルを発生することができる酵素であってもよい。一態様では、上記の酵素は、ペルオキシダーゼ(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ)又はアルカリホスファターゼとすることができる。
【0034】
本明細書で用いる「量を測定(決定)する」という用語は、定量的方法又は半定量的方法で、絶対量、相対量又は濃度を測定することに関する。測定は、第1検出抗体に結合した検出可能な標識の化学的、物理的又は生物学的特性に基づいて実施する。検出に好適な測度は、当業者には周知であり、前述した検出可能な標識の性質に応じて異なる。しかし、測定することができる検出可能な標識の量は、抗体複合体の量とも相関する検出複合体の量と直接相関しており、従って測定しようとするニューロトキシン種の量、すなわち全ニューロトキシン(プロセシングされたニューロトキシン、プロセシングされていないニューロトキシン及び部分的にプロセシングされたニューロトキシン)、又はプロセシングされていないニューロトキシン及び部分的にプロセシングされたニューロトキシンのいずれかと相関する。ニューロトキシンポリペプチドの量の測定は、一態様では、予め規定した量のニューロトキシンポリペプチドを含む標準溶液を使用することによる、本方法の較正も必要とすることは理解されよう。上記の較正を実施する方法は、当業者には周知である。
【0035】
本発明の方法で用いられる「計算(する)」という用語は、全ニューロトキシン(すなわち、プロセシングされたニューロトキシン、プロセシングされていないニューロトキシン及び部分的にプロセシングされたニューロトキシン)と、部分的にプロセシングされたニューロトキシン及びプロセシングされていないニューロトキシンの量に基づいて、プロセシングされたニューロトキシンの量の決定が可能な数学的演算に関する。本発明の方法の一態様では、上記の計算は、全ニューロトキシンの量から、部分的にプロセシングされたニューロトキシン及びプロセシングされていないニューロトキシンの量を差し引くことを含む。
【0036】
有利には、本発明の方法によって、所与の製剤中のプロセシングされたニューロトキシンの量の信頼できる測定が可能である。従って、該製剤を、定量の所望のプロセシングされたニューロトキシンポリペプチドについて試験することができるため、ニューロトキシン製剤の品質を高めることができる。
【0037】
原則として、本発明の方法は、第1捕捉抗体を、反応バイアルのような固体支持体に結合させることによって、実施することができる。同様に、第2捕捉抗体を、もう1つの物理的に別個の固体支持体(例えば、別の反応バイアル)に結合させる。次に、固体支持体に結合した両方の捕捉抗体を、測定しようとするプロセシングされたニューロトキシン、プロセシングされていないニューロトキシン及び/又は部分的にプロセシングされたニューロトキシンを含む溶液の前記部分と接触させる。上記の溶液は、例えば、クロストリジウム種(Clostridium sp.)由来の精製済細菌細胞培養物であってよい。第1部分は、第1固体支持体上の第1捕捉抗体と接触させ、第2部分は、第2固体支持体上の第2捕捉抗体と接触させる。上記の部分は、一般に同量であるが、該部分を、その含有物、例えば、その全タンパク質含量に対して正規化する。接触は、第1捕捉抗体及び第2捕捉抗体とそれぞれの抗原との特異的結合を達成するのに十分な時間にわたり実施する。例えば、接触は、室温で約1時間実施することができる。続いて、上記溶液の第1部分及び第2部分を廃棄し、それまでに固体支持体上に上記捕捉抗体と一緒に形成された第1抗体複合体及び第2抗体複合体に影響を与えない条件下で、該固体支持体(例えば、反応バイアル)を1回又は2回洗浄する。洗浄ステップを実施した後、検出抗体の特異的結合を可能にする条件下で、(第1)検出抗体を上記固体支持体に添加する。過剰検出抗体を、適切なバッファーを用いてさらなる洗浄ステップにより除去する。次に、第1検出複合体及び第2検出複合体の量を、特異的に結合した検出抗体の量の測定によって測定することができる。これは、検出抗体の標識の性質に応じて、例えば、光学密度又は蛍光強度を測定することによって、達成される。検出可能な標識の測定量を較正基準と比較することにより、第1検出複合体及び第2検出複合体中のニューロトキシン種、すなわち全ニューロトキシン(プロセシングされたニューロトキシン、プロセシングされていないニューロトキシン及び部分的にプロセシングされたニューロトキシン)又はプロセシングされていないニューロトキシン及び部分的にプロセシングされたニューロトキシンの量を測定することができる。第1検出複合体が、全ニューロトキシンの量を表すのに対し、第2検出複合体は、部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド及びプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチドのみの量を表すことは、理解されよう。従って、プロセシングされたニューロトキシンポリペプチドの量は、前述したステップで、全ニューロトキシンポリペプチドの量から部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド及びプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチドの量を差し引くことにより、計算することができる。
