説明

ノイズフィルタの実装構造

【目的】 高周波特性、放熱特性並びにノイズ低減特性の再現性の高いノイズフィルタの実装構造を提供する。
【構成】 スイッチング電源のACラインに挿入され、若しくは入力電流を整流平滑化した後に挿入されるノイズフィルタにおいて、このノイズフィルタを構成するコンデンサやチョークコイル等の構成部品を金属ベース基板若しくは金属コア基板上に搭載し、当該金属基板の金属部分を接地してグランドプレーンとしたことを特徴とするノイズフィルタの実装構造である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はスイッチング電源から発生し、ACラインに伝導するノイズを抑制するノイズフィルタに係り、特にEMIノイズ抑制効果の向上に関する。
【0002】
【従来の技術】本発明者は特願平3−171258号,156716号明細書等でノイズフィルタの構造を提案している。図9はノイズフィルタの回路図である。図において、ノイズフィルタ10は、アクロスザラインコンデンサCX1を入力側に有する。コンデンサCX1はレベル端子Lと中立端子Nを連結するもので、場合によりこれと並列に放電用の抵抗が接続されている。コモンモードチョークコイルLはアクロスザラインコンデンサCX1の後段に接続されたもので、コモンモードノイズ及びノーマルモードノイズを低減する。アクロスザラインコンデンサCX2はコモンモードチョークコイルLの後段に接続されたもので、これと並列にコンデンサCY1,CY2が接続されている。コンデンサCY1,CY2は両者の接続点が接地されたもので、コモンモードノイズを低減する。
【0003】ここで、コモンモードノイズはスイッチング電源部20の浮遊容量とグランドを通じて流れスイッチング電源に戻るものであり、ノーマルモードノイズは交流電源とスイッチング電源部20を接続する二本の信号線間を流れるものである。コモンモードノイズは、コモンモードチョークコイルLのインダクタンスによる大インピーダンス作用及びコンデンサCY1,CY2の接地された共通接続点がノイズ電流をスイッチング電源側に帰還する作用により低減される。ノーマルモードノイズは、アクロスザラインコンデンサCX1,CX2により発生源側に還流されて、信号線に流れる総量が削減される。
【0004】次に図9に基づいてノイズフィルタの実装状態を説明する。図中、(A)は樹脂基板、(B)は金属シールドケース、(C)はノイズフィルタを二段とし、一方に金属シールドケース、他方に樹脂基板を用いたものである。樹脂基板は、例えばガラスエポキシ基板を用い、スイッチング電源部20を構成する整流平滑化回路やスッチング素子、トランス等のDC−DCコンバータ回路が搭載されている。金属シールドケース12にノイズフィルタ回路10が収容されている場合は、スイッチング電源部20との間は接続コード30を用いて接続されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記3タイプには以下の課題があった。まず樹脂基板にノイズフィルタ回路を搭載した第1のタイプでは、高周波特性が良くないという第1の課題がある。スイッチング電源のグランドのインピーダンスは、理想的にはゼロであるが現実にはグランドプレーンではないため無視できない。グランド導体の自己インダクタンスより生じる浮遊インピーダンスにより、高周波では電位差が生じて高周波特性に悪影響を与える。第2の課題は、放熱性が良くない点である。発熱を銅パターンからすべて放熱するのは不可能であるから、ヒートシンクを用いる必要があり、装置が大型化してしまう。第3の課題は、EMI特性が良くない点である。トランスなどで生じる磁束がノイズフィルタと空間的な結合をすることによりノイズが増大し、EMI特性が悪化する。
【0006】第2のタイプは、ノイズフィルタ10を金属シールドケース12に収容し、他のスイッチング電源の構成要素を樹脂基板の上に形成したものである。第1の課題はノイズフィルタの個体差が大きい点である。ノイズフィルタの各構成部品が手動配線により接続されているためである。第2の課題はEMI特性が悪い点である。接続コード30のインダクタンスの影響である。
