説明

ネジ無し送り装置

【課題】均等な圧接力を付与すると共に回転体での動力伝達の効率を向上させ、滑らかな直線運動が実現されるネジ無し送り装置を提供する。
【解決手段】ネジ無し送り装置10は、リニアシャフト1とホルダー2とを備え、ホルダー2には、リニアシャフト1の円周方向に沿って等しい間隔で配列すると共に貫通孔20に露出させてリニアシャフト1の軸線方向に対して斜めに傾けた状態でリニアシャフト外周面に当接させる複数のベアリング3が軸支される。ホルダー2には、リニアシャフト1の軸線方向に切り込まれて半径方向に周壁全域を開削した1個のスリ割21を隣接するベアリング3A,3B間の中間位置に設け、このスリ割21部分の直交方向に加圧ボルト5を取り付けて加圧ボルト5を締め込んでスリ割21間隔を狭めることでホルダー2の貫通孔02を略全周的に縮径させて各ベアリング3をリニアシャフト1に圧接させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リニアシャフトとこれに挿通するホルダーとの相対的な回転運動を直線運動に変換するネジ無し送り装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のネジ無し送り装置としては、例えば、図4、図5に示すものがある。
図4(a)(b)に示すものは、円柱状の無ねじシャフト142を調整ブロック146と取付けブロック144との間に形成する湾曲ボア157内に貫通させ、シャフト142の軸線に対して斜めに配置してシャフト外周面に当接させるローラベアリング160,162を調整ブロック146の各端に2個ずつ(160B,160C,162B,162C)設けると共に取付けブロック144の各端に1個ずつ(160A,162A)設け、調整ブロック146と取付けブロック144は、ばね150を介在したねじ148により保持されて調整ブロック146を取付けブロック144に向かってシャフト142に垂直な方向に押し付ける可変圧縮力を付与し、各ブロック144,146とシャフト142との間に可変摩擦力を作用させるように構成したものである(特許文献1)。これによると、シャフト142を回転させると、各ローラベアリング160,162がシャフト142の螺旋方向に転動してブロック144,146をシャフト142の軸線方向に移動させる。そして、このものでは、調整ブロック146と取付けブロック144とをばね150を介在したねじ148により可変圧縮するので、各ブロック144,146のシャフト142への取付け時に生じる誤差をほとんど無くすことができる。
【0003】
図5に示すものは、円柱状のリニアシャフト201を移動ブロック204の管穴部241に挿通させ、この移動ブロック204の管穴部241にはリニアシャフト外周面202に斜めに当接する複数のローラ203がリニアシャフト201を取り巻くように嵌合され、ローラ203は両端を中央部の径より大きくした鼓形としリニアシャフトと2点A,Bで接触するようにし、且つリニアシャフト201を軸方向D(E)から加圧してリニアシャフト外周面202と鼓形のローラ203との一方の接点A(B)における鼓形ローラ203に対する予圧をリニアシャフト201の軸線に沿って付与するようにしたものである(特許文献2)。これによると、リニアシャフト201に対して、ローラ203各1個につき2点A,Bで接触するので、リニアシャフト201とローラ203との間での滑りを少なくでき、このことにより、送り精度が向上し、より高い再現性、高忠実性及び高推力が得られ、また、リニアシャフト201とローラ203との間を当接させるための予圧をリニアシャフト201の軸線上からの加圧により実現することで、バネ等による弾性的な予圧付与手段を移動ブロック204に配設することが不要となり、構造が簡素で小型軽量化が容易となる。
【特許文献1】特開平2−85551号公報
