説明

ネジ用耐食性被覆組成物

【課題】 環境保持上クロム酸化合物を含まずに、高い耐食性とネジ特性を有する被覆組成物を提供する。
【解決手段】 水、グリコール化合物および/または有機溶剤からなる液体媒体中に少なくとも一種の粒状金属と少なくとも一種の結合材とを含有し、前記粒状金属と結合材との合計に対する前記粒状金属の含有量が70質量%以上であり、前記粒状金属が、粒状金属に対して4質量%未満の含有量で含まれるアルミニウムと少なくとも50質量%の含有量で含まれる亜鉛とを、亜鉛とアルミニウムとの合計含有量が粒状金属に対して100質量%以下となるように、亜鉛合金を含むことを特徴とするネジ用耐食性被覆組成物であり、
請求項2は、前記亜鉛合金が、錫、マグネシウム、およびマンガンの一種以上を含有する、請求項1に記載のネジ用耐食性被覆。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はネジ用耐食性被覆組成物に関し、更に詳しくは、主として鉄等の金属基材の防食のための皮膜を形成することができる水希釈可能な、クロム非含有のネジ用耐食性被覆組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
主として鉄鋼等の金属基材を錆から保護するための有効な手段として亜鉛クロム含有複合コーティング組成物などが知られている。その中でも有効な組成物は、特許文献1に開示されたような、ホウ酸または酸化ホウ素、水溶性クロム酸化合物と亜鉛もしくはアルミニウム単体またはその混合物ないしこれらの合金粉末、グリコール化合物、水及び/又は有機溶剤からなる金属防食被覆組成物であり、自動車業界をはじめ産業界で多く使用されている。
【0003】
【特許文献1】特許第1320297号 この特許文献1に記載された組成物は、金属基材上に塗布され約300℃の温度で所定時間焼付けられることにより、組成物に含まれるクロム酸成分のほとんどが不溶性状態になった数ミクロンの耐食性のコーティング皮膜を提供する。この皮膜は、数ミクロンの薄い状態で厳しい塩害環境をはじめ様々な環境において優れた耐食性能を発揮できるため、いろいろな金属基材(主に鉄鋼)に処理されて使用されている、特に薄いコーティング皮膜であるため、締結などの必要があるボルトなどスレッドを持った部材に有効な処理として活用されて30年近くになっている。
【0004】
この組成物は、金属の腐食による損失を押さえるという点でかなり有効な手段であり、また、含有されているクロム酸化合物も皮膜状態ではほとんど不溶性の状態でありそして処理工程において組成物は回収使用されるので、外部への流失もない環境対応の処理ではあるが、近年の社会的に高いレベルでの環境保持を行なっていくことが望まれるようになり、皮膜中にクロム酸化合物を含むこと自体望まれなくなってきた。
【0005】
このため、近年クロム酸化合物を含まない組成物が望まれ、そして開発されてきている。そのひとつは、特許文献2に記載されているようなクロム非含有コーティング組成物であった。
【0006】
【特許文献2】米国特許第586888819号 そのクロム非含有コーティング組成物は、亜鉛またはアルミニウムの粒状金属を含み、結合材としてシラン化合物を含んでいた。このクロム非含有コーティング組成物は、望ましいコーティング特性を有しており、亜鉛クロム含有複合コーティング組成物と同様に特に薄いコーティング皮膜で性能を発揮できるため、締結などの必要があるボルトなどスレッドを持った部材に有効な処理として亜鉛クロム含有複合コーティング組成物に代わり使用が期待されている。
【0007】
しかし、現在、亜鉛クロム含有複合コーティング組成物で表面が処理されたボルトなどの部材は、工業ラインにおいてオートメーションにより所定の条件で、所定の部材の所定の箇所に取付けられ、ボルトの締付けが行われている場合が多い。そのため、ボルトなどの部材に施される組成物が変更されると、その変更に応じて締め付け条件の設定も変更を余儀なくされてしまい、締め付け条件の最適値(トルク係数で代表されるネジ締め付けに対する特性値の優れたもの。以下ネジ特性と略称することがある。)を選定するのに多大の労力が必要となる。また特性値が変わった場合、締め付け不足があると後でネジが緩み、逆に締め付けすぎるとネジの破断をおこす。このような労力や不都合を避けるために、使用者からは、締め付け条件の設定を変えなくてもよいような品質を備えた亜鉛クロム含有複合コーティング組成物と同様の性能を有する代替組成物が要求されている。
