説明

ノイズ対策用部品およびその取付構造

【課題】 信号線に固定するための部材を別途用意する必要がなく、かつ、高周波帯のノイズに対しても十分な減衰を得られるノイズ対策用部品を提供する。
【解決手段】 略半柱状の二つの磁性部材10を係合手段によって係合してなる略柱状のノイズ対策用部品であって、前記磁性部材10のうち、互いに向き合う面の少なくとも一部が、柔軟磁性体12によって構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体を用いたノイズ対策用部品および該ノイズ対策用部品を信号線に取りつける取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の信号線などに取り付けて、信号線を伝搬するノイズを除去するためのノイズ対策用部品として、特許文献1に記載されたものが知られている。このノイズ対策用部品は、筒状に成形された磁性体コアに信号線を挿通してなる。
【特許文献1】特開2001−155925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に記載されたノイズ対策用部品には以下の二つの問題がある。
【0004】
すなわち第1に、特許文献1の「0021」段落にも記載されているように、ノイズ対策用部品を信号線に固定するためには粘着テープ、接着剤、紐等の固定手段を別途用意する必要があり、取り付けが煩雑である。つまり、信号線は磁性体コアに挿通されているだけであるので、そのままでは信号線の延伸方向にノイズ対策用部品が動いてしまう。よって、粘着テープ等によってノイズ対策用部品を信号線に固定する必要があった。
【0005】
第2に、実効磁路長が長くなって十分なノイズ減衰特性が得られないという問題がある。特許文献1の「0021」段落に記載されているように、筒状に成形された磁性体コアに信号線を通すために、磁性体コアの内径は信号線の外径よりも大きくしておく必要がある。磁性体コアの内径が小さいほど実効磁路長は短くなるので、磁性体コアの内径を信号線の外径と等しくしたときに最も実効磁路長が短くなる。しかし、前述のように磁性体コアの内径は信号線の外径よりも一定以上大きくしておく必要があることから、実効磁路長が長くなって損失効果が減り、特に100MHzを超える高い周波数帯域においてノイズの減衰特性が悪くなりやすいという問題があった。電子機器の信号周波数が高くなっている現在では、100MHzを超える帯域でのノイズ減衰特性が重要であり、従来のノイズ対策用部品ではこの帯域でのノイズ対策を十分に達成することができなった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するために本発明に係るノイズ対策用部品は、略半柱状の二つの磁性部材を係合手段によって係合してなる略柱状のノイズ対策用部品であって、前記磁性部材のうち、互いに向き合う面の少なくとも一部が、柔軟磁性体によって構成されていることを特徴とする。
【0007】
これにより、柔軟磁性体に信号線が当接するように取り付ければ、柔軟磁性体の弾性によってノイズ対策用部品が信号線に固定されるので、固定のための部材を別途設ける必要がない。
【0008】
なお、本発明において「柔軟磁性体」とは、外力によって容易に変形あるいは伸縮可能で弾力のある磁性体を意味している。
【0009】
また、信号線に柔軟磁性体が密着するので実効磁路長が短くなり、100MHzを超える高い周波数帯域においても十分なノイズ減衰量を得ることができる。
【0010】
また、本発明に係るノイズ対策用部品は、前記磁性部材は、略半柱状で互いに向き合う面に溝が形成された磁性体コアと、該磁性体コアの溝の内部に配設されている柔軟磁性体と、からなることを特徴とする。
【0011】
これにより、磁性体コアおよび柔軟磁性体の双方によってノイズ減衰効果を得ることができる。
【0012】
本発明のノイズ対策用部品は、より具体的には、前記二つの磁性部材は、それぞれ略半筒状のケースに収納されており、該ケースが前記係合手段であることを特徴とする。
【0013】
本発明のノイズ対策用部品において係合手段は特に限定されるものではないが、磁性部材をケースに収納し、このケースを係合手段とすることにより、二つの磁性部材を容易に係合することができる。
【0014】
さらに本発明に係るノイズ対策用部品は、前記ケースの内部には、前記柔軟磁性体の変形を許容するための隙間が設けられていることが好ましい。
【0015】
これにより柔軟磁性体が容易に変形して信号線と密着しやすくなる。また、柔軟磁性体が変形によってケースの外側に露出することを防止できる。
【0016】
