説明

ニューロンの製造方法

この発明は、未分化間葉細胞(UMC)からニューロンを製造する方法を提供する。またこの発明は、上記方法により製造された単離されたニューロン、このようなニューロンを含む組成物、及びこのような組成物を使用して損傷または欠陥のある神経組織を修復する方法を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、細胞組成物の製造に関し、より具体的にはニューロンを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
神経組織の治癒の非効率性と遅さを鑑みると、移植可能な(transplantable)または植え込み可能な(implantable)ニューロン組成物を製造する方法を開発する必要性が差し迫っている。当然、すべての臓器移植、組織移植または細胞移植におけると同様に、ニューロン移植片の免疫拒絶反応を避けることは非常に重要である。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
概要
本発明者は、血漿血餅(plasma clot)中で未分化間葉細胞(UMC)を培養するとその血漿血餅中でニューロンが自然に増殖できることを見出した。従って、本発明は、血漿血餅中でUMCを培養することを含む、ニューロンの細胞集団を製造する方法を特徴とする。また本発明は、このような方法で製造した単離されたニューロン及び本発明の方法で製造されたニューロンを含有する単離された細胞集団を含む組成物を提供する。他の実施形態において、本発明は、神経組織の欠陥または損傷を神経組織に修復する方法を含む。
【0004】
より具体的には、本発明はニューロンを製造する方法を特徴とする。本方法は、連続した以下の工程:(a)未分化間葉細胞(UMC)の供給源を準備する工程、(b)約6mM〜約18mMのCa2+を含む血漿血餅を準備する工程、(c)該供給源から得られたUMCを血漿血餅中に取り込む工程、及び(d)血漿血餅をインキュベーションする工程、を含む。インキュベーション中、血漿血餅中でUMC亜集団(subpopulation)をニューロンに分化することにより、ニューロンを含む細胞集団を血漿血餅中で作製する。本方法は、血漿血餅から細胞集団を単離する工程と、場合により、単離された細胞集団を無血清培地中で培養する工程とを更に含むことができる。
【0005】
UMCの供給源は、細胞集団が投与される個体から適宜得ることができる。UMCの供給源は、例えば、哺乳動物の皮膚の断片または哺乳動物の脂肪組織の断片としうる。
【0006】
更に、UMCの供給源は、UMCを含む非付着性派生細胞(non-adherent derivative cell)の集団であり得るし、この非付着性派生細胞は、以下の工程、(a)未分化間葉細胞(UMC)を含む組織の断片を準備して出発細胞を得る工程、(b)出発細胞を断片から分離する工程、(c)出発細胞を培養する工程、及び(d) UMCを含む非付着性派生細胞の集団を培地から採取する工程を含む手順によって製造されうる。UMCを含む細胞集団を製造する手順は、工程(c)と(d) の繰り返しを含む1または複数ラウンドの細胞の派生化(derivatization)を更に含み、ここで前のラウンドから採取された非付着性派生細胞集団を出発細胞として使用することができる。1以上の追加の派生化ラウンドは、1〜20ラウンドとしうる。UMC含有組織は、皮膚組織、脂肪組織、結合組織、筋膜、固有層または骨髄であるが、特に限定されない。前記手順は更に、酸性線維芽細胞増殖因子の存在下で非付着性細胞を培養する工程を含んでもよい。
【0007】
本発明はまた、(i)前記方法で製造したニューロン、及び(ii)ニューロンを含む細胞集団を提供し、細胞集団は前記方法で製造される。本発明の組成物は、製薬上許容しうる担体、及び/又は無細胞性生分解性マトリックス(このマトリックスの中または上に細胞集団の細胞が組み込まれる)、及び/又は無細胞性生分解性充填剤を含んでもよい。無細胞性生分解性マトリックス及び無細胞性生分解性充填剤は、細胞と組み合わせる前は、無細胞性生分解性マトリックスと無細胞性生分解性充填剤に有用な本明細書に記載される物質のどれかまたは組み合わせから構成される。更に、本発明の組成物は培養培地血清由来のタンパク質を実質的に含まなくてよい。
【0008】
本発明の他の態様は、哺乳動物被験者において、損傷または欠陥のある神経組織を修復する方法である。本方法は、本発明の組成物を神経組織に注入する、移植する、または植え込む工程を含む。神経組織としては、中枢神経系(CNS)組織、例えば脊髄組織または脳組織が挙げられる。また神経組織は末梢神経系(PNS)組織でもよい。哺乳動物被験者はヒト患者でもよい。哺乳動物被験者は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、テイ・サックス病、筋萎縮性側索硬化症、脳卒中、顔面神経変性、手の末梢傷害、神経線維腫症、線維筋痛症、脊髄空洞症、神経系の自己免疫疾患、及び神経組織腫瘍などの、脊髄障害あるいは疾患または障害を有することができる。この方法では、前記組成物の細胞集団は自己由来のものでもよい。
【0009】
別段の定義がなければ、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、この発明に関係する技術分野の当業者が一般に理解している意味と同じ意味を有する。本発明を実施するのに、本明細書で説明されている方法及び材料と類似したものかまたは同等のものを使用してもよいが、以下に適切な方法と材料を説明する。本明細書に記載されているすべての刊行物、特許出願、特許及びその他の参考文献は、その全体を参照によって本明細書に組み入れる。争いがある場合には、定義を含む本明細書が抑制するであろう。また、材料、方法及び実施例は説明だけのものだけであり、それらに制限する意図ではない。
【0010】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細を、添付した図面と以下の説明で述べる。本発明の他の構成、目的及び効果は、本明細書と特許請求の範囲から明らかであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
詳細な説明
本発明は、未分化間葉細胞(UMC)からインビトロでニューロンを生成する方法を提供する。これらのニューロンは、例えば中枢神経系(CNS)(例えば脊髄もしくは脳)または末梢神経系(PNS)(例えば感覚−全身神経系(例えば脳神経もしくは脊髄神経)または自律神経系)など、様々なタイプの神経組織の欠陥のあるまたは損傷した神経組織を治療するのに使用できる。従って、本発明の方法で生成したニューロンを含む組成物は、例えば脊髄の傷害、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、テイ・サックス病、筋萎縮性側索硬化症、脳卒中(脳卒中による筋肉麻痺を含む)、顔面神経変性、手の末梢傷害、神経線維腫症、線維筋痛症、脊髄空洞症、神経系の自己免疫疾患(例えば多発性硬化症)、悪性または良性の神経組織腫瘍(星細胞腫やグリア芽細胞腫など)の治療に使用でき、例えばこれらの腫瘍を外科的に切除した後、補充療法として使用できる。
【0012】
UMCとUMC由来のニューロンは、少なくとも1つの主要組織適合性複合体(MHC;ヒトではHLA)のハプロタイプをそのニューロンのレシピエントと共有する。UMCのドナーとニューロンのレシピエントはMHC同一であることが好ましい。好ましくは、レシピエントとドナーはホモ接合性の双子であるか、または同一個体である。生物学的構成要素(例えば組織、細胞あるいは生物学的分子、例えばタンパク質、核酸、炭水化物または脂質)あるいは生物学的構成要素の前駆物質を得たレシピエントに、該生物学的構成要素を移植するかまたは植え込む場合、本明細書ではその生物学的構成要素を「自己由来の(autologous)」ものと呼ぶ。
【0013】
ニューロンを含む組成物の製造方法
未分化間葉細胞
本明細書で使用される用語「UMC」は、例えば線維芽細胞などの、十分に分化した結合組織細胞になる前の分化の「ステージ」にある細胞をいう。UMCはすべてのタイプの体細胞に分化できるわけではないので、UMCは多能性の幹細胞とは異なる。線維芽細胞の他に、UMCは脂肪組織、軟骨組織、腱、骨、筋細胞及びニューロンに分化できる。ニューロンは間葉組織と考えられていないが、明らかに、ニューロンはUMCから製造できる。これが起こるメカニズムははっきりしない。ひとつの可能性は、特定の分化の経路に明らかに拘束された前駆細胞(例えばUMC)は、その前駆細胞が発達できる、十分に分化した細胞の範囲について、以前に考えられていたほど限定されないということである。例えば、神経堤細胞はニューロンだけでなく、例えばPNSの支持細胞、色素細胞、平滑筋細胞、軟骨、顔や頭蓋の骨にも発達することが知られている。あるいは、少なくとも幾つかの部分的に分化した細胞型(例えばUMC)は、ある特定の環境(例えば血漿血餅で発生する環境)下で脱分化して次に異なる(例えば神経系の)経路に沿って再分化する能力があると考えられる。本発明は、UMCからニューロンが発達する特定のメカニズムに限定されない。
【0014】
本発明の方法は、ニューロン前駆細胞の供給源として本質的に任意のUMC供給源を使用して血漿血餅中でニューロンを増殖させることを含む。UMCは、以前に培養したことのない新鮮な組織(例えば皮膚、脂肪(fat, adipose)組織、骨髄など)に存在するか、または当該技術分野で知られている様々な方法のどれか、例えば実施例1の方法により、UMCをインビトロで増殖する及び/又は富裕化することができる。血漿血餅中で培養することにより、(a)UMCの細胞集団の中で既に分化したニューロンが選択的に自然増殖し、かつ血漿血餅中で培養する前はUMCと同じ形態を有するか、または(b) UMCのサブセットから分化して、成長してニューロンになるか、のいずれかが起こる。
【0015】
UMCは、広い範囲の哺乳類種のどれでも、例えばヒト、ヒト以外の霊長類(例えばサル、チンパンジー、ヒヒなど)、ウシ、ヒツジ、ウマ、ヤギ、ブタ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、ハムスター、スナネズミ、ラット、マウスなどから得ることができる。
【0016】
UMCは、被験者(例えばヒト)から採取した生検材料から培養を開始することにより、インビトロで採取し、富裕化することができる。本明細書で説明したように、UMCは例えば皮膚の生検材料や、脂肪組織または骨髄の生検材料などから得ることができる。真皮組織から単離されたUMCは、容易に得て増やせるので、特に有用である。
【0017】