【特許文献2】特開2004−263840号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図4の従来例の構成によると、一対のブロック144,146を接近させるように圧縮力を付与することでローラベアリング160,162をシャフト142に圧接させているが、この場合、すべてのローラベアリング160,162においてシャフト外周面に対する垂直方向(シャフト142の半径方向)からの圧接力を均等に加えることができない。すなわち、ねじ148の締め付けによる圧縮力の方向がシャフト142の軸中心に向かうように配置されたローラベアリング160A(162A)と、そのように配置されていないローラベアリング160B,160C(162B,162C)とでは、シャフト外周面の直角方向に対する圧接力の大きさが異なってくる。そのため、各ローラベアリング160A,160B,160C(162A,162B,162C)のシャフト142への各接点における圧接力に差が生じ、その結果、シャフト142とローラベアリング160,162間の力の伝達において各ローラベアリング160A,160B,160C(162A,162B,162C)毎にバラツキが生じ、シャフト142とローラベアリング160,162間の力の伝達効率が悪く、ブロック144,146を滑らかに直線運動させるのが難しいものであった。
【0005】
図5の従来例の構成によると、ローラ203を鼓形とし、リニアシャフト201に軸方向D(E)から加圧するので、各ローラ203によるリニアシャフト201への圧接力に差が生じることはないものの、鼓形ローラ203の加圧方向がリニアシャフト201の軸線方向であるのに対して、リニアシャフト201から鼓形ローラ203への動力伝達方向がリニアシャフト201の半径方向(リニアシャフト外周面202の垂直方向)であるため、鼓形ローラ203においては軸線方向から半径方向への力の伝達となり、リニアシャフト201と鼓形ローラ203間の力の伝達効率が悪いものであった。しかも、リニアシャフト201を軸方向から加圧すると、鼓形ローラ203は実質的にリニアシャフト201と1点(点Aか、点Bのどちらか)でのみ接触するため、この技術でいう鼓形ローラ203の1個につき2点A,Bで接触させることでリニアシャフト201と鼓形ローラ203との間での滑りを少なくすることの利点が失われる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、均等な圧接力を付与すると共に回転体での動力伝達の効率を向上させ、滑らかな直線運動が実現されるネジ無し送り装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係るネジ無し送り装置は、
リニアシャフトとこれに挿通するホルダーとの相対的な回転運動を直線運動に変換するネジ無し送り装置であって、
上記リニアシャフトは、外周面が平滑で円柱状に形成されて上記ホルダーの貫通孔に挿通され、
上記ホルダーには、リニアシャフトの円周方向に沿って配列すると共に上記貫通孔に露出させてリニアシャフトの軸線方向に対して斜めに傾けた状態でリニアシャフト外周面に当接させる少なくとも3個の円柱状又は円筒状の回転体を設け、且つ上記貫通孔を縮径させて各回転体をリニアシャフトに圧接させるホルダー縮径手段を設けたことを特徴とするものである(請求項1)。
【0008】
これによれば、ホルダー縮径手段によってホルダーの貫通孔を略全周的に縮径させて各回転体をリニアシャフトに圧接させることができ、リニアシャフト外周面に当接する各回転体の圧接力を均等に作用させることができる。なお、各回転体は、円柱状又は円筒状に形成されて回転体の中央位置でリニアシャフト外周面と点接触するので、回転体がその回転によって傾こうとすることもない。従って、各回転体間でのリニアシャフト外周面に対する圧接力に差が生じることがないから、リニアシャフトと回転体間での動力伝達の効率を向上させ、滑らかな直線運動を実現することができる。また、ホルダー縮径手段によるホルダー貫通孔の略全周的な縮径の割合を任意に設定することで、リニアシャフトと各回転体との各接点において作用する圧接力の大きさを容易に調整することができる。
【0009】
(2)本発明に係るネジ無し送り装置は、
リニアシャフトとこれに挿通するホルダーとの相対的な回転運動を直線運動に変換するネジ無し送り装置であって、
