説明

ネスチン発現幹細胞を用いて新生血管を画像化する血管新生モデル

本発明は、ネスチン発現が内皮細胞増殖のマーカーとなるという知見に関する。ネスチンの発現は、血管新生、ことに腫瘍関連血管新生のマーカーとして、特に有用である。具体的には、ネスチンは、神経膠腫、血管芽腫、シュワン腫、髄芽腫、および髄膜腫といった脳腫瘍に対する優れた内皮細胞マーカーとして機能する。したがって、本発明は、血管新生活性をモデル化する基礎として前記マーカーを使用することに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネスチンの発現が内皮細胞増殖のマーカーとなるという知見に関する。ネスチンの発現は、血管新生、ことに腫瘍関連血管新生のマーカーとして、特に有用である。具体的には、ネスチンは、神経膠腫、血管芽腫、シュワン腫、髄芽腫、および髄膜腫といった脳腫瘍に対する優れた内皮細胞マーカーとして機能する。
【背景技術】
【0002】
ネスチンは、ビメンチンおよびグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)とともに、中間径フィラメントの一つであって、胎生期ラットおよびヒトの、成長中の中枢神経系における神経上皮幹細胞/前駆細胞において、大量に検出される(Lendahl, U.ら、Cell (1990) 60:585- 595; Messam, C.A.ら、Exp. Neurol. (2000) 161:585-596; Tohyama, T.ら、Lab. Invest. (1992) 66:303-313; Tohyama, T.ら、Am. J. Pathol. (1993) 143:258-268)。ネスチンは、神経上皮細胞において共重合によって、おそらくはビメンチンとともに、中間径フィラメントの束を形成する(Eliasson, C.ら、J. Biol. Chem. (1999) 274:23996-24006; Rutka, J.T.ら、Int. J. Dev. Neurosci. (1999) 17:503-515)。
【0003】
ネスチンmRNAは、胎齢15日(E15)の発生中のラット胎仔の大脳において高度に発現され、出生後12日(P12)ごろに減少し、P18から成体期までに消失する(Lendahl, U.ら、上記)。ネスチントランスジーンに促進されるβ-ガラクトシダーゼ発現解析によって、神経管閉鎖(E9)後まもなく神経上皮および体節中にLacZ活性が検出された(Zimmerman, L.ら、Neuron (1994) 12:11-24)。LacZ染色は、E14.5およびE16.5の、マウス胎仔線条体および大脳皮質の増殖性脳室帯においていっそう強くなり、成体皮質では発現は減少し、上衣細胞集団に限局されるようになる。
【0004】
実質的なネスチンの発現は、ヒト神経膠腫および神経膠芽腫においても検出された(Dahlstrand, J.ら、Cancer Res (1992) 52:5334-5341)。ネスチン免疫染色は、毛様細胞性星状細胞腫のように悪性度の低いものよりも、きわめて悪性の神経膠腫、特に神経膠芽腫において高頻度に観察された。これに対して、非腫瘍性脳組織ではネスチンは免疫染色によってまれにしか検出されず、血管内皮細胞において時にわずかに存在する。
【0005】
ネスチンmRNAは約6.2キロベースの長さで、その遺伝子は3つのイントロンを含有する。興味深いことに、神経上皮に特異的なネスチンの発現はネスチン遺伝子の第2のイントロンによって促進され、これに対して筋前駆体特異的発現は第1のイントロンによって促進される(Lothian, C.ら、Eur. J. Neurosci. (1997) 9:452 462; Zimmerman, L.ら、上記)。
【0006】
ネスチンの発現は、ヒト神経膠腫/神経膠芽腫に由来する7種類の培養細胞株においてすでに調べられている(Kurihara, H.ら、Gene Ther. (2000) 7:686-693)。発現レベルは、ノーザンブロット分析によって、高いもの(U251、KG-1C)から検出不能(NP-2、LN-Z308、T98G)までさまざまであった。一般に悪性度はin vivoでの腫瘍倍加時間を反映するが、発現レベルは、細胞株の増殖速度とは相関しなかった。ネスチン遺伝子の5'上流領域の前にある第2イントロンからなる神経細胞特異的制御因子は、それぞれの細胞株において、mRNA発現の程度に応じてLacZの発現を促進した(Kurihara, H.ら、上記)。神経膠腫/神経芽膠腫細胞株におけるネスチン発現レベルがこのように変動しやすいことは、ヒト神経膠腫/神経芽膠腫において、悪性度の低いものから高いものまで、ネスチン発現の再評価をもたらした。
【0007】
結腸直腸癌内皮細胞において、いくつかの血管新生関連遺伝子が報告されているが、ネスチン遺伝子はそのリストに含まれていない(Croix, B.S.ら、Science (2000) 289:1197- 1202)。脳腫瘍内皮細胞における血管新生関連遺伝子は、結腸直腸内皮とは異なる可能性がある。たとえ脳腫瘍細胞内にネスチン発現が認められなくても、脳腫瘍内皮には強いネスチン発現が見られることは注目に値する。
【発明の開示】
【0008】
ネスチン発現細胞は、蛍光タンパク質(FP)により標識され、再生皮膚の表皮および真皮において増殖し、ネスチン陽性細胞集団を示すが、このネスチン陽性細胞集団は損傷に対応して増殖し、バルジ領域から病変部の近くに移動する。ネスチンの発現は、腫瘍関連血管新生のマーカーとして特に有用である。具体的には、ネスチンは、神経膠腫、血管芽腫、シュワン腫、髄芽腫、および髄膜腫といった脳腫瘍のための優れた内皮細胞マーカーとしての機能を果たす。したがって、本発明は、血管新生のモデルとして有用である。
【0009】
好ましい実施形態において、本発明は、血管の発生発達をモニターする方法に関するものであって、その方法は、血管新生幹細胞を与えること(この幹細胞はネスチン調節エレメントの遺伝的な制御下の、蛍光タンパク質(FP)をコードする発現カセットを含んでなる);幹細胞を宿主において増殖させること;ならびに血管の発生発達をもたらす幹細胞の血管新生活性をモニターすることを含んでなる。
【0010】
本発明のある態様において、血管新生幹細胞は、毛包細胞もしくは腫瘍細胞といったネスチン発現細胞である。こうした細胞はin vitroもしくはin vivoで増殖させることができる。腫瘍細胞の例としては、黒色腫、神経膠腫、血管芽腫、シュワン腫、髄芽腫、および髄膜腫がある。
【0011】
本発明の別の態様は、ネスチン調節エレメントの制御下にある1つもしくは複数の蛍光タンパク質を利用する。こうしたタンパク質の例には、緑色蛍光タンパク質(GFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)、青色蛍光タンパク質(BFP)、および黄色蛍光タンパク質(YFP)がある。好ましくは、ネスチン調節エレメントは、ヒトネスチン遺伝子の第2イントロンによってコードされる。
【0012】
本発明の別の態様は、宿主生物の使用に関する。宿主生物は好ましくは脊椎動物である。特に好ましい宿主生物は、哺乳類もしくは鳥類宿主である。好ましい哺乳類宿主の例には、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、およびネコが含まれる。好ましい鳥類宿主の例としては、ニワトリおよび鶏卵がある。
【0013】
本発明のある実施形態において、血管新生幹細胞は、ネスチン調節制御下の第1のFPタンパク質を含んでなり、宿主生物はネスチン調節制御下の第2のFPタンパク質を含んでなり、この場合第1のFPタンパク質は、第2のFPタンパク質とは異なる。
【0014】
