ネコカリシウイルスに対する改良ワクチン
本発明は、ネコカリシウイルスの高病原性株を含めたネコカリシウイルスに対する免疫反応を提供するための改良法、並びに免疫原性及び/又はワクチンである組成物に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、現在米国特許第6534066号となっている2000年7月14日出願の米国特許出願第09/616781号の分割出願である2003年2月18日出願の米国特許出願第10/368861号の一部継続出願であり、これは、1999年7月16日出願の仏国特許出願第9909420号、2000年2月11日出願の仏国特許出願第0001759号、及び2000年3月30日出願の米国特許仮出願第60/193197号に基づく優先権を主張するものである。本出願は、2004年1月21日出願の米国特許仮出願第60/573849号に基づく優先権を主張する2005年1月19日出願の出願番号未定出願(整理番号574313−3258.1)のCIPでもある。
【0002】
以上の出願、特許、及び出版物、並びにそれらで引用又は参照された全文書「出願で引用された文書」と、本明細書で引用又は参照された全文書「本明細書で引用された文書」と、上記のいかなる出願、特許、及び出願で引用された文書の審査中も含めて、本明細書で引用された文書及び出願で引用された文書で参照又は引用された全文書とを、参照により本明細書に組み込む。
【0003】
この開示中、特に特許請求の範囲において、「含む(comprises)」、「含んだ(comprised)」、及び「含んでいる(comprising)」などの用語は、米国特許法でそれに属すると定められた意味を有することができ、例えば、それらの用語は、「包含する(includes)」、「包含した(included)」、及び「包含している(including)」などを意味し得ること、並びに「から本質的になっている(consisting essentially of)」及び「から本質的になる(consists essentially of)」などの用語は、米国特許法でそれに属すると定められた意味を有することができ、例えば、それらの用語は、明示的に記述されていない要素も容認するが、従来技術に存在する要素、又は本発明の基本的特徴若しくは新規な特徴に影響する要素は除外することが知られている。
【0004】
本発明は、診断、アッセイ、及びワクチンを含めた免疫学分野に関する。詳細には、本発明は、ネコカリシウイルス感染に対する免疫原性組成物及びワクチン、特に不活化ワクチン又はサブユニットワクチンを産生するための、高病原性株を含めた、ネコカリシウイルスの特定株の使用に関する。免疫原性組成物及びワクチンにおける、高病原性株を含めたこれらの特定の株の使用は、複数の株のネコカリシウイルスに対する防御を生み出す優れた免疫反応を提供する。これらの免疫原性組成物及びこれらのワクチンは、多価の(multivalent)免疫原性組成物及びワクチンを製造するために、他のネコ病原体をベースにして調製された免疫原性組成物又はワクチンと組み合わせることもできる。本発明はさらに、ネコカリシウイルスの株に感染しているかどうかを判定するための診断検査、並びにネコカリシウイルスタンパク質及び/又は抗原の存在又は不在を判定するためのアッセイにも関する。
【背景技術】
【0005】
ネコカリシウイルス(FCV)は、1957年に最初に記載された(Fastier,1957)。ネコカリシウイルス及びネコヘルペスウイルスは、ネコの上気道におけるウイルス病の2つの主要な原因である。FCVウイルスは多くの動物で疾患を引き起こすウイルスであり、FCV保持感染率は15〜25%程度、抗FCV血清陽性率は70〜100%である(Coutts, 1994; Ellis, 1981; Harbour, 1991; Reubel, 1992)。これらの呼吸器疾患には、初期の高熱症の後に、口蓋、舌、唇、及び/又は鼻における口腔内粘膜潰瘍形成、鼻炎、慢性口内炎、及び結膜炎が伴い、場合によっては拒食症及び無力症が伴う。FCVウイルスは、肺炎、腸炎、及び跛行症状群(lameness syndrome)としても知られている関節痛も引き起こすことがある。
【0006】
一般に、全ネコ集団の15〜25%からFCVを単離することができ(Harbour, 1991)、45〜60%のネコが上気道感染を有し(Harbour, 1991; Reubel, 1992)、50〜92%のネコが慢性口内炎を有する(Knowles, 1989; Harbour, 1991)。
【0007】
FCVウイルスの感染は水平感染のみであり、これまでのところ、妊娠中の母ネコからその子への垂直感染の症例は知られていない(Johnson, 1984)。そうではなく、FCVの感染は、感染した動物と健康な動物との間の接触によって、或いはくしゃみで生じる空気中の小滴への曝露を介して起こる(Wardiey,1976)。
【0008】
カリシウイルス科のネコカリシウイルスは、無エンベロープウイルスであり、ポリAを有し、サイズが約7.7キロベースである1本鎖のプラス鎖RNAゲノムを含む(Radford, 1997)。FCVのキャプシドは、66kDa(キロドルトン)の単一主要キャプシドタンパク質であるp66タンパク質からなる。カリシウイルスの分子生物学に関する概説は、Clarke and Lambdenに見出すことができる。
【0009】
多くのRNAウイルスと同様に、FCVウイルス集団には、大きな不均一性が存在する。1970年代初めに血清交差中和実験によって実証されて以来、抗原性の相違によってFCVをいくつかのウイルス株又は疑似種に分類することが可能となっている(Radford, 1997)。
【0010】
いくつかのFCV株が同定及び単離されており、中でも、株F9(アクセッション番号VR−782で(American Type Culture CollectionすなわちATCC)に寄託されている)、株2280(ATCC VR−2057)、株KCD(ATCC VR−651)、及び株CFI(ATCC VR−654)が挙げられる。
【0011】
FCVに対するワクチン接種は、1970年代の終わりに、弱毒化されたFCV株を用いて導入されたが、これらの弱毒化株は、主として、1958年に米国で単離された株F9(Billie, 1960)又はインビトロ若しくはインビボでの継代によってF9株から派生した株(「F9様」)であった。市販されているFCVワクチンの大部分がこれらの弱毒化ワクチンに含まれる。
【0012】
不活化ワクチンも市販されており、これらの不活化ワクチンのすべてがアジュバントを含有している。これらの不活化ワクチンは、主として株255及び2280を用いているが、これらは、米国で、それぞれ1970年に肺炎のネコから単離されたもの(Kahn and Gillepsie, 1970; Povey, 1980)、及び1983年に跛行(lameness)を有するネコから単離されたもの(Pedersen, 1983; Pedersen and Hawkins, 1995)である。
【0013】
ワクチンで使用するためのFCVの不活化は、ホルマリンの使用を含めた様々な方法で実現できる。例えば、Poveyは、子ネコで使用されるホルマリン不活化及びアジュバント添加されたFCV調製物について記述している(Povey, 1978)。
【0014】
米国特許第6534066号は、FCVワクチンを製造するための新規のFCV株の使用について記載している。上記ワクチンが不活化ワクチンである場合、その不活化は化学的手段(例えば、ホルマリン若しくはホルムアルデヒド、β−プロピオラクトン、エチレンイミン、又はバイナリーエチレンイミン)及び/又は熱処理で行う。上記ウイルスは、エチレンイミンによって不活化することが好ましい。上記ワクチンには、アジュバント添加することが好ましく、これには例えば、上記特許の実施例8に記載の水中油型乳剤を用いる。
【0015】
米国特許第6355246号は、弱毒化FCVワクチン及び不活化FCVワクチンの両方について記載しているが、上記不活化ワクチンはアジュバントを含んでいることが好ましい。この特許では、ホルムアルデヒド又はバイナリーエチレンイミン(BEI)の使用を介して不活化を行う。
【0016】
前述の通り、不活化ワクチンは通常、免疫反応を亢進させるため、並びにネコ集団中に現れる異種起源のFCV株に対してより良い防御を誘導するために、アジュバントを含有している。しかし、アジュバント含有ワクチンは、アジュバントを含まないものより、高い割合で拒絶反応を誘導し(Gobar, 2002)、それによって、注射部位におけるワクチン関連の線維肉腫の危険性を増大させる(Baker, 1998)。
【0017】
アジュバントを含まないFCVワクチンは通常、前述のF9株を通常含有する改変生ワクチンである。数人の著者は、FCV F9の残留病原性がワクチン接種後のカリシウイルス感染(病原性への復帰)の原因であると訴えている(Dawson, 1993)。FCVの改変生存株は、野外での新規抗原性変種の出現に関係づけられている(Radford, 1997)。したがって、改変生ワクチンの安全性は疑わしい。
【0018】
存在しているFCV抗原型は1種類のみであるが、FCV単離株相互における抗原性の相違が観察されており、野外での新規単離株が定期的に同定されている(Lauritzen, 1997)。
【0019】
したがって、経時的な連続抗原変異のため、F9、255、又は2280などの株を含めた1960〜70年代に単離されたワクチン株に対して産生された抗血清は、1990年代及び2000年代に一般的になっているカリシウイルス株のうち極めてわずかな単離株しか中和しない。例えば、上記の抗F9血清が中和する単離株は、1980〜89年の間における米国単離株の56%、及び1958〜79年の間における単離株の86%に比べ、1990〜1996年の間における米国単離株の43%、及び1990〜96年の間における英国単離株の10%のみである(Lauritzen, 1997)。したがって、古いFCV株から得られた弱毒化ワクチン及び不活化ワクチンはもはや、最近のFCV株に対する十分な防御を生み出さない。
【0020】
1970年代の終わり以来、FCVに対するワクチン接種が行われているのにもかかわらず、FCV関連疾患が臨床上の重大な問題であり続けている。そして、前述の通り、新規な高病原性株が最近、生じている。ワクチン接種にもかかわらずFCV感染及びFCV関連の疾患が持続していることは、いくつかのメカニズムによって説明されているが、それらのメカニズムには、ワクチン接種によって誘導された免疫圧力下でFCV集団が進化しているため、ワクチン株による広範な交差防御が不足していること(Geissler, 1997)、弱毒化ワクチンに由来するワクチン株が急性及び慢性のFCV感染に寄与している可能性があること(Dawson, 1993; Pedersen, 1995; Radford, 1997)、不活化ワクチン及び生ワクチンは両方とも、ネコを臨床上の疾患からは防御するが、感染からは防御しないこと(Pedersen, 1995)、及びFCVは、ワクチンに対してより抵抗性の変異体を生じることによって、進化し、免疫圧力から逃避できること(Knowles, 1990; Johnson, 1992)が含まれる。
【0021】
結果として、ネコの集団で現在同定されている単離株に対してより広範な交差中和を行う現在の疫学的状況により適応したワクチンで、現在のカリシウイルスワクチンを置換しなければならない。有望なワクチンは、より新規のFCV株をベースとした不活化ワクチン又は組換え体ワクチンであろう。最近、米国及び他の国で極めて重度なカリシウイルス感染の大流行が認められた。これらの高病原性かつ免疫優性な株の1つをワクチン候補として選択した。本明細書では、この株を伝統的なFCVワクチンの代替物として記述する。
【0022】
さらに、ネコにおいてFCVワクチン接種に起因するもうひとつの問題は、しばしばワクチン中のアジュバントの存在の結果として起こる注射部位での炎症の存在であり、これは、ワクチン接種後における線維肉腫の因子である可能性もある。したがって、ワクチンの局所忍容性は、戦略的に重要であり、かつ新規ワクチンを開発する際に考慮するべきものである。そのため、理想的なワクチンは、アジュバントを含まないものであり、かつ優れた局所忍容性を有するものでなければならない。
【0023】
したがって、本発明は、FCV集団を代表する最近の株を、ワクチンの局所忍容性が改善されている不活化ワクチン又は組換え体ワクチン(改変生ワクチンとは反対に)中で用いることによって(Pedersen, 1995)、伝統的なワクチンで明らかになったそれらの問題に取り組むものであり、上記ワクチン中で用いられているFCV株は、広範な交差防御を与えるものでなければならない。別法として、いくつかの株を包含させることが以前に提案されている(Baulch-Brown, 1997; Dawson, 1993; Knowles, 1990)。
【特許文献1】米国特許出願第10/368861号
【特許文献2】米国特許出願第09/616781号
【特許文献3】米国特許第6534066号
【特許文献4】仏国特許出願第9909420号
【特許文献5】仏国特許出願第0001759号
【特許文献6】米国特許仮出願第60/193197号
【特許文献7】米国特許仮出願第60/573849号
【特許文献8】米国特許第6355246号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明の目的は、ネコで抗体を誘導し、かつ広範な交差中和範囲を有する新規FCV株を検出することである。
【0025】
本発明の別の目的は、これらのFCV株に起因するネコカリシウイルス感染に対する免疫原性組成物及び/又はワクチンを製造することである。本発明のさらに別の目的には、前記免疫原性組成物及び/又はワクチンの投与を含む、免疫反応を提供する方法が含まれる。
【0026】
本発明のさらに別の目的は、ネコカリシウイルス感染及び他の少なくとも1種のネコ病原体に対する多価免疫原性組成物及び/又は多価ワクチンを製造すること、並びに、前記多価免疫原性組成物及び/又は多価ワクチンの投与を含む、免疫反応を提供する方法である。
【0027】
本発明のさらに別の目的は、前述した、ネコカリシウイルス感染に対する組成物及び/又はワクチン、並びに/或いは多価の免疫原性組成物及び/又はワクチンの製造であって、前記組成物及び/又はワクチンはアジュバントを含まない。例えば、本出願の目的の1つは、上記組成物及び/又はワクチンを調製する前に、FCVにホルムアルデヒド処理及び/又は不活化剤を用いた処理を施すことである。したがって、本発明の目的は、不活化剤によって不活化され、かつ直鎖アルキルC1−C5鎖の形をなすアルデヒド化合物で安定化されたFCVを含む、アジュバントを含まない不活化FCV免疫原性組成物又はワクチンを製造することであり、上記アルデヒド化合物は、上記鎖がC1である場合には1つのアルデヒド基を含み、上記鎖がC2−C5である場合には2つの末端アルデヒド基を含み、上記鎖がC2−C5鎖である場合、1つのアルデヒド基が、場合によってはセトン又はエポキシ基によって置換されていてもよく、上記免疫原性組成物又はワクチンは、凍結乾燥形態、又は獣医学的に許容される賦形剤若しくは媒体中の液体形態にある。
【0028】
本発明のさらに別の目的は、本発明に従った、アジュバントを含まない不活化及び安定化されたFCV免疫原性組成物又はワクチンの投与を含む、新生仔、子、オス、メス、及び妊娠中のメスを含めたネコ科の動物、好ましくはネコを、ネコカリシウイルス感染に対して免疫化する方法、或いは、本発明に従った不活化及び安定化されたFCV、及び別のネコ病原体に由来する少なくとも1種の免疫原、又は別のネコ病原体に由来する少なくとも1種の免疫原を発現する組換え体ベクターを含有し、アジュバントを含まない混合ワクチンの投与を含む、FCVを含めた少なくとも2種類のネコ疾患に対して免疫化する方法である。
【課題を解決するための手段】
【0029】
これら及び他の実施形態は、以下に示す発明を実施するための最良の形態に開示されるか、それから明らかであるか、或いはそれに包含される。
【0030】
以下に示す発明を実施するための最良の形態は、例示として提示されており、本発明を、記載される特定の実施形態に限定するものではなく、また、添付されている図面と併せて理解することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
一態様では、本発明は、その組成物を接種した宿主動物で抗原性又は免疫学的反応を誘導するための抗原性組成物、免疫学的組成物、若しくはワクチン組成物、又は治療組成物を提供し、上記抗原性又は免疫学的反応はFCV感染に対するものである。したがって、本発明は、FCVに対する改善された抗原性組成物、免疫学的組成物、若しくはワクチン組成物、又は治療組成物を提供する。本発明は、使用されるFCV株のタイプによって、また本発明は有利には不活化されたものであり、改変生ワクチンではないという事実によって、伝統的なFCVワクチンと異なっている。
【0032】
本明細書で使用される場合、「抗原」は、免疫系によって認識され、かつ免疫反応を誘導する物質である。この文脈においては使用される類似の用語が「免疫原」である。
【0033】
これも本明細書で使用される場合、「免疫原性組成物」という用語は、ネコに投与されたならば、ネコ病原体に対して引き起こされたと考えられる免疫反応を誘導できるいかなる調製物も包含する。「ワクチン」は、効果的な防御を誘導できる調製物を意味するものと理解される。
【0034】
本発明の一態様では、有利には不活化形態又はサブユニット形態にあり、獣医学的に許容される媒体又は賦形剤中にあるネコカリシウイルス株431、又はその等価物から調製され、抗原性組成物、免疫学的組成物、若しくはワクチン組成物、又は治療組成物を提供する。本発明の別の態様では、有利には不活化形態又はサブユニット形態にあり、獣医学的に許容される媒体又は賦形剤中にあるネコカリシウイルス株431及びG1、又はその等価物から調製された、抗原性組成物、免疫学的組成物、若しくはワクチン組成物、又は治療組成物を提供する。本発明のさらに別の態様では、有利には不活化形態又はサブユニット形態にあり、獣医学的に許容される媒体又は賦形剤中にあるネコカリシウイルス株100869、94580、33585−1、89391、若しくは88287のうちの1つ若しくは複数、又はその等価物から調製された、抗原性組成物、免疫学的組成物、若しくはワクチン組成物、又は治療組成物を提供する。本発明のさらに別の態様では、有利には不活化形態又はサブユニット形態にあり、獣医学的に許容される媒体又は賦形剤中にある、交差中和を引き起こす少なくとも1株のネコカリシウイルス株から調製された、不抗原性組成物、免疫学的組成物、若しくはワクチン組成物、又は治療組成物を提供する。
【0035】
上記FCV株は、最近、野外から単離されたものから選択されることが好ましい。好ましい株には、株431(アクセッション番号I−2166でCNCMに寄託されているもの;又はアクセッション番号I−2282でCNCMに寄託されているハイブリドーマによって分泌されたモノクローナル抗体44と反応するいかなる株も含む;米国特許第6534066号を参照)、G1(アクセッション番号I−2167でCNCMに寄託されているもの)(CNCM=「Collection Nationale de Cultures de Microorganismes」、仏国パリ所在Pasteur Institute)、米国株RMI6及びRMI9(これらは両方とも本発明者から入手可能である)、US100869(2004年4月22日に、アクセッション番号PTA5930でATCCに寄託)(ATCC=「American Type Culture Collection」、米国バージニア州マナッサス(Manassas)所在)、及び、より一般的に、出版物に記載された新規の高病原性株(Pedersen et al. Vet. Microbiol. 2000. 73. 281-300; Schorr-Evans et al. JFMS. 2003. 5. 217-226; Hurley et al. Vet. Clin. Small Anim. 2003. 33. 759-772)が含まれる。好ましい実施形態では、上記免疫原性組成物又はワクチンは、不活化及び安定化されたFCV431(又はモノクローナル抗体44と反応する任意の株)と、不活化及び安定されたFCV G1とを含む。別の好ましい実施形態では、上記免疫原性組成物又はワクチンは、不活化及び安定化されたFCV US100869を含む。
【0036】
一般的に、異種血清中和力価が1.2 log10 VN50以上である場合に、FCV株は別のFCV株を血清中和すると考えられる(Povey C. and Ingersoll J., Infection and Immunity, 1975, 877-885)。本明細書では、この値を陽性閾値として用いる。しかし、2 log10 VN50以下の同種血清中和力価有するFCV単離株で得られた交差血清中和結果は解釈不能である。
【0037】
