説明

ネジの収容ケース及びネジの取出管理システム

【課題】航空機などの組立工程に含まれる締付作業に際して、複数種のネジの中から不適正なネジを取り出した場合に、これを正確に作業者に報知する。
【解決手段】締付作業時に使用される複数種のネジWを収容する持ち運び可能なネジの収容ケース2であって、複数種のネジWの種類に対応した専用の収容部6と、それぞれの収容部6に収容されたネジWの取り出しを検知するセンサと、各センサによって検知された結果を無線送信する送信器10とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機の組立工程などで、構成部品を締め付けて取り付ける際に利用される複数種のネジを収容するネジの収容ケース、及び、この収容ケースを用いたネジの取出管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、航空機などの組立工程(製造時および保守点検時の両方を含む。以下、同様。)では、例えば特許文献1に開示されているようなトルクレンチを使用して、作業者が各構成部品をネジ(ボルトを含む。以下、同様。)によって設定トルクまで締め付ける締付作業が組立工程の大部分を占める。
【0003】
この締付作業では対象となる航空機等の構成部品も多岐に亘りその締付態様も多様であることから、当該作業で使用されるネジも一種のみから構成されるものではなく、軸部の直径や長さ等の異なる複数種から構成されるのが通例である。
【0004】
また、航空機等の組立工程では、締付作業の対象現場が広範な範囲に亘るため、作業者は、予め組付作業に必要となる複数種のネジが一緒に収容された籠を持ち運んでいるのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−246661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、籠に複数種のネジを一緒に収容しただけでは、籠から作業指示書などに記載の適正なネジを取り出す際に、作業者が目視によって適正なネジを判別して取り出す必要がある。しかしながら、このような場合には、作業者が籠から適正なネジとは異なるネジを誤って取り出してしまうことがある。
【0007】
そして、このように誤った異種のネジを取り出した場合、その誤りに気付けば特に問題となることはないが、その誤ったネジで航空機の構成部品の締付作業をそのまま行った場合には、事後的にネジの緩みや強度不足が生じるおそれがあるので問題となる。
【0008】
以上の実情に鑑み、本発明は、航空機などの組立工程に含まれる締付作業に際して、複数種のネジの中から不適正なネジを取り出した場合に、これを正確に作業者に報知することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために創案された本発明に係るネジの収容ケースは、締付作業時に使用される複数種のネジを収容する持ち運び可能なネジの収容ケースであって、前記ネジの種類に対応した専用の収容部と、それぞれの前記収容部に収容された前記ネジの取り出しを検知するセンサと、該センサによる検知結果を含む情報を送信する送信器とを備えていることに特徴づけられる。
【0010】
このような構成によれば、複数種のネジは、それぞれの種類に対応した専用の収容部に収容される。そして、作業者が誤ったネジを収容部から取り出すと、誤ったネジが収容されていた収容部からはネジがなくなり、本来取り出すべきネジは収容部に残存したままとなる。そのため、各収容部に収容されたネジの取り出しをセンサで検知することで、作業者によって適正なネジが取り出されたか否かを正確に判断することができる。したがって、センサで検出された結果を送信器で送信すれば、複数のネジの中から不適正なネジが取り出された場合であっても、その送信情報に基づいて作業者に正確な報知を行うことができる。
【0011】
上記の構成において、前記収容部が、前記ネジの輪郭と係合する係合凹部により形成されていてもよい。
【0012】
このようにすれば、ネジの輪郭と収容部は係合するので、収容部に対してネジが小さいときには、ネジと収容部は係合せず、それとは反対に収容部に対してネジが大きいときには、収容部内にネジを収容できなくなる。したがって、締付作業を行う前の準備段階で各収容部に対応したネジを収容する際に、誤ったネジを収容部に収容するという事態を未然に防止することができる。
【0013】
上記の構成において、前記収容部が、前記ネジを弾性復元力により保持可能な弾性材料により形成されていることが好ましい。
【0014】
このようにすれば、収容ケースの中で各種ネジがそれぞれに対応した専用の収容部に確実に保持されるので、持ち運び時にネジが収容部から離脱することがなく、持ち運びに便利である。また、ネジは、収容部の弾性復元力により保持されているので、ネジの取出時に収容部とネジとの間に手を挿入すれば、収容部が適宜変形するので、ネジの取出作業を円滑に行うこともできる。
