説明

ネマチック液晶組成物及びこれを用いた液晶表示素子

【課題】 比抵抗を大幅に低下させる材料を使用することなく、適度に大きい比抵抗値を有し且つ、液晶表示素子の静電気等による帯電に起因する一時的な電圧の印加に対する液晶分子の異常配向を速やかに緩和できる液晶組成物を提供する。
【解決手段】 半極性有機ホウ素化合物又は、半極性有機ホウ素化合物により構成される電荷移動錯体を1種以上含有し、比抵抗値が1.0×1011Ωcm以上1.0×1013Ωcm以下であることを特徴とするネマチック液晶組成物及びこれを用いた液晶表示素子。本願発明のネマチック液晶組成物は、適度に大きい比抵抗値を有し、静電気等による帯電に起因する一時的な電圧の印加に対する液晶分子の異常配向を速やかに緩和する特徴を有することから、製造工程における帯電に起因する電荷の放電時間を短縮し液晶表示素子の効率的な製造を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、静電気等による帯電に起因する一時的な電圧の印加による挙動を改善したネマチック液晶組成物及び、これを用いた液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
ツイストネマチック、超ねじれツイストネマチック又はアクティブマトリックスを初めとする液晶表示素子の製造工程において、液晶表示素子表面に貼られた保護フィルムを剥離した際、素子中に静電気による電場(剥離帯電)が発生する。この電場はしばしば非点灯部の液晶組成物を配向させ、すなわち点灯状態となり、電場が放電するまでその配向状態は継続する。この電場が放電するまでに要する時間は無視できず、製造工程に限らず検査工程あるいは素子表面の汚れの拭き取り作業等の出荷工程までも、その作業を中断しなければならないようになり、タクト時間(製品1個当りの生産時間)の悪化を招くことになる。
【0003】
帯電による異常配向の問題は、液晶組成物の比抵抗値を低下させることにより緩和できることが開示されている(特許文献1参照)。比抵抗値の低い液晶組成物は、静電気等による帯電に起因する一時的な電圧の印加があっても、比抵抗が低いため電荷は速やかに放電し、液晶分子は電圧無印加時の配向状態を復元することができる。例えば、ネマチック液晶表示素子における一般的な液晶組成物の比抵抗値は、1×1011Ωcm以上であるものが多く、帯電に起因する一時的な電圧の印加に対する液晶分子の緩和時間はかなり長い、この組成物に比抵抗を下げるような物質を添加し比抵抗を1×10Ωcm台まで低下させると、電荷の緩和は非常に速くなり、静電気等による帯電に起因する一時的な電圧の印加があっても、配向状態の変化は殆ど確認できないようになる。しかしながら、比抵抗が1×1010Ωcmより低い液晶組成物を用いた液晶表示素子においては、しばしば消費電力の増大を招き、さらには電気的短絡による文字の焼き付き等不良表示の原因となることがある。従って、適度に大きい比抵抗値を有し、且つ液晶表示素子の静電気等による帯電に起因する一時的な電圧の印加に対する挙動を改善した液晶組成物、すなわち、静電気等による帯電に起因する一時的な電圧の印加に対する液晶分子の緩和が十分速い液晶組成物の開発が求められている。
【0004】
上述の液晶組成物における静電気等による液晶分子の異常配向を緩和させる方法として、例えば、クリプタンド(Cryptand)等のイオン性物質を添加する方法が開示されている(特許文献2参照)。しかしながら、この液晶組成物中のイオン性成分は、注入口等の一部分において液晶表示素子中のポリイミド等の高分子膜に吸着されてしまい、しばしば表示ムラの原因となるという問題を有していた。
【0005】
また、同様に静電気等による液晶分子の異常配向を緩和させる方法として、エチレングリコール等の非イオン系界面活性剤及びこれらの共重合体を添加する方法が開示されている(特許文献3)。しかしながら、この方法は帯電防止の機構上、液晶や配向膜中のイオン量や配向状態により効果が左右されやすく、十分な帯電防止効果が得られない場合もあり、その効果を十分に得るため大量に添加すると、添加割合の増加に伴い、液晶表示素子の信頼性を示す項目の一つである、液晶組成物のネマチック−イソトロピック相転移温度(液晶相上限温度)が大幅に低下しまうという問題を有していた。
