説明

ネマチック液晶組成物及びこれを用いた液晶表示素子

【課題】誘電率異方性が負であり、その絶対値が大きく、粘度の低い液晶組成物の提供。
【解決手段】式Iで表される化合物、


式IIで表される化合物、


式IIIで表される化合物


においてRからRのうち少なくとも一つがアルケニル基又はアルケニルオキシ基である組み合わせによって得られる組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気光学的液晶表示材料として有用な誘電率異方性(Δε)が負の値を示すネマチック液晶組成物及びこれを用いた液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は、時計、電卓をはじめとして、家庭用各種電気機器、測定機器、自動車用パネル、ワープロ、電子手帳、プリンター、コンピューター、テレビ等に用いられるようになっている。液晶表示方式としては、その代表的なものにTN(捩れネマチック)型、STN(超捩れネマチック)型、DS(動的光散乱)型、GH(ゲスト・ホスト)型、IPS(インプレーンスイッチング)型、OCB(光学補償複屈折)型、ECB(電圧制御複屈折)型、VA(垂直配向)型、CSH(カラースーパーホメオトロピック)型、あるいはFLC(強誘電性液晶)等を挙げることができる。また駆動方式としても従来のスタティック駆動からマルチプレックス駆動が一般的になり、単純マトリックス方式、最近ではTFT(薄膜トランジスタ)やTFD(薄膜ダイオード)等により駆動されるアクティブマトリックス(AM)方式が主流となっている。
【0003】
これらの表示方式において、IPS型、ECB型、VA型、あるいはCSH型等は現在汎用のTN型やSTN型と異なり、Δεが負の値を示す液晶材料を用いるという特徴を有する。これらの中で特にAM駆動によるVA型表示は、高速で広視野角の要求される表示素子、例えばテレビ等の用途に使用されている。
【0004】
VA型等の表示方式に用いられるネマチック液晶組成物には、低電圧駆動、高速応答及び広い動作温度範囲が要求される。すなわち、Δεが負で絶対値が大きく、粘度(η)が小さく、高いネマチック相−等方性液体相転移温度(Tni)が要求されている。また、屈折率異方性(Δn)とセルギャップ(d)との積であるΔn×dの設定から、液晶材料のΔnをセルギャップに合わせて適当な範囲に調節する必要がある。加えて液晶表示素子をテレビ等へ応用する場合においては高速応答性が重視されるため、ηの低い液晶材料が要求される。
【0005】
Δεが負の液晶材料として、以下のような2,3−ジフルオロフェニレン骨格を有する液晶化合物(A)及び(B)(特許文献1参照)を用いた液晶組成物が開示されている。
【0006】
【化1】

【0007】
しかし、これらの化合物を用いた誘電率異方性が負の液晶組成物は、液晶テレビ等の高速応答が要求される液晶組成物においては十分に低い粘性を実現するに至っていない。
【0008】
一方、式(C)で表される化合物を用いた液晶組成物は既に開示されている(特許文献2、3及び4参照)が、ηの改善効果が未だ十分ではない。また、実施例に示されているΔnは0.080であり、高速応答に最適な狭ギャップの液晶表示素子に使用することはできないものであった。
【0009】
【化2】

【0010】
また、式(D)で表される化合物を用いた液晶組成物は既に開示されている(特許文献5参照)が、式(D)で表される化合物はηが大きく、Δεの値が小さいため、この化合物の添加量を増加させ、Δεを大きくするとそれにつれてηも増大してしまうという問題があった。
【0011】
【化3】

【0012】
従って、ηが十分に低くΔεが負の液晶組成物の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平8−104869号
【特許文献2】欧州特許出願公開第0474062号
【特許文献3】特開2006−37053号
【特許文献4】特開2006−37054号
【特許文献5】特開2001−354967号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明が解決しようとする課題は、屈折率異方性(Δn)およびネマチック相−等方性液体相転移温度(Tni)を低減又は上昇させることなく、粘度(η)が十分に低く、なおかつ、表示不良のないまたは抑制した誘電率異方性(Δε)が負の液晶組成物を提供し、さらにそれを用いたVA型等の液晶表示素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、種々のフルオロベンゼン誘導体を検討し、特定の化合物を組み合わせることにより前記課題を解決することができることを見出し、本件発明を完成するに至った。
【0016】
本発明は、一般式(I)
【0017】
【化4】