【0007】第3のタイプは、ノイズフィルタ10を二段にして、ノイズ低減特性の改善を目的とし、実装上の理由から一方に金属シールドケース12、他方に樹脂基板を用いたものである。このようにすると、上述の第1のタイプと第2のタイプの両者の課題を有し、十分な特性が得られないという課題があった。
【0008】本発明はこのような課題を解決したもので、高周波特性、放熱特性並びにノイズ低減特性の再現性の高いノイズフィルタの実装構造を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】このような目的を達成する本発明は、スイッチング電源のACラインに挿入され、若しくは入力電流を整流平滑化した後に挿入されるノイズフィルタにおいて、このノイズフィルタを構成するコンデンサやチョークコイル等の構成部品を金属ベース基板若しくは金属コア基板上に搭載し、当該金属基板の金属部分を接地してグランドプレーンとしたことを特徴とするノイズフィルタの実装構造である。好ましくは、請求項1記載のノイズフィルタと、このノイズフィルタを覆う強磁性材料または高導伝率材料の少なくとも一方よりなる外部ケースでシールドケースを構成するとよい。
【0010】
【作用】金属基板をグランドプレーン化すると、インダクタンスが低下してノイズフィルタの高周波特性が良くなる。またノイズフィルタの構成部品から発生する熱は、金属基板に伝導され、金属基板が放熱板としての機能を兼務する。外部ケースでノイズフィルタを覆うと、強磁性材料の場合には磁気シールド効果が得られ、高導電率材料の場合には電磁シールドによりノイズフィルタのEMI特性を改善する。
【0011】
【実施例】以下、図面を用いて本発明を詳細に説明する。図1は本発明の一実施例を示す構成斜視図である。図において、金属ベース基板40上にはノイズフィルタ10が搭載されている。ここで金属ベース基板とは、金属板の片面に回路パターンの形成されたものを言い、金属コア基板とは金属板の両面に回路パターンを設けたものを言い、両者を含む場合を金属基板と呼ぶ。なお、回路パターンを設ける場合には、金属板との間に絶縁層を設ける。ガラスエポキシ樹脂基板50にはスイッチング電源部20が搭載されている。
【0012】このように構成された装置の特性について説明する。図2は銅板のインダクタンスの特性図で、縦軸にインダクタンス、横軸に棒材・板材の長さを取っている。銅板では、幅、厚さが大きくなるとインダクタンスが減少し、長さが大きくなると増加する。従って、ノイズフィルタ10を金属ベース基板40に集積するとともに、金属ベース基板40を接地してグランドプレーンとすることにより、グランド幅と厚さが大きくなり、インダクタンスを低下させることができる。これにより浮遊インピーダンスが低下し、高周波特性が改善される。また金属ベース基板40はアルミニウム等の熱伝導率の高い材料で構成されているので、ノイズフィルタ10の構成部品で発生する熱を放熱する放熱板として利用することができ、ヒートシンク等が不要となって小型化に寄与する。
【0013】図3は本発明の第2の実施例の説明図で、図1の装置のノイズフィルタ10を金属シールドケース60で覆ったものである。図4は図3の要部を説明する断面図である。金属ベース基板40は三層構造で、絶縁層41、高導電率層42及び高透磁率層43になっている。高導電率層42は銅、アルミニウム等の導電率の高い材料よりなる。高透磁率層43は珪素鋼板などの鉄系材料やニッケル等の強磁性材料であって、実動作時の強度磁界において透磁率の高い材料よりなる。金属シールドケース60は二層構造であって、高導電率層61と高透磁率層62を有する。材質は、それぞれ高導電率層42及び高透磁率層43と同様である。積層の順序は図示のようにするのがよい。ノイズフィルタ10のより内側の層に高導電率層をもうけ、外側に高透磁率層を設ける。このようにすると、外来の磁束は高透磁率層で内部に侵入する量が減少し、従って高導電率層で発生する渦電流の量も少なくて済む。
【0014】このように構成された装置の動作を次に説明する。図5はシールド効果の説明図で、(A)は磁気シールド、(B)は電磁シールドの場合を示している。高透磁率層でノイズフィルタ10を取り囲む。すると、トランス等の他の素子から発生した磁束は高透磁率層を通過し、この高透磁率層は磁束のバイパス経路として働く。この結果、発生磁束とノイズフィルタ10との結合が防止される。また、高透磁率層でノイズフィルタ10を取り囲むと、他の素子で発生した磁束は高透磁率層で渦電流を発生させる。この渦電流により磁束が減衰して、ノイズフィルタ10と結合する量が低下してシールドとして働き、EMI特性が向上する。