また、本発明に係るノイズ対策用部品の取付構造は、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のノイズ対策用部品を信号線に取り付けるノイズ対策用部品の取付構造であって、前記磁性部材の柔軟磁性体に接触するように信号線が配置され、前記柔軟磁性体の弾性によって、前記信号線に対してノイズ対策用部品が固定されていることを特徴とする。
【0017】
これにより、柔軟磁性体の弾性によってノイズ対策用部品が信号線に固定されるので、固定のための部材を別途設ける必要がない。
【0018】
また、信号線に柔軟磁性体が密着するので実効磁路長が短くなり、100MHzを超える高い周波数帯域においても十分なノイズ減衰量を得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
このように本発明によれば、柔軟磁性体の弾性によってノイズ対策用部品が信号線に固定されるので、固定のための部材を別途設ける必要がなく、また、信号線に柔軟磁性体が密着するので実効磁路長が短くなり、100MHzを超える高い周波数帯域においても十分なノイズ減衰量を得ることができる
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下において添付図面を参照しつつ、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【実施例1】
【0021】
図1は本発明に係るノイズ対策用部品とその取付構造を示す斜視図である。
【0022】
図1(a)に示すように、本発明のノイズ対策用部品は、半筒状の二つのケース21,22と、該ケース21,22に収容された磁性部材10と、からなる。
【0023】
ケース21,22は合成樹脂などからなり、開口部の一辺に設けられた連結部23で連結している。また、ケース21には係合爪24が、ケース22には係合爪挿入口25が設けられている。
【0024】
磁性部材10は、磁性体コア11と柔軟磁性体12と、から構成されている。磁性体コア11は、例えば比透磁率が1000以上のフェライト焼結体などからなり、ケース21,22に収容されている。磁性体コア11の開口側の略中央部には、長手方向に沿って断面が半円径の溝が形成されている。柔軟磁性体12は、例えばゴムとフェライト粉末との混合物などからなり、弾力性を有し、比透磁率は5〜20程度である。柔軟磁性体はフェライトコアの溝の内部に配設されている。
【0025】
ここで、信号線30を柔軟磁性体12に当接させてケース21,22の開口部を互いに合わせ、係合爪24を係合爪挿入口25に挿入して二つのケース21,22を固定することにより、図1(b)に示すように信号線30に対してノイズ対策用部品を取り付けることができる。
【0026】
このとき、柔軟磁性体12は容易に変形、収縮可能な材料からなるので、信号線30の形状に合わせて変形する。よって、様々な線径を有する信号線30に対してノイズ対策用部品を取り付けることが可能である。また、柔軟磁性体12の弾性によって柔軟磁性体12が信号線30を抑えつける方向に力が加わるので、固定用の部材を別途設けることなく、信号線30とノイズ対策用部品とが固定されている。
【0027】
さらにまた、柔軟磁性体12が信号線30に密着しているため、磁性体コアと信号線との間に一定の隙間があいている従来のノイズ対策用部品よりも実効磁路長が短くなる。一般にリングコアのインピーダンスは下記の(1)式によって示されるので、実効磁路長が短いほどR成分が大きくなり、ノイズ減衰特性が向上する。ただし、(1)式においてAeは実効断面積、Leは実効磁路長、nは巻数、μ=μ’+jμ”である。
【0028】
【数1】

【0029】
ここで、本発明の効果を確認するため以下の実験を行った。
【0030】
本発明の実施例1に係るノイズ対策用部品として、図2(a)に示した外径12mm、内径5.6mm、長さ20mmの磁性体コア11と、外径5.6mm、内径2mm、長さ20mmの柔軟磁性体12からなるノイズ対策用部品を用意した。磁性体コア11の比透磁率は1600であり、柔軟磁性体12の比透磁率はおよそ5である。なお、柔軟磁性体12の内径が2mmとなっているのは、信号線30の外径が2mmと想定しているためである。
【0031】
また、比較例として図2(b)に示した外径12mm、内径5.6mm、長さ20mmの磁性体コア13からなるノイズ対策用部品を用意した。磁性体コア13の比透磁率は1600である。
【0032】
なお、実施例1および比較例のノイズ対策用部品は、ともに磁性体コア11,13の外側に、図1に図示したような合成樹脂製のケース21,22を設けているが、図2では図示を省略している。
