説明

ニードルパンチ機

【課題】毛糸やテープ等からなるモチーフ材によって文字や模様を簡単に形成することができるようにしたニードルパンチ機を提供することである。
【解決手段】針棒6の下端部に複数のパンチ針15を保持する針留11を取付け、針棒6の背部に設けられた押え棒17の下端部にセパレータ20を取付ける。セパレータ20にパンチ針15が挿入可能な針孔22を設ける。針棒6に軸方向に延びる案内孔10を形成し、セパレータ20には針棒6と同軸上にガイド孔21を設ける。案内孔10の上部から挿通されて針棒6の下方に引き出された毛糸aを複数のパンチ針15の略中央からセパレータ20のガイド孔21内に挿通して針板23上に載置された基材A上に重ね合わせ、その毛糸aをパンチ針15の刺通により基材Aに固定して、基材Aの送り方向に毛糸aが引き出されるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、布地から成る基材にフェルトや毛糸等の繊維質体からなるモチーフ材を定着させるニードルパンチ機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータの駆動によって昇降動される針棒の下端に針留を取付け、その針留に植設された複数のパンチ針を針板上に載置された布からなる基材と、その上に載置されたフェルト等の繊維質体からなるモチーフ材に刺通し、各パンチ針に形成されたバーブ(とげ)にかかるモチーフ材の繊維を基材に絡ませてモチーフ材の固定化を図るようにしたニードルパンチ機は従来から知られている。
【0003】
ここで、モチーフ材とは、フェルトシートの裁断によって形成された動、植物等を象る各種の模様体、あるいは、文字や絵模様を形成するウールの毛糸や繊維から成るテープをいう。
【0004】
上記模様体においては、針棒の1回の昇降動によってパンチ針が刺通されると基材に定着されて基材との間で相対移動するのが防止され、基材の送りと共に模様体も一体となって移動するため、容易に定着することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来から知られているニードルパンチ機を用いて、例えば、基材上に毛糸を定着させて文字や曲線状の模様を形成する場合、基材上に載置された毛糸で模様を形成しつつその毛糸がパンチ針の下方を通過するよう基材の向きを変えて送り込む必要があるため、極めて煩わしい操作となり、文字や曲線状の模様の形成に熟練を必要とする問題があった。また、テープによる文字や模様の形成も同様の問題があった。
【0006】
この発明の課題は、毛糸やテープ等からなるモチーフ材によって文字や模様を簡単に形成することができるようにしたニードルパンチ機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、この発明においては、針棒の下端部に複数のパンチ針の上部を支持する針留を取付け、針棒の背部に設けられた押え棒の下端部にはその下方の針板上に載置される基材の浮き上がりを防止するセパレータを取付け、そのセパレータに前記パンチ針が挿入可能な針孔を設け、前記針棒の昇降動によりパンチ針を上下動させて針板上に載置された布からなる基材と、その上に載置された繊維質体からなるモチーフ材の重なり部に刺通し、各パンチ針のバーブにかかるモチーフ材の繊維を基材の内部から背面側に押し込み、基材に対する繊維の絡みによって基材にモチーフ材を固定するニードルパンチ機において、前記針棒に軸方向に延びて上下端が開口し、その上端開口から挿通される糸条のモチーフ材を針棒の下端から複数のパンチ針の略中央に引き出し可能な案内孔を形成し、前記セパレータには針棒と同軸上に前記モチーフ材が挿通されるガイド孔を形成した構成を採用したのである。
【0008】
ここで、糸条のモチーフ材とは、毛糸や細幅の繊維からなるテープをいう。
【0009】