【0015】図6は本発明の第3実施例の説明図で、ノイズフィルタ10を二段構成としたものである。ノイズフィルタ10は金属ベース基板40に搭載し、スイッチング電源部20は樹脂基板50に搭載している。この場合、両方のノイズフィルタ10を金属シールドケース60で覆ってもよく(図6A)、また片方だけでもよい(図6B)。このようにすると、従来前段と後段のノイズフィルタ10の間を接続していた接続コード30がなくなり、接続コード30のインダクタンスによるノイズの悪化が生じない。また金属ベース基板40は金属シールドケース60の下面を兼用できるので、ケース下面が不要になり材料が節約できる。またノイズフィルタ10の各構成部品を金属ベース基板40に搭載するので、手動配線に起因する個体差がなくなる。
【0016】図7は本発明の第4実施例の構成図で、ノイズフィルタ10とスイッチング電源部20を共通の金属ベース基板40に搭載したものである。この場合、ノイズフィルタ10とスイッチング電源部20を金属シールドケース60で覆ってもよく(図7B)、また金属シールドケース60なしでもよい(7A).
【0017】図8は従来構造と本発明にかかる構造との比較実験をしたものの回路定数説明図である。グランドプレーンとすることで、コモンモードは周波数1MHz以上で15dB,ノーマルモードは周波数4MHz以上で10dB減衰量が改善された。また金属ベース基板40の放熱作用により、同損失時の温度上昇を樹脂基板50に実装した場合に比較して、80%程度に抑えることができた。また金属シールドケース60の材料を単層の銅とし、ノイズフィルタ10とスイッチング電源部20を金属ベース基板40に搭載した場合(図7B参照)に、金属シールドケース60で覆うとEMIノイズが周波数4MHz以上で10dB減衰量が改善された。
【0018】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば金属基板をグランドプレーンとしているので、高周波特性が改善される。また金属基板は放熱板としての役割も兼務するので、スイッチング電源全体やノイズフィルタ10が小型になる。更に金属シールドケース60でノイズフィルタ10を覆うと、EMI特性が改善される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示す構成斜視図である。
【図2】銅板のインダクタンスの特性図である。
【図3】本発明の第2の実施例の説明図である。
【図4】図3の要部を説明する断面図である。
【図5】シールド効果の説明図である。
【図6】本発明の第3実装例の説明図である。
【図7】本発明の第4実施例の構成図である。
【図8】従来構造と本発明にかかる構造との比較実験をしたものの回路定数説明図である。
【図9】ノイズフィルタの回路図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】スイッチング電源のACラインに挿入され、若しくは入力電流を整流平滑化した後に挿入されるノイズフィルタにおいて、このノイズフィルタを構成するコンデンサやチョークコイルなどの構成部品を金属ベース基板若しくは金属コア基板上に搭載し、当該金属基板の金属部分を接地してグランドプレーンとしたことを特徴とするノイズフィルタの実装構造。
【請求項2】請求項1記載のノイズフィルタと、このノイズフィルタを覆う強磁性材料または高導伝率材料の少なくとも一方よりなる外部ケースでシールドケースを構成したことを特徴とするノイズフィルタの実装構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開平5−161268
【公開日】平成5年(1993)6月25日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−317985
【出願日】平成3年(1991)12月2日
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)