FCV431株と比較したFCV株の等価性を確立する第2の方法は、FCV431株に特異的なモノクローナル抗体を使用し、候補FCV株を間接的免疫蛍光法(IIF)によって試験することである。したがって、本発明者は、431株に特異的であることが証明されたいくつかのモノクローナル抗体を産生するのに成功した。それらの1つがモノクローナル抗体44である。431に特異的なモノクローナル抗体、例えばモノクローナル抗体44を用いた免疫蛍光法で反応性があれば、等価性がある。このモノクローナル抗体及びそれに対応するハイブリドーマは、簡単な請求によって本発明者から入手可能であり、Poulet et al. Arch. Virol. 2000. 145. 1-19による論文でも開示されている。対応するハイブリドーマは、ブダペスト条約の条項に従って、CNCMにも、1999年8月11日にアクセッション番号I−2282で寄託された。しかし、当然ながら、当業者ならば何の問題もなく、従来の技法によってモノクローナル抗体を産生し、パネルと比較して431株に特異的な抗体を選択することができる。
【0038】
本明細書で431の等価物として特定されている株は、実施例4の参照パネルの18株のFCV単離株の間での交差血清中和試験中に同定されたものであるが、その際、驚いたことに、参照パネルの17株の異種単離株のうち14株を、単離株431の抗血清が中和することが判明した(同種血清中和力価は考慮されていない)。比較して、「歴史的」ワクチン株255及びF9の抗血清が中和するのは、18株のパネル単離株のうち2株のみである。
【0039】
したがって、本発明者は、予期せずに、FCV431株が、ほとんどのFCV株からネコ科動物、特にネコを防御するのに使用できる優勢株であることを見出した。本明細書に開示されているFCV株のパネルを利用して、当業者ならば、他の優勢FCV株を選択することが可能である。等価性によって、本発明は、FCV431株を介して、それに等価であり、広範な交差中和範囲をもつ抗体を有するFCV株も包含する。
【0040】
したがって、あるFCV株の抗血清が、参照パネルにある18株の異種単離株のうち少なくとも13株を血清中和する場合(すなわちFCV431も含まれる)、好ましくは参照パネルにある18株の異種単離株のうち少なくとも14株を血清中和する場合、さらにより好ましくは参照パネルにある18株の異種単離株のうち少なくとも15株を血清中和する場合に、等価性が存在している。
【0041】
さらに、本発明者らは、FCV100869及び他の高病原性株が、ほとんどのFCV株からネコ科動物、特にネコを防御するのに使用できる優勢株であることも見出した。
【0042】
本明細書で使用される場合、「高病原性」という用語は、当技術分野でそれに属すると考えられている定義を有するものと理解され、詳細には、高病原性株は、伝統的な株よりも著しく増強された病原性を示す。したがって、本明細書で使用される場合、例えば、株100869は、431及び255及びF9などの、より古い株より増強された病原性を有する。
【0043】
同様に、100869などのFCV株の等価物は、実施例10の参照パネルにある44株の異種単離株のうちの少なくとも41株、好ましくは44株の異種単離株のうちの少なくとも42株、又は44株の異種単離株のうちの少なくとも43株、又は参照パネルにある44株の異種単離株のうちの44株も血清中和する株を同定することによって決定できる。さらに、当業者ならば、本明細書に記載されているか、当業者に知られている他の技法を介して、過度の実験をしないでも、本明細書で同定されている株100869、94580、33585−1、89391、又は88287のうちの任意のものの等価物を同定することができる。
【0044】
したがって、本発明の別の実施形態は、本発明によるFCV431株又はその等価物の1つの抗原に加えて、他の少なくとも1株のFCV株、特に相補的な株、詳細には、G1、RMI6、及びRMI9、並びにこれらの等価物を含む群から選択された株の抗原を、獣医学的に許容される媒体又は賦形剤の中、そして場合によっては、それとアジュバントとの中に含む免疫原性組成物及びワクチンである。上記他のFCV株から得られた抗原は、不活化ウイルス又はサブユニットを含むことが好ましい。
【0045】
FCV G1、RMI6、及びRMI9株が選択された。これは、それらがFCV431株に相補的であったため、すなわち、431の抗血清と、これら3株のFCVのうち1株の抗血清との組合せによって参照パネルにある単離株の100%が血清中和されるため、すなわち、431抗血清が血清中和しないか、微弱に血清中和する(log10 VN50値が1.2未満)参照パネルのFCV単離株に関して、これら3株のFCV株が、2 log10 VN50以上の同種血清中和力価、及び1.2 log10 VN50以上の異種血清中和力価を有するためである。本発明は、FCV431株に関して、同じ相補性を有する等価なFCV株も包含する。これらの株、より詳細にはG1に特異的なモノクローナル抗体を産生し、選択することも可能であり、それによって、この他のベースに基づいて等価物を決定することが可能となる。
【0046】
本発明の別の態様は、多価の免疫原性組成物及びワクチンを製造するため、又は不活化ワクチン若しくはサブユニットワクチンを製造するための、詳細にはFCV431株及びG1株という2株の組合せである。
【0047】
驚いたことに、FCV G1及び431の2株の組合せは有利に相乗効果を引き起こす。FCV G1株及び431株の相補性に関する試験中に、G1単独、431単独、又は両方(G1+431)の組合せによって誘導された免疫反応を比較した。FCV G1株及び431株の2株の組合せで免疫化された動物の群は、臨床上の防御が他より良いという恩恵があった。実際、本発明の一実施形態は、本明細書に同定された株を含めた、FCVの高病原性株、詳細には100869株に対する免疫反応を誘導するための、組成物の調製物中における、FCV G1と組み合わせたFCV431の使用である。同様に、本発明の別の実施形態は、本明細書で同定されたもの、より詳細には100869株を含めた、FCVの高病原性株を含めたほとんどのFCV株からネコ科動物、特にネコを防御するのに使用できる、FCV G1又はその等価物と組み合わせてGCV341を含む免疫原性及びワクチン組成物である。
【0048】
本発明の別の実施形態は、少なくともその等価物を含めたFCV431株と、場合によっては他の少なくとも1株のFCV株、より詳細には本発明の意味する範囲内の相補的な株、より詳細にはG1、RMI6、及びRMI9から選択された株とを含む少なくとも1結合価の不活化ネコカリシウイルス、並びに別のネコ病原体用の少なくとも1結合価を獣医学的に許容される媒体又は賦形剤と、好ましくはアジュバント、より詳細には上述したもののうちの1つとの中に含む多価ワクチンである。サブユニットベースの多価ワクチンを製造することも、同様に可能である。
【0049】
前記ネコ病原体は、とりわけ、ネコ鼻気管支炎ウイルス若しくはネコヘルペスウイルス(FHV)、ネコ白血病ウイルス(FeLV)、ネコ汎白血球減少ウイルス、若しくはネコパルボウイルス(FPV)、ネコ伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、狂犬病ウイルス、及びクラミジア(例えばクラミジア・フェリス種(Chylamydophila felis))を含む群から選択されたものである。
【0050】
前記ワクチンは、
−FCV、FHV、FPV、FeLV、及びクラミジア
−FCV、FHV、FPV、及びFeLV
−FCV、FHV、FPV、及び狂犬病
−FCV、FHV、FPV、及びクラミジア
−FCV、FHV、FPV、クラミジア、及び狂犬病
−FCV、FHV、及びFPV
−FCV、FHV、及びクラミジア
−FCV及びFHV
のワクチン成分を併せたものが好ましい。
【0051】
これらの様々な組合せの好ましい実施形態では、弱毒化された生存微生物がFHV、FPV及びクラミジア用に使用され、FeLV遺伝子を発現する組換え体ベクターがFeLV用に使用される。上記組換え体ベクターは、env及びgag/pol FeLV遺伝子を発現するカナリア痘ウイルス(例えば米国特許第5753103号に記載のvCP97)でもよい。
【0052】
したがって、本発明の別の目的は、1種の安定化及び不活化されたFCVと、少なくとも1種の他のネコ病原体に対する免疫反応を宿主で誘導するための少なくとも1種のワクチン成分とを含む、アジュバントを含まない混合免疫原性組成物又はワクチンであり、前記成分は、別のネコ病原体由来の免疫原、又はこの免疫原を発現する組換え体ベクターであり得、上記アジュバントを含まない混合免疫原性組成物又はワクチンは、凍結乾燥形態、又は獣医学的に許容される媒体若しくは賦形剤中の液体形態にある。凍結乾燥された形態が好ましい。
【0053】
好ましい実施形態では、上記アジュバントを含まない混合免疫原性組成物又はワクチンは、生きている弱毒化微生物の形態、又はネコ病原体由来の少なくとも1種の免疫原を発現する組換え体ベクターの形態のワクチンの成分である。上記組換え体ベクターは、プラスミドでも、ウイルスベクターでもよく、例えば、上記ベクターは、ポックスウイルス、アデノウィルス、又はヘルペスウイルスである。この場合も、凍結乾燥された形態が好ましい。
【0054】
本発明の特徴に応じて、ウイルスからのキャプシドを抽出し、場合によっては抽出の前又は後に不活化することによって、免疫原性組成物又はサブユニットワクチンを製造することが可能である。したがって、これらの調製物及びワクチンは、場合によっては不活化されている、その等価物を含めた本発明によるウイルス株、より詳細には株431から産生されたキャプシドタンパク質であって、場合によっては別のFCV株、より詳細にはG1若しくはその等価物からも産生されたキャプシドタンパク質と、場合によっては細断片とを主として含有するそのような抽出産物を、その唯一の活性成分として、又はそれ以外の形態で含む。これらのサブユニットワクチン及び調製物は、アジュバント、例えば上述のもので補足されているものが有利である。不活化ワクチン又は調製物と、サブユニットワクチン又は調製物との全体を混合することも可能である。
【0055】
G1株をベースとした免疫原性組成物又はワクチン、より詳細には不活化されているか、抽出物のサブユニットであるものも本発明の対象である。
【0056】
FCVウイルスの培養及び増殖は、ネコ細胞、より詳細にはCrandell-Reeseネコ腎臓細胞、すなわちCRFK細胞(番号CCL−94でATCC(American Type Culture Collection)から入手可能)において、50%細胞培養感染量(CCID50)が1細胞あたり2〜0.01、好ましくは0.5 CCID50/細胞となる感染多重度(moi)で行うのが好ましい。
【0057】
収集及び清澄化の後、不活化免疫原性組成物又は不活化ワクチンを製造することになっているFCVウイルスを化学処理(例えば、ホルマリン若しくはホルムアルデヒド、β−プロピオラクトン、エチレンイミン、又はバイナリーエチレンイミン(BED))及び/又は熱処理によって不活化する。本発明によるウイルスは、使用する直前にブロモエチルアミン(BEA)から形成されたエチレンイミンの作用によって不活化することが好ましい。ウイルス粒子は、従来の濃縮法、より詳細には限外濾過によって濃縮することができ、その後、場合によっては、従来の精製手段、より詳細にはゲル濾過法又は選択的沈殿法、より詳細にはポリエチレングリコール(PEG)の存在下での選択的沈殿法によって精製する。先行の濃縮をせずに精製することもできる。
【0058】
免疫原性組成物又は不活化ワクチン若しくはサブユニットワクチンを製造するためには、場合によってはアジュバントで補足された獣医学的に許容される媒体又は賦形剤の中にウイルス粒子を取り込む。抗原の量は、詳細には、不活化前の力価が1用量あたり約105〜約1010 CCID50、好ましくは1用量あたり約108〜約109 CCID50となる量に等しい。そのような投与は、全身性免疫反応、すなわち体液性若しくは細胞生免疫反応を可能にする。
【0059】
本発明のFCV組成物は、製薬分野又は獣医学分野の当業者によく知られている標準的な技法に従って調製できる。そのような組成物は、特定の患者の年齢、性別、体重、種、及び状態、並びに投与経路などの因子を考慮して、医学分野又は獣医学分野の当業者によく知られている用量及び技法で投与することができる。上記組成物は単独で投与することもでき、或いは組成物、例えば、「他」の免疫学的組成物、又は弱毒化、不活化、若しくは遺伝子組換え型のワクチン若しくは治療組成物と共に同時投与又は逐次投与して、それによって本発明の多価組成物、若しくは「カクテル」組成物、若しくは混合組成物、又はそれらを用いた方法を提供することもできる。上記組成物は、FCV成分と、1つ又は複数の無関係のネコ病原体ワクチン(例えば、対象とする1つ又は複数のエピトープ、1つ又は複数の抗原及び/又はベクター、或いは組換え体ウイルスなどのウイルス)との組合せを含有するものでもよい。この場合も、投与の成分及び方法(逐次投与、同時投与)、並びに用量は、年齢、性別、体重、種、及び投与経路などの因子を考慮して決定することができる。
【0060】
本発明の組成物の例には、懸濁液など、粘膜投与用、例えば経口投与用、鼻腔投与用、眼投与用などの液体調製物、並びに、無菌懸濁液又は乳剤など、非経口投与用、皮下投与用、皮内投与用、筋肉内投与(例えば注射投与)用の調製物が含まれる。そのような組成物中では、FCVを、滅菌水、生理食塩水、又は同様のものなど、適当な担体、希釈剤、又は賦形剤と混合することができる。上記組成物は、凍結乾燥することもできる。上記組成物は、投与経路及び所望の調製物に応じて、湿潤剤又は乳化剤、pH緩衝剤、アジュバント、保存剤、及び同様のものなど、補助物質を含有し得る。
【0061】
本発明の免疫原性組成物及びワクチンをアジュバントで補足するために、(1)水酸化アルミニウム、又は(2)アクリル酸若しくはメタクリル酸の重合体、無水マレイン酸の重合体、及びアルケニル誘導体の重合体をアジュバントとして用いること、或いは(3)免疫原性組成物又はワクチンを水中油型乳剤の形態、より詳細には、p 147 "Vaccine Design, The Subunit and Adjuvant Approach" edited by M. Powell, M. Newman, Plenum Press 1995に記載の乳剤SPTM、及び同書p183に記載の乳剤MF59の形態に処方することができる。
【0062】
上記水中油型乳剤は、詳細には、軽質流動パラフィン油(欧州薬局方型);スクアラン、スクワレンなどのイソプレノイド油;アルケン、詳細にはイソブテン又はデセンのオリゴマー形成の結果に生じる油;直鎖アルキル基を含有する酸エステル又はアルコール、より詳細には、植物油、オレイン酸エチル、プロピレングリコールジ(カプリル酸/カプリン酸)、グリセリルトリ(カプリル酸/カプリン酸)、プロピレングリコールジオレイン;分岐脂肪族アルコール又は酸エステル、詳細にはイソステアリン酸エステルをベースにしたものでよい。上記の油は、乳剤を形成させるために乳化剤と併用される。乳化剤は、非イオン性界面活性剤、より詳細にはソルビタン、マンナイド、グリセロール、ポリグリセリン、プロピレングリコールのエステル、及び場合によってはエトキシ化されている、オレイン酸、イソステアリン酸、リシノール酸、又はヒドロキシステアリン酸のエステル、及びポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレンブロック共重合体、詳細にはPluronic(登録商標)共重合体、特にL121であることが好ましい。
【0063】
好ましいアジュバント化合物は、架橋、特に糖又は多価アルコールのポリアルケニルエーテルの架橋を有するアクリル酸又はメタクリル酸の重合体である。これらの化合物は、カルボマーという用語で知られている(Phameuropa Vol. 8, No. 2, June 1996)。当業者ならば、米国特許第2909462号(参照により本明細書に組み込まれている)を参照することができる。この開示は、少なくとも3つ、好ましくは8つ以上のヒドロキシ基を有し、上記少なくとも3つのヒドロキシ基の水素原子が、少なくとも2個の炭素原子を有する不飽和脂肪族基で置換されているポリヒドロキシル化化合物で架橋されたそのようなアクリル重合体について記載する。好ましい官能基は、2〜4個の炭素原子含有するもの、例えばビニル、アリル、及び他のエチレン不飽和基である。上記不飽和基は、それ自体で、メチルなどの他の置換基を含有してもよい。とりわけ、Carbopol(登録商標)(米国オハイオ所在BF Goodrich社製)という名で販売されている商品が適している。それらは、アリルスクロース又はアリルペンタエリスリトールで架橋されている。それらの中でも、Carbopol(登録商標)974P、934P、及び971Pを挙げることができる。
【0064】
無水マレイン酸及びアルケニル誘導体の共重合体の中でも、共重合体EMA(登録商標)(Monsanto社製)が好ましい。これは、無水マレイン酸及びエチレンの線状共重合体若しくは架橋共重合体、例えば、ジビニルエーテルで架橋された共重合体である。参照により本明細書に組み込まれている、J. Fields et al.を参照することができる。
【0065】
それらの構造の観点からは、上記アクリル酸又はメタクリル酸の重合体、及び共重合体EMA(登録商標)は、下記の化学式を基本単位にして形成されていることが好ましい。
【0066】
【化1】
【0067】
式中、
− R1及びR2は、同じ又は異なっており、H又はCH3を表し、
− x=0又は1、好ましくはx=1、
− y=1又は2、かつx+y=2である。
【0068】
共重合体EMA(登録商標)では、x=0、かつy=2である。カルボマーでは、x=y=1である。
【0069】
これらのポリマーを水に溶解させると、酸性溶液が生じ、これは、アジュバント溶液を得るために、好ましくは生理的pHに中和されるであろう。そして、このアジュバント溶液にワクチンそれ自体が組み込まれるであろう。中和によって、重合体のカルボキシル基は部分的にCOO−の形態になる。
【0070】
本発明によるアジュバントの溶液、特にカルボマーは、蒸留水中に、好ましくは塩化ナトリウムの存在下で調製することが好ましく、得られる溶液は酸性のpHとなる。望ましい量(所望の最終濃度を得るために)、又はそのかなりの部分であるNaCl含有水、好ましくは生理的食塩水(NaCl 9g/l)に、この保存液を、いくつかの部分ですべて同時に添加することによって、これを希釈し、それと同時に、若しくはそれに続いて、好ましくはNaOHで中和する(pH7.3〜7.4)。生理的なpHであるこの溶液は、ワクチンを混合するのにそのまま使用されるであろう。それを、とりわけ、凍結乾燥形態、液体形態、又は凍結形態で保存することができる。
【0071】
最終ワクチン組成物の重合体濃度は、0.01%〜2%w/v、より詳細には0.06〜1%w/v、好ましくは0.1〜0.6%w/vであろう。
【0072】
参照により本明細書に組み込まれている"REMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCE", 17th edition, 1985などの標準的教科書を参考にして、過度の実験をせずに、適した調製物を調製することができる。
【0073】
本発明では、様々な投与経路用の形態にある組成物が想定されている。この場合もまた、投与の有効量及び経路は、そのネコの年齢、性別、体重、状態、及び性質などの既知因子によって、そしてLD50、及び既知であり、かつ過度の実験を必要としない他のスクリーニング手順によって決定される。各活性物質の用量は、本明細書で引用された文書(又は本明細書で引用された文書で参照又は引用された文書)の通りでよく、かつ/又は、サブユニット免疫原性組成物、免疫学的組成物、若しくはワクチン組成物では、1若しくは数μg〜数百若しくは数千μg、例えば1μg〜1mgの範囲;そして、不活化免疫原性組成物、免疫学的組成物、若しくはワクチン組成物では、104〜1010 TCID50、有利には106〜108 TCID50の範囲であり得る。
【0074】
本発明による同じFCV株及び/又は本発明による異なったFCV株の不活化ウイルスと、サブユニットとを混合することも当然可能である。
【0075】
本発明によるFCVワクチンは、使用する直前にネコにおける他の結合価(複数でもよい)と混合でき、前記結合価は、弱毒化生ワクチン、不活化ワクチン、サブユニットワクチン、組換え体ワクチン、又はポリヌクレオチドワクチンの形態であり得る。
【0076】
しかし、適した免疫学的反応を引き出す組成物の用量及びその中の成分の濃度、並びに組成物を投与するタイミングは、血清の抗体力価測定などの方法によって、例えばELISA及び/又は血清中和アッセイ分析によって決定できる。そのような測定は、当業者の知識、この開示、及び本明細書に引用された文書に基づき、過度の実験を必要としない。また、逐次投与の回数も同様に、この開示及び当技術分野における知識から確定できる方法を用いて、過度の実験をせずに、確定することができる。
【0077】
一実施形態では、免疫化の方法は、本発明によるサブユニット又は不活化多価混合FCVワクチンをネコに投与するステップを含む。前記ワクチンの投与は、詳細には非経口経路によって、好ましくは皮下経路又は筋肉内経路によって実施できる。
【0078】
例えば、希釈剤で再構成された凍結乾燥成分を含むワクチンを用いて、FCVによる疾患を予防するために、週齢6週以上の健康なネコを免疫化することができる。1ml用量を筋肉内又は皮下に注射することができる。初回ワクチン接種には、例えば、初回投与の3〜4週間後に、追加免疫を与えることができる。当業者ならば、過度の実験をせずに適切な投与計画を決定できる。例えば、週齢12週未満のネコには、3〜4週間毎に再接種して、週齢12週以上のときに最終投与を与えることができる。初回ワクチン接種の後には、追加免疫を毎年与えることができる。