上記リニアシャフトは、外周面が平滑で円柱状に形成されて上記ホルダーの貫通孔に挿通され、
上記ホルダーには、貫通孔まわりの周壁に同心円上に配列しリニアシャフトの軸線方向に対して斜めに傾けた少なくとも3箇所の保持穴が形成され、各保持穴にリニアシャフトの軸線方向に対して斜めに傾けた状態でリニアシャフト外周面に当接させる円柱状又は円筒状の回転体が軸支され、且つリニアシャフトの軸線方向に切り込まれて貫通孔からホルダー外周面に至る半径方向に周壁全域を開削した1個のスリ割を隣接する回転体間の中間位置に設け、このスリ割部分の直交方向に加圧ボルトを取り付けてこの加圧ボルトを締め込んでスリ割間隔を狭めることでホルダーの貫通孔を縮径させて各回転体をリニアシャフトに圧接させるようにしたことを特徴とするものである(請求項2)。
【0010】
これによれば、加圧ボルトを締め込むだけで簡単にホルダーの貫通孔を略全周的に縮径させてホルダーに配置した各回転体をリニアシャフト外周面に対して略等しく圧接させることができる。従って、リニアシャフトとリニアシャフト外周面に当接する各回転体との各接点における圧接力を均等に作用させることを一層容易に実現することができる。各回転体は、円柱状又は円筒状に形成されているので、リニアシャフト外周面には回転体の中央位置で点接触することとなり、回転体がその回転によって傾こうとすることもない。従って、各回転体間でのリニアシャフト外周面に対する圧接力に差が生じることがないから、リニアシャフトと回転体間での動力伝達の効率を向上させ、滑らかな直線運動を実現することができる。また、加圧ボルトの締め込み量によってホルダー貫通孔の略全周的な縮径の割合を任意に設定することができ、リニアシャフトと各回転体との各接点において作用する均等な圧接力を容易に調整することができる。
【0011】
(3)上記ネジ無し送り装置(請求項2)において、上記ホルダーには、リニアシャフトの軸線方向に切り込んで周壁を開削したスリットを設けてもよい(請求項3)。
これによれば、加圧ボルトを締め込む際にスリットの閉塞端となる周壁が撓み部となって撓んでスリット間隔が変化するので、ホルダー自体の剛性によって貫通孔の縮径が阻害されない。従って、加圧ボルトの締め込みによる貫通孔の縮径に対する融通性が発揮され、また、加圧ボルトの締め込み量に対するリニアシャフトと回転体との圧接力の調整可能な範囲を大きくすることができる。
【0012】
(4)上記ネジ無し送り装置(請求項1乃至3のいずれか)において、上記回転体をリニアシャフトの軸線方向に2列以上配置してもよい(請求項4)。
これによれば、回転体による動力伝達の推進力を大きくすることができる。
なお、回転体を2列以上配置するには、1つのホルダーに回転体を2列以上設けるようにしてもよいし、回転体を1列又は複数列に設けるホルダーを複数個重ねて設けるようにしてもよい。
【0013】
(5)上記ネジ無し送り装置(請求項1乃至4のいずれか)において、上記ホルダー又は上記リニアシャフトには、リニアシャフト又は回転体に潤滑油を供給する含油層を設けてもよい(請求項5)。
これによると、リニアシャフトと回転体の間に潤滑油を供給することができるので、リニアシャフトと回転体とが摩擦接触する接点部分の摩耗を防止することができる。潤滑油がトラクションオイルの場合には、リニアシャフトと回転体とが摩擦接触する接点部分に導入されたトラクションオイルに作用する剪断力により、トラクションオイルのトラクション係数が増加してリニアシャフトと回転体との間の動力伝達効率がさらに向上する。
【発明の効果】
【0014】
(1)請求項1に係る発明によれば、ホルダー縮径手段によって各回転体間でのリニアシャフト外周面に対する圧接力を均等に作用させることができ、リニアシャフトと各回転体間での動力伝達にバラツキが生じることがなく均等となって動力伝達効率が向上し、滑らかな直線運動が実現される。従って、送り精度を向上させ、高再現性及び高推力を得ることができる。しかも、ホルダー縮径手段によってリニアシャフトと各回転体との間に均等な圧接力を作用させることから、必ずしもホルダー自体の高精度な製作が要求されず、製作コストを下げることもできる。