【0038】
上に行った用語の定義及び説明が、特に記載のない限り、必要な変更を加えて、本明細書において以後記載するすべての態様に適用されることは理解すべきである。
【0039】
本発明はまた、プロセシングされたニューロトキシンポリペプチドと、部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド及び/又はプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチドとを含む溶液中のプロセシングされた(活性)ニューロトキシンポリペプチドの量を測定する方法であって、以下のステップ:
(a)成熟ニューロトキシンポリペプチド、部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド及びプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチドの重鎖と特異的に結合する第1捕捉抗体と上記溶液の第1部分を、該抗体と該成熟ニューロトキシン、部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド及びプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチドとの結合を可能にする条件下で接触させることによって、第1抗体複合体を形成するステップ、
(b)ステップ(a)で形成された抗体複合体における上記成熟ニューロトキシン、部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド及びプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチドの軽鎖と特異的に結合する検出抗体と第1抗体複合体を接触させることによって、第1検出複合体を形成するステップ、
(c)部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド及びプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチドのリンカーと特異的に結合する第2捕捉抗体と上記溶液の第2部分を、該抗体と部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド及びプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチドとの結合を可能にする条件下で接触させることによって、第2抗体複合体を形成するステップ、
(d)第2抗体複合体を上記検出抗体と接触させることによって、第2検出抗体複合体を形成するステップ、
(e)ステップ(b)及びステップ(e)で形成された第2検出複合体の量を測定するステップ、並びに
(f)ステップ(e)で測定した第1検出複合体及び第2検出複合体の量に基づいて成熟ニューロトキシンポリペプチドの量を計算するステップ
を含む、上記方法に関する。
【0040】
本発明の方法の別の態様では、該方法は、ニューロトキシンポリペプチドの結合活性を測定するステップをさらに含む。
【0041】
本発明の方法において用いられる「結合活性」という用語は、表面受容体タンパク質、例えば末梢性コリン作動性神経終末上に存在する表面受容体タンパク質に対する、プロセシングされたニューロトキシンポリペプチドの能力に関する。受容体タンパク質としては、一態様では、BoNT/AについてはSV2、BoNT/B及びBoNT/GについてはシナプトタグミンI及びII、並びにガングリオシド(GT1B)共受容体がある。本発明の方法の一態様では、上記の結合活性は、結合ドメインを模倣することにより、表面タンパク質受容体を置換するモデル基質を用いて、ex vivoで測定することができる。該モデル基質は、一態様では、前述した受容体タンパク質に由来する標識ペプチドである。別の態様では、好適な標識は、本明細書の他所で記載するもの、及び、特にビオチンを含む。
【0042】
従って、本発明はまた、ニューロトキシンポリペプチドの結合活性を測定する方法であって、以下のステップ:
(a)ニューロトキシンポリペプチド含有溶液の一部分を標識ペプチドと接触させることによって、複合体を形成するステップ、及び
(b)上記標識に基づいて、ステップ(a)で形成された上記複合体を測定するステップであって、該複合体の存在若しくは非存在又はその量が、上記溶液中のニューロトキシンポリペプチドの結合活性を示すものである、上記ステップ
を含む、上記方法に関する。
【0043】
上記複合体は、ペプチドを標識するのに用いた標識の性質に基づいて測定することができる。一態様では、例えば、複合体に含まれるビオチン化ペプチドは、検出可能なシグナルを発生することができるストレプトアビジンコンジュゲートによって測定することができる。その存在、非存在又は強度は、上記溶液中のニューロトキシンポリペプチドの結合活性又はその強度を示すものである。