【0018】
(式中、Rは炭素原子数1から10のアルキル基又は炭素原子数2から10のアルケニル基を表し、これらの基中に存在する1個の−CH−又は隣接していない2個以上の−CH−は−O−及び/又は−S−に置換されてもよく、またこれらの基中に存在する1個又は2個以上の水素原子はフッ素原子又は塩素原子に置換されてもよく、Rは炭素原子数1から10のアルキル基、炭素原子数2から10のアルケニル基、炭素原子数1から10のアルコキシ基又は炭素原子数2から10のアルケニルオキシ基を表し、これらの基中に存在する1個の−CH−又は隣接していない2個以上の−CH−は−O−及び/又は−S−に置換されてもよく、またこれらの基中に存在する1個又は2個以上の水素原子はフッ素原子又は塩素原子に置換されてもよく、mは0、1又は2を表す。)で表される化合物を1種又は2種以上含有し、
一般式(II)
【0019】
【化5】

【0020】
(式中、Rは炭素原子数1から10のアルキル基又は炭素原子数2から10のアルケニル基を表し、これらの基中に存在する1個の−CH−又は隣接していない2個以上の−CH−は−O−及び/又は−S−に置換されてもよく、またこれらの基中に存在する1個又は2個以上の水素原子はフッ素原子又は塩素原子に置換されてもよく、Rは炭素原子数1から10のアルキル基、炭素原子数2から10のアルケニル基、炭素原子数1から10のアルコキシ基又は炭素原子数2から10のアルケニルオキシ基を表し、これらの基中に存在する1個の−CH−又は隣接していない2個以上の−CH−は−O−及び/又は−S−に置換されてもよく、またこれらの基中に存在する1個又は2個以上の水素原子はフッ素原子又は塩素原子に置換されてもよい。)で表される化合物を1種又は2種以上含有し、
一般式(III)
【0021】
【化6】