また、ホルダー縮径手段によって貫通孔の縮径割合を任意に設定し、リニアシャフトと各回転体との間の圧接力の大きさを調整することもできるので、ネジ無し送り装置に要求される駆動力が小さい場合には、リニアシャフトと回転体との圧接力を小さくし、リニアシャフト又はホルダーを回転させる動力を軽減することができ、エネルギー消費量を少なくすることもできる。
【0015】
(2)請求項2に係る発明によれば、加圧ボルトを締め込むだけで簡単にリニアシャフトとリニアシャフト外周面に当接する各回転体との各接点において均等な圧接力を容易に作用させることができる。その他は請求項1と同様の効果を発揮する。
【0016】
(3)請求項3に係る発明によれば、加圧ボルトの締め込みによる貫通孔の縮径に対する融通性が発揮され、貫通孔の一層均等な縮径を実現することができる。また、加圧ボルトの締め込み量に対するリニアシャフトと回転体との圧接力の調整可能な範囲が大きくなる。その結果、リニアシャフトと回転体間での動力伝達の効率をさらに向上させ、一層滑らかな直線運動を実現することができる。その他は請求項2と同様の効果を発揮する。
【0017】
(4)請求項4に係る発明によれば、回転体による動力伝達の推進力を大きくし、簡易に高推力なネジ無し送り装置を得ることができる。その他は請求項1乃至3と同様の効果を発揮する。
【0018】
(5)請求項5に係る発明によれば、潤滑油によりリニアシャフトと回転体間の接触部分の摩耗を防止することができる。潤滑油がトラクションオイルである場合は、トラクションオイルに作用する剪断力によりトラクションオイルの動力伝達性能が向上してリニアシャフトと回転体との間の動力伝達効率がさらに向上する。また、リニアシャフト及び回転体の摩耗が抑制されて長期間にわたって信頼性の高い動力伝達を行うことができる。さらに、リニアシャフトと回転体間の動力伝達に際して、発熱防止、静粛、低振動などの良好な状態が保持される。その他は請求項1乃至4と同様の効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照しながら説明する。
図1、図2に示すように、本実施の形態によるネジ無し送り装置10は、外周面を平滑曲面とした円柱状のリニアシャフト1と、リニアシャフト1を挿通する円形の貫通孔20を中央部に設けると共に周壁の1箇所で半径方向に周壁全域を開削するスリ割21を設けたC字状のホルダー2と、ホルダー2に軸支され、リニアシャフト1の軸線方向に対して斜めに傾けてリニアシャフト1外周面に当接させてリニアシャフト1の円周方向に沿って等しい間隔で配列した複数のベアリング(回転体)3(3A,3B,3C,・・)と、ホルダー2の周壁にスリ割21と直交して取り付けた加圧ボルト(ホルダー縮径手段)5とを備える。
【0020】
リニアシャフト1は、例えば、図示しない駆動モータに接続されて軸線を中心に回転自在に取り付けられている。ホルダー2の貫通孔20は、リニアシャフト1のシャフト径よりも大径に形成され、この貫通孔20よりベアリング3の回転周面が露出される。各ベアリング3(3A,3B,3C,・・)は、ホルダー2の周壁の両端面の対向位置にそれぞれ3個ずつ穿設された保持穴23(23A,23B,23C,・・)に固定ネジ30によって軸支されている。各保持穴23(23A,23B,23C,・・)は、リニアシャフト1の軸線方向に対して同一方向、同一角度に傾斜されて貫通孔20まわりに同心円上に等しい間隔(120度間隔)で設けられている。従って、各ベアリング3は、リニアシャフト1の軸線方向に2列となってホルダー2の貫通孔20まわりに等しい間隔(120度間隔)でホルダー2の周壁の両端に3個ずつ配列され、そして、各ベアリング3の回転周面を貫通孔20から露出させてリニアシャフト1の軸線方向に対して斜めに傾いた状態でベアリング軸方向の中央位置がリニアシャフト1外周面に当接される。
【0021】
尚、ベアリング3には、軸方向にガタがないことが必要とされ、且つ、軸方向及び半径方向に作用する力を受ける必要があるので、図2に示すような複列アンギュラベアリングを使用することが望ましい。また、ベアリング3として、内輪と外輪の間に剛球を介在したものを示すが(図2中の3C)、これに限らず各種のものを使用することができる。