【0044】
本発明の方法の別の態様では、上記方法は、ニューロトキシンポリペプチドのタンパク質分解活性を測定することをさらに含む。
【0045】
本発明の方法において用いられる「タンパク質分解活性」という用語は、シナプス小胞膜融合に関与するN-エチルマレイミド感受性因子付着受容体(SNARE)タンパク質をタンパク質分解により切断する、プロセシングされたニューロトキシンの能力に関する。一態様では、上記の切断は、亜鉛(II)依存性である。上記のタンパク質分解活性は、天然に存在するSNAREタンパク質と置き換えたモデル基質を用いて測定することができる。さらに、切断時に、色素などの検出可能な標識が上記モデル基質から放出される。一態様では、上記モデル基質は、一般式:X-パラニトロアニリド(式中、Xはアルギニン、又はアルギニン-Y配列を有するペプチドであり、ここで、Yは1個以上のアミノ酸を表す)を有する化合物であり、また別の態様では、該化合物は、アルギニン-パラニトロアニリドである。
【0046】
従って、本発明はさらに、ニューロトキシンのタンパク質分解活性を測定する方法であって、以下のステップ:
(a)ニューロトキシンポリペプチド含有溶液の一部分を、一般式:X-パラニトロアニリド(式中、Xはアルギニン、又はアルギニン-Y配列を有するペプチドであり、ここで、Yは1個以上のアミノ酸を表す)を有する化合物と接触させるステップ、及び
(b)ニューロトキシンポリペプチドの量と相関する、ステップ(b)から放出されたパラニトロアニリンの量に基づいて、上記溶液中のニューロトキシンポリペプチドのタンパク質分解活性を測定するステップ
を含む、上記方法を考慮する。
【0047】
一態様では、Yは、配列番号25又は26のいずれか1つに示されるアミノ酸配列を有するペプチド残基を表す。
【0048】
上記溶液の該部分に含まれる、プロセシングされたニューロトキシンポリペプチドは、切断すると、残りのペプチドからパラニトロアニリンを放出することができる。パラニトロアニリンは、当分野では周知の色素である。上記溶液中のニューロトキシンポリペプチドのタンパク質分解活性の測定は、放出されたパラニトロアニリンの量に基づいて行うが、この量は、ニューロトキシンポリペプチドの量と相関する。
【0049】
本発明はまた、溶液中のプロセシングされたニューロトキシンポリペプチドの量を測定するためのデバイスであって、以下:
(a)第1捕捉抗体、第2捕捉抗体及び検出抗体の配列(arrangement)であって、前述した方法のステップ(a)〜ステップ(e)を実施することが可能な上記配列と、
(b)(a)の配列によって測定された第1検出複合体及び第2検出複合体の量に基づいて成熟ニューロトキシンポリペプチドの量を計算する手段と
を含む、上記デバイスも考慮する。
【0050】
本明細書で用いる「デバイス」という用語は、測定を可能にするように、互いに作動可能に連結された、少なくとも前記配列及び手段を含むシステムに関する。一態様では、上記配列は、前述の固定化捕捉抗体を含む固体支持体であり、該抗体は、上記溶液の第1部分及び第2部分との個別の接触を可能にするために、物理的に別個のバイアル中に存在させてよい。さらに、上記デバイスは、一態様では、上記検出複合体の量の測定のためのユニットを含んでいてもよい。用いようとする検出抗体の種類に応じて、上記のユニットは、検出抗体によって生成されるシグナルの検出器を含む。さらには、該ユニットは、一態様において、溶液中に存在するニューロトキシンポリペプチド又はその一部分の量を測定する目的で、測定シグナルを較正基準と比較するための較正手段(例えば、コンピューターによるアルゴリズム)も含むことができる。上記デバイスはまた、第1検出複合体及び第2検出複合体の量に基づいて成熟ニューロトキシンポリペプチドの量を計算する手段、例えば、該計算を実施するコンピューターによるアルゴリズムも含みうる。
【0051】
さらに、本発明は、前述した方法の実施に適したキットであって、以下:
(a)第1捕捉抗体、第2捕捉抗体及び検出抗体の配列(arrangement)であって、前記方法のステップ(a)〜ステップ(e)を実施することが可能な上記配列と、
(b)(a)の配列によって測定された第1検出複合体及び第2検出複合体の量に基づいて成熟ニューロトキシンポリペプチドの量を計算する手段と、
(c)上記方法を実施するための説明書と
を含む、上記キットに関する。
【0052】
本明細書で用いる用語「キット」とは、本発明の前記手段又は試薬の集合体に関し、これらは、一緒にパッケージされていても、されていなくてもよい。該キットの構成要素は、個別のバイアルに含まれていてもよい(すなわち、個別部品からなるキットとして)し、単一のバイアル中に提供されてもよい。さらに、本発明のキットは、本明細書の先で述べた方法を実施するために用いられることは理解すべきである。一態様では、すべての構成要素が、前記方法を実施するために、即時使用できる形態で提供されることが考えられる。別の態様では、上記キットは、該方法を実施するための説明書を含む。該説明書は、紙又は電子形態のユーザーマニュアルによって提供することができる。例えば、該マニュアルは、本発明のキットを用いて前記方法を実施したときに得られる結果を解説するための説明書を含んでいてもよい。