【0006】
あるいは、同様に静電気等による液晶分子の異常配向を緩和させる方法として、環状ポリエーテル等いわゆるクラウンエーテルを添加する方法が開示されている(特許文献4)。しかしながら、クラウンエーテル類は人間の皮膚あるいは目に対して著しい刺激を与える等の強い毒性があり、液晶表示素子製造等における作業環境に危険性を生じるおそれがあるという問題を有していた。
【0007】
さらに上記のような従来の非液晶性化合物を添加した場合には、ほかの液晶化合物との相溶性が低下したり、液晶物性を損なう等の問題があった。また、比抵抗値及び表示品位を低下させることなく、静電気等による帯電に起因する一時的な電圧の印加に対する液晶分子の異常配向を速やかに緩和することができる添加物は見出されていなかった。
【0008】
【特許文献1】特開昭59−4676号公報(2頁)
【特許文献2】特開平4−28788号公報(2頁)
【特許文献3】特開平4−180993号公報(4頁)
【特許文献4】特表平11−508286号公報(2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願発明の課題は、比抵抗及び液晶相上限温度を大幅に低下させる材料を使用することなく、適度に大きい比抵抗値を有し且つ液晶表示素子の静電気等による帯電に起因する一時的な電圧の印加に対する液晶分子の異常配向を速やかに緩和できる液晶組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者は、半極性有機ホウ素化合物又は、半極性有機ホウ素化合物により構成される電荷移動錯体含有するネマチック液晶組成物を検討した結果、静電気等による液晶分子の異常配向を速やかに緩和する効果を有することを見出し本件発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本願発明は半極性有機ホウ素化合物又は、半極性有機ホウ素化合物により構成される電荷移動錯体を1種以上含有し、該半極性有機ホウ素化合物一分子中のホウ素原子の数が5以下であり、比抵抗値が1.0×1010Ωcm以上1.0×1013Ωcm以下であることを特徴とするネマチック液晶組成物及びこれを用いた液晶表示素子を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本願発明のネマチック液晶組成物は、適度に大きい比抵抗値を有し、静電気等による帯電に起因する一時的な電圧の印加に対する液晶分子の異常配向を速やかに緩和する特徴を有することから、製造工程における帯電に起因する電荷の放電時間を短縮し液晶表示素子の効率的な製造を可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本願発明の一例について説明する。
本願発明において半極性有機ホウ素化合物又は、半極性有機ホウ素化合物により構成される電荷移動錯体をネマチック液晶組成物に1種以上含有することで、従来の液晶組成物に比べ、液晶表示素子の静電気等による帯電に起因する一時的な電圧の印加に対する液晶分子の異常配向緩和する時間を改善することが可能である。
【0014】
半極性有機ホウ素化合物とは、一般に半極性結合を有する有機ホウ素化合物を表す。ホウ素は3価であるため、ホウ酸誘導体を形成する場合にはホウ素は3個の酸素原子と結合を形成する。ところが、ホウ素原子には空の電子軌道が存在し、この軌道に酸素原子等の孤立電子対が配位することにより4個の酸素原子と結合した特殊な構造で安定化する。この配位結合のことを半極性結合と呼ぶことから、半極性結合を有する有機ホウ素化合物を半極性ホウ素化合物と一般に呼ばれている。本願発明で使用される半極性有機ホウ素化合物(なる用語)もこの意味で使用する。
【0015】
本願発明の液晶組成物に添加する半極性有機ホウ素化合物としては、ジ(グリセリン)ボラート、ジ(グリセリン)ボラートの一価カルボン酸エステル、ジ(カテコール)ボラート、ジ(1,2-プロピレングリコール)ボラート、ジ(2-エチル-1,3-ヘキサンジオール)ボラート又は一般式(I)
【0016】
【化1】