【0015】
上記の構成において、枠体と、該枠体の内部にスライド自在に収容される複数段の引出部とを備え、前記収容部が前記引出部に設けられていてもよい。
【0016】
このようにすれば、収容ケース内に設けられる収容部の数を大幅に増やすことができるので、ネジの収容効率を向上させることが可能となる。また、収容部が設けられた引出部は、スライド自在に枠体に収容されているので、ネジの取出作業も円滑に行うことができる。
【0017】
上記課題を解決するために創案された本発明に係るネジの収容ケースは、締付作業時に使用される複数種のネジを収容する持ち運び可能なネジの収容ケースであって、前記ネジのそれぞれに取り付けられた無線ICタグと、該無線ICタグに含まれるID情報を読み取って前記ネジの取り出しを検知するICダグリーダと、該ICタグリーダによる検知結果を含む情報を送信する送信器とを備えていることに特徴づけられる。
【0018】
このような構成によれば、個々のネジに無線ICタグが取り付けられているので、この無線ICタグを収容ケースに取り付けられたICタグリーダで順次読み取ることで、収容ケース内に収容されているネジを正確に把握することができる。すなわち、作業者が誤ったネジを収容ケースから取り出すと、ICタグリーダで誤ったネジのID情報が読み取れなくなるが、本来取り出すべきネジのID情報は依然として読み取ることが可能な状態となる。そのため、ICタグリーダの検知結果に基づいて作業者によって適正なネジが取り出されたか否かを正確に判断することができる。したがって、ICタグリーダの検知結果を送信器で送信すれば、複数のネジの中から不適正なネジが取り出された場合であっても、その送信情報に基づいて作業者に正確な報知を行うことができる。
【0019】
上記課題を解決するために創案された本発明に係るネジの取出管理システムは、上記の構成を適宜備えたネジの収容ケースと、該ネジの収容ケースの前記送信器から送信された情報に基づいて各々の前記収容部における前記ネジの取り出しを管理すると共に、誤った前記ネジが取り出されたときに報知情報を出力する管理装置とを備えていることに特徴づけられる。
【0020】
このような構成によれば、既に段落0010や、段落0018で述べた作用効果を同様に享受することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように本発明によれば、航空機などの組立工程に含まれる締付作業に際して、複数種のネジの中から不適正なネジを取り出した場合に、これを正確に作業者に報知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係るネジの取出管理システムの概略構成を示す図である。
【図2】図1に示すネジの取出管理システムに組み込まれるネジの収容ケースの概略構成を示す図である。
【図3】図2のA−A断面図であって、収容部に設置されたセンサを説明する図である。
【図4】図3に示すセンサの変形例を示す断面図である。
【図5】本実施形態に係るネジの取出管理システムによるネジの取出管理手順を示すフローである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を添付図面を参照して説明する。
【0024】
図1は、本発明の第1の実施形態に係るネジの取出管理システムの概略構成を示す図である。同図に示すように、このネジの取出管理システム1は、航空機の組立工程で使用される複数種のネジWが収容された収容ケース2と、収容ケース2内のネジWの収容状態を管理する管理装置3とを備えている。
【0025】
収容ケース2は、図2に示すように、枠体4と、この枠体4の内部にスライド自在に収容される複数段からなる引出部5とを備えている。各引出部5には、複数種のネジWのそれぞれに対応した専用の収容部6が設けられている。すなわち、ネジWと収容部6が1対1の関係で設けられており、1つの収容部6に1つのネジWが収容されている。各収容部6は、その収容部6に収容されるネジWの輪郭に係合する係合凹部から構成されている。この実施形態では、収容部6は、ネジWの頭部Waと係合する係合凹部と、ネジWの軸部Wbと係合する係合凹部とから構成されており、ネジWはその軸部Wbを横向きに寝かせた状態(略水平姿勢)で収容されている。このようにすれば、引出部5を枠体4から引き出した状態でネジWの外観を一見して把握しやすくなる。なお、図示しないが、各収容部6の近傍には、各収容部6のアドレスを示す情報が付されている。
【0026】
上方が開口した箱状の引出部本体5aの内部には、上方側からスポンジなどの弾性部材7が嵌め込まれており、この弾性部材7に形成された係合凹部により収容部6が構成されている。そのため、収容部6は、対応するネジWを弾性復元力により保持可能となっている。