【0022】
(式中、R及びRはそれぞれ独立的に炭素原子数1から10のアルキル基、炭素原子数2から10のアルケニル基、炭素原子数1から10のアルコキシ基又は炭素原子数2から10のアルケニルオキシ基を表し、これらの基中に存在する1個の−CH−又は隣接していない2個以上の−CH−は−O−及び/又は−S−に置換されてもよく、またこれらの基中に存在する1個又は2個以上の水素原子はフッ素原子又は塩素原子に置換されてもよく、B及びBはそれぞれ独立的に
(a) トランス−1,4−シクロへキシレン基(この基中に存在する1個の−CH−又は隣接していない2個の−CH−は−O−及び/又は−S−に置換されてもよい。)
(b) 1,4−フェニレン基(この基中に存在する1個又は2個以上の−CH=は−N=に置換されてもよい。)
(c) 1,4−シクロヘキセニレン基、1,4−ビシクロ[2.2.2]オクチレン基、ピペリジン−1,4−ジイル基、ナフタレン−2,6−ジイル基、デカヒドロナフタレン−2,6−ジイル基及び1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−2,6−ジイル基
からなる群より選ばれる基を表し、上記の基(a)、基(b)又は基(c)はCN又はハロゲンで置換されていてもよく、Y及びYはそれぞれ独立的に−CHCH−、−CH=CH−、−CH(CH)CH−、−CHCH(CH)−、−CH(CH)CH(CH)−、−CFCF−、−CF=CF−、−CHO−、−OCH−、−OCH(CH)−、−CH(CH)O−、−(CH−、−(CHO−、−O(CH−、−C≡C−、−CFO−、−OCF−、−COO−、−OCO−、−COS−、−SCO−又は単結合を表し、Y及びBが複数存在する場合は、それらは同一でもよく異なっていてもよく、pは0、1又は2を表す。)で表される化合物を1種又は2種以上含有し、RからRのうち少なくとも一つは炭素原子数2から10のアルケニル基又は炭素原子数2から10のアルケニルオキシ基である、誘電率異方性が負のネマチック液晶組成物及びこれを用いた液晶表示素子を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の液晶組成物は、Δεが負であってその絶対値が大きいという特徴を有する。またηも低く、液晶性に優れ、広い温度範囲で安定な液晶相を示す。更に、熱、光、水等に対し、化学的に安定であり、相溶性に優れているため、低電圧駆動が可能である実用的で信頼性の高い液晶組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本願発明における液晶組成物において、一般式(I)で表される化合物を1種又は2種以上を含有するが、1種から6種がより好ましく、2種から5種が特に好ましい。また、一般式(I)で表される化合物の含有率は5から35質量%であるが、10から30質量%の範囲であることがより好ましい。これらの化合物は絶対値の大きな負のΔεを有するが、含有量が多いとηを上昇させる傾向があるため、低いηを重視する場合、上限値は30質量%が好ましく、25質量%がより好ましい。また、ネマチック状態の液晶相を駆動する表示素子の場合、スメクチック相が発現することは好ましくない。当該化合物の含有量が多いとスメクチック相−ネマチック相転移温度を上昇させてしまうことがあるため、低いスメクチック相−ネマチック相転移温度を重視する場合はこれらの含有率の上限値は30質量%が好ましく、25質量%がより好ましい。絶対値の大きな負のΔεを重視する場合はこれらの含有率が多いことが好ましく、下限値は5質量%であるが、10質量%が好ましく、15質量%がより好ましく、20質量%が特に好ましい。
【0025】
一般式(I)において、Rは直鎖状であり、炭素原子数1から10のアルキル基又は炭素原子数2から10のアルケニル基を表すことが好ましく、炭素原子数1から5のアルキル基又は炭素原子数2から5のアルケニル基を表すことがより好ましく、Rは直鎖状であり、炭素原子数1から10のアルキル基、炭素原子数1から10のアルコキシ基、炭素原子数2から10のアルケニル基又は炭素原子数2から10のアルケニルオキシ基を表すことが好ましく、炭素原子数1から5のアルキル基、炭素原子数1から5のアルコキシ基、炭素原子数2から5のアルケニル基又は炭素原子数2から5のアルケニルオキシ基を表すことがより好ましく、Δεの絶対値を大きくするには炭素原子数1から5のアルコキシ基又は炭素原子数2から5のアルケニルオキシ基を表すことが特に好ましい。
【0026】
mは0、1又は2を表すことが好ましく、0又は1を表すことがより好ましい。
【0027】
更に詳述すると、一般式(I)は一般式(I−A)及び一般式(I−B)で表される化合物が特に好ましい。
【0028】
【化7】