【0079】
したがって、本発明の別の実施形態は、免疫原性組成物又はワクチン組成物を少なくとも1回投与するステップを含む、FCVに対してネコ免疫化する方法である。別の実施形態では、免疫原性組成物又はワクチン組成物を少なくとも2又は3又は4回以上投与できる。
【0080】
当業者ならば、各ワクチン接種プロトコールに使用されるべき注射の回数及び各ワクチンの用量を正確に決定するのに必要な能力を有する。例えば、一実施形態では、投与容積が、詳細には0.2〜2mlであり得、好ましくは1ml程度である。
【0081】
別法では、経皮送達(皮内送達、皮下送達、及び場合によっては筋肉内送達)に、無針注射器を用いることができる。投与容積は0.1ml〜1mlの間でよい。
【0082】
適した用量は、下記の実施例に基づいたものであり得る。
【0083】
本発明の一実施形態では、上記免疫原性組成物又はワクチン組成物が不活化FCVを含む。したがって、本発明は、不活化剤に曝露され、かつ直鎖アルキルC1−C5鎖の形をなす安定化アルデヒド化合物に曝露されたFCVを含む、アジュバントを含まない不活化FCV免疫原性組成物又はワクチンに関し、上記アルデヒド化合物は、上記鎖がC1である場合には1つのアルデヒド基を含み、上記鎖がC2−C5である場合には2つの末端アルデヒド基を含み、上記鎖がC2−C5鎖である場合、アルデヒド基の1つが、場合によってはセトン又はエポキシ基によって置換されていてもよく、上記免疫原性組成物又はワクチンは、凍結乾燥形態、又は獣医学的に許容される賦形剤若しくは媒体中の液体形態にある。
【0084】
定義上、不活化剤は、そのウイルスの免疫原特性に実質的に影響を与えずに、主としてウイルス核酸との不可逆反応によって、ウイルスの増殖を阻止できる薬剤である。不活化剤の好ましい例は、エチレンイミン及びアミド誘導体(例えばアセチルエチレンイミン)、プロピレンイミン、β−プロピオラクトンである。好ましい実施形態では、不活化剤がエチレンイミンである。
【0085】
好ましい実施形態では、エチレンイミンの作用によって、FCVが不活化される。エチレンイミンの最終濃度は約0.5mM〜約20mであり、好ましくは約1mM〜約10mMである。温度は、約2℃〜約40℃であり、好ましくは約5℃〜約30℃であり得る。
【0086】
安定化アルデヒド化合物は、タンパク質のアミノ基(例えば、リシン、アルギニン、又はヒスチジンアミノ酸のアミノ基)及び水酸基(例えばチロシンアミノ酸の水酸基)に作用し、2つのタンパク質間及び/又はタンパク質内部の連結を形成し得る。安定化アルデヒド化合物は、ホルムアルデヒド(すなわちメタナール)、グリシドアルデヒド(すなわち2,3−エポキシ−1−プロパナール)、グルタルアルデヒド(すなわち1,5−ジアル−ペンタン)、グリオキサール(すなわち1,2−ジアル−エタン)、及びメチルグリオキサール(すなわちピルブアルデヒド)からなる群から選択されることが好ましい。好ましい実施形態では、安定化アルデヒド化合物がホルムアルデヒドである。
【0087】
不活化及び/又は安定化を終了した後に、当業者に知られている技法を用いて、例えばチオール基を含む中和化合物(例えば、チオ硫酸塩、システイン)を添加することによって、不活化剤及び/又は安定化アルデヒド化合物を中和することが可能である。
【0088】
当業者に知られている技法、例えば、サイズ排除クロマトグラフィー、ショ糖勾配上の超遠心分離、塩化セシウム勾配上の超遠心分離、又は選択的沈殿、例えばPEG(ポリエチレングリコール)沈殿を用いて、不活化剤及び/又は安定化アルデヒド化合物を除去することが可能である。
【0089】
安定化条件(温度、安定化アルデヒド化合物の濃度、及び処理時間)を調整するために、FCVビリオンの定量を行うことができる。ビリオンの定量化を可能にする任意の適切な技法、例えばFCVキャプシドタンパク質に特異的なモノクローン抗体又はポリクローナル抗体を用いたELISAを使用できる。ELISAによる定量化の前に、当業者に知られている技法、例えば、サイズ排除クロマトグラフィー、ショ糖勾配上の超遠心分離、塩化セシウム勾配上の超遠心分離、選択的な沈殿、例えばPEG(ポリエチレングリコール)沈殿を用いて、処理されたウイルス培養物からビリオンを単離する。
【0090】
ホルムアルデヒドを用いる場合:
−最終濃度は、約0.05g/l〜約0.8g/lであり得、好ましくは約0.075g/l〜約0.6g/l、より好ましくは約0.1g/l〜約0.5g/lである。
−温度は約2℃〜約37℃であり得、好ましくは約2℃〜約22℃、より好ましくは約4℃〜約7℃である。
【0091】
本発明の一実施形態では、上記免疫原性組成物又はワクチンは、凍結乾燥された安定化及び不活化FCVと、凍結乾燥された賦形剤、例えばアミノ酸、例えばグルタミン酸、糖質、例えばラクトース、及びこれらの混合物、例えばSPGA(ショ糖/リン酸/グルタミン酸/アルブミン;欧州特許第0496135号)とを含む。別の実施形態では、上記免疫原性組成物又はワクチンが液体であり、生理的溶液又は緩衝液中にFCVを含む。
【0092】
本発明の別の実施形態は、FCVを不活化剤、及び直鎖アルキルC1−C5鎖の形をなす安定化アルデヒド化合物と反応させることを含む、不活化及び安定化されたFCVを産生する方法であり、上記アルデヒド化合物は、上記鎖がC1である場合には1つのアルデヒド基を含み、上記鎖がC2−C5である場合には2つの末端アルデヒド基を含み、上記鎖がC2−C5鎖である場合、アルデヒド基の1つが、場合によってはセトン又はエポキシ基によって置換されていてもよい。不活化剤及び安定化アルデヒド化合物、並びにそれらの使用条件に関する好ましい実施形態は上述されている。
【0093】
本発明の方法は、FCVの培養、並びに不活化剤及び安定化アルデヒド化合物での処理を含む。安定化アルデヒド化合物の添加は、不活化ステップの前、実行中、又は後に行うことができる。不活化剤及び/又は安定化アルデヒド化合物の中和は上述の通りに実施できる。
【0094】
安定化及び不活化されたFCVビリオンは、従来の濃縮法によって、例えば限外濾過でによって濃縮することができ、その後、場合によっては従来の精製手段、例えば、サイズ排除クロマトグラフィー、ショ糖勾配上の超遠心分離、塩化セシウム勾配上の超遠心分離、又は例えばポリエチレングリコール(PEG)存在下での選択的沈殿によって精製する。不活化及び安定化されたFCVは約5℃で保存できる。
【0095】
本発明のさらに別の実施形態として、本明細書に記載のいかなる免疫原性組成物又はワクチン組成物も、不活化されたFCVを含むことができ、上記FCVは、本明細書に記載のいかなる方法を用いて不活化されたものでもよいことを理解されたい。
【0096】
本発明のさらに別の実施形態では、別々に包装された、本発明によるFCV結合価と、別のネコ病原体用の少なくとも1結合価とを、好ましくはアジュバントを含む獣医学的に許容される媒体又は賦形剤中に含む多価ワクチン接種キット若しくはボックスを提供する。上記FCV結合価は、別のネコにおける結合価、詳細には、凍結乾燥された形態で準備されている弱毒化、組換え体、又はポリヌクレオチド結合価の溶媒として働き得る。
[実施例]
【実施例1】
【0097】
(ウイルス単離株及びハイブリドーマ)
ネコカリシウイルス(FCV)は、ネコカリシウイルスへの感染の徴候を示しているネコにおける咽頭スワブによって得た。これらのFCVは、地理的に様々な出自を有する。
【0098】
FCV431、337、J5、388b、220、及び393株は、英国で単離され、University of Glasgow(英国)のProfessor O. Jarrettによって提供された。
【0099】
FCV A2、G1、G3、F3031、F1、H3−2、及びH1−4株は仏国で本発明者によって単離された。
【0100】
FCV RMI1、RMI2、RMI3、RMI5、RMI6、RMI7、及びFMI9株は米国で本発明者によって単離された。
【0101】
咽頭試料は、5%ウシ胎仔血清(Bayer Diagnostic社製)及び抗生物質、より詳細には50mg/lゲンタマイシンで補足されたダルベッコ修正イーグル最少培地(DMEM、Gibco BRL社製)2ml中に収集した。各単離株は、試験までの待ち時間の間、−70℃で冷凍される。431 2 0 17 E9 Tと特定されるハイブリドーマから得られたモノクローナル抗体44は、FCV431株に特異的である。
【実施例2】
【0102】
(ウイルス単離株の増殖)
ネコ腎臓細胞系(Crandell-Reeseネコ腎臓、すなわちCRFK、番号ATCC CCL−94、Crandell et al. In Vitro 1973.9. 176-185)を1mlあたり約100000の細胞を含有している、5%ウシ胎仔血清で補足されたDMEMを含有する96ウェルプレート又は25cm2Falcon(Falcon社製)中で培養した。上記細胞は、5%CO2を含有する加湿雰囲気中、37℃で培養した。3日後に、細胞層が集密状態になった。その後、50mg/lゲンタマイシンで補足された無血清DMEM培地で培地を置換し、解凍されたFCVウイルス単離株(実施例1)のアリコートを、FCVウイルスの限界希釈クローニングには1ウェルあたり容積100μlの4倍連続希釈という割合、或いはFalcon 1本あたり1mlという割合で添加する。
【0103】
細胞変性効果(ECP)が完全になったときに(培養開始後24〜48時間)、ウイルス懸濁液を採取して、−70℃で冷凍する。ウイルスバッチの産生には、通常、3〜4回の連続継代が必要である。ウイルスバッチは−70℃で保存される。
【実施例3】
【0104】
(血清の作製)
各FCVウイルスについて、106.0 CCID50の適切なFCVウイルスを口腔鼻経路で子ネコに接種することによって、抗血清を産生させた。特定病原体不在(SPF)子ネコは、週齢10〜14週であった。感染の1カ月後に各動物の血清を収集した。上記血清を熱不活化(56℃で30分間)し、分配及び分注して、−20℃で保存した。
【実施例4】
【0105】
(インビトロ交差血清中和)
ネコカリシウイルス感染の徴候を示すネコで行った咽頭スワブによって得られた18株の野外単離株の間で交差血清中和試験を行った。それらのうち7株は仏国を地理的な出自としており、それらは、単離株A2、F3031、G1、G3、F1、H3−2、及びH1−4と同定されている。4株は英国を地理的な出自としており、それらは単離株J5、337、388b、及び431と同定されている。最後に、7株は米国を地理的な出自としており、それらは単離株RMI1、RMI2、RMI3、RMI5、RMI6、RMI7、及びRMI9と同定されている。
【0106】
各単離株に関して得られた血清(実施例3)を、それらが上記18株の単離株を中和する能力について試験した。96ウェル細胞培養プレート中で、DMEM培地を用いて、上記血清を3倍に連続希釈した。約100 CCID50の選択されたウイルス株を含有する0.05mlの培地を、実施例2にある通りに産生された0.05mlの希薄血清に添加した。この混合物を、5%CO2を含有する雰囲気下にあるインキュベーター内で、37℃、2時間、インキュベートした。
【0107】
その後、各混合物に、1mlあたり約100000の細胞を含有するCRFK細胞懸濁液0.15mlを添加した。5%CO2を含有する雰囲気中、37℃で、4日間培養した後、位相差顕微鏡法によって細胞変性効果を観察した。各血清の中和力価は、Karber法に従って計算した。力価は、そのウェルの50%で細胞変性効果を阻害する最も高い希釈率という形態で得られる。力価はlog10で表す。したがって、得られた最小の力価は、0.7 log10 VN50であった。各血清は、少なくとも2回、好ましくは3回力価決定した。
【0108】
図1は、これらの18株のFCV株と、これらの18種類の血清との間で行われた交差血清中和で得られた全中和力価を示す。
【実施例5】
【0109】
(間接的免疫蛍光(IIF)試験)
試験するFCVウイルスに感染している単層培養中で培養されたCRFK細胞を含有する96ウェルプレート上でIIF試験を行った。
【0110】
5%ウシ胎仔血清を含有するF15培地(Gibco BRL社製、Cat #045-1075)中に90000細胞/mlを含有する、1ウェルあたり200μlのCRFK細胞懸濁液を96ウェルプレート中で培養する。集密状態になったときに、320 CCID50のFCVを100μlのF15培地に接種する。最初のCPE病巣が現れたときに、カルシウムもマグネシウムも含まない冷PBS(PBS、Sigma社製)で細胞をリンスし、5%v/vの水を含有する冷アセトンを用いて、−20℃で30分間固定する。乾燥させた後、感染され、固定された細胞を、ウェルあたり100μlの、抗FCV431モノクローナル抗体44に対応する腹水(ハイブリドーマ431 2 0 17 E9 T、50mM、約pH7.6のTRIS−HCl緩衝液中に約1/5000倍希釈)と、37℃で30分間接触させる。
【0111】
PBS中で2回リンスした後に、50mM、pH7.6のTRIS−HCl緩衝液中に1/150倍希釈したフルオレセインイソシアネート結合ヤギ抗マウスIgG抗体(Biosys社製、2mg/mlのFITC結合抗体)と、同じ条件下でインキュベーションすることによって抗体の結合を可視化する。測定は、UV光の下に光学顕微鏡で行った。
【0112】
このモノクローナル抗体を、上記パネルの単離株それぞれに関して試験した。それは、FCV431に感染したCRFK細胞のみに排他的に結合した。
【0113】
この試験は、FCV431株の等価物を判定するのに用使用できる。これらの等価物は、モノクローナル抗体44が結合するものである。
【0114】
モノクローナル44は、中和抗体であり、かつ立体配座抗体であること、及び中和が防御と相関していることが知られている。図2は、抗p66(FCV431)モノクローナル抗体の使用による、単離株のIFAプロフィールを示す。モノクローナル抗体44はFCV431に特異的である。
【実施例6】
【0115】
(相乗作用)
週齢約9週のワクチン非接種の32匹のSPF子ネコを無作為化により、子ネコ各8匹の4群に分け(A〜Dと特定される)、各群を分離した箱の中で飼育した。
【0116】
ウイルス懸濁液を解凍し(実施例2)、PBSで希釈した後、所望の力価を得るために、B群では103.3 CCID50/mlのFCV G1接種物1mlの皮下注射、C群では103.5 CCID50/mlのFCV431接種物1mlの皮下注射、D群では、103.3 CCID50/mlのFCV G1接種物0.5ml及び103.5 CCID50/mlのFCV431接種物0.5ml(異なった注射部位に)の皮下注射によってネコにワクチン接種する。A群は対照群とする。
【0117】
A〜Dの各群の半分を、2つの第1群及び2に無作為に配属し、別々の箱で飼育する。ワクチン接種後の31日目(d31)に動物を抗原曝露する。
【0118】
第1群の動物は、107.2 CCID50/mlの力価を有する抗原曝露ウイルス株FCV220 1mlを口腔鼻経路(0.5mlを経口経路によって、各鼻孔に0.25ml)で投与することによって抗原曝露する。
【0119】
第2群の動物は、105.8 CCID50/mlの力価を有する抗原曝露ウイルス株FCV393 1mlを口腔鼻経路(0.5mlを経口経路によって、各鼻孔に0.25ml)で投与することによって抗原曝露する。
【0120】
高病原性株FCV220及び393は、交差血清中和で、ウイルス株FCV G1及び431から疎遠であるので、これらの株を選択した。
【0121】
2つの箱の間におけるいかなる交差汚染も慎重に回避する。両群の動物の臨床モニタリングは、動物の直腸温測定及び臨床検査(一般的状態、舌及び口蓋における潰瘍の存在、歯肉炎の存在、鼻炎の存在、結膜炎の存在、跛行の存在、動物の死)によって行う。
【0122】
各動物の総臨床スコアは、下記も尺度に従って、各群の臨床徴候に関して得られたスコアを加算することによって計算した。すなわち、
−直腸温度:
0−39℃未満。
1−39℃以上かつ39.5℃未満。
2−39.5℃以上かつ40℃未満。
3−40℃以上。
−一般的状態:
0−正常な行動
1−疲労困憊
−舌及び口蓋の潰瘍(潰瘍がいくつかある場合にはすべての潰瘍のうち一部のものの直径):
0−潰瘍は存在しない
1−直径1〜5mm
2−直径6〜10mm
3−直径10mm超
−歯肉炎:
0−歯肉炎は存在しない
1−歯肉炎
−鼻炎:
0−鼻炎は存在しない
1−漿液性鼻漏を伴った鼻炎
2−粘液性から粘液膿性の鼻漏を伴った鼻炎
−結膜炎:
0−結膜炎は存在しない
1−漿液性漏出を伴った結膜炎
2−粘液膿性漏出を伴った結膜炎
−跛行:
0−跛行は存在しない
1−跛行
−死亡:
0−生存
5−死亡。
【0123】
得られた平均臨床スコアは以下の通りである。
【0124】
【表1】
【0125】
したがって、得られた結果は、最良株で得られた平均値と、2つの株の併用によって得られた値と間の有意な相違によって、FCV G1株とFCV431株との間で相乗作用があることを示す(Kruskal-Wallis検定)。
【実施例7】
【0126】
(不活化ワクチンの製造)
2リットルローラーフラスコ(850cm2)内、2.5%ラクトアルブミン加水分解産物(Gibco BRL社製)及び5%ウシ胎仔血清(Gibco BRL社製)で補足された変法イーグル培地(MEM、Gibco BRL社製)中、37℃でCRFK細胞を培養する。ローラーフラスコ1本あたり、約100000細胞/mlを含有しているMEM培地中の細胞懸濁液300mlを添加する。3日後に、細胞層が集密状態になる。その後、細胞培養培地を無血清MEMで置換し、0.5 CCID50/細胞の感染多重度(moi)でFCVウイルスを添加する。ウイルス培養物は、細胞叢全体に細胞変性効果が得られるまで、37℃で24〜48時間維持する。ウイルス懸濁液を採取し、1.5μmの孔を有するバッグフィルターで清澄化する。採取されたFCVウイルスの力価は、8.5+/−0.3 log10 CCID50/mlである。
【0127】
濃度約8mMのエチレンイミンを用いて、22℃で18時間かけてウイルスを不活化する。
【0128】
エチレンイミンは、200mlの蒸留水に28gの水酸化ナトリウムペレットを溶解させ、約1.2Mの溶液に相当する68.1gのブロモエチルアミン(BEA)を添加することによって、使用する直前に調製する(H. Bahnemann, Arch. Virol., 1975, 47, 47-56)。不活化ウイルス懸濁液は、100kDaのカットオフを有するUltrasette型の限外濾過カートリッジ(Filtron社製)で100倍に濃縮し、その後、−70℃で冷凍する。
【0129】
解凍後の不活化ウイルス懸濁液は、PBS緩衝液(NaCl 8g/l;KCl 0.2g/l;KH2PO4 0.2g/l;Na2HPO4,2H2O 1.44g/l)中に1/33倍希釈する。ワクチンを同様にして調製する。すなわち、不活化ウイルスの希釈液からなる167mlの水相を、7%w/vの無水マンニトールオレイン酸、8%w/vの平均11分子のエチレンオキシド(EO)を含有するエトキシ化オレイン酸、及び85%v/vの軽質流動パラフィン油(欧州薬局方型)を含有している83mlの油相中に、Silverson社製タービン乳化剤の補助を用いて、32℃で2分間乳化する。その後、ワクチンは5℃で保存する。
【0130】
ワクチンを調製する別法の1つは、5%w/vスクアラン、2.5%w/v Pluronic(登録商標)L121、0.2%w/v Tween 80、及び92.3%v/vの、解凍後にPBS緩衝剤中に1/46倍希釈した不活化ウイルス懸濁液の混合物を、Y110型高圧ホモジナイザ(Microfluidics社製)に圧力600バール、温度30〜40℃で3回通過させることによって乳剤を形成させるものである。その後、ワクチンは5℃で保存する。
【0131】
もう1つの別法は、生理食塩水(NaCl 9g/l)中に0.4%w/v Carbopol(登録商標)974Pを含有する溶液を調製するものである。pHは、水酸化ナトリウムで7.3〜7.4に調整する。その後、このCarbopol(登録商標)溶液を、解凍後に1/25倍希釈した不活化FCVウイルスの懸濁液と1対1で混合する。その後、ワクチンは5℃で保存する。
【0132】
乳剤の水相又はCarbopol(登録商標)と混合される水相は、FCV431株、又はFCV G1株、又はFCV431株及びG1株の1対1混合物に相当する濃縮不活化ウイルス懸濁液のPBS希釈液からなる。
【実施例8】
【0133】
(不活化FCV431の免疫原性)
週齢9週のワクチン非接種のSPF子ネコ19匹を無作為化により2群に分ける(A及びBと同定される)。第1群は12匹の子ネコを有し、第2群は7匹の子ネコを有し、各群は分離した箱の中で飼育する。
【0134】
ワクチンは、実施例7に記載の通り、無水マンニトールオレイン酸、エトキシ化オレイン酸、及び軽質流動パラフィン油で構成されているアジュバントと合わせて調製する。
【0135】
A群では、107 CCID50/mlのFCV431接種物1mlを皮下注射することによって、ネコに2回ワクチン接種する(D0及びD28)。B群は対照群とする。
【0136】