【0027】
収容部6の各々には、図3に示すように、ネジWの取り出しを検知するセンサ8が設けられている。このセンサ8は近接スイッチにより構成されており、ネジWの有無による電界や磁界の変化を検知して、収容部6からネジWが取り出されたか否かを検知するようになっている。なお、センサ8は、近接スイッチに限定されるものではなく、例えば、図4に示すように、投光器8aと受光器8bとからなる光電スイッチにより構成してもよい。この場合、センサ8は、ネジWの有無による光量の変化に基づいて収容部6にネジWが収容されているか否かを検知する。また、センサ8として光電スイッチを使用する場合には、収容部6の一部又は全部が透明部材9で形成するか、或いは、投光器8aの投光面及び受光器8bの受光面を収容部6の収容空間に露出させる。さらに、光電スイッチとしては、上記のような透過型に限らず、反射型や輻射型も使用することができる。また、センサ8としては、その他にも、例えば、各収容部6に収容されているネジWの重さの変化に基づいてネジWの取り出しを検知する重量センサなどを使用することもできる。
【0028】
収容ケース2の枠体4には、送信器10が取り付けられている。この送信器10は、各センサ8から検知結果を有線又は無線で取得するとともに、その取得した各センサ8からの検知結果を含む情報S1を管理装置3に送信するようになっている。
【0029】
一方、管理装置3は、図1に示すように、管理コンピュータ11と、作業者が携帯する携帯情報端末(PDA)12とを備えている。
【0030】
管理コンピュータ11は、収容ケース2(送信器10)から送信されるセンサ8の検知結果を示す情報S1を受信可能となっており、そのセンサ8の検知結果を示す情報S1に基づいて各々の収容部6におけるネジWの有無を管理するようになっている。この管理コンピュータ11による管理手順の詳細は次の通りである。
【0031】
図5に示すように、まず、ステップ101で、管理コンピュータ11は、航空機の組立手順に従って携帯情報端末12に作業者が収容ケース2から取り出すべきネジWの情報(対象のネジWが収容された収容部6のアドレスを含む。)S2を送信する。次に、ステップ102で、管理コンピュータ11は、センサ8の検知結果を示す情報S1を受信する。そして、ステップ103で、管理コンピュータ11は、送信した情報S1が示す取り出しを指示したネジWと、受信した情報S2が示す実際に取り出されたネジWとが一致するか否かを判定する。その結果、両情報S1,S2が示すネジWが一致しない場合には、誤ったネジWが取り出されたことになるので、ステップ104で、管理コンピュータ11の送信器10から携帯情報端末12に報知情報S3を送信し、携帯情報端末12を介して作業者に報知する。一方、ステップ103で、両情報S1,S2が一致した場合には、上記のステップ101〜103を繰り返し、締付作業中におけるネジWの取出状態の管理を継続して行う。なお、携帯情報端末12から作業者に報知する手法としては、携帯情報端末12に所定の情報を表示して視覚的に報知する手法や、携帯情報端末12から音を出して聴覚的に報知する手法、或いはこれら2つを併用して報知する手法などが挙げられる。
【0032】
以上のように、第1の実施形態に係るネジの取出管理システム1によれば、航空機などの組立工程に含まれる締付作業に際して、作業者が複数種のネジWの中から不適正なネジWを取り出した場合であっても、これを正確に作業者に報知することが可能となる。したがって、作業者が誤ったネジWを取り出した場合でもそのネジWで航空機の構成部品の締付作業がそのまま行われることがなく、締付作業の信頼性を大幅に向上させることができる。
【0033】
なお、上記の第1の実施形態では、1つの収容部6に1つのネジWを収容する場合を説明したが、1つの収容部6に同種のネジWを複数収容するようにしてもよい。この場合、収容部6からのネジWの取り出しを検知するセンサ8としては、例えば、収容部6に収容されているネジWの重量の変化に基づいて、ネジWの取り出しを検知する重量センサなどが利用できる。このように重量センサを利用すれば、1つの収容部6に複数のネジWを収容する場合でも、1つのセンサ8だけでネジWの取り出しを検知することができる。
【0034】
また、上記の第1の実施形態では、管理コンピュータ11から携帯情報端末12に一方向通信を行う場合を説明したが、両者11,12の間で双方向通信を行ってもよい。すなわち、例えば、携帯情報端末12に所定の情報を読み取り可能なカメラを設け、当該カメラで作業指示書などに記載されたネジWの情報を読み取り、これを管理コンピュータ11に送信するようにしてもよい。このようにすれば、作業者の締付作業の進捗状態を正確に把握することができるので、ネジWの取出状況をより正確に管理することができる。
【0035】
