説明

ニンニクの加工法および加工装置

【課題】 生ニンニクを自己発酵させてなる発酵黒ニンニクは、発酵を促進、完結させるために300〜400時間もの長期に渡って50℃〜90℃に加温する必要があり、加温のためのエネルギーコストの削減が求められている。
【解決手段】 本発明は、温泉熱を熱エネルギー源として使用することで、発酵黒ニンニクの製造コストを大幅に削減することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生ニンニクを腐敗菌が増殖しにくく酵素の活動が活性化する概略50℃〜90℃の温度領域で長時間かけて自己発酵させ、無臭で、糖度が高く、アミノ酸類が豊富な自己発酵黒ニンニクを製造する方法において、加温のための熱エネルギーを温泉熱から得て行うことで、製造時のエネルギーコストを削減する自己発酵黒ニンニクの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ニンニクは、料理のスパイスとして世界で広く使用されているほかに、精力増強、免疫賦活、抗菌などの作用があるとされている。しかし、生ニンニクは、食後の吐く息に不快な臭気を伴うために、健康にいい食材にもかかわらず食用をためらう傾向があった。
【0003】
そのため、発酵や蒸し焼きすることで無臭化する方法が幾つか提案されている。例えば熟成室内に通風可能なスノコ形状の棚を載置し、温度を60℃〜90℃に保ちながら、自己発酵を利用し無臭化する方法(特許文献1参照)、遠赤外加熱式蒸し焼き器を利用して30℃〜75℃の温度を保持して蒸焼きにする方法(特許文献2)、生ニンニクを酵素に漬け込んだ後に、遠赤外線で30℃〜70℃の温度で蒸焼きにする方法などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4003217号
【特許文献2】特許第4179613号
【特許文献3】特許第4033296号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自己発酵黒ニンニクの市場価格は500円/個と高額で、健康増進に効果があるにも関わらず市場の拡大が図れていないのが実情である。
自己発酵にともなう製造時の熱エネルギーコストは、製造原価の約50%前後を占めると試算され、無臭で、糖度が高く、アミノ酸類が豊富で、健康増進に役立つ自己発酵黒ニンニクの普及に欠かせない市場価格の低減には、製造時の熱エネルギーコストの削減が喫緊の課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、ニンニクの自己発酵を利用し、無臭で、糖度が高く、アミノ酸類が豊富な加工食品を製造するにおいて、自己発酵の過程で必要とされる加温の熱源を化石燃料などに頼らずに温泉熱という自然エネルギーを用いることで、製造コストを低減し、販売価格を下げ、消費の拡大を図ることが可能になる。
長崎県にある雲仙小浜温泉の原水は湧出温度が105℃で、そして湧出量の1/3は使われずにそのまま海に捨てられていると言われている。
その温泉水を有効活用して地域の活性化につなげようと様々な試みが行われている。バイナリー発電や、化石燃料を使わず温泉熱と天日だけで仕上げた天然塩なども、そのひとつである。
本発明は、湧出温度が105℃といわれる雲仙小浜温泉の温泉水をそのままニンニクの自己発酵時の加温に用いることで、自己発酵ニンニクの製造過程で必要とされる熱エネルギーをほぼゼロにする。
また、温度がニンニクの自己発酵に適した温度に達しない温泉水の場合は、適宜化石燃料等を使用して追いだきしても、エネルギーコストの節減は図れる。
【発明の効果】
【0007】
自己発酵ニンニクの簡易な製造として、電気炊飯器を保温の状態にし、20日〜30日間保持する方法がある。3合炊きのIH炊飯器の保温時の電気代は、0.52円/時間で試算され、25日600時間使用したとすると312円となる。3合炊きの炊飯器に入るニンニクの個数が10個程度とすると、熱エネルギーコストは31.2円/個にもなる。
通風可能なスノコ形状の棚を載置した熟成室での自己発酵は、炊飯器の保温の条件に比べてエネルギー効率は30%〜50%程度と推測され、60円/個〜90円/個の熱エネルギーコストが発生していると試算される。
売値500円/個の黒ニンニクの製造原価は200円前後と試算されるが、本発明によれば、その半分近くを占めるエネルギーコストを、例えば原泉の温度が概略100℃の雲仙小浜温泉の温泉水を利用することで、ほぼゼロにすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】 回転自在なる熟成室を備えたニンニクの加工装置
【図2】 温泉プールの蒸気を底面から導入するニンニクの加工装置
【図3】 温泉プールの蒸気と外気を底面以外から導入するニンニクの加工装置
【発明を実施するための形態】
【009】
本発明は、図1の温泉プール2の水面に接して熟成室1を設け、温水プール2からの熱を直接利用しても良いし、図2のように温泉熱を別の室に移動し、囲い込み、室全体を熟成室1として使用しても良い。水面に接して熟成室を設ける場合は、回転可能な構造とし、かつ、通風、加湿、消臭機能が付属していることが好ましい。温泉熱にて加温された別室を熟成室とする場合でも回転可能な熟成容器が好ましいが、棚式にして収納し、均一な通風、加湿ができる構造であれば良い。
【実施例】
【0010】
図1は、温泉プール2に接して熟成室1を設けた例を示す。回転自在なる熟成室1に、複数個のニンニク6を適度な間隔で詰め込み、ニンニク6が回転に応じて熟成室1内を自由に移動可能にしてある。熟成室1の内部には、ネット等により区切られた複数の室を設けても良い。