これらの動物は、最初のワクチン接種の42日後(D42)に、106 CCID50/mlの力価を有する抗原曝露ウイルス株FCV431 1mlを口腔鼻経路(0.5mlを経口経路によって、各鼻孔に0.25ml)で投与することによって抗原曝露する。
【0137】
抗FCV431中和抗体レベル及び臨床スコアをモニターした。各動物の総臨床のスコアは、実施例6で示した尺度に従って、臨床徴候に関して各群で得られたスコアを加算することによって計算した。
【0138】
得られた結果は以下の通りである。
【0139】
【表2】
【0140】
【表3】
【0141】
これらの結果は、同種抗原曝露に対する優れた臨床の防御及び良好な血清転換を示す。
【実施例9】
【0142】
(不活化及び安定化されたFCV100869ウイルスの調製)
CRFK細胞(Crandell-Reeseネコ腎臓細胞、アクセッション番号CCL−94で、ATCC(American Type Culture Collection)から入手可能)を、37℃、pH7.2、30%酸素、及び50rpm(毎分回転数)のバイオジェネレーター(biogenerator)中で培養した。培地は、5%ウシ胎仔血清で補足され、1.5g/lのCytodex 1マイクロキャリアを添加した変法イーグル培地(MEM、Gibco BRL社製)で構成されていた。この培養物に、上記細胞を最終密度0.2 106細胞/mlで導入した。
【0143】
4日後に、撹拌を停止し、デカンテーションによって、マイクロキャリアを分離した。細胞培養培地を無血清MEMで置換し、0.5 CCID50/細胞の感染多重度(moi)で株100869FCVウイルスを添加した。このウイルス培養物を、細胞変性効果が得られるまで、37℃、pH7.2、30%酸素、及び50rpmに18時間維持した。
【0144】
この懸濁液を10℃まで冷却し、激しく撹拌した後、撹拌を停止し、デカンテーションによって、マイクロキャリアを分離し、除去した。
【0145】
ウイルス懸濁液を採取し、1.5μmの孔を有するフィルターで清澄化した。
【0146】
濃度8mMのエチレンイミンを用いて、22℃で18時間かけてウイルス懸濁液を不活化した。エチレンイミンは、257.5mlの蒸留水に36gの水酸化ナトリウムペレットを溶解させ、約1.2Mの溶液に相当する、87.5gのブロモエチルアミン(BEA)を添加することによって調製した。
【0147】
18時間のインキュベーション時間の終わりに、最終濃度0.5g/lのホルムアルデヒドを添加し、10℃で、24時間撹拌することによって、不活化ウイルス懸濁液を安定化させた。
【0148】
不活化及び安定化されたウイルス懸濁液は、150kDaカットオフ膜で約12回、限外濾過を行うことによって濃縮した。
【0149】
不活化、安定化、及び濃縮したウイルス懸濁液を、カルシウム及びマグネシウムを含有しない、pH7.4のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を含む添加緩衝液及び溶出緩衝液を用いて、ゲル濾過クロマトグラフィー(6FFセファロースを充填したBPG100/950カラム)によって精製した。
【0150】
ウイルス画分は、限外濾過によって、約100kDaカットオフ膜で約100倍に濃縮した。
【実施例10】
【0151】
(インビトロ交差血清中和)
実施例4で上述したものと同じ技法を用いて、交差血清中和試験を行った。この交差血清中和試験は、合計51株のネコカリシウイルスの間で行った。これらの株には、
・すべて仏国由来の株である、A2、F1、G1、H3−2、G3、F3031、H1−4、及びF3と、
・すべて英国由来の株である、388b、431、419、337、J1、J5、220、及び393と、
・すべて米国由来の株である、RMI1、RMI2、RMI3、RMI4、RMI5、RMI6、RMI7、RMI8、RMI9、98A−13445、98A−4417、98A−49529、98A−4568、968384−97、31383−97、98A−46260、941421−96、98A−8107、98A−49526、93182−98、98A−10305、98A−49052と、
・すべて米国由来の株であり、高病原性であると考えられている、94580、33585−1、89391、88287、100869−1と
が含まれる。
【0152】
血清は、各単離株の生存株で免疫化した後のネコから得た。血清は、市販のワクチン、より詳細には株255及びF9を用いたものを接種した後にも得た。
【0153】
これらの血清を、上記51株の単離株を中和する能力について試験した。96ウェル細胞培養プレート中で、DMEM培地を用いて、上記血清を3倍に連続希釈した。約100 CCID50の選択されたウイルス株を含有する0.05mlの培地を、0.05mlの希薄血清に添加した。この混合物を、5%CO2を含有する雰囲気下にあるインキュベーター内で、37℃、2時間、インキュベートした。
【0154】
その後、各混合物に、1mlあたり約100000の細胞を含有するCRFK細胞懸濁液0.15mlを添加した。5%CO2を含有する雰囲気中、37℃で、4日間培養した後、位相差顕微鏡法によって細胞変性効果を観察した。各血清の中和力価は、Karber法に従って計算した。力価は、そのウェルの50%で細胞変性効果を阻害する最も高い希釈率という形態で得られる。力価はlog10で表す。したがって、得られた最小の力価は、0.7 log10 VN50であった。各血清は、少なくとも2回、好ましくは3回力価決定した。
【0155】
中和力価の結果を図3に示す。株G1及び431は広範な交差中和を示し、それには、それぞれ、試験したすべての血清の93%及び98%の中和に成功したことが含まれていた。また、これらの株は、高病原性の米国株を含めた、すべての地理的な位置から得られた血清に関して、少なくともそれらの一部に対して中和に成功した。加えて、高病原性株94580、89391、88287、及び100869も広範な交差中和を示し、それらはそれぞれ、すべての株の100%、86%、100%、及び93%の中和に成功した。
【0156】
それぞれの株の交差血清中和活性を、全株、欧州株、及び米国株のパーセントとして比較する図及びグラフを図4に示す。図3及び4で示されている、G1、431、94580、89391、88287、及び100869を含めた株による広範な交差中和は、FCV感染に対するワクチン調製物中で使用された場合、これらの株が極めて有効であり得ることを示している。
【実施例11】
【0157】
(FCV100869に対するM725ワクチンの有効性)
週齢8週のSPF子ネコ5匹に、D0及びD28にRMB725でワクチン接種した。RB725は、凍結乾燥されたペレットを再構成することによって得た。RB725は、ネコ鼻気管炎(弱毒化FHV F2株)、カリシウイルス感染(不活化FCV G1/431抗原)、クラミジア症(クラミジア・フェリス種(Chlamydophila felis)の弱毒化905株)、感染性汎白血球減少症(弱毒化PLI IV株)に対するワクチンを含み、ネコ白血病(カナリア痘FeLV=vCP97)に対するワクチンを希釈剤としている。このワクチンは、各用量が2.67 log10 ELISA単位のFCV431/G1抗原を含有するように構成されていた。
【0158】
D56に、口腔鼻経路によって、ワクチン接種された子ネコ及び5匹の対照をFCV100869に曝露した。FCV100869−1は、ワクチン株とは抗原性の異なる高病原性株である。抗原曝露株は、力価6.0〜6.5 log10 CCID50/mlの懸濁液が得られるように生理食塩緩衝液(pH7.15)で希釈した。
【0159】
抗原曝露後に、臨床徴候、FCV排出、及びELISA抗体に関して、これらの子ネコをモニターした。臨床スコアは、European Pharmacopoeia Monograph No.1101に従って評価し、症状の強度を以下の通り定義した。
【0160】
【表4】
【0161】
抗原曝露の2、4、6、8、10、及び14日後(すなわち、D56、D58、D60、D62、D64、D66、及びD70)に咽頭スワブを収集した。スワブは、ウイルスの分離まで、抗生物質を豊富に含むF15培地(3mL培地/スワブ)中に−70℃で保存した。血液試料は、抗原曝露の日(D56)及び14日後(D70)に、乾いたチューブの表面に取得した。血清は、FCV抗体の力価測定まで−20℃で保存した。
【0162】
抗原曝露後に、すべての対照ネコが臨床徴候を発症した。対象動物のすべてで、口腔鼻潰瘍(5匹のうち3匹の対照で大型かつ多数、そして、5匹のうち2匹の対照で小型かつ少数)及び3日間(5匹のうち1匹の対照)又は6〜8日間(5匹のうち4匹の対照)持続する鼻漏が観察された。眼漏は、1匹のネコで記録された。加えて、1匹の対照ネコが抑うつ状態を示した。
【0163】
対照的に、ワクチン接種されたネコは、より軽度な臨床徴候を示した。詳細には、5匹のうち2匹のワクチン接種されたネコが、小型の口腔鼻潰瘍を発症し、ワクチン接種された残りのネコでは、いかなる大きさの潰瘍も発症しなかった。また、ワクチン接種されたネコは、1〜2日間(5匹のうち3匹のワクチン接種動物)又は4〜6日間(5匹のうち2匹のワクチン接種動物)持続するわずかな鼻漏を発症した。ワクチン接種されたネコに、眼漏を発症したネコはいなかった。
【0164】
5匹のうち3匹の対照において、抗原曝露の1〜6日後に1〜5回の別々の機会で高熱症が記録された。対照的に、ワクチン接種されたネコには高熱症を患うネコはいなかった。図5に示す通り、対照動物ではD61に高熱症がピークに達した。
【0165】
抗原曝露の1日前、並びに抗原曝露の4、8、10、12、及び14日後(すなわち、D55、D60、D64、D66、及びD70)に子ネコの体重を計量した。成長は抗原曝露にわずかにしか影響されておらず、正確な体重減少は、5匹のうち1匹のワクチン接種動物に対して、5匹のうち2匹の対照で記録された。平均では、対照動物の成長は、ワクチン接種動物の成長より遅かった。D70におけるワクチン接種されたネコの平均体重は、体重が記録されなかった1匹のワクチン接種されたネコを除外したため、過小評価され、対照より低く現れた。それにもかかわらず、相対的な毎日体重増は、図6に示す通り、ワクチン接種動物の方が、対照より高かった(8.8対7.2)。
【0166】
すべての対照ネコが、D60で高力価に達しD62から観測期間の終わりまで低下するFCV排出を示した。ワクチン接種動物では、D58にFCV排出がピークに達し、その後、低下し、D64からは、D70における1匹のネコを除いて、検出限界下になった。ウイルス排泄は、すべてのワクチン接種動物で観察されたが、2匹のワクチン接種動物では非常に低かった。平均では、図7に示す通り、対照におけるウイルス排出の方が、ワクチン接種動物より高く、より長期間持続した(曲線下面積の分散分析;p=0.007)。
【0167】
FCV抗体の産生に関してネコを評価し、ワクチン接種されたすべてネコでは2回目の注射の後にFCV抗体が産生されたが、対照では血清陰性のままであったと判定した。抗原曝露は、ワクチン接種では追加免疫効果を誘導し、対照ネコではFCV抗体の産生を誘導した。抗原曝露後における、群あたりの平均FCV抗体力価を図8に示す。
【0168】
総合的には、対照群の平均総合スコア(27.8)は、ワクチン接種群のスコア(6)より高かった(4.6×)(分散分析;p=0.01)。この相違は、主として口腔鼻潰瘍に連結するものであり、対照における口腔鼻潰瘍は、ワクチン接種動物よりはるかに重度であった。加えて、図9に示す通り、他のすべての臨床パラメータ(一般的状態、体重減少、高熱症、鼻漏、及び眼漏)のスコアも、ワクチン接種動物より、対照の方が高かった。したがって、RMB725ワクチンは、ワクチン接種されたネコを、FCV100869−1での抗原曝露から防御するのに成功したと結論することができる。
【実施例12】
【0169】
(FCV100869に対するM725ワクチンの有効性)
同じワクチンであるが、FCV抗原含量がより低いワクチン(2.67 log10 ELISA単位に対して、2.05 log10 ELISA単位/用量のFCV431/G1抗原)を用いて、実施例11を反復した。加えて、各群で用いる動物数を減少させた。その結果、この調査に含まれる動物数が少なくなっているので、統計分析は行わなかった。
【0170】
図10及び11に示す通り、抗原曝露が厳しいものであり、ワクチン中の抗原含量が少なかったのにもかかわらず、このワクチンの投与は、全身及び局所における臨床徴候を軽減した。2匹のうち1匹の対照が高病原性のFCV感染によって死亡したが、ワクチン接種されたネコは両方とも、抗原曝露に対して生き残った。
【0171】
この実験では、抗原曝露の厳しさが、接種物の力価に相関していた。高病原性の感染を誘導するのには、非常に高い力価が用いられた。これは、野外調査からの報告と一致しており、成体は、子ネコよりFCV高病原性株に感受性であるかもしれないと示唆している(同様な現象がウサギにおけるRHDVで報告されている)。したがって、これにより、高力価接種物による抗原曝露の存在下でさえ、このワクチン接種は、ワクチン接種されたネコで発症する症状を、対照ネコと比較して有意に軽減するのに十分であったことが示された。
【実施例13】
【0172】
(不活化及び安定化されたFCV100869の免疫原性)
週齢8週のSPF(特定病原体不在)子ネコ18匹が、無作為に、6匹の動物からなる3群に分けられるであろう。
【0173】
不活化及び安定化されたFCV100869ウイルス(03.0699.Pに記載の通りに取得された)をpH7.1の生理水中に希釈する。ワクチンAは、1ml用量あたり、不活化の前には、FCVの粗培養物5mlと同等なウイルス量を含有している。ワクチンBは、0.4ml用量あたり、不活化の前には、FCVの粗培養物5mlと同等なウイルス量を含有している。
【0174】
A群の子ネコには、D0及びD28のそれぞれに、1用量のワクチンAを与える。これらの投与は、注射器及び注射針を用いて皮下に行う。B群の子ネコには、D0及びD28のそれぞれに、1用量のワクチンBを与える。これらの投与は、無針注射器であるVitajet(登録商標)によって行う。C群の子ネコは、対照動物として、ワクチン接種されないままにしておく。
【0175】
56日目に、すべての子ネコ(ワクチン接種されたもの及びワクチン接種されていないもの)を、口腔鼻経路によって、高病原性の異種FCV株(FCV94580株)に抗原曝露する。(1鼻孔あたり0.25mlそして経口的に0.5ml、106.0 CCID50/ml)。
【0176】
抗原曝露後2週間にわたって、抗FCV中和抗体、動物の体重、直腸温、一般的状態、全身及び局所症状、並びにウイルス排出を観察する。
【0177】
総合スコアの計算に使用する採点は以下の通りである。
【0178】
【表5】
【0179】
添付されている特許請求の範囲によって定義される本発明は、上記の記述が示す特定の実施形態に限定されず、本発明の趣旨及び範囲から逸脱しない変更形態も包含することをはっきりと理解するべきである。
【図面の簡単な説明】
【0180】
【図1】実施例4に記載の交差中和で得られた中和力価を示す図である。
【図2】抗p66(FCV431)モノクローナル抗体の使用による、単離株のIFAプロフィールを示す図である。モノクローナル抗体44はFCV431に対して特異的である。
【図3A】実施例10に記載の交差中和で得られた中和力価を示す図である。
【図3B】実施例10に記載の交差中和で得られた中和力価を示す図である。
【図4】各FCV株によって血清中和された異種単離株のパーセントを図とグラフとの両方の形態で示す図である。
【図5】FCV100869に曝露された後のネコの体温変化を示すグラフである。
【図6】FCV100869に曝露された後のネコの体重変化を示すグラフである。
【図7】FCV100869に曝露された後のネコの感染力価を示すグラフである。
【図8】FCV100869に曝露される前後のネコのFCV抗体変化を示すグラフである。
【図9】FCV100869に曝露された後の症状の罹患率を要約するグラフである。
【図10】FCV100869に曝露された後のワクチン接種動物及び対照動物の総臨床スコアを示すグラフである。
【図11】FCV100869に曝露された後のワクチン接種動物及び対照動物の臨床スコアを示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、現在米国特許第6534066号となっている2000年7月14日出願の米国特許出願第09/616781号の分割出願である2003年2月18日出願の米国特許出願第10/368861号の一部継続出願であり、これは、1999年7月16日出願の仏国特許出願第9909420号、2000年2月11日出願の仏国特許出願第0001759号、及び2000年3月30日出願の米国特許仮出願第60/193197号に基づく優先権を主張するものである。本出願は、2004年1月21日出願の米国特許仮出願第60/573849号に基づく優先権を主張する2005年1月19日出願の出願番号未定出願(整理番号574313−3258.1)のCIPでもある。
【0002】
以上の出願、特許、及び出版物、並びにそれらで引用又は参照された全文書「出願で引用された文書」と、本明細書で引用又は参照された全文書「本明細書で引用された文書」と、上記のいかなる出願、特許、及び出願で引用された文書の審査中も含めて、本明細書で引用された文書及び出願で引用された文書で参照又は引用された全文書とを、参照により本明細書に組み込む。
【0003】
この開示中、特に特許請求の範囲において、「含む(comprises)」、「含んだ(comprised)」、及び「含んでいる(comprising)」などの用語は、米国特許法でそれに属すると定められた意味を有することができ、例えば、それらの用語は、「包含する(includes)」、「包含した(included)」、及び「包含している(including)」などを意味し得ること、並びに「から本質的になっている(consisting essentially of)」及び「から本質的になる(consists essentially of)」などの用語は、米国特許法でそれに属すると定められた意味を有することができ、例えば、それらの用語は、明示的に記述されていない要素も容認するが、従来技術に存在する要素、又は本発明の基本的特徴若しくは新規な特徴に影響する要素は除外することが知られている。
【0004】
本発明は、診断、アッセイ、及びワクチンを含めた免疫学分野に関する。詳細には、本発明は、ネコカリシウイルス感染に対する免疫原性組成物及びワクチン、特に不活化ワクチン又はサブユニットワクチンを産生するための、高病原性株を含めた、ネコカリシウイルスの特定株の使用に関する。免疫原性組成物及びワクチンにおける、高病原性株を含めたこれらの特定の株の使用は、複数の株のネコカリシウイルスに対する防御を生み出す優れた免疫反応を提供する。これらの免疫原性組成物及びこれらのワクチンは、多価の(multivalent)免疫原性組成物及びワクチンを製造するために、他のネコ病原体をベースにして調製された免疫原性組成物又はワクチンと組み合わせることもできる。本発明はさらに、ネコカリシウイルスの株に感染しているかどうかを判定するための診断検査、並びにネコカリシウイルスタンパク質及び/又は抗原の存在又は不在を判定するためのアッセイにも関する。
【背景技術】
【0005】
ネコカリシウイルス(FCV)は、1957年に最初に記載された(Fastier,1957)。ネコカリシウイルス及びネコヘルペスウイルスは、ネコの上気道におけるウイルス病の2つの主要な原因である。FCVウイルスは多くの動物で疾患を引き起こすウイルスであり、FCV保持感染率は15〜25%程度、抗FCV血清陽性率は70〜100%である(Coutts, 1994; Ellis, 1981; Harbour, 1991; Reubel, 1992)。これらの呼吸器疾患には、初期の高熱症の後に、口蓋、舌、唇、及び/又は鼻における口腔内粘膜潰瘍形成、鼻炎、慢性口内炎、及び結膜炎が伴い、場合によっては拒食症及び無力症が伴う。FCVウイルスは、肺炎、腸炎、及び跛行症状群(lameness syndrome)としても知られている関節痛も引き起こすことがある。
【0006】
一般に、全ネコ集団の15〜25%からFCVを単離することができ(Harbour, 1991)、45〜60%のネコが上気道感染を有し(Harbour, 1991; Reubel, 1992)、50〜92%のネコが慢性口内炎を有する(Knowles, 1989; Harbour, 1991)。
【0007】
FCVウイルスの感染は水平感染のみであり、これまでのところ、妊娠中の母ネコからその子への垂直感染の症例は知られていない(Johnson, 1984)。そうではなく、FCVの感染は、感染した動物と健康な動物との間の接触によって、或いはくしゃみで生じる空気中の小滴への曝露を介して起こる(Wardiey,1976)。
【0008】
カリシウイルス科のネコカリシウイルスは、無エンベロープウイルスであり、ポリAを有し、サイズが約7.7キロベースである1本鎖のプラス鎖RNAゲノムを含む(Radford, 1997)。FCVのキャプシドは、66kDa(キロドルトン)の単一主要キャプシドタンパク質であるp66タンパク質からなる。カリシウイルスの分子生物学に関する概説は、Clarke and Lambdenに見出すことができる。
【0009】