【0008】
前記のようなクロム非含有コーティング組成物も、耐食性能は代替え処理として満足できるものの、ネジ特性等の点で使用者を十分満足できないものもある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明の目的は前記問題点を解決することにある。すなわち、この発明は、クロム含有コーティング組成物と同等又はそれ以上の耐食性能を有し、しかもネジ特性に優れたクロム非含有コーティング組成物であるネジ用耐食性被覆組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
今回この発明者らは、クロム酸化合物を含有せずに良好な耐食性能を持ち、なおかつネジ特性もこれまで実績のあるコーティング組成物と同様な性能を持つコーティング組成物を開発すべく、各種の結合材料、金属材料、あるいは添加剤などを検討・評価を行い、亜鉛粉に替え亜鉛合金粉を使用することにより、良好な耐食性能とネジ特性を兼ね備えたクロム酸化合物非含有コーティング組成物を得ることができた。
【0011】
前記課題を解決するためのこの発明の手段として、
請求項1は、水、グリコール化合物および/または有機溶剤からなる液体媒体中に少なくとも一種の粒状金属と少なくとも一種の結合材とを含有し、前記粒状金属と結合材との合計に対する前記粒状金属の含有量が70質量%以上であり、前記粒状金属が、粒状金属に対して4質量%未満の含有量で含まれるアルミニウムと少なくとも50質量%の含有量で含まれる亜鉛とを、亜鉛とアルミニウムとの合計含有量が粒状金属に対して100質量%以下となるように、亜鉛合金を含むことを特徴とするネジ用耐食性被覆組成物であり、
請求項2は、前記亜鉛合金が、錫、マグネシウム、およびマンガンの一種以上を含有する、請求項1に記載のネジ用耐食性被覆組成物であり、
請求項3は、前記粒状金属がフレーク状である、請求項1又は2に記載のネジ用耐食性被覆組成物であり、
請求項4は、前記結合材の少なくとも一つがシラン化合物、チタン化合物、ジルコニウム化合物およびエポキシ樹脂より成る群から選択される少なくとも一種である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の耐食性被覆組成物である。
【発明の効果】
【0012】
この発明によると、従来のクロム含有亜鉛系金属粉末含有コーティング組成物と同程度又はそれ以上の耐食性を有するとともに、ネジの表面すなわち雄ネジ及び/又は雌ネジの表面にこの発明に係る被覆組成物による皮膜を形成すると雄ネジと雌ネジとの締め付け特性、即ちネジ特性を向上させることのできるネジ用耐食性被覆組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
この発明に係るネジ用耐食性被覆組成物(以下において、「被覆組成物」と略称することがある。)は、水、グリコール化合物および/または有機溶剤からなる液体媒体を有する。
【0014】
前記グリコール化合物としては、例えばトリ−及びテトラエチレングリコール、ジ−及びトリプロピレングリコール、これらグリコールのモノメチル及びエチルエーテル類、低分子量液体ポリプロピレングリコール、ジアセトンアルコール、ジエチレングリコールの低分子量エーテル類、並びにこれらの混合物を挙げることができる。
【0015】
前記有機溶剤としては、前記グリコール化合物を除く低沸点有機液体を挙げることができる。前記低沸点有機液体としては、水溶性で、大気圧下で約100℃以下の沸点を有する溶媒が好ましく、例えばメタノール、エタノール、n−プロピルアルコール及びイソプロピルアルコール等の低分子量アルコール、並びにメチルエチルケトン等の水溶性ケトンを好適例としてあげることができる。
【0016】