本発明に有用な選択されたUMCをインビトロで生成するために、例えば被験者の歯肉、頭皮、耳介後部(post-auriculum)皮膚や口蓋などの真皮の全厚さ(例えば1〜5mm、十分な組織を得る場合5mm以上)の生検試料から培養を開始することができる。真皮はちょうど表皮の真下に位置し、典型的には0.5〜3mmの範囲の厚さを有する。真皮試料は、例えばパンチ生検方法を用いて得ることができる。皮膚の生検材料は、例えば耳の後ろに位置する皮膚から採取することができる。細胞培養を開始する前に、後続の培養で汚染する可能性を低くするため、生検材料を抗生物質と抗真菌剤で繰り返し洗浄してもよい。適切な「洗浄培地」は、例えばダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、イスコブ改変ダルベッコ培地(IMDM)または適切な培養培地を、ゲンタマイシン、アンフォテリシンB(FUNGIZONE(登録商標))、マイコプラズマ除去剤(MRA、大日本製薬株式会社、日本)、プラスモシン(plasmocin)、タイロシン(tylosin)(たとえばServa社、Heidelberg、ドイツから入手可能)などの抗生物質の幾つかまたは全部と一緒に、組織培養培地に含めることができる。ゲンタマイシンは10〜100μg/ml(例えば25〜75μg/mlまたは約50μg/ml)の濃度で使用することができる。アンフォテリシンBは0.5〜12.5μg/ml(例えば1.0〜10.0μg/mlまたは約2.5μg/ml)の濃度で使用できる。MRAは0.1〜1.5μg/ml(例えば0.25〜1.0μg/mlまたは約0.5μg/ml)の濃度で使用できる。プラスモシンは1〜50μg/ml(例えば10〜40μg/mlまたは約25μg/ml)の濃度で使用できる。タイロシンは0.012〜1.2mg/ml(例えば0.06〜0.6mg/mlまたは約0.12mg/ml)の濃度で使用できる。
【0018】
必要に応じて、無菌の顕微解剖を使って、角質化組織含有表皮と脂肪細胞含有皮下組織から得た生検材料中の真皮組織を分離することができる。次に、生検試料を例えばメスやはさみを使って小さい断片にして、その組織を細かく刻んでもよい。幾つかの実施形態において、組織の小片をタンパク質分解酵素(例えばコラゲナーゼ、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、キモパパインなど)を使って消化する。コラゲナーゼのどのタイプでも使用できるが、200〜1000U/mlのコラゲナーゼタイプIIで10分〜24時間消化するのが特に有用である(例えば0.05%〜0.1%のコラゲナーゼタイプIVは脂肪組織の消化に特に有用である)。酵素を使って消化する場合、細胞を遠心分離で集め、組織培養フラスコに入れてもよい。
【0019】
組織を酵素で消化しない場合、刻んだ組織片を組織培養フラスコの乾いた表面にばらばらに置き、約2〜約10分間付着させておくことができる。付着させた組織断片を動かさないように少量の培地をゆっくりと加える。細胞が消化された場合、細胞を培養培地で洗浄して、残った酵素を除去し、新しい培地に懸濁して、1つ以上のフラスコに入れることができる。約48〜72時間のインキュベーション後、フラスコに培地を追加して入れてもよい。培養を開始するのにT-25フラスコを使用する場合、最初の培地量は、典型的には約1.5〜2.0mlである。生検試料から得られた細胞株を樹立するには約2〜3週間かかり、このとき、増殖のため、最初の培養容器から細胞を移してもよい。
【0020】
培養の初期のステージの間、組織断片を培養容器の底に付着させておくのが望ましい。剥がした断片を新しい容器に再移植してもよい。標準的な方法に従って細胞をEDTA-トリプシンに短時間暴露することにより、細胞が刺激されて成長できる。このようなトリプシンに対する暴露は、短すぎると、培養容器の壁に付着している線維芽細胞が離れることができない。培養物が樹立するようになりかつ集密してきた後直ちに、細胞のサンプルを凍結保存のために、例えば液体N2(後述の細胞凍結に関する追加情報を参照のこと)で処理することができる。本明細書で使用される「付着」細胞とは、標準的な組織培養容器の材料(例えばプラスチック)に付着する細胞をいう。本明細書で使用される「非付着性」細胞には、標準的な培養容器の材料(例えばプラスチック)に付着しない細胞や、スペースと栄養分が制限されるようになると組織培養容器の表面から剥がれる細胞も含まれる。
【0021】
細胞が集密し、または殆ど集密状態になると、活発に成長しているUMCの非付着性コロニーが前述の培養物中に浮遊しているのが観察される。本発明は、特定の作用のメカニズムに限定されないが、スペース及び/又は栄養分の制限のため、最初に付着したUMCが剥がれる(即ち非付着性になる)可能性がある。これらの非付着性UMCのコロニーは、細胞培養物から培養培地を吸引し遠心分離することにより回収することができ、(例えばニューロンを作るために)使用、凍結、貯蔵してもよいし、または新しい組織培養培地に再び播種して成長させてもよい。新しい細胞培養容器に非付着性のコロニーを再び播種すると、細胞は組織培養容器の床及び/又は壁に再び付着し、玉石(cobblestone)様の形態になる。細胞成長の工程、非付着性コロニーを採取して再び播種する工程は、所望の回数を何度でも繰り返すことができる。例えば1回だけ、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回、12回、15回、17回、20回、25回、30回、35回、40回、45回、50回、60回、70回、80回、90回、100回、200回、500回、1000回またはそれ以上の回数を行うことができる。
【0022】
また、非付着性UMCは脂肪組織の培養物から単離することもできる(例えば脂肪吸引や他の外科的な除去によって回収された脂肪)。組織を小さい断片にカットし、膜物質を除去し、得られた組織を、脂肪組織からUMCを活発に脱落させる条件下で培地に置くことができる。あるいは、脂肪組織を、膜を除去した後に約0.1%〜1%のコラゲナーゼで脂肪球から分離することができる。同様に、UMC培養を骨髄の生検材料から始めることができる(例えばMarkoら、(1995) Endocrinol. 136:4582-4588を参照のこと)。脂肪及び骨髄由来UMCについての採取する工程及び再び播種する工程は、皮膚由来のUMCについて前述したものと同じである。実際、UMCの可能な供給源として本明細書に開示されたいずれかの組織からUMCを得るために類似の手順が行われることは、当業者にとって明らかであろう。
【0023】
本発明は、前記培養方法論によって得られた単離されたUMCニューロン前駆細胞と、前記培養方法論によって得られた細胞集団を含む組成物とを含み、細胞集団はニューロンの前駆細胞を含む。
【0024】
生検試料から得られたUMCの増殖に適切な組織培養技術を細胞の成長に使用することができる。培養した細胞を成長するのに有用な技術は、例えば、R.I. Freshney, Ed., Animal Cell Culture: A Practical Approach, (IRL Press, Oxford, England, 1986)およびR.I. Freshney編, Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Techniques, (Alan R. Liss & Co., New York, 1987)に見つけることができる。
【0025】
細胞培養培地は、初代UMC培養物の成長に適切な培地であればよい。培養培地は、前述したように、抗生物質、抗真菌剤及び/又はマイコプラズマの成長を抑える試薬を含めてもよい。例えば、培養培地中の酸性線維芽細胞成長因子(aFGF)の存在により、UMCが線維芽細胞に分化するのを抑えることができる。培地は無血清でよく、また細胞の成長を促進させるために、ヒトまたは非ヒト血清(例えば自己のヒト血清、非自己のヒト血液型A/Bの血清、非自己のヒト血液型Oの血清、ウマ血清またはウシ胎仔血清(FBS))を補うこともできる。培地に含める場合には、典型的には、血清は約0.1%〜約20%v/v(例えば約0.5%〜約19%、約1%〜約15%、約5%〜約12%または約10%)の量である。特に有用な培地は、約2mMグルタミン、約10mg/lピルビン酸ナトリウム、約10%(v/v)FBS、及び抗生物質を補ったグルコースDMEM(しばしば「完全培地」と呼ばれる)を含み、グルコースの濃度は、約1000mg/l〜約4500mg/lの範囲である。またUMCは無血清培地で成長することができる。この場合、UMCを、異種のまたは同種の血清タンパク質に決して暴露させない。また無血清培地では、UMCは、非自己血清を含む培地で細胞を成長するときに行う余分な培養を必要としない。
【0026】
細胞培養に使用される培地は、例えば細菌、真菌、酵母及びマイコプラズマによる細胞の汚染を防ぐために抗生物質を補充してもよい。マイコプラズマの汚染は、組織培養において、よくある特にわずらわしい問題である。マイコプラズマの汚染を防止または最小限にするため、タイロシンなどの薬剤を培養培地に添加できる。培地には1種類以上の抗生物質/抗真菌剤(たとえばゲンタマイシン、シプロフロキサシン、アラトロフロキサシン、アジスロマイシン、MRA、プラスモシン、テトラサイクリンなど)を更に補充できる。タイロシンは0.006〜0.6mg/ml(例えば0.01〜0.1mg/mlまたは約0.06mg/ml)の濃度で使用できる。ゲンタマイシンは0.01〜0.1mg/ml(例えば0.03〜0.08mg/mlまたは約0.05mg/ml)の濃度で使用できる。シプロフロキサシンは0.002〜0.05mg/ml(例えば0.005〜0.03mg/mlまたは約0.01mg/ml)の濃度で使用できる。アラトロフロキサシンは0.2〜5.0μg/ml(例えば0.5〜3.0μg/mlまたは約1.0μg/ml)の濃度で使用できる。アジスロマイシンは0.002〜0.05mg/ml(例えば0.005〜0.03mg/mlまたは約0.01mg/ml)の濃度で使用できる。MRAは0.1〜1.5μg/ml(例えば0.2〜1.0μg/mlまたは約0.75μg/ml)の濃度で使用できる。プラスモシンは1〜50μg/ml(例えば10〜40μg/mlまたは約25μg/ml)の濃度で使用できる。テトラサイクリンは0.004〜0.1mg/ml(例えば0.008〜0.05mg/mlまたは約0.02mg/ml)の濃度で使用できる。抗生物質は全培養期間または培養期間の一部に存在すればよい。
【0027】