で表される骨格を有する化合物が好ましいが、液晶組成物との相溶性を考慮すると、一分子中に含まれるホウ素原子の数は一原子であることが好ましい。さらに具体的には一般式(I-1)又は一般式(I-2)
【0017】
【化2】

【0018】
(式中、R及びRはそれぞれ独立的に水素原子、水酸基、炭素数1から12のアルキル基、炭素数1から12のアルコキシ基、炭素数2から12のアルケニル基、炭素数2から12のアルケニルオキシ基、ハロゲンにより置換された炭素数1から12のアルキル基、ハロゲンにより置換された炭素数1から12のアルコキシ基、ハロゲンにより置換された炭素数2から12のアルケニル基又はハロゲンにより置換された炭素数2から12のアルケニルオキシ基を表し、A及びAはそれぞれ独立的に、単結合、炭素数1から10のアルキレン基、炭素数6から18のアリール基、−(−(CHO−)−(nは、1から10の整数を表し、mは、1から30の整数を表す。)、−CH−O−CO−R−CO−(Rは、炭素数1から60の炭化水素基を表す。)又は−CH−O−CO−NH−R−NH−CO−を表し、p及びqはそれぞれ独立的に、1から10の整数を表すが、A及びAが複数存在する場合、それらは同一でもよく異なっていても良い。)で表される化合物が好ましい。
【0019】
これら半極性有機ホウ素化合物の含有率は、0.00001から1質量%の範囲が好ましく、0.0001から0.1質量%の範囲がより好ましい。
【0020】
本願発明の液晶組成物は比抵抗値が1.0×1010Ωcm以上1.0×1013Ωcm以下であるが、下限値は1.0×1011Ωcm以上が好ましく、上限値は1.0×1012Ωcm以下が好ましく、1.0×1011Ωcm以上1.0×1012Ωcm以下がより好ましい。
【0021】
前述の半極性有機ホウ素化合物は電子供与体となり易い性質を有し、適当な電子受容体との組み合わせにより電荷移動錯体を形成する。この半極性有機ホウ素化合物により構成される電荷移動錯体もまた、静電気等による帯電に起因する一時的な電圧の印加に対する液晶分子の異常配向を速やかに緩和する作用を有する。
【0022】
本願発明に使用される電荷移動錯体を形成するためには、電子受容体となる半極性有機ホウ素化合物及び電子供与体が必要である。電子供与体としてはテトラチオフルバレン、テトラセレノフルバレンなどのフルバレン誘導体や、フタロシアニン及びその誘導体、アミン系化合物、ヒドロキノン類、等が知られているが、アミン系化合物が好ましい。アミン系化合物としては、脂肪族アミン化合物及び芳香族アミン化合物に分類されるが、例えばエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、フェニレンジアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、ピペラジン、ポリエチレンイミノ及びそのエチレンオキシド付加物、ポリビニルピリジン、ポリ(ジメチルアミノエチル)アクリレート、ポリ(ジメチルアミノプロピル)アクリルアミド、ジアリルアミン−イソブチレン交互共重合体などが挙げられる。これらは必要に応じて単独で使用されても組み合わせて使用されても良い。
【0023】
これら半極性有機ホウ素化合物により構成される電荷移動錯体の含有率は、0.00001から1質量%の範囲が好ましく、0.0001から0.1質量%の範囲がより好ましい。
【0024】
本願発明のネマチック液晶組成物は、一般式(II)
【0025】
【化3】

【0026】
(式中、Rは、水素原子、炭素数1から12のアルキル基、少なくとも一つのハロゲンにより置換された炭素数1から12のアルキル基、炭素数2から12のアルケニル基又は少なくとも一つのハロゲンにより置換された炭素数2から12のアルケニル基を表し、これらの基中に存在する1個又は2個以上のCH基はそれぞれ独立的にO原子が相互に直接結合しないものとして酸素原子、硫黄原子、−CO−、−COO−、−OCO−又は−OCO−O−により置き換えられてもよく、
及びBはそれぞれ独立的に、トランス−1,4−シクロへキシレン基(この基中に存在する1個のCH基又は隣接していない2個のCH基は酸素原子又は硫黄原子に置換されても良い。)、1,4−フェニレン基(この基中に存在する1個又は2個以上のCH基は窒素原子に置換されても良い。)、1,4−シクロヘキセニレン基、1,4−ビシクロ[2.2.2]オクチレン基、ピペリジン−1,4−ジイル基、ナフタレン−2,6−ジイル基、デカヒドロナフタレン−2,6−ジイル基又は1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−2,6−ジイル基を表し、これらの基中に存在する水素原子はメチル基、−CN又はハロゲンで置換されていても良く、
s及びtはそれぞれ独立的に、0、1又は2を表すが、s及びtの和は3以下であり、
及びZはそれ独立して、−CHCH−、−CH=CH−、−CH(CH)CH−、−CHCH(CH)−、−CH(CH)CH(CH)−、−CFCF−、−CF=CF−、−CHO−、−OCH−、−OCH(CH)−、−CH(CH)O−、−(CH−、−(CHO−、−O(CH−、−C≡C−、−CFO−、−OCF−、−COO−、−OCO−、−COS−、−SCO−又は単結合を表し、
及びLはそれぞれ独立的に、−H、−F又は−Clを表し、Lは、−F、−Cl、−CN、−CF、−OCHF、−OCHF、−OCF又は−CHCFを表し、B、B、Z及びZが複数存在する場合は、それらは同一でもよく異なっていてもよい。)で表される化合物を1種又は2種以上を含有することが好ましいが、1から20種が好ましく、1から15種がさらに好ましい。
【0027】
一般式(II)で表される化合物の含有率は1から80質量%の範囲が好ましく、1から50質量%の範囲がより好ましく、1から20質量%が特に好ましい。
【0028】
一般式(II)において、Rは、炭素数1から12のアルキル基、アルコキシ基、炭素数2から12のアルケニル基又は炭素数2から12のアルケニルオキシ基を表すことが好ましく、直鎖型アルキル基及び直鎖型アルケニル基がさらに好ましい。B及びBはそれぞれ独立的に式群1
【0029】
【化4】