この発明における液体媒体は、水、グリコール化合物及び前記有機溶剤のいずれか一種又はこれらの二種以上の混合溶媒であってもよい。この発明に係る被覆組成物中の液体媒体の含有割合は、通常30質量%以上であり、好ましくは50〜85質量%である。
【0017】
この発明に係る被覆組成物は、前記液体媒体中に粒状金属が分散して成る。前記粒状金属は、亜鉛合金である。この亜鉛合金は、粒状金属に対して4質量%未満、好ましくは0.5〜3.5質量%の含有量で含まれるアルミニウムと少なくとも50質量%、好ましくは55〜96質量%の含有量で含まれる亜鉛とを亜鉛とアルミニウムとの合計含有量が粒状金属に対して100質量%以下となるように含む。亜鉛合金中の亜鉛の含有量が50質量%よりも少ないと耐食性が不十分となって不利である。また、この亜鉛合金中のアルミニウムの含有量が4質量%未満であると、ネジ特性と耐食性との両方を充足することができる。もっとも、この亜鉛合金は、亜鉛及びアルミニウムの外に、スズ、マグネシウム、ニッケル、コバルト、及びマンガン等を含有していても良い。
【0018】
この亜鉛合金は、好ましくはフレーク形態の、亜鉛及びアルミニウムの合金である。フレーク形態の亜鉛合金は、そのフレーク粒子の最長寸法が13μmであるフレーク粒子の含有量が全フレーク粒子の50%以上であることが望ましい。最長寸法が13μmであるフレーク粒子の含有量が50%未満であると、結合材と液体媒体とから均一なペーストと成しづらくなって好ましくないことがある。また、フレーク形態の亜鉛合金は、そのフレーク粒子の最長寸法が15μmであるフレーク粒子の含有量が全フレーク粒子の90%以上であることが望ましい。最長寸法が15μmであるフレーク粒子の含有量が90%未満であると、結合材と液体媒体とから均一なペーストと成しづらくなって好ましくないことがある。
【0019】
この亜鉛合金と結合材と液体媒体との合計に対するこの亜鉛合金の含有量は、通常、50質量%以下であり、好ましくは35〜10質量%である。亜鉛合金の含有量が50質量%以上であると、結合材と液体媒体とからなる処理液が使用しづらい状態となって好ましくない。
【0020】
この発明の被覆組成物は、結合材を含有する。前記結合材としては、シラン化合物、チタン化合物、ジルコニア化合物およびエポキシ樹脂より成る群から選択される少なくとも一種を使用することができる。
【0021】
この発明に好適に使用されるシラン化合物は、水で容易に希釈可能である化合物が好ましく、さらには、水で完全に希釈可能であるのがよい。有用なシラン化合物としては、非ゲル化水還元性シランである。これらシランにおいては、有機官能性は、例えば、ビニルトリメトキシシランまたはメタクリルオキシ、例として、メタクリルオキシプロピルトリメトキシシランにおけるようなビニル;および、3−アミノ−プロピルトリメトキシシランにおけるようなアミノによって典型的とされうるが、好ましくは、被覆特性強化および組成物安定性強化のためにエポキシ官能性である。これらは、概して、−Si(OCH33官能基もしくは−Si(OCH2CH33官能基または−Si(OCH2CH2CH33官能基を含有する。これらシラン化合物の被覆組成物における好適な含有量は、概して、合計組成物重量の3質量%〜20質量%である。特に有用なシラン化合物としては、エポキシ官能性シラン、例えば、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシ−シラン、4−(トリメトキシシリル)ブタン−1,2−エポキシドまたはr−グリシドオキシプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0022】
前記チタン化合物としては、テトラエチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、2−エチルヘキシルチタネートおよびN−ブチルチタネートポリマーのアルキルエステル類である。被覆組成物中のチタン化合物の含有量は、好適には6〜20質量%である。
【0023】