マイコプラズマの汚染は、例えば、BioMerieux(Marcy l’Etiole, France)から入手可能なまたは屋内で調製できるマイコプラズマ寒天プレート等のシステムを使った寒天培養方法やPCRでアッセイできる。アメリカタイプコレクション(ATCC, Manassas, VA)はPCR「Mycoplasma Detection Kit」を販売している。タイロシン(0.06mg/ml)、ゲンタマイシン(0.1mg/ml)、シプロフロキサシン(0.01mg/ml)、アラトロフロキサシン(1.0μg/ml)、アジスロマイシン(0.01mg/ml)及びテトラサイクリン(0.02mg/ml)を含む培養培地は、マイコプラズマの汚染を防ぐのに特に有用である。マイコプラズマの汚染を防ぐのに有用である他の試薬は、4-オキソ-キノリン-3-カルボン酸(OQCA)の誘導体であり、例えばICN Pharmaceuticals社(Costa Mesa, CA)の「Mycoplasma Removal Agent」が市販されている。典型的には、この試薬は0.1〜2.5mg/ml(例えば0.2〜2.0mg/mlまたは0.5mg/ml)の濃度で使用する。抗生物質の混合物または他の試薬は、開始後最初の2週間、線維芽細胞培養物に存在させればよい。適切な培養時間後(例えば2週間)、典型的には、抗生物質を含む培地を抗生物質不含有培地と交換する。十分な数の細胞が培養中に存在すると、マイコプラズマ、細菌及び真菌の汚染をテストすることができる。検出可能な汚染のない細胞だけが本発明の方法に有用である。
【0028】
ニューロンを生成するための血漿血餅中でのUMCの培養
本発明の方法で使用する血漿血餅は、当該技術分野で知られている様々な方法のいずれでも製造できる。血漿は、例えば適切な哺乳動物被験者から最近に採取した血液にクエン酸ナトリウムまたはヘパリンを加えて、遠心分離で血液の血漿画分を細胞成分から分離することによって調製できる。血漿は液体の形態で、または例えば凍結乾燥の形態で得ることができる。凍結乾燥形態で血漿を得た場合は、使用する前に、脱イオン水または、例えば組織培養培地を加えて再構成する。血漿は、ニューロンを投与すべき個体(レシピエント)から得ることができ、即ち自己由来のものでもよい。あるいは、レシピエントと同じ種の1以上の個体から得ることができ、例えば複数(例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、15、20、25、30、35、40、50、60、70、80、90、100またはそれ以上)のヒトボランティアから調製された血漿サンプルのプールでもよい。更に、血漿は、例えばヒト、ヒト以外の霊長類、ウシ、ヒツジ、ウマ、ヤギ、ブタ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、ハムスター、スナネズミ、ラット、マウスなどの様々な哺乳類のいずれか1以上の個体の成体、幼児または胎児の血液から単離できる。これらの種から得られた血漿は、同じ種または別の種から得られたUMCと一緒に使用できる。
【0029】
血餅 (clot)は、適切な容器(例えばプラスチックの組織培養皿)中で、血漿とCa2+イオンの源(例えばCaCl2)またはトロンビンとを混合することによって形成できる。Ca2+イオンの添加以外で凝固を誘発する方法を使用したとしても、UMC由来のニューロンの製造には血漿血餅中に相対的に高い濃度のCa2+イオンが存在することが要求される。従って、Ca2+イオンの添加によって凝固が誘導されることが好ましい。何らかの他の方法を用いる場合、例えば細胞を血餅に加える前にCa2+を含む溶液または培地中で血餅をインキュベーションすることにより、Ca2+イオンを血餅に導入すべきである。血餅中のCa2+濃度は、約4mM〜約18mM、例えば約6mM〜約17mM、約8mM〜16mMまたは約8mM〜15mMでよい。
【0030】
凝固は室温で、より速くするときは、例えば37℃で行うことができる。血餅を形成した後、血餅が乾燥しないように、血餅が入っている容器に十分な組織培養培地を加える。このようにして血餅を完全に培地で覆ってもよいし、または培地を血餅の上面と十分に同じレベルになるようにしてもよい。
【0031】
組織培養培地はニューロンの成長に適しているいずれの培養培地でもよい。このような培地の1つに「FGF-DMEM」があり、約2mMグルタミン、約10mg/lピルビン酸ナトリウム、約2.5%(v/v)FBS(または本明細書に開示したヒト血清のどれか)、酸性線維芽細胞成長因子(aFGF;約5ng/ml)、ヘパリン(約5μg/ml)及び抗生物質を補充したDMEM(しばしば「完全培地」と呼ばれる)を含み、グルコースの濃度は約1000mg/l〜約4500mg/lの範囲である。他の有用な培地は、約2mMグルタミン、B27サプリメント(Gibco、約1:50の割合でNeuralbasal培地に添加される)、上皮細胞成長因子(EGF;最終濃度約20ng/ml)、R3ロングフォームインシュリン様成長因子(R3 IGF;最終濃度約25ng/ml)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF;最終濃度約10ng/ml)及び白血病抑制因子(LIF;最終濃度約10ng/ml)を補充したNeuralbasal培地(Gibco, Carlsbad, CA)を含む「N培地」である。所望であれば、N-2サプリメント(Gibco)をB27サプリメントの代わりに使用してもよい。米国特許第6,736,238号公報(その開示は参照によって本明細書にすべて組み込まれる)は、ニューロンのインビトロでの成長に適した様々な培地を記載している。
【0032】
ニューロンの成長用の培養培地は、例えば酸性線維芽細胞成長因子(FGF; aFGF)、塩基性FGF(bFGF)、インシュリン様成長因子1(IGF-1)、ロングフォームインシュリン様成長因子(R3 IGF)、上皮細胞成長因子(EGF)、ロングフォームEGF、インシュリン様成長因子(IGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、神経成長因子(NGF)、形質転換増殖因子(TGF)のファミリーメンバー(例えばTGFβ)、骨形成タンパク質(BMP)のファミリーメンバー(例えばBMP2-8のいずれか)、FGF-7、FGF-9、毛様体神経栄養因子(CNTF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、神経栄養因子-3(NT-3)、神経栄養因子-4(NT-4)、神経栄養因子-5(NT-5)、グリア細胞系由来神経栄養因子(GDNF)またはLIFなどの1種類以上の成長因子を補充してもよい。全長の野生型成長因子の活性の少なくとも50%を有する前記いずれかの成長因子の断片または変異体(例えば欠失、付加または置換を有するもの)もまた、全長の野生型成長因子が使える本発明の目的のために使用できることは理解される。また、成長因子のニューロン成長促進活性を増強することを示した化合物、例えば米国特許第6,172,086号公報(その開示は参照によって本明細書にすべて組み込まれる)に記載されている化合物なども有用である。更に、ニューロンの成長に必要であるアミノ酸、またはニューロンの成長を増強するアミノ酸、例えばL-カルニチン、L-プロリン、L-アラニン、L-アスパラギンやL-システインなどを、ニューロンの成長用の培養培地に添加してもよい。他の添加物として、甲状腺ホルモン、ビタミンE、エタノールアミン、インシュリン、トランスフェリン、スーパーオキシドジスムターゼ、リノール酸、コルチコステロン、レチニルアセテート、プロゲステロンやプトレッシンなどが挙げられる。
【0033】
UMC、UMCを含む細胞集団、またはUMCを含む組織の断片もしくは刻んだ組織を血餅の表面に加えることができる。細胞、刻んだ(minced)組織または組織の断片を、その血餅上の培養培地に加え、重力の作用により血餅の表面上に落ち着かせることができる。あるいは、培地のレベルを、血餅の上面と同じレベルになるように、または少し低いレベルになるように調整してもよい。次に、UMCまたは組織の断片を血餅の表面に加えて、血餅の表面に細胞または組織の断片が付着できるように十分な時間(例えば37℃で)インキュベーションする。付着が起きたら、血餅の本体を完全に覆うように追加の培地を加えてもよい。重要なことは、血漿血餅が乾燥するのを防ぐために、常に組織培養容器中に十分な培養培地があることである。細胞、刻んだ組織または組織断片を血漿血餅の表面と接触させるのではなく、細胞、刻んだ組織または組織断片を血漿血餅に埋め込んでもよいということが理解される。このように、細胞、刻んだ組織または組織断片を、形成後に、血餅の中に挿入してもよいし、または血餅を形成する前に、血餅を作るのに使用する血漿に加えることもできる。
【0034】
細胞、刻んだ組織または組織の断片を血餅に加えた後、培養容器を、例えば約37℃(例えば35℃、36℃または37℃)で約5%〜約10%のCO2(例えば約5%〜約6.5%のCO2)及び湿度約85%〜約98%の雰囲気中、標準的な組織培養条件下でインキュベーションする。細胞の成長と形態をオーバーヘッド型顕微鏡でモニターすることができる。ニューロンは当業者により容易に同定され、軸索及び/又は複数の樹状突起の存在により特徴づけられる。当然、培地交換の頻度と細胞継代は培養物中の細胞分裂の速度に依存するであろう。この要素は、例えば使用する培養培地、UMCの種、及び成長を増強する因子が培養物中に使用されているか否かによって変化するであろう。当業者は目的の培養物のための効果的な条件を確立することができるであろう。
【0035】
血餅を小さい断片に切断し、その断片を新しい血漿血餅の中に埋め込むかまたは血餅表面に該断片を置くことによってニューロンを継代することができる。ニューロンとUMCは、血餅断片から別の培養物上にある新しい血餅の中に移動する。ニューロンはUMCよりも早く新しい血餅の中に移動し、この要因により血餅中のニューロンを増やす方法が提供される。従って、例えば、実質的な数のUMCが新しい血餅の本体の中に移動させるには十分長い期間ではないが、比較的多数のニューロンが新しい血餅の本体の中に移動させるのに十分に長い期間、新しい血餅の培養物、すなわちニューロンとUMCの両方を含む血餅断片を、該新しい血餅の中に埋め込むか、または該新しい血餅の表面に付着したのち、該血餅断片を除去してもよいし、あるいは該新しい血餅を小さい断片に切断し、その後、該小さい断片を第三の新しい血餅の中に包埋させてもよい。このような手順は、望むだけ何度も、即ち所望の比率のニューロンを含む細胞集団が得られるまで、繰り返すことができる。
【0036】
あるいは、血餅を溶解して(後記参照)、溶解した血餅から細胞を集めることにより血餅中の細胞を継代することができる。次に、培養を開始するため、前述した方法と本質的に同じ方法で新しい血餅の表面にこれらの細胞を加えることができる。
【0037】
例えばトリプシン、ストレプトキナーゼ、プラスミノーゲンなどの酵素を培養物に添加して、室温または37℃でインキュベーションすることにより、血漿血餅から細胞を採取することができる。