本発明のもう一つの実施形態は、血管新生の調節物質をスクリーニングする方法に関するものであって、その方法は、血管新生幹細胞を与えること(この幹細胞はネスチン調節エレメントの遺伝的な制御の下で蛍光タンパク質(FP)をコードする発現カセットを含んでなる);血管新生調節物質の存在下で幹細胞を宿主において増殖させること;ならびに幹細胞の血管新生活性をモニターすることを含んでなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、血管新生を研究するためのモデル系を提供する。好ましい実施形態において、血管新生内皮幹細胞は、蛍光タンパク質をコードする発現系で標識され、この発現系は、血管新生内皮幹細胞において優先して発現されることが明らかになっている遺伝子に由来する調節配列によって制御される。その発現系は血管新生プロセスを観察するための目に見えるマーカーを備えている。ネスチン発現細胞は、本明細書で、血管新生内皮幹細胞の起源として開示され、ネスチン調節エレメントは、好ましくは、マーカータンパク質の発現を制御するために使用される。したがって、開示されたモデル系は、ネスチン調節配列の制御下に1つもしくは複数の蛍光タンパク質をコードした血管新生内皮幹細胞を使用して、血管新生を形作る。
【0016】
血管新生幹細胞
開示されたモデル系は、標識された前駆細胞もしくは幹細胞を、血管新生のマーカーとして使用する。ネスチン発現は、中枢神経系(CNS)幹細胞、神経上皮幹細胞、および毛包鞘前駆細胞といった幹細胞のための優れたマーカーである。ネスチンはまた、黒色腫のような特定の癌細胞、ならびに神経膠腫、血管芽腫、シュワン腫、髄芽腫および髄膜種といった特定の脳腫瘍の優れたマーカーである。
【0017】
ネスチンは、中枢神経系前駆細胞のマーカーである中間径フィラメントである。詳細には、ネスチン調節配列の制御下にある緑色蛍光タンパク質(GFP)を有するトランスジェニックマウスを作製し、CNS幹細胞の自己複製および多分化能を可視化するために使用した。好ましい実施形態において、ネスチンは単離プロセスを容易にするために緑色蛍光タンパク質のような検出物質と結合していてもよいが、こうした細胞のための他のマーカーを使用して、毛包幹細胞をさらに何らかの他の検出可能な物質で単離することができると考えられる。たとえば、in vitro またはin situで細胞をアッセイし、結合している標識された結合パートナー、抗体、もしくは核酸について調べることができる。毛包幹細胞が固体の担体に付着している実施形態では、アッセイは、他のタイプのシグナル分子を使用することができるが、その場合、未結合のシグナル分子を細胞に結合したシグナル分子から分離することができる。たとえば、シグナル分子は、放射性同位体(たとえば、125I、131I、35S、32P、14Cまたは3H);光散乱標識(Genicon Sciences Corporation, San Diego, CAならびに、たとえば米国特許第6,214,560号を参照されたい);酵素もしくはタンパク質標識(たとえば、蛍光タンパク質(FP)もしくはペルオキシダーゼ);または他の発色標識もしくは色素(たとえば、Texas Red)で標識されていてもよい。さらに、FACSもしくは他の細胞分離機序を用いて細胞を単離することができる。
【0018】
毛包幹細胞の部位は、毛周期に応じて変動する。ネスチン-FPトランスジェニックマウスにおいて成長期初期には、ネスチン発現細胞は、毛包幹細胞が存在する毛包バルジ内の脂腺の真下にある不変上部毛包にある。バルジ領域のネスチン発現細胞は、比較的小さく、楕円形で、それらを互いに連結する短い樹状突起で毛幹を取り囲んでいる。図3は、毛包内のネスチン発現細胞の部位が毛周期に依存することを示す。休止期および成長期初期の間は、蛍光タンパク質陽性細胞、すなわちネスチン発現細胞は主としてバルジ領域にある。蛍光タンパク質発現毛包幹細胞は、休止期および成長期初期のいずれにも見られる。毛周期のどの段階でも幹細胞を採取することはできるが、休止期から得られた毛包幹細胞がもっとも原始的であると思われ、局在しているので、採取することが好ましい。採取の技術は、"Nestin-expressing hair follicle stem cells"(「ネスチン発現毛包幹細胞」)と題された米国特許出願第10/251,657号に記載され、これは参考として本明細書に含めるものとする。
【0019】
成長期中期および後期において、FP発現細胞はバルジ領域のみならず上部外毛根鞘にもあるが、毛母球には存在しない。これらの知見は、ネスチン発現細胞が、毛包幹細胞について認められた挙動と一致して、外毛根鞘を形成すること示唆する。免疫組織化学的染色の結果は、ネスチン、FP、ケラチン5/8、およびケラチン15が毛包バルジ細胞、外毛根鞘細胞および脂腺の基底細胞に共存することを明らかにした。これらのデータはさらに、毛包バルジ内のネスチン-FP発現細胞が毛包幹細胞であることを示した。ネスチン駆動性GFPは毛包間神経様ネットワークにおいても高発現されることが明らかになった。神経幹細胞、毛包幹細胞、および毛包間神経様ネットワークにおいてネスチンが共通して発現することは、それらの起源が共通であることを示唆する。
【0020】
典型的な使用に際して、標識された細胞は宿主生物内に導入され、そこで細胞は増殖し、分化して新生血管を形成する。新生血管は、典型的には宿主生物において既存の血管と吻合する。標識された細胞は適当などのような宿主にも移植され、移植、経皮的注入、および埋め込みといった標準的な移植方法を用いて、進行および成長することができる。
【0021】
移植は、当技術分野で知られているどのような方法によっても行うことができる。ある実施形態において、毛包幹細胞もしくはそれから誘導された、分化した細胞は、被験体に、全身性に注入される。別の態様において、毛包幹細胞もしくはそれから誘導された、分化した細胞は、被験体の臓器もしくは組織に直接注入される。好ましくは臓器もしくは組織は、腎臓、脳、肝臓、または心臓血管系に関連した器官もしくは筋肉、たとえば心臓もしくは肺である。さらに、後に移植される合成担体上に付着、または増殖した細胞もしくは組織も、検討される。毛包幹細胞もしくはそれから誘導された分化した細胞は、細胞の起源である被験体とは異なる被験体に異種移植することができる。しかしながら、毛包幹細胞の到達性のために、ある好ましい態様においては、処置すべき被験体から細胞を採取し、必要ならば、分化型細胞を与えるよう増殖させた後、幹細胞もしくは分化型細胞のいずれかを自家移植してもよい。本発明の幹細胞は十分に原始的で、したがって宿主は移植時にその細胞をおそらく拒絶しないと思われるので、毛包幹細胞バンクの利用も考えられる。
【0022】
標識された細胞を脊椎動物に移植する技術は、望ましい部位での、外科的同所移植(SOI)による直接移植を包含する。腎臓被膜における移植は、好ましい移植部位である。標識された細胞が腫瘍細胞である場合、移植部位は、典型的にはその腫瘍細胞の起源の部位である。適当な部位には、肺、肝臓、膵臓、胃、乳房、卵巣、前立腺、骨髄、脳および他の悪性腫瘍に罹りやすい組織が含まれる。標識された細胞が移植されたならば、その脊椎動物は血管新生を研究するためのモデル系となる。その後、標識された細胞は進行および成長することが可能であって、脊椎動物は、元の移植部位から遠位の部位でのFP標識細胞の出現についてモニターされる。モニタリングは、直接観察によって、たとえば蛍光顕微鏡を用いて、そのままの脊椎動物に行うことができるが、組織を切除して顕微鏡で調べてもよい。
【0023】
モデルとして使用するのに適した脊椎動物被験体は、好ましくは哺乳類の被験体であり、もっとも好ましいのは利用しやすい実験動物、たとえば、ウサギ、ラット、マウス、イヌ、ネコなどである。ヒト被験体により近い類似性のため、霊長類も使用することができる。特に有用なのは、腫瘍成長を特に生じやすい被験体、たとえば、損なわれた免疫系を有する被験体、典型的にはヌードマウスもしくはSCIDマウスである。適当な脊椎動物被験体はいずれも使用できるが、その選択は、主として利便性および、もっとも関心のある系への類似性によって決定される。組織培養のようなin vitro系も、適当な宿主として使用することができる。こうした研究に適した系には、コラーゲンゲルなどで維持されるような、固形培地による培養が含まれる。
【0024】