多くのRNAウイルスと同様に、FCVウイルス集団には、大きな不均一性が存在する。1970年代初めに血清交差中和実験によって実証されて以来、抗原性の相違によってFCVをいくつかのウイルス株又は疑似種に分類することが可能となっている(Radford, 1997)。
【0010】
いくつかのFCV株が同定及び単離されており、中でも、株F9(アクセッション番号VR−782で(American Type Culture CollectionすなわちATCC)に寄託されている)、株2280(ATCC VR−2057)、株KCD(ATCC VR−651)、及び株CFI(ATCC VR−654)が挙げられる。
【0011】
FCVに対するワクチン接種は、1970年代の終わりに、弱毒化されたFCV株を用いて導入されたが、これらの弱毒化株は、主として、1958年に米国で単離された株F9(Billie, 1960)又はインビトロ若しくはインビボでの継代によってF9株から派生した株(「F9様」)であった。市販されているFCVワクチンの大部分がこれらの弱毒化ワクチンに含まれる。
【0012】
不活化ワクチンも市販されており、これらの不活化ワクチンのすべてがアジュバントを含有している。これらの不活化ワクチンは、主として株255及び2280を用いているが、これらは、米国で、それぞれ1970年に肺炎のネコから単離されたもの(Kahn and Gillepsie, 1970; Povey, 1980)、及び1983年に跛行(lameness)を有するネコから単離されたもの(Pedersen, 1983; Pedersen and Hawkins, 1995)である。
【0013】
ワクチンで使用するためのFCVの不活化は、ホルマリンの使用を含めた様々な方法で実現できる。例えば、Poveyは、子ネコで使用されるホルマリン不活化及びアジュバント添加されたFCV調製物について記述している(Povey, 1978)。
【0014】
米国特許第6534066号は、FCVワクチンを製造するための新規のFCV株の使用について記載している。上記ワクチンが不活化ワクチンである場合、その不活化は化学的手段(例えば、ホルマリン若しくはホルムアルデヒド、β−プロピオラクトン、エチレンイミン、又はバイナリーエチレンイミン)及び/又は熱処理で行う。上記ウイルスは、エチレンイミンによって不活化することが好ましい。上記ワクチンには、アジュバント添加することが好ましく、これには例えば、上記特許の実施例8に記載の水中油型乳剤を用いる。
【0015】
米国特許第6355246号は、弱毒化FCVワクチン及び不活化FCVワクチンの両方について記載しているが、上記不活化ワクチンはアジュバントを含んでいることが好ましい。この特許では、ホルムアルデヒド又はバイナリーエチレンイミン(BEI)の使用を介して不活化を行う。
【0016】
前述の通り、不活化ワクチンは通常、免疫反応を亢進させるため、並びにネコ集団中に現れる異種起源のFCV株に対してより良い防御を誘導するために、アジュバントを含有している。しかし、アジュバント含有ワクチンは、アジュバントを含まないものより、高い割合で拒絶反応を誘導し(Gobar, 2002)、それによって、注射部位におけるワクチン関連の線維肉腫の危険性を増大させる(Baker, 1998)。
【0017】
アジュバントを含まないFCVワクチンは通常、前述のF9株を通常含有する改変生ワクチンである。数人の著者は、FCV F9の残留病原性がワクチン接種後のカリシウイルス感染(病原性への復帰)の原因であると訴えている(Dawson, 1993)。FCVの改変生存株は、野外での新規抗原性変種の出現に関係づけられている(Radford, 1997)。したがって、改変生ワクチンの安全性は疑わしい。
【0018】
存在しているFCV抗原型は1種類のみであるが、FCV単離株相互における抗原性の相違が観察されており、野外での新規単離株が定期的に同定されている(Lauritzen, 1997)。
【0019】
したがって、経時的な連続抗原変異のため、F9、255、又は2280などの株を含めた1960〜70年代に単離されたワクチン株に対して産生された抗血清は、1990年代及び2000年代に一般的になっているカリシウイルス株のうち極めてわずかな単離株しか中和しない。例えば、上記の抗F9血清が中和する単離株は、1980〜89年の間における米国単離株の56%、及び1958〜79年の間における単離株の86%に比べ、1990〜1996年の間における米国単離株の43%、及び1990〜96年の間における英国単離株の10%のみである(Lauritzen, 1997)。したがって、古いFCV株から得られた弱毒化ワクチン及び不活化ワクチンはもはや、最近のFCV株に対する十分な防御を生み出さない。
【0020】
1970年代の終わり以来、FCVに対するワクチン接種が行われているのにもかかわらず、FCV関連疾患が臨床上の重大な問題であり続けている。そして、前述の通り、新規な高病原性株が最近、生じている。ワクチン接種にもかかわらずFCV感染及びFCV関連の疾患が持続していることは、いくつかのメカニズムによって説明されているが、それらのメカニズムには、ワクチン接種によって誘導された免疫圧力下でFCV集団が進化しているため、ワクチン株による広範な交差防御が不足していること(Geissler, 1997)、弱毒化ワクチンに由来するワクチン株が急性及び慢性のFCV感染に寄与している可能性があること(Dawson, 1993; Pedersen, 1995; Radford, 1997)、不活化ワクチン及び生ワクチンは両方とも、ネコを臨床上の疾患からは防御するが、感染からは防御しないこと(Pedersen, 1995)、及びFCVは、ワクチンに対してより抵抗性の変異体を生じることによって、進化し、免疫圧力から逃避できること(Knowles, 1990; Johnson, 1992)が含まれる。
【0021】
結果として、ネコの集団で現在同定されている単離株に対してより広範な交差中和を行う現在の疫学的状況により適応したワクチンで、現在のカリシウイルスワクチンを置換しなければならない。有望なワクチンは、より新規のFCV株をベースとした不活化ワクチン又は組換え体ワクチンであろう。最近、米国及び他の国で極めて重度なカリシウイルス感染の大流行が認められた。これらの高病原性かつ免疫優性な株の1つをワクチン候補として選択した。本明細書では、この株を伝統的なFCVワクチンの代替物として記述する。
【0022】
さらに、ネコにおいてFCVワクチン接種に起因するもうひとつの問題は、しばしばワクチン中のアジュバントの存在の結果として起こる注射部位での炎症の存在であり、これは、ワクチン接種後における線維肉腫の因子である可能性もある。したがって、ワクチンの局所忍容性は、戦略的に重要であり、かつ新規ワクチンを開発する際に考慮するべきものである。そのため、理想的なワクチンは、アジュバントを含まないものであり、かつ優れた局所忍容性を有するものでなければならない。
【0023】
したがって、本発明は、FCV集団を代表する最近の株を、ワクチンの局所忍容性が改善されている不活化ワクチン又は組換え体ワクチン(改変生ワクチンとは反対に)中で用いることによって(Pedersen, 1995)、伝統的なワクチンで明らかになったそれらの問題に取り組むものであり、上記ワクチン中で用いられているFCV株は、広範な交差防御を与えるものでなければならない。別法として、いくつかの株を包含させることが以前に提案されている(Baulch-Brown, 1997; Dawson, 1993; Knowles, 1990)。
【特許文献1】米国特許出願第10/368861号
【特許文献2】米国特許出願第09/616781号
【特許文献3】米国特許第6534066号
【特許文献4】仏国特許出願第9909420号
【特許文献5】仏国特許出願第0001759号
【特許文献6】米国特許仮出願第60/193197号
【特許文献7】米国特許仮出願第60/573849号
【特許文献8】米国特許第6355246号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明の目的は、ネコで抗体を誘導し、かつ広範な交差中和範囲を有する新規FCV株を検出することである。
【0025】
本発明の別の目的は、これらのFCV株に起因するネコカリシウイルス感染に対する免疫原性組成物及び/又はワクチンを製造することである。本発明のさらに別の目的には、前記免疫原性組成物及び/又はワクチンの投与を含む、免疫反応を提供する方法が含まれる。
【0026】
本発明のさらに別の目的は、ネコカリシウイルス感染及び他の少なくとも1種のネコ病原体に対する多価免疫原性組成物及び/又は多価ワクチンを製造すること、並びに、前記多価免疫原性組成物及び/又は多価ワクチンの投与を含む、免疫反応を提供する方法である。
【0027】
本発明のさらに別の目的は、前述した、ネコカリシウイルス感染に対する組成物及び/又はワクチン、並びに/或いは多価の免疫原性組成物及び/又はワクチンの製造であって、前記組成物及び/又はワクチンはアジュバントを含まない。例えば、本出願の目的の1つは、上記組成物及び/又はワクチンを調製する前に、FCVにホルムアルデヒド処理及び/又は不活化剤を用いた処理を施すことである。したがって、本発明の目的は、不活化剤によって不活化され、かつ直鎖アルキルC1−C5鎖の形をなすアルデヒド化合物で安定化されたFCVを含む、アジュバントを含まない不活化FCV免疫原性組成物又はワクチンを製造することであり、上記アルデヒド化合物は、上記鎖がC1である場合には1つのアルデヒド基を含み、上記鎖がC2−C5である場合には2つの末端アルデヒド基を含み、上記鎖がC2−C5鎖である場合、1つのアルデヒド基が、場合によってはセトン又はエポキシ基によって置換されていてもよく、上記免疫原性組成物又はワクチンは、凍結乾燥形態、又は獣医学的に許容される賦形剤若しくは媒体中の液体形態にある。
【0028】
本発明のさらに別の目的は、本発明に従った、アジュバントを含まない不活化及び安定化されたFCV免疫原性組成物又はワクチンの投与を含む、新生仔、子、オス、メス、及び妊娠中のメスを含めたネコ科の動物、好ましくはネコを、ネコカリシウイルス感染に対して免疫化する方法、或いは、本発明に従った不活化及び安定化されたFCV、及び別のネコ病原体に由来する少なくとも1種の免疫原、又は別のネコ病原体に由来する少なくとも1種の免疫原を発現する組換え体ベクターを含有し、アジュバントを含まない混合ワクチンの投与を含む、FCVを含めた少なくとも2種類のネコ疾患に対して免疫化する方法である。
【課題を解決するための手段】
【0029】
これら及び他の実施形態は、以下に示す発明を実施するための最良の形態に開示されるか、それから明らかであるか、或いはそれに包含される。
【0030】
以下に示す発明を実施するための最良の形態は、例示として提示されており、本発明を、記載される特定の実施形態に限定するものではなく、また、添付されている図面と併せて理解することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
一態様では、本発明は、その組成物を接種した宿主動物で抗原性又は免疫学的反応を誘導するための抗原性組成物、免疫学的組成物、若しくはワクチン組成物、又は治療組成物を提供し、上記抗原性又は免疫学的反応はFCV感染に対するものである。したがって、本発明は、FCVに対する改善された抗原性組成物、免疫学的組成物、若しくはワクチン組成物、又は治療組成物を提供する。本発明は、使用されるFCV株のタイプによって、また本発明は有利には不活化されたものであり、改変生ワクチンではないという事実によって、伝統的なFCVワクチンと異なっている。
【0032】
本明細書で使用される場合、「抗原」は、免疫系によって認識され、かつ免疫反応を誘導する物質である。この文脈においては使用される類似の用語が「免疫原」である。
【0033】
これも本明細書で使用される場合、「免疫原性組成物」という用語は、ネコに投与されたならば、ネコ病原体に対して引き起こされたと考えられる免疫反応を誘導できるいかなる調製物も包含する。「ワクチン」は、効果的な防御を誘導できる調製物を意味するものと理解される。
【0034】
本発明の一態様では、有利には不活化形態又はサブユニット形態にあり、獣医学的に許容される媒体又は賦形剤中にあるネコカリシウイルス株431、又はその等価物から調製され、抗原性組成物、免疫学的組成物、若しくはワクチン組成物、又は治療組成物を提供する。本発明の別の態様では、有利には不活化形態又はサブユニット形態にあり、獣医学的に許容される媒体又は賦形剤中にあるネコカリシウイルス株431及びG1、又はその等価物から調製された、抗原性組成物、免疫学的組成物、若しくはワクチン組成物、又は治療組成物を提供する。本発明のさらに別の態様では、有利には不活化形態又はサブユニット形態にあり、獣医学的に許容される媒体又は賦形剤中にあるネコカリシウイルス株100869、94580、33585−1、89391、若しくは88287のうちの1つ若しくは複数、又はその等価物から調製された、抗原性組成物、免疫学的組成物、若しくはワクチン組成物、又は治療組成物を提供する。本発明のさらに別の態様では、有利には不活化形態又はサブユニット形態にあり、獣医学的に許容される媒体又は賦形剤中にある、交差中和を引き起こす少なくとも1株のネコカリシウイルス株から調製された、不抗原性組成物、免疫学的組成物、若しくはワクチン組成物、又は治療組成物を提供する。
【0035】
上記FCV株は、最近、野外から単離されたものから選択されることが好ましい。好ましい株には、株431(アクセッション番号I−2166でCNCMに寄託されているもの;又はアクセッション番号I−2282でCNCMに寄託されているハイブリドーマによって分泌されたモノクローナル抗体44と反応するいかなる株も含む;米国特許第6534066号を参照)、G1(アクセッション番号I−2167でCNCMに寄託されているもの)(CNCM=「Collection Nationale de Cultures de Microorganismes」、仏国パリ所在Pasteur Institute)、米国株RMI6及びRMI9(これらは両方とも本発明者から入手可能である)、US100869(2004年4月22日に、アクセッション番号PTA5930でATCCに寄託)(ATCC=「American Type Culture Collection」、米国バージニア州マナッサス(Manassas)所在)、及び、より一般的に、出版物に記載された新規の高病原性株(Pedersen et al. Vet. Microbiol. 2000. 73. 281-300; Schorr-Evans et al. JFMS. 2003. 5. 217-226; Hurley et al. Vet. Clin. Small Anim. 2003. 33. 759-772)が含まれる。好ましい実施形態では、上記免疫原性組成物又はワクチンは、不活化及び安定化されたFCV431(又はモノクローナル抗体44と反応する任意の株)と、不活化及び安定されたFCV G1とを含む。別の好ましい実施形態では、上記免疫原性組成物又はワクチンは、不活化及び安定化されたFCV US100869を含む。
【0036】
一般的に、異種血清中和力価が1.2 log10 VN50以上である場合に、FCV株は別のFCV株を血清中和すると考えられる(Povey C. and Ingersoll J., Infection and Immunity, 1975, 877-885)。本明細書では、この値を陽性閾値として用いる。しかし、2 log10 VN50以下の同種血清中和力価有するFCV単離株で得られた交差血清中和結果は解釈不能である。
【0037】
FCV431株と比較したFCV株の等価性を確立する第2の方法は、FCV431株に特異的なモノクローナル抗体を使用し、候補FCV株を間接的免疫蛍光法(IIF)によって試験することである。したがって、本発明者は、431株に特異的であることが証明されたいくつかのモノクローナル抗体を産生するのに成功した。それらの1つがモノクローナル抗体44である。431に特異的なモノクローナル抗体、例えばモノクローナル抗体44を用いた免疫蛍光法で反応性があれば、等価性がある。このモノクローナル抗体及びそれに対応するハイブリドーマは、簡単な請求によって本発明者から入手可能であり、Poulet et al. Arch. Virol. 2000. 145. 1-19による論文でも開示されている。対応するハイブリドーマは、ブダペスト条約の条項に従って、CNCMにも、1999年8月11日にアクセッション番号I−2282で寄託された。しかし、当然ながら、当業者ならば何の問題もなく、従来の技法によってモノクローナル抗体を産生し、パネルと比較して431株に特異的な抗体を選択することができる。
【0038】
本明細書で431の等価物として特定されている株は、実施例4の参照パネルの18株のFCV単離株の間での交差血清中和試験中に同定されたものであるが、その際、驚いたことに、参照パネルの17株の異種単離株のうち14株を、単離株431の抗血清が中和することが判明した(同種血清中和力価は考慮されていない)。比較して、「歴史的」ワクチン株255及びF9の抗血清が中和するのは、18株のパネル単離株のうち2株のみである。
【0039】
したがって、本発明者は、予期せずに、FCV431株が、ほとんどのFCV株からネコ科動物、特にネコを防御するのに使用できる優勢株であることを見出した。本明細書に開示されているFCV株のパネルを利用して、当業者ならば、他の優勢FCV株を選択することが可能である。等価性によって、本発明は、FCV431株を介して、それに等価であり、広範な交差中和範囲をもつ抗体を有するFCV株も包含する。
【0040】
したがって、あるFCV株の抗血清が、参照パネルにある18株の異種単離株のうち少なくとも13株を血清中和する場合(すなわちFCV431も含まれる)、好ましくは参照パネルにある18株の異種単離株のうち少なくとも14株を血清中和する場合、さらにより好ましくは参照パネルにある18株の異種単離株のうち少なくとも15株を血清中和する場合に、等価性が存在している。
【0041】
さらに、本発明者らは、FCV100869及び他の高病原性株が、ほとんどのFCV株からネコ科動物、特にネコを防御するのに使用できる優勢株であることも見出した。
【0042】
本明細書で使用される場合、「高病原性」という用語は、当技術分野でそれに属すると考えられている定義を有するものと理解され、詳細には、高病原性株は、伝統的な株よりも著しく増強された病原性を示す。したがって、本明細書で使用される場合、例えば、株100869は、431及び255及びF9などの、より古い株より増強された病原性を有する。
【0043】
同様に、100869などのFCV株の等価物は、実施例10の参照パネルにある44株の異種単離株のうちの少なくとも41株、好ましくは44株の異種単離株のうちの少なくとも42株、又は44株の異種単離株のうちの少なくとも43株、又は参照パネルにある44株の異種単離株のうちの44株も血清中和する株を同定することによって決定できる。さらに、当業者ならば、本明細書に記載されているか、当業者に知られている他の技法を介して、過度の実験をしないでも、本明細書で同定されている株100869、94580、33585−1、89391、又は88287のうちの任意のものの等価物を同定することができる。
【0044】
したがって、本発明の別の実施形態は、本発明によるFCV431株又はその等価物の1つの抗原に加えて、他の少なくとも1株のFCV株、特に相補的な株、詳細には、G1、RMI6、及びRMI9、並びにこれらの等価物を含む群から選択された株の抗原を、獣医学的に許容される媒体又は賦形剤の中、そして場合によっては、それとアジュバントとの中に含む免疫原性組成物及びワクチンである。上記他のFCV株から得られた抗原は、不活化ウイルス又はサブユニットを含むことが好ましい。
【0045】
FCV G1、RMI6、及びRMI9株が選択された。これは、それらがFCV431株に相補的であったため、すなわち、431の抗血清と、これら3株のFCVのうち1株の抗血清との組合せによって参照パネルにある単離株の100%が血清中和されるため、すなわち、431抗血清が血清中和しないか、微弱に血清中和する(log10 VN50値が1.2未満)参照パネルのFCV単離株に関して、これら3株のFCV株が、2 log10 VN50以上の同種血清中和力価、及び1.2 log10 VN50以上の異種血清中和力価を有するためである。本発明は、FCV431株に関して、同じ相補性を有する等価なFCV株も包含する。これらの株、より詳細にはG1に特異的なモノクローナル抗体を産生し、選択することも可能であり、それによって、この他のベースに基づいて等価物を決定することが可能となる。
【0046】
本発明の別の態様は、多価の免疫原性組成物及びワクチンを製造するため、又は不活化ワクチン若しくはサブユニットワクチンを製造するための、詳細にはFCV431株及びG1株という2株の組合せである。
【0047】