【0030】
で表される構造から選ばれることが好ましく、中でも、式群2
【0031】
【化5】

【0032】
で表される構造から選ばれることがさらに好ましい。
【0033】
及びZはそれぞれ独立的に、単結合、−CHCH−、−CH(CH)CH−、−CHCH(CH)−、−CH(CH)CH(CH)−、−C≡C−、−COO−又は−OCO−を表すことが好ましく、単結合、−CHCH−、−C≡C−、−COO−又は−OCOがさらに好ましく、単結合又は−COO−が特に好ましい。L及びLはそれぞれ独立的に、−F、−CN、−CF又は−OCFを表すことが好ましく、−F又は−CNが特に好ましい。s及びtは、s+tが1又は2を表すことが好ましい。一般式(II)で表される化合物は、具体的には、一般式(II-1)、一般式(II-2)、一般式(II-3)、一般式(II-4)、一般式(II-5)、一般式(II-6)、一般式(II-7)、又は一般式(II-8)で表される化合物が好ましい。
【0034】
【化6】

【0035】
(式中、L及びLはそれぞれ独立的に、−H、−F又は−Clを表し、Lは、−F、−Cl、−CN、−CF、−OCHF、−OCHF、−OCF又は−CHCFを表し、X及びXはそれぞれ独立的に、−H又は−Fを表す。)
ネマチック液晶組成物としてはさらに、一般式(III)
【0036】
【化7】

【0037】
(式中、R及びRは、一般式(II)におけるRと同じ意味を表し、C、C及びCはそれぞれ独立的に、トランス−1,4−シクロへキシレン基(この基中に存在する1個のCH基又は隣接していない2個のCH基は酸素原子又は硫黄原子に置換されても良い。)、1,4−フェニレン基(この基中に存在する1個又は2個以上のCH基は窒素原子に置換されても良い。)、1,4−シクロヘキセニレン基、1,4−ビシクロ[2.2.2]オクチレン基、ピペリジン−1,4−ジイル基、ナフタレン−2,6−ジイル基、デカヒドロナフタレン−2,6−ジイル基又は1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−2,6−ジイル基を表し、これらの基中に存在する水素原子はメチル基、−CN又はハロゲンで置換されていても良く、u、v及びwはそれぞれ独立的に、0又は1を表し、
、Z及びZはそれぞれ独立的に、−CHCH−、−CH=CH−、−CH(CH)CH−、−CHCH(CH)−、−CH(CH)CH(CH)−、−CFCF−、−CF=CF−、−CHO−、−OCH−、−OCH(CH)−、−CH(CH)O−、−(CH−、−(CHO−、−O(CH−、−C≡C−、−CFO−、−OCF−、−COO−、−OCO−、−COS−、−SCO−、−CH=N−N=CH−又は単結合を表す。)
で表される化合物を1種又は2種以上を含有することが好ましいが、1から20種含有することが好ましく、1から15種がさらに好ましい。
【0038】
一般式(III)で表される化合物の含有率は5から95質量%の範囲であるが、10から90質量%の範囲が好ましく、25から90質量%がより好ましい。
【0039】
一般式(III)において、R及びRはそれぞれ独立的に、炭素数1から12のアルキル基、アルコシキ基、炭素数2から12のアルケニル基又は炭素数2から12のアルケニルオキシ基を表すことが好ましく、中でも直鎖型アルキル基及び直鎖型アルケニル基がさらに好ましい。C、C及びCは式群3
【0040】
【化8】