【0029】
(式中、R及びRはそれぞれ独立的にRと同じ意味を表す。)
一般式(II)で表される化合物を1種又は2種以上を含有するが、2種から6種がより好ましく、3種から5種が特に好ましい。一般式(II)の含有率は5から35質量%の範囲であることが好ましいが、10から30質量%の範囲であることがより好ましい。これらの化合物は大きなΔn及び絶対値の大きな負のΔεを有するが、含有量が多いと粘度を上昇させる傾向があるため、ηの低減を重視する場合、これらの含有率が少ないことが好ましく、その上限値は30質量%が好ましく、25質量%がより好ましい。また、含有量が多いとスメクチック相−ネマチック相転移温度を上昇させてしまうことがあるため、低いスメクチック相−ネマチック相転移温度を重視する場合はこれらの含有率の上限値は30質量%が好ましく、25質量%がより好ましい。Δεの絶対値の増大を重視する場合はこれらの含有率が多いことが好ましく、下限値は5質量%であるが、10質量%が好ましく、15質量%がより好ましく、20質量%が特に好ましい。
【0030】
一般式(II)において、Rは直鎖状であり、炭素原子数1から10のアルキル基又は炭素原子数2から10のアルケニル基を表すことが好ましく、炭素原子数1から5のアルキル基又は炭素原子数2から5のアルケニル基を表すことがより好ましく、Rは直鎖状であり、炭素原子数1から10のアルキル基、炭素原子数1から10のアルコキシ基、炭素原子数2から10のアルケニル基又は炭素原子数2から10のアルケニルオキシ基を表すことが好ましく、炭素原子数1から5のアルキル基、炭素原子数1から5のアルコキシ基、炭素原子数2から5のアルケニル基又は炭素原子数2から5のアルケニルオキシ基を表すことがより好ましく、Δεの絶対値を大きくするには炭素原子数1から5のアルコキシ基又は炭素原子数2から5のアルケニルオキシ基を表すことが特に好ましい。
【0031】
更に詳述すると、一般式(II)は一般式(II−A)であることが特に好ましい。
【0032】
【化8】

【0033】
(式中、R及びR10はそれぞれ独立的にRと同じ意味を表す。)
一般式(III)で表される化合物を1種又は2種以上を含有するが、1種から12種が好ましく、1種から8種がより好ましく、1種から6種が特に好ましい。
【0034】
一般式(III)の含有率は10から80質量%の範囲であることが好ましいが、20から70質量%の範囲であることがより好ましく、35から65質量%の範囲であることが特に好ましい。これらの化合物は、Δεの絶対値を大きくする効果はほとんどないものの、粘度を低くする効果がある。ηの低減を重視する場合は、これらの含有率が多いことが好ましく、その下限値は10質量%であるが、20質量%が好ましく、30質量%がより好ましく、35質量%が特に好ましい。Δεの絶対値を大きくすることを重視する場合はこれらの含有率が少ないことが好ましく、その上限値は80質量%が好ましく、65質量%がより好ましく、50質量%が特に好ましい。
【0035】
一般式(III)において、R及びRはそれぞれ独立的に、直鎖状であり、炭素原子数1から10のアルキル基、炭素原子数1から10のアルコキシ基、炭素原子数2から10のアルケニル基又は炭素原子数2から10のアルケニルオキシ基を表すことが好ましく、炭素原子数1から5のアルキル基、炭素原子数1から5のアルコキシ基、炭素原子数2から5のアルケニル基又は炭素原子数2から5のアルケニルオキシ基を表すことがより好ましく、Δεの絶対値を大きくするには炭素原子数1から5のアルコキシ基又は炭素原子数2から5のアルケニルオキシ基を表すことが特に好ましく、低いηを重視する場合は、炭素原子数1から5のアルキル基又は炭素原子数2から5のアルケニル基を表すことが特に好ましい。
【0036】
及びBはそれぞれ独立的にトランス−1,4−シクロへキシレン基、1,4−フェニレン基、2−フルオロ−1,4−フェニレン基、3−フルオロ−1,4−フェニレン基、2−アルキル−1,4−フェニレン基、3−アルキル−1,4−フェニレン基、2−アルコキシ−1,4−フェニレン基、3−アルコキシ−1,4−フェニレン基、1,4−ビシクロ[2.2.2]オクチレン基、ナフタレン−2,6−ジイル基、1−フルオロナフタレン−2,6−ジイル基、デカヒドロナフタレン−2,6−ジイル基又は1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−2,6−ジイル基が好ましく、トランス−1,4−シクロへキシレン基、1,4−フェニレン基、2−フルオロ−1,4−フェニレン基、3−フルオロ−1,4−フェニレン基、2−メチル−1,4−フェニレン基、3−メチル−1,4−フェニレン基、2−メトキシ−1,4−フェニレン基、3−メトキシ−1,4−フェニレン基又は1,4−ビシクロ[2.2.2]オクチレン基が好ましく、トランス−1,4−シクロへキシレン基又は1,4−フェニレン基が好ましい。分子内に存在する環構造中に置換したハロゲンは1個が好ましく、0個がより好ましい。
【0037】
及びYはそれぞれ独立的に−CHCH−、−CH=CH−、−CH(CH)CH−、−CHCH(CH)−、−CH(CH)CH(CH)−、−CFCF−、−CF=CF−、−CHO−、−OCH−、−OCH(CH)−、−CH(CH)O−、−(CH−、−(CHO−、−O(CH−、−C≡C−、−CFO−、−OCF−、−COO−、−OCO−又は単結合が好ましく、−CHCH−、−CH=CH−、−CF=CF−、−CHO−、−OCH−、−C≡C−、−CFO−、−OCF−、−COO−、−OCO−又は単結合が好ましく、信頼性の向上を重視する場合には−CHCH−、−CHO−、−OCH−、−CFO−、−OCF−又は単結合が好ましく、Δεの絶対値の大きさを重視する場合には−CHO−、−OCH−、−CFO−又は−OCF−を少なくとも一つ持ち、さらに酸素原子と芳香環が直接連結するような部分構造を持つことが好ましく、ηの低減を重視する場合には、単結合が好ましく、pは1又は2が好ましく、Tniを高くするにはpが2である化合物を含有する方が好ましく、ηを小さくするにはpが1である化合物を含有する方が好ましい。
【0038】
更に詳述すると、一般式(III)は一般式(III−A)から一般式(III−J)で表される化合物が好ましく、一般式(III−A)、一般式(III−D)、一般式(III−F)から一般式(III−J)で表される化合物がより好ましい。
【0039】
【化9】