驚いたことに、FCV G1及び431の2株の組合せは有利に相乗効果を引き起こす。FCV G1株及び431株の相補性に関する試験中に、G1単独、431単独、又は両方(G1+431)の組合せによって誘導された免疫反応を比較した。FCV G1株及び431株の2株の組合せで免疫化された動物の群は、臨床上の防御が他より良いという恩恵があった。実際、本発明の一実施形態は、本明細書に同定された株を含めた、FCVの高病原性株、詳細には100869株に対する免疫反応を誘導するための、組成物の調製物中における、FCV G1と組み合わせたFCV431の使用である。同様に、本発明の別の実施形態は、本明細書で同定されたもの、より詳細には100869株を含めた、FCVの高病原性株を含めたほとんどのFCV株からネコ科動物、特にネコを防御するのに使用できる、FCV G1又はその等価物と組み合わせてGCV341を含む免疫原性及びワクチン組成物である。
【0048】
本発明の別の実施形態は、少なくともその等価物を含めたFCV431株と、場合によっては他の少なくとも1株のFCV株、より詳細には本発明の意味する範囲内の相補的な株、より詳細にはG1、RMI6、及びRMI9から選択された株とを含む少なくとも1結合価の不活化ネコカリシウイルス、並びに別のネコ病原体用の少なくとも1結合価を獣医学的に許容される媒体又は賦形剤と、好ましくはアジュバント、より詳細には上述したもののうちの1つとの中に含む多価ワクチンである。サブユニットベースの多価ワクチンを製造することも、同様に可能である。
【0049】
前記ネコ病原体は、とりわけ、ネコ鼻気管支炎ウイルス若しくはネコヘルペスウイルス(FHV)、ネコ白血病ウイルス(FeLV)、ネコ汎白血球減少ウイルス、若しくはネコパルボウイルス(FPV)、ネコ伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、狂犬病ウイルス、及びクラミジア(例えばクラミジア・フェリス種(Chylamydophila felis))を含む群から選択されたものである。
【0050】
前記ワクチンは、
−FCV、FHV、FPV、FeLV、及びクラミジア
−FCV、FHV、FPV、及びFeLV
−FCV、FHV、FPV、及び狂犬病
−FCV、FHV、FPV、及びクラミジア
−FCV、FHV、FPV、クラミジア、及び狂犬病
−FCV、FHV、及びFPV
−FCV、FHV、及びクラミジア
−FCV及びFHV
のワクチン成分を併せたものが好ましい。
【0051】
これらの様々な組合せの好ましい実施形態では、弱毒化された生存微生物がFHV、FPV及びクラミジア用に使用され、FeLV遺伝子を発現する組換え体ベクターがFeLV用に使用される。上記組換え体ベクターは、env及びgag/pol FeLV遺伝子を発現するカナリア痘ウイルス(例えば米国特許第5753103号に記載のvCP97)でもよい。
【0052】
したがって、本発明の別の目的は、1種の安定化及び不活化されたFCVと、少なくとも1種の他のネコ病原体に対する免疫反応を宿主で誘導するための少なくとも1種のワクチン成分とを含む、アジュバントを含まない混合免疫原性組成物又はワクチンであり、前記成分は、別のネコ病原体由来の免疫原、又はこの免疫原を発現する組換え体ベクターであり得、上記アジュバントを含まない混合免疫原性組成物又はワクチンは、凍結乾燥形態、又は獣医学的に許容される媒体若しくは賦形剤中の液体形態にある。凍結乾燥された形態が好ましい。
【0053】
好ましい実施形態では、上記アジュバントを含まない混合免疫原性組成物又はワクチンは、生きている弱毒化微生物の形態、又はネコ病原体由来の少なくとも1種の免疫原を発現する組換え体ベクターの形態のワクチンの成分である。上記組換え体ベクターは、プラスミドでも、ウイルスベクターでもよく、例えば、上記ベクターは、ポックスウイルス、アデノウィルス、又はヘルペスウイルスである。この場合も、凍結乾燥された形態が好ましい。
【0054】
本発明の特徴に応じて、ウイルスからのキャプシドを抽出し、場合によっては抽出の前又は後に不活化することによって、免疫原性組成物又はサブユニットワクチンを製造することが可能である。したがって、これらの調製物及びワクチンは、場合によっては不活化されている、その等価物を含めた本発明によるウイルス株、より詳細には株431から産生されたキャプシドタンパク質であって、場合によっては別のFCV株、より詳細にはG1若しくはその等価物からも産生されたキャプシドタンパク質と、場合によっては細断片とを主として含有するそのような抽出産物を、その唯一の活性成分として、又はそれ以外の形態で含む。これらのサブユニットワクチン及び調製物は、アジュバント、例えば上述のもので補足されているものが有利である。不活化ワクチン又は調製物と、サブユニットワクチン又は調製物との全体を混合することも可能である。
【0055】
G1株をベースとした免疫原性組成物又はワクチン、より詳細には不活化されているか、抽出物のサブユニットであるものも本発明の対象である。
【0056】
FCVウイルスの培養及び増殖は、ネコ細胞、より詳細にはCrandell-Reeseネコ腎臓細胞、すなわちCRFK細胞(番号CCL−94でATCC(American Type Culture Collection)から入手可能)において、50%細胞培養感染量(CCID50)が1細胞あたり2〜0.01、好ましくは0.5 CCID50/細胞となる感染多重度(moi)で行うのが好ましい。
【0057】
収集及び清澄化の後、不活化免疫原性組成物又は不活化ワクチンを製造することになっているFCVウイルスを化学処理(例えば、ホルマリン若しくはホルムアルデヒド、β−プロピオラクトン、エチレンイミン、又はバイナリーエチレンイミン(BED))及び/又は熱処理によって不活化する。本発明によるウイルスは、使用する直前にブロモエチルアミン(BEA)から形成されたエチレンイミンの作用によって不活化することが好ましい。ウイルス粒子は、従来の濃縮法、より詳細には限外濾過によって濃縮することができ、その後、場合によっては、従来の精製手段、より詳細にはゲル濾過法又は選択的沈殿法、より詳細にはポリエチレングリコール(PEG)の存在下での選択的沈殿法によって精製する。先行の濃縮をせずに精製することもできる。
【0058】
免疫原性組成物又は不活化ワクチン若しくはサブユニットワクチンを製造するためには、場合によってはアジュバントで補足された獣医学的に許容される媒体又は賦形剤の中にウイルス粒子を取り込む。抗原の量は、詳細には、不活化前の力価が1用量あたり約105〜約1010 CCID50、好ましくは1用量あたり約108〜約109 CCID50となる量に等しい。そのような投与は、全身性免疫反応、すなわち体液性若しくは細胞生免疫反応を可能にする。
【0059】
本発明のFCV組成物は、製薬分野又は獣医学分野の当業者によく知られている標準的な技法に従って調製できる。そのような組成物は、特定の患者の年齢、性別、体重、種、及び状態、並びに投与経路などの因子を考慮して、医学分野又は獣医学分野の当業者によく知られている用量及び技法で投与することができる。上記組成物は単独で投与することもでき、或いは組成物、例えば、「他」の免疫学的組成物、又は弱毒化、不活化、若しくは遺伝子組換え型のワクチン若しくは治療組成物と共に同時投与又は逐次投与して、それによって本発明の多価組成物、若しくは「カクテル」組成物、若しくは混合組成物、又はそれらを用いた方法を提供することもできる。上記組成物は、FCV成分と、1つ又は複数の無関係のネコ病原体ワクチン(例えば、対象とする1つ又は複数のエピトープ、1つ又は複数の抗原及び/又はベクター、或いは組換え体ウイルスなどのウイルス)との組合せを含有するものでもよい。この場合も、投与の成分及び方法(逐次投与、同時投与)、並びに用量は、年齢、性別、体重、種、及び投与経路などの因子を考慮して決定することができる。
【0060】
本発明の組成物の例には、懸濁液など、粘膜投与用、例えば経口投与用、鼻腔投与用、眼投与用などの液体調製物、並びに、無菌懸濁液又は乳剤など、非経口投与用、皮下投与用、皮内投与用、筋肉内投与(例えば注射投与)用の調製物が含まれる。そのような組成物中では、FCVを、滅菌水、生理食塩水、又は同様のものなど、適当な担体、希釈剤、又は賦形剤と混合することができる。上記組成物は、凍結乾燥することもできる。上記組成物は、投与経路及び所望の調製物に応じて、湿潤剤又は乳化剤、pH緩衝剤、アジュバント、保存剤、及び同様のものなど、補助物質を含有し得る。
【0061】
本発明の免疫原性組成物及びワクチンをアジュバントで補足するために、(1)水酸化アルミニウム、又は(2)アクリル酸若しくはメタクリル酸の重合体、無水マレイン酸の重合体、及びアルケニル誘導体の重合体をアジュバントとして用いること、或いは(3)免疫原性組成物又はワクチンを水中油型乳剤の形態、より詳細には、p 147 "Vaccine Design, The Subunit and Adjuvant Approach" edited by M. Powell, M. Newman, Plenum Press 1995に記載の乳剤SPTM、及び同書p183に記載の乳剤MF59の形態に処方することができる。
【0062】
上記水中油型乳剤は、詳細には、軽質流動パラフィン油(欧州薬局方型);スクアラン、スクワレンなどのイソプレノイド油;アルケン、詳細にはイソブテン又はデセンのオリゴマー形成の結果に生じる油;直鎖アルキル基を含有する酸エステル又はアルコール、より詳細には、植物油、オレイン酸エチル、プロピレングリコールジ(カプリル酸/カプリン酸)、グリセリルトリ(カプリル酸/カプリン酸)、プロピレングリコールジオレイン;分岐脂肪族アルコール又は酸エステル、詳細にはイソステアリン酸エステルをベースにしたものでよい。上記の油は、乳剤を形成させるために乳化剤と併用される。乳化剤は、非イオン性界面活性剤、より詳細にはソルビタン、マンナイド、グリセロール、ポリグリセリン、プロピレングリコールのエステル、及び場合によってはエトキシ化されている、オレイン酸、イソステアリン酸、リシノール酸、又はヒドロキシステアリン酸のエステル、及びポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレンブロック共重合体、詳細にはPluronic(登録商標)共重合体、特にL121であることが好ましい。
【0063】
好ましいアジュバント化合物は、架橋、特に糖又は多価アルコールのポリアルケニルエーテルの架橋を有するアクリル酸又はメタクリル酸の重合体である。これらの化合物は、カルボマーという用語で知られている(Phameuropa Vol. 8, No. 2, June 1996)。当業者ならば、米国特許第2909462号(参照により本明細書に組み込まれている)を参照することができる。この開示は、少なくとも3つ、好ましくは8つ以上のヒドロキシ基を有し、上記少なくとも3つのヒドロキシ基の水素原子が、少なくとも2個の炭素原子を有する不飽和脂肪族基で置換されているポリヒドロキシル化化合物で架橋されたそのようなアクリル重合体について記載する。好ましい官能基は、2〜4個の炭素原子含有するもの、例えばビニル、アリル、及び他のエチレン不飽和基である。上記不飽和基は、それ自体で、メチルなどの他の置換基を含有してもよい。とりわけ、Carbopol(登録商標)(米国オハイオ所在BF Goodrich社製)という名で販売されている商品が適している。それらは、アリルスクロース又はアリルペンタエリスリトールで架橋されている。それらの中でも、Carbopol(登録商標)974P、934P、及び971Pを挙げることができる。
【0064】
無水マレイン酸及びアルケニル誘導体の共重合体の中でも、共重合体EMA(登録商標)(Monsanto社製)が好ましい。これは、無水マレイン酸及びエチレンの線状共重合体若しくは架橋共重合体、例えば、ジビニルエーテルで架橋された共重合体である。参照により本明細書に組み込まれている、J. Fields et al.を参照することができる。
【0065】
それらの構造の観点からは、上記アクリル酸又はメタクリル酸の重合体、及び共重合体EMA(登録商標)は、下記の化学式を基本単位にして形成されていることが好ましい。
【0066】
【化1】
【0067】
式中、
− R1及びR2は、同じ又は異なっており、H又はCH3を表し、
− x=0又は1、好ましくはx=1、
− y=1又は2、かつx+y=2である。
【0068】
共重合体EMA(登録商標)では、x=0、かつy=2である。カルボマーでは、x=y=1である。
【0069】
これらのポリマーを水に溶解させると、酸性溶液が生じ、これは、アジュバント溶液を得るために、好ましくは生理的pHに中和されるであろう。そして、このアジュバント溶液にワクチンそれ自体が組み込まれるであろう。中和によって、重合体のカルボキシル基は部分的にCOO−の形態になる。
【0070】
本発明によるアジュバントの溶液、特にカルボマーは、蒸留水中に、好ましくは塩化ナトリウムの存在下で調製することが好ましく、得られる溶液は酸性のpHとなる。望ましい量(所望の最終濃度を得るために)、又はそのかなりの部分であるNaCl含有水、好ましくは生理的食塩水(NaCl 9g/l)に、この保存液を、いくつかの部分ですべて同時に添加することによって、これを希釈し、それと同時に、若しくはそれに続いて、好ましくはNaOHで中和する(pH7.3〜7.4)。生理的なpHであるこの溶液は、ワクチンを混合するのにそのまま使用されるであろう。それを、とりわけ、凍結乾燥形態、液体形態、又は凍結形態で保存することができる。
【0071】
最終ワクチン組成物の重合体濃度は、0.01%〜2%w/v、より詳細には0.06〜1%w/v、好ましくは0.1〜0.6%w/vであろう。
【0072】
参照により本明細書に組み込まれている"REMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCE", 17th edition, 1985などの標準的教科書を参考にして、過度の実験をせずに、適した調製物を調製することができる。
【0073】
本発明では、様々な投与経路用の形態にある組成物が想定されている。この場合もまた、投与の有効量及び経路は、そのネコの年齢、性別、体重、状態、及び性質などの既知因子によって、そしてLD50、及び既知であり、かつ過度の実験を必要としない他のスクリーニング手順によって決定される。各活性物質の用量は、本明細書で引用された文書(又は本明細書で引用された文書で参照又は引用された文書)の通りでよく、かつ/又は、サブユニット免疫原性組成物、免疫学的組成物、若しくはワクチン組成物では、1若しくは数μg〜数百若しくは数千μg、例えば1μg〜1mgの範囲;そして、不活化免疫原性組成物、免疫学的組成物、若しくはワクチン組成物では、104〜1010 TCID50、有利には106〜108 TCID50の範囲であり得る。
【0074】
本発明による同じFCV株及び/又は本発明による異なったFCV株の不活化ウイルスと、サブユニットとを混合することも当然可能である。
【0075】
本発明によるFCVワクチンは、使用する直前にネコにおける他の結合価(複数でもよい)と混合でき、前記結合価は、弱毒化生ワクチン、不活化ワクチン、サブユニットワクチン、組換え体ワクチン、又はポリヌクレオチドワクチンの形態であり得る。
【0076】
しかし、適した免疫学的反応を引き出す組成物の用量及びその中の成分の濃度、並びに組成物を投与するタイミングは、血清の抗体力価測定などの方法によって、例えばELISA及び/又は血清中和アッセイ分析によって決定できる。そのような測定は、当業者の知識、この開示、及び本明細書に引用された文書に基づき、過度の実験を必要としない。また、逐次投与の回数も同様に、この開示及び当技術分野における知識から確定できる方法を用いて、過度の実験をせずに、確定することができる。
【0077】
一実施形態では、免疫化の方法は、本発明によるサブユニット又は不活化多価混合FCVワクチンをネコに投与するステップを含む。前記ワクチンの投与は、詳細には非経口経路によって、好ましくは皮下経路又は筋肉内経路によって実施できる。
【0078】
例えば、希釈剤で再構成された凍結乾燥成分を含むワクチンを用いて、FCVによる疾患を予防するために、週齢6週以上の健康なネコを免疫化することができる。1ml用量を筋肉内又は皮下に注射することができる。初回ワクチン接種には、例えば、初回投与の3〜4週間後に、追加免疫を与えることができる。当業者ならば、過度の実験をせずに適切な投与計画を決定できる。例えば、週齢12週未満のネコには、3〜4週間毎に再接種して、週齢12週以上のときに最終投与を与えることができる。初回ワクチン接種の後には、追加免疫を毎年与えることができる。
【0079】
したがって、本発明の別の実施形態は、免疫原性組成物又はワクチン組成物を少なくとも1回投与するステップを含む、FCVに対してネコ免疫化する方法である。別の実施形態では、免疫原性組成物又はワクチン組成物を少なくとも2又は3又は4回以上投与できる。
【0080】
当業者ならば、各ワクチン接種プロトコールに使用されるべき注射の回数及び各ワクチンの用量を正確に決定するのに必要な能力を有する。例えば、一実施形態では、投与容積が、詳細には0.2〜2mlであり得、好ましくは1ml程度である。
【0081】
別法では、経皮送達(皮内送達、皮下送達、及び場合によっては筋肉内送達)に、無針注射器を用いることができる。投与容積は0.1ml〜1mlの間でよい。
【0082】
適した用量は、下記の実施例に基づいたものであり得る。
【0083】
本発明の一実施形態では、上記免疫原性組成物又はワクチン組成物が不活化FCVを含む。したがって、本発明は、不活化剤に曝露され、かつ直鎖アルキルC1−C5鎖の形をなす安定化アルデヒド化合物に曝露されたFCVを含む、アジュバントを含まない不活化FCV免疫原性組成物又はワクチンに関し、上記アルデヒド化合物は、上記鎖がC1である場合には1つのアルデヒド基を含み、上記鎖がC2−C5である場合には2つの末端アルデヒド基を含み、上記鎖がC2−C5鎖である場合、アルデヒド基の1つが、場合によってはセトン又はエポキシ基によって置換されていてもよく、上記免疫原性組成物又はワクチンは、凍結乾燥形態、又は獣医学的に許容される賦形剤若しくは媒体中の液体形態にある。
【0084】
定義上、不活化剤は、そのウイルスの免疫原特性に実質的に影響を与えずに、主としてウイルス核酸との不可逆反応によって、ウイルスの増殖を阻止できる薬剤である。不活化剤の好ましい例は、エチレンイミン及びアミド誘導体(例えばアセチルエチレンイミン)、プロピレンイミン、β−プロピオラクトンである。好ましい実施形態では、不活化剤がエチレンイミンである。
【0085】
好ましい実施形態では、エチレンイミンの作用によって、FCVが不活化される。エチレンイミンの最終濃度は約0.5mM〜約20mであり、好ましくは約1mM〜約10mMである。温度は、約2℃〜約40℃であり、好ましくは約5℃〜約30℃であり得る。
【0086】
安定化アルデヒド化合物は、タンパク質のアミノ基(例えば、リシン、アルギニン、又はヒスチジンアミノ酸のアミノ基)及び水酸基(例えばチロシンアミノ酸の水酸基)に作用し、2つのタンパク質間及び/又はタンパク質内部の連結を形成し得る。安定化アルデヒド化合物は、ホルムアルデヒド(すなわちメタナール)、グリシドアルデヒド(すなわち2,3−エポキシ−1−プロパナール)、グルタルアルデヒド(すなわち1,5−ジアル−ペンタン)、グリオキサール(すなわち1,2−ジアル−エタン)、及びメチルグリオキサール(すなわちピルブアルデヒド)からなる群から選択されることが好ましい。好ましい実施形態では、安定化アルデヒド化合物がホルムアルデヒドである。
【0087】
不活化及び/又は安定化を終了した後に、当業者に知られている技法を用いて、例えばチオール基を含む中和化合物(例えば、チオ硫酸塩、システイン)を添加することによって、不活化剤及び/又は安定化アルデヒド化合物を中和することが可能である。
【0088】
当業者に知られている技法、例えば、サイズ排除クロマトグラフィー、ショ糖勾配上の超遠心分離、塩化セシウム勾配上の超遠心分離、又は選択的沈殿、例えばPEG(ポリエチレングリコール)沈殿を用いて、不活化剤及び/又は安定化アルデヒド化合物を除去することが可能である。
【0089】
安定化条件(温度、安定化アルデヒド化合物の濃度、及び処理時間)を調整するために、FCVビリオンの定量を行うことができる。ビリオンの定量化を可能にする任意の適切な技法、例えばFCVキャプシドタンパク質に特異的なモノクローン抗体又はポリクローナル抗体を用いたELISAを使用できる。ELISAによる定量化の前に、当業者に知られている技法、例えば、サイズ排除クロマトグラフィー、ショ糖勾配上の超遠心分離、塩化セシウム勾配上の超遠心分離、選択的な沈殿、例えばPEG(ポリエチレングリコール)沈殿を用いて、処理されたウイルス培養物からビリオンを単離する。
【0090】
ホルムアルデヒドを用いる場合:
−最終濃度は、約0.05g/l〜約0.8g/lであり得、好ましくは約0.075g/l〜約0.6g/l、より好ましくは約0.1g/l〜約0.5g/lである。
−温度は約2℃〜約37℃であり得、好ましくは約2℃〜約22℃、より好ましくは約4℃〜約7℃である。
【0091】
本発明の一実施形態では、上記免疫原性組成物又はワクチンは、凍結乾燥された安定化及び不活化FCVと、凍結乾燥された賦形剤、例えばアミノ酸、例えばグルタミン酸、糖質、例えばラクトース、及びこれらの混合物、例えばSPGA(ショ糖/リン酸/グルタミン酸/アルブミン;欧州特許第0496135号)とを含む。別の実施形態では、上記免疫原性組成物又はワクチンが液体であり、生理的溶液又は緩衝液中にFCVを含む。
【0092】