標識細胞は、標準的な遺伝子直接導入法によってin vitroで調製することができるが、トランスジェニック宿主から標識された細胞を採取することによってin vivoで調製することもできる。遺伝子直接導入法には、リポソームの使用、リン酸カルシウム沈澱、エレクトロポレーションおよび遺伝子銃が含まれる。リポフェクションは好ましい。たとえば、標識された癌細胞は、好ましくは、ネスチン調節エレメントの制御下に蛍光タンパク質または他の標識をコードしたレトロウイルスベクターを用いて調製される。蛍光タンパク質標識毛包幹細胞は、好ましくは、トランスジェニック動物起源から採取される。ネスチン発現の調節エレメントは、血管新生幹細胞において蛍光タンパク質コード配列の発現を個別に駆動するために使用され、したがって、血管新生のための標識幹細胞マーカーとなる。
【0025】
蛍光タンパク質
モデルは一般に、1つもしくは複数の蛍光タンパク質標識細胞を作製することを包含する。蛍光タンパク質標識細胞は、宿主細胞内に発現系を導入することによって作製されるが、その場合、発現系は、1つもしくは複数のネスチン調節配列の制御下にある蛍光タンパク質を含んでなる。好ましい実施形態において、脊椎動物の宿主生物、好ましくは哺乳類もしくは鳥類宿主は、1つもしくは複数の蛍光タンパク質標識細胞を含有するように改変される。これらの細胞は培養され、または宿主生物内で増殖させる。
【0026】
さまざまな蛍光タンパク質が多年にわたり標識として使用されている。当初単離されたタンパク質は緑色波長を放射し、緑色蛍光タンパク質(GFP)と呼ばれるようになった。このため、数ある中でも赤色蛍光タンパク質(RFP)、青色蛍光タンパク質(BFP)および黄色蛍光タンパク質(YFP)を含めてさまざまな色のタンパク質が調製されているにもかかわらず、緑色蛍光タンパク質が、一般にこうした蛍光タンパク質に対する一般名となった。これらのタンパク質の性質は、たとえば、米国特許第6,232,523; 6,235,967; 6,235,968; および6,251,384号において検討されており、これらはいずれも参考として本明細書に含めるものとする。上記特許は、トランスジェニック齧歯類において細胞増殖および腫瘍転移をモニターするために、さまざまな色の蛍光タンパク質を使用することについて記載する。加えて、これらの蛍光タンパク質を用いて、米国特許出願第09/812,710号ではプロモーターによる発現をモニターし;米国特許出願第10/192,740号では細菌による感染をモニターし;さらに米国仮出願第60/425,776号ではセルソーティングをモニターしている。細胞の核および細胞質を標識するために異なる色の蛍光タンパク質を使用することが、米国仮出願第60/404,005 および 60/427,604号において開示されており、また、全組織において標識され、したがって同一色の一貫した蛍光を有するマウスが、米国仮出願第60/445,583号に記載されている。これらの文書すべてを参考として本明細書に含めるものとする。
【0027】
ネスチン
ネスチンは、前駆細胞もしくは幹細胞のマーカーである中間径フィラメント遺伝子である(ヒト(Homo sapiens)ネスチン(NES)、mRNA (NM_006617))。ネスチンの発現は、幹細胞を、もっと分化の進んだ細胞から区別する。神経上皮幹細胞は、ネスチンを発現するが、増殖型幹細胞から分裂終了ニューロンに分化すると、それを激しくダウンレギュレートする(Lendahlら、(1990) Cell 60:585-595)。ネスチンはまた、筋前駆体では発現されるが、成熟筋細胞では発現されない。ネスチン遺伝子の第1および第2イントロンにおける細胞型に特異的な独自のエレメントは、トランスジェニック動物において、それぞれ筋前駆体および神経前駆体の発達のために一貫してレポーター遺伝子の発現を指示した。ネスチン第2イントロンは、CNS幹細胞において機能するエンハンサーを含有する(Zimmermanら、(1994) Neuron 12: 11-24; (ヒト(Homo sapiens)ネスチン遺伝子、イントロン2 (AF004335))。これらのエレメントの同定は、特定の前駆体もしくは幹細胞が最終分化するときに生じる遺伝子発現において、スイッチを制御するメカニズムの解析を容易にする。
【0028】
下記の実施例は説明を目的とし、いかなる場合も本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0029】
増殖型上皮細胞はネスチンを発現する
静置培養したウシ大動脈内皮細胞において高レベルのネスチンが発現することによって説明されるように、増殖型上皮細胞は、ネスチンを発現する。下記の実施例においてウシ大動脈内皮細胞(BAEC)を用いて、内皮細胞ネスチン発現を調べた。
【0030】
内皮細胞は、静置培養において細胞分裂により増殖するが、生理的な層流(約15 dyn/cm2)のもとでは増殖は減少する(Malek, A.M.ら、JAMA (1999) 282:2035-2042)。ネスチンは、ノーザンブロット分析および免疫染色に基づいて、静置培養したBAECにおいて強く発現された。ネスチン発現が増殖に依存するかどうかを調べるために、BAECを12時間、15 dyn/cm2の流れによる剪断応力の下においた。
【0031】
カミソリの刃を用いて胸部大動脈の内面からこすり落としたウシ大動脈内皮細胞(BAEC)を、下記の実験に使用した。BAECをその後、6ウェルプレート内で、20%ウシ胎仔血清を含むRPMI 1640中で培養した。BAECが直径3から6mmのコロニーを形成したとき、細胞を新しい6ウェルプレートに移し、そこではウシ胎仔血清は10%に減らした。敷石状のシートを形成して増殖した培養細胞株を、7から12代の継代によって選択し、使用するまで液体窒素中で保存した。
【0032】
BAECは、厚さ0.5mmの石英カバーガラス上で培養した。既述のように(Negishi, Y.ら、Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. (2001) 21:785-790)、カバーガラスを裏返しにして、平行板型フローチャンバー(内部空間の大きさ:幅16mm×長さ35mm×深さ200μm)に載せた。この装置を37℃のCO2インキュベーター内に置いた。既述(Negishi, Y.ら、上記)の式に基づいて、剪断応力を計算した。流速は15 dyn/cm2に調整したが、これは生理的な流速と同等である。
【0033】
次に、BAECを、4%パラホルムアルデヒドを含む0.1Mリン酸バッファー、pH 7.4中で、24時間(組織)または1時間(培養細胞)固定した。BAECを、50mM NH4Clを含むPBSで処理して、遊離アルデヒドをなくし、その後、一次抗体インキュベーションの前に0.1%サポニンおよび0.4%ウシ血清アルブミンによって透過性とした。BAECを最初に、1:5000の希釈率でネスチンに対する一次抗体とともにインキュベートした。BAECのために使用された二次抗体は、インドジカルボシアン化合物結合アフィニティ精製ロバ抗ウサギIgG(赤色)であった(Jackson ImmunoResearch, West Grove, Pennsylvania)。核は4,6-ジアミジノ-2-フェニルインドールで青色に対比染色した。
【0034】
ノーザンブロット分析のために、BAECから全RNAを抽出し、6.3%ホルムアルデヒド/50%ホルムアミドで変性させて、6.6%ホルムアルデヒド含有1.0%アガロースゲルで電気泳動した後、ナイロン膜(Amersham Life Science、東京)にブロットした。ハイブリダイゼーションは、32P-デオキシCTPで標識されたヒトネスチンDNA断片(560bp)のプローブを用いて、ランダムプライミング法により行った。対照として、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼプローブを使用した。
【0035】
ウェスタンブロッティングのために、U251ヒト神経膠芽腫細胞を溶解バッファー(70 mM Tris-HCl, pH 6.8、11.2% グリセロール、3% SDS、0.01% ブロモフェノールブルー、5% 2-メルカプトエタノール)中で可溶化して細胞溶解液とした。次に、細胞溶解液を、還元条件下で7.5%ポリアクリルアミドゲルでの電気泳動に供した後、ニトロセルロース膜上にブロットして、1:7500に希釈したウサギ抗ヒトネスチン抗血清で探索した。ネスチンブロットは、ECL検出システム(Amersham, Buckinghamshire, United Kingdom)を用いて検出した。
【0036】