で表される構造から選ばれることが好ましく、式群4
【0041】
【化9】

で表される構造から選ばれることがより好ましい。
【0042】
、Z及びZは、それぞれ独立的に単結合、−CHCH−、−CH=CH−、−CH(CH)CH−、−CHCH(CH)−、−CH(CH)CH(CH)−、−C≡C−、−COO−、−OCO−又は−CH=N−N=CH−を表すことが好ましく、単結合、−CHCH−、−CH=CH−、−C≡C−、−COO−、−OCO−又は−CH=N−N=CH−がより好ましい。u、v及びwはそれぞれ独立的に、0又は1であり、かつu、v及びwの和が1以上であるが、u、v及びwの和が2又は3が好ましい。一般式(III)は、具体的には、一般式(III-1)、一般式(III-2)、一般式(III-3)、一般式(III-4)、一般式(III-5)、一般式(III-6)、一般式(III-7)、又は一般式(III-8)で表される化合物が好ましい。
【0043】
【化10】

【0044】
(式中、Rは、一般式(II)におけるRと同じ意味を表し、Y、Y、Y及びYは、それぞれ独立的に、−H、−F又はメチル基を表し、Zは、−CHCH−、−CH=CH−、−COO−、−OCO−、又は単結合を表し、Zは、−C≡C−、−COO−、−OCO−又は−CH=N−N=CH−を表す。)
一般式(III-1)から一般式(III-8)において、Y、Y、Y及びYは、−Hが好ましい。Zは、−CHCH−、−CH=CH−又は単結合が好ましい。Zは、−C≡C−又は−CH=N−N=CH−が好ましい。
【0045】
液晶組成物のネマチック相上限温度は60℃以上であることが好ましく、80℃以上がより好ましく、90℃以上が特に好ましい。
【0046】
屈折率異方性(Δn)は0.06から0.30の範囲であることが好ましく、0.07から0.18の範囲がより好ましいが、TN−LCDの場合0.07から0.16の範囲であることがセル厚の設計上特に好ましく、STN−LCDの場合0.12から0.18の範囲であることがセル厚の設計上特に好ましい。
【0047】
誘電率異方性(Δε)は、1以上20以下が好ましいが、1以上15以下がより好ましい。
【0048】
本願発明の液晶組成物は、上記の化合物以外に、通常のネマチック液晶、スメクチック液晶、コレステリック液晶、2色性色素などを含有していてもよい。又、TN−LCDのリバースツイストドメイン防止のためやSTN−LCDの螺旋構造を誘起するため、カイラル剤を添加しても良い。カイラル剤は通常市販されているものを使用することができる。例えば、コレステリルノナノエート(CN)、メルク社製S−811、R−811、CB−15、C−15などが挙げられる。温度上昇によって誘起螺旋ピッチが長くなるものと短くなるものが知られているが、これらの一方を1種あるいは2種以上を用いても良く、両者を組み合わせて1種あるいは2種以上用いても良い。例えば、TN−LCD、STN−LCD、TFT−LCDにおいては、基板間の厚みdと誘起螺旋ピッチpの商d/pは、0.001から24の範囲から選ぶことができるが、0.01から12の範囲が好ましく、0.1から2の範囲がより好ましく、0.1から1.5の範囲が更に好ましく、0.1から1の範囲が更により好ましく、0.1から0.8の範囲が特に好ましい。
【0049】
上記ネマチック液晶組成物はTN−LCD、STN−LCD、OCB−LCD、高分子分散型液晶表示素子、フェーズチェンジ型コレステリック液晶表示素子に有用であるが、TN−LCD、STN−LCDに特に有用である。また、透過型あるいは反射型の液晶表示素子に用いることができる。
【0050】
本願発明のTN液晶表示素子は目的に応じて、ねじり角を80°から130°の範囲で選択することができ、85°から110°が好ましい。本願発明のSTN液晶表示素子は目的に応じて、ねじり角を180°から270°の範囲で選択することができ、220°から260°が好ましい。
【実施例1】
【0051】
以下、実施例を挙げて本願発明を更に詳述するが、本願発明はこれらの実施例に限定されるものではない。又、以下の実施例及び比較例の組成物における「%」は『質量%』を意味する。
【0052】
実施例中、測定した特性は以下の通りである。
TN-I :ネマチック相−等方性液体相転移温度(℃)
Δε :誘電率異方性(25℃)
Δn :複屈折率(25℃)
ρ :比抵抗値(Ω・cm)
帯電時間:液晶組成物をセルに注入し、静電気ガンを用いて点灯状態にした
後、元の電圧無印加状態に戻るまでの時間(秒)
化合物記載に下記の略号を使用する。
-n 数字 :-CnH2n+1 (アルキル側鎖は数字、代表するときはRとする。)
-On :-OCnH2n+1
-ndm :-(CnH2n+1-CH=CH-(CH2m-1
ndm- :CnH2n+1-CH=CH-(CH2m-1-
-Od(m)n :-O(CnH2n+1-CH=CH-(CH2m-2
d(m)nO- :CnH2n+1-CH=CH-(CH2m-2O-
連結基
-VO- :-COO- T- :-C≡C- -2- :-CH2CH2-
置換基
-CN :-C≡N -F :-F