【0053】
本明細書で引用した参考文献はすべて、その全開示内容及び本明細書で具体的に述べた開示内容について本明細書に参照として組み込むものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセシングされたニューロトキシンポリペプチドと、部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド及び/又はプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチドとを含む溶液中のプロセシングされたニューロトキシンポリペプチドの量を測定する方法であって、以下のステップ:
(a)プロセシングされたニューロトキシンポリペプチド、部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド及びプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチドの軽鎖と特異的に結合する第1捕捉抗体と上記溶液の第1部分を、該抗体と該ニューロトキシンとの結合を可能にする条件下で接触させることによって、第1抗体複合体を形成するステップ、
(b)ステップ(a)で形成された上記抗体複合体におけるプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド、プロセシングされていないニューロトキシンポリペプチド及び部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチドの重鎖と特異的に結合する検出抗体と第1抗体複合体を接触させることによって、第1検出複合体を形成するステップ、
(c)部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド又はプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチドのリンカーと特異的に結合する第2捕捉抗体と上記溶液の第2部分を、該抗体と部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド又はプロセシングされていないニューロトキシンとの結合を可能にする条件下で接触させることによって、第2抗体複合体を形成するステップ、
(d)第2抗体複合体を上記検出抗体と接触させることによって、第2検出複合体を形成するステップ、
(e)ステップ(b)又は(d)で形成された第2検出複合体の量を測定するステップ、並びに
(f)ステップ(e)で測定した第1検出複合体及び第2検出複合体の量に基づいて成熟ニューロトキシンポリペプチドの量を計算するステップ
を含む、上記方法。
【請求項2】
プロセシングされたニューロトキシンポリペプチドと、部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド及び/又はプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチドとを含む溶液中のプロセシングされた(活性)ニューロトキシンポリペプチドの量を測定する方法であって、以下のステップ:
(a)成熟ニューロトキシンポリペプチド、部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド及びプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチドの重鎖と特異的に結合する第1捕捉抗体と上記溶液の第1部分を、該抗体と該成熟ニューロトキシンポリペプチド、部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド及びプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチドとの結合を可能にする条件下で接触させることによって、第1抗体複合体を形成するステップ、
(b)ステップ(a)で形成された抗体複合体における上記成熟ニューロトキシンポリペプチド、部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド及びプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチドの軽鎖と特異的に結合する検出抗体と第1抗体複合体を接触させることによって、第1検出複合体を形成するステップ、
(c)部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド及びプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチドのリンカーと特異的に結合する第2捕捉抗体と上記溶液の第2部分を、該抗体と部分的にプロセシングされたニューロトキシンポリペプチド及びプロセシングされていないニューロトキシンポリペプチドとの結合を可能にする条件下で接触させることによって、第2抗体複合体を形成するステップ、