ネスチンmRNAの発現は、ノーザンブロット分析から、流れによる剪断応力によって著しく減少した。さらに、流れに依存するネスチン発現の減少は、免疫染色によって確認された。
【実施例2】
【0037】
脳腫瘍に対するネスチン免疫染色
ネスチンに対するポリクローナル抗体は、ウサギにおいて、ヒトネスチン配列のC末端17アミノ酸をカバーする合成オリゴペプチドを注入することによって産生された。この抗体は、すでに報告されているように(Messam, C.A.ら、上記; Tohyama, T.ら、上記 (1992))、ウェスタンブロッティングによって、U251細胞抽出物に由来する210から240 kDのタンパク質と反応した。すでに報告されているように(Messam, C.Aら、上記)、免疫ブロットは糖鎖修飾の相違のために、ダブレットのようであった。合成オリゴペプチドをU251細胞溶解物に加えると免疫ブロットが消失したので、免疫ブロットがネスチンタンパク質を表すことが示された。
【0038】
この抗体の交差反応性を、ビメンチン、GFAP、ケラチンおよびデスミンを含む他の中間径フィラメントについて、さらにテストした。ヒトビメンチンに対する抗体は、U251細胞抽出物およびHeLa細胞抽出物の両者について、50 kDのマーカー位置をわずかに超えて単一バンドを示した。GFAPに対する抗体は、U251細胞抽出物については約50 kDのバンドを示したが、HeLa細胞では示さなかった。プールされたマウスモノクローナル抗体、抗サイトケラチンAE1/AE3は、酸性および塩基性ケラチンの広範なサブファミリーを認識するが、これをケラチンの検出に使用した。抗サイトケラチンAE1/AE3は、約50 kDタンパク質をHeLa細胞からは認識したが、U251細胞抽出物からはごくわずかであった。ヒトのデスミンに対する抗体は、U251もしくはHela細胞抽出物のいずれについてもバンドを示さなかった。非免疫ウサギ血清は、U251もしくはHela細胞抽出物のいずれについても人為的なバンドを示さなかった。したがって、ネスチンに対する抗体は、既報(Messam, C.A.ら、上記; Tohyama, T.ら、上記(1992))のネスチン分子の大きさのタンパク質に相当する、高分子量のバンドを示したが、他の中間径フィラメントとは交差反応しなかった。
【0039】
次に71個の脳腫瘍サンプルをこの抗体で免疫染色した。71個のヒト脳腫瘍サンプルは57個の神経膠腫および14個の他の脳腫瘍であった。神経膠腫は、世界保健機構(WHO)グレードI腫瘍を6個、グレードII腫瘍を11個、グレードIII腫瘍を18個、およびグレードIV腫瘍を22個含んでいた。他の脳腫瘍は、4個の血管芽腫、2個の髄芽腫、1個の非定型奇形腫様/ラブドイド腫瘍、3個の髄膜腫、2個の非定型髄膜腫、および2個のシュワン腫を包含した。71個の脳腫瘍はすべて、群馬大学医学部脳神経外科で切除された。診断は、群馬大学医学部病理学科にて、改訂されたWHO分類にしたがって、通常の病理検査により確立された。
【0040】
ヒトの脳および腫瘍組織を、4%パラホルムアルデヒドを含有する0.1Mリン酸バッファー、pH 7.4において24時間(組織)または1時間(培養細胞)固定した。組織サンプルの小片を、ミクロトーム切断に最適な切削温度の化合物中に包埋した。組織切片を最初に、1:5000に希釈したネスチンに対する一次抗体とともにインキュベートした。脳および腫瘍組織については、二次抗体反応系として、LSAB2/HRP染色キット(DAKO)を使用した。その方法は、二次抗体の反応とその後の、西洋ワサビペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン系との酵素反応からなる。酵素反応において、ペルオキシダーゼは、3-アミノ-9-エチルカルバゾールから不溶性褐色生成物への反応を触媒する。
【0041】
すでに記載されているように(Dahlstrand, J.ら、上記)、わずかな血管内皮細胞が時にかすかに染色を示したが、正常な大脳皮質組織はこの抗体によって免疫染色されなかった。神経膠芽腫(WHO グレードIV)において、典型的なネスチン染色は、腫瘍細胞の進行に沿って繊維状に分布していた。染色強度は、この腫瘍では4+と分類された。ネスチン染色は、円形腫瘍細胞(退形成性乏突起星細胞腫、染色強度は3+である)の細胞質において、ボタン状クラスターとしてやはり明白であった。一部のグレードIIIおよびグレードIVの神経膠腫において、染色は増殖性内皮に限局されていた(神経膠芽腫、グレードIV)(退形成性乏突起神経膠腫、グレードIII)。低グレードの神経膠腫では、相当数の腫瘍において染色は無視できるほど弱かったが、腫瘍の内皮に沿って、明確な染色が認められた(乏突起神経膠腫、グレードII)。こうした傾向は、他のタイプの脳腫瘍ではもっと顕著で(シュワン腫および髄膜腫)、それらの内皮はネスチン陽性に強く免疫染色されたが、腫瘍細胞はまったく染色されなかった。したがって、腫瘍内皮細胞は、悪性度に関するWHOグレードに関わりなくネスチンを発現した。
【実施例3】
【0042】
血管芽腫におけるネスチン発現
ネスチンは増殖型内皮細胞に発現するので、血管芽腫においても発現することが疑われたが、それは、血管芽細胞(ヘマンジオブラスト)が造血細胞および血管芽細胞(アンジオブラスト)の両者の前駆細胞であると考えられるためである(Eichmann, A.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1997) 94:5141-5146)。この問題を調べるために、4つのヒト血管芽腫についてテストした。内皮細胞マーカー、von Willebrand因子は、血管芽腫における内皮および毛細血管に沿って陽性に免疫染色した(Boehling, T.ら、IARC Press (2000), Lyon, France, 223-226)。
【0043】
ネスチンも、血管芽腫における毛細血管の大半を免疫染色した。しかしながら、凸型の核を有する薄い細胞質からなる典型的な内皮細胞はネスチン染色陽性ではなかった。内皮細胞の外観が正常細胞と似ているため、このタイプの内皮は十分に分化しており、ネスチン発現を失っている可能性がある。血管芽腫のネスチン陽性細胞は、真のトランスフォームされた血管芽細胞(ヘマンジオブラスト)を示す可能性がある。したがって、ネスチンは、神経上皮幹細胞および神経膠腫細胞のマーカータンパク質であるだけでなく、血管芽細胞(ヘマンジオブラスト)および増殖型内皮細胞のマーカータンパク質でもある。
【実施例4】
【0044】
中間径フィラメントタンパク質、ネスチンは、CNSの前駆細胞を示す。
前駆体CNS幹細胞は、GFPをネスチン調節配列の制御下に置くことによって選択的に標識される。毛包の発育または成長期初期に、ネスチン-GFPトランスジェニックマウスにおいて蛍光を発するGFPで標識されたネスチン発現細胞が、毛包バルジ内の脂腺の真下にある不変上部毛包に現れることはすでに立証された。これは、毛包外毛根鞘のための幹細胞が位置すると考えられている部位である。バルジ領域内の比較的小型で楕円形のネスチン発現細胞が毛幹を取り囲み、短い樹状突起によって相互に連結されている。毛包内のネスチン発現細胞の正確な位置は毛周期によって変化する。
【0045】
上記の知見は、ネスチン発現細胞が皮膚の再生に有効であることを示す。これらのデータは、毛包バルジ内のGFPによって標識されたネスチン発現細胞が、実に、毛包外毛根鞘の前駆細胞であるだけでなく、表皮の前駆細胞でもあることを示す。
【0046】
いくつかの異なる皮膚創傷モデルが現在使用されており、それぞれが、異なる態様の臨床症状を、さまざまな精度でシミュレートする。皮膚創傷のネスチン-GFP発現は、パンチ生検の損傷後1、3、5、7および9日に測定した。ネスチン発現細胞は第5日には、真皮、および表皮の基底層において、より広範囲におよんだ。ネスチンGFP発現細胞の増加は、3日までには検出され、損傷後5-9日に最大免疫強度に達した。
【0047】