【0040】
(式中、R11はRと同じ意味を表し、R12はRと同じ意味を表す。)
追加の成分として、一般式(IV−A)から(IV−O)および(IV−AL)から(IV−OL)の化合物群から選ばれる1種又は2種以上の化合物を含有しても良いが、一般式(IV−I)から(IV−M)の化合物群から選ばれることがより好ましい。
【0041】
【化10】

(式中、R13及びR14はそれぞれ独立的にRと同じ意味を表す。)
一般式(IV)の含有率は5から20質量%の範囲であることが好ましいが、5から10質量%の範囲であることがより好ましい。
【0042】
なお、本発明のネマチック液晶組成物は、一般式(I)及び(II)で表される化合物の含有量の合計が20から70質量%であることが好ましく、30から60質量%であることがより好ましい。
【0043】
本願ネマチック液晶組成物に含まれる液晶化合物において、−O−O−、−O−S−及び−S−S−等のヘテロ原子同士が直接結合する部分構造をとることはない。
【0044】
また、ネマチック液晶組成物の構成成分である一般式(I)で表される化合物、一般式(II)で表される化合物及び一般式(III)で表される化合物の側鎖であるRからRのうち少なくとも一つは、炭素−炭素不飽和結合を有する炭素原子数2から10のアルケニル基又は炭素原子数2から10のアルケニルオキシ基を表すが、R、R及びRが炭素−炭素不飽和結合を有する基である場合は炭素原子数2から10のアルケニル基が好ましく、R、R及びRが炭素−炭素不飽和結合を有する基である場合は炭素原子数2から10のアルケニルオキシ基が好ましい。また、R、R、R及びRのいずれか一つ以上が炭素−炭素不飽和結合を有する基であることが好ましい。
【0045】
本発明において、ネマチック相-等方性液体相転移温度(Tni)は60から120℃であることが、下限値としては65℃がより好ましく、70℃が特に好ましい。上限値としては90℃がより好ましく、80℃が特に好ましい。25℃におけるΔεが−2.0から−6.0であることが好ましく、−2.5から−5.0であることがより好ましく、−2.5から−3.5であることが特に好ましい。25℃におけるΔnは、0.08から0.13であることが好ましいが、0.09から0.12であることがより好ましい。更に詳述すると、薄いセルギャップに対応する場合は0.10から0.12であることが好ましく、厚いセルギャップに対応する場合は0.08から0.10であることが好ましい。20℃における粘度は10から30 mPa・sであることが好ましいが、10から25 mPa・sであることがより好ましく、10から20 mPa・sであることが特に好ましい。
【0046】
本発明のネマテチック液晶組成物は、上述の化合物以外に、通常のネマチック液晶、スメクチック液晶、コレステリック液晶、酸化防止剤、紫外線吸収剤、重合性モノマーなどを含有してもよい。
【0047】
本発明のネマチック液晶組成物は、液晶表示素子に有用であり、特にアクティブマトリクス駆動用液晶表示素子に有用であり、VAモード、PSVAモード、IPSモード又はECBモード用液晶表示素子に用いることができる。
【実施例】
【0048】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例及び比較例の組成物における「%」は『質量%』を意味する。
【0049】
実施例中、測定した特性は以下の通りである。
【0050】
ni :ネマチック相−等方性液体相転移温度(℃)
Δn :25℃における屈折率異方性
Δε :25℃における誘電率異方性
η :20℃における粘度(mPa・s)
(実施例1)
以下に、調製した液晶組成物とその物性値を示す。
【0051】
【化11】