Ph :1,4-フェニレン基 Ph1:3-フルオロ-1,4-フェニレン基
Ph2:3,5-ジフルオロ-1,4-フェニレン基
Ma :ピリミジン-2,5-ジイル基 Cy :1,4-シクロヘキシレン基
(実施例1、比較例1)
以下に示すネマチック液晶組成物(H1)を調製し、その物性値を測定し、その結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
得られた液晶組成物H1は、一時的な電圧の印加に対する液晶分子の帯電時間が比較的長く、有効な対策を実施しない場合300秒と長時間に渡って異常配向が持続する特徴を有している。
【0055】
このH1に、実施例1-2から1-4として、半極性有機ホウ素化合物としてエマルボンS−83又は、T−20(東邦化学工業株式会社製)を加えた液晶組成物(LC1、LC2及びLC3)を調製した。また、比較のために、比較例1-1および1-2として、ネマチック液晶組成物H1に下記一般式で示される非イオン性界面活性剤であるテトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEG)
【0056】
【化11】

【0057】
を加えた液晶組成物(R1及びR2)を調製した。それらの比抵抗値ならびに6.0μmのTNセルに注入したときの帯電特性を測定し、その結果を表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
ネマチック液晶組成物LC1は、半極性有機ホウ素化合物を添加していないH1と比較して比抵抗及び液晶相上限温度を低下することなく、帯電時間を短縮している。
【0060】
LC2及びLC3は、比抵抗及び液晶相上限温度を低下することなく、帯電時間をさらに短縮している。これに対し、TEGを加えたR1の場合、LC1の10倍量の0.1%を添加しても比抵抗は低下し、液晶相上限温度も低下しているにもかかわらず効果が無く、20倍の0.2%を添加したR2では帯電時間の短縮効果は見られるもののその効果は十分ではなく、液晶相上限温度の低下が見られた。
【0061】
この様にTEGを用いた場合、添加量をさらに増やさなければ効果が得られず、LC1からLC3の組成物と比較して抵抗値及び液晶相上限温度の大幅な低下が予想され実用的な液晶組成物としては使用できないものであった。
【実施例2】
【0062】
以下に示すネマチック液晶組成物(H2)を調製し、その物性値を測定し、その結果を表3に示す。
【0063】
【表3】

【0064】
得られた液晶組成物H2は、一時的な電圧の印加に対する液晶分子の緩和時間はH2よりは短く、未対策の場合の帯電時間は30秒程度である。このH2に、半極性有機ホウ素化合物を含有する電荷移動錯体として、ハイボロンEB−6(ボロンインターナショナル社製)を加えた液晶組成物(LC4、及びLC5)を実施例2-1及び2-2として調製した。また、比較のために、比較例2-1及び2-2としてネマチック液晶組成物H2に実施例1と同様の非イオン性界面活性剤であるテトラエチレングリコールジメチルエーテルを加えた液晶組成物(R3及びR4)を調製した。それらの比抵抗値ならびに6.0μmのTNセルに注入したときの帯電特性を測定し、その結果を表4に示す。
【0065】
【表4】

【0066】
帯電時間が比較的短い液晶組成物H2を使用した場合、EB−6を0.01%添加したLC4では帯電時間を0.1秒以下迄に短縮することができ、液晶相温度範囲の低下は見られなかった。EB−6を0.1%添加した場合には、液晶相上限温度の低下が発生するが、EB−6は前述のように0.01%の添加で実用上十分帯電時間を短縮することができる。これに対し、TEGを0.1%添加したR3では比抵抗の低下は最小限に抑えることができるが帯電時間の短縮効果が無く、0.2%添加したR4では比抵抗は低下しないものの、帯電時間の短縮はまだ不十分であり、これ以上の添加は、液晶相上限温度の大幅な低下が予想されることから実用的な液晶組成物として使用することはできないものであった。
【実施例3】
【0067】
以下に示すネマチック液晶組成物(H3)を調整し、H3の99.99%及び半極性有機ホウ素化合物としてエマルボンS−83を0.01%からなる液晶組成物(LC6)を調整した。さらに、H3の99.997%及びT−20を0.003%からなる液晶組成物(LC7)を調製した。
【0068】
【表5】