最近、Taylor, G.ら、Cell(2000)102:451-461にて報告されたのは、毛包バルジ幹細胞が、毛包の細胞のみならず表皮細胞も生じることができるため、潜在的に二分化能を有することである。他の実験も、成体マウスの感覚毛(ひげ)の上部外毛根鞘が、多能性幹細胞を含有し、その幹細胞は毛包マトリクス細胞、脂腺基底細胞、および表皮に分化することができるという新たな証拠を提供した。近年、ヒト皮膚真皮から単離された多能性成体幹細胞(皮膚由来前駆細胞と称される)は、培養で増殖および分化して、ニューロン、グリア、平滑筋細胞、および脂肪細胞を生じることが報告された。しかしながら、皮膚におけるこれらの幹細胞の正確な部位は不明であり、その機能は依然として明らかでない。
【0048】
毛包バルジの細胞における、神経前駆細胞のマーカーであるネスチンの発現が、本明細書において明らかとなる。ネスチンを蛍光タンパク質(GFP)と結合したが、それによってネスチン含有細胞が、それぞれの周期で毛包の主要部分を形成することを示す観察が可能となった。毛包幹細胞における、神経幹細胞タンパク質ネスチンのこのような発現は、関連の可能性を示唆する。
【0049】
多能性、ネスチン陽性、フィブロネクチン陽性幹細胞(SKP)は、若年および成体の皮膚から生じうるが、これらの前駆細胞は真皮に由来し、間葉幹細胞とは別個のものである。SKPの個々のクローンは、神経外胚葉および中胚葉系譜のどちらの細胞にも分化することが可能である(ニューロン、グリア、平滑筋細胞および脂肪細胞を含めるが、おそらくそれに限定されない)。研究から明らかとなったのは、SKPが少なくとも1年間、こうした多様な細胞型を生じる能力を失うことなく、継代できることである。最終的に、ヒトに関する研究は、同様の前駆細胞がヒト成体皮膚内に存在する可能性を示している。したがって、SKPは明らかに、他の成体幹細胞よりおそらく「偏り」の少ない、新しい成体幹細胞に相当する。こうした幹細胞を、アクセス可能な、潜在的自家組織起源から単離、増殖できることは、重要な治療的意味を持つ。
【0050】
これらの発見は、アトピー性皮膚炎(AD)の主要な決定要因としてGATA-3を同定する。したがって、ネスチン調節性FPトランスジェニックマウスモデルは、ADのようなアレルギー性皮膚疾患において認められるTh2細胞およびTh2サイトカインの役割の生理学的重要性の理解に関わる。
【実施例5】
【0051】
ネスチン-FPトランスジェニックマウス
ネスチンは、CNS前駆細胞および神経上皮幹細胞のマーカーとなる中間径フィラメント(IF)である。CNS幹細胞の自己複製および多分化能を研究し、可視化するために、ネスチン第2イントロンエンハンサーの制御下にEGFPを有する、高感度GFP(EGFP)トランスジェニックマウスを使用する。下記の研究は、毛包幹細胞が、ネスチン調節性EGFP発現によって明示されるように、ネスチンを強く発現することを示す。
【0052】
成長期の誘導
毛の成長の休止期にある6-8週齢のネスチン調節性GFPトランスジェニックマウスを、ロジンおよび蜜蝋の高温混合物によって除毛した。除毛直前(休止期)、除毛後1-5日(成長期初期)、第8および10日(成長期中期)、第14および15日(成長期後期)、ならびに第19および20日(退行期)にサンプル(5 x 5 mm2)を背部皮膚から切除した。皮膚サンプルを2つの部分、一方は蛍光顕微鏡検査用、もう一方は凍結切片用に分けた。手短に述べると、皮膚サンプルを組織凍結包埋剤中に包埋し、−80℃にて一晩凍結した。厚さ8μmの切片を、Leica CM1850クリオスタットで切断した。凍結切片を風乾し、蛍光顕微鏡検査のためにヨウ化プロピジウムで対比染色した。
【0053】
蛍光および共焦点顕微鏡検査
ネスチン-GFP皮膚サンプルを、皮下組織から切り出した後、真皮を上に、表皮を下にして、GFP光学系を搭載したNikon蛍光顕微鏡下で直接観察した。x 10 PlanApo対物レンズを有するNikon Optiphotに搭載されたMRC-600共焦点イメージングシステム(Bio-Rad)も使用した。
【0054】
免疫組織化学染色
パラフィン包埋C57B16マウスおよびネスチン-GFPトランスジェニックマウス皮膚切片における、ネスチン、ケラチン5、8および15、ならびにGFPの共存は、DAKO ARK動物研究キット(ネスチンおよびケラチン)、ならびにDAKO EnVision二重染色システムを用いて、メーカーの使用説明書にしたがって検出された。簡単に述べると、皮膚サンプル中の内因性ペルオキシダーゼ活性は、ペルオキシダーゼ-ブロッキング溶液中で5分間インキュベートすることによって消失した。次に、スライドを、調製済みのビオチン標識一次抗体(GFP mAb, 1:100; ネスチンmAb, 1: 80; ケラチン5/8 mAb, 1:250; およびケラチン15 mAb, 1:100)とともに15分間インキュベートし、続いてストレプトアビジンペルオキシダーゼとともに15分間インキュベートした。染色は、基質-色素原3,3'-ジアミノベンジジン(DAB)またはnuclear fast redとともに5分間インキュベートすることによって完了した。褐色(DAB)または鮮紅色(nuclear fast red)の染色が抗原染色に使用された。ネスチンmAb(ラット401)はIowa大学(Iowa City)から購入した。ケラチン5/8 mAb(MAB3228)およびケラチン15 mAb(CBL 272)はChemiconから購入した。
【0055】
ネスチン制御GFP発現を示す細胞は、脂腺のすぐ下で、バルジ領域内の、休止期毛包の不変上部領域にある。この細胞は、比較的小型で楕円もしくは円形であって、樹状突起様構造によって相互に結合されている。
【0056】
ネスチン発現細胞の部位および数は、毛周期によって左右される。成長する毛包におけるGFP標識ネスチン産生細胞の進行および増殖は、詳細には、マウス(6-8週齢)において、除毛によって休止期の毛包に成長期を誘導した後に続いて起こった。毛包幹細胞についてすでに記載されているように、休止期には、毛包内の緑色蛍光を発するネスチン発現細胞は、上部不変バルジ領域にのみ存在する。除毛後2,3日後に、ネスチンを発現する毛包細胞は増殖し、バルジから下に移動した。成長期中期および後期には、ネスチン発現毛包細胞は外毛根鞘の上部3分の2を占め、毛包および毛球マトリクスの下部3分の1には存在しない。退行期において、毛球マトリクス細胞が退縮および変性を受けるとき、外毛根鞘ネスチン-GFP発現細胞の数は、毛包の縮小に伴って減少する。最終的に、次の休止期には、こうした細胞はバルジにのみ局在する。
【0057】
データから、ネスチン発現細胞が、毛包の外毛根鞘の真の前駆細胞もしくは幹細胞を包含することが示される。成長期のピーク時には、毛包外毛根鞘の長さの3分の2が完全に、ネスチン発現GFP蛍光細胞で構成される。これらの細胞は、明らかに、休止期毛包におけるネスチン発現細胞の小クラスターに由来し、毛周期と同調する動態で増殖する。成長期の毛包の外毛根鞘の大半は、物理的、生理的および時間的な障壁を考慮すると周囲の組織からの細胞の有意な補充はありそうにないため、上記の推定される幹細胞から誘導されるはずである。こうした結果は、生きた幹細胞が新たな毛包構造の重要な部分を形成するという記述を与える。
【0058】
こうした結果は他の発見によって強力に支持される。最近、Oshima, H.ら、Cell (2001) 104:233-245によって、成体マウスの感覚毛の外毛根鞘の上部領域が、形態形成シグナルに反応して多様な毛包、脂腺および表皮を生じる多能性幹細胞を含有することが報告された。こうした発見は、外毛根鞘におけるネスチン-GFP発現に関する本発明者らの知見と符合する。
【0059】
こうしたネスチン-GFP発現毛包前駆細胞もしくは幹細胞は、ケラチン5/8およびケラチン15も発現し、これらのケラチンは、毛包幹細胞の潜在的なマーカーとなる。免疫組織化学的染色の結果から、ネスチン、GFP、およびケラチン5/8および15は、毛包バルジ細胞、外毛根鞘細胞、および脂腺の基底細胞に共存することが示されている。これらのデータはさらに、毛包バルジ内ネスチン-GFP発現細胞の、外毛根鞘の前駆細胞としての役割を支持する。
【0060】