【0038】
血餅から細胞を採取した後、更に細胞を血清/血漿不含有培地に少なくとも更に4時間(例えば一晩または約18時間)培養することができる。無血清培地で細胞をインキュベーションすることにより、培養培地に添加された血清(例えばFBS)由来のタンパク質を実質的に除去することができる。タンパク質が被験者に注入された組成物に存在する場合、望ましくない免疫応答を誘発することがある。無血清培地は、例えば、約2mMグルタミンを補充し、約110mg/lピルビン酸ナトリウムを補充してもしなくてもよい、グルコースDMEMを含んでもよく、この場合グルコースの濃度は約1,000mg/l〜約4,500mg/lの範囲でよい。グルコースの濃度は約4,500mg/lが特に有用である。また無血清培地は前述したもののような1種類以上の抗生物質を含むことができる。
【0039】
細胞集団(例えばUMC、UMC含有細胞、ニューロン、ニューロン含有細胞など)のどれでも凍結して、これらの細胞型を凍結するのに適した培地(例えば市販の任意の凍結用培地)で凍結して貯蔵することができ、例えば約-80℃のフリーザーや液体N2で貯蔵することができる。凍結する前に血漿血餅から細胞を採取する必要はなく、細胞を含む血餅を凍結用培地で凍らせることができる。本明細書に開示した細胞型を凍結するのに、約70%(v/v)培養培地、約20%(v/v)FBS及び約10%(v/v)ジメチルスルホキシド(DMSO)からなる培地が特に有用である。FBSを例えば5%ブドウ糖含有クレブスリンゲル液と交換し、DMSOも例えばグリセロールと交換することもできる。解凍した細胞は、同じ被験者に後に使用するために、追加の懸濁液を調製するための第二の培養を開始するのに使用することができ、そうすることにより第二の試料を得る不便さを避けることができる。
【0040】
ニューロンおよびニューロン含有組成物
本発明はまた、前述した血漿血餅の方法によってUMCから生成した単離ニューロンと、本方法によってUMCから生成した複数のニューロンを含む細胞集団を含む組成物とを提供することができる。これらの細胞集団中、ニューロンは細胞集団の少なくとも5%(例えば少なくとも5%、7%、9%、10%、12%、15%、18%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%、99.5%、99.8%または100%)であることが好ましい。細胞集団中の他の細胞は、以下の1種類以上の細胞型、すなわちUMC、線維芽細胞、ケラチン生成細胞、脂肪細胞、前脂肪細胞、メラニン形成細胞、皮膚ランゲルハンス細胞、内皮細胞のいずれでもよいが、これらに限定されない。1つの実施形態において、組成物は線維芽細胞、ケラチン生成細胞、脂肪細胞、前脂肪細胞、メラニン形成細胞、皮膚ランゲルハンス細胞及び内皮細胞を実質的に含まず、またUMCも実質的に含まなくてよい。
【0041】
1つの実施形態において、ニューロンと組成物の両方は、培養培地の異種または同種の血清由来タンパク質を実質的に含まない。本明細書で使用される「培養培地の異種または同種の血清由来タンパク質を実質的に含まない」細胞とは、細胞の周りにある液体が、既に細胞を培養した組織培養培地中に含まれる異種または同種の血清を0.1%以下(例えば0.05%以下、0.01%以下、0.005%以下または0.001%以下)含む細胞である。同様に、「培養培地の異種または同種の血清由来タンパク質を実質的に含まない」組成物とは、組成物中の細胞の周りにある液体が、既に細胞を培養した組織培養培地中に含まれる異種のまたは同種の血清を0.1%以下(例えば0.05%以下、0.01%以下、0.005%以下または0.001%以下)含む組成物である。
【0042】
同種のまたは異種の培養培地の血清由来タンパク質を実質的に含まない細胞を得るためには、培養した細胞を、同種のまたは異種の血清を含まない培地、即ち無血清かまたは自己由来の血清を含む培地で増殖すればよい。あるいは、細胞を同種または異種の血清(例えば0.1%〜20%の血清)を含む培地で最初に培養して、続いて無血清培地で培養すればよい。このように、これらの方法で、細胞懸濁液中に免疫原性の血清由来タンパク質が潜在的に存在することを避ける。
【0043】
製薬上許容しうる担体、例えば通常の食塩水、賦形剤または安定剤を、細胞を被験者に投与する前に細胞に添加することができる。「製薬上許容しうる」とは、使用する濃度で、細胞に有害でなく生理学的に許容でき、典型的にはヒトに投与したときに、胃の不調、めまいなどのアレルギー性または類似の有害反応を起こさない、分子実体及び組成物をいう。広範囲の様々な製薬上許容しうる担体、賦形剤または安定剤は当業者に公知である(Remington's Pharmaceutical Sciences, 16版, Osol, A. Ed. 1980)。許容できる担体、賦形剤または安定剤には、リン酸、クエン酸、他の非毒性の有機酸などのバッファー、アスコルビン酸などの酸化防止剤、低分子量(10残基以下)のポリペプチド、血清アルブミンやゼラチン、イムノグロブリンなどのタンパク質、ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、リジンなどのアミノ酸、グルコース、マンノースまたはデキストランを含む単糖類、二糖類や他の糖類、EDTAなどのキレート化剤、マンニトールやソルビトールなどの糖アルコール、ナトリウムなどの塩を形成する対イオン、及び/又はTween、PluronicやPEGなどの界面活性剤が挙げられる。
【0044】
あるいは、細胞を直ちに投与しない場合は、細胞を回収後24〜48時間までの間約4℃で氷上でインキュベーションすることができる。このようなインキュベーションのために、細胞を適切な浸透圧を有し、かつ発熱物質と内毒素レベルをテストした生理的溶液に懸濁してもよい。典型的には、このような液体はフェノールレッドpH指示薬を含まず、血清はウシ胎児血清(FBS)または他の異種の血清(例えばウマ血清やヤギ血清)よりも被験者の血清(即ち自己血清)が好ましい。細胞を、例えば5%デキストロースを含むクレブスリンゲル液、フェノールレッドを含まないDMEM、または任意の他の生理的な溶液に懸濁することができる。細胞を吸引して、インキュベーション培地で被験者に細胞を投与できる。細胞を懸濁している生理食塩水またはインキュベーション培地の量は、典型的には、注入する細胞の数や組織の変性または欠陥に起因する損傷の程度などの要因と関係する。
【0045】
生分解性無細胞性マトリックス
本発明のニューロンを含む組成物はまた、生分解性無細胞性マトリックス成分を含んでもよい。無細胞性マトリックス成分は、一般的に構造的役割を果たす。例えば、マトリックスは、組織の欠陥、穴、すきま、空洞を埋めて、注入したまたは移植した細胞がマトリックスや周りの組織に付着して、成長し、新しい組織の成長により生じた構造的なまたは他の因子(例えば走化因子)を作れる環境を提供する。多くの例において、マトリックスのギャップを埋める機能は一時的であり、移植した細胞及び/又は宿主細胞がその部分に移動して新しい組織を形成するまでしか続かない。無細胞性マトリックスは生分解性であることが好ましい。マトリックスは生理学的条件下で不溶性の固体または半固体の物質であることが好ましい。このような組成物は、変性した組織を修復するために被験者に注入または移植するのに適している。本明細書で使用する用語「生分解性」とは、生物学的に有害ではなく、自然のエフェクター(例えば気候、土壌細菌、植物、動物など)により化学的に分解される組成物を意味する。本発明に使用できるマトリックスの例として、自己のまたは非自己のタンパク質を含む無細胞性マトリックス、生分解性ポリマーを含む無細胞性マトリックスなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
非自己のタンパク質を含むいろいろな多くの生分解性無細胞性マトリックスを、本明細書で提供される組成物に使うことができる。生分解性無細胞マトリックスの例として、いろいろなタイプのコラーゲン(例えばウシ、ブタ、ヒト、生物工学で作られたコラーゲンなど)、例えばグルタルアルデヒドと架橋結合したグルコサミノグリカン(GAG)を有するいろいろなタイプのコラーゲンが挙げられる。コラーゲンを含むマトリックスとして、吸収性のコラーゲンスポンジ、コラーゲン膜、海綿骨(bone spongiosa)などが挙げられるが、これらに限定されない。有用なタイプのコラーゲンには、例えばウシコラーゲン(例えばZYDERM(登録商標)、ZYPLAST(登録商標)、McGhan Medical Corporation, Santa Barbara, CAから市販されている)、ブタコラーゲン、ヒトの死体のコラーゲン(例えばFASCIAN(商標)Fascia Biosystems, LLC, Beverly Hills, CA)、CYMETRA(商標)(LifeCell Corp., Branchburg, NJ)、またはDERMALOGEN(商標)(以前Collagenesis Corp.が製造)、生物工学で作られたコラーゲン(例えば FORTAPERM(商標)、Organogenesis, Inc., Canton, MAから入手可能)、及び自己由来のヒトコラーゲン(AUTOLOGEN(登録商標)、以下参照)が挙げられる。FASCIAN(商標)が特に有用である。この製品は5つの異なる粒径で入手でき、いずれも本明細書で説明した組成物と方法に使用できる。0.25mmの大きさの粒子が特に有用である。このようなマトリックスに有用な別のバイオポリマーはフィブリンである。本発明の目的において対象となるものは、UMC由来のニューロンを製造するのに使用されるタイプの血漿血餅である(前記参照)。実際、ある実施形態においては、ニューロンを製造するのに使用した血漿血餅からニューロンを抽出する必要はないであろう。血餅を任意に適切な大きさと形に切って、損傷または欠陥のある神経組織に直接埋め込んだり、直接移植することができる。
【0047】
吸収性のコラーゲンスポンジは、例えばSulzer Calcitek, Inc. (Carlsbad, CA)から購入できる。これらのコラーゲンスポンジの包帯は、COLLATAPE(登録商標)、COLLACOTE(登録商標)、COLLAPLUG(登録商標)の名前で販売されており、ウシの深在性屈筋(アキレス)腱から抽出した架橋したコラーゲンとGAGから作られている。これらの製品は柔らかくて、柔軟で、もろくなく、非発熱性である。典型的には、コラーゲンスポンジの90%以上が開口細孔からなる。
【0048】