前記ジルコニア化合物としては、ジルコネートグリコレート、テトラn−プロポキシジルコニウム、テトラn−ブトキシジルコニウム、酢酸ジルコニル等を挙げることができる。ジルコニア化合物の被覆組成物における含有割合は、他の結合材と同様である。エポキシ樹脂としては、エポキシ樹脂の脂肪酸エステルが一般に使用可能であり、適宜変性してもよい。
【0024】
この発明に係る被覆組成物は、界面活性剤及びホウ素含有化合物を含有するのが、好ましい。前記界面活性剤としては、非イオン性薬剤、例として、非イオン性アルキルフェノールポリエトキシ付加体等が挙げられる。また、アニオン性界面活性剤を使用することもできる。アニオン性界面活性剤として、例えば、有機ホスフェートエステル、および、ジエステルスルホスクシネート、典型的には、ナトリウムビストリデシルスルホスクシネート等を挙げることができる。このような界面活性剤の被覆組成物における含有量は、典型的には、合計被覆組成物の0.01〜10質量%である。
【0025】
前記ホウ素含有化合物としては、市販品として入手可能なオルトホウ酸を使用することができ、オルトホウ酸を加熱脱水することによって得られる種々の生成物、例えば、メタホウ酸、テトラホウ酸および酸化ホウ素、および、塩類、例えば、ホウ酸亜鉛等を使用することもできる。ホウ素含有化合物の被覆組成物における含有量は、少なくとも0.1質量%であるのが好ましく、10質量%以下の含有量で含有されていても良い。
【0026】
この発明に係る被覆組成物は、pH調節剤、増粘剤、及びその他の成分を含有していても良い。
【0027】
前記pH調節剤としては、pH調節剤は、概して、アルカリ金属の酸化物および水酸化物から選択され、リチウムおよびナトリウムが被覆結合性を強化するための好ましいアルカリ金属であり、また、それは、周期律表のIIA族およびIIB族に属する金属の、通常は、酸化物および水酸化物から選択され、その化合物は、水溶液に溶解性であり、例えば、ストロンチウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム、亜鉛およびカドミウムの化合物である。pH調節剤は、また、もう1つの化合物、例えば、前述の金属の炭酸塩または硝酸塩であってもよい。
【0028】
前記増粘剤としては、この発明に係る被覆組成物に対しての重量基準で、0.01〜2.0質量%の量を占めることができる。この増粘剤は、市販品例えば唐bellosize煤i商標)を使用することができ、水溶性のセルロースエーテルも使用可能である。適した増粘剤としては、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、及びメチルエチルセルロース等のエーテル類、並びに、これらの混合物が挙げられる。使用可能な他の増粘剤としては、キサンタンガム、会合増粘剤(associative thickeners)、例えば、ウレタン会合増粘剤;および、ウレタンを含まない非イオン性会合増粘剤が挙げられ、これらは、典型的には、不透明で、かつ、例えば、100℃より高い温度で沸騰する高沸の液体である。その他の適した増粘剤としては、改質された粘土、例えば、高度に処理されたヘクトライト粘土(hectorite clay)、および、有機改質および活性化されたスメクタイト粘土(smectite clay)等が挙げられる。
【0029】
この発明に係る被覆組成物は、前記各成分を配合することにより調製することができる。調製方法に特に制限がない。
【0030】
この発明に係る被覆組成物を適用する対象物としては、その表面に雄ネジ又は雌ネジを備え、この雄ネジ又は雌ネジが他の螺合部材により螺合可能な金属基材を挙げることができる。このような金属基材としてボルトとナットとを挙げることができる。
【0031】
被覆組成物が適用される対象物は、通常の場合、アルカリクリーナーまたは溶剤蒸気洗浄などで予め脱脂され、さらに研磨布あるいはショットブラストなどにより表面調整が行われる。
【0032】
前記金属基材への被覆組成物の塗装は、スプレー、ロールコート、浸漬塗装、浸漬後遠心振り切りにより余滴を除去する方法、浸漬後振動により余滴を除去する方法、刷毛塗りなどいずれの方法によっても行うことができる。
【0033】