毛包の生物学への関心の高まりは、毛幹を形成する明白な役割に加えて、機能および細胞型の驚くべき複雑さを明らかにした。ここに、毛包内の外毛根鞘前駆細胞が神経幹細胞ですでに見出されたネスチンマーカーを共有するという知見を報告する。この発見は、毛包細胞と神経幹細胞との間のあり得る関係を示唆する。データはまた、これまで疑わしかったこと、すなわちネスチン-GFPを発現することが示されたバルジ細胞が増殖して、成長期の間に外毛根鞘の多くを形成することを証明する。当然、ネスチン発現細胞は、非常に広範な役割を果たし、毛包全体のための幹細胞として機能することが可能である。この場合、毛包の残りの部分、たとえば、内毛根鞘およびマトリクスは、ネスチン発現細胞を起源とすると考えられるが、分化が進むにつれてネスチン発現を喪失したと思われる。
【実施例6】
【0061】
毛包幹細胞の単離
毛包バルジのネスチン-GFP発現幹細胞を単離してin vitroで培養した。休止期のネスチン-GFPトランスジェニックマウス皮膚サンプルを摘出して細かく切った。刻んだ組織を次に、トリプシン(0.25%)、コラゲナーゼ(0.4%)、およびジスパーゼ(1.0%)の混合物で、37℃にて2時間、消化した。バルジ領域内のネスチン-GFP発現細胞を有する個別の毛包を、蛍光光学系を搭載した解剖顕微鏡下で分離した。その後、蛍光解剖顕微鏡下で細いシリンジを用いて、毛包バルジ領域のネスチン-GFP発現細胞をさらに単離した。
【0062】
幹細胞の増殖
毛包バルジ領域由来のネスチン-GFP発現細胞を、成長因子を添加していないM21培地に移したが、この培地は、ニューロスフェアを増殖させる典型的な神経維持培地である(Uchida, N.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2000) 97:14720-14725)。12日後、ニューロスフェア様コロニーが見た目に明らかになった。別の実験において、毛包バルジ領域から単離されたネスチン-GFP発現細胞は、2日ごとに上皮成長因子(EGF)(20 ng/ml)、神経芽細胞成長因子(FGF)(20 ng/ml)および白血病抑制因子(Lif)(10 ng/ml)を補充したメチルセルロース(1.2%)含有神経幹細胞培地中で10細胞/mm2に増殖した。スフェアが培地中にはっきり見えたら、それらを、メチルセルロースを含まない新たなプレートに移した。一次スフェアから、二次スフェアも生成した。次にスフェアの分化能力をアッセイした。
【実施例7】
【0063】
B16F10マウスメラノーマ細胞およびネスチン発現
B16F10マウスメラノーマ細胞が、内皮細胞の挙動を呈し、in vitroおよびin vivo血管新生プロセスを再現することを下記に示す。腫瘍細胞によるin vitroでの索形成は、低酸素および血管内皮増殖因子(VEGF)によって刺激され、VEGFおよびVEGF KDR受容体(VEGF受容体2)に対する抗体によって抑制される。
【0064】
B16F10マウスメラノーマ細胞株(B16F10)をDMEM培地10% FCSで、37℃にて5% CO2により増殖させる。DsRed-2遺伝子(Clontech)を、レトロウイルスを基本とするヒト発現ベクターpLNCX(Clontech)に挿入して、pLNCX DsRed-2ベクターを形成する。レトロウイルスの作製は、pLNCX DsRed-2をPT67パッケージング細胞内にトランスフェクトすることによって行われ、DsRes-2遺伝子を含有するレトロウイルス上清を生成する。
【0065】
B16F10細胞を、15% FCS含有RPMI 1640培地(GIBCO)で培養する。感染の24時間前に、70%コンフルエントPT67/RFP細胞を、7% FBSを含む新しいDMEM培地に換える。標的細胞を60mmプレート当たり1-2 x 105の細胞密度となるように感染の18時間前に播く。
【0066】
感染したB16F10細胞を宿主nu/nuマウスに移植し、腫瘍細胞を増殖させる。腫瘍サンプルは位置を確認し、蛍光顕微鏡検査のために正常な組織のサンプルとともに摘出する。顕微鏡画像は、FP含有血管の存在により、血管新生活性の存在を示す。
【実施例8】
【0067】
皮膚における新生血管はネスチン発現毛包細胞から生じる
CNS幹細胞の自己複製および多分化能を研究し、可視化するために、ネスチン第2イントロンエンハンサーの制御下にあるGFPを有するトランスジェニックマウス(ND-GFP)を使用した。毛包幹細胞は、ネスチン調節性のGFP発現によって立証されるように、ネスチンを強く発現する。
【0068】
下記に検討する結果を得るために、水銀ランプ電源装置を搭載したOlympus IMT-2倒立顕微鏡(Melville, NY)を用いて、蛍光顕微鏡検査を行った。この顕微鏡にはGFPフィルターセットを付けた(Chroma Technology, Rockingham, VT)。また、Plan Apo 10X 対物レンズを有するNikon Optiphotに搭載されたMRC-600共焦点イメージングシステム(Bio-Rad)を使用して、GFPを発現する皮膚組織を直接観察した。風乾した皮膚および凍結切片における、CD31およびvon Willebrand因子(VWF)に関する免疫組織化学的染色は、CD31用には抗ラットIg西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)検出キット(BD Biosciences)、VWF用には抗ウサギIg HRP検出キット(BD Biosciences)を用いて、メーカーの説明書にしたがって行った。CD31 mAb(CBL1337)はChemiconから購入した。VWFポリクローナル抗体(A0082)はDAKOから購入した。検出のために、基質-色素原3,3'-ジアミノベンジジン染色を使用した。
【0069】
成長期マウス皮膚におけるネスチン発現の可視化
トランスジェニックND-GFPマウス(ほとんど休止期毛包のみを有する6-8週齢)を用いて、成長期マウス皮膚におけるネスチン発現を可視化した。動物をトリブロモエタノール(腹腔内注射、1.2%溶液で体重10gあたり0.2ml)で麻酔した。ロジンおよび蜜蝋の高温混合物によってマウスを除毛して、成長期を誘導した。除毛前、ならびに除毛の48および72時間後に麻酔下で背部皮膚からサンプルを摘出したが、その時毛包は成長期初期であった。皮膚サンプルを3つの部分に分け、1つは蛍光顕微鏡検査用、他の2つは凍結切片もしくは風乾断片用とした。凍結切片用のサンプルは、組織凍結包埋剤(DAKO)中に包埋し、−80℃にて一晩凍結した。厚さ5μmの切片を、 CM1850クリオスタット(Leica, Deerfield, IL)で切断し、風乾した。
【0070】
図1は、ND-GFPトランスジェニックマウスの背部皮膚の真皮側からの写真を示す。図1Aは、トランスジェニック動物由来の背部皮膚の位相差顕微鏡画像を示す。脂腺(下向き矢印)が、毛幹(上向き矢印)のまわりに位置している。図1BはGFP蛍光を加えた位相差顕微鏡画像を示す。ND-GFP細胞は、毛包バルジ領域において可視化され、血管も見られる。毛包バルジ領域は脂腺の真下にある。図1Cは、GFP蛍光の画像を示す。ND-GFP血管はND-GFP毛包に接続して見える。図1Dは、ND-GFP毛包バルジ領域および血管ネットワークの位置を示す休止期毛包の概略図を示す。図1Eも、GFP蛍光の画像を示す。ND-GFP血管は、ND-GFP毛包バルジ領域と関係があると考えられる。図中のスケールバーは、100μmの長さを表す。
【0071】
図1A-Dに見られるように、ネスチン発現毛包は、ND-GFPで標識された真皮血管ネットワークによって相互に連結されている。免疫組織化学的染色により、このネットワーク管が、CD31抗原およびVWFを示すことが明らかとなったが、それは、これらの管が血管であることを示す。
【0072】
ND-GFP感覚毛毛包のヌードマウス創傷皮膚への移植
移植のために、ND-GFPトランスジェニックマウスから感覚毛の毛包を外科的に得た。トランスジェニックマウスを麻酔し、すべての外科的処置は無菌環境で行った。感覚毛パッド(pad)を含む上唇を切り、内部表面を露出した。双眼顕微鏡下で毛包を切開し、微細なピンセットを用いてネックでそっと引くことによってパッドから引き抜いた。次に、すべての毛包を、B-27サプリメント(GIBCO/BRL)を含有するDMEM/F-12培地中に保持した。
【0073】