この発明に係るニードルパンチ機において、針留として、針棒にねじ止めされる円形のニードルホルダを有し、そのニードルホルダに上下に貫通する中心孔を形成し、その中心孔の周りにニードルホルダの下面で開口する複数の針挿入孔を上記中心孔を中心とする2つの仮想円上に等間隔に形成すると共に、2つの仮想円上に形成された針挿入孔を周方向に半ピッチ位置をずらし、ニードルホルダの外周には小径側仮想円上に形成された針挿入孔に連通するねじ孔と大径側仮想円上に形成された針挿入孔に連通するねじ孔を軸方向に間隔をおいて形成し、各ねじ孔にねじ係合された止めねじの締付けによってそれぞれの針挿入孔に挿入されたパンチ針の上部を固定した構成からなるものを採用することにより、パンチ針の植設密度の高い小型コンパクトな慣性力の小さな針留でもってモチーフ材を基材に確実に定着させることができる。
【0010】
また、針棒と同軸上に、前記モチーフ材が挿通されて、そのモチーフ材を昇降動するパンチ針に対して非接触状態に保持するガイドパイプを設けると、パンチ針のバーブがセパレータと針留間で毛糸等のモチーフ材の毛羽立ちを引っ掛けて、セパレータの針孔を通して模様に絡ませるという不都合の発生を防止することができる。
【発明の効果】
【0011】
上記のように、針棒に軸方向に延びる案内孔を形成し、セパレータには上記針棒と同軸上にガイド孔を設けたことにより、針棒の上方から案内孔に糸条のモチーフ材を挿通し、複数のパンチ針の略中央に引き出されたそのモチーフ材をセパレータのガイド孔に挿通して針板上に引き出し、その針板上に置かれた基材の上に載置して、針棒の昇降動によるパンチ針の刺通により基材にモチーフ材を一旦固定すると、以後、基材の送り方向にモチーフ材が引き出されて基材と重なる部分がパンチ針の刺通により順次連続して固定されることになる。このため、基材の送り方向を変更することによって糸条のモチーフ材で各種の模様を簡単に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1に示すように、ニードルパンチ機はベッド1およびアーム2を有し、そのアーム2のヘッド部3内には上下方向に長く延びるガイド部材4が設けられている。
【0013】
ガイド部材4の上下端部はアーム2に固定され、そのガイド部材4に一対の支持片5が上下に間隔をおいて設けられ、各支持片5によって針棒6が昇降自在に支持されている。
【0014】
アーム2内には上軸7が回転自在に設けられている。上軸7は図示省略したモータによって駆動され、その上軸7の回転はクランク8およびクランクロッド9を介して針棒6の昇降動に変換される。このため、上軸7が回転すると針棒6が上下動するようになっている。
【0015】
図2および図3に示すように、針棒6には軸方向に延びる案内孔10が形成され、その案内孔10は針棒6の上面および下面で開口している。また、針棒6の下端部には針留11が取付けられている。
【0016】
図3および図4に示すように、針留11は、ニードルホルダ12を有し、そのニードルホルダ12に下部が小径の段付きの中心孔12aを形成し、その中心孔12aの周りにニードルホルダ12の下面で開口する複数の針挿入孔12bを上記中心孔12aを中心とする2つの仮想円上に等間隔に設けると共に、2つの仮想円上に形成された針挿入孔12bを周方向に半ピッチ位置をずらし、ニードルホルダ12の外周には小径側仮想円上に形成された針挿入孔12bに連通するねじ孔と大径側仮想円上に形成された針挿入孔12bに連通するねじ孔13を図2および図3に示すように、軸方向に間隔をおいて形成し、各ねじ孔13にねじ係合した止めねじ14の締付けによってそれぞれの針挿入孔12bに挿入されたパンチ針15の上部を固定している。
【0017】
上記の針留11は、針棒6の下端部にニードルホルダ12を嵌合し、そのニードルホルダ12の外周からねじ込まれる固定ねじ16の締付けによって針棒6の下端部に着脱自在に取付けられている。
【0018】
ここで、小径の仮想円上に配置されたパンチ針15と大径の仮想円上に配置されたパンチ針15の周方向の間隔は針棒6の案内孔10内に挿通されるモチーフ材としての毛糸aの外径より小さくなっている。また、パンチ針15はバーブ(とげ)を有するが図では省略している。
【0019】
図2に示すように、針棒6の背部には押え棒17が設けられている。押え棒17は昇降自在の支持とされ、ヘッド部3の下部に設けられた揺動可能なレバー18の上方向への揺動によって引き上げられ、上端部に嵌合したスプリング19によって下向きに付勢されている。
【0020】