本発明の別の実施形態は、FCVを不活化剤、及び直鎖アルキルC1−C5鎖の形をなす安定化アルデヒド化合物と反応させることを含む、不活化及び安定化されたFCVを産生する方法であり、上記アルデヒド化合物は、上記鎖がC1である場合には1つのアルデヒド基を含み、上記鎖がC2−C5である場合には2つの末端アルデヒド基を含み、上記鎖がC2−C5鎖である場合、アルデヒド基の1つが、場合によってはセトン又はエポキシ基によって置換されていてもよい。不活化剤及び安定化アルデヒド化合物、並びにそれらの使用条件に関する好ましい実施形態は上述されている。
【0093】
本発明の方法は、FCVの培養、並びに不活化剤及び安定化アルデヒド化合物での処理を含む。安定化アルデヒド化合物の添加は、不活化ステップの前、実行中、又は後に行うことができる。不活化剤及び/又は安定化アルデヒド化合物の中和は上述の通りに実施できる。
【0094】
安定化及び不活化されたFCVビリオンは、従来の濃縮法によって、例えば限外濾過でによって濃縮することができ、その後、場合によっては従来の精製手段、例えば、サイズ排除クロマトグラフィー、ショ糖勾配上の超遠心分離、塩化セシウム勾配上の超遠心分離、又は例えばポリエチレングリコール(PEG)存在下での選択的沈殿によって精製する。不活化及び安定化されたFCVは約5℃で保存できる。
【0095】
本発明のさらに別の実施形態として、本明細書に記載のいかなる免疫原性組成物又はワクチン組成物も、不活化されたFCVを含むことができ、上記FCVは、本明細書に記載のいかなる方法を用いて不活化されたものでもよいことを理解されたい。
【0096】
本発明のさらに別の実施形態では、別々に包装された、本発明によるFCV結合価と、別のネコ病原体用の少なくとも1結合価とを、好ましくはアジュバントを含む獣医学的に許容される媒体又は賦形剤中に含む多価ワクチン接種キット若しくはボックスを提供する。上記FCV結合価は、別のネコにおける結合価、詳細には、凍結乾燥された形態で準備されている弱毒化、組換え体、又はポリヌクレオチド結合価の溶媒として働き得る。
[実施例]
【実施例1】
【0097】
(ウイルス単離株及びハイブリドーマ)
ネコカリシウイルス(FCV)は、ネコカリシウイルスへの感染の徴候を示しているネコにおける咽頭スワブによって得た。これらのFCVは、地理的に様々な出自を有する。
【0098】
FCV431、337、J5、388b、220、及び393株は、英国で単離され、University of Glasgow(英国)のProfessor O. Jarrettによって提供された。
【0099】
FCV A2、G1、G3、F3031、F1、H3−2、及びH1−4株は仏国で本発明者によって単離された。
【0100】
FCV RMI1、RMI2、RMI3、RMI5、RMI6、RMI7、及びFMI9株は米国で本発明者によって単離された。
【0101】
咽頭試料は、5%ウシ胎仔血清(Bayer Diagnostic社製)及び抗生物質、より詳細には50mg/lゲンタマイシンで補足されたダルベッコ修正イーグル最少培地(DMEM、Gibco BRL社製)2ml中に収集した。各単離株は、試験までの待ち時間の間、−70℃で冷凍される。431 2 0 17 E9 Tと特定されるハイブリドーマから得られたモノクローナル抗体44は、FCV431株に特異的である。
【実施例2】
【0102】
(ウイルス単離株の増殖)
ネコ腎臓細胞系(Crandell-Reeseネコ腎臓、すなわちCRFK、番号ATCC CCL−94、Crandell et al. In Vitro 1973.9. 176-185)を1mlあたり約100000の細胞を含有している、5%ウシ胎仔血清で補足されたDMEMを含有する96ウェルプレート又は25cm2Falcon(Falcon社製)中で培養した。上記細胞は、5%CO2を含有する加湿雰囲気中、37℃で培養した。3日後に、細胞層が集密状態になった。その後、50mg/lゲンタマイシンで補足された無血清DMEM培地で培地を置換し、解凍されたFCVウイルス単離株(実施例1)のアリコートを、FCVウイルスの限界希釈クローニングには1ウェルあたり容積100μlの4倍連続希釈という割合、或いはFalcon 1本あたり1mlという割合で添加する。
【0103】
細胞変性効果(ECP)が完全になったときに(培養開始後24〜48時間)、ウイルス懸濁液を採取して、−70℃で冷凍する。ウイルスバッチの産生には、通常、3〜4回の連続継代が必要である。ウイルスバッチは−70℃で保存される。
【実施例3】
【0104】
(血清の作製)
各FCVウイルスについて、106.0 CCID50の適切なFCVウイルスを口腔鼻経路で子ネコに接種することによって、抗血清を産生させた。特定病原体不在(SPF)子ネコは、週齢10〜14週であった。感染の1カ月後に各動物の血清を収集した。上記血清を熱不活化(56℃で30分間)し、分配及び分注して、−20℃で保存した。
【実施例4】
【0105】
(インビトロ交差血清中和)
ネコカリシウイルス感染の徴候を示すネコで行った咽頭スワブによって得られた18株の野外単離株の間で交差血清中和試験を行った。それらのうち7株は仏国を地理的な出自としており、それらは、単離株A2、F3031、G1、G3、F1、H3−2、及びH1−4と同定されている。4株は英国を地理的な出自としており、それらは単離株J5、337、388b、及び431と同定されている。最後に、7株は米国を地理的な出自としており、それらは単離株RMI1、RMI2、RMI3、RMI5、RMI6、RMI7、及びRMI9と同定されている。
【0106】
各単離株に関して得られた血清(実施例3)を、それらが上記18株の単離株を中和する能力について試験した。96ウェル細胞培養プレート中で、DMEM培地を用いて、上記血清を3倍に連続希釈した。約100 CCID50の選択されたウイルス株を含有する0.05mlの培地を、実施例2にある通りに産生された0.05mlの希薄血清に添加した。この混合物を、5%CO2を含有する雰囲気下にあるインキュベーター内で、37℃、2時間、インキュベートした。
【0107】
その後、各混合物に、1mlあたり約100000の細胞を含有するCRFK細胞懸濁液0.15mlを添加した。5%CO2を含有する雰囲気中、37℃で、4日間培養した後、位相差顕微鏡法によって細胞変性効果を観察した。各血清の中和力価は、Karber法に従って計算した。力価は、そのウェルの50%で細胞変性効果を阻害する最も高い希釈率という形態で得られる。力価はlog10で表す。したがって、得られた最小の力価は、0.7 log10 VN50であった。各血清は、少なくとも2回、好ましくは3回力価決定した。
【0108】
図1は、これらの18株のFCV株と、これらの18種類の血清との間で行われた交差血清中和で得られた全中和力価を示す。
【実施例5】
【0109】
(間接的免疫蛍光(IIF)試験)
試験するFCVウイルスに感染している単層培養中で培養されたCRFK細胞を含有する96ウェルプレート上でIIF試験を行った。
【0110】
5%ウシ胎仔血清を含有するF15培地(Gibco BRL社製、Cat #045-1075)中に90000細胞/mlを含有する、1ウェルあたり200μlのCRFK細胞懸濁液を96ウェルプレート中で培養する。集密状態になったときに、320 CCID50のFCVを100μlのF15培地に接種する。最初のCPE病巣が現れたときに、カルシウムもマグネシウムも含まない冷PBS(PBS、Sigma社製)で細胞をリンスし、5%v/vの水を含有する冷アセトンを用いて、−20℃で30分間固定する。乾燥させた後、感染され、固定された細胞を、ウェルあたり100μlの、抗FCV431モノクローナル抗体44に対応する腹水(ハイブリドーマ431 2 0 17 E9 T、50mM、約pH7.6のTRIS−HCl緩衝液中に約1/5000倍希釈)と、37℃で30分間接触させる。
【0111】
PBS中で2回リンスした後に、50mM、pH7.6のTRIS−HCl緩衝液中に1/150倍希釈したフルオレセインイソシアネート結合ヤギ抗マウスIgG抗体(Biosys社製、2mg/mlのFITC結合抗体)と、同じ条件下でインキュベーションすることによって抗体の結合を可視化する。測定は、UV光の下に光学顕微鏡で行った。
【0112】
このモノクローナル抗体を、上記パネルの単離株それぞれに関して試験した。それは、FCV431に感染したCRFK細胞のみに排他的に結合した。
【0113】
この試験は、FCV431株の等価物を判定するのに用使用できる。これらの等価物は、モノクローナル抗体44が結合するものである。
【0114】
モノクローナル44は、中和抗体であり、かつ立体配座抗体であること、及び中和が防御と相関していることが知られている。図2は、抗p66(FCV431)モノクローナル抗体の使用による、単離株のIFAプロフィールを示す。モノクローナル抗体44はFCV431に特異的である。
【実施例6】
【0115】
(相乗作用)
週齢約9週のワクチン非接種の32匹のSPF子ネコを無作為化により、子ネコ各8匹の4群に分け(A〜Dと特定される)、各群を分離した箱の中で飼育した。
【0116】
ウイルス懸濁液を解凍し(実施例2)、PBSで希釈した後、所望の力価を得るために、B群では103.3 CCID50/mlのFCV G1接種物1mlの皮下注射、C群では103.5 CCID50/mlのFCV431接種物1mlの皮下注射、D群では、103.3 CCID50/mlのFCV G1接種物0.5ml及び103.5 CCID50/mlのFCV431接種物0.5ml(異なった注射部位に)の皮下注射によってネコにワクチン接種する。A群は対照群とする。
【0117】
A〜Dの各群の半分を、2つの第1群及び2に無作為に配属し、別々の箱で飼育する。ワクチン接種後の31日目(d31)に動物を抗原曝露する。
【0118】
第1群の動物は、107.2 CCID50/mlの力価を有する抗原曝露ウイルス株FCV220 1mlを口腔鼻経路(0.5mlを経口経路によって、各鼻孔に0.25ml)で投与することによって抗原曝露する。
【0119】
第2群の動物は、105.8 CCID50/mlの力価を有する抗原曝露ウイルス株FCV393 1mlを口腔鼻経路(0.5mlを経口経路によって、各鼻孔に0.25ml)で投与することによって抗原曝露する。
【0120】
高病原性株FCV220及び393は、交差血清中和で、ウイルス株FCV G1及び431から疎遠であるので、これらの株を選択した。
【0121】
2つの箱の間におけるいかなる交差汚染も慎重に回避する。両群の動物の臨床モニタリングは、動物の直腸温測定及び臨床検査(一般的状態、舌及び口蓋における潰瘍の存在、歯肉炎の存在、鼻炎の存在、結膜炎の存在、跛行の存在、動物の死)によって行う。
【0122】
各動物の総臨床スコアは、下記も尺度に従って、各群の臨床徴候に関して得られたスコアを加算することによって計算した。すなわち、
−直腸温度:
0−39℃未満。
1−39℃以上かつ39.5℃未満。
2−39.5℃以上かつ40℃未満。
3−40℃以上。
−一般的状態:
0−正常な行動
1−疲労困憊
−舌及び口蓋の潰瘍(潰瘍がいくつかある場合にはすべての潰瘍のうち一部のものの直径):
0−潰瘍は存在しない
1−直径1〜5mm
2−直径6〜10mm
3−直径10mm超
−歯肉炎:
0−歯肉炎は存在しない
1−歯肉炎
−鼻炎:
0−鼻炎は存在しない
1−漿液性鼻漏を伴った鼻炎
2−粘液性から粘液膿性の鼻漏を伴った鼻炎
−結膜炎:
0−結膜炎は存在しない
1−漿液性漏出を伴った結膜炎
2−粘液膿性漏出を伴った結膜炎
−跛行:
0−跛行は存在しない
1−跛行
−死亡:
0−生存
5−死亡。
【0123】
得られた平均臨床スコアは以下の通りである。
【0124】
【表1】
【0125】
したがって、得られた結果は、最良株で得られた平均値と、2つの株の併用によって得られた値と間の有意な相違によって、FCV G1株とFCV431株との間で相乗作用があることを示す(Kruskal-Wallis検定)。
【実施例7】
【0126】
(不活化ワクチンの製造)
2リットルローラーフラスコ(850cm2)内、2.5%ラクトアルブミン加水分解産物(Gibco BRL社製)及び5%ウシ胎仔血清(Gibco BRL社製)で補足された変法イーグル培地(MEM、Gibco BRL社製)中、37℃でCRFK細胞を培養する。ローラーフラスコ1本あたり、約100000細胞/mlを含有しているMEM培地中の細胞懸濁液300mlを添加する。3日後に、細胞層が集密状態になる。その後、細胞培養培地を無血清MEMで置換し、0.5 CCID50/細胞の感染多重度(moi)でFCVウイルスを添加する。ウイルス培養物は、細胞叢全体に細胞変性効果が得られるまで、37℃で24〜48時間維持する。ウイルス懸濁液を採取し、1.5μmの孔を有するバッグフィルターで清澄化する。採取されたFCVウイルスの力価は、8.5+/−0.3 log10 CCID50/mlである。
【0127】
濃度約8mMのエチレンイミンを用いて、22℃で18時間かけてウイルスを不活化する。
【0128】
エチレンイミンは、200mlの蒸留水に28gの水酸化ナトリウムペレットを溶解させ、約1.2Mの溶液に相当する68.1gのブロモエチルアミン(BEA)を添加することによって、使用する直前に調製する(H. Bahnemann, Arch. Virol., 1975, 47, 47-56)。不活化ウイルス懸濁液は、100kDaのカットオフを有するUltrasette型の限外濾過カートリッジ(Filtron社製)で100倍に濃縮し、その後、−70℃で冷凍する。
【0129】
解凍後の不活化ウイルス懸濁液は、PBS緩衝液(NaCl 8g/l;KCl 0.2g/l;KH2PO4 0.2g/l;Na2HPO4,2H2O 1.44g/l)中に1/33倍希釈する。ワクチンを同様にして調製する。すなわち、不活化ウイルスの希釈液からなる167mlの水相を、7%w/vの無水マンニトールオレイン酸、8%w/vの平均11分子のエチレンオキシド(EO)を含有するエトキシ化オレイン酸、及び85%v/vの軽質流動パラフィン油(欧州薬局方型)を含有している83mlの油相中に、Silverson社製タービン乳化剤の補助を用いて、32℃で2分間乳化する。その後、ワクチンは5℃で保存する。
【0130】
ワクチンを調製する別法の1つは、5%w/vスクアラン、2.5%w/v Pluronic(登録商標)L121、0.2%w/v Tween 80、及び92.3%v/vの、解凍後にPBS緩衝剤中に1/46倍希釈した不活化ウイルス懸濁液の混合物を、Y110型高圧ホモジナイザ(Microfluidics社製)に圧力600バール、温度30〜40℃で3回通過させることによって乳剤を形成させるものである。その後、ワクチンは5℃で保存する。
【0131】
もう1つの別法は、生理食塩水(NaCl 9g/l)中に0.4%w/v Carbopol(登録商標)974Pを含有する溶液を調製するものである。pHは、水酸化ナトリウムで7.3〜7.4に調整する。その後、このCarbopol(登録商標)溶液を、解凍後に1/25倍希釈した不活化FCVウイルスの懸濁液と1対1で混合する。その後、ワクチンは5℃で保存する。
【0132】
乳剤の水相又はCarbopol(登録商標)と混合される水相は、FCV431株、又はFCV G1株、又はFCV431株及びG1株の1対1混合物に相当する濃縮不活化ウイルス懸濁液のPBS希釈液からなる。
【実施例8】
【0133】
(不活化FCV431の免疫原性)
週齢9週のワクチン非接種のSPF子ネコ19匹を無作為化により2群に分ける(A及びBと同定される)。第1群は12匹の子ネコを有し、第2群は7匹の子ネコを有し、各群は分離した箱の中で飼育する。
【0134】
ワクチンは、実施例7に記載の通り、無水マンニトールオレイン酸、エトキシ化オレイン酸、及び軽質流動パラフィン油で構成されているアジュバントと合わせて調製する。
【0135】
A群では、107 CCID50/mlのFCV431接種物1mlを皮下注射することによって、ネコに2回ワクチン接種する(D0及びD28)。B群は対照群とする。
【0136】
これらの動物は、最初のワクチン接種の42日後(D42)に、106 CCID50/mlの力価を有する抗原曝露ウイルス株FCV431 1mlを口腔鼻経路(0.5mlを経口経路によって、各鼻孔に0.25ml)で投与することによって抗原曝露する。
【0137】
抗FCV431中和抗体レベル及び臨床スコアをモニターした。各動物の総臨床のスコアは、実施例6で示した尺度に従って、臨床徴候に関して各群で得られたスコアを加算することによって計算した。
【0138】
得られた結果は以下の通りである。
【0139】
【表2】
【0140】
【表3】
【0141】
これらの結果は、同種抗原曝露に対する優れた臨床の防御及び良好な血清転換を示す。
【実施例9】
【0142】
(不活化及び安定化されたFCV100869ウイルスの調製)
CRFK細胞(Crandell-Reeseネコ腎臓細胞、アクセッション番号CCL−94で、ATCC(American Type Culture Collection)から入手可能)を、37℃、pH7.2、30%酸素、及び50rpm(毎分回転数)のバイオジェネレーター(biogenerator)中で培養した。培地は、5%ウシ胎仔血清で補足され、1.5g/lのCytodex 1マイクロキャリアを添加した変法イーグル培地(MEM、Gibco BRL社製)で構成されていた。この培養物に、上記細胞を最終密度0.2 106細胞/mlで導入した。
【0143】
4日後に、撹拌を停止し、デカンテーションによって、マイクロキャリアを分離した。細胞培養培地を無血清MEMで置換し、0.5 CCID50/細胞の感染多重度(moi)で株100869FCVウイルスを添加した。このウイルス培養物を、細胞変性効果が得られるまで、37℃、pH7.2、30%酸素、及び50rpmに18時間維持した。
【0144】
この懸濁液を10℃まで冷却し、激しく撹拌した後、撹拌を停止し、デカンテーションによって、マイクロキャリアを分離し、除去した。
【0145】
ウイルス懸濁液を採取し、1.5μmの孔を有するフィルターで清澄化した。
【0146】
濃度8mMのエチレンイミンを用いて、22℃で18時間かけてウイルス懸濁液を不活化した。エチレンイミンは、257.5mlの蒸留水に36gの水酸化ナトリウムペレットを溶解させ、約1.2Mの溶液に相当する、87.5gのブロモエチルアミン(BEA)を添加することによって調製した。
【0147】
18時間のインキュベーション時間の終わりに、最終濃度0.5g/lのホルムアルデヒドを添加し、10℃で、24時間撹拌することによって、不活化ウイルス懸濁液を安定化させた。
【0148】
不活化及び安定化されたウイルス懸濁液は、150kDaカットオフ膜で約12回、限外濾過を行うことによって濃縮した。
【0149】
不活化、安定化、及び濃縮したウイルス懸濁液を、カルシウム及びマグネシウムを含有しない、pH7.4のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を含む添加緩衝液及び溶出緩衝液を用いて、ゲル濾過クロマトグラフィー(6FFセファロースを充填したBPG100/950カラム)によって精製した。
【0150】
ウイルス画分は、限外濾過によって、約100kDaカットオフ膜で約100倍に濃縮した。
【実施例10】
【0151】
(インビトロ交差血清中和)
実施例4で上述したものと同じ技法を用いて、交差血清中和試験を行った。この交差血清中和試験は、合計51株のネコカリシウイルスの間で行った。これらの株には、
・すべて仏国由来の株である、A2、F1、G1、H3−2、G3、F3031、H1−4、及びF3と、
・すべて英国由来の株である、388b、431、419、337、J1、J5、220、及び393と、
・すべて米国由来の株である、RMI1、RMI2、RMI3、RMI4、RMI5、RMI6、RMI7、RMI8、RMI9、98A−13445、98A−4417、98A−49529、98A−4568、968384−97、31383−97、98A−46260、941421−96、98A−8107、98A−49526、93182−98、98A−10305、98A−49052と、
・すべて米国由来の株であり、高病原性であると考えられている、94580、33585−1、89391、88287、100869−1と
が含まれる。
【0152】
血清は、各単離株の生存株で免疫化した後のネコから得た。血清は、市販のワクチン、より詳細には株255及びF9を用いたものを接種した後にも得た。
【0153】
これらの血清を、上記51株の単離株を中和する能力について試験した。96ウェル細胞培養プレート中で、DMEM培地を用いて、上記血清を3倍に連続希釈した。約100 CCID50の選択されたウイルス株を含有する0.05mlの培地を、0.05mlの希薄血清に添加した。この混合物を、5%CO2を含有する雰囲気下にあるインキュベーター内で、37℃、2時間、インキュベートした。
【0154】
その後、各混合物に、1mlあたり約100000の細胞を含有するCRFK細胞懸濁液0.15mlを添加した。5%CO2を含有する雰囲気中、37℃で、4日間培養した後、位相差顕微鏡法によって細胞変性効果を観察した。各血清の中和力価は、Karber法に従って計算した。力価は、そのウェルの50%で細胞変性効果を阻害する最も高い希釈率という形態で得られる。力価はlog10で表す。したがって、得られた最小の力価は、0.7 log10 VN50であった。各血清は、少なくとも2回、好ましくは3回力価決定した。
【0155】