【0022】
ホルダー2のスリ割21は、リニアシャフト1の軸線方向に切り込まれて貫通孔20からホルダー2の外周面に至る半径方向に周壁全域を開削して設けられ、隣接する2個のベアリング3A,3B間の中間位置(ちょうど真ん中)に設けられている(図1参照)。すなわち、スリ割21は、隣接する2個のベアリング3A,3Bとはそれぞれ60度位置に配置され、隣接しない1個のベアリング3Cとは180度位置に配置される。また、スリ割21の直交方向には、スリ割21の対向端面となる一方の周壁に座面を形成したボルト貫通孔24が設けられると共に他方の周壁にネジ孔25が設けられ、加圧ボルト5がボルト貫通孔24を通してネジ孔25に螺合させて取り付けられている。また、ボルト貫通孔24において座面と加圧ボルト5との間には皿バネ4が介装されている。尚、皿バネ4に限らず、コイルスプリングや弾性ワッシャ等、各種の弾性部材を使用してもよい。
【0023】
そして、加圧ボルト5を締め付けてスリ割21の間隔を狭めることでホルダー2の貫通孔20を略全周的に縮径させて各ベアリング3A,3B,3C,・・をリニアシャフト1に圧接させる。従って、加圧ボルト5を締付けるだけでリニアシャフト1外周面に当接する各ベアリング3A,3B,3C,・・の各接点における圧接力を均等に作用させることを容易に実現することができる。また、加圧ボルト5の締め込み量に応じて皿バネ4の弾性変形によりホルダー2のスリ割21の間隔が適宜調整される。従って、ホルダー2の貫通孔20の縮径量も調整されて各ベアリング3A,3B,3C,・・のリニアシャフト1外周面に対する圧接力がより均等となるように調整される。
【0024】
また、ホルダー2には、貫通孔20まわりの周壁の隣接するベアリング3A,3B,3C間のうち、スリ割21を設けていない2箇所(ベアリング3A,3C間と、ベアリング3B,3C間)には、リニアシャフト1の軸線方向に切り込まれて貫通孔20からホルダー2の外周面に至る半径方向にホルダー外周面側の周壁の一部を残して開削した内径スリット22A,22Bが設けられている。また、各内径スリット22A,22Bの閉塞端には、ボルト穴26が設けられており、このボルト穴26に固定ボルト6を挿通させて移動体のフレーム8にネジ止めしてホルダー2を取り付けるようにしている(図2参照)。
【0025】
これにより、加圧ボルト5を締め込むことにより内径スリット22A,22Bの延長線上における開削していない周壁の一部が撓み部mとなって各内径スリット22A,22Bの間隔が変化するので、ホルダー2自体の剛性によって貫通孔20の縮径が阻害されない。従って、加圧ボルト5の締め込みによる貫通孔20の縮径に対する融通性が発揮され、貫通孔20の一層均等な縮径を実現することができる。
なお、スリット22A,22Bの位置は上記位置(図1参照)に限られない。また、ボルト穴26の位置もスリット22A,22Bの閉塞端に限られない。
【0026】
また、ホルダー2には、リニアシャフト1外周面に接してトラクションオイル等の潤滑油を供給する含油層7が設けられている(図2参照)。この含油層7には、ホルダー2外周面に設けた給油口と連通する給油通路70を通じてホルダー2外部から適宜に潤滑油を補充できるようになっている。これにより、リニアシャフト1とベアリング3の間に潤滑油を介在させることができるので、リニアシャフト1とベアリング3とが摩擦接触する接点部分の摩耗を防止でき、また、この接点部分に導入された潤滑油に剪断力が作用してリニアシャフト1とベアリング3間の動力伝達を一層効率よく行うことができる。この際、潤滑油がトラクションオイルである場合は、トラクションオイルに作用する剪断力よりトラクションオイルのトラクション係数が増加してリニアシャフト1とベアリング3間の動力伝達効率がさらに向上する。
【0027】