図3に示すように、押え棒17の下端部にはセパレータ20が着脱自在に取付けられている。セパレータ20には上下に貫通するガイド孔21と、そのガイド孔21の周りにパンチ針15が挿入可能な針孔22が形成されている。また、ベッド1に設けられた針板23にもパンチ針15が挿入可能な針孔24が形成されている。
【0021】
ここで、セパレータ20は、針板23上に載置された基材Aを刺通するパンチ針15の上昇時に、そのパンチ針15と共に基材Aが引き上げられるのを防止する。
【0022】
また、押え棒17は、図2に示す摘み25の操作によって上下動される。その上下動によって、針板23上に載置される基材Aおよびその基材A上に重ね合わされた毛糸aの厚みに応じてセパレータ20が高さ調整されるようになっている。
【0023】
実施の形態で示すニードルパンチ機は上記の構造からなり、針板23上に載置された基材Aに毛糸aを固定する場合は、ヘッド部3の上部に設けられた糸調子器26に毛糸aを掛け、その毛糸aを針棒6に形成された案内孔10および針留11の中心孔12aに挿通し、針棒6の下方に引き出された毛糸aをセパレータ20に形成されたガイド孔21に挿通して基材A上に引き出し、上記基材Aの上面に重ね合わせた状態において、針棒6を昇降動させる。
【0024】
上記針棒6の昇降動によりパンチ針15が上下動し、そのパンチ針15の下降時、パンチ針15は毛糸aおよび基材Aに刺通する。その刺通によってパンチ針15のバーブにかかる毛糸aの繊維が基材Aの内部から背面側に押し込まれて基材Aに絡み、その絡みによって毛糸aは基材Aに固定される。
【0025】
ここで、毛糸aは円形に配置されたパンチ針15の中央を通ってセパレータ20のガイド孔21内に挿通される糸通し状態であるため、基材Aの送り方向を変換して、その変換方向に基材Aを送ると、毛糸aも基材Aの送り方向に引き出されて基材Aと重なる部分がパンチ針15の刺通によって順次固定されることになる。
【0026】
このため、基材Aの送り方向を変更することによって、毛糸aは基材A上で模様を形成しつつ基材Aに固定されることになり、任意の模様を極めて簡単に形成することができる。
【0027】
実施の形態では、複数のパンチ針15を径の異なる2つの仮想円上において等間隔に並ぶ円形の配置としたが、パンチ針15の配置はこれに限定されるものではなく、毛糸aの周りに複数配置されていればよい。実施の形態で示す針留11を採用することにより、パンチ針15の植設密度の高い小型コンパクトな慣性力の小さな針留11でもってモチーフ材aを基材Aに確実に定着させることができる。
【0028】
また、モチーフ材として毛糸aを使用したが、繊維からなるテープをモチーフ材として使用してもよい。
【0029】
図6は、この発明に係るニードルパンチ機の他の実施の形態を示す。この実施の形態では、針棒6と同軸上に、毛糸aが挿入されるガイドパイプ30を設け、そのガイドパイプ30によって毛糸aを昇降動するパンチ針15に対して非接触状態に保持するようにしている。
【0030】
ここで、ガイドパイプ30は、アーム2の天板を貫通してセパレータ20のガイド孔21内に下端部が配置される長さの長いものであってもよく、あるいは、図7に示すように、セパレータ20から上限位置で停止するパンチ針15のバーブの位置より少し高い位置に達する長さの短いものであってもよい。
【0031】
長さの長いガイドパイプ30を採用する場合は、図6に示すように、上記ガイドパイプ30の上端部外周に雄ねじ31を形成し、その雄ねじ31をアーム2の天板に設けられた固定ナット32にねじ係合し、締付けナット33の締付けによって固定する。
【0032】
一方、長さの短いガイドパイプ30の場合は、図7に示すように、セパレータ20のガイド孔21内に下端部を圧入し、あるいは、そのガイド孔21に下端部を挿入する状態でセパレータ20の外周からガイド孔21に向けてねじ込まれる止めねじの締付けで固定する。
【0033】
上記のように、針棒6と同軸上に設けたガイドパイプ30によって毛糸aを昇降動するパンチ針15に対して非接触状態に保持することにより、パンチ針15のバーブがセパレータ20と針留11間で毛糸aの毛羽立ちを引っ掛けて、セパレータ20の針孔22を通して模様に絡ませるという不都合の発生を防止することができる。