金属基体に塗布された被覆組成物は、熱風循環炉(IDC燃焼炉または電気炉)、遠赤外線、赤外線加熱炉、高周波誘導加熱炉など、またはこれらの組み合わせの中から選ばれる加熱方法により金属基体を200℃以上、好ましくは250℃以上に所定時間加熱することにより、硬化処理が行われる。また必要に応じて加熱処理の前に処理液中の溶媒分を硬化処理前に揮発させるため、硬化処理温度よりも低い温度での乾燥処理を行うこともある。そして被膜を形成する際、前述の処理工程を1回で行うことも可能であるし、必要に応じて繰り返して重ね塗り処理を行うこともできる。
【実施例】
【0034】
実施例によって、本発明を具体的に説明するが、これらの実施例において使用された素材は特定する必要はないが、パネル素材としては、冷間圧延鋼板(SPCC材)が使用され、またボルト素材として、焼入処理されたM10六角ボルト(全長65mm ネジ部長さ28mmピッチ1.25mm)が使用された。
【0035】
金属基材(パネル、ボルトなど)への塗布量は、通常、質量/単位表面積として表され、一般的には、公知表面積を有する処理された金属基材を選択し、まずその重さを秤量し、その後温められた水酸化ナトリウム水溶液に浸漬することによって塗布処理された皮膜を剥離し、その後基材質量を再度秤量し、差し引きすることにより塗布量を算出する。そして塗布量は、単位表面積当たりの質量として最も多くは、ミリグラム/平方デシメートル(mg/dm2)として表され、計算値により得られる。
【0036】
そして耐食性試験およびネジ特性試験の方法および評価は次の通り行われた。
【0037】
処理された金属基材の耐食性試験は、JISZ2371(塩水噴霧試験方法)に規定される試験方法により実施され、試験品の腐食の度合いは、赤錆の発生面積の状態で評価された。評価ランクは、次のようである。
【0038】
○:赤錆なし
△:5%以内の赤錆
×:5%以上の赤錆
ネジ特性試験は、JISB1084に規定されている、トルク係数(K)、ネジ面摩擦係数(μs)、座面摩擦係数(μw)の測定ができるボルト試験機(岩田鉄工社製)により試験され、トルク係数値の測定およびスリップスティックの発生の有無が評価された。この際には、焼入処理されたM10六角ボルト(全長65mm ネジ部長さ28mmピッチ1.25mm)が金属基材として使用された。その他の測定条件については次のようであった。
【0039】
ナット:亜鉛めっき・イエロークロメート処理M10(ピッチ1.25mm)
座面板:SPCC材 3.0mm厚
方 法:ナットおよび座面板を固定状態で、ボルトを締め付け回転速度毎分4回
トルク係数値:軸力25kNでの値
(実施例1)
撹拌下にある18.9質量部の脱イオン水に、0.6質量部のオルトホウ酸と3質量部のγ−グリシドオキシプロピルメトキシシランとを配合し、これらを混合した。撹拌を3時間継続した後、この混合物にさらに31質量部の脱イオン水と、0.8質量部の非イオン界面活性剤(HLB9.5)と、0.8質量部の非イオン界面活性剤(HLB13.3)とを加え、混合した。この混合物に、さらに2質量部の上記シランと、2.9質量部のジプロピレングリコールとを加えた。この混合物に、35.5質量部の亜鉛アルミニウム合金フレークペーストを加えた。ペーストは、約89質量%の亜鉛、約3質量%のアルミニウム、残りペースト液体を含有する。合金フレークは、粒子の最長寸法約13ミクロン未満を有するフレーク粒子約50%を有する。ついで、ディゾルバー型撹拌装置を使用し、これらすべての成分を約3時間かけて十分に撹拌混合した。
【0040】
上記の操作を終了することにより得られた混合物の攪拌をゆるやかにしてさらに継続しつつ、さらに一晩撹拌を継続した。ついで、さらに上記シラン2.9質量部と、脱イオン水1.3質量部中でスラリー化したヒドロキシエチルセルロース0.3質量部のスラリーとを加えた。この浴を6日間熟成させ、被覆組成物を調整した。
【0041】
前記被覆組成物をボルト素材に処理が行われた。ボルトの素材は、焼入処理されたM10六角ボルト(全長65mm ネジ部長さ28mmピッチ1.25mm)が使用された。前処理としてアルカリ洗浄を行い、さらにショット・ブラストによる表面調整を行った。前処理が行われたボルトは、金網バスケットに入れ、そのバスケットを処理組成物に浸漬・引き上げすることにより組成物を塗布し、引き上げた後バスケットを回転させる遠心振り切りを行うことにより過剰の組成物を除去し塗布を行った。浸漬スピンの間に、第1の被覆については、バスケットは、250rpmで正逆各10秒間回転させ、第2の被覆については、再度、270rpmで正逆各10秒間回転させた。