【0052】
実施例1に示すネマチック液晶組成物の物性値は、Tni:75.3℃、Δn:0.108、Δε:−3.0、η:15.8 mPa・sであった。
(実施例2)
以下に、調製した液晶組成物とその物性値を示す。
【0053】
【化12】

【0054】
実施例2に示すネマチック液晶組成物の各物性値は、Tni:76.5℃、Δn:0.124、Δε:−2.8、η:19.1 mPa・sであった。
(実施例3)
以下に、調製した液晶組成物とその物性値を示す。
【0055】
【化13】

【0056】
実施例3に示すネマチック液晶組成物の各物性値は、Tni:79.4℃、Δn:0.092、Δε:−2.9、η:17.3 mPa・sであった。
(実施例4)
以下に、調製した液晶組成物とその物性値を示す。
【0057】
【化14】

【0058】
実施例4に示すネマチック液晶組成物の各物性値は、Tni:76.0℃、Δn:0.108、Δε:−2.1、η:13.9 mPa・sであった。
(実施例5)
以下に、調製した液晶組成物とその物性値を示す。
【0059】
【化15】

【0060】
実施例5に示すネマチック液晶組成物の各物性値は、Tni:79.9℃、Δn:0.094、Δε:−2.1、η:13.8 mPa・sであった。
(実施例6)
以下に、調製した液晶組成物とその物性値を示す。
【0061】
【化16】

【0062】
実施例6に示すネマチック液晶組成物の各物性値は、Tni:90.7℃、Δn:0.115、Δε:−2.5、η:17.8 mPa・sであった。
(実施例7)
以下に、調製した液晶組成物とその物性値を示す。
【0063】
【化17】

【0064】
実施例7に示すネマチック液晶組成物の各物性値は、Tni:78.9℃、Δn:0.104、Δε:−3.4、η:17.5 mPa・sであった。
(比較例1)
比較例1として特開2006−37054記載の液晶組成物を以下に示す。
【0065】
【化18】

【0066】
比較例1に示すネマチック液晶組成物の各特性は、Tni:90.9℃、Δn:0.096、Δε:−3.0、η:18.2 mPa・sであった。当該ネマチック液晶組成物は本願の一般式(II)で表される化合物を含有しない液晶組成物である。このような組成においてΔnを上昇させるには、一般に光に弱いと言われている一般式(III−G)で表されるトラン誘導体を添加する必要がある。実施例8の方がはるかに低粘度であり、本発明の組み合わせが非常に優れたものであることがわかる。
(比較例2)
比較例2として、比較例1記載の式(I−A)を式(II−A)に置き換えた液晶組成物を以下に示す。
【0067】
【化19】