【0069】
液晶組成物LC6及びLC7もまた帯電時間を短縮する効果が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本願発明の電気光学素子の構造の一例
【符号の説明】
【0071】
1 偏光板
2 基板
3 透明電極もしくはアクティブ素子を伴う透明電極
4 配向膜
5 液晶




【特許請求の範囲】
【請求項1】
半極性有機ホウ素化合物又は、半極性有機ホウ素化合物により構成される電荷移動錯体を1種以上含有し、該半極性有機ホウ素化合物一分子中のホウ素原子の数が5以下であり、比抵抗値が1.0×1010Ωcm以上1.0×1013Ωcm以下であることを特徴とするネマチック液晶組成物。
【請求項2】
半極性有機ホウ素化合物として一般式(I)
【化1】

で表される骨格を有する化合物を含有する請求項1記載のネマチック液晶組成物。
【請求項3】
半極性有機ホウ素化合物により構成される電荷移動錯体として、一般式(I)で表される骨格を有する化合物及びアミン系化合物により構成される電荷移動錯体を含有する請求項2記載のネマチック液晶組成物。
【請求項4】
半極性有機ホウ素化合物として一般式(I-1)又は一般式(I-2)
【化2】

(式中、R及びRはそれぞれ独立的に水素原子、水酸基、炭素数1から12のアルキル基、炭素数1から12のアルコキシ基、炭素数2から12のアルケニル基、炭素数2から12のアルケニルオキシ基、ハロゲンにより置換された炭素数1から12のアルキル基、ハロゲンにより置換された炭素数1から12のアルコキシ基、ハロゲンにより置換された炭素数2から12のアルケニル基又はハロゲンにより置換された炭素数2から12のアルケニルオキシ基を表し、A及びAはそれぞれ独立的に、単結合、炭素数1から10のアルキレン基、炭素数6から18のアリール基、−(−(CHO−)−(nは、1から10の整数を表し、mは、1から30の整数を表す。)、−CH−O−CO−R−CO−(Rは、炭素数1から60の炭化水素基を表す。)又は−CH−O−CO−NH−R−NH−CO−を表し、p及びqはそれぞれ独立的に、1から10の整数を表すが、A及びAが複数存在する場合、それらは同一でもよく異なっていても良い。)で表される化合物を含有する請求項2記載のネマチック液晶組成物。
【請求項5】
半極性有機ホウ素化合物により構成される電荷移動錯体として、一般式(I-1)又は一般式(I-2)で表される化合物及びアミン系化合物により構成される電荷移動錯体を含有する請求項4記載のネマチック液晶組成物。
【請求項6】
アミン系化合物が3級アミンである請求項5記載のネマチック液晶組成物。
【請求項7】
一般式(II)
【化3】

(式中、Rは、水素原子、炭素数1から12のアルキル基、少なくとも一つのハロゲンにより置換された炭素数1から12のアルキル基、炭素数2から12のアルケニル基又は少なくとも一つのハロゲンにより置換された炭素数2から12のアルケニル基を表し、これらの基中に存在する1個又は2個以上のCH基はそれぞれ独立的にO原子が相互に直接結合しないものとして酸素原子、硫黄原子、−CO−、−COO−、−OCO−又は−OCO−O−により置き換えられてもよく、B及びBはそれぞれ独立的に、トランス−1,4−シクロへキシレン基(この基中に存在する1個のCH基又は隣接していない2個のCH基は酸素原子又は硫黄原子に置換されても良い。)、1,4−フェニレン基(この基中に存在する1個又は2個以上のCH基は窒素原子に置換されても良い。)、1,4−シクロヘキセニレン基、1,4−ビシクロ[2.2.2]オクチレン基、ピペリジン−1,4−ジイル基、ナフタレン−2,6−ジイル基、デカヒドロナフタレン−2,6−ジイル基又は1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−2,6−ジイル基を表し、これらの基中に存在する水素原子は−CN又はハロゲンで置換されていても良く、
s及びtはそれぞれ独立的に、0、1又は2を表すが、s及びtの和は3以下であり、
及びZはそれ独立して、−CHCH−、−CH=CH−、−CH(CH)CH−、−CHCH(CH)−、−CH(CH)CH(CH)−、−CFCF−、−CF=CF−、−CHO−、−OCH−、−OCH(CH)−、−CH(CH)O−、−(CH−、−(CHO−、−O(CH−、−C≡C−、−CFO−、−OCF−、−COO−、−OCO−、−COS−、−SCO−又は単結合を表し、
及びLはそれぞれ独立的に、−H、−F又は−Clを表し、Lは、−F、−Cl、−CN、−CF、−OCHF、−OCHF、−OCF又は−CHCFを表し、B、B、Z及びZが複数存在する場合は、それらは同一でもよく異なっていてもよい。)
で表される化合物を1種以上を含有し、
一般式(III)
【化4】