【0042】
被覆組成物を塗布後、次の条件で焼き付け処理した。塗布処理されたボルトは、金網に置かれ、最初に設定温度120℃の熱風循環乾燥炉で10分間予備乾燥させ、次に設定温度320℃の熱風乾燥炉で30分間硬化させた。この処理が行われたボルトの被覆組成物を前記の所定方法により測定した、塗布量は238mg/dm2であった。
【0043】
上記のように処理されたボルトは、ついで、前記した耐食性試験を行った。塩水噴霧試験を1000時間行ってもボルトには赤錆が発生しなかった。亜鉛めっき・イエロークロメート処理(JIS2種2級)の処理が施されているボルトが、塩水噴霧試験を500時間行うと、赤錆を発生させた実験結果と比較すると、本発明に係る被覆組成物で処理したボルトは耐食性が良好であり、1,000時間を上回るまで赤さびを発生させることのない亜鉛クロム含有複合コーティング組成物(ダクロタイズド処理)と同様の性能であった。
【0044】
さらにネジ特性を前記の試験方法により評価したところ、これまでの亜鉛クロム含有複合コーティング組成物(ダクロタイズド処理)されたボルトとほぼ同等の性能を示した。
【0045】
(実施例2)
実施例1のシラン7.4質量部、実施例1の非イオン界面活性剤(HLB9.5)1.2質量部、及び実施例1の非イオン界面活性剤(HLB13.3)1.4質量部の混合物とジプロピレングリコール3.8質量部とを一緒に混合した。この混合物に、亜鉛・アルミニウム合金フレークペースト24.7質量部とアルミニウムペースト(ペースト液体約33%重量含有)8.3質量部を加えた。ペーストは、合金フレーク中に、約90質量%の亜鉛と、約1質量%のアルミニウムと、残り約9質量%のペースト液体を含有した。合金フレークは、粒子の最長寸法約15ミクロン未満を有するフレーク粒子約98%を有した。これら全ての成分を一緒に強く混合し均一化した。
【0046】
均一化された混合物を攪拌している中に、脱イオン水52.3質量部中にホウ酸0.5質量部を含む水溶液を加えた。さらにヒドロキシエチルセルロース0.4質量部を加え、攪拌を一晩継続し、被覆組成物を調整した。
【0047】
実施例1に記載された方法でボルトに塗装処理が行われた。ただしバスケットは、300rpmで正逆各10秒間回転させた。また硬化処理は、設定温度70℃の熱風循環乾燥炉で15分間予備乾燥させ、次に設定温度330℃の熱風乾燥炉で40分間硬化させた。この処理を2回行ったボルトは、被覆組成物を上記のように測定して、約252mg/dm2の塗布量であった。
【0048】
処理されたボルトは、ついで、前記した耐食性試験を行った。耐食性試験として塩水噴霧試験を1000時間行ってもボルトに赤錆が発生しなかった。このように処理されたボルトは、亜鉛めっき・イエロークロメート処理されたボルトが耐食性試験の結果として500時間で赤錆が発生したのと比較すると、極めて良好であると評価され、ダクロタイズド処理されたボルトが耐食性試験の結果として1,000時間を上回るまで赤さびが発生しなかったのと同様の性能であった。
【0049】
さらにネジ特性を前記の試験方法により評価したところ、これまでのダクロタイズド処理されたボルトとほぼ同等の性能を示した。
【0050】
(実施例3)
実施例2と同条件であるが、最後に加えるシラン2.9質量部をチタンラクテートに置き換え、粒状金属成分として、約89質量%の亜鉛、約3質量%のアルミニウム、残りペースト液体を含有する亜鉛アルミニウム合金フレークペースト27.3質量部、約77質量%の亜鉛、約14質量%の錫、残りペースト液体を含有する亜鉛錫合金フレークペースト3.5質量部そしてアルミニウムペースト(ペースト液体約33%重量含有)4.7質量部を使用し、被覆組成物を調整した。
【0051】
実施例1と同様の方法で、ボルトに前記被覆組成物の塗装処理が行われた。塗布量は約263mg/dm2であった。