【0068】
比較例2に示すネマチック液晶組成物の各特性は、Tni:92.0℃、Δn:0.124、Δε:−1.9、η:20.5 mPa・sであった。当該ネマチック液晶組成物は本願の一般式(I)で表される化合物を含有しない液晶組成物である。Δεが−1.9であり、その絶対値が小さく、実用的なレベルにはないことがわかる。
(比較例3)
比較例3として、比較例2をベースにTni、Δn及びΔεを実施例2の物性値に合わせ込んだ液晶組成物を以下に示す。
【0069】
【化20】

【0070】
比較例3に示すネマチック液晶組成物の各特性は、Tni:76.6℃、Δn:0.124、Δε:−2.9、η:23.0 mPa・sであった。これにより、実施例2のように一般式(I)、(II)及び(III)を組み合わせることにより、Tni、Δn、Δεを保ったまま、ηを低減した優れた液晶組成物が提供可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

(式中、Rは炭素原子数1から10のアルキル基又は炭素原子数2から10のアルケニル基を表し、これらの基中に存在する1個の−CH−又は隣接していない2個以上の−CH−は−O−及び/又は−S−に置換されてもよく、またこれらの基中に存在する1個又は2個以上の水素原子はフッ素原子又は塩素原子に置換されてもよく、Rは炭素原子数1から10のアルキル基、炭素原子数2から10のアルケニル基、炭素原子数1から10のアルコキシ基又は炭素原子数2から10のアルケニルオキシ基を表し、これらの基中に存在する1個の−CH−又は隣接していない2個以上の−CH−は−O−及び/又は−S−に置換されてもよく、またこれらの基中に存在する1個又は2個以上の水素原子はフッ素原子又は塩素原子に置換されてもよく、mは0、1又は2を表す。)で表される化合物を1種又は2種以上含有し、
一般式(II)
【化2】

(式中、Rは炭素原子数1から10のアルキル基又は炭素原子数2から10のアルケニル基を表し、これらの基中に存在する1個の−CH−又は隣接していない2個以上の−CH−は−O−及び/又は−S−に置換されてもよく、またこれらの基中に存在する1個又は2個以上の水素原子はフッ素原子又は塩素原子に置換されてもよく、Rは炭素原子数1から10のアルキル基、炭素原子数2から10のアルケニル基、炭素原子数1から10のアルコキシ基又は炭素原子数2から10のアルケニルオキシ基を表し、これらの基中に存在する1個の−CH−又は隣接していない2個以上の−CH−は−O−及び/又は−S−に置換されてもよく、またこれらの基中に存在する1個又は2個以上の水素原子はフッ素原子又は塩素原子に置換されてもよい。)で表される化合物を1種又は2種以上含有し、
一般式(III)
【化3】