中和力価の結果を図3に示す。株G1及び431は広範な交差中和を示し、それには、それぞれ、試験したすべての血清の93%及び98%の中和に成功したことが含まれていた。また、これらの株は、高病原性の米国株を含めた、すべての地理的な位置から得られた血清に関して、少なくともそれらの一部に対して中和に成功した。加えて、高病原性株94580、89391、88287、及び100869も広範な交差中和を示し、それらはそれぞれ、すべての株の100%、86%、100%、及び93%の中和に成功した。
【0156】
それぞれの株の交差血清中和活性を、全株、欧州株、及び米国株のパーセントとして比較する図及びグラフを図4に示す。図3及び4で示されている、G1、431、94580、89391、88287、及び100869を含めた株による広範な交差中和は、FCV感染に対するワクチン調製物中で使用された場合、これらの株が極めて有効であり得ることを示している。
【実施例11】
【0157】
(FCV100869に対するM725ワクチンの有効性)
週齢8週のSPF子ネコ5匹に、D0及びD28にRMB725でワクチン接種した。RB725は、凍結乾燥されたペレットを再構成することによって得た。RB725は、ネコ鼻気管炎(弱毒化FHV F2株)、カリシウイルス感染(不活化FCV G1/431抗原)、クラミジア症(クラミジア・フェリス種(Chlamydophila felis)の弱毒化905株)、感染性汎白血球減少症(弱毒化PLI IV株)に対するワクチンを含み、ネコ白血病(カナリア痘FeLV=vCP97)に対するワクチンを希釈剤としている。このワクチンは、各用量が2.67 log10 ELISA単位のFCV431/G1抗原を含有するように構成されていた。
【0158】
D56に、口腔鼻経路によって、ワクチン接種された子ネコ及び5匹の対照をFCV100869に曝露した。FCV100869−1は、ワクチン株とは抗原性の異なる高病原性株である。抗原曝露株は、力価6.0〜6.5 log10 CCID50/mlの懸濁液が得られるように生理食塩緩衝液(pH7.15)で希釈した。
【0159】
抗原曝露後に、臨床徴候、FCV排出、及びELISA抗体に関して、これらの子ネコをモニターした。臨床スコアは、European Pharmacopoeia Monograph No.1101に従って評価し、症状の強度を以下の通り定義した。
【0160】
【表4】
【0161】
抗原曝露の2、4、6、8、10、及び14日後(すなわち、D56、D58、D60、D62、D64、D66、及びD70)に咽頭スワブを収集した。スワブは、ウイルスの分離まで、抗生物質を豊富に含むF15培地(3mL培地/スワブ)中に−70℃で保存した。血液試料は、抗原曝露の日(D56)及び14日後(D70)に、乾いたチューブの表面に取得した。血清は、FCV抗体の力価測定まで−20℃で保存した。
【0162】
抗原曝露後に、すべての対照ネコが臨床徴候を発症した。対象動物のすべてで、口腔鼻潰瘍(5匹のうち3匹の対照で大型かつ多数、そして、5匹のうち2匹の対照で小型かつ少数)及び3日間(5匹のうち1匹の対照)又は6〜8日間(5匹のうち4匹の対照)持続する鼻漏が観察された。眼漏は、1匹のネコで記録された。加えて、1匹の対照ネコが抑うつ状態を示した。
【0163】
対照的に、ワクチン接種されたネコは、より軽度な臨床徴候を示した。詳細には、5匹のうち2匹のワクチン接種されたネコが、小型の口腔鼻潰瘍を発症し、ワクチン接種された残りのネコでは、いかなる大きさの潰瘍も発症しなかった。また、ワクチン接種されたネコは、1〜2日間(5匹のうち3匹のワクチン接種動物)又は4〜6日間(5匹のうち2匹のワクチン接種動物)持続するわずかな鼻漏を発症した。ワクチン接種されたネコに、眼漏を発症したネコはいなかった。
【0164】
5匹のうち3匹の対照において、抗原曝露の1〜6日後に1〜5回の別々の機会で高熱症が記録された。対照的に、ワクチン接種されたネコには高熱症を患うネコはいなかった。図5に示す通り、対照動物ではD61に高熱症がピークに達した。
【0165】
抗原曝露の1日前、並びに抗原曝露の4、8、10、12、及び14日後(すなわち、D55、D60、D64、D66、及びD70)に子ネコの体重を計量した。成長は抗原曝露にわずかにしか影響されておらず、正確な体重減少は、5匹のうち1匹のワクチン接種動物に対して、5匹のうち2匹の対照で記録された。平均では、対照動物の成長は、ワクチン接種動物の成長より遅かった。D70におけるワクチン接種されたネコの平均体重は、体重が記録されなかった1匹のワクチン接種されたネコを除外したため、過小評価され、対照より低く現れた。それにもかかわらず、相対的な毎日体重増は、図6に示す通り、ワクチン接種動物の方が、対照より高かった(8.8対7.2)。
【0166】
すべての対照ネコが、D60で高力価に達しD62から観測期間の終わりまで低下するFCV排出を示した。ワクチン接種動物では、D58にFCV排出がピークに達し、その後、低下し、D64からは、D70における1匹のネコを除いて、検出限界下になった。ウイルス排泄は、すべてのワクチン接種動物で観察されたが、2匹のワクチン接種動物では非常に低かった。平均では、図7に示す通り、対照におけるウイルス排出の方が、ワクチン接種動物より高く、より長期間持続した(曲線下面積の分散分析;p=0.007)。
【0167】
FCV抗体の産生に関してネコを評価し、ワクチン接種されたすべてネコでは2回目の注射の後にFCV抗体が産生されたが、対照では血清陰性のままであったと判定した。抗原曝露は、ワクチン接種では追加免疫効果を誘導し、対照ネコではFCV抗体の産生を誘導した。抗原曝露後における、群あたりの平均FCV抗体力価を図8に示す。
【0168】
総合的には、対照群の平均総合スコア(27.8)は、ワクチン接種群のスコア(6)より高かった(4.6×)(分散分析;p=0.01)。この相違は、主として口腔鼻潰瘍に連結するものであり、対照における口腔鼻潰瘍は、ワクチン接種動物よりはるかに重度であった。加えて、図9に示す通り、他のすべての臨床パラメータ(一般的状態、体重減少、高熱症、鼻漏、及び眼漏)のスコアも、ワクチン接種動物より、対照の方が高かった。したがって、RMB725ワクチンは、ワクチン接種されたネコを、FCV100869−1での抗原曝露から防御するのに成功したと結論することができる。
【実施例12】
【0169】
(FCV100869に対するM725ワクチンの有効性)
同じワクチンであるが、FCV抗原含量がより低いワクチン(2.67 log10 ELISA単位に対して、2.05 log10 ELISA単位/用量のFCV431/G1抗原)を用いて、実施例11を反復した。加えて、各群で用いる動物数を減少させた。その結果、この調査に含まれる動物数が少なくなっているので、統計分析は行わなかった。
【0170】
図10及び11に示す通り、抗原曝露が厳しいものであり、ワクチン中の抗原含量が少なかったのにもかかわらず、このワクチンの投与は、全身及び局所における臨床徴候を軽減した。2匹のうち1匹の対照が高病原性のFCV感染によって死亡したが、ワクチン接種されたネコは両方とも、抗原曝露に対して生き残った。
【0171】
この実験では、抗原曝露の厳しさが、接種物の力価に相関していた。高病原性の感染を誘導するのには、非常に高い力価が用いられた。これは、野外調査からの報告と一致しており、成体は、子ネコよりFCV高病原性株に感受性であるかもしれないと示唆している(同様な現象がウサギにおけるRHDVで報告されている)。したがって、これにより、高力価接種物による抗原曝露の存在下でさえ、このワクチン接種は、ワクチン接種されたネコで発症する症状を、対照ネコと比較して有意に軽減するのに十分であったことが示された。
【実施例13】
【0172】
(不活化及び安定化されたFCV100869の免疫原性)
週齢8週のSPF(特定病原体不在)子ネコ18匹が、無作為に、6匹の動物からなる3群に分けられるであろう。
【0173】
不活化及び安定化されたFCV100869ウイルス(03.0699.Pに記載の通りに取得された)をpH7.1の生理水中に希釈する。ワクチンAは、1ml用量あたり、不活化の前には、FCVの粗培養物5mlと同等なウイルス量を含有している。ワクチンBは、0.4ml用量あたり、不活化の前には、FCVの粗培養物5mlと同等なウイルス量を含有している。
【0174】
A群の子ネコには、D0及びD28のそれぞれに、1用量のワクチンAを与える。これらの投与は、注射器及び注射針を用いて皮下に行う。B群の子ネコには、D0及びD28のそれぞれに、1用量のワクチンBを与える。これらの投与は、無針注射器であるVitajet(登録商標)によって行う。C群の子ネコは、対照動物として、ワクチン接種されないままにしておく。
【0175】
56日目に、すべての子ネコ(ワクチン接種されたもの及びワクチン接種されていないもの)を、口腔鼻経路によって、高病原性の異種FCV株(FCV94580株)に抗原曝露する。(1鼻孔あたり0.25mlそして経口的に0.5ml、106.0 CCID50/ml)。
【0176】
抗原曝露後2週間にわたって、抗FCV中和抗体、動物の体重、直腸温、一般的状態、全身及び局所症状、並びにウイルス排出を観察する。
【0177】
総合スコアの計算に使用する採点は以下の通りである。
【0178】
【表5】
【0179】
添付されている特許請求の範囲によって定義される本発明は、上記の記述が示す特定の実施形態に限定されず、本発明の趣旨及び範囲から逸脱しない変更形態も包含することをはっきりと理解するべきである。
【図面の簡単な説明】
【0180】
【図1】実施例4に記載の交差中和で得られた中和力価を示す図である。
【図2】抗p66(FCV431)モノクローナル抗体の使用による、単離株のIFAプロフィールを示す図である。モノクローナル抗体44はFCV431に対して特異的である。
【図3A】実施例10に記載の交差中和で得られた中和力価を示す図である。
【図3B】実施例10に記載の交差中和で得られた中和力価を示す図である。
【図4】各FCV株によって血清中和された異種単離株のパーセントを図とグラフとの両方の形態で示す図である。
【図5】FCV100869に曝露された後のネコの体温変化を示すグラフである。
【図6】FCV100869に曝露された後のネコの体重変化を示すグラフである。
【図7】FCV100869に曝露された後のネコの感染力価を示すグラフである。
【図8】FCV100869に曝露される前後のネコのFCV抗体変化を示すグラフである。
【図9】FCV100869に曝露された後の症状の罹患率を要約するグラフである。
【図10】FCV100869に曝露された後のワクチン接種動物及び対照動物の総臨床スコアを示すグラフである。
【図11】FCV100869に曝露された後のワクチン接種動物及び対照動物の臨床スコアを示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
獣医学的に許容される媒体又は賦形剤と、少なくとも1種の単離ネコカリシウイルスとを含む免疫原性組成物又はワクチン組成物であって、前記少なくとも1種のネコカリシウイルスが、FCV431、FCV G1、FCV RMI6、FCV RMI9、FCV100869、FCV94580、FCV33585、FCV89391、FCV88287、及びその等価物からなる群から選択される、免疫原性組成物又はワクチン組成物。
【請求項2】
FCVが不活化されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
アクセッション番号PTA5930でATCCに寄託されている単離ネコカリシウイルス株100869を含むか、或いはアクセッション番号I−2166でCNCMに寄託されている単離カリシウイルス株431と、アクセッション番号I−2167でCNCMに寄託されている単離ネコカリシウイルス株G1とを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
ネコカリシウイルス株431及びG1を含み、高病原性ネコカリシウイルス株に対する免疫反応を付与するか、或いは株100869を含む高病原性ネコカリシウイルス株に対する免疫反応を付与する、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
ワクチンである、請求項1の組成物。
【請求項6】
アジュバントをさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
アクセッション番号I−2166でCNCMに寄託されている単離ネコカリシウイルス(FCV)株431と、獣医学的に許容される媒体又は賦形剤と、少なくとも1種の他のネコ病原体に対する少なくとも1結合価とを含む免疫原性組成物又はワクチン組成物。
【請求項8】
アクセッション番号I−2167でCNCMに寄託されている単離ネコカリシウイルス株G1をさらに含む、請求項7に記載の免疫原性組成物。
【請求項9】
少なくとも1種の高病原性ネコカリシウイルス株に対する免疫反応を付与する、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
高病原性ネコカリシウイルスが株100869である、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
FCVが不活化されている、請求項7に記載の組成物。
【請求項12】
ワクチンである、請求項7に記載の組成物。
【請求項13】
アジュバントをさらに含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項14】
他のネコ病原体が、ネコヘルペスウイルス(FHV)、ネコ白血病ウイルス(FeLV)、ネコ汎白血球減少症ウイルス(FPV)、ネコ伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、狂犬病ウイルス、及びクラミジアからなる群から選択される、請求項7に記載の免疫原性組成物。
【請求項15】
請求項14に記載の免疫原性組成物を含む多価ワクチン接種キット。
【請求項16】
FCV、及び少なくとも1種の他のネコ病原体に対する少なくとも1結合価が別々に包装されている、請求項15に記載のキット。
【請求項17】
高病原性ネコカリシウイルスに対してネコを免疫化する方法であって、獣医学的に許容される媒体又は賦形剤と、少なくとも1種の単離ネコカリシウイルスとを含む免疫原性組成物又はワクチン組成物を投与するステップを含み、前記少なくとも1種のネコカリシウイルスが、FCV431、FCV G1、FCV RMI6、FCV RMI9、FCV100869、FCV94580、FCV33585、FCV89391、FCV88287、及びその等価物からなる群から選択される方法。
【請求項18】
組成物を少なくとも2回投与する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
FCVが不活化されている、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
組成物が、アクセッション番号I−2166でCNCMに寄託されている単離ネコカリシウイルス(FCV)株431と、アクセッション番号I−2167でCNCMに寄託されている単離ネコカリシウイルス株G1とを含むか、或いは組成物が、アクセッション番号PTA5930でATCCに寄託されている単離ネコカリシウイルス株100896を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項1】
獣医学的に許容される媒体又は賦形剤と、少なくとも1種の単離ネコカリシウイルスとを含む免疫原性組成物又はワクチン組成物であって、前記少なくとも1種のネコカリシウイルスが、FCV431、FCV G1、FCV RMI6、FCV RMI9、FCV100869、FCV94580、FCV33585、FCV89391、FCV88287、及びその等価物からなる群から選択される、免疫原性組成物又はワクチン組成物。
【請求項2】
FCVが不活化されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
アクセッション番号PTA5930でATCCに寄託されている単離ネコカリシウイルス株100869を含むか、或いはアクセッション番号I−2166でCNCMに寄託されている単離カリシウイルス株431と、アクセッション番号I−2167でCNCMに寄託されている単離ネコカリシウイルス株G1とを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
ネコカリシウイルス株431及びG1を含み、高病原性ネコカリシウイルス株に対する免疫反応を付与するか、或いは株100869を含む高病原性ネコカリシウイルス株に対する免疫反応を付与する、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
ワクチンである、請求項1の組成物。
【請求項6】
アジュバントをさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
アクセッション番号I−2166でCNCMに寄託されている単離ネコカリシウイルス(FCV)株431と、獣医学的に許容される媒体又は賦形剤と、少なくとも1種の他のネコ病原体に対する少なくとも1結合価とを含む免疫原性組成物又はワクチン組成物。
【請求項8】
アクセッション番号I−2167でCNCMに寄託されている単離ネコカリシウイルス株G1をさらに含む、請求項7に記載の免疫原性組成物。
【請求項9】
少なくとも1種の高病原性ネコカリシウイルス株に対する免疫反応を付与する、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
高病原性ネコカリシウイルスが株100869である、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
FCVが不活化されている、請求項7に記載の組成物。
【請求項12】
ワクチンである、請求項7に記載の組成物。
【請求項13】
アジュバントをさらに含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項14】
他のネコ病原体が、ネコヘルペスウイルス(FHV)、ネコ白血病ウイルス(FeLV)、ネコ汎白血球減少症ウイルス(FPV)、ネコ伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、狂犬病ウイルス、及びクラミジアからなる群から選択される、請求項7に記載の免疫原性組成物。
【請求項15】
請求項14に記載の免疫原性組成物を含む多価ワクチン接種キット。
【請求項16】
FCV、及び少なくとも1種の他のネコ病原体に対する少なくとも1結合価が別々に包装されている、請求項15に記載のキット。
【請求項17】
高病原性ネコカリシウイルスに対してネコを免疫化する方法であって、獣医学的に許容される媒体又は賦形剤と、少なくとも1種の単離ネコカリシウイルスとを含む免疫原性組成物又はワクチン組成物を投与するステップを含み、前記少なくとも1種のネコカリシウイルスが、FCV431、FCV G1、FCV RMI6、FCV RMI9、FCV100869、FCV94580、FCV33585、FCV89391、FCV88287、及びその等価物からなる群から選択される方法。
【請求項18】
組成物を少なくとも2回投与する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
FCVが不活化されている、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
組成物が、アクセッション番号I−2166でCNCMに寄託されている単離ネコカリシウイルス(FCV)株431と、アクセッション番号I−2167でCNCMに寄託されている単離ネコカリシウイルス株G1とを含むか、或いは組成物が、アクセッション番号PTA5930でATCCに寄託されている単離ネコカリシウイルス株100896を含む、請求項17に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2008−528504(P2008−528504A)
【公表日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−552308(P2007−552308)
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【国際出願番号】PCT/US2006/002168
【国際公開番号】WO2006/078975
【国際公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(304040692)メリアル リミテッド (73)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【国際出願番号】PCT/US2006/002168
【国際公開番号】WO2006/078975
【国際公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(304040692)メリアル リミテッド (73)
【Fターム(参考)】
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