生分解性無細胞性マトリックスは、例えば薄膜状に形成されたコラーゲン(例えばウシまたはブタのコラーゲンタイプI)を含んでもよい。このような膜はSulzer Calcitekで製造され、BIOMEND(商標)として販売されている。別の膜状のマトリックスは、Geistlich Sohne AG (Wolhusen, Switzerland)からBIO-GIDE(登録商標)として販売され、ブタのタイプIとタイプIIIコラーゲンから作られている。BIO-GIDEは二層構造になっており、多孔性であり、細胞が内部へ成長することを可能にする第一の表面と、密度が高く線維性組織が内部へ成長することを妨げる第二の表面とを持っている。
【0049】
コラーゲンを含む他の適切なマトリックスとしては、NeuCell, Inc. (Campbell, CA)で製造しているCOLLAGRAFT(登録商標)とWright Medical Technology (Arlington, TN)から販売されている、OSTEOSET(登録商標)硫酸カルシウムα半水化物ペレットが挙げられる。
【0050】
また、生分解性無細胞性マトリックスは海綿骨から顆粒またはブロックの形に作ることができる。この物質は、実質的にすべて有機物質(例えばタンパク質、脂質、核酸、炭水化物、および小有機分子、例えばビタミン、非タンパク質ホルモンなど)が除去された、動物(例えばヒト、ヒト以外の霊長類、ウシ、ヒツジ、ブタまたはヤギ)の骨からなる。このタイプのマトリックスを、本明細書では「無機質のマトリックス」と呼ぶ。このようなマトリックスの1つは、BIO-OSS(登録商標)の海綿状(spongiosa)顆粒とBIO-OSSブロックとして販売されており、Geistlich Sohne AGが製造している。またこの会社は、無機質の骨を含み、さらに重量で約10%のコラーゲンファイバーを含む、ブロックタイプのマトリックス(BIO-OSSコラーゲン)を製造している。
【0051】
他の有用な生分解性無細胞性マトリックスは、ゼラチン、キャッツガット(cat gut)、鉱質除去した骨、無機質の骨、サンゴ、またはヒドロキシアパタイト、あるいはこれらの物質の混合物を含んでもよい。鉱質除去したヒトの骨からつくられたマトリックスは、例えば小さいブロックに形成されて、GenSci Regeneration Laboratories, Inc. (Toronto, Ontario, Canada)のDYNAGRAFT(登録商標)、Tutogen Medical, Inc. (Clifton, NJ)のTUTOPLAST(登録商標)、Osteotech, Inc. (Eatontown, NJ)のGRAFTON(登録商標)Demineralized Bone Matrixとして販売されている。鉱質除去した骨を例えばコラーゲンと組合わせて、スポンジ、ブロックまたは膜の形に形成したマトリックスを製造することができる。生分解性マトリックスは、ムコ多糖やヒアルロン酸などのグリコサミノグリカンを含んでもよい。
【0052】
本発明の目的において特に有用なのは、小さいロッドの形に形成したバイオポリマー(例えば本明細書で開示したタイプのコラーゲンやフィブリン)ゲルである。このロッドでは、バイオポリマーの原線維が磁場により縦(軸)の方向に配向している。ニューロン、任意に他の細胞(シュワン細胞など)を含むこのようなロッドは、例えば末梢神経の切断された末端間の間隙を架橋するのに使うことができる。ロッド内の縦方向に並んだ原線維は、切断された神経の末端間の間隙を横断する神経の成長を先導する役目を果たし、それにより本来の神経の結合の再生が促進される。このバイオポリマーロッドとロッドを作る方法は、米国特許第6,057,137号公報により詳細に述べられており、その開示は本明細書に参照によってすべて組み込まれる。
【0053】
更に、1種類以上のモノマーから作られた合成ポリマーは、本明細書で有用な生分解性無細胞性マトリックスを作るのに用いることができる。このような合成ポリマーには、例えばポリ(グリコール酸)やポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)-ポリ(乳酸)などが挙げられる。また合成ポリマーは、マトリックスを形成するのに前記物質のいずれかと組合わせることができる。一つのマトリックスを形成する異なるポリマーは区画や層に分かれていてもよい。例えば、W. L. Gore & Associates, Inc. (Flagstaff, AZ)は、多孔性の生分解性無細胞性マトリックス(GORE RESOLUT XT Regenerative Material)を製造している。このマトリックスは、細胞が移動できる、合成の生物吸収性のグリコライドとトリメチレンカーボネイトのコポリマーファイバーで構成されており、細胞が内部に成長できない、合成の生物吸収性グリコライドとラクチドのコポリマーで構成されている閉塞性の膜と結合されている。適切な生分解性マトリックスの他の例は、例えば米国特許第5,885,829号公報に見つけることができる。
【0054】
本発明の目的において関心のあるものは、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェンやこれらのポリマーの誘導体などの導電性バイオポリマーである。このような誘導体の例として、3-置換ポリアニリン、ポリピロール及びポリチオフェン、例えばアルキル置換誘導体が挙げられる。マトリックスをこれらのポリマーから構築してもよいし、またはポリマーを本明細書で開示したその他の生分解性無細胞性マトリックス材料上にコーティングしてもよい。本発明におけるこのようなマトリックスの有用性は、電荷が神経突起の伸長と神経の再生を増強させることが発見されたことに由来する。これらのマトリックスの神経の成長を増強する性質を、インビボまたはインビトロのどちらであっても、被験者に配置する前に、ニューロンが付着したマトリックスに電圧と電流を印加することにより、更に増強することができる。これらの導電性ポリマーとその使用は、米国特許第6,095,148号公報により詳細に説明されており、その開示は参照によって本明細書にすべて組み込まれる。
【0055】
生分解性無細胞性マトリックスに付着する細胞の能力は、当該分野で知られている1種類以上の付着分子(attachment molecule)でマトリックスをコーティングすることにより増強することができる。付着分子として、天然分子(例えばラミニンやフィブロネクチンなどの細胞外マトリックス因子)や合成分子(例えばフィブロネクチン及び/又はラミニンの結合部位を含むペプチド)が挙げられる。有用な試薬の例として、基底膜の構成成分、ゼラチン、アラビアゴム、コラーゲンタイプI〜XII、フィブロネクチン、ラミニン、トロンボスポンジン、エンタクチン、プロテオグリカン、グリコサミノグリカンやこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。他の適切な付着分子には、単一の炭水化物や複合炭水化物、アシアログリコプロテイン、レクチン、成長因子、低密度リポタンパク質、ヘパリン、ポリリジン、ポリオルニチン、トロンビン、ビトロネクチン、フィブリノゲンなどが挙げられる。合成分子には、アミノ酸配列RGD(配列番号1、フィブロネクチン由来)、LIGRKKT(配列番号2、フィブロネクチン由来)及びYIGSR(配列番号3、ラミニン由来)などの1つ以上の結合部位を組み込む、従来の方法を使って作られたペプチドを挙げることができる。付着分子の使用と付着分子を生分解性無細胞性マトリックスに結合する方法は、米国特許第6,095,148号公報に説明されている。
【0056】
生分解性無細胞性マトリックスを選択した後、細胞の濃縮懸濁液(例えば前述のようにUMCから製造したニューロンを含む懸濁液)をマトリックスの表面に均等に分配することができる。典型的には、液状の懸濁液を吸収するマトリックスの能力を超えることがないように、濃縮した懸濁液を使用する。例えば、GORE RESOLUT XTマトリックスに加えた細胞の懸濁液は、一般的に、約94μl〜約125μlの量でよく、マトリックス1平方センチメートル当たり約2.0×106細胞〜約4.0×106細胞を含む。細胞は培地を更に追加することなくマトリックスに付着することができる。マトリックスと細胞のインキュベーションは、例えば約37℃で約1〜2時間でよい。典型的には、細胞はマトリックス物質に付着し、約60分のインキュベーション後、マトリックス物質の全体にわたって均等に分布する。このとき、細胞を載せたマトリックスが入っている培養容器に追加の成長培地を補充することができ、細胞を約3〜4日間マトリックス中で培養することができる。マトリックス内のすきまを実質的に満たすようにマトリックスに高密度で細胞を加えるので、その3〜4日間の培養期間中にあまりまたは全く増殖が起きない。実際、典型的には、有意な細胞増殖はこの期間中望ましくない。なぜならば分裂細胞は、マトリックスを分解または部分的に分解できる酵素(例えばコラゲナーゼ)を分泌できるからである。
【0057】
付着した細胞を有するマトリックスは、典型的には例えば生理食塩水や、血清及びフェノールレッドを含まない培地で洗浄(例えば10分ごとに少なくとも3回洗浄)する。被験者に投与したときに免疫応答を誘発しうる免疫原性タンパク質(たとえば非自己血清を含む培地をマトリックスの播種工程に使用する場合の、培養培地の血清由来のタンパク質)を実質的に除去するためである。各洗浄には、新しいPBSを使用できる。次にマトリックスを、使用する前に、新しいPBSまたは無血清培養培地でインキュベーション(例えば2時間のインキュベーション)する。インキュベーション後、細胞を含むマトリックスを、組織が変性したり欠陥のある部分に置くことができる。
【0058】
コラーゲンスポンジマトリックス(例えばCOLLACOTE(登録商標))に対して、約1.5mlの成長培地中の約1.5×106〜2.0×106(または必要に応じそれ以上)の細胞を、2cm×4cmの細さ(約2.5〜3.0mmの厚さ)のスポンジの上に播種することができる。次に、実質的にすべての細胞がマトリックス物質に付着させるため、スポンジを37℃で約1〜2時間、培地を追加せずにインキュベーションする。細胞が付着した後、追加の成長培地をマトリックスと細胞組成物に添加し、次に37℃で3〜4日間、培地を毎日交換してインキュベーションする。非自己血清を含む培地を細胞の播種工程に使用した場合は、組成物を非自己血清を含む成長培地から除去し、PBSで繰り返し洗浄する(例えば3回以上)。毎回PBSの添加後に、PBSを捨てる前に10〜20分間インキュベーションしてもよい。最後の洗浄後、組成物を被験者に直ちに投与してもよいし、または生理的液体(例えばクレブスリンゲル液)を含む出荷用バイアルに移して、約4℃で約24〜48時間までインキュベーションしてもよい。
【0059】