さらに、上記の第1の実施形態では、収容ケース2と管理装置3を別体で構成したが、収容ケース2自体に管理装置3と同等の機能を内蔵させて両者を一体化してもよい。
【0036】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。この第2の実施形態が、上記の第1の実施形態と相違する点は、ネジの収容ケースの構成にある。すなわち、第2の実施形態に係る収容ケースは、図示は省略するが、ネジのそれぞれに取り付けられた超小型(例えば、縦横及び厚みがμmオーダ)の無線ICタグ(例えば、日立製作所製のミューチップ)と、この無線ICタグに含まれるID情報を読み取ってネジの有無を検知するICダグリーダと、このICタグリーダによる検知結果を含む情報を送信する送信器とを備えている。なお、この実施形態では、収容ケースにおけるネジの一つの収容部に、複数のネジが一緒に収容されている。また、各ネジに取り付けられた無線ICタグに含まれるID情報は、それぞれのネジによって異なるようにしている。
【0037】
このようにすれば、個々のネジに無線ICタグが取り付けられているので、この無線ICタグを収容ケースに取り付けられたICタグリーダで順次読み取ることで、収容ケース内に収容されているネジを正確に把握することができる。すなわち、作業者が誤ったネジを収容ケースから取り出すと、ICタグリーダで誤ったネジのID情報が読み取れなくなるが、本来取り出すべきネジのID情報は依然として読み取り可能状態が維持される。そのため、ICタグリーダの検知結果に基づいて作業者によって適正なネジが取り出されたか否かを正確に判断することができる。したがって、ICタグリーダの検知結果を送信器で送信すれば、複数のネジの中から不適正なネジが取り出された場合であっても、その送信情報に基づいて作業者に正確な報知を行うことができる。
【0038】
なお、上記の第2の実施形態において、収容ケースにおけるネジの収容部を金属板などの導電体で取り囲んで遮蔽し、且つ、この遮蔽した収容部の内部空間に面するようにICタグリーダを配置してもよい。このようにすれば、無線ICタグによる電波の送信範囲が収容部内に限定されるとともに、ICタグリーダの読み取り可能範囲も収容部内に限定されるので、ネジの取り出しをより正確に検知することが可能となる。
【符号の説明】
【0039】
1 取出管理システム
2 収容ケース
3 管理装置
4 枠体
5 引出部
5a 引出部本体
6 収容部
7 弾性部材
8 センサ
9 透明部材
10 送信器
11 管理コンピュータ
12 携帯情報端末
W ネジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
締付作業時に使用される複数種のネジを収容する持ち運び可能なネジの収容ケースであって、
前記ネジの種類に対応した専用の収容部と、それぞれの前記収容部に収容された前記ネジの取り出しを検知するセンサと、該センサによる検知結果を含む情報を送信する送信器とを備えていることを特徴とするネジの収容ケース。
【請求項2】
前記収容部が、前記ネジの輪郭と係合する係合凹部により形成されている請求項1に記載のネジの収容ケース。
【請求項3】
前記収容部が、前記ネジを弾性復元力により保持可能な弾性材料により形成されている請求項2に記載のネジの収容ケース。
【請求項4】
枠体と、該枠体の内部にスライド自在に収容される複数段からなる引出部とを備え、前記収容部が前記引出部に設けられている請求項1〜3のいずれか1項に記載のネジの収容ケース。
【請求項5】
締付作業時に使用される複数種のネジを収容する持ち運び可能なネジの収容ケースであって、
前記ネジのそれぞれに取り付けられた無線ICタグと、該無線ICタグに含まれるID情報を読み取って前記ネジの取り出しを検知するICダグリーダと、該ICタグリーダによる検知結果を含む情報を送信する送信器とを備えていることを特徴とするネジの収容ケース。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のネジの収容ケースと、該ネジの収容ケースの前記送信器から送信された情報に基づいて各々の前記収容部における前記ネジの取り出しを管理すると共に、誤った前記ネジが取り出されたときに報知情報を出力する管理装置とを備えていることを特徴とするネジの取出管理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−195466(P2010−195466A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46041(P2009−46041)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000177128)三洋機工株式会社 (35)
【Fターム(参考)】