【0033】
そして実施例1のノイズ対策用部品と比較例のノイズ対策用部品の、インピーダンスの周波数特性を測定した。測定結果を図3に示す。
【0034】
インピーダンスZはZ=R+jωLで表される。そして、Rが前述の(1)式で表されるのに対して、Lは以下の(2)式で表される。
【0035】
【数2】

【0036】
100MHz以下の周波数帯域では、μに占めるμ’の割合がμ”よりも格段に大きいため、透磁率の小さい柔軟磁性体を用いている実施例1の方がインピーダンスが小さくなっている。しかし、100MHzを超えるあたりからμ’が急速に小さくなるため、インピーダンスに占めるL成分の割合が小さくなり、R成分の割合が多くなる。すると、実効磁路長が小さくRが大きい実施例1のノイズ対策用部品の方が大きいインピーダンスを得ることができる。なお、磁性体コア11,13と柔軟磁性体12のμ”の値はさほど変わらない。
【0037】
近年では電子機器の使用周波数が上昇し、数十MHzとなることもあるから、そのような場合には信号の減衰を抑えつつノイズの減衰量を大きくするため、数十MHz帯でのインピーダンスが小さく100MHz付近から急速にインピーダンスが大きくなるようなインピーダンスの周波数特性を有するノイズ対策用部品が好適である。
【実施例2】
【0038】
次に本発明の第2の実施例について説明する。図4は本実施例のノイズ対策用部品を示す斜視図である。なお図4においては、図1と共通あるいは対応する部分には同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0039】
本実施例の特徴は、図4(a)に示すように、磁性体部材10が柔軟磁性体12のみで構成されていることである。すなわち、本実施例においては磁性体コアを用いておらず、ケース21,22の中には柔軟磁性体12のみが収納されている。
【0040】
そして、信号線30を柔軟磁性体12に当接させてケース21,22の開口部を互いに合わせ、係合爪24を係合爪挿入口25に挿入して二つのケース21,22を固定する。これにより、図4(b)に示すように信号線30に対してノイズ対策用部品を取りつけることができる。
【0041】
ここで、本実施例に係るノイズ対策用部品として、図5に示すような外径12.0mm、内径2.5mm、長さ20mmの柔軟磁性体12からなるノイズ対策用部品を作製し、インピーダンスの周波数特性を測定した。柔軟磁性体12の内径を2.5mmとしたのは信号線30の外径を2.5mmと想定しているためである。柔軟磁性体12の比透磁率はおよそ5である。
【0042】
また、比較例として、前述した従来のノイズ対策用部品のインピーダンスの周波数特性も測定した。
【0043】
測定結果を図6に示す。なお図5においては、ケース21,22は図示を省略している。
【0044】
図6において実施例2のインピーダンスが200MHz付近から急激に上昇しているのは、測定に用いたリード線の共振によるものと考えられるが、この共振の影響を除いても、数百MHzから1000MHz(1GHz)付近では比較例のノイズ対策用部品と同等、あるいはそれ以上のインピーダンスを得ることができる。
【0045】
また、およそ100MHz以下の周波数帯域では、実施例2のノイズ対策用部品は比較例のノイズ対策用部品と比べてインピーダンスが極めて低く抑えられている。よって、数十MHzから100MHz程度の比較的高い周波数の信号を使用する電子機器に実施例2のノイズ対策用部品を用いれば、信号の減衰を抑えつつ、数百MHz以上のノイズに対しては従来のノイズ対策用部品と同等、あるいはそれ以上の減衰を得ることができる。
【実施例3】
【0046】
次に本発明の第3の実施例について説明する。図7は本発明の第3の実施例に係るノイズ対策用部品を示す斜視図である。なお、図7において図1および図4と共通ないしは対応する部分には同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0047】
このノイズ対策用部品は、図7(a)に示すように、ケース21,22と、ケース21,22に収容された磁性部材10とからなる。磁性部材10は、磁性体コア11と、磁性体コア11の溝の内部に配設された柔軟磁性体12と、からなる。ケース21,22には柔軟磁性体12の変形を許容するための隙間26が、長手方向の両端部に設けられている。
【0048】
そして、信号線30を柔軟磁性体12に当接させてケース21,22の開口部を互いに合わせ、係合爪24を係合爪挿入口25に挿入して二つのケース21,22を固定する。これにより、図7(b)に示すように信号線30に対してノイズ対策用部品を取りつけることができる。