膜状のマトリックス(例えばBIOMEND(商標))に対して、約100μlの成長倍地中の約1.5×106〜2×106(必要であればそれ以上)の細胞を15mm×20mmの細さ(約0.5〜1.0mmの厚さ)の膜の上に播種することができる。実質的に細胞のすべてをマトリックス物質に付着させるため、膜を37℃で約30〜60分間、培地を更に追加しないでインキュベーションする。細胞が付着した後、追加の成長培地をマトリックスと細胞組成物に添加し、次に37℃で2〜3日間、培地を毎日交換してインキュベーションする。典型的には、細胞に利用可能なマトリックス内のすきまを実質的に満たすように、高密度で細胞がマトリックスに付着する(前記参照)。組成物の洗浄と、直ちに使用することまたはインキュベーションについては、スポンジのマトリックスについて前述したとおりである。
【0060】
前述の無機質のマトリックス(例えばBIO-OSS block)や鉱質除去した骨のマトリックス(たとえばDYNAGRAFT(商標) matrix)などのブロックのマトリックスの場合、約100〜150μlの成長培地中の約1.5×106〜2.0×106の細胞(必要であればそれ以上)を、1cm×1cm×2cmの立方体ブロックのマトリックス物質に播種できる。典型的には細胞をブロック表面の1つの表面にゆっくりと播種する。培地と細胞がブロックに吸収されると、ブロックのほかの面に同様のやり方で播種できる。この手順をブロックのすべての面に播種するまで繰り返すことができ、ブロックが十分に培地で飽和される。過剰な培地を加えてそれによりブロックから培地と細胞が漏れ出すことのないように注意すべきである。次に、実質的にすべての細胞をマトリックス物質に付着させるため、組成物を、培地を更に追加することなく約60〜120分間37℃でインキュベーションする。細胞が付着した後、追加の成長培地をマトリックスと細胞の組成物に加えて、次に37℃で2〜3日間、培地を毎日交換してインキュベーションする。典型的には、細胞に利用可能なマトリックス内のすきまを実質的に満たして前述したものと同じ結果が得られるように、高密度で細胞をマトリックスに添加する(前記参照)。組成物の洗浄と、直ちに使用することまたはインキュベーションは、スポンジのマトリックスにおいて前述したとおりである。
【0061】
本発明のニューロンと小さい粒子状の生分解性マトリックス(例えばFASCIAN(商標)、CYMETRA(商標)またはDERMALOGEN(商標))を含む組成物は、例えば、構成成分を、ルアーロックを介して連結させた2つのシリンジの間を行ったり来たりさせて混合することによって調製できる。FASCIANは、例えば典型的にはシリンジ(例えば3ccのシリンジ)に80mg/シリンジで使用できる。FASCIAN粒子は、使用する前に、少量(例えば1.5ml)の洗浄バッファー(例えば等張生理食塩水やデキストロースを含むクレブスリンゲル液)をシリンジの中に取って、ルアーロックで第一のシリンジと第二のシリンジを連結させて、2つのシリンジ間を数回、粒子と洗浄液を行ったり来たりさせて、シリンジ中で直接洗浄することができる。粒子を洗浄液と分離するために、混合物を殺菌したチューブに移して、FASCIAN粒子を落ち着かせてもよい。溶液を除去して(例えばデカントや吸引)、粒子を新しいシリンジに(例えば18ゲージまたは20ゲージの針を通して)取って、望むように洗浄工程を繰り返すことができる。
【0062】
粒子を適切に洗浄するとき、洗浄するのと同じ手順を使って粒子を細胞と混合してもよい。細胞(例えば1.5×106〜2×106細胞)を溶液(例えば5%デキストロースが入ったクレブスリンゲル液1.5ml)に懸濁して、シリンジに取ることができる。細胞が入っているシリンジを充填粒子が入っているシリンジとルアーロックを介して連結させて、2つの成分を、シリンジ間を行ったり来たりさせて混合することができる。次に混合物を、T-25組織培養フラスコか、充填粒子に細胞が付着できるような組織培養皿またはチューブに移す。あるいは、細胞にとってより有害になるかもしれないが、付着が起きる間、混合物をシリンジにおいたままにしておくこともできる。混合物を一晩インキュベーションして、次に、臨床医に引き渡すための容器(例えばバイアルやチューブ)に移すか、または被験者に投与するためのシリンジに移してもよい。臨床医に引き渡される容器は、輸送する間、氷の上に置いておくのもよい。このような小さい粒子の無細胞性生分解性マトリックスを使用する場合、細胞を含む粒子の懸濁液は、場合により、組織が変性していたり欠陥のある領域に移植するのではなく注入することができる。
【0063】
本発明の組成物は、細胞と製薬上許容しうる担体、及び/又は生分解性無細胞性マトリックス(後記参照)、及び/又は生分解性無細胞性充填剤(後記参照)のほかに、前に挙げた1種類以上の神経細胞成長因子を含んでもよいことが理解される。
【0064】
また本発明は、本発明のニューロンとマトリックス成分の両方を含む組成物を作るための方法を提供する。これらの方法は、典型的には、複数のニューロンを含む細胞の集団を準備する工程、生分解性無細胞性マトリックスを準備する工程、細胞がマトリックス上及びマトリックス内に組み込まれるように生分解性無細胞性マトリックスを細胞の集団と一緒にインキュベーションする工程、その結果、損傷したまたは欠陥のある神経組織を修復するための組成物を形成する工程、を含む。
【0065】
生分解性無細胞性充填物質
本発明の組成物は、1種類以上の生分解性無細胞性の注入可能な充填物質(例えば増量剤)と一緒に、本発明のニューロンを含めることができる。この組成物は、変性した組織を修復するために被験者に注注入するのに好適である。一般的に、充填物質は構造的機能を果たす。例えば、充填物質は、組織にある欠陥または穴、すきま、空洞を埋めることができ、注入された細胞が周りの組織に付着して、成長し、新しい組織の成長によって生じる構造的因子及び他の因子(例えば化学走化性因子)を生む環境を提供する。多くの例において、充填剤の間隙を埋める機能は一時的であり、移植した及び/又は宿主細胞がその部分に移動して新しい組織を形成するまでしか続かない。好ましくは、充填剤は生分解性である。典型的には、充填剤は粘性の液体か懸濁液として供給され使用される。充填剤は本発明のニューロンを含む細胞集団と組合わせることができる。
【0066】
多くのタイプの生分解性で無細胞性の注入可能な充填剤を本発明の組成物に使用することができる。充填剤は自己由来のタンパク質から成り、被験者から得られたコラーゲンのどのタイプを含んでいてもよい。このような充填剤の例としては、以前Collagenesis Corp. (Beverly, MA)で製造されていたAutologen(登録商標)がある。Autologenは、被験者から得られた自己由来の皮膚のコラーゲン線維が分散しているものであるから、UMCや任意に線維芽細胞などの細胞と一緒に被験者に再投与するときに最小限の免疫応答でさえ誘導しない。Autologenを得るために、組織の試料(例えば真皮、胎盤、臍帯など)を被験者から得て、Collagenesis Corp.に送り、コラーゲンが豊富な分散物に加工される。1.5平方インチの皮膚組織がAutologen 1立方センチメートル(cc)を産生することができる。Autologenの濃度は、被験者内の欠陥を直し、組織を増加するのに必要な量によって調整することができる。分散物中のAutologenの濃度は、例えば少なくとも約25mg/l(例えば少なくとも約30mg/ml、少なくとも約40mg/ml、少なくとも約50mg/ml、または少なくとも約100mg/ml)である。
【0067】
また、無細胞性の注入可能な充填物質は、あらゆるタイプのコラーゲンを含む非自己タンパク質を含んでいてもよい。数々のコラーゲン製品が市販されており、本発明の組成物に使用できる。ヒトコラーゲン製品も市販されている。市販のコラーゲン製品の例としては、ウシコラーゲン、例えば、グルタルアルデヒドと架橋し0.3%リドカインを含むリン酸緩衝生理食塩水に懸濁された、再構成(reconstituted)されたウシコラーゲンファイバーを含む、Zyderm(登録商標)、Zyplast(登録商標)などの再構成されるウシコラーゲン製品が挙げられるが、これらに限定されない。これらの製品は、McGhan Medical Corporation of Santa Barbara, CAで製造されている。ブタコラーゲン製品も商業的に入手可能である。本発明に有用なコラーゲンは、適切な種の組織から単離されるか、または組換えタンパク質として作られたものでもよい。組換えタンパク質は、天然に存在するタンパク質のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を有するか、またはタンパク質の機能を改善するアミノ酸置換、欠失または挿入を含むアミノ酸配列を有していてもよい。
【0068】
有用な充填物質の他の例として、可溶性ゼラチン、ポリグリコール酸(例えば可溶化ポリグリコール酸またはポリグリコール酸粒子)やキャッツガット縫合糸などが挙げられるがこれらに限定されない。粒状ゼラチンマトリックスの移植片は、例えばFibril(登録商標)の標章で販売されている。この充填剤は(1)0.9%(体積)の塩化ナトリウム溶液に分散させたo-アミノカプロン酸とブタゼラチン粉末の混合物と、(2)被験者の血漿のアリコートを等しい量で含む。充填剤として有用な他の物質には、ヒアルロン、ヒアルロン酸、レスタリン(restalyn)、パーレアン(parleane)などが挙げられる。
【0069】
また、本発明は、本発明のニューロンと生分解性無細胞性充填剤を含む組成物を製造する方法を提供する。これらの方法は、典型的には、免疫原性タンパク質(例えば培養培地血清由来タンパク質)を実質的に含まない、本発明のニューロンを含む細胞の集団を準備する工程、1種類以上の生分解性無細胞性充填物質を準備する工程、及びその充填剤を細胞の集団と組合わせる工程、を含む。
【0070】
本発明のニューロンを使用する方法
本発明のニューロンと組成物は、インビトロまたはインビボで使用することができる。ニューロンとニューロンを含む組成物のインビトロでの使用には、例えば、ニューロン成長促進活性または神経毒性活性における目的の化合物をインビトロでスクリーニングまたはテストするための、ターゲットとしての使用が挙げられる。また、ニューロンと組成物は、基礎的な神経生物学のインビトロ及びインビボでの研究の両方にも使用できる。
【0071】
ニューロンは、様々な神経学的症状のいずれの治療(前記参照)にも特に有用である。ニューロンは注入、埋め込み、移植によって投与できる。ニューロンは、例えば腫瘍を除去する手術中に腫瘍切除部位に移植できる。従って、例えば製薬上許容しうる担体及び/又は生分解性無細胞性充填剤(前記参照)中に本発明のニューロン(前記参照)を含む組成物は、目的のCNS領域(例えば脳室や脊髄)に注入できる。あるいは、生分解性無細胞性マトリックス(前記参照)に付着した及び/又は取り入れたニューロンを、損傷または欠陥のあるCNS組織(脳または脊髄)や末梢神経に移植または埋め込むことができる。