(式中、R及びRは、それぞれ独立的に一般式(II)におけるRと同じ意味を表し、C、C及びCはそれぞれ独立的に、トランス−1,4−シクロへキシレン基(この基中に存在する1個のCH基又は隣接していない2個のCH基は酸素原子又は硫黄原子に置換されても良い。)、1,4−フェニレン基(この基中に存在する1個又は2個以上のCH基は窒素原子に置換されても良い。)、1,4−シクロヘキセニレン基、1,4−ビシクロ[2.2.2]オクチレン基、ピペリジン−1,4−ジイル基、ナフタレン−2,6−ジイル基、デカヒドロナフタレン−2,6−ジイル基又は1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−2,6−ジイル基を表し、これらの基中に存在する水素原子はメチル基、−CN又はハロゲンで置換されていても良く、
u、v及びwはそれぞれ独立的に、0又は1を表し、
、Z及びZはそれぞれ独立的に、−CHCH−、−CH=CH−、−CH(CH)CH−、−CHCH(CH)−、−CH(CH)CH(CH)−、−CFCF−、−CF=CF−、−CHO−、−OCH−、−OCH(CH)−、−CH(CH)O−、−(CH−、−(CHO−、−O(CH−、−C≡C−、−CFO−、−OCF−、−COO−、−OCO−、−COS−、−SCO−、−CH=N−N=CH−又は単結合を表す。)で表される化合物を、1種以上含有する請求項1記載のネマチック液晶組成物。
【請求項8】
一般式(II-1)、一般式(II-2)、一般式(II-3)、一般式(II-4)、一般式(II-5)、一般式(II-6)、一般式(II-7)及び一般式(II-8)
【化5】

(式中、Rは炭素数1から12のアルキル基、炭素数1から12のアルコキシ基、炭素数2から12のアルケニル基又は炭素数2から12のアルケニルオキシ基を表し、X及びXはそれぞれ独立的に水素原子又はフッ素原子を表し、L及びLはそれぞれ独立的に−H又は−Fを表し、Lは−F、−CN、−CF、−OCHF、−OCHF、−OCF又は−CHCFを表す。)で表される化合物からなる群から選ばれる化合物を1種以上を含有する請求項7記載のネマチック液晶組成物。
【請求項9】
一般式(III-1)、一般式(III-2)、一般式(III-3)、一般式(III-4)、一般式(III-5)、一般式(III-6)、一般式(III-7)及び一般式(III-8)
【化6】

(式中、R及びRはそれぞれ独立的に炭素数1から12のアルキル基、炭素数1から12のアルコキシ基、炭素数2から12のアルケニル基、炭素数2から12のアルケニルオキシ基、ハロゲンにより置換された炭素数1から12のアルキル基、ハロゲンにより置換された炭素数1から12のアルコキシ基、ハロゲンにより置換された炭素数2から12のアルケニル基又はハロゲンにより置換された炭素数2から12のアルケニルオキシ基、を表し、Y、Y、Y及びYはそれぞれ独立的に−H、−F又はメチル基を表し、Zは−CHCH−、−CH=CH−、−COO−、−OCO−、又は単結合を表し、Zは−C≡C−、−COO−、−OCO−又は−CH=N−N=CH−を表す。)で表される化合物からなる群から選ばれる化合物を1種以上を含有する請求項7記載のネマチック液晶組成物。
【請求項10】
半極性有機ホウ素化合物又は、半極性有機ホウ素化合物により構成される電荷移動錯体の含有率が0.0001から1質量%の範囲である請求項1から9の何れかに記載のネマチック液晶組成物。
【請求項11】
誘電率異方性(Δε)が1以上20以下の範囲であり、屈折率異方性(Δn)が0.06以上0.16以下の範囲である請求項1から9の何れかに記載のネマチック液晶組成物。
【請求項12】
請求項11記載の液晶組成物を構成部材とする液晶表示素子。



【図1】
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【公開番号】特開2006−16586(P2006−16586A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−312217(P2004−312217)
【出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】