【0034】
ここで、図8に示すように、アーム2の天板にフランジ付きの支持筒34を固定し、その支持筒34内に挿入したガイドパイプ30を、支持筒34のフランジ34aの外周面から径方向にねじ込まれる止めねじ35の締付けにより固定することにより、ガイドパイプ30の取付け、取外しを簡単に行うことができる。
【0035】
また、図9に示すように、セパレータ20にねじ孔36を形成し、そのねじ孔36にガイドパイプ30の下端部外周に形成された雄ねじ37をねじ係合して、ガイドパイプ30の下端部外周に形成された鍔30aをセパレータ20の上面に押付けることにより、この場合も、ガイドパイプ30の取付け、取外しを簡単に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】この発明に係る針留を取付けたニードルパンチ機の実施の形態を示す断面図
【図2】図1の縦断側面図
【図3】図2の一部を拡大して示す断面図
【図4】図3のIV-IV線に沿った断面図
【図5】図3のV-V線に沿った断面図
【図6】この発明に係る針留を取付けたニードルパンチ機の他の実施の形態を示す断面図
【図7】図6に示すガイドパイプの他の例を示す断面図
【図8】ガイドパイプの取付けの他の例を示す断面図
【図9】ガイドパイプの取付けのさらに他の例を示す断面図
【符号の説明】
【0037】
A 基材
a 毛糸(モチーフ材)
6 針棒
10 案内孔
11 針留
12 ニードルホルダ
12a 中心孔
12b 針挿入孔
13 ねじ孔
14 止めねじ
15 パンチ針
17 押え棒
20 セパレータ
21 ガイド孔
23 針板
24 針孔
30 ガイドパイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
針棒の下端部に複数のパンチ針を有する針留を取付け、針棒の背部に設けられた押え棒の下端部にはその下方の針板上に載置される基材の浮き上がりを防止するセパレータを取付け、そのセパレータに前記パンチ針が挿入可能な針孔を設け、前記針棒の昇降動によりパンチ針を上下動させて針板上に載置された布からなる基材と、その上に載置された繊維質体からなるモチーフ材の重なり部に刺通し、各パンチ針のバーブにかかるモチーフ材の繊維を基材の内部から背面側に押し込み、基材に対する繊維の絡みによって基材にモチーフ材を固定するニードルパンチ機において、
前記針棒の中心軸上に、軸方向に延びて上下端が開口し、その上端開口から挿通される糸条のモチーフ材を針棒の下端から複数のパンチ針の略中央に引き出し可能な案内孔を形成し、前記セパレータには針棒と同軸上に前記モチーフ材が挿通されるガイド孔を形成したことを特徴とするニードルパンチ機。
【請求項2】
前記針留が、針棒にねじ止めされる円形のニードルホルダを有し、そのニードルホルダに上下に貫通する中心孔を形成し、その中心孔の周りにニードルホルダの下面で開口する複数の針挿入孔を上記中心孔を中心とする2つの仮想円上に等間隔に形成すると共に、2つの仮想円上に形成された針挿入孔を周方向に半ピッチ位置をずらし、ニードルホルダの外周には小径側仮想円上に形成された針挿入孔に連通するねじ孔と大径側仮想円上に形成された針挿入孔に連通するねじ孔を軸方向に間隔をおいて形成し、各ねじ孔にねじ係合された止めねじの締付けによってそれぞれの針挿入孔に挿入されたパンチ針の上部を固定した構成からなる請求項1に記載のニードルパンチ機。
【請求項3】
前記針棒と同軸上に、前記モチーフ材が挿通されて、そのモチーフ材を昇降動するパンチ針に対して非接触状態に保持するガイドパイプを設けた請求項1又は2に記載のニードルパンチ機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−280661(P2008−280661A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−281410(P2007−281410)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【出願人】(501332633)株式会社タナカアンドカンパニーリミテッド (6)
【Fターム(参考)】