(式中、R及びRはそれぞれ独立的に炭素原子数1から10のアルキル基、炭素原子数2から10のアルケニル基、炭素原子数1から10のアルコキシ基又は炭素原子数2から10のアルケニルオキシ基を表し、これらの基中に存在する1個の−CH−又は隣接していない2個以上の−CH−は−O−及び/又は−S−に置換されてもよく、またこれらの基中に存在する1個又は2個以上の水素原子はフッ素原子又は塩素原子に置換されてもよく、B及びBはそれぞれ独立的に
(a) トランス−1,4−シクロへキシレン基(この基中に存在する1個の−CH−又は隣接していない2個の−CH−は−O−及び/又は−S−に置換されてもよい。)
(b) 1,4−フェニレン基(この基中に存在する1個又は2個以上の−CH=は−N=に置換されてもよい。)
(c) 1,4−シクロヘキセニレン基、1,4−ビシクロ[2.2.2]オクチレン基、ピペリジン−1,4−ジイル基、ナフタレン−2,6−ジイル基、デカヒドロナフタレン−2,6−ジイル基及び1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−2,6−ジイル基
からなる群より選ばれる基を表し、上記の基(a)、基(b)又は基(c)はCN又はハロゲンで置換されていてもよく、Y及びYはそれぞれ独立的に−CHCH−、−CH=CH−、−CH(CH)CH−、−CHCH(CH)−、−CH(CH)CH(CH)−、−CFCF−、−CF=CF−、−CHO−、−OCH−、−OCH(CH)−、−CH(CH)O−、−(CH−、−(CHO−、−O(CH−、−C≡C−、−CFO−、−OCF−、−COO−、−OCO−、−COS−、−SCO−又は単結合を表し、Y及びBが複数存在する場合は、それらは同一でもよく異なっていてもよく、pは0、1又は2を表す。)で表される化合物を1種又は2種以上含有し、RからRのうち少なくとも一つは炭素原子数2から10のアルケニル基又は炭素原子数2から10のアルケニルオキシ基である、誘電率異方性が負のネマチック液晶組成物。
【請求項2】
一般式(I)で表される化合物の含有量が5から35質量%であり、一般式(II)で表される化合物の含有量が5から35質量%であり、一般式(III)で表される化合物の含有量が10から80質量%である請求項1記載のネマチック液晶組成物。
【請求項3】
一般式(I)及び(II)で表される化合物の含有量の合計が20から70質量%である請求項1又は2記載のネマチック液晶組成物。
【請求項4】
一般式(I)において、Rが炭素原子数2から10のアルケニル基を表す請求項1から3のいずれか1項に記載のネマチック液晶組成物。
【請求項5】
一般式(I)で表される化合物として一般式(I−A)及び一般式(I−B)
【化4】

(式中、R及びRはそれぞれ独立的にRと同じ意味を表す。)で表される化合物を1種又は2種以上含有する請求項1から4のいずれか1項に記載のネマチック液晶組成物。
【請求項6】
一般式(II)において、Rが炭素原子数2から10のアルケニル基を表す請求項1から5のいずれか1項に記載のネマチック液晶組成物。
【請求項7】
一般式(II)で表される化合物として一般式(II−A)
【化5】

(式中、R及びR10はそれぞれ独立的にRと同じ意味を表す。)で表される化合物を1種又は2種以上含有する請求項1から6のいずれか1項に記載のネマチック液晶組成物。
【請求項8】
一般式(III)において、R及びRの少なくとも一方が炭素原子数2から10のアルケニル基を表す請求項1から7のいずれか1項に記載のネマチック液晶組成物。
【請求項9】
一般式(III)で表される化合物として一般式(III−A)から一般式(III−J)
【化6】

(式中、R11は炭素原子数1から5のアルキル基を表し、R12は炭素原子数1から5のアルキル基又はアルコキシ基を表す。)で表される化合物群から選ばれる1種又は2種以上の化合物を含有する請求項1から8のいずれか1項に記載のネマチック液晶組成物。
【請求項10】
一般式(IV−A)から一般式(IV−O)
【化7】

(式中、R13及びR14はそれぞれ独立的にRと同じ意味を表す。)で表される化合物群から選ばれる1種又は2種以上の化合物を含有する請求項1から9のいずれか1項に記載のネマチック液晶組成物。
【請求項11】
25℃における誘電率異方性Δεが−2.0から−6.0の範囲であり、25℃における屈折率異方性Δnが0.08から0.13の範囲であり、20℃における粘度(η)が10から30 mPa・sの範囲であり、ネマチック相−等方性液体相転移温度(Tni)が60℃から120℃の範囲である請求項1から10のいずれか一項に記載のネマチック液晶組成物。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載のネマチック液晶組成物を用いた液晶表示素子。
【請求項13】
請求項1から11のいずれか一項に記載のネマチック液晶組成物を用いたアクティブマトリックス駆動用液晶表示素子。
【請求項14】
請求項1から11のいずれか一項に記載のネマチック液晶組成物を用いたVAモード、PSVAモード、IPSモード又はECBモード用液晶表示素子。

【公開番号】特開2012−97222(P2012−97222A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247439(P2010−247439)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】