【0052】
評価結果は、表1の通りであった。
【0053】
(実施例4)
最後に加えるシラン2.9質量部の代わりにジルコネートグリコレート2.9質量部を用い、35.3質量部の亜鉛アルミニウム合金フレークの代わりに同じ亜鉛アルミニウム合金フレーク33.3質量部を用いて、前記実施例1と同様に実施して被覆組成物を得た。
【0054】
実施例1と同様の方法で、ボルトに前記被覆組成物を塗装処理した。塗布量は約232mg/dm2であった。評価結果は、表1の通りであった。
【0055】
(実施例5)
最後に加えるシラン2.9質量部の代わりに水溶性エポキシ樹脂2.9質量部を使用し、さらに、実施例1で用いた粒状金属成分の代わりに、89質量%の亜鉛、3質量%のアルミニウム、及びペースト液体8質量部を含有する亜鉛アルミニウム合金フレークペースト25.6質量部と、90質量%の亜鉛、2質量%のマンガン、およびペースト液体8質量%を含有する亜鉛マンガン合金フレークペースト3.2質量部、並びにアルミニウムペースト(ペースト液体約33重量%含有)6.7質量部を使用したほかは、前記実施例1と同様に実施した。
【0056】
実施例1と同様の方法で、ボルトに前記被覆組成物を塗装処理した。塗布量は約255mg/dm2であった。評価結果は、表1の通りであった。
【0057】
なお、比較例として
1.Znl/Al=90/10
2.亜鉛クロム含有複合コーティング組成物(ダクロタイズド処理)
3.亜鉛めっき、イエロークロメート品
4.Zn5%Al
の結果も表1に掲げた。
【0058】
【表1】

【0059】
耐食性能:塩水噴霧試験1000時間での赤錆発生状態で評価
○:赤錆なし
△:5%以内の赤錆
×:5%以上の赤錆
ネジ特性:トルク係数
○:標準品と比較しトルク係数値変動10%以内なおかつ状態評価良
△:標準品と比較しトルク係数値変動20%以内なおかつ状態評価中
×:標準品と比較しトルク係数値変動20%以上ないしは状態評価悪
状態評価
○:スムーズに締め付けが行われる。
△:締め付け時に微少なスリップが見られる。
×:締め付け時にスリップスティックが見られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、グリコール化合物および/または有機溶剤からなる液体媒体中に少なくとも一種の粒状金属と少なくとも一種の結合材とを含有し、前記粒状金属と結合材との合計に対する前記粒状金属の含有量が70質量%以上であり、前記粒状金属が、粒状金属に対して4質量%未満の含有量で含まれるアルミニウムと少なくとも50質量%の含有量で含まれる亜鉛とを、亜鉛とアルミニウムとの合計含有量が粒状金属に対して100質量%以下となるように、亜鉛合金を含むことを特徴とするネジ用耐食性被覆組成物。
【請求項2】
前記亜鉛合金が、錫、マグネシウムおよびマンガンの一種以上を含有する、請求項1に記載のネジ用耐食性被覆組成物。
【請求項3】
前記粒状金属がフレーク状である、請求項1又は2に記載のネジ用耐食性被覆組成物。
【請求項4】
前記結合材の少なくとも一つがシラン化合物、チタン化合物、ジルコニウム化合物およびエポキシ樹脂より成る群から選択される少なくとも一種である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のネジ用耐食性被覆組成物。

【公開番号】特開2006−52361(P2006−52361A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−236577(P2004−236577)
【出願日】平成16年8月16日(2004.8.16)
【出願人】(597069464)メタル・コーティングズ・インターナショナル・インコーポレーテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】Metal Coatings International Inc.
【住所又は居所原語表記】275 Industrial Parkway,Chardon,Ohio 44024,United States of America
【Fターム(参考)】