以上のように構成した本実施の形態によるネジ無し送り装置10は、まず、加圧ボルト5を締め込んだ後に固定ボルト6を締め込んでホルダー2を移動体のフレーム8に固定する。そして、例えば、駆動モータでリニアシャフト1を回転させると、各ベアリング3A,3B,3C,・・がリニアシャフト1の螺旋方向に転動しホルダー2にリニアシャフト1の軸線方向への推進力を発生させ、テーブル等の移動体をリニアシャフト1の軸線方向に往復移動させる。なお、このとき、ホルダー2を固定してリニアシャフト1を軸線方向に進退移動させるようにしてもよい。
【0028】
そして、この実施の形態のネジ無し送り装置10では、加圧ボルト5によって容易に各ベアリング3A,3B,3C,・・でのリニアシャフト1外周面に対する圧接力を均等に作用させることができ、リニアシャフト1と各ベアリング3A,3B,3C,・・間での動力伝達にバラツキが生じることがなく均等となって動力伝達効率を向上し、滑らかな直線運動が実現される。従って、送り精度を向上させ、高再現性及び高推力を得ることができる。
【0029】
しかも、加圧ボルト5によってリニアシャフト1と各ベアリング3A,3B,3C,・・と間に均等な圧接力を作用させることから、必ずしもホルダー2自体の高精度な製作が要求されず、製作コストを下げることもできる。
【0030】
また、加圧ボルト5によって貫通孔20の縮径割合を任意に設定し、リニアシャフト1と各ベアリング3A,3B,3C,・・との間の圧接力の大きさを調整することもできるので、ネジ無し送り装置10に要求される駆動力が小さい場合には、リニアシャフト1とベアリング3A,3B,3C,・・との圧接力を小さくし、リニアシャフト1又はホルダー2を回転させる動力を軽減することができ、エネルギー消費量を少なくすることもできる。
【0031】
また、ホルダー2には、ベアリング3をリニアシャフト1の軸線方向に2列配置するので、これらのベアリング3による動力伝達の推進力を大きくすることができ、簡易に高推力なネジ無し送り装置10を得ることができる。
【0032】
さらに、リニアシャフト1とベアリング3A,3B,3C,・・との間に潤滑油が介在することで、ベアリング3A,3B,3C,・・やリニアシャフト1の外周面が保護され摩耗が抑制されるので、長期間にわたって信頼性の高い動力伝達を行うことができる。また、動力伝達に際して、発熱防止、静粛、低振動などの良好な状態が維持されるので、高精度なネジ無し送り装置10が可能となる。また、潤滑油にトラクションオイルを使用することにより、リニアシャフト1とベアリング3の接触部に作用する剪断力によりトラクションオイルの動力伝達性能が向上し、さらに効率よく動力伝達が行える。
【0033】
(その他)
本発明は、上記実施の形態のものに限らず、適宜に設計変更を施すことが可能である。
(1)実施の形態では、ホルダー2には、ベアリング3をリニアシャフト1の軸線方向に2列配置するが、ベアリング3を1列配置するものでもよい。
(2)また、ベアリング3を1列配置するホルダーを複数個重ねてベアリング3を複数列に配置するようにしてもよい。これにより、ベアリング3を3列以上に配置するホルダー組を容易に構成することができ、高推力のネジ無し送り装置が容易に得られる。
なお、図2に示すようなベアリング3を2列配置するホルダー2を複数個重ねて複数列のベアリング3を配置させるようにしてもよい。
【0034】
(3)実施の形態では、図1に示すように、ホルダー2の外周部側に周壁の一部を残す内径スリット22A,22Bを設けるが、ホルダー外周面から切り込んで貫通孔20側に周壁の一部を残す外径スリットとしてもよい。また、これらスリット(22A,22B等)は、隣接するベアリング3間の中間位置(ちょうど真ん中)に設けるようにしてもよい。
(4)また、図3に示すように、スリットとして、スリ割21の180度位置において貫通孔20側からリニアシャフト1の軸線方向に切り込んで周壁の一部を開削した内径スリット22Cを設けるようにしてもよいし、また、スリ割21の180度位置においてホルダー2の外周面側からリニアシャフト1の軸線方向に切り込んで周壁の一部を開削した外径スリット22Dを設けるようにしてもよい。さらに、これらの内径スリット22Cと外径スリット22Dの両方を設けるようにしてもよい。なお、これらの内径スリット22C、外径スリット22Dは、図3に示すものでは、ベアリング3Cの保持穴23Cに一部連通している。このようなスリット22C,22Dによっても、加圧ボルト5の締め込みによる貫通孔20の縮径に対する融通性が発揮され、また、加圧ボルト5の締め込み量に対するリニアシャフト1とベアリング3との圧接力の調整可能な範囲を大きくすることができる。