【0072】
投与は、1回でも複数でもよい。従って、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、17、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、100、150、200、250、300、350、400、450、500、700、1000回またはそれ以上の回数の投与を行ってもよい。複数の投与が行われる場合、投与間隔は、適切な期間、例えば30秒、1分、2分、3分、4分、5分、10分、20分、30分、45分、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、8時間、12時間、18時間、24時間、2日間、3日間、4日間、1週間、2週間、3週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、8ヶ月、10ヶ月、1年、18ヶ月、2年、3年、4年、5年、6年、8年、10年、12年、15年、18年、20年、25年、30年、40年、50年またはもっと長い期間で分けることができる。
【0073】
1種類以上の成長因子を本発明のニューロンのレシピエントに投与することもできる。これらの因子は、前に挙げたどの因子も含む。該当する成長因子は、移植または埋め込まれたニューロンの成長の促進に直接作用するか、または他の細胞に作用することにより、例えば血管形成を増強することにより、組織の修復を間接的に促進することができる。成長因子は、ニューロンを含む組成物の成分として被験者に投与することができる。あるいは、成長因子を分けて、同時に、または異なる時間に投与することもできる。更に、成長因子を同一の部位に細胞組成物としてまたは異なる部位に投与することができる。成長因子は、全身的にまたは局所的に、例えば経口的に、経皮的に、直腸内に、膣内に、鼻腔内に、胃内に、気管内に、肺内に、あるいは、静脈内注射(もしくは注入)で、皮下注射(もしくは注入)で、筋肉内注射(もしくは注入)で、または腹腔内注射(もしくは注入)で投与することができる。投与の頻度は、細胞組成物(前記参照)についてと同様である。
【0074】
成長因子は、成長因子自身の形態で投与することができる。あるいは、成長因子のリザーバーや貯蔵物として作用する固形の担体に結合させて、または固形の担体内にカプセル化して送達してもよい。この固形担体は、(例えば粒子や繊維(thread)として構成された)1つの物または複数の物でよい。成長因子は、固形担体からその環境の中に徐々に放出される。ビーズ状の固形担体の場合、ビーズは一般的に直径約0.005〜2.0mmのほぼ球状の形をしている。固形担体が繊維状の場合、繊維は一般的に直径0.01〜1.0mmである。繊維を、ゲルを形成する前に網状に折り畳むか、(約5〜10mmの)小さな破片に切断してもよい。また、ニューロンを含む組成物も生分解性無細胞性マトリックスを含み、マトリックスは、必要に応じて成長因子をゆっくりと放出するための固形担体として機能することが理解される。固形担体を製造できる物質として、コラーゲン、ゼラチン、エチレン-ビニルアセテート、ポリラクチド/グリコール酸コポリマー、フィブリン、ショ糖オクタ硫酸、デキストラン、ポリエチレングリコール、アルギナート、ポリアクリルアミド、セルロース、ラテックス、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ナイロン、ダクロン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルコポリマー、キャッツガット、綿、リネン、ポリエステル、絹が挙げられる。
【0075】
固形担体は、ヘパリン結合成長因子(例えばbFGF、VEGF、PDGFなど)の固形担体への結合を促進するための手段として、固形担体に結合したヘパリンまたはヘパラン硫酸プロテオグリカンを有していてもよい。このような固形担体の例は、ビーズに結合したヘパリンを有する主にアガロースから成るビーズである。固形担体は、様々な物理的形状、例えばビーズや不ぞろいの粒子、シート、繊維でよい。成長因子を固形担体中にカプセル化した場合、成長因子は、例えば固形担体上で作用する酵素により、徐々に時間をかけて放出される。
【0076】
1種類以上の成長因子を被験者に送達する別の手段は、1種類以上の成長因子をコードする核酸配列を含む1種類以上の発現ベクターで形質移入または形質転換した組換え細胞を被験者に投与することによる。細胞はニューロン自体でもよいし、他の細胞型、例えば線維芽細胞、UMC、ケラチン生成細胞、内皮細胞、リンパ球でもよい。ニューロンに適用できる同じ組織適合性の必要条件(前記参照)が、成長因子を送達するのに使用する組換え細胞にも適用可能であり、細胞はレシピエント由来、即ち自己のものが好ましいであろう。
【0077】
本発明のニューロンがUMC由来であるということから、本明細書に述べられたUMC(例えば実施例1で述べる方法によって製造されたUMC)のすべてが、本明細書に列挙された、本発明のニューロンで治療可能な神経学的症状と同一の症状を治療するのに使用できる。更に、UMCは本明細書で述べられた組成物のいずれの成分にもなり得る。
【0078】
以下の例は本発明を説明するのに役立つが、本発明を限定しない。
【実施例1】
【0079】
自己由来UMCと線維芽細胞の単離
正常な健康なヒトボランティアから得られた皮膚の生検材料の培養を以下のように開始して、細胞を採取しUMCのためにインビトロで増やした。約10〜約200mm3の生検材料を耳介の後ろ(post auriculum)の部分から得て、4500mg/lのD-グルコース、2mM L-グルタミン、非必須アミノ酸、10%FBSを含むDMEMを使って前に述べた線維芽細胞組織培養を開始した。付着性の線維芽細胞が2または3継代で十分に集密した後、非付着性で活発に成長している細胞のコロニーが観察された。このプロセスは、低血清で培養を開始すること及び5ng/ml aFGFを存在させることにより、または300mM CaCl2を最終濃度15mMになるように添加して組織から直接得た血漿血餅中で細胞を成長させること(実施例2参照)により、短くすることができた。各コロニーは、玉石状の形態をした活発に分裂している2〜約80の細胞を含んでいた。浮遊しているコロニーを含む培養培地を吸引して、培地を遠心分離してコロニーを集めた。遠心分離によりペレットになった細胞を、aFGFとヘパリンを含む新しい培養培地(4500mg/lのD-グルコース、2mM L-グルタミン、2.5%熱不活化FBS、5ng/ml組換えヒトaFGF、5μg/mlヘパリンを含むDMEM)に直接播種することにより、新しい組織培養容器に移した。細胞の懸濁液を新しい組織培養フラスコに添加し、37℃でインキュベーションした。細胞を1週間に2回供給し、継代するか、または集密したときに(一般的に1〜2週間以内)、示差的にトリプシン処理した。培養の開始の約3〜6週間以内に玉石状の細胞のコロニーが観察された。コロニーの単離と新しい組織培養容器での培養により、細胞が付着性になった。
【0080】
また、非付着性細胞のコロニーを以下のようにしてヒト脂肪細胞から単離した。組織を小さい断片に切断し、目に見える膜すべてを除去した。4500mg/lのD-グルコース、2mM L-グルタミン、2.5%熱不活化FBS、1〜10ng/ml組換えヒトaFGF、5μg/mlヘパリンを含むDMEMの培地に組織を置いた。これらの条件下で、玉石状の細胞が脂肪組織から活発に脱落し、長期間成長を続けた。脂肪組織の断片を洗浄して新しい組織培養容器の中に置いた。約2週間以内に、コラゲナーゼIVで約5〜15分、37℃で処理することにより、組織からUMCを単離した。脂肪組織から得られた新しい細胞は、1年以上、培養が終了するまで、培地中で活発に成長し続けた。培養物が十分に成長すると、非付着性細胞の塊が観察された。これらの細胞を新しい組織培養フラスコに再び播種すると、同じタイプの細胞が活発に成長しているのが観察された。
【0081】
aFGFの存在下において、皮膚と脂肪の両方の組織から得られた培養物中の細胞は、外見上は形態論的に同質であり、玉石状の形態であった。しかし、aFGFを培養培地から除去すると、ほとんどの細胞が完全に付着性の線維芽細胞に分化した。また、玉石状の非付着性細胞も、Markoら(上記)により説明された方法を用いて、骨髄から開始された培養物中に観察された。従って、少なくとも真皮または脂肪組織もしくは骨髄の培養物から樹立された線維芽細胞培養物から回収された非付着性類上皮様の細胞は、実際にUMCであると思われる。
【実施例2】
【0082】
UMCのニューロンへの分化
予備実験において、ウシ血漿から調製した血餅は、ウシ胎児血漿から製造した血餅と同様に、細胞の成長を支持する工程に効果的であることが分かった。培養培地に通常存在する(即ち約2mM)よりも高い濃度のCa2+の存在は、血漿血餅UMC培養物でのニューロンの成長に不可欠であった。血漿血餅中の神経細胞の分化、成長及び遊走は、血餅の生成に使用される(CaCl2の形の)Ca2+の濃度に依存することが分かった。最適なCaCl2の濃度は、約8mM〜15mMの間であることが分かった。
【0083】
以下は典型的な実験の説明である。
【0084】
凍結乾燥したウシ血漿(Sigma Aldrich Co., St. Louis, MO; Cat. No. P-4639)を、ヘパリンを含まない適切な量の組織培養培地、例えばDMEMまたはNeurobasal培地(前記参照)で再構成した。適切な量のCaCl2の原液(例えば300mM)を、血漿の添加後に最終濃度が15mMになるように、一連のプラスチックの組織培養皿(直径30mmの1セットと直径60mmの別セット)に加えた。血漿を培養皿に添加し(30mmの皿には1ml、60mmの皿には2ml)、CaCl2と血漿を混合するために培養皿を旋回した。0.5〜0.75mlの血漿を30mmの皿に添加し、1.0〜約1.25mlの血漿を60mmの皿に添加して、薄い血餅(高さ1mm未満)を作った。適切な量のCaCl2溶液を最終濃度15mMになるように、前述のように皿に添加した。
【0085】
次に、皿を室温または37℃で、血漿が凝固するまでインキュベーションした。室温よりも早い37℃で凝固させるには約2〜3時間かかる。約2mlの組織培養培地を30mmの組織培養皿に、5mlを60mmの組織培養皿に添加した。組織培養培地は「N培地」(前記参照)であった。次に、皿を、組織培養インキュベーターに37℃、10%CO2の雰囲気で使用する準備ができるまで貯蔵した。実施例1で説明したように調製した、少量の真皮由来のUMC(1血餅当たり約5細胞〜約105細胞)を各皿に添加し、各血餅の上に定着できるようにした。培養皿の組織培養培地を3〜4日ごとに交換し、使用済みの培地を除去した後、1.5mlを30mmの皿に、3mlを60mmの皿に添加した。血餅での細胞の成長を、顕微鏡で観察し、約1年間続けた。