レシピエントのヌードマウスをトリブロモエタノールで上記のように麻酔した。サンプルの全層皮膚を折り畳み、〜15mm離れた2つの隣接する全層創傷を、2mmのバイオプシーパンチを用いて生じさせた。次にND-GFP毛包を移植した。ナイロン縫合糸(6-0)で切創を閉じた。その後、移植を受けたマウスの皮下組織サンプルを摘出し、蛍光顕微鏡法によって直接観察し、風乾、または免疫組織化学的染色用の凍結切片の調製を行った。マウスを麻酔し、分析のために傷を付けた10日後に創傷皮膚サンプルを摘出した。
【0074】
図2A-Gはヌードマウスの皮下組織に移植されたND-GFP感覚毛毛包の画像を示す。図2Aは、移植の28日後の毛包の位相差顕微鏡写真である。画像の下部に既存の血管が見える。図2Bは同じ毛包を、GFP蛍光を加えた位相差顕微鏡写真として示す。この画像において、ネスチン陽性血管は、既存の血管に連結されていることが示されている。図2Cは、移植された毛包のGFP蛍光画像を示す。図2Bにおいて、ND-GFP血管は、移植されたND-GFP毛包から成長し、ヌードマウス皮膚に既存の血管と結合していると認められる。図2Dおよび2Eは、それぞれ図2Bおよび2Cよりも高倍率のND-GFP血管の画像を示す。(fおよびg)図2Fおよび2GはGFPシグナルおよび内皮細胞マーカーCD31の共存下の画像を示す。図2Fは蛍光画像であり、図2Gは同じ領域を、風乾しCD31で免疫組織化学的に染色して示す(スケールバー、100μm)。
【0075】
ND-GFP血管が、ヌードマウス皮膚において第3日までに、移植されたND-GFP毛包から成長することが検出された。上記図2に関して検討されるように、第28日までには、ネスチン-GFP発現血管が、広範に枝分かれしたネットワークに発達し、レシピエントヌードマウスの既存の血管と吻合しているように見えた。免疫組織化学的染色は、CD31抗原およびGFP蛍光が新生血管に共存することを示した。
【0076】
ヌードマウスの腎臓被膜下へのND-GFP感覚毛毛包の移植
感覚毛の毛包を上記のように採取した。次に、すべての毛包は、上記の通り麻酔した6から8週齢のnu/nuマウスの腎臓被膜下に移植するまで、DMEM/F-12培地に入れて氷上に保持した。レシピエントマウスの左側腹部に切開を行い、腎臓を露出した。2つの毛包を腎臓被膜の下に挿入した。その後、腎臓を所定の位置に戻し、切開部をナイロン縫合糸(6-0)で閉じた。第14日に、それぞれの移植マウスの腎臓被膜を摘出し、蛍光顕微鏡検査により直接観察した。
【0077】
図3A-Cは、ヌードマウスの腎臓被膜下に移植されたND-GFP感覚毛毛包の画像を示す。ND-GFP血管は移植後14日に、位相差顕微鏡写真(図3A)、GFP蛍光を加えた位相差顕微鏡写真(図3B)およびGFP蛍光(図3C)に見られるように、ネットワークを形成することが可視化された(スケールバー、100μm)。ND-GFP血管は既存の血管と吻合しているように見えた。
【0078】
ヌードマウスの腎臓被膜下にND-GFP感覚毛毛包を移植した後、第14日に、移植された毛包の周囲にND-GFP血管ネットワークが観察された(図3)。ND-GFP血管は既存の血管と吻合しているように見えた。
【0079】
創傷皮膚における移植毛包からのND-GFP血管の成長促進
移植されたND-GFP感覚毛毛包を含む創傷皮膚サンプルを、蛍光顕微鏡検査のために採取した。図4Aは、移植前の単離されたND-GFP感覚毛毛包を示す。図4Bは、移植後10日の創傷ヌードマウス皮膚内のND-GFP感覚毛毛包の画像を示す。ND-GFP血管は、ND-GFP感覚毛毛包から、治癒する傷に向かって成長することが認められた。図4CおよびDは、白点線の四角で示した、図4Bの領域の高倍率図を示している。図4Eは、ND-GFP感覚毛毛包の、ヌードマウス創傷皮膚への移植の概略図である(スケールバー、100μm)。
【0080】
図4の画像は、ND-GFP血管が毛包から創傷に向かって成長したことを示す。移植された毛包の近傍に創傷があると、血管の伸長はかなり促進された。明らかに、毛包から始まる血管は、創傷近傍から生じる血管新生シグナルに反応した。免疫組織化学的染色は、創傷内へと成長するND-GFP発現血管においてCD31が発現されることを示した。
【0081】
考察
血管新生、すなわち毛細血管の非常に活発な成長および破壊は、組織の維持、創傷修復、および悪性腫瘍の増殖を理解する上で、ますます重要な役割を占めるようになった。新生血管の細胞の起源を同定することは、科学としても、治療計画のためにも、重要性を増している。骨髄由来幹細胞から生じる内皮細胞について、最近、多数の報告がなされている。また、内皮細胞を脂肪組織から誘導することができるという証拠もある。しかしながら、これらのすでに同定された、内皮幹細胞の起源は、皮膚のユニークな構造のために、皮膚において血管を与えることはできないと思われる。上記で与えられる結果は、毛包幹細胞の重要で未だ認められていない機能が、皮膚において血管を形成することができる内皮細胞の供給であることを示している。
【0082】
毛包幹細胞の可能性のレパートリーは、本明細書に報告されるよりもずっと広範であるかもしれない。多くの研究者が、哺乳類皮膚の真皮から単離された、皮膚由来前駆細胞と呼ばれる多能性成体幹細胞が、培養で増殖、分化し、ニューロン、グリア細胞、平滑筋細胞、および脂肪細胞を生じることができることを発見した。しかしながら、これらの幹細胞の皮膚における正確な部位は不明で、その機能も明確ではなかった。本報告は、毛包が皮膚血管、ならびに、可能性は非常に高いが、さらに他の組織のための、幹細胞の重要な起源であることを示唆する。こうした結果は、毛包細胞が、創傷修復ならびに皮膚移植生着に寄与するという報告を支持する。
【実施例9】
【0083】
血管新生促進物質をスクリーニングするための血管新生モデル
移植のために、感覚毛毛包をND-GFPトランスジェニックマウスから、実施例8に記載のように外科的に採取する。すべての毛包はその後、B-27サプリメント(GIBCO/BRL)を含有するDMEM/F-12培地中に保持する。
【0084】
レシピエントヌードマウスを麻酔し、全層皮膚サンプルを折り畳み、〜15mm離れた2つの隣接する全層創傷を、2mmのバイオプシーパンチを用いて生じさせる。次にND-GFP毛包を移植する。ナイロン縫合糸(6-0)で切創を閉じる。
【0085】
マウスを実験群と対照群に分ける。実験群は、既知の血管新生促進物質である血管内皮成長因子を製薬上許容される担体中に含んでなる治療シリーズを受けた。対照群のマウスは担体のみを受容する。
【0086】
治療後、移植を受けたマウスの皮下組織サンプルを続いて摘出し、蛍光顕微鏡検査によって直接観察し、風乾、または免疫組織化学的染色用の凍結切片の調製を行う。実験群および対照群から採取されたサンプルにおける血管新生活性の程度。実験群から採取されたサンプルは、対照サンプルで見られるよりも高度の、GFP活性量に基づく血管新生活性を示す。
【0087】
この実施例は、開示されたモデル系が血管新生物質のスクリーニングとして有用であることを示す。
【実施例10】
【0088】
血管新生抑制物質をスクリーニングするための血管新生モデル
移植のために、感覚毛毛包をND-GFPトランスジェニックマウスから、実施例8に記載のように外科的に採取する。すべての毛包はその後、B-27サプリメント(GIBCO/BRL)を含有するDMEM/F-12培地中に保持する。
【0089】
レシピエントヌードマウスを麻酔し、全層皮膚サンプルを折り畳み、〜15mm離れた2つの隣接する全層創傷を、2mmのバイオプシーパンチを用いて生じさせる。次にND-GFP毛包を移植する。ナイロン縫合糸(6-0)で切創を閉じる。
【0090】
マウスを実験群と対照群に分ける。実験群は、既知の血管新生抑制物質であるバソインヒビンを製薬上許容される担体中に含んでなる治療シリーズを受けた。対照群のマウスは担体のみを受容する。
【0091】
治療後、移植を受けたマウスの皮下組織サンプルを続いて摘出し、蛍光顕微鏡検査によって直接観察し、風乾、または免疫組織化学的染色用の凍結切片の調製を行う。実験群および対照群から採取されたサンプルにおける血管新生活性の程度。実験群から採取されたサンプルは、対照サンプルで見られるよりも低下した、GFP活性量に基づく血管新生活性を示す。
【0092】