【0035】
(5)ホルダー2には、ベアリング3をリニアシャフト1の周囲に4個以上の複数個配列してもよい。
(6)回転体としては、ベアリングに代えて、ニードルローラ等の円柱状のローラとしてもよい。この場合、ローラを保持する保持窓を設けたリテーナをホルダー2に装着させるようにすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本実施の形態によるネジ無し送り装置の構成を示す正面図である。
【図2】本実施の形態によるネジ無し送り装置の内部構造を示す断面図である。
【図3】ホルダーに設けたスリットの他の例を示す正面図である。
【図4】従来のネジ無し送り装置の構成を示す側面図である。
【図5】従来の他のネジ無し送り装置の構成を示す一部切欠斜視図である。
【符号の説明】
【0037】
1 リニアシャフト
2 ホルダー
3,3A,3B,3C ベアリング(回転体)
4 皿バネ(弾性部材)
5 加圧ボルト(ホルダー縮径手段)
7 含油層
10 ネジ無し送り装置
20 貫通孔
21 スリ割
22A,22B 内径スリット(スリット)
22C 内径スリット(スリット)
22D 外径スリット(スリット)
27 テーパ状円筒部
50 スリーブ
m 撓み部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リニアシャフトとこれに挿通するホルダーとの相対的な回転運動を直線運動に変換するネジ無し送り装置であって、
上記リニアシャフトは、外周面が平滑で円柱状に形成されて上記ホルダーの貫通孔に挿通され、
上記ホルダーには、リニアシャフトの円周方向に沿って配列すると共に上記貫通孔に露出させてリニアシャフトの軸線方向に対して斜めに傾けた状態でリニアシャフト外周面に当接させる少なくとも3個の円柱状又は円筒状の回転体を設け、且つ上記貫通孔を縮径させて各回転体をリニアシャフトに圧接させるホルダー縮径手段を設けたことを特徴とするネジ無し送り装置。
【請求項2】
リニアシャフトとこれに挿通するホルダーとの相対的な回転運動を直線運動に変換するネジ無し送り装置であって、
上記リニアシャフトは、外周面が平滑で円柱状に形成されて上記ホルダーの貫通孔に挿通され、
上記ホルダーには、貫通孔まわりの周壁に同心円上に配列しリニアシャフトの軸線方向に対して斜めに傾けた少なくとも3箇所の保持穴が形成され、各保持穴にリニアシャフトの軸線方向に対して斜めに傾けた状態でリニアシャフト外周面に当接させる円柱状又は円筒状の回転体が軸支され、且つリニアシャフトの軸線方向に切り込まれて貫通孔からホルダー外周面に至る半径方向に周壁全域を開削した1個のスリ割を隣接する回転体間の中間位置に設け、このスリ割部分の直交方向に加圧ボルトを取り付けてこの加圧ボルトを締め込んでスリ割間隔を狭めることでホルダーの貫通孔を縮径させて各回転体をリニアシャフトに圧接させるようにしたことを特徴とするネジ無し送り装置。
【請求項3】
請求項2に記載のネジ無し送り装置において、
上記ホルダーには、リニアシャフトの軸線方向に切り込んで周壁を開削したスリットを設けたネジ無し送り装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載にネジ無し送り装置において、
上記回転体をリニアシャフトの軸線方向に2列以上配置したネジ無し送り装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のネジ無し送り装置において、
上記ホルダー又は上記リニアシャフトには、リニアシャフト又は回転体に潤滑油を供給する含油層を設けたネジ無し送り装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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