【0086】
血漿血餅中のUMCの亜集団(subpopulation)のニューロンへの分化は、培養の開始後2〜3日目から観察された。大部分の培養物で、1本だけ軸索を有する小さい細胞が、現れるべきニューロンの形態の最初の細胞だった。後に、樹状突起を持つ細胞が培養物中に現れた。大部分のUMC由来のニューロンは血餅の上部で成長し、UMC形態を維持したままの細胞は血餅の底部の近くにあった。
【0087】
血餅中の細胞が高密度になると、1個以上の血漿血餅片を、新しく調製した血漿血餅の上に移した。細胞は、移した断片から新しい血餅の中へ、18〜24時間で移動した。ニューロンは新しい血餅の中に移動した最初の細胞であった。細胞を含む血漿血餅を、標準のDMSO含有凍結用培地を使って液体N2で保存した(前記参照)。
【0088】
薄い(垂直寸法で1mm未満)血漿血餅をニューロンの成長に使用する場合、標準的な技法を使ってトリプシンで処理することによって血餅から細胞を回収できた。プラスミノーゲン(Sigma; カタログNo. P-9156)を、より厚い血漿血餅(垂直寸法で約3mm〜約4mm)からニューロンを回収するのに1U/mlの濃度で使用した。血餅からニューロンを放出させるために3回の処理を必要とした。最初の2回の処理によって放出された細胞はほとんどすべてが、全部ではないかもしれないが、UMCと他の汚染した細胞であった。プラスミノーゲンの濃度を上げることによって、1回かあるいは可能な2回の処理でニューロンを放出できるかもしれないと思われる。
【0089】
血餅でのニューロンの成長は、血餅の周囲の培養培地中にB27(またはN-2)培養添加物混合物(Gibco, Carlsbad, CA)を含めることによって増進された。また、培養倍地に1つだけ成長因子としてaFGFを使用して、ヒトニューロンの成長が増進されたことが観察された。しかしながら、ラットの皮膚から調製されたUMCで並行して行われた実験においては、成長因子の組み合わせ(bFGF、ロングフォームEGF、LIF及びR3ロングフォームIGF)を必要とし、ヒト細胞培養物中、aFGFの他にこれらの成長因子の存在によって、ニューロンの成長が更に増した。
【0090】
また、実施例1に述べた方法によって製造したUMCの代わりに、皮膚と脂肪の両方の組織の小片(例えば各寸法が約0.5〜約5mmのおおよそ立方状の片)を使って、血漿血餅中でニューロンを生成することが可能である。2つの組織を別々の実験でテストした。組織の断片を血餅の表面に直接置いた。培養皿の培養培地のレベルを、血餅が乾燥しないように十分な高さに、しかし組織片が浮かないように、かつ血漿血餅の表面に付着できるように十分に低くした。これらの培養物において、線維芽細胞による過成長を、低血清濃度(即ち2.5%以下)の培地を使用してヒトaFGF(5ng/ml)を含めることによって防いだ。また、塩基性FGF(bFGF)を培地に添加することもできる。これらの培養を開始して5〜7日以内に、組織の断片のすぐ近くに血餅中でニューロンが成長しているのが観察された。組織(皮膚または脂肪)断片を元の血漿血餅から除去して、新しい血漿血餅に播種するのに使用することができた。脂肪組織から再生したニューロンは、皮膚から再生したニューロンと形態が異なっていた。皮膚から生成したニューロンは小さい樹状細胞であったが、脂肪から生成したニューロンは大きな樹状突起の少ない(oligodendritic)細胞であった。
【0091】
血漿血餅中に播種した後、ヒトとラットの骨髄由来の(また、従来、前脂肪細胞と称された)UMCは、血漿血餅中でニューロンを生じさせた。これらのUMC/前脂肪細胞は同時継続の米国特許出願第10/330,584号に述べられており、その開示内容は参照によってすべて本明細書に組み込まれる。皮膚と脂肪の断片からニューロンを成長させる能力の観点から(前記参照)、血漿血餅の表面に置かれた骨髄細胞または骨髄断片からニューロンを成長させることは、皮膚と脂肪の断片で行ったのと同様に可能であるようである。
【0092】
一旦、ニューロンを前述した血漿血餅の方法によって製造した場合、ニューロンを血餅から単離して、標準的な液体培養条件下で成長させることができる。
【0093】
本発明の多くの実施形態を述べたが、本発明の思想と範囲から逸脱するることなく様々な変更をなすことが可能であることは理解されよう。従って、他の実施形態は特許請求の範囲の範囲内にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続した以下の工程、
(a)未分化間葉細胞(UMC)の供給源を準備する工程、
(b)約6mM〜約18mM Ca2+を含む血漿血餅を準備する工程、
(c)該供給源から得られたUMCを血漿血餅中に取り込む工程、及び
(d)該血漿血餅をインキュベーションする工程、
を含むニューロンの製造方法であって、
該インキュベーション中、該血漿血餅中のUMCの亜集団がニューロンに分化することにより、該血漿血餅中でニューロンを含む細胞集団を作製する、前記方法。
【請求項2】
前記UMCの供給源が、哺乳動物の皮膚の断片である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記UMCの供給源が、哺乳動物の脂肪組織の断片である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記UMCの供給源が、UMCを含む非付着性派生細胞の集団であり、該非付着性派生細胞が、以下の工程、
(a)未分化間葉細胞(UMC)を含む組織の断片を準備して、出発細胞を得る工程、
(b)該出発細胞を該断片から分離する工程、
(c)該出発細胞を培養する工程、及び
(d)該培養物から非付着性派生細胞の集団を採取する工程、
を含む手順によって製造され、該非付着性派生細胞がUMCを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記手順が、工程(c)及び(d)の繰り返しを含む1または複数ラウンドの細胞の派生化を更に含み、ここで前のラウンドから採取された非付着性派生細胞集団を出発細胞として使用する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
1以上の追加の派生化ラウンドが、1〜20ラウンドからなる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記UMCを含む組織が、皮膚組織、脂肪組織、結合組織、筋膜、固有層及び骨髄からなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記非付着性細胞を酸性線維芽細胞成長因子の存在下で培養する工程を更に含む、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記細胞集団を血漿血餅から単離する工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記単離した細胞集団を無血清培養培地で培養する工程を更に含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記UMCの供給源が、細胞集団を投与する個体から得られたものである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法によって製造されたニューロン。
【請求項13】
ニューロンを含む細胞集団を含む組成物であって、該細胞集団が請求項1に記載の方法で製造されたものである、前記組成物。
【請求項14】
製薬上許容しうる担体を更に含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
無細胞性生分解性マトリックスを更に含み、細胞集団の細胞が該マトリックスの中または上に組み込まれている、請求項13に記載の組成物。
【請求項16】
無細胞性生分解性充填剤を更に含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項17】
前記組成物が、培養培地血清由来のタンパク質を実質的に含まない、請求項13に記載の組成物。
【請求項18】
哺乳動物被験者の損傷したまたは欠陥のある神経組織を修復する方法であって、請求項13に記載の組成物を神経組織に注入する、移植する、または植え込む工程を含む、前記方法。
【請求項19】
前記神経組織が、中枢神経系(CNS)組織である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記CNS組織が脊髄組織である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記CNS組織が脳組織である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記神経組織が末梢神経系(PNS)組織である、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記哺乳動物被験者がヒト患者である、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
前記哺乳動物被験者が脊髄を損傷している、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
前記哺乳動物被験者が、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、テイ・サックス病、筋萎縮性側索硬化症、脳卒中、顔面神経変性、手の末梢傷害、神経線維腫症、線維筋痛症、脊髄空洞症、神経系の自己免疫疾患、及び神経組織腫瘍からなる群から選択された疾患または障害を有している、請求項18に記載の方法。
【請求項26】
前記組成物の細胞集団が自己由来のものである、請求項20に記載の方法。

【公表番号】特表2007−500520(P2007−500520A)
【公表日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−533710(P2006−533710)
【出願日】平成16年6月11日(2004.6.11)
【国際出願番号】PCT/US2004/018554
【国際公開番号】WO2005/001054
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(505458463)イソラゲン テクノロジーズ,インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】