この実施例は、開示されたモデル系が抗血管新生物質のスクリーニングとして有用であることを示す。
【実施例11】
【0093】
FP発現毛包細胞のFPトランスジェニック宿主への移植
ND-GFPを発現する感覚毛毛包細胞を、トランスジェニックマウスにおいて調製する。トランスジェニック宿主生物、nu/nuマウスは、ネスチン調節性制御のもとでRFPを発現するように操作される(ND-RFP)。ND-GFPを発現する感覚毛毛包細胞を、実施例8に記載のように、ND-RFPトランスジェニック宿主生物において生じた皮膚創傷に移植する。
【0094】
移植されたND-GFP感覚毛毛包を含有する創傷皮膚サンプルを、蛍光顕微鏡検査のために採取する。単離されたND-GFP感覚毛毛包は、移植の前に、顕微鏡検査に供する。移植の10日後の、傷を付けたnu/nu ND-RFPマウス皮膚内のND-GFP感覚毛毛包の画像。ND-RFP血管は、ND-GFP感覚毛毛包から、治癒する傷に向かって成長すると認められる。創傷から発するND-RFP血管も見られる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】図1A-Eは、ND-GFPトランスジェニックマウスにおける背部皮膚の真皮側からの図を示す。図中のスケールバーは100μmの長さを表す。
【図2】図2A-Gはヌードマウスの皮下組織内に移植されたND-GFP感覚毛の毛包の画像を示す(スケールバー、100μm)。
【図3】図3A-Cはヌードマウスの腎臓被膜下に移植されたND-GFP感覚毛の毛包の画像を示す(スケールバー、100μm)。
【図4】図4は、移植前後のND-GFP感覚毛毛包の画像及びND-GFP感覚毛毛包のヌードマウス創傷皮膚への移植の概略を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管の発生発達をモニターする方法であって;
血管新生幹細胞を与えること(この幹細胞はネスチン調節エレメントの遺伝的な制御下の、蛍光タンパク質(FP)をコードする発現カセットを含んでなる);
幹細胞を宿主において増殖させること;ならびに
血管の発生発達をもたらす幹細胞の血管新生活性をモニターすること;
を含んでなる前記方法。
【請求項2】
前記血管新生幹細胞がネスチン発現細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ネスチン発現細胞が毛包細胞である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記毛包細胞をin vitro培養で増殖させる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ネスチン発現細胞が腫瘍細胞である、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記腫瘍細胞が、黒色腫、神経膠腫、血管芽腫、シュワン腫、髄芽腫、および髄膜腫からなる一群から選択される腫瘍型に由来する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記蛍光タンパク質が、緑色蛍光タンパク質(GFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)、青色蛍光タンパク質(BFP)、および黄色蛍光タンパク質(YFP)からなる一群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ネスチン調節エレメントがヒト ネスチン遺伝子の第2イントロンによってコードされる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記宿主生物が脊椎動物である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記宿主生物が哺乳類もしくは鳥類である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記哺乳類宿主が、マウス、ラット、ウサギ、イヌおよびネコからなる一群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記宿主生物が、ニワトリもしくは鶏卵である、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記血管新生幹細胞が、ネスチン調節性制御下の第1のFPタンパク質を含んでなり、宿主生物はネスチン調節性制御下の第2のFPタンパク質を含んでなるが、ここで第1のFPタンパク質は第2のFPタンパク質とは異なる、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
血管新生の調節物質をスクリーニングする方法であって;
血管新生幹細胞を与えること(この幹細胞はネスチン調節エレメントの遺伝的な制御の下で蛍光タンパク質(FP)をコードする発現カセットを含んでなる);
血管新生調節物質の存在下で幹細胞を宿主において増殖させること;ならびに
幹細胞の血管新生活性をモニターすること;
を含んでなる前記方法。
【請求項15】
前記血管新生幹細胞がネスチン発現細胞である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ネスチン発現細胞が毛包細胞である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記毛包細胞をin vitro培養で増殖させる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ネスチン発現細胞が腫瘍細胞である、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記腫瘍細胞が、黒色腫、神経膠腫、血管芽腫、シュワン腫、髄芽腫、および髄膜腫からなる一群から選択される腫瘍型に由来する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記蛍光タンパク質が、緑色蛍光タンパク質(GFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)、青色蛍光タンパク質(BFP)、および黄色蛍光タンパク質(YFP)からなる一群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
前記ネスチン調節エレメントがヒト ネスチン遺伝子の第2イントロンによってコードされる、請求項14に記載の方法。
【請求項22】
前記宿主生物が脊椎動物である、請求項14に記載の方法。
【請求項23】
前記宿主生物が哺乳類もしくは鳥類である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記哺乳類宿主が、マウス、ラット、ウサギ、イヌおよびネコからなる一群から選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記宿主生物が、ニワトリもしくは鶏卵である、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記血管新生幹細胞が、ネスチン調節性制御下の第1のFPタンパク質を含んでなり、宿主生物はネスチン調節性制御下の第2のFPタンパク質を含んでなるが、ここで第1のFPタンパク質は第2のFPタンパク質とは異なる、請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−509632(P2007−509632A)
【公表日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−538344(P2006−538344)
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【国際出願番号】PCT/US2004/036105
【国際公開番号】WO2005/042715
【国際公開日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(502326772)アンチキャンサー インコーポレーテッド (23)
【Fターム(参考)】