回転軸3および5はパイプ状になっていて、外部に設置したモーター等から回転力を得るとともに、空洞を通して通風と加湿を行う機能を持ち、熟成室1の内部の通風と加湿が適宜行えるようになっている。
通風4は、外部に設置したブロワー或いはファンにより強制的に行う。また、回転軸の出口側には吸着剤等を担持した消臭フィルターを設けて、自己発酵時に熟成室1内に発生する悪臭成分を除去して、排気7を外部に放出するようにしても良い。
熟成室1の一部は、回転時に温水プール2の水面下に潜ることが好ましいが、必ずしもそうでなくとも良い。熟成室1の全体を温水プール2ごと別の構造体で覆うことで、熱効率を上げることも可能である。
本発明の特徴は、自己発酵を促す加温の熱エネルギーを、温泉水を貯めた温水プール2から得ることにあるが、回転自在な熟成室1に生ニンニク6を詰め、生ニンニク6の自己発酵が終えるまでに変形を受けないような条件で、熟成室6を回転させる。回転は、ニンニク個体ごとの温度、湿度、通風条件を均一化するためのものである。
【0011】
図2は、熟成室1内に通風可能なスノコ形状の棚9を載置した構造を示す。熟成室1の底面は温水プール2の水面に潜り込み、温水からの湯気9を取り込み、加湿にも寄与するようになっている。加湿は付帯設備を用いて別途湿度調整を可能にしても良い。
ファン10が外気ならび温水プール2から発生する湯気9を熟成室1内に強制的に送り込み乾燥を防止するとともに、自己発酵中に生じる悪臭成分を、通風出口に設置した吸着剤等を担持した消臭フィルター等で除去することも可能である。熟成室1の底面は、図3に示すように、温水プール8の水面上から分離した構造でも可である。
温水プール2の温度は最高90℃ぐらいまで必要とするので、原泉の温度が低い場合は化石燃料や電力で追い炊きしてもいいが、エネルギーコストの増加にともなう製造原価は高くなる。
【0012】
自己発酵を促す加温の温度条件は非常に重要である。例えば、我々が実施しようとする雲仙小浜温泉の源泉の温度は105℃と言われているので、化石燃料や電力を全く使わずに、温泉熱だけで効率の良い自己発酵に必要とされる最高温度90℃を実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0013】
ニンニクは、料理のスパイスとして世界で広く使用されているほかに、精力増強、免疫賦活、抗菌などの作用があるとされている。しかし、生ニンニクは、食後に吐く息に不快な臭気を伴うために、健康にいい食材にもかかわらず食用をためらう傾向があった。
本発明は、ニンニクの自己発酵を利用し、無臭で、糖度が高く、アミノ酸類が豊富な加工食品を、シンプルな構造の装置で、自己発酵の過程で必要とされる加温の熱源を化石燃料などに頼らずに温泉熱という自然エネルギーを用いる地球環境に優しい工業的製造方法を実現するもので、従来の方法に比較して30%〜50%の生産コストの低減が可能となる。また、消費者に対してはニンニク由来の安価な健康食品を提供することが可能で、国民の健康増進にも寄与することは確実である。
【符号の説明】
【0014】
1 熟成室
2 温水プール
3 回転軸(通風入口側)
4 通風(加湿をともなう)
5 回転軸(通風出口側)
6 ニンニク(熟成室内)
7 排気
8 温水から湯気
9 スノコ状の棚
10 ファン
11 通風入口
12 通風出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニンニクの自己発酵過程で必要とする加温手段として温泉熱を利用したことを特徴とするニンニクの加工法
【請求項2】
温泉熱は、地熱に限らず重油などの化石燃料、間伐材などの燃焼による補助加熱手段を用いてニンニクの自己発酵を促進する温度まで加温してなる温泉水から得られる熱エネルギーであることを特徴とする請求項1のニンニクの加工法
【請求項3】
温泉熱の利用形態が、密閉された熟成室を温泉水に浸すか、温泉水で加温された空間に熟成室を設けてなることを特徴とするニンニクの加工法
【請求項4】
請求項3の密閉された熟成室は円筒状若しくは球形で、それが回転或いは歳差運動を行い、かつパイプ状の回転軸の空洞に外気を導入することで、熟成室内中に詰め込まれたニンニクが熟成室内を適度に移動し、熟成室内に発生する臭気などの揮発成分の撹拌と排気を行い、かつニンニク各個体に対して均一な温度、湿度条件を維持することを特徴とするニンニクの加工法と製造装置
【請求項5】
請求項3の密閉された熟成室内部にはニンニクを載置した複数のスノコ状の棚が設置され、ファン等により強制的に通風と排気を行うことで、熟成室内に発生する臭気などの揮発成分の撹拌と排気を行い、かつニンニク各個体に対して均一な温度、湿度条件を維持することを特徴とするニンニクの加工法と製造装置
【請求項5】
請求項3の熟成室もしくは熟成室の外部に、加湿手段と外気導入手段と、自己発酵の過程で発生する臭気などの揮発成分を吸着除去する手段を備えていることを特徴とするニンニクの加工法および加工装置

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−70689(P2013−70689A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226245(P2011−226245)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(399089541)長崎米穀株式会社 (1)
【Fターム(参考)】