【0049】
ケース21,22に隙間26を設けることにより、柔軟磁性体12がより柔軟に変形しやすくなり、様々な線径の信号線30に対して取り付けることが可能となる。
【0050】
図7に示した隙間30の形状は一例であり、柔軟磁性体12の変形を許容するような位置、形状に形成されていればよい。
【実施例4】
【0051】
次に本発明の第4の実施例に係るノイズ対策用部品について説明する。図8は本発明の第4の実施例に係るノイズ対策用部品を示す斜視図である。図8において図1、図4、図7と共通ないしは対応する部分には同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0052】
このノイズ対策用部品は、図8(a)に示すように、二つの磁性部材10と、該二つの磁性部材10を係合するための係合構造としての粘着テープ27と、からなる。磁性部材10は、磁性体コア11と、磁性体コア11の溝の内部に配設された柔軟磁性体12と、からなる。磁性体コア11は半円筒状で、略中心に長手方向に沿って溝が形成されている。
【0053】
溝が形成された面が向き合うように磁性体コア11を密着させて固定する。ここでは図8(b)に示すように粘着テープ27によって二つの磁性部材10を係合しているが、磁性部材10を固定する手段は粘着テープ27に限定されない。また、信号線30とノイズ対策用部品とは柔軟磁性体12の弾性によって固定されている。
【0054】
このようにすれば、実施例1〜3のようにケースを設けなくてもノイズ対策用部品を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の第1の実施例に係るノイズ対策用部品を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施例に係るノイズ対策用部品と比較例のノイズ対策用部品を示す断面図である。
【図3】本発明の第1の実施例に係るノイズ対策用部品と比較例のノイズ対策用部品のインピーダンスの周波数特性を示すグラフである。
【図4】本発明の第2の実施例に係るノイズ対策用部品を示す斜視図である。
【図5】本発明の第2の実施例に係るノイズ対策用部品を示す断面図である。
【図6】本発明の第2の実施例に係るノイズ対策用部品と比較例のノイズ対策用部品のインピーダンスの周波数特性を示すグラフである。
【図7】本発明の第3の実施例に係るノイズ対策用部品を示す斜視図である。
【図8】本発明の第4の実施例に係るノイズ対策用部品を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0056】
10 磁性部材
11,13 磁性体コア
12 柔軟磁性体
21,22 ケース
23 連結部
24 係合爪
25 係合爪挿入口
26 隙間
27 粘着テープ
30 信号線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略半柱状の二つの磁性部材を係合手段によって係合してなる略柱状のノイズ対策用部品であって、
前記磁性部材のうち、互いに向き合う面の少なくとも一部が、柔軟磁性体によって構成されていることを特徴とするノイズ対策用部品。
【請求項2】
前記磁性部材は、略半柱状で互いに向き合う面に溝が形成された磁性体コアと、該磁性体コアの溝の内部に配設されている柔軟磁性体と、からなることを特徴とする請求項1に記載のノイズ対策用部品。
【請求項3】
前記二つの磁性部材は、それぞれ略半筒状のケースに収納されており、該ケースが前記係合手段であることを特徴とする請求項1あるいは2に記載のノイズ対策用部品。
【請求項4】
前記ケースの内部には、前記柔軟磁性体の変形を許容するための隙間が設けられていることを特徴とする請求項3に記載のノイズ対策用部品。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のノイズ対策用部品を信号線に取り付けるノイズ対策用部品の取付構造であって、
前記磁性部材の柔軟磁性体に接触するように信号線が配置され、前記柔軟磁性体の弾性によって、前記信号線に対してノイズ対策用部品が固定されていることを特徴とするノイズ対策用部品の取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−5236(P2006−5236A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−181378(P2004−181378)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】