(d)第2抗体複合体を上記検出抗体と接触させることによって、第2検出抗体複合体を形成するステップ、
(e)ステップ(b)及びステップ(e)で形成された第2検出複合体の量を測定するステップ、並びに
(f)ステップ(e)で測定した第1検出複合体及び第2検出複合体の量に基づいて成熟ニューロトキシンポリペプチドの量を計算するステップ
を含む、上記方法。
【請求項3】
第1捕捉抗体が固定化されている、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
第2捕捉抗体が固定化されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(f)における計算が、第1検出複合体の測定量から、第2検出複合体の測定量を差し引くことを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
第2捕捉抗体が、配列番号1〜16のいずれか1つに示されるアミノ酸配列を有するペプチドエピトープと特異的に結合する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ニューロトキシンポリペプチドが、以下:
(a)配列番号17〜24のいずれか1つに示されるニューロトキシンポリペプチド、及び
(b)(a)のニューロトキシンポリペプチドのアミノ酸配列と少なくとも40%の同一性を有するアミノ酸配列を有するニューロトキシンポリペプチド
からなる群より選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ニューロトキシンポリペプチドの結合活性を測定することをさらに含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
以下のステップ:
(a)ニューロトキシンポリペプチド含有溶液の一部分を標識ペプチドと接触させることによって、複合体を形成するステップ、及び
(b)上記標識に基づいて、ステップ(a)で形成された上記複合体を測定するステップであって、該複合体の存在若しくは非存在又はその量が、上記溶液中のニューロトキシンポリペプチドの結合活性を示すものである、上記ステップ
を含む、好ましくは請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ニューロトキシンポリペプチドのタンパク質分解活性を測定することをさらに含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
以下のステップ:
(a)ニューロトキシンポリペプチド含有溶液の一部分を、一般式:X-パラニトロアニリド(式中、Xはアルギニン、又はアルギニン-Y配列を有するペプチドであり、ここで、Yは1個以上のアミノ酸を表す)を有する化合物と接触させるステップ、及び
(b)ニューロトキシンポリペプチドの量と相関する、ステップ(b)から放出されたパラニトロアニリンの量に基づいて、上記溶液中のニューロトキシンポリペプチドのタンパク質分解活性を測定するステップ
を含む、好ましくは請求項10に記載の方法。
【請求項12】
溶液中のプロセシングされたニューロトキシンポリペプチドの量を測定するためのデバイスであって、以下:
(a)第1捕捉抗体、第2捕捉抗体及び検出抗体の配列(arrangement)であって、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法のステップ(a)〜ステップ(e)を実施することが可能な上記配列と、
(b)(a)の配列によって測定された第1検出複合体及び第2検出複合体の量に基づいて成熟ニューロトキシンポリペプチドの量を計算する手段と
を含む、上記デバイス。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法の実施に適したキットであって、以下:
(a)第1捕捉抗体、第2捕捉抗体及び検出抗体の配列であって、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法のステップ(a)〜ステップ(e)を実施することが可能な上記配列と、
(b)(a)の配列によって測定された第1検出複合体及び第2検出複合体の量に基づいて成熟ニューロトキシンポリペプチドの量を計算する手段と、
(c)上記方法を実施するための説明書と
を含む、上記キット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2012−525563(P2012−525563A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−506517(P2012−506517)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【国際出願番号】PCT/EP2010/055432
【国際公開番号】WO2010/124998
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(511202045)メルツ ファルマ ゲーエムベーハー ウント コンパニー カーゲーアーアー (4